(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-10
(45)【発行日】2022-03-18
(54)【発明の名称】非接触給電装置およびコイル
(51)【国際特許分類】
H01F 38/14 20060101AFI20220311BHJP
H02J 50/10 20160101ALI20220311BHJP
H01F 27/28 20060101ALI20220311BHJP
H01F 5/00 20060101ALI20220311BHJP
【FI】
H01F38/14
H02J50/10
H01F27/28 K
H01F5/00 F
H01F5/00 H
(21)【出願番号】P 2019016855
(22)【出願日】2019-02-01
(62)【分割の表示】P 2017242081の分割
【原出願日】2017-12-18
【審査請求日】2020-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】306013120
【氏名又は名称】昭和電線ケーブルシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】三浦 聖
(72)【発明者】
【氏名】野内 健太郎
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-539516(JP,A)
【文献】特開2013-229401(JP,A)
【文献】特開平06-310324(JP,A)
【文献】特開2007-201199(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 38/14
H02J 50/10
H01F 27/28
H01F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本1組の、内周側の第1の電線と外周側の第2の電線とを並べて
渦巻状に巻回し電線どうしの末端を接続するコイルであって、
前記第1の電線が、隣接する他の巻き目の前記第2の電線に当接しかつ同じ巻き目の前記第2の電線から離間する第1領域を具備することを特徴とするコイル。
【請求項2】
前記第1領域は、
最内周を除く第N巻き目の前記第1の電線が、前記第N巻き目の内周側に隣接する巻き目の前記第2の電線に当接しかつ前記第N巻き目の前記第2の電線から離間する領域(N:1以上の整数)であることを特徴とする請求項1記載のコイル。
【請求項3】
前記第N巻き目の前記第1の電線が、前記第N巻き目の前記第2の電線との当接部位か
ら第(N-1)巻き目また
は第(N+1)巻き目の前記第2の電線の当接部位へ巻き進む向きに横切る第2領域と、
前記第N巻き目の前記第1の電線が、前記第(N-1)巻き目または前記第(N+1)巻き目の前記第2の電線との当接部位から前記第N巻き目の前記第2の電線の当接部位へ巻き進む向きに横切る第3領域と
を具備することを特徴とする請求項2記載のコイル。
【請求項4】
前記第1領域、前記第2領域、前記第3領域は、前記第2領域、前記第1領域、前記第3領域の順に配置されることを特徴とする請求項3記載のコイル。
【請求項5】
前記第1領域を、巻回1周のうちの一部の区間に設けたことを特徴とする請求項1乃至請求項4いずれか1項に記載のコイル。
【請求項6】
巻回中心から放射方向に等間隔に区分した一定角度範囲毎に前記第1領域を配置することを特徴とする請求項1乃至請求項5いずれか1項に記載のコイル。
【請求項7】
前記第1の電線と前記第2の電線が当接する部位を接着したことを特徴とする請求項1乃至請求項6いずれか1項に記載のコイル。
【請求項8】
金属製または樹脂製の基板と、
前記基板の上に直接または磁心コア板を介して配置した前記請求項1乃至
7いずれか1項に記載のコイルと
を具備する非接触給電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触給電装置およびコイルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車(EV)及びプラグインハイブリッド自動車(PHV)の給電は、ケーブルを用いる接触式に加え無線電力伝送技術を利用した非接触式の適用も検討が進められている。
【0003】
非接触給電の技術は、例えば給電所の路面に埋め込むようにして設けた送電用(1次側)の平面コイル(地上側コイル)と電気自動車の底部に設けた受電用(2次側)の平面コイル(車両側コイル)とを数十cm程度の間隔で対向させて電力を無線送電することで電気自動車に給電する技術である。
【0004】
非接触給電においてはその伝送効率が高いことが求められ、これに使用されるコイルについても損失が少ないことが必要とされる。よって、昨今、非接触給電に使用するコイルには銅損を小さくする、すなわち交流抵抗を小さくするよう、さまざまな工夫が施されている。
【0005】
コイルの交流抵抗に影響を与える要因は、次の2つの要因が考えられる。第1の要因は、巻線用線材の導体断面積に依存する直流抵抗であり、第2の要因は、周波数や線材の撚り構成、コイル形態などにより変わる近接効果と表皮効果による損失である。
【0006】
特に非接触給電においてはkHzオーダーの高周波帯で利用されるため、第2の要因の影響が大きくなる。この第2の要因の影響を軽減するには、線材にリッツ線を用い、コイルの形態としては、巻線間に隙間を設けて巻くコイル(以下これを「ギャップ巻きコイル」と称す」が適するとされる。
【0007】
上記事情を鑑み、非接触給電に用いる従来のコイルは、細い複数のエナメル線を撚り合わせて形成したリッツ線(絶縁導体)を平面的に渦巻き状にかつ巻線間に隙間を設けて巻回して形成する必要がある。コイルの巻線間に隙間を設ける従来の技術としては、例えば隣接する線の間にスペーサを設ける技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0008】
例えばEVなどと呼ばれる電気自動車の非接触給電用の平面コイルは、送電側コイル(送電給電スタンドに設置)と受電側コイル(電気自動車の底に搭載)との位置ずれに対して確実かつ効率よく送電できることが求められることから、それぞれの形状はある大きさに規格化されたものとなる。
【0009】
実際にコイルを電気自動車や給電スタンドに設置する場合は、コイルの形状、外形、内径、巻き数などが指定されることから、その中でコイルの交流抵抗を小さくして損失を押さえつつ、コイル形状保持のための強度も保持したコイルを作成することが求められる。
【0010】
現在纏められつつあるEV向け非接触給電用コイルの条件は、例えばコイルの外形が250mm~600mm、コイルの内径が100mm~200mm程度の範囲になる見込みである。またコイルの厚みについても省スペースの観点からできるだけ薄くしたいという要望がある。具体的にはコイルの厚みを例えば5mm以下にしたいという要望がある。さらに、コイルの巻数については、伝送周波数が85kHzと定められているため、この周波数に共振するインダクタンスとすることから、巻き数は8~22ターン程度になる。
【0011】
ところで、巻線間に隙間を設けると単純にいっても、製造現場では、コイルとしての製品を搬送したり、製造中もコイルを移動する作業を行うことやコイルのインダクタンスの変動を抑えることから、コイル製造後も形状保持やハンドリング性を考慮した製品とする必要がある。
【0012】
以上のようなコイル形状の制約下において、先の交流抵抗を低減させるため、1本の線材を2本に分割し間隔を空けて平行に巻く、いわゆるパラレルギャップ巻きの形態のコイルが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特表2015‐518269号公報
【文献】特開2009‐158598号公報
【文献】特開2013‐229401号公報
【文献】特開2017‐17874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、パラレルギャップ巻きの形態のコイルは、巻き線間に隙間を設けることから、それだけでは形状維持が困難である。
【0015】
このため、スペーサやボビンなどの形状維持具にコイルを挟んだり巻き付けたりするなどの形状維持の手立てが必要であり、これが製造上および搬送上のコストアップ要因になる。
【0016】
また、2本1組の線材を平面的に巻く際には、内側の線材と外側の線材とでライン長に差が生じることから、例えば外径500mm×650mm、巻幅180mm、巻き数8ターンのコイルを形成した場合、ライン長は約12メートルで、内側の線材と外側の線材とで60cm程度のライン長差が生じ、このライン長差で生じる位相差により交流抵抗などの電気的特性が悪化する。
【0017】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、既定の寸法および形状、既定の電気的性能に適合し、低コストでかつハンドリング性のよい非接触給電装置およびコイルの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係るコイルは、2本1組の、内周側の第1の電線と外周側の第2の電線とを並べて渦巻状に巻回し電線どうしの末端を接続するコイルであって、前記第1の電線が、隣接する他の巻き目の前記第2の電線に当接しかつ同じ巻き目の前記第2の電線から離間する第1領域を具備することを特徴とする。
【0019】
本発明の一態様に係る非接触給電装置は、金属製または樹脂製の基板と、前記基板の上に直接または磁心コア板を介して配置した上記コイルとを具備する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、既定の寸法および形状、既定の電気的性能に適合し、低コストでかつハンドリング性のよい非接触給電装置およびコイルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に係る第1実施形態の渦巻き状のコイル(パラハイブリッド巻)の平面図。
【
図2】
図1のコイルの要部を模式的(直線的)に示す拡大図。
【
図4】第2実施形態の渦巻き状のコイル(受電側)の平面図。
【
図5】上記第1乃至第2実施形態のコイルを用いた非接触給電装置の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
非接触給電システムは、1次側の非接触給電装置(送電側)と2次側の非接触給電装置(受電側)とを対向配置して構成される。電力を供給する側である1次側の非接触給電装置と電力を受ける側の2次側の非接触給電装置は、コイルの部分の要素はほぼ同じ要素で構成されており、ここでは、一方の側について説明するが、他方の側も同様であることは言うまでもない。
【0023】
(第1実施形態)
以下、本発明に係る第1実施形態のコイル20を
図1、
図2を参照して説明する。
図1は本発明に係る第1実施形態の渦巻き状のコイル(パラハイブリッド巻)の平面図、
図2は要部(区間P1~P4の中の区間P1)の拡大図である。
【0024】
図1に示すように、本発明に係る第1実施形態のコイル20は、電線または絶縁導体としての2本1組のリッツ線21、22を平面的に並べて内周側から外周側へ巻回して渦巻き状に形成(製造)し、リッツ線21、22の末端を結合(接続)した外形がほぼ長方形状(コーナー部に丸みをつけている)のコイルである。この形状のコイルは、例えば1次側(送電側または給電側)、具体的には、例えばEVの充電スタンドの路面に設置されるものである。平面的に並べるとは、リッツ線21、22を、巻回する軸に対して交差(直交)する面の上に並べる状態を言う。
【0025】
リッツ線21、22は、線径が例えば5mm程度のものであり、リッツ線21、22の内周側の一端には圧着端子25が設けられており、リッツ線21、22どうしが接続されている。またリッツ線21、22の外周側の一端には、圧着端子26が設けられており、リッツ線21、22どうしが接続されている。つまりリッツ線21、22は、圧着端子25、26で両端が結合(接続)されており、2本(1対)で1本の太い電線と同等の断面積を確保し2本を平坦に巻くことでコイル20の薄形化に寄与する。
【0026】
このコイル20は、2本のリッツ線21、22を内周側の巻き始めが1巻き目T1、次の周が2巻き目T2…、最後の周が8巻き目T8という順に外周側へ巻回したものであり、例えば3巻き目T3を第N巻目とすると、2巻き目T2が第N-1巻目となる。なお、Nは2以上の整数とする。
【0027】
この例では、2本のリッツ線21、22を内周側から外周側に巻回した例を説明したが、外周側から内周側に巻回してもよい。この場合、外周側の巻き始めが1巻き目T1、次の周が2巻き目T2…、最後の周が8巻き目T8となり、周目、巻き目および巻き数の言い方が異なる。外周側から内周側に巻回した場合、
図2の符号T3を第N巻目とすると、符号T2が第N+1巻目となる。
【0028】
このコイル20は、隣り合う二本のリッツ線21、22のうち外周側のリッツ線22を一定の間隔で渦巻状に巻回し、内周側のリッツ線21を、巻回する方向の内周側および/または外周側に隣接するリッツ線22に当接と離間を規則的に繰り返すように巻回したものである。
【0029】
なお、この例では、1巻目T1については、リッツ線21、22の末端部分(巻き始めの形態が安定しない部分)が含まれるため規則性の考えから除外するものとする。
換言すると、このコイル20は、末端が結合される1組のリッツ線21、22を平坦に並べて巻回する中で、外周側のリッツ線22を一定間隔で巻回し、リッツ線22間に、内周側のリッツ線21が隣接するリッツ線22に当接と離間を規則的に繰り返すように蛇行させて配置したものである。規則的とは一定の長さや間隔、角度、一周のうちのある区間で折り曲げ、折り返すことを言う。
【0030】
このコイル20は、2本1組のリッツ線21、22(電線)を当接させる部位「密巻の部分」と2本1組のリッツ線21、22(電線)を離間させる部位「ギャップ巻の部分」とを混在させて巻き進めることから、この巻き方を「パラレルハイブリッド巻」と称す。パラレルハイブリッド巻の略称としてパラハイブリッド巻またはPH巻などということもある。
【0031】
つまり、このコイル20は、外周側のリッツ線22を、一定間隔を空けて渦巻状に配置し、内周側のリッツ線21を、リッツ線22間に、内周側のリッツ線21を、隣接するリッツ線22に当接「密巻の部分」と離間「ギャップ巻の部分」を繰り返すように蛇行させて配置したものである。
【0032】
コイル20の形成に際して、板状で渦巻状の溝が形成された巻回治具(金型または樹脂型)に2本のリッツ線21、22を内周側から順に嵌め込んでゆくことで、2本のリッツ線21、22を平面的に渦巻き状に巻回したコイル20を形成することができる。
【0033】
平面的に渦巻き状に巻回しただけのコイル20は、巻回治具から取り出す際や搬送時にばらけてしまうため、巻回治具に嵌め込んだ
図1の状態で接着剤を散布して、巻線どうしの当接部を接着し、接着剤が固化するまでの一定時間放置した後、ハンドリングするものとする。
【0034】
当接部の接着には、この他、例えば熱融着繊維を巻き付けたリッツ線21、22を利用して加熱による接着を行ってもよく、最外層に自己融着層を設けた自己融着線を用いて熱溶着あるいは溶剤接着してもよく、また、リッツ線21、22にアセテート糸を巻き付けて溶剤を塗布して接着してもよい。
【0035】
つまりコイル20は、隣接する2本のリッツ線21、22を内周側から外周側へ平らに並べながら巻回し、線間に離間部と当接部を規則的に設けて全体として渦巻き状にしたものであり、形状維持のため、互いの線が当接する部位を接着剤または溶着により接着(固着)し、さらにリッツ線21、22の両端にそれぞれ圧着端子25、26を接続したものである。圧着端子25、26を両端に取り付けるのは接着する前であっても後でもよいが、2本の線材の長さを合わせる必要があるため巻回後の方がよい。
【0036】
リッツ線21、22は、複数のエナメル線を撚り合わせて束にして形成した線材群である。なお、この例では、リッツ線21、22を用いたが、リッツ線21、22以外の通電線としては、例えば絶縁被覆していない導体(銅やアルミニウムを材料とする線)や、最外層に自己融着層を設けた自己融着線などを用いてもよい。
【0037】
圧着端子25は、リッツ線21、22の内周側の一端と接続されるものであって、概略的に圧着部と、固定用の孔が設けられた固定部とから構成されている。圧着部は、筒形状の金属部材によって構成されており、リッツ線21、22の導体部を挿入しカシメ加工することで線材と金属部とを圧着一体化し、圧着端子25をリッツ線21、22に固定する。圧着端子26は、リッツ線21、22の外周側の一端と接続されるものであり、圧着端子25と同じものであり、カシメ加工も同じである。
【0038】
図2に示すように、このコイル20は、巻回1周のうちの所定の区間P1~P4に3つの領域A、B、Cを形成するように巻回される。この例では、3つの領域A、B、Cは、ほぼ長方形のコイル20のコーナー部を除いた4カ所の区間P1~P4にそれぞれ設けられている。領域Aを第1領域、領域Bを第2領域、領域Cを第3領域と称す。また同図において、符号Xはコイル20を作成するにあたり、2本のリッツ線21、22を巻き進める方向(巻回方向)を示す。
【0039】
例えば区間P1において、巻き始めから第N巻き目(例えば内周側の1巻目T1から数えて3巻き目T3)と第(N-1)巻き目(内周側の1巻き目T1から数えて2巻き目T2)に注目すると、領域Aは、3巻き目T3の内周側のリッツ線21が2巻き目T2の外周側のリッツ線22に当接する当接部位A1と、3巻き目の内周側のリッツ線21が3巻き目の外周側のリッツ線22と離間する離間部位A2とを有する領域である。なお、この場合のNは2以上の整数とする。
【0040】
つまり領域Aはリッツ線21が、隣接する他の巻き数のリッツ線22に当接しかつ同じ巻き数のリッツ線22から離間する領域である。なお、巻き目と巻き数は対応する。換言すると、領域Aは、最内周の巻き始めの部分を除く第N巻き目のリッツ線21が、第N巻き目の内周側に隣接する巻き目のリッツ線22に当接しかつ第N巻き目のリッツ線22から離間する領域(N:1以上の整数)であるといえる。
【0041】
領域Bは、第N巻き目(3巻目T3)の内周側のリッツ線21が第N巻き目(3巻目T3)の外周側のリッツ線22との当接部位B1から、第(N-1)巻き目(2巻目T2)の外周側のリッツ線22の当接部位B2へ巻き進む向きに横切る領域である。
【0042】
領域Cは、第N巻き目(3巻目T3)の内周側のリッツ線21が第(N-1)巻き目(2巻目T2)の外周側のリッツ線22との当接部位C1から、第N巻き目(3巻目T3)の外周側のリッツ線22の当接部位C2へ巻き進む向きに横切る領域である。内周側から外周側へ巻き進む際に、領域A~Cは、領域B、領域A、領域Cの順に形成される。
【0043】
続いて、
図3を参照してこの第1実施形態のコイル20(
図1のパラハイブリッド巻)と比較例(2本のリッツ線を一定間隔の隙間を設けながら平行に渦巻き状に巻回したコイル(以下これを「パラギャップ巻」と称す))とを対比して性能を説明する。
【0044】
パラギャップ巻は、2本のリッツ線を一定間隔の隙間を設けながら平行に渦巻き状に巻回したコイルである。パラギャップ巻は、2本のリッツ線を1巻きする毎に所定間隔の隙間を空けた試料としてスタンダードなコイルであり、このパラギャップ巻のコイル性能(特性)を規定値としてこれにできるだけ近付けることが望ましい。
【0045】
試験条件としては、上記の2つの試料(パラギャップ巻とパラハイブリッド巻)それぞれについて、コイル両端を既存のLCRメータに接続して、周波数を0~200kHzまで変化させて交流抵抗を測定したものである。
図3において周波数が0の位置の値(およそ15mΩ)は直流抵抗である。
【0046】
計測結果の
図3を参照すると、EV向け非接触給電の利用周波数である85kHz帯において、本発明のパラハイブリッド巻は、交流抵抗が30mΩ以下であり、スタンダードなパラギャップ巻と同等の特性となっており、規定の電気性能が得られることがわかる。
【0047】
以下、
図1に示したコイル20の製造方法を説明する。
このコイル20の場合、渦巻状の溝が形成された巻回治具に2本のリッツ線21、22を順に嵌め込んでいくことで、2本のリッツ線21、22を平面的に渦巻き状に巻回する。
【0048】
巻回治具を利用して2本のリッツ線21、22を内周側から外周側へ渦巻き状に平らに巻回する中で、外周側のリッツ線22が一定間隔で、内周側のリッツ線21が隣接するリッツ線22に当接と離間を繰り返す領域A、B、Cを形成する。
【0049】
内周側からリッツ線21、22を巻き進める上で、巻き始めの1巻き目T1(1周目)は、2巻き目T2以降に外周側のリッツ線22が一定間隔でほぼ平行に巻回できるようにリッツ線21、22どうしの間隔を調整するため巻き方の規則性は例外とする。
【0050】
例えば3巻き目T3(3周目)に着目すると、
図2の領域Bにおいて、リッツ線21とリッツ線22とが当接した当接部位B1から、外周側のリッツ線22は直線のまま進み、内周側のリッツ線21だけが図面に向かって左方向に傾斜して巻き進められて、同じ巻き目T3のリッツ線22と離間し、当接部位B2で2巻目T2の外側のリッツ線22と当接する。
【0051】
そして、当接部位B2から領域Aの区間では、3巻目の内側のリッツ線21と2巻目の外側のリッツ線22が当接したまま巻き進められる。この領域Aの区間では、3巻目の内側のリッツ線21とこれと対の3巻目の外側のリッツ線22とは離間した状態が維持される。
【0052】
領域Aから領域Cに移る当接部位C1からは、直線で巻き進められている2巻目T2の外周側のリッツ線22から、3巻目T3の内周側のリッツ線21が図面に向かって右方向に傾斜して巻き進められて、同じ3巻き目T3のリッツ線22と当接部位C2の位置で当接する。この巻き方が以降8巻目T8(8周目)まで行われる。なお、最外周の9巻目(9周目)は端子接続のための引き出し線のため巻き数に含めないものとする。
【0053】
このようにして、最内周を除く第N巻き目の内周側のリッツ線21が、第(N-1)巻き目の外周側のリッツ線22に当接しかつ第N巻き目のリッツ線22から離間する領域A(第1領域)と、第N巻き目の内周側のリッツ線21が、第N巻き目の外周側のリッツ線22との当接部位B1から第(N-1)巻き目の外周側のリッツ線22との当接部位B2へ巻き進む向きに横切る領域B(第2領域)と、第N巻き目の内周側のリッツ線21が、第(N-1)巻き目の外周側のリッツ線22との当接部位C1から第N巻き目の外周側のリッツ線22との当接部位C2へ巻き進む向きに横切る領域C(第3領域)とが形成される(N:2以上の整数)。なお、この巻き方では、領域B(第2領域)、領域A(第1領域)、領域C(第3領域)の順に領域A~Cが形成されることになる。
【0054】
巻回後、リッツ線21、22の内周側の一端を合わせて圧着端子25をあてがい、カシメ加工することで線材と金属部とを圧着一体化し、リッツ線21、22どうしの端部(末端)を接続する。また、リッツ線21、22の外周側の一端を合わせて圧着端子26をあてがい、カシメ加工することで線材と金属部とを圧着一体化し、リッツ線21、22どうしの端部(末端)を接続する。このようにして2本のリッツ線21、22の両端(末端)をそれぞれ結合(接続)し、一本の太い電線と同等の断面積を確保する。
【0055】
このようにして形成したコイル20の形状維持のため、巻回治具に嵌め込んだ状態で接着剤を散布して、巻線どうしの当接部を接着し、接着剤が固化するまでの一定時間放置した後、ハンドリング、つまり巻回治具から取り外す。なお、リッツ線21、22の端部の加工と当接部の接着はどちらが先であってもよい。
【0056】
このように第1実施形態によれば、両端が接続される2本(1組)のリッツ線21、22を並べて巻回する上で、直線的に巻く外周側のリッツ線22に対して内周側のリッツ線21を蛇行させて巻回することで、外周側と内周側の線材のライン長差を少なくすようにライン長を調整することができる。
【0057】
具体的には、外周側のリッツ線22を一定間隔でほぼ平行に巻き、この間隔に内周側のリッツ線21を蛇行させて隣接するリッツ線22に当接、離間を繰り返すような巻き方(パラハイブリッド巻)にして1組のリッツ線21、22のライン長差を少なくするように調整することで、ライン長差で生じる位相差により悪化する電気的特性を向上することができる。
【0058】
外径500mm×650mm、巻幅180mm、巻き数8ターンのコイルを形成した場合、ライン長は約12メートルとなり、最外周部の圧着端子26の接続部分ではリッツ線21、22どうしのライン長差を8cm程度にまで縮めることができた(なお従来のパラギャップ巻ではライン長差が60cm程度生じる)。
【0059】
また、隣り合うリッツ線21、22どうしの当接部位を接着することで、スペーサやボビンなどの形状保持具を設けることなく、線間に隙間(ギャップ)を設けた形状維持が可能になる。
この結果、既定の寸法および形状(2本1組のリッツ線21、22を既定の外形、内形の範囲に隙間を設けて並べて巻回した形状)、既定の電気的性能に適合し、低コストでかつハンドリング性のよい非接触給電装置およびコイルを提供することができる。
【0060】
この第1実施形態では、両端が接続される2本のリッツ線21、22を巻回する際に内周側のリッツ線21を蛇行させて外周側のリッツ線22に当接、離間を繰り返すような巻き方(パラハイブリッド巻)にしたが、巻回中心から放射方向に等間隔に区分した一定角度範囲毎に領域A(
図2参照)または領域A、B、Cを配置するようにしてもよい。
【0061】
また、第1実施形態では、コイル20全体の巻き数を8ターンT1~T8(8周巻き)としたが、これ以外の巻き数やコイル形状であっても本願発明の適用範囲といえる。例えばこの例では、巻き数の総数を偶数としたが、奇数としてもよく、巻き数自体を増減してもよい。
【0062】
(第2実施形態)
次に、
図4を参照して第2実施形態を説明する。
図4は第2実施形態のコイル(車両側)を示す平面図である。なお第2実施形態において第1実施形態と同じ構成要素には同一の符号を付しその説明は省略する。
【0063】
図4に示すように、第2実施形態のコイル20は、外形を例えば400mm×400mmのほぼ方形状(コーナー部に丸みを持たせている)にしたものであり、2次側(受電側)、具体的には例えばEVの底部に設置するものである。領域A~Cの形成の仕方については第1実施形態と同様である。
【0064】
この例では、外形が四角形(この例のように外形がほぼ方形状の場合は四隅のコーナー部に丸みをつけている)になるようにリッツ線21、22を渦巻き状に巻回したが、この他、外形をほぼ三角形、ほぼ五角形、ほぼ六角形、ほぼ八角形などの多角形の形状や、ほぼD形状、円形などにしてもよい。
【0065】
このようにこの第2実施形態によれば、コイル20の外形を例えば縦横の寸法が400mm×400mmのほぼ方形状にすることで、第1実施形態の充電スタンド用に対応する車載用のコイル20として適用することができる。
【0066】
上記第1および第2実施形態に示したコイル20(パラハイブリッド巻)を用いた非接触給電装置は、
図5に示すように、アルミニウム板などの基板1と、この基板1の上面に配置された磁心コア板2と、この磁心コア板2の上面に配置されたコイル20とを備える。
【0067】
これにより、例えば1次側の非接触送電装置または2次側の非接触受電装置とすることができる。さらに、磁心コア板2におけるコイル20の位置を固定するために、磁心コア板2の上面をモールド樹脂などで皮膜してもよい。また磁心コア板2自体にコイル20の形状を維持するための溝を設けてもよい。
【0068】
基板1としては、上記アルミニウム板などの金属板以外に樹脂板などの絶縁物の板材であってもよい。なお、上記の例では、基板1の上に磁心コア板2を配置しその上にコイル20を配置したが、基板1の上に直接コイル20を配置してもよく、さらにコイル20の上に磁心コア板2を配置してもよい。
【0069】
このようにコイル20を磁心コア板2の上に移動するときに、予めリッツ線21、22どうしの当接部を接着しておくことで、コイル20の形状が維持され、インダクタンスの変動が少なく、良好なハンドリング性(コイル製造時の巻回治具からの取り外し作業や持ち運び作業などの作業性)が得られる。
【0070】
上記実施形態では、2本のリッツ線21、22を一組としたが、
図6に示すように、3本のリッツ線21、22、23を用い、そのうち一定の間隔の外周側のリッツ線22の間に配置する内周側のリッツ線21、23を蛇行させてライン長を調整するようにしてもよい。
【0071】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。上記の新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施することが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記した実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0072】
P1~P4…区間、1…アルミニウム板(基板)、2…磁心コア板、20…コイル、21、22、23…リッツ線、25、26…圧着端子。