(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-10
(45)【発行日】2022-03-18
(54)【発明の名称】権利移転完結型電子帳簿サーバ、及び権利移転完結型電子帳簿システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 20/40 20120101AFI20220311BHJP
G06Q 40/04 20120101ALI20220311BHJP
H04L 9/32 20060101ALI20220311BHJP
【FI】
G06Q20/40 300
G06Q40/04
H04L9/32 200Z
(21)【出願番号】P 2020124454
(22)【出願日】2020-07-21
【審査請求日】2020-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】397041185
【氏名又は名称】三菱UFJ信託銀行株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100141025
【氏名又は名称】阿久津 勝久
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 達哉
【審査官】大野 朋也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/067603(WO,A1)
【文献】特開2020-046975(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0205881(US,A1)
【文献】国際公開第2020/008658(WO,A1)
【文献】特表2018-521437(JP,A)
【文献】特開2001-306799(JP,A)
【文献】特表2011-520191(JP,A)
【文献】特表2019-516274(JP,A)
【文献】「ST研究コンソーシアム」の設立およびブロックチェーンを活用した次世代金融取引サービスの開発について,[online],2019年11月07日,pp.1-3,https://www.tr.mufg.jp/ippan/release/pdf_mutb/191107_1.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
H04L 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セキュリティトークン(ST)の名義の移転を含む電子帳簿を管理する電子帳簿システムであって、
前記STのトランザクション(Tx)を管理するブロックチェーン・ネットワーク(BCN)と、
前記Txに含まれる前記STの名義の移転を検証する制御部、及び前記STの名義の移転を記憶する記憶部を有する、電子帳簿サーバとを備え、
前記電子帳簿サーバの前記制御部は、
前記STを移転する前記Txについて、前記STの移転元秘密鍵署名、及び前記STの移転先秘密鍵署名に関して前記検証を実行し、前記STの名義の移転が前記検証によって適正と判断されると、前記記憶部に前記STの名義の移転を記憶するとともに、前記BCN上で前記STの名義を移転する、電子帳簿システム。
【請求項2】
請求項1に記載の電子帳簿システムであって、
前記STの名義の移転元であり、前記Txを作成し前記STの名義を移転するために移転元秘密鍵で署名する制御部を備える移転元サーバと、
前記STの名義の移転先であり、前記STの名義を移転するために移転先秘密鍵で署名する制御部を備える移転先サーバとを備える、電子帳簿システム。
【請求項3】
請求項2に記載の電子帳簿システムであって、
前記電子帳簿サーバ、前記移転先サーバ、及び前記移転元サーバは、それぞれ前記BCNのノードを備える、電子帳簿システム。
【請求項4】
請求項1に記載の電子帳簿システムであって、
前記STの移転元に代わって、前記STの名義を移転するための前記Txを作成する制御部を有するカストディアン・サーバを備える、電子帳簿システム。
【請求項5】
請求項4に記載の電子帳簿システムであって、
前記カストディアン・サーバは、前記STの移転元秘密鍵、前記STの移転先秘密鍵を有する記憶部を備え、
前記カストディアン・サーバの前記制御部は、前記STの名義を移転する際、前記移転元秘密鍵及び前記移転先秘密鍵を用いて署名する、電子帳簿システム。
【請求項6】
請求項5に記載の電子帳簿システムであって、
前記電子帳簿サーバ、及び前記カストディアン・サーバは、それぞれ前記BCNのノードを備える、電子帳簿システム。
【請求項7】
請求項4~
6のいずれか一項に記載の電子帳簿システムであって、
前記STの名義の移転元である移転元サーバと、
前記STの名義の移転先である移転先サーバとを備える、電子帳簿システム。
【請求項8】
請求項
7に記載の電子帳簿システムであって、
前記移転先サーバ、及び前記移転元サーバは、それぞれ前記BCNのノードを備えていない、電子帳簿システム。
【請求項9】
請求項4~
8のいずれか一項に記載の電子帳簿システムであって、
前記カストディアン・サーバの前記記憶部は、投資家の端末装置に係る投資家秘密鍵を有する、電子帳簿システム。
【請求項10】
請求項
9に記載の電子帳簿システムであって、
前記カストディアン・サーバの前記制御部は、前記投資家が前記STの名義の移転元及び/又は移転先である場合、前記Txに前記投資家秘密鍵を用いて署名する、電子帳簿システム。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか一項に記載の電子帳簿システムであって、
前記STは譲渡の成立条件として前記検証によって適正と判断されることを必要とする受益証券発行信託の受益権(受益証券)であり、前記電子帳簿は当該受益証券発行信託の受益権原簿の電磁的記録である、電子帳簿システム。
【請求項12】
セキュリティトークン(ST)の名義の移転を含む電子帳簿を管理する電子帳簿サーバであって、
前記電子帳簿サーバは、前記STのトランザクション(Tx)を管理するブロックチェーン・ネットワーク(BCN)に接続され、
前記電子帳簿サーバは、前記Txに含まれる前記STの名義の移転を検証する制御部、及び前記STの名義の移転を記憶する記憶部を有し、
前記制御部は、
前記STを移転する前記Txについて、前記STの移転元秘密鍵署名、及び前記STの移転先秘密鍵署名に関して前記検証を実行し、前記STの名義の移転が前記検証によって適正と判断されると、前記記憶部に前記STの名義の移転を記憶するとともに、前記BCN上で前記STの名義を移転する、電子帳簿サーバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セキュリティトークン(ST)に関する電子帳簿を管理する電子帳簿サーバ、及び電子帳簿システムに関する。より詳細に、本発明は、ブロックチェーンを用いて、有価証券に基づくSTに関する電子帳簿を管理する電子帳簿サーバ、及び電子帳簿システムに関する。
【背景技術】
【0002】
STには、暗号資産のように電子的記録(ブロックチェーン)自体に価値があると信じられ、価値の裏付けとなる資産が存在しない形態である「デジタルアセット」で、且つ収益分配のある第1のSTと、何らかの裏付資産が存在し、電子的記録(ブロックチェーン)は裏付資産に係る保有残高等を表象する「デジタル化アセット」としての第2のSTとが存在し得る。
【0003】
第1のSTは、例えば、ブロックチェーンを用いた分散型サービスに対するエクイティ持分を規定することができる。第1のSTは、サービスが生み出す利用料等を一定の計算により持分保有者に分配することができる。第2のSTは、例えば、一般的な証券化スキームであるGK-TKスキームにおいて、TK出資持分をST化し、証券化の対象となった原資産が生み出すキャッシュを、TKの配当として分配することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
デジタル化アセットとしての第2のSTは、「ブロックチェーン記録内容と法律上の権利状態との乖離」に関する第1の観点、及び「第三者対抗要件」に関する第2の観点について、問題点が生じえる。また、デジタルアセットとしての第1のSTは「倒産隔離」に関する第3の観点について、問題点が生じえる。
【0005】
第1の観点として、第2のSTは、財産的価値の移転(権利者や権利数を電子的に記録した電子帳簿の書換え)と権利の移転の一連性とについて、次の問題点が生じえる。即ち、譲渡は新旧債務者間の合意で成立するため、第2のSTに対するTK出資持分が、民法上の指名債権に該当するとすれば、2020年4月施行の改正民法により譲渡制限は無効となるため、第2のSTを管理する管理システム外で異例譲渡が生じえる。したがって、第2のSTに対しては、管理システムの電子帳簿記録内容と、法律上の権利状態とが乖離する虞が生じえる。
【0006】
次に、第2の観点として、第2のSTは、第三者対抗要件について、次のような問題点が生じる。第2のSTの移転の際、確定日付ある書面による債務者への通知又は承諾が必要となるが、確定日付は電子化されておらず、公証人役場での発行が必要なため、第2のSTを管理する管理システムで完結しない。したがって、GK-TKスキームのST化(第2のST)において、第三者にも対抗可能な状態で権利を移転するためには管理システム外の手続を要し、電子帳簿記録内容と、法律上の権利状態とが乖離する虞が生じえる。
【0007】
最後に、第3の観点として、第1のSTは、倒産隔離について、次の問題点が生じる。第1のSTの所有者は、エクイティ持分の対象となる分散型サービス提供者(即ち発行体)の倒産リスクを負う場合が多いと考えられる。したがって、デジタルアセットとして第1のSTは、第1のSTの発行体の倒産リスクからの遮断が図られていないため、投資家の権利保全が不十分となっている。
【0008】
そこで、本発明は、ブロックチェーンを用いつつ、STに対するブロックチェーンの記録内容と法律上の権利実態が常に一致し、且つ発行体の倒産リスクからも隔離可能な、投資家の権利の保全と安定性の確保ができる、電子帳簿サーバ、及び電子帳簿システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電子帳簿サーバ、及び電子帳簿システムの各態様は、次の通りである。
(態様1)
セキュリティトークン(ST)の名義の移転を含む電子帳簿を管理する電子帳簿システムであって、
前記STのトランザクション(Tx)を管理するブロックチェーン・ネットワーク(BCN)と、
前記Txに含まれる前記STの名義の移転を検証する制御部、及び前記STの名義の移転を記憶する記憶部を有する、電子帳簿サーバとを備え、
前記電子帳簿サーバの前記制御部は、前記STの名義の移転が前記検証によって適正と判断されると、前記記憶部に前記STの名義の移転を記憶するとともに、前記BCN上で前記STの名義を移転する、電子帳簿システム。
【0010】
(態様2)
態様1に記載の電子帳簿システムであって、
前記STの名義の移転元であり、前記Txを作成し前記STの名義を移転するために移転元秘密鍵で署名する制御部を備える移転元サーバと、
前記STの名義の移転先であり、前記STの名義を移転するために移転先秘密鍵で署名する制御部を備える移転先サーバとを備える、電子帳簿システム。
(態様3)
態様2に記載の電子帳簿システムであって、
前記電子帳簿サーバ、前記移転先サーバ、及び前記移転元サーバは、それぞれ前記BCNのノードを備える、電子帳簿システム。
(態様4)
態様1に記載の電子帳簿システムであって、
前記STの移転元に代わって、前記STの名義を移転するための前記Txを作成する制御部を有するカストディアン・サーバを備える、電子帳簿システム。
【0011】
(態様5)
態様4に記載の電子帳簿システムであって、
前記カストディアン・サーバは、前記STの移転元秘密鍵、前記STの移転先秘密鍵を有する記憶部を備え、
前記カストディアン・サーバの前記制御部は、前記STの名義を移転する際、前記移転元秘密鍵及び前記移転先秘密鍵を用いて署名する、電子帳簿システム。
(態様6)
態様5に記載の電子帳簿システムであって、
前記電子帳簿サーバ、及び前記カストディアン・サーバは、それぞれ前記BCNのノードを備える、電子帳簿システム。
(態様7)
態様2、3、5、又は6に記載の電子帳簿システムであって、
前記電子帳簿サーバの前記制御部は、前記移転元秘密鍵及び前記移転先秘密鍵の検証を実行する、電子帳簿システム。
【0012】
(態様8)
態様7に記載の電子帳簿システムであって、
前記電子帳簿サーバの前記制御部は、前記移転元秘密鍵及び前記移転先秘密鍵が前記検証によって適正と判断されると、前記電子帳簿サーバの前記記憶部に前記STの名義の移転を記憶するとともに、前記BCN上で前記STの名義を移転する、電子帳簿システム。
(態様9)
態様4~8のいずれか一項に記載の電子帳簿システムであって、
前記STの名義の移転元である移転元サーバと、
前記STの名義の移転先である移転元サーバとを備える、電子帳簿システム。
(態様10)
態様9に記載の電子帳簿システムであって、
前記移転先サーバ、及び前記移転元サーバは、それぞれ前記BCNのノードを備えていない、電子帳簿システム。
【0013】
(態様11)
態様4~10のいずれか一項に記載の電子帳簿システムであって、
前記カストディアン・サーバの前記記憶部は、投資家の端末装置に係る投資家秘密鍵を有する、電子帳簿システム。
(態様12)
態様11に記載の電子帳簿システムであって、
前記カストディアン・サーバの前記制御部は、前記投資家が前記STの名義の移転元及び/又は移転先である場合、前記Txに前記投資家秘密鍵を用いて署名する、電子帳簿システム。
(態様13)
態様1~12のいずれか一項に記載の電子帳簿システムであって、
前記STは譲渡の成立条件として前記検証によって適正と判断されることを必要とする受益証券発行信託の受益権(受益証券)であり、前記電子帳簿は当該受益証券発行信託の受益権原簿の電磁的記録である、電子帳簿システム。
【0014】
(態様14)
セキュリティトークン(ST)の名義の移転を含む電子帳簿を管理する電子帳簿サーバであって、
前記電子帳簿サーバは、前記STのトランザクション(Tx)を管理するブロックチェーン・ネットワーク(BCN)に接続され、
前記電子帳簿サーバは、前記Txに含まれる前記STの名義の移転を検証する制御部、及び前記STの名義の移転を記憶する記憶部を有し、
前記制御部は、前記STの名義の移転が前記検証によって適正と判断されると、前記記憶部に前記STの名義の移転を記憶するとともに、前記BCN上で前記STの名義を移転する、電子帳簿サーバ。
【発明の効果】
【0015】
本発明の電子帳簿サーバ、及び電子帳簿システムは、電子帳簿の記録内容(STの名義の移転の記録)と法律上の権利実態が常に一致することで、他のST化の仕組みでは実現が難しい投資家の権利の保全と安定性の確保が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る電子帳簿システムを含む構成図である。
【
図2】本発明の第2の実施形態に係る電子帳簿システムを含む構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の各実施形態に係る電子帳簿システムを、図面を参照しつつ説明する。本発明の各実施形態は、信託財産に基づく受益証券発行信託の受益権(受益証券)をSTとして移転することを前提とする。
【0018】
[第1の実施形態]
第1の実施形態に係る電子帳簿システム1000の構成を、
図1を用いて説明する。電子帳簿システム1000は、信託財産の委託者(当初受益者)が管理するAサーバ200と、信託財産に基づく受益証券発行信託に関する受託者が管理するBサーバ100と、受益証券発行信託の受益権(受益証券)(金融商品)の取引業者が管理するDサーバ300と、ブロックチェーン・ネットワーク(BCN)400とから構成される。
【0019】
Bサーバ(電子帳簿サーバ)100は、Aサーバ200やDサーバ300との通信及びSTを管理する制御部110と、記憶部120と、BCN400に含まれるBノード130と、Bサーバ100が管理するSTに用いるBアドレスとを備えている。記憶部120は、受益権原簿データベースの一部を構成するB内部データベース122を備えている。
【0020】
Aサーバ200は、Bサーバ100やDサーバ300との通信及びSTを管理する制御部210と、記憶部220と、BCN400に含まれるAノード230と、Aサーバ200が有するSTに用いるAアドレスとを備えている。記憶部220は、受益権原簿データベース(電子帳簿)の一部を構成するA内部データベース222と、A自己持分のSTに関するA秘密鍵とを備えている。
【0021】
Dサーバ300は、Bサーバ100やAサーバ200との通信及びSTを管理する制御部310と、記憶部320と、BCN400に含まれるDノード330とを備えている。記憶部320は、受益権原簿データベースの一部を構成するD内部データベース322と、D自己持分のSTに関するD秘密鍵と、後述するE秘密鍵(投資家1)及びF秘密鍵(投資家2)と、Dサーバ300が有するSTに用いるDアドレスと、E端末装置500及びF端末装置600がそれぞれ有するSTに用いるEアドレス(投資家1)及びFアドレス(投資家2)とを備えている。さらに、Dサーバ300は、少なくとも、投資家1が管理するE端末装置500及び投資家2が管理するE端末装置500と、それぞれ通信可能に接続されている。
【0022】
次に電子帳簿システム1000における処理を説明する。最初に、ステップS100に先立って、信託財産の受託者(Bサーバ100の管理者)は、委託者(Aサーバ200の管理者)との間で、BCN400上の秘密鍵による署名・検証を譲渡条件とした受益証券発行信託に関する信託契約を締結する。次いで、信託契約の締結後、ステップS100で、Bサーバ100の制御部110は、BCN400で流通するSTの新規発行(Mint)を、Bノード130を介して実行する。ステップS100の具体的な処理として、制御部110は、BCN400及び内部データベース122上に、受益権原簿データベースを作成し、Aアドレス宛に新規STを生成(発行)する。
【0023】
ステップS101で、Aサーバ200の制御部200は、Aサーバ100からDサーバ300に対してSTを移転(金融商品取引業者(Dサーバ300の管理者)による引受)するために、ST移転のためのトランザクション(Tx)をAノード230を介して作成する。なお、Txは、BCN400上でSTを移転(名義と残高の書換)する際の処理を示し、Txが、BCN400上の受益権原簿データベースに対応する。
【0024】
ステップS102で、Aサーバ200の制御部210は、Aサーバ200からDサーバ300にSTを移転するためのTxにA秘密鍵で、Aノード230を介して署名する。
【0025】
ステップS103で、Dサーバ300の制御部310は、Aサーバ200からDサーバ300にSTを移転するためのTxに対して、D秘密鍵で、Dノード330を介して署名する。
【0026】
ステップS103の完了後、ステップS104で、Bサーバ100の制御部110は、S102及びS103で実行されたSTを移転するTxに対して、移転内容、A秘密鍵署名(移転元の秘密鍵署名)、及びD秘密鍵署名(移転先の秘密鍵署名)に関して、検証を実行する。検証によって、移転内容、A秘密鍵署名、及びD秘密鍵署名が適正と判断されると、Tx(移転内容)をB内部データベース122に取り込む。
【0027】
ステップS105で、Bサーバ100の制御部110は、取り込まれたTxに基づき受益権原原簿データベース(BCN400の新規Tx及びB内部DB122)を更新する。S106で、Bサーバ100の制御部110は、検証後適正とされたTxに基づき、移転先(Dサーバ300)のDアドレスにSTを移転する。なお、BCN400のTxの移転に伴い、Aサーバ200の制御部210は、Txに基づきAサーバ200のA内部データベース222を更新し、Dサーバ300の制御部310は、Txに基づきDサーバ300のD内部データベース322を更新する。
【0028】
次に、Dサーバ300が、Dサーバ300(Dアドレス)に移転されたSTを投資家との間で売買する際の処理(プライマリ取引、セカンダリ取引)を説明する。プライマリ取引は、DサーバがSTを売り、E端末装置500がSTを買うものとする。
【0029】
プライマリ取引では、ステップS107で、E端末装置500は、BCN400を介さずに、通常の通信回線を介してDサーバ300に対して、STの買いを要求し、Dサーバ300は自己が有するSTの売りを認めると約定が成立し、ステップS109に移行する。なお、プライマリ取引では、ステップS108は実行されない。ステップS109で、Dサーバ300の制御部310は、Dサーバ300が名義を有するSTを、E端末装置500の名義として移転するためのTxを作成する。さらに、プライマリ取引の場合、S110で、Dサーバ300の制御部310は、Dサーバ300が有するSTの名義をE端末装置500に移転するためのTxに対して、D秘密鍵及びE秘密鍵を用いて、Dノード330を介してBCN400上で署名する。
【0030】
次に、セカンダリ取引では、ステップS107で、E端末装置500は、BCN400を介さずに、通常の通信回線を介してDサーバ300に対して、STの買いを要求し、ステップS108で、F端末装置600は、BCN400を介さずに、通常の通信回線を介してDサーバ300に対して、STの売りを要求する。この売買が一致すると約定が成立し、ステップS109に移行する。ステップS109で、Dサーバ300の制御部310は、E端末装置500が名義を有するSTを、F端末装置600の名義として移転するためのTxを、Dノード330を介してBCN400上で作成する。次に、ステップS010で、Dサーバ300の制御部310は、E端末装置500が有するSTの名義をF端末装置600に移転するためのTxに対して、E秘密鍵及びF秘密鍵を用いて、Dノード330を介してBCN400上で署名する。
【0031】
その後の処理は、プライマリ取引及びセカンダリ取引ともに共通し、ステップS111に移行する。Bサーバ100の制御部110は、前述したステップS104からS106とそれぞれ同じ処理であるステップS111からS113の処理を、順に実行する。
【0032】
以上説明したように、第1の実施形態において、Aサーバ200、Bサーバ100、及びCサーバ300は、STの移転スキーム(移転及び名義変更)に直接参加するため、それぞれがBCN400上のノード230、130、及び330を具備する。それぞれのサーバ200、100、300は、電子帳簿としての受益権原簿データベース(Tx及び各内部データベース222、122、322)にアクセス可能とし、Aサーバ200は当初受益者としてST発行時に得るSTを移転するためのA秘密鍵を管理する。Dサーバ300は、自己持分のSTを移転するためのD秘密鍵、及び投資家1及び2持分のSTを移転するためのE秘密鍵及びF秘密鍵を管理する。
【0033】
STの移転時は、移転元STを保有するAサーバ200又はDサーバ300(移転元サーバ)がTxを作成し、移転元秘密鍵で署名し、移転先STを管理するDサーバ300(移転先サーバ)も移転先秘密鍵で署名した上で、Bサーバ100がTx及び署名内容を検証した後、STを移転する。STは当該検証を譲渡の成立要件とした受益証券発行信託の受益権(受益証券)を表象したものであり、且つ当該ST移転結果は第三者への対抗要件となる受益権原簿の内容と同値のため、第1の実施形態に係る電子帳簿システム1000は、電子帳簿の書換と法律上の権利移転とを一連で処理することができる。
【0034】
[第2の実施形態]
第2の実施形態に係る電子帳簿システム2000の構成を、
図2を用いて説明する。なお、第2の実施形態において、第1の実施形態と同一部分には、同一の符号を付し、説明を適宜省略する。電子帳簿システム2000は、Aサーバ200、Bサーバ100、Dサーバ300、BCN400に加えて、STの管理等を実行するCサーバ(カストディアン・サーバ)700を備える。なお、本実施形態におけるCサーバ700は、Aサーバ200及びDサーバ300に代わって、STを移転するためのTxの作成、及び秘密鍵による署名等といった、STの管理を行う。
【0035】
Cサーバ700は、Bサーバ100やDサーバ300との通信及びSTを管理する制御部710と、記憶部720と、BCN400に含まれるCノード730と、Aサーバ200及びDサーバ300がそれぞれ有するSTに用いるAアドレス及びDアドレスとを備えている。記憶部720は、受益権原簿データベースの一部を構成するC内部データベース722と、A持分のSTに関するA秘密鍵と、D持分のSTに関するD秘密鍵と、E持分のSTに関するE秘密鍵と、F持分のSTに関するF秘密鍵とを備えている。
【0036】
電子帳簿システム2000において、Aサーバ200及びDサーバ200がBCN400上のノードを有さないため、Aサーバ200及びDサーバ200はTx作成(BCN400)に関係する処理に直接関与しない。換言すれば、電子帳簿システム2000において、Bサーバ100及びCサーバがそれぞれBノード120及びCノード730を有するため、Bサーバ100及びCサーバのみで、Tx作成及び秘密鍵署名(BCN400)に関係する処理を実行することができる。
【0037】
次に電子帳簿システム2000における処理を説明する。最初に、ステップS200に先立って、信託財産の受託者(Bサーバ100の管理者)は、委託者(Aサーバ200の管理者)との間で、受益証券発行信託に関する信託契約を締結する。次いで、信託契約の締結後、ステップS200で、Bサーバ100の制御部110は、BCN400で流通するSTの新規発行(Mint)を、Bノード130を介して実行する。ステップS200における具体的な処理として、制御部110は、受益権原簿データベースを作成し、Aアドレス宛に新規STを生成する。
【0038】
次に、Dサーバ300における、STの引受、プライマリ取引、及びセカンダリ取引を、順に説明する。初めに、ステップS201において、ST移転指図が引受の場合、Aサーバ200側がSTの売りとなり、DサーバがSTの買いとなる。ステップS201で、Dサーバ300の制御部310は、Cサーバ700に対して、ST移転指図(引受)を、BCN400を介さずに、通常の通信回線を介して送信し、これをCサーバ700が受け入れるとステップS202に移行する。ステップS202で、Cサーバ700の制御部710は、Cサーバ700が管理するAサーバ200のSTを、Dサーバ300の名義として移転する(書き換える)ためのTxを作成する。
【0039】
ステップS203で、Cサーバ700の制御部710は、A秘密鍵を用いて、Aサーバ200からDサーバ300にSTの名義を移転するTxに署名する。ステップS204で、Cサーバ700の制御部710は、D秘密鍵を用いて、Aサーバ200からDサーバ300にSTを移転するTxに署名し、ステップS205に移行する。
【0040】
Bサーバ100の制御部110は、ステップS205~S207の処理を実行する。ステップS205~S207の処理は、それぞれステップS104~S106の処理と同じである。
【0041】
次に、プライマリ取引の処理を説明する。プライマリ取引の場合、Dサーバ300側がSTの売りとなり、E端末装置500側がSTの買いとなる。初めに、ステップS208で、E端末装置500は、BCN400を介さずに、通常の通信回線を介してDサーバ300に対して、STの買いを要求し、Dサーバ300はこれを受け入れて約定が成立し、ステップS210に移行する。なお、プライマリ取引では、ステップS209は実行されない。
【0042】
ステップS210で、Dサーバ300の制御部310は、Cサーバ700に対して、ST移転指図(プライマリ)を、BCN400を介さずに、通常の通信回線を介して送信する。ステップS211で、Cサーバ700の制御部710は、Cサーバ700が管理するDサーバ300のSTを、E端末装置500の名義として移転する(書き換える)ためのTxを作成する。
【0043】
ステップS212で、Cサーバ700の制御部710は、D秘密鍵を用いて、Dサーバ300からE端末装置700にSTの名義を移転する(書き換える)Txに署名する。さらに、ステップS212で、Cサーバ700の制御部710は、E秘密鍵を用いて、Dサーバ300からE端末装置700にSTの名義を移転する(書き換える)Txに署名し、後述するステップS213に移行する。
【0044】
最後に、セカンダリ取引の処理を説明する。セカンダリ取引の場合、E端末装置500側がSTの売りとなり、F端末装置600側がSTの買いとなる。セカンダリ取引では、ステップS208で、E端末装置500は、BCN400を介さずに、通常の通信回線を介してDサーバ300に対して、STの買いを要求し、ステップS208で、F端末装置600は、BCN400を介さずに、通常の通信回線を介してDサーバ300に対して、STの売りをDサーバ300に対し要求すると、約定が成立し、ステップS210に移行する。
【0045】
ステップS210で、Dサーバ300の制御部310は、Cサーバ700に対して、ST移転指図(セカンダリ)を、BCN400を介さずに、通常の通信回線を介して送信する。ステップS212で、Cサーバ700の制御部710は、Cサーバ700が管理するE端末装置500のSTの名義を、F端末装置600に移転する(書き換える)ためのTxを作成する。
【0046】
ステップS212で、Cサーバ700の制御部710は、E端末装置500からF端末装置600にSTの名義を移転する(書き換える)Txに、E秘密鍵を用いて署名する。さらに、ステップS212で、Cサーバ700の制御部710は、E端末装置500からF端末装置600にSTを移転する(STの名義を書き換える)Txに、F秘密鍵を用いて署名し、後述するステップS213に移行する。
【0047】
その後の処理は、プライマリ取引及びセカンダリ取引ともに共通し、Bサーバ100の制御部110は、前述したステップS104からS106とそれぞれ同じ処理であるステップS213からS215の処理を、順に実行する。
【0048】
以上説明したように、第2の実施形態は、第1の実施形態におけるAサーバ200、Dサーバ300が秘密鍵管理を委託する先として、Cサーバ700を用いる場合である。Cサーバ700は、Aサーバ200が当初受益者として発行時に得るSTを移転するためのA秘密鍵、Dサーバ300の自己分のD秘密鍵及び投資家のE及びF秘密鍵を、Cサーバ700上で管理する。
【0049】
第2の実施形態において、ST移転時に必要な、移転元のST保有者のTx作成、移転元及び移転先のST保有者の署名をCサーバ700が実施するとともに、Bサーバ100は、第1の実施形態と同様に電子帳簿の書換を行う。
【0050】
[ST移転Txの、内容及び署名に対する、検証及び取込等の具体例]
第1及び第2の実施形態では、好ましくは、BCN400として「Corda」を利用するが、これに限定されず、他のBCN、例えば、「Hyperledgerプロジェクト」、又は「Quorum」を用いることもできる。以下、「Corda」を前提として、ステップS104(S111、S205、S213も同じ)の処理を詳細に説明する。
【0051】
Bサーバ100(Bノード130)は、「Corda」における、(i)Asset Node及び(ii)Non-Validating Notaryの役割を果たす。(i)及び(ii)の権限は以下のとおりである。
(i)Asset Nodeは、自らが受託者となっているTxについて、Tx内容(input/outputのstate(状態データ)内容)を、参照・検証・更新することが可能である。
(ii)Non-Validating Notaryは、Txの内容自体は参照できないが、二重消費有無を検証することが可能である。
【0052】
ステップS104等の検証及び取込として、次の第1の処理~第4の処理が実行される。
第1の処理として、(i)Asset Node側として、不正な移転(=不正な状態遷移)をしていないかの検証を実行する。具体的に、無から有を生んでいないか、宛先は1人以上か、必要な署名は集まっているかを検証する。
第2の処理として、(ii)Non-Validating Notary側として、二重消費がないかの検証を実行する。具体的には、Txのハッシュ値をとり、これまでに重複したハッシュ値がないかを検証する。
第3の処理として、(i)Asset Node側として、(ii)Non-Validating Notaryによる検証済のTxを取込む(自身のデータ内容を更新する)。
第4の処理として、(i)Asset Node側として、他のノードに対して、(ii)Non-Validating Notaryによる検証済のTxを配布する。
【0053】
[まとめ]
本発明の第1及び第2の実施形態において、受益権原簿データベース(電子帳簿)は、BCN400と、少なくともBサーバ100のB内部データベース122とから構成される。なお、好ましくは、本発明の第1の実施形態において、受益権原簿データベース(電子帳簿)は、BCN400と、Bサーバ100のB内部データベース122と、Aサーバ200のA内部データベース222と、Dサーバ300のD内部データベース322とから構成される。また、好ましくは、本発明の第2の実施形態において、受益権原簿データベース(電子帳簿)は、BCN400と、Aサーバ200のA内部データベース222と、Bサーバ100のB内部データベース122と、Dサーバ300のD内部データベース322と、Cサーバ700のC内部データベース722とから構成される。
【0054】
受益権原簿データベースは、「譲渡制限」付の「受益証券発行信託」の受益権原簿に係る電磁的記録となる。なお、「譲渡制限」に関しては、信託契約上、譲渡の成立には「受託者サーバによるST移転Txの内容の検証及び取込」を要することを予め定めている。「受益証券発行信託」は、信託法上、受益権原簿が第三者への対抗要件として機能する。なお、本発明の第1及び第2の実施形態において、STは、Bサーバ100の制御110部によって、譲渡の成立条件として検証によって適正と判断されることを必要とする受益証券発行信託の受益権(受益証券)であり、電子帳簿(B内部データベース122)は当該受益証券発行信託の受益権原簿の電磁的記録である。
【0055】
第1及び第2の実施形態に係る電子帳簿システムは、受益証券発行信託の受益権原簿データベースとしてBCN400(Tx)を利用し、受益権をST化する。ST化の処理上、譲渡成立にはBCN400を利用した電子帳簿書換を必須とし、帳簿内容は法律上の権利実態と一致することとなる。
【0056】
加えて、第1及び第2の実施形態に係る電子帳簿システムは、電子帳簿の記録自体が対抗要件も備え、且つ信託での倒産隔離も図られることで、投資家の権利保全が可能となる。より詳細には、第1及び第2の実施形態に係る電子帳簿システムは、受益証券発行信託の受益権原簿データベースとしてBCN400上のTxを電子帳簿として利用し、受益権をST化する。さらに、第1及び第2の実施形態に係る電子帳簿システムは、利用者に信託契約上譲渡制限を付し、BCN400上でTx及び新旧投資家分の秘密鍵署名内容の検証・取込をもって、譲渡成立の条件とする処理を実行する。
【0057】
財産的価値の移転(権利者や権利数を電子的に記録した電子帳簿の書換え)と権利の移転との一連性に関する第1の観点について、第1及び第2の実施形態に係る電子帳簿システムは、処理上、BCN400上のTx及び署名内容に係る、検証及び取込が無ければ、譲渡できない(名義の書き換えができない)ため、電子帳簿の記録内容と権利の移転は必ず一致することとなる。
【0058】
また、第1及び第2の実施形態に係る電子帳簿システムにおいて、GK-TKスキームにおける指名債権としてのTK出資持分と異なり、信託法上譲渡制限は有効となる(信託法93条2項)。これによって、第1及び第2の実施形態に係る電子帳簿システムにおいて、GK-TKスキームのST化で生じ得る、電子帳簿記録内容と法律上の権利状態とが乖離する虞がないため、投資家の権利の安定性が図られる。
【0059】
第三者対抗要件に関する第2の観点について、第1及び第2の実施形態に係る電子帳簿システムは、処理上、受益権原簿(電子帳簿としての内部データベース)と、電子帳簿としてのBCN400上の記録内容とは必ず一致する。GK-TKスキームにおける対抗要件と異なり、受益証券発行信託の対抗要件は受益権原簿の記録のため、電子帳簿システム上で完結する(信託法195条2項)。したがって、第1及び第2の実施形態に係る電子帳簿システム)において、GK-TKスキームのST化で生じ得る、電子帳簿記録内容と法律上の権利状態とが乖離する虞がないため、投資家の権利の安定性が図られる。
【0060】
倒産隔離に関する第3の観点について、第1及び第2の実施形態に係る電子帳簿システムは、信託の倒産隔離性により、信託財産である原資産の独立性が確保される。したがって、第1及び第2の実施形態に係る電子帳簿システムにおいては、デジタルアセットとしてSTで生じ得る、発行体の倒産リスクを負う虞がないため、投資家の権利保全が図られる。
【符号の説明】
【0061】
100 Bサーバ(電子帳簿サーバ)
200 Aサーバ
300 Dサーバ
400 ブロックチェーン・ネットワーク(BCN)
500 E端末装置
600 F端末装置
700 Cサーバ(カストディアン・サーバ)
1000 電子帳簿システム
2000 電子帳簿システム