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特許7039096ガス分析装置、プロセスモニタリング装置、ガス分析装置の制御方法
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  • 特許-ガス分析装置、プロセスモニタリング装置、ガス分析装置の制御方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-11
(45)【発行日】2022-03-22
(54)【発明の名称】ガス分析装置、プロセスモニタリング装置、ガス分析装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/46 20060101AFI20220314BHJP
【FI】
H05H1/46 A
H05H1/46 C
H05H1/46 L
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021548210
(86)(22)【出願日】2021-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2021013168
(87)【国際公開番号】W WO2021200773
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2021-10-08
(31)【優先権主張番号】P 2020062862
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509339821
【氏名又は名称】アトナープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102934
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 彰
(72)【発明者】
【氏名】高橋 直樹
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-161694(JP,A)
【文献】特開2011-249289(JP,A)
【文献】特開2015-162267(JP,A)
【文献】特開2006-049922(JP,A)
【文献】特開平09-265937(JP,A)
【文献】特開平10-199473(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0011400(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/00-1/54
H01J 49/10
H01J 49/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロプラズマの生成装置を有するガス分析装置であって、
前記マイクロプラズマの生成装置は
誘電性の壁体構造を備え、プラズマ化するガスが流入するチェンバーと、
前記誘電性の壁体構造を介して電場および/または磁場により前記チェンバー内でプラズマを生成するRF供給機構と、
前記チェンバーの内面に沿って配置された第1の電極を含む、浮遊電位供給機構とを含み、さらに、
当該ガス分析装置は、
前記チェンバーに測定対象のサンプルガスを供給するサンプリングユニットと、
生成された前記プラズマを介して前記サンプルガスを分析する分析ユニットと、
前記浮遊電位供給機構により、前記プラズマの浮遊電位を、前記分析ユニットに前記プラズマが流入するように制御する電位制御ユニットとを有する、ガス分析装置
【請求項2】
請求項1において、
前記RF供給機構は、前記チェンバーに対し第1の方向に配置されたRF場形成ユニットを含み、
前記第1の電極は、前記チェンバーに対し第2の方向に配置された電極を含む、ガス分析装置
【請求項3】
請求項1または2において、
前記チェンバーは円筒状であり、
前記第1の電極は、周面の一部を欠いた円筒状の電極を含む、ガス分析装置
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、
前記誘電性の壁体構造は、石英、酸化アルミニウムおよび窒化ケイ素の少なくともいずれかを含む、ガス分析装置
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、
前記RF供給機構は、誘電結合プラズマ、誘電体バリア放電および電子サイクロトロン共鳴の少なくともいずれかによりプラズマを発生する機構を含む、ガス分析装置
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、
前記電位制御ユニットは、前記分析ユニットの分析結果または分析条件により流入量を可変するように前記プラズマの浮遊電位を制御するユニットを含む、ガス分析装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかにおいて、
前記サンプリングユニットは、前記チェンバーに前記サンプルガスのみを供給し、前記チェンバー内で前記サンプルガスのみにより前記プラズマが生成される、ガス分析装置。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかにおいて、
前記分析ユニットは、前記プラズマ中のイオン化したガスをフィルタリングするフィルターユニットと、
フィルタリングされたイオンを検出するディテクタユニットとを含み、
前記電位制御ユニットは、前記プラズマの浮遊電位を、前記フィルターユニットの中心電位に対してプラス電位に維持するユニットを含む、ガス分析装置。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載のガス分析装置を有する、プロセスモニタリング装置。
【請求項10】
ガス分析装置の制御方法であって、
前記ガス分析装置は、測定対象のサンプルガスが流入するマイクロプラズマの生成装置と、前記生成装置により生成されたプラズマを介して前記サンプルガスを分析する分析ユニットとを含み、
前記生成装置は、誘電性の壁体構造を備え、前記サンプルガスが流入するチェンバーと、前記誘電性の壁体構造を介して電場および/または磁場により前記チェンバー内でプラズマを生成するRF供給機構と、前記チェンバーの内面に沿って配置された第1の電極を含む浮遊電位供給機構とを含み、
当該方法は、前記浮遊電位供給機構により、前記プラズマの浮遊電位を、前記分析ユニットに前記プラズマが流入するように制御することを含む、方法。
【請求項11】
請求項10において、
前記制御することは、前記分析ユニットの分析結果により流入量を可変するように前記プラズマの浮遊電位を制御することを含む、方法。
【請求項12】
請求項10または11において、
前記分析ユニットは、前記プラズマ中のイオン化したガスをフィルタリングするフィルターユニットと、フィルタリングされたイオンを検出するディテクタユニットとを含み、
前記制御することは、前記プラズマの浮遊電位を、前記フィルターユニットの中心電位に対してプラスに維持することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部でマイクロプラズマを生成するチェンバーを有するプラズマ生成装置を有するガス分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
日本国特開2015-204418号公報には、プラズマ処理装置が、反応ガスが収容された反応室と、この反応室内の反応ガスをプラズマ化するプラズマ生成部と、前記反応室内に生じたプラズマのプラズマ浮遊電位を測定する電極と、プラズマ浮遊電位に対しマイナスのバイアス電圧を印加する電子放出源とを備えていることが開示されている。
【発明の開示】
【0003】
CVDなどの加工プロセスに用いられるプラズマ、あるいは自然界に見られるプラズマのようなマクロスケール空間のプラズマに対し、ナノ空間のプラズマに移る境界の微細領域(中間領域)、すなわち、“メゾ空間”におけるプラズマとしてのマイクロプラズマが知られている。マイクロプラズマには、マイクロメータオーダのプラズマという意味も含むが、その大きさが数mm程度から100μm程度の領域に広がるプラズマが含まれる。このようなサイズのマイクロプラズマは、ナノサイズのような特殊な性質あるいは技術が求められるものに対して比較的取り扱いが容易であり、様々な用途が検討されている。その1つは、分析装置のイオンソースであり、安定したイオン源として利用するために、プラズマの浮遊電位を制御する要望がある。
【0004】
本発明の一態様は、マイクロプラズマの生成装置を有するガス分析装置である。この生成装置は、誘電性の壁体構造を備え、プラズマ化するガスが流入するチェンバーと、誘電性の壁体構造を介して電場および/または磁場によりチェンバー内でプラズマを生成するRF供給機構と、チェンバーの内面に沿って配置された第1の電極を含む、浮遊電位供給機構とを有する。このプラズマ生成装置においては、チェンバー外から高周波を供給してプラズマを生成するとともに、マイクロプラズマ用のチェンバー内に、内面に沿って電極を配置することにより生成されるマイクロプラズマの少なくとも一部を囲い、マイクロプラズマの浮遊電位を制御する。マクロサイズでもなく、ナノサイズでもない、中間サイズのマイクロプラズマであれば、その周囲または周囲の一部を覆うように配置された電極によりプラズマの浮遊電位の制御が可能となる。
【0005】
RF供給機構は、チェンバーに対する第1の方向に配置されたRF場形成ユニットを含み、第1の電極は、チェンバーに対する第2の方向に配置された電極を含んでもよい。チェンバーの一例は円筒状であり、第1の電極は、周面の一部を欠いた円筒状の電極を含んでもよい。誘電性の壁体構造は、石英、酸化アルミニウムおよび窒化ケイ素の少なくともいずれかを含んでもよい。RF供給機構は、誘電結合プラズマ、誘電体バリア放電および電子サイクロトロン共鳴の少なくともいずれかによりプラズマを発生する機構を含んでもよい。
【0006】
本発明の他の態様の1つは、上記のプラズマ生成装置と、チェンバーに測定対象のサンプルガスを供給するサンプリングユニットと、生成されたプラズマを介してサンプルガスを分析する分析ユニットと、浮遊電位供給機構により、プラズマの浮遊電位を、分析ユニットにプラズマが流入するように制御する電位制御ユニットとを有するガス分析装置である。分析ユニットは、プラズマ中のイオン化したガスをフィルタリングするフィルターユニットと、フィルタリングされたイオンを検出するディテクタユニットとを含み、浮遊電位制御ユニットは、プラズマの浮遊電位を、フィルターユニットの中心電位に対してプラスに維持し、プラスに帯電したマイクロプラズマがフィルターユニットに流入するようにしてもよい。ガス分析装置の一例は、四重極フィルターを備えた質量分析装置である。分析ユニットの分析結果または分析条件により流入量を可変するようにプラズマの浮遊電位を制御するユニットを含んでもよい。大流量短時間で主な成分を分析してもよく、低流量長時間で精度の高い分析を行ってもよい。サンプリングユニットは、チェンバーにサンプリングガスのみを供給し、ノイズとなる可能性のあるアルゴンなどのアシストガスを含まない状態で、チェンバー内でサンプリングガスのみによりマイクロプラズマを生成してもよい。
【0007】
本発明の他の態様の1つは、上記のガス分析装置を有するプロセスモニタリング装置である。また、本発明の他の態様の1つは、プラズマ生成装置を含むガス分析装置の制御方法である。この方法は、チェンバーの内面に沿って配置された第1の電極を含む浮遊電位供給機構により、プラズマの浮遊電位を、分析ユニットにプラズマが流入するように制御することを含む。これらの方法は、適当な記録媒体に記録されたプログラム(プログラム製品)として提供されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】プラズマ生成装置を含むガス分析装置の概要を示す図。
図2】ガス分析装置の構成を示す図。
図3】ガス分析装置のプラズマ浮遊電位の制御の概要を示すフリーチャート。
【発明の実施の形態】
【0009】
図1に、プラズマ生成装置(プラズマ生成ユニット)を含むガス分析装置の一例を示している。このガス分析装置1は、プロセスから供給されるサンプルガスを分析することによりプロセスをモニタリングするプロセスモニタリング装置(プロセスモニター)50として機能する。ガス分析装置1は、プロセスからのサンプルガス(サンプリングガス、ガスサンプル)をプラズマ化するプラズマ生成ユニット10と、生成されたプラズマを介してサンプルガスを分析する分析ユニット(分析器)21と、制御ユニット(制御装置、制御システム)51と、排気システム60とを含む。
【0010】
図2に、プロセスモニター50として機能するガス分析装置1の構成をさらに詳しく示している。ガス分析装置1は、プラズマプロセスが実施されるプロセスチェンバー71から供給されるサンプルガス9を分析する。プロセスチェンバー71において実施されるプラズマプロセスは、典型的には、様々な種類の膜あるいは層を基板の上に生成する工程や、基板をエッチングする工程であり、CVD(化学蒸着、Chemical Vapor Deposition)またはPVD(物理蒸着、Physical Vapor Deposition)を含む。プラズマプロセスは、レンズ、フィルターなどの光学部品を基板として様々な種類の薄膜を積層するプロセスであってもよい。
【0011】
プロセスモニター50は、プロセスチェンバー71から供給されるガス(サンプルガス)9を分析するガス分析装置1を含む。ガス分析装置1は、プロセスから供給される測定対象のサンプルガス9のプラズマ19を生成するプラズマ生成ユニット(プラズマ生成装置)10と、プラズマ生成装置10へ測定対象のサンプルガス9を供給するサンプリングユニット(サンプリング装置)90と、生成されたプラズマ19を介してサンプルガス9を分析する分析ユニット21とを含む。プラズマ生成装置10は、誘電性の壁体構造12aを備え、サンプリング装置90を介して供給される測定対象のサンプルガス9のみが流入するチェンバー(サンプリングチェンバー)12と、誘電性の壁体構造12aを介して高周波電場および/または磁場により、減圧されたサンプリングチェンバー12内でプラズマ19を生成する高周波供給機構(RF供給機構、RF供給装置)13と、サンプリングチェンバー12内の制御電極17によりプラズマ19の電位(浮遊電位)Vfを制御する浮遊電位供給機構(浮遊電位制御機構、浮遊電位供給装置)16とを含む。
【0012】
本例のガス分析装置1は、質量分析型であり、分析ユニット(分析器)21は、プラズマ生成装置10でプラズマ19として生成された、イオン化されたサンプルガス(サンプルガスイオン)8を質量電荷比によりフィルタリングするフィルターユニット(フィルター、本例においては四重極フィルター)20と、プラズマ19の一部をイオン流8として引き込むフォーカス電極(イオン引き込み光学系)25と、フィルタリングされたイオンを検出するディテクタユニット(ディテクタ)30と、分析ユニット21を収納した真空容器(ハウジング)40とを有する。ガス分析装置1は、ハウジング40の内部を適当な負圧条件(真空条件)に維持する排気システム60を含む。本例の排気システム60は、ターボモレキュラポンプ(TMP)61と、ルーツポンプ62とを含む。排気システム60は、TMP61と、ルーツポンプ62との間に形成される中間的な負圧を用いてプラズマ生成装置10のサンプリングチェンバー12の内圧も制御するデュアルタイプである。
【0013】
排気システム60により減圧されたサンプリングチェンバー12にはサンプリング装置90を介してプロセスチャンバー71からのサンプルガス9のみが流入し、サンプリングチェンバー12の内部でプラズマ19が形成される。チェンバー12はマクロプラズマでもなく、ナノプラズマでもない中間領域のマイクロプラズマの生成を目的として設計されている。マイクロプラズマ19の一例は、大きさが数mm程度から100μm程度の領域に広がるプラズマである。さらに、この程度のサイズのプラズマ19を生成することを目的とするため、プラズマ生成ユニット10においては、アルゴンガスなどのアシストガス(サポートガス)は用いずに、サンプルガス9のみにより分析用のプラズマ19が生成される。サンプリングチェンバー12の壁体12aは誘電性の部材(誘電体)から構成されており、その一例は、石英(Quartz)、酸化アルミニウム(Al)および窒化ケイ素(SiN)などのプラズマに対して耐久性が高い誘電体である。
【0014】
また、サンプリングチェンバー12は、マイクロプラズマ19の生成に適した小型のチェンバーであり、例えば、サンプリングチェンバー12の全長は1-100mm、直径は1-100mmであってもよい。全長および直径は、5mm以上であってもよく、10mm以上であってもよく、80mm以下であってもよく、50mm以下であってもよく、30mm以下であってもよい。サンプリングチェンバー12の容量は、1mm以上であってもよく、10mm以下であってもよい。サンプリングチェンバー12の容量は、10mm以上であってもよく、30mm以上であってもよく、100mm以上であってもよい。サンプリングチェンバー12の容量は、10mm以下であってもよく、10mm以下であってもよい。この程度のサイズの空間であれば、チャンバー内に配置された電極17により空間内部の電位(電場)の制御を容易に行える。
【0015】
プラズマ生成ユニット10のプラズマ生成する機構(RF供給機構)13は、サンプリングチェンバー12の内部で、電極を用いずに、また、プラズマトーチを用いずに、誘電性の壁体構造12aを介して電場および/または磁場によりプラズマ19を生成する。RF供給機構13の一例は高周波(RF、Radio Frequency)電力でプラズマ19を励起する機構である。RF供給機構13の例としては、誘電結合プラズマ(ICP、Inductively Coupled Plasma)、誘電体バリア放電(DBD、Dielectric Barrier Discharge)、電子サイクロトロン共鳴(ECR、Electron Cyclotron Resonance)などの方式を挙げることができる。これらの方式のプラズマ生成機構13は、高周波電源15と、RF場形成ユニット14とを含む。RF場形成ユニット14の典型的なものは、サンプリングチェンバー12の代表的な方向、例えば、サンプリングチェンバー12が円筒状であれば、一方の端面または直径方向に沿って配置されたコイルを含む。
【0016】
サンプリングチェンバー(容器)12の内圧は、ガス分析装置1と共通の排気システム60、独立した排気システム、またはプロセス装置と共通の排気システムなどを用いて、適当な負圧に制御される。サンプリングチェンバー12の内圧は、マイクロプラズマ19が生成されやすい圧力、例えば、0.01-1kPaの範囲であってもよい。プロセスチェンバー71の内圧が1-数100Pa程度に管理される場合、サンプリングチェンバー12の内圧は、それより低い圧力、例えば、0.1-数10Pa程度に管理されてもよく、0.1Pa以上、または0.5Pa以上、10Pa以下、または5Pa以下に管理されてもよい。例えば、サンプリングチェンバー12は内部が、1-10mTorr(0.13-1.3Pa)程度に減圧されてもよい。サンプリングチェンバー12を上記の程度の減圧に維持することにより、サンプルガス9のみで、低温でマイクロプラズマ19を生成することが可能である。
【0017】
プロセスモニター50(ガス分析装置1)において、監視対象はプラズマプロセスを実施するプロセスチェンバー71からサンプリング装置90を介して供給されるサンプルガス9である。このサンプリングチェンバー12内においては、アーク放電あるいはプラズマトーチなどを用いずに、適当な条件でRF電力を供給することにより、サンプルガス9を導入するだけでプラズマ19を維持できる。アルゴンガスなどのサポートガスを不要とすることにより、サンプルガス9のみが電離したプラズマ19を生成して、ガス分析ユニット21に供給できる。このため、サンプルガス9の測定精度が高く、ガス成分のみならず、成分の定量測定を可能とするガス分析装置1を提供できる。このため、ガス分析装置1を搭載するプロセスモニター(プロセスモニタリング装置)50においては、プロセス装置のプロセスチェンバー71の内部の状態を、長期間にわたり、安定して、精度よく監視することができる。
【0018】
さらに、長期間にわたり、安定して、精度よく監視するための測定結果をガス分析装置1において取得するためにはサンプリングチェンバー12内において浮遊電位Vfあるいは帯電電圧が安定したプラズマ19を生成することも重要である。このガス分析装置1においてはプラズマ19の浮遊電位を制御することにより、さらに安定した測定を可能としている。
【0019】
プロセスモニター50においては、プロセスチェンバー71とは独立した、ガス分析専用のサンプリングチェンバー12によりサンプルガス9のプラズマ19を生成する。したがって、プロセスチェンバー71とは異なる条件で、サンプリングおよびガス分析のために適した条件のマイクロプラズマ19をサンプリングチェンバー12内で生成できる。例えば、プロセスチェンバー71にプロセスプラズマあるいはクリーニングプラズマが生成されていないときでも、プロセスチェンバー71の内部の状態を、サンプルガス9をプラズマ化することにより監視できる。また、サンプリングチェンバー12は、マイクロプラズマ19を生成するために適した小型の、例えば、数mmから数10mm程度のチェンバー(ミニチュアチェンバー)であってよい。サンプリングチェンバー12の容量が小さいことにより、分析装置1の全体をコンパクトおよび軽量に纏めることができるとともに、リアルタイム測定に適したガス分析装置1を提供できる。ガス分析装置1は、可搬式であってもよく、ハンディータイプであってもよい。
【0020】
プラズマ19の電位(浮遊電位)を制御する浮遊電位供給機構(供給装置、浮遊電位制御機構)16は、サンプリングチェンバー12の内面に沿って配置された円筒状の制御電極17と、制御電極17の電位を制御する直流電源18とを含む。制御電極17は、周面の一部を欠いた円筒状の形状であってもよく、渦電流の発生を抑制できる。制御電極17は、サンプルガス9の腐食性に問題がない場合は、ステンレス、ニッケル、モリブデンなどの金属を使用してもよい。サンプルガス9の耐食性を考慮する場合は、耐腐食性の材料であるハステロイ、タングステン、チタン、カーボン(グラファイト)などの耐食性導電材料を用いてもよい。
【0021】
サンプリングチェンバー12は、円筒状であってもよい。このプラズマ生成ユニット10においては、円筒状のサンプリングチェンバー12に対し、チェンバー12を横切る中心軸方向(第2の方向)に直交する直径方向(第1の方向)に、RF場形成ユニット14が例えば一方の端面に沿って配置され、中心軸方向(第2の方向)に沿ったチェンバー12の周方向(第2の方向)に、円筒状の内面に沿って、浮遊電位Vfを制御する電極(第1の電極)17が配置されている。この構成であれば、浮遊電位を制御する円筒状の制御電極17の一方の端または両方の端の開口に面して配置されたRF場形成ユニット14によりプラズマ19を形成するためのRF場が供給される。このため、プラズマ19を生成する場と、プラズマ19の浮遊電位を制御する場との干渉を抑制でき、プラズマ19を安定して生成できるとともに、浮遊電位を制御しやすい。
【0022】
浮遊電位Vfの制御用の電極(第1の電極)17は、円筒状であってもよく、円筒の一部を欠いた形状であってもよく、半円筒状、平面(平板)の組み合わせなどであってもよい。RF場形成ユニット14により供給されるRF場により、マイクロプラズマ19を第1の電極17に囲われた範囲に浮遊させるように形成することにより、第1の電極17によりマイクロプラズマ19の電位制御が容易となる。特に、マイクロプラズマ19のサイズ(マイクロプラズマ19が生成される空間のサイズ)であると、電極17とRF場形成ユニット14とを直交するような配置として、電極17の一方の端あるいは両方の端からRF場を供給することにより電極17の内部にプラズマ19を生成できる。浮遊電位Vfを制御する電極17とRF場形成ユニット14との配置は上記に限定されないが、これらを直交するように配置することは、相互の干渉を抑制して効率よくプラズマ19を生成するとともに、生成されたプラズマ19の浮遊電位(浮遊電圧)Vfを制御するために適した配置の1つである。
【0023】
分析ユニット21の制御ユニット(制御装置)51は、プロセス監視装置50である分析装置1の制御ユニットを兼ねていてもよい。制御装置51は、フィルターユニット(フィルター)20の制御を行うフィルター制御ユニット(フィルター制御機能、フィルター制御装置)53と、ディテクタユニット(ディテクタ)30の制御を行うディテクタ制御ユニット(ディテクタ制御機能、ディテクタ制御装置)54と、管理制御装置(管理装置、管理機能、管理ユニット)55とを含む。制御ユニット51は、メモリ57およびCPU58を含むコンピュータ資源を備えていてもよく、制御ユニット51の機能はメモリ57に記録されたプログラム59で提供されてもよい。プログラム(プログラム製品)59は、適当な記録媒体に記録して提供されてもよい。
【0024】
本例の分析ユニット21は質量分析型、特に、四重極質量分析型であり、フィルターユニット20は四重極フィルターである。フィルター制御ユニット53は、四重極に対して高周波および直流を印加する駆動ユニット(RF/DCユニット)としての機能を含む。フィルターユニット20は、マイクロプラズマ19として供給されるイオン化されたサンプルガス(イオン流)8を質量電荷比によりフィルタリングする。ディテクタ制御ユニット54は、フィルターユニット20を通過したイオンによりディテクタユニット(検出ユニット、コレクターユニット、ディテクタ)30、例えば、ファラデーカップで生成されるイオン電流を捉えてサンプルガス9に含まれる成分を検出する機能を含む。
【0025】
管理制御装置(管理制御ユニット)55は、分析ユニット21により実行される測定(検出)モードを制御する。測定モードには、サンプルガス9に含まれる主要な成分を短時間で測定するモード、サンプルガス9に含まれる全ての成分を比較的長い時間で測定するモード、サンプルガス9の特定の1または複数の成分を検出するモード、成分が判明しているテストガスがサンプルガスとして供給されたときに、その成分を所定のモードで検出してフィルターユニット20およびディテクタユニット30の設定を変更したり、測定結果をキャリブレーションするモードなどが含まれる。管理制御ユニット55は、測定対象の成分の比率が高すぎたり低すぎたりすることによりディテクタ30の適当な感度が得られる範囲で測定結果が得られないときに、分析ユニット21にイオン流8として流入するプラズマ19の量を制御する、あるいは制御するようにプラズマ19の浮遊電位Vfの変更を要請する機能を備えていてもよい。
【0026】
プラズマ生成ユニット10を制御するプラズマ生成制御ユニット(プラズマ生成制御装置、生成制御装置)11はプログラマブルな制御装置であってもよく、サンプリングチェンバー12においてプラズマ19を生成するための高周波電源15の周波数、電圧などを制御する機能(RF制御ユニット)11aと、浮遊電位供給機構16の制御電極17に供給される電圧を制御する機能(プラズマ電位制御ユニット、電位制御装置、電圧制御装置)11bとを含む。プラズマ生成制御ユニット11は、排気システム60との接続ラインに設けられた圧力制御弁65によりサンプリングチェンバー12の内圧を制御する機能11cを備えていてもよい。これらのファクターを制御することにより、プロセスチェンバー71において実施されるプロセスの種類が変わったり、分析ユニット21の制御装置51の管理ユニット55からの要求に基づいてプロセスの状態が変化しても、サンプリングチェンバー12内にプラズマ19を安定して生成することができる。したがって、分析装置1を含むプロセス監視装置50により継続してサンプルガス9を分析し、プロセスを監視できる。
【0027】
電位制御ユニット11bは、チェンバー12の内面に沿って配置された第1の電極17により、プラズマ19の浮遊電位Vfを、チェンバー12から分析ユニット21にプラズマ19がイオン流8として流入するように制御する。サンプルガス9のプラズマ19の正イオンの検出および計測を行う場合は、プラズマ電位(浮遊電位)を四重極電場の中心電位に対して+5~15V程度、プラス(プラス電位、正電位)に浮遊させるように制御電極17に電圧を供給する。フィルターユニット20の中心電位に対して、プラズマ19の浮遊電位Vfを正電位に保持することにより、フィルターユニット20に対し、プラズマ19,すなわち、検出対象の正イオンを供給しやすくなり、精度の高い検出または計測が可能となる。四重極の中心電位は、例えば、迷走イオンや迷走電子の検出によるノイズを低減させるため、正イオン検出の時には+10V以上、例えば、+10V~100V程度印加する。負イオンの計測が必要な場合には、イオン源となるプラズマ19の浮遊電位を接地電位に対して負にバイアスし、ディテクタユニット30のファラデーカップを接地電位にしてもよい。
【0028】
電位制御ユニット11bは、浮遊電位Vfをフィルターユニット20の中心電位に対して予め設定された所定の電位差ΔVを備えた基準電位V0を維持するように設定する第1の制御ユニット(制御装置)11xと、基準電位V0に対し、分析ユニット21の分析結果または分析条件により分析ユニット21に対するプラズマ19の流入量が変化するように浮遊電位Vfを上下に変動させる第2の制御ユニット(制御装置)11yとを含む。すなわち、電位制御ユニット11bは、浮遊電位Vfをフィルターユニット20の中心電位に対して予め設定された所定の電位差ΔVを備えた基準電位V0を維持し、要求があると、この基準電位V0に対し、分析ユニット21の分析結果または分析条件により分析ユニット21に対するプラズマ19の流入量が変化するように浮遊電位Vfを上下に変動させるように構成されている。
【0029】
例えば、管理制御ユニット55に、分析ユニット21によりサンプルガス9に含まれる主要な成分を短時間で測定するモードが設定されていれば、電位制御ユニット11bは第2の制御機能11yにより基準電位V0に対して浮遊電位Vfを電位差が大きくなる方向に変化させて分析ユニット21との間に大きな電圧勾配を作り、プラズマ19の流入量の拡大を図ることができる。逆に、管理制御ユニット55にサンプルガス9に含まれる全ての成分を比較的長い時間で測定するモードが設定されていれば、電位制御ユニット11bは第2の制御機能11yにより基準電位V0に対して浮遊電位Vfを電位差が小さくなる方向に変化させて分析ユニット21との間の電圧勾配を縮小し、分析ユニット21に対するプラズマ19の流入量の縮小を図ってもよい。管理制御ユニット55が、測定対象の成分の比率が高すぎたり低すぎたりすることによりディテクタ30の適当な感度が得られる範囲で測定結果が得られないときに、電位制御ユニット11bに対し、チェンバー12内のプラズマ19と分析ユニット21との間に適当な電圧勾配が作られるような浮遊電位Vfとなるように要求を出し、電位制御ユニット11bが電極17の電位を制御して適当な浮遊電位Vfをプラズマ19に設定してもよい。
【0030】
図3に、分析装置1のプラズマ生成装置10の浮遊電位Vfの制御方法の概要をフローチャートにより示している。ステップ81において、電位制御ユニット11bが浮遊電位Vfの変更の要請を受けていない場合は、ステップ82において予め設定されている基準電位V0、例えば、四重極電場の中心電位に対して+5~15V程度の範囲のいずれかの値に設定する。分析装置21の管理制御ユニット55などから浮遊電位Vfの変更の要請がある場合は、それに対応する。例えば、ステップ83において、分析ユニット(分析器)21のフィルター20に対し、イオン流8として流入するマイクロプラズマ19の流入量の増加の要請のある場合は、ステップ84において、浮遊電位Vfを電位差が拡大する(大きくなる、開く)方向、例えば、さらに高電位になるように設定する(変動させる)。ステップ85において、プラズマ19の流入量の減少(削減)の要請がある場合は、ステップ86において、浮遊電位Vfを電位差が縮小する(少なくなる)方向、例えば、低電位になるように設定する(変動させる)。流入量を示す要求ではなく、例えば、管理制御ユニット55から短時間測定あるいは精密測定などのモードの変化に伴う要請がある場合は、ステップ87において、所定の測定モードに適した浮遊電位Vfを設定する。
【0031】
この制御方法は一例であり、プラズマ生成装置10は、チェンバー12内に配置された浮遊電位制御用の電極17を含む電位制御機構(電位供給機構、電位供給装置)16を備えているので、プラズマ生成装置10を用いたアプリケーションの要求により、チェンバー12から供給されるマイクロプラズマ19の電位を自由に調整することができる。
【0032】
なお、余分な迷走電子(負の電荷)によるノイズ成分の検出を防ぐために、フィルターユニット(質量分析計)20およびディテクタユニット(ファラデーカップ)30は、簡単にはパイプなどのシールドで囲ってもよい。また、上記では、四重極タイプの質量分析装置を例に説明しているが、フィルター部20は、イオントラップ型であってもよく、ウィーンフィルターなどの他のタイプであってもよい。また、フィルター部20は、質量分析型に限らず、イオン移動度などの他の物理量を用いてガスの分子または原子をフィルタリングするものであってもよい。また、ガス分析ユニットは、発光分析ユニットなどの光学分析装置であってもよい。プラズマ生成装置の一例としてガス分析装置に用いられる例を示しているが、マイクロプラズマはガス分析に限らず、微細加工、ヘルスケアなどにおけるバクテリアの不活性化など、多種多様なアプリケーションへの適用が現在検討されており、それらについても本発明は有効である。
【0033】
また、上記においては、本発明の特定の実施形態を説明したが、様々な他の実施形態および変形例は本発明の範囲および精神から逸脱することなく当業者が想到し得ることであり、そのような他の実施形態および変形は以下の請求の範囲の対象となり、本発明は以下の請求の範囲により規定されるものである。
図1
図2
図3