(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-11
(45)【発行日】2022-03-22
(54)【発明の名称】炭素繊維強化プラスチックの製造方法、炭素繊維強化プラスチック及びセルロース系樹脂
(51)【国際特許分類】
C08J 5/06 20060101AFI20220314BHJP
【FI】
C08J5/06 CEP
C08J5/06 CER
C08J5/06 CEZ
(21)【出願番号】P 2017200476
(22)【出願日】2017-10-16
【審査請求日】2020-09-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 センター・オブ・イノベーションプログラム「革新材料による次世代インフラシステムの構築」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願、並びに、平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的イノベーション創造プログラム事業「植物由来の炭素繊維複合材料の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100192773
【氏名又は名称】土屋 亮
(72)【発明者】
【氏名】覺知 亮平
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 大祐
(72)【発明者】
【氏名】仁宮 一章
(72)【発明者】
【氏名】ラスロ ザボ
(72)【発明者】
【氏名】高橋 憲司
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-345146(JP,A)
【文献】特開2015-206012(JP,A)
【文献】特開2008-274228(JP,A)
【文献】国際公開第2005/009981(WO,A1)
【文献】特開2007-112041(JP,A)
【文献】特表2011-515371(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC B29B 11/16
B29B 15/08 - 15/14
C08J 5/04 - 5/10
C08J 5/24
DB名 CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と炭素繊維とが共有結合を介して結合した炭素繊維強化プラスチックの製造方法であって、
前記樹脂としてセルロース系熱可塑性樹脂に、前記共有結合を形成可能な官能基(f1)を導入する工程(i)、
前記炭素繊維に、前記官能基(f1)と共有結合を形成可能な官能基(f2)を導入する工程(iii)、及び、
前記官能基(f1)が導入されたセルロース系熱可塑性樹脂と、前記
官能基(f2)が導入された炭素繊維と、を反応させて前記炭素繊維強化プラスチックを得る工程(ii)
を
この順序で有し、
前記官能基(f1)は、下記の化学式(f1-1)~化学式(f1-7)でそれぞれ表される官能基(式中の*は、それぞれ、セルロース系熱可塑性樹脂側の結合手であることを表す。)からなる群より選択されるものであり、
前記官能基(f2)は、下記の化学式(f2-1)~化学式(f2-5)でそれぞれ表される官能基(式中の*は、それぞれ、炭素繊維側の結合手であることを表す。)からなる群より選択されるものであり、
前記工程(ii)における反応は、求核置換反応(S
N
2反応)又はクリック反応である、炭素繊維強化プラスチックの製造方法。
【化1】
【化2】
【請求項2】
樹脂と炭素繊維とが共有結合を介して結合した炭素繊維強化プラスチックの製造方法であって、
前記樹脂
としてセルロース系熱可塑性樹脂に、前記共有結合を形成可能な官能基(f1)を導入する工程(i)、及び、
前記官能基(f1)が導入された
セルロース系熱可塑性樹脂と、前記炭素繊維と、を反応させて前記炭素繊維強化プラスチックを得る工程(ii)
を有し、
前記工程(ii)における反応は、前記官能基(f1)としてフリル基が導入された
セルロース系熱可塑性樹脂と、前記炭素繊維と、のディールス・アルダー(Diels-Alder)反応である、炭素繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項3】
前記工程(i)と前記工程(ii)との間に、
前記炭素繊維に、前記官能基(f1)と共有結合を形成可能な官能基(f2)を導入する工程(iii)をさらに有する、請求項
2に記載の炭素繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項4】
前記セルロース系熱可塑性樹脂は、バイオマス由来である、請求項1~3のいずれか一項に記載の炭素繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項5】
前記セルロース系熱可塑性樹脂は、下記一般式(P-1)で表される構成単位を有するセルロース系樹脂である、請求項1~4のいずれか一項に記載の炭素繊維強化プラスチックの製造方法。
【化3】
[式中、複数のRは、それぞれ独立に、水素原子、アシル基又はアルキル基である。*は、結合手であることを表す。]
【請求項6】
セルロース系熱可塑性樹脂と炭素繊維とが共有結合を介して結合した、炭素繊維強化プラスチックであって、
セルロース系熱可塑性樹脂と炭素繊維とが、下記一般式(cb1)で表される連結基を介して結合した、炭素繊維強化プラスチック。
【化4】
[式中、*
P1は、セルロース系熱可塑性樹脂側の結合手であることを表す。*
C11及び*
C12は、それぞれ、炭素繊維側の結合手であることを表す。]
【請求項7】
セルロース系熱可塑性樹脂と炭素繊維とが共有結合を介して結合した、炭素繊維強化プラスチックであって、
セルロース系熱可塑性樹脂と炭素繊維とが、下記一般式(cb2)で表される連結基を介して結合した、炭素繊維強化プラスチック。
【化5】
[式中、R
b1は、置換基を有していてもよい炭化水素基である。*
P2は、セルロース系熱可塑性樹脂側の結合手であることを表す。*
C2は、炭素繊維側の結合手であることを表す。]
【請求項8】
セルロース系熱可塑性樹脂と炭素繊維とが共有結合を介して結合した、炭素繊維強化プラスチックであって、
セルロース系熱可塑性樹脂と炭素繊維とが、下記一般式(cb3)で表される連結基を介して結合した、炭素繊維強化プラスチック。
【化6】
[式中、R
b2は、置換基を有していてもよい炭化水素基である。*
P3は、セルロース系熱可塑性樹脂側の結合手であることを表す。*
C3は、炭素繊維側の結合手であることを表す。]
【請求項9】
下記一般式(P-1-10)で表される構成単位を有する、セルロース系樹脂。
【化7】
[式中、複数のR’は、それぞれ独立に、フラン環を含む官能基、水素原子、アシル基又はアルキル基である。但し、複数のR’のうち少なくとも1つは、フラン環を含む官能基である。*は、結合手であることを表す。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化プラスチックの製造方法、炭素繊維強化プラスチック及びセルロース系樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化プラスチック(carbon fiber reinforced plastic:CFRP)は、強化材に炭素繊維を用いた繊維強化プラスチックである。強化される側の母材(マトリクス)には、熱硬化性樹脂が用いられることが多いが、熱可塑性樹脂も用いられている。
CFRPは、金属材料よりも比強度が大きく、軽量であり、腐食しにくい複合材料である。このため、CFRPは、ゴルフクラブのシャフト若しくは釣り竿などのスポーツ用具;航空機、自動車又は建造物等の様々な用途に利用されている。
【0003】
CFRPの製造においては、炭素繊維が母材中に分散しにくいという問題がある。炭素繊維の母材中での分散が悪いと、母材である樹脂の補強効果が得られにくくなる。かかる問題に対し、従来、炭素繊維の表面を改質して、炭素繊維と樹脂との親和性を高める方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、表面に官能基を導入した繊維状フィラーと、生分解性有機化合物とを結合させ、この結合体とマトリクス樹脂とを混合することにより、強化樹脂組成物を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
今後は、ますます、CFRPの用途開拓が進み、その使用量の増加が見込まれる。これに伴って、CFRPにおいては、様々な用途への対応が可能であり、かつ、強度のさらなる向上が求められる。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、新規なCFRPを製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、検討により、強化材側の炭素繊維の表面改質を必須とする、これまでの製造方法とは異なり、母材側の樹脂に、特定の官能基を導入し、この官能基と共有結合を形成して樹脂と炭素繊維とを一体的に組み合わせる方法を見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0007】
(1)第1の態様に係る炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の製造方法は、樹脂と炭素繊維とが共有結合を介して結合した炭素繊維強化プラスチックの製造方法であって、前記樹脂に、前記共有結合を形成可能な官能基(f1)を導入する工程(i)、及び、前記官能基(f1)が導入された樹脂と、前記炭素繊維と、を反応させて前記炭素繊維強化プラスチックを得る工程(ii)を有することを特徴とする。
【0008】
(2)第1の態様に係るCFRPの製造方法は、前記工程(i)と前記工程(ii)との間に、前記炭素繊維に、前記官能基(f1)と共有結合を形成可能な官能基(f2)を導入する工程(iii)をさらに有する製造方法であってもよい。
【0009】
(3)第1の態様に係るCFRPの好ましい製造方法として、前記工程(ii)における反応が、求核置換反応(SN2反応)、クリック反応又はディールス・アルダー(Diels-Alder)反応である製造方法が挙げられる。
(4)第1の態様に係るCFRPの好ましい製造方法として、特に、前記工程(ii)における反応が、前記官能基(f1)としてフリル基が導入された樹脂と、前記炭素繊維と、のディールス・アルダー(Diels-Alder)反応である製造方法が挙げられる。
【0010】
(5)第1の態様に係るCFRPの製造方法において、前記樹脂は、熱可塑性樹脂であることが好ましい。
(6)前記熱可塑性樹脂は、セルロース系熱可塑性樹脂であることが好ましい。
(7)前記セルロース系熱可塑性樹脂は、バイオマス由来であることが好ましい。
【0011】
(8)前記セルロース系熱可塑性樹脂は、下記一般式(P-1)で表される構成単位を有するセルロース系樹脂であるものが好ましい。
【0012】
【化1】
[式中、複数のRは、それぞれ独立に、水素原子、アシル基又はアルキル基である。*は、結合手であることを表す。]
【0013】
(9)第2の態様に係る炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、セルロース系熱可塑性樹脂と炭素繊維とが共有結合を介して結合したものであることを特徴とする。
【0014】
(10)第2の態様に係るCFRPの好ましいものとして、セルロース系熱可塑性樹脂と炭素繊維とが、下記一般式(cb1)で表される連結基を介して結合したものが挙げられる。
【0015】
【化2】
[式中、*
P1は、セルロース系熱可塑性樹脂側の結合手であることを表す。*
C11及び*
C12は、それぞれ、炭素繊維側の結合手であることを表す。]
【0016】
(11)第2の態様に係るCFRPの好ましいものとして、セルロース系熱可塑性樹脂と炭素繊維とが、下記一般式(cb2)で表される連結基を介して結合したものが挙げられる。
【0017】
【化3】
[式中、R
b1は、置換基を有していてもよい炭化水素基である。*
P2は、セルロース系熱可塑性樹脂側の結合手であることを表す。*
C2は、炭素繊維側の結合手であることを表す。]
【0018】
(12)第2の態様に係るCFRPの好ましいものとして、セルロース系熱可塑性樹脂と炭素繊維とが、下記一般式(cb3)で表される連結基を介して結合したものが挙げられる。
【0019】
【化4】
[式中、R
b2は、置換基を有していてもよい炭化水素基である。*
P3は、セルロース系熱可塑性樹脂側の結合手であることを表す。*
C3は、炭素繊維側の結合手であることを表す。]
【0020】
(13)第3の態様に係るセルロース系樹脂は、下記一般式(P-1-10)で表される構成単位を有するものであることを特徴とする。
【0021】
【化5】
[式中、複数のR’は、それぞれ独立に、フラン環を含む官能基、水素原子、アシル基又はアルキル基である。但し、複数のR’のうち少なくとも1つは、フラン環を含む官能基である。*は、結合手であることを表す。]
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、新規なCFRP及びこれを製造する方法を提供することができる。
また、本発明に係るCFRPの製造方法によれば、母材である樹脂の選択自由度が高く、様々な用途への対応が可能であり、加えて、強度のさらなる向上が図られたCFRPを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】XPS測定で得られた、F1sの高分解能スペクトルを示す図である。
【
図2】フラグメンテーション試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(炭素繊維強化プラスチックの製造方法)
本実施形態は、樹脂と炭素繊維とが共有結合を介して結合した炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の製造方法である。
本実施形態において「炭素繊維強化プラスチック(CFRP)」とは、最終成形品、及び最終成形品に加工する前の予備成形品を含むものとする。予備成形品としては、例えば、半硬化した状態(いわゆるBステージ)の成形品が挙げられる。
【0025】
<樹脂>
本実施形態の製造方法で用いられる樹脂としては、特に制限されず、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、又はこれらの混合物若しくはアロイ等が挙げられる。
【0026】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン-1、ポリブチレン等のポリオレフィンや、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、液晶ポリエステル等のポリエステルや、セルロース、セルロース誘導体等のセルロース系樹脂や、ポリスチレン、ポリオキシメチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリメチレンメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルフォン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリアリレート、ポリエーテルニトリル、フェノール(ノボラック型など)フェノキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、又はこれらの共重合体若しくは変性体が挙げられ、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール(レゾール型)樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド樹脂、又はこれらの共重合体若しくは変性体が挙げられ、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
本実施形態の製造方法は、特に、熱可塑性樹脂を母材とするCFRPの製造に有用な方法である。熱可塑性樹脂の中でも、バイオマスを原料として利用できる点から、セルロース系樹脂(セルロース系熱可塑性樹脂)が好ましく、バイオマス由来のセルロース系樹脂が特に好ましい。
【0029】
前記セルロース系樹脂(セルロース系熱可塑性樹脂)の好ましいものとしては、下記一般式(P-1)で表される構成単位を有する樹脂(以下「樹脂(P1)」ともいう。)が挙げられる。
【0030】
【化6】
[式中、複数のRは、それぞれ独立に、水素原子、アシル基又はアルキル基である。*は、結合手であることを表す(以下同じ)。]
【0031】
前記式(P-1)中、複数のRは、それぞれ独立に、水素原子、アシル基又はアルキル基である。複数のRは、互いに同一でもよいし異なっていてもよい。
Rにおけるアシル基は、炭素数2~6が好ましく、炭素数2~4がより好ましく、アセチル基、プロピオニル基がさらに好ましい。
Rにおけるアルキル基は、炭素数1~5が好ましく、炭素数1~3がより好ましく、メチル基、エチル基がさらに好ましい。
【0032】
樹脂(P1)の重量平均分子量は、10000~10000000が好ましく、10000~100000がより好ましい。
樹脂の分子量としては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算の重量平均分子量を用いるものとする。
【0033】
<炭素繊維>
本実施形態の製造方法で用いられる炭素繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリル繊維を原料とするPAN系炭素繊維、石炭タールや石油ピッチを原料とするピッチ系炭素繊維、ビスコースレーヨンや酢酸セルロースなどを原料とするセルロース系炭素繊維、炭化水素などを原料とする気相成長系炭素繊維、又はこれらの黒鉛化繊維などが挙げられる。また、炭素繊維には、カーボンナノチューブ又はグラフェンを繊維状に加工したものを用いてもよい。炭素繊維は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
CFRPの製造には、樹脂及び炭素繊維以外に、各種の添加剤を配合してもよい。
かかる添加剤としては、例えば、難燃剤、発泡剤、劣化防止剤、耐熱性向上剤、耐光剤、加工安定剤、防かび剤、可塑剤等が挙げられる。
【0035】
本実施形態の、樹脂と炭素繊維とが共有結合を介して結合した炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の製造方法としては、以下に示す第1実施形態、第2実施形態がそれぞれ挙げられる。
第1実施形態:工程(i)及び工程(ii)を有する製造方法
第2実施形態:工程(i)と工程(ii)との間に、工程(iii)をさらに有する製造方法
【0036】
工程(i):樹脂に、前記共有結合を形成可能な官能基(f1)を導入する工程
工程(ii):前記官能基(f1)が導入された樹脂と、炭素繊維と、を反応させて炭素繊維強化プラスチックを得る工程
工程(iii):炭素繊維に、前記官能基(f1)と共有結合を形成可能な官能基(f2)を導入する工程
【0037】
<第1実施形態>
第1実施形態に係るCFRPの製造方法は、上記の工程(i)及び工程(ii)を有する。以下、第1実施形態における工程(i)、工程(ii)を、それぞれ工程(1-i)、工程(1-ii)と表記する。
【0038】
[工程(1-i)]
工程(1-i)では、前記樹脂に、前記共有結合を形成可能な官能基(f1)を導入して、樹脂を化学修飾する。
官能基(f1)は、炭素繊維との反応性を有し、炭素繊維と共有結合を形成可能なものから適宜選択される。このような官能基(f1)の具体例を以下に示す。
【0039】
【0040】
[工程(1-ii)]
工程(1-ii)では、前記工程(1-i)で官能基(f1)が導入された樹脂と、炭素繊維と、を反応させて、目的物である炭素繊維強化プラスチックを得る。
工程(1-ii)における、好ましい反応としては、ディールス・アルダー(Diels-Alder)反応が挙げられる。
官能基(f1)が導入された樹脂の配合量は、
炭素繊維100質量部に対して100~100000質量部が好ましく、1000~10000質量部がより好ましい。
工程(1-ii)における反応の温度条件は、40~180℃が好ましく、80~140℃がより好ましい。反応時間は、1~72時間が好ましく、12~24時間がより好ましい。
【0041】
上述の第1実施形態に係るCFRPの製造方法によれば、樹脂に官能基(f1)を導入することから、母材である樹脂の選択自由度が高く、様々な用途への対応が可能であり、加えて、強度のさらなる向上が図られたCFRPを製造することができる。
さらに、第1実施形態に係るCFRPの製造方法においては、強化材側の炭素繊維の表面を改質することなく、強度の向上が図られたCFRPを製造することができる。また、炭素繊維の構造を傷めることがないため、選択した炭素繊維の特性が充分に発現する。
加えて、炭素繊維の表面を改質する工程を省略できることから、第1実施形態に係るCFRPの製造方法は、簡便な方法であり、生産性にも優れる。
【0042】
(炭素繊維強化プラスチック(1))
第1実施形態に係る製造方法によれば、例えば、バイオマスを原料としたセルロース系熱可塑性樹脂と、炭素繊維とが共有結合を介して結合した、炭素繊維強化プラスチック(1)(CFRP(1))を安定に製造することができる。
かかるCFRP(1)の好ましいものとして、例えば、セルロース系熱可塑性樹脂と炭素繊維とが、下記一般式(cb1)で表される連結基を介して結合したものが挙げられる。
【0043】
【化8】
[式中、*
P1は、セルロース系熱可塑性樹脂側の結合手であることを表す。*
C11及び*
C12は、それぞれ、炭素繊維側の結合手であることを表す。]
【0044】
<第2実施形態>
第2実施形態に係るCFRPの製造方法は、上記の工程(i)と工程(ii)との間に、工程(iii)をさらに有する。以下、第2実施形態における工程(i)、工程(ii)、工程(iii)を、それぞれ工程(2-i)、工程(2-ii)、工程(2-iii)と表記する。すなわち、第2実施形態に係るCFRPの製造方法では、工程(2-i)、工程(2-iii)、工程(2-ii)がこの順序で行われる。
【0045】
[工程(2-i)]
工程(2-i)では、前記樹脂に、前記共有結合を形成可能な官能基(f1)を導入して、樹脂を化学修飾する。
官能基(f1)は、炭素繊維に導入される官能基(f2)との反応性を有し、官能基(f2)と共有結合を形成可能なものから適宜選択される。このような官能基(f1)の具体例を以下に示す。
【0046】
【0047】
[工程(2-iii)]
工程(2-iii)では、前記炭素繊維に、前記官能基(f1)と共有結合を形成可能な官能基(f2)を導入して、炭素繊維を化学修飾する。
官能基(f2)は、樹脂に導入される官能基(f1)との反応性を有し、官能基(f1)と共有結合を形成可能なものから適宜選択される。このような官能基(f2)の具体例を以下に示す。
【0048】
【0049】
[工程(2-ii)]
工程(2-ii)では、前記工程(2-i)で官能基(f1)が導入された樹脂と、前記工程(2-iii)で官能基(f2)が導入された炭素繊維と、を反応させて、目的物である炭素繊維強化プラスチックを得る。
工程(2-ii)における、好ましい反応としては、求核置換反応(SN2反応)又はクリック反応が挙げられる。
【0050】
求核置換反応(SN2反応)の場合、官能基(f1)が導入された樹脂の配合量は、官能基(f2)が導入された炭素繊維100質量部に対して100~100000質量部が好ましく、1000~10000質量部がより好ましい。
工程(2-ii)における反応の温度条件は、40~180℃が好ましく、80~140℃がより好ましい。反応時間は、1~72時間が好ましく、12~36時間がより好ましい。
【0051】
クリック反応の場合、官能基(f1)が導入された樹脂の配合量は、官能基(f2)が導入された炭素繊維100質量部に対して100~100000質量部が好ましく、1000~10000質量部がより好ましい。
工程(2-ii)における反応の温度条件は、0~100℃が好ましく、20~50℃がより好ましい。反応時間は、1~24時間が好ましく、1~4時間がより好ましい。
【0052】
上述の第2実施形態に係るCFRPの製造方法によれば、樹脂に官能基(f1)を導入することから、母材である樹脂の選択自由度が高く、様々な用途への対応が可能であり、加えて、強度のさらなる向上が図られたCFRPを製造することができる。
さらに、第2実施形態に係るCFRPの製造方法においては、樹脂と炭素繊維との反応を適宜選択することも可能である。
【0053】
(炭素繊維強化プラスチック(2))
第2実施形態に係る製造方法によれば、例えば、バイオマスを原料としたセルロース系熱可塑性樹脂と、炭素繊維とが共有結合を介して結合した、炭素繊維強化プラスチック(2)(CFRP(2))を安定に製造することができる。
かかるCFRP(2)の好ましいものとして、例えば、セルロース系熱可塑性樹脂と炭素繊維とが、下記一般式(cb2)で表される連結基を介して結合したものが挙げられる。
【0054】
【化11】
[式中、R
b1は、置換基を有していてもよい炭化水素基である。*
P2は、セルロース系熱可塑性樹脂側の結合手であることを表す。*
C2は、炭素繊維側の結合手であることを表す。]
【0055】
前記式(cb2)中、Rb1は、置換基を有していてもよい炭化水素基である。
Rb1における炭化水素基は、脂肪族炭化水素基であってもよく、芳香族炭化水素基であってもよい。脂肪族炭化水素基としては、直鎖状若しくは分岐鎖状の脂肪族炭化水素基、又は構造中に環を含む脂肪族炭化水素基等が挙げられる。芳香族炭化水素基としては、芳香族炭化水素環から水素原子2つを除いた基(例えば、フェニレン基、ナフチレン基などのアリーレン基);芳香族炭化水素環から水素原子1つを除いた基(アリール基)における水素原子の1つがアルキレン基で置換された基(例えばベンジル基、フェネチル基、1-ナフチルメチル基、2-ナフチルメチル基、1-ナフチルエチル基、2-ナフチルエチル基など)等が挙げられる。
【0056】
また、かかるCFRP(2)の好ましいものとして、例えば、セルロース系熱可塑性樹脂と炭素繊維とが、下記一般式(cb3)で表される連結基を介して結合したものも挙げられる。
【0057】
【化12】
[式中、R
b2は、置換基を有していてもよい炭化水素基である。*
P3は、セルロース系熱可塑性樹脂側の結合手であることを表す。*
C3は、炭素繊維側の結合手であることを表す。]
【0058】
前記式(cb3)中、Rb2は、置換基を有していてもよい炭化水素基であり、前記式(cb2)中のRb1と同様のものが挙げられる。
【0059】
(セルロース系樹脂)
本実施形態のセルロース系樹脂は、下記一般式(P-1-10)で表される構成単位を有するものである。
【0060】
【化13】
[式中、複数のR’は、それぞれ独立に、フラン環を含む官能基、水素原子、アシル基又はアルキル基である。但し、複数のR’のうち少なくとも1つは、フラン環を含む官能基である。*は、結合手であることを表す。]
【0061】
前記式(P-1-10)中、R’は、それぞれ独立に、フラン環を含む官能基、水素原子、アシル基又はアルキル基である。
Rにおけるアシル基は、炭素数2~6が好ましく、炭素数2~4がより好ましく、アセチル基、プロピオニル基がさらに好ましい。
Rにおけるアルキル基は、炭素数1~5が好ましく、炭素数1~3がより好ましく、メチル基、エチル基がさらに好ましい。
複数のR’は、互いに同一でもよいし異なっていてもよい。但し、複数のR’のうち少なくとも1つは、フラン環を含む官能基である。このフラン環は、炭素繊維との反応性を有する。全部のR’のうちの、フラン環を含む官能基の割合は、例えば3~10%程度である。
【0062】
本実施形態のセルロース系樹脂は、CFRPの母材(マトリクス)用の樹脂として有用なものである。また、本実施形態のセルロース系樹脂は、バイオマスを原料として合成できることからも好ましい。加えて、本実施形態のセルロース系樹脂を用いることで、高機能材料であるCFRPをバイオマスから作製することができる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0064】
<CFRPの製造>
(実施例1)
工程(2-i):Ts化セルロースの合成
【化14】
【0065】
[CP-XPStagの合成]
ナスフラスコに塩化メチレン50mLを仕込み、撹拌下、CP(セルロースプロピオネート)5gを添加、室温条件でトリエチルアミン0.43mLを滴下した。その後、反応溶液を0℃に冷却、4-トリフルオロメチルベンゾイルクロリド0.46mLを滴下、室温に昇温し、一晩約16時間撹拌した。反応液をメタノール:水=1:1の混合液に滴下することで再沈殿を行い濾過、さらに濾液を減圧留去した後、少量のアセトンに溶解させたものを再度メタノール:水=1:1の混合液に滴下することで再沈殿を行った。生成物を濾過、減圧乾燥し、白色固体の目的物CP-XPStagを得た。
【0066】
[CP-XPStag-Tsの合成]
CP-XPStag 2gをピリジン100mLに溶解させた溶液に対して、7gのトシルスルホニルクロリドをピリジン20mLに溶解させた溶液に30分かけて滴下した。8℃で24時間撹拌した後に、反応溶液を冷水に滴下することで再沈殿を行い濾過、エタノールで洗浄を行った。さらに少量のアセトンに溶解させたものを再度水に滴下することで再沈殿を行った。生成物を濾過、減圧乾燥し、白色固体の目的物CP-XPStag-Tsを得た。
【0067】
工程(2-iii):CF-BnNH
2の合成
【化15】
【0068】
[CF-BnNHBocの合成]
30mLのオルトジクロロベンゼン、15mLのアセトニトリルに163mgの4-[(ブトキシカルボニル)アミノメチル]アニリンを溶解させた溶液に対して10分間窒素ガスを吹き込むことで簡易脱気操作を行った。25mgの炭素繊維を溶液に浸漬させた後、170μLの亜硝酸tert-ブチルを加え50℃で24時間加熱を行った。反応終了後、塩化メチレンを用いて溶液を希釈し、黄色成分が流出しなくなるまで生成物を洗浄した。生成物を濾過して回収した後にさらに200mLの塩化メチレンで洗浄し、水及びアセトンでも洗浄を行った後に、24時間の減圧乾燥を行うことでCF-BnNHBocを定量的に得た。
【0069】
[CF-BnNH2の合成]
続いて、得られたCF-BnNHBocを20mLの2M塩化水素ジオキサン溶液に24時間室温で浸漬させた。反応終了後、水を用いて溶液を希釈し、洗浄した。続いて2M水酸化ナトリウム水溶液に生成物を10分間おきに3回浸漬させ、反応物表面を塩基性にした。生成物を水で5回洗浄し濾過、150mLのアセトンでさらに洗浄を行った後に、24時間の減圧乾燥を行うことでCF-BnNH2を定量的に得た。
【0070】
工程(2-ii):CF-BnNH
2-CP-XPStag-Tsの合成
【化16】
【0071】
25mgのCF-BnNH2を、40mLのジメチルスルホキシドと0.1mLのトリエチルアミンの溶液に浸漬させ、CP-XPStag-Ts 1gを20mLのジメチルスルホキシドに溶解させた溶液を加え、100℃で24時間加熱した。生成物をアセトン、塩化メチレン、水で洗浄した後に、24時間の減圧乾燥を行うことでCF-BnNH2-CP-XPStag-Tsを定量的に得た。
【0072】
[元素組成分析]
X線光電子分光分析装置(XPS)を用いて、CF-BnNH2-CP-XPStag-Ts上の元素分析を行った。
【0073】
図1は、XPS測定で得られた、F1sの高分解能スペクトルを示す図である。
図1中、Controlは、Control fiberに相当し、炭素繊維のみを示している。
Tosylate1、Tosylate2及びTosylate3は、同一の試料(CF-BnNH
2-CP-XPStag-Ts)に対するXPS測定を、観測位置を変えて3回行った結果を示している。
【0074】
図1において、XPStagに由来するフッ素原子のピーク(約690eV)が観測されたことから、CP-XPStag-Ts及びCF-BnNH
2間に目的とする共有結合を導入できたことが確認された。
CF-BnNH
2-CP-XPStag-TsについてのXPS測定結果に基づく元素組成(%)を表1に示した。
【0075】
【0076】
(実施例2)
工程(2-i):CP-XPStag-Azの合成
【化17】
【0077】
[CP-XPStag-Brの合成]
3gの結晶性セルロース(アビセル)を120mLのジメチルアセトアミド中で130℃、1時間撹拌した。その後100℃で9gの塩化リチウムを加え、セルロースを溶解させた状態で室温に戻した。0.5mLのトリエチルアミン、続いて0.55mLの4-(トリフルオロメチル)ベンゾイルクロリドを加えた後に、室温で一晩撹拌した。続いて19.4gのトリフェニルホスフィンを30mLのジメチルアセトアミドに溶解させた溶液を滴下、さらに13.2gのN-ブロモスクシンイミドを30mLのジメチルアセトアミドに溶解させた溶液を滴下した後に、70℃で2時間加熱撹拌を行った。その後、23.7mLのプロピオン酸無水物を加え、70℃で一晩加熱撹拌を行った。反応液をメタノール:水=1:1の混合液に滴下することで再沈殿を行い濾過、さらに濾液を減圧留去した後、少量のアセトンに溶解させたものを再度メタノール:水=1:1の混合液に滴下することで再沈殿を行った。生成物を濾過、減圧乾燥し、目的物CP-XPStag-Brを得た。
【0078】
[CP-XPStag-Azの合成]
3gのCP-XPStag-Brを100mLのジメチルスルホキシドに溶解させ、6.0gのアジ化ナトリウムを加えた後、アルゴン雰囲気下、80℃、24時間加熱撹拌を行った。反応液を水に滴下することで再沈殿を行い濾過、洗浄を行い、減圧乾燥することで目的物CP-XPStag-Azを得た。
【0079】
工程(2-iii):CF-PhAceの合成
【化18】
【0080】
30mLのオルトジクロロベンゼン、15mLのアセトニトリルに86mgの4-エチニルアニリンを溶解させた溶液に対して10分間窒素ガスを吹き込むことで簡易脱気操作を行った。25mgの炭素繊維を溶液に浸漬させた後、170μLの亜硝酸tert-ブチルを加え50℃で24時間加熱を行った。反応終了後、塩化メチレンを用いて溶液を希釈し、黄色成分が流出しなくなるまで生成物を洗浄した。生成物を濾過して回収した後にさらに200mLの塩化メチレンで洗浄し、水およびアセトンでも洗浄を行った後に、24時間の減圧乾燥を行うことでCF-PhAceを定量的に得た。
【0081】
工程(2-ii):CF-PhAce-CP-XPStag-Azの合成
【化19】
【0082】
25mgのCF-PhAceを、1gのCP-XPStag-Azを溶解させた50mLのジメチルホルムアミド溶液に浸漬させた後、0.25gの硫酸銅5水和物及び0.34gのアスコルビン酸を溶解させた20mLのジメチルホルムアミド溶液を加え室温で2時間静置した。反応終了後、100mLの1Mエチレンジアミン四酢酸水溶液で洗浄して溶液を希釈し、黄色成分が流出しなくなるまで生成物を洗浄した。生成物を濾過して回収した後にさらに200mLの塩化メチレンで洗浄し、水及びアセトン、ジクロロメタンでも洗浄を行った後に、24時間の減圧乾燥を行うことでCF-PhAce-CP-XPStag-Azを定量的に得た。
【0083】
[元素組成分析]
X線光電子分光分析装置(XPS)を用いて、CF-PhAce-CP-XPStag-Az上の元素分析を行ったところ、XPStagに由来するフッ素原子のピークは観測できなかったものの、トリアゾール骨格に由来する窒素原子のピークを観測できたことからCP-XPStag-Az及びCF-PhAce間に目的とする共有結合を導入できたことが確認された。
CF-PhAce-CP-XPStag-AzについてのXPS測定結果に基づく元素組成(%)を表2に示した。
【0084】
【0085】
(実施例3)
工程(1-i):フロイル化セルロース(CP-XPStag-Fur)の合成
【化20】
【0086】
[CP-XPStagの合成]
ナスフラスコに塩化メチレン50mLを仕込み、撹拌下、CP(セルロースプロピオネート)5gを添加、室温条件でトリエチルアミン0.43mLを滴下した。その後、反応溶液を0℃に冷却、4-トリフルオロメチルベンゾイルクロリド0.46mLを滴下、室温に昇温し、一晩撹拌した。反応液をメタノール:水=1:1の混合液に滴下することで再沈殿を行い濾過、さらに濾液を減圧留去した後、少量のアセトンに溶解させたものを再度メタノール:水=1:1の混合液に滴下することで再沈殿を行った。生成物を濾過、減圧乾燥し、白色固体の目的物CP-XPStagを得た。
【0087】
[CP-XPStag-Furの合成]
ナスフラスコに塩化メチレン50mLを仕込み、撹拌下、CP-XPStag 3gを添加、室温条件でトリエチルアミン4.3mLを滴下した。その後、反応溶液を0℃に冷却、2-フロイルクロリド3.0mLを滴下、室温に昇温し、一晩撹拌した。反応液をメタノール:水=1:1の混合液に滴下することで再沈殿を行い濾過、さらに濾液を減圧留去した後、少量のアセトンに溶解させたものを再度メタノール:水=1:1の混合液に滴下することで再沈殿を行った。生成物を濾過、減圧乾燥し、白色固体の目的物CP-XPStag-Furを得た。
【0088】
工程(1-ii):CF-CP-XPStag-Furの合成
【化21】
【0089】
25mgの炭素繊維を、1gのCP-XPStag-Furを溶解させた50mLのジメチルスルホキシド溶液に浸漬させた後、100℃で24時間加熱した。反応終了後、200mLの塩化メチレン、水及びアセトンで洗浄を行った後に、24時間の減圧乾燥を行うことでCF-CP-XPStag-Furを定量的に得た。
【0090】
[元素組成分析]
エネルギー分散型X線分光法(EDX)を用いて、CF-CP-XPStag-Fur上の元素分析を行ったところ、XPStagに由来するフッ素原子のピークが観測されたことから、CP-XPStag-Fur及びCF間に目的とする共有結合を導入できたことが確認された。
CF-CP-XPStag-FurについてのEDX測定結果に基づく元素組成(%)を表3に示した。
【0091】
【0092】
(実施例4)
工程(1-i):フロイル化セルロース(CAB-Fur)の合成
【化22】
【0093】
ナスフラスコに塩化メチレン1.2Lを仕込み、撹拌下、CAB(セルロースアセテートブチレート)40gを添加、室温条件でトリエチルアミン25.0gを滴下した。その後、反応溶液を0℃に冷却、2-フロイルクロリド32.2gを滴下、30℃に昇温し、19時間撹拌した。その後反応液を濾過、濾液をメタノール:水=4:1の混合液に滴下することで再沈殿を行った。生成物を濾過、減圧乾燥し、目的物CAB-Furを41.3g得た。
【0094】
工程(1-ii):CF-CAB-Furの合成
CAB-Fur 1gをプレス機上で203℃条件、0kNの圧力で7分間、45kNで3分間挟み、温度を室温に戻すことでCAB-Furフィルムを作製した。得られた2枚のCAB-Furフィルム間に炭素繊維を挟み、同様に203℃条件、0kNの圧力で7分間、45kNで3分間挟み、温度を室温に戻すことで目的物CF-CAB-Fur(後述の試験片)を作製した。
【0095】
<フラグメンテーション試験による強度評価>
実施例4で作製したCF-CAB-Furを試験片として用い、その強度を、フラグメンテーション試験によって評価した。
【0096】
比較対象の試験片(Control)として、CAB(官能基を導入していないセルロース系樹脂)と炭素繊維との複合材料(CF-CAB)を用いた。
比較対象の試験片は、上記の実施例4における工程(1-ii)で、CAB-Furに代えてCAB(官能基を導入していないセルロース系樹脂)を用いた以外は、同様の操作を行うことによって作製した。
【0097】
[フラグメンテーション試験]
試験片CF-CAB-Furをオートグラフ装置に取り付け、引張速度0.5mm/minで測定を開始し、得られた破断繊維長の平均値から界面剪断強度(IFSS)を求めた。この際、1試験に対して5回の測定を行った。この結果を
図2に示した。
【0098】
図2は、フラグメンテーション試験の結果を示すグラフである。
試験片CF-CAB-Fur(実施例4)と試験片CF-CAB(Control)とを比較したところ、試験片CF-CAB-Fur(実施例4)においては、試験片CF-CAB(Control)に比べて、約23%程度のIFSS値の有意な増加が確認された。すなわち、試験片CF-CAB-Fur(実施例4)は、強度が高められていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明に係る炭素繊維強化プラスチックの製造方法により、母材である樹脂の選択自由度が高く、また、強度のさらなる向上が図られたCFRPを提供することができる。加えて、高機能材料であるCFRPをバイオマスから作製することもできる。バイオマス由来のCFRPは、吸水しにくい特性を有し、また、自動車のボディ素材等にも活用できる。本発明を適用することで、CFRPの用途開拓、その使用量の増加等に応えることができる。