(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-11
(45)【発行日】2022-03-22
(54)【発明の名称】手摺の笠木における被覆材の固定構造
(51)【国際特許分類】
E04F 11/18 20060101AFI20220314BHJP
【FI】
E04F11/18
(21)【出願番号】P 2018049210
(22)【出願日】2018-03-16
【審査請求日】2021-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】591121764
【氏名又は名称】株式会社シロクマ
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100166796
【氏名又は名称】岡本 雅至
(72)【発明者】
【氏名】熊代 誠一
【審査官】荒井 隆一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-138363(JP,A)
【文献】特開2003-247314(JP,A)
【文献】特開2008-297707(JP,A)
【文献】実開昭61-98126(JP,U)
【文献】実開平1-86895(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 11/00-11/18
E04B 1/00
A47K 13/00-17/02
B32B 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
把持部(4)が筒状で長さ方向に延びる開口部(5)を備えた弾性体の被覆材(1)を、底部に長さ方向に延びる開放溝(8)を備えた芯材(2)に被せ、把持部(4)の両側の折返突条(6)を、芯材(2)の両側の係止部(9)に係合させて形成する手摺の笠木において、
前記被覆材(1)は、把持部(4)の両側から開口部(5)へ向けて対向するように内側へ突き出す肉薄の内突片(7)を備えたものとし、
前記芯材(2)の開放溝(8)の両側に臨む部分には、被覆材(1)の内突片(7)を沿わせ、被覆材(1)の開口部(5)を介し芯材(2)の開放溝(8)に弾性体の溝埋材(3)を押し込んで、芯材(2)の底部と溝埋材(3)の間に内突片(7)を挟み込むことにより、芯材(2)に被覆材(1)を固定することを特徴とする手摺の笠木における被覆材の固定構造。
【請求項2】
前記被覆材(1)の内突片(7)は、把持部(4)の両側端から底当部(7a)及び中折部(7b)が開口部(5)へ向けて順次連なったものとし、
前記内突片(7)の底当部(7a)及び中折部(7b)が、それぞれ芯材(2)の開放溝(8)に臨む底面と内側面の角部に沿って折れ曲がった状態で、芯材(2)と溝埋材(3)の間に内突片(7)を挟み込むことを特徴とする請求項1に記載の手摺の笠木における被覆材の固定構造。
【請求項3】
前記被覆材(1)の内突片(7)は、把持部(4)の両側端から底当部(7a)及び中折部(7b)を順次介して折返部(7c)が連なったものとし、
前記内突片(7)の折返部(7c)が、芯材(2)の内部で溝埋材(3)の抜止部(12)に沿って中折部(7b)から折り返された状態で、芯材(2)と溝埋材(3)の間に内突片(7)を挟み込むことを特徴とする請求項2に記載の手摺の笠木における被覆材の固定構造。
【請求項4】
前記被覆材(1)の内突片(7)には、ブラケットの受止座を回避するための切欠(7d)が設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の手摺の笠木における被覆材の固定構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、廊下や階段等に沿って設置される手摺の笠木において、被覆材を芯材に固定するための構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高齢化の進展に伴い、廊下や階段には連続的に手摺が設置され、バリアフリー環境が整備されつつある。このような手摺の笠木として、下記特許文献1には、
図11に示すようなものが記載されている。
【0003】
この笠木は、弾性を有する合成樹脂製の被覆材51を、金属製の芯材52に被せたものである。被覆材51は、把持部53が円筒状で長さ方向に延びる開口部54を備え、把持部53の両側に折返突条55を有している。芯材52は、中空構造で底部に長さ方向に延びる開放溝56を備え、その両側に係止部57を有している。
【0004】
被覆材51は、折返突条55が係止部57に係合することにより、芯材52に固定される。被覆材51としては、折返突条55と係止部57の係合強度を確保するため、比較的撓みにくい硬いものが使用される。
【0005】
そのため、上記笠木の施工に際しては、被覆材51を加熱して軟化させた状態で、開口部54を押し広げて、被覆材51が冷める前に、被覆材51を芯材52に被せる必要があり、作業に非常に手間がかかる。また、コーナー部の施工に際しては、被覆材51を曲げながら上記作業を行う必要があり、この作業は特に難しく、熟練を要する。
【0006】
一方、下記特許文献2には、
図12(12A)に示すように、被覆材51として、把持部53の両側部から折返突条55に至る格子状のハッチングを施した部分は比較的硬く、その他の部分は柔らかくなるように硬度調整したものを使用する固定構造が記載されている。その施工に際しては、被覆材51を加熱することなく、常温で押し広げて芯材52に被せることができ、折返突条55と係止部57の係合強度も確保される。
【0007】
なお、この笠木では、
図12(12B)に示すように、折返突条55と係止部57との係合性を高めるため、折返突条55の先端部は外側へ角度を変えて折り曲げられ、係止部57は奥側が開口溝56の内面から没入するように彫り込まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2000-170341号公報
【文献】特開2015-194044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献2に記載された笠木においても、被覆材51の両側の折返突条55の近傍部以外の部分を柔らかくしすぎると、被覆材51の芯材52への装着は容易にできるようになるものの、施工後に被覆材51を強く捩じるように握られた場合などに、被覆材51が芯材52から不意に外れやすくなるという問題がある。
【0010】
また、被覆材51の把持部53の両側部から折返突条55に至る部分が硬いので、被覆材51の長さ方向の曲げが困難であり、コーナー部に対応できないという問題もある。
【0011】
そこで、この発明は、手摺の笠木において、被覆材の芯材への装着作業性を損なうことなく、被覆材を芯材にしっかりと固定できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、この発明は、把持部が筒状で長さ方向に延びる開口部を備えた弾性体の被覆材を、底部に長さ方向に延びる開放溝を備えた芯材に被せ、把持部の両側の折返突条を、芯材の両側の係止部に係合させて形成する手摺の笠木において、
前記被覆材は、把持部の両側から開口部へ向けて対向するように内側へ突き出す肉薄の内突片を備えたものとし、
前記芯材の開放溝の両側に臨む部分には、被覆材の内突片を沿わせ、被覆材の開口部を介し芯材の開放溝に弾性体の溝埋材を押し込んで、芯材の底部と溝埋材の間に内突片を挟み込むことにより、芯材に被覆材を固定することとしたのである。
【0013】
また、前記被覆材の内突片は、把持部の両側端から底当部及び中折部が開口部へ向けて順次連なったものとし、
前記内突片の底当部及び中折部が、それぞれ芯材の開放溝に臨む底面と内側面の角部に沿って折れ曲がった状態で、芯材と溝埋材の間に内突片を挟み込むこととしたのである。
【0014】
また、前記被覆材の内突片は、把持部の両側端から底当部及び中折部を順次介して折返部が連なったものとし、
前記内突片の折返部が、芯材の内部で溝埋材の抜止部に沿って中折部から折り返された状態で、芯材と溝埋材の間に内突片を挟み込むこととしたのである。
【0015】
さらに、前記被覆材の内突片には、ブラケットの受止座を回避するための切欠が設けられているものとしたのである。
【発明の効果】
【0016】
この発明に係る手摺の笠木における被覆材の固定構造では、被覆材を容易に芯材に被せられるように相当柔らかいものとしても、被覆材の内突片が芯材の底部と溝埋材の間に挟み込まれるので、被覆材を芯材から不意に外れないように、しっかりと芯材に固定することができるほか、コーナー部においても、被覆材を容易に曲げて、芯材に被せることができ、施工時の作業負荷が軽減される。
【0017】
また、被覆材の内突片にブラケットの受止座を回避するための切欠を設け、内突片の切欠とブラケットの受止座とを係合させると、階段等において傾斜した笠木の被覆材に大きな体重が掛けられた場合でも、被覆材のずれが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】この発明の第1実施形態に係る手摺の笠木における被覆材の固定構造を示す斜視図
【
図5】同上の笠木における(5A)溝埋材の押込前の断面図、(5B)溝埋材の押込後の断面図
【
図6】同上の笠木のブラケットによる壁面への取付状態を示す断面図
【
図8】この発明の第2実施形態に係る手摺の笠木における被覆材の固定構造を示す斜視図
【
図10】同上の笠木における(10A)溝埋材の押込前の断面図、(10B)溝埋材の押込後の断面図
【
図11】特許文献1に記載の手摺の笠木を示す断面図
【
図12】特許文献2に記載の手摺の笠木において(12A)芯材に被覆材を被せる過程を示す断面図、(12B)芯材に被覆材を被せた状態を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0020】
図1は、この発明の第1実施形態に係る被覆材の固定構造を採用した手摺の笠木の一部分を示し、
図2及び
図3は、この笠木を用いた手摺とその構成部材をそれぞれ示す。
【0021】
この笠木は、柔軟で弾性を有するポリ塩化ビニル等の合成樹脂製の被覆材1と、アルミニウム等の剛性が高い金属製の芯材2と、エラストマー製の溝埋材3とから構成され、溝埋材3は、笠木を支持するブラケット21の部分で分割されている。
【0022】
図4に示すように、被覆材1は、把持部4が円筒状で、長さ方向に延びる開口部5を備え、把持部4の両側に内面側へ折り返された折返突条6を有し、把持部4の両側端から開口部5へ向けて対向するように内側へ突き出す肉薄の内突片7を備えている。なお、把持部4は、角筒状であってもよい。
【0023】
内突片7は、把持部4の両側端から底当部7a及び中折部7bが開口部へ向けて順次連なったものとされている。
【0024】
内突片7には、後述のように、手摺の施工時にブラケット21の受止座22を回避するための切欠7dが設けられる。切欠7dは、底当部7a及び中折部7bをカッターナイフ等で切り込むことにより、施工現場で簡単に形成できる。
【0025】
中折部7bは、
図5(5A)に示すように、溝埋材3の押込前の状態において、先端側が根元より開口部5の幅方向中央へ向けて少し迫り出している。
【0026】
芯材2は、中空構造で底部に長さ方向に延びる開放溝8を備え、両側壁の外面の突出部に下方が開放された溝状の係止部9を有するものとされている。
【0027】
溝埋材3は、表面が膨出曲面となった外鍔部10と、その裏面中央部から突き出した栓部11と、栓部11の先端部から両側方へ張り出した先細りテーパー状の抜止部12から成るものとされている。
【0028】
このような笠木により手摺を施工する際には、
図6に示すように、壁面Wにブラケット21の取付座23を固定し、受止座22に芯材2を載せ、芯材2の開放溝8に受止座22の固定用部材22aを挿入して回転させ、芯材2の開放溝8の両側に臨む底壁を締め付けることにより、芯材2をブラケット21に固定する。
【0029】
次に、被覆材1を常温のまま、鎖線で示すように押し広げて芯材2に被せ、その後、弾性により復元させて、把持部4の両側の折返突条6を、芯材2の両側の係止部9に係合させる。このとき、内突片7の切欠7dとブラケット21の受止座22とを対応させ、内突片7が受止座22に干渉しないようにする。
【0030】
これにより、
図5(5A)、(5B)に示すように、溝埋材3を、被覆材1の開口部5を介して芯材2の開放溝8に押し込むと、抜止部12が幅方向に圧縮されつつ開放溝8を通過し、芯材2の内部で復元して、溝埋材3が開放溝8から抜け止めされる。また、把持部4と外鍔部10の表面により、連続的な円筒面が形成される。
【0031】
そして、内突片7の底当部7a及び中折部7bは、それぞれ芯材2の開放溝8の両側に臨む底面と内側面の角部に沿って折れ曲がった状態で、内突片7の底当部7aが芯材2の開放溝8に臨む底面と溝埋材3の外鍔部10の間に挟み込まれ、内突片7の中折部7bが芯材2の開放溝8に臨む内側面と溝埋材3の栓部11の間に挟み込まれて、芯材2に被覆材1が固定される。
【0032】
上記のような手摺の笠木における被覆材の固定構造では、被覆材1を容易に芯材2に被せられるように相当柔らかいものとしても、被覆材1の内突片7が芯材2の底部と溝埋材3の間に挟み込まれるので、被覆材1を芯材2から不意に外れないように、しっかりと芯材2に固定することができる。
【0033】
また、例えば、
図7に示すように、階段の踊り場等、壁面Wが角度をもって交わるコーナー部においても、被覆材1を容易に曲げて、芯材2に被せることができ、施工時の作業負荷が軽減される。
【0034】
また、被覆材1の内突片7にブラケット21の受止座22を回避するための切欠7dを設けて、内突片7の切欠7dと受止座22とを係合させ、階段等において傾斜した笠木の被覆材1に大きな体重が掛けられた場合でも、被覆材1のずれが防止されるようにしていることから、被覆材1を芯材2に接着剤等で固定する必要がない。
【0035】
なお、上記第1実施形態では、被覆材1の内突片7が底当部7a及び中折部7bのみから成るものを例示したが、
図8乃至
図10に示す第2実施形態のように、被覆材1の内突片7は、把持部4の両側端から底当部7a及び中折部7bを順次介して折返部7cが連なったものとしてもよい。
【0036】
この実施形態では、
図10(10A)に示すように、被覆材1の把持部4の両側端部が芯材2の底面まで延び、溝埋材3の押込前の状態において、被覆材1の開口部5の幅が狭くなるように、内突片7の中折部7bが根元から先端側へかけて迫り出し、中折部7bから折返部7cが折り返された形状とされている。
【0037】
そして、
図10(10B)に示すように、溝埋材3を、被覆材1の開口部5を介して芯材2の開放溝8に押し込むと、内突片7の底当部7a及び中折部7bは、それぞれ芯材2の開放溝8の両側に臨む部分の底面及び内側面に沿い、溝埋材3の抜止部12が開放溝8を通過した後、折返部7cは、芯材2の内部において、反発力により抜止部12の基部側の段差に密着する。
【0038】
このような固定構造では、内突片7の底当部7aが小さい場合でも、折返部7cにより内突片7が開放溝8から抜け止めされて、被覆材1が芯材2にしっかりと固定される。
【符号の説明】
【0039】
1 被覆材
2 芯材
3 溝埋材
4 把持部
5 開口部
6 折返突条
7 内突片
7a 底当部
7b 中折部
7c 折返部
7d 切欠
8 開放溝
9 係止部
10 外鍔部
11 栓部
12 抜止部
21 ブラケット
22 受止座
22a 固定用部材
23 取付座
W 壁面