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特許7039173舶用主機タービン制御装置、舶用主機タービン設備、及び、舶用主機タービン制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-11
(45)【発行日】2022-03-22
(54)【発明の名称】舶用主機タービン制御装置、舶用主機タービン設備、及び、舶用主機タービン制御方法
(51)【国際特許分類】
   B63H 21/16 20060101AFI20220314BHJP
   B63H 21/06 20060101ALI20220314BHJP
【FI】
B63H21/16
B63H21/06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017033583
(22)【出願日】2017-02-24
(65)【公開番号】P2018138428
(43)【公開日】2018-09-06
【審査請求日】2019-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】518131296
【氏名又は名称】三菱重工マリンマシナリ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】西尾 直希
【審査官】結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特許第4446992(JP,B2)
【文献】特開昭50-43695(JP,A)
【文献】特公昭45-28922(JP,B1)
【文献】特開昭48-87203(JP,A)
【文献】特開2015-187448(JP,A)
【文献】特開平1-270623(JP,A)
【文献】丸山謙介ら,“LNG船の安全性向上に貢献 -舶用主機蒸気タービン暖気システム-”,川崎重工技報,日本,川崎重工業株式会社技術研究所,2008年05月,第167号,p.46-49,ISSN 0387-7906
【文献】“Part 5 Main Turbine Remote Control System”,LNGC GLACE ACACIA Machinery Operating Manual,KR,HYUNDAI HEAVY INDUSTRIES CO., LTD.,2007年,p.5-1~5-10
【文献】“LNG船用主機タービン新暖気装置”,川崎重工技報,日本,川崎重工業株式会社技術研究所,2004年01月01日,第154号,p.68-69,ISSN 0387-7906
【文献】“蒸気タービンプラント暖気作業(テキスト)”,日本,財団法人海技振興センター,2010年,p.2-21
【文献】今井善信,“舶用主機タービンの過去と新型タービンの開発”,日本ガスタービン学会誌,日本,日本ガスタービン学会,2010年07月,Vol.38 No.4,p.253-258,ISSN 0387-4168
【文献】今井善信,雪下和大,“舶用主機蒸気タービン技術の変遷”,日本マリンエンジニアリング学会誌,日本,日本マリンエンジニアリング学会,2016年09月01日,第51巻 第5号,p.669-670,DOI:10.5988/jime.51.669,ISSN 1884-3778(online),1346-1427(print)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 21/16,21/06,
F01D 19/00,17/00,15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前進操縦弁と後進操縦弁とを備えた舶用主機タービンの制御を行う舶用主機タービン制御装置であって、
前記舶用主機タービンの主軸は、プロペラに接続されており、
前記舶用主機タービンが停止すると、前記前進操縦弁を開とし、
前記前進操縦弁が開とされてからの経過時間にかかわらず、前記前進操縦弁が開の場合に前記舶用主機タービンの主軸回転数が第1閾値に到達すると前記前進操縦弁を全閉とすると同時に前記後進操縦弁を開とし、
前記後進操縦弁が開とされてからの経過時間にかかわらず、前記後進操縦弁が開の場合に前記舶用主機タービンの主軸回転数が第2閾値に到達すると前記後進操縦弁を全閉とすると同時に前記前進操縦弁を開とし、
前記前進操縦弁と前記後進操縦弁の開閉を交互に切り替える制御を行う舶用主機タービン制御装置。
【請求項2】
前記第2閾値は0より大きく前記第1閾値よりも小さい値である請求項1に記載の舶用主機タービン制御装置。
【請求項3】
前記前進操縦弁が前進操縦弁最大開度に達しても前記第1閾値に到達しない、または前記後進操縦弁が後進操縦弁最大開度に達しても前記第2閾値に到達しない場合は、アラームを通知する請求項2に記載の舶用主機タービン制御装置。
【請求項4】
舶用主機タービンと、
請求項1から請求項3のいずれかに記載の舶用主機タービン制御装置と、
を備えた舶用主機タービン設備。
【請求項5】
前進操縦弁と後進操縦弁とを備えた舶用主機タービンの制御を行う舶用主機タービン制御方法であって、
前記舶用主機タービンの主軸は、プロペラに接続されており、
前記舶用主機タービンが停止すると、前進方向に制御する工程と、
前進方向に制御している場合に前記前進操縦弁が開とされてからの経過時間にかかわらず、前記舶用主機タービンの主軸回転数が第1閾値に到達すると前進方向の制御を停止すると同時に後進方向に制御を行い、
後進方向に制御している場合に前記後進操縦弁が開とされてからの経過時間にかかわらず、前記舶用主機タービンの主軸回転数が第2閾値に到達すると後進方向の制御を停止すると同時に前進方向に制御を行い、
前進方向の制御と後進方向の制御を交互に切り替える制御を行う舶用主機タービン制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、舶用主機タービン制御装置、舶用主機タービン設備、及び、舶用主機タービン制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
船舶に搭載される舶用主機タービンにおいて、航行後に船舶を長時間停止させると、高温状態のタービンロータにその自重によって変形が生じる可能性がある。
この変形を防ぐために、一般的には「オートスピン」が行われている。オートスピンとは、次のような処理を示す。
舶用主機タービンの主軸の回転停止が所定の時間以上となったことを検知すると、自動的に前進操縦弁が開となり、タービンロータを回転させる。さらに、タービンロータが所定の回転数に到達すると、前進操縦弁は閉となり、再び主軸が回転停止する。この回転停止が所定の時間以上となったことを検知すると、自動的に後進操縦弁が開となり、再びタービンロータを回転させる。
このように、前進操縦弁及び後進操縦弁の開閉を繰り返すことによりタービンロータを回転させるオートスピンにより、停止中のタービンロータの変形の防止を行っている。
【0003】
このオートスピンは、上述したように停止中のタービンロータの変形防止を目的として実施するものであり、前進操縦弁または後進操縦弁が閉となってから主軸が回転停止するまでの間に蒸気は投入されない。そのため、ボイラの負荷は上がらず、これにより温度の低い蒸気がタービン車室内に入ることでタービン車室は冷却されることとなる。
またタービン車室が冷却されているため、主機タービンを起動させる際、オペレータの直接制御によって手動で弁を開け蒸気を投入する等、主機タービンの暖機を実施する必要がある。
そこで、オートスピンに暖機効果を持たせることが検討されている。例えば、特許文献1には、オートスピン時に前進操縦弁または後進操縦弁を所定の弁開度に一定時間保つことで蒸気投入量を多くし、オートスピンに暖機効果を持たせることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4446992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示された発明では、前進弁及び後進弁の開閉の切り替えを行う際、所定の弁開度を定め、その弁開度に基づいて切替の制御を行っているため、例えば外力によって主軸の回転が阻害されると、前進操縦弁または後進操縦弁を所定の弁開度にて開いたとしてもタービンロータの回転が阻害される可能性があり、ひいてはタービンロータが回転しないまま前進操縦弁及び後進操縦弁の開閉が行われ、結果として暖機されない場合があるという問題があった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、タービンロータを確実に回転させ暖機効果のあるオートスピンを行う舶用主機タービン制御装置、舶用主機タービン設備、及び、舶用主機タービン制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の舶用主機タービン制御装置、舶用主機タービン設備、及び、舶用主機タービン制御方法は以下の手段を採用する。
本発明の第一態様に係る舶用主機タービン制御装置は、前進操縦弁と後進操縦弁とを備えた舶用主機タービンの制御を行う舶用主機タービン制御装置であって、前記舶用主機タービンの主軸は、プロペラに接続されており、前記舶用主機タービンが停止すると、前記前進操縦弁を開とし、前記前進操縦弁が開とされてからの経過時間にかかわらず、前記前進操縦弁が開の場合に前記舶用主機タービンの主軸回転数が第1閾値に到達すると前記前進操縦弁を全閉とすると同時に前記後進操縦弁を開とし、前記後進操縦弁が開とされてからの経過時間にかかわらず、前記後進操縦弁が開の場合に前記舶用主機タービンの主軸回転数が第2閾値に到達すると前記後進操縦弁を全閉とすると同時に前記前進操縦弁を開とし、前記前進操縦弁と前記後進操縦弁の開閉を交互に切り替える制御を行う。
【0008】
舶用主機タービン停止、すなわち舶用主機タービンの主軸回転数が0rpmとなったことを検知すると、前進操縦弁を主軸回転数が第1閾値となるまで開き、第1閾値に到達すると前進操縦弁を全閉とし、同時に後進操縦弁を主軸回転数が第2閾値となるまで開く。次に主軸回転数が第2閾値に到達すると後進操縦弁を全閉とし、同時に前進操縦弁を主軸回転数が第1閾値となるまで開く。本構成によれば、このように前進操縦弁と後進操縦弁の開閉を交互に切り替える制御を行うことにより、舶用主機タービンの車室に対して蒸気を連続的に投入することができる。このように蒸気投入量を多くすることでタービン車室温度を保つように暖機効果を持たせることにより、ボイラの負荷を一定に保つことができるとともに、舶用主機タービンの起動の際に起動時間を短縮することができる。
また、前進操縦弁と後進操縦弁の開閉の切替を、主軸回転数に基づき実施することから、外力によって主軸の回転が阻害される状況であってもタービンロータが回転するまで弁を開け続けることができ、これにより確実にタービンロータを回転させることができる。
舶用主機タービンにおいては、停止時のタービンロータの自重による変形を防ぐために、自動的にタービンロータを回転させている(以下、「オートスピン」とする。)。このオートスピンに本構成を組み合わせることにより、オートスピンにさらに暖機効果を持たせることができる。
【0009】
上記第一態様では、前記第2閾値は0より大きく前記第1閾値よりも小さい値であるとしてもよい。
【0010】
前進操縦弁を閉とする基準として用いられる第1閾値が、後進操縦弁を閉とする基準として用いられる第2閾値よりも大きいことから、高温高圧蒸気を用いる前進用の高圧タービンに対してより多くの蒸気を投入し、高圧タービンと比べて多くの蒸気量を必要としない低圧タービンである後進用の低圧タービンに対しての蒸気の投入は前進用の高圧タービンよりも少なくする。これにより、前進用の高圧タービンの暖機を重点的に行うことができ、効率のよい暖機効果が得られる。
また、後進用の低圧タービンに対し、過剰な蒸気の投入を防止することができる。後進用の低圧タービンは、多量の蒸気が投入されることを想定した設計となっておらず、過剰に蒸気が投入されると熱による変形が発生する可能性がある。よって、後進用の低圧タービンのケーシングの熱変形や、熱変形を起因とするタービンロータと静止部との干渉、及び干渉による異常振動を防止することができる。
【0011】
上記第一態様では、前記前進操縦弁が前進操縦弁最大開度に達しても前記第1閾値に到達しない、または前記後進操縦弁が後進操縦弁最大開度に達しても前記第2閾値に到達しない場合は、アラームを通知するとしてもよい。
【0012】
何らかの要因、例えば潮流や漂流物等の外力により主軸が回転しないことにより、回転するまで弁を開け続けると、その要因が取り除かれることによってタービンロータが急速回転してしまう虞があり、故障の原因となり得る。
本構成によれば、前進操縦弁または後進操縦弁が最大開度に達しても主軸回転数が各閾値に到達しない場合にアラームを通知するため、アラームにより急速回転が発生する前にその虞があることをオペレータ通知できる。アラームの通知を受けたオペレータは、例えば、ターニング装置を起動させタービン各部の異常の確認を行う、乗務員の監視の下で手作業にて弁を徐々に開ける、等の対応を行う。これらオペレータの対応により、タービンロータの急速回転を防止することができる。
【0013】
本発明の第二態様に係る舶用主機タービン設備は、舶用主機タービンと、前述のいずれかに記載の舶用主機タービン制御装置と、を備える。
【0014】
本発明の第三態様に係る舶用主機タービン制御方法は、前進操縦弁と後進操縦弁とを備えた舶用主機タービンの制御を行う舶用主機タービン制御方法であって、前記舶用主機タービンの主軸は、プロペラに接続されており、前記舶用主機タービンが停止すると、前進方向に制御する工程と、前進方向に制御している場合に前記前進操縦弁が開とされてからの経過時間にかかわらず、前記舶用主機タービンの主軸回転数が第1閾値に到達すると前進方向の制御を停止すると同時に後進方向に制御を行い、後進方向に制御している場合に前記後進操縦弁が開とされてからの経過時間にかかわらず、前記舶用主機タービンの主軸回転数が第2閾値に到達すると後進方向の制御を停止すると同時に前進方向に制御を行い、前進方向の制御と後進方向の制御を交互に切り替える制御を行う。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、主機タービンの主軸の回転数に基づき蒸気投入量を多くしたオートスピンを行うので、タービンロータを確実に回転させて暖機することができ、またオートスピンに暖機効果を持たせることができる。また、停止時に暖機を行うことで主機タービンの起動時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る舶用主機タービン設備を示した概略構成図である。
図2】本発明の一実施形態に係る舶用主機タービン制御装置による制御を示したフローチャートである。
図3】本発明の一実施形態に係る舶用主機タービンの主軸回転数、前進操縦弁開度、及び後進操縦弁開度を示したタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明に係る舶用主機タービン制御装置、舶用主機タービン設備、及び、舶用主機タービン制御方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
以下、本発明の一実施形態について、図1乃至3を用いて説明する。
図1には、本実施形態に係る舶用主機タービン設備の概略構成が示されている。
図1に示されるように、本実施形態に係る舶用主機タービン設備1は、例えば、LNG
船等の船舶の推進用に用いられる。この舶用主機タービン設備1は、主機とされる蒸気タービン2と、減速機28と、プロペラ29と、を備えている。
【0018】
蒸気タービン2は、舶用主機タービン設備1の主動力機として用いられる、例えば、再熱3圧式の蒸気タービンであり、HPタービン21と、IPタービン22と、LPタービン23と、ASTタービン24と、再熱器25と、を備えている。
【0019】
HPタービン21には、主蒸気管31を介して主ボイラ32からの主蒸気が供給され、これによりHPタービン21が回転駆動される。
再熱器25は、HPタービン21とIPタービン22との間に配置され、HPタービン21から排気されて(低温)再熱蒸気管33を介して導かれた蒸気を加熱する。再熱器25にて加熱された蒸気は、(高温)再熱蒸気管34を介してIPタービン22へと供給される。
【0020】
IPタービン22には、再熱器25にて加熱された再熱蒸気が供給され、これによりIPタービン22は回転駆動される。IPタービン22とHPタービン21とは共通の第1軸26に設けられている。
【0021】
LPタービン23には、IPタービン22から排気されて蒸気管35を介して導かれた蒸気が供給され、これによりLPタービン23が回転駆動される。LPタービン23から排気されて復水管36を介して主復水器37に導かれた蒸気は、主復水器37で凝縮し、復水となる。
ASTタービン24は、船舶が後進する際に用いられ、主蒸気管31の途中から枝分かれした後進用主蒸気管38を介して主ボイラ32からの主蒸気が直接供給され、これによりASTタービン24が回転駆動されるようになっている。また、ASTタービン24とLPタービン23とは共通の第2軸27に設けられている。
【0022】
減速機28には、上述した第1軸26および第2軸27が入力軸として接続され、減速機28の出力側には、主軸30が接続されている。また、この主軸30には、プロペラ29が接続され、主軸30によってプロペラ29が回転させられる。そして、このプロペラ29の回転によって船舶の推進力が得られるようになっている。
【0023】
なお、図1中の符号41,42は、主蒸気管31の途中に設けられた前進締切弁、前進操縦弁、符号43は、(高温)再熱蒸気管34の途中に設けられた再熱蒸気止弁、符号44,45は、後進用主蒸気管38の途中に設けられた後進操縦弁、後進中間弁である。
また、図1中の符号46は、主復水器37で凝縮した復水を主ボイラ32に導く給水管であり、符号47は、給水管46の途中に設けられた復水ポンプである。
【0024】
舶用主機タービン制御装置100は、主軸30の回転数を取得し、前進操縦弁42の弁開度及び後進操縦弁44の弁開度の制御を行う。
【0025】
舶用主機タービン制御装置100は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体等から構成されている。そして、各種機能を実現するための一連の処理は、一例として、プログラムの形式で記憶媒体等に記憶されており、このプログラムをCPUがRAM等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、各種機能が実現される。なお、プログラムは、ROMやその他の記憶媒体に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等である。
【0026】
図2には、本実施形態に係る舶用主機タービン制御装置による制御がフローチャートに示されている。
また図3には、本実施形態に係る舶用主機タービンの主軸回転数、前進操縦弁開度、及び後進操縦弁開度がタイムチャートに示されている。図3の縦軸の矢印方向は前進操縦弁の開度および主軸の前進方向回転時の回転数、縦軸の矢印とは逆の方向は後進操縦弁の開度および主軸の後進方向回転時の回転数、横軸は時間である。また実線は前進操縦弁または後進操縦弁の開度を表し、一点鎖線は主軸の回転数を表す。
図2及び図3を用い、本実施形態における舶用主機タービン制御装置による制御について以下に説明する。
ここで、前進操縦弁42を閉とする基準として用いられる主軸30の回転数を第1閾値、後進操縦弁を閉とする基準として用いられる主軸30の回転数を第2閾値とする。第2閾値は、0より大きく第1閾値よりも小さい値であり、絶対値である。本実施形態においては、第1閾値には5rpmを、第2閾値には3rpmをそれぞれ設定するものとする。
【0027】
船舶が停止すると、蒸気タービン2の主軸30は徐々に回転数を落とし、図2のステップS201に示されるように、舶用主機タービン制御装置100によって蒸気タービン2の主軸30の回転停止が検知される。主軸30の回転停止とは、図3の時間t1の一点鎖線に示されるように、主軸回転数が0rpmとなることである。舶用主機タービン制御装置100によって主軸30の回転停止が検知されると、ステップS202へ遷移する。
【0028】
ステップS202では、舶用主機タービン制御装置100は事前に設定されたタイムスケジュールに沿って、図3の時間t1からt2の実線に表されるように前進操縦弁42を徐々に開ける。これにより、主ボイラ32から主蒸気管31を通じてHPタービン21に主蒸気が徐々に投入される。よって、HPタービン21の回転により、図3の時間t1からt2の一点鎖線に表されるように主軸30の回転数も徐々に上がる。
【0029】
次に、舶用主機タービン制御装置100によって主軸30の回転数が5rpm以上であるか否かの判定が行われる(S203)。主軸30の回転数が5rpm以上であると判定されると、ステップS204へ遷移する。主軸30の回転数が5rpm未満であると判定されると、ステップS211へ遷移する。
【0030】
主軸30の回転数が5rpm以上、すなわち主軸30の回転数が5rpmに到達すると、図3の時間t2の実線に示されるように舶用主機タービン制御装置100は前進操縦弁42を閉とする(S204)。
【0031】
図3の時間t3の実線に示されるように前進操縦弁42が全閉となると、同時に後進操縦弁44が開とされ、事前に設定されたタイムスケジュールに沿って、図3の時間t3からt4の実線に示されるように舶用主機タービン制御装置100は後進操縦弁44を徐々に開ける(S205)。これにより、主ボイラ32から後進用主蒸気管38を通じてASTタービン24に主蒸気が徐々に投入される。よって、ASTタービン24の回転により、図3の時間t3からt4の一点鎖線に示されるように、主軸30は前進方向の回転が徐々に停止し後進方向の回転へと推移し、後進方向の回転による回転数が徐々に上がる。
【0032】
ステップS203において、主軸30の回転数が5rpm未満であると判定された場合は、舶用主機タービン制御装置100によって前進操縦弁42の開度が最大開度であるか否かの判定が行われる(S211)。ここで、前進操縦弁42の最大開度とは、前進操縦弁42の開度の上限値である。何らかの要因により主軸の回転が阻害される場合、主軸回転数が5rpmとなるように弁を開け続けると、その要因が取り除かれることによってタービンロータが急速回転してしまう虞があり、故障の原因となり得る。よって、開度に制限を設けることにより、急速回転を防止する。
前進操縦弁42の開度が最大開度であると判定された場合はステップS212へ遷移する。前進操縦弁42の開度が最大開度でないと判定された場合は、ステップS202へ戻る。
【0033】
前進操縦弁42の開度が最大開度であると判定された場合は、主軸30の回転数が5rpmに到達していないにもかかわらず最大開度となっており、何らかの要因によりタービンロータが回転していない可能性がある。そこで、急速回転を防止するために、舶用主機タービン制御装置100はアラームを通知する(S212)。アラームを通知することで、オペレータに注意を喚起することができる。アラームの通知を受けたオペレータは、例えば、ターニング装置を起動させタービン各部の異常の確認を行う、乗務員の監視の下で手作業にて弁を徐々に開ける、等の対応を行う。これらオペレータの対応により、タービンロータの急速回転を防止することができる。
前進操縦弁42の開度が最大開度でないと判定された場合は、ステップS202へ戻り、図3の時間t2の点線に示されるように舶用主機タービン制御装置100によって前進操縦弁42がさらに開かれる。この場合、前進操縦弁42は主軸30の回転数が5rpmに到達する、または前進操縦弁42の開度が最大開度となるまで、前進操縦弁42は開かれる。
【0034】
ステップS205において舶用主機タービン制御装置100によって後進操縦弁44が徐々に開かれることにより、主軸30の回転数が上がる。
次に、舶用主機タービン制御装置100によって主軸30の回転数が3rpm以上であるか否かの判定が行われる(S206)。主軸30の回転数が3rpm以上であると判定されると、ステップS207へ遷移する。主軸30の回転数が3rpm未満であると判定されると、ステップS221へ遷移する。
【0035】
主軸30の回転数が3rpm以上、すなわち主軸30の回転数が3rpmに到達すると、図3の時間t4の実線に示されるように舶用主機タービン制御装置100は後進操縦弁44を閉とする(S207)。
【0036】
図3の時間t5の実線に示されるように後進操縦弁44が全閉となると、同時に前進操縦弁42が開とされ、事前に設定されたタイムスケジュールに沿って、図3の時間t5からt6の実線に示されるように舶用主機タービン制御装置100は前進操縦弁42を徐々に開ける(S208)。これにより、主ボイラ32から主蒸気管31を通じてHPタービン21に主蒸気が徐々に投入される。よって、HPタービン21の回転により、図3の時間t5からt6の一点鎖線に示されるように、主軸30は後進方向の回転が徐々に停止し前進方向の回転へと推移し、前進方向の回転による回転数が徐々に上がる。
【0037】
ステップS206において、主軸30の回転数が3rpm未満であると判定された場合は、舶用主機タービン制御装置100によって後進操縦弁44の開度が最大開度であるか否かの判定が行われる(S221)。ここで、後進操縦弁44の最大開度とは、後進操縦弁44の開度の上限値である。最大開度を設けることにより、急速回転を防止する。
後進操縦弁44の開度が最大開度であると判定された場合はステップS222へ遷移する。後進操縦弁44の開度が最大開度でないと判定された場合は、ステップS205へ戻る。
【0038】
後進操縦弁44の開度が最大開度であると判定された場合は、主軸30の回転数が3rpmに到達していないにもかかわらず最大開度となっており、何らかの要因によりタービンロータが回転していない可能性がある。そこで、急速回転を防止するために、舶用主機タービン制御装置100はアラームを通知する(S222)。アラームを通知することで、オペレータに注意を喚起することができる。アラームの通知を受けたオペレータは、例えば、ターニング装置を起動させタービン各部の異常の確認を行う、乗務員の監視の下で手作業にて弁を徐々に開ける、等の対応を行う。これらオペレータの対応により、タービンロータの急速回転を防止することができる。
後進操縦弁44の開度が最大開度でないと判定された場合は、ステップS205へ戻り、図3の時間t4の点線に示されるように舶用主機タービン制御装置100によって後進操縦弁44がさらに開かれる。この場合、後進操縦弁44は主軸30の回転数が3rpmに到達する、または後進操縦弁44の開度が最大開度となるまで、後進操縦弁44は開かれる。
【0039】
ステップS208において前進操縦弁42が徐々に開かれることにより、主軸30の回転数が上がり、ステップS203へ戻り、再度主軸30の回転数が5rpm以上であるか否かの判定が行われる。
引き続き、図3の時間t6以降に示されるように、舶用主機タービン制御装置100によって前進操縦弁42及び後進操縦弁44の開閉が交互に実施される。
以上の制御により、舶用主機タービン制御装置100は、主軸30の回転数に基づき前進操縦弁42と後進操縦弁44の開閉を間をおかず実施する。
【0040】
以上、説明してきたように、本実施形態に係る舶用主機タービン制御装置、舶用主機タービン設備、及び、舶用主機タービン制御方法によれば、以下の作用効果を奏する。
蒸気タービン2が停止、すなわち蒸気タービン2の主軸30の回転数が0rpmとなったことを検知すると、前進操縦弁42を主軸回転数が第1閾値である5rpmとなるまで開き、5rpmに到達すると前進操縦弁42を全閉とし、同時に後進操縦弁44を主軸回転数が第2閾値である3rpmとなるまで開く。次に主軸回転数が3rpmに到達すると後進操縦弁44を全閉とし、同時に前進操縦弁42を主軸回転数が5rpmとなるまで開く。本構成によれば、このように前進操縦弁42と後進操縦弁44の開閉を交互に切り替える制御を行うことにより、蒸気タービン2の車室に対して蒸気を連続的に投入することができる。このように蒸気投入量を多くすることでタービン車室温度を保つように暖機効果を持たせることにより、主ボイラ32の負荷を一定に保つことができるとともに、蒸気タービン2の起動の際に起動時間を短縮することができる。
また、前進操縦弁42と後進操縦弁44の開閉の切替を、主軸回転数に基づき実施することから、外力によって主軸の回転が阻害される状況であってもタービンロータが回転するまで弁を開け続けることができ、これにより確実にタービンロータを回転させることができる。
蒸気タービン2においては、停止時のタービンロータの自重による変形を防ぐために、自動的にタービンロータを回転させるオートスピンを行っている。このオートスピンに本構成を組み合わせることにより、オートスピンにさらに暖機効果を持たせることができる。
【0041】
また本実施形態によれば、前進操縦弁42を閉とする基準として用いられる第1閾値が、後進操縦弁44を閉とする基準として用いられる第2閾値よりも大きいことから、高温高圧蒸気を用いるHPタービン21に対してより多くの蒸気を投入し、HPタービン21と比べて多くの蒸気量を必要としない低圧タービンであるASTタービン24に対しての蒸気の投入はHPタービンよりも少なくする。これにより、HPタービン21の暖機を重点的に行うことができ、効率のよい暖機効果が得られる。
また、ASTタービン24に対し、過剰な蒸気の投入を防止することができる。ASTタービン24は、多量の蒸気が投入されることを想定した設計となっておらず、過剰に蒸気が投入されると熱による変形が発生する可能性がある。よって、ASTタービン24のケーシングの熱変形や、熱変形を起因とするタービンロータと静止部との干渉、及び干渉による異常振動を防止することができる。
【0042】
また本実施形態によれば、前進操縦弁42または後進操縦弁44が最大開度に達しても主軸回転数が各閾値に到達しない場合にアラームを通知するため、アラームにより急速回転が発生する前にその虞があることをオペレータに通知できる。アラームの通知を受けたオペレータは、例えば、ターニング装置を起動させタービン各部の異常の確認を行う、乗務員の監視の下で手作業にて弁を徐々に開ける、等の対応を行う。これらオペレータの対応により、タービンロータの急速回転を防止することができる。
【0043】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更なども含まれる。
【0044】
たとえば、上述した実施形態においては前進操縦弁42を閉とする基準として用いられる主軸30の回転数である第1閾値を5rpm、後進操縦弁44を閉とする基準として用いられる主軸30の回転数である第2閾値を3rpmとしたが、船舶が移動しない程度の回転数であればそれぞれ任意の値を設定するとしてもよい。
【0045】
また、上述した実施形態においては前進操縦弁42及び後進操縦弁44の開度のタイムスケジュールは図3に示すものとしたが、他の任意のタイムスケジュールを設定するとしてもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 舶用主機タービン設備
2 蒸気タービン(舶用主機タービン)
21 HPタービン
22 IPタービン
23 LPタービン
24 ASTタービン
25 再熱器
30 主軸
32 主ボイラ
42 前進操縦弁
44 後進操縦弁
100 舶用主機タービン制御装置

図1
図2
図3