(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-10
(45)【発行日】2022-03-18
(54)【発明の名称】高速かつ効率的にインビトロ増幅ヒト間葉系幹細胞的方法および使用
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0775 20100101AFI20220311BHJP
C12N 5/078 20100101ALI20220311BHJP
【FI】
C12N5/0775
C12N5/078
(21)【出願番号】P 2020180939
(22)【出願日】2020-10-28
【審査請求日】2020-10-28
(31)【優先権主張番号】202010846476.2
(32)【優先日】2020-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520422566
【氏名又は名称】遵義医科大学附属医院
(74)【代理人】
【識別番号】100205936
【氏名又は名称】崔 海龍
(74)【代理人】
【識別番号】100132805
【氏名又は名称】河合 貴之
(72)【発明者】
【氏名】肖 建輝
(72)【発明者】
【氏名】羅 ▲ゆう▼
(72)【発明者】
【氏名】鍾 建江
(72)【発明者】
【氏名】余 昌胤
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0002832(US,A1)
【文献】特表2016-516797(JP,A)
【文献】特表2011-523934(JP,A)
【文献】特表2017-511876(JP,A)
【文献】特表2007-530543(JP,A)
【文献】特表2013-507945(JP,A)
【文献】特表2014-510153(JP,A)
【文献】国際公開第2019/140315(WO,A2)
【文献】Kristina V. Kitaeva et al.,BioNanoScience,2019年03月15日,Vol. 9,p. 502-509
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C12Q
A61K
G01N
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト末梢血免疫細胞を用いてヒト間葉系幹細胞の増殖を促進するヒト間葉系幹細胞の高速かつ効率的なインビトロ増幅方法であって、 ヒト末梢
血免疫細胞とヒト間葉系幹細胞とを共培養
し、
ヒト末梢血免疫細胞とヒト間葉系幹細胞とを共培養するときの細胞数の比率は300:1である、ことを特徴とする
、方法。
【請求項2】
前記ヒト末梢血免疫細胞は、ヒト末梢血単核細胞、ヒト末梢血単球、
またはヒト末梢血リンパ球
である、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ヒト末梢血免疫細胞は、ヒト末梢血リンパ球である、ことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ヒト末梢血免疫細胞とヒト間葉系幹細胞の共培養方法は、接触共培養
または非接触共培養
である、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ヒト末梢血免疫細胞とヒト間葉系幹細胞の共培養方法は、接触共培養である、ことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ヒト末梢血免疫細胞は、ドナーの年齢により制限されない、ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ヒト末梢血免疫細胞は、ヒト間葉系幹細胞の生物学的特性を維持し、幹細胞マーカーおよび増殖細胞核抗原の発現を促進し、その遊走能力、増殖能力、自己更新および分化能力を顕著に増強させることができる、ことを特徴とする請求項1から
6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幹細胞および再生医療分野に属し、ヒト間葉系幹細胞を高速かつ効率的にインビトロ増幅する方法および使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell,MSC)は、多方向分化、免疫調節、組織再生修復促進などの優れた機能特性を有するとともに、低免疫原性、非腫瘍形成性などの優位性を有するため、様々な治療困難な病気、例えば、心血管疾患(Micro circulation.2017;24(1))、糖尿病(Int Immunopharmacol.2017;44:191-196)、神経系疾患(J Tissue Eng Regen Med.2013,7:169-82.)および悪性腫瘍(Cell Research.2008;18:500-507.)の治療において幹細胞治療に適用できる最も有望な資源であると考えられている。2018まで、700を超えるヒトMSC治療臨床試験(https://www.clinicaltrials.gov)が世界中で承認されており、数百の疾患が関係している。1995年に最初のヒトMSC臨床試験が実施されて以来、大規模な臨床応用の成功例はなかった。ヒトMSCの臨床応用に関連する主要な基本的な科学的問題と主要な技術はまだ解決されていないためである。例えば、細胞の数と質は、ヒトMSCの臨床応用にとって根本的で基本的な問題である。ヒト組織由来のMSCの数は限られており、臨床治療に必要な細胞数の要求を満たすことは困難であるため、ヒトMSCのインビトロ増幅再生医療の分野で大きな問題となっている。近年、バイオテクノロジーの急速な発展に伴い、培養条件の改善、バイオリアクター、マイクロキャリア、足場などの2Dおよび3DテクノロジーによるヒトMSCの増幅により、基本的にヒトMSC細胞の数が限られているという問題が解決された(Nature Biomedical Engineering 2019;3:90-104)。しかしながら、ヒトMSCの長期継代培養およびインビトロ増幅過程において、環境ストレスおよび生理的要因による細胞形態の異常、遺伝子タンパク質発現プロファイルの変化および細胞老化により、ヒトMSC細胞表面マーカー、幹細胞マーカー、免疫調節能力、遊走およびホーミング能力、自己更新能力、多方向分化潜在能力などの生物学的特性の進行性喪失が引き起こされ、増幅により得られた細胞の品質が大きな影響を受け、臨床治療効果に大きい影響を与えることで、従来のインビトロ増幅技術により得られたヒトMSCは科学研究および臨床応用において大幅に制限されている。
【0003】
そこで、科学者らは、ヒトMSCインビトロ増殖細胞の品質を改善するために多くの研究を行い、一連のインビトロ増殖方法を提案した。例えば、レーザー照射による培養液の前処理、外因性サイトカインおよび細胞外マトリックスの添加(Biomaterials.2012;33:4480-9;FASEB J.2011;25:1474-85)、天然小分子化合物処理(Theranostics.2016;6:1899-1917.)、並びに遺伝子工学など(Nature.2008;451:141-6.)は、既にMSC長期増幅後の幹細胞性(stemness)および機能の維持および強化に用いられている。しかし、これらの方法に固有の設計上の多くの欠陥は、臨床応用を制限する。例えば、外因性サイトカインおよび細胞外マトリックスは継続的な作用を必要とし、その結果、効率が低く、コストが高くなる。遺伝子組換えによるMSCには、突然変異または奇形の潜在的なリスクがある(J Thorac Cardiovasc Surg.2008;136:1388-9.)。そのため、インビトロで増幅された後のヒトMSCの機能と安全性を維持または強化するためのより効果的で信頼性の高い方法を開発する必要がある。
【0004】
炎症は多くの慢性および退行性疾患の基礎であり、体の重要な防御反応でもある。また、炎症中に生成される様々なサイトカインは、再生プロセスを調節し、損傷した細胞を除去し、組織修復を開始することができ、組織細胞再生の重要な推進要因である。例えば、腸内では、活性化されたた免疫細胞は、多くの炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-6、IL-10およびIL-17などを含む)を産生し、腸幹細胞の増殖および分化を調節することにより腸細胞の再生反応を制御することができる。さらに、炎症性サイトカインの産生は、腸粘膜細胞が損傷した後、その修復再生障碍によって引き起こされた壊死性腸炎を防ぐことができる(N Engl J Med.2011,364:255-64;Cell.2004,23;118:229-41.)。これは、炎症と組織再生の間に密接な関係があることを示している。近年、大量の証拠により、生体の微小環境はヒトMSCの臨床的有効性を決定する重要な要因の一つであることを示している。炎症性因子(TNF-αおよびIL-1β)の前処理は、MSCがサイトカイン(IL-1A、RANTES、G-CSF)を分泌することを促進し、その免疫調節能力を向上できることが証明されている(Cell Mol Immunol.2012;9:473-81;Cytotherapy,2017;19:181-193)。また、MSC免疫調節能力はその幹細胞性特徴に関係がある。Shuaiらによって、メラトニンはインビトロ増幅過程におけるラット骨髄MSCの幹細胞性の喪失を効果的に防止することにより、そのインビボ免疫治療の効果を維持することが証明されている(Theranostics.2016,6:1899-1917.)。これは、MSCのインビトロ増幅培養の過程において、適切な炎症性微小環境が幹細胞性の喪失を防止し、さらには幹細胞性を高めるための潜在的な手段であることを示唆している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在のインビトロ増幅のヒトMSCの存在数が不足であり、品質が悪く、臨床効果が限られたなどの問題に対して、本発明は、ヒト間葉系幹細胞のインビトロ長期増幅を促進する高速、高効率、安全、操作可能な方法を提供することを目的とする。この方法によれば、品質が高く、安全で効果的なヒト間葉系幹細胞が得られる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために、本発明では、ヒトMSCとヒト末梢血免疫細胞(例えばPBMC、またはPBMCから分離されたPBMおよびPBL)とを共培養する。実験データは、免疫細胞がいずれもヒトMSC増殖を促進することができ、増殖促進効果がPBL>PBMC>PBMであることを示している。
【0007】
本発明に記載のヒト間葉系幹細胞は、健康、満期で帝王切開で出産した女性に由来する新鮮な臍帯、羊膜、臍帯血から分離して得られたものであり、臍帯間葉系幹細胞、羊膜間葉系幹細胞および臍帯血間葉系幹細胞を含む。
【0008】
本発明に記載のヒト末梢血免疫細胞は、正常に身体検査を受けたヒトの末梢血から採取し、密度勾配遠心分離法により分離してPBMCを取得し、さらにPBMがプラスチック細胞培養プレートに付着して接着成長しやすい特性を利用し、PBMCからPBMおよびPBLを分離する。
【0009】
本発明に記載のヒト末梢血免疫細胞PBMCとヒトMSCとの共培養細胞比率は1:1-400:1であり、300:1である場合の増幅効果が最も高い。
【0010】
本発明に記載のヒト末梢血免疫細胞PBMCとヒトMSCとの共培養方式は、接触共培養および非接触共培養を含み、接触共培養の効果が最も高い。
【0011】
本発明に記載のヒト末梢血免疫細胞PBMCの由来源は年齢に制限されず、ヒトMSCとの接触共培養によりいずれも良好な増幅効果が得られ、異なる年齢群間で統計的な差異がない。
【0012】
本発明に記載のヒト末梢血免疫細胞PBLとヒトMSCとの長期接触共培養により得られた細胞数は、通常培養方法の10倍以上である。
【0013】
本発明に記載のヒト末梢血免疫細胞PBLとヒトMSCとの接触共培養により、ヒトMSC幹細胞性マーカーOct4の発現は顕著に向上する。
【0014】
本発明に記載のヒト末梢血免疫細胞PBLとヒトMSCとの接触共培養により、ヒトMSCの増殖能力が顕著に向上し、ヒトMSC増殖細胞核抗原PCNAの発現が促進される。
【0015】
本発明に記載のヒト末梢血免疫細胞PBLとヒトMSCとの接触共培養により、ヒトMSCの遊走能力が向上し、スクラッチテストにおいて遊走細胞数が顕著に増加する。
【0016】
本発明に記載のヒト末梢血免疫細胞PBLとヒトMSCとの接触共培養により、ヒトMSCの自己更新能力が向上し、ヒトMSCクローンの形成が顕著に促進される。
【0017】
本発明に記載のヒト末梢血免疫細胞PBLとヒトMSCとの接触共培養により、ヒトMSCの多方向分化(骨形成細胞、軟骨細胞および脂肪細胞への分化を含む)能力が顕著に向上する。。
【0018】
本発明に記載のヒト末梢血免疫細胞PBLとヒトMSCとの接触共培養により得られたヒトMSCは、疾患モデルに対して免疫拒絶反応が発生せず、安全で有効である。
【発明の効果】
【0019】
本発明で増幅するヒトMSCは潰瘍性結腸炎マウスモデルの治療に適用でき、効果が顕著で、免疫拒絶反応が発生しない。さらに、異なる年齢ドナーに由来のPBMCはヒトMSC共培養によるインビトロ増幅に適用でき、統計的な差異がない。これは、被験体自身の末梢血免疫細胞を用いてMSCを増幅することができる。したがって、本発明でインビトロ増幅したヒトMSC細胞の品質が高く、治療効果が高い。特に、被験体自身の末梢血免疫細胞を用いて増幅することにより、潜在的な免疫拒絶リスクと回避され、より安全であり、臨床には大きな応用の見通しがある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】ヒトMSCの表現型同定(ヒト羊膜MSCを例とする)である。
図1Aは、フローサイトメトリーによる表面分子マーカーの検出である。
図1Bは、免疫細胞化学染色によるビメンチンおよびケラチンCK19の検出である。
【
図2】MSC増殖能力に対するヒトPBMCとヒトMSCの異なる細胞比率での接触共培養の影響のEDU測定である。
【
図3】MSC増殖能力に対するヒトPBMCとヒトMSCとの異なる共培養方式(接触または非接触)の影響のEDU測定である。
【
図4】MSC増殖能力に対する異なる年齢ドーナーに由来のPBMCとヒトMSCの接触共培養の影響のEDU測定である。
【
図5】MSC増殖能力に対するヒト末梢血中の異なる免疫細胞(PBMCおよびその末梢血単球(PBM)、末梢血リンパ球(PBL)を含む)のそれぞれとヒトMSCの接触共培養の影響のEDU測定である。
【
図6】MSC増殖能力に対するPBLと異なる組織(臍帯)に由来のヒトMSCとの接触共培養の影響のEDU測定である。
【
図7】MSC増殖能力に対するPBLと異なる組織(臍帯血)に由来のヒトMSCとの接触共培養の影響のEDU測定である。
【
図8】ヒトMSC増幅細胞数に対するPBLとヒトMSCとの長期接触共培養および12日間の通常方法培養の影響である。
【
図9】ヒトMSC中の幹細胞性因子Oct4および増殖細胞核抗原PCNAの発現に対するPBLとヒトMSCの接触共培養の影響のwestern blotting測定である。
【
図10】ヒトMSCクローン形成に対する9日間のPBLとヒトMSCの接触共培養および通常方法培養の影響である。
【
図11】ヒトMSCの骨形成、軟骨および脂肪細胞への分化に対するPBLとヒトMSCの接触共培養および通常培養方法の影響である。
【
図12】ヒトMSC遊走能力に対するPBLとヒトMSCの共培養および通常培養方法の影響のスクラッチテストによる測定である。
【
図13】潰瘍性結腸炎マウスに対するMSC移植の治療効果に対するPBLとヒトMSCの接触共培養および通常培養方法の評価である。
図13Aはマウスの体重変化を示す。
図13Bは、マウス疾患活動性指標(DAI)のスコアを示す。
図13Cは病理学的観察を示す。
図13Dは病理学スコアを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施をより十分に説明し、本発明の目的、技術的手段および利点をより明確にするために、以下、図面および実施例により本発明の技術的手段をさらに詳しく説明する。異なる組織由来のMSCは結果に影響を与えない(実施例7を参照)。本実施例では、主にヒト羊膜MSCを用いて説明する。理解できるように、ここで説明する具体的な実施例は、本発明の実施を解釈するものに過ぎず、本発明を制限するものではない。また、本発明の実施計画は、遵義医学院付属病院論理委員会の審査に合格した(論理審査番号:KLLY-2017-003)。
【0022】
炎症と組織再生との関係、およびMSC特性と機能に対する炎症性サイトカインの影響に基づいて、本発明者は、ヒトMSCとヒト末梢血中の免疫細胞(末梢血単核細胞(Peripheral blood mononuclear cell,PBMC)およびPBMCから分離した単球(Peripheral blood monocyte,PBM)およびリンパ球(peripheral blood lymphocyte,PBL))とを共培養することにより、これらの免疫細胞、特にPBLがヒトMSCの増幅を顕著に促進することができ、増殖した細胞の生物学的特性が変わらず、幹細胞性特徴、ホーミング遊走能力、増殖能力、自己更新および多方向分化能力がいずれも顕著に増強されることを発見した。
【0023】
<実施例1>ヒトMSCの分離培養および同定
満期帝王切開により得られた健康で新鮮な胎盤から羊膜組織を剥離し、1%ペニシリン・ストレプトマイシン(最終濃度はペニシリン:100IU/mL、ストレプトマイシン:100IU/mL、使用直前に調製)を含むD-PBS溶液で残留血痕および粘液を繰り返し洗浄した。約1cm
2のサイズで羊膜を切った後、50mL遠心管に分注し、羊膜組織体積の約2倍の0.02%EDTA-2Na含有0.05%トリプシン消化液を加え、37°C恒温水槽において185rpmで約30分間回転消化し、300メッシュのステンレス鋼濾過網で濾過し、上清を捨て、上記ステップを1回繰り返した。消化後の羊膜組織を1%ペニシリン-ストレプトマイシンを含むD-PBS液で1回洗浄し、等体積の0.05mg/mLのDNase Iを含む0.5mg/mLのII型コラゲナーゼ消化液を加え、37°C、190rpmで1~1.5時間回転消化することで羊膜破片を完全に綿状に消化し、300メッシュの篩網で濾過し、細胞濾液を収集し、1500rpmで10分間遠心分離し、上清を捨て、得られた細胞沈殿はヒト羊膜MSC(human amnion-derived mesenchymal stem cells,hA-MSC)であった。10%FBSを含む低糖DMEM完全培地で細胞を再懸濁し、T75細胞培養フラスコに接種し、37°C、5%CO
2、85-100%空気、飽和湿度の条件下で恒温培養し、細胞コンフルエンスが80%以上に達した後、継代培養を行い、第3継代(P3)細胞を収集し、実験に用いた。また、組織ブロック付着法により新鮮なヒト臍帯組織からヒト臍帯MSCを分離し、密度勾配遠心分離法により新鮮なヒト臍帯血からヒト臍帯血MSCを分離した。得られたMSCは、CD90、CD105、CD73、CD44およびCD29などの間葉細胞表面分子を高発現し、CD34、CD11b、CD19、CD45およびHLA-DRなどの造血幹細胞マーカー並びにMHCクラスII細胞表面分子を発現しなかった(
図1A)。免疫細胞化学染色法により検出した結果、この細胞は間葉細胞マーカーであるビメンチンを高発現し、上皮細胞マーカーであるケラチンCK19を発現せず(
図1B)、典型的な間葉細胞の表現型を有する。
【0024】
<実施例2>ヒト末梢血から免疫細胞の分離
通常の身体検査を受けている人から新鮮な末梢血を採取し、等体積の滅菌D-PBSで希釈した。適量のHistopaque-1077を15mL遠心管に加え、管壁に沿って等体積の滅菌D-PBSで希釈した血液をゆっくりと加え、2000rpmで20分間遠心分離した。中間のバフィーコート層を吸い取り、等体積の滅菌D-PBSを加え、1500rpmで10分間遠心分離した。滅菌D-PBSで1回洗浄し、上清を捨て、細胞沈殿物を10%FBS含有低糖DMEM培地で懸濁させ、PBMC免疫細胞を得た。末梢血単球(PBM)がプラスチック細胞培養プレートに付着して接着成長しやすい特性を利用し、PBMおよび末梢血リンパ球(PBL)を分離されたPBMCから分離した。
【0025】
<実施例3>ヒトMSC増殖能力に対するPBMCとヒトMSCの異なる細胞比率での接触共培養の影響
対数増殖期にある第3継代のヒト羊膜MSCを取り、3×10
3/ウェルの密度で24ウェル細胞培養プレートに接種し、16時間後に新たに分離されたPBMCを加えた。ここで、PBMCの密度は、それぞれ3×10
3、3×10
4、3×10
5、6×10
5、9×10
5および1.2×10
6/ウェルであり、共培養されたPBMCとMSCの細胞比率は、それぞれ1:1、10:1、100:1、200:1、300:1および400:1であった。PBMCとMSCを48時間共培養した後、EDUによりMSCの増殖能力を測定した。結果を
図2および表1に示す。通常の方法により培養された正常対照MSC群(以下、「MSC群」と略す)のEDU陽性細胞率は(19.93±0.63)%であり、PBMC:MSC=1:1または10:1である場合、MSCの増殖能力は顕著に増強せず、PBMC:MSC=100:1である場合、MSCにおけるEDU陽性細胞率は(19.93±0.63)%から(26.55±0.37)%に増加し、PBMC:MSC=300:1である場合、EDU陽性細胞率は(30.01±1.67)%の最大値に達したが、細胞比率が増加し続けると、MSCの増殖能力は低下し始めた。例えば、PBMC:MSC=400:1である場合、そのEDU陽性細胞率は(26.89±0.97)%であった。したがって、PBMCとMSCの共培養では、細胞比率が100:1-400:1である場合、MSCの増殖能力が顕著に向上し、そのうち、共培養細胞比率が300:1である場合、ヒトMSCの増殖能力が最も高く、増殖促進効果が最も高かった。
【0026】
【表1】
注:MSC群のEDU陽性細胞率は(19.93±0.63)%であった。MSCに比べ、
**p<0.01であった
【0027】
<実施例4>ヒトMSC増殖能力に対するPBMCとMSCの異なる共培養方式(接触および非接触)の影響
対数増殖期にある第3継代のヒト羊膜MSCを取り、10
3/ウェルの密度でTranswell(Corning,3470)上室に接種し、下室または上室にそれぞれ10
5個の新たに分離されたPBMCを加え、MSCと共培養し、48時間後に上室を取り出し、EDUによりMSC増殖能力を測定した。結果を
図3に示す。正常対照MSC群のEDU陽性細胞率は(12.43±1.02)%であり、PBMCとMSCの接触および非接触共培養は、いずれもMSCの増殖能力を顕著に向上できるが、接触共培養の方は効果がより高く、接触共培養によるEDU陽性細胞率は(26.97±1.22)%に達した(表2)。
【0028】
【表2】
注:MSC群のEDU陽性細胞率は(12.43±1.02)%であった。MSCに比べ、
**p<0.01であった。
【0029】
<実施例5>ヒトMSC増殖能力に対する異なるドナー年齢に由来のPBMCの影響
対数増殖期にある第3継代のヒト羊膜MSCを3×10
3/ウェルの密度で24ウェル細胞培養プレートに接種し、16時間後に異なる年齢帯のドナーから新たに分離されたPBMCを加えた。MSCとPBMCを48時間共培養した後、EDUによりMSCの増殖能力を測定した。結果から分かるように(
図4)、正常対照MSC群のEDU陽性細胞率は(19.82±3.58)%であり、MSC群に比べ、異なる年齢帯のドナーに由来のPBMCはいずれもMSCの増殖能力を顕著に増強でき、そのEDU陽性細胞率の平均値は、(25.54±3.08)%から(26.89±5.48)%であり(表3)、MSC増殖に対する異なる年齢帯のドナーに由来のPBMCの促進効果は、群間で統計的な差異が認められなかった。
【0030】
【表3】
注:MSC群のEDU陽性細胞率は(19.82±3.58)%であった。MSCに比べ、
**p<0.01であった。
【0031】
<実施例6>MSC増殖能力に対するヒト末梢血に由来の異なる免疫細胞とヒトMSCの接触共培養の影響
密度勾配遠心分離法により正常ヒト末梢血からPBMCを分離し、3×10
5/ウェルの密度で24ウェル細胞培養プレートに接種し、2時間後、PBMがプラスチック細胞培養プレートに付着して接着成長しやすい特性を利用し、PBMとPBLをPBMCから分離した。対数増殖期にある第3継代のヒト羊膜MSCを取り、3×10
3/ウェルの密度でそれぞれPBMC、PBMおよびPBLを含む24ウェル細胞培養プレートに接種し、48時間共培養した後、顕微鏡でMSCの形態的特徴を観察し、EDUによりPBMC、PBMおよびPBLのMSC増殖能力に対する影響を測定した。結果から分かるように、PBMC、PBM、PBLとMSCを共培養した後、MSCは長紡錘形で渦状に成長し、細胞密度はPBL>PBMC>PBMであった(
図5A)。EDU実験から分かるように、正常対照MSC群は(18.31±2.01)%であり、PBMC、PBMおよびPBLとMSCとの共培養は、いずれもEDU陽性細胞率を異なる程度で向上でき、(21.31±1.04)%から(35.21±0.51)%の範囲内であり(表4)、増殖能力の促進は順にPBL>PBMC>PBMであり、PBLは最適であった(
図5B)。
【0032】
【表4】
注:MSC群と比べ、
**p<0.01であった。PBMC+MSCと比べ、
#p<0.05であった。
【0033】
<実施例7>MSC増殖能力に対するPBLと異なる組織(臍帯および臍帯血)に由来のMSCとの接触共培養の影響
組織ブロック付着法により新鮮な臍帯組織からヒト臍帯間葉系幹細胞(human umbilical cord-derived mesenchymal stem cells,hUC-MSC)を分離し、別途に密度勾配遠心分離法により新線あ臍帯血からヒト臍帯血間葉系幹細胞(human umbilical cord blood-derived mesenchymal stem cells,hUCB-MSC)を分離し、いずれもパンクレアチンを用いて継代培養により純粋化し、第3継代細胞を収集して実験に用いた。対数増殖期にある第3継代のhUC-MSCおよびhUCB-MSCを取り、3×10
3/ウェルの密度で24ウェル細胞培養プレートに接種し、16時間後に、新たに分離されたPBLを加え、48時間共培養した後、EDUによりhUC-MSCおよびhUCB-MSCの増殖能力を測定した。結果から分かるように、PBLとヒト羊膜組織に由来のhA-MSCとの共培養(
図5)と同様に、PBLとhUCMSCとの接触共培養は、hUC-MSC増殖を顕著に促進することができる(
図6)。同様に、PBLとhUCB-MSCとの接触共培養は、hUCB-MSCの増殖も顕著に促進することができる(
図7)。したがって、接触共培養によりMSCの増殖能力を増強させるヒト末梢血免疫細胞PBLの作用は、MSCが由来する組織に制限されず、臍帯組織および血液由来のMSCのいずれもに対して顕著な増殖促進効果を奏することができる。以下、主にhA-MSCを例として他の生物学的特性および機能に対するPBLとの共培養の影響を評価した。
【0034】
<実施例8>MSC増幅効果に対するPBLとMSCの長期インビトロ接触共培養の影響
対数増殖期にある第3継代のヒト羊膜MSCを取り、10
4/皿の密度で直径10cmの細胞培養皿に接種し、16時間後、新たに分離したPBLを加え、それぞれ共培養の3日、6日、9日および12日目にクリスタルバイオレットで染色し、撮影して記録した。共培養の6日、9日および12日目にパンクレアチンで消化した後、遠心分離して細胞を収集し、細胞計数盤で細胞を計数した。共培養の12日目に細胞総タンパク質を抽出し、Western blottingにより増殖細胞核抗原PCNAおよび幹細胞性転写因子Oct4の発現レベルを測定した。結果から分かるように、単独したMSC増幅に比べ、PBLとMSCとの接触共培養により3日間増幅したときに、MSC細胞数は顕著に増加し始め、6日目に約4倍増加し、9日目に7倍以上増加し、12日目に細胞数は10倍以上増加した(表5、
図8A、B)。また、PBLとMSCを12時間共培養したときに、MSC中の増殖細胞核抗原PCNAおよび幹細胞性転写因子Oct4の発現レベルが顕著に増加した(
図8C、D)。
【0035】
【0036】
注:MSCに比べ、**p<0.01であった。
【0037】
<実施例9>MSC増殖細胞核抗原PCNAおよび幹細胞性転写因子Oct4に対するPBLとMSCの接触共培養の影響
対数増殖期にある第3継代のヒト羊膜MSCを取り、2×10
5の密度で直径10cmの細胞培養皿に接種し、16時間後、新たに分離されたPBLを加え、48時間共培養した後、細胞総タンパク質を抽出し、western blottingにより増殖細胞核抗原PCNAおよび幹細胞性転写因子Oct4の発現状況を分析した。結果から分かるように、MSCとPBLを接触共培養した後、MSC増殖細胞核抗原PCNAおよび幹細胞性転写因子Oct4の発現レベルが顕著に向上した(
図9)。
【0038】
<実施例10>MSC自己更新能力に対するPBLとMSCの接触共培養の影響
対数増殖期にある第3継代のヒト羊膜MSCを取り、100細胞/ウェルの密度で6ウェル細胞培養プレートに接種し、16時間後、新たに分離されたPBLを加え、9日間共培養した後、クリスタルバイオレットで染色し、細胞コロニーの形成を観察し、撮影して記録した。結果から分かるように、MSCとPBLを9日間接触共培養した後、MSCのコロニー形成率は33.3%であり、一般的に培養された対照群(3.3%)よりも10倍以上増加した(
図10)。
【0039】
<実施例11>MSC分化能力に対するPBLとMSCの接触共培養の影響
対数増殖期にある第3継代のヒト羊膜MSCを取り、2×10
4/ウェルの密度で6ウェル細胞培養プレートに接種し、16時間後、新たに分離されたPBLを加え、48時間共培養し、細胞コンフルエンスが80%に達したときに、それぞれ骨分化、脂肪生成分化および軟骨分化培地に交換した。誘導分化過程において、21日目まで3日ごとに液体を交換し、トルイジンブルーで染色し、軟骨形成分化細胞外マトリックスグリコサミノグリカンの生成を検出し、アリザリンレッドS染色法により骨形成分化石灰化結節の生成を検出し、オイルレッドO染色により脂肪生成分化脂肪滴の形成を検出した。結果から分かるように、PBLとMSCの接触共培養により得られたMSCは、通常培養により得られたMSCに比べ、軟骨マトリックスグリコサミノグリカン生成能力、石灰化結節形成能力および脂肪滴生成能力のいずれもより高かった(
図11)。これは、PBLとMSCの接触共培養がMSC骨形成分化、脂肪生成分化および軟骨形成分化を増強できることを示している。
【0040】
<実施例12>MSC遊走能力に対するPBLとMSCの接触共培養の影響
対数増殖期にある第3継代のヒト羊膜MSCを取り、5×10
4/ウェルの密度で6ウェル細胞培養プレートに接種し、16時間後、新たに分離されたPBLを加え、細胞コンフルエンスが100%に達するまで共培養した後、200μLの滅菌ピペットチップで培養プレート上を均一にスクラッチを作製した後、滅菌PBSで洗浄して細胞破片を除去し、37℃、飽和湿度の5%CO
2インキュベータに入れ、それぞれ共培養の0、6、12、24および36時間目に同じスクラッチ位置を撮影して記録した。結果から分かるように、PBLとMSCの接触共培養はMSCの遊走能力を顕著に増強できる(
図12)。
【0041】
<実施例13>MSC治療効果に対するPBLとMSCの接触共培養の影響
3%DSSを自由飲食させることにより潰瘍性結腸炎マウスモデルを構築し、40匹のC57マウス(5~7週齢)を10匹/群でランダムにNormal、DSS、DSS+MSC、DSS+PBL+MSCの4群に分けた。DSS+MSC群およびDSS+PBL+MSC群では、DSSを食べさせ始めた時にそれぞれP4およびリンパ球で48時間処理した後のP4 MSC(1×10
7/匹)を腹腔内注射した。NormalおよびDSS群のマウスに同時に等体積の滅菌PBSを注射した。観察期間で、毎日定時で体重を秤り、死亡状況を記録し、下痢便、血便などの現象があるか否かを観察した。マウス体重、下痢、便血および死亡状況に基づいて疾患活動性指標(DAI)を算出した。ヒト羊膜MSC注射の10日後、マウスを安楽死させ、結腸を取り、4%パラホルムアルデヒドを用いて室温で一晩固定し、パラフィン包埋し、4mの切片に切り出し、HE染色した。顕微鏡で結腸組織の炎性細胞浸潤および陰窩と杯状細胞の構造を観察し、従来の方法にしたがって組織病理学的スコアを行った。結果から分かるように、DSSを食べさせた5日目に、マウスは、体重減少、下痢便、血便などを含む炎症性結腸炎の重篤な症状が現れ始め、7日目に死亡し始めた(
図13)。組織学的分析により、DSSを食べさせることによりマウスの結腸粘膜が重度の炎症と損傷が発生したことが示された(
図13C、D)。PBLとP3 MSCを共培養して得られたP4 MSCを静脈注射した後、免疫細胞で処理されていないP4 MSCを静脈注射した場合と同様に、免疫拒絶反応が発生せず、DSS誘導の体重減少、血便、結腸炎症および損傷を顕著に軽減でき、結腸炎マウスの死亡を効果的に阻止することができ(
図13)、PBLとMSCの接触共培養により増幅して得られたMSCを用いた疾患モデルの治療は安全で効果的であることを示している。