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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-11
(45)【発行日】2022-03-22
(54)【発明の名称】ヒト脂肪肝モデル細胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20220314BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20220314BHJP
【FI】
C12N5/071
C12Q1/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019153323
(22)【出願日】2019-08-26
(65)【公開番号】P2021029174
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2019-12-25
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503449018
【氏名又は名称】株式会社フェニックスバイオ
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】加国 雅和
(72)【発明者】
【氏名】高橋 真生
(72)【発明者】
【氏名】畠 恵司
(72)【発明者】
【氏名】戸松 さやか
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 玲
(72)【発明者】
【氏名】梅川 結
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/085622(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/001614(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/139417(WO,A1)
【文献】AO, R., et al.,Altered microRNA-9 Expression Level is Directly Correlated with Pathogenesis of Nonalcoholic Fatty Liver Disease by Targeting Onecut2 and SIRT1,Medical Science Monitor,2016年10月19日,Vol. 22,p. 3804-3819,DOI: 10.12659/MSM.897207
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
C12Q 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト脂肪肝モデル細胞の製造方法であって、
脂肪肝由来のヒト肝細胞を、ジメチルスルホキシドを含む培地中にて単層培養する工程であって、前記脂肪肝由来のヒト肝細胞が、ヒト肝細胞を有するキメラ非ヒト動物より回収されたものである、工程、
を含み、前記工程により、ジメチルスルホキシドを含まないこと以外は同じ条件で培養されたヒト肝細胞を有するキメラ非ヒト動物より回収された脂肪肝由来のヒト肝細胞の、2倍以上の脂質を細胞に蓄積させる、方法。
【請求項2】
培養を日間よりも長く行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
脂質を分泌及び/又は蓄積する、ヒト肝細胞を有するキメラ非ヒト動物より回収されたヒト脂肪肝モデル細胞の単層培養物であって、ジメチルスルホキシドを含まないこと以外は同じ条件で培養されたヒト肝細胞を有するキメラ非ヒト動物より回収されたヒト脂肪肝モデル細胞の単層培養物の、2倍以上の脂質を蓄積する、単層培養物
【請求項4】
超低密度リポタンパク質(VLDL)及び低密度リポタンパク質(LDL)を含むリポタンパク質を含有し、VLDLをLDLよりも多く含むことを特徴とする、請求項3に記載の単層培養物。
【請求項5】
脂肪肝関連遺伝子の増大した発現を有する、請求項3に記載の単層培養物。
【請求項6】
脂肪肝関連遺伝子が、FASN、SREBF1、及びG6PCからなる群から選択される一以上の遺伝子である、請求項5に記載の単層培養物。
【請求項7】
ヒト脂肪肝に有効な物質のスクリーニング方法であって、
請求項3~6のいずれか1項に記載の単層培養物に被検物質を投与する工程、ならびに、
被験物質を投与した前記単層培養物と投与されていない前記単層培養物との間で脂肪肝症状の程度を比較する工程、を含む方法。
【請求項8】
被検物質のヒト脂肪肝に対する毒性を評価する方法であって、
請求項3~6のいずれか1項に記載の前記単層培養物に被検物質を投与する工程、ならびに、
被験物質を投与した前記単層培養物と投与されていない前記単層培養物との間で細胞の生存率や脂肪肝症状の程度を比較して、該被検物質のヒト脂肪肝に対する影響を評価する工程、を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト脂肪肝モデル細胞及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪肝は、肝細胞内に中性脂肪等の脂質が過剰に蓄積して、肝障害を生じる疾患の総称である。脂肪肝では肝小葉を構成する肝細胞の1/3以上に脂肪滴の蓄積が認められる。食生活や生活習慣の変化により、脂肪肝の頻度は年々増加する傾向にある。以前は、脂肪肝は放置しておいてもかまわないと考えられていたが、近年では、非アルコール性脂肪性肝障害(Non-Alcoholic Fatty Liver Disease:NAFLD)が注目され、脂肪肝から非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis:NASH)、肝硬変、肝臓がんへと移行する例もあることが明らかにされている。このため脂肪肝を適切に治療することが必要とされており、その病理に関する機能的な解明や、有効な治療薬の開発が試みられている。
【0003】
脂肪肝の発症メカニズムやその予防及び治療の研究のために、脂肪肝の症状を示す非ヒト動物モデルが作製されている。例えば、特許文献1には、肝障害免疫不全非ヒト動物にヒト肝細胞を移植することによって、脂肪肝の症状を示す非ヒト動物モデルが作製されている。この非ヒト動物モデルでは大型の脂肪滴や肝臓の脂肪化等、脂肪肝の症状が観察される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2008/001614
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、非ヒト動物モデルは、作製や飼育・管理に多大な時間と労力、ならびに費用がかかる上、個体差や再現性の問題、倫理面での使用制限等の課題を有する場合がある。そのため、脂肪肝の発症メカニズムやその予防及び治療の研究を効率的に行うために、ヒト脂肪肝のin vitroの評価系、すなわちヒト脂肪肝モデル細胞が切望されている。
【0006】
本発明者らは、脂肪肝由来のヒト肝細胞をin vitroにて培養したところ、当該細胞は脂肪滴の消失等を生じ、脂肪肝の症状を維持することができないことを見出した。より具体的には、上述の脂肪肝の症状を示す非ヒト動物モデルより摘出された脂肪肝より、脂肪滴の蓄積等、脂肪肝の症状が観察されるヒト肝細胞を分離、回収し、これをin vitroにて培養したところ、当該細胞は脂肪滴の消失等を生じ、脂肪肝の症状を維持することができないことを見出した。
【0007】
そこで、本発明は、脂肪肝由来のヒト肝細胞において、脂肪滴の蓄積をはじめとする脂肪肝の症状を維持することを可能とする新たな手法を提供し、新たなヒト脂肪肝モデル細胞を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく、鋭意検討した結果、脂肪肝由来のヒト肝細胞を、ジメチルスルホキシドを含む培地中にて培養することによって、脂肪滴の蓄積、脂質の分泌・蓄積、脂肪肝関連遺伝子の発現等が観察され、脂肪肝の症状を維持するヒト脂肪肝モデル細胞が得られることを見出した。
【0009】
本発明はこれらの知見に基づくものであり、以下の特徴を有する。
[1] ヒト脂肪肝モデル細胞の製造方法であって、
脂肪肝由来のヒト肝細胞を、ジメチルスルホキシドを含む培地中にて培養する工程、
を含む、方法。
[2] 脂肪肝由来のヒト肝細胞が、ヒト肝細胞を有するキメラ非ヒト動物より回収されたものである、[1]の方法。
[3] 培養を3日間よりも長く行う、[1]又は[2]の方法。
[4] 脂質を分泌及び/又は蓄積する、ヒト脂肪肝モデル細胞。
[5] 超低密度リポタンパク質(VLDL)及び低密度リポタンパク質(LDL)を含むリポタンパク質を含有し、VLDLをLDLよりも多く含むことを特徴とする、[4]の細胞。
[6] 脂肪肝関連遺伝子の増大した発現を有する、[4]の細胞。
[7] 脂肪肝関連遺伝子が、FASN、SREBF1、及びG6PCからなる群から選択される一以上の遺伝子である、[6]の細胞。
[8] ヒト脂肪肝に有効な物質のスクリーニング方法であって、
請求項4~7のいずれか1項に記載の細胞に被検物質を投与する工程、ならびに、
被験物質を投与した細胞と投与されていない細胞との間で脂肪肝症状の程度を比較する工程、を含む方法。
[9] 被検物質のヒト脂肪肝に対する毒性を評価する方法であって、
請求項4~7のいずれか1項に記載の細胞に被検物質を投与する工程、ならびに、
被験物質を投与した細胞と投与されていない細胞との間で細胞の生存率や脂肪肝症状の程度を比較して、該被検物質のヒト脂肪肝に対する影響を評価する工程、を含む方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、脂肪滴の蓄積、脂質の分泌・蓄積、脂肪肝関連遺伝子の発現等が観察されるヒト脂肪肝モデル細胞、ならびにその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、培地B(DMSO(+))又は培地C(DMSO(-))で5日間培養したPXB-cellsの写真図を示す。培地B(DMSO(+))で培養したPXB-cells(左);培地C(DMSO(-))で培養したPXB-cells(右)。
図2図2は、培地B(DMSO(+))又は培地C(DMSO(-))で5日間培養したPXB-cellsの培養上清中のリポタンパク質の総中性脂肪(トリグリセリド)含量の測定結果を示す。結果は、培地B(DMSO(+))で培養したPXB-cellsの培養上清中の当該含有量を「100」とする相対値にて示す。
図3図3は、培地B(DMSO(+))で5日間、9日間、12日間、及び14日間培養したPXB-cells、ならびにHepG2細胞、及びHuH7細胞の培養上清におけるリポタンパク質の総コレステロール(左)及び総中性脂肪(トリグリセリド)(右)含量の測定結果を示す。
図4図4は、培地B(DMSO(+))で5日間、9日間、12日間、及び14日間培養したPXB-cells、ならびにHepG2細胞、及びHuH7細胞の培養上清におけるリポタンパク質(4種のサブグループ)のコレステロール(左)および中性脂肪(トリグリセリド)(右)含量について解析した結果を示す。
図5図5は、培地B(DMSO(+))で5日間、9日間、12日間、及び14日間培養したPXB-cells、ならびにHepG2細胞、及びHuH7細胞の細胞内における総コレステロール(左)及び総中性脂肪(トリグリセリド)(右)含量の測定結果を示す。
図6図6は、培地B(DMSO(+))で3日間、及び6日間培養したPXB-cellsにおける脂肪肝関連遺伝子(FASN、SREBF1、G6PC)の発現量の測定結果を示す。結果は、培地B(DMSO(+))で3日間培養したPXB-cellsの各遺伝子の発現量を「1」とする相対値にて示す。
図7図7は、ジュンサイエキス(5μg/mL、50μg/mL、500μg/mL)を添加した培地B(DMSO(+))で2日間培養したPXB-cellsの培養上清中及び細胞中の総コレステロール含量及び総中性脂肪(トリグリセリド)含量、ならびに培養上清中のヒトアルブミン含量の測定結果を示す。結果は、対照における総コレステロール、総中性脂肪(トリグリセリド)及びヒトアルブミンの含量を「100」とする相対値にて示す。
図8図8は、シンバスタチン(0.1μM、1μM、又は10μM)を添加した培地B(DMSO(+))で2日間培養したPXB-cellsの培養上清中及び細胞中の総コレステロール含量及び総中性脂肪(トリグリセリド)含量、ならびに培養上清中のヒトアルブミン含量の測定結果を示す。結果は、対照における総コレステロール、総中性脂肪(トリグリセリド)及びヒトアルブミンの含量を「100」とする相対値にて示す。
図9図9は、フェノフィブラート(5μM、50μM、又は500μM)を添加した培地B(DMSO(+))で2日間培養したPXB-cellsの培養上清中及び細胞中の総コレステロール含量及び総中性脂肪(トリグリセリド)含量、ならびに培養上清中のヒトアルブミン含量の測定結果を示す。結果は、対照における総コレステロール、総中性脂肪(トリグリセリド)及びヒトアルブミンの含量を「100」とする相対値にて示す。
図10図10は、ロミタピド(1μM、10μM、又は100μM)を添加した培地B(DMSO(+))で2日間培養したPXB-cellsの培養上清中及び細胞中の総コレステロール含量及び総中性脂肪(トリグリセリド)含量、ならびに培養上清中のヒトアルブミン含量の測定結果を示す。結果は、対照における総コレステロール、総中性脂肪(トリグリセリド)及びヒトアルブミンの含量を「100」とする相対値にて示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.ヒト脂肪肝モデル細胞の製造方法
本発明は、脂肪肝由来のヒト肝細胞を、ジメチルスルホキシドを含む培地中にて培養する工程を含むヒト脂肪肝モデル細胞の製造方法に関する。
【0013】
[1-1]脂肪肝由来のヒト肝細胞
本発明において「脂肪肝由来のヒト肝細胞」とは、脂肪肝組織より回収されたヒト肝細胞、あるいは、それを一旦冷凍保存した後解凍したものを用いることができる。脂肪肝組織は、脂肪肝を有するヒト患者に由来する脂肪肝組織、肝障害免疫不全非ヒト動物にヒト肝細胞を移植して得られた非ヒト動物モデル(以下、「キメラ非ヒト動物」と記載する)に由来する脂肪肝組織等を用いることができる。
【0014】
脂肪肝組織からのヒト肝細胞の回収は、従来公知の手法、すなわち、コラゲナーゼ灌流法や、遠心分離、エルトリエーター、FACS(fluorescence activated cell sorter)、ヒト肝細胞を特異的に認識するモノクローナル抗体等の手段を用いて行うことができる。好ましくは、本発明において「脂肪肝由来のヒト肝細胞」とは、大量生産可能であり、安定して供給することができるという観点から、キメラ非ヒト動物より回収されたヒト肝細胞である。
【0015】
[1-2]キメラ非ヒト動物より回収されたヒト肝細胞
本発明において利用可能なキメラ非ヒト動物に由来する脂肪肝組織より回収されたヒト肝細胞は以下の手法により調製することができる。
・1-2-1 キメラ非ヒト動物
本発明において「キメラ非ヒト動物」とは、肝臓における肝細胞の一部又は全部が、ヒト肝細胞に置換されている非ヒト動物を意味する。
【0016】
「非ヒト動物」は、哺乳動物であることが好ましく、げっ歯類であることがより好ましい。げっ歯類動物としては、マウス、ラットのようなネズミ、モルモット、リス、ハムスターなどが挙げられるが、実験動物として汎用されているマウス、ラットのようなネズミが特に好ましい。
【0017】
ヒト肝細胞を有するキメラ非ヒト動物は、従来公知の手法(特開2002-45087号公報、WO2008/001614、WO2013/145331)に準じて、肝障害免疫不全非ヒト動物にヒト肝細胞を移植することにより得ることができる。
【0018】
・1-2-2 肝障害免疫不全非ヒト動物
「肝障害免疫不全非ヒト動物」とは、異種動物由来の細胞に対して拒絶反応を示さない免疫不全であるとともに、非ヒト動物由来の肝臓の細胞が障害を受けている動物を意味する。非ヒト動物由来の肝臓の細胞が障害を受けていることにより、移植されたヒト肝細胞は増殖がしやすく、また、移植されたヒト肝細胞により肝機能が維持される。
【0019】
肝障害免疫不全非ヒト動物は、同一個体に、肝障害誘発処理、ならびに、免疫不全誘発処理を施すことにより作製することができる。「肝障害誘発処理」としては、肝障害誘発物質(例えば、四塩化炭素、黄リン、D-ガラクトサミン、2-アセチルアミノフルオレン、ピロロジンアルカロイド等)の投与や、外科的処理(例えば、肝臓の部分切除等)が挙げられる。「免疫不全誘発処理」としては、免疫抑制剤の投与や胸腺の摘出等が挙げられる。
【0020】
あるいは、肝障害免疫不全非ヒト動物は、遺伝的に免疫不全症の動物に、肝障害誘発処理を施すことによっても作製することができる。遺伝的に免疫不全症の動物としては、T細胞系不全を示す重症複合免疫不全症(SCID:severe combined immunodeficiency)の動物、遺伝的な胸腺の欠損によりT細胞機能を失った動物、RAG2遺伝子のノックアウト動物等を利用することができる。具体的には、SCIDマウス、NUDEマウス、RAG2ノックアウトマウス、IL2Rgc/Rag2ノックアウトマウス、NODマウス、NOGマウス、ヌードマウス、ヌードラット、X線照射したヌードラットにSCIDマウスの骨髄を移植して得られる免疫不全ラット(特開2007-228962号公報、Transplantation,60(7):740-7,1995)等を使用することができる。
【0021】
あるいは、肝障害免疫不全非ヒト動物は、遺伝的に肝障害を有する動物に免疫不全誘発処理を施すことによっても作製することができる。遺伝的に肝障害を有する動物としては、肝細胞特異的に発現するタンパク質のエンハンサー、及び/又はプロモーターの支配下に連結された肝障害誘発タンパク質遺伝子が導入されたトランスジェニック動物を利用することができる。「肝細胞特異的に発現するタンパク質」としては、血清アルブミン、コリンエステラーゼ、ハーゲマン因子等が挙げられ、これら遺伝子の発現を調節するエンハンサー、及び/又はプロモーターを利用することができる。「肝障害誘発タンパク質」としては、ウロキナーゼプラスミノーゲンアクチベーター(uPA)、ティッシュープラスミノーゲンアクチベーター(tPA)等が挙げられる。このようなトランスジェニック動物においては、肝細胞特異的に発現するタンパク質のエンハンサー、及び/又はプロモーターの下、肝細胞特異的に肝障害誘発タンパク質が発現されるため、肝障害が誘導される。あるいは、遺伝的に肝障害を有する動物は、肝機能を担う遺伝子をノックアウトすることによっても作製することができる。「肝機能を担う遺伝子」としては、例えばフマリルアセト酢酸ヒドラーゼ遺伝子等が挙げられる。
【0022】
あるいは、肝障害免疫不全非ヒト動物は、遺伝的に免疫不全症の動物と、それと同種の遺伝的に肝障害を有する動物とを交配させることによっても作製することができる。
【0023】
あるいは、肝障害免疫不全非ヒト動物は、ジーンターゲティングや、CRISPR-Cas9、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、TALEヌクレアーゼ(TALEN)をはじめとするゲノム編集技術や遺伝子組換え技術を利用して、上記免疫不全及び/又は上記肝障害を生じる遺伝的要因を、非ヒト動物、あるいは遺伝的に免疫不全症である及び/又は遺伝的に肝障害を有する非ヒト動物に由来する受精卵、多能性幹細胞(例えば、胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)等)に導入することによって作製することができる(Wang,H.ら、Cell,153,910-918,(2013); Yang,H.ら、Cell,154,1370-1379,(2013))。
【0024】
本発明において「肝障害免疫不全非ヒト動物」は、免疫不全の形質を規定する遺伝子及び肝障害の形質を規定する遺伝子を、それぞれをホモ接合型で有していてもよいし、ヘテロ接合型で有していてもよい。例えば、本発明の肝障害免疫不全非ヒト動物としては、uPA(+/-)/SCID(+/+)、uPA(+/+)/SCID(+/+)などの遺伝子型で表される肝障害免疫不全マウスを好適に利用することができる。
【0025】
・1-2-3 移植されるヒト肝細胞
本発明において肝障害免疫不全非ヒト動物に移植される「ヒト肝細胞」は、ヒト由来の肝細胞であればよく、例えば、ヒト肝組織から、コラゲナーゼ灌流法等の常法にしたがって単離されたヒト肝細胞を利用することができる。ヒト肝組織は健常人由来の肝組織であってもよいし、脂肪肝や肝臓がん等の疾患に罹患した患者由来の肝組織であってもよいが、好ましくは健常人由来の肝組織である。肝細胞を単離するヒトの年齢は特に制限されないが、14歳以下の小児の肝組織より単離するのが好ましい。14歳以下の小児の肝細胞を使用することにより、移植後、ヒト肝細胞による高置換率を達成することができる。また、単離した肝細胞を一旦冷凍保存した後解凍して用いることもできる。
【0026】
また、ヒト肝細胞は、in vivoで活発な増殖能を有する増殖性ヒト肝細胞であってもよい。「増殖性ヒト肝細胞」とは、培養条件下(in vitro)において、単一細胞種の集団としてのコロニーを形成し、そのコロニーを増大させるように増殖するヒト肝細胞を意味する。その増殖は、コロニー構成細胞が単一種であるという点において「クローン性増殖」という場合もある。さらに、このような細胞は、継代培養によって細胞数をさらに増加することができる細胞である。
【0027】
増殖性ヒト肝細胞としては、ヒト小型肝細胞が挙げられる(特開平08-112092号公報;日本特許第3266766号;米国特許第6,004,810号、特開平10-179148号公報:日本特許第3211941号、特開平7-274951公報;日本特許第3157984号、特開平9-313172号公報;日本特許第3014322号)。
【0028】
単離したヒト肝細胞は、そのまま用いてもよいし、さらに精製して用いてもよい。肝細胞の精製は常法にしたがって行うことができ、例えば、遠心分離、エルトリエーター、FACS、コロニーを形成しながら増殖する肝細胞を特異的に認識するモノクローナル抗体等の手段を用いて行うことができる。ヒト肝細胞や増殖性ヒト肝細胞を特異的に認識するモノクローナル抗体は公知のもの(WO2008/001614)を利用することができる。
【0029】
あるいは、ヒト肝細胞は、ヒト肝細胞を有するキメラ非ヒト動物の肝組織から同様に、コラゲナーゼ灌流法等の常法にしたがって単離されたヒト肝細胞やそれを一旦冷凍保存した後解凍したもの、多能性幹細胞(例えば、胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)等)より誘導して得られたヒト肝細胞、Clip細胞のような肝前駆細胞、in vitroで増殖させたヒト肝細胞、凍結保存肝細胞、テロメラーゼ遺伝子等の導入により不死化させた肝細胞、これらの肝細胞と非実質細胞を混合させたもの等も利用することができる。
【0030】
・1-2-4 ヒト肝細胞の移植
肝障害免疫不全非ヒト動物へのヒト肝細胞の移植は、当該非ヒト動物の脾臓を経由して肝臓へ移植することにより行うことができる。あるいは、直接門脈から移植することもできる。移植するヒト肝細胞の数は、1~200万個程度、好ましくは20万~100万個程度とすることができる。肝障害免疫不全非ヒト動物の性別は特に限定されない。また、移植に用いる肝障害免疫不全非ヒト動物の日齢は、特に限定されないが、低週齢のときにヒト肝細胞を移植すると、動物の成長とともにヒト肝細胞がより活発に増殖し得ることから、生後0~40日程度、好ましくは生後8~40日程度のものを使用することができる。
【0031】
移植後の動物は、常法により、飼育することができる。例えば、移植後40~200日間程度飼育することにより、非ヒト動物における肝細胞の一部又は全部がヒト肝細胞で置換されたキメラ非ヒト動物を得ることができる。このようにして得られたキメラ非ヒト動物の肝臓には、大型の脂肪滴や肝臓の脂肪化等、脂肪肝の症状が観察される(WO2008/001614)。
【0032】
・1-2-5 ヒト肝細胞の回収
キメラ非ヒト動物からのヒト肝細胞の回収は、コラゲナーゼ灌流法等の常法にしたがって行うことができる。ヒト肝細胞の回収は、回収される肝細胞中にヒト肝細胞が高率で含まれるキメラ非ヒト動物を用いて行うことが好ましくは、例えば、以下の一又は複数の特徴を有するキメラ非ヒト動物を用いて行うことができる。
(i)肝臓における肝細胞の60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、よりさらに好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上がヒト肝細胞に置換されている;
(ii)血中ヒトアルブミン量が0.1mg/mL以上、好ましくは0.5mg/mL以上、より好ましくは1mg/mL以上、さらに好ましくは5mg/mL以上、よりさらに好ましくは10mg/mL以上である;
(iii)ヒト肝細胞の移植後、12週~21週、好ましくは13週~20週、より好ましくは14週~19週、経過している。
【0033】
回収したヒト肝細胞はそのまま用いてもよいが、ヒト肝細胞又は非ヒト動物の肝細胞を特異的に認識するモノクローナル抗体を用いて、ヒト肝細胞を精製して用いてもよい。分離した肝細胞をヒト肝細胞特異的モノクローナル抗体と反応させる場合は、当該抗体と結合した細胞をフローサイトメーター(FACS)や磁気細胞分離装置(MACS)で回収することによって、また、分離した肝細胞を非ヒト動物の肝細胞特異的モノクローナル抗体と反応させる場合は、該抗体と結合しなかった細胞をFACSやMACSを用いて回収することによって、ヒト肝細胞を精製して回収することができる。
【0034】
回収したヒト肝細胞はさらに、新たな肝障害免疫不全非ヒト動物へと上述のとおり移植した(継代移植)後に、同様に回収してもよい。継代移植は1回又は複数回(例えば、2~4回)行うことができる。
【0035】
[1-3]脂肪肝由来のヒト肝細胞の培養
本発明において、脂肪肝由来のヒト肝細胞の培養は、動物細胞の培養に一般的に用いられる培地を使用して行うことができる。このような培地としては、例えば、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ウイリアムス培地E等が挙げられるが、これらに限定はされない。好ましくは、DMEMを利用することができる。培地には必要に応じてさらに、ウシ胎児血清、インスリン、上皮成長因子、デキサメタゾン、緩衝剤、抗生物質、pH調整剤、プロリン、アスコルビン酸、ニコチンアミド等を適宜添加することができる。
【0036】
培地には、ジメチルスルホキシド(DMSO)を添加する。DMSOは培地中に1~4重量%、好ましくは1~2重量%、例えば2重量%の量(終濃度)となるように添加することができる。培地にDMSOを添加することによって、脂肪肝由来のヒト肝細胞における脂質の吸収及び/又は分泌機能を高め、脂質の蓄積を維持することができる。
【0037】
脂肪肝由来のヒト肝細胞は培地に、0.21~21.3×105細胞個/cm2、好ましくは1.07~3.2×105細胞個/cm2、例えば、2.13×105細胞個/cm2の量で播種する。0.21より細胞が少ないと、ヒト脂肪肝モデル細胞として十分な量の細胞を得ることができない場合があり、一方、21.3×105より細胞が多いと、細胞の生育低下、脂質の分泌及び/又は蓄積量の低下、等を生じる場合がある。
【0038】
脂肪肝由来のヒト肝細胞の培養は、細胞が脂質を分泌及び/又は蓄積するのに十分な期間行われればよく、例えば、3日間よりも長く、好ましくは4日以上、さらに好ましくは5日以上行うことができる。培養期間の上限は特に限定されないが、例えば、17日以下、好ましくは13日以下とすることができる。培養期間における培地の交換は適宜行うことができる。
【0039】
培養の終了後、脂質を分泌及び/又は蓄積するヒト肝細胞は、ヒト脂肪肝モデル細胞として利用することができる。
【0040】
2.ヒト脂肪肝モデル細胞
[2-1]脂肪滴とリポタンパク質分泌量
本発明はまた、ヒト脂肪肝モデル細胞に関するものであり、ヒト脂肪肝における肝細胞と同様に多くの脂質を分泌及び/又は蓄積する、ヒト由来の培養肝細胞である。
【0041】
本発明のヒト脂肪肝モデル細胞は多くの脂肪滴を内包し、高いリポタンパク質の含有量及び/又は分泌量を有する。ここで「多くの脂肪滴を内包」とは、上述の脂肪肝由来のヒト肝細胞の培養において、DMSOを添加しないこと以外は同じ培地中にて3日間よりも長く、好ましくは4日以上、さらに好ましくは5日以上培養された脂肪肝由来のヒト肝細胞と比べて、2倍以上、3倍以上、4倍以上、もしくは5倍以上、好ましくは6倍以上、より好ましくは7倍以上、さらに好ましくは8倍以上、よりさらに好ましくは9倍以上の脂肪滴を内包することを意味する。細胞中の脂肪滴の量は、オイルレッドO染色等の従来公知の手法を用いて細胞内の脂肪滴を染色した後、さらに有機溶媒を用いてその色素を抽出することにより定量することができる。「リポタンパク質」とは、コレステロールや中性脂肪等の脂質を、吸収・合成部位から使用部へと運搬するための複合体粒子であり、一般的に、粒子の外側に親水性のリン脂質、遊離コレステロール、アポリポタンパク質が配置され、粒子の内側には疎水性のコレステロールや中性脂肪が配置された構造を有する。「高いリポタンパク質の含有量及び/又は分泌量」とは、上述の脂肪肝由来のヒト肝細胞の培養において、DMSOを添加しないこと以外は同じ培地中にて3日間よりも長く、好ましくは4日以上、さらに好ましくは5日以上培養された脂肪肝由来のヒト肝細胞又はその培養上清中に含まれるリポタンパク質(より好ましくはトリグリセリド)量と比べて、5倍以上、好ましくは6倍以上、より好ましくは7倍以上、さらに好ましくは8倍以上、よりさらに好ましくは9倍以上の量のリポタンパク質が培養上清中に含まれることを意味する。細胞又は培養上清中のリポタンパク質の量は、後述するような従来公知の手法により測定することができる。
【0042】
[2-2]リポタンパク質のサブクラスの含有量
本発明のヒト脂肪肝モデル細胞はまた、細胞又は培養上清中のリポタンパク質のサブクラスの含有量によっても特徴付けることができる。
【0043】
リポタンパク質はその粒子の大きさ、水和密度、電気泳動度等の性質の違いによりいくつかのサブクラスに分類することができる。本発明においてはリポタンパク質を、従来公知の手法(WO2007/052789)に準じて、下記粒子サイズに基づいて、カイロミクロン(CM)、超低比重リポタンパク質(Very Low Density Lipoprotein;VLDL)、低比重リポタンパク質(Low Density Lipoprotein;LDL)、高比重リポタンパク質(High Density Lipoprotein;HDL)の4つに大きく分類することができる。本手法によれば、CMは2つのさらなるサブクラスに、VLDLは5つのさらなるサブクラスに、LDLは6つのさらなるサブクラスに、HDLは7つのさらなるサブクラスに分けることができ、合計20個のサブクラスに分類することもできる。
【0044】
【表1】
【0045】
細胞又は培養上清中のリポタンパク質の各サブクラスは、ゲル濾過液体クロマトグラフィー法を利用した従来公知の手法(WO2007/052789;特開平9-15225号公報;Arterioscler Thromb Vasc Biol.2005;25:1-8;LipoSEARCH(登録商標)(株式会社スカイライト・バイオテック))により分画して定量することができる。
【0046】
本発明のヒト脂肪肝モデル細胞の細胞又は培養上清においては、リポタンパク質のうちVLDLが最も高い含有量を示す。
【0047】
本発明のヒト脂肪肝モデル細胞の細胞又は培養上清においては、VLDLはLDLよりも高い含有量を示し、例えば、2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上、10倍以上、又は15倍以上の量が含まれる。
【0048】
より詳細には、本発明のヒト脂肪肝モデル細胞の細胞又は培養上清においては、VLDLのコレステロールはLDLのコレステロールよりも高い含有量を示し、例えば、2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上、10倍以上、又は15倍以上の量が含まれ、VLDLの中性脂肪(トリグリセリド)はLDLの中性脂肪(トリグリセリド)よりも高い含有量を示し、例えば、2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上、10倍以上、又は15倍以上の量が含まれる。
【0049】
さらに、本発明のヒト脂肪肝モデル細胞の細胞又は培養上清においては、VLDLはHDLよりも高い含有量を示し、例えば、5倍以上、10倍以上、15倍以上、20倍以上、25倍以上、30倍以上、40倍以上、50倍以上、60倍以上、70倍以上、80倍以上、又は90倍以上の量が含まれる。
【0050】
より詳細には、本発明のヒト脂肪肝モデル細胞の細胞又は培養上清においては、VLDLのコレステロールはHDLのコレステロールよりも高い含有量を示し、例えば、5倍以上、10倍以上、15倍以上、20倍以上、25倍以上、30倍以上、40倍以上、50倍以上、60倍以上、70倍以上、80倍以上、又は90倍以上の量が含まれ、VLDLの中性脂肪(トリグリセリド)はHDLの中性脂肪(トリグリセリド)よりも高い含有量を示し、例えば、5倍以上、10倍以上、15倍以上、20倍以上、25倍以上、30倍以上、40倍以上、50倍以上、60倍以上、70倍以上、80倍以上、又は90倍以上の量が含まれる。
【0051】
さらに、本発明のヒト脂肪肝モデル細胞の細胞又は培養上清においては、LDLはHDLよりも高い含有量を示し、例えば、2.5倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上、又は10倍以上の量が含まれる。
【0052】
より詳細には、本発明のヒト脂肪肝モデル細胞の細胞又は培養上清においては、LDLのコレステロールはHDLのコレステロールよりも高い含有量を示し、例えば、2.5倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上、又は10倍以上の量が含まれ、LDLの中性脂肪(トリグリセリド)はHDLの中性脂肪(トリグリセリド)よりも高い含有量を示し、例えば、2.5倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上、又は10倍以上の量が含まれる。
【0053】
[2-3]脂肪肝関連遺伝子の発現量
本発明のヒト脂肪肝モデル細胞はまた、細胞における脂肪肝関連遺伝子の発現量によっても特徴付けることができる。
【0054】
本発明において「脂肪肝関連遺伝子」とは、健康な肝臓の肝細胞と比べて脂肪肝の肝細胞において発現量の増大が認められる遺伝子を意味する。このような脂肪肝関連遺伝子としては、脂肪酸合成酵素をコードする遺伝子(遺伝子名:FASN)、SREBP-1をコードする遺伝子(遺伝子名:SREBF1)、グルコース-6-ホスファターゼをコードする遺伝子(G6PC)、コレステロール7α-ヒドロキシラーゼをコードする遺伝子(CYP7A1)、コレステリルエステル転送タンパク質をコードする遺伝子(CETP)、グルコキナーゼをコードする遺伝子(GCK)、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ1をコードする遺伝子(PCK1)等が挙げられる。ここで、脂肪肝関連遺伝子の「高い」発現量とは、DMSO非含有の培地中にて培養された、又はDMSO含有の培地中にて3日以下培養された上述の脂肪肝由来のヒト肝細胞における脂肪肝関連遺伝子の発現量と比べて高いこと、例えば、2倍以上、好ましくは3倍以上、より好ましくは3.5倍以上高いことを意味する。
【0055】
脂肪肝関連遺伝子の発現量は、従来公知の手法により定量することが可能であり、好ましくはマイクロアレイ解析により行うことができる。
【0056】
[2-4]その他
本発明のヒト脂肪肝モデル細胞は、上述のヒト脂肪肝モデル細胞の製造方法により製造することができる。
【0057】
本発明のヒト脂肪肝モデル細胞は、DMSOを含む培地中にて培養することが好ましい。
【0058】
本発明のヒト脂肪肝モデル細胞は、リポタンパク質のうちVLDLが最も高い含有量を示すことから、既知肝細胞(HepG2、HuH7等)と比較して、よりヒト脂肪肝の肝細胞に類似したモデルとして用いることができる。
【0059】
本発明のヒト脂肪肝モデル細胞は、ヒト脂肪肝のモデルとして用いることができる。その用途は特に限定されないが、例えば、ヒト脂肪肝に有効な物質のスクリーニング方法に利用することができる。スクリーニングは、本発明のヒト脂肪肝モデル細胞の培養物に被験物質を投与し、被験物質を投与した細胞と投与されていない細胞との間で脂肪肝症状の程度を比較することによって行うことができる。「被験物質を投与した細胞と投与されていない細胞」は、被験物質投与前後の同一の培養物であってもよいし、被験物質投与の有無が異なるだけでその他は同様に操作された別々の培養物であってもよい。「脂肪肝症状」としては、脂肪滴の蓄積、脂質の分泌・蓄積、脂肪肝関連遺伝子の発現、鉄の沈着、アポトーシス、酸化ストレスをもたらすタンパク質の発現、風船用腫大(Ballooning)、マロリー小体等が挙げられるが、これらに限定はされない。被験物質を投与した細胞において、これらの症状が緩和又は改善されていれば、当該被験物質はヒト脂肪肝に有効な物質であると判定することができ、ヒト脂肪肝の治療又は改善に利用することができる。また、疾患の治療又は改善に有効な物質は、通常、その疾患にも有効であるため、ヒト脂肪肝の治療又は改善に有効な物質は、ヒト脂肪肝の予防にも有効であると判定することができる。すなわち、「ヒト脂肪肝に有効な物質」とは、ヒト脂肪肝の予防、治療又は改善に有効な物質を意味する。被験物質としては、低分子化合物、アミノ酸、核酸、脂質、糖類、天然物の抽出物等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0060】
また、本発明のヒト脂肪肝モデル細胞は、被検物質のヒト脂肪肝に対する毒性を評価する方法に利用することができる。毒性の評価は、本発明のヒト脂肪肝モデル細胞の培養物に被験物質を投与し、被験物質を投与した細胞と投与されていない細胞との間で細胞の生存率や脂肪肝症状の程度を比較し、当該被検物質のヒト脂肪肝に対する影響を評価することによって行うことができる。被験物質を投与した細胞において、細胞の生存率が低下する場合や、脂肪肝症状が悪化する場合には、当該被験物質はヒト脂肪肝に対し毒性を有すると判定することができる。「細胞の生存率が低下する」ことは、被験物質の投与前後における培養細胞の細胞数を計数することによって求めてもよいが、培養上清中に分泌されたヒトアルブミン含量を指標にして判断してもよい。被験物質を投与する前と比べて、投与した後において、培養上清中のヒトアルブミン含量が低下している場合には、細胞の生存率が低下していることが示唆される。この場合、当該被験物質は(もしくは当該被験物質のその用量は)、ヒト脂肪肝に対し毒性を有すると判定することができる。「被験物質を投与した細胞と投与されていない細胞」、「脂肪肝症状」、「被験物質」は、上述のものを利用することができる。
【0061】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例
【0062】
I.試験方法
1.脂肪肝由来のヒト肝細胞の調製
(ヒト肝細胞を有するキメラマウス(PXBマウス)の作製)
PXBマウスは従来公知の手法(特開2002-45087号公報)に準じて作製した。すなわち、肝臓で合成されるアルブミンのエンハンサー、及びプロモーターに連結したウロキナーゼプラウミノーゲンアクチベーター(uPA)遺伝子(cDNA-uPA)が全細胞に導入された遺伝的肝障害マウスと、免疫不全マウス(SCIDマウス)とを交配させて免疫不全肝障害マウス(cDNA-uPA(+/-)/SCIDマウス)を作製した。
【0063】
3週齢のcDNA-uPA(+/-)/SCIDマウスに麻酔をかけ、脾臓辺りの皮膚ならびに腹直筋をハサミで切開し、脾臓の先端をつまんで細胞を注入しやすい位置に固定した。次いで、ヒト肝細胞懸濁液を充填したガラスシリンジを用いて、脾臓の先端から針を刺し、細胞を注入した。その後、脾臓をマウスの体内へ戻し、皮膚および腹膜を形成外科用強弯針で縫い、切開部分を閉じ、移植対象マウスの呼吸に異常がないことを確認し、飼育ケージ内で飼育した。
【0064】
17週齢~22週齢、体重15~20gであり、かつ血清中のヒトアルブミン量が10mg/mL以上(ヒトアルブミン量から換算したヒト肝細胞置換率95%以上)であるPXBマウスを選抜し、以下の実験に用いた。
【0065】
(細胞分離)
麻酔下のPXBマウスを解剖台に載せ、医療用テープで固定後に開腹した。留置針を門脈に挿し、灌流液Aを送流し、脱血した。灌流液Bを送流し肝組織中のコラーゲンを溶解し、腸管や胃を傷つけないよう肝臓を切り出し、灌流液C中で肝臓を揺らして肝細胞をほぐし、遊離した。未消化組織片を除去するために、セルストレイナーに通過させ、肝細胞をチューブに回収した。
【0066】
(細胞調整)
回収した肝細胞(PXB-cells)を遠心分離し、上清を取り除いた後、得られた沈殿に、培地Aを40mL加え静かに混合した。この操作を2回繰り返し、上清中に浮遊した不純物や脂質等を除去した。細胞塊を単離するために、セルストレイナーに通過させ、チューブに回収した。細胞数の計測は、トリパンブルー色素排除法で血球計算盤を使用して行い、計数した値より、細胞密度、総細胞数、及び生存率を求めた。
【0067】
(播種)
細胞懸濁液の細胞密度から、目的とする播種密度の希釈倍率を算出し、培地Aにて希釈した。希釈した細胞懸濁液500μLを培養プレートの各Wellに静かに注ぎ、細胞が底面に軽く接着するまで約20分間静置した後、インキュベーター(37℃,5%CO2)へ静かに移し、培養した。
【0068】
2.DMSO含有培地中で培養した培養上清中のリポタンパク質の解析
播種の翌日培地Aを除去して、500μLの培地B(DMSO(+))または培地C(DMSO(-))を添加し、インキュベーター(37℃,5%CO2)へ静かに移し、5日間培養した。培養終了後、顕微鏡カメラを用いて細胞像を撮影後に培養上清を回収し、下記培養上清中のリポタンパク質の解析を行った。
【0069】
3.DMSO含有培地中で5~14日間培養した培養上清中のリポタンパク質の解析
・DMSO含有培地中で5日間培養
播種の翌日培地Aを除去して、500μLの培地B(DMSO(+))を添加し、インキュベーター(37℃,5%CO2)へ静かに移し、培養した。培地B(DMSO(+))を用いた培養開始から1日目及び2日目に、培地を新しい培地B(DMSO(+))に交換した。
培地B(DMSO(+))を用いた5日間の培養終了後、下記培養上清中のリポタンパク質の解析を行った。
【0070】
・DMSO含有培地中で9日間培養
播種の翌日培地Aを除去して、500μLの培地B(DMSO(+))を添加し、インキュベーター(37℃,5%CO2)へ静かに移し、培養した。培地B(DMSO(+))を用いた培養開始から5日目、7日目、及び8日目に、培地を新しい培地B(DMSO(+))に交換した。
培地B(DMSO(+))を用いた9日間の培養終了後、下記培養上清中のリポタンパク質の解析を行った。
【0071】
・DMSO含有培地中で12日間培養
播種の翌日培地Aを除去して、500μLの培地B(DMSO(+))を添加し、インキュベーター(37℃,5%CO2)へ静かに移し、培養した。培地B(DMSO(+))を用いた培養開始から5日目、7日目、及び8日目に、培地を新しい培地B(DMSO(+))に交換した。
培地B(DMSO(+))を用いた12日間の培養終了後、下記培養上清中のリポタンパク質の解析を行った。
【0072】
・DMSO含有培地中で14日間培養
播種の翌日培地Aを除去して、500μLの培地B(DMSO(+))を添加し、インキュベーター(37℃,5%CO2)へ静かに移し、培養した。培地B(DMSO(+))を用いた培養開始から5日目、7日目、8日目、及び12日目に、培地を新しい培地B(DMSO(+))に交換した。
培地B(DMSO(+))を用いた14日間の培養終了後、下記培養上清中のリポタンパク質の解析を行った。
【0073】
4.DMSO含有培地中で5~14日間培養した細胞中のリポタンパク質の解析
・DMSO含有培地中で5日間培養
播種の翌日培地Aを除去して、500μLの培地B(DMSO(+))を添加し、インキュベーター(37℃,5%CO2)へ静かに移し、培養した。培地B(DMSO(+))を用いた培養開始から1日目及び2日目に、培地を新しい培地B(DMSO(+))に交換した。
培地B(DMSO(+))を用いた5日間の培養終了後、細胞内のコレステロール及びトリグリセリド量について、下記細胞中のリポタンパク質の解析を行った。
【0074】
・DMSO含有培地中で9日間培養
播種の翌日培地Aを除去して、500μLの培地B(DMSO(+))を添加し、インキュベーター(37℃,5%CO2)へ静かに移し、培養した。培地B(DMSO(+))を用いた培養開始から5日目、7日目、及び8日目に、培地を新しい培地B(DMSO(+))に交換した。
培地B(DMSO(+))を用いた9日間の培養終了後、細胞内のコレステロール及びトリグリセリド量について、下記細胞中のリポタンパク質の解析を行った。
【0075】
・DMSO含有培地中で12日間培養
播種の翌日培地Aを除去して、500μLの培地B(DMSO(+))を添加し、インキュベーター(37℃,5%CO2)へ静かに移し、培養した。培地B(DMSO(+))を用いた培養開始から5日目、7日目、及び8日目に、培地を新しい培地B(DMSO(+))に交換した。
培地B(DMSO(+))を用いた12日間の培養終了後、細胞内のコレステロール及びトリグリセリド量について、下記細胞中のリポタンパク質の解析を行った。
【0076】
・DMSO含有培地中で14日間培養
播種の翌日培地Aを除去して、500μLの培地B(DMSO(+))を添加し、インキュベーター(37℃,5%CO2)へ静かに移し、培養した。培地B(DMSO(+))を用いた培養開始から5日目、7日目、8日目、及び12日目に、培地を新しい培地B(DMSO(+))に交換した。
培地B(DMSO(+))を用いた14日間の培養終了後、細胞内のコレステロール及びトリグリセリド量について、下記細胞中のリポタンパク質の解析を行った。
【0077】
・既知肝細胞の培養
既知肝細胞(HepG2細胞、HuH7細胞)を500μLの培地Aに播種し、インキュベーター(37℃,5%CO2)へ静かに移し、7日間培養した。培養終了後、下記培養上清中のリポタンパク質の解析、ならびに、下記細胞中のリポタンパク質の解析を行った。
【0078】
5.解析方法
(培養上清中のリポタンパク質の解析)
PXB-cells、HepG2、及びHuH7の培養上清中に含まれるリポタンパク質の解析には、株式会社スカイライト・バイオテック社のLipoSEARCH(登録商標)法を用いた。
【0079】
上記培養終了後、培養に用いられた培地を除去して、500μLの解析用の培地Dを添加し、インキュベーター(37℃,5%CO2)へ静かに移し、2日間培養した。その後、培養上清を回収し、培養上清(80μL)に含まれるリポタンパク質を、ゲル濾過HPLCにより4種のサブグループである、CM、VLDL、LDL、及びHDLの画分に分画後、それぞれの画分に含まれるコレステロール及び中性脂肪(トリグリセリド)をオンライン酵素反応にて定量した。濃度解析にはスカイライト・バイオテック社独自のコンピュータープログラムを用いて解析を行った。なお、酵素反応については、Diacolor Liquid TG-S(東洋紡績製)を用い、CM、VLDL、LDL、及びHDL中のコレステロール及び中性脂肪(トリグリセリド)濃度の標準血清は、協和発酵キリン株式会社製を使用した。
【0080】
(細胞中のリポタンパク質の解析)
・細胞中トリグリセリド測定
細胞中のトリグリセリドの測定は、コレステスト(登録商標)TG(積水メディカル株式会社)を製造元の指示書に従って用いて行った。すなわち、細胞をPBSで洗浄後、完全に水を切り(測定までは-80℃保存)、細胞Well毎に200μLのTG酵素液(1)を添加し、37℃、10分間保温し、反応させた(フリーのグリセロールを除去)。次いで、ピペットで細胞を剥離させ、遠心チューブに移し10,000rpm×10分間遠心分離した後、上清7.5μLを96穴マイクロプレートに移し、68μLのTG酵素液(1)を添加し、37℃、10分間保温し、完全にフリーのグリセロールを除去した。次いで、25μLのTG酵素液(2)を添加し、37℃、10分間保温した。得られた反応物について、550nmにて吸光度を測定し、HDL-C180Aを標準としてトリグリセリド含量を算出(HDL-C180Aのトリグリセリド濃度は、52.26mg/dL)した。
【0081】
・細胞中コレステロール測定
細胞中のコレステロールの測定は、コレステスト(登録商標)CHO(積水メディカル株式会社)を製造元の指示書に従って用いて行った。すなわち、細胞をPBSで洗浄後、完全に水を切り(測定までは-80℃保存)、細胞Well毎に200μLのCHO酵素液(1)を添加し、37℃、10分間保温した。次いで、ピペットで細胞を剥離させ、遠心チューブに移し10,000rpm×10分間遠心分離した後、上清15μLを96穴マイクロプレートに移し、68μLのCHO酵素液(1)を添加し、37℃、10分間保温した。次いで、25μLのCHO酵素液(2)を添加し、37℃、10分間保温した。得られた反応物について、550nmにて吸光度を測定し、HDL-C180Aを標準としてコレステロール含量を算出(HDL-C180Aのトリグリセリド濃度は、152.67mg/dL)した。
【0082】
6.遺伝子発現量の解析
培地Bで3日間又は6日間培養したPXB-cellsの総RNAを、TRIzol(登録商標)+Direct zol(Thermo Fisher Scientific社)を、製造元の指示書に従って用いて抽出した。
【0083】
抽出した総RNAサンプルの品質をバイオアナライザ(アジレント・テクノロジー株式会社)で評価した後、マイクロアレイ解析(アジレント・テクノロジー株式会社)を製造元の指示書に従って実施し、脂肪肝関連遺伝子であるFASN、SREBF1、G6PC、CYP7A1、CETP、GCK、及びPCK1の発現量を解析した。
【0084】
7.灌流液、培地
灌流液A、灌流液B、灌流液C、培地A、培地B、培地C、及び培地Dは以下の組成のものを用いた。
【0085】
【表2】
【0086】
【表3】
【0087】
【表4】
【0088】
II.結果
1.DMSO含有培地中で培養した培養上清中のリポタンパク質の解析結果
図1は、培地B(DMSO(+))又は培地C(DMSO(-))で5日間培養したPXB-cellsを示す。培地B(DMSO(+))で培養したPXB-cells(図1、左)においては、培地C(DMSO(-))で培養した場合(図1、右)と比べて多くの(およそ2倍)脂肪滴(白色で示される)が観察された。
【0089】
また、図2に、培地B(DMSO(+))又は培地C(DMSO(-))で5日間の培養後に回収した培養上清中のリポタンパク質(CM、VLDL、LDL、及びHDLを含む)の総中性脂肪(トリグリセリド)含量の測定結果を示す。結果は、培地B(DMSO(+))で培養したPXB-cellsの培養上清中の当該含有量を「100」とする相対値にて示す。培地B(DMSO(+))で培養したPXB-cellsでは、培地C(DMSO(-))で培養した場合と比べて高い(およそ9倍)リポタンパク質中の総中性脂肪(トリグリセリド)の分泌が認められた。
【0090】
これらの結果より、PXB-cellsを、DMSO含有の培地中で培養することにより、脂質の蓄積及び分泌を高く維持できることが確認された。
【0091】
2.DMSO含有培地中で5~14日間培養した培養上清中のリポタンパク質の解析結果
図3に、培地B(DMSO(+))で5、9、12、及び14日間培養したPXB-cells、ならびに既知肝細胞(HepG2細胞、HuH7細胞)の各培養上清中のリポタンパク質の解析結果を示す。
【0092】
PXB-cellsにおいては、培養上清における総コレステロール及び総中性脂肪(トリグリセリド)の含量は共に、5日間培養した後に最も高い値が認められ、9日間、12日間、及び14日間の培養後においては、それらの含量は共に若干低下するものの、維持されていた。
【0093】
一方、HepG2細胞の培養上清における総コレステロール及び総中性脂肪(トリグリセリド)の含量は共に、PXB-cellsのそれらと比べて顕著に低いことが確認された。また、HuH7細胞の培養上清における総コレステロール含量は、12日間、及び14日間培養後のPXB-cellsのそれと匹敵するものであったが、総中性脂肪(トリグリセリド)の含量は、PXB-cellsのそれと比べて顕著に低いことが確認された。
【0094】
さらに、培養上清中に含まれるリポタンパク質の4種のサブグループについて解析した結果を図4に示す。培地B(DMSO(+))で培養したPXB-cellsにおいては培養期間に関わらず、コレステロール及び中性脂肪(トリグリセリド)のいずれにおいても、VLDLが最も多く存在することが確認された。以下に、培地B(DMSO(+))で5日間、9日間、12日間、及び14日間培養したPXB-cellsの培養上清中のリポタンパク質の解析結果(CM、VLDL、LDL、HDLの含有比(重量比))を示す。
【0095】
・5日間培養
(コレステロール)
CM:VLDL:LDL:HDL=3:86:8:3
(中性脂肪(トリグリセリド))
CM:VLDL:LDL:HDL=3:91:5:1
【0096】
・9日間培養
(コレステロール)
CM:VLDL:LDL:HDL=4:82:9:2
(中性脂肪(トリグリセリド))
CM:VLDL:LDL:HDL=3:90:6:1
【0097】
・12日間培養
(コレステロール)
CM:VLDL:LDL:HDL=2:80:9:3
(中性脂肪(トリグリセリド))
CM:VLDL:LDL:HDL=3:90:6:1
【0098】
・14日間培養
(コレステロール)
CM:VLDL:LDL:HDL=1:79:14:6
(中性脂肪(トリグリセリド))
CM:VLDL:LDL:HDL=2:91:6:1
【0099】
一方、HuH7細胞においては、コレステロール及び中性脂肪(トリグリセリド)のいずれについても、培養上清中にはLDLが最も多く、同条件で培養したHepG2細胞においては、コレステロール及び中性脂肪(トリグリセリド)のいずれについても、培養上清中にはHDLが最も多く存在した。
【0100】
また、PXB-cellsで観察されたVLDLのピークは、HepG2細胞及びHuH7細胞の培養上清中においては観察されず、培地B(DMSO(+))で培養したPXB-cellsにおいて特異的に分泌されていることが確認された。
【0101】
3.DMSO含有培地中で5~14日間培養した細胞中のリポタンパク質の解析結果
図5に、培地B(DMSO(+))で5、9、12、及び14日間培養したPXB-cells、ならびに既知肝細胞(HepG2細胞、HuH7細胞)の各細胞中のリポタンパク質の解析結果を示す。
【0102】
PXB-cellsにおいては、総コレステロールの含量は5日間培養した後に最も低い値が認められ、9日間、12日間、及び14日間の培養後にそれらの含量は共に若干増加した。総中性脂肪(トリグリセリド)の含量は、5日間培養した後に最も高い値が認められ、19日間、12日間、及び14日間の培養後にそれらの含量は共に若干低下するものの、維持されていた。
【0103】
一方、HepG2細胞の総コレステロール及び総中性脂肪(トリグリセリド)の含量は共に、PXB-cellsのそれらと比べて顕著に低いことが確認された。また、HuH7細胞の総中性脂肪(トリグリセリド)含量は、9日間、12日間、及び14日間の培養後のPXB-cellsに匹敵することが確認されたが、5日間培養した後のPXB-cellsのそれと比べて顕著に低いことが確認された。総コレステロールについては、全期間のPXB-cellsに匹敵することが確認された。
【0104】
これらの結果より、培地B(DMSO(+))で培養することによってPXB-cellsは少なくとも2週間近くにわたって脂質(コレステロール及び中性脂肪(トリグリセリド))の蓄積、及び分泌を維持できることが確認された。特に、6日間の培養において最も高い中性脂肪(トリグリセリド))の蓄積、及びコレステロール及び中性脂肪(トリグリセリド)の分泌が確認された。さらに分泌されたリポタンパク質は、VLDLを最も多く含むものであることが確認された。このような性質は、従来既知の肝細胞(HuH7細胞、HepG2細胞)においては認められず、培地B(DMSO(+))で培養されたPXB-cellsが従来既知の肝細胞とは異なる特性を有することが確認された。
【0105】
4.脂肪肝関連遺伝子の発現量
図6に、培地B(DMSO(+))で3日間、及び6日間培養したPXB-cellsにおける脂肪肝関連遺伝子(FASN、SREBF1、G6PC)の発現量を解析した結果を示す。結果は、培養3日目の各遺伝子の発現量を「1」とする相対値にて示す。いずれの遺伝子についても、培養3日目より培養6日間において発現量の上昇が認められた。また、図6には示さないが、CYP7A1、CETP、GCK、及びPCK1についても同様に、培養3日目より培養6日間において発現量の上昇が認められた。
【0106】
以上の結果より、培地B(DMSO(+))で培養されたPXB-cellsは、脂質の蓄積、分泌を維持することができ、また、脂肪肝関連遺伝子の発現も伴うことから、ヒト脂肪肝モデル細胞として利用し得ることが確認された。
【0107】
III.ヒト脂肪肝の予防、治療又は改善に有効な物質のスクリーニング
1.試験方法
・細胞の調製
PXB-cellsを、培地Aにて希釈した。希釈した細胞懸濁液500μLを培養プレートの各Wellに静かに注ぎ、細胞が底面に軽く接着するまで約20分間静置した後、インキュベーター(37℃,5%CO2)へ静かに移し、培養した。播種の翌日培地Aを除去して、500μLの培地B(DMSO(+))を添加し、インキュベーター(37℃,5%CO2)へ静かに移し、5日間培養した。また、高脂血症治療薬投与の細胞は、12日間培養した。培養終了後、下記スクリーニング試験に用いた。
【0108】
・スクリーニング試験
被験物質として、脂質代謝改善剤として知られる(特許第5344494号公報)ジュンサイエキス(オリザ油化株式会社)を用いた。また、高脂血症治療薬であるシンバスタチン(富士フィルム和光純薬)、フェノフィブラート(sigma-aldrich)及びロミタピド(東京化成)も被験物質として用いた。
各被験物質をエタノールに懸濁し、所定の量となるようにPXB-cells培養物に添加し、インキュベーター(37℃,5%CO2)へ静かに移し、2日間培養した。培養終了後、上記「培養上清中のリポタンパク質の解析」及び「細胞中のリポタンパク質の解析」に記載の手法にて、培養上清中及び細胞中の総コレステロール及び総中性脂肪(トリグリセリド)をそれぞれ測定した。
対照には、被験物質の懸濁に用いたのと同量のエタノールのみを添加した。
・アルブミン測定
培養終了後の培養上清200μLを採取し、免疫比濁法により自動分析装置JCA-BM6050(日本電子)を用いて、培養上清中のヒトアルブミン含量を測定した。
【0109】
2.結果
図7に、ジュンサイエキスを5μg/mL、50μg/mL、又は500μg/mLの量でそれぞれ添加して、2日間培養したPXB-cellsの各培養上清中及び細胞中のリポタンパク質含量、ならびに各培養上清中のヒトアルブミン含量の解析結果を示す。
【0110】
ジュンサイエキスを添加した場合、いずれの添加量においても、培養上清中及び細胞中の総コレステロール含量に大きな減少は認められなかった。一方、総中性脂肪(トリグリセリド)含量は、培養上清中については大きな減少は認められなかったが、細胞中は、ジュンサイエキスの添加量依存的に減少した。
また、培養上清中のヒトアルブミン含量は、いずれの添加量においても大きな減少は認められず、毒性は確認されなかった。
【0111】
図8に、シンバスタチンを0.1μM、1μM、又は10μMの量でそれぞれ添加して、2日間培養したPXB-cellsの各培養上清中及び細胞中のリポタンパク質含量、ならびに各培養上清中のヒトアルブミン含量の解析結果を示す。
【0112】
シンバスタチンを添加した場合、いずれの添加量においても、培養上清中及び細胞中の総中性脂肪(トリグリセリド)含量に大きな減少は認められなかった。一方、総コレステロール含量は、細胞中については大きな減少は認められなかったが、培養上清中は、シンバスタチンの添加量依存的に減少した。
また、培養上清中のヒトアルブミン含量は、いずれの添加量においても大きな減少は認められず、毒性は確認されなかった。
【0113】
図9に、フェノフィブラートを5μM、50μM、又は500μMの量でそれぞれ添加して、2日間培養したPXB-cellsの各培養上清中及び細胞中のリポタンパク質含量、ならびに各培養上清中のヒトアルブミン含量の解析結果を示す。
【0114】
フェノフィブラートを添加した場合、いずれの添加量においても、細胞中の総コレステロール含量及び総中性脂肪(トリグリセリド)含量に大きな減少は認められなかった。一方、培養上清中の総コレステロール含量及び総中性脂肪(トリグリセリド)含量は、フェノフィブラートの添加量依存的に減少した。
また、培養上清中のヒトアルブミン含量は、フェノフィブラートの添加量依存的に減少が認められ、高用量のフェノフィブラートにより毒性が示されることが示唆された。
【0115】
図10に、ロミタピドを1μM、10μM、又は100μMの量でそれぞれ添加して、2日間培養したPXB-cellsの各培養上清中及び細胞中のリポタンパク質含量、ならびに各培養上清中のヒトアルブミン含量の解析結果を示す。
【0116】
ロミタピドを添加した場合、いずれの添加量においても、細胞中の総コレステロール含量及び総中性脂肪(トリグリセリド)含量に大きな減少は認められなかった。一方、培養上清中の総コレステロール含量及び総中性脂肪(トリグリセリド)含量は、ロミタピドの添加により大きく減少した。
また、培養上清中のヒトアルブミン含量は、ロミタピドの添加量依存的に減少が認められ、高用量のロミタピドにより毒性が示されることが示唆された。
【0117】
これらの結果より、PXB-cellsによれば、培養上清中及び/又は細胞中の総コレステロール含量及び総中性脂肪含量の減少を指標にして、脂質代謝改善剤や高脂血症治療薬等をはじめとする、ヒト脂肪肝の予防、治療又は改善に有効な物質のスクリーニングできることが確認された。また、PXB-cellsによれば、培養上清中のヒトアルブミン含量の減少を指標にして、ヒト脂肪肝に対する毒性を示し得る物質を評価・確認できることが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10