IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

7038781アルキルインジウム化合物の製造方法及びその使用
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-10
(45)【発行日】2022-03-18
(54)【発明の名称】アルキルインジウム化合物の製造方法及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C07F 5/00 20060101AFI20220311BHJP
   C23C 16/18 20060101ALI20220311BHJP
【FI】
C07F5/00 J
C23C16/18
【請求項の数】 26
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020179553
(22)【出願日】2020-10-27
(62)【分割の表示】P 2019124481の分割
【原出願日】2014-08-18
(65)【公開番号】P2021014459
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2020-11-16
(31)【優先権主張番号】102013216637.0
(32)【優先日】2013-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102014111376.4
(32)【優先日】2014-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501399500
【氏名又は名称】ユミコア・アクチエンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Umicore AG & Co.KG
【住所又は居所原語表記】Rodenbacher Chaussee 4,D-63457 Hanau,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヨルク・ズンダーマイヤー
(72)【発明者】
【氏名】アニカ・フレイ
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフ・ショルン
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ・カルヒ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス・リーヴァス-ナス
(72)【発明者】
【氏名】アイリーン・ヴェルナー
(72)【発明者】
【氏名】アンゲリノ・ドッピウ
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】特表平11-514677(JP,A)
【文献】特表平2-502464(JP,A)
【文献】特許第6553035(JP,B2)
【文献】Polyhedron,1990年,Vol. 9, No. 2/3,pp. 353-360
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 5/00
C23C 16/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:
InCl
の化合物(A)を調製するプロセスであって、
a1)インジウムとアルキル供与体とを活性化剤の存在下で反応させて前記化合物(A)を生成する工程であって、前記アルキル供与体が塩化アルキル(RCl)である、工程と、
a2)任意選択的に、化合物(A)を反応混合物から単離する工程と、
の反応工程を含み、
式中、Rは1~4個の炭素原子を有するアルキル基であり、Rは分枝状又は非分枝状であり、
前記活性化剤が、塩素Cl、塩化水素HCl、水素H、塩化鉄FeCl、(PtCl2-、PdCl、三塩化インジウム(InCl)、三塩化アルミニウム(AlCl)、塩化銅(CuCl)、又はハロゲン化インジウムInX(式中、X=塩素、臭素又はヨウ素である)ではなく、前記活性化剤が、酸化物でなく、並びに、
前記活性化剤が、トリアルキルインジウム(RIn)、ジアルキルインジウムクロリド(RInCl)、アルキルインジウムジクロリド(RInCl)、アルキルインジウムセスキクロリド(RInCl)の化合物、はこれらの任意の混合物から選択され、
式中、Rは1~4個の炭素原子を有するアルキル基であり、Rは分枝状又は非分枝状である、プロセス。
【請求項2】
Rがメチル又はエチルである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
使用される前記アルキル供与体がガス状塩化アルキルである、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
インジウム1当量あたり、1.5~5当量のアルキル供与体が使用される、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
反応工程a1)において、前記インジウムが最初に反応容器に仕込まれ、続いて前記アルキル供与体が添加される、請求項1~4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記アルキル供与体の前記添加が、20℃を超える温度及び1bar~4.5barのゲージ圧で実施される、請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
前記アルキル供与体の添加が、-220℃~0℃の温度で実施され、前記添加が前記アルキル供与体を凝縮させることによって実施される、請求項5に記載のプロセス。
【請求項8】
前記プロセスが、化合物(A)の単離を工程a2)として含み、前記単離が、反応容器内に存在する反応混合物からの揮発性二次的構成成分の分離と、その後の前記反応容器からの化合物(A)の取出しとを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
反応工程a1)が有機溶媒不在下で実施される、請求項1~8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
化合物(A)の収率が少なくとも79%である、請求項1~9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記化合物(A)の純度が少なくとも95%である、請求項1~10のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
一般式:
In
の化合物(B)を調製するプロセスであって、
b0)一般式:
InCl
の化合物(A)を請求項1に記載のプロセスを用いて提供する工程と、
b1)化合物(A)をアルキルリチウムと反応させて、テトラアルキルインジウム酸リチウム(LiInR)を生成し、LiInRを反応混合物から単離する工程と、
b2)LiInRをインジウムクロリド成分と反応させて、前記化合物(B)を得る工程と、
の反応工程を含み、
式中、Rは1~4個の炭素原子を有する分枝状又は非分枝状アルキル基であ
工程b0)において、前記活性化剤は、ハロゲン化インジウムInX (式中、Xは、塩素、臭素又はヨウ素であってもよい)ではなく、並びに、
前記インジウムクロリド成分が、R InCl、R In Cl 、RInCl 及びこれらの混合物から選択される、プロセス。
【請求項13】
前記インジウムクロリド成分が、一般式:
InCl
を有し、式中、aは0、1、2及び3から選択される数であり、bは1及び2から選択される数であり、cは1、2及び3から選択される数であり、ここでa+b+c=4又は4の倍数であり、式中、Rは1~4個の炭素原子を有するアルキル基であり、Rは分枝状又は非分枝状である、請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
化合物(B)の収率が90%を超える、請求項12又は13に記載のプロセス。
【請求項15】
化合物(B)の純度が少なくとも99%である、請求項12~14のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項16】
式RIn
(式中、Rは1~4個の炭素原子を有するアルキル基であり、前記アルキル基は分枝状でも非分枝状でもよい)
のトリアルキルインジウムを調製するためのプロセスであって、
-活性化剤の存在下で、インジウム金属を式RClの塩化アルキルと反応させることによって、式RInClの化合物(A)を調製する工程と、
-任意選択的に、前記化合物(A)を単離する工程と、
-前記化合物(A)をアルキルリチウムと反応させて、テトラアルキルインジウム酸リチウムLiInRを生成し、それを単離及び任意選択的に更に精製する工程と、
-前記テトラアルキルインジウム酸リチウムLiInRをインジウムクロリド化合物と反応させて、式RInのトリアルキルインジウムを得る工程と、
-任意選択的に、得られたトリアルキルインジウムを精製する工程と、
を含み、
式RInClの化合物(A)は、活性化剤として、インジウムクロリド化合物として、又はこれらの組み合わせのために使用される、請求項12~15のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項17】
請求項12において定義される式RIn
のトリアルキルインジウムを調製するためのプロセスであって、
-工程b0)において、活性化剤の存在下で、インジウム金属を式RClの塩化アルキルと反応させることによって、式RInClの化合物(A)を調製する工程と、
-任意選択的に、前記化合物(A)を単離する工程と、
-工程b1)において、前記化合物(A)をアルキルリチウムと反応させて、テトラアルキルインジウム酸リチウムLiInRを生成し、それを単離及び任意選択的に更に精製する工程と、
-工程b2)において、前記テトラアルキルインジウム酸リチウムLiInRをインジウムクロリド化合物と反応させて、式RInのトリアルキルインジウムを得る工程
を含み、
工程b0)において、前記活性化剤は、ハロゲン化インジウムInX(式中、Xは、塩素、臭素又はヨウ素であってもよい)ではなく、塩素Cl、塩化水素HCl、塩化鉄FeCl、(PtCl2-、PdClではなく、前記活性化剤は酸化物ではなく、
-任意選択的に、式RInのトリアルキルインジウムを調製するためのプロセスが、得られた前記トリアルキルインジウムを精製する工程を含む、
請求項12~15のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項18】
請求項13に定義される一般式:
InCl
のインジウムクロリド成分が、
-活性化剤の存在下で、インジウム金属を式RClの塩化アルキルと反応させることによって、式RInClの化合物(A)を調製する工程と、
-任意選択的に、前記化合物(A)を単離する工程と、
を含むプロセスによって調製され、
前記活性化剤は、ハロゲン化インジウムInX(式中、Xは、塩素、臭素又はヨウ素であってもよい)ではなく、塩素Cl、塩化水素HCl、塩化鉄FeCl、(PtCl2-、PdClではなく、前記活性化剤は酸化物ではなく、
前記インジウムクロリド成分は、RInCl、RInCl、RInCl及びこれらの混合物、又はMeInCl、EtInCl、MeInCl、EtInCl、MeInCl又はEtInCl(Et=エチル及びMe=メチル)であってもよい、請求項13~15のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項19】
請求項12に定義される式RIn
のトリアルキルインジウムを調製するためのプロセスであって、
請求項13に定義される一般式:
InCl
が、請求項18に定義されるプロセスによって調製される、
請求項17に記載のプロセス。
【請求項20】
請求項12に定義される式RIn
のトリアルキルインジウムを調製するためのプロセスであって、
-工程b0)において、活性化剤の存在下で、インジウム金属を式RClの塩化アルキルと反応させることによって、式RInClの化合物(A)を調製する工程と、
-任意選択的に、前記化合物(A)を単離する工程と、
-工程b1)において、前記化合物(A)をアルキルリチウムと反応させて、テトラアルキルインジウム酸リチウムLiInRを生成し、それを単離及び任意選択的に更に精製する工程と、
-工程b2)において、テトラアルキルインジウム酸リチウムLiInRをインジウムクロリド化合物と反応させて、式RInのトリアルキルインジウムを得る工程と、
を含み、
-化合物(A)の調製の工程b0)において、インジウム1当量あたり、1.5~3当量の塩化アルキルが使用される、請求項12~15のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項21】
請求項13に定義される一般式:
InCl
のインジウムクロリド成分が、
-活性化剤の存在下で、インジウム金属を式RClの塩化アルキルと反応させることによって、式RInClの化合物(A)を調製する工程と、
-任意選択的に、前記化合物(A)を単離する工程と、
を含むプロセスによって調製され、
前記インジウムクロリド成分の調製において、インジウム1当量あたり、1.5~3当量の塩化アルキルが使用される、請求項13~15のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項22】
請求項12に定義される式RIn
のトリアルキルインジウムを調製するためのプロセスであって、
-工程b0)において、活性化剤の存在下で、インジウム金属を式RClの塩化アルキルと反応させることによって、RInClの化合物(A)を調製する工程と、
-任意選択的に、前記化合物(A)を単離する工程と、
-工程b1)において、前記化合物(A)をアルキルリチウムと反応させて、テトラアルキルインジウム酸リチウムLiInRを生成し、それを単離及び任意選択的に更に精製する工程と、
-工程b2)において、テトラアルキルインジウム酸リチウムLiInRをインジウムクロリド化合物と反応させて、式RInのトリアルキルインジウムを得る工程と、
を含み、
前記化合物(A)の調製の工程b0)において、前記塩化アルキルの添加は、1bar~4.5bar、又は1.5bar~4bar、又は2~3.5barの一定ゲージ圧において実施され、前記塩化アルキルは、ガス状塩化アルキルの制御された導入によって添加される、請求項12~15のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項23】
請求項13に定義される一般式:
InCl
のインジウムクロリド成分が、
-活性化剤の存在下で、インジウム金属を式RClの塩化アルキルと反応させることによって、式RInClの化合物(A)を調製する工程と、
-任意選択的に、前記化合物(A)を単離する工程と、
を含むプロセスによって調製され、
前記インジウムクロリド成分の調製において、前記塩化アルキルの添加は、1bar~4.5bar、又は1.5bar~4bar、又は2~3.5barの定圧において実施され、前記塩化アルキルは、ガス状塩化アルキルの制御された導入によって添加される、請求項13~15のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項24】
請求項12に定義される式RIn
のトリアルキルインジウムを調製するためのプロセスであって、
-工程b0)において、活性化剤の存在下で、インジウム金属を式RClの塩化アルキルと反応させることによって、式RInClの化合物(A)を調製する工程と、
-任意選択的に、前記化合物(A)を単離する工程と、
-工程b1)において、前記化合物(A)をアルキルリチウムと反応させて、テトラアルキルインジウム酸リチウムLiInRを生成し、それを単離及び任意選択的に更に精製する工程と、
-工程b2)において、前記テトラアルキルインジウム酸リチウムLiInRをインジウムクロリド化合物と反応させて、式RInのトリアルキルインジウムを得る工程と、
を含み、
工程b1)の、化合物(A)とアルキルリチウムとの反応において、化合物(A)1当量あたり1~5当量のアルキルリチウムが使用される、請求項12~15のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項25】
請求項12に定義される式RIn
のトリアルキルインジウムを調製するためのプロセスであって、
-工程b0)において、活性化剤の存在下で、インジウム金属を式RClの塩化アルキルと反応させることによって、式RInClの化合物(A)を調製する工程と、
-任意選択的に、前記化合物(A)を単離する工程と、
-工程b1)において、前記化合物(A)をアルキルリチウムと反応させて、テトラアルキルインジウム酸リチウムLiInRを生成し、それを単離及び任意選択的に更に精製する工程と、
-工程b2)において、テトラアルキルインジウム酸リチウムLiInRをインジウムクロリド化合物と反応させて、式RInのトリアルキルインジウムを得る工程と、
-任意選択的に、得られた前記トリアルキルインジウムを精製する工程と、
を含む、請求項12~15のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項26】
有機金属気相成長法(MOCVD)又は有機金属気相エピタキシー法(MOVPE)のための方法であって、
請求項12のプロセスによって化合物(B)を調製する工程、及び、
化合物(B)を有機金属気相成長法(MOCVD)又は有機金属気相エピタキシー法(MOVPE)のための方法において使用する工程、
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般式RInClで特徴づけられるアルキルインジウムセスキクロリド(以下化合物(A)とも呼ぶ)を、高収率並びに高い選択性及び純度で調製するプロセスを提供する。
【0002】
本発明により調製されるアルキルインジウムセスキクロリドは、高純度で高収率でもあることから、必要に応じたインジウム含有前駆体、特に一般式RIn(以下化合物(B)とも呼ぶ)又はRInR’(以下化合物(C)とも呼ぶ)のものの調製に特に好適である。化合物(A)から高収率及び高純度で得られるインジウム含有前駆体は、有機金属気相成長法(MOCVD)(有機金属気相エピタキシー法(MOVPE)としても知られる)に特に適している。
【0003】
用語「プロセス」は、本発明で使用するとき、この語は常に、化合物(A)を調製するプロセス、及びその後に続く、インジウム含有前駆体、好ましくは化合物(B)又は(C)のインジウム含有前駆体を調製する任意選択的なプロセスを意味する。
【背景技術】
【0004】
先行技術は、MOCVDプロセスのための有機金属前駆体として、すなわちその出発物質(以下、「前駆体出発物質」と簡略化して呼ぶ)として一般的に使用される化合物を調製するための種々のプロセスを記載している。
【0005】
本発明の文脈において、「前駆体出発物質」は、更なる反応工程によって実際の有機金属前駆体(略して「前駆体」又は「インジウム含有前駆体」と呼ぶ)に変換し得る物質であり、これをその後MOCVDプロセスに直接使用できる。本明細書で、かかる前駆体出発物質を提供すること又はそれ自体を高い選択性及び収率で得ることができる前駆体出発物質によって前駆体を調製することは有益である。加えて、簡単な方法で高純度で調製することができ、単離可能で、必要に応じてMOCVDプロセスのための高純度前駆体を非常に短時間で調製することを可能にする十分な貯蔵安定性の前駆体出発物質を提供することは、非常に有益となり得る。MOCVDプロセスは、太陽電池又はLED等のオプトエレクトロニクス分野向けの半導体層の製造に特に使用されるほか、他の利用分野における層の製造にも使用され、これは一般的に、使用される特定の前駆体が超高純度であること、及び特に酸素含有不純物が存在しないか又は極めて小さい割合でしか存在しないことを必要とする。
【0006】
例えば、インジウム含有、ガリウム含有、あるいはアルミニウム含有前駆体又は対応する前駆体出発物質を調製するための種々の既知のプロセスが存在する。しかし、それぞれのプロセス条件は、元素間で必ずしも移転可能とは限らず、又は条件を変更せずに移転することが不可能である。元素アルミニウム、ガリウム及びインジウムは既に異なる化学的挙動を示し、そのため通常は、それぞれの前駆体の製造において、個々に合わせたプロセス方式(process regime)が必要であることを考慮に入れる必要がある。
【0007】
インジウム含有前駆体又は前駆体出発物質の調製に関する先行技術で既知のプロセスは、通常の使用に必要な純度及び量で、特に許容可能なコストでの調製に関して大きな困難に遭遇することが多い。例えば、MOCVDによってインジウム含有前駆体から製造された半導体層の電気特性は、前駆体又は前駆体出発物質中の不純物によって大きく損なわれる可能性がある。更に、多数の調製プロセスは多大な時間を要する。加えて、しばしば低い収率しか達成されず、反応工程はしばしば、低い選択性を特徴とする。インジウム含有前駆体又は前駆体出発物質を調製するための既知の調製プロセスでは有機溶媒を使用することからも、プロセスは通常コストがかかり、環境にあまり優しくなく、中間体及び最終生成物が溶媒残留物を伴うことがあり、これはひいては、その使用を大きく制限するか、又はコストがかかる不便な精製を必要とする。
【0008】
独国特許第3742525(A1)号は、トリメチルインイジウムのような金属アルキルの調製プロセスに関し、前駆体出発物質としてのテトラメチルインジウム酸リチウムから有機溶媒中での三塩化インジウムとの反応によって進行する調製を記載している。トリメチルインイジウムを含む混合物が得られ、後者は更に後で単離及び精製する必要がある。精製後でも、収率は理論値のわずか82%と報告されている。この調製法はまた、24時間を超える比較的長いプロセス時間も特徴とする。
【0009】
欧州特許第0372138(A1)号は、有機金属化合物の調製プロセスを記載しており、このプロセスによって、例えば、テトラメチルインジウム酸リチウムであってもよい不揮発性前駆体出発物質を経てトリアルキルインジウム化合物も得ることができる。三塩化インジウムからのテトラメチルインジウム酸リチウムの調製は、ジエチルエーテル中でメチルリチウムを添加して起こり、これはプロセス全体を非常に高コストにする。テトラメチルインジウム酸リチウムは三塩化インジウムと反応してトリメチルインイジウムをもたらし、これは後で更に精製する必要がある。実際の収率については数字が示されていない。更に、記載されているプロセスは、非常に高コストで不便であり、その1つの理由は、多数の単離及び精製工程である。
【0010】
Gynaneらは、インジウムと臭化アルキル及びヨウ化アルキルとの反応によってセスキハライドが得られることを記載している(Gynane,M.J.S.,Waterworth,L.G.and Worrall,I.J.,J.Organometal.Chem.,40,1972)。また、更なる文献のなかで、一臭化インジウム又は一ヨウ化インジウムとヨウ化アルキル又は臭化アルキルとの反応により、アルキルインジウム二ハロゲン化物が得られるが、非常に長い反応時間が必要であるとも述べている(Gynane,M.J.S.,Waterworth,L.G.and Worrall,I.J.,J.Organometal.Chem.,43,1972)。
【0011】
米国特許第5,663,390号は、反応促進剤としてのHの存在下での、塩化アルキルと元素金属との反応によるアルキル金属塩化物の調製に関する。ただし後者は不利であり、より具体的には、記載されたプロセスは非常に複雑で、変換は不完全でしかない。この反応全体は非常に不便で高コストであり、そのため工業規模に適さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】独国特許第3742525(A1)号
【文献】欧州特許第0372138(A1)号
【文献】米国特許第5,663,390号
【非特許文献】
【0013】
【文献】J.Organometal.Chem.,40,1972
【文献】J.Organometal.Chem.,43,1972
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明が解決しようとする課題は、インジウム含有前駆体に適した前駆体出発物質を、必要に応じて、安価に調製することを可能にするプロセスを、単純で短時間のプロセス方式と共に提供することである。プロセスはまた、このような化合物の高収率及び高純度での調製も可能にする。前駆体出発物質は、更に、簡単な方法で単離可能であり、十分な貯蔵安定性を有することが望ましい。
加えて、出発物質から得られるインジウム含有前駆体は、酸素不純物を実質的に含まず、出発物質から進行して、高収率並びに高い選択性及び純度で得ることができる。結果として、得られるインジウム含有前駆体は、MOCVDプロセスに特に好適であり、このプロセスは半導体層製造のそれぞれの場合に高純度の有機インジウム化合物を必要とする。
本プロセスは更に、低レベルの環境汚染及び低い資源集約度で実施できる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明が解決しようとする課題は、請求項の主題によって解決される。
【0016】
上記の課題は、次の一般式:
InCl
(式中、Rは、低級アルキル基、すなわち1~4個の炭素原子を有する基である)を有するジアルキルインジウムクロリド(式(A)の化合物)を調製するための新規プロセスによって特に解決される。アルキル基は分枝状でも非分枝状でもよく、好ましくは非分枝状である。したがって、好適なアルキル基は、イソプロピル、シクロプロピル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチルであるが、特にプロピル、n-ブチル及びエチル又はメチルである。
【0017】
化合物(A)の構造は、まだ最終的に明らかになっておらず、上記の式RInClの代わりに、RInClとRInClとの混合物とみなすこともできる。上記の化合物は互いに及び/又はRInClと平衡することもあり得る。RInCl及びRInClの互いに対する比は、必ずしも50:50である必要はなく、一般的には約40:60~約60:40の比で変動してもよい。
【0018】
使用する出発物質及び更なる試薬により、このプロセスは安価であり、生じる環境汚染が低レベルであり、短時間のプロセス方式及び高収率で、高純度のRInClの調製を可能にする。より具体的には、本発明により、一般的に必要とされる有機溶媒の使用を不要とすることが可能であり、これは、コスト効率が良く環境に配慮したプロセス方式に寄与する。更に、化合物(A)は、簡単な方法で単離することができ、十分な貯蔵安定性を有することも有利である。第2に、化合物(A)はまた単離なしで更なる反応工程で処理することもでき、そのため不都合な中間体単離なしで安価な多段階反応(「ワンポット反応」)を開発できる可能性がある。
【0019】
本発明によるプロセスは、メチルインジウムセスキクロリド(MeInCl)及びエチルインジウムセスキクロリド(EtInCl)、又はMeInCl/MeInCl及びEtInCl/EtInCl(場合によっては非化学量論比の)混合物の調製、とりわけMeInClの調製に好適である。それ故、Rは好ましくはエチル及びメチルから選択され、最も好ましくは、Rはメチルである。メチル及びエチルは、本明細書で以後、メチルはMe、エチルはEtと略される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
最初に、本発明は、RInCl、すなわち化合物(A)を、前駆体出発物質として調製するための新規プロセスを提供する。本発明のプロセスの後に、更なる反応工程が続いてもよく、その結果、MOCVDプロセスのためのインジウム含有前駆体も、本発明によって、安価に、短時間のプロセス方式で、高い収率及び純度で得ることができる。したがって、本発明のプロセスは、化合物(A)の調製を含む。実施形態において、本発明のプロセスの後に、インジウム含有前駆体を調製するための追加の反応工程が続いてもよい。
【0021】
インジウム含有前駆体は、好ましくは一般式RIn(すなわち、化合物(B))及びRInR’(すなわち、化合物(C))の化合物から選択される。以下に詳述するように、このプロセス方式により、本発明で、Rは化合物(A)、(B)及び(C)で同一であり、R’はこれと異なっていてもよい。
【0022】
本発明によると、次の一般式:
In
のインジウム含有前駆体は、Rが1~4個の炭素原子を有する低級アルキル基のものである。アルキル基は分枝状でも非分枝状でもよく、好ましくは非分枝状である。Rは、特にエチル及びメチルから選択され、具体的には、Rはメチルである。
【0023】
本発明によると、次の一般式:
InR’
のインジウム含有前駆体は、Rが1~4個の炭素原子を有する低級アルキル基のものであり、このアルキル基は分枝状でも非分枝状でもよく、R’はR以外の求核性基である。R’は、好ましくは分枝状又は非分枝状の置換又は非置換アルキル、分枝状又は非分枝状の置換又は非置換アリールから選択される。R’は、特に、分枝状若しくは非分枝状アルキル若しくはアルコキシ基で置換されたアルキル若しくはフェニル、又はアミン基で置換されたアルキル若しくはフェニルであってもよい。具体的には、R’は、メチル、エチル、n-ブチル、プロピル、sec-ブチル、tert-ブチル、イソブチル、イソプロピル、シクロプロピル、シクロブチル、メトキシ、エトキシ、n-ブトキシ、プロポキシ、sec-ブトキシ、tert-ブトキシ、イソブトキシ、イソプロポキシ、シクロプロポキシ、シクロブトキシ等の分枝状又は非分枝状アルキル又はアルコキシ基で置換された1~6個の炭素原子を有するアルキル又はアリール基、あるいは、メチル、エチル、n-ブチル、プロピル、sec-ブチル、tert-ブチル、イソブチル、イソプロピル、シクロプロピル、シクロブチル等の分枝状又は非分枝状アルキル基型の基でそれ自身が置換されたアミン基で置換された(特に、一置換又は二置換)1~6個の炭素原子を有するアルキル又はアリール基である。
【0024】
求核性R’基は、例えば、フェニル、トリル、メシチル、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジブチルアミノ、ジイソプロピルアミノ、EtN-(CH、MeN-(CH、MeN-CH、EtN-(CH、EtN-CH、イソプロピル、シクロプロピル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、シクロプロピルであってもよいが、特にはプロピル、n-ブチル及びエチル又はメチルであってもよい。R及びR’の定義が同じ基を包含する場合、化合物(C)においてRとR’は互いに異なっていなければならない。したがって、例えば、Rがメチルの場合、R’はメチルであってはならない。
【0025】
本発明の一実施形態において、Rはメチルであり、R’はMeN-(CH基である。本発明の更なる実施形態において、Rはメチルであり、R’はエチルである。本発明の更なる実施形態において、Rはエチルであり、R’はメチルである。その結果、化合物MeInEt、EtInMe及びMeIn-(CH-N-Me又は(CHIn-(CH-N-(CHが得られる。この実施形態において、このように本発明のプロセスの後で更なる反応工程が実施され、その結果インジウム含有前駆体、好ましくはRIn(すなわち、化合物(B))又はRInR’(すなわち、化合物(C))も、安価にかつ必要に応じて、短時間のプロセス方式で得ることができる。
【0026】
化合物(A)から優先的に得られるインジウム含有前駆体(B)及び(C)は、その特に高い純度から、半導体産業で使用され、MOCVDプロセスで製造されるインジウム含有層フィルム、例えば、InP、InAlP及びAlInGaP層の調製に特に適している。
【0027】
1.化合物(A)を調製するためのプロセス
InCl、すなわち化合物(A)を調製するための本発明のプロセスは、次の反応工程を含む:
a1)活性化剤の存在下でインジウムをアルキル供与体と反応させて、化合物(A)を生成する工程であって、アルキル供与体が塩化アルキル(RCl)である工程、及び
a2)任意選択的に、化合物(A)を単離する工程。
【0028】
反応工程a1):
インジウムは、好ましくは少なくとも5N以上(インジウムベースで金属純度>99.999%に相当)の純度で使用できるが、4N(金属純度=99.99%)のインジウムとしても使用できる。ただし、原理的には、低純度のインジウムを使用することも可能である。インジウムは反応温度で溶融状態(インジウムの融点は約156℃)であることから、粒径は、広い限度内で変動する可能性がある。必要量及び反応器の充填量をより簡単に測定するため、例えば、粒径1mm~10mm、特には4mm~6mmを有する顆粒(例えば、粒径約0.5cmのインジウムショットと呼ばれるもの)を使用することが可能であるが、粉末でも、又は塊でさえも使用できる。
【0029】
アルキル供与体は、アルキル基を含む化合物であり、アルキル供与体は、アルキルが上記のように定義される場合にハロゲン化アルキルであり、ハロゲン化物としては、塩素、臭素又はヨウ素、特に塩素を使用することができる。したがって、アルキル供与体は、特にアルキル基だけでなく、少なくとも1個の塩素原子も含む塩化アルキルであってもよい。より具体的には、アルキル供与体はハロゲン化アルキル(特に塩化アルキル)であり、このアルキルは上に定義される通りであり(Rの定義参照)、より好ましくは、アルキルはメチル又はエチル、特にはメチルである。したがって、好ましい実施形態において、アルキル供与体は塩化メチル(クロロメタン)又は塩化エチル(クロロエタン)であり、より好ましくは塩化メチルである。
【0030】
この反応には、インジウム1当量あたり1.5~5当量のアルキル供与体、又はインジウム1当量あたり1.5~4.5当量又は1.5~4当量のアルキル供与体、特にはインジウム1当量あたり1.5~3又は1.5~2.5又は1.5~2.9当量のアルキル供与体を使用することが好ましい。インジウムに対して少なすぎる割合のアルキル供与体が使用された場合、変換が不十分になり、化合物(A)の収率が低下するリスクがある。インジウムに対して過度に大量のアルキル供与体が使用された場合、プロセスが高額になり過ぎて、全体的にあまりにも不経済となり、工業規模で採算が合うように実施することができなくなり、望ましくない。
【0031】
インジウム1当量あたり1.5~4当量のアルキル供与体、更に一層好ましくはインジウム1当量あたり1.7~3当量のアルキル供与体、最も好ましくはインジウム1当量あたり1.8~2.5当量のアルキル供与体を使用することは特に有利であることが見出されている。これにより、化合物(A)の特に高い収率を達成することができる。
【0032】
インジウム及びアルキル供与体を、逐次的に反応容器に添加することが好ましい。より好ましくは、インジウム及び活性化剤が最初に仕込まれ、続いてアルキル供与体が添加される。これは、驚くべきことに、高収率を生じ、更に、装置の複雑さを低減した。このように、単にインジウム及び活性化剤を秤量して反応器に入れることが可能である。その後、アルキル供与体を制御された方法で添加してよい。
【0033】
好ましくは、アルキル供与体のインジウムへの添加は、好ましくは標準状態でガス状(MeClの沸点は-24℃、EtClの沸点は12℃)であるアルキル供与体を、ガス状アルキル供与体の制御された連続導入を通じて反応に供給することによって実施される。
【0034】
導入の間、反応の途中で、好ましくは消費される量と同じ量のアルキル供与体が常に補給され、その結果、反応圧力(陽圧)が一定に保たれる。制御は、例えば、絞り弁に連結された圧力センサによって自動的に実施される。
【0035】
任意選択的に、アルキル供与体は凝縮させることによって添加できる。アルキル供与体が凝縮される場合、添加中の温度は、有利には0℃未満である。より好ましくは、アルキル供与体の添加中は-20℃の温度を超えない。アルキル供与体の添加中に外部から冷却することが好ましい。好ましくは、アルキル供与体の添加は、アルキル供与体を0℃未満の温度、更に好ましくは-260℃~-20℃の温度(液体窒素又はドライアイスで冷却)で凝縮させることによって実施される。上記の数字は、アルキル供与体の凝縮による添加のみに該当し、これは任意選択である。アルキル供与体は、好ましくは1hPa未満、好ましくは0.1hPa未満、より好ましくは5×10-2hPa以下の残留気圧の減圧下で好ましくは凝縮される。その後の反応混合物の加熱は、反応容器内に最大で15bar、特に0.2~1.5MPa、好ましくは0.5~1MPa、より一層好ましくは0.6~1MPaのゲージ圧を確立し、この条件は、アルキル供与体が凝縮されている場合にのみ望ましい。
【0036】
好ましくは、アルキル供与体はガス状形態で反応器に導入される。アルキル供与体の添加が注入又は連続導入によって実施される場合、凝縮の場合のように必要なアルキル供与体の全量を最初から添加することは、一般的に行わず、その代わりに、変換が完了するまで、アルキル供与体をインジウム-活性化剤混合物に常時計量供給する。
【0037】
ただし、任意選択的に、アルキル供与体を液体形態で反応器に導入することもできる。クロロメタン及びクロロエタンは特に液化ガスとして販売されていることから、上記の方法は、アルキル供与体の安定な気圧を維持するために塩化アルキルのリザーバタンクの外部加熱又は蒸発器を必要とせず、そのため工業規模で有利となり得る。その後、液体のアルキル供与体を液化ガスタンクから加圧下で直接計量することができる。反応器において、存在する反応条件の結果、アルキル供与体は直ちに蒸発して、ガス状アルキル供与体との反応が反応器内で進行する。
【0038】
導入又は注入によるアルキル供与体の添加は、一般的に、20℃か、それを超える温度で始まる。一実施形態において、反応器内のインジウム又はインジウム-活性化剤混合物は、アルキル供与体の添加の開始時に液体形態である。純インジウムの融点は156.6℃であることから、添加は156℃以上の温度で起こる。活性化剤の存在は、最初に仕込んだインジウム混合物の融点を低下させる可能性があることから、混合物は156℃未満で既に液体の場合もある。これは、この実施形態において、最初にインジウム及び活性化剤を仕込み、混合物が液体になるまで反応器内で加熱し、その後アルキル供与体の導入を開始することを意味する。任意選択的に、インジウムを最初に反応器に仕込み、その後インジウムが液体形態になるまで加熱し、その後活性化剤を添加して、アルキル供与体の添加を開始することもできる。
【0039】
別の実施形態において、アルキル供与体、例えば、塩化メチルは、最初に仕込まれたインジウム-活性化剤混合物を収容する反応器に室温で供給され、その後所望の反応温度まで加熱され、その間、アルキル供与体の導入が継続される。
【0040】
アルキル供与体の添加開始後、反応混合物が加熱される。ここでは、副反応を避けるため、及び経済的理由からも、250℃、好ましくは235℃の温度を好ましくは超えない。235℃を超える反応温度では、漸進的な熱分解が観察されることがあり、これはおそらく、分解生成物としてインジウムを生成する。化合物(A)への完全変換を特に可能にするため、少なくとも150℃、更に好ましくは少なくとも170℃、より好ましくは180℃の温度まで加熱することが好ましい。それ故、アルキル供与体が添加された方法に関係なく、反応温度は、約150℃~約250℃、又は170℃~235℃、又は180℃~230℃の範囲内である。
【0041】
反応工程a1)は、アルゴン又は窒素のような不活性ガス下で実施することができる。ただし、純アルキル供与体(例えば、塩化メチル又は塩化エチル)雰囲気において、不活性ガスの添加なしで反応を実施することは可能であり、これは利点を有する。
【0042】
一般的にアルキル供与体は、定められた一定圧力、例えば、1bar~4.5bar、又は1.5bar~4barのゲージ圧(絶対圧力:2bar~5.5bar又は2.5bar~5bar)で添加される。この手順では、アルキル供与体(すなわち、例えば塩化エチル又は塩化メチル)の特定のゲージ圧、例えば、3.5barが定義されてもよい。流量調節器により、消費された量と同量のアルキル供与体(すなわち、例えば、塩化エチル又は塩化メチル)が反応器に常に補給され、その結果反応器内の圧力がほぼ一定、すなわち、例えば、4.5bar(又は3.5barのゲージ圧)に維持される。アルキル供与体(すなわち、例えば塩化エチル又は塩化メチル)がそれ以上消費されていなければ、反応は終了している。
【0043】
反応の途中で、活性化剤が添加される。当業者は、活性化剤が何を意味するか、すなわち、一般的には少量で反応及び変換の加速に寄与する化合物を意味することを知っている。好適な活性化剤は一般的にルイス酸、例えば、ハロゲン化インジウムInX(式中、Xは、塩素、臭素又はヨウ素であってもよい)、三塩化インジウム(InCl)、三塩化アルミニウム(AlCl)、塩化銅(CuCl)、塩素Cl、塩化水素HCl、塩化鉄FeCl、(PtCl2-、PdCl、酸化物、例えば、InO、TiO、NiO、Fe又は[PBu][InCl]である。低原子価のインジウム(I)化合物、例えば、InClは、使用したインジウム金属とルイス酸からin situで生成し、これが次に酸化的付加でアルキル供与体と反応することが疑われる。
【0044】
ただし、本発明によると、活性化剤は、ハロゲン化インジウムInX(式中、Xは、塩素、臭素又はヨウ素であってもよい)ではなく、塩素Cl、塩化水素HCl、水素H、塩化鉄FeCl、(PtCl2-、PdCl、三塩化インジウム(InCl)、三塩化アルミニウム(AlCl)又は塩化銅(CuCl)ではなく、酸化物、特にInO、TiO、NiO又はFeでない場合に有利である。
【0045】
しかし、驚くべきことに、アルキルインジウムセスキクロリド(RInCl)、ジアルキルインジウムクロリド(RInCl)、アルキルインジウムジクロリド(RInCl)、トリアルキルインジウム(RIn)の、ハロゲン化インジウムInX(式中、Xは、塩素、臭素又はヨウ素であってもよい)、例えば、具体的には三塩化インジウム(InCl)との混合物、及びこれらの混合物で、同様に使用でき、より好適でさえあることが見出されている。これは、後の段階で問題となる不純物の原因となるインジウム以外の金属が系内に存在しないという利点を有する。アルキルインジウムセスキクロリド生成物自体を活性化剤として使用した場合に特に有利な点は、簡単な反応方式で、反応器内の反応生成物の残留物を次のバッチの活性化に利用することができ、インジウム及びアルキル供与体以外の追加の化学物質が必要なく、化合物(A)の調製が半連続的に実施できるという点である。アルキルインジウムセスキハライド、ジアルキルインジウムハライド、アルキルインジウムジハライド及びこれらの混合物等のその他のアルキルインジウムハライドを使用することも可能であることは当業者に明らかであり、ここでハライドは、F、Br及びIから選択される。しかし、ハライドは、より好ましくはクロリドである。したがって、活性化剤は、好ましくは、ジアルキルインジウムクロリド(RInCl)、アルキルインジウムジクロリド(RInCl)、トリアルキルインジウム(RIn)の、ハロゲン化インジウムInX(式中、Xは、塩素、臭素又はヨウ素であってもよい)、特に三塩化インジウム(InCl)との混合物、及びこれらの混合物から選択され、ここでRは上記の定義の通りである。混合物を使用することも可能である。
【0046】
本発明の1つの構成において、活性化剤は、アルキル供与体の添加の開始前にインジウムに添加される。活性化剤は、好ましくは、インジウム対活性化剤のモル比が少なくとも4:1、更に好ましくは少なくとも5:1、好ましくは少なくとも6:1、より一層好ましくは8:1を超えるような量で使用される。活性化剤の量が多すぎる場合、化合物Aへの変換が不完全になるリスクがある。インジウム対活性化剤のモル比は、好ましくは多くとも300:1、より好ましくは多くとも250:1、より一層好ましくは多くとも200:1である。したがって、インジウム対活性化剤のモル比は、>100:1、すなわち約110:1、130:1又は140:1の範囲であることが特に有利である。活性化剤の量が少なすぎる場合、活性化剤の効果が十分でなくなるリスクがある。モル比は、インジウムのモル量の活性化剤のモル量に対する比を意味すると理解される。異なる活性化剤は、インジウムに対する最適なモル比が異なり、それは数種類の手動試験で簡単に決定できる。例えば、三塩化インジウムとトリメチルインジウムとを合わせて、インジウムに対して10:1の比で使用することができ;対照的に、メチルインジウムセスキクロリドを使用する場合、約20:1の領域の比が有用であることが見出されている。
【0047】
最初に互いに反応して、活性化剤として実際に活性な化合物をもたらす2つの化合物を使用することもでき、例えば、三塩化インジウムとトリメチルインジウムは、互いに反応してインジウムセスキクロリドをもたらし、これが次に活性化剤として作用する。この場合、当然、モル比は活性化剤として有効な化合物インジウムセスキクロリドの量に基づき、その出発物質の三塩化インジウム及びトリメチルインジウムに基づくのではない。
【0048】
驚くべきことに、本発明のプロセスにより、有機溶媒不在下でも化合物(A)の高収率を達成することができる。したがって、インジウムとアルキル供与体との反応による化合物(A)の生成において、有機溶媒を不要とすることが可能である。本発明において、有機溶媒は、炭素質の液体物質を意味することが理解される。本発明において、有機溶媒の不在は、反応媒体として追加的に使用される有機溶媒がないことを意味すると理解される。これは、溶媒の部分的分解の結果生じる化合物(A)の有機汚染の可能性が避けられるという利点を有する。更に、これにより、プロセスを環境により配慮した形で実施できる。更に、有機溶媒不在の工程a1)において、驚くべきことに、特に高い反応選択性が記録された。
【0049】
工程a1)における反応時間は、好ましくは10分~30時間である。少なくとも15分間、更に好ましくは少なくとも30分間、より一層好ましくは少なくとも40分間の反応時間が、化合物(A)の収率に関して特に有利であることが見出されている。反応時間は、より好ましくは、多くとも28時間、更に好ましくは多くとも12時間である。過度に長い反応時間は、非常に高コストで非経済的なプロセスにつながる。
【0050】
本発明のプロセスの全ての実施形態において、概略的に以下の反応が反応工程a1)で進行する:
【0051】
【化1】
【0052】
反応工程a2):
化合物(A)の単離は、本発明で任意選択であり、好ましくは、反応容器内に存在する反応混合物からの揮発性構成成分の分離、並びに/又は反応混合物からの化合物(A)の昇華及び反応容器からの化合物(A)の機械的除去から選択されるプロセス工程を含む。機械的除去の簡単な変形は、液体状態の生成物の排出と考えられる。
【0053】
用語「単離」又は「単離する」は、反応容器から反応生成物を除去する(取り出す)ことによって、反応容器内に存在する反応混合物から特定の所望の反応生成物を分離すること、又は反応生成物のみが反応容器内に残るように、反応混合物から反応生成物以外の化合物を別に除去することを包含する。
【0054】
一実施形態において、化合物(A)は、反応容器から引き出すことによって単離され、これは、さじ、スパチュラ、スクレーパ等の助けを借りて実施できる。液体状態での排出は非常に単純な方法であり、例えば、適切なバルブによって排出することによって、又は陽圧を使って液体を容器に移すことによって、実施できる。最初に、反応容器内に存在する混合物から揮発性の二次的構成成分、特になお存在するRCl等のアルキル供与体、すなわち、例えば、塩化メチル又は塩化エチルを分離し、その後で初めて化合物(A)を反応容器から引き出すことが、化合物(A)の純度にとって有利であることが見出されている。揮発性二次的構成成分、特になお存在するアルキル供与体RClは、好ましくは真空の適用によって分離される。この場合、1hPa未満、更に好ましくは0.1hPa未満の残留気圧の真空が有用であることが見出されている。
【0055】
任意選択的に、化合物(A)の単離の後に、化合物(A)を精製するための更なる工程が続いてもよく、化学物質を精製するための好適なプロセスは、当業者に既知である。しかしながら、好ましくは本発明によると、特定のプロセス方式及び本発明の反応物質により、更なる精製工程なしで、化合物(A)の十分に高い純度が達成される。好ましくは、本発明によると、化合物(A)の好ましい単離、すなわち、反応容器からの揮発性二次的構成成分の分離及び化合物(A)の引き出しと別に、化合物(A)を精製するための更なる工程は必要ではない。
【0056】
一実施形態において、化合物(A)の単離の際に、反応生成物が反応容器から不完全にしか引き出されない。反応容器内に残った化合物(A)の残留物は、更なるインジウムの添加及び活性化剤としてのアルキル供与体の更なる添加の後、次のバッチで化合物(A)を更に調製するために利用される。
【0057】
別の実施形態において、化合物(A)は反応混合物から単離されない。かかる実施形態において、化合物(A)を含む反応混合物は、インジウム含有前駆体、特に化合物(B)又は(C)の調製に直接使用される。これらの実施形態において、好ましくは化合物(B)又は(C)の調製のための追加の反応工程は、反応混合物からの化合物(A)の単離なしで、すなわち、反応工程a2)なしで、反応工程a1)の後に直接実施される。これにより、インジウム含有前駆体の調製における、一層短時間のプロセス方式が可能になる。
【0058】
本発明のプロセスは、好ましくは少なくとも70%、更に好ましくは少なくとも75%、なお更に好ましくは少なくとも79%、とりわけ好ましくは少なくとも85%、より一層好ましくは90%超、更により好ましくは95%超の収率での化合物(A)の調製を可能にする。本発明に関して示される収率の数値は、常に、理論的収率を基準とする。
【0059】
本発明により調製された化合物(A)の純度は、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%、更により好ましくは99%超である。したがって、好ましくは5%以下、より好ましくは2%以下、更に好ましくは1%未満の不純物、すなわち、不要物質が、調製された化合物(A)に存在する。
【0060】
本発明のプロセスによって得られる好ましい化合物(A)は、メチルインジウムセスキクロリド(MeInCl)(これはまた、上記のように、MeInClとMeInClとの混合物とみなすこともできる)及びエチルインジウムセスキクロリド(EtInCl)(これはまた、上記のように、EtInClとEtInClとの混合物とみなすこともできる)から選択される。最も好ましくは、本発明のプロセスは、MeInClの調製に好適である。
【0061】
2.インジウム含有前駆体を得るための化合物(A)の更なる処理
上記のプロセスによって得られる化合物(A)を、任意選択的に、更に処理して、好ましくは本発明による化合物(B)及び(C)から選択されるインジウム含有前駆体を得ることができる。したがって、本発明はまた、MOCVD又はMOVPEプロセスのための、好ましくは化合物(B)及び(C)から選択されるインジウム含有前駆体を調製するための、本発明のプロセスによって調製される化合物(A)の使用も包含する。
【0062】
本発明により調製される化合物(A)は、次の一般式:
In
のインジウム含有前駆体、すなわち、化合物(B)の調製に特に好適であり、式中、Rは1~4個の炭素原子を有する低級アルキル基である。アルキル基は分枝状でも非分枝状でもよく、好ましくは非分枝状である。Rは、好ましくはエチル及びメチルから選択され、特に、Rはメチルである。このプロセスに基づき、Rは化合物(A)中のR基によって決定され、そのため化合物(A)中のRは、化合物(B)のR基に相当する。
【0063】
あるいは、本発明により調製される化合物(A)は、次の一般式:
InR’
すなわち、化合物(C)であり、式中、Rは1~4個の炭素原子を有する低級アルキル基のものであり、このアルキル基は分枝状でも非分枝状でもよく、R’はR以外の求核性基である。R’は、好ましくは分枝状又は非分枝状の置換又は非置換アルキル、分枝状又は非分枝状の置換又は非置換アリールから選択される。
【0064】
R’は、特に、分枝状若しくは非分枝状アルキル若しくはアルコキシ基によって、又はアミン基によって置換されたアルキル又はフェニルであってもよい。具体的には、R’は、メチル、エチル、n-ブチル、プロピル、sec-ブチル、tert-ブチル、イソブチル、イソプロピル、シクロプロピル、シクロブチル、メトキシ、エトキシ、n-ブトキシ、プロポキシ、sec-ブトキシ、tert-ブトキシ、イソブトキシ、イソプロポキシ、シクロプロポキシ、シクロブトキシ等の分枝状又は非分枝状アルキル又はアルコキシ基で置換された1~6個の炭素原子を有するアルキル又はアリール基、あるいは、メチル、エチル、n-ブチル、プロピル、sec-ブチル、tert-ブチル、イソブチル、イソプロピル、シクロプロピル、シクロブチル等の分枝状又は非分枝状アルキル基型の基でそれ自身が置換されたアミン基で置換された(特に、一置換又は二置換)1~6個の炭素原子を有するアルキル又はアリール基である。
【0065】
求核性R’基は、例えば、フェニル、トリル、メシチル、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジブチルアミノ、ジイソプロピルアミノ、EtN-(CH、MeN-(CH、MeN-CH、EtN-(CH、EtN-CH、イソプロピル、シクロプロピル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、シクロプロピルであってもよいが、特にはプロピル、n-ブチル及びエチル又はメチルであってもよい。R及びR’の定義が同じ基を包含する場合、化合物(C)においてRとR’は互いに異なっていなければならない。したがって、Rがメチルの場合、R’はメチルであってはならない。
【0066】
本発明の一実施形態において、Rはメチルであり、R’はMeN-(CH-基である。本発明の更なる実施形態において、Rはメチルであり、R’はエチルである。本発明の更なる実施形態において、Rはエチルであり、R’はメチルである。その結果、化合物MeInEt、EtInMe及びMeIn-(CH-N-Me又は(CHIn-(CH-N-(CHが得られる。
【0067】
このプロセスに基づき、Rは化合物(A)中のR基によって決定され、その結果化合物(A)のRは、化合物(C)のR基に相当する。
【0068】
2.1.化合物(B)を得るための化合物(A)の更なる処理
好ましい実施形態において、化合物(A)を調製するプロセスの後に、化合物(B)が得られる次の更なる反応工程が追加的に続く:
b1)化合物(A)をアルキルリチウムと反応させて、テトラアルキルインジウム酸リチウム(LiInR)を生成し、LiInRを反応混合物から単離する工程、及び
b2)LiInRをインジウムクロリド成分と反応させて、化合物(B)を得る工程。
【0069】
反応工程b2)は、反応工程b1)の後に直接実施されてもよい。あるいは、反応工程b2)はまた、反応工程b1)から時間をずらして実施されてもよい。
【0070】
反応工程b1):
反応工程b1)は、化合物(A)とアルキルリチウムの反応によるテトラアルキルインジウム酸リチウムの生成を含み、このテトラアルキルインジウム酸リチウムは次の一般式:
LiInR
を満足し、式中、Rは上記の定義の通りである。Rは、有利には、メチル又はエチル、特にメチルである。このプロセスに基づき、Rは化合物(A)中のR基によって決定される。
【0071】
用語「アルキルリチウム」は、少なくとも1つのアルキル基とリチウムとを含む化合物を包含する。本発明によると、アルキルリチウムは、好ましくは次の一般式:
RLi
を有し、式中、Rは上記の定義の通りである。最も好ましくは、アルキルリチウムはエチルリチウム(EtLi)及びメチルリチウム(MeLi)から選択され、アルキルリチウムは、特にメチルリチウムである。
【0072】
アルキルリチウムは、反応工程b1)でアルキル化剤として使用されるが、還元剤としては使用されない。
【0073】
反応工程b1)は、好ましくは有機溶媒中で起こる。工程b1)に好適な有機溶媒は、特にジアルキルエーテルである。ジエチルエーテル、ジエトキシメタン、メチルテトラヒドロフラン、長鎖エーテル及びこれらの混合物から選択される溶媒を反応工程b1)で使用することが特に好ましく、長鎖エーテルは2個を超える炭素原子を有するアルキル基を含むものである。更に好ましくは、溶媒はジエチルエーテル又はジ-n-ブチルエーテル、更に好ましくはジエチルエーテルである。
【0074】
化合物(A)1当量あたり4~5.3当量、より好ましくは4.8~5.3当量、より一層好ましくは4.8~5.2当量、最も好ましくは約5当量のアルキルリチウムを使用することが特に有利であることが見出されている。
【0075】
好ましい実施形態において、アルキルリチウムが最初に有機溶媒に仕込まれ、続いて化合物(A)が添加され、好ましくは-10~10℃の温度、より好ましくは-5~5℃、更に好ましくは-2~2℃の温度、より一層好ましくは0+/-1℃の温度で、行われる。この反応は、好ましくは-30℃~有機溶媒の沸点、更に好ましくは-5℃~35℃の温度で起こる。
【0076】
別の実施形態において、化合物(A)は最初に有機溶媒に仕込まれ、その後アルキルリチウムが添加される。これは、好ましくはアルキルリチウムを有機溶媒との混合物として、より好ましくは-10~10℃、更に好ましくは-5~5℃、より一層好ましくは-2~2℃の温度で滴下により添加する工程を伴う。
【0077】
全ての反応物質が添加された後、好ましくは少なくとも10分間、更に好ましくは少なくとも15分間撹拌することが好ましい。反応時間は、一般的に48時間以下、好ましくは24時間以下である。
【0078】
LiInRは、反応混合物から単離される。これは、好ましくは溶媒及び副生成物、特にLiCl、又は反応物質の残留物を、好ましくは揮発性構成成分を留去すること、及び/又は反応混合物を濾過することによって除去することで実施される。LiClを除去するための濾過によるLiInRの単離及びその後の蒸留による溶媒の除去は、特に有利であることが見出されている。
【0079】
特に好ましい実施形態において、概略的に、以下の反応が反応工程a1)で進行する:
【0080】
【化2】
【0081】
反応工程b2):
化合物(B)は、LiInRとインジウムクロリド成分との反応により、LiInRから調製できる。
【0082】
本発明によると、「インジウムクロリド成分」は、インジウムと塩素とを含む化合物である。用語「インジウムクロリド成分」はまた、より具体的にはインジウム及び塩素だけでなく、少なくとも1つのアルキル基もまた含む化合物をも包含する。インジウムクロリド成分は、好ましくは次の一般式:
InCl
を有し、式中、aは0、1、2及び3から選択される数であり、bは1及び2から選択される数であり、cは1、2及び3から選択される数であり、ここでa+b+c=4又は4の倍数であり、より好ましくは、a、b及びcの合計=4又は8である。Rは、1~4個の炭素原子を有する低級アルキル基である。アルキル基は分枝状でも非分枝状でもよく、好ましくは非分枝状である。Rは、好ましくはエチル及びメチルから選択され、特にRはメチルである。
【0083】
最も好ましくは、インジウムクロリド成分は、InCl、RInCl、RInCl、RInCl及びこれらの混合物から選択される。非常に好ましくは、インジウムクロリド成分は、RInCl又はRInClであり、特にMeInCl、EtInCl、MeInCl又はEtInCl、更に好ましくはMeInCl又はMeInClである。好ましくは、化合物(A)は、インジウムクロリド成分として使用され、これは本発明のプロセスを更に安価にする。したがって、特に好ましい実施形態において、インジウムクロリド成分はRInCl、すなわち、化合物(A)である。インジウムクロリド成分は、有利には、上記のプロセス工程a1)及びa2)によって得られる。
【0084】
テトラアルキルインジウム酸リチウム対インジウムクロリド成分のモル比は、1:1~3:1、好ましくは約1:1、2:1又は3:1であってもよい。インジウムクロリド成分がRInClである実施形態において、テトラアルキルインジウム酸リチウム対インジウムクロリド成分の約1:1のモル比が特に有利であることが見出されている。インジウムクロリド成分がRInClである実施形態において、テトラアルキルインジウム酸リチウム対インジウムクロリド成分の約3:1のモル比が特に有利である。インジウムクロリド成分がRInClである実施形態において、テトラアルキルインジウム酸リチウム対インジウムクロリド成分の約2:1のモル比が特に有利である。
【0085】
テトラアルキルインジウム酸リチウムとインジウムクロリド成分との反応は、有機溶媒中で実施できる。工程b2)に好適な有機溶媒は、環状飽和炭化水素等のアルカン、芳香族、アルコール、エーテル及び環状エーテルから選択される。工程b2)に好適な有機溶媒は、特にアルカン及び芳香族であり、好ましくはn-ペンタン、シクロヘキサン、n-デカン、n-ヘプタン、n-ヘキサン、メチルシクロヘキサン、n-ノナン、n-オクタン及びベンゼンから選択され、特に好ましいのはn-ペンタンであることが見出されている。
【0086】
別の実施形態において、反応工程b2)で有機溶媒は使用されない、すなわち、有機溶媒は反応媒体として追加的に使用されない。これは、溶媒の部分的分解の結果生じる化合物(B)の有用性を制限する有機汚染物質の可能性が避けられることから、有利である。更に、これにより、プロセスを環境により配慮した形で実施できる。したがって、一実施形態において、工程b2)は有機溶媒不在で実施される。
【0087】
好ましくは、LiInRは、インジウムクロリド成分と共に、最初に反応器に仕込まれる。その後、有機溶媒を添加してよい。この後、好ましくは30℃~120℃の温度、更に好ましくは40℃~100℃の温度、より一層好ましくは50℃~90℃の温度まで、好ましくは加熱される。このような温度は、少なくとも10分間かつ長くとも24時間、好ましくは少なくとも30分間かつ長くとも20時間、更に好ましくは少なくとも40分間かつ長くとも12時間、より一層好ましくは少なくとも90分間かつ長くとも3時間維持されることが好ましい。
【0088】
続いて、好ましくは25+/-5℃の温度まで冷却することが好ましい。
【0089】
好ましくは、化合物(B)は、続いて混合物から単離される。化合物(B)の単離は、好ましくは、塩、例えば、塩化リチウムLiClを含む可能性のある反応混合物からの有機溶媒及び化合物(B)の除去を含む。これは特に、有機溶媒及び化合物(B)を新たな容器に再凝縮することによって実施される。この目的で、化合物(B)(すなわち、例えば、トリメチルインジウム)のような揮発性成分が全て、減圧下で、溶媒と共に残留物から留去される(例えば、LiClのような塩)。その後、溶媒を、好ましくは残留気圧0.1hPa未満、更に好ましくは0.01hPa以下の減圧下で、好ましくは-10℃+/-5℃のコールドトラップに留去することによって、溶媒を化合物(B)から分離する。そして、化合物(B)、例えば、トリメチルインジウム又はトリエチルインジウムは、容器に残る。任意選択的に、当業者に既知の精製プロセスによる更なる精製工程が続いてもよい。上記の更なる精製工程は、化合物(B)の蒸留、昇華又は再結晶を包含する。
【0090】
特に好ましい実施形態において、概略的に、以下の反応が反応工程b2)で進行する:
【0091】
【化3】
【0092】
インジウムクロリド成分が化合物(A)である別の実施形態において、概略的に、以下の反応が反応工程b2)で進行する:
【0093】
【化4】
【0094】
b1)及びb2)を含む追加の反応工程により、化合物(A)から化合物(B)を、好ましくは少なくとも60%、更に好ましくは少なくとも70%、より一層好ましくは少なくとも75%、特に好ましくは85%、より一層更に好ましくは90%超の収率で調製することができる。本発明により調製された化合物(B)の純度は、好ましくは少なくとも99%、より好ましくは少なくとも99.5%、より好ましくは99.8%超、更に好ましくは99.999%超である。特に、調製された化合物(B)を精製するための更なる工程を、好ましくは化合物(B)の昇華によって実施する場合、>99.999%の純度を達成できる。
【0095】
2.2.化合物(C)を得るための化合物(A)の更なる処理
別の実施形態において、本発明のプロセスに、以下を含む追加の更なる反応工程を加えることによって、化合物(A)を更に処理して、化合物(C)を得る:
c1)ジアルキルインジウムクロリド(RInCl)を化合物(A)から分離する工程、及び
c2)RInClをアルキル化剤と反応させて、化合物(C)を生成する工程。
【0096】
より好ましくは、化合物(C)は、ジメチルアミノプロピルジメチルインジウム(DADI)又はエチルジメチルインジウム(MeInEt)である。
【0097】
プロセス工程c1)において、ジアルキルインジウムクロリドは、RInCl(これは上記のように、RInClとRInClとの混合物とみなすこともできる)から分離され、ジアルキルインジウムクロリドは一般式RInClで表され、式中、Rは上記の定義の通りであり、有利にはメチル又はエチル、特にメチルであってもよく、Rは、化合物(A)の「R」基によって決定される。RInClは、昇華によって化合物(A)から分離できる。好ましくは、化合物(A)は、この目的で、150℃~200℃、更に好ましくは155℃~195℃、特に160℃~190℃の温度に加熱される。任意選択的に、昇華はまた、減圧下でも実施できる。この場合、好ましくは1hPa未満、更に好ましくは0.1hPa未満の残留気圧の真空が有用であることが見出されている。当業者は、プロセス工程c)を真空下で実施した場合、RInClの分離はまた、それに対応する低温でも実施できることを認識している。好ましくは、沈降物と昇華物とへの分離があり、昇華物は好ましくはRInClである。
【0098】
アルキル金属ハロゲン化物、例えば、KCl、更にはKF、又はその他のMX(M=Na、K、Cs及びX=F、Cl、Br、I)の添加により、昇華物の収率を明らかに増強し、RInClを完全に分離することができる。
【0099】
好ましい実施形態において、概略的に、以下の反応が反応工程c1)で進行する:
2RInCl+2KCl-->2K[RInCl]-->K[InCl]+KCl+3RInCl
【0100】
反応工程c1)は、典型的には保護ガス下、例えば、アルゴン又は窒素下で実施される。
【0101】
工程c2)におけるアルキル化剤は、特にR’MgX、R’Li及びR’Alから選択され、式中、R’は上記の定義の通りである。より好ましくは、アルキル化剤は、MeN-(CH-Mであり、式中、Mは特に、MgCl又はLi、あるいはエチルリチウム(EtLi)である。
【0102】
InClのRInR’、例えばDADIへの変換は、有機溶媒中でのアルキル化剤、例えば、DADIの場合にはMeN-(CH-Mとの反応によって実施できる。有機溶媒は、ジアルキルエーテル又は環状エーテル又はこれらの混合物であってもよく、特にジエチルエーテル又はTHF、更に好ましくはTHFであってもよい。
【0103】
反応工程c2)は典型的には、保護ガス下で実施される。
【0104】
好ましくは、アルキル化剤は、好ましくは最初に有機溶媒、特にTHF中に仕込まれ、その後RInClが添加される。この場合、RInClは、より好ましくは有機溶媒、特にTHFとの混合物として滴下により添加される。RInClの滴下による添加は、好ましくは徐々に実施され、より好ましくは少なくとも10分間、更に好ましくは少なくとも20分間かけて実施される。RInClの添加は、好ましくは50℃未満、更に好ましくは40℃未満、より好ましくは室温、すなわち、25℃+/-5℃で実施される。
【0105】
全ての反応物質、特にアルキル化剤及びRInClが添加された後、混合物は好ましくは撹拌される。好ましくは、撹拌中の温度は50℃未満、更に好ましくは40℃未満、より好ましくは室温、すなわち、25℃+/-5℃である。少なくとも5時間、更に好ましくは少なくとも10時間の撹拌が好ましい。コストの理由から、80時間、更に好ましくは50時間の反応時間を、好ましくは超えない。
【0106】
その後、化合物(C)を、好ましくは反応混合物から単離する。化合物(C)の単離は、好ましくは減圧下での有機溶媒の除去、並びに濾過及び/又は蒸留による反応混合物からの化合物(B)の分離を含んでもよい。
【0107】
アルキル化剤は、既知のプロセスよって調製することができ、例えば、MeN-(CH-Mは、削り屑状マグネシウム又は削り屑状リチウムとの反応によって3-クロロ-1-(ジメチルアミノ)プロパンから調製できる。典型的には、MeN-(CH-Mは、熱を加えながら、有機溶媒中、特にTHF中で調製される。任意選択的に、活性化のためにヨウ素を添加してよい。その他の既知のアルキル化剤は市販されている。
【0108】
化合物(A)を調製するための上記の調製プロセスの条件、及び任意選択的にインジウム含有前駆体、好ましくは化合物(B)及び(C)から選択されるインジウム含有前駆体を得るための更なる処理の条件を維持することによって、これらの化合物を高収率及び高純度で調製できる。本発明は、更に、本プロセスによって調製される化合物(A)、特にMeInCl、並びにそれから得られるインジウム含有前駆体、特にトリメチルインイジウム及びジメチルアミノプロピルジメチルインジウム、更にはRInClも包含する。
【0109】
本発明のプロセスにおいて、特に高い収率及び純度、並びにコスト効率が良く比較的環境に優しいプロセスの選択は、このプロセスを、化合物(A)又はインジウム含有前駆体の工業生産に理想的に適したものにする。より具体的には、本発明では自然発火性の中間体を生成せず、これは、コスト効率が良く複雑度の低い調製という点から特に有利である。本発明によるプロセスはとりわけ、特に高いインジウム利用度を特徴とする。本発明のプロセスによる全体的なインジウム変換率は、使用したインジウムを基準にして、好ましくは≧70%、更に好ましくは≧75%、より好ましくは≧80%、より一層好ましくは>95%である。インジウムアルコキシド又は酸化インジウム等の、任意選択的に得られる化合物(B)又は(C)の酸素含有量は、好ましくは<100ppm(m/m)、更には特に<1ppm(m/m)である。
【0110】
特定の構成は、式RIn(式中、Rは1~4個の炭素原子を有するアルキル基であり、このアルキル基は分枝状でも非分枝状でもよく、特にエチル又はメチルであってもよい)のトリアルキルインジウムを調製するためのプロセスに関し、このプロセスは、
-活性化剤の存在下で、インジウム金属を式RClの塩化アルキルと反応させることによって、式RInClの化合物(A)を調製する工程と、
-任意選択的に、化合物(A)を単離する工程と、
-化合物(A)をアルキルリチウムと反応させて、テトラアルキルインジウム酸リチウムLiInRを生成し、それを単離及び任意選択的に更に精製する工程と、
-テトラアルキルインジウム酸リチウムLiInRをインジウムクロリド化合物と反応させて、式RInのトリアルキルインジウムを得る工程と、
-任意選択的に、得られたトリアルキルインジウムを精製する工程と、を含む。
【0111】
更なる特定の構成は、式RIn(式中、Rは1~4個の炭素原子を有するアルキル基であり、このアルキル基は分枝状でも非分枝状でもよく、特にエチル又はメチルであってもよい)のトリアルキルインジウムを調製するためのプロセスに関し、このプロセスは、
-活性化剤の存在下で、インジウム金属を式RClの塩化アルキルと反応させることによって、式RInClの化合物(A)を調製する工程と、
-任意選択的に、化合物(A)を単離する工程と、
-化合物(A)をアルキルリチウムと反応させて、テトラアルキルインジウム酸リチウムLiInRを生成し、それを単離及び任意選択的に更に精製する工程と、
-テトラアルキルインジウム酸リチウムLiInRをインジウムクロリド化合物と反応させて、式RInのトリアルキルインジウムを得る工程と、
-任意選択的に、得られたトリアルキルインジウムを精製する工程と、を含み、
式RInClの化合物(A)は活性化剤として、インジウムクロリド化合物として、又はこれらの組み合わせのために使用される。
【0112】
更なる特定の構成は、式RIn(式中、Rは1~4個の炭素原子を有するアルキル基であり、このアルキル基は分枝状でも非分枝状でもよく、特にエチル又はメチルであってもよい)のトリアルキルインジウムを調製するためのプロセスに関し、このプロセスは、
-活性化剤の存在下で、インジウム金属を式RClの塩化アルキルと反応させることによって、式RInClの化合物(A)を調製する工程と、
-任意選択的に、化合物(A)を単離する工程と、
-化合物(A)をアルキルリチウムと反応させて、テトラアルキルインジウム酸リチウムLiInRを生成し、それを単離及び任意選択的に更に精製する工程と、
-テトラアルキルインジウム酸リチウムLiInRをインジウムクロリド化合物と反応させて、式RInのトリアルキルインジウムを得る工程であって、
活性化剤は、ハロゲン化インジウムInX(式中、Xは、塩素、臭素又はヨウ素であってもよい)ではなく、塩素Cl、塩化水素HCl、水素H、塩化鉄FeCl、(PtCl2-、PdClではなく、活性化剤は酸化物、特にInO、TiO、NiO又はFeではない、工程と、
-任意選択的に、得られたトリアルキルインジウムを精製する工程と、を含む。
【0113】
更なる特定の構成は、一般式:
InCl
(式中、aは0、1、2及び3から選択される数であり、bは1及び2から選択される数であり、cは1、2及び3から選択される数であり、ここでa+b+c=4又は4の倍数であり、a、b及びcの合計は、より好ましくは4又は8であり、式中、Rは1~4個の炭素原子を有するアルキル基であり、このアルキル基は分枝状でも非分枝状でもよく、特にエチル又はメチルであってもよい)のインジウムクロリド成分を調製するためのプロセスに関し、このプロセスは、
-活性化剤の存在下で、インジウム金属を式RClの塩化アルキルと反応させることによって、式RInClの化合物(A)を調製する工程と、
-任意選択的に、化合物(A)を単離する工程と、を含み、
活性化剤は、ハロゲン化インジウムInX(式中、Xは、塩素、臭素又はヨウ素であってもよい)ではなく、塩素Cl、塩化水素HCl、水素H、塩化鉄FeCl、(PtCl2-、PdClではなく、活性化剤は酸化物、特にInO、TiO、NiO又はFeではなく、
インジウムクロリド成分は、特に、RInCl、RInCl、RInCl及びこれらの混合物、又は特にMeInCl、EtInCl、MeInCl、EtInCl、MeInCl又はEtInCl(Et=エチル及びMe=メチル)であってもよい。
【0114】
更なる特定の構成は、式RIn(式中、Rは1~4個の炭素原子を有するアルキル基であり、このアルキル基は分枝状でも非分枝状でもよく、特にエチル又はメチルであってもよい)のトリアルキルインジウムを調製するためのプロセスであって、一般式:
InCl
(式中、aは0、1、2及び3から選択される数であり、bは1及び2から選択される数であり、cは1、2及び3から選択される数であり、ここでa+b+c=4又は4の倍数であり、a、b及びcの合計は、より好ましくは4又は8であり、式中、Rは1~4個の炭素原子を有するアルキル基であり、このアルキル基は分枝状でも非分枝状でもよく、特にエチル又はメチルであってもよい)のインジウムクロリド成分を調製するプロセスを包含するプロセスに関し、このプロセスは、
-活性化剤の存在下で、インジウム金属を式RClの塩化アルキルと反応させることによって、式RInClの化合物(A)を調製する工程と、
-任意選択的に、化合物(A)を単離する工程と、を含み、
活性化剤は、ハロゲン化インジウムInX(式中、Xは、塩素、臭素又はヨウ素であってもよい)ではなく、塩素Cl、塩化水素HCl、水素H、塩化鉄FeCl、(PtCl2-、PdClではなく、活性化剤は酸化物、特にInO、TiO、NiO又はFeではなく、
インジウムクロリド成分は、特に、RInCl、RInCl、RInCl及びこれらの混合物、又は特にMeInCl、EtInCl、MeInCl、EtInCl、MeInCl又はEtInCl(Et=エチル及びMe=メチル)であってもよい。
【0115】
更なる特定の構成は、式RIn(式中、Rは1~4個の炭素原子を有するアルキル基であり、このアルキル基は分枝状でも非分枝状でもよく、特にエチル又はメチルであってもよい)のトリアルキルインジウムを調製するためのプロセスに関し、このプロセスは、
-活性化剤の存在下で、インジウム金属を式RClの塩化アルキルと反応させることによって、式RInClの化合物(A)を調製する工程と、
-任意選択的に、化合物(A)を単離する工程と、
-化合物(A)をアルキルリチウムと反応させて、テトラアルキルインジウム酸リチウムLiInRを生成し、それを単離及び任意選択的に更に精製する工程と、
-テトラアルキルインジウム酸リチウムLiInRをインジウムクロリド化合物と反応させて、式RInのトリアルキルインジウムを得る工程と、を含み、
-化合物(A)の調製において、インジウム1当量あたり、1.5~3当量、特に1.5~2.5当量の塩化アルキルが使用される。
【0116】
更なる特定の構成は、一般式:
InCl
(式中、aは0、1、2及び3から選択される数であり、bは1及び2から選択される数であり、cは1、2及び3から選択される数であり、ここでa+b+c=4又は4の倍数であり、a、b及びcの合計は、より好ましくは4又は8であり、式中、Rは1~4個の炭素原子を有するアルキル基であり、このアルキル基は分枝状でも非分枝状でもよく、特にエチル又はメチルであってもよい)のインジウムクロリド成分を調製するためのプロセスに関し、このプロセスは、
-活性化剤の存在下で、インジウム金属を式RClの塩化アルキルと反応させることによって、式RInClの化合物(A)を調製する工程と、
-任意選択的に、化合物(A)を単離する工程と、を含み、
インジウムクロリド成分の調製において、インジウム1当量あたり、1.5~3当量、特に1.5~2.5当量の塩化アルキルが使用される。
【0117】
更なる特定の構成は、式RIn(式中、Rは1~4個の炭素原子を有するアルキル基であり、このアルキル基は分枝状でも非分枝状でもよく、特にエチル又はメチルであってもよい)のトリアルキルインジウムを調製するためのプロセスに関し、このプロセスは、
-活性化剤の存在下で、インジウム金属を式RClの塩化アルキルと反応させることによって、式RInClの化合物(A)を調製する工程と、
-任意選択的に、化合物(A)を単離する工程と、
-化合物(A)をアルキルリチウムと反応させて、テトラアルキルインジウム酸リチウムLiInRを生成し、それを単離及び任意選択的に更に精製する工程と、
-テトラアルキルインジウム酸リチウムLiInRをインジウムクロリド化合物と反応させて、式RInのトリアルキルインジウムを得る工程と、を含み、
化合物(A)の調製において、塩化アルキルの添加は、1bar~4.5bar、又は1.5bar~4bar、又は2~3.5barの一定ゲージ圧において実施される。塩化アルキルは、有利には、ガス状塩化アルキルの制御された導入又は注入によって添加される。
【0118】
更なる特定の構成は、一般式:
InCl
(式中、aは0、1、2及び3から選択される数であり、bは1及び2から選択される数であり、cは1、2及び3から選択される数であり、ここでa+b+c=4又は4の倍数であり、a、b及びcの合計は、より好ましくは4又は8であり、式中、Rは1~4個の炭素原子を有するアルキル基であり、このアルキル基は分枝状でも非分枝状でもよく、特にエチル又はメチルであってもよい)のインジウムクロリド成分を調製するためのプロセスに関し、このプロセスは、
-活性化剤の存在下で、インジウム金属を式RClの塩化アルキルと反応させることによって、式RInClの化合物(A)を調製する工程と、
-任意選択的に、化合物(A)を単離する工程と、を含み、
インジウムクロリド成分の調製において、塩化アルキルの添加は、1bar~4.5bar、又は1.5bar~4bar、又は2~3.5barの一定ゲージ圧において実施される。塩化アルキルは、有利には、ガス状塩化アルキルの制御された導入又は注入によって添加される。
【0119】
更なる特定の構成は、式RIn(式中、Rは1~4個の炭素原子を有するアルキル基であり、このアルキル基は分枝状でも非分枝状でもよく、特にエチル又はメチルであってもよい)のトリアルキルインジウムを調製するためのプロセスに関し、このプロセスは、
-活性化剤の存在下で、インジウム金属を式RClの塩化アルキルと反応させることによって、式RInClの化合物(A)を調製する工程と、
-任意選択的に、化合物(A)を単離する工程と、
-化合物(A)をアルキルリチウムと反応させて、テトラアルキルインジウム酸リチウムLiInRを生成し、それを単離及び任意選択的に更に精製する工程と、
-テトラアルキルインジウム酸リチウムLiInRをインジウムクロリド化合物と反応させて、式RInのトリアルキルインジウムを得る工程と、を含み、
化合物(A)とアルキルリチウムとの反応において、化合物(A)1当量あたり1~5当量のアルキルリチウムが使用される。
【0120】
本発明のプロセスによって任意選択的に調製できるインジウム含有前駆体、特にトリメチルインイジウム及びジメチルアミノプロピルジメチルインジウムは、その卓越した純度、特にその極めて低い酸素含有量から、例えば、半導体又は半導体部品の製造のためのMOCVDプロセスに特に好適である。最終的に製造される半導体又は半導体部品は、多様な工業的利用の可能性を有する。したがって、本発明は、本発明によって任意選択的に調製できる化合物(B)及び/又は(C)の、有機金属気相成長法(MOCVD)又は有機金属気相エピタキシー法(MOVPE)のための前駆体としての使用も包含する。
【実施例
【0121】
(化合物Aとしての)MeInClを本発明のプロセスに従って調製した。化合物(A)はまた、化合物(B)としてのMeInの調製にも使用された。更に、ジメチルアミノプロピルジメチルインジウムも化合物(C)として調製した。
【0122】
1.MeInClの調製
1.1.活性化剤を用いたインジウムと塩化メチルとの反応によるMeInClの生成(インジウム対活性化剤のモル比:約10:1)
2805mgのインジウム(24.4mmol)を最初に250mLのParr bombに仕込み、275mgのInCl(1.24mmol)と200mgのMeIn(1.25mmol)との混合物を、磁気撹拌棒で混和した。その後、Parr bombを220℃に加熱した油浴に30分間浸漬して、均質化した。室温に冷却した後、Parr bombを-200℃に冷却し、真空排気した。その後、-200℃において、2582mgの塩化メチル(51.1mmol、インジウムベースで2.1当量)を凝縮させ、Parr bombを再度220℃に加熱した。1時間後、全てのインジウムが溶解した。反応中、Parr bombの低温領域上に無色固体が昇華し、Parr bombを繰り返し叩くことによってこれを反応領域に移動させた。室温に冷却した後、真空を適用することによって過剰の塩化メチルを除去し、4810mgのMeInCl(無色固体)を単離した(12.6mmolのMeInClに相当。使用したトリメチルインジウム及びInClを除去した残りは4335mg/11.4mmol/収率:93%残存)。
【0123】
1.2.活性化剤を用いたインジウムと塩化メチルとの反応によるMeInClの生成(インジウム対活性化剤のモル比:約177:1)
6.11gのインジウム(53.2mmol)及び60mgのInCl(0.3mmol)を、最初に、撹拌棒と共にParr bombに仕込んだ。Parr bombを、はっきりとした赤/茶色が現れるまでホットエアガンで加熱した。続いて、Parr bombを減圧下で室温まで冷却し、5.99gのMeCl(118.6mmol)を-196℃で凝縮させた。室温まで融解した後、Parr bombを210℃に加熱した油浴に浸漬した。この間、温度が確実に205℃~215℃の範囲にあるようにした。110分後、全てのインジウムが溶解し、透明な無色の溶融物が観察された。Parr bombを油浴から取り出し、全ての揮発性構成成分を減圧下で除去した。MeInClを、無色固体として単離した。収率:9.82g(25.8mmol、97%)。
【0124】
1.3.活性化剤を用いたインジウムと塩化メチルとの反応によるMeInClの生成(インジウム対活性化剤のモル比:約4.7:1)
125mLのParr bombに、最初に860mgのIn(7.5mmol)及び298mgのMeInCl(0.8mmol、実施例1.1より)を、磁気撹拌棒と共に仕込む。-200℃に冷却し、真空排気した後、1.22gのMeCl(24.2mmol、インジウムベースで3.2当量)を凝縮させ、Parr bombを220℃に予熱した油浴に浸漬する。1時間後、インジウムは完全に溶解した。反応中、容器の低温の壁に、無色固体の付着が観察される。1.505gのMeInClを無色固体として単離した(3.95mmolに相当。使用したMeInClの除去後:1207mg/3.2mmol/84%)。
【0125】
1.4.活性化剤を用いたインジウムと塩化メチルとの反応によるMeInCl生成(インジウム対活性化剤のモル比:約10:1)
1Lの圧力反応器に、最初に、300g(2.62mol)のインジウムを仕込み、これをアルゴン下、160℃で溶融する。撹拌しながら、49.92g(0.13mol)のMeInClを添加する。圧力反応器は、最初にアルゴンを除去するために真空排気し、その後MeClを3bar(絶対圧、ゲージ圧2bar)まで注入する。撹拌しながら、反応混合物を200℃まで加熱する。約185℃の内部温度で、ガス吸収の開始によって反応の開始が明らかである。圧力は、その後、MeClを補給することによって、3barで一定に保たれる。反応開始の直後でも、溶融インジウムの上に液相の生成を観察できる。この溶液の赤い色は、インジウム(I)化合物の存在を示す。反応器は、反応混合物がそれ以上MeClを吸収せず、反応器内にもはや液体インジウムがはっきりと見えなくなるまで、200℃の反応温度で10時間維持する。続いて、淡黄色の反応溶液を室温まで冷却し、その間に生成物が反応器内で凝固し、残留MeClを減圧下で反応器から除去する。その後、生成物をアルゴン下で加熱することによって再度液化し、圧力反応器から1Lのシュレンク管に排出する。539gのMeInClを無色固体として単離することができ、これは、使用した(金属)インジウムを基準として、98%(498g、1.28mol)の収率に相当する。
【0126】
2.MeInを得るためのMeInClの更なる処理
2.1.MeInClとMeLiとの反応によるLiInMeの生成
1430mgのMeInCl(3.75mmol、実施例1.1より)を、0℃にて、12mLのMeLi溶液(ジエチルエーテル中1.565mol/L)に加えた。室温で約1時間撹拌した後、懸濁液をセライトを用いずに濾過し、濾液から溶媒を除去した。1128mgの無色固体が単離された(6.2mmolのLiInMeに相当、収率:83%)。
【0127】
2.2.LiInMeとMeInClの反応によるMeInの生成
947mgのLiInMe(5.2mmol、実施例2.1より)及び660mgのMeInCl(1.73mmol、実施例1.3より)を、最初に125mLのParr bombに仕込み、10mLのペンタンを加えた。続いて、Parr bombを70℃に予熱した油浴に浸漬し、その温度で2時間撹拌した。70℃で、灰色の固体(LiCl及び不純物)を含有する透明な液体が観察され、これは、室温まで冷却する間に凝固して結晶スラリーになった。Parr bombの揮発性構成成分をコールドトラップに再凝縮し(RT→-78℃)、続いて、ペンタン溶媒を、中真空下、-8℃(塩化ナトリウム/氷混合物)で除去した。980mgの無色固体を単離した。これは微量の塩化リチウムでしか汚染されていなかった。6.1mmol/収率:70%トリメチルインイジウムに相当。
【0128】
2.3.LiInMeとMeInClの反応によるMeInの生成
1079mgのLiInMe(5.9mmol)及び1067mgのMeInCl(5.9mmol)を、最初に125mLのParr bombに仕込み、20mLのペンタンを加えた。続いて、Parr bombを70℃に予熱した油浴に浸漬し、その温度で一晩撹拌した。70℃で、わずかに濁った懸濁液が観察され、これを室温まで冷却するにつれ、凝固して結晶スラリーになった。Parr bombの揮発性構成成分をコールドトラップに再凝縮し(RT→-78℃)、続いて、ペンタン溶媒を、中真空下、-8℃(塩化ナトリウム/氷混合物)で除去した。1591mgの無色固体が単離された(10.0mmol、収率:81%トリメチルインイジウム)。
【0129】
3.ジメチルアミノプロピルジメチルインジウム(DADI)を得るためのMeInClの更なる処理
3.1.昇華によるMeInClからのMeInClの分離
1050mg(2.76mmol)のMeInCl(実施例1.4より)をシュレンク管に入れて、170~180℃の油浴に一晩浸漬した。無色固体が、シュレンク管の低温領域で再昇華した。室温に冷却した後、冷却された溶融物が底部に観察された。昇華した固体の質量(MeInCl、H NMRで同定):160mg(0.89mmol、収率:32%)。冷却された溶融物の質量:860mg。
【0130】
3.2.KCl存在下での昇華によるMeInClからのMeInClの分離
昇華器を取り付けたシュレンク管内で、1.60g(4.20mmol)のMeInCl(実施例1.4より)を、0.44g(5.91mmol)のKClと共に、透明な均質溶融物が得られるまで、140℃で溶融した。室温に冷却した後、系全体を10-3mbarまで真空排気し、凝固した溶融物を190℃まで徐々に加熱した。この間に、固体は溶融を開始し、同時に、昇華器内に無色固体の再昇華が観察された。約2時間後、溶融物は無色固体に変換され、昇華が終了した。昇華器から、1.12g(6.22mmol、収率:99%)のMeInClを無色固体として得ることができ、H NMRで同定した。
【0131】
3.3.MeInClとジメチルアミノプロピルマグネシウムクロリドとの反応
500mL 3つ口フラスコに、最初に150mLの乾燥THF及び5.26g(216mmol、1.95当量)の削り屑状マグネシウムを仕込み、内容物を加熱還流した。
【0132】
マグネシウムを活性化するためにスパチュラの先ほどのヨウ素を加えた後、15.55g(126mmol、1.14当量)の3-ジメチルアミノプロピルクロリドをゆっくりと滴下により添加し、次にこの反応混合物を更に2.5時間還流加熱した。反応混合物を室温まで冷却した後、150mLの乾燥THFに溶解した20.00g(111mmol)のMeInClを30分以内に滴下により添加し、得られた反応溶液を室温で20時間撹拌した。
【0133】
その後、減圧下でTHFを除去し、残留物を100mLの乾燥ヘキサンに懸濁して室温で2時間撹拌し、得られた白色固体をリバーシブルフリットで除去し、1回につき50mLの乾燥ヘキサンで2回洗浄した。透明な濾液を減圧下で濃縮乾固し、80℃及び5mbarで蒸留して精製した。DADIを、透明液体として得た(19.7g、85.3mmol、収率:77%)。
【0134】
3.3.MeInClと3-ジメチルアミノプロピルリチウムとの反応
500mL 3つ口フラスコに、最初に75mLの乾燥THF及び1.16g(170mmol、3当量)の削り屑状リチウムを仕込み、内容物を加熱還流した。
【0135】
還流に達した後、10.12g(83.2mmol、1.5当量)の3-ジメチルアミノプロピルクロリドをゆっくりと滴下により添加し、次にこの反応混合物を更に2.5時間還流加熱した。反応混合物を室温まで冷却した後、75mLの乾燥THFに溶解した10.00g(55.4mmol)のMeInClを30分以内に滴下により添加し、得られた反応溶液を室温で20時間撹拌した。
【0136】
その後、減圧下でTHFを除去し、残留物を100mLの乾燥ペンタンに懸濁して室温で2時間撹拌し、得られた白色固体をリバーシブルフリットで除去し、1回につき50mLの乾燥ペンタンで2回洗浄した。透明な濾液を減圧下で濃縮乾固し、80℃で蒸留して精製した。DADIを、透明液体として得た。