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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-11
(45)【発行日】2022-03-22
(54)【発明の名称】眼内手術用器具ホルダ
(51)【国際特許分類】
   A61F 9/007 20060101AFI20220314BHJP
   A61B 90/50 20160101ALI20220314BHJP
【FI】
A61F9/007 200B
A61B90/50
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020517053
(86)(22)【出願日】2019-04-24
(86)【国際出願番号】 JP2019017322
(87)【国際公開番号】W WO2019212018
(87)【国際公開日】2019-11-07
【審査請求日】2022-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2018088603
(32)【優先日】2018-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、未来医療を実現する医療機器・システム研究開発事業、術者の技能に依存しない高度かつ精密な手術システムの開発、眼科硝子体手術普及のための眼内内視鏡保持ロボット開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515075692
【氏名又は名称】リバーフィールド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】只野 耕太郎
(72)【発明者】
【氏名】木村 晋太朗
(72)【発明者】
【氏名】山内 凱偉
(72)【発明者】
【氏名】園田 康平
(72)【発明者】
【氏名】中尾 新太郎
【審査官】土谷 秀人
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-307122(JP,A)
【文献】特開2009-136538(JP,A)
【文献】国際公開第2018/052796(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/050207(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/051665(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0157497(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/007
A61B 90/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多自由度に移動可能に構成された駆動機構である並進駆動部と、
前記並進駆動部に連結され、多自由度に移動可能に構成された受動機構であるアーム部と、
前記アーム部の一端に連結され、眼内手術用器具を保持し、眼球において前記眼内手術用器具を挿入するために形成された穴の開口部分を不動点として回転2自由度に移動可能に構成された受動ジンバル機構である手術用器具保持部と、を備え、
前記アーム部には、前記アーム部の移動を抑制するためのブレーキ機構が設けられていることを特徴とする眼内手術用器具ホルダ。
【請求項2】
前記並進駆動部を駆動させているときには前記ブレーキ機構を連動して作動させることを特徴とする請求項1に記載の眼内手術用器具ホルダ。
【請求項3】
前記多自由度とは、少なくとも3自由度であることを意味する、請求項1または2に記載の眼内手術用器具ホルダ。
【請求項4】
前記アーム部には、前記アーム部、前記手術用器具保持部及び前記眼内手術用器具の自重を支えるための自重補償機構が設けられ、
前記自重補償機構の力は、前記ブレーキ機構が作動していない状態では、前記アーム部に対し、前記アーム部の先端を鉛直上向きに持ち上げるように作用することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の眼内手術用器具ホルダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は眼内手術用器具ホルダに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、腹腔鏡手術などの外科手術において内視鏡手術が広く用いられている。このような手術において、術者が、片手で内視鏡を持ちながら逆の手で手術用器具を操作して処置を施すのは困難である。また、内視鏡の保持を助手が行った場合にも、内視鏡の操作が術者の意図通りにならないことや、手ぶれがひどいことなど、術者に少なからぬストレスを与える。このため、術者の第三の手として内視鏡を保持する内視鏡ホルダが開発されている。非特許文献1には、リンク機構と、リンク機構を駆動させる駆動部と、術者が操作を行う操作部としてのハンドコントローラ及びフットコントローラと、を備え、内視鏡を自動で移動させるか手動で移動させるかをボタンで切り替える内視鏡ホルダが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】J.M.Sackier、他1名、「Robotically assisted laparoscopic surgery」、Surgical Endoscopy January、米国、1994、Volume8、Issue1、pp63-66
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
昨今、網膜硝子体手術などの眼科手術において、術者の第三の手として内視鏡などの手術用器具を保持する手術用器具ホルダ(眼内手術用器具ホルダ)の開発が進められている。眼内手術用器具ホルダでは、安全性により配慮する必要がある。すなわち、誤動作により手術用器具で眼球を傷つけてしまうリスクを極力低減する必要がある。
【0005】
上述したように、非特許文献1に開示された内視鏡ホルダでは、内視鏡を自動または手動で移動させることができる。一般的に、内視鏡の位置合わせ時や視野を大きく変更する必要がある時には内視鏡を手動で移動させ(粗動モード)、施術中に内視鏡の視野を微小に移動させる時には内視鏡を自動で移動させる(微動モード)。しかしながら、非特許文献1に開示された内視鏡ホルダは、同一のリンク機構を、手動で移動させるか、自動で移動させるか、を切替えする構造であるため、粗動モードと微動モードで、物理的な可動範囲が同じになる。このため、非特許文献1に開示された内視鏡ホルダを眼内手術用器具ホルダとして用いると、微動モードで操作中に万一誤動作が発生した場合、手術用器具が大きく移動して眼球を傷つけてしまう可能性があり、改善の余地があった。
【0006】
本出願は、以上の背景に鑑みなされたものであり、誤動作により手術用器具で眼球を傷つけてしまうリスクを極力低減することができる眼内手術用器具ホルダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施の形態に係る眼内手術用器具ホルダは、多自由度に移動可能に構成された駆動機構である並進駆動部と、前記並進駆動部に連結され、多自由度に移動可能に構成された受動機構であるアーム部と、前記アーム部の一端に連結され、眼内手術用器具を保持し、前記眼球において前記眼内手術用器具を挿入するために形成された穴の開口部分を不動点として回転2自由度に移動可能に構成された受動ジンバル機構である手術用器具保持部と、を備え、前記アーム部には、前記アーム部の移動を抑制するためのブレーキ機構が設けられていることを特徴としている。
【0008】
本発明の一実施の形態に係る眼内手術用器具ホルダによれば、微動のための移動機構として、多自由度の駆動機構である並進駆動部を用い、粗動のための移動機構として、多自由度の受動機構であるアーム部を用いることができる。このように、微動のための移動機構と粗動のための移動機構を別々の機構として切り分けたことで、微動と粗動とで、物理的な可動範囲を別個に設定することができる。並進駆動部の可動範囲をアーム部の可動範囲に対して短く設定することで、並進駆動部により眼内手術用器具を自動で微動させている際に、並進駆動部が誤動作しても、眼内手術用器具が大きく移動して眼球を傷つけてしまうことがない。また、アーム部にはブレーキ機構があるので、並進駆動部で内視鏡を微動させる際など、アーム部を移動させたくないときにはアーム部の移動を制限することができる。
【0009】
また、前記並進駆動部を駆動させているときには前記ブレーキ機構を連動して作動させることを特徴とするのが好ましい。並進駆動部を駆動させているときには連動してブレーキ機構が作動するように構成することで、微動においてアーム部の移動をより確実に抑制することができる。
【0010】
多自由度の受動機構であるアーム部における「多自由度」とは、少なくとも3自由度であることを意味する。このように、アーム部を少なくとも3自由度の受動機構として構成することで、粗動において眼内手術用器具の移動をスムーズに行うことができる。
【0011】
前記アーム部には、前記アーム部、前記手術用器具保持部及び前記眼内手術用器具の自重を支えるための自重補償機構が設けられ、前記自重補償機構の力は、前記ブレーキ機構が作動していない状態では、前記アーム部に対し、前記アーム部の先端を鉛直上向きに持ち上げるように作用することを特徴とするものである。術者が手でアーム部を支えていない状態でブレーキ機構の作動を解除すれば、自重補償機構の力の作用によりアーム部の先端が鉛直上向きに持ち上がる。これにより、眼球の内部に眼内手術用器具が挿入された状態で患者が頭を起こすなどの緊急時において、眼内手術用器具を眼球の内部から迅速に抜去することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、誤動作により眼内手術用器具で眼球を傷つけてしまうリスクを極力低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施の形態にかかる眼内手術用器具ホルダの構成について示す模式図である。
図2】本実施の形態にかかる眼内手術用器具ホルダの制御機構を示すブロック図である。
図3】微動モードにおける内視鏡の視野の上下左右への移動について説明する模式図である。
図4】微動モードにおける内視鏡の視野の拡大縮小(ズームイン・ズームアウト)について説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、特許請求の範囲に係る発明を以下の実施形態に限定するものではない。また、実施形態で説明する構成の全てが課題を解決するための手段として必須であるとは限らない。説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略、及び簡略化がなされている。各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。
【0015】
図1は、本実施の形態にかかる眼内手術用器具ホルダの構成について示す模式図である。図1に示すように、眼内手術用器具ホルダ1は、並進駆動部2と、アーム部3と、手術用器具保持部4と、を備えている。
【0016】
並進駆動部2は、多自由度に移動可能に構成された駆動機構である。すなわち、並進駆動部2は、施術中に眼内手術用器具としての内視鏡10の視野の移動を駆動源により能動的(アクティブ)に行うための機構である。並進駆動部2として、並進3自由度のxyzステージを用いることができる。xyzステージは、例えば、x軸、y軸、z軸の各方向に沿ってそれぞれ配置された3つの自動直動ステージ(xステージ21、yステージ22、zステージ23)を組み合わせて構成されている。xステージ21、yステージ22、zステージ23は、それぞれ、ガイドレールと、ガイドレールに沿って移動する移動部と、を有する。xステージ21、yステージ22、zステージ23における移動部は、例えば、高精度なステッピングモータやサーボモータ等のモータにより駆動される。なお、モータの回転運動は、例えば、ボールネジによって直線運動(直動)に変換される。並進駆動部2の可動範囲は、例えば、内視鏡10で眼球90の内部を観察するのに必要十分な程度とする。
【0017】
並進駆動部2には、x軸方向、y軸方向、z軸方向の変位量(距離変位)をそれぞれ検出するための変位センサ51、52、53が取り付けられている。変位センサ51、52、53として、例えばインクリメンタル形の光学エンコーダを用いることができる。
【0018】
並進駆動部2は、眼内手術用器具ホルダ1を手術台11の側縁に固定するための固定機構24を有している。すなわち、並進駆動部2におけるxステージ21のガイドレールに固定機構24が設置されている。なお、固定機構24は、眼内手術用器具ホルダ1を手術台11に安定して固定することができるものであればどのようなものであってもよい。
【0019】
並進駆動部2における、手術台11に固定された端部とは反対側の端部には、アーム部3が連結されている。アーム部3は、多自由度に移動可能に構成された受動機構である。すなわち、アーム部3は、内視鏡10の位置合わせ(セッティング)時や施術中に内視鏡10の視野を大きく変更する必要がある時に内視鏡10の位置の移動を術者の手の力によって受動的(パッシブ)に行うための機構である。なお、本実施の形態では、アーム部3は、極座標系において回転2自由度及び並進1自由度に移動可能に構成された受動機構としている。アーム部3は、2つの回転関節31、32と1つの直動関節33とを有する。回転関節31は、アーム部3をピッチ方向(矢印R1)に回動させる。回転関節32は、ヨー方向(矢印R2)に回動させる。直動関節33は、矢印S1の方向への並進によりアーム部3を延び縮みさせて長さを変えることが可能なように構成されている。アーム部3における各関節は、受動的に移動させることができるよう受動関節(駆動されない関節)となっている。アーム部3の可動範囲は並進駆動部2の可動範囲よりも広く設定されている。
【0020】
アーム部3には、回転関節31、32の変位量(角変位)をそれぞれ検出するための変位センサ54、55と、直動関節33の変位量(距離変位)を検出するための変位センサ56が取り付けられている。変位センサ54、55として、例えばアブソリュート形の光学エンコーダを用いることができる。また、変位センサ56として、例えばインクリメンタル形の光学エンコーダを用いることができる。
【0021】
アーム部3における回転関節31、32及び直動関節33には、それぞれ、関節の動きを抑制するブレーキ機構61、62、63が設けられている。回転関節31、32のブレーキ機構61、62として、電磁力でブレーキ作用を生じさせる電磁式ブレーキを用いることができる。直動関節33のブレーキ機構63として、空気圧でブレーキ作用を生じさせる空気圧式ブレーキを用いることができる。例えば、施術中に眼内手術用器具としての内視鏡10の位置の移動を並進駆動部2で行うときには、ブレーキ機構61,62、63によりアーム部3の各関節(回転関節31、32及び直動関節33)にブレーキを作動させ、アーム部3の受動的な移動を抑制する。
【0022】
アーム部3には、自重補償機構60が設けられている。自重補償機構60は、アーム部3、手術用器具保持部4及び眼内手術用器具としての内視鏡10の自重をバネの弾性力で支えるための機構である。自重補償機構60におけるバネの弾性力は、アーム部3、手術用器具保持部4及び眼内手術用器具としての内視鏡10の自重とつり合うように設定してもよいが、当該自重以上に設定してもよい。自重補償機構60におけるバネの弾性力を当該自重以上に設定した場合、自重補償機構60の力は、ブレーキ機構が作動していない状態では、アーム部3に対し、アーム部3の先端を鉛直上向きに持ち上げるように作用する。なお、自重補償機構60におけるバネの弾性力を当該自重以上に設定した場合、バネの弾性力は、術者が手で軽くアーム部3を支えることで、アーム部3が持ち上がらないようにすることができる程度とする。
【0023】
このように自重補償機構60におけるバネの弾性力を当該自重以上に設定した場合、緊急時の安全装置として機能させることができる。この場合、アーム部3の各関節(回転関節31、32及び直動関節33)にブレーキが作動していない状態では、バネの弾性力によってアーム部3の先端が上向きに引っ張られ、回転関節31がピッチ方向に回転してアーム部3の先端が持ち上がる。すなわち、術者が手でアーム部を支えていない状態でブレーキ機構の作動を解除すれば、自重補償機構の力の作用によりアーム部の先端が鉛直上向きに持ち上がる。これにより、眼球の内部に内視鏡が挿入された状態で患者が頭を起こすなどの緊急時において、内視鏡を眼球の内部から迅速に抜去することができるので、眼球90を傷つけずに済む。
【0024】
アーム部3の一端(先端付近の部分)には手術用器具保持部4が連結されている。手術用器具保持部4は、眼内手術用器具としての内視鏡10を保持するためのものである。また、手術用器具保持部4は、眼球90において眼内手術用器具としての内視鏡10を挿入するために形成された穴の開口部分91を不動点(ピボット点)として回転2自由度に移動可能に構成された受動ジンバル機構である。すなわち、手術用器具保持部4は、並進駆動部2またはアーム部3より並進運動を受けたときに、眼球90の内部に挿入された眼内手術用器具としての内視鏡10を、不動点を中心とする自転運動に変換させるためのもので、回転関節41、42を有する。
【0025】
回転関節41は、手術用器具保持部4をピッチ方向(矢印R3)に回動させる。回転関節42は、手術用器具保持部4をヨー方向(矢印R4)に回動させる。手術用器具保持部4における各関節(回転関節41、42)は、並進駆動部2またはアーム部3の移動に従動して動くことができるよう受動関節となっている。回転関節41、42を受動関節にしたことにより、眼球90に挿入された眼内手術用器具としての内視鏡10の姿勢が眼球90の動きに追随して柔軟に変わる。これにより、患者の眼球90にかかる負担を軽減することができる。
【0026】
手術用器具保持部4には、回転関節41、42の変位量(角変位)をそれぞれ検出するための変位センサ57、58が取り付けられている。変位センサ57、58として、例えばアブソリュート形の光学エンコーダを用いることができる。
【0027】
なお、本実施の形態にかかる眼内手術用器具ホルダ1が保持する眼内手術用器具としての内視鏡10は、眼球90の内部の観察に使用される一般的なものである。例えば、内視鏡10は、眼内に挿入される先端部に撮像部を有する柔軟な挿入部と、光学系の制御を行う操作部と、操作部に接続され光源等を操作部に接続する接続部と、を含んで構成されている。撮像部は、対物レンズ等からなる光学部と、固体撮像素子と、撮像部により得られる画像を拡大または縮小すべく光学部のレンズを制御するアクチュエータを含むズーム機構部とを含んで構成される。挿入部の先端部における対物レンズに隣接してライトガイドが設けられている。ライトガイドは、上述の光源から導かれた光により体内を照らすものとされる。
【0028】
次に、眼内手術用器具ホルダ1の制御機構について説明する。なお、以下の説明において図1についても適宜参照する。
図2は、眼内手術用器具ホルダ1の制御機構を示すブロック図である。図2に示すように、制御用PC(Personal Computer)70は、制御ボックス71を介して眼内手術用器具ホルダ1と接続されている。制御ボックス71は、制御用PC70とLANケーブルにより接続されている。制御用PC70には、術者が、眼内手術用器具としての内視鏡10の視野の移動について操作するためのコントローラ77が接続されている。コントローラ77として、例えば、レバーによる方向入力が行えるジョイスティックを用いることができる。
【0029】
制御ボックス71には、並進駆動部2の駆動に必要な、DC電源73、モータドライバ74、リレー75、I/O(Input/Output)制御ボード76などが格納されている。モータドライバ74は、並進駆動部2におけるxステージ21、yステージ22、zステージ23の各モータと接続されている。
【0030】
リレー75は、アーム部3における各関節(回転関節31、32及び直動関節33)の動きを抑制するブレーキ機構61、62、63と接続されている。また、リレー75には、術者がブレーキを作動させるか解除するかの切替え操作をするためのフットスイッチ78が接続されている。フットスイッチ78は、足踏み式のスイッチで、術者の足下に設置される。術者が、足でフットスイッチ78を踏むとブレーキ機構61、62、63の作動が解除され、フットスイッチ78上から足を離すとブレーキ機構61、62、63が作動する。さらに、リレー75には、頭部スイッチ79が接続されている。頭部スイッチ79は、手術中に患者が頭を載せている枕に設置されており、患者が頭を起こすとブレーキ機構61、62、63の作動が解除される仕組みになっている。I/O制御ボード76は、並進駆動部2の変位センサ51、52、53、アーム部3の変位センサ54、55、56、手術用器具保持部4の変位センサ57、58と接続されている。
【0031】
次に、本実施の形態にかかる眼内手術用器具ホルダ1における動作モードの切替えについて説明する。なお、以下の説明において、眼内手術用器具ホルダ1の構成については図1を、眼内手術用器具ホルダ1の制御機構については図2を適宜参照する。
【0032】
本実施の形態にかかる眼内手術用器具ホルダ1は、粗動モードと微動モードの2つの動作モードを備えている。内視鏡の位置合わせ時や視野を大きく変更する必要がある時には、内視鏡を手動で移動させる粗動モードを選択する。一方、施術中に内視鏡の視野を微小に移動させる時には、内視鏡を自動で移動させる微動モードを選択する。粗動モードと微動モードの切替えは、術者がフットスイッチ78を操作することにより行う。
【0033】
術者がフットスイッチ78を踏んでいないときは、ブレーキ機構61、62、63が作動した状態になっている(微動モードの状態)。この状態では、アーム部3における各関節(回転関節31、32及び直動関節33)の動きは抑制されるので、術者が眼内手術用器具としての内視鏡10の位置を手動で移動させることはできない。このため、眼内手術用器具としての内視鏡10の位置の移動は並進駆動部2の駆動により行われる。並進駆動部2を駆動させているときにはブレーキ機構61、62、63を連動して作動させるようにしてもよい。このようにすると、微動においてアーム部3の移動をより確実に抑制することができる。
【0034】
なお、ブレーキ機構61、62、63の作動は、アーム部3の各関節(回転関節31、32及び直動関節33)を完全にロックする場合に限られない。自動車におけるいわゆる「半クラッチ」のように、アーム部3の移動が抑制される程度を調節できるようにブレーキ機構61、62、63を構成してもよい。このように構成すると、例えば、粗動モードにおいて、術者が手動でアーム部3を移動させているときに、術者の手に適度な抵抗が及ぼされるようにブレーキ機構61、62、63を作動させることが可能になり、眼内手術用器具としての内視鏡10の位置合わせがやりやすくなる。
【0035】
上述したように、並進駆動部2の可動範囲は、例えば、内視鏡10で眼球90の内部を観察するのに必要十分な程度となっている。並進駆動部2の可動範囲をこのように設定することで、微動モードで操作中に万一誤動作が発生した場合にも、眼内手術用器具としての内視鏡10が大きく移動して眼球90を傷つけてしまうことがない。
【0036】
一方、術者がフットスイッチ78を踏んでいるときは、ブレーキ機構61、62、63の全てにおいてブレーキの作動が解除された状態になる(粗動モードの状態)。この状態では、アーム部3における各関節(回転関節31、32及び直動関節33)の動きは抑制されていないので、術者が眼内手術用器具としての内視鏡10の位置を手動で移動させることができる。
【0037】
眼内手術用器具としての内視鏡10の位置合わせでは、内視鏡10の先端部分を患者の眼球90にあけた穴に挿入するので、内視鏡10の位置合わせにおける移動では、施術中における内視鏡10の視野の移動の場合と比べて内視鏡10の位置を大きく移動させる必要がある。このため、上述したように、アーム部3の可動範囲は並進駆動部2の可動範囲よりも広く設定されている。
【0038】
アーム部3の可動範囲は、眼球90にあけた穴に対して眼内手術用器具としての内視鏡10を挿入でき、施術中に顕微鏡を使用する際、内視鏡10を退避させることができる程度とする。例えば、アーム部3における直動関節33の可動範囲を約150mm程度にする。例えば、眼内手術用器具ホルダ1を手術台11の側縁に固定している固定機構24から患者の眼球90までの距離が約250mm程度であるとすると、アーム部3の長さは最短で約300mm程度、最長時に450mm程度になるようにする。
【0039】
ここで、微動モードにおける、眼内手術用器具としての内視鏡10の視野を移動させるための眼内手術用器具ホルダ1の制御の流れを説明する。なお、以下の説明において、眼内手術用器具ホルダ1の構成については図1を、眼内手術用器具ホルダ1の制御機構については図2を適宜参照する。
まず、術者がコントローラ77を介して制御用PC70に対して操作指令を与える。続いて、操作指令を受けた制御用PC70が、I/O制御ボード76に入力された各変位センサからの情報(各関節の変位量)を読み取る。
【0040】
制御用PC70では、制御プログラムを走らせて、各変位センサにより検出された各関節の変位量に基づいて現在の内視鏡10の位置を算出する。なお、現在の内視鏡10の位置は順運動学により算出する。そして、算出した現在の内視鏡10の位置と操作指令に基づいて移動後の内視鏡10の位置を算出し、xステージ21、yステージ22、zステージ23の各モータの動作量を算出する。
【0041】
制御用PC70は、算出したxステージ21、yステージ22、zステージ23の各モータの動作量をI/O制御ボード76に送信する。そして、I/O制御ボード76が、xステージ21、yステージ22、zステージ23の各モータを算出した動作量だけ動作させる。
【0042】
以降、術者がコントローラ77を介して制御用PC70に対して操作指令を与え、I/O制御ボード76が、xステージ21、yステージ22、zステージ23を当該操作指令に対応する動作量だけ動作させる、という一連の流れを繰り返す。なお、制御周期は例えば1kHzである。
【0043】
次に、微動モードにおける眼内手術用器具としての内視鏡10の視野の移動について説明する。
図3は、微動モードにおける内視鏡10の視野の上下左右への移動について説明する模式図である。図3の上段に示すように、内視鏡10により眼球90の内部における領域V1を観察していたとする。上述したように、手術用器具保持部4における回転関節41は、受動関節なので、並進駆動部2の駆動により間接的に移動させることができる。手術用器具保持部4における回転関節41の位置を矢印D2の方向に移動させると、内視鏡10が開口部分91を中心として回転し、内視鏡10の先端が矢印D1の方向に移動する。これにより、図3の下段に示すように、内視鏡10の観察領域が領域V2に変更される。このように、並進駆動部2の駆動により、内視鏡10を、開口部分91を中心として旋回運動させることで、内視鏡10の視野を上下左右に移動させることができる。
【0044】
図4は、微動モードにおける内視鏡10の視野の拡大縮小(ズームイン・ズームアウト)について説明する模式図である。図4の上段に示すように、内視鏡10の先端から眼球90の内部における領域V1までの距離がL1であるとする。この状態から、手術用器具保持部4における回転関節41の位置を矢印D3の方向に移動させると、図4の下段に示すように、内視鏡10の先端から眼球90の内部における領域V1までの距離がL2に近づく(L2<L1)。これにより、内視鏡10の視野を拡大することができる。この状態から、手術用器具保持部4における回転関節41の位置を矢印D4の方向に移動させると、内視鏡10の視野を縮小することができる。
【0045】
以上より、眼内手術用器具ホルダ1では、施術中に眼内手術用器具としての内視鏡10の視野の移動(微動)を並進駆動部2が担い、内視鏡の位置合わせ時や視野を大きく変更する必要がある時の内視鏡10の移動(粗動)をアーム部3が担うように切り分けした。このように、微動のための移動機構(ここでは並進駆動部2)と粗動のための移動機構(ここではアーム部3)を切り分けすることで、微動と粗動とで、物理的な可動範囲を別個に設定することができる。並進駆動部2の可動範囲をアーム部3の可動範囲に対して短く設定することで、並進駆動部2により内視鏡10を自動で微動させている際に、並進駆動部2が誤動作しても、眼内手術用器具としての内視鏡10が大きく移動して眼球90を傷つけてしまうリスクを極力低減することができる。また、粗動では大きな距離を迅速に移動させることができる。さらに、アーム部3にはブレーキ機構61、62、63があるので、並進駆動部2で眼内手術用器具としての内視鏡10を微動させる際など、アーム部3を移動させたくないときにはアーム部3の移動を制限することができる。
【0046】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。上記実施の形態では、眼内手術用器具が内視鏡である場合について説明したが、これに限るものではない。例えば、眼内手術用器具が、鉗子、ライト、吸引器等であってもよい。
【0047】
また、本発明において、並進駆動部は多自由度に移動可能に構成された駆動機構、アーム部は多自由度に移動可能に構成された受動機構である。上記実施の形態では、並進駆動部が、並進3自由度に移動可能に構成された駆動機構、アーム部が、極座標系において回転2自由度及び並進1自由度に移動可能な構成、であるとして説明したが、これに限るものではない。ここでいう多自由度とは、少なくとも3自由度であることを意味し、例えば、回転3自由度、並進3自由度などであってもよい。
【0048】
この出願は、2018年5月2日に出願された日本出願特願2018-088603を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0049】
1 眼内手術用器具ホルダ
2 並進駆動部
3 アーム部
4 手術用器具保持部
10 内視鏡
11 手術台
21 xステージ
22 yステージ
23 zステージ
24 固定機構
31、32、41、42 回転関節
33 直動関節
43 保持部
51、52、53,54、56、57、58 変位センサ
60 自重補償機構
61、62、63 ブレーキ機構
70 制御用PC
71 制御ボックス
73 DC電源
74 モータドライバ
75 リレー
76 I/O制御ボード
77 コントローラ
78 フットスイッチ
79 頭部スイッチ
図1
図2
図3
図4