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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-11
(45)【発行日】2022-03-22
(54)【発明の名称】ロケットエンジン用水素噴射装置
(51)【国際特許分類】
   F02K 9/52 20060101AFI20220314BHJP
   B64G 1/40 20060101ALI20220314BHJP
【FI】
F02K9/52
B64G1/40 100
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021546014
(86)(22)【出願日】2021-06-17
(86)【国際出願番号】 JP2021023011
【審査請求日】2021-08-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501399706
【氏名又は名称】三森 基輝
(74)【代理人】
【識別番号】100151208
【弁理士】
【氏名又は名称】植田 吉伸
(72)【発明者】
【氏名】三森 基輝
【審査官】小岩 智明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/093198(WO,A1)
【文献】特開2015-161214(JP,A)
【文献】特表2002-540340(JP,A)
【文献】特開平04-050456(JP,A)
【文献】特開平07-299157(JP,A)
【文献】特開平06-042407(JP,A)
【文献】特開昭54-059516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02K 9/00- 9/97
B64G 1/00, 1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体水素を噴射するためのエンジンノズル本体部と、
前記気体水素が流通する前記エンジンノズル本体部の構成材料の強度を保持可能な温度範囲内に前記気体水素の温度を抑えて前記気体水素を噴射する噴射部と、
を備え
前記気体水素は、液体水素と液体酸素の燃焼反応において不完全燃焼により生じた気体水素で構成されていることを特徴とするロケットエンジン用水素噴射装置。
【請求項2】
請求項1に記載のロケットエンジン用水素噴射装置において、
前記温度範囲は、500~1000℃であることを特徴とするロケットエンジン用水素噴射装置。
【請求項3】
気体水素を噴射した反動で推進力を得るエンジンノズル本体部に投入するための前記気体水素を前記エンジンノズル本体部の構成材料の強度を保持可能な温度範囲内に抑える工程と、
前記温度範囲に抑えられた前記気体水素を噴射する工程と、
を備え
前記気体水素は、液体水素と液体酸素の燃焼反応において不完全燃焼により生じた気体水素で構成されていることを特徴とするロケットエンジン用水素噴射方法。
【請求項4】
請求項に記載のロケットエンジン用水素噴射方法において、
前記温度範囲は、500~1000℃であることを特徴とするロケットエンジン用水素噴射方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロケットエンジン用水素噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、推進剤を噴射する事によってその反動で推力を得るロケットエンジンが開発されている。本発明に関連する技術として、例えば、特許文献1には、ロケットエンジンの液体推進剤供給システムにおいて、液体推進剤が極低温の液体推進剤であり、この極低温の液体推進剤をロケットエンジンの燃焼室に供給する手段がポンプ部とモータ部とを前記モータ部をキャンで密閉した態様で一体化したキャンドモータポンプ型の電動ポンプであることを特徴とするロケットエンジンの液体推進剤供給システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-67180公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ロケットエンジンの燃焼温度は燃料や燃焼圧力などによるが最大で3000℃以上に達するため、エンジンノズル本体部が溶けることを防ぐために耐熱合金などで構成されているが、3000℃となると耐熱合金といえどもそのままでは容易に融けてしまう。そのため、ノズルスカートの壁面を構成するチューブ内には燃料である液体水素-253℃
を流して冷却する。ロケットエンジンにおいて冷却に使用した水素を回収して燃料としているなど複雑な構成となっている。
【0005】
本発明の目的は、より簡単な構造のエンジンノズル本体部とすることを可能とするロケットエンジン用噴射装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るロケットエンジン用水素噴射装置は、気体水素を噴射するためのエンジンノズル本体部と、前記気体水素が流通する前記エンジンノズル本体部の構成材料の強度を保持可能な温度範囲内に前記気体水素の温度を抑えて前記気体水素を噴射する噴射部と、を備え、前記気体水素は、液体水素と液体酸素の燃焼反応において不完全燃焼により生じた気体水素で構成されていることを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係るロケットエンジン用水素噴射装置において、前記温度範囲は、500~1000℃であることが好ましい。
【0010】
本発明に係るロケットエンジン用水素噴射方法は、気体水素を噴射した反動で推進力を得るエンジンノズル本体部に投入するための前記気体水素を前記エンジンノズル本体部の構成材料の強度を保持可能な温度範囲内に抑える工程と、前記温度範囲に抑えられた前記気体水素を噴射する工程と、を備え、前記気体水素は、液体水素と液体酸素の燃焼反応において不完全燃焼により生じた気体水素で構成されていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るロケットエンジン用水素噴射方法において、前記温度範囲は、500~1000℃であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、より簡単な構造のエンジンノズル本体部とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る実施形態のロケットエンジン用噴射装置の構成図である。
図2】本発明に係る実施形態のロケットエンジン用噴射装置において、噴射の流速のシミュレーション結果である。
図3】本発明に係る実施形態のロケットエンジン用噴射装置において、噴射の温度変化のシミュレーション結果である。
図4】本発明に係る実施形態のロケットエンジン用噴射装置において、噴射の圧力分布のシミュレーション結果である。
図5】本発明に係る実施形態のロケットエンジン用噴射装置において、水素を噴射した場合のシミュレーション結果である。
図6】本発明に係る実施形態のロケットエンジン用噴射装置において、ヘリウムを噴射した場合のシミュレーション結果である。
図7】本発明に係る実施形態のロケットエンジン用噴射装置において、蒸気(過熱状態)を噴射した場合のシミュレーション結果である。
図8】本発明に係る実施形態のロケットエンジン用噴射装置において、窒素を噴射した場合のシミュレーション結果である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明に係る実施の形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0017】
図1は、本発明に係る実施形態のロケットエンジン用噴射装置10の構成図である。ロケットエンジン用噴射装置10は、エンジンノズル本体部12と、噴射部14とを備えている。エンジンノズル本体部12は、気体水素を噴射するためのノズルである。エンジンノズル本体部12は、略釣鐘状を有しており、ジュラルミンなどのアルミ系の合金で構成されている。
【0018】
噴射部14は、気体水素が流通するエンジンノズル本体部12の構成材料の強度を保持可能な温度範囲内に気体水素の温度を抑えて気体水素を噴射する燃焼部である。噴射部14は、適度な強度を有する材質、例えば、ジュラルミンなどのアルミ系の合金で構成されており、エンジンノズル本体部12に連通している。
【0019】
ここで、エンジンノズル本体部12の構成材料の強度を保持可能な温度範囲は、500~1000℃である。気体水素は、液体水素と液体酸素の燃焼反応において不完全燃焼により生じた水素で構成されている。
【0020】
水素を多めに酸素と混合し、水素の低温によって不完全燃焼を発生させ、気体水素(水素ガス)が蒸気等の不純物と混ざって噴射される。具体的には、液体水素と液体酸素の燃焼反応において、噴射部14内における水素の量が、完全燃焼を基準として、そこから目標とする燃焼室内部の温度(500~1000℃)に温度が下がる量だけ、余分に水素を混入する。
【0021】
ここで、kを2よりも大きな数(非整数を許容)として、kH+O→(k-2)H+2HO+Qという式(Qは燃焼によって放出される熱量)で不完全燃焼を表現することができ、Qが水素及び水蒸気を温める熱量と解釈できる。
【0022】
したがって、(k-2)H+2HOの温度が、「水素の低温」として定義可能な温度、500~1000℃になるようにkの値を設定して反応させる。このときのkの値が水素の多さを示す。
【0023】
続いて、上記構成のロケットエンジン用噴射装置10の作用について説明する。最初に噴射部14において、液体水素と液体酸素の燃焼反応において不完全燃焼により500~1000℃に温度範囲内に調整された気体水素が形成される(S2)。500~1000℃は、気体水素を噴射した反動で推進力を得るエンジンノズル本体部12の構成材料の強度を保持可能な気体水素の温度範囲内である。
【0024】
このように、500~1000℃に調整された気体水素がエンジンノズル本体部12から噴射される(S4)。この反動で生じる推進力を利用してロケットを飛翔させることができる。
【0025】
ここで、噴射部14によって500~1000℃程度の温度に設定された水素をエンジンノズル本体部12から噴射した際のシミュレーション結果を示す。ここでのシミュレーション結果は、CFDシミュレーションソフトによる検証結果である。
【0026】
CFDとは、数値流体力学(Computational Fluid Dynamic)の略語であり、偏微分方程式の数値解法等を駆使して流体の運動に関する方程式(オイラー方程式、ナビエ-ストークス方程式、またはその派生式)をコンピュータで解くことによって流れを観察する数値解析・シミュレーション手法である。
【0027】
図2は、ロケットエンジン用噴射装置10における噴射の流速のシミュレーション結果である。ここでは、4100m/sを達成しており、燃焼室内の温度=流体の温度が500℃まで下がっていることが分かる。
【0028】
図3は、ロケットエンジン用噴射装置10における噴射の温度のシミュレーション結果である。流体の温度を500℃まで下げて噴射した結果、図3に示されるように、ノズルの噴射口の出口部分で、流体(水素)の温度が86℃まで下がっていることが分かる。
【0029】
ノズルの噴射口の出口部分で、流体(水素)の温度を86℃まで下げれば、ノズルの噴射口部分が溶けるのを避けるための工夫は必要なく、ジュラルミンなどアルミ系の合金で十分である。



【0030】
図4は、ロケットエンジン用噴射装置10における噴射の圧力分布のシミュレーション結果である。燃焼室である噴射部14とエンジンノズル本体部12の流体入り口の圧力は絶対圧で約300気圧である。図4の左下の値が、流体入り口付近の圧力である。気体水素保管用の圧縮ボンベが700気圧であることを考えると、おそらく現実的な値であることが分かる。
【0031】
ここで、比較のために、水素、ヘリウム、蒸気(過熱状態)、窒素の4種類について、シミュレーション結果について検討する。
【0032】
図5は、ロケットエンジン用噴射装置10において、水素を噴射した場合のシミュレーション結果である。水素を噴射した場合、図5に示されるように、密度(常温常圧)が0.0000838349(g/cm)、噴射口での最高速度が約4100m/sである。
【0033】
図6は、ロケットエンジン用噴射装置10において、ヘリウムを噴射した場合のシミュレーション結果である。ヘリウムを噴射した場合、図6に示されるように、密度(常温常圧)が0.000166339(g/cm)、噴射口での最高速度が約2600m/sである。
【0034】
図7は、ロケットエンジン用噴射装置10において、蒸気(過熱状態)を噴射した場合のシミュレーション結果である。蒸気(過熱状態)を噴射した場合、図7に示されるように、密度(常温常圧)が0.000758558(g/cm)、噴射口での最高速度が約1400m/sである。
【0035】
図8は、ロケットエンジン用噴射装置10において、窒素を噴射した場合のシミュレーション結果である。窒素を噴射した場合、図8に示されるように、密度(常温常圧)が0.00116516(g/cm)、噴射口での最高速度が約1400m/sである。
【0036】
図5図8を比較すると、図5に示される水素を噴射した場合の圧倒的な速さが目を引く。また、水素、ヘリウム、蒸気(過熱状態)、窒素の順に気体の重さが重くなっている。そして、密度が重くなるほど、噴射速度が遅くなっていく傾向がある。
【0037】
つまり、噴射速度は、圧縮された気体が圧縮から解放された時の断熱膨張と同じ現象による加速・それに要する運動エネルギー分の温度低下によって起こる現象であるので、密度が軽いほど、断熱膨張による加速度が大きく、より高速に加速される。
【0038】
また、気体温度を500~1000℃に抑えることで、鉄やチタンなどの材料が冷却なしで使用でき、エンジンの構造が劇的に安全になるという顕著な効果を奏する。水素を低温(500℃程度)で噴射すると他の材料よりも大きな噴射速度が得られるという利点がある。
【0039】
上記ロケットエンジン用噴射装置10では、液体水素と液体酸素の燃焼反応において不完全燃焼により500~1000℃に温度範囲内に調整された気体水素を用いて噴射するものとして説明したが、もちろん、その他の手法によって500~1000℃の設定された気体水素を噴射してもよい。
【0040】
例えば、燃焼反応を行うことなく、純粋な水素ガス単体を噴射する方法としては、例えば、噴射用の液体水素を気化・加熱して500~1000℃の気体水素にし、この気体水素のみを噴射することができる。
【符号の説明】
【0041】
10 ロケットエンジン用噴射装置、12 エンジンノズル本体部、14 噴射部。
【要約】
より簡単な構造のエンジンノズル本体部とすることを可能とするロケットエンジン用噴射装置を提供することを課題とする。
ロケットエンジン用水素噴射装置(10)は、気体水素を噴射するためのエンジンノズル本体部(12)と、気体水素が流通するエンジンノズル本体部(12)の構成材料の強度を保持可能な温度範囲内に気体水素の温度を抑えて気体水素を噴射する噴射部(14)と、を備える。上記温度範囲は、500~1000℃である。気体水素は、液体水素と液体酸素の燃焼反応において不完全燃焼により生じた気体水素で構成されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8