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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-11
(45)【発行日】2022-03-22
(54)【発明の名称】熱伝導性ポリシロキサン組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/04 20060101AFI20220314BHJP
   C08K 3/28 20060101ALI20220314BHJP
【FI】
C08L83/04
C08K3/28
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021527685
(86)(22)【出願日】2020-06-24
(86)【国際出願番号】 JP2020024767
(87)【国際公開番号】W WO2020262449
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2021-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2019119025
(32)【優先日】2019-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000221111
【氏名又は名称】モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】坂本 淳
(72)【発明者】
【氏名】コンテ ショーン
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/190189(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱伝導性充填剤、並びに(B)アルコキシシリル基含有化合物及びジメチルポリシロキサンからなる群より選択される1種以上を含有する熱伝導性ポリシロキサン組成物であって、(A)成分が、(A)成分全体に対し(A-1)平均粒子径50μm以上150μm以下の不定形状の窒化アルミニウム粒子20~60質量%、(A-2)平均粒子径10μm以上50μm未満の丸み状、不定形状又は多面体状の窒化アルミニウム粒子2~25質量%、(A-3a)平均粒子径1μm以上10μm未満の無機粒子1~40質量%及び(A-3b)平均粒子径0.1μm以上1μm未満の無機粒子1~30質量%を含み、かつ、(A-1)成分と(A-2)成分の含有比率が質量基準で50:50~95:5であり、(A-1)、(A-2)、(A-3a)及び(A-3b)成分の合計が(A)成分全体に対し80~100質量%である、熱伝導性ポリシロキサン組成物。
【請求項2】
(A-2)成分のJIS K5101-13-2に準拠した煮あまに油法に基づく吸油量が5~40g/100gである、請求項1記載の熱伝導性ポリシロキサン組成物。
【請求項3】
(A-3a)及び(A-3b)成分の無機粒子がそれぞれ、窒化ケイ素粒子、窒化アルミニウム粒子及びアルミナ粒子からなる群より選択される1種以上である、請求項又は記載の熱伝導性ポリシロキサン組成物。
【請求項4】
更に、(C)1分子中に1個以上の脂肪族不飽和基を含有するポリオルガノシロキサン、(D)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個以上有するポリオルガノハイドロジェンシロキサン、及び(E)白金系触媒を含有する、請求項1~のいずれか一項記載の熱伝導性ポリシロキサン組成物。
【請求項5】
(B)成分がアルコキシシリル基含有化合物を含み、更に、熱伝導性ポリシロキサン組成物が(F)縮合触媒を含有する、請求項1~のいずれか一項記載の熱伝導性ポリシロキサン組成物。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項記載の熱伝導性ポリシロキサン組成物からなる放熱材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性ポリシロキサン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器は、年々高集積化・高速化しており、それに応じて熱対策のための放熱材料の需要が高まっている。放熱材料にはシリコーン樹脂組成物が多く用いられている。ただし、シリコーン樹脂単体では熱伝導性を高めることはできないため、熱伝導性充填剤が併用される。熱伝導性充填剤として、シリカ粉、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム等に代表されるような、バインダーとなるシリコーン樹脂より熱伝導性の高い材料を添加することが知られている(特許文献1)。
【0003】
シリコーン樹脂組成物の熱伝導性を高めるためには熱伝導性充填剤をより高充填する必要があるが、1種類の熱伝導性充填剤だけでは高充填することに限界があるため、粒子径の異なる複数の熱伝導性充填剤を併用することも行われている。例えば、作業性に良好な流動性、優れた放熱性能等を目的に、平均粒子径が12~100μm(好ましくは15~30μm)の熱伝導性充填剤と、平均粒子径が0.1~10μm(好ましくは0.3~5μm)の熱伝導性充填剤を含有する熱伝導性シリコーングリース組成物が開示されている(特許文献2)。また、平均粒径10~30μmの不定形アルミナ、平均粒径30~85μmである球状アルミナ、平均粒径0.1~6μmの絶縁性無機フィラーを特定の割合で配合してなる、付加反応型の熱伝導性シリコーン組成物が開示されている(特許文献3)。更に、低粘度とすることによる作業性及び熱伝導性の改良を目的に、平均粒子径30μm以上150μm以下の不定形の窒化アルミニウム粒子、平均粒子径1μm以上30μm未満の無機粒子、及び平均粒子径0.1μm以上1μm未満の無機粒子を特定の割合で含む、熱伝導性ポリシロキサン組成物が開示されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-003831号公報
【文献】特開2009-096961号公報
【文献】特開2013-147600号公報
【文献】国際公開第2018/016566号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2及び3のシリコーン組成物において、熱伝導性充填剤を高充填しようとすると、組成物の粘度が上昇し、作業性に劣るものとなった。作業性の低下しない範囲で熱伝導性充填剤を高充填した特許文献2及び3のシリコーン組成物は、熱伝導性が依然として不十分なものであった。
【0006】
一方、作業効率の点で、熱伝導性ポリシロキサン組成物にはより高い吐出性が望まれている。特許文献4のポリシロキサン組成物は、低粘度とすることによる作業性及び熱伝導性の点では優れているものの、組成物の吐出性は、不十分であった。
【0007】
よって、本発明が解決しようとする課題は、吐出性が高いため作業効率に優れ、熱伝導性の高い熱伝導性ポリシロキサン組成物、及びそれを使用した放熱材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0009】
(1)(A)熱伝導性充填剤、並びに(B)アルコキシシリル基含有化合物及びジメチルポリシロキサンからなる群より選択される1種以上を含有する熱伝導性ポリシロキサン組成物であって、(A)成分が、(A-1)平均粒子径50μm以上150μm以下の丸み状、不定形状又は多面体状の窒化アルミニウム粒子及び(A-2)平均粒子径10μm以上50μm未満の丸み状、不定形状又は多面体状の窒化アルミニウム粒子を(A)成分全体に対し20~100質量%含み、かつ、(A-1)成分と(A-2)成分の含有比率が質量基準で50:50~95:5である、熱伝導性ポリシロキサン組成物。
【0010】
(2)(A-2)成分のJIS K5101-13-2に準拠した煮あまに油法に基づく吸油量が5~40g/100gである、(1)記載の熱伝導性ポリシロキサン組成物。
【0011】
(3)(A)成分が、(A)成分全体に対し(A-3)平均粒子径0.1μm以上10μm未満の無機粒子1~80質量%を更に含み、かつ、(A-1)~(A-3)成分の合計が(A)成分全体に対し80~100質量%である、(1)又は(2)記載の熱伝導性ポリシロキサン組成物。
【0012】
(4)(A-3)成分が、(A-3a)平均粒子径1μm以上10μm未満の無機粒子及び(A-3b)平均粒子径0.1μm以上1μm未満の無機粒子からなり、(A)成分が、(A)成分全体に対し(A-3a)成分1~50質量%及び(A-3b)成分1~50質量%を含む、(3)記載の熱伝導性ポリシロキサン組成物。
【0013】
(5)(A)成分が、(A)成分全体に対し(A-1)成分20~60質量%、(A-2)成分2~25質量%、(A-3a)成分1~40質量%及び(A-3b)成分1~30質量%を含む、(4)記載の熱伝導性ポリシロキサン組成物。
【0014】
(6)(A-3a)及び(A-3b)成分の無機粒子がそれぞれ、窒化ケイ素粒子、窒化アルミニウム粒子及びアルミナ粒子からなる群より選択される1種以上である、(4)又は(5)記載の熱伝導性ポリシロキサン組成物。
【0015】
(7)更に、(C)1分子中に1個以上の脂肪族不飽和基を含有するポリオルガノシロキサン、(D)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個以上有するポリオルガノハイドロジェンシロキサン、及び(E)白金系触媒を含有する、(1)~(6)のいずれか一つに記載の熱伝導性ポリシロキサン組成物。
【0016】
(8)(B)成分がアルコキシシリル基含有化合物を含み、更に、熱伝導性ポリシロキサン組成物が(F)縮合触媒を含有する、(1)~(7)のいずれか一つに記載の熱伝導性ポリシロキサン組成物。
【0017】
(9)(1)~(8)のいずれか一つに記載の熱伝導性ポリシロキサン組成物からなる放熱材料。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、吐出性が高いため作業効率に優れ、熱伝導性の高い熱伝導性ポリシロキサン組成物、及びそれを使用した放熱材料を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、(A)熱伝導性充填剤、並びに(B)アルコキシシリル基含有化合物及びジメチルポリシロキサンからなる群より選択される1種以上を含有する熱伝導性ポリシロキサン組成物であって、(A)成分が、(A-1)平均粒子径50μm以上150μm以下の丸み状、不定形状又は多面体状の窒化アルミニウム粒子及び(A-2)平均粒子径10μm以上50μm未満の丸み状、不定形状又は多面体状の窒化アルミニウム粒子を(A)成分全体に対し20~100質量%含み、かつ、(A-1)成分と(A-2)成分の含有比率が質量基準で50:50~95:5である、熱伝導性ポリシロキサン組成物である。
【0020】
[(A)成分]
(A)成分は、熱伝導性充填剤であり、(A-1)平均粒子径50μm以上150μm以下の丸み状、不定形状又は多面体状の窒化アルミニウム粒子及び(A-2)平均粒子径10μm以上50μm未満の丸み状、不定形状又は多面体状の窒化アルミニウム粒子を(A)成分全体に対し20~100質量%含み、かつ、(A-1)成分と(A-2)成分の含有比率が質量基準で50:50~95:5である。
【0021】
本発明者らは、熱伝導性材料として窒化アルミニウムに着目し、その粒子形状、粒子径及び配合率を種々検討した結果、球状の窒化アルミニウム粒子では、組成物としたときの吐出性に優れるものの、粒子間の接触が点接触になるせいか、高い熱伝導性が得られないことを知見した。更に、検討を進めた結果、粒子間が点接触ではなく、ある程度の領域にわたって面で接触しやすい丸み状、不定形状又は多面体状の窒化アルミニウム粒子を用い、かつ、粒子径が異なる2種以上の該粒子を所定の割合で組み合わせると、高い吐出性及び高い熱伝導性が得られることを知見した。
【0022】
(A-1)成分
(A-1)成分は、平均粒子径50μm以上150μm以下の丸み状、不定形状又は多面体状の窒化アルミニウム粒子である。(A-1)成分の窒化アルミニウム粒子は、同等の平均粒子径を有する球状の窒化アルミニウム粒子を同含有量となるように使用した場合に比べ、熱伝導率を優位に向上させることができる。そのため、(A-1)成分を用いることにより、作業効率に優れ、熱伝導性が高い熱伝導性ポリシロキサン組成物を得ることが可能となる。更に、(A-1)成分は、同等の平均粒子径を有するアルミナ粒子を同含有量となるように使用した場合に比べ、熱伝導性ポリシロキサン組成物の熱伝導率を高くすることができる。
【0023】
「丸み状」とは、粒子の角が少なく、粒子全体が丸みを帯びた形状を指す。「丸み状」には楕円球状等の形状を含むが、球状は含まれない。丸み状の粒子において、その丸みを帯びた形状の一部が平面状、凹凸状等になっていてもよい。
【0024】
「多面体状」とは、六面体状、八面体状、十二面体状等の複数の平面に囲まれた形状を指す。これらの形状において、各平面は必ずしも同一の形体を有していなくてもよく、また、各平面の交線である辺及びいくつかの辺の交点である頂点が丸みや凹凸を帯びていてもよい。多面体状の窒化アルミニウム粒子は、好ましくは凸多面体である。
【0025】
「不定形状」とは、「丸み状」及び「多面体状」のような定まった形状を有さないものを指す。
【0026】
(A-1)成分は、熱伝導性ポリシロキサン組成物の吐出性の点で、丸み状又は不定形状の窒化アルミニウム粒子が特に好ましい。
【0027】
(A-1)成分の平均粒子径は、50μm以上150μm以下である。なお、(A-1)成分は、50μm以上150μm以下の範囲に粒度分布のピークを有する。(A-1)成分の平均粒子径を50μm以上150μm以下とすることにより、(A)成分をポリシロキサン組成物中に高充填した場合でも、(A-1)成分の沈降等がなく、熱伝導性ポリシロキサン組成物の安定性が高まる傾向があり、吐出性を高く、かつ、熱伝導性を高めることが可能となる。(A-1)成分の平均粒子径は、より好ましくは50μm以上120μm以下、更に好ましくは50μm以上100μm以下、特に好ましくは55μm以上85μm以下である。
【0028】
本発明において、平均粒子径の測定値は、レーザー回折・散乱法により測定したメジアン径(d50)である。
【0029】
(A-2)成分
(A-2)成分は、平均粒子径10μm以上50μm未満の丸み状、不定形状又は多面体状の窒化アルミニウム粒子である。(A-2)成分の窒化アルミニウム粒子と(A-1)成分とを所定の割合で配合することにより、熱伝導性ポリシロキサン組成物の熱伝導率を高く維持しつつ、吐出性を高くすることができる。(A-2)成分の窒化アルミニウム粒子は、(A-1)成分と組み合わせた場合、同等の平均粒子径を有する球状の窒化アルミニウム粒子に比べ、熱伝導性を高めることができる。更に、(A-2)成分は、(A-1)成分と組み合わせた場合、同等の平均粒子径を有するアルミナ粒子を同含有量となるように使用した場合に比べ、熱伝導性ポリシロキサン組成物の熱伝導率を高くすることができる。
【0030】
(A-2)成分は、熱伝導性ポリシロキサン組成物の吐出性の点で、丸み状又は不定形状の窒化アルミニウム粒子が特に好ましい。
【0031】
(A-2)成分の平均粒子径は、10μm以上50μm未満である。なお、(A-2)成分は、10μm以上50μm未満の範囲に粒度分布のピークを有する。(A-2)成分の平均粒子径を10μm以上50μm未満とすることにより、(A-1)成分と(A-2)成分をポリシロキサン組成物中に高充填した場合、(A-1)成分の沈降等がなく、熱伝導性ポリシロキサン組成物の安定性がより高まる傾向があり、吐出性を高く、かつ、熱伝導性を高めることが可能となる。(A-2)成分の平均粒子径は、より好ましくは10μm以上40μm以下、特に好ましくは13μm以上35μm以下である。
【0032】
(A-2)成分のJIS K5101-13-2に準拠した煮あまに油法に基づく吸油量が5~40g/100gであると、熱伝導性ポリシロキサン組成物の吐出性がよりいっそう向上するため好ましい。(A-2)成分の吸油量は、より好ましくは10~35g/100gであり、更に好ましくは15~30g/100gであり、特に好ましくは15~25g/100gである。
【0033】
(A)成分は、(A-1)及び(A-2)成分を(A)成分全体に対し20~100質量%含む。(A)成分中の(A-1)及び(A-2)成分の含有率は、100質量%未満であることができる。より好ましくは、(A-1)及び(A-2)成分の含有率は、20質量%以上75質量%以下、更により好ましくは25質量%以上70質量%以下、特に好ましくは30質量%以上65質量%以下である。(A-1)及び(A-2)成分の含有率が20質量%未満であると、熱伝導性ポリシロキサン組成物の熱伝導性に劣る。また、(A-1)成分の含有率が75質量%以下であると、吐出性がより向上する傾向がある。
【0034】
(A-1)成分と(A-2)成分の含有比率は、質量基準で50:50~95:5である。(A-1)成分の比率が高いと、熱伝導性ポリシロキサン組成物の熱伝導性が高くなるが、吐出性が低下する傾向がある。熱伝導性と吐出性のバランスから、(A-1)成分と(A-2)成分の含有比率は、55:45~85:15であることがより好ましく、55:45~75:25であることが更に好ましく、55:45~65:35が特に好ましい。(A-1)成分と(A-2)成分の含有比率が50:50より小さいと、熱伝導性ポリシロキサン組成物の熱伝導性に劣る。(A-1)成分と(A-2)成分の含有比率が95:5より大きいと、熱伝導性ポリシロキサン組成物の吐出性に劣る。
【0035】
(A-1)及び(A-2)成分の窒化アルミニウム粒子は、例えば、いわゆる直接窒化法、還元窒化法等により合成することができる。直接窒化法による窒化アルミニウム粒子の場合には、更に粉砕等することにより、目的の粒子径範囲にすることもできる。また、(A-1)及び(A-2)成分の窒化アルミニウム粒子は市販されており、例えば、東洋アルミニウム株式会社製のTOYALNITE(登録商標)TFZ-S20P、TFZ-N30P、TFZ-S30P、TFZ-N60P、TFZ-N80P、TFZ-N100P等を使用することができる。
【0036】
(A-2)成分の窒化アルミニウム粒子の吸油量は、JIS K5101-13-2に準拠した煮あまに油法による測定値である。
【0037】
(A-1)及び(A-2)成分の窒化アルミニウム粒子はそれぞれ、単独でも、二種以上を併用してもよい。
【0038】
(A-3)成分
熱伝導性ポリシロキサン樹脂組成物において、(A)熱伝導性充填剤をより高充填し、吐出性及び熱伝導性をよりいっそう高めるために、(A)成分は、(A-1)及び(A-2)成分とは異なる平均粒子径を有する熱伝導性充填剤として、(A)成分全体に対し(A-3)平均粒子径0.1μm以上10μm未満の無機粒子1~80質量%を更に含むことが好ましい。なお、(A-3)成分は、0.1μm以上10μm未満の範囲に粒度分布のピークを有する。(A)成分が(A-3)成分を更に含むことにより、(A)成分をポリシロキサン組成物中に高充填した場合でも、(A-1)成分の沈降等がなく、熱伝導性ポリシロキサン組成物の安定性がよりいっそう高まる傾向があり、吐出性を高く、かつ、熱伝導性を高めることが可能となる。
(A-3)成分の含有量は、(A)成分全体に対し10~70質量%であることがより好ましく、20~60質量%であることが更に好ましく、35~55質量%であることが特に好ましい。(A-1)~(A-3)成分の合計は、(A)成分全体に対し80~100質量%であることが好ましく、更に好ましくは90~100質量%、特に好ましくは95~100質量%である。
【0039】
(A-3)成分は、(A-3a)平均粒子径1μm以上10μm未満の無機粒子及び(A-3b)平均粒子径0.1μm以上1μm未満の無機粒子からなり、(A)成分が、(A)成分全体に対し(A-3a)成分1~50質量%及び(A-3b)成分1~50質量%を含むことが、更に好ましい。
本発明者らは、(A-1)成分と(A-2)成分の2成分系で組成物を作製する場合に比べ、(A-1)成分及び(A-2)成分に加え、更に(A-3)成分、特に(A-3a)及び(A-3b)成分を添加し組成物を作製する場合には、(B)成分中への(A)成分の混合効率がより向上し、均一な組成物が得やすくなり、組成物の吐出性もより高くなりやすいことを見出した。
【0040】
(A-3a)成分の平均粒子径は、1μm以上10μm未満である。なお、(A-3a)成分は、1μm以上10μm未満の範囲に粒度分布のピークを有する。(A-3a)成分の平均粒子径が1μm以上10μm未満であると、(A-1)~(A-3)成分を(B)成分中へ混合した場合の混合効率がより向上し、均一な組成物を得やすく、該組成物の吐出性もより高くなり、好ましい。(A-3a)成分の平均粒子径は、より好ましくは1μm以上9μ未満、特に好ましくは2μm以上8μm未満である。
【0041】
(A-3b)成分の平均粒子径は、0.1μm以上1μm未満である。なお、(A-3b)成分は、0.1μm以上1μm未満の範囲に粒度分布のピークを有する。(A-3b)成分の平均粒子径が0.1μm以上1μm未満であると、熱伝導性の点で好ましい。(A-3)成分の平均粒子径は、より好ましくは0.15μm以上0.9μm以下、特に好ましくは0.2μm以上0.8μm以下である。
【0042】
(A-1)、(A-2)、(A-3a)及び(A-3b)成分の配合比率は、熱伝導性ポリシロキサン樹脂組成物の均一性、高い吐出性及び高い熱伝導性の観点から、(A)成分全体に対し(A-1)成分20~60質量%、(A-2)成分2~25質量%、(A-3a)成分1~40質量%及び(A-3b)成分1~30質量%であることが好ましく、より好ましくは(A-1)成分20~42質量%、(A-2)成分3~22質量%、(A-3a)成分5~40質量%及び(A-3b)成分5~30質量%、更に好ましくは(A-1)成分22~35質量%、(A-2)成分10~20質量%、(A-3a)成分20~35質量%及び(A-3b)成分10~25質量%、特に好ましくは(A-1)成分22~30質量%、(A-2)成分15~20質量%、(A-3a)成分25~35質量%及び(A-3b)成分15~25質量%である。
【0043】
(A-3a)成分及び(A-3b)成分の無機粒子としては、熱伝導性を有する無機粒子であれば、特に限定されない。これらの無機粒子としては、例えば、アルミナ、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、シリカ等の金属酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素等の窒化物;アルミニウム、銅、銀、金等の金属;金属/金属酸化物のコアシェル型粒子等を使用することができる。
【0044】
(A-3a)及び(A-3b)成分の無機粒子はそれぞれ、熱伝導性ポリシロキサン樹脂組成物の均一性、高い吐出性及び高い熱伝導性の点で、窒化ケイ素粒子、窒化アルミニウム粒子又はアルミナ粒子が好ましい。
【0045】
(A-3a)及び(A-3b)成分の粒子の形状としては、球状、丸み状、不定形状、多面体状等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
(A-3a)及び(A-3b)成分は、それぞれ、単独でも、二種以上を併用してもよい。
【0047】
熱伝導性ポリシロキサン樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、(A-1)~(A-3)成分以外の有機又は無機の粒子を配合することができる。
【0048】
[(B)成分]
(B)成分はアルコキシシリル基含有化合物及びジメチルポリシロキサンからなる群より選択される1種以上である。
(B)成分のアルコキシシリル基含有化合物としては、1分子中に少なくとも次の一般式:-SiR11 3-z(OR12 (I)
(式中、R11は炭素数1~6のアルキル基、好ましくはメチル基であり、R12は炭素数1~6のアルキル基、好ましくはメチル基であり、zは1、2又は3である)で表されるアルコキシシリル基を有する化合物が好ましい。(B)成分としては、以下の(B-1)~(B-5)成分の化合物を例示することができる。
【0049】
(B-1)成分
一般式(I)のアルコキシシリル基を有する化合物としては、下記一般式(1)の化合物を挙げることができる。ここで、当該アルコキシシリル基含有化合物においては、Rを含む単位、Rを含む単位、SiR Oで表される単位が下記一般式(1)で示されるとおりに配列している必要はなく、例えばRを含む単位とRを含む単位との間にSiR Oで表される単位が存在していてもよいことが理解される。
【化1】

(式中、
:炭素数1~4のアルコキシシリル基を有する基
:下記一般式(2):
【化2】

(式中、Rは、それぞれ独立して炭素数1~12の1価の炭化水素基であり、Yは、R、R及び脂肪族不飽和基からなる群より選択される基であり、dは2~500の整数、好ましくは4~400の整数、より好ましくは10~200の整数、特に好ましくは10~60の整数である)で示されるシロキサン単位を有する基又は炭素数6~18の1価の炭化水素基
X:それぞれ独立して炭素数2~10の2価の炭化水素基
a及びb:それぞれ独立して1以上の整数
c:0以上の整数
a+b+c:4以上の整数
:それぞれ独立して、炭素数1~6の1価の炭化水素基又は水素原子
である。)
【0050】
(B-1)成分のアルコキシシリル基含有化合物としては、下記の構造式で表される化合物を好ましく使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【化3】
【0051】
更に(B-1)成分のアルコキシシリル基含有化合物の好ましい例として、下記の構造式で示される化合物を挙げることができる。
【化4】
【0052】
(B-2)成分
また、(B)成分のアルコキシシリル基含有化合物としては、下記一般式(3)で表される化合物を使用することができる。
21 22 Si(OR234-(e+f) (3)
(式中、R21は独立に炭素数6~15のアルキル基であり、R22は独立に非置換又は置換の炭素数1~12の1価炭化水素基(炭素数6~12のアルキル基を除く)であり、R23は独立に炭素数1~6のアルキル基であり、eは0~3の整数、好ましくは1であり、fは0~2の整数であり、但しe+fは1~3の整数である。)
【0053】
21としては、例えば、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基等を挙げることができる。R21のアルキル基の炭素数が6~15であると、(B)成分が常温で液状となり取扱いやすく、(A)成分との濡れ性が良好となりやすい。
22としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロブチル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基等の脂肪族不飽和基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、2-フェニルエチル基、2-メチル-2-フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基;これらの炭化水素基の水素原子の一部又は全部を塩素、フッ素、臭素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換した基、例えばクロロメチル基、トリフルオロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、2-(ノナフルオロブチル)エチル基、2-(ヘプタデカフルオロオクチル)エチル基、クロロフェニル基、ブロモフェニル基、ジブロモフェニル基、テトラクロロフェニル基、フルオロフェニル基、ジフルオロフェニル基等のハロゲン化炭化水素基やα-シアノエチル基、β-シアノプロピル基、γ-シアノプロピル基等のシアノアルキル基等が挙げられ、好ましくはメチル基、エチル基である。
23としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられ、好ましくはメチル基、エチル基である。
【0054】
一般式(3)において、e=1であるアルコキシシリル基含有化合物としては、例えば、以下の化合物を例示することができる。
13Si(OCH
1021Si(OCH
1225Si(OCH
1225Si(OC
1021Si(CH)(OCH
1021Si(C)(OCH
1021Si(CH)(OC
1021Si(CH=CH)(OCH
1021Si(CHCHCF)(OCH
【0055】
(B-3)成分
(B)成分のアルコキシシリル基含有化合物としては、下記一般式(4)で表される分子鎖片末端がアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサンを使用することができる。
【化5】

(式中、R31は-O-又は-CHCH-である。R32は独立に非置換又は置換の一価炭化水素基であり、具体的には、一般式(3)のR22において例示した基を挙げることができ、これらの中でも好ましくはアルキル基、アリール基であり、より好ましくはメチル基、フェニル基である。R33は独立に炭素数1~6のアルキル基、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基である。gは5~100、好ましくは5~70、特に好ましくは10~50の整数であり、pは1~3の整数、好ましくは2又は3である。)
【0056】
一般式(4)のメチル基の1つ以上は、メチル基以外の一価炭化水素基で置換されていてもよい。置換基としては、例えば、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;2-フェニルエチル基、2-メチル-2-フェニルエチル基等のアラルキル基;3,3,3-トリフルオロプロピル基、2-(ノナフルオロブチル)エチル基、2-(ヘプタデカフルオロオクチル)エチル基、p-クロロフェニル基等のハロゲン化炭化水素基等の炭素原子数1~10のものが挙げられる。
【0057】
(B-4)成分
(B)成分のアルコキシシリル基含有化合物としては、下記一般式(5)で表される分子鎖両末端がアルコキシシリル基で封鎖された化合物を使用することができる。
【化6】

(式中、R34、R35、R36及びqはそれぞれ独立に、一般式(4)のR31、R32、R33及びpと同義であり、hは、23℃における粘度を10~10,000mPa・s、より好ましくは20~5,000mPa・sとする整数である。)
【0058】
本明細書において、粘度は、JIS K6249に準拠して、回転粘度計を用いて23℃の条件で測定した値である。
【0059】
一般式(5)のメチル基の1つ以上は、メチル基以外の一価炭化水素基で置換されていてもよい。置換基としては、一般式(4)においてメチル基と置換可能な基として例示した置換基を例示することができる。
【0060】
一般式(5)で表されるアルコキシシリル基含有化合物としては、例えば、両末端メチルジメトキシ基ジメチルポリシロキサン、両末端トリメトキシ基ジメチルポリシロキサンを例示することができる。
【0061】
(B-5)成分
(B)成分のジメチルポリシロキサンとしては、下記一般式(6)で表される直鎖状の化合物を使用することができる。
【化7】

(式中、iは、23℃における粘度を10~10,000mPa・s、より好ましくは20~5,000mPa・sとする整数である。)
【0062】
一般式(6)のメチル基の1つ以上は、メチル基以外の一価炭化水素基で置換されていてもよい。置換基としては、一般式(4)においてメチル基と置換可能な基として例示した置換基を例示することができる。
【0063】
(B)成分としては、(B-1)成分が、作業性の向上の点で、好ましい。
【0064】
熱伝導性ポリシロキサン組成物中の(B)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して0.1~30質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5~20質量部、更に好ましくは1~10質量部である。
【0065】
(B)成分は、単独でも、二種以上を併用してもよい。
【0066】
[その他の成分]
熱伝導性ポリシロキサン組成物は、該組成物の使用目的、使用方法等に応じて、(A)成分及び(B)成分以外のその他の成分を含有することができる。
【0067】
[(C)成分]
(C)成分の1分子中に1個以上の脂肪族不飽和基を含有するポリオルガノシロキサン((B)成分を除く。)としては、下記平均組成式(II)で表されるものを使用することができる。
41 42 SiO[4-(j+k)]/2 (II)
(式中、R41は、脂肪族不飽和基であり、R42は、脂肪族不飽和結合を含まない置換又は非置換の1価炭化水素基である。j,kは、0<j<3、0<k<3、1<j+k<3を満足する正数である。)
【0068】
41における脂肪族不飽和基は、炭素数が2~8の範囲にあるものが好ましく、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、1-ブテニル基、1-ヘキセニル基等を挙げることができ、好ましくはビニル基である。脂肪族不飽和基は、1分子中に1個以上、好ましくは2個以上含有される。また、脂肪族不飽和基は、分子鎖末端のケイ素原子に結合していても、分子鎖途中のケイ素原子に結合していても、両者に結合していてもよい。
【0069】
42の具体例は、一般式(3)のR22において例示した基を挙げることができるが、ビニル基、アリル基等の脂肪族不飽和基は含まない。これらの中でも好ましくはアルキル基、アリール基であり、より好ましくはメチル基、フェニル基である。
【0070】
j,kは、好ましくは0.0005≦j≦1、1.5≦k<2.4、1.5<j+k<2.5であり、より好ましくは0.001≦j≦0.5、1.8≦k≦2.1、1.8<j+k≦2.2を満足する数である。
【0071】
(C)成分の分子構造は、直鎖状、分岐状、環状であることが可能であるが、直鎖状、分岐状のものが好ましい。(C)成分としては、分子鎖両末端又は分子鎖片末端に脂肪族不飽和基を有するジメチルポリシロキサンが好ましく、特に好ましくは、分子鎖両末端又は分子鎖片末端にビニル基を有するジメチルポリシロキサンである。
(C)成分の23℃における粘度は、10~10,000mPa・sであることが好ましい。より好ましくは20~5,000mPa・sである。
【0072】
組成物が(C)成分を含有する場合は、(A)成分100質量部に対して(B)成分と(C)成分を合計量で1.5~35質量部含有することが好ましく、より好ましくは1.5~30質量部、更に好ましくは1.5~28質量部、特に好ましくは3.0~10質量部含有する。(B)成分と(C)成分は、(B)成分と(C)成分の合計量中の(C)成分の含有割合が15~98質量%であり、好ましくは18~98質量%であり、より好ましくは20~98質量%であるように配合される。
【0073】
(C)成分は、単独でも、二種以上を併用してもよい。
【0074】
[(D)成分]
(D)成分は、1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個以上有するポリオルガノハイドロジェンシロキサン((B)成分を除く。)であり、(C)成分、及び(B)成分が少なくとも1個の脂肪族不飽和基を有するアルコキシシリル基含有化合物(例えば、一般式(1)のR中のY、一般式(3)のR22、一般式(4)のR32又は一般式(5)のR35が脂肪族不飽和基である化合物)である場合には(B)成分の架橋剤となる成分である。(D)成分は、1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個以上、好ましくは3個以上有するものである。この水素原子は、分子鎖末端のケイ素原子に結合していても、分子鎖途中のケイ素原子に結合していても、両方に結合していてもよい。また、両末端のケイ素原子にのみ結合した水素原子を有するポリオルガノハイドロジェンシロキサンを使用することもできる。(D)成分の分子構造は、直鎖状、分岐鎖状、環状あるいは三次元網目状のいずれでもよく、単独でも、二種以上を併用してもよい。
【0075】
(D)成分としては、下記平均組成式(III)で表されるものを使用することができる。
51 SiO[4-(m+n)]/2 (III)
(式中、R51は、脂肪族不飽和結合を含まない置換又は非置換の1価炭化水素基である。m、nは、0.5≦m≦2、0<n≦2、0.5<m+n≦3を満足する数である。)
【0076】
51の具体例は、一般式(3)のR22において例示した基を挙げることができるが、ビニル基、アリル基等の脂肪族不飽和基は含まない。これらの中でも、合成のし易さ、コストの点から、アルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0077】
m、nは、好ましくは0.6≦m≦1.9、0.01≦n≦1.0、0.6≦m+n≦2.8を満足する数である。
【0078】
(D)成分の23℃における粘度は、10~500mPa・sであることが好ましい。
【0079】
(D)成分の配合量は、(C)成分、及び(B)成分が少なくとも1個の脂肪族不飽和基を有するアルコキシシリル基含有化合物である場合には(B)成分のケイ素原子に結合した脂肪族不飽和基1個に対して、(D)成分中のケイ素原子に結合した水素原子が0.1~1.5個、好ましくは0.2~1.2個となる量である。(D)成分の配合量が上記範囲内であると、熱伝導性ポリシロキサン組成物の経時安定性が良好で、硬化した場合の架橋度合が十分となりやすく、適度な硬度の硬化物が得られやすい。
【0080】
[(E)成分]
(E)成分は白金系触媒であり、(C)成分、及び(B)成分が少なくとも1個の脂肪族不飽和基を有するアルコキシシリル基含有化合物である場合には(B)成分と、(D)成分との混合後、硬化を促進させる成分である。(E)成分としては、ヒドロシリル化反応に用いられる周知の触媒を用いることができる。例えば、白金黒、塩化第二白金、塩化白金酸、塩化白金酸と一価アルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン類やビニルシロキサンとの錯体、白金-ビニルテトラマー錯体、白金ビスアセトアセテート等を挙げることができる。(E)成分の配合量は、所望の硬化速度等に応じて適宜調整することができるものであり、(C)成分、及び(B)成分が少なくとも1個の脂肪族不飽和基を有するアルコキシシリル基含有化合物である場合には(B)成分と、(D)成分との合計量に対し、白金元素に換算して0.1~1,000ppmの範囲とすることが好ましい。(E)成分は、単独でも、二種以上を併用してもよい。
【0081】
また、より長いポットライフを得るために、(E-2)反応抑制剤の添加により、触媒の活性を抑制することができる。公知の白金族金属用の反応抑制剤として、2-メチル-3-ブチン-2-オール、1-エチニル-1-シクロヘキサノール、1-エチニル-2-シクロヘキサノール等のアセチレンアルコールが挙げられる。
【0082】
[(F)成分]
(F)成分は縮合触媒であり、(B)成分がアルコキシシリル基含有化合物を含む場合に、(B)成分の縮合・硬化を促進させる成分である。(F)成分としては、公知のシラノール縮合触媒を使用することができる。例えば、テトラブチルチタネート、テトラプロピルチタネート等のチタン系エステル類;ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズマレエート、ジブチルスズジアセテート等の有機スズ化合物類;オクチル酸スズ、ナフテン酸スズ、ラウリン酸スズ、フェルザチック酸スズ等のカルボン酸スズ塩類;ジブチルスズオキサイドとフタル酸エステルとの反応物;ジブチルスズジアセチルアセトナート;アルミニウムトリアセチルアセトナート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムエチルアセトアセテート等の有機アルミニウム化合物類;ジイソプロポキシ-ビス(アセト酢酸エチル)チタン、ジルコニウムテトラアセチルアセトナート、チタンテトラアセチルアセトナート等のキレート化合物類;オクチル酸鉛;ナフテン酸鉄;ビスマス-トリス(ネオデカノエート)、ビスマス-トリス(2-エチルヘキソエート)等のビスマス化合物のような金属系触媒を例示することができる。更に、ラウリルアミン等の公知のアミン系触媒を使用してもよい。これらの中でも、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズマレエート、ジブチルスズジアセテート、オクチル酸スズ、ナフテン酸スズ、ラウリン酸スズ、フェルザチック酸スズ等のカルボン酸スズ塩又は有機スズ化合物類;ジブチルスズオキサイドとフタル酸エステルとの反応物;ジブチルスズジアセチルアセトナート等のスズ系触媒;ジイソプロポキシ-ビス(アセト酢酸エチル)チタン等のキレート化合物類が特に好ましい。
【0083】
(F)成分の配合量は、所望の硬化速度等に応じて適宜調整することができるものであり、(B)成分中のアルコキシシリル基含有化合物100質量部に対して0.01~20質量部、好ましくは0.05~15質量部、より好ましくは0.1~12質量部配合される。
【0084】
(F)成分は単独でも、二種以上を併用してもよい。
【0085】
[(G)成分]
熱伝導性ポリシロキサン組成物は、更に必要に応じて、難燃性付与剤、耐熱性向上剤、可塑剤、着色剤、接着性付与材、希釈剤等を本発明の目的を損なわない範囲で含有することができる。
【0086】
[好ましい組成物の態様]
熱伝導性ポリシロキサン組成物は、(A)成分及び(B)成分に加え、更に、上記その他の成分を含有させて、下記1~3の好ましい組成物の態様とすることができる。
【0087】
1.グリース型熱伝導性ポリシロキサン組成物
熱伝導性ポリシロキサン組成物は、(A)成分及び(B)成分のみからなる、又は、更に(C)成分を加えた、グリース型熱伝導性ポリシロキサン組成物とすることができる。この実施態様は、熱伝導性ポリシロキサン組成物を硬化させることなく、そのまま放熱材料として使用することができる。グリース型熱伝導性ポリシロキサン組成物は、更に(D)~(G)成分からなる群より選択される1種以上を含有していてもよいが、(D)~(F)成分は含有しないことが好ましい。
【0088】
2.付加反応型熱伝導性ポリシロキサン組成物
熱伝導性ポリシロキサン組成物は、(A)成分及び(B)成分が少なくとも1個の脂肪族不飽和基を有するアルコキシシリル基含有化合物(例えば、一般式(1)のR中のY、一般式(3)のR22、一般式(4)のR32又は一般式(5)のR35が脂肪族不飽和基である化合物)である場合には(B)成分に加え、(D)成分及び(E)成分を含有させることができる。また、熱伝導性ポリシロキサン組成物は、(A)成分及び(B)成分に加え、(C)、(D)及び(E)成分を含有させることができる。この実施態様は、熱伝導性ポリシロキサン組成物を付加反応により硬化させることが可能であり、熱伝導性ポリシロキサン組成物の硬化物からなる放熱材料とできる点で、好ましい。後者の場合、(B)成分は、脂肪族不飽和基を有していても有していなくてもよい。付加反応型熱伝導性ポリシロキサン組成物は、更に(F)成分及び(G)成分からなる群より選択される1種以上を含有していてもよい。
【0089】
3.縮合反応型熱伝導性ポリシロキサン組成物
熱伝導性ポリシロキサン組成物は、(B)成分がアルコキシシリル基含有化合物を含むものとし、かつ、(A)成分と(B)成分に加え更に(F)成分を含有させることができる。この実施態様は、熱伝導性ポリシロキサン組成物を縮合反応により硬化させることが可能であり、熱伝導性ポリシロキサン組成物の硬化物からなる放熱材料とできる点で、好ましい。縮合反応型熱伝導性ポリシロキサン組成物は、更に(C)、(D)、(E)及び(G)成分からなる群より選択される1種以上を含有していてもよい。
【0090】
縮合反応型熱伝導性ポリシロキサン組成物の態様においては、(B)成分は、少なくともアルコキシシリル基含有化合物を含む。(B)成分のアルコキシシリル基含有化合物としては、分子鎖両末端又は分子鎖片末端にジアルコキシシリル基又はトリアルコキシシリル基を含有するジメチルポリシロキサンが、好ましい。特に好ましくは、分子鎖両末端にジアルコキシシリル基又はトリアルコキシシリル基を含有するジメチルポリシロキサンである。
【0091】
熱伝導性ポリシロキサン組成物の吐出性は、組成物のフローレート(g/min)から評価することができる。熱伝導性ポリシロキサン組成物のフローレートの評価法は、以下のとおりである。
(1)ノードソン株式会社製の30ccのEFDシリンジに組成物を充填する。
(2)ディスペンサーとして株式会社サンエイテック製のSDP400を使用し、0.62MPaで1分間、組成物を吐出する。
(3)吐出された量を計量し、組成物のフローレート(g/min)を求める。
【0092】
熱伝導性ポリシロキサン組成物のフローレートは高いほど、組成物の吐出性が高く、好ましい。熱伝導性ポリシロキサン組成物のフローレートは、20g/min以上であれば実用上問題がないレベルであり、35g/min以上であれば吐出性が高いため好ましく、70g/min以上であれば突出性に優れ特に好ましい。
【0093】
[熱伝導性ポリシロキサン組成物の製造方法]
熱伝導性ポリシロキサン組成物は、(A)成分及び(B)成分、更に必要に応じて他の任意成分をプラネタリー型ミキサー等の混合機で混合することにより得ることができる。混合時には、必要に応じて50~150℃の範囲で加熱しながら混合してもよい。更に均一仕上げのためには、高剪断力下で混練操作を行うことが好ましい。混練装置としては、3本ロール、コロイドミル、サンドグラインダー等があるが、中でも3本ロールによる方法が好ましい。
【0094】
[熱伝導性ポリシロキサン組成物の硬化方法]
付加反応型熱伝導性ポリシロキサン組成物を硬化させる方法としては、例えば、放熱を要する被着体に該組成物を塗布後、該組成物を室温で放置する方法や、50~200℃の温度で加熱する方法が挙げられる。迅速に硬化させる観点から、加熱する方法を採ることが好ましい。
縮合反応型熱伝導性ポリシロキサン組成物を硬化させる方法としては、例えば、放熱を要する被着体に該組成物を塗布後、該組成物を室温で放置し、空気中の湿気により硬化する方法や、加湿条件下で硬化する方法が挙げられる。
【0095】
[放熱材料]
熱伝導性ポリシロキサン組成物又は熱伝導性ポリシロキサン組成物からなる放熱材料は、ホットディスク法で測定した23℃における熱伝導率が2.0W/(m・K)以上であり、また、高放熱用途では、熱伝導率が7.5W/(m・K)以上であることが好ましく、より好ましくは8.0W/(m・K)以上、特に好ましくは8.5W/(m・K)以上である。前記熱伝導率を調整して放熱効果を高めるためには、組成物中の(A)成分の含有割合が80質量%以上であることが好ましく、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは90質量%以上である。要求される熱伝導率に応じて(A)成分の含有割合を更に増加させることができる。
【0096】
放熱材料は、発熱量の多いCPUを搭載しているPC/サーバー、パワーモジュール、超LSI、光部品(光ピックアップ、LED等)を搭載した各電子機器、家電機器(DVD/HDDレコーダー及びプレイヤー、FPD等のAV機器等)、PC周辺機器、家庭用ゲーム機、自動車のほか、インバーターやスイッチング電源等の産業用機器等の放熱材料として使用することができる。放熱材料はグリース状(ペースト状)、ゲル状、ゴム状等の形態を有することができる。
【実施例
【0097】
<使用成分>
(A-1)成分
不定形状の窒化アルミニウム粒子、平均粒子径80μm
不定形状の窒化アルミニウム粒子、平均粒子径60μm
【0098】
(A’)成分:その他の熱伝導性充填剤
球状の窒化アルミニウム粒子、平均粒子径80μm
球状の窒化アルミニウム粒子、平均粒子径60μm
【0099】
(A-2)成分
不定形状の窒化アルミニウム粒子、平均粒子径30μm、吸油量41g/100g
丸み状の窒化アルミニウム粒子、平均粒子径20μm、吸油量19g/100g
不定形状の窒化アルミニウム粒子、平均粒子径20μm、吸油量30g/100g
【0100】
(A-3a)成分
多角形状のアルミナ粒子、平均粒子径5.0μm
【0101】
(A-3b)成分
多角形状のアルミナ粒子、平均粒子径0.4μm
【0102】
(B-1)成分
トリアルコキシ基含有ポリオルガノシロキサン:
【化8】
【0103】
(B-2)成分
メチルトリメトキシシラン
【0104】
(B-4)成分
両末端メチルジメトキシ基ジメチルポリシロキサン(粘度:30mPa・s)
【0105】
(B-5)成分
両末端トリメチルシリル基ジメチルポリシロキサン:MD40M(粘度:30mPa・s)
【0106】
(C)成分
両末端ビニル基ジメチルポリシロキサン:Mvi70vi(粘度:130mPa・s)
片末端ビニル基ジメチルポリシロキサン:MD30vi(粘度:25mPa・s)
【0107】
(D)成分
ポリオルガノハイドロジェンシロキサン:M 42(粘度:45mPa・s)
【0108】
なお、(B)~(D)成分の粘度は、JIS K6249に準拠し、23℃にて、回転粘度計ローターNo.1、回転数60rpm、1分値として測定した。
【0109】
(E)成分
白金系触媒:白金量2%ビニルテトラマー錯体
【0110】
(E-2)成分
反応抑制剤:1-エチニル-1-シクロヘキサノール
【0111】
(F)成分
縮合触媒:ジイソプロポキシ-ビス(アセト酢酸エチル)チタン
【0112】
<測定方法>
[平均粒子径]
(A)成分の平均粒子径(メジアン径d50)は、レーザー回折・散乱法により測定した。
【0113】
[吸油量]
JIS K5101-13-2に準拠した煮あまに油法に基づいて、(A-2)成分の吸油量を測定した。
【0114】
[吐出性]
熱伝導性ポリシロキサン組成物のフローレート(g/min)を以下のとおり測定し、吐出性の評価に用いた。
(1)ノードソン株式会社製の30ccのEFDシリンジに組成物を充填した。
(2)ディスペンサーとして株式会社サンエイテック製のSDP400を使用し、0.62MPaで1分間、組成物を吐出した。
(3)吐出された量を計量し、組成物のフローレート(g/min)を求めた。
【0115】
吐出性の評価
熱伝導性ポリシロキサン組成物の吐出性を以下の基準で評価した。
◎:フローレートが70g/min以上
○:フローレートが35g/min以上70g/min未満
△:フローレートが20g/min以上35g/min未満
×:フローレートが20g/min未満
【0116】
[熱伝導率]
23℃において、Hot disk法に従い、ホットディスク法 熱物性測定装置(京都電子工業株式会社製、TPS 1500)を用いて測定し、以下の基準で判定した。
◎:熱伝導率が8.5W/(m・K)以上
○:熱伝導率が8.0W/(m・K)以上8.5W/(m・K)未満
△:熱伝導率が7.5W/(m・K)以上8.0W/(m・K)未満
×:熱伝導率が7.5W/(m・K)未満
【0117】
実施例1~5及び比較例1~4
表1に示す(A)、(B)及び(C)成分をプラネタリー型ミキサー(株式会社ダルトン製)に仕込み、室温にて1時間撹拌混合し、更に120℃にて1時間撹拌混合して混合物を得た後、25℃まで冷却した。その後、前記混合物に(D)、(E)及び(E-2)成分を添加・混合して、付加反応型熱伝導性ポリシロキサン組成物を得た。こうして得た組成物のフローレートを測定し、吐出性を評価した。結果を表1に示す。
【0118】
実施例1~5及び比較例1~4の付加反応型熱伝導性ポリシロキサン組成物について、金型中で150℃×1時間加熱硬化することにより、厚み6mmの付加反応型熱伝導性ポリシロキサン組成物の硬化物を得た。こうして得た硬化物の熱伝導率を測定した。結果を表1に示す。
【0119】
【表1】
【0120】
実施例1~5と比較例1~4を比較することにより、(A)成分である熱伝導性充填剤が、(A-1)平均粒子径50μm以上150μm以下の丸み状、不定形状又は多面体状の窒化アルミニウム粒子及び(A-2)平均粒子径10μm以上50μm未満の丸み状、不定形状又は多面体状の窒化アルミニウム粒子を(A)成分全体に対し20~100質量%含み、かつ、(A-1)成分と(A-2)成分の含有比率が質量基準で50:50~95:5である実施例1~5の熱伝導性ポリシロキサン組成物は、吐出性に優れ、熱伝導性が高い。
【0121】
一方、(A)成分が(A-2)成分を含まない比較例1の組成物は、吐出性に劣る。(A-1)成分と(A-2)成分の含有比率が質量基準で50:50より小さい比較例2の組成物は、熱伝導性に劣る。(A-1)成分の代わりに同等の粒子径を有する球状の窒化アルミニウム粒子を用いた比較例3及び4の組成物は、熱伝導性に劣る。
【0122】
実施例1と2の比較より、(A-1)成分と(A-2)成分の含有比率が質量基準で90:10である実施例1は、熱伝導率が高くなり、該比率が60:40である実施例2は、吐出性が高くなる。
【0123】
実施例2、4及び5の比較より、(A-2)成分の吸油量が19g/100gである実施例2及び4は、(A-2)成分の吸油量が30g/100gである実施例5に比べ、組成物の吐出性が高く、好ましい。
【0124】
実施例2と4の比較より、(A-1)成分として平均粒子径が80μmの不定形状の窒化アルミニウム粒子を用いた実施例4は、平均粒子径が60μmの不定形状の窒化アルミニウム粒子を用いた実施例2に比べ、組成物の熱伝導性及び吐出性のいずれも優れている。
【0125】
実施例6
表2に示す(A)及び(B)成分をプラネタリー型ミキサー(株式会社ダルトン製)に仕込み、室温にて1時間撹拌混合し、更に120℃にて1時間撹拌混合して混合物を得た後、25℃まで冷却して、グリース型熱伝導性ポリシロキサン組成物を得た。こうして得た組成物のフローレートを測定し、吐出性を評価した。結果を表2に示す。
【0126】
実施例6のグリース型熱伝導性ポリシロキサン組成物について、厚み6mmにて熱伝導率を測定した。結果を表2に示す。
【0127】
【表2】
【0128】
実施例7
表3に示す(A)及び(B)成分をプラネタリー型ミキサー(株式会社ダルトン製)に仕込み、室温にて1時間撹拌混合し、更に120℃にて1時間撹拌混合して混合物を得た後、25℃まで冷却した。その後、前記混合物に(F)成分を添加・混合して、縮合反応型熱伝導性ポリシロキサン組成物を得た。こうして得た組成物のフローレートを測定し、吐出性を評価した。結果を表3に示す。
【0129】
実施例7の縮合反応型熱伝導性ポリシロキサン組成物について、厚さ6mmの金型に充填し蓋をせずに23℃50%RH条件下で14日間放置し、縮合反応型熱伝導性ポリシロキサン組成物の硬化物を得た。こうして得た硬化物の熱伝導率を測定した。結果を表3に示す。
【0130】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明の熱伝導性ポリシロキサン組成物は、パーソナルコンピューター等の電子機器のような発熱部位を有する各種機器用の放熱材料として使用することができる。