(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-11
(45)【発行日】2022-03-22
(54)【発明の名称】ホットメルト接着剤
(51)【国際特許分類】
C09J 123/12 20060101AFI20220314BHJP
C09J 123/08 20060101ALI20220314BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20220314BHJP
【FI】
C09J123/12
C09J123/08
C09J11/08
(21)【出願番号】P 2017251787
(22)【出願日】2017-12-27
【審査請求日】2020-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】305044143
【氏名又は名称】積水フーラー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 靖之
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-155916(JP,A)
【文献】特開2006-188580(JP,A)
【文献】特開2012-177009(JP,A)
【文献】特表2006-515893(JP,A)
【文献】特開2011-173956(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A1)ガラス転移温度が-15℃以下であるポリプロピレン重合体、
(A2)エチレン-αオレフィン共重合体、
(A3)エチレン-カルボン酸エステル共重合体、
(B)ワックス、及び
(C)粘着性付与樹脂
を含むホットメルト接着剤であって、
下記式(I)で算出される、(A1)、(A2)及び(A3)の合計100質量%に対する(A3)の割合S
A3(質量%)が、5~20質量%であ
り、
ホットメルト接着剤100質量%に対する(A2)の含有量は、35質量%以下であり、
ホットメルト接着剤100質量%に対する(A3)の含有量は、5質量%以上であり、
滑り止め用ホットメルト接着剤である、
ことを特徴とするホットメルト接着剤。
S
A3=[(A3)/((A1)+(A2)+(A3))]×100 (I)
【請求項2】
更に、(A4)液状ポリマーを含む、請求項1に記載のホットメルト接着剤。
【請求項3】
(C)粘着性付与樹脂は、軟化点が130℃以下の水素添加石油樹脂である、請求項1又は2に記載のホットメルト接着剤。
【請求項4】
下記式(II)で算出される、(A1)及び(A2)の合計100質量%に対する(A1)の割合S
A1(質量%)が、20~70質量%である、請求項1~3のいずれかに記載のホットメルト接着剤。
S
A1=[(A1)/((A1)+(A2))]×100 (II)
【請求項5】
下記式(III)で算出される、(A1)、(A2)、(A3)及び(C)の合計100質量%に対する(C)の割合S
C(質量%)が、30~60質量%である、請求項1~4のいずれかに記載のホットメルト接着剤。
S
C=[(C)/((A1)+(A2)+(A3)+(C))]×100 (III)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホットメルト接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ホットメルト接着剤は、無溶剤であり、瞬間接着、高速接着が可能であることから、包装、製本、木工等の分野において使用されている。
【0003】
ホットメルト接着剤を用いた被着体の接着は、ホットメルト接着剤を加熱溶融させ、溶融状態のホットメルト接着剤を被着体に塗工した後、冷却固化させることにより行われる。従来、上記ホットメルト接着剤のベース樹脂(主成分)として、エチレン-酢酸ビニル共重合体(以下、「EVA」とも示す)を主成分としたホットメルト接着剤が使用されている。
【0004】
しかしながら、EVAには熱劣化し易いという問題がある。近年ではEVAに替えて、より熱劣化し難いエチレン-α-オレフィン共重合体を主成分として用いたホットメルト接着剤が使用されている。
【0005】
上述のホットメルト接着剤として、エチレン-α-オレフィン共重合体とエチレン-カルボン酸エステル共重合体とを使用したホットメルト接着剤が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、非晶性ポリα-オレフィン、α-オレフィンをメタロセン触媒で重合して得られた結晶性ポリα-オレフィン、及び粘着付与剤を含むホットメルト接着剤が提案されている(例えば、特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-177009号公報
【文献】特開2016-155916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ホットメルト接着剤の塗布には、ホットメルトアプリケーターと呼ばれる専用の塗布装置が用いられる。このホットメルトアプリケーターは、ホットメルト接着剤を加熱溶融し、圧縮空気やギヤポンプを用いることにより、ノズルの先端から溶融したホットメルト接着剤を間欠的に吐出し、被着体に塗布するための装置である。
【0008】
上述のホットメルトアプリケーターによりホットメルト接着剤を被着体に塗布する際に、ホットメルト接着剤が吐出するノズルの先端と、被着体との間で吐出毎に糸状物が発生する、いわゆる糸曳きを生じるという問題がある。糸曳きを生じると、糸状物が周辺装置や被着体を汚染したり、センサー誤作動や印字ミス等を引き起こしたりする。
【0009】
また、ホットメルトアプリケーターでは、ホットメルト接着剤を加熱溶融した状態で維持する必要があり、ホットメルト接着剤には加熱安定性が要求される。ホットメルト接着剤が加熱安定性に劣ると、ホットメルト接着剤が一部炭化して、ノズルが詰まるという問題がある。
【0010】
また、上述の特許文献1に記載のホットメルト接着剤は、段ボール・カートン等の封緘用途として用いることが記載されているが、ホットメルト接着剤は、それ以外の用途として段ボールを積み重ねた際に段ボール同士の滑りを抑制する滑り止め用ホットメルト接着剤としても使用される。滑り止め用ホットメルト接着剤は、滑りを抑制する効果を発現させるために段ボール・カートン等の封緘用ホットメルト接着剤よりも柔軟性が高いホットメルト接着剤である必要がある。特許文献1に記載のホットメルト接着剤では、滑り止め性が不十分であるという問題がある。滑り止め性を付与するために柔軟性が高いホットメルト接着剤を用いると、ノズル先端からホットメルト接着剤を吐出させた際の糸曳き性が低下することとなる。特許文献2に記載のホットメルト接着剤は、非相溶性成分により糸曳き性が十分でないという問題がある。
【0011】
更に、特許文献1及び2では、ホットメルト接着剤の固化速度については検討されていない。ホットメルト接着剤の固化速度が遅いと、ダンボール等の天面に滑り止め性を付与するために塗布したホットメルト接着剤の固化が遅くなり、ダンボール等を積み重ねた際に、ホットメルト接着剤が塗布されたダンボール等の天面と、上段に積載されたダンボールの底面とが接着してしまい、引き剥がした際にダンボールが材破するという問題がある。
【0012】
本発明は上記事情を鑑み、加熱安定性に優れ、高い滑り止め性を示し、糸曳きの発生が抑制されており、且つ、塗布後の固化速度が速いホットメルト接着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の重合体、共重合体、ワックス、及び粘着性付与樹脂を特定の割合で含むホットメルト接着剤によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明は、下記のホットメルト接着剤に関する。
1.(A1)ガラス転移温度が-15℃以下であるポリプロピレン重合体、
(A2)エチレン-αオレフィン共重合体、
(A3)エチレン-カルボン酸エステル共重合体、
(B)ワックス、及び
(C)粘着性付与樹脂
を含むホットメルト接着剤であって、
下記式(I)で算出される、(A1)、(A2)及び(A3)の合計100質量%に対する(A3)の割合SA3(質量%)が、5~20質量%である、
ことを特徴とするホットメルト接着剤。
SA3=[(A3)/((A1)+(A2)+(A3))]×100 (I)
2.更に、(A4)液状ポリマーを含む、項1に記載のホットメルト接着剤。
3.(C)粘着性付与樹脂は、軟化点が130℃以下の水素添加石油樹脂である、項1又は2に記載のホットメルト接着剤。
4.下記式(II)で算出される、(A1)及び(A2)の合計100質量%に対する(A1)の割合SA1(質量%)が、20~70質量%である、項1~3のいずれかに記載のホットメルト接着剤。
SA1=[(A1)/((A1)+(A2))]×100 (II)
5.下記式(III)で算出される、(A1)、(A2)、(A3)及び(C)の合計100質量%に対する(C)の割合SC(質量%)が、30~60質量%である、項1~4のいずれかに記載のホットメルト接着剤。
SC=[(C)/((A1)+(A2)+(A3)+(C))]×100 (III)
6.滑り止め用ホットメルト接着剤である、項1~5のいずれかに記載のホットメルト接着剤。
【発明の効果】
【0015】
本発明のホットメルト接着剤は、加熱安定性に優れ、高い滑り止め性を示し、糸曳きの発生が抑制されており、且つ、塗布後に速い固化速度を示すことができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のホットメルト接着剤は、(A1)ガラス転移温度が-15℃以下であるポリプロピレン重合体、(A2)エチレン-αオレフィン共重合体、(A3)エチレン-カルボン酸エステル共重合体、(B)ワックス、及び(C)粘着性付与樹脂を含むホットメルト接着剤であって、下記式(I)で算出される、(A1)、(A2)及び(A3)の合計100質量%に対する(A3)の割合SA3(質量%)が、5~20質量%であるホットメルト接着剤である。
SA3=[(A3)/((A1)+(A2)+(A3))]×100 (I)
本発明のホットメルト接着剤は、(A1)及び(A2)を含むので、滑り止め性を示すことができ、(A3)を含むので、糸曳きの発生が抑制されている。また、本発明のホットメルト接着剤は、(A1)、(A2)及び(A3)の合計100質量%に対する(A3)の割合SA3(質量%)が、特定の範囲であるので、高い滑り止め性を示し、糸曳きの発生が抑制され、且つ、速い固化速度を示すことができる。本発明のホットメルト接着剤は、上記(A1)、(A2)、(A3)、(B)及び(C)の各成分を含み、上記SA3が特定の範囲であることにより、加熱安定性、高い滑り止め性、糸曳きの発生の抑制を示す、且つ、塗布後に速い固化速度を示すことができ、これらの特性を全て発現することができる。
【0017】
以下、本発明のホットメルト接着剤について詳細に説明する。
【0018】
1.ホットメルト接着剤
(A1)成分
(A1)成分は、ガラス転移温度(以下、「Tg」とも示す。)が-15℃以下であるポリプロピレン重合体である。Tgが-15℃を超えると、ホットメルト接着剤の滑り止め性が十分でない。(A1)成分のTgは、-55℃以上が好ましく、-45℃以上がより好ましい。また、(A1)成分のTgは、-15℃以下が好ましく-25℃以下がより好ましい。Tgの上限が上記範囲であると、ホットメルト接着剤の滑り止め性がより一層向上する。
【0019】
なお、本明細書において、ポリプロピレン重合体等の樹脂のTgは、示差走査熱量測定(DSC)を用いて、樹脂を-70℃~150℃まで、加熱速度5℃/分の昇温速度で昇温した際の変曲点の温度である。
【0020】
ポリプロピレン重合体としては、Tgが上記範囲であれば特に限定されない。上記ポリプロピレン重合体としては、ホモプロピレン重合体、又は、プロピレンと他のα-オレフィンとの共重合体である、ポリプロピレン共重合体等が挙げられる。
【0021】
ポリプロピレン共重合体を構成する上記α-オレフィンとしては、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、及び1-エイコセンなどが挙げられる。α-オレフィンの炭素数は3~20が好ましく、6~8がより好ましい。
【0022】
ポリプロピレン共重合体中のプロピレン含有量は、20質量%であってもよいし、30質量%以上であってもよいし、50質量%以上であってもよいし、70質量%以上であってもよいし、80質量%以上であってもよいし、100質量%であってもよい。ポリプロピレン共重合体は、プロピレンリッチであることが好ましい。
【0023】
ガラス転移温度が-15℃以下であるポリプロピレン重合体は、市販品を用いることができる。このような市販品としては、例えば、以下の製品が挙げられる。
・ポリプロピレン-αオレフィン共重合体:イーストマンケミカル社製 Aerafin17(溶融粘度1,700mPa・s/190℃、軟化点130℃、ガラス転移温度-38℃)
・プロピレン-エチレン共重合体:レクスタック社製 RT2215(エチレン含有量3%、溶融粘度1,500mPa・s/190℃、軟化点145℃、ガラス転移温度-22℃)
【0024】
上記ポリプロピレン重合体は、単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0025】
本発明のホットメルト接着剤において、下記式(II)で算出される、(A1)及び(A2)の合計100質量%に対する(A1)の割合SA1(質量%)は、20~70質量%が好ましく、25~60質量%がより好ましい。SA1が上記範囲であることにより、本発明のホットメルト接着剤の柔軟性がより向上し、より一層滑り止め性を向上させることができる。
SA1=[(A1)/((A1)+(A2))]×100 (II)
【0026】
本発明のホットメルト接着剤100質量%に対する(A1)の含有量は、5~35質量%が好ましく、10~25質量%がより好ましい。(A1)の含有量が上記範囲であることにより、本発明のホットメルト接着剤の柔軟性がより向上し、より一層滑り止め性を向上させることができる。
【0027】
(A2)成分
(A2)成分は、エチレン-αオレフィン共重合体である。エチレン-αオレフィン共重合体としては特に限定されず、エチレンと少なくとも1種のαオレフィンとの共重合体が挙げられる。αオレフィンとしては、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、及び1-エイコセンなどが挙げられる。αオレフィンの炭素数は3~20が好ましく、6~8がより好ましい。
【0028】
エチレン-αオレフィン共重合体としては、被着体へ塗布した際の初期接着力が高いホットメルト接着剤を提供することができる点で、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-ヘキセン共重合体、エチレン-オクテン共重合体が更に好ましく、エチレン-ヘキセン共重合体、エチレン-オクテン共重合体が特に好ましい。
【0029】
エチレン-1-オクテン共重合体としては市販品を用いることができる。このような市販品としては、例えば、ダウケミカル社製の以下の製品が挙げられる。
・商品名「アフィニティ GA1950」(MI=500g/10分)
・商品名「アフィニティ GA1900」(MI=1,000g/10分)
・商品名「アフィニティ GA1875」(MI=1,250g/10分)
【0030】
上記エチレン-αオレフィン共重合体は、単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0031】
エチレン-αオレフィン共重合体中のエチレン含有量は、20質量%以上であってもよいし、30質量%以上であってもよいし、50質量%以上であってもよいし、70質量%以上であってもよいし、80質量%以上であってもよい。また、上記エチレン含有量の上限は特に限定されず、95質量%程度である。エチレン-αオレフィン共重合体は、エチレンリッチであることが好ましい。
【0032】
エチレン-αオレフィン共重合体のメルトインデックス(Melt Index;本明細書において、「MI」とも示す。)は、低温でも塗布性を維持することができる点で、400g/10分以上が好ましい。また、エチレン-αオレフィン共重合体のMIは、初期接着のための凝集力を向上させることができる点で、2000g/10分以下が好ましい。
【0033】
なお、本明細書において、上記エチレン-αオレフィン共重合体等の樹脂のMIは、JIS K7120に準拠して、温度190℃、荷重21.18Nの条件にて測定されるMIである。
【0034】
本発明のホットメルト接着剤100質量%に対する(A2)の含有量は、5~35質量%が好ましく、10~25質量%がより好ましい。(A2)の含有量が上記範囲であることにより、本発明のホットメルト接着剤が固化後に適度な硬さを示すことができ、より一層滑り止め性が向上する。
【0035】
(A3)成分
(A3)成分は、エチレン-カルボン酸エステル共重合体である。エチレン-カルボン酸エステル共重合体としては特に限定されず、例えば、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-アクリル酸ブチル共重合体、エチレン-アクリル酸2エチルヘキシル、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体等が挙げられる。これらの中でも、本発明のホットメルト接着剤の糸曳き性がより一層改善される点で、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸ブチル共重合体が好ましい。
【0036】
エチレン-カルボン酸エステル共重合体のMIは、10g/10分以上500g/10分以下が好ましく、30g/10分以上200g/10分以下がより好ましい。エチレン-カルボン酸エステル共重合体のMIが上記範囲内であることにより、本発明のホットメルト接着剤の相溶性が制御されて、糸曳き性の問題がより一層解消されたホットメルト接着剤を提供できる。
【0037】
エチレン-カルボン酸エステル共重合体は、市販品を用いることができる。このような市販品としては、例えば、以下の製品が挙げられる。
・アルケマ社製 商品名「ロトリル35BA40」(アクリル酸ブチル含有量35質量%、MI40)
・アルケマ社製 商品名「ロトリル28BA175」(アクリル酸ブチル含有量28質量%、MI175)
・住友化学社製 商品名「アクリフトCM5023」(メタクリル酸メチル含有量28質量%、MI150)、
・住友化学社製 商品名「アクリフトCM5021」(メタクリル酸メチル含有量28質量%、MI450)
【0038】
上記エチレン-カルボン酸エステル共重合体は、単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0039】
本発明のホットメルト接着剤において、下記式(I)で算出される、(A1)、(A2)及び(A3)の合計100質量%に対する(A3)の割合SA3(質量%)は、5~20質量%である。
SA3=[(A3)/((A1)+(A2)+(A3))]×100 (I)
SA3が5質量%よりも少ないと、ホットメルト接着剤の糸曳き性が低下する。SA3が20質量%よりも多いと、(A1)及び(A2)との相溶性が低下して、加熱安定性が劣る。SA3は、7~15質量%が好ましく、8~12質量%がより好ましい。
【0040】
本発明のホットメルト接着剤100質量%に対する(A3)の含有量は、1~10質量%が好ましく、2~8質量%がより好ましい。(A3)の含有量が上記範囲であることにより、本発明のホットメルト接着剤の糸曳きがより抑制され、糸曳き性がより一層向上する。
【0041】
(A4)成分
本発明のホットメルト接着剤は、(A4)成分として液状ポリマーを含有していてもよい。液状ポリマーを含有することにより、本発明のホットメルト接着剤の滑り止め性がより一層向上する。
【0042】
液状ポリマーとしては、上記(A1)~(A3)成分以外の常温で液状のポリマーを用いることができ、例えば、ポリブテン、ポリブタジエン等が挙げられる。これらの中でも、加熱安定性が優れている点で、ポリブテンが好ましい。
【0043】
液状ポリマーとしては、市販品を用いることができる。このような市販品としては、例えば、日油社製の以下の製品が挙げられる。
・商品名「ポリブテン3N」(動粘度720mm2/s,40℃)
・商品名「ポリブテン30N」(動粘度1,350mm2/s,40℃)
・商品名「ポリブテン200N」(動粘度2,650mm2/s,40℃)
【0044】
上記液状ポリマーは、単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0045】
液状ポリマーの動粘度は、400~3,500mm2/s,40℃が好ましく、700~2,500mm2/s,40℃がより好ましい。液状ポリマーの動粘度が上記範囲であることにより、本発明のホットメルト接着剤がより一層優れた滑り止め性を示すことができる。
【0046】
なお、本明細書において、上記液状ポリマー等の樹脂の動粘度は、JIS K2283に準拠した測定方法により、測定温度40℃の条件で、ウベローデ粘度計を用いて測定される動粘度である。
【0047】
本発明のホットメルト接着剤100質量%に対する(A4)の含有量は、0.1~20質量%が好ましく、1~15質量%がより好ましく、2~8質量%が更に好ましい。(A4)の含有量が上記範囲であることにより、本発明のホットメルト接着剤が、より一層優れた滑り止め性を示すことができる。
【0048】
(B)成分
(B)成分は、ワックスである。本発明のホットメルト接着剤がワックスを含有することにより、ホットメルト接着剤の固化速度が速くなり、ダンボール同士を積層することが可能となる迄の時間を短縮することができる。
【0049】
ワックスとしては特に限定されず、ホットメルト接着剤に一般的に使用されるワックスを用いることができる。このようなワックスとしては、例えば、フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックス等の合成ワックス;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の天然ワックスが挙げられる。これらの中でも、固化速度を早くすることができる点で、フィッシャートロプシュワックス、及びパラフィンワックスの少なくとも一方を用いることが好ましく、これらを併用することがより好ましい。
【0050】
ワックスとしては市販品を用いることができる。このような市販品としては、例えば、以下の製品が挙げられる。
(1)フィッシャートロプシュワックス
・サゾール社製 商品名サゾールH-1(融点101℃)
・Shell MDS(M)Sdn Bhd社製 商品名GTL SARAWAX SX-105(融点112℃)
(2)パラフィンワックス
・日本精蝋社製 商品名HNP-9(融点75℃)
(3)ポリエチレンワックス
・三井化学社製 ハイワックス110P(融点109℃)
【0051】
上記ワックスは、単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0052】
ワックスの融点は、60~130℃が好ましく、70~120℃がより好ましい。ワックスの融点が上記範囲であることにより、本発明のホットメルト接着剤がより一層優れた固化速度を示すことができる。
【0053】
なお本明細書において、ワックスの融点は、下記測定条件に基づき、示差走査熱量測定(DSC)により、下記測定条件で昇温した際の吸熱ピークの温度である。
<測定条件>
示差走査熱量計:島津製作所製 「DSC-60」
セル:アルミニウム
雰囲気ガス:空気
測定温度:30~150℃
加熱速度:5℃/分
【0054】
本発明のホットメルト接着剤100質量%に対する(B)の含有量は、5~30質量%が好ましく、10~25質量%がより好ましい。(B)の含有量の下限が上記範囲であることにより、本発明のホットメルト接着剤の固化速度がより一層向上する。また、(B)の含有量の上限が上記範囲であることにより、固化後のホットメルト接着剤の硬さが適度な硬さとなり、滑り止め性がより一層向上する。
【0055】
(C)成分
(C)成分は、粘着性付与樹脂である。本発明のホットメルト接着剤が粘着性付与樹脂を含有することで、固化したホットメルト接着剤をダンボール等の天面に強固に接着させることができる。
【0056】
粘着性付与樹脂としては特に限定されず、石油樹脂、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、スチレン系樹脂、及びこれらの水素添加物等が挙げられる。これらの粘着付与樹脂は、一種単独で用いられてもよく、二種以上が併用されても良い。
【0057】
粘着付与樹脂としては、石油樹脂が好ましい。石油樹脂としては、脂肪族系石油樹脂、脂環族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、脂環族系成分と芳香族成分との共重合石油樹脂、脂環族系成分と脂肪族成分との共重合石油樹脂、およびこれらの水素添加石油樹脂等が挙げられる。これらの中でも、エチレン-αオレフィン共重合体との相溶性に優れ、これによりホットメルト接着剤の加熱安定性をより一層向上させることができる点で、水素添加石油樹脂が好ましい。
【0058】
粘着性付与樹脂としては市販品を用いることができる。このような市販品としては、例えば、以下の製品が挙げられる。
(1)脂環族系成分と芳香族成分との共重合石油樹脂
・出光興産社製 アイマーフ゛S-100(軟化点100℃)
・出光興産社製 アイマーフ゛S-110(軟化点110℃)
・出光興産社製 アイマーフ゛P-100(軟化点100℃)
・出光興産社製 アイマーフ゛P-125(軟化点125℃)
・出光興産社製 アイマーフ゛P-140(軟化点140℃)
(2)脂肪族系石樹脂
・イーストマンケミカル社製 イーストタックH-130W(軟化点130℃)
(3)芳香族系石油樹脂
・荒川化学社製 アルコンM-100(軟化点100℃)
・荒川化学社製 アルコンP-100(軟化点100℃)
・荒川化学社製 アルコンP-125(軟化点125℃)
【0059】
上記粘着性付与樹脂は、単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0060】
上記粘着性付与樹脂の環球式軟化点(以下、「軟化点」とも示す)は、80℃以上が好ましく、90℃以上がより好ましい。軟化点の下限が上記範囲であることにより、ホットメルト接着剤が塗布された被着体が高温雰囲気化で保管された場合に、より一層優れた加熱安定性を示すことができる。また、粘着付与樹脂の軟化点は、140℃以下が好ましく、130℃以下がより好ましい。軟化点の上限が上記範囲であることにより、ホットメルト接着剤が硬くなり過ぎず、より一層優れた滑り止め性を示すことができる。
【0061】
なお、本明細書において、上記環球式軟化点は、JIS K6863(又はJIS K2207)に準拠して、グリセリン浴中に試料を充てんした環を水平に支え、試料中央に置いた球が底板に触れたときの温度を測定する測定方法により測定される環球式軟化点である。
【0062】
本発明のホットメルト接着剤において、下記式(III)で算出される、(A1)、(A2)、(A3)及び(C)の合計100質量%に対する(C)の割合SC(質量%)は、30~60質量%が好ましく、35~55質量%がより好ましい。SCの下限が上記範囲であることにより、溶融時の動粘度の上昇が抑制され、優れた塗布性を示すことができ、被着体への濡れ性がより一層向上し、加熱安定性の低下による染み出しをより一層抑制することができる。また、SCの上限が上記範囲であることにより、ホットメルト接着剤が固化後に硬くなり過ぎず、滑り止め性の低下をより一層抑制することができる。
SC=[(C)/((A1)+(A2)+(A3)+(C))]×100 (III)
【0063】
本発明のホットメルト接着剤100質量%に対する(C)の含有量は、5~30質量%が好ましく、10~20質量%がより好ましい。(C)の含有量が上記範囲であることにより、固化したホットメルト接着剤をダンボール等の天面に、より一層強固に接着させることができる。
【0064】
他の成分
本発明のホットメルト接着剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて、例えば、充填剤、増量剤、粘度調整剤、揺変性付与剤、軟化剤(可塑剤)、プロセスオイル、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤等の各種添加剤の1種又は2種以上を含んでいてもよい。
【0065】
酸化防止剤としては特に限定されず、例えば、チバスペシャリティケミカルズ社製 商品名イルガノックス1010、チバスペシャリティケミカルズ社製 商品名イルガノックス1076等のヒンダードフェノール系酸化防止剤、チバスペシャリティケミカルズ社製 商品名イルガフォス168等のホスフィト系酸化防止剤等が挙げられる。
【0066】
上記酸化防止剤は、単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0067】
本発明のホットメルト接着剤100質量%に対する酸化防止剤の含有量は、0.1~3質量%が好ましく、0.5~2質量%がより好ましい。酸化防止剤の含有量の下限が上記範囲であることにより、加熱安定性がより一層向上する。また、酸化防止剤の含有量の上限が上記範囲であると加熱安定性が十分であり、上記上限を超えても、更に加熱安定性が向上し難い。
【0068】
以上説明した本発明のホットメルト接着剤は、上記構成を備えるため、加熱安定性に優れ、高い滑り止め性を示し、糸曳きの発生が抑制されており、且つ、塗布後に速い固化速度を示すことができる。このため、本発明のホットメルト接着剤は、包装、製本、木工、繊維加工、金属工業、電気、電子工業等の広い範囲の用途に使用することができ、種々の被着体を接着することが可能であるが、段ボール等の滑り止め用部材として用いられる滑り止め用ホットメルト接着剤として好適に用いることができる。
【0069】
2.ホットメルト接着剤の製造方法
本発明のホットメルト接着剤を製造する製造方法としては特に限定されず、例えば、上記各成分を順次容器に添加して混合し、加熱しながら撹拌する製造方法により製造することができる。
【0070】
上記加熱の際の加熱温度は特に限定されず、120~190℃が好ましく、130~170℃がより好ましい。
【0071】
上記撹拌の際の撹拌時間は特に限定されず、30~120分が好ましく、40~100分がより好ましい。撹拌時間が上記範囲であることにより、本発明のホットメルト接着剤の組成がより一層均一となる。
【0072】
3.ホットメルト接着剤の塗工方法
ホットメルト接着剤の塗工方法としては特に限定されず、公知の方法を広く採用することができる。このような塗工方法としては、例えば、ホットメルト接着剤を溶融タンク内で130~190℃で加熱溶融させた後、溶融タンクからホースを介してノズルへ送り、ノズルから連続的又は間欠的に吐出させて、被接着物の接着面に塗工する方法等が挙げられる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明の実施例について説明する。本発明は、下記の実施例に限定されない。
【0074】
なお、実施例及び比較例で用いた原料は以下のとおりである。
【0075】
(A1)ガラス転移温度が-15℃以下であるポリプロピレン重合体
(A1-1)ポリプロピレン共重合体:イーストマンケミカル社製 Aerafin17、溶融粘度1,700mPa・s/190℃、軟化点130℃、ガラス転移温度-38℃
(A1-2)プロピレン-エチレン共重合体:レクスタック社製 RT2215、エチレン含有量3質量%、粘度1,500mPa・s/190℃、軟化点143℃、ガラス転移温度-22℃
(A1’-1)ポリプロピレン:出光興産社製 L-MODU S400、ガラス転移温度-10℃
【0076】
(A2)エチレン-αオレフィン共重合体
(A2-1)エチレン-オクテン共重合体:ダウケミカル社製 GA1900、メルトインデックス1000g/10分、密度0.87g/cm3、粘度5,600mPa・s/190℃、ガラス転移温度-58℃、結晶性16%、融点68℃
【0077】
(A3)エチレン-カルボン酸エステル共重合体
(A3-1)エチレン-メタクリル酸メチル共重合体:住友化学社製 アクリフトCM5023、EMMA含有量28%、メルトインデックス150g/10分
【0078】
(A4)液状ポリマー
(A4-1)ポリブデン:日油株式会社製 ポリブデン30N、100℃動粘度700mm2/s
【0079】
(B)ワックス
(B-1)フィッシャートロプシュワックス:サゾール社製 サゾールワックスH1、融点108℃
(B-2)ポリエチレンワックス:三井化学社製 ハイワックス110P、融点109℃
(B-3)パラフィンワックス:日本精鑞社製 HNP-9、融点75℃
【0080】
(C)粘着性付与樹脂
(C-1)脂環族系成分と芳香族成分との共重合石油樹脂の完全水添石油樹脂:出光社製 アイマーブP-100、軟化点100℃
(C-2)脂環族系成分と芳香族成分との共重合石油樹脂の完全水添石油樹脂:出光社製 アイマーブP-125、軟化点125℃
(C-3)脂環族系成分と芳香族成分との共重合石油樹脂の部分水添石油樹脂:出光社製 アイマーブS-100、軟化点100℃
(C-4)芳香族系石油樹脂の完全水添石油樹脂:荒川化学社製 アルコンP-100、軟化点100℃
【0081】
(D)酸化防止剤
(D-1)ヒンダートフェノール型:EVERSPRING CHEMICAL社製 商品名「EVERNOX-10」
【0082】
実施例1~18、比較例1~7
上記した各成分を、それぞれ表1に示した組成で、加熱装置を備えた攪拌混練機中に投入した後、160℃で1時間加熱しながら混練する事により、ホットメルト接着剤を調製した。得られたホットメルト接着剤について、以下の測定条件により特性を評価した。
【0083】
(固化速度評価試験)
日本接着剤工業会規格 JAI-7に準拠して、50mm×100mmに裁断したダンボール(Kライナー)2枚を被着体として用意した。塗工装置(メック社製 製品名「ASM-15N」)を用いて、溶融タンク160℃、ノズル温度160℃、塗布塗布量2g/mの条件で一方の被着体の片面にホットメルト接着剤を塗布した。塗布後、所定の時間(固化時間)経過後、一方の被着体のホットメルト接着剤組成物を塗布した面上に他方の被着体を積層し、これらに2kgのプレス荷重を2秒間加えて接着させた。次いで、20℃で30分間養生することにより、試験片を調製した。次いで、試験片から一方の被着体をその長さ方向における一端部から他端部に向かって剥離し、材料破壊率が5%以下になる最短の固化時間を固化速度とした。
【0084】
また、材料破壊率は、被着体同士の接着面全体の面積に対する、被着体が破壊した部分の面積の比率(百分率)である。
【0085】
測定された固化速度に基づいて、以下の評価基準に従って評価した。なお、評価が△以上であれば実使用において問題ないと評価できる。
○:30秒未満
△:30秒以上40秒未満
×:40秒以上
【0086】
(静止摩擦力評価試験)
50mm×100mmに裁断したダンボール(Kライナー)2枚を被着体として用意した。一方の被着体表面にビード長さ3cm、塗布量2g/mの条件でホットメルト接着剤を塗布し、次いで、2.5cm間隔を空けて同様の塗布を行い、2点ホットメルト接着剤を塗布した。ホットメルト接着剤が完全に固化した後に、ホットメルト接着剤を塗布した被着体を両面テープで台に固定した。次いで、もう一方の被着体を2点塗布されたホットメルト接着剤上に重ね合わせ、その上に2kgの錘を載せ、10分間放置した。10分間放置後、ホットメルト接着剤が塗布されていない被着体をフォースゲージ(イマダ社製)を用いて速度100mm/分の条件で水平に引っ張り、被着体がずれ動くまでに得られた最大強度値を測定し、静止摩擦力とした。測定された静止摩擦力に基づいて、以下の評価基準に従って評価した。なお、評価が△以上であれば実使用において問題ないと評価できる。
◎:35N以上
○:30N以上35N未満
△:25N以上30N未満
×:25N未満
【0087】
(加熱安定性評価試験)
ホットメルト接着剤を内容積140ccのガラス瓶に50g計量して入れ、ガラス瓶の開口部をアルミホイルで覆い、蓋をした。180℃の恒温槽に2週間保管した後、ガラス瓶を恒温槽から取り出して、目視により観察し、ガラス瓶の縁に炭化物がリング状に付着していないか、ホットメルト接着剤の表面に炭化物の皮が張っていないか、ホットメルト接着剤が分離していないかを確認し、以下の評価基準に従って評価した。
○…色調以外の変化がない
×…色調以外の変化が生じている
【0088】
(糸曳き性評価試験)
ホットメルトノズルの先端から距離20cmの所に被着体を垂直に配置し、その間の落下物を採取するための板状の受け皿を設置した。20℃の無風雰囲気下、下記測定条件で交流電源シーケンサーを用いて、ホットメルト接着剤を600ショット/10分の条件で間欠吐出し、受け皿上に溜まった落下物の形状を目視にて観察し、下記評価基準に従って評価した。なお、評価が△以上であれば実使用において問題ないと評価できる。
測定条件
ホットメルトアプリケーター:ノードソン社製 製品名「Problue4」
温度設定:溶融タンク160℃、ホース温度160℃、ノズル温度160℃
吐出圧:3.0bar
ノズル形状:3オリフィス(3穴)、口径18/1000インチ
評価基準
○:落下物の形状が粒状である
△:落下物の形状は、粒状と糸状とが混在している
×:落下物の形状は糸状である
【0089】
(溶融粘度評価試験)
日本接着剤工業会規格 JAI-7に準拠して、ブルックフィールドRVF型粘度計及びサーモセルを用いて、No.21スピンドル、回転数20rpmにて、160℃におけるホットメルト接着剤の溶融粘度(mPa・s)を測定し、下記評価基準に従って評価した。
○:500以上1,500mPa・s未満
△:1,500mPa・s以上2,500mPa・s未満
×:500mPa・s未満又は2,500mPa・s以上
【0090】
結果を表1に示す。
【0091】