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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-10
(45)【発行日】2022-03-18
(54)【発明の名称】ステンレス鋼部品の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/50 20060101AFI20220311BHJP
   C23C 22/78 20060101ALI20220311BHJP
   C25F 3/24 20060101ALI20220311BHJP
【FI】
C23C22/50
C23C22/78
C25F3/24
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020074642
(22)【出願日】2020-04-20
(62)【分割の表示】P 2015208172の分割
【原出願日】2015-10-22
(65)【公開番号】P2020109217
(43)【公開日】2020-07-16
【審査請求日】2020-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(73)【特許権者】
【識別番号】509338994
【氏名又は名称】株式会社IHIインフラシステム
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】井合 雄一
(72)【発明者】
【氏名】赤嶺 健一
(72)【発明者】
【氏名】矢ヶ部 菜月
(72)【発明者】
【氏名】福島 憲明
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 剛
(72)【発明者】
【氏名】高遠 典宏
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/103703(WO,A1)
【文献】特開昭61-207600(JP,A)
【文献】特開平03-226599(JP,A)
【文献】特許第6694693(JP,B2)
【文献】特開平01-208484(JP,A)
【文献】特開2005-126743(JP,A)
【文献】特開2008-229803(JP,A)
【文献】特開平05-163600(JP,A)
【文献】特開2006-328516(JP,A)
【文献】特開昭62-060900(JP,A)
【文献】特開平04-180600(JP,A)
【文献】特開平07-185940(JP,A)
【文献】出口貴久ら,“ステンレス鋼の六価クロムフリー電解研磨技術の開発”,平成23年度 埼玉県産業技術総合センター研究報告,日本,埼玉県産業技術総合センター,2012年,Vol.10,pp.40-43
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25F 1/00-7/02
C23C 22/00-22/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼部品の処理方法であって、
前記ステンレス鋼部品は、溶接加工されたステンレス鋼部品であり、
前記ステンレス鋼部品の脱スケール処理は、
前記ステンレス鋼部品に対してグラインダ加工で機械研磨をする機械研磨工程と、
前記機械研磨したステンレス鋼部品を、塩化物からなる塩の電解質と、リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、酒石酸、フマル酸、コハク酸、フィチン酸、酢酸、アスコルビン酸及びイタコン酸の少なくとも1つからなるキレート錯体を形成する酸成分と、を含む電解液を用いてアノード電解して電解研磨する電解研磨工程と、を備え、
前記ステンレス鋼部品の不動態化処理は、
前記脱スケール処理したステンレス鋼部品を、酸化剤を含む酸性水溶液で不動態化処理することを特徴とするステンレス鋼部品の処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載のステンレス鋼部品の処理方法であって、
前記塩化物は、塩化ナトリウムであることを特徴とするステンレス鋼部品の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス鋼部品の脱スケール処理方法及び不動態化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼部品は、熱処理や溶接加工等により、ステンレス鋼部品の表面に酸化物からなるスケール(酸化被膜)が形成される。このスケールを除去するために、硝酸と弗酸との混酸等を用いた酸洗処理が行われている。酸洗処理では、通常、ステンレス鋼部品を、硝酸と弗酸との混酸等を溜めた専用の処理槽に浸漬させてスケールを除去する(例えば、特許文献1を参照)。また、耐食性を向上させるために、ステンレス鋼部品に対して脱スケールをした後に、不動態化処理が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平5-263279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ステンレス鋼部品の据付現場において、溶接加工等をすることにより、ステンレス鋼部品の表面にスケールが形成される場合がある。ステンレス鋼部品の据付現場では、酸洗処理をするための専用の処理槽を設けることが難しく、ステンレス鋼部品の脱スケール処理が困難となる可能性がある。
【0005】
そこで本発明の目的は、ステンレス鋼部品の据付現場においても、脱スケール処理をすることが可能なステンレス鋼部品の脱スケール処理方法及び不動態化処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るステンレス鋼部品の脱スケール処理方法は、前記ステンレス鋼部品に対して機械研磨をする機械研磨工程と、前記機械研磨したステンレス鋼部品を、電解質と、リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、酒石酸、フマル酸、コハク酸、フィチン酸、酢酸、アスコルビン酸及びイタコン酸の少なくとも1つからなる酸成分と、を含む電解液を用いてアノード電解して電解研磨する電解研磨工程と、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明に係るステンレス鋼部品の脱スケール処理方法において、前記電解質は、塩化物からなる塩であることを特徴とする。
【0008】
本発明に係るステンレス鋼部品の不動態化処理方法は、上記の前記ステンレス鋼部品の脱スケール処理方法により、前記ステンレス鋼部品に対して脱スケールをした後に、酸化剤を含む酸性水溶液で不動態化処理することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
上記構成によれば、酸洗処理のように専用の処理槽を設ける必要がないので、ステンレス鋼部品の据付現場においても、脱スケール処理をすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態において、ステンレス鋼部品の脱スケール処理方法の構成を示すフローチャートである。
図2】本発明の実施の形態において、電解研磨装置の構成を示す図である。
図3】本発明の実施の形態において、試験片の構成を示す図である。
図4】本発明の実施の形態において、塩化第二鉄腐食試験の試験結果を示すグラフである。
図5】本発明の実施の形態において、塩化第二鉄腐食試験の前後における外観観察結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は、ステンレス鋼部品の脱スケール処理方法の構成を示すフローチャートである。ステンレス鋼部品の脱スケール処理方法は、機械研磨工程(S10)と、電解研磨工程(S12)と、を備えている。
【0012】
機械研磨工程(S10)は、ステンレス鋼部品を機械研磨する工程である。
【0013】
ステンレス鋼部品は、オーステナイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼、オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、析出硬化型ステンレス鋼等で形成されている。これらのステンレス鋼は、Fe-Cr系合金、Fe-Cr-Ni系合金、Fe-Cr-Ni-Mo系合金、Fe-Cr-Ni-Mo―Cu系合金、Fe-Cr-Ni-Mn系合金等からなる。ステンレス鋼部品としては、例えば、水門、圧縮機等に用いられるインペラ、原子力設備部品等がある。
【0014】
機械研磨については、グラインダ加工等により行うことができる。ステンレス鋼部品の表面をグラインダ加工等で研磨することにより、熱処理や溶接加工等により生じた酸化物からなるスケール(酸化被膜)を除去することができる。グラインダ加工等には、一般的なディスクグラインダ等を用いることが可能である。
【0015】
電解研磨工程(S12)は、機械研磨したステンレス鋼部品を、電解質と、リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、酒石酸、フマル酸、コハク酸、フィチン酸、酢酸、アスコルビン酸及びイタコン酸の少なくとも1つからなる酸成分と、を含む電解液を用いてアノード電解して電解研磨する工程である。
【0016】
まず、電解研磨装置について説明する。図2は、電解研磨装置10の構成を示す図である。電解研磨装置10は、回転工具12と、直流電源14と、を備えている。回転工具12は、回転可能に形成される回転工具本体16と、回転工具本体16に設けられ、ウレタン等で形成される樹脂製パット18と、を有している。直流電源14は、回転工具12と、ステンレス鋼部品Wとに導線等で電気的接続されている。回転工具12は、負(-)側に接続されており、ステンレス鋼部品Wは、正極(+)側に接続されている。電解研磨装置10には、一般的な金属材料の電解研磨を行う電解研磨装置を用いることができる。
【0017】
次に、電解液Lについて説明する。電解液Lは、電解質と、リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、酒石酸、フマル酸、コハク酸、フィチン酸、酢酸、アスコルビン酸及びイタコン酸の少なくとも1つからなる酸成分と、を含んで構成されている。電解液Lは、例えば、電解質と、これらの酸成分と、溶媒とから構成される。
【0018】
電解質は、塩からなり、電解液Lの電気伝導性を高める機能を有している。電解質には、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム等の塩化物からなる塩や、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸カリウム等の硫化物からなる塩を用いることができる。電解質は、塩からなるので、弗酸等の強酸よりも環境負荷を低減することが可能となる。電解質を構成する塩には、一般に市販されているものを用いることができる。
【0019】
電解質には、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム等の塩化物からなる塩を用いるとよい。塩化物からなる塩は、電解液Lに塩化物イオンを生じさせることにより、ステンレス鋼部品Wの表面から鉄分(鉄イオン)を溶出し易くすることができる。
【0020】
酸成分は、リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、酒石酸、フマル酸、コハク酸、フィチン酸、酢酸、アスコルビン酸及びイタコン酸の少なくとも1つから構成されている。酸成分については、これらの酸を1つ用いてもよいし、複数の酸を混合して用いても良い。
【0021】
酸成分を構成するこれらの酸は、電解液LのpHを下げる(酸性にする)ことにより、ステンレス鋼部品Wの表面から鉄分(鉄イオン)を溶出する機能を有している。また、酸成分を構成するこれらの酸は、ステンレス鋼部品の表面の鉄分(鉄イオン)とキレート錯体を形成することにより、ステンレス鋼部品Wの表面の鉄分が溶解、除去されて、ステンレス鋼部品Wの表面のクロム分を濃縮する機能を有している。これにより、ステンレス鋼部品Wの表面が酸化されて不動態被膜が形成されたとき、不動態被膜中のクロム濃度が高くなるので、ステンレス鋼部品Wの耐食性を向上させることが可能となる。
【0022】
酸成分を構成するリンゴ酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、酒石酸、フマル酸、コハク酸、フィチン酸、酢酸、アスコルビン酸及びイタコン酸は、弱酸であることから、弗酸等の強酸よりも環境負荷を低減することが可能となる。これらの酸には、一般に市販されているものを用いることができる。
【0023】
電解液Lの溶媒には、脱イオン水、水道水等の水を用いることが可能である。電解液Lの溶媒に水を用いることにより、環境負荷を低減することができる。
【0024】
電解液Lに含まれる電解質と、酸成分と、溶媒との比率については、例えば、質量比で、電解質:酸成分:溶媒=1:1:3とするとよい。電解質と、酸成分と、溶媒との混合方法については、混合機等を用いた一般的な方法を適用可能である。
【0025】
電解液Lは、アルミナなどのセラミック粒子等からなる砥粒を含むようにしてもよい。電解液Lに含まれる砥粒により、ステンレス鋼部品Wの表面の研磨を促進することが可能となる。砥粒については、一般的に金属材料の電解砥粒研磨で使用されているものを適用可能である。
【0026】
電解液Lは、ステンレス鋼部品Wの表面に塗布するようにしてもよいし、回転工具12の樹脂製パット18に塗布するようにしてもよい。電解液Lは、ポンプ(図示せず)等により、ステンレス鋼部品Wの表面や、樹脂製パット18に供給するようにしてもよい。
【0027】
次に、電解研磨方法について説明する。ステンレス鋼部品Wの表面や、回転工具12の樹脂製パット18に電解液Lを塗布等した後に、回転工具12を回転させながら、樹脂製パット18をステンレス鋼部品Wの表面に当てて、アノード電解する。樹脂製パット18の押付圧は、例えば、5kPaから20kPaである。電流密度は、例えば、0.1A/cmから0.5A/cmである。機械研磨後に電解研磨を行うので、電流密度をより小さくすることができる。なお、電解研磨後には、ステンレス鋼部品Wを水洗、乾燥するとよい。電解研磨については、手加工等で行うことができるので、ステンレス鋼部品Wの据付現場でも容易に作業することができる。
【0028】
この電解研磨により、ステンレス鋼部品Wの表面から金属分(鉄分やクロム分等)が溶解し、残留しているスケールや、グラインダ加工等で形成された加工変質層等が除去される。また、電解研磨により、ステンレス鋼部品Wの表面が平滑化される。更に、電解液Lは、リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、酒石酸、フマル酸、コハク酸、フィチン酸、酢酸、アスコルビン酸及びイタコン酸の少なくとも1つからなり、鉄分(鉄イオン)とキレート錯体を形成する酸成分を含むことから、ステンレス鋼部品Wの表面の鉄分が溶解、除去されて、ステンレス鋼部品Wの表面にクロム分が濃縮される。このようにして、ステンレス鋼部品Wの脱スケール処理が行われる。
【0029】
次に、ステンレス鋼部品の不動態化処理方法について説明する。
【0030】
上記のステンレス鋼部品の脱スケール処理方法により脱スケール処理したステンレス鋼部品に、耐食性を向上させるために不動態化処理を行うとよい。脱スケール処理したステンレス鋼部品に不動態化処理を行うことにより、膜厚が厚いより強固な不動態皮膜を形成することができる。
【0031】
不動態化処理は、脱スケール処理したステンレス鋼部品に、過酸化水素、硝酸等の酸化剤を含む酸性水溶液を塗布する方法等により行うことができる。酸性水溶液の塗布により不動態化処理を行うことで、ステンレス鋼部品の据付現場でも容易に行うことができる。酸性水溶液を塗布する場合には、刷毛塗り等の一般的な塗布方法が適用可能である。
【0032】
酸化剤には、過酸化水素を用いることが好ましい。過酸化水素は、時間経過に伴って水と酸素とに分解するので、環境負荷の低減が可能となる。酸性水溶液に含まれる酸化剤の含有率は、例えば、0.1質量%以上10質量%以下とするとよい。酸性水溶液には、塗布し易いように、カルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガム、ペクチン等の増粘剤を添加するようにしてもよい。これらの酸化剤や増粘剤には、一般に市販されているものを用いることができる。
【0033】
このようにして、脱スケール処理したステンレス鋼部品の表面に、より強固な不動態皮膜が形成される。脱スケール処理したステンレス鋼部品の表面はクロム分が濃縮されていることから、不動態被膜中のクロム濃度が高くなるので、ステンレス鋼部品の耐食性を更に向上させることが可能となる。
【0034】
以上、上記構成のステンレス鋼部品の脱スケール処理方法によれば、ステンレス鋼部品を機械研磨した後に、電解研磨して脱スケール処理するので、酸洗処理のような専用の処理槽を設ける必要がない。これにより、ステンレス鋼部品の据付現場でも容易に脱スケール処理することができる。また、水門等の大型のステンレス鋼部品のように、処理槽に浸漬させることが難しい場合でも、容易に脱スケール処理することができる。更に、上記構成のステンレス鋼部品の脱スケール処理方法によれば、酸洗処理のように弗酸等の強酸を使用する必要がないことから、環境負荷を低減することが可能となる。
【0035】
上記構成のステンレス鋼部品の脱スケール処理方法によれば、電解研磨で用いる電解液に、リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、酒石酸、フマル酸、コハク酸、フィチン酸、酢酸、アスコルビン酸及びイタコン酸の少なくとも1つからなり、鉄分(鉄イオン)とキレート錯体を形成する酸成分を含むことから、ステンレス鋼部品の表面にクロム分を濃縮させることができる。
【0036】
上記構成のステンレス鋼部品の不動態化処理方法によれば、上記構成のステンレス鋼部品の脱スケール処理方法で脱スケール処理されたステンレス鋼部品に、酸化剤を含む酸性水溶液を用いて不動態化処理を行うので、ステンレス鋼部品の表面が酸化剤により酸化されて不動態被膜が形成されたとき、不動態被膜中のクロム濃度が高くなる。これにより、ステンレス鋼部品の耐食性を更に向上させることが可能となる。
【実施例
【0037】
ステンレス鋼部品を実施例1、比較例1から5の処理条件で処理し、耐食性を評価した。ステンレス鋼部品には、SUS304HP製の試験片を使用した。図3は、試験片の構成を示す図である。試験片の大きさについては、縦100mm、横60mm、板厚3.0mmとした。なお、試験片については各処理条件で処理した後に、耐食性を評価する試験対象箇所を除いてマスキングした。
【0038】
まず、実施例1の処理条件について説明する。試験片について、溶接焼けを模擬するために、大気中で熱処理し、スケール(酸化被膜)を形成した。熱処理条件については、600℃、1時間とした。熱処理した試験片をグラインダ加工により機械研磨した。
【0039】
次に、機械研磨をした試験片に対して、電解研磨をした。電解研磨装置には、図2に示す電解研磨装置と同様の構成のものを使用した。電解液には、20質量%の塩化ナトリウムと、20質量%のリンゴ酸と、60質量%の水とを混合した混合水溶液を用いた。電解研磨については、手作業で行い、電流密度を0.3A/cmとし、掃引速度を10cm/sとしてアノード電解した。電解研磨した試験片について、水洗、乾燥を行った。このようにして、試験片の脱スケール処理を行った。
【0040】
次に、脱スケール処理した試験片について、不動態化処理を行った。不動態化処理の処理液には、1質量%の過酸化水素と、増粘剤とを含むゲル状の過酸化水素水を用いた。脱スケール処理した試験片に、ゲル状の過酸化水素水を刷毛で塗布し、2時間乾燥させた。このようにして、脱スケール処理した試験片に不動態化処理を行った。
【0041】
次に、比較例1から5の処理条件について説明する。なお、比較例1から5の処理条件では、試験片の材質や形状については、実施例1の処理条件と同じである。
【0042】
比較例1の処理条件については、脱スケール処理や不動態化処理を行わずに未処理とした。
【0043】
比較例2の処理条件では、熱処理した後に、機械研磨を行った。熱処理と、機械研磨とについては、実施例1の処理条件と同じとした。なお、比較例2の処理条件は、実施例1の処理条件と、電解研磨及び不動態化処理を行っていない点で相違している。
【0044】
比較例3の処理条件では、熱処理した後に、中性電解研磨を行った。熱処理については、実施例1の処理条件と同じとした。中性電解研磨については、ケミカル山本製の中性塩電解液ピカ素#200を使用した。
【0045】
比較例4の処理条件では、熱処理した後に、機械研磨をし、機械研磨後に中性電解研磨を行った。熱処理と、機械研磨とについては、実施例1の処理条件と同じとした。中性電解研磨については、比較例3の処理条件と同じとした。
【0046】
比較例5の処理条件では、機械研磨をした後に、不動態化処理を行った。機械研磨と、不動態化処理とについては、実施例1の処理条件と同じとした。なお、比較例5の処理条件は、実施例1の処理条件と、電解研磨を行っていない点で相違している。
【0047】
次に、各処理条件で処理した試験片について、塩害環境を模擬した耐食性評価を行った。耐食性評価については、孔食促進試験として、JIS G 0578-2000のステンレス鋼の塩化第二鉄腐食試験方法に準拠して行った。具体的には、各処理条件で処理した試験片を、50℃、0.2mol/L塩酸酸性の20質量%塩化第二鉄溶液中に浸漬させて、試験片の腐食速度(単位面積当たりにおける浸漬時間に対する重量変化)を求めた。なお、塩化第二鉄腐食試験については、実施例1、比較例3、4の処理条件の試験片については2回実施し、比較例1、2、5の処理条件の試験片については1回実施した。また、塩化第二鉄腐食試験の前後において、各試験片の外観観察を行った。試験後の外観観察については、試験開始から2時間後と4時間後について実施した。
【0048】
図4は、塩化第二鉄腐食試験の試験結果を示すグラフである。図4のグラフでは、横軸に腐食速度を取り、縦軸に各処理条件を取り、各処理条件で処理した試験片の腐食速度を棒グラフで表している。
【0049】
比較例1の処理条件の腐食速度については、301.25(g/m・h)であり、比較例2の処理条件の腐食速度については、636.06(g/m・h)であり、比較例3の処理条件の腐食速度については、1回目が689.83(g/m・h)であり、2回目が995.17(g/m・h)であり、比較例4の処理条件の腐食速度については、1回目が644.13(g/m・h)であり、2回目が859.58(g/m・h)であり、比較例5の処理条件の腐食速度については、446.51(g/m・h)であった。これに対して実施例1の処理条件の腐食速度については、1回目が197.13(g/m・h)であり、2回目が263.25(g/m・h)であった。
【0050】
この塩化第二鉄腐食試験結果から、実施例1の処理条件の試験片が、最も耐食性に優れていた。実施例1の処理条件の試験片は、比較例1の処理条件である未処理の試験片よりも耐食性に優れていた。このように実施例1の処理条件の試験片は、SUS304の初期状態(自然酸化被膜が形成されている状態)よりも耐食性が優れていた。また、実施例1の処理条件の試験片は、比較例5の処理条件の試験片よりも耐食性が優れていたことから、電解研磨により、残留しているスケールや加工変質層が除去されると共に、試験片の表面にクロム分が濃縮したことにより耐食性が向上したと考えられる。なお、従来、ステンレス鋼部品の据付現場で行われている比較例2から4の処理条件については、いずれの処理条件も耐食性が低かった。
【0051】
図5は、塩化第二鉄腐食試験の前後における外観観察結果を示す図である。比較例1から5の処理条件の試験片については、試験経過後に、多数の孔食(黒い点)が認められた。また、比較例3、4での処理条件の試験片については、孔食(黒い点)の他に全面腐食も認められており、試験片の表面が荒れていた。これに対して実施例1の処理条件の試験片については、試験経過後においても、孔食(黒い点)が僅かに認められた程度であった。このように外観観察結果においても、実施例1の処理条件の試験片が、最も耐食性に優れていた。
【符号の説明】
【0052】
10 電解研磨装置
12 回転工具
14 直流電源
16 回転工具本体
18 樹脂製パット
図1
図2
図3
図4
図5