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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-11
(45)【発行日】2022-03-22
(54)【発明の名称】排気ガスシール用リングガスケット
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/08 20060101AFI20220314BHJP
   F01N 13/08 20100101ALI20220314BHJP
【FI】
F16J15/08 E
F01N13/08 E
F16J15/08 L
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2017248134
(22)【出願日】2017-12-25
(65)【公開番号】P2019019974
(43)【公開日】2019-02-07
【審査請求日】2020-09-17
(31)【優先権主張番号】P 2017136588
(32)【優先日】2017-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000230423
【氏名又は名称】日本リークレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(72)【発明者】
【氏名】葛西 康裕
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-042646(JP,A)
【文献】実開平01-143487(JP,U)
【文献】実開昭59-136073(JP,U)
【文献】実開昭52-133857(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 1/00-1/24
F01N 5/00-5/04
F01N 13/00-99/00
F16J 15/00-15/14
F16L 23/00-27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面円形の軟鋼線材により合口を備えた略円環状に形成された芯金と、
ステンレス鋼板によりオーバーラップ部を備えた断面略円形の円環状に形成されて前記芯金の全体を覆う被覆材と、を有する排気ガスシール用リングガスケットであって、
前記芯金の周方向に垂直な断面におけるビッカース硬さが179HV~125HVであり、
前記芯金の合口の隙間が0.5mm~2.0mmであり、
前記合口のカット角度が、前記芯金の周方向に対して30度~60度の範囲であることを特徴とする排気ガスシール用リングガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の内燃機関(エンジン)の排気管同士の接合に使用される排気ガスシール用リングガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の内燃機関のシリンダヘッドの排気孔から排出される摂氏500℃以上に達する高温の燃焼ガスは、シリンダヘッドに取り付けられたエキゾーストマニフォールド、キャタライザ、排気管及びサイレンサーを通過して大気に開放される。
【0003】
自動車に設けられる排気管は、複数に分割された排気管を長手方向に接合した構成とされるのが一般的である。この場合、上流側の排気管の端部に設けられた上流側の継手部と下流側の排気管の端部に設けられた下流側の継手部とを用いた排気管の接合部分には、当該接合部分からの排気ガスの漏れを防止するために、排気ガスシール用リングガスケットが設けられる。排気ガスシール用リングガスケットは、断面が略円形で円環状のガスケットであり、従来、以下のように構成された排気ガスシール用リングガスケットが用いられていた。
【0004】
すなわち、図10に示すように、従来の排気ガスシール用リングガスケット100は、特に摂氏500℃以上の高温下で使う事を前提としたものであり、略円環状に形成された芯材101と、芯材101の全体を覆うように包含するステンレス鋼板等で形成された被覆材102とから構成されている。被覆材102は、断面が略円形の円環状に形成されている。また、一対の継手部の内部に組み込まれて圧縮変形した際に芯材101が被覆材102からはみ出さないように、被覆材102の端部には、他方の端部にオーバーラップするように巻き付くオーバーラップ部102aが設けられている。このオーバーラップ部102aは、被覆材102の内部を密封して、芯材101が高温下で直接酸化作用を受けないようにする目的も受け持っている。ここで、芯材101は、グラファイトシートやマイカシート等の高耐熱材101aを主材料として構成されるが、シートは単体での復元特性が乏しいので、補強材103と組み合わせて使用することで、安定した応力緩和率を得られるようにしている。補強材103としては、例えば、図10(a)に示すような線径が0.2mm程度のステンレス鋼線のメッシュ材、あるいは図10(b)に示すような板厚が0.25mm程度の鋼材を用いたフック鋼板が用いられる。フック鋼板及びステンレス鋼線のメッシュ材を用いる場合には、当該フック鋼板ないしメッシュ材の両面に高耐熱材101aをラミネートした後に圧縮加工し、これを芯材101として被覆材102で覆うことによって排気ガスシール用リングガスケット100とされる。
【0005】
ここで、排気管の接合構造について、図1図2に基づいて説明する。図1は、排気ガスシール用リングガスケットが用いられる排気管の接合部分の詳細を示す半断面図であり、図2図1に示す範囲Aを拡大して示す拡大断面図である。
【0006】
上流側の排気管P1と下流側の排気管P2とを接合する接合構造は、上流側の排気管P1に設けられる上流側の継手部U1、下流側の排気管P2に設けられる下流側の継手部U2、及び、当該接合部分に用いる排気ガスシール用リングガスケットGを有している。なお、図1においては、継手部U1、U2と排気ガスシール用リングガスケットGの締付け後の断面状態を示している。
【0007】
上流側の継手部U1は、通常、板厚2~4mm程度の鋼管である排気ガス流路用の排気管P1の端部に設けられ、外周面に排気ガスシール用リングガスケットGが配置される排気管P1の管端部P3を構成の一部とするとともに、締付けボルト用の開口を持つフランジF1を有して構成されている。フランジF1は排気管P1から立設して溶接等で排気管P1に固着されており、その板厚は通常2~4mm程度である。一方、排気ガス流路の下流側の継手部U2は、締付けボルト用の開口を持つフランジF2を有し、フランジF2は排気管P2から立設して溶接等で排気管P2に固着されている。フランジF1とフランジF2は、管端部P3をフランジF2の内側に挿通した状態で、締付けボルト用の開口に挿通された締付けボルトBに締付けナットNを締結することで互い固着されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】実開昭52-133857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図10に示す従来構造の排気ガスシール用リングガスケット100を、図1図2に示す接合構造において排気ガスシール用リングガスケットGとして用いた場合に、以下の問題点が指摘されていた。
【0010】
すなわち、図1に示す接合構造における排気ガスシール用リングガスケットGとして従来構造の排気ガスシール用リングガスケット100を用いると、当該排気ガスシール用リングガスケット100は上流側の排気管P1に設けられた管端部P3に差し込む様態でセットされ、且つ、フランジF1とフランジF2により挟み込まれて締付けボルトB及び締付けナットNで締め付けられてシールに供されることになる。図2に示すように、締め付け後においては、排気ガスシール用リングガスケット100は、上流側の排気管P1に接合されたフランジF1の略3~6mmのR形状を有する湾曲部R1と、下流側の排気管P2に接合されたフランジF2の略3~6mmのR形状を有する湾曲部R2と、管端部P3の外周面の3点間に生じる断面略三角形のシールポケットHの内部で締め付けられ、その結果、成形時は略円形だった排気ガスシール用リングガスケット100の断面形状は、上記シールポケットHの内部で圧縮されて、断面形状が不規則な略三角形の形状に変化する。このとき、圧縮変形した排気ガスシール用リングガスケット100からは、被覆材102のバネ応力や芯材101が持つ復元力による反発力が生じ、この反発力が三方向の湾曲部R1、湾曲部R2、管端部P3の部分に面圧として作用することになる。そのため、上記反発力が継続して弾性変形領域内にあるとき、排気ガス等の気体流体をシールする機構は存続することになる。
【0011】
しかし、上記従来の排気ガスシール用リングガスケット100では、上流側の継手部U1と下流側の継手部U2とによって締め込まれた状態において、内燃機関の稼働、停止によって冷熱が繰り返し行われたり、長期間に亘って高温条件下による稼働が継続されたりすると、芯材101の応力緩和が進み、その結果、長期間に亘って安定したシール機能を維持することができなくなるという問題点があった。
【0012】
また、芯材101を包含している被覆材102の硬度の低下、排気ガスシール用リングガスケット100を挟み込む両フランジF1、F2の熱変形、内燃機関の稼働時や車両の走行等によって生じる両継手部U1、U2の微振動等によっても、排気ガスシール用リングガスケット100が湾曲部R1、湾曲部R2、管端部P3へ向けて押し付ける反発力(面圧)が減少し、シールポケットHと排気ガスシール用リングガスケット100との間に隙間が生じ、その結果、長期間に亘って安定したシール機能を維持することができなくなるという問題点もあった。
【0013】
さらに、シールポケットHと排気ガスシール用リングガスケット100との間に隙間が生じると、排気ガスシール用リングガスケット100の微振動が増大し、増大した微振動が繰り返されることによって被覆材102の金属疲労が進み、その結果、被覆材102の一部にクラックが発生し易くなり、当該クラックにより、包含されていた芯材101が大気下に直接晒されて芯材101が酸化してシール機能が損なわれる虞があった。
【0014】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、長期間に亘り安定してシール機能を維持することができる排気ガスシール用リングガスケットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の排気ガスシール用リングガスケットは、断面円形の軟鋼線材により合口を備えた略円環状に形成された芯金と、ステンレス鋼板によりオーバーラップ部を備えた断面略円形の円環状に形成されて前記芯金の全体を覆う被覆材と、を有する排気ガスシール用リングガスケットであって、前記芯金の周方向に垂直な断面におけるビッカース硬さが179HV~125HVであり、前記芯金の合口の隙間が0.5mm~2.0mmであり、前記合口のカット角度が、前記芯金の周方向に対して30度~60度の範囲であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、長期間に亘り安定してシール機能を維持することができる排気ガスシール用リングガスケットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】排気ガスシール用リングガスケットが用いられる排気管の接合部分の詳細を示す半断面図である。
図2図1に示す範囲Aを拡大して示す拡大断面図である。
図3】(a)は本発明の一実施の形態である排気ガスシール用リングガスケットの平面図であり、(b)は同図(a)におけるA-A線に沿う断面図である。
図4】芯金の合口の部分の詳細を示す一部切欠き断面図である。
図5】シール限界圧力試験装置を示す説明図である。
図6】継手部を構成するフランジの間へのシムプレートの配置を示す説明図である。
図7】断面硬度測定方法を示す説明図である。
図8】加熱搖動試験装置を示す説明図である。
図9】変形例の排気ガスシール用リングガスケットにおける芯金の合口の部分の詳細を示す一部切欠き断面図である。
図10】従来の排気ガスシール用リングガスケットの構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明をより具体的に例示説明する。
【0020】
本発明の一実施の形態である排気ガスシール用リングガスケット1は、自動車等の内燃機関に設けられる排気管同士の接合に使用されるものである。排気ガスシール用リングガスケット1は、例えば、図1図2に示す構成を有する排気管P1、P2の接合部分に、排気ガスシール用リングガスケットGに替えて用いることができる。
【0021】
図3図4に示すように、排気ガスシール用リングガスケット1は、芯金2と被覆材3とを有している。芯金2は、断面円形の軟鋼線材により合口2aを備えた略円環状に形成されている。軟鋼線材としては、例えば、SWRM6鋼線(通称、「針金」)を用いることができる。被覆材3は、ステンレス鋼板によりオーバーラップ部3aを備えた断面略円形の円環状に形成されており、その内側に芯金2を内包して芯金2の全体を覆っている。なお、オーバーラップ部3aは、被覆材3の周方向に垂直な断面における周方向の一方の端部が他方の端部の外側にオーバーラップするように重ねて巻き付く部分であり、オーバーラップ部3aにより被覆材3の内部は外部に対して密封されている。なお、芯金2の外周面と被覆材3の内周面との間には僅かに隙間があるが、当該隙間は無くてもよい。
【0022】
芯金2は、その周方向に垂直な断面におけるビッカース硬さが、179HV~125HVの範囲内であるとともに、合口2aの周方向に向けた隙間が、0.5mm~2.0mmの範囲内のものとなっている。
【0023】
本実施の形態の排気ガスシール用リングガスケット1は、上記構成を有することにより、長期間に亘って安定したシール機能を維持することができる。
【0024】
本実施の形態の排気ガスシール用リングガスケット1は、例えば次のように製作することができる。
【0025】
まず、例えば板厚t=0.20mmのステンレス鋼板を、金型を用いて抜き絞り加工することにより、断面がU字形であるとともに全体形状が円環状となるリング状の部材を形成する。
【0026】
次に、リング状の部材の断面U字の溝の内部に、軟鋼線材により形成した芯金2を装填する。芯金2を構成する軟鋼線材は、線径がφ3.2mm、周方向に垂直な断面におけるビッカース硬さ(断面硬度)が179HVのSWRM6鋼線である。芯金2は、端部の合口2aの形状が、図4に示すように、カット角度Drが周方向に対して垂直となるように設定され、排気ガスシール用リングガスケット1として略円環状に成形されたときに、その合口の隙間Dwが1mmとなる長さでカットされた後、金型で略円形に曲げられてリング状の部材の断面U字の溝の内部に装入される。なお、カット角度Drは、周方向に対して垂直となる角度に対して僅かに傾斜する角度に設定されてもよい。芯金2が装入されると、リング状の部材を、そのU字状の溝上部の両先端を、芯金2を覆うように内側に折り曲げ、両端部を互いにオーバーラップさせて芯金2の全体を完全に覆い尽くす態様とし、絞り金型を用いて断面が略円形で全体形状が円環状となる排気ガスシール用リングガスケット1に成形する。本実施の形態においては、排気ガスシール用リングガスケット1の周方向に垂直な略円形の断面の直径はφ4mmであり、オーバーラップ部3aの幅は2.5mmである。また、排気ガスシール用リングガスケット1の内径は、上流側の排気管P1の管端部P3にストレスなく介装され、その後、図2におけるシールポケットHの中でストレスなく圧縮され、且つ、フランジF1の湾曲部R1と、フランジF2の湾曲部R2と、管端部P3との3点間に面圧として作用し、被覆材3のバネ応力や芯金2の持つ復元力を有効に発揮できる構成とされる。
【0027】
本実施形態に係る排気ガスシール用リングガスケット1の効果を確認するために、発明者は、上記実施形態に係る排気ガスシール用リングガスケット1と同一の構成を有する実施例J1の排気ガスシール用リングガスケットと、比較例C1、C2の2種類の排気ガスシール用リングガスケットとを用意し、図5図6に示すシール限界圧力試験装置を用いて、ガスシール限界圧力試験を行った。
【0028】
ここで、比較例C1、C2の2種類の排気ガスシール用リングガスケットは、以下の構成のものとした。
【0029】
比較例C1として製作した排気ガスシール用リングガスケットは、図10(a)に示す構成のものである。比較例C1の排気ガスシール用リングガスケットは、被覆材102となるものとして板厚t=0.20mmのステンレス鋼板を、金型を用いて抜き絞り加工することにより、断面がU字形であるとともに全体形状が円環状となるリング状の部材を形成し、その断面U字形のリング状の部材の溝の内部に、板厚が0.3mm、幅が15mmの膨張黒鉛(グラファイトシート)を高耐熱材として装入し、その上に、ステンレス製であって、線径がφ0.15mmでメッシュ幅が15mmのメッシュ材を補強材103として装入し、更にその上に膨張黒鉛を装入し、その後、金型を用いて断面が略円形で全体形状が円環状となる排気ガスシール用リングガスケットに成形したものである。比較例C1の排気ガスシール用リングガスケットは、略円形の直径がφ4mm、オーバーラップ幅が2.5mmであり、リングの内径は上流側の排気管P1の管端部P3にストレスなく介装された後、実施例J1のものと同様に、図2におけるシールポケットHの中でストレスなく圧縮され、且つ、フランジF1の湾曲部R1と、フランジF2の湾曲部R2と、管端部P3との3点間に面圧として作用し、被覆材3のバネ応力や芯金2の持つ復元力を有効に発揮できる構成とした。
【0030】
比較例C2として製作した排気ガスシール用リングガスケットは、図10(b)に示す構成のものである。すなわち、比較例C2の排気ガスシール用リングガスケットは、膨張黒鉛に加える補強材103として、板厚t=0.25mmの鉄鋼材を用いたフック鋼板を使用したものである。比較例C2の排気ガスシール用リングガスケットは、比較例C1の排気ガスシール用リングガスケットと同様のリング状の部材の溝の内部に、膨張黒鉛をラミネートしたスチールベスト材をリング状の部材の溝の内部に入る内外径でカットした後に装填し、その後、金型を用いて断面が略円形で全体形状が円環状となる排気ガスシール用リングガスケットに成形したものである。比較例C2の排気ガスシール用リングガスケットは、略円形の直径がφ4mm、オーバーラップ幅が2.5mmであり、リングの内径は上流側の排気管P1の管端部P3にストレスなく介装された後、実施例J1のものと同様に、図2におけるシールポケットHの中でストレスなく圧縮され、且つ、フランジF1の湾曲部R1と、フランジF2の湾曲部R2と、管端部P3との3点間に面圧として作用し、被覆材3のバネ応力や芯金2の持つ復元力を有効に発揮できる構成とした。
【0031】
ここで、実施例J1は、軟鋼線材を芯金2として使用することから、使用した軟鋼線材(SWRM6鋼線)の周方向に垂直な断面におけるビッカース硬さHV(断面硬度)を、マイクロビッカース硬度計を用いて下記の要領で測定した。すなわち、軟鋼線材の一部を900mmの長さにカットし、更にそれを3等分して300mm幅として、硬度測定用サンプルa、b、cとし、更に、上記300mm幅の測定用サンプルa、b、cの中央部分から、幅15mm程度で断面が軸線方向に対して垂直となるようにファインカッターで切り出し、幅15mmの長さで切り出した部分のどちらか一方の上面が見えるように配置し、直径が32mm、高さが25mm程度の円柱状となる加熱埋込樹脂の内部に高さ15mmの線材部分の全体を埋め込むように配置し、これを加圧加熱成形して円柱を完成させ、上記で成形した円柱の樹脂面から上方に顔を覗かせている軟鋼線材の断面を、最終的には#2400番の耐水研磨紙を用いて表面を研磨した後に、マイクロビッカース硬度計を用いてビッカース硬さの測定をした。
【0032】
ここで、ビッカース硬さの測定方法は、図7に示すように、線材の断面を端部から中央部に向かって横断するように並ぶ複数の測定点MPにおいて測定を行い、これらの測定点における測定値の平均値を算出し、これをサンプルa、b、cともに3個行い、更にこの3個の平均を以って軟鋼線材の断面硬度とした。表1は、本願発明を検討する上で実験に供した各々の線材の断面硬度の測定結果を表している。
【0033】
【表1】
【0034】
図5に示すように、シール限界圧力試験装置10は、上流側の継手部U1、及び下流側の継手部U2を中心として排気管P1、P2の両サイドをカットし、その両端部に取り外し可能な端部シールユニット11を設けて当該排気管P1、P2の両端部を閉塞した構造となっている。また、排気管P2の側の端部シールユニット11には、加圧ガス供給パイプ12、及びフローメータ13が取付けられていて、加圧ガス供給パイプ12を通して加圧された窒素ガスをフローメータ13を通して排気管P1、P2の内部に規定圧力で充填し、その圧力を排気ガスシール用リングガスケットに加えることができるようになっている。
【0035】
ここで、排気管P1、P2の接合部分に設けられた排気ガスシール用リングガスケットのシール限界圧力値を把握する方法は以下の通りである。まず、加圧ガス供給パイプ12から排気管P1、P2の内部に、窒素ガスを供給するとともに、当該窒素ガスの圧力を10kPa毎に増加させる。そして、排気管P1、P2の内部が設定した規定圧力に達した時点で加圧ガス供給パイプ12を閉塞して1分間保持し、その1分間の間にフローメータ13を通過する窒素ガスの量をリーク量として測定する。フローメータ13が測定したリーク量が10ccを越えた時点で試験を中止し、10ccを越える直前の圧力数値を試験サンプルの「シール限界圧力値」とする。
【0036】
また、排気ガスシール用リングガスケットは、継手部U1、U2により規定の締付トルクで締付けられて使用に供されるが、排気ガスシール用リングガスケットの使用時においては、排気ガスシール用リングガスケット自体の応力緩和や継手部U1、U2を構成するフランジF1、F2の熱変形等によって締付けボルトBにトルクダウンが生じ、このトルクダウンにより、排気ガスシール用リングガスケットの圧縮低下、すなわち圧縮が不完全な状況に繋がることがある。そこで、当該圧縮不完全状態が、排気ガスシール用リングガスケットのシール限界圧力値に与える影響を見極めるために、圧縮性低下時の状況を想定したガスシール限界圧力試験を行うこととした。
【0037】
圧縮性低下時を想定したガスシール限界圧力試験は、以下の方法で行った。まず、排気ガスシール用リングガスケットをシール限界圧力試験装置10にセットして、規定の締付けボルトB及び締付けナットNを使用し、一度規定トルクで排気ガスシール用リングガスケットを締め付けた後、締付けボルトB及び締付けナットNを緩めて排気ガスシール用リングガスケットを解放する。次いで、再度排気ガスシール用リングガスケットを締め付けることになるが、当該締め付けの前に、継手部U1、U2を構成するフランジF1とフランジF2の間の4か所に、ステンレス鋼板をカットして形成した、板厚が0.4mm、0.6mm、0.8mm、1.0mm、1.2mm、1.4mm、1.6mm、1.8mm、2.0mmとなる計9種類のシムプレート14を用意し、図6に示すように、両フランジF1、F2の間に、シムプレート14をセットした後、規定のトルクで排気ガスシール用リングガスケットを締め付ける。なお、当試験に於ける締付けトルクは、1回目、2回目とも規定トルクの45N・mとした。
【0038】
そして、板厚が相違する各シムプレート14を順に挟んで上記締め付けを行って、上記したガスシール限界圧力試験を行った。当試験におけるシール限界圧力値の評価基準は、従来の排気ガスシール用リングガスケットの開発時に評価基準として設定した、シムプレート14の高さ(以下、「シム高さ」ともいう。)が0.4mmにおいて500kPaを上回ることとした。
【0039】
実施例J1、比較例C1、C2についての上記ガスシール限界圧力試験の評価結果を表2に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
表2から解るように、当試験におけるシール限界圧力値の基準ラインとして設定した500kPaを上回ることが可能なシム高さは、実施例J1は、1.4mm以下、比較例C1は、1.0mm以下であった。一方、比較例C2は、最低ラインのシム高さが0.4mmの時点で500kPaを上回る結果となった。本願の実施例J1は、シム高さが0.4mm~1.4mmの範囲でシール限界性能を有していて、比較例C1、C2よりも安定したシール性能が得られていることが確認できた。
【0042】
ここで、比較例C1は、シム高さが0.4mm~1.0mmまでは、基準ラインである500kPaをクリアし、安定したシール限界性能を得ているが、本願の実施例J1のようにシム高さが1.4mmでは規定の圧力値に届いていない。また、比較例C2は、シム高さの変化に対して鈍感であるが、全体的にシール限界圧力値そのものが低く、本願の実施例J1と比較してシール性能は低いものと評価される。これは、芯材101を構成する高耐熱材101a自体の応力緩和率が大きく、一度締め付けた事によって応力緩和が進み、再度締め付けた時に大きな反発力を被覆材102に伝える事ができず、結果的に継手部でのシール能力を発揮できなくなったものと推測される。以上の通り、本願の実施例として製作した実施例J1は、比較例C1、C2と比較して、圧縮不完全な状況下でも充分なシール限界圧力性能を持つことが解った。
【0043】
発明者は、上記した圧縮性低下時のガスシール限界圧力試験結果を以って、本願の実施例J1の有効性を確認したので、次に、本願発明において芯金2として用いる軟鋼線材の有効性について確認するために、加熱搖動試験を行った。
【0044】
加熱搖動試験を行うために、上記した実施例J1、比較例C1、C2に加えて、実施例J2、J3及び比較例C3、C4の排気ガスシール用リングガスケットを用意した。
【0045】
実施例J2、J3は、それぞれ実施例J1と同一の構成を有し、芯金2の周方向に垂直な断面におけるビッカース硬さのみが相違するものとした。実施例J2の芯金2の周方向に垂直な断面におけるビッカース硬さは142HVであり、実施例J3の芯金2の周方向に垂直な断面におけるビッカース硬さは125HVである。なお、実施例J2においては、実施例J1で使用した軟鋼線材(SWRM6)を、加熱炉を用いて550℃で1時間加熱した後に炉冷却したものを用い、実施例J3においては、実施例J1で使用した軟鋼線材(SWRM6)を、加熱炉を用いて700℃で1時間加熱した後に炉冷却したものを用いた。
【0046】
比較例C3、C4は、それぞれ実施例J1と同一の構成を有し、芯金2の材質のみが相違するものとした。比較例C3では、芯金として比較的硬いステンレス鋼線(SUS304)を用い、比較例C4では、芯金として比較的柔らかいアルミ線(A1070B)を用いた。比較例C3のステンレス鋼線の周方向に垂直な断面におけるビッカース硬さは272HVであり、比較例C4のアルミニューム線材の周方向に垂直な断面におけるビッカース硬さは27HVである。
【0047】
加熱搖動試験は、図8に示す加熱搖動試験装置20を用いて行った。加熱搖動試験装置20は、搖動試験機21、搖動試験機21を排気管P2に固定する下流側排気管固定部22、排気管P1を支持台23に固定する2つの上流側排気管固定部24、プロパンガスバーナ25及び温度センサ26を有している。試験に供される排気管P1、P2、継手部U1、U2等は前記シール限界圧力試験装置10と同様であるが、排気ガスシール用リングガスケットが挟み込まれるフランジF2の湾曲部R2の外部に温度センサ26が取り付けられている点で相違する。なお、当評価においては、実機装着時の使用状態を確認するものであるので、図6に示すシムプレート14は使用していない。
【0048】
加熱搖動試験は、まず、上流側の排気管P1を、上流側排気管固定部24を用いて支持台23に確実に固定し、プロパンガスバーナ25を上流側の排気管P1の内部に位置するようにセットする。温度センサ26は、規定温度調用の温調器(不図示)に接続する。
【0049】
当状態において、試験に供する排気ガスシール用リングガスケットを、フランジF1、F2の間において上流側の排気管P1の管端部P3にセットし、締付けボルトB及び締付けナットNを用いて規定トルクで締め付ける。また、下流側の排気管P2を、下流側排気管固定部22に確実に固定して搖動試験機21に接続し、次いで、シール限界圧力試験装置10で用いたのと同様の端部シールユニット(不図示)を用いて排気管P1、P2の端部を閉塞する。そして、端部シールユニットに接続した加圧ガス供給パイプを通して排気管P1、P2の内部に窒素ガスを供給し、排気管P1、P2の内部の圧力が70kPaに達した時点で加圧ガス供給パイプを閉じて1分間保持し、フローメータにより窒素ガスのリーク量を測定し、この窒素ガスのリーク量を加熱搖動前のリーク量として記録する。
【0050】
続いて、搖動条件を、搖動振幅トルク:5kgfm、搖動加振周波数:6サイクル毎秒、加熱温度:500℃と設定し、排気管P1、P2の端部を閉塞する端部シールユニットを取り外した状態として、排気管P1に挿通されているプロパンガスバーナ25に点火し、温度センサ26が500℃を指すのを確認した後、SIN波にて排気管P1を搖動試験機21にて図中上下方向に搖動させて加熱搖動させる。そして、1万回の加熱搖動が終了した時点で、支持台23及び搖動試験機21に排気管P1、P2を固定したままの状態でプロパンガスバーナ25を排気管P1から遠ざけて500℃から常温にまで強制的にファン冷却する。次いで、端部シールユニットを排気管P1、P2の端部に取り付けて排気管P1、P2を閉塞した後、端部シールユニットに接続した加圧ガス供給パイプを通して排気管P1、P2の内部に窒素ガスを供給し、排気管P1、P2の内部の圧力が70kPaに達した時点で加圧ガス供給パイプを閉じて1分間保持し、フローメータにより窒素ガスのリーク量を測定し、この窒素ガスのリーク量を1万回の加熱搖動終了後のリーク量として記録する。上記の要領で、再び端部シールユニットを取り外して、排気管P1にプロパンガスバーナ25をセットし、プロパンガスバーナ25を作動させて500℃を確認した後、加熱搖動を5万回行い、1万回終了時の要領でフローメータにより窒素ガスのリーク量を測定する。同様に10万回、20万回、40万回、60万回、80万回、100万回と加熱搖動を行い、それぞれの搖動回数終了時にフローメータにより窒素ガスのリーク量を測定する。
【0051】
実施例J1~J3及び比較例C1~C4について行った上記加熱搖動試験の結果を表3に示す。
【0052】
【表3】
【0053】
実施例J1は、100万回の加熱搖動の終了時点で、約25cc/minのリーク量であった。これに対し、比較例C1は、100万回の加熱搖動の終了時点で、約345cc/minのリーク量であり、比較例C2は、100万回の加熱搖動の終了時点で、約395cc/minのリーク量であった。これにより、実施例J1のシール性能が、比較例C1、C2と比較して充分な耐久性を有していることが確認された。
【0054】
また、本願の実施例J1に使用した軟鋼線材(SWRM6)を加熱炉内で熱処理し、アニーリングを行ったものを芯金として用いた実施例J2は、100万回の加熱搖動の終了時点で、約39cc/minのリーク量であり、実施例J3は、100万回の加熱搖動の終了時点で、約46cc/minのリーク量であった。この結果から、芯金として用いる軟鋼線材の周方向に垂直な断面におけるビッカース硬さHVは、上記した測定方法において、179HV~125HVの範囲内であれば従来品(比較例)と比較して充分な耐久性を有していることが確認された。
【0055】
一方、比較例C3、C4は、100万回の加熱搖動の終了時点で、実施例J1~J3ないし他の比較例C1,C2と比較して大きなリーク量を示したので、その加熱搖動試験を中止した。この結果から、硬度の高いステンレス鋼線及び硬度の低いアルミ線は、本願発明の排気ガスシール用リングガスケットの芯金としては不向きであることが確認された。
【0056】
なお、当加熱搖動試験はエンジン出力時の高温排気ガス下及び、走行時に路面から受ける排気管システムの振動も加味されたものであるので、本試験において実施例J1~J3に示すように芯金として軟鋼線材(SWRM6)を用いた構成とすることで、実際に自動車等に搭載された排気管においても、十分に高い限界シール性能を持つことが確認できた。
【0057】
次に、発明者は、軟鋼線材(SWRM6)により形成した芯金の合口の隙間Dwの範囲についての評価を行うために、上記した実施例J1、J3の排気ガスシール用リングガスケットに加えて、実施例J1に対して合口の隙間Dwのみが相違する実施例J4~J6及び比較例C5の排気ガスシール用リングガスケットと、実施例J3に対して合口の隙間Dwのみが相違する実施例J7~J9及び比較例C6の排気ガスシール用リングガスケットとを用意し、これらの排気ガスシール用リングガスケットに対して上記と同様の加熱搖動試験を行なうとともに加工性の評価を行った。
【0058】
なお、実施例J1、J3の合口の隙間Dwが1.0mmであるのに対し、比較例C5の合口の隙間Dwは0.3mm、実施例J4、J7の合口の隙間Dwは0.5mm、実施例J5、J8の合口の隙間Dwは1.5mm、実施例J6、J9の合口の隙間Dwは2.0mm、比較例C6の合口の隙間Dwは2.5mmである。また、上記サンプルとしては、芯金のビッカース硬さが179HVと125HVのものを用い、中間の硬さである142HVのもの(実施例J2)は、データを採取しなくとも評価を推測可能として省略した。
【0059】
加工性の評価は、加工後の状態を外観観察して行った。その結果、実施例J1、J3~J9及び比較例C1、C2の加工性は良好であったが、断面のビッカース硬さが179HVとなる芯金を用いた比較例C5、C6の加工性に異常が確認された。ここでの加工性の異常(不具合)として、比較例C5(合口の隙間Dw=0.3mm)では、U字型から断面円形で円環状の排気ガスシール用リングガスケットに成形した時点で、合口に凸状の膨らみが確認された。一方、比較例C6(合口の隙間Dw=2.5mm)では、U字型から断面円形で円環状の排気ガスシール用リングガスケットに成形した時点で、合口に凹状の膨らみが確認された。同一の断面硬度を有する実施例J1、J4~J6では、合口に上記したような凹凸の変化は起きていないことから、合口の隙間Dwが凹凸の発生に悪影響を与えているものとして、加工性不良と評価した。なお、断面硬度が125HVであり、且つ、合口の隙間Dwが0.3mm、2.5mmのものも、上記比較例C5、C6と同様に加工性に不良が見られたので、サンプルから除外した。
【0060】
加工性に不良が見られた比較例C5、C6を除いた実施例J1、J3~J9について、上記と同様の加熱搖動試験を行い、ガスリーク量(シール性)を確認した。なお、当該試験においては、初期、及び5万回、10万回、20万回、40万回、60万回、80万回終了時点でのシール性の確認(ガスリーク量の確認)を省略し、100万回の搖動を終了した時点でのガスリーク量の確認のみを行った。この措置は、先の加熱搖動試験の結果から、100万回の搖動終了時点のみで十分にシール性の確認が可能であると判断したからである。当該試験結果を表4に示す。
【0061】
【表4】
【0062】
表4から、実施例J1、J3~J9の100万回の搖動終了時点におけるガスリーク量は、何れも、表3に示す比較例C1、C2に対して1/10程度であった。この試験結果から、芯金を構成する軟鋼線材の断面硬度が、179HV~125HVの範囲であって、軟鋼線材の合口の隙間Dwが0.5mm~2.0mmの範囲であれば、従来品(比較例C1、C2)と比較して十分な耐久性を有していることが確認された。
【0063】
図9は、変形例の排気ガスシール用リングガスケットにおける芯金の合口の部分の詳細を示す一部切欠き断面図である。なお、図9においては、前述した部材には同一の符号を付してある。
【0064】
上記の実施の形態においては、図4に示すように、芯金2の端部の合口2aのカット角度Drを、当該芯金2の周方向に対して垂直となるようにしている。これに対し、図9に示す変形例の排気ガスシール用リングガスケット1では、芯金2の端部の合口2aのカット角度Drを、当該芯金2の周方向に対して30度~60度の範囲で傾斜させるようにしている。
【0065】
このように、芯金2の端部の合口2aのカット角度Drを、当該芯金2の周方向に対して30度~60度の範囲で傾斜させた変形例の構成とすることにより、上記した加熱搖動試験において、搖動回数を100万回から200万回、300万回、更に400万回から700万回へと引続き継続した後でも、ガスリーク量を50cc/min以下に維持することが可能な程度に、排気ガスシール用リングガスケット1の耐久性をさらに高めることができる。
【0066】
以下に、発明者が、図9に示す変形例の構成(請求項2に係る構成)を発明するに至った経緯について説明する。
【0067】
発明者は、種々の実験等から、図4に示すように、芯金2の端部の合口2aのカット角度Drを周方向に対して垂直となるようにした上記実施の形態の構成では、上記した加熱搖動試験装置20を用いた加熱搖動試験において、搖動回数を100万回から、更に回数を上乗せして200万回、250万回とすると、ガスリーク量が増加してしまうことに気付いた。ここで、上記の加熱搖動試験は、エンジン出力時の高温の排気ガス下において走行時に路面から受ける排気管システムの振動をも加味して行うものであり、また、100万回の搖動の終了後における50cc/min以下のガスリーク量は、実際に自動車等に搭載された排気管において十分に高いシール性能を示すものであり、さらに、加熱搖動試験の後に上流側の排気管P1と下流側の排気管P2の内部へ加えるガス圧力の70kPaという値も実機の排出圧力よりも高い余裕率を持った条件であるために、加熱搖動試験における搖動回数を100万回以上に上乗せしたことによりガスリーク量が増えるとしても、実機に搭載した場合には大きな問題とはならないと考えられる。しかし、更なるエンジン出力の増加やエミッションの改善、燃費向上、システムの軽量化等による排気ガスシールシステム部への熱負荷上昇等を見据えると、上記した加熱搖動試験において、加熱搖動の回数を200万回から300万回、更に400万回から700万回へと引続き継続した後でも、ガスリーク量を50cc/min以下に維持することが可能な排気ガスシール用リングガスケット1が求められる。
【0068】
発明者は、図4に示す構成の排気ガスシール用リングガスケット1では、上記した加熱搖動試験において搖動回数が200万回を過ぎて300万回以上に達すると、ガスリーク量が増えるが、このときの排気ガスシール用リングガスケット1に以下の事象が生じていることを確認した。すなわち、発明者は、搖動回数が200万回、300万回の加熱搖動試験を終了した後、図8の加熱搖動試験装置20にセットされている継手部U1、U2、排気管P1、P2及び排気ガスシール用リングガスケット1からなるユニットを、加熱搖動試験装置20からシール限界圧力試験装置10のレベルまで分解して水中でガス漏れ箇所を確認し、さらに両フランジF1、F2の締付けボルトBを外して排気ガスシール用リングガスケット1を取り出し、水中でガス漏れしていた部分を確認することで、排気ガスシール用リングガスケット1の当該ガスリーク部分における被覆材3の表面にシワやクラックが発生していることを確認した。さらに、発明者は、被覆材3の表面のシワやクラックの発生部分を調査し、その発生部分の殆どが、芯金2の周方向に対して垂直にカットされた合口2aの部分に集中していることを確認した。
【0069】
以上のことから、発明者は、上記したガスリーク量の増加は、被覆材3の表面に発生したシワやクラックが主因であり、且つ、シワやクラックの発生の主因は合口2aのカット形態に問題があると考えた。さらに、合口2aの調査を進めると、合口の隙間Dwが0.5mm~2.0mmの範囲ではガスリーク量に特別大きな差異はなかったことから、発明者は、ガスリーク量を大きく変化させる被覆材3のシワやクラックの発生要因は、合口2aの隙間Dwの量に大きく起因するわけでなく、略垂直にカットされている芯金2の合口2aの形態ないし角度に起因すると考えた。
【0070】
発明者は上記観察から、ガスリーク量の増加の原因となる被覆材3のシワやクラックが、長期的に継続された加熱搖動の振動の積み重ねによって起きていると仮定し、加熱搖動が排気ガスシール用リングガスケット1に与えるメカニズムについて検討した。
【0071】
上記の加熱搖動試験は、高温下を想定したものであり、当該試験を実施する加熱搖動試験装置20は図8に示す構成とされている。これは自動車等に搭載されたのちの実働状態を再現したものであり、上流側の排気管P1は加熱搖動試験装置20の支持台23に設けられた二箇所の上流側排気管固定部24によって固定されており、下流側の排気管P2のみが搖動試験機21に取り付けられて上下に搖動するようになっている。したがって、フランジF1、F2は上下方向に交番荷重を繰り返し受けることになるので、図8において上方に下流側の排気管P2が持ち上げられる際には、フランジF2の上側部分がフランジF1に向けて押し付けられて圧縮され、反対にフランジF2の下側部分はフランジF1に対して離れる方向に解放される。また、図8において下方側に下流側の排気管P2が引き下げられる際には、フランジF2の上側部分はフランジF1に対して離れる方向に解放され、反対にフランジF2の下側部分はフランジF1に向けて押し付けられて圧縮される。上記交番荷重により引き起こされるフランジF2の開放は、フランジF1、F2の間の「口開き現象」を生じ、フランジF2の圧縮はフランジF1、F2の間の「口閉じ現象」を生じ、管端部P3を介してフランジF1、F2に装着されている排気ガスシール用リングガスケット1に交番荷重となって作用することになる。その結果、口開き現象が発生する部分では、フランジF1、F2の締め付け力が弱まることで排気ガスシール用リングガスケット1の圧縮力が弱まり、内部の芯金2の復元力によって被覆材3にはその表面を拡張させるような力が働くことになると考えられる。反対に、口開き現象から口閉じ現象に移行すると、フランジF1、F2の締め付け力が強まることで内部の芯金2の圧縮力も強まり、芯金2及び被覆材3は収縮し、やや拡張ぎみであった被覆材3は相対的に被覆材3の外側への反発力が小さい合口2aの部分の隙間箇所に押し込まれる力となって作用することになると考えられる。さらに、口開き現象と口閉じ現象の長期的な繰り返しによる加熱作用も加わって被覆材3の耐力が低下することから、長期的な時間経過とともに、排気ガスシール用リングガスケット1の被覆材3の表面にシワやクラックが発生すると考えられる。特に、図4に示すように、芯金2の合口2aのカット角度Drが周方向に垂直である場合には、口開き現象から口閉じ現象に移行する際に、圧縮力が合口2aの合口の隙間Dwの部分(図3のDwの部分)の円周方向断面の一点(周方向に垂直な周囲一点)に集中するので、被覆材3の表面にシワやクラックが発生し易いと考えられる。
【0072】
上記を鑑み、発明者は、合口2aのカット角度Drを、芯金2の周方向に対して90度以下の角度で傾斜させ、口開き現象から口閉じ現象に移行する際に合口2aの隙間Dwの部分において被覆材3に加えられる圧縮力(押込み力)を、合口2aの隙間Dwの部分の円周方向断面の一点に集中させずに分散させることで、被覆材3のシワ及びクラックを防止することができると考えた。そして、図9に示す変形例に係る排気ガスシール用リングガスケット1と同一の構成を有する実施例MJ1~MJ17の排気ガスシール用リングガスケットと、比較例MC1~MC8の排気ガスシール用リングガスケットとを製作して、被覆材3のシワ及びクラックを防止できるか否かを確認する試験を行った。
【0073】
実施例MJ1~MJ17及び比較例MC1~MC8における、芯金2の合口2aの隙間Dw、芯金2の断面硬度HV及び合口2aのカット角度Drは、表1に示す通りである。
【0074】
【表5】
【0075】
ここで、上記実施例MJ1~MJ17は本願の請求項1に係る発明及び請求項2に係る発明の両方の発明の実施例に相当するものであり、上記比較例MC1~MC4は本願の請求項1に係る発明の実施例に相当するが本願の請求項2に係る発明の実施例には相当しないために請求項2に係る発明の実施例に対して比較例となるものであり、上記比較例MC5~MC8は本願の請求項1に係る発明及び請求項2に係る発明の何れの発明の実施例にも相当しないものである。
【0076】
先ず発明者は、合口2aのカット角度Drを、芯金2の周方向に垂直ではなく、芯金2の周方向に対して90度以下の角度で傾斜させた場合の効果を確認するために、実施例MJ4~MJ6及び比較例MC1~MC8について、図8に示す加熱搖動試験装置20を用いて上記と同様の加熱搖動試験すなわちガスシール限界圧力試験を行った。
【0077】
ここで、実施例MJ4~MJ6及び比較例MC1~MC8は、何れも、芯金2の断面硬度HVが142のものであるが、合口2aの隙間Dwないし芯金2の周方向に対する合口2aのカット角度Drが互いに相違している。具体的には、実施例MJ4では、合口2aの隙間Dwは1.0mm、カット角度Drは30度であり、実施例MJ5では、合口2aの隙間Dwは1.0mm、カット角度Drは45度であり、実施例MJ6では、合口2aの隙間Dwは1.0mm、カット角度Drは60度である。また、比較例MC1では、合口2aの隙間Dwは0.5mm、カット角度Drは15度であり、比較例MC2では、合口2aの隙間Dwは0.5mm、カット角度Drは85度であり、比較例MC3では、合口2aの隙間Dwは1.0mm、カット角度Drは15度であり、比較例MC4では、合口2aの隙間Dwは1.0mm、カット角度Drは85度であり、比較例MC5では、合口2aの隙間Dwは2.5mm、カット角度Drは15度であり、比較例MC6では、合口2aの隙間Dwは2.5mm、カット角度Drは85度であり、比較例MC7では、合口2aの隙間Dwは2.5mm、カット角度Drは30度であり、比較例MC8では、合口2aの隙間Dwは2.5mm、カット角度Drは60度である。
【0078】
発明者は、第一段階として、実施例MJ4~MJ6及び比較例MC1~MC8に対して、搖動回数を200万回に設定して加熱搖動試験を行い、規定回数終了後、ガスリーク量を測定せずに、搖動試験機21を下流側の排気管P2から取り外してフランジF1、F2の締付けボルトBを緩め、実施例MJ4~MJ6及び比較例MC1~MC8を取り外して、目視にて被覆材3の表面のシワやクラックの有無を確認した。
【0079】
その結果、表5に示すように、芯金2の断面硬度HVが142、合口2aの隙間Dwが1.0mmであり、合口2aのカット角度Drが30度、45度、60度の3種類の実施例MJ4~MJ6では、200万回の加熱搖動試験の終了後において、被覆材3の表面にシワやクラックは確認されなかった(表5中で○の評価)。また、実施例MJ4~MJ6では、200万回、300万回、400万回、700万回の搖動を終えた後においても、ガスリーク量は50cc/min以下であった。このことから、芯金2の周方向に対する合口2aのカット角度Drを30度~60度の範囲とすれば、ガスリーク量の急激な変化に影響するシワやクラックの防止に効果があることが確認された。
【0080】
これに対し、比較例MC1、MC3及びMC5では、表5に示すように、200万回の加熱搖動試験の終了後において、被覆材3の表面にシワが確認され(表5中で×の評価)、比較例MC2、MC4及びMC6では、200万回の加熱搖動試験の終了後において、被覆材3の表面にシワ及び微小なクラックが確認された(表5中で×の評価)。このことから、少なくとも合口2aのカット角度Drを15度ないし85度とした比較例MC1~MC6では、合口2aのカット角度Drを周方向に垂直(90度)としたものと大差なく、シワやクラックへの防止効果が無いことが確認された。すなわち、合口2aのカット角度Drが垂直に近い15度や水平に近い85度とした場合では、合口2aの隙間Dwの大小に関係なくガスリーク量の急激な変化を止められないことが解った。
【0081】
比較例MC7、MC8は、比較例MC5、MC6の結果を踏まえて、合口の角度Drを30度及び60度に設定したものであるが、比較例MC7、MC8についても、比較例MC5、MC6と同様に、200万回の加熱搖動試験の終了後において、被覆材3の表面にシワ及び微小なクラックが確認された(表5中で×の評価)。すなわち、合口2aの隙間Dwを2.5mmとした場合では、実施例MJ4~MJ6において有効であると確認されたように、合口2aのカット角度Drを30度~60度の範囲にを設定しても、シワやクラックを防止する効果が発揮されないことが解った。
【0082】
なお、比較例MC1~MC8については、200万回の加熱搖動試験の終了後において被覆材3の表面にシワないし微小なクラックが確認されたので、ガスリーク量の測定は行っていない。
【0083】
次に、上記の試験結果を踏まえ、合口2aのカット角度Drを30~60度の範囲内としつつ、芯金2の断面硬度(周方向に垂直な断面におけるビッカース硬さ)HV及び合口2aの隙間Dwを本発明の範囲内において種々変更した場合であっても、シワやクラックを防止する効果が得られるか確認するために、上記した実施例MJ4~MJ6に、当該実施例MJ4~MJ6に対して芯金2の断面硬度HVないし合口の隙間Dwを変更した実施例MJ1~MJ3、MJ7~MJ17を加えた17種類の実施例について、図8に示す加熱搖動試験装置20を用いて上記と同様の加熱搖動試験すなわちガスシール限界圧力試験を行った。
【0084】
ここで、実施例MJ1~MJ3は、それぞれ芯金2の断面硬度HVが142、合口2aの隙間Dwが0.5mmであるとともに合口2aのカット角度Drがそれぞれ30度、45度、60度のものであり、実施例MJ7~MJ9は、それぞれ芯金2の断面硬度HVが142、合口2aの隙間Dwが2.0mmであるとともに合口2aのカット角度Drが、それぞれ30度、45度、60度のものであり、実施例MJ10、MJ11は、それぞれ芯金2の断面硬度HVが179、合口2aの隙間Dwが0.5mmであるとともに合口2aのカット角度Drが、それぞれ30度、60度のものであり、実施例MJ12、MJ13は、それぞれ芯金2の断面硬度HVが125、合口2aの隙間Dwが0.5mmであるとともに合口2aのカット角度Drが、それぞれ30度、60度のものであり、実施例MJ14、MJ15は、それぞれ芯金2の断面硬度HVが179、合口2aの隙間Dwが2.0mmであるとともに合口2aのカット角度Drが、それぞれ30度、60度のものであり、実施例MJ16、MJ17は、それぞれ芯金2の断面硬度HVが125、合口2aの隙間Dwが2.0mmであるとともに合口2aのカット角度Drが、それぞれ30度、60度のものである。
【0085】
上記実施例MJ1~MJ17に対して、搖動回数を200万回に設定して加熱搖動試験を行い、規定回数終了毎に、ガスリーク量を測定せずに、搖動試験機21を下流側の排気管P2から取り外してフランジF1、F2の締付けボルトBを緩め、実施例MJ1~MJ17を取り外して、目視にて被覆材3の表面のシワやクラックの有無を確認した。
【0086】
その結果、表5に示すように、実施例MJ1~MJ17の何れにおいても、200万回の加熱搖動試験の終了後において、被覆材3の表面にシワやクラックは確認されなかった(表5中で○の評価)。したがって、芯金2の周方向に垂直な断面におけるビッカース硬さが179HV~125HVであり、芯金2の合口2aの隙間Dwが0.5mm~2.0mmである本実施の形態の排気ガスシール用リングガスケット1において、合口2aのカット角度Drを、芯金2の周方向に対して30度~60度の範囲とすることで、搖動回数が100万回を超えるような場合においてシワやクラックを防止する効果があることが確認された。
【0087】
また、表5に示すように、実施例MJ1~MJ17では、200万回、300万回、400万回、700万回の搖動を終えた後におけるガスリーク量は、何れも50cc/min以下であり、極めて安定したシール性能を得られることが確認された。
【0088】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0089】
1 排気ガスシール用リングガスケット
2 芯金
2a 合口
3 被覆材
3a オーバーラップ部
10 シール限界圧力試験装置
11 端部シールユニット
12 加圧ガス供給パイプ
13 フローメータ
14 シムプレート
20 加熱搖動試験装置
21 搖動試験機
22 下流側排気管固定部
23 支持台
24 上流側排気管固定部
25 プロパンガスバーナ
26 温度センサ
100 従来の排気ガスシール用リングガスケット
101 芯材
101a 高耐熱材
102 被覆材
102a オーバーラップ部
103 補強材
P1 上流側の排気管
P2 下流側の排気管
U1 上流側の継手部
U2 下流側の継手部
G 排気ガスシール用リングガスケット
P3 管端部
F1 フランジ
F2 フランジ
B 締付けボルト
N 締付けナット
R1 湾曲部
R2 湾曲部
H シールポケット
Dr カット角度
Dw 合口の隙間
MP 測定点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10