IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ SKG株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-波動歯車装置 図1
  • 特許-波動歯車装置 図2
  • 特許-波動歯車装置 図3
  • 特許-波動歯車装置 図4
  • 特許-波動歯車装置 図5
  • 特許-波動歯車装置 図6
  • 特許-波動歯車装置 図7
  • 特許-波動歯車装置 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-11
(45)【発行日】2022-03-22
(54)【発明の名称】波動歯車装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20220314BHJP
【FI】
F16H1/32 B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022506010
(86)(22)【出願日】2021-09-16
(86)【国際出願番号】 JP2021034077
【審査請求日】2022-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】516272490
【氏名又は名称】SKG株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100175019
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 健朗
(74)【代理人】
【識別番号】100195648
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 悠太
(74)【代理人】
【識別番号】100104329
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 卓治
(72)【発明者】
【氏名】今川 豊
【審査官】岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-194150(JP,A)
【文献】国際公開第2019/030843(WO,A1)
【文献】特開2020-197264(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に沿って形成されたインナギアを有するインターナルギア部と、
回転入力に応じて軸線を中心として回転するカム部を有する波動発生部と、
前記インナギアよりも少ない歯数で外周面に沿って形成され、内周側が前記波動発生部に嵌め込まれたリング状のアウタギアを有するフレックスギア部と、
前記インターナルギア部に対し、前記フレックスギア部と共に回転する出力部と、を備え、
前記カム部は、前記軸線を中心とした円周方向において等間隔で位置するN(Nは、2以上の整数)個の極部を有し、前記アウタギアをN箇所で前記インナギアと噛み合わせ、
前記フレックスギア部は、前記アウタギアと同じ材料で一体に形成され、前記軸線に沿う方向において前記アウタギアよりも前記出力部の近くに位置する第1環状部を有し、
前記出力部は、前記軸線を中心とした径方向において前記第1環状部と対向する第2環状部を有し、
前記第1環状部及び前記第2環状部の一方には前記径方向に沿って突起する伝達歯が設けられ、前記第1環状部及び前記第2環状部の他方には前記伝達歯が挿入される凹部が設けられ、
前記凹部は、前記伝達歯よりも前記円周方向に沿う幅が広く、前記フレックスギア部及び前記出力部の前記円周方向における相対的な変位を許容し、
前記伝達歯及び前記凹部の対である伝達対は、複数あり、前記円周方向に配列されている、
波動歯車装置。
【請求項2】
前記伝達対は、2×N個以上あり、前記円周方向において等間隔で配列されている、
請求項1に記載の波動歯車装置。
【請求項3】
複数の前記伝達対は、
前記カム部が前記軸線を中心として回転している際に、前記伝達歯が前記凹部の前記円周方向における一端に位置する第1の対と、前記伝達歯が前記凹部の前記円周方向における他端に位置する第2の対と、を含む、
請求項1又は2に記載の波動歯車装置。
【請求項4】
前記第1の対はN個あり、前記第2の対はN個ある、
請求項3に記載の波動歯車装置。
【請求項5】
前記第1の対と前記第2の対は、前記軸線を中心とした角度において、360°/(2×N)毎に交互に存在する、
請求項4に記載の波動歯車装置。
【請求項6】
複数の前記伝達対のうち、少なくとも、前記カム部の極部に対応する位置にあるN個の伝達対においては、前記径方向で前記伝達歯と前記凹部とが離れ、
前記第1環状部は、前記第2環状部に対する前記径方向の変位を許容する、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の波動歯車装置。
【請求項7】
前記第1環状部は、前記アウタギアよりも直径が小さく、
前記フレックスギア部は、前記アウタギアと前記第1環状部を接続するとともに、前記アウタギア及び前記第1環状部と同じ材料で一体に形成された接続部を有する、
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の波動歯車装置。
【請求項8】
前記第2環状部は、前記第1環状部の内周側に位置する、
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の波動歯車装置。
【請求項9】
前記第2環状部は、前記第1環状部の外周側に位置する、
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の波動歯車装置。
【請求項10】
前記出力部を前記インターナルギア部に対して回転可能に支持する支持部をさらに備え、
前記第1環状部及び前記第2環状部は、前記支持部と前記カム部との間に位置し、
前記支持部は、前記インターナルギア部と前記軸線方向に沿うネジによって固定される外輪と、前記出力部と固定される内輪とを備え、
前記インターナルギア部は、
前記軸線方向に沿って形成され、前記ネジが挿入される挿入孔と、
前記挿入孔と前記第1環状部との間に位置する特定部と、を備え、
前記特定部は、前記軸線方向において前記外輪と対向する部分に、前記軸線を中心とした環状の溝を有し、
前記環状の溝には、Oリングが嵌められている、
請求項8に記載の波動歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、波動歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
減速機として、波動歯車装置を用いたものがある。例えば、特許文献1に記載の波動歯車装置は、入力回転要素である波動発生部に嵌められるフレックスギア部と、フレックスギア部と噛み合うインターナルギア部と、フレックスギア部の回転に応じて回転する出力プレート部とを備える。出力プレート部は、波動歯車装置における減速回転の出力要素である。このフレックスギア部には、円周方向に沿って配列された複数の伝達ピン部が設けられている。伝達ピン部は、出力要素の回転軸線に沿って延びる伝達ピン本体と、伝達ピン本体に回転可能に支持された伝達ローラとを備える。出力プレート部には、伝達ローラが挿入される孔であって、回転伝達時に伝達ピン部の周方向及び放射方向の少なくともいずれかの変位を許容する孔が設けられている。
【0003】
また、特許文献2には、前記インターナルギア部に相当する構成として、一対の第1内歯歯車及び第2内歯歯車が設けられた、デュアルタイプの波動歯車装置が記載されている。この装置では、前記フレックスギア部に相当する外歯歯車が、第1内歯歯車と噛み合う第1外歯と、第2内歯歯車と噛み合う第2外歯と、両者を連結するリムとを備えて一体に形成される。第1内歯歯車は回転しない固定要素である一方で、第2内歯歯車は回転自在であって波動歯車装置の出力要素である。つまり、このデュアルタイプの波動歯車装置は、外歯歯車の回転動力を第2外歯から第2内歯歯車に伝達して減速回転出力を得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-194150号公報
【文献】特許第6552571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、回転するフレックスギア部から出力要素への力の伝達点として、出力要素の回転軸線を中心とした円周方向に配列された複数の仮想点を考える。回転するフレックスギア部から各仮想点に加わる力のベクトルは、均一に円周方向に向く訳ではなく、フレックスギア部の可撓性、波動発生部のカム形状などに起因して、地点によって位相にずれが生じる。このように位相ずれを起こした力のベクトルを多分に含んだフレックスギア部には、出力要素を回転させるためのトルクに寄与しない無用な応力が生じ、無用なねじれの力が加わるという問題がある。
【0006】
特許文献2に記載の構成では、この無用なねじれの力を逃がしきれず、フレックスギア部が破損して装置が故障する虞がある。また、特許文献2に記載の装置では、出力要素である第2内歯歯車と、フレックスギア部の第2外歯との歯数が異なる。この歯数の違いにより、波動発生部が回転すると、第2外歯と第2内歯歯車の噛み合い位置が円周方向に移動するため、フレックスギア部と出力要素の相対位置が所望の位置からずれてしまい、装置が故障する虞もある。また、デュアルタイプの波動歯車装置は、構造が複雑である。
【0007】
一方、特許文献1に記載の装置は、前記の無用なねじれの力が生じることを抑制可能である。しかしながら、この装置も構造が複雑であり、フレックスギア部に伝達ピン部を精度良く取り付ける加工は容易ではない。また、伝達ピン部をフレックスギア部に取り付ける加工によって、フレックスギア部が脆くなってしまう可能性もある。
【0008】
本開示は、簡潔な構造で、故障のリスクを減らすことができる波動歯車装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本開示に係る波動歯車装置は、
内周面に沿って形成されたインナギアを有するインターナルギア部と、
回転入力に応じて軸線を中心として回転するカム部を有する波動発生部と、
前記インナギアよりも少ない歯数で外周面に沿って形成され、内周側が前記波動発生部に嵌め込まれたリング状のアウタギアを有するフレックスギア部と、
前記インターナルギア部に対し、前記フレックスギア部と共に回転する出力部と、を備え、
前記カム部は、前記軸線を中心とした円周方向において等間隔で位置するN(Nは、2以上の整数)個の極部を有し、前記アウタギアをN箇所で前記インナギアと噛み合わせ、
前記フレックスギア部は、前記アウタギアと同じ材料で一体に形成され、前記軸線に沿う方向において前記アウタギアよりも前記出力部の近くに位置する第1環状部を有し、
前記出力部は、前記軸線を中心とした径方向において前記第1環状部と対向する第2環状部を有し、
前記第1環状部及び前記第2環状部の一方には前記径方向に沿って突起する伝達歯が設けられ、前記第1環状部及び前記第2環状部の他方には前記伝達歯が挿入される凹部が設けられ、
前記凹部は、前記伝達歯よりも前記円周方向に沿う幅が広く、前記フレックスギア部及び前記出力部の前記円周方向における相対的な変位を許容し、
前記伝達歯及び前記凹部の対である伝達対は、複数あり、前記円周方向に配列されている。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、簡潔な構造で、故障のリスクを減らすことができる波動歯車装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の一実施形態に係る波動歯車装置の主要構成の概略断面図。
図2】同上実施形態に係る波動歯車装置の主要構成を軸線方向から見た図であって、カム部の極数が2である場合を示す図。
図3図2のフレックスギア部の外周面の一部を示す図。
図4】同上実施形態に係る伝達対の配置及び機能を説明するための図。
図5】カム部とフレックスギア部を軸線方向から見た図であって、カム部の極数が3である場合を示す図。
図6】カム部とフレックスギア部を軸線方向から見た図であって、カム部の極数が4である場合を示す図。
図7】変形例1に係る伝達対の配置及び機能を説明するための図。
図8】変形例2に係る伝達対の形状を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0013】
波動歯車装置100は、図1に示すように、産業用のロボット200に組み込まれる。ロボット200は、例えば垂直多関節ロボットから構成される。ロボット200は、第1アーム211と、第1アーム211と波動歯車装置100を介して連結された第2アーム212と、モータ213と、図示せぬコントローラと、を備える。モータ213は、サーボモータ等からなり、コントローラの制御により動作する。コントローラは、第1アーム211に内蔵されたモータ213及び波動歯車装置100を介して第2アーム212を回転駆動することで、第1アーム211に対する第2アーム212の位置決め制御、角度制御及び回転速度制御を行う。
【0014】
波動歯車装置100は、波動発生部10と、フレックスギア部20と、インターナルギア部30と、出力部40と、支持部50と、を備える。
【0015】
なお、図1では、見易さを考慮して一部構成の断面を示すハッチングを省略するとともに、波動歯車装置100以外の構成を仮想線で示した。以下では、波動歯車装置100の構成を説明する際に、図1における右側を入力側(図示Si)と呼び、左側を出力側(図示So)と呼ぶことがある。
【0016】
波動発生部10は、円筒軸部11と、円筒軸部11と一体に形成されたカム部12と、ウェーブベアリング13と、を備える。
【0017】
円筒軸部11は、入力側の端部がベアリングB1に回転可能に支持され、出力側の端部がベアリングB2に回転可能に支持されている。ベアリングB1は、第1アーム211に対して不動な不動部211aに設けられている。ベアリングB2は、出力部40の内周面に設けられている。ベアリングB1,B2は、例えばボールベアリングから構成される。これにより、円筒軸部11は、第1アーム211に対して軸線AX周りに回転可能に支持される。円筒軸部11には、モータ213の回転動力が公知の伝達機構を介して伝達される。この伝達機構は、ギア機構、タイミングベルトとプーリーを利用したベルト機構などであればよい。
【0018】
カム部12は、円筒軸部11の外周面から外径方向に突出して設けられている。カム部12は、軸線AXに沿う方向(以下、「軸線方向」とも言う。)においてベアリングB1と隣り合う位置に設けられている。カム部12は、軸線AXを中心とした円周方向において等間隔で位置するN(Nは、2以上の整数)個の極部を有する。以下では、カム部12が有する極部の数を極数と呼ぶ。例えば、極数がN=2の場合のカム部12は、図2に示すように、軸線方向から見て楕円状をなす。
【0019】
ウェーブベアリング13は、図1及び図2に示すように、カム部12の外周面に固定された内輪13iと、フレキシブルな外輪13oと、内輪13i及び外輪13oの間に転動可能な状態で挿入されている複数のボール13bと、を有する。なお、内輪13iは、カム部12の外周面を含む部分から構成されていてもよい。
【0020】
フレックスギア部20は、特殊鋼等の金属材によりフレキシブル性を有して形成され、アウタギア21と、第1環状部22と、接続部23と、を有する。アウタギア21、第1環状部22及び接続部23は、同じ材料で一体に形成されている。
【0021】
アウタギア21は、外周面に沿って形成された複数の歯21aを有してリング状に形成され、内周側が波動発生部10の外輪13oに嵌め込まれている。アウタギア21における複数の歯21aは、一定のピッチで円周方向に沿って配列されている。アウタギア21の歯21aの数である歯数tは、後述のインナギア31の歯31aの数である歯数Tよりも少ない。例えば、カム部12の極数がNの場合、歯数tと歯数Tの関係は、「T=t+N」が成り立つように設定される。例えば、N=2の場合には、「T=t+2」の関係が成り立つ。
【0022】
第1環状部22は、アウタギア21と軸線方向においてアウタギア21よりも出力部40の近くに位置する環状の部分である。第1環状部22には、図4に示すように、出力部40に設けられた伝達歯6aが挿入される凹部6bが設けられている。伝達歯6aと凹部6bが係合することで、フレックスギア部20の動力は、出力部40へ伝達される。凹部6bは、伝達歯6aと同数設けられ、軸線AXを中心とした円周方向に沿って複数設けられている。伝達歯6a及び凹部6bについては、後に詳述する。
【0023】
接続部23は、アウタギア21と、アウタギア21よりも直径が小さい第1環状部22とを接続する。図1に示すように、接続部23は、アウタギア21から第1環状部22に向かって軸線AXに近付くように傾斜している。
【0024】
なお、図2図3では、フレックスギア部20の第1環状部22の一部を示した。図3は、フレックスギア部20の外周面の一部を、図2に示す0°の方向から見た図である。
【0025】
インターナルギア部30は、金属材により剛性を有して形成され、第1アーム211の内側に固定される。インターナルギア部30は、カム部12に撓められたフレックスギア部20のアウタギア21と部分的に噛み合うインナギア31を有する。インナギア31は、内周面に沿って形成された複数の歯31aを有してリング状に形成されている。インナギア31における複数の歯31aは、一定のピッチで円周方向に沿って配列されている。
【0026】
インターナルギア部30は、概ね円筒状に形成される。波動歯車装置100の入力側では、インターナルギア部30と、ベアリングB1が設けられた不動部211aとが軸線方向において対向する。インターナルギア部30において不動部211aと対向する部分には、軸線AXを中心とした環状の溝が設けられ、この溝にはOリング71が嵌められている。インターナルギア部30は、軸線方向に沿うネジ81によって不動部211aに固定される。
【0027】
出力部40は、フレックスギア部20と共にインターナルギア部30に対して回転する。出力部40は、インターナルギア部30に対して軸線AX周りに回転可能に、支持部50によって支持されている。出力部40は、例えば、金属材により剛性を有してリング状に形成されている。
【0028】
出力部40は、軸線AXを中心とした径方向(以下、単に「径方向」とも言う。)において、第1環状部22と対向する第2環状部41と、第2環状部41よりも出力側に位置し、支持部50に支持される部分である被支持部42と、を有する。図4に示すように、本実施形態の第2環状部41は、フレックスギア部20の第1環状部22の内周側に位置する。第2環状部41には、伝達歯6aが設けられている。
【0029】
支持部50は、例えばクロスローラーベアリングから構成され、インターナルギア部30に固定される外輪51と、出力部40の被支持部42に固定される内輪52と、を備える。外輪51は、ネジ82によってインターナルギア部30に固定される。内輪52は、ネジ83によって被支持部42に固定される。ネジ82,83は、共に軸線方向に沿う。
【0030】
波動歯車装置100の出力側では、インターナルギア部30と、支持部50の外輪51とが軸線方向において対向する。インターナルギア部30は、軸線方向に沿って形成され、ネジ82が挿入される挿入孔32と、挿入孔32と第1環状部22との間に位置する特定部33と、を備える。特定部33は、軸線方向において外輪51と対向する部分に、軸線AXを中心とした環状の溝33aを有する。環状の溝33aには、Oリング72が嵌められている。Oリング72及び前述のOリング71は、装置の外部から水が浸入すること、装置の内部からオイルが漏れ出すこと等を防止する。
【0031】
この実施形態では、出力部40は、支持部50の内輪52を介して、波動歯車装置100の負荷である第2アーム212に接続される。これにより、出力部40の回転に伴って、第2アーム212は、軸線AX周りに回転する。なお、支持部50による出力部40の支持態様、出力部40と負荷の接続手法は、任意に変更可能である。
【0032】
図1に示すように、軸線方向における支持部50とカム部12との間に、フレックスギア部20の第1環状部22及び出力部40の第2環状部41が位置する。第2環状部41の伝達歯6aが第1環状部22の凹部6bによって軸線AXを中心とした円周方向(以下、単に「円周方向」とも言う。)に押されることで、出力部40は、フレックスギア部20と共に回転する。
【0033】
伝達歯6aは、フレックスギア部20の動力を出力部40に伝達するための構成である。伝達歯6aは、径方向に沿って第2環状部41の外周面から突起し、第1環状部22に凹部6bに挿入される。
【0034】
凹部6bは、第1環状部22の内周面に設けられている。凹部6bは、図4に示すように、伝達歯6aよりも円周方向(図2図3に示す符号Cの方向)に沿う幅が広い。これにより、凹部6bは、円周方向における伝達歯6aとの相対的な変位(つまり、フレックスギア部20及び出力部40の円周方向における相対的な変位)を許容する。伝達歯6a及び凹部6bのそれぞれの円周方向に沿う幅は、伝達歯6a及び凹部6bの対として、後述の第1の対61及び第2の対62が出現可能に設定されればよい。伝達歯6a及び凹部6bの対である伝達対は、円周方向に沿って複数設けられ、且つ、円周方向において等間隔で配列されている。
【0035】
(減速動作について)
次に、波動歯車装置100の減速動作について説明する。カム部12の極数Nは、2以上の整数であれば目的に応じて任意であるが、ここでは、カム部12が、N=2で楕円形状をなす場合について説明する。
【0036】
ロボット200のコントローラの制御によりモータ213が動作すると、モータ213の回転動力が図示せぬ伝達機構を介して波動発生部10のカム部12に伝達され、カム部12は、軸線AX周りに比較的高速で回転する。
【0037】
ここで、説明の理解を容易にするため、回転開始前のカム部12は、図2に示すように、その楕円形状の長軸が0°及び180°を通る軸に一致した初期位置にあるものとする。初期位置にあるカム部12は、2つの極部に対応した、0°及び180°の2箇所の噛合位置でフレックスギア部20のアウタギア21をインターナルギア部30のインナギア31に噛み合わせる。なお、図示の角度は、軸線AXを中心とした角度であり、12時の方向を0°として、時計方向に角度が増加するものとする。また、カム部12は、時計方向に回転するものとする。
【0038】
カム部12が初期位置からαの角度だけ時計方向に回転する際に、フレックスギア部20がインターナルギア部30に対して反時計方向に回転する角度をθとすると、θ={360°×(T-t)/T}×α/360°=(α/T)×Nが成り立つ。極数がN=2のカム部12を用いると、インナギア31とアウタギア21の歯数の差は、T-t=N=2であるため、θ=(α/T)×2が成り立つ。例えば、このカム部12が90°回転すると、フレックスギア部20は、歯数の差「2」の1/4(=90°/360°)である1/2歯分に相当する、θ=(90°/T)×2の角度だけ反時計方向に回転する。
【0039】
このように、カム部12の回転に応じて、フレックスギア部20が弾性変形し、インターナルギア部30との噛合位置が順次移動していく。そして、カム部12が360°回転すると、フレックスギア部20は、歯数の差「2」の分に相当する、θ=(360°/T)×2の角度だけ反時計方向に回転する。これにより、フレックスギア部20とともに回転移動する出力部40は、カム部12の回転速度に対して、減速比i=(T-t)/tで減速される。つまり、波動歯車装置100によれば、出力部40に接続される負荷(本例では、第2アーム212)を、上記の減速比iで減速した出力で、高精度で回転制御することができる。なお、減速比iは任意であるが、例えば、1/30~1/320程度で設定可能である。
【0040】
以上では、極数NがN=2の場合について説明したが、N≧3の場合についても考え方は同様であるため、ここで纏めて説明する。極数がN≧3の場合、軸線方向から見たカム部12の形状は、正N角形状をなすとともに、例えば、各極部、及び、隣り合う極部の間が外周方向に緩やかに膨らむ曲面状を有する。図5に極数Nが3の場合を、図6に極数Nが4の場合を示す。なお、図示しないが、N≧5の場合についても同様に実現することができる。
【0041】
フレックスギア部20のアウタギア21は、N個の極部を有するカム部12にウェーブベアリング13を介して撓められ、N箇所でインターナルギア部30のインナギア31と噛み合う。カム部12の極数がNの場合、アウタギア21の歯数t(以下、フレックスギア部20の歯数tとも言う。)とインナギア31の歯数T(以下、インターナルギア部30の歯数Tとも言う。)の関係は、「T=t+N」が成り立つように設定される。
そして、例えば、カム部12が時計方向に360°回転すると、フレックスギア部20がN歯分、反時計方向に移動する。つまり、カム部12の極数がNの場合、カム部12が(360°/N)の角度を回転すると、1歯分、インターナルギア部30に対してフレックスギア部20が移動する。カム部12の極数がNの場合、フレックスギア部20に固定された出力部40は、カム部12の回転速度に対して、減速比i=(T-t)/t=N/tで減速される。
【0042】
以上のように、波動歯車装置100は、カム部12の極数NをN=2に設定した場合であっても、N≧3に設定した場合であっても、モータ213からの回転入力に応じて波動発生部10のカム部12が回転すると、フレックスギア部20及びインターナルギア部30の両歯車の噛合位置が円周方向に移動していくとともに、両歯車の歯数差に応じて、フレックスギア部20がインターナルギア部30に対してカム部12とは逆方向に回転する。
【0043】
(伝達歯6a及び凹部6bについて)
ここからは、伝達歯6a及び凹部6bについて説明する。図4は、カム部12の極数がN=2の場合に好適な、伝達歯6a及び凹部6bの配置例を示している。
【0044】
なお、図4において、軸線方向から見たフレックスギア部20及び出力部40の図の外周側に示した図は、極数N=2のカム部12がモータ213の動作に応じて軸線AXを中心に回転している際における、伝達歯6a及び凹部6bの相対変位を図示0°~180°の範囲で示した図(以下、相対変位図と言う。)である。
【0045】
図4の相対変位図を見ると、伝達歯6aが設けられた各位置において、凹部6bに対する伝達歯6aの位置が一様では無いことが分かる。これは、前述の課題で述べたような位相ずれが生じることによる。本実施形態に係る波動歯車装置100は、以下に述べる伝達歯6a及び凹部6bの作用により、前記の位相ずれに起因して出力部40の回転に寄与しない無用な応力が生じることを低減し、良好な伝達効率で出力部40を回転させる。
【0046】
図4に示す例では、出力部40の第2環状部41には、円周方向において等間隔で配列された16個の伝達歯6aが設けられている。また、フレックスギア部20の第1環状部22には、16個の伝達歯6aの各々が挿入される、16個の凹部6bが設けられる。つまり、図4の例では、伝達歯6a及び凹部6bの対である伝達対は、16(=8×N)個あり、360°/16(=22.5°)毎に円周方向に配列されている。
【0047】
図4の相対変位図に示すように、0°方向に位置する伝達対において、伝達歯6aが凹部6bの円周方向における中央に位置している状態では、90°方向に位置する伝達歯6a、及び、180°方向に位置する伝達歯6aは、各々に対応する凹部6bの円周方向における中央に位置する。0°、90°、180°の各方向に位置する伝達歯6aは、各々に対応する凹部6bと円周方向で接していないため、出力部40の回転に寄与しない。
【0048】
以下では、図4の0°、90°、180°の各方向に位置する伝達対のように、伝達歯6aが円周方向における凹部6bの中央に位置する伝達対を、第1状態の伝達対と言う。つまり、第1状態の伝達対は、出力部40の回転に寄与しない。
【0049】
一方で、第1状態の伝達対が0°、90°、180°の各方向に位置している状態では、45°方向に位置する伝達歯6aは、挿入される凹部6bの一端(図中における時計方向の端)に位置する。また、当該状態では、135°方向に位置する伝達歯6aは、挿入される凹部6bの円周方向における他端(図中における反時計方向の端)に位置する。45°方向に位置する伝達歯6aは、カム部12が時計方向に回転している場合に反時計方向に移動するフレックスギア部20の凹部6bと、円周方向で当接するため、出力部40の回転に寄与する。135°方向に位置する伝達歯6aは、カム部12が反時計方向に回転している場合に時計方向に移動するフレックスギア部20の凹部6bと、円周方向で当接するため、出力部40の回転に寄与する。
【0050】
以下では、図4の45°、135°の各方向に位置する伝達対のように、伝達歯6aが円周方向において凹部6bと当接する伝達対を、第2状態の伝達対と言う。つまり、第2状態の伝達対は、出力部40の回転に寄与する。
【0051】
また、22.5°、67.5°、112.5°、157.5°の各方向に位置する伝達対は、第1状態と第2状態の一方から他方へと遷移する途中状態の伝達対である。この途中状態の伝達対も、伝達歯6aが凹部6bと円周方向で接していないため、出力部40の回転に寄与しない。
【0052】
なお、180°~360°の各範囲での伝達歯6a及び凹部6bの挙動は、0°~180°の範囲での伝達歯6a及び凹部6bと同様である。つまり、軸線AXに対する中心角が45°となる位置毎に、第1状態の伝達対と、第2状態の伝達対とが交互に出現する。また、図4の相対変位図は静的に示したが、フレックスギア部20の回転に応じて、第1状態の伝達対は、途中状態を介して第2状態の伝達対へと遷移する。逆に、第2状態の伝達対は、途中状態を介して第1状態の伝達対へと遷移する。
【0053】
図4に例示した伝達対について以下に纏める。
【0054】
カム部12の極数がN=2の場合、カム部12が(360°/2)の角度だけ回転すると、1歯分、インターナルギア部30に対してフレックスギア部20が移動する。このように、インターナルギア部30に対してフレックスギア部20を1歯分移動させるためのカム部12の回転角度である180°の範囲内においては、180°/4=45°毎に、第1状態の伝達対と、第2状態の伝達対とが交互に出現する。この180°の範囲内における伝達対は、伝達歯6aが凹部6bの円周方向における一端に位置する第1の対61と、伝達歯6aが凹部6bの円周方向における他端に位置する第2の対62と、を含む。
【0055】
図4の相対変位図では、第1の対61は、45°方向に位置する伝達対であり、第2の対62は、135°に位置する伝達対である。これを、360°の範囲内で考えれば、16個ある伝達対は、円周方向で等間隔に配列された2個の第1の対61と、円周方向で等間隔に配列された2個の第2の対62とを含む。360°の範囲内で、第1の対61と第2の対62は、90°毎に、交互に存在する。
【0056】
図4では、8×N=16個の伝達対を設けた例を示したが、図4で途中状態の伝達対に相当する箇所を省き、伝達対を(4×N)個にしてもよい。
【0057】
上記の考え方は、N=2の場合に限られず、一般化することができる。したがって、カム部12の極数がN(2以上の整数)で、伝達対が(4×N)個ある場合について説明する。ここでは、説明の理解を容易にするため、途中状態の伝達対を省いた個数として、(4×N)個を選定した。伝達対は、円周方向において等間隔に配列される。
【0058】
極数がNのカム部12が(360°/N)の角度だけ回転すると、1歯分、インターナルギア部30に対してフレックスギア部20が移動する。このように、インターナルギア部30に対してフレックスギア部20を1歯分移動させるためのカム部12の回転角度である(360°/N)の範囲内においては、360°/(4×N)毎に、第1状態の伝達対と第2状態の伝達対とが交互に出現する。この(360°/N)の範囲内における伝達対は、第1の対61と第2の対62と、を含む。これを、360°の範囲内で考えれば、(4×N)個ある伝達対は、円周方向で等間隔に配列されたN個の第1の対61と、円周方向で等間隔に配列されたN個の第2の対62とを含む。さらに、第1の対61と第2の対62は、360°/(2×N)毎に、交互に存在する。
【0059】
以上のように、第1状態の伝達対と第2状態の伝達対とが交互に出現することにより、円周方向における伝達歯6a及び凹部6bの相対変位を、いわばカム方式により吸収できる。したがって、波動歯車装置100によれば、出力部40を回転させるためのトルクに寄与しない無用な応力がフレックスギア部20及び出力部40の各々に生じることを低減し、無用なねじれの力がフレックスギア部20に加わることを低減できる。
【0060】
また、カム部12に撓められたフレックスギア部20が、インターナルギア部30に対して回転移動する際には、フレックスギア部20は、インターナルギア部30と噛み合いつつ移動するため、径方向の脈動を伴う。
【0061】
ここで、図4は、カム部12の極部に対応する0°及び180°の2箇所でフレックスギア部20をインターナルギア部30に噛み合わせている状態に対応する。つまり、図2及び図4のそれぞれに示したフレックスギア部20は対応する。カム部12の極部が0°及び180°に位置している場合、0°及び180°方向にある伝達対においては、径方向で伝達歯6aと凹部6bとが離れる。この際、90°及び270°方向の伝達対においては、径方向で伝達歯6aと凹部6bとが最も接近する。なお、径方向で伝達歯6aと凹部6bとが最も接近する際には、伝達歯6aと凹部6bが径方向で接していてもよいし、接していなくともよい。
0°~90°の間の伝達対においては、90°に近付くにつれて、伝達歯6aと凹部6bとの径方向の間隔が徐々に狭くなっていく。90°~180°の間の伝達対においては、180°に近付くにつれて、伝達歯6aと凹部6bとの径方向の間隔が徐々に広くなっていく。この関係は、180°~360°の範囲においても同様である。
【0062】
上記のように、少なくとも、カム部12の極部に対応する位置にある2個の伝達対においては、径方向で伝達歯6aと凹部6bとが離れる。そして、第1環状部22は、第2環状部41に対する径方向の変位を許容する。上記の考えは、N=2のときに限られず一般化できる。カム部12の極部がN個ある波動歯車装置100では、少なくとも、カム部12の極部に対応する位置にあるN個の伝達対においては、径方向で伝達歯6aと凹部6bとが離れる。そして、第1環状部22は、第2環状部41に対する径方向の変位を許容する。
【0063】
本実施形態の波動歯車装置100では、第1環状部22が第2環状部41に対する径方向の変位を許容できるため、前述の径方向の脈動を吸収することができる。この構成によっても、前述した無用な応力を低減することができる。なお、複数の伝達対の各々は、第1状態、第2状態、及び途中状態のいずれにおいても、凹部6bから伝達歯6aが外れない形状に設定される。
【0064】
また、第2状態の伝達対は、円周方向で等間隔に配列された第1の対61及び第2の対62を含む。これにより、フレックスギア部20から出力部40に円周方向の力を効率良く伝達することができる。
【0065】
結果として、本実施形態の波動歯車装置100によれば、フレックスギア部20及び出力部40を完全に固定した場合に生じるメカニカルロスを大幅に低減することができ、良好な伝達効率を実現することができる。また、フレックスギア部20が破損することを抑制することができる。
【0066】
また、フレックスギア部20から出力部40へ力を伝達する出力点(つまり、伝達対が設けられた位置)を円周方向に均等分散できるため、フレックスギア部20とインターナルギア部30の噛合箇所の1箇所あたりの負荷が軽減され、結果として高トルクで出力部40を回転させることができる。
【0067】
なお、伝達対の個数は、(4×N)個に限られない。Nの数によっては、伝達対の個数を任意に変更可能である。
例えば、カム部12の極数NがN=8の場合、伝達対を(4×N)=32個とすると、インターナルギア部30に対してフレックスギア部20を1歯分移動させるためのカム部12の回転角度である(360°/N)=45°の範囲内においては、{360°/(4×N)}=11.25°毎に、第1状態の伝達対と第2状態の伝達対とが交互に出現する。これを、360°の範囲内で考えれば、32個ある伝達対は、円周方向で等間隔に配列された8個の第1の対61と、円周方向で等間隔に配列された8個の第2の対62とを含む。
しかしながら、第1の対61と第2の対62は、それぞれ、4個ずつあれば、出力部40を安定して回転させるに充分であると考えられるため、伝達対を(2×N)=16個としてもよい。また、N=8の場合だけでなく、伝達対を(2×N)の個数に設定し、且つ、第1の対61と第2の対62をそれぞれN個ずつ設けることで、全ての伝達歯6aが出力部40の回転に寄与する構成も可能であると考えられる。さらに、Nの数によらず、伝達対の個数を設定してもよい。例えば、伝達対を円周方向に等間隔で16個配列するとともに、第1の対61の第2の対62のそれぞれを少なくとも4個以上設ければ、Nの数によらず、出力部40を安定して回転させることができる。こうすれば、伝達歯6aを設けた出力部40を、カム部12の極数Nによらず、共用することができるため、製造の効率化を図ることもできる。
【0068】
以上のように、伝達対の個数を、(2×N)個に設定した、又は、Nの数によらない固定値(例えば、16個)に設定した波動歯車装置100によっても、前述と同様な作用により、無用な応力を低減し、良好な伝達効率を実現することができる。
【0069】
なお、第1の対61において、「伝達歯6aが凹部6bの円周方向における一端に位置する」とは、伝達歯6aが、凹部6bの円周方向における一端と当接又は近接している態様であればよい。同様に、第2の対62において、「伝達歯6aが凹部6bの円周方向における他端に位置する」とは、伝達歯6aが、凹部6bの円周方向における他端と当接又は近接している態様であればよい。つまり、第1の対61、第2の対62は、フレックスギア部20が伝達歯6aに向かって移動した場合に、直ちに、凹部6bによって伝達歯6aを円周方向に押すことができる態様であればよい。
【0070】
また、複数の伝達対が「円周方向において等間隔で配列される」とは、円周方向において等間隔で配列された複数の伝達歯6aが、それぞれに対応する複数の凹部6bに挿入されている状態であればよい。例えば、0°、90°、180°の各方向に位置する伝達対とは、伝達歯6aが0°、90°、180°の各方向に位置する伝達対を指す。この関係は、他の角度においても同様である。なお、凹部6bは、可撓性を有するフレックスギア部20に設けられているため、伝達対の状態に応じて、対応する伝達歯6aに対して-2度~+2度の範囲内でずれが生じる。
【0071】
また、第1の対61及び第2の対62を創出できる限りにおいては、複数の伝達対は、円周方向において等間隔で配列されていなくともよい。この場合、出力部40を安定して回転させる観点から、複数の伝達歯6aが設けられた出力部40の全体の重心を軸線AXと一致させ、軸線AX周りの慣性モーメントの最小化を図ることが好ましい。
【0072】
また、波動歯車装置100では、支持部50とカム部12との間に、フレックスギア部20の第1環状部22及び出力部40の第2環状部41が位置する。これにより、回転の入力要素から出力要素までの軸線方向における距離を短くすることができる。結果的に、各構成を軸線方向にコンパクトにして、波動歯車装置100を小型に構成することができる。また、回転の入力要素から出力要素までの軸線方向における距離が短いと、互いに噛み合うフレックスギア部20及びインターナルギア部30に、軸線AXに対して斜めの方向の応力が加わりにくい。結果として、フレックスギア部20及びインターナルギア部30における一方の歯山と他方の歯底を軸線方向に沿って接触させることができ、互いの歯車の摩耗を抑制することができる。
【0073】
また、波動歯車装置100では、カム部12だけでなく、フレックスギア部20及び出力部40も、軸線方向から見てリング状をなす中空状である。このため、配線等を通す空間を装置の内部に確保することができる。また、フレックスギア部20の出力側の端部が閉塞されていないため、フレックスギア部20の肉厚をある程度確保しつつも、フレックスギア部20の可撓性を保つことができる。したがって、フレックスギア部20の座屈に対する耐性を良好とすることができ、破損しにくい。なお、フレックスギア部20の肉厚は限定されるものではないが、例えば、0.5mm~1mm程度に設定することが可能である。また、フレックスギア部20は、無底筒状であるため、加工し易い。なお、波動歯車装置100によれば、原理上バックラッシをなくすことができることや、ロストモーションを極小にできることは勿論である。
【0074】
また、波動歯車装置100によれば、カム部12の極数がN=2だけでなく、N≧3のバリエーションを提供することができることから、以下の利点も有する。まず、波動発生部10のカム部12が楕円状(N=2)に設定されている場合を考える。インターナルギア部30のピッチ円直径をDとし、フレックスギア部20のピッチ円直径をdとすれば、減速比iは、「i=(T-t)/t=2/t」あるいは、「i=(D-d)/d」と考えることができる。そうすると、減速比iの値を小さくする(より減速した回転出力を得る)には、歯数tを増やす、又は、インターナルギア部30の直径Dに対するフレックスギア部20の直径dの割合を大きくする必要がある。一方、減速比iの値を大きくする(回転出力の減速度合いを抑える)には、歯数tを減らす、又は、インターナルギア部30の直径Dに対するフレックスギア部20の直径dの割合を小さくする必要がある。このように、楕円状のカム部12にだけ頼ると、装置の大きさや条件に様々な制約が生じ、あらゆる減速比の実現が困難である。
【0075】
一方で、カム部12の極数がN≧3のバリエーションによれば、仮に、インターナルギア部30の歯数Tとフレックスギア部20の歯数tとの少なくともいずれかを一定に保ったとしても、減速比i=N/tから分かるように、極数を増やすだけで減速比の値を大きくすることができ、極数を減らすだけで減速比の値を小さくすることができる。極数のバリエーションに加えて、さらに、歯数Tや歯数tの設定や、フレックスギア部20やインターナルギア部30の口径を変更することで、ほぼ無数のバリエーションの減速比を実現することができる。
【0076】
なお、本開示は以上の実施形態及び図面によって限定されるものではない。本開示の要旨を変更しない範囲で、適宜、変更(構成要素の削除も含む)を加えることが可能である。以下に、波動歯車装置100の一部構成を変形した変形例を述べる。
【0077】
(変形例1)
図7に示す変形例1のように、出力部40をフレックスギア部20の外周側に位置させてもよい。この場合、出力部40の第2環状部41は、フレックスギア部20の第1環状部22の外周側に位置する。そして、第2環状部41に固定された伝達歯6aは、軸線AXに向かって延び、第1環状部22に設けられた凹部6bに挿入される。なお、図7において、軸線方向から見たフレックスギア部20及び出力部40の図の外周側に示した図は、極数がN=2のカム部12がモータ213の動作に応じて軸線AXを中心に回転している際における、図示0°~180°の範囲での伝達歯6a及び凹部6bの相対変位を示す図である。変形例1においても、伝達歯6a及び凹部6bの対である伝達対の個数及び機能は、前述の実施形態と同様に考えることができる。
【0078】
(変形例2)
以上の実施形態及び変形例1では、伝達歯6aが一様な幅で突起し、凹部6bも一様な幅で凹んでいる例を示したが、伝達部6a及び凹部6bの形状は限定されず、任意に変更可能である。例えば、図8に示す変形例2のように、伝達歯6aは凹部6bに向かって先細りのテーパ状であってもよく、凹部6bも伝達部6aに対応したテーパ状の凹みから形成されてもよい。
【0079】
以上では、第2環状部41に伝達歯6aを設け、第1環状部22に凹部6bを設けた例を示したが、この関係は逆であってもよい。つまり、隣り合う凹部6bの間の要素を伝達歯と捉え、隣り合う伝達歯6aの間の要素を凹部と捉えれば、第2環状部41に凹部を設け、第1環状部22に伝達歯を設けたと表現することもできる。この表現を用いても、伝達歯及び凹部の対の個数や機能は、前述の実施形態と同様に考えることができる。この表現において、複数の伝達対が「円周方向において等間隔で配列される」とは、例えば、円周方向において等間隔で配列された複数の凹部に、それぞれに対応する複数の伝達歯部が挿入されている状態であればよい。
【0080】
以上では、波動歯車装置100が垂直多関節ロボットからなるロボット200に組み込まれる例を示したが、これに限られない。波動歯車装置100は、水平多関節ロボット、デルタ型ロボットなど種々のロボットに組み込まれることが可能である。また、波動歯車装置100が組み込まれる装置はロボットに限定されず任意であり、回転入力に対して所望の減速比で減速した回転出力を得る目的で使用されるものであればよい。波動歯車装置100は、例えば、ロボット以外の精密機械、ホビー用品、家電、車載部品等に組み込まれるものであってもよい。
【0081】
また、フレックスギア部20の歯数tと、インターナルギア部30の歯数Tは、T>tであれば任意である。ただし、カム部12の極数がNの場合、歯数tと歯数Tの関係を「T=t+N」と設定することが好ましい。
【0082】
また、波動歯車装置100を構成する部材の材料は、任意であり、金属に限られず、エンジニアリングプラスチック、樹脂、セラミック等、目的に応じて適宜選択することができる。
【0083】
(1)以上に説明した波動歯車装置100は、フレックスギア部20の動力を出力部40に伝達する構成として、伝達歯6a及び凹部6bの対である伝達対を備える。凹部6bは、伝達歯6aよりも円周方向に沿う幅が広く、フレックスギア部20及び出力部40の円周方向における相対的な変位を許容する。この構成によれば、前述の通り、主にフレックスギア部20に加わる無用な応力を抑制することができるため、波動歯車装置100が破損しにくい。
また、フレックスギア部20は、アウタギア21と同じ材料で一体に形成された第1環状部22を有する。このため、構造が簡潔である。また、アウタギア21だけでなく、出力部40へ力を伝達する部分である第1環状部22を備えるフレックスギア部20を、例えば、切削加工で一度に製造することができるため、製造が容易である。
また、本開示の波動歯車装置100において、フレックスギア部20及び出力部40は、共に回転する。つまり、カム部12が回転しても、ある凹部6bに挿入された伝達歯6aが、その隣の凹部6bに移動することは無く、1つの伝達対を構成する伝達歯6aと凹部6bの係合関係は保たれる。本開示のフレックスギア部20は、アウタギア21がインターナルギア部30に対し、インナギア31との噛合位置がずれつつ回転する一方で、第1環状部22が出力部40の第2環状部41と係合しながら回転するギア機構を構成する。これは、フレックスギア部20に相当する外歯歯車と、出力要素に設けられた歯車との噛み合い位置がずれていく、前述のデュアルタイプの波動歯車装置との大きな差異である。上記のように、伝達歯6aと凹部6bの係合関係が保たれる波動歯車装置100によれば、デュアルタイプの波動歯車装置と比較して、フレックスギア部20と出力要素の相対位置が所望の位置からずれる問題が発生する可能性が少ない。
また、極数のNを任意に設定すれば、種々の減速比を簡易な構成で実現することができる。
【0084】
(2)伝達対は、2×N個以上あり、円周方向において等間隔で配列されていてもよい。この構成によれば、フレックスギア部20から出力部40へ力を伝達する出力点を円周方向に均等分散できるため、高トルクで出力部40を回転させることができる。なお、伝達対は、4×N以上あってもよいし、極数Nに関わらない固定数(例えば、16個)あってもよい。
【0085】
(3)複数の伝達対は、カム部12が軸線AXを中心として回転している際に、第1の対61及び第2の対62の条件を満たす伝達対を含む。この構成によれば、前述の通り、フレックスギア部20から出力部40に円周方向の力を効率良く伝達することができる。
(4)好ましくは、第1の対61はN個あり、第2の対62はN個ある。
(5)好ましくは、第1の対61と第2の対62は、軸線AXを中心とした角度において、360°/(2×N)毎に交互に存在する。
【0086】
(6)複数の伝達対のうち、少なくとも、カム部12の極部に対応する位置にあるN個の伝達対においては、径方向で伝達歯6aと凹部6bとが離れる。そして、第1環状部22は、第2環状部41に対する径方向の変位を許容する。この構成によれば、径方向におけるフレックスギア部20と出力部40の相対変位も吸収することができるため、前述した無用な応力をより良好に低減することができる。
【0087】
(7)第1環状部22は、アウタギア21よりも直径が小さい。そして、フレックスギア部20は、アウタギア21と第1環状部22を接続するとともに、前記アウタギア21及び第1環状部22と同じ材料で一体に形成された接続部23を有する。この構成により、第1環状部22の外周側に存在するスペースを有効利用できる。また、アウタギア21、第1環状部22及び接続部23を備えるフレックスギア部20を、例えば、切削加工で一度に製造することができるため、製造が容易である。
【0088】
(8)図4に示すように、第2環状部41が第1環状部22の内周側に位置する構成によれば、波動歯車装置100が径方向に大型化することを抑制することができる。
【0089】
(9)図7に示すように、第2環状部41が第1環状部22の外周側に位置する構成によれば、波動歯車装置100の軸線AX近傍に、配線等を通す空間を確保することができる。
【0090】
(10)第1環状部22及び第2環状部41は、支持部50とカム部12との間に位置する。この構成によれば、前述の通り、カム部12からフレックスギア部20の出力点までの軸線方向の長さを抑えることができ、各構成を軸線方向にコンパクトにして、波動歯車装置100を小型に構成することができる。
また、インターナルギア部30は、ネジ82が挿入される挿入孔32と、挿入孔32と第1環状部22との間に位置する特定部33と、を備える。特定部33は、軸線方向において外輪51と対向する部分に、軸線AXを中心とした環状の溝33aを有する。環状の溝33aには、Oリング72が嵌められている。ここで、波動歯車装置100では、第1環状部22と第2環状部41の噛み合いにより、フレックスギア部20の動力を出力部40に伝達する構造が採用され、フレックスギア部20を出力部40に固定するためのピン、ネジなどの固定部品が設けられていない。この固定部品を径方向に設けた場合、特定部33が径方向に狭くなってしまう。しかしながら、以上の波動歯車装置100によれば、この固定部品を設けずに済むため、Oリング72が嵌められる特定部33の配置スペースを確保できる。したがって、シール機能が損なわれずに済む。
なお、支持部50は、クロスローラーベアリングに限られず、ボールベアリング、出力部40を摺動回転可能に支持する軸受などであってもよい。
【0091】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
【0092】
以上の説明では、本開示の理解を容易にするために、公知の技術的事項の説明を適宜省略した。
【符号の説明】
【0093】
100…波動歯車装置
10…波動発生部、AX…軸線
11…円筒軸部、12…カム部、13…ウェーブベアリング
20…フレックスギア部
21…アウタギア、22…第1環状部、23…接続部
30…インターナルギア部
31…インナギア、32…挿入孔、33…特定部、33a…環状の溝
40…出力部
41…第2環状部、42…被支持部
50…支持部
51…外輪、52…内輪
6a…伝達歯、6b…凹部、61…第1の対、62…第2の対
72…Oリング
【要約】
波動歯車装置は、インターナルギア部、波動発生部、アウタギアを有するフレックスギア部(20)、及び、フレックスギア部(20)と共に回転する出力部(40)を備える。フレックスギア部(20)は、アウタギアと同じ材料で一体に形成される第1環状部(22)を有する。出力部(40)は、軸線(AX)を中心とした径方向において第1環状部(22)と対向する第2環状部(41)を有する。第2環状部(41)には径方向に沿って突起する伝達歯(6a)が設けられ、第1環状部(22)には伝達歯(6a)が挿入される凹部(6b)が設けられる。凹部(6b)は、伝達歯(6a)よりも円周方向に沿う幅が広く、フレックスギア部(20)及び出力部(40)の円周方向における相対的な変位を許容する。伝達歯(6a)及び凹部(6b)の対である伝達対は、複数あり、円周方向に配列されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8