(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-11
(45)【発行日】2022-03-22
(54)【発明の名称】息漏れ防止器具
(51)【国際特許分類】
G10D 7/026 20200101AFI20220314BHJP
【FI】
G10D7/026
(21)【出願番号】P 2019124088
(22)【出願日】2019-07-03
【審査請求日】2021-02-19
(73)【特許権者】
【識別番号】500070994
【氏名又は名称】中嶋 美紀夫
(74)【代理人】
【識別番号】110002996
【氏名又は名称】特許業務法人宮田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 美紀夫
【審査官】大野 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-195234(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10D 9/10
G10D 7/026
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木管楽器の頭部管に装着される息漏れ防止器具であって、
前記息漏れ防止器具は、スクリュー軸と、前記スクリュー軸の先端部に着設された反射板と、前記スクリュー軸に貫装されたヘッドコルク部と、前記ヘッドコルク部を緊締するワッシャと、を備え、
前記ヘッドコルク部は、少なくとも1個以上の補助子と、圧着子と、歯車状圧着子と、駒形部材と、を有しており、各々が独立した部品であることを特徴とする息漏れ防止器具。
【請求項2】
前記歯車状圧着子は、1箇所以上の切欠き部を有し、前記圧着子の外径と略同一の径を有していることを特徴とする、請求項1に記載の息漏れ防止器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルート属に属する木管楽器の頭部管に使用される息漏れ防止器具に関する。
【背景技術】
【0002】
木管楽器であるフルートは、円筒状の本体を頭部管、胴部管、足部管に3分割できる構成となっており、頭部管に設けられた唄口から演奏者の息を吹き込むことで音を奏でる。フルートの頭部管にはスクリュー軸を介して反射板や、ヘッドコルク、ワッシャ及びヘッドスクリューが備えられてあり、これらの部品が演奏者の息を胴部管へと反射したり、頭部管の振動を制御したりすることで美しい音色が生み出される。
【0003】
従来のフルートをはじめとする木管楽器では、
図4に示すような中実円柱状のコルク材を用いたヘッドコルク14が使用されており、このヘッドコルク14で頭部管2の気密性を保っている。この気密性がフルート1の奏でる音に影響を及ぼすため、フルート1の頭部管2は、非常に繊細な調整を要する部位である。ゆえに、ヘッドコルク部分に関する発明がこれまでにも開示されている。
例えば文献1のように、Oリングをヘッドコルク14に取付けることにより頭部管2内の気密性を向上させるものがある。また、文献2のように、ヘッドコルク14の形状を中空状にさせることで、頭部管2内での音の響きを向上させるものがある。これらは、フルート1の音質や頭部管2内の気密性の向上及びヘッドコルク14の簡易な交換を目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-265589号公報
【文献】特開2006-195234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した部品の内ヘッドコルクは、ヘッドスクリュー側が細くなるようテーパーのついた頭部管のヘッドスクリュー側の端部を密閉するようにして頭部管の内壁に圧着する。すると、唄口から吹き込まれた呼気は、ヘッドコルクによって閉じられた端部から出ていくことができず、呼気による振動は胴部管へと反射していくように構成されている。通常、ヘッドコルクは部品名称どおりコルク材を使用しているものがほとんどであり、演奏時に吹き込まれる呼気の水分によってコルク材が劣化して数か月の内に頭部管に貼り付いてしまい、頭部管の振動を阻害したり、コルク材が縮み頭部管の密閉性が保たれなくなったりすることで、演奏時の音に影響を及ぼしていた。
【0006】
そこで、本発明は上記事情に鑑み、フルート属に属する木管楽器に用いられる息漏れ防止のヘッドコルク部に付着した水分を自然乾燥させることができ、頭部管内でヘッドコルクの貼り付きが生じない息漏れ防止器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
木管楽器の頭部管に装着される息漏れ防止器具であって、前記息漏れ防止器具は、スクリュー軸と、前記スクリュー軸の先端部に着設された反射板と、前記スクリュー軸に貫装されたヘッドコルク部と、前記ヘッドコルク部を緊締するワッシャとを備え、前記ヘッドコルク部は、少なくとも1個以上の補助子と、圧着子と、歯車状圧着子と、駒形部材とを有しており、各々が独立した部品であることを特徴とする。
【0008】
前記歯車状圧着子は、1箇所以上の切欠き部を有し、前記圧着子の外径と略同一の径を有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、頭部管の密閉性を保つための息漏れ防止器具の一部を複数の部品に分割して構成し、その部品一部である頭部管の密閉性を高める圧着子と略同一の径を有した歯車状圧着子に切欠き部が設けられることで、歯車状圧着子の外縁部が頭部管の内壁と完全に接触しないような構成となっているため、従来のヘッドコルクとは異なり空気の通り道ができ、ヘッドコルク部の内部に侵入した水分を乾きやすくすることができる。したがって、ヘッドコルク部が水分の吸収によって生じる劣化や、頭部管への貼り付きが起きにくくなり長期期間使用することも可能である。
また、本発明の息漏れ防止器具は、ヘッドコルクが頭部管の内壁に完全に密着しない構成であるため、従来のヘッドコルクを使用した時とは異なった音の響きを提供でき、音質の変化を楽しむことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の息漏れ防止器具の第一実施形態例で、(a)は本発明の息漏れ防止器具の部品図であり、(b)は(a)の部品を組み立てた息漏れ防止器具の全体を示す斜視図である。
【
図2】本発明の息漏れ防止器具を備えた木管楽器(フルート)の部分断面図である。
【
図3】本発明の息漏れ防止器具の第二実施形態例の全体を示した斜視図である。
【
図4】従来の木管楽器(フルート)の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
木管楽器であるフルート1は、
図2及び
図4で示すような頭部管2と、図示しない胴部管と、同じく図示しない足部管と、で構成される木管楽器であり、演奏時にはこれらのパーツを連結させることで1本の細長い円筒状の楽器として組立てる。
【0012】
上述したフルート1を構成するパーツの一つである頭部管2は、
図4に示すように、演奏者が呼気をフルート1の管内に吹き込むための孔である唄口4と、前記唄口4に呼気を吹き込む際に演奏者の唇を宛がうリッププレート3と、胴部管に連結する側と反対側の開口部に蓋をするヘッドスクリュー13と、頭部管2のヘッドスクリュー13側の開口部から演奏者の呼気が漏れ出ないよう封止するヘッドコルク14を有する。
本発明の息漏れ防止器具は、前記ヘッドコルク14に代わるものである。以下より、本発明の実施の形態を詳説する。なお、本実施の形態における木管楽器はフルート1である。
【0013】
(第一の実施形態)
本発明の息漏れ防止器具は、
図1(a)及び(b)に示すように、金属製のスクリュー軸12と、該スクリュー軸12の先端部に着設され、同じく金属製の反射板11と、頭部管2の内壁に圧着する樹脂製の複数の部品で構成されたヘッドコルク部5と、該ヘッドコルク部5を反射板11とで挟扼する金属製のワッシャ10とを有している。
反射板11は、頭部管2の内径よりもやや小さい外径を有した金属製の円盤状の部品である。厚みは約1mmで、フルート1の唄口4の中心から決められた位置になるよう取付けられており、本実施形態のフルート1においては唄口4の中心から17mmの位置となるよう調節されている。
スクリュー軸12は、ネジ山を有した直径約3mmの金属製の棒で、一方の端部が前記反射板11の中心に着設されており、両部品が一体となるよう構成されている。長さは約5cmで、反射板11の中心に着設していない方の端部は、
図2に示すようにヘッドスクリュー13に設けられたスクリュー軸12の挿入孔へと挿入されている。
ワッシャ10は、前記反射板11よりも小さい径を有した金属製の円盤状の部品で、片面の中心部には一段突出したつまみを有する。厚みは約1mmで、中心部のつまみには前記スクリュー軸12に貫装するための貫通孔を有し、その内壁に設けられた雌ネジによってスクリュー軸12に螺接するよう構成されている。
ヘッドコルク部5は、前記スクリュー軸12に貫装された部品である。それぞれ独立した以下の部品によって構成されており、補助子6を1個、圧着子7を1個、駒形部材8及び歯車状圧着子9を2個有する。以下よりヘッドコルク部5の各部品について詳説する。
【0014】
補助子6は、反射板11と略同一の径を有した厚さ約3mmの円盤状の部品で、中心部にはスクリュー軸12に貫装するための貫通孔を有している。材質は樹脂を用いているが、コルク材や金属、シリコンゴム等を用いても良い。
【0015】
圧着子7は、前記補助子6よりも大きい径を有し、頭部管2の内径と略同一の外径である厚さ約3mmの円盤状の部品で、補助子6と同様に中心部にはスクリュー軸12に貫装するための貫通孔を有している。材質は樹脂を用いているが、コルク材や金属、シリコンゴム等を用いても良い。
【0016】
駒形部材8は、前記圧着子7よりも小さい外径で、厚さ約1cmの略円柱状の部品であり、中央部にくびれを有している。その中心部は、補助子6及び圧着子7と同様にスクリュー軸12に貫装するための貫通孔を有している。材質は樹脂を用いているが、コルク材や金属、シリコンゴム等を用いても良い。
【0017】
歯車状圧着子9は、前記圧着子7と略同じ外径で1箇所以上の切欠き部9aを有した厚さ約3mmの略円盤状の部品である。その中心部は、補助子6、圧着子7及び駒形部材8と同様にスクリュー軸12に貫装するための貫通孔を有している。
【0018】
上述した部品は、
図1(a)に示すように補助子6と圧着子7を1個ずつ、駒形部材8と歯車状圧着子9を2個ずつ交互に貫装している。
補助子6、圧着子7、駒形部材8及び歯車状圧着子9は、前述のとおりそれぞれの中心部に貫通孔が設けられており、スクリュー軸12に貫装することによって各部品が連接するよう構成されている。前記スクリュー軸12の胴部管側の先端には反射板11が着設されているため、スクリュー軸12に貫装された補助子6は反射板11によって底止し、それに続いて貫装する圧着子7も補助子6によって底止する。すると、そのあとに続いてスクリュー軸12に貫装する駒形部材8と歯車状圧着子9も底止するため、第一の実施形態においては、
図1(b)に示すような各部品が団子状に連接したヘッドコルク部5が形成される。ヘッドコルク部5の形成後、ワッシャ10をスクリュー軸12に貫装してヘッドコルク部5の各部品が緩んでしまわないよう反射板11とで緊締すると、本発明の息漏れ防止器具となる。
【0019】
上述のように組立てた息漏れ防止器具は、
図2に示すようにスクリュー軸12の先端部がヘッドスクリュー13に挿入されるように胴部管側の開口部から頭部管2に挿入される。頭部管2はヘッドスクリュー13側が細くなるようにテーパーがついているため、圧着子7及び歯車状圧着子9の縁部が頭部管2の内壁に引っ掛かり、反射板11がリッププレート3に設けられた唄口4から所定の位置になるよう、ヘッドスクリュー13側の開口部付近で頭部管2を封止することができる。この時、圧着子7の縁部は頭部管2の内壁に圧着している一方で、歯車状圧着子9は1箇所以上の切欠き部9aを有した略歯車状の部品であるため、切欠き部9aが頭部管2の内壁に接触しないよう構成されている。つまり、前述の圧着子7と異なり、歯車状圧着子9の縁部は頭部管2の内壁に部分的に圧着している。加えて、圧着子7と歯車状圧着子9との間に介在する中央部にくびれを有した駒形部材8は、圧着子7や歯車状圧着子9よりも小さい径を有するよう構成されているため、
図2の断面図に示されるように、圧着子7からヘッドスクリュー13側の端部にかけて頭部管2の内壁との間に空隙を生み出すことができる。
【0020】
(第二の実施形態)
本発明の息漏れ防止器具は、
図3に示すように、第一の実施形態とは異なった部品の組合せとすることができ、第二の実施形態では、補助子6が1個、圧着子7が1個、駒形部材8が2個及び歯車状圧着子9が3個で構成されている。各部品の詳細は上述と同様である。
【0021】
第二の実施形態の組立て順序については、最初に補助子6、圧着子7の順にスクリュー軸12へ貫装した後、歯車状圧着子9、駒形部材8、歯車状圧着子9、歯車状圧着子9、駒形部材8の順にスクリュー軸12へ貫装する。その後は、第一の実施形態と同じく、ワッシャ10を貫装して各部品が緩んでしまわないよう緊締する。
頭部管2への装着も上述と同様であるが、第二の実施形態は第一の実施形態と異なり歯車状圧着子9を1個増加したため、第二の実施形態の方が頭部管2の内壁に圧着している面積が大きくなっており、第一の実施形態と比べて頭部管2の振動を抑える効果が期待できる。このため、第一の実施形態の息漏れ防止器具を使用した時とは異なった頭部管2の振動が生じ、フルート1の音質に微細な変化をつけることができる。
【0022】
従来のヘッドコルク14では、
図4に示すように頭部管2の内壁は中実円柱状のコルク材がその長さの分だけぴったりと圧着しており空気や水分の逃げ場がなかったため、フルート1の管内で結露してしまった水分がコルク材に染み込んでしまい、一定期間を経るとコルク材が劣化により縮んで頭部管2の気密性が確保できなくなっていた。しかし本発明の息漏れ防止器具は、上述のような駒形部材8及び歯車状圧着子9の組み合わせによって、頭部管2の内壁との間に空気の通り道となる空隙を作り出すことができるため、息漏れ防止器具の内部に入り込んだ水分が自然に乾燥できるような構成となっている。したがって、演奏者の呼気と共にフルート1に吹き込まれ、息漏れ防止器具の内部に入り込んだ水分は、頭部管2の内壁とヘッドコルク部5の間の空隙によって自然乾燥し易くなるため息漏れ防止器具の内部に留まることがなく、水分による息漏れ防止器具の劣化を防いで長持ちさせることが期待できる。
【0023】
また、本発明の息漏れ防止器具のヘッドコルク部5は、複数の独立した部品を組み合わせて作ることができるため、
図3に示した第二実施形態例のように演奏者の好みに応じて各部品の材質や、使用部品の個数等を自由に変更することが可能である。例えば、圧着子7の材質を樹脂からシリコンゴムに変更すれば、シリコンゴムの弾力性によってフルート1の頭部管2の内壁とより密着させることができ、頭部管2の密閉性が向上することに加えて、シリコンゴムの弾力性が頭部管2の振動を吸収することも期待されるため、フルート1が奏でる音質の向上が見込まれる。これに加え、駒形部材8の材質や個数も自由に変更することで、息漏れ防止器具の重さを調節し頭部管2の重心を変化させることができ、さらなる音質の向上や音の変化を楽しむことも可能である。
【0024】
本発明の息漏れ防止器具のヘッドコルク部5に使用されている各部品は、補助子6以外の部品において、組み立てる順序や個数も演奏者の好みに応じて変更することができる。例えば、圧着子7を重ねることで頭部管2の内壁との密着度がより高まり、息漏れ防止器具のずれを少なくすることができ、さらには頭部管2の振動を制御することもできるため、音程の変化をつけて演奏することも可能である。最初に貫装する補助子6は、圧着子7のクッションとなることで、後続の圧着子7が息漏れ防止器具の挿入時に頭部管2の内壁と擦れた際に、撓んだ圧着子7が反射板11の縁に引っ掛かって傷つくことを防ぐことができる。
【0025】
このような構成の息漏れ防止器具とすれば、従来のヘッドコルクのように頭部管2の内壁にぴったりと貼り付く面積が少なくなることに加え、従来のヘッドコルクに生じていた水分の吸収による劣化が起こらないため、長期間の使用による貼り付きが起こらなくなる。加えて、ヘッドコルク部5の交換は、従来のものと同様に簡単に交換することができる。
【0026】
本実施の形態において、息漏れ防止器具のヘッドコルク部5を構成している各部品は樹脂を使用しているが、シリコンゴムのように弾力性を有した素材や、真鍮やニッケル合金などの金属や、金、銀等の貴金属や、木材、コルク材、プラスティック等どのような素材を用いても良い。
また、歯車状圧着子9の切欠き部9aは本実施の形態では8か所としてあるが、演奏者の好みに応じてその数を増減させても良い。
さらに本発明の息漏れ防止器具は、ピッコロやアルトフルート、バスフルートのようにフルート属に属する木管楽器であれば使用することができる。
【符号の説明】
【0027】
1 木管楽器(フルート)
2 頭部管
5 ヘッドコルク部
6 補助子
7 圧着子
8 駒形部材
9 歯車状圧着子
9a 切欠き部
10 ワッシャ
11 反射板
12 スクリュー軸