(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-10
(45)【発行日】2022-03-18
(54)【発明の名称】内燃機関のヘッドカバー装置
(51)【国際特許分類】
F02F 7/00 20060101AFI20220311BHJP
F01M 11/04 20060101ALI20220311BHJP
F01M 13/00 20060101ALN20220311BHJP
【FI】
F02F7/00 P
F01M11/04 A
F01M13/00 F
(21)【出願番号】P 2019208513
(22)【出願日】2019-11-19
【審査請求日】2021-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】岡野 俊紀
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄介
(72)【発明者】
【氏名】武富 慎矢
(72)【発明者】
【氏名】旭 剛宏
【審査官】菅野 京一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-104626(JP,A)
【文献】特開2007-077893(JP,A)
【文献】特開2017-180106(JP,A)
【文献】特開2018-035789(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2006-0070100(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 7/00
F01M 11/00,13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッドカバーとその内部に配置したバッフルプレートとを備えており、
前記ヘッドカバーのうちタイミングチェーンが配置される前部に、上方からオイルフィラーキャップで塞がれるオイル注入口が形成されており、前記オイル注入口の略下方部に、カム軸に連結されたVVT装置が配置されており、
かつ、前記バッフルプレートには、前記VVT装置から飛散したオイルが前記オイル注入口に流入することを阻止するオイル遮蔽部を設けている構成であって、
前記バッフルプレートのオイル遮蔽部に、前記VVT装置の外周に添うように曲がった湾曲部と、前記オイル注入口の真下から外れた部位に位置したオイル逃がし穴とが形成されている、
内燃機関のヘッドカバー装置。
【請求項2】
前記オイル遮蔽部の湾曲部に、前記VVT装置の前端面の側に位置した下向きリブが形成されている、
請求項1に記載した内燃機関のヘッドカバー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、自動車用等の内燃機関において、オイル注入口が設けられていると共に内部にバッフルプレートが配置されたヘッドカバー装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用等の内燃機関において、ブローバイガスから油分を補集するブローバイガス通路をヘッドカバーに設けることは広く行われている。ブローバイガス通路は、ヘッドカバーの内部にバッフルプレートを装着して形成していることが多い。
【0003】
他方、ヘッドカバーにオイル注入口を設けることも広く行われており、オイル注入口は、タイミングチェーンが配置されている前部に設けていることが多いが、この場合、オイル注入口の下方にVVT装置が配置されていると、VVT装置の回転によって飛散したオイルミストがオイル注入口に入り込むことがあり、すると、オイルフィラーキャップが外れたまま運転している場合に、オイルミストが排気系に飛散して火災を引き起こしたり白煙を発生させたりするおそれがある。また、スラッジが発生しやすいという問題もある。
【0004】
そこで、特許文献1には、バッフルプレートに、VVT装置から飛散したオイルミストがオイル注入口に向かうことを阻止するオイル遮蔽部を設けることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は、ブローバイガス通路や新気導入通路を形成するために必要なバッフルプレートを利用してオイル遮蔽部を形成するものであるため、部材点数の増加を招来することなくオイル注入口へのオイルの飛散を抑制できる利点を有するが、本願発明者が検討したところ、改善の余地が見られた。
【0007】
例えば、VVT装置の回転部は円形であってオイルは接線方向に飛散するが、特許文献1のオイル遮蔽部は平板状であるため、オイル遮蔽部によるVVT装置の囲い込み効果が低くて、オイルの飛散防止効果に限度がある問題があった。
【0008】
また、機関を停止した状態でオイル注入口からオイルを注入するにおいて、オイルを勢い良く注入すると、オイル遮蔽部にオイルがつかえてオイル注入口から溢れるおそれもあった。これらの点への対応策としては、オイル遮蔽部の面積を大きくしたり、オイル遮蔽部とオイル注入口との間隔を広げたりすることが考えられるが、これらの対応策では、バッフルプレートが大型化したりヘッドカバーが大型化したりする新たな問題が発生するおそれがある。
【0009】
本願発明はこのような現状を契機にして成されたものであり、バッフルプレートの一部をオイル遮蔽部として有効利用することは特許文献1の思想を踏襲しつつ、オイル飛散防止効果の向上やオイル注入性向上等を、スペースの有効利用を図った状態で実現しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明のヘッドカバー装置は、
「ヘッドカバーとその内部に配置したバッフルプレートとを備えており、
前記ヘッドカバーのうちタイミングチェーンが配置される前部に、上方からオイルフィラーキャップで塞がれるオイル注入口が形成されており、前記オイル注入口の略下方部に、カム軸に連結されたVVT装置が配置されており、
かつ、前記バッフルプレートには、前記VVT装置から飛散したオイルが前記オイル注入口に流入することを阻止するオイル遮蔽部を設けている」
という基本構成になっている。
【0011】
そして、上記基本構成において、
「前記バッフルプレートのオイル遮蔽部に、前記VVT装置の外周に添うように曲がった湾曲部と、前記オイル注入口の真下から外れた部位に位置したオイル逃がし穴とが形成されている」
という構成が付加されている。
【0012】
本願発明は、様々に展開することができる。その一例として請求項2では、
「前記オイル遮蔽部の湾曲部に、前記VVT装置の前端面の側に位置した下向きリブが形成されている」
という構成になっている。
【0013】
さて、タイミングチェーンが噛合するスプロケットはVVT装置の外径よりも大径になっているが(そうでないと、スプロケットにタイミングチェーンを噛合させることができない)、本願発明では、他の展開例として、オイル遮蔽部に、スプロケットを上から覆うように曲がったスプロケット逃がし部を形成することができる。
【発明の効果】
【0014】
本願発明では、オイル遮蔽部の湾曲部によってVVT装置が覆われるため、湾曲部をできるだけVVT装置に近づけつつ、VVT装置と湾曲部との間隔を均等化できる。従って、ヘッドカバー内のスペースを有効利用した状態でオイルミストの飛散防止効果を向上できる。また、オイルの注入時には、オイルは湾曲部にガイドされてスムースに流下するため、オイル遮蔽部をオイル注入口にできるだけ近づけつつ、オイルの溢れ防止効果も向上できる。
【0015】
また、オイル遮蔽部にオイル逃がし穴が空いているため、オイル遮蔽部をオイル注入口にできるだけ近づけることができるものでありながら、オイルを勢い良く注入してもオイルが溢れることを防止できるが、オイル逃がし穴はオイル注入口の真下からずれているため、機関の運転に際してオイルがオイル逃がし穴からオイル注入口に入り込むことはない。従って、スペースを有効利用してヘッドカバーの大型化を防止しつつ、オイル注入口へのオイル飛散防止効果を確保できると共に、オイルの注入性を向上できる。
【0016】
請求項2のように、オイル遮蔽部の湾曲部に下向きリブを設けると、VVT装置の外周面から飛散して湾曲部に当たったオイルが前向きに流れて再び飛散することを防止できる。従って、オイルの飛散防止効果を更に向上できる。また、機関の運転に際して、オイルはVVT装置の外周面から接線方向に飛散するのみならず、VVT装置の端面からも放射方向に飛散するが、請求項2のように湾曲部に下向きリブを設けると、VVT装置の端面から放射方向に飛散したオイルが湾曲部に当たって更に前方に飛散するという現象を防止できる。従って、この面でもオイル飛散防止効果を向上できる。
【0017】
本願発明は、上記のとおり、オイル遮蔽部にスプロケット逃がし部を形成することが可能であるが、このように構成すると、オイル遮蔽部をできるだけバッフルプレートやタイミングスプロケットに近づけることができる。従って、ヘッドカバーのコンパクト化を図りつつ、オイル飛散防止効果を確実化してオイルフィラーキャップが離脱しても安全性を向上できると共に、オイル注入時の溢れ現象防止効果も確実化できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施形態に係るヘッドカバー装置の底面図である。
【
図4】(A)はオイル遮蔽部を中心にした部分の底面図、(B)は(A)のB-B視図である。
【
図5】(A)はバッフルプレートの側面図、(B)は
図4(B)の VB-VB視正面図である。
【
図6】オイル遮蔽部の配置状態を後ろ側から見た斜視図である。
【
図7】オイル遮蔽部の配置状態を示す横から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本願発明を自動車用エンジンに適用した実施形態を図面に基づいて説明する。以下では、方向を特定するため前後・左右の文言を使用するが、前後方向はクランク軸線方向(カム軸線方向)であり、左右方向は、クランク軸線及びボア軸線と直交した方向である。前と後ろは、タイミングチェーンが配置される側を前、ミッションケースが配置される側を後ろとしている。念のため、
図1に方向を明示している。
【0020】
(1).概要の説明
図1はヘッドカバー1の底面図であり、ヘッドカバー1には、3つのイグニッションホール用筒体2が前後方向に並べて形成されている。従って、本実施形態のヘッドカバー1は、3気筒用内燃機関のものである。ヘッドカバー1は、合成樹脂を材料にした射出成型法によって製造されているが、アルミダイキャスト品も採用できる。
【0021】
ヘッドカバー1は、下向きに開口した浅いトレー状の形態であり、周壁3と天板4とを備えている。そして、ヘッドカバー1の前部に、オイル注入部5が手前に少しはみ出た状態で形成されており、オイル注入部5には、オイル注入口6が下向きに開口している。敢えて述べるまでもないが、オイル注入口6は図示しないオイルフィラーキャップで外側から塞がれる。
【0022】
更に、ヘッドカバー1の内部に、天板4との間に間隔を開けた状態でバッフルプレート7が装着されている。バッフルプレート7は、イグニッションホール用筒体2を挟んで排気側に位置した第1部分8と、イグニッションホール用筒体2を挟んで吸気側に位置した第2部分9と、両者に繋がった前後の連結部10とを有しており、第1部分8と天板4との間の空間を新気導入通路と成して、第2部分9と天板4との間の空間をブローバイガス通路と成している(
図1(
図6,7も参照)に示す符号11はガスケットであり、ガスケット11は、ヘッドカバー1における周壁3の下端面も覆っている。)。
【0023】
そして、バッフルプレート7の第2部分9に、当該第2部分9を前方に延長させることにより、オイル注入口6の下方に延びるオイル遮蔽部12を形成している。なお、
図1,6,7において、バッフルプレート7の範囲を点線の平行斜線で表示している。
【0024】
図2はシリンダヘッド13とヘッドカバー1とを下方から見た底面図であり、この図に示すように、排気弁用VVT装置14と吸気弁用VVT装置15とが、シリンダヘッド13の前方にはみ出た状態で配置されている。VVT装置14,15には、スプロケット16,17とカム軸とが取り付けられており、スプロケット16,17とカム軸とを相対回転させることにより、バルブタイミングが調節される。
【0025】
なお、
図2において、符号13aは燃焼室の一部を構成する凹所を示し、符号13bは吸気バルブを示し、符号13cは排気バルブを示し、符号13dは点火プラグを示している。
【0026】
吸気弁用VVT装置15はオイル注入口6の下方に位置しているため、何等かの措置を施さないと、吸気弁用VVT装置15の回転によって飛散したオイルがオイル注入口6に入り込む。そこで、バッフルプレート7の第2部分9に、吸気弁用VVT装置15の上方に位置してオイル注入口6の下方に位置したオイル遮蔽部12を設けている。
【0027】
(2).オイル遮蔽部
図4から理解できるように、オイル遮蔽部12は、概ねオイル注入口6の下方に位置した前板部12aと、吸気弁用15スプロケットを上から跨ぐように延びる後部12bとを有している。後部12bは、平面視ではY形で側面視では下向きに開口したU形になっており、この後部12bが、先に触れたスプロケット逃がし部になる。
【0028】
前板部12aは請求項に記載した湾曲部に相当するもので、
図5(B)や
図6,7に示すように、その全体が、吸気弁用VVT装置15の外周面に沿うように正面視で湾曲している。オイル遮蔽部12には、オイル注入口6から流下したオイルを下方に逃がすオイル逃がし穴19が空いている。オイル逃がし穴19は、平面視でホームベース状の形態を成して、大部分は後部12bに形成されている。逆に見ると、後部12bは、オイル逃がし穴19の存在によって平面視Y形になっている。なお、後部12bの基端は細幅になっているが、これは材料を節約するためである。
【0029】
図4や
図6のとおり、前板部12aの前端には下向きリブ20を形成しており、かつ、下向きリブ20は後ろ向きのサイド部20aを備えている。従って、下向きリブ20は底面視でコ字形になっている。このため、前板部12aは高い剛性が付与されている。
【0030】
また、前板部12aはヘッドカバー1に溶着されているが、
図4(A)や
図6,7に示すように、前板部12aの左右両端部に、前板部12aをヘッドカバー1の段部23(
図6参照)に溶着するに際して円筒状のホーン21の端面の一部が当たるホーン押さえ部22を形成している。一対のホーン押さえ部22はホーン21の軸心を挟んで反対側に位置しているため、ホーン21を前板部12a及びヘッドカバーの段部23に安定的に当てて的確に溶着できる。
【0031】
以上のとおり、吸気弁用VVT装置15はオイル注入口6の下方においてオイル遮蔽部12の前板部12aで覆われているため、吸気弁用VVT装置15の回転によって飛散したオイルがオイル注入口6に流入することはない。従って、自動車の走行中にオイルフィラーキャップが外れなどしてオイル注入口6が空いたままエンジンか運転されても、オイルミストが排気マニホールドや触媒ケースなどの排気系に飛散することはなく、従って、火災が発生したり白煙が立ち昇ったりすることを防止できる。また、スラッジの発生のような不具合も防止できる。
【0032】
そして、前板部12aは
図5(B)のように吸気弁用VVT装置15の外周面に沿って湾曲しているため、前板部12aを全体に亙って吸気弁用VVT装置15に近づけることができ、その結果、ヘッドカバー1を大型化させることなくスペースを有効利用した状態でオイルの飛散防止効果を向上できる。
【0033】
また、前板部12aに下向きリブ20を設けているため、
図5(C)に矢印で示すように、吸気弁用VVT装置15の外周から飛散したオイルが前板部12aの下面に当たって前方に逃げ移動しても、下向きリブ20に止められて下方に流下するため、勢いのついたオイルミストが前板部12aの前方に飛散することを防止できる。また、吸気弁用VVT装置15の端面から放射状に飛散したオイルがオイル注入口6に向かうことも、下向きリブ20によって防止できる。
【0034】
他方、オイルの注入時には、オイルが前板部12aの湾曲面にガイドされて下方にスムースに流れるため、オイル遮蔽部12をオイル注入口6にできるだけ近づけつつ、オイルの流下を促進して溢れ現象を防止できる。更に、オイル遮蔽部12にはオイル逃がし穴19が開口しているため、オイルはオイル逃がし穴19からも下方に流下する。これらが相まって、オイルを勢い良く注入しても、オイル注入口6から溢れ出る現象を的確に阻止できる。
【0035】
なお、下向きリブ20はオイル遮蔽部12の剛性強化にも貢献している。下向きリブ20で剛性が強化されたオイル遮蔽部12がヘッドカバー1に溶着されているため、オイル遮蔽部12が第2部分9から前方に長くはみ出た形態であっても、オイル遮蔽部12が振動することはなくて、高い信頼性を確保できる。
【0036】
特に、後部12bが吸気弁用15スプロケットを上から跨ぐU形に形成すると、オイル遮蔽部12が振れ動きやすくなるが、本実施形態のようにオイル遮蔽部12をヘッドカバー1に溶着すると、オイル遮蔽部12の変形や振動をしっかりと防止できる。
【0037】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えば、実施形態では後部12bをY型に形成したが、平面視で帯状に形成することも可能である。また、VVT装置を覆う範囲は、オイルの飛散状態に合わせて適宜選択できる。実施形態では、前板部18aの全体を湾曲部と成したが、前板部18aの一部を湾曲部と成すことも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本願発明は、実際にヘッドカバーに具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0039】
1 ヘッドカバー
3 周壁
4 天板
5 オイル注入部
6 オイル注入口
7 バッフルプレート
8 第1部分
9 第2部分
10 連結部
12 オイル遮蔽部
12a 前板部(湾曲部)
12b 後部(スプロケット逃がし部)
13 シリンダヘッド
14 排気弁用VVT装置
15 吸気弁用VVT装置
17 吸気弁用スプロケット
19 オイル逃がし穴
20 下向きリブ