(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-10
(45)【発行日】2022-03-18
(54)【発明の名称】ポリブタジエン、その製造および使用
(51)【国際特許分類】
C08F 36/06 20060101AFI20220311BHJP
C08F 4/70 20060101ALI20220311BHJP
【FI】
C08F36/06
C08F4/70
(21)【出願番号】P 2019534885
(86)(22)【出願日】2018-01-16
(86)【国際出願番号】 EP2018050942
(87)【国際公開番号】W WO2018130703
(87)【国際公開日】2018-07-19
【審査請求日】2020-08-19
(32)【優先日】2017-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】特許業務法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カイ シュテッフェン クランニッヒ
(72)【発明者】
【氏名】ユルゲン ヘルヴィッヒ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ベルリネアーニュ
(72)【発明者】
【氏名】ミリアム アマー
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ ケンパー
(72)【発明者】
【氏名】アレキサンダー シェンカ
(72)【発明者】
【氏名】イヴォンヌ グロース オンネブリンク
(72)【発明者】
【氏名】グドゥラ バウアーズ
(72)【発明者】
【氏名】マルギット ブコール
(72)【発明者】
【氏名】カーステン ルーチェ
(72)【発明者】
【氏名】ジークフリード ヨッテンマイヤー
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-030287(JP,A)
【文献】特開2000-072823(JP,A)
【文献】特開昭50-161585(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 36/06
C08F 4/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,3-ブタジエンに由来するモノマー単位を含むポリブタジエンであり、
前記ポリブタジエン中に存在する1,3-ブタジエンに由来するモノマー単位全体における式(A):
【化1】
の単位の割合が、
50~65mol%であり、
前記ポリブタジエン中に存在する1,3-ブタジエンに由来するモノマー単位全体における式(B):
【化2】
の単位の割合が、
2~6mol%であり、
前記ポリブタジエン中に存在する1,3-ブタジエンに由来するモノマー単位全体における式(C):
【化3】
の単位の割合が、25~
40mol%であり、
ただし、前記モノマー単位(A)、(B)および(C)の合計が、最大100mol%であり、
1,000~3,000g/molの数平均モル質量を有することを特徴とするポリブタジエン。
【請求項2】
20℃で2,000~8,000mPa・sの粘度を有することを特徴とする請求項1に記載のポリブタジエン。
【請求項3】
2.1~3.0の分散度を有することを特徴とする請求項1または2に記載のポリブタジエン。
【請求項4】
1,3-ブタジエンに由来するモノマー単位を含むポリブタジエンを調製する方法であって、
前記ポリブタジエン中に存在する1,3-ブタジエンに由来するモノマー単位全体における式(A):
【化4】
の単位の割合が、50~65mol%であり、
前記ポリブタジエン中に存在する1,3-ブタジエンに由来するモノマー単位全体における式(B):
【化5】
の単位の割合が、2~6mol%であり、
前記ポリブタジエン中に存在する1,3-ブタジエンに由来するモノマー単位全体における式(C):
【化6】
の単位の割合が、25~40mol%であり、
ただし、前記モノマー単位(A)、(B)および(C)の合計が、最大100mol%であり、
1,000~3,000g/molの数平均モル質量を有するポリブタジエンを、
溶媒と、
a)コバルト化合物、
b)有機アルミニウム化合物、
c)有機リン化合物、および
d)水
を含む触媒システムと、の存在下で、1,3-ブタジエンを重合する
ことによって調製する方法であり、
触媒システムと溶媒の混合物を最初に充填し、前記1,3-ブタジエンをこの混合物中に計量供給することを特徴とする方法。
【請求項5】
前記重合が
200~700kPaの圧力で行われることを特徴とする請求項
4に記載の方法。
【請求項6】
前記反応混合物の温度が20~60℃で前記重合が行われることを特徴とする請求項
4または
5に記載の方法。
【請求項7】
使用される前記コバルト化合物が、2-エチルヘキサン酸コバルトであることを特徴とする請求項
4~
6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
使用される前記有機リン化合物が、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトまたはトリス(オルト-フェニルフェニル)ホスファイトであることを特徴とする請求項4~
7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
使用される前記有機アルミニウム化合物が、エチルアルミニウムセスキクロライドまたはジエチルアルミニウムクロライドであることを特徴とする請求項
4~
8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
使用される1,3-ブタジエンの総量に対する、前記コバルト化合物のモル比が、1:2,500~1:15,000であることを特徴とする請求項
4~
9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記ポリブタジエンが、ゴム、合成ゴム、ゴムのリサイクルにおける
、タイヤ、接着剤配合物、コーティング組成物、フレキソ印刷版、コーティング剤、
またはコーティング剤成分を調製するため
に、可塑剤として
使用される、請求項4~
10のいずれか1項に記載の
方法。
【請求項12】
請求項1~
3のいずれか1項に記載のポリブタジエン、または請求項1~
3のいずれか1項に記載のポリブタジエンと他の化合物との転化生成物を含む組成物。
【請求項13】
前記組成物中に存在する前記ポリブタジエンの割合、または前記転化生成物の調製に使用された前記ポリブタジエンの割合が、前記組成物に対し、0.1~90重量%であることを特徴とする請求項
12に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニル二重結合を有する1,3-ブタジエンに由来するモノマー単位(下記に定義する式(A))を25~75モルパーセント、トランス二重結合を有する1,3-ブタジエンに由来するモノマー単位(下記に定義する式(B))を0~10モルパーセント、およびシス二重結合を有する1,3-ブタジエンに由来するモノマー単位(下記に定義する式(C))を25~75モルパーセント含むポリブタジエンであり、ただし、モノマー単位(A)、(B)および(C)の合計は、最大100モルパーセントであり、かつ1,000~3,000g/molの数平均モル質量を有することを特徴とするポリブタジエンと、ポリブタジエンの調製方法と、本発明によるポリブタジエンの使用と、本発明によるポリブタジエンを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
チーグラー・ナッタ触媒による液状ポリブタジエンの調製は、1960年代から知られている(例えば、特許文献1)。それ以来、ニッケル、チタン、バナジウム、クロム、モリブデンおよびコバルト等の多数の遷移金属が研究されてきた(特許文献2、特許文献3、特許文献4)。適切な遷移金属を選択することにより、分子量および微細構造等のポリマー特性を具体的に調整することができる。
【0003】
ビニル基を含むポリブタジエンは、それらによって、それ自体とまたは他の化合物と架橋することができ、それが、例えば、ゴムもしくは合成ゴムの製造における可塑剤等の成分として、またはコーティング剤もしくはコーティング剤成分として、ポリブタジエンが使用される理由である。
【0004】
比較的ビニル含有量の高い(下記に定義されるように25~75モルパーセント)液状ポリブタジエンは、過酸化物によって架橋され、その結果、加硫のための硫黄の使用を減らすことができ、あるいは硫黄を完全に排することができるので、ますます重要になっている。
【0005】
特許文献5には、コバルトを、有機リン種、アルキルアルミニウムハライドおよび水と組み合わせて使用して、そのような液状ポリブタジエンを製造する方法が記載されている。この方法の実質的な不利点としては、必要とされるブタジエンの量を最初に十分に充填するので、計量を誤ると、潜在的高エネルギー、ひいては潜在的リスクが存在する点である。そのような反応体制は、今日の安全基準の下ではもはや実行可能ではない。さらに、記載されている反応所要時間が非常に長く(5時間)、そしてモノマー濃度が非常に低い(ベンゼン中、ブタジエンは12.9%)ので、空時収率が低くなり、その結果、今日まで実用的な製造を妨げてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】US3,040,016
【文献】US4,751,275
【文献】US3,778,424
【文献】US6,291,591
【文献】DE2,261,782
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、25モルパーセントを超えるビニル含有量(下記に定義する25モルパーセントのモノマー単位(A))を有する液状ポリブタジエンの、改良された製造方法を提供することであった。
【0008】
驚くべきことだが、この目的は、ポリブタジエン、ならびに以下および特許請求の範囲に定義されるようなその製造方法によって達成され得ることがわかった。
【0009】
したがって、本発明は、以下および特許請求の範囲に定義されるような、ポリブタジエン、ポリブタジエンの製造方法、本発明によるポリブタジエンの使用、および本発明によるポリブタジエンを含む組成物に関する。
【0010】
本発明によるポリブタジエンは、比較的高い空時収量のために、より少ない資源(溶媒、エネルギー)を使用して安全に製造され得るという利点を有する。
【0011】
本発明による液状ポリブタジエンの、本発明による好ましい分子量は、接着剤配合物に使用する場合に必要な硬化速度を達成するのに有利である。
【0012】
また、本発明によるポリブタジエンは、20℃かつ標準圧力で液体であり、好ましくはこの温度で2,000~8,000mPa・sの範囲の粘度を有するという利点を有し、それにより、特に合成ゴム組成物、ゴム組成物および接着剤組成物の製造において、加工および計量添加が容易に実行可能である。
【0013】
本発明による方法は、著しく低い温度を使用する場合に、より短時間でより高い転化率を達成し得るという利点を有する。さらに、本発明による方法は、改善された温度状況を有する。
【0014】
本発明による方法のさらなる利点は、必要とされるブタジエンの量を連続的に計量供給することができ、その結果、より安全な処理体制が実現可能になることである。
【0015】
また、本発明による方法は、明らかに高い割合のブタジエンを有する反応溶液の使用を可能にし、それによって、より高い空時収率を達成することができる。
【0016】
本発明によるポリブタジエン、調製物を製造するための本発明による方法、および本発明によるポリブタジエンの使用を、例として以下に記載するが、本発明はこれらの例示的な実施形態に限定されることを何ら意図していない。化合物の範囲、一般式または種類が以下に規定されている場合、これらは、明示的に言及されている化合物に対応する範囲または群だけでなく、個々の値(範囲)または化合物を除外することにより得られ得る化合物の全てのサブレンジおよびサブグループも含むことを意図している。本明細書の文脈において文献が引用される場合、それらの内容は、特に言及された事項に関して、本発明の開示内容の一部を完全に形成するものとする。以下に規定されるパーセンテージは、特に明記しない限り、重量%である。以下に規定される平均値、例えばモル質量平均値は、特に明記しない限り、数平均である。材料の性質、例えば粘度等が以下に言及される場合、これらは、特に明記しない限り、25℃での材料の性質である。本発明において化学(実験)式が使用される場合、規定された指数は、絶対数だけでなく平均値でもあり得る。高分子化合物に関する指数は、平均値であることが好ましい。
【0017】
本発明の文脈において、用語「ポリブタジエン」は、それぞれ少なくとも2つの共役二重結合を有するモノマー単位の重合によって得られる生成物を意味すると理解されるべきであり、モノマー単位の少なくとも80、85、90、95、98、99または99.9%、好ましくは全てが1,3-ブタジエンであることが好ましい。可能なさらなる化合物(不純物)は、例えば、3~5個の炭素原子を有するアルカンまたはアルケン、特にプロペン、1-ブテンまたは1,2-ブタジエンであってよい。
【0018】
1,3-ブタジエンに由来するモノマー単位
【0019】
【0020】
【0021】
および
【0022】
【化3】
を含む本発明によるポリブタジエンは、ポリブタジエン中に存在する1,3-ブタジエンに由来するモノマー単位全体における式(A)の単位の割合が、25~75モルパーセント、好ましくは50~65モルパーセント、好ましくは59~62モルパーセントであり、ポリブタジエン中に存在する1,3-ブタジエンに由来するモノマー単位全体における式(B)の単位の割合が、0~10モルパーセント、好ましくは1~8モルパーセント、好ましくは2~6モルパーセント、であり、かつポリブタジエン中に存在する1,3-ブタジエンに由来するモノマー単位全体における式(C)の単位の割合が25~75モルパーセント、好ましくは25~40モルパーセント、好ましくは35~39モルパーセントであり、ただし、全てのモノマー単位(A)、(B)および(C)の合計が最大100モルパーセントであり、ポリブタジエンが、1,000~3,000g/mol、好ましくは1,100~1,800g/mol、好ましくは1,200~1,700g/molの数平均モル質量を有することを特徴とする。
【0023】
式(A)、(B)および(C)で示されるモノマー単位において、本願において選択される式表現中の角括弧は、ポリブタジエン中に存在する1,3-ブタジエンに由来するモノマー単位(A)、(B)および(C)を示す場合、それぞれの角括弧で印を付けた結合は、例えばメチル基で終わっていない。代わりに、関連するモノマー単位が、この結合を介して、他のモノマー単位に結合している。この場合、モノマー単位(A)、(B)および(C)は、ポリマー中に任意の所望順序で配置され得る。ランダムな配置が好ましい。
【0024】
本発明によるポリブタジエン中の、式(A)、(B)または(C)のいずれにも一致しないモノマー単位の割合は、モノマー単位全体に対し、好ましくは20モルパーセント未満、好ましくは5モルパーセント未満、特に好ましくは1モルパーセント未満、さらに好ましくは0.1モルパーセント未満である。本発明によるポリブタジエン中の、式(A)、(B)または(C)のいずれにも一致しないモノマー単位の割合は、好ましくは20モルパーセント未満、好ましくは5モルパーセント未満、特に好ましくは1モルパーセント未満、さらに好ましくは0.1モルパーセント未満の不純物(特に、1,3-ブタジエンではないジエン)を含む1,3-ブタジエンを使用することにより、製造方法において制御することができる。
【0025】
式(A)、(B)および(C)によるモノマー単位のモル比は、IR分光法により、ポリブタジエン標準に対して測定される。この目的のために、試料(約80~250mg)を二硫化炭素(CS2)10mLに溶解する。高ビニル含有量の場合は低濃度が使用され、高シス含有量ではより高濃度が使用される。測定は、NaCl windowsおよび0.5mm経路長を有するIRキュベット内で行われる。溶媒を取り除き、スペクトルを1,100~600cm-1の評価範囲における吸光度として示す。1を超える吸光度では、より低い濃度で測定を繰り返す。以下のシグナルのベースラインより上の吸光度を測定する:
トランス-1,4-ポリブタジエン:968cm-1
1,2-ポリブタジエン:911cm-1
シス-1,4-ポリブタジエン:730cm-1
【0026】
モノマー成分のモル比は、
%comp(i)=Ext(i)*100%/(E(i)*c*d*)
によって得られ、
Ext(i)=ベースラインを超える吸光度
E(i)=吸光係数(物質固有、較正により測定される)[E]=L/(g*cm)
d=キュベットの経路長(cm)
c=試料の濃度(g/L)
である。
【0027】
数/重量平均モル質量および分散度については、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定する:
測定は、1g/Lの濃度かつ0.3mL/分の流量で、テトラヒドロフラン(THF)中で40℃で実施した。PSS SDV Micro 5μ/4.6×30mmプレカラムおよびPSS SDV Micro linear S 5μ/4.6×250mm(2×)分離カラムを使用して、クロマトグラフィー分離を行った。RI検出器により検出を行った。ポリブタジエン標準(PSS-Kitポリブタジエン-1,4、Mp831-106000、品番:PSS-bdfkit、Mn:1830/4330/9300/18000/33500)を用いて較正を行った。
【0028】
本発明によるポリブタジエンは、20℃で2,000~8,000mPa・s、好ましくは3,000~6,500mPa・sの粘度を有することが好ましい。ANTON PAAR Germany GmbH社製Rheometer Physica MCR 301を用いて、DIN 53018に準拠して、粘度(コーンプレート)を測定した。
【0029】
本発明によるポリブタジエンが2.1~3.0、好ましくは2.5~3.0、好ましくは2.6~2.9の分散度を有する場合、有利である。分散度については、数平均モル質量(Mn)を重量平均モル質量(Mw)で割ったものとして規定する。
【0030】
本発明による好ましいポリブタジエンは、2,000~8,000mPa・s、好ましくは3,000~6,500mPa・sの粘度かつ2.1~3.0、好ましくは2.6~2.9の分散度を有する。
【0031】
本発明による特に好ましいポリブタジエンは、ポリブタジエン中に存在する1,3-ブタジエンに由来するモノマー単位全体中の式(A)の単位の割合が、50~65モルパーセント、好ましくは59~62モルパーセント、ポリブタジエン中に存在する1,3-ブタジエンに由来するモノマー単位全体中の式(B)の単位の割合が、1~8モルパーセント、好ましくは2~6モルパーセント、かつポリブタジエン中に存在する1,3-ブタジエンに由来するモノマー単位全体中の式(C)の単位の割合が、25~40モルパーセント、好ましくは35~39モルパーセントであるものであり、ただし、モノマー単位(A)、(B)および(C)の合計は最大100モルパーセントであり、ポリブタジエンは1,100~1,800g/mol、好ましくは1,200~1,700g/molの数平均モル質量を有する。本発明によるポリブタジエンが、2,000~8,000mPa・s、好ましくは3,000~6,500mPa・sの粘度および2.1~3.0、好ましくは2.6~2.9の分散度を有し、かつ式(A)、(B)または(C)のいずれにも一致しないモノマー単位の割合が、モノマー単位全体に対し、5モルパーセント未満、好ましくは1モルパーセント未満、特に好ましくは0.1モルパーセント未満、特に好ましくは0モルパーセントである場合、本発明によるこれらのポリブタジエンが非常に特に好ましい。
【0032】
本発明のポリブタジエンは、下記の本発明によるポリブタジエンの製造方法により得られることが好ましい。
【0033】
溶媒と、コバルト化合物、有機アルミニウム化合物、有機リン化合物および水を含む触媒システムと、の存在下で、1,3-ブタジエンを重合させる、本発明によるポリブタジエンの製造方法は、触媒システムと溶媒との混合物を最初に充填し、1,3-ブタジエンをこの混合物中に計量添加することを特徴とする。
【0034】
使用される1,3-ブタジエンは、もっぱら1,3-ブタジエン、または不純物を含有する1,3-ブタジエンであってよい。不純物(特に、1,3-ブタジエンではないジエン)の含有量が、20モルパーセント未満、好ましくは5モルパーセント未満、特に好ましくは1モルパーセント未満、特に好ましくは0.1モルパーセント未満の1,3-ブタジエンを使用することが好ましい。
【0035】
本発明による方法では、溶媒は、特に、それぞれ室温で液体である脂肪族化合物、芳香族化合物、エステルおよびエーテルからなる群の溶媒から選択され得る。好ましい一実施形態では、溶媒は、室温液体脂肪族化合物(例えばヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン)、室温(25℃)液体芳香族化合物(例えばベンゼン、トルエン)、室温液体エステル(例えば酢酸エチル、酢酸ブチル)、または室温液体エーテル(例えばジエチルエーテルもしくはジイソプロピルエーテル、ジオキサンもしくはテトラヒドロフラン)である。上記溶媒の溶媒混合物は、任意の所望の量比であってよい。使用される溶媒は、好ましくは室温液体脂肪族化合物、好ましくはヘキサン、ヘプタン、オクタンもしくはシクロヘキサン、または室温液体芳香族化合物、好ましくはベンゼンもしくはトルエンである。溶媒としてベンゼンを使用することが特に好ましい。反応混合物中の溶媒の割合は、反応混合物の質量に対して、好ましくは25~75質量%、好ましくは40~70質量%、特に好ましくは45~60質量%である。
【0036】
1,3-ブタジエンの計量添加は、計量添加の全時間のうち後半に、計量されるべき1,3-ブタジエンの25~60%、好ましくは40~55%、好ましくは50%の量が混合物に添加されるような方式で、分割してまたは連続的に行われることが好ましい。計量添加は、均一な頻度かつ均一な分割で、すなわち準連続的または連続的に行われることが好ましい。
【0037】
重合は、好ましくは0.5~20時間、好ましくは1~10時間、特に好ましくは2.5~4時間かけて行われることが好ましい。
【0038】
本発明による方法では、重合は、2~8バール、好ましくは3~7バールの圧力で行われることが好ましい。不活性ガスを使用して圧力を調節することが好ましい。本発明の文脈において、用語「不活性ガス」は、その全体が不活性であるガスまたはガス混合物を意味する。使用される不活性ガスは、窒素、希ガスまたはそれらの混合物が好ましく、窒素が特に好ましい。
【0039】
重合は、反応混合物の温度が20~60℃、好ましくは25~40℃、好ましくは30℃で行われることが好ましい。したがって、反応混合物の温度を調節することができる適切な手段(例えば熱交換器)を備えた反応器中で重合を実施することが好ましい。
【0040】
2~8バール、好ましくは3~7バールの圧力かつ20~60℃、好ましくは25~40℃、好ましくは30℃の反応混合物の温度で、重合を実施することが特に好ましい。
【0041】
本発明による方法では、触媒システムとして、全ての適切なコバルト化合物、特に有機コバルト化合物を使用することができる。好ましくは、コバルト化合物として、2-エチルヘキサン酸コバルト、塩化コバルトまたはアセチルアセトン酸コバルト、好ましくは2-エチルヘキサン酸コバルトまたはアセチルアセトン酸コバルト、特に好ましくは2-エチルヘキサン酸コバルトを有する触媒システムが使用される。
使用される有機リン化合物は、例えば、トリフェニルホスフィン等のホスフィンまたはホスファイトであり得る。特に、有機リン化合物は、一般式P(OR1)(OR2)(OR3)(式中、R1、R2およびR3は、同一または異なるアルキル、アルケニル、フェニル、トリルまたはベンジル基である)で表されるものであってよい。好ましいアルキル基は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ヘキシル、オクチル、シクロヘキシル、ノニル、デカニル、ウンデカニルおよびドデカニルのような1~12個の炭素原子を有する直鎖状、分岐鎖状または環状の基である。本発明による方法では、トリメチル、トリエチル、トリプロピル、トリシクロヘキシル、トリアリル、トリフェニル、ジフェニルエチル、ジフェニルアリル、ジフェニルブチル、ジエチルフェニルまたはジブチルフェニルホスファイトを使用することが好ましい。使用される有機リン化合物としては、トリス(2,4-d-tert-ブチルフェニル)ホスファイトまたはトリス(オルト-フェニルフェニル)ホスファイトが特に好ましい。
【0042】
使用される有機アルミニウム化合物は、全ての適切な有機アルミニウム化合物であってよい。ジメチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムクロライド、ジイソブチルアルミニウムクロライドまたはエチルアルミニウムセスキクロライド、好ましくはジエチルアルミニウムクロライドまたはエチルアルミニウムセスキクロライドを使用することが好ましい。
【0043】
好ましい触媒システムは、上述の好ましくは、特に好ましくは、または特に好ましくは使用される成分の全てを含む。
【0044】
触媒システムの量は、使用される1,3-ブタジエンの総量に対するコバルト化合物のモル比が、1:2,500~1:15,000、好ましくは1:5,000~1:7,500、好ましくは1:5,500~1:6,500になるように計算されることが好ましい。
【0045】
重合は、使用されるモノマーに対して、50%の転化率、好ましくは70%の転化率、特に好ましくは80%を超える転化率が得られるように実施されることが好ましい。これは、特に、1,3-ブタジエンの計量添加を上記の好ましい方法で分割してまたは連続的に実施することにより達成され得る。
【0046】
重合の終わりに、重合反応を終了させることが好ましい。これは、好ましくはクエンチング(quenching)によって行われる。使用されるクエンチング剤は、例えば、水またはメタノールであってよい。クエンチング剤、好ましくは水の量は、クエンチング剤対反応混合物の体積比が0.005:1~1:0.1、好ましくは0.01:1~1:0.5、特に好ましくは0.05:1~1:0.75になるように使用されることが好ましい。
【0047】
重合後に得られる反応混合物は、場合によってはクエンチング剤を含んでいてもよいが、反応混合物の1以上の成分からポリブタジエンを分離するために処理されることが好ましい。ポリブタジエンは、反応混合物中に存在する他の全ての成分から分離されることが好ましい。
分離は、二段階で行われることが好ましい。第一段階において、有機相および水相への分離が行われることが好ましい。第二段階において、有機相の分離が行われる。これは、例えば熱分離法により、有機相の蒸留処理により、またはロータリーエバポレータ、流下膜式エバポレータもしくは薄膜エバポレータ中での有機相の処理により、行われ得る。熱分離法は、大気圧または準大気圧で実施され得る。熱分離法は、好ましくは準大気圧、例えばウォータージェットポンプ真空下またはオイルポンプ真空下で、好ましくは1ミリバール(絶対圧)未満の圧力で実施される。
【0048】
本発明による方法は、慣用の市販装置を用いて実施され得る。使用される装置は、例えばガラスまたは鋼、特にステンレス鋼(例えばV2AまたはV4A鋼)からなる装置であり得る。使用され得るものは、例えば、攪拌反応器を有するサーモスタットを介するジャケット温度制御装置または外部回路(ループ反応器)を介する温度制御装置を有するガラス製または金属製反応器、フラッシュ容器、分離漏斗および/または加圧濾過システムである。
【0049】
本発明による方法を使用して、ポリブタジエン、特に上記の本発明によるポリブタジエンを製造することができる。
【0050】
本発明によるポリブタジエンは、例えば、ゴム、合成ゴム、ゴムのリサイクルにおける、タイヤ、接着剤配合物、フレキソ印刷版、コーティング剤、コーティング組成物、コーティング剤成分の製造に使用でき、かつ可塑剤として使用できる。
【0051】
したがって、本発明による対応する組成物は、本発明によるポリブタジエン、または本発明によるポリブタジエンと他の化合物の転化生成物を含有するものである。
【0052】
本発明による好ましい組成物は、組成物に対する、組成物中に存在するポリブタジエンまたは転化生成物の製造に使用されたポリブタジエンの割合が、0.1~90重量%、好ましくは1~50%、特に好ましくは5~40重量%であるものである。
【0053】
さらに詳述しなくても、当業者であれば上記の説明を最大限に利用することができると考えられる。したがって、好ましい実施形態および実施例は、単に説明的な開示として解釈されるべきであり、それは決して限定的なものではない。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明の代替的実施形態は、同様にして得られる。
【0055】
実施例1:
5L容量の金属反応器中で、ベンゼン(980mL)、Co(2-エチルヘキサノエート)(1.48ミリモル)、トリフェニルホスファイト(3.03ミリモル)および水(27.6ミリモル)を混合した。
【0056】
窒素を使用して、反応容器内の圧力を3.5バールに高め、ブタジエン(11.85モル)を迅速に計量供給した。添加が完了した後、塩化ジエチルアルミニウム(29.51ミリモル)を添加し、反応混合物を4時間撹拌し、ジャケットクーラーとサーモスタットにより温度を約50℃に一定に保った。
重合を終了させるために、反応混合物を水(600mL)でクエンチし、残りのブタジエンを窒素でパージした。
【0057】
有機相を水相から分離し、濾過し、ロータリーエバポレータ上でまたは薄膜エバポレータにより、減圧下で、溶媒を除去した(p<1ミリバール、T=130℃)。
【0058】
実施例2:
5L容量の金属反応器中で、ベンゼン(982mL)、Co(2-エチルヘキサノエート)(2.01ミリモル)、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト(6.03ミリモル)、水(19.22ミリモル)およびエチルアルミニウムセスキクロリド(16.28ミリモル)を混合し、室温で10分間撹拌した。
【0059】
窒素を使用して、反応容器内の圧力を3.5バールに高め、ブタジエン(11.84モル)を2.4時間にわたり連続的に計量供給した。ジャケットクーラーを用いたサーモスタットを介した反応の過程で、反応混合物を約30℃の一定温度に保った。添加完了後、反応混合物をさらに5分間撹拌した。重合を終了させるために、反応混合物を水(1,000mL)でクエンチし、残りのブタジエンを窒素でパージした。
【0060】
有機相を水相から分離し、濾過し、ロータリーエバポレータ上でまたは薄膜エバポレータによって、減圧下で、溶媒を除去した(p<1ミリバール、T=130℃)。
【0061】
実施例3:
5L容量の金属反応器中で、ベンゼン(1,403mL)、Co(2-エチルヘキサノエート)(3.01ミリモル)、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト(10.22ミリモル)、水(24.81ミリモル)およびエチルアルミニウムセスキクロリド(27.15ミリモル)を混合し、室温で10分間撹拌した。
【0062】
窒素を使用して、反応容器内の圧力を3.5バールまで高め、ブタジエン(17.76モル)を3.5時間にわたって連続的に計量供給した。ジャケットクーラーを用いたサーモスタットを介した反応の過程において、反応混合物を約28℃の一定温度に保った。添加完了後、反応混合物をさらに20分間撹拌した。重合を終了させるために、反応混合物を水(1,500mL)でクエンチし、残りのブタジエンを窒素でパージした。
【0063】
有機相を水相から分離し、濾過し、そしてロータリーエバポレータ上で又は薄膜エバポレータによって、減圧下で、溶媒を除去した(p<1ミリバール、T=130℃)。
【0064】
比較例I:
5L容量の金属反応器中で、ベンゼン(1.933mL)、Co(2-エチルヘキサノエート)(3.91ミリモル)、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト(9.04ミリモル)、水(30.37ミリモル)およびエチルアルミニウムセスキクロリド(30.34ミリモル)を混合し、室温で10分間撹拌した。
【0065】
反応容器内の圧力を窒素により3.5バールまで高め、ブタジエン(23.13モル)を2.5時間にわたり連続的に添加した。ジャケットクーラーを用いた反応の経過において、反応混合物をサーモスタットを介して約20℃の一定温度に維持した。添加完了後、反応混合物をさらに20分間撹拌した。重合を終了させるために、反応混合物を水(1,250ml)でクエンチし、残りのブタジエンを窒素で追い出した。
【0066】
有機相を水相から分離し、濾過し、ロータリーエバポレータ上でまたは薄膜エバポレータで、真空中で、溶媒を除去した(p<1ミリバール、T=130℃)。
【0067】
比較例II:
5L容量の金属反応器中で、ベンゼン(1.942mL)、Co(2-エチルヘキサノエート)(3.91ミリモル)、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト(13.32ミリモル)、水(29.86ミリモル)およびエチルアルミニウムセスキクロリド(30.02ミリモル)を混合し、室温で10分間撹拌した。
【0068】
反応容器内の圧力を窒素により3.5バールまで高め、ブタジエン(23.12モル)を2.5時間にわたり連続的に添加した。反応中、ジャケットクーラーを用いた反応の過程において、反応混合物をサーモスタットを介して約45℃の一定温度に維持した。添加が完了した後、反応混合物をさらに20分間撹拌した。重合を終了させるために、反応混合物を水(1,250mL)でクエンチし、残りのブタジエンを窒素で追い出した。
【0069】
有機相を水相から分離し、濾過し、ロータリーエバポレータ上または薄膜エバポレータで、真空中で、溶媒を除去した(p<1ミリバール、T=130℃)。
【0070】
製造されたポリブタジエンのいくつかの特性は、上記のように測定された。結果を表1aに示す。
【0071】
【0072】
表1aから推測できるように、比較例によるポリブタジエンは、基本的な加工/適用に望ましい範囲からかなり外れた粘度を有している。
【0073】
実施例4:接着剤配合物の調製
接着剤配合物中の特性を調べるために、実施例1および2に従って、いくつかの反応バッチを実施し、混合し、薄膜エバポレータ上で残留溶媒を除去した。実施例4は、実施例1による6つの個々の実験を組み合わせたものからなり、実施例5は、実施例2による4つの個々の実験を組み合わせたものからなる。Synthomer社製の製品(LITHERNE(登録商標)PH)を使用した。調べた特性を表1bに示す。
【0074】
【0075】
表1aおよび1bから推論できるように、本発明に従って調製されたポリブタジエンは、高い1,4-シス含量と、低い1,4-トランス含量と、そして高い1,2-ビニル含量に基づく低い粘度と、によって特徴付けられる。
【0076】
表1aおよび1bに規定されているポリブタジエンのいくつかを接着剤配合物に使用し、参考としてのLITHENE(登録商標)PHと比較して試験した。この目的のために、ポリブタジエンを真空溶解機中で、ZnO、ステアリン酸、チョーク、タルク、硫黄、加硫促進剤等のこの用途に慣用されている同量の原料と混合した。試験した配合物の正確な組成を表2に記載する。
【0077】
【0078】
実施例5:接着剤配合物の試験
BAQ GmbH社製の機器・SHOREデジタルショアデュロメータAを用いて、23℃での加硫後16時間より長く経過した、直径50mm、厚さ6mmの試験片について、DIN53505-Aに準拠して、ショアA硬度を測定した。各試験片について、6つの異なる点で毎回測定を行った。規定されたショアA硬度は、個々の測定値の平均値である。
【0079】
引張強度および破断伸びについては、以下のように測定した:
規定された3mmの層厚を有するフィルムを作製し、170℃で30分間架橋した。当該フィルムから、幅15mmかつ長さ約20mmの実際の試験片を切り出した。Hegewald and Peschke社製の万能試験機検査表10kn-1EDC2/300W、TM Standardを用いて、引張試験を行った。DIN EN ISO 257に準拠して、クランプ長さ50mm、室温かつ5mm/分の試験速度で、試験を実施した。結果を表3に示す。
【0080】
【0081】
表3から分かるように、実施例5に基づく配合物2は、明らかに低い粘度と弾性挙動に対する改善された強度を有する。
【0082】
引張剪断強度は次のようにして測定した:
引張剪断強度を測定するために、配合物1~2を使用して、25×20mmの表面積を種々の基材上に接着し、170℃で30分間架橋した。
【0083】
Hegewald and Peschke社製の万能試験機検査表10kn-1EDC2/300W、TM Standardを用いて、引張剪断試験を行った。 DIN EN 1465に準拠して、室温かつ5mm/分の試験速度で、試験を実施した。結果を表4に示す:
【0084】
【0085】
試験の結果を表4に示す。本発明によるポリブタジエンの使用または本発明に従って調製されたポリブタジエンの使用は、上記の全ての基材に対し、先行技術による方法を使用して調製された参考物よりも良好な引張剪断強度をもたらす。