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特許7039081抗アレルゲン剤及び抗アレルゲン性能付与方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-11
(45)【発行日】2022-03-22
(54)【発明の名称】抗アレルゲン剤及び抗アレルゲン性能付与方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20220314BHJP
【FI】
C09K3/00 S
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021117474
(22)【出願日】2021-07-15
【審査請求日】2021-07-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503330990
【氏名又は名称】株式会社YOOコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】若間 麻美
(72)【発明者】
【氏名】横田 雅美
(72)【発明者】
【氏名】若間 洋輔
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-235701(JP,A)
【文献】特開2012-233203(JP,A)
【文献】国際公開第2009/044648(WO,A1)
【文献】特開2020-164604(JP,A)
【文献】特開2019-099677(JP,A)
【文献】特開2017-075420(JP,A)
【文献】特許第3829640(JP,B2)
【文献】特許第4430877(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸チタニウム系化合物を含む、抗アレルゲン剤であって、
イ酸化合物(但し、ケイ酸マグネシウムを除く)をさらに含む、抗アレルゲン剤。
【請求項2】
リン酸チタニウム系化合物を含む、抗アレルゲン剤であって、
前記抗アレルゲン剤は、銀化合物及び銅化合物のうち少なくとも一方をさらに含み、
前記銀化合物は、硝酸銀、酸化銀、硫化銀、臭化銀、及びヨウ化銀からなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記銅化合物は、硝酸銅、酸化銅、硫化銅、硫酸銅、及び塩化銅からなる群より選択される少なくとも1種である、抗アレルゲン剤。
【請求項3】
ケイ酸化合物をさらに含む、請求項2に記載の抗アレルゲン剤。
【請求項4】
銀化合物及び銅化合物のうち少なくとも一方をさらに含む、請求項1に記載の抗アレルゲン剤。
【請求項5】
前記リン酸チタニウム系化合物は、下記一般式で表される化合物及び/又はその縮合物である、請求項1~4のいずれか1項に記載の抗アレルゲン剤。
Ti(OH)x(PO4y(HPO4z(H2PO4l(OR)m
(Rは炭素数1~4のアルキル基を示し、xは0~3の整数であり、yは0~4の整数であり、zは0~4の整数であり、lは0~4の整数であり、mは0~3の整数であり、x+3y+2z+l+m=4であり、y+z+1≧1である。)
【請求項6】
スギ花粉由来のアレルゲン、ヒノキ花粉由来のアレルゲン及びダニ由来のアレルゲンからなる群より選択される少なくとも1種のアレルゲンに対する抗アレルゲン剤である、請求項1~5のいずれか1項に記載の抗アレルゲン剤。
【請求項7】
対象物に抗アレルゲン性能を付与する方法であって、
請求項1~6のいずれか1項に記載の抗アレルゲン剤を、前記対象物の表面に付着させる、抗アレルゲン性能付与方法。
【請求項8】
前記抗アレルゲン剤を前記対象物に噴霧することで、前記対象物の表面に前記抗アレルゲン剤を付着させる、請求項7に記載の抗アレルゲン性能付与方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗アレルゲン剤及び抗アレルゲン性能付与方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スギ花粉やヒノキ花粉などの植物性蛋白、ダニ虫体やその排泄物などの動物性蛋白などのアレルゲンを継続的に吸入、接触、摂取することにより感作状態となる、アレルギー性疾患が問題となっている。
【0003】
アレルギー性疾患の発症防止や症状低減のためには、アレルギー性疾患の原因となるアレルゲンを室内空間から除去又は不活化することが重要である。
【0004】
例えば、特許文献1には、タンニン酸を有効成分とする抗アレルゲン剤組成物を、繊維製品等の対象物に付着させることにより、アレルゲンを不活性化させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6533853号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、アレルゲンを不活性化し得る新規な抗アレルゲン剤を提供することを主な目的とする。さらに、本発明は、当該抗アレルゲン剤を利用した抗アレルゲン性能付与方法を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者らは、前記課題を解決すべく、鋭意検討を行った。その結果、リン酸チタニウム系化合物を有効成分として利用することにより、植物性蛋白、動物性蛋白などのアレルゲンを好適に低減できることを見出した。
【0008】
本発明は、このような知見に基づき、さらに検討を重ねることにより完成したものである。即ち、本開示は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. リン酸チタニウム系化合物を含む、抗アレルゲン剤。
項2. ケイ酸化合物をさらに含む、項1に記載の抗アレルゲン剤。
項3. 銀化合物及び銅化合物のうち少なくとも一方をさらに含む、項1または2に記載の抗アレルゲン剤。
項4. 前記リン酸チタニウム系化合物は、下記一般式で表される化合物及び/又はその縮合物である、項1~3のいずれか1項に記載の抗アレルゲン剤。
Ti(OH)x(PO4y(HPO4z(H2PO4l(OR)m
(Rは炭素数1~4のアルキル基を示し、xは0~3の整数であり、yは0~4の整数であり、zは0~4の整数であり、lは0~4の整数であり、mは0~3の整数であり、x+3y+2z+l+m=4であり、y+z+1≧1である。)
項5. スギ花粉由来のアレルゲン、ヒノキ花粉由来のアレルゲン及びダニ由来のアレルゲンからなる群より選択される少なくとも1種のアレルゲンに対する抗アレルゲン剤である、項1~4のいずれか1項に記載の抗アレルゲン剤。
項6. 対象物に抗アレルゲン性能を付与する方法であって、
項1~5のいずれか1項に記載の抗アレルゲン剤を、前記対象物の表面に付着させる、抗アレルゲン性能付与方法。
項7. 前記抗アレルゲン剤を前記対象物に噴霧することで、前記対象物の表面に前記抗アレルゲン剤を付着させる、項6に記載の抗アレルゲン性能付与方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アレルゲンを不活性化し得る新規な抗アレルゲン剤を提供することができる。また、当該抗アレルゲン剤を利用した抗アレルゲン性能付与方法を提供することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の抗アレルゲン剤は、リン酸チタニウム系化合物を含むことを特徴とする。本発明においては、抗アレルゲン剤がリン酸チタニウム系化合物を含むことにより、植物性蛋白、動物性蛋白などのアレルゲンを不活性化し得る。以下、本発明の抗アレルゲン剤及びこれを利用した抗アレルゲン性能付与方法について詳述する。
【0011】
なお、本明細書において、「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する。また、本明細書において、「~」で結ばれた数値は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。複数の下限値と複数の上限値が別個に記載されている場合、任意の下限値と上限値を選択し、「~」で結ぶことができるものとする。
【0012】
本発明の抗アレルゲン剤は、リン酸チタニウム系化合物を含む。リン酸チタニウム系化合物は、具体的には、一般式:Ti(OH)x(PO4y(HPO4z(H2PO4l(OR)m(ここで、Rは炭素数1~4のアルキル基を示し、エチル基またはイソプロピル基が好ましい。xは0~3の整数であり、yは0~4の整数であり、zは0~4の整数であり、lは0~4の整数であり、mは0~3の整数であり、x+3y+2z+l+m=4であり、y+z+1≧1である。)の化学組成又はこれが縮合した化学組成であることが好ましい。すなわち、リン酸チタニウム系化合物は、前記一般式で表されるリン酸チタニウム系化合物(単量体)であってもよいし、当該化合物の縮合物(縮合体)であってもよい。
【0013】
リン酸チタニウム系化合物(単量体)の具体例としては、Ti(OH)(H2PO42(OR)、Ti(OH)(PO4)、Ti(OH)2(H2PO4)(OR)、Ti(OH)(HPO4)(OR)、Ti(OH)(HPO4)(H2PO4)、Ti(OH)2(H2PO42、Ti(OH)3(H2PO4)、Ti(OH)3(OR)などが挙げられる。ここで、Rは前記と同じである。
【0014】
前記一般式で表されるリン酸チタニウム系化合物(単量体)が結合した縮合物は、本発明の効果を奏することを限度として、特に限定はされず、例えば、前記一般式で表されるリン酸チタニウム系化合物が2~10分子程度縮合した化合物が好ましい。縮合形式については、特に制限されず、例えば、前記一般式で表されるリン酸チタニウム系化合物から、水分子が脱離して得られる縮合形式が挙げられる。
【0015】
本発明の抗アレルゲン剤に含まれるリン酸チタニウム系化合物は、1種類のみであってもよいし、2種類以上であってもよい。また、リン酸チタニウム系化合物の縮合物は、1種類のリン酸チタニウム系化合物(単量体)の縮合物であってもよいし、2種類以上のリン酸チタニウム系化合物(単量体)の縮合物であってもよい。
【0016】
リン酸チタニウム系化合物(単量体または縮合体)の製造方法については、例えば、特許3829640号や特許4430877号に記載の方法を採用することができる。具体例としては、四塩化チタンの加水分解物とリン酸とを反応させることによって、リン酸チタニウム系化合物が得られる。すなわち、リン酸チタニウム系化合物は、四塩化チタン加水分解物のリン酸化物(Phosphorylation of titanium tetrachloride hydrolyzate)ということもできる。
【0017】
本発明の抗アレルゲン剤において、リン酸チタニウム系化合物の含有率については、本発明の効果を奏すれば特に制限はなく、例えば0.0005質量%以上、好ましくは0.005質量%以上、さらに好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上である。なお、リン酸チタニウム系化合物の含有率の上限については、特に制限はなく、例えば、10質量%以下、5質量%以下、2.5質量%以下などが挙げられる。
【0018】
なお、後述の通り、本発明の抗アレルゲン剤を利用した抗アレルゲン性能付与方法において、本発明の抗アレルゲン剤は、これを製造・保管・流通させる際には原液の形態とし、用時に水等の液性媒体で希釈して抗アレルゲン剤とし、対象物に付着させて抗アレルゲン性能を付与することもできる。本発明の抗アレルゲン剤の原液において、リン酸チタニウム系化合物の含有率については、水等の液性媒体で希釈して本発明の抗アレルゲン剤を調製できれば特に制限されず、例えば、例えば0.05質量%以上、好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上である。なお、原液におけるリン酸チタニウム系化合物の含有率の上限については、特に制限はなく、例えば、20質量%以下、10質量%以下、5質量%以下などが挙げられる。
【0019】
本発明の効果をより一層好適に発揮する観点から、本発明の抗アレルゲン剤は、リン酸チタニウム系化合物に加えて、ケイ酸化合物をさらに含むことが好ましい。
【0020】
ケイ酸化合物は、一般式:[SiOx(OH)4-2xnで表される化合物又はその塩であることが好ましい。当該一般式において、x及びnは、任意の正の数である。ケイ酸化合物の具体例としては、オルトケイ酸、メタケイ酸、メタ二ケイ酸、またはこれらのうち少なくとも1種の多量体が挙げられる。ケイ酸化合物は、塩の形態で本発明の抗アレルゲン剤に含まれていてもよい。ケイ酸化合物の中でも、水への溶解度が高いことから、メタケイ酸ナトリウムであることが好ましい。本発明の抗アレルゲン剤に含まれるケイ酸化合物は、1種類のみであってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0021】
本発明の抗アレルゲン剤において、ケイ酸化合物の割合は、リン酸チタニウム系化合物を100質量部として、好ましくは0~250質量部、より好ましくは10~150質量部、さらに好ましくは50~100質量部である。
【0022】
本発明の抗アレルゲン剤において、ケイ酸化合物の含有率については、本発明の効果を奏すれば特に制限はなく、例えば0.0001質量%以上、好ましくは0.001質量%以上、さらに好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上である。なお、ケイ酸化合物の含有率の上限については、特に制限はなく、例えば、0.8質量%以下、0.6質量%以下、0.4質量%以下などが挙げられる。
【0023】
また、本発明の抗アレルゲン剤の原液において、ケイ酸化合物の含有率については、水等の液性媒体で希釈して本発明の抗アレルゲン剤を調製できれば特に制限されず、例えば、例えば0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上である。なお、原液におけるケイ酸化合物の含有率の上限については、特に制限はなく、例えば、25質量%以下、20質量%以下、15質量%以下などが挙げられる。
【0024】
本発明の効果をより一層好適に発揮する観点から、本発明の抗アレルゲン剤は、リン酸チタニウム系化合物に加えて、銀化合物及び銅化合物のうち少なくとも一方をさらに含むことが好ましい。また、本発明の抗アレルゲン剤は、リン酸チタニウム系化合物及びケイ酸化合物に加えて、銀化合物及び銅化合物のうち少なくとも一方をさらに含むことがより好ましい。
【0025】
銀化合物としては、本発明の効果を奏することを限度として、特に制限されず、具体例としては、硝酸銀、酸化銀、硫化銀、臭化銀、ヨウ化銀などが挙げられる。これらの中でも、水への溶解度が高いことから、硝酸銀が好ましい。本発明の抗アレルゲン剤に含まれる銀化合物は、1種類のみであってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0026】
本発明の抗アレルゲン剤において、銀化合物の割合は、リン酸チタニウム系化合物を100質量部として、好ましくは0~500質量部、より好ましくは50~400質量部、さらに好ましくは75~300質量部である。
【0027】
本発明の抗アレルゲン剤において、銀化合物の含有率については、本発明の効果を奏すれば特に制限はなく、例えば0.00005質量%以上、好ましくは0.0005質量%以上、さらに好ましくは0.005質量%以上、さらに好ましくは0.01質量%以上である。なお、銀化合物の含有率の上限については、特に制限はなく、例えば、0.2質量%以下、0.1質量%以下、0.05質量%以下などが挙げられる。
【0028】
また、本発明の抗アレルゲン剤の原液において、銀化合物の含有率については、水等の液性媒体で希釈して本発明の抗アレルゲン剤を調製できれば特に制限されず、例えば、例えば0.0015質量%以上、好ましくは0.003質量%以上、さらに好ましくは0.006質量%以上、さらに好ましくは0.012質量%以上である。なお、原液における銀化合物の含有率の上限については、特に制限はなく、例えば、1質量%以下、0.5質量%以下、0.1質量%以下などが挙げられる。
【0029】
また、銅化合物としては、本発明の効果を奏することを限度として、特に制限されず、具体例としては、硝酸銅、酸化銅、硫化銅、硫酸銅、塩化銅などが挙げられる。これらの中でも、水への溶解度が高いことから、硝酸銅が好ましい。本発明の抗アレルゲン剤に含まれる銅化合物は、1種類のみであってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0030】
本発明の抗アレルゲン剤において、銅化合物の割合は、リン酸チタニウム系化合物を100質量部として、好ましくは0~800質量部、より好ましくは1~400質量部、さらに好ましくは10~200質量部である。
【0031】
本発明の抗アレルゲン剤において、銅化合物の含有率については、本発明の効果を奏すれば特に制限はなく、例えば0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.3質量%以上である。なお、銅化合物の含有率の上限については、特に制限はなく、例えば、1.25質量%以下、1.0質量%以下、0.75質量%以下などが挙げられる。
【0032】
また、本発明の抗アレルゲン剤の原液において、銅化合物の含有率については、水等の液性媒体で希釈して本発明の抗アレルゲン剤を調製できれば特に制限されず、例えば、例えば0.03質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.3質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上である。なお、原液における銅化合物の含有率の上限については、特に制限はなく、例えば、6質量%以下、4質量%以下、2質量%以下などが挙げられる。
【0033】
本発明の抗アレルゲン剤は、リン酸チタニウム系化合物を含む水溶液であることが好ましい。すなわち、本発明の抗アレルゲン剤は、少なくともリン酸チタニウム系化合物と水を含むことが好ましい。本発明の抗アレルゲン剤において、水の含有率としては、特に制限されず、例えば50質量%以上、好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上である。なお、水の含有率の上限については、特に制限はなく、例えば、99.9質量%以下、99.5質量%以下、99質量%以下などが挙げられる。
【0034】
本発明の抗アレルゲン剤には、必要に応じて添加剤(前述したリン酸チタニウム系化合物、ケイ酸化合物、銀化合物、及び銅化合物とは異なる成分)が含まれてもよい。添加剤としては、任意の担体、基剤、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、キレート剤、安定化剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、保湿剤、着色料、香料、媒体などが挙げられる。
【0035】
本発明の抗アレルゲン剤における添加剤の含有率については、本発明の効果を阻害しないことを限度として、その添加目的に応じて適宜調整すればよい。
【0036】
また、本発明の抗アレルゲン剤を製造する際には、水、アルコールなどの液性媒体を使用することが好ましく、これらの液性媒体を使用した場合、本発明の抗アレルゲン剤には、当該液性媒体も含有される。液性媒体としては、水の他、アルコールなどが例示される。アルコールの具体例としては、C1-4アルコール(エタノール、メタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール)等を挙げることができる。これらのアルコールの中でも、エタノール、イソプロピルアルコールなどが好ましい。
【0037】
本発明の抗アレルゲン剤は、透明であることが好ましく、無色透明であることがさらに好ましい。また、本発明の抗アレルゲン剤のpHは、例えば1~9程度である。
【0038】
本発明の抗アレルゲン剤が対象とするアレルゲンとしては、特に制限されないが、スギ花粉由来のアレルゲン、ヒノキ花粉由来のアレルゲン等の植物性蛋白、ダニ(ダニ虫体やその排泄物)由来のアレルゲン等の動物性蛋白などが挙げられ、本発明の抗アレルゲン剤は、スギ花粉由来のアレルゲン及びダニ由来のアレルゲンに対して特に有効である。
【0039】
本発明の抗アレルゲン剤の使用形態としては、抗アレルゲン剤がアレルゲンと接触、反応して、アレルゲンを不活性化させることができれば特に制限されない。例えば、本発明の抗アレルゲン剤を、対象物の表面に付着させる使用形態が好ましい。本発明の抗アレルゲン剤が付着した対象物の表面に、アレルゲンが付着すると、抗アレルゲン剤とアレルゲンとが反応してアレルゲンを不活性化させることができる。これにより、対象物に対して、抗アレルゲン性能を付与することができる。
【0040】
前記の通り、本発明の抗アレルゲン剤は、製造・保管・流通させる際には原液の形態とし、用時に水等の液性媒体で希釈して抗アレルゲン剤とし、対象物に付着させて抗アレルゲン性能を付与することもできる。原液の希釈倍率としては、原液から抗アレルゲン剤が好適に製造されれば特に制限されず、例えば10~50倍とすればよい。
【0041】
本発明の抗アレルゲン剤を、対象物の表面に付着させる方法としては、特に制限されず、例えば、抗アレルゲン剤を対象物に噴霧する方法が挙げられる。これにより、対象物の表面に抗アレルゲン剤を好適に付着させることができる。
【0042】
本発明の抗アレルゲン剤を付着させる対象物としては、特に制限されない。対象物の具体例としては、OA機器、家電、空調機器、掃除機、机、椅子、ソファー、ベンチ、窓、壁、床、天井、つり革、ハンドル、シート、自動改札機、自動券売機、自動販売機、扉、柵、手摺、食器、調理用具、包装フィルム、包装袋、瓶、ボトル、包装パック、シンク、便器、文房具、書籍、棚、歯ブラシ、鏡、空調フィルター、マスク、コート、ジャケット、ズボン、スカート、病衣、白衣、手術衣、ワイシャツ、ニットシャツ、ブラウス、セーター、カーディガン、ナイトウエア、肌着、下着、オムツ、サポーター、靴下、タイツ、ストッキング、帽子、スカーフ、マフラー、襟巻き、ストール、手袋、服の裏地、服の芯地、服の中綿、作業着、ユニフォーム、学童用制服等の衣料、カーテン、アミ戸、布団地、布団綿、布団カバー、枕カバー、シーツ、マット、カーペット、タオル、ハンカチ、壁布、絆創膏、包帯等が挙げられる。
【0043】
本発明の抗アレルゲン剤の使用量は、使用対象、使用目的、及び使用環境等によって適宜調整する。例えば、本発明の抗アレルゲン剤を壁に対して適用するのであれば、抗アレルゲン剤の使用量は、例えば15~20cc/m2程度とすることができる。また、抗アレルゲン剤を使用する際の温度としては、通常は室温(例えば0~45℃の範囲)である。
【0044】
本発明の抗アレルゲン剤は、例えば四塩化チタンの加水分解物を含有する液に、必要に応じて、ケイ酸化合物、銅化合物、及び銀化合物を、この順で混合することにより、好適に製造することができる。この製造方法を採用することにより、抗アレルゲン剤中に沈殿物が殆ど生じず、透明な抗アレルゲン剤を製造することができる。このため、例えば、本発明の抗アレルゲン剤を噴霧して使用する際に、噴霧器に目詰まりが発生することを防止できる等の利点がある。四塩化チタンの加水分解物については、前記の通りである。
【0045】
本発明の抗アレルゲン剤を製造する際の温度は、特に制限されず、通常は室温(例えば0~45℃の範囲)である。本発明の抗アレルゲン剤を製造する際、各成分を混合、撹拌することが好ましい。抗ウイルス剤に沈殿物が存在する場合には、公知の固液分離工程に供して、斯かる沈殿物を除去してもよい。
【実施例
【0046】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。但し本発明は実施例に限定されるものではない。
【0047】
<実施例1>
イソプロピルアルコール25mlと精製水25mlの混合溶液に、室温で攪拌しながら四塩化チタン5mlを混合して反応させ、この反応溶液を精製水で100倍に希釈した。次に、これに85質量%濃度のリン酸水溶液5mlを加えて反応させることによって、リン酸チタニウム系化合物の溶液を得た。得られたリン酸チタニウム系化合物は、分析の結果、Ti(OH)x(PO4y(HPO4z(H2PO4l(OR)m(ここで、Rは炭素数1~4のアルキル基を示し、xは0~3の整数であり、yは0~4の整数であり、zは0~4の整数であり、lは0~4の整数であり、mは0~3の整数であり、x+3y+2z+l+m=4であり、y+z+1≧1である。)の化学組成又はこれが縮合した化学組成であることを確認した。得られたリン酸チタニウム系化合物の溶液を、さらに精製水で10倍に希釈して、実施例1の0.2質量%リン酸チタニウム系化合物を含む抗アレルゲン剤とした。実施例1の抗アレルゲン剤は、無色透明な水溶液であった。
【0048】
<実施例2>
実施例1で得た「リン酸チタニウム系化合物の溶液」に対して、0.11gのケイ酸ナトリウム、3gの硝酸銀、及び90gの硝酸銅をこの順で添加し、室温にて混合することによって、0.2質量%リン酸チタニウム系化合物、0.02質量%ケイ酸ナトリウム、0.0055質量%硝酸銀、及び0.16質量%硝酸銅の混合溶液を製造した。得られたリン酸チタニウム系化合物の溶液を、さらに精製水で30倍に希釈して、実施例2の抗アレルゲン剤とした。実施例2の抗アレルゲン剤は、無色透明な水溶液であった。
【0049】
[スギ花粉アレルゲン低減効果の評価]
実施例1,2で得られた各抗アレルゲン剤について、それぞれ、スギ花粉アレルゲンの低減効果を評価した。抗アレルゲン剤とアレルゲン溶液を混合し、室温で所定時間反応させた。反応後、混合液を回収し、アレルゲン濃度をELISA法にて測定した。対照は抗アレルゲン剤の代わりに精製水を加えること以外は同様に処理した。具体的な試験条件及び評価方法は、それぞれ、以下の通りである。
【0050】
(試験条件)
対象アレルゲン:Cry j 1 スギ花粉アレルゲン
対象アレルゲン形態:スギ花粉抽出物(製品No.10103、ITEA製)
アレルゲン初期量:100ng
試験温度:室温(空調機を25℃に設定)
サンプリング数:n=3
反応時間:5分間または10分間
アレルゲン測定:サンドウィッチELISA
サンドウィッチELISAにおいては、反応後のアレルゲン溶液をELISA測定用希釈液で適切な倍率(被験物である抗アレルゲン剤由来成分がELISA測定系に干渉しない希釈倍率であり、添加回収試験により決定)に希釈したものを測定サンプルとし、試験に合わせて最適化した「ITEA スギ花粉アレルゲン(Cry j 1)ELISAキット(製品No.10204、ITEA製)」を用いて測定を行った。
【0051】
(評価方法)
以下の数式により、抗アレルゲン剤によるアレルゲン低減率を算出した。
アレルゲン低減率(%)=(Y-X)/Y×100
X:抗アレルゲン剤と反応後のアレルゲン量平均値(ng)
Y:対照と反応後のアレルゲン量平均値(ng)
【0052】
実施例1の抗アレルゲン剤について、5分間反応後のスギ花粉由来アレルゲン(Cry j 1)量及びアレルゲン低減率(アレルゲン初期量実測値は109.20ng)を下表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
実施例1の抗アレルゲン剤について、10分間反応後のスギ花粉由来アレルゲン(Cry j 1)量及びアレルゲン低減率(アレルゲン初期量実測値は102.42ng)を下表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
*1 検出限界未満
【0057】
実施例2の抗アレルゲン剤について、5分間反応後のスギ花粉由来アレルゲン(Cry j 1)量及びアレルゲン低減率(アレルゲン初期量実測値は92.88ng)を下表3に示す。
【0058】
【表3】
【0059】
実施例2の抗アレルゲン剤について、10分間反応後のスギ花粉由来アレルゲン(Cry j 1)量及びアレルゲン低減率(アレルゲン初期量実測値は88.10ng)を下表4に示す。
【0060】
【表4】
【0061】
*1 検出限界未満
【0062】
[ヒノキ花粉アレルゲン低減効果の評価]
実施例2で得られた抗アレルゲン剤について、ヒノキ花粉アレルゲンの低減効果を評価した。抗アレルゲン剤とアレルゲン溶液を混合し、室温で所定時間反応させた。反応後、混合液を回収し、アレルゲン濃度をELISA法にて測定した。対照は抗アレルゲン剤の代わりに精製水を加えること以外は同様に処理した。具体的な試験条件及び評価方法は、それぞれ、以下の通りである。
【0063】
(試験条件)
対象アレルゲン:Cha o 1 ヒノキ花粉アレルゲン
対象アレルゲン形態:ヒノキ花粉抽出物(特注品、ITEA製)
アレルゲン初期量:21846.92ng
試験温度:室温(空調機を25℃に設定)
サンプリング数:n=3
反応時間:5分間または10分間
アレルゲン測定:サンドウィッチELISA
サンドウィッチELISAにおいては、反応後のアレルゲン溶液をELISA測定用希釈液で適切な倍率(被験物である抗アレルゲン剤由来成分がELISA測定系に干渉しない希釈倍率であり、添加回収試験により決定)に希釈したものを測定サンプルとし、試験に合わせて最適化した「ヒノキ花粉アレルゲン(Cha o 1)ELISAキット(製品No.49500-19、ニチニチ製薬株式会社)」を用いて測定を行った。
【0064】
(評価方法)
以下の数式により、抗アレルゲン剤によるアレルゲン低減率を算出した。
アレルゲン低減率(%)=(Y-X)/Y×100
X:抗アレルゲン剤と反応後のアレルゲン量平均値(ng)
Y:対照と反応後のアレルゲン量平均値(ng)
【0065】
実施例2の抗アレルゲン剤について、5分間反応後のヒノキ花粉由来アレルゲン(Cha o 1)量及びアレルゲン低減率(アレルゲン初期量実測値は21846.92ng)を下表5に示す。
【0066】
【表5】
【0067】
実施例2の抗アレルゲン剤について、10分間反応後のヒノキ花粉由来アレルゲン(Cha o 1)量及びアレルゲン低減率(アレルゲン初期量実測値は21812.07ng)を下表6に示す。
【0068】
【表6】
【0069】
[ダニ虫体アレルゲン低減効果の評価]
実施例2で得られた抗アレルゲン剤について、ダニ虫体アレルゲンの低減効果を評価した。抗アレルゲン剤とアレルゲン溶液を混合し、室温で所定時間反応させた。反応後、混合液を回収し、アレルゲン濃度をELISA法にて測定した。対照は抗アレルゲン剤の代わりに精製水を加えること以外は同様に処理した。具体的な試験条件及び評価方法は、それぞれ、以下の通りである。
【0070】
(試験条件)
対象アレルゲン:Der f 2 ダニ虫体由来アレルゲン
対象アレルゲン形態:ダニ抽出物(製品No.10102、ITEA製)
アレルゲン初期量:150ng
試験温度:室温(空調機を25℃に設定)
サンプリング数:n=3
反応時間:5分間または10分間
アレルゲン測定:サンドウィッチELISA
サンドウィッチELISAにおいては、反応後のアレルゲン溶液をELISA測定用希釈液で適切な倍率(被験物である抗アレルゲン剤由来成分がELISA測定系に干渉しない希釈倍率であり、添加回収試験により決定)に希釈したものを測定サンプルとし、試験に合わせて最適化した「ダニアレルゲン(Der f 2)ELISAキット(特注品、ITEA製)」を用いて測定を行った。
【0071】
(評価方法)
以下の数式により、抗アレルゲン剤によるアレルゲン低減率を算出した。
アレルゲン低減率(%)=(Y-X)/Y×100
X:抗アレルゲン剤と反応後のアレルゲン量平均値(ng)
Y:対照と反応後のアレルゲン量平均値(ng)
【0072】
実施例2の抗アレルゲン剤について、5分間反応後のダニ虫体由来アレルゲン(Der f 2)量及びアレルゲン低減率(アレルゲン初期量実測値は150.93ng)を下表7に示す。
【0073】
【表7】
【0074】
実施例2の抗アレルゲン剤について、10分間反応後のダニ虫体由来アレルゲン(Der f 2)量及びアレルゲン低減率(アレルゲン初期量実測値は158.33ng)を下表8に示す。
【0075】
【表8】
【0076】
[ダニ排泄物アレルゲン低減効果の評価]
実施例2で得られた抗アレルゲン剤について、ダニ排泄物アレルゲンの低減効果を評価した。抗アレルゲン剤とアレルゲン溶液を混合し、室温で所定時間反応させた。反応後、混合液を回収し、アレルゲン濃度をELISA法にて測定した。対照は抗アレルゲン剤の代わりに精製水を加えること以外は同様に処理した。具体的な試験条件及び評価方法は、それぞれ、以下の通りである。
【0077】
(試験条件)
対象アレルゲン:Der f 1 ダニ排泄物由来アレルゲン
対象アレルゲン形態:ダニ抽出物(製品No.10102、ITEA製)
アレルゲン初期量:150ng
試験温度:室温(空調機を25℃に設定)
サンプリング数:n=3
反応時間:5分間または10分間
アレルゲン測定:サンドウィッチELISA
サンドウィッチELISAにおいては、反応後のアレルゲン溶液をELISA測定用希釈液で適切な倍率(被験物である抗アレルゲン剤由来成分がELISA測定系に干渉しない希釈倍率であり、添加回収試験により決定)に希釈したものを測定サンプルとし、試験に合わせて最適化した「ダニアレルゲン(Der f 1)ELISAキット(製品No.10205、ITEA製)」を用いて測定を行った。
【0078】
(評価方法)
以下の数式により、抗アレルゲン剤によるアレルゲン低減率を算出した。
アレルゲン低減率(%)=(Y-X)/Y×100
X:抗アレルゲン剤と反応後のアレルゲン量平均値(ng)
Y:対照と反応後のアレルゲン量平均値(ng)
【0079】
実施例2の抗アレルゲン剤について、5分間反応後のダニ排泄物由来アレルゲン(Der f 1)量及びアレルゲン低減率(アレルゲン初期量実測値は144.12ng)を下表9に示す。
【0080】
【表9】
【0081】
実施例2の抗アレルゲン剤について、10分間反応後のダニ排泄物由来アレルゲン(Der f 1)量及びアレルゲン低減率(アレルゲン初期量実測値は140.08ng)を下表10に示す。
【0082】
【表10】
【要約】      (修正有)
【課題】アレルゲンを不活性化し得る新規な抗アレルゲン剤を提供する。
【解決手段】リン酸チタニウム系化合物を含む、抗アレルゲン剤。ケイ酸化合物をさらに含むことが好ましい。
【選択図】なし