(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-10
(45)【発行日】2022-03-18
(54)【発明の名称】車両ブレーキの欠陥に備えるシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
B60T 17/18 20060101AFI20220311BHJP
B60T 8/17 20060101ALI20220311BHJP
B60T 1/10 20060101ALI20220311BHJP
B60K 1/04 20190101ALI20220311BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20220311BHJP
B60L 7/26 20060101ALI20220311BHJP
B60L 58/12 20190101ALI20220311BHJP
【FI】
B60T17/18
B60T8/17 C
B60T1/10
B60K1/04 A
B60L3/00 H
B60L7/26
B60L58/12
(21)【出願番号】P 2020525961
(86)(22)【出願日】2018-11-05
(86)【国際出願番号】 EP2018080151
(87)【国際公開番号】W WO2019091909
(87)【国際公開日】2019-05-16
【審査請求日】2020-06-08
(32)【優先日】2017-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】チンユアン リー
(72)【発明者】
【氏名】チー チョアン
(72)【発明者】
【氏名】ロザリン イーワン
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-230269(JP,A)
【文献】特開2001-247025(JP,A)
【文献】特開平11-098608(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 1/00-6/12
7/00-8/00
16/00
B60L 1/00-3/12
7/00-13/00
15/00-58/40
B60T 1/00-8/1769
8/32-8/96
15/00-17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用制動システムであって、
摩擦制動システムと、
回生制動システムと、
前記摩擦制動システム及び前記回生制動システムに通信可能に接続された電子プロセッサと、
を含み、前記電子プロセッサは、
運転者制動要求を受信し、
ブレーキ故障を示すブレーキ故障状態を特定し、
前記ブレーキ故障状態の特定に応答して、前記運転者制動要求に基づく制動力を
前記摩擦制動システム及び前記回生制動システムのうちの少なくとも1つにより印加する、
ように構成されており、
前記制動力は、前記摩擦制動システムによって生成される摩擦制動力と前記回生制動システムによって生成される回生制動力と
のうちの少なくとも1つを含
み、
前記摩擦制動システムは、ブレーキブースタを含み、前記ブレーキ故障状態の特定は、前記ブレーキブースタの機能の故障の特定を含み、
前記ブレーキ故障状態は、単一のブレーキ回路故障及びブレーキブースト故障からなるグループから選択される1つであり、
前記ブレーキ故障状態が前記ブレーキブースト故障である場合に、前記回生制動力は、前記車両の単一の車軸に印加される、
制動システム。
【請求項2】
前記ブレーキ故障状態が前記単一のブレーキ回路故障であり、かつ、前記摩擦制動システムが垂直分割ブレーキシステムである場合に、前記回生制動力は、前記車両の単一の車軸に印加される、
請求項
1に記載の制動システム。
【請求項3】
前記ブレーキ故障状態が前記単一のブレーキ回路故障であり、かつ、前記摩擦制動システムが対角分割ブレーキシステムである場合に、前記摩擦制動力は、前記車両の第1の車輪及び前記車両の前記第1の車輪に対して対角の第2の車輪に印加され、前記回生制動力は、前記車両の単一の車軸に印加される、
請求項
1に記載の制動システム。
【請求項4】
前記電子プロセッサは、さらに、前記回生制動システムのバッテリ容量を特定し、前記バッテリ容量が所定の充電レベルを超える場合に、前記回生制動力を印加するように構成されている、
請求項1に記載の制動システム。
【請求項5】
前記摩擦制動システムによって生成される前記摩擦制動力は、前記運転者制動要求に対応する機械的制動力及び増幅制動力からなるグループから選択される少なくとも1つを含む、
請求項1に記載の制動システム。
【請求項6】
摩擦制動システムと、回生制動システムと、前記摩擦制動システム及び前記回生制動システムに通信可能に接続された電子プロセッサとを含む車両用制動システムにより車両を制動する方法であって、前記方法は、
運転者制動要求を
前記電子プロセッサによって受信することと、
ブレーキ故障を示すブレーキ故障状態を
前記電子プロセッサによって特定することと、
前記電子プロセッサによる前記ブレーキ故障状態の特定に応答して、前記運転者制動要求に基づく制動力を
前記摩擦制動システム及び前記回生制動システムのうちの少なくとも1つにより印加することと、
を含み、
前記制動力は、
前記摩擦制動システムによって生成される摩擦制動力と
前記回生制動システムによって生成される回生制動力と
のうちの少なくとも1つを含
み、
前記摩擦制動システムは、ブレーキブースタを含み、前記ブレーキ故障状態を前記電子プロセッサによって特定することは、前記ブレーキブースタの機能の故障を前記電子プロセッサによって特定することを含み、
前記ブレーキ故障状態は、単一のブレーキ回路故障及びブレーキブースト故障からなるグループから選択される1つであり、
前記ブレーキ故障状態が前記ブレーキブースト故障である場合に、前記回生制動力は、前記回生制動システムによって前記車両の単一の車軸に印加される、
方法。
【請求項7】
前記ブレーキ故障状態が前記単一のブレーキ回路故障であり、かつ、前記摩擦制動システムが垂直分割ブレーキシステムである場合に、前記回生制動力は、
前記回生制動システムによって前記車両の単一の車軸に印加される、
請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
前記ブレーキ故障状態が前記単一のブレーキ回路故障であり、かつ、前記摩擦制動システムが対角分割ブレーキシステムである場合に、前記摩擦制動力は、
前記摩擦制動システムによって前記車両の第1の車輪及び前記車両の前記第1の車輪に対して対角の第2の車輪に印加され、前記回生制動力は、
前記回生制動システムによって前記車両の単一の車軸に印加される、
請求項
6に記載の方法。
【請求項9】
前記方法は、さらに、前記回生制動システムのバッテリ容量を
前記電子プロセッサによって特定することと、前記バッテリ容量が所定の充電レベルを超える場合に前記回生制動力を
前記回生制動システムによって印加することとを含む、
請求項
6に記載の方法。
【請求項10】
前記摩擦制動システムによって生成される前記摩擦制動力は、前記運転者制動要求に対応する機械的制動力及び増幅制動力からなるグループから選択される少なくとも1つを含む、
請求項
6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
車両には、車両を減速及び停止するための制動システムが含まれる。多くの車両は、摩擦制動システム、例えば、ブレーキパッドをロータに押圧する液圧システムを利用しており、機械的制動力又は摩擦制動力を供給して車両速度を低減している。こうしたシステムは、ブレーキブースタを含み得る。ブレーキブースタは、典型的には、運転者がブレーキペダルに及ぼす力の量に比例する付加的な制動力を提供するものである。
【0002】
添付の図面において、個々の図を通して、同一の参照符号は、同一の又は機能的に類似した要素を示しており、これらの図は、以下の詳細な説明と共に明細書に組み込まれてその一部を成すものであって、請求されている保護対象を含む概念の実施形態を詳細に例示し、その実施形態の種々の原理及び利点を説明するために用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0003】
【
図1】いくつかの実施形態による、車両の制動システムのブロック図である。
【
図2】いくつかの実施形態による、
図1の制動システムを動作させるための方法のフローチャートである。
【
図3】いくつかの実施形態による、
図2の方法に従って
図1の制動システムの車輪に印加される全制動力を示すブロック図である。
【
図4A】いくつかの実施形態による、
図1の制動システムのブレーキ故障が無い状態を示すブロック図である。
【
図4B】いくつかの実施形態による、
図1の制動システムのブレーキ故障状態を示すブロック図である。
【
図4C】いくつかの実施形態による、
図1の制動システムのブレーキ故障状態を示すブロック図である。
【
図4D】いくつかの実施形態による、
図1の制動システムのブレーキ故障状態を示すブロック図である。
【0004】
図面において、必要とされる箇所では、装置及び方法の構成要素を慣用の記号により表現したが、本明細書の説明の利益を受ける当業者に容易に理解され得る細目によって本開示が不明瞭とならないように、各図面には、実施形態の理解に直接に関係する特定の詳細についてのみ示している。
【発明を実施するための形態】
【0005】
詳細な説明
車両のブレーキシステムは、ブレーキシステムの故障中に、一定の距離内において車両を停止させるために臨時の制動力を必要とすることがある。例えば、ブレーキブースタが故障した場合、制動力を補償するため、運転者によって付加的な制動力が要求されることがある。制動力が低下すると、車両の停止距離が増加し得る。いくつかの車両、例えば電気車両及びハイブリッド車両は、回生制動システムを含む。ブレーキブースタの故障によって失われた制動力を補償するために、回生制動システムから付加的な制動力を供給することができる。
【0006】
本明細書に提示する一実施形態は、制動システムを含む。制動システムは、摩擦制動システムと、回生制動システムと、電子プロセッサとを含む。電子プロセッサは、摩擦制動システム及び回生制動システムに通信可能に接続されている。電子プロセッサは、運転者制動要求を受信し、ブレーキ故障状態を特定するように構成されている。ブレーキ故障状態は、ブレーキ故障を示す。電子プロセッサは、ブレーキ故障状態の特定に応答して、運転者制動要求に基づく制動力を印加する。制動力は、摩擦制動システムによって生成される摩擦制動力と、回生制動システムによって生成される回生制動力とを含む。
【0007】
他の実施形態は、車両を制動する方法を提供する。方法は、機械的制動力を含む運転者制動要求を受信することと、ブレーキ故障を示すブレーキ故障状態を特定することとを含む。方法は、さらに、ブレーキ故障状態の特定に応答して、運転者制動要求に基づく制動力を印加することを含む。制動力は、摩擦制動システムによって生成される液圧的制動力と、回生制動システムによって生成される回生制動力とを含む。
【0008】
各実施形態を詳細に説明する前に、本明細書に提示する実施例は、その用途において、以下の説明に記載する又は以下の図面に図示する構成の詳細及び構成要素の配置に限定されるものではないことを理解されたい。各実施形態は、種々の方法により実施可能又は実行可能である。
【0009】
また、本明細書に提示する実施形態を実現するために、複数のハードウェア及びソフトウェアに基づくデバイス並びに複数の異なる構造コンポーネントを使用することができることに留意されたい。さらに、各実施形態は、ハードウェア、ソフトウェア及び電子コンポーネント又は電子モジュールを含むことがあり、論考のために、これらのコンポーネントの大部分がハードウェアのみで実現されているかのように図示されることがありかつ説明されることがあることを理解されたい。ただし、当業者は、当該詳細な説明を読むことにより、少なくとも1つの実施形態において、1つ以上のプロセッサによって実行可能な(例えば非一時性コンピュータ可読媒体に記憶された)ソフトウェアにより、電子に基づく態様を実現することができることを認識するであろう。このように、複数のハードウェア及びソフトウェアに基づくデバイス並びに複数の異なる構造コンポーネントを利用して、提示する実施形態を実現することができることに留意されたい。例えば、明細書に記載された「制御ユニット」及び「コントローラ」には、1つ以上のプロセッサ、非一時性コンピュータ可読媒体を含む1つ以上のメモリモジュール、1つ以上の入出力インタフェース、及び、各コンポーネントを接続する種々の接続部(例えばシステムバス)が含まれ得る。
【0010】
説明を容易にするために、本明細書に提示する例示的なシステムのそれぞれは、そのコンポーネントそれぞれの単一の例を用いて図示されている。いくつかの実施例においては、システムの全てのコンポーネントを説明又は図示されていないものもある。他の実施形態は、図示のそれぞれより多数の若しくはより少数のコンポーネント、いくつかのコンポーネントの組合せ、又は、付加的な若しくは代替的なコンポーネントを含むものとしてもよい。
【0011】
図1は、制動システム100の1つの例示的な実施形態のブロック図である。制動システム100は、車両102に含まれている。図示した例においては、制動システム100は、電子コントローラ104、入出力(I/O)インタフェース106、回生制動システム108、摩擦制動システム110及び他の車両システム112を含む。車両102は、さらに、前車軸114、後車軸116、左前輪118、右前輪120、左後輪122、右後輪124を含む。左前輪118及び右前輪120は、前車軸114に連結されている。同様に、左後輪122及び右後輪124は、後車軸116に連結されている。電子コントローラ104、回生制動システム108、摩擦制動システム110及び他の車両システム112、並びに、車両102の他の種々のモジュール及びコンポーネントは、1つ以上の制御バス若しくはデータバス(例えばCANバス)によって又はこれらを介して、相互に接続されており、相互間の通信が可能である。種々のモジュール及びコンポーネント間の相互接続及び情報交換のための制御バス及びデータバスの使用は、本明細書において提供する説明を考慮すれば、当業者には明らかであろう。
【0012】
いくつかの実施形態においては、電子コントローラ104は、電子コントローラ104内のコンポーネント及びモジュールに、電力、動作制御及び保護を提供する複数の電気コンポーネント及び電子コンポーネントを含む。電子コントローラ104は、特に、電子プロセッサ(例えば電子マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、他の適当なプログラマブルデバイス)及びメモリ(図示せず)を含む。また、電子コントローラ104は、入出力インタフェース106に接続されている。電子プロセッサ、メモリ及び入出力インタフェース106並びに他の種々のモジュールは、1つ以上の制御バス又はデータバスによって接続されている。いくつかの実施形態においては、電子コントローラ104は、ハードウェアとして(例えばフィールドプログラマブルゲートアレイ(「FPGA」)、特定用途向け集積回路(「ASIC」)又は他のデバイスを用いて)、部分的に又は完全に実現される。
【0013】
メモリは、1つ以上の非一時性コンピュータ可読媒体を含み得るものであり、プログラム記憶領域及びデータ記憶領域を含む。本出願において使用しているように、「非一時性コンピュータ可読媒体」は、全てのコンピュータ可読媒体を含むが、一時的な伝播信号のみから形成されるものではない。プログラム記憶領域及びデータ記憶領域は、異なるタイプのメモリ、例えば読み取り専用メモリ(「ROM」)、ランダムアクセスメモリ(「RAM」)、電気的に消去可能なプログラマブル読み取り専用メモリ(「EEPROM」)、フラッシュメモリ又は他の適当なデジタルメモリデバイスの組合せを含むことができる。電子プロセッサは、メモリに接続され、ファームウェア、1つ以上のアプリケーション、プログラムデータ、フィルタ、ルール、1つ以上のプログラムモジュール、及び、他の実行可能な命令を含むソフトウェアを実行する。電子プロセッサは、特に、本明細書に記載する制御プロセス及び方法に関する命令をメモリから回収して実行する。他の実施形態においては、電子コントローラ104は、付加的なコンポーネント、より少数のコンポーネント、又は、異なるコンポーネントを含むものとしてよい。
【0014】
回生制動システム108は、電気モータ(e-モータ)109に連結されている。回生制動システム108は、車両102の制動操作中に回生制動を実行するように構成されている。具体的には、回生制動システム108は、制動操作中、e-モータ109を発電機として機能させ、e-モータ109によって生成される電力を蓄積又は再分配する。電力を生成する動作により、e-モータ109に制動トルクが生成され、これがe-モータ109に連結された車輪118、120、122及び124のうちの1つ以上に伝達されて、車両102が減速され及び/又は安定化される。いくつかの実施形態においては、回生制動システム108は、それぞれ車輪118、120、122及び124のうちの少なくとも1つに連結又は接続された2つ以上のe-モータ109を含むことがある。例えば、第1のe-モータを左前輪118に接続し、第2のe-モータを右前輪120に接続することができる。さらなる実施形態においては、任意の数のタイヤに接続された任意の数のモータの任意の数の接続部が可能であることを理解されたい。
【0015】
摩擦制動システム110は、車両102を減速させるために及び/又は停止させるために、1つ以上の車輪118、120、122及び124の運動を抑制するための摩擦制動力を利用する制動システムである。例えば、車輪118、120、122及び124の一部又は全てに、車輪118、120、122及び124の運動を抑制する摩擦制動力を印加するブレーキパッドが取り付けられている。いくつかの実施形態においては、摩擦制動システム110は、標準的な液圧制動システムである。摩擦制動システム110は、ブレーキブースタ111を含み得る。ブレーキブースタ111は、ブレーキペダル128が車両102の車輪118、120、122、124に及ぼす力を増加させるように構成されている。
【0016】
車両102は、回生制動システム108を含む車両であり、例えば、ハイブリッド車両又は電気車両を含む。こうした実施形態においては、車両102は、さらに、バッテリ130を含み得る。バッテリ130は、システム100のe-モータ109に電力を供給する。いくつかの実施形態においては、車両102は、自律型車両又は自動運転車である。他の実施形態においては、車両102は、運転のために人間による入力を必要とする。こうした実施形態においては、システム100は、ブレーキペダル128を含む。ブレーキペダル128は、摩擦制動システム110に接続されているものとするとよい。車両102は、二輪駆動システムであっても、四輪駆動システムであってもよい。
【0017】
他の車両システム112は、車両102の動作の態様(例えば加速、制動、ギアシフト等)を制御するためのコントローラ、センサ、アクチュエータ等を含む。他の車両システム112は、車両102の動作に関するデータを電子コントローラ104との間で送受信するように構成されている。
【0018】
図2は、制動システム100のための方法200のフローチャートである。ブロック202においては、電子コントローラ104は、
図3に図示されているように、運転者制動要求304を受信する。
図3は、
図2の方法200に従って制動システム100の車輪(例えば、左前輪118)に印加される全制動力302を示すブロック
図300である。
図3に図示されているように、運転者制動要求304は、機械的な力306を生成する。機械的な力306は、ブレーキブースタ111によって増幅制動力314を生成するために使用される。増幅制動力314の量は、機械的な力306に応答する及び/又は比例する、ブレーキブースタ111(
図1)からの合成力であるものとするとよい。機械的な力306は、ブレーキペダル128に力を印加する車両102の運転者によって形成することが可能である。他の摩擦ブレーキシステムにおいては、ブレーキペダルは、液圧システムに直接的には結合されておらず、代わりに、制動システムを制御するために、ブレーキペダルの運動を、運転者制動要求304の生成に使用可能な電気信号に変換する、単なる入力デバイスとなっている。例えば、いくつかの実施例においては、信号を液圧ポンプに供給してブレーキ圧力を増加させることができ、又は、他の実施例においては、信号を電気モータに供給してブレーキロータに対してキャリパを開閉させることができる。いくつかの実施形態においては、運転者制動要求304は、車両102によって自動的に生成され、機械的制動力306は、例えば自動制動システム(図示せず)を使用して自動的に印加される。
【0019】
加えて、電子コントローラ104は、運転者制動要求に応答して、回生制動システム108に対し、回生制動力312を生成させるコマンド310を供給する。従って、制動システム100の通常動作中に、全制動力302は、回生制動システム108からの回生制動力312と、摩擦制動システム110からの摩擦制動力315とを含む。通常動作中に、摩擦制動力315は、機械的な力306及び増幅制動力314の双方を含む。ただし、以下においてより詳細に説明するように、摩擦制動力315は、機械的な力306のみ又は増幅制動力314のみを含むものとしてもよい。
【0020】
全制動力302及びその構成要素は、
図3においては、1つの車輪に印加されるものとして図示されているが、全制動力302はまた、車両102の全ての車輪に対して形成される全制動力を示し得るものであり、摩擦制動力315及び回生制動力312はまた、それぞれ制動システム110及び108によって車両102の全ての車輪に対して形成される制動力の合計を示し得るものであることを理解されたい。
【0021】
図4Aは、ブレーキ故障が無い状態400を示している。ブレーキ故障が無い状態においては、回生制動システム108は、回生制動力312を生成し、また、摩擦制動システム110は、機械的な力306及び増幅制動力314の双方を含む摩擦制動力315を形成する。
【0022】
図2に戻ると、ブロック204において、電子コントローラ104が、ブレーキ故障状態を特定する(
図4B乃至
図4Dに即してより詳細に説明する)。ブレーキ故障状態とは、制動システム100の故障である。いくつかの実施形態においては、ブレーキ故障状態を特定することは、ブレーキブースタ111の機能の故障を特定することを含み得る。ブレーキ故障状態の特定に応答して、ブロック206においては、電子コントローラ104は、運転者制動要求304に基づく制動力302(
図3を参照)を1つ以上の車輪(例えば、118、120、122及び/又は124)に印加する。
【0023】
図4B乃至
図4Dはそれぞれ、異なる種類のブレーキ故障状態を示している。いくつかの実施形態においては、ブレーキ故障状態を特定することは、ブレーキ故障状態が単一のブレーキ回路故障であるか、又は、ブレーキブーストシステム故障(例えば、摩擦制動システム110内の故障)であるかを特定することを含み得る。
図4Bに図示されているように、ブレーキブーストシステム故障のケースであって、ブレーキ故障状態がブレーキブーストシステム故障状態402である場合、増幅制動力314が使用不能となることがあり、使用可能であっても車両102を減速させるのに十分な大きさとならないことがある。この場合、回生制動力312が、車両102の単一の車軸(例えば、前車軸114又は後車軸116のいずれか)のタイヤに印加され、機械的な力306が、全てのタイヤ118、120、122及び124に印加される。
【0024】
単一のブレーキ回路故障のケースにおいては、1つ以上のタイヤ118、120、122及び124の摩擦制動力315が使用不能となることがあり、使用可能であっても車両102を減速させるのに十分な大きさとならないことがある。このような場合、回生制動力312を単一の車軸(例えば前車軸114又は後車軸116のいずれか)に印加することができ、一方、単一の回路故障が特定のタイヤと摩擦制動システム110との間の回路に影響を与えていない限り、摩擦制動力315(機械的制動力306及び増幅制動力の双方を含む)がタイヤ118、120、122及び124に印加される。いくつかの実施形態においては、摩擦制動システム110は、垂直分割ブレーキシステム又は対角分割システムであってよい。垂直分割ブレーキシステム(前後分割システムとも称される)においては、前車軸114上のタイヤ118及び120が第1のブレーキ回路に連結され、一方、タイヤ122及び124が第2のブレーキ回路に連結される。対角分割ブレーキシステムにおいては、タイヤ118及び124が第1のブレーキ回路に連結され、一方、タイヤ120及び122が第2のブレーキ回路に連結される。いずれの場合にも、回路の一方に故障が発生すると、2つのタイヤに印加される制動力が失われることになる。
【0025】
図4Cに図示されているように、摩擦制動システム110が垂直分割ブレーキシステムである場合(ブレーキ故障状態が垂直分割ブレーキ故障状態404である場合)には、回生制動力312を、車両102の単一の車軸(例えば前車軸114又は後車軸116のいずれか)に印加し、対応する単一のブレーキ回路故障に起因するタイヤ118及び120の摩擦制動力315の損失を補償する。機能しているブレーキ回路から生じる摩擦制動力315(機械的制動力306及び増幅制動力314の双方を含む)は、後車軸116のタイヤ122及び124に印加される。
【0026】
図4Dに図示されているように、摩擦制動システム110が対角分割ブレーキシステムである場合(ブレーキ故障状態が対角分割ブレーキ故障状態406である場合)、機械的な力306は、使用不能である。回生制動力312が、車両102の単一の車軸(例えば、前車軸114又は後車軸116のいずれか)に印加され、一方、摩擦力315(機械的制動力306及び増幅制動力314の双方を含む)は、回路故障に応じて相互に垂直なタイヤ(この場合には、タイヤ118及び124)に印加される。
【0027】
いくつかの実施形態においては、電子コントローラ104は、さらに、回生制動システム108のバッテリ130のバッテリ容量を特定し、バッテリ容量が所定の充電レベルを超える場合に、回生制動力312を印加するように構成されている。
【0028】
このように、各実施形態は、特に、ブレーキ故障の場合における車両の制動システム及び方法を提供する。本発明の種々の特徴及び利点は、以下の特許請求の範囲に記載されている。
【0029】
上述した明細書においては、特定の実施形態について説明されている。ただし、当業者であれば自明であるように、以下の請求項に記載されている本発明の範囲から逸脱することなく、種々の変更及び変形を行うことができる。従って、明細書及び図面は、限定を意味せず、例示的なものであるとみなされるべきであり、こうした変更は全て、本教説の範囲内に含まれることが意図されている。
【0030】
利益、利点、問題に対する解決手段、及び、何らかの利益、利点又は解決手段を生じさせ得る又はより顕著とし得る何らかの要素は、いずれかの請求項若しくは全ての請求項の重要な、必須の若しくは本質的な特徴又は要素として解釈されるべきではない。本発明は、添付の特許請求の範囲によってのみ定義されるものであって、当該特許請求の範囲には、本出願の係属中になされる何らかの補正及び提出された各請求項の全ての等価物が含まれる。
【0031】
さらに、本明細書中、関係を示す語、例えば、第1、第2、上部及び下部等は、1つの存在又は動作を他の存在又は他の動作から区別するためのみに用いることができ、その際に、こうした存在間又は動作間の何らかの実際の関係又は順序を必ずしも要求又は含意するわけではない。「備える」、「備えている」、「有する」、「有している」、「含む」、「含んでいる」、「含有する」、「含有している」なる語又はこれらの語の他の何らかの変化形は、非排他的な包含を範囲に含むことが意図されており、このため、列挙された複数の要素を備え、有し、含み、含有するプロセス、方法、製品又は装置は、これらの要素しか含まないのではなく、こうしたプロセス、方法、製品又は装置に対して明示的には列挙されていない又は固有ではない他の要素も含み得る。「~を備える」、「~を有する」、「~を含む」又は「~を含有する」に続く要素は、それ以上の拘束なく、当該要素を備え、有し、含み、含有するプロセス、方法、製品又は装置における付加的な同一の要素の存在を排除するものではない。「1つの」「ある」なる語は、本明細書において明示的に別段の言及がなされていない限り、1つ以上として定義されるものである。「実質的に」、「本質的に」、「ほぼ」、「約」なる語又はこれらに対する何らかの他の表現形態は、当業者によって理解されるものに近いものとして定義されるものであり、当該語は、非限定的な一実施形態においては10%以内、他の実施形態においては5%以内、他の実施形態においては1%以内、他の実施形態においては0.5%以内であると定義されるものである。本明細書において用いられる「連結される」なる語は、必ずしも直接的でなくかつ必ずしも機械的ではないものの、接続されていることと定義されるものである。特定の手法により「構成されている」デバイス又は構造は、少なくとも、当該手法により構成されるものではあるが、列挙されていない手法により構成されるものであってもよい。
【0032】
いくつかの実施形態を、1つ以上の汎用又は専用の電子プロセッサ(又は「処理デバイス」)、例えばマイクロプロセッサ、デジタル信号プロセッサ、カスタマイズされたプロセッサ及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)と、(ソフトウェア及びファームウェアの双方を含む)記憶された固有のプログラム命令とから成るものとすることができ、当該プログラム命令は、1つ以上の電子プロセッサを制御して、所定の非プロセッサ回路と協働しながら、本明細書において説明した方法及び/又は装置の一部の、大部分の又は全ての機能を実現することが理解される。代替的に、いくつかの若しくは全ての機能を、記憶されたプログラム命令を有さない状態マシンによって、又は、1つ以上の特定用途向け集積回路(ASIC)において実現することもでき、この場合には、各機能又は所定の機能のいくつかの組合せがカスタムロジックとして実現される。当然ながら、これら2つのアプローチの組合せを用いてもよい。
【0033】
さらに、一実施形態は、本明細書に記載されかつ請求される方法を実施するように、(例えば電子プロセッサを含む)コンピュータをプログラミングするためのコンピュータ可読コードが記憶されたコンピュータ可読記憶媒体として実現することが可能である。このようなコンピュータ可読記憶媒体の例には、以下に限定されるものではないが、ハードディスク、CD‐ROM、光学ストレージデバイス、磁気ストレージデバイス、ROM(読み出し専用メモリ)、PROM(プログラマブル読み出し専用メモリ)、EPROM(消去可能なプログラマブル読み出し専用メモリ)、EEPROM(電気的に消去可能なプログラマブル読み出し専用メモリ)、及び、フラッシュメモリが含まれる。さらに、例えば、利用可能時間、現行の技術及び経済的配慮等の理由により、場合によっては多大な努力及び多数の設計の選択があり得るにもかかわらず、本明細書に開示した概念及び原理に導かれる当業者は、こうしたソフトウェア命令及びプログラム並びにICを最小限の実験により容易に生成可能であることも予測される。
【0034】
読者が技術的開示の本質を迅速に確認することができるように、本開示の要約が設けられている。これは、特許請求の範囲又はその意義に対する解釈又は限定のために用いられることはないとの理解のもとに提出されたものである。さらに、上述した詳細な説明においては、開示を明瞭化する目的において、種々の特徴が種々の実施形態において共にグループ化されていることが理解されるであろう。こうした開示の方法は、請求された各実施形態が、各請求項において明示的に列挙されているよりも多くの特徴を必要とするとの意図を表していると解釈されてはならない。むしろ、以下の特許請求の範囲に表されているように、本発明の保護対象は、開示した単一の実施形態の全ての特徴よりも少ない特徴にある。従って、これにより、以下の特許請求の範囲は、各請求項が個々に請求される保護対象としてそれ自体独立しながらも、詳細な説明に組み込まれるものである。