(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-11
(45)【発行日】2022-03-22
(54)【発明の名称】眼球手術練習用装置
(51)【国際特許分類】
G09B 23/32 20060101AFI20220314BHJP
【FI】
G09B23/32
(21)【出願番号】P 2017148375
(22)【出願日】2017-07-31
【審査請求日】2020-07-03
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)事業「バイオニックヒューマノイドが拓く新産業革命」に係る委託業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【氏名又は名称】岡本 寛之
(72)【発明者】
【氏名】小俣 誠二
(72)【発明者】
【氏名】益田 泰輔
(72)【発明者】
【氏名】丸山 央峰
(72)【発明者】
【氏名】新井 史人
【審査官】比嘉 翔一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0098944(US,A1)
【文献】特公昭46-040299(JP,B1)
【文献】特表平02-502224(JP,A)
【文献】実開平01-111267(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 9/00- 9/56
G09B19/00-19/26
G09B23/00-25/08
A63H 3/00- 3/52
A61F 9/00- 9/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
模擬眼球を直接または間接的に挿入可能な凹部を有する模擬眼球台座部、
前記模擬眼球台座部に挿入可能な模擬眼球、または、前記模擬眼球台座部に挿入可能な模擬眼球を保持する模擬眼球保持部材、
前記模擬眼球台座部に対して、前記模擬眼球または前記模擬眼球保持部材の位置を正位の方向に復元する力を発生する復元力発生機構、
を含み、
前記模擬眼球または前記模擬眼球保持部材が、前記模擬眼球台座部の凹部に沿って回転
し、
前記復元力発生機構が、
前記模擬眼球台座部内に配置、または、前記模擬眼球台座部の外部に配置した第1磁石と、
前記模擬眼球または前記模擬眼球保持部材に配置した第2磁石を含み、
前記第1磁石は、略平面状または略凹部形状を有し、平面または凹面が前記模擬眼球または前記模擬眼球保持部材に向かうように配置され、かつ、
前記第1磁石と前記第2磁石は、前記模擬眼球または前記模擬眼球保持部材を前記模擬眼球台座部に対して回転した際に、復元力が発生するように配置されている、眼球手術練習用装置。
【請求項2】
前記模擬眼球または前記模擬眼球保持部材を前記模擬眼球台座部に正位の位置となるように挿入した際に、前記第2磁石が、前記第1磁石より、前記模擬眼球台座部の凹部の開口方向に配置されている、請求項1に記載の眼球手術練習用装置。
【請求項3】
模擬眼球を直接または間接的に挿入可能な凹部を有する模擬眼球台座部、
前記模擬眼球台座部に挿入可能な模擬眼球、または、前記模擬眼球台座部に挿入可能な模擬眼球を保持する模擬眼球保持部材、
前記模擬眼球台座部に対して、前記模擬眼球または前記模擬眼球保持部材の位置を正位の方向に復元する力を発生する復元力発生機構、
を含み、
前記模擬眼球または前記模擬眼球保持部材が、前記模擬眼球台座部の凹部に沿って回転し、
前記復元力発生機構が、一端を前記模擬眼球台座部に固定し、他端を前記模擬眼球または前記模擬眼球保持部材に固定した、少なくとも2個以上のバネである
眼球手術練習用装置。
【請求項4】
前記模擬眼球台座部に対して、前記模擬眼球または前記模擬眼球保持部材の位置を正位から5~50度回転した際に、前記復元力発生機構が機能する、
請求項1乃至3の何れか一項に記載の眼球手術練習用装置。
【請求項5】
前記模擬眼球台座部に貫通孔が形成されている、
請求項1乃至
4の何れか一項に記載の眼球手術練習用装置。
【請求項6】
模擬眼球を露出するための孔を有するフェイスプレート、
前記フェイスプレートと係合する前頭部ユニット、
を更に含む、請求項1乃至
5の何れか一項に記載の眼球手術練習用装置。
【請求項7】
前記フェイスプレートの角度を調整する角度調整機構、
を更に含む、請求項
6に記載の眼球手術練習用装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼球手術練習用装置に関する。
【背景技術】
【0002】
国内における眼球手術症例数は、白内障では約200万例、緑内障では約20万例、網膜硝子体手術は約2万例と言われている。眼球手術は、眼という非常にデリケートな組織を対象とする手術であることから、上達するためには多くの経験が必要である。しかしながら、医療事故は医療訴訟に発展する可能性があることから、若い医師が臨床で手術経験を積み難くなっている。そのため、模擬眼球を用い、人間の眼球手術に近い感覚で手術の練習ができる眼球手術練習用装置が知られている。
【0003】
眼球手術練習用装置の一例として、白内障手術練習用の模擬眼装置が知られている(特許文献1参照)。特許文献1に記載の模擬眼装置は、人眼水晶体核に対応する模擬核と、人眼水晶体皮質に対応する模擬皮質とを備えることが開示されている。また、特許文献1には、模擬眼に磁石を組み込み、台座には磁性体としての鉄球を埋め込むことで、模擬眼が磁石と磁性体の接点を中心として動くことができることも開示されている。
【0004】
その他の眼球手術練習用装置としては、網膜硝子体手術の一つである網膜上膜(ERM)および内境界膜(ILM)が眼球内空の底面部に積層されている模擬眼球を用い、当該模擬眼球を針金によるバネ力により顔型模型に押し付ける装置も知られている(特許文献2参照)。
【0005】
また、ハウジングの外側から多数のネジをハウジング内部に挿入可能とすることで、ハウジング内に配置した模擬眼球の位置を調整できる眼球手術練習用装置も知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2011/125136号
【文献】米国特許出願公開第2012/0021397号明細書
【文献】米国特許出願公開第2016/0063898号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
緑内障の手術は、(1)眼内と結膜(白目)下の間にバイパスを作成して、眼内の水を結膜の下に作成したプールにしみ出させる線維柱帯切除術、(2)眼内の排水管の組織を切開して、眼内の排水の効率を良くする線維柱帯切開術、が主な術式である。両術式とも、角膜周囲の白目の強膜を薄切りすることから、眼球を斜視の状態にする必要がある。そのため、手術の際には、白目に糸を通し、当該糸を引っ張ることで眼球を正位の位置から斜視の位置(5~50度)に、眼窩内で回転させている。
【0008】
ところで、人体の眼球は正位に戻る復元力があり、眼球を糸で引っ張り回転しても、そのままでは眼球が元の位置に戻ってしまう。そのため、手術の際には、糸で眼球を引っ張り回転した後に、糸の先に重り等を付けることで、眼球の復元力と眼球を引っ張る力が釣り合った状態にしている。つまり、メスで強膜を薄切りする際には、眼球には、復元力、糸の引っ張り力、メスの押圧力の3つの力が加わっている。緑内障の手術練習をする際には、眼球手術練習用装置においても、上記3つの力を再現できる必要がある。換言すると、眼球手術練習用装置には、模擬眼球に糸を通して引っ張り回転した際に、模擬眼球が正位に戻る復元力を発生する機構を備える必要がある。
【0009】
しかしながら、上記特許文献1に記載の眼球手術練習用装置は、眼球が正位の位置で手術を行う白内障手術用に開発されたものである。特許文献1に記載された発明では、模擬眼球が可動である点は開示されているものの、模擬眼球は台座と模擬眼球の接点を中心に動くに過ぎず、模擬眼球が、眼窩に相当する部材内で回転するものではない。したがって、緑内障手術の際の眼球の動きを再現できないという問題がある。
【0010】
また、特許文献2に記載の眼球手術練習用装置も、網膜硝子体手術も考慮しているものの、主に白内障手術を想定した装置である。そして、模擬眼球を針金によるバネ力により顔型模型に押し付ける構造となっていることから、緑内障手術の際の眼球の動きを再現できないという問題がある。
【0011】
更に、特許文献3に記載の眼球手術練習用装置は、白内障、緑内障、角膜除去等の練習が可能といわれている。しかしながら、ハウジングの外側から多数のネジをハウジング内部に挿入し、ハウジング内の模擬眼球の位置を調整する機構であることから、模擬眼球を眼窩に相当する部材内で回転し、且つ、模擬眼球に復元力を付与することができないという問題がある。上記のとおり、現状の眼球手術練習用装置の多くは白内障を対象としており、緑内障手術の手順に応じた模擬眼球の動きを再現できる眼球手術練習用装置は知られていない。
【0012】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、鋭意研究を行ったところ、模擬眼球または模擬眼球を保持する模擬眼球保持部材を、模擬眼球台座部の凹部に沿って回転できるように配置し、模擬眼球台座部に対して、模擬眼球または模擬眼球保持部材の位置を正位の方向に復元する復元力発生機構を設けることで、緑内障手術の際の手順を再現できることを新たに見出した。
【0013】
すなわち、本発明の目的は、緑内障手術の練習に使用可能な眼球手術練習用装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、以下に示す、眼球手術練習用装置に関する。
【0015】
(1)模擬眼球を直接または間接的に挿入可能な凹部を有する模擬眼球台座部、
前記模擬眼球台座部に挿入可能な模擬眼球、または、前記模擬眼球台座部に挿入可能な模擬眼球を保持する模擬眼球保持部材、
前記模擬眼球台座部に対して、前記模擬眼球または前記模擬眼球保持部材の位置を正位の方向に復元する力を発生する復元力発生機構、
を含み、
前記模擬眼球または前記模擬眼球保持部材が、前記模擬眼球台座部の凹部に沿って回転する、
眼球手術練習用装置。
(2)前記模擬眼球台座部に対して、前記模擬眼球または前記模擬眼球保持部材の位置を正位から5~50度回転した際に、前記復元力発生機構が機能する、
上記(1)に記載の眼球手術練習用装置。
(3)前記復元力発生機構が、
前記模擬眼球台座部内に配置、または、前記模擬眼球台座部の外部に配置した第1磁石と、
前記模擬眼球または前記模擬眼球保持部材に配置した第2磁石を含み、
前記第1磁石と前記第2磁石は、前記模擬眼球または前記模擬眼球保持部材を前記模擬眼球台座部に対して回転した際に、反発力が発生するように同極が対向するように配置されている、上記(1)または(2)に記載の眼球手術練習用装置。
(4)前記模擬眼球または前記模擬眼球保持部材を前記模擬眼球台座部に正位の位置となるように挿入した際に、前記第2磁石が、前記第1磁石より、前記模擬眼球台座部の凹部の開口方向に配置されている、
上記(3)に記載の眼球手術練習用装置。
(5)前記復元力発生機構が、一端を前記模擬眼球台座部に固定し、他端を前記模擬眼球または前記模擬眼球保持部材に固定した伸縮部材である、
上記(1)または(2)に記載の眼球手術練習用装置。
(6)前記模擬眼球台座部に貫通孔が形成されている、
上記(1)乃至(5)の何れか一つに記載の眼球手術練習用装置。
(7)模擬眼球を露出するための孔を有するフェイスプレート、
前記フェイスプレートと係合する前頭部ユニット、
を更に含む、上記(1)乃至(6)の何れか一つに記載の眼球手術練習用装置。
(8)前記フェイスプレートの角度を調整する角度調整機構、
を更に含む、上記(7)に記載の眼球手術練習用装置。
【発明の効果】
【0016】
本願で開示する眼球手術練習用装置を用いることで、緑内障手術の際の手順を再現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1Aおよび
図1Bは、第1の実施形態における眼球手術練習用装置1Aの概略断面図である。
【
図3】
図3は、第1の実施形態の変形例の概略断面図である。
【
図4】
図4Aおよび
図4Bは、第2の実施形態における眼球手術練習用装置1Bの概略断面図である。
【
図6】
図6Aおよび
図6Bは、第3の実施形態における眼球手術練習用装置1Cの概略断面図である。
【
図7】
図7は、第4の実施形態における眼球手術練習用装置1Dの概略分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、実施形態における眼球手術練習用装置について、詳しく説明する。なお、本明細書において、同種の機能を有する部材には、同一または類似の符号が付されている。そして、同一または類似の符号の付された部材について、繰り返しとなる説明が省略される場合がある。
【0019】
(第1の実施形態)
図1Aおよび
図1Bを参照して、第1の実施形態における眼球手術練習用装置1Aについて説明する。
図1Aおよび
図1Bは、第1の実施形態における眼球手術練習用装置1Aの概略断面図である。なお、
図1Aおよび
図1Bに共通する説明に関しては、明細書中において、
図1と記載することがある。他の図についても同様である。
【0020】
第1の実施形態における眼球手術練習用装置1は、模擬眼球台座部2、模擬眼球を保持する模擬眼球保持部材3、復元力発生機構4を具備する。第1の実施形態では、模擬眼球台座部2は、模擬眼球を間接的に挿入可能、換言すれば、模擬眼球を保持する模擬眼球保持部材3を挿入可能な凹部21を具備する。凹部21は模擬眼球保持部材3を挿入・保持し、模擬眼球保持部材3を凹部に沿って回転することができる形状であれば特に制限はなく、例えば、略半球状の曲面等が挙げられる。
【0021】
模擬眼球保持部材3は、模擬眼球を保持することができ、模擬眼球台座部2の凹部21に沿って回転できれば特に制限はない。
図2Aおよび
図2Bは、模擬眼球保持部材3の実施形態を例示する図である。例えば、
図2Aに示すような略半球のカップ状部材、
図2Bに示すような下部が結合している湾曲した複数の板状部材32等が挙げられる。なお、
図2Bに示す実施形態の場合、複数の板状部材32は等間隔に形成されることか望ましい。
【0022】
第1の実施形態では、復元力発生機構4は、模擬眼球台座部2内に配置した第1磁石41、および、模擬眼球保持部材3に配置した第2磁石42で構成されている。第1磁石41と第2磁石42は、
図1に示すように、模擬眼球保持部材3を模擬眼球台座部2に対して回転した際に、同極が対向するように配置されている。そのため、手術練習の際に、模擬眼球に糸を通して回転させた場合、模擬眼球保持部材3は
図1Aに示す正位の位置から
図1Bに示すように回転する。そして、所定の角度まで回転すると、第1磁石41と第2磁石42が近づくが、同極(
図1ではN極)が対向するように配置されていることから、反発力(復元力)が発生する。その結果、模擬眼球保持部材3は正位の方向に復元する力が発生し、実際の緑内障手術時の人眼の復元力を再現することができる。
【0023】
なお、第1の実施形態において「正位」とは、模擬眼球保持部材3を模擬眼球台座部2に偏心させずに挿入した位置、換言すると、模擬眼球保持部材3が凹部21内で最も安定的に静止する位置を意味する。例えば、
図1Aに示す実施形態では、模擬眼球保持部材3の略半球の外周面の頂点31と、模擬眼球台座部2の凹部21の略半球面の頂点22が一致する位置を正位と定義できる。なお、第2磁石42は所定の重量があることから、第2磁石42は、模擬眼球保持部材3の略半球面の頂点31から等距離に配置されることが望ましい。また、第2磁石42は、
図2Aに示す略半球のカップ状の模擬眼球保持部材3を用いた場合は、略半球のカップの球面に少なくとも2個以上の第2磁石42を配置してもよいし、
図2Cに示すようにリング状の第2磁石42を配置してもよい。
図2Bに示す模擬眼球保持部材3を用いた場合は、
図2Dに示すように、板状部材32に第2磁石42を配置すればよい。
【0024】
緑内障手術の際には、眼球に糸を通して眼窩内で、5~50度回転させる。そのため、復元力発生機構4は、模擬眼球保持部材3が常に正位の方向に復元する力を発生するように設けてもよいし、少なくとも、5~50度回転した際に復元力発生機構4が機能する、つまり、復元力が発生するようにしてもよい。なお、本明細書において、「正位の方向に復元する力」とは、正位の位置に復元することを意味するのではなく、復元力が発生した位置より相対的に正位の方向に向かう力を意味する。また、第1の実施形態において、5~50度とは、
図1BのXで示すとおり、凹部21の頂点22と模擬眼球保持部材3の頂点31における法線が交わる角度を意味する。また、復元力が発生する角度とは、復元力を持続する角度ではなく、復元力が発生する角度を意味する。例えば、復元力が発生する角度が5~50度と記載した場合、5度以上、50度以下の何れかの角度で復元力が発生することを意味する。復元力が発生する角度は、第1磁石41と第2磁石42の位置関係により調整すればよい。
【0025】
例えば、
図1Aでは、第2磁石42が模擬眼球保持部材3の端部付近に配置されているが、第2磁石42を
図1Aに示す位置より第1磁石41側に配置することで、反発力が発生する角度Xをより小さくできる。つまり、第1の実施形態の復元力発生機構4の復元力が発生する角度は、第1磁石41と第2磁石42の配置により、約0~90度の範囲で設定することができる。したがって、緑内障手術用としては、上記のとおり、5~50度回転した際に復元力が発生するように設定すればよいが、眼球手術練習用装置1Aとしては復元力が発生する角度をより広く設定してもよい。復元力が発生する角度の下限としては、例えば、0度、5度、10度、15度等が挙げられる。また、復元力が発生する角度の上限としては、例えば、90度、80度、70度、60度、50度等が挙げられる。
【0026】
また、反発力を発生する角度の調整には、第2磁石42ではなく、第1磁石41の形状・配置を変えてもよい。
図1に示す実施形態では、略平面状の第1磁石41を模擬眼球台座部2内に配置しているが、例えば、第1磁石41を略凹部形状、つまり、第1磁石41の周囲の方を高くすることで、反発力が発生する角度Xをより小さくしてもよい。あるいは、第1磁石41を複数設け、所期の角度Xで反発力が発生するように、模擬眼球台座部2内に配置してもよい。勿論、第1磁石41および第2磁石双方の配置を調整してもよい。また、
図1に示す実施形態では、第1磁石41は模擬眼球台座部2に一体的となるように組み込まれているが、第1磁石41と模擬眼球台座部2は別体であってもよい。
【0027】
また、復元力発生機構は、回転する角度が大きくなるほど、反発力が大きくなるように構成してもよい。例えば、
図2Dに示すように、模擬眼球保持部材3の頂点31に近い側には磁力の弱い第2磁石42を配置し、頂点31から離れた方向に相対的に磁力の強い第2磁石42を配置すればよい。あるいは、模擬眼球保持部材3の頂点31に近い側の第2磁石42の面積を小さくし、頂点31から離れた方向の第2磁石41の面積をより大きくしてもよい。また、単一の第2磁石42を用い、頂点31から離れる方向に向かうほど面積を大きくしたり、磁力を強くしてもよい。
図2Cに示すリング状の第2磁石42を用いた場合も同様に、磁力または面積の異なる2個以上のリング状の第2磁石42を用いてもよいし、頂点31から離れる方向に向かうほど磁力が強くなる単一のリング状の磁石を用いてもよい。
【0028】
第1の実施形態では、磁石で復元力発生機構4を形成している。したがって、模擬眼球台座部2および模擬眼球保持部材3は磁石に作用する磁性体や磁石以外の材料であれば特に制限はなく、例えば、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリオキシメチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルエーテルケトン等の樹脂で作製すればよい。
【0029】
(第1の実施形態の変形例)
図3は、第1の実施形態の変形例の概略断面図である。第1の実施形態の変形例における眼球手術練習用装置1Aでは、模擬眼球台座部2に貫通孔23が形成されている点で、第1の実施形態と異なる。貫通孔23を形成することで、後述するとおり、眼球手術練習用装置1A内に光源ユニットを設け、該光源ユニットからの光を模擬眼球に照射することができる。貫通孔23を形成する位置は、模擬眼球に光が照射できれば特に制限はないが、模擬眼球台座部2の底部から凹部21の中央に貫通するよう形成されることが好ましい。手術練習の際に、術者から見た際に、光を模擬眼球に均等に照射できる。なお、
図3に示す例では、模擬眼球保持部材3には、貫通孔が形成されていない。模擬眼球保持部材3を透明な樹脂で作製すれば、特に貫通孔を形成する必要はないが、必要に応じて、模擬眼球保持部材3にも貫通孔を形成してもよい。また、模擬眼球台座部2に貫通孔23を設ける場合は、第1磁石41も孔が形成されたドーナッツ状の磁石を用いればよい。
【0030】
(第2の実施形態)
図4Aおよび
図4Bを参照して、第2の実施形態における眼球手術練習用装置1Bについて説明する。
図4Aおよび
図4Bは、第2の実施形態における眼球手術練習用装置1Bの概略断面図である。
【0031】
第2の実施形態における眼球手術練習用装置1Bは、第1磁石41および第2磁石42に換え、復元力発生機構4として伸縮部材を備える点で、第1の実施形態における眼球手術練習用装置1Aとは異なる。その他の点では、第2の実施形態における眼球手術練習用装置1Bは、第1の実施形態における眼球手術練習用装置1Aおよび変形例と同様である。よって、第2の実施形態では、伸縮部材を中心に説明し、その他の構成についての繰り返しとなる説明は省略する。
【0032】
図4に示す眼球手術練習用装置1Bの伸縮部材は、ゴム43を用いている。ゴム43を用いる場合は、ゴム43の一端を模擬眼球台座部2に固定し、他端を模擬眼球保持部材3に固定すればよい。なお、ゴム43を模擬眼球台座部2に固定する際には、ゴム43を模擬眼球台座部2の外周面に固定してもよいし、
図4では詳細な図示を省略しているが、模擬眼球台座部2に溝部を形成し、溝部にゴム43を通して固定してもよい。また、ゴム43は少なくとも2個以上用い、各々のゴム43が等間隔となるように形成することが望ましい。
【0033】
第2の実施形態においても、模擬眼球保持部材3が常に正位の方向に復元するように設けてもよいし、5~50度回転した際に、復元力が発生するようにしてもよい。また、復元力が発生する角度の下限としては、例えば、0度、5度、10度、15度等としてもよいし、復元力が発生する角度の上限としては、例えば、90度、80度、70度、60度、50度等としてもよい。復元力の発生は、ゴム43の長さで調整することができる。
【0034】
(第2の実施形態の変形例)
図5Aおよび
図5Bは、第2の実施形態の変形例の概略断面図である。第2の実施形態の変形例における眼球手術練習用装置1Bでは、伸縮部材として、ゴム43に換え、バネ44を用いる点が異なっている。バネ44としては、金属やプラスチック等の受動的なバネ(バネを伸ばすと復元力が発生)であればよい。バネ44の長さを調整することで、復元力が発生する角度を調整することができる。なお、第2の実施形態の変形例では、
図5に示すように、バネ44の一端を固定し易くするために、模擬眼球保持部材3の端部にバネ44の取付部33を形成してもよい。この取付部33は、第2の実施形態に用いてもよい。また、第2の実施形態の変形例としては、バネ44に限定されず、例えば、形状記憶合金アクチェーター(SMA)等の能動的な駆動装置等、伸縮できるものであれば特に制限はない。第2の実施形態および変形例の場合、復元力発生機構4は磁石を用いない。したがって、模擬眼球台座部2および模擬眼球保持部材3は、第1の実施形態で例示する材料に加え、例えば、ステンレス、銅、アルミ等の金属材料を用いてもよい。
【0035】
(第3の実施形態)
図6Aおよび
図6Bを参照して、第3の実施形態における眼球手術練習用装置1Cについて説明する。
図6Aおよび
図6Bは、第3の実施形態における眼球手術練習用装置1Cの概略断面図である。
【0036】
第3の実施形態における眼球手術練習用装置1Cは、模擬眼球保持部材3を具備せず模擬眼球5を直接模擬眼球台座部2に挿入する点、復元力発生機構4の構成要素の配置あるいは構成要素の取付位置を、模擬眼球保持部材3に換え模擬眼球5に設ける点で、第1の実施形態における眼球手術練習用装置1Aとは異なる。その他の点では、第3の実施形態における眼球手術練習用装置1Cは、第1の実施形態における眼球手術練習用装置1Aおよび変形例、並びに、第2の実施形態における眼球手術練習用装置1Bおよび変形例、と同様である。よって、第3の実施形態では、模擬眼球5および復元力発生機構4を中心に説明し、その他の構成についての繰り返しとなる説明は省略する。
【0037】
図6に示すとおり、第3の実施形態における眼球手術練習用装置1Cでは、第2磁石42が模擬眼球5に形成されている。模擬眼球5に糸を通して回転することで、模擬眼球5内の第2磁石42が第1磁石41に近づくと反発力が発生し、模擬眼球5を正位の方向に復元する力が発生し、実際の緑内障手術時の人眼の復元力を再現することができる。
【0038】
なお、第3の実施形態の「正位」とは、模擬眼球5を模擬眼球台座部2に偏心させずに挿入した位置、換言すると、模擬眼球5の角膜領域の中心51が、模擬眼球台座部2の凹部21の略半球面の頂点22の法線Pと一致する位置を正位と定義できる。なお、模擬眼球5が正位にある時、法線Pと模擬眼球が交差する他の点を模擬眼球の底部52と定義する。そして、第3の実施形態において、5~50度とは、
図6BのXに示すとおり、模擬眼球5の角膜領域の中心51と底部52を結んだ線と、法線Pが交わる角度を意味する。また、復元力が発生する角度の下限としては、例えば、0度、5度、10度、15度等としてもよいし、復元力が発生する角度の上限としては、例えば、90度、80度、70度、60度、50度等としてもよい。
【0039】
図6に示す第3の実施形態は、復元力発生機構4として第1磁石41および第2磁石42を設けた例を示しているが、第2の実施形態および変形例に示すとおり、伸縮部材を用いてもよい。伸縮部材を用いる場合、伸縮部材の他端を模擬眼球保持部材3に換え、模擬眼球5に直接固定すればよい。
【0040】
実施形態に係る眼球手術練習用装置1は、復元力発生機構4を具備することから、緑内障の手術練習に用いることができるが、白内障等の従来の手術にも用いることができる。したがって、模擬眼球5は、各種手術用に作製した公知の模擬眼球、あるいは、公知の模擬眼球技術を組み合わせて作製した模擬眼球を用いることができる。第1および第2の実施形態に係る眼球手術練習用装置1A、1Bを用いる場合は、公知あるいは公知の模擬眼球技術を組み合わせて作製した模擬眼球5を模擬眼球保持部材3に挿入・保持すればよい。第3の実施形態に係る眼球手術練習用装置1Cを用いる場合は、公知あるいは公知の模擬眼球技術を組み合わせて作製した模擬眼球5に第2磁石42を配置する、あるいは、模擬眼球5に伸縮部材の他端を固定すればよい。
【0041】
上記のとおり、緑内障手術の際には、強膜を薄切りする。したがって、実施形態に係る眼球手術練習用装置1を用いて緑内障手術の練習をする場合は、角膜周囲の白目部分に疑似強膜が形成された模擬眼球5を用いることが好ましい。模擬強膜は、例えば、合成樹脂材料やエラストマー材料から形成した薄膜を積層することで形成することができる。なお、模擬眼球5は、一般的にシリコーン等の柔軟性のある樹脂で作製されている。したがって、模擬眼球5を直接模擬眼球台座部2の凹部21に挿入すると、摩擦力で模擬眼球5が回転しにくい場合がある。その場合は、模擬眼球5と模擬眼球台座部2の凹部21の隙間Sに、潤滑油等を流し込めばよい。模擬眼球台座部2は、第1の実施形態、第2の実施形態で例示した材料で形成すればよい。
【0042】
(第4の実施形態)
図7を参照して、第4の実施形態における眼球手術練習用装置1Dについて説明する。
図7は、第4の実施形態における眼球手術練習用装置1Dの概略分解図である。上記第1乃至第3の実施形態のみでも、眼球手術の練習は可能であるが、第4の実施形態は、より実際の手術に近い眼球手術練習用装置1となっている。
図7に示す例では、人体の顔面の表皮を模したファイススキン61、模擬眼球5を露出するための孔621を有するフェイスプレート62、模擬眼球5、模擬眼球保持部材3(図示しない第2磁石42を含む)、模擬眼球台座部2、第1磁石41、模擬眼球台座部2の受け部材63、水受けプレート64、光源ユニット65、防水ゴム66、フェイスプレート62と係合する前頭部ユニット67、ボールヘッドユニット68、シャフト69、前頭部ユニット67と係合する後頭部ユニット70を含む例が記載されている。第4の実施形態に係る眼球手術練習用装置1Dは、必要に応じて上記の各部材を組み合わせて用いることができる。
【0043】
例えば、模擬眼球5、必要に応じて用いる模擬眼球保持部材3、および、模擬眼球台座部2、に加え、フェイスプレート62、前頭部ユニット67を含むと、実際の人間の顔面に近くなる。更に、ファイスプレート62に、フェイススキン61を被せてもよい。
【0044】
また、実際の手術の際には、顔面の向きを変える場合がある。したがって、眼球手術練習用装置1Dは、角度調整機構を具備してもよい。
図7は、第1の実施形態に係る角度調整機構を示しており、ボールヘッドユニット68とシャフト69で構成されている。より具体的には、ボールヘッドユニット68をシャフト69に回転可能となるように取り付け、前頭部ユニット67および後頭部ユニット70をボールヘッドユニット68に固定すればよい。
図7の矢印Cに示すように、前頭部ユニット67および前頭部ユニット67の眼窩部分に組み込まれた模擬眼球5を、シャフト69の軸方向を中心として回転することができる。代替的に、ボールヘッドユニット68をシャフト69に回転不能となるように固定、あるいは、前頭部ユニット67および後頭部ユニット70をシャフト69に直接固定し、シャフト69の端部691を、図示しないシャフト69の取付台に対して回転可能に取り付けることで、第2の実施形態に係る角度調整機構を構成してもよい。
【0045】
また、シャフト69の端部691を、図示しないシャフト69の取付台に、
図7の矢印Dに示す方向に回動可能となるように取り付けることで、第3の実施形態に係る角度調整機構を構成してもよい。第3の実施形態では、前頭部ユニット67および前頭部ユニット67の眼窩部分に組み込まれた模擬眼球5を、前後方向に移動が可能となる。
【0046】
あるいは、シャフト69の端部691を例えば球形に形成し、図示しないシャフト69の取付台の凹部に挿入することで、任意の方向に回動できるように第4の実施形態に係る角度調整機構を構成してもよい。なお、上記の各実施形態に係る角度調整機構は、単独で用いてもよいし組み合わせてもよい。
【0047】
また、実際の手術の際には、眼に水を供給しながら手術を行う場合もある。そのため、前頭部ユニット67と模擬眼球5の間から侵入した水を受ける水受けプレート64を、模擬眼球台座部2と前頭部ユニット67の間に設け、図示しない排水機構により水受けプレート64の水を眼球手術練習用装置1Dの外部に排出できるようにしてもよい。なお、必要に応じて、模擬眼球台座部2と水受けプレート64の間に、模擬眼球台座部2の受け部材63を配置してもよい。更に、必要に応じて、水受けプレート64から漏出した水が眼球手術練習用装置1Dの内部に侵入することを防止するため、水受けプレート64と前頭部ユニット67の間に、防水ゴム66を設けてもよい。
【0048】
貫通孔23を形成した模擬眼球台座部2を用いる場合は、光源ユニット65を具備してもよい。貫通孔23を介して光源ユニット65の光を模擬眼球5に照射することで、手術トレーニングの利便性が向上する。また、光源ユニット65は、模擬眼球5への印加応力を測定する光弾性応用センサの光源として用いることができる。光弾性応用センサは公知であり、例えば、(1)「センサ付眼球モデルを用いた眼科手術手技評価に関する研究」、日本コンピュータ外科学会誌、Vol.16、No.3、pp.332-333、2014(参考URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscas/16/3/16_321/_article/-char/ja/)、(2)バイオニックヒューマノイド:光弾性応力センサを有する生体模倣網膜モデル、ロボティクス・メカトロニクス 講演会2017福島、On CD-ROM、2A1-N10、2017年5月10-12日、を参照することができる。
【0049】
フェイススキン61は、シリコーン等の軟質樹脂で作製すればよい。また、ファイスプレート62、模擬眼球台座部2の受け部材63、水受けプレート64、前頭部ユニット67、後頭部ユニット70は、硬質の樹脂等で作製すればよい。ボールヘッドユニット68およびシャフト69は、金属あるいは硬質樹脂で作製すればよい。第4の実施形態に係る眼球手術練習用装置1Dは、例えば、各構成部品を相互に係合できる形状に形成することで組み立て方式により作製してもよいし、ネジ等を用いて構成部品同士を係止することで作製してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本明細書で開示する各種実施形態により、実際の手術に近い環境で眼球手術の練習ができる。
【符号の説明】
【0051】
1、1A、1B、1C、1D…眼球手術練習用装置、2…模擬眼球台座部、3…模擬眼球保持部材、4…復元力発生機構、5…模擬眼球、21…凹部、22…略半球面の頂点、23…貫通孔、31…模擬眼球保持部材3の頂点、32…板状部材、33…バネ取付部、41…第1磁石、42…第2磁石、43…ゴム、44…バネ、51…模擬眼球の角膜領域の中心、52…模擬眼球の底部、61…ファイススキン、62…フェイスプレート、63…模擬眼球台座部の受け部材、64…水受けプレート、65…光源ユニット、66…防水ゴム、67…前頭部ユニット、68…ボールヘッドユニット、69…シャフト、70…後頭部ユニット、621…模擬眼球を露出するための孔