(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-11
(45)【発行日】2022-03-22
(54)【発明の名称】SCM混和材高含有コンクリート用混和剤、並びにこれを含む混和剤含有組成物及びセメント組成物
(51)【国際特許分類】
C04B 24/30 20060101AFI20220314BHJP
C04B 24/26 20060101ALI20220314BHJP
C04B 24/06 20060101ALI20220314BHJP
C04B 24/02 20060101ALI20220314BHJP
C04B 24/10 20060101ALI20220314BHJP
C04B 18/14 20060101ALI20220314BHJP
C04B 18/08 20060101ALI20220314BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20220314BHJP
C04B 28/04 20060101ALI20220314BHJP
C08G 65/335 20060101ALI20220314BHJP
【FI】
C04B24/30 D
C04B24/26 B
C04B24/26 F
C04B24/26 H
C04B24/06 A
C04B24/02
C04B24/10
C04B18/14 A
C04B18/14 Z
C04B18/08 Z
C04B22/08 A
C04B28/04
C08G65/335
(21)【出願番号】P 2017246160
(22)【出願日】2017-12-22
【審査請求日】2020-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】518208716
【氏名又は名称】ポゾリス ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(72)【発明者】
【氏名】杉山 知己
(72)【発明者】
【氏名】大野 誠彦
(72)【発明者】
【氏名】小泉 信一
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/022831(WO,A1)
【文献】特表2017-502140(JP,A)
【文献】特表2012-505812(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
C04B 40/00-40/06
C08G 65/335
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの構造単位(I)と、少なくとも1つの構造単位(II)と、少なくとも1つの構造単位(III)とを有する重縮合物を含み、
前記構造単位(I)が、アルキレングリコール単位を有するポリエーテル側鎖を有する芳香族部分であり、ただし、前記ポリエーテル側鎖におけるエチレングリコール単位の数は、9~41であり、かつ前記エチレングリコール単位の含分は、前記ポリエーテル側鎖中の全てのアルキレングリコール単位に対して80mol%超であり、
前記構造単位(II)が、少なくとも1個のリン酸エステル基及び/又はその塩を有する芳香族部分であり、ただし、前記構造単位(II)に対する前記構造単位(I)のモル比の値は、0.3~4であり、
前記構造単位(III)が、少なくとも1個のメチレン単位(-CH
2-)であり、該メチレン単位は、前記構造単位(I)と前記構造単位(II)の2つの芳香族構造単位に結合しており、ここで該芳香族構造単位は、相互に独立して、同一であるか又は異なり
、
前記構造単位(I)、(II)及び(III)を含有する重縮合物の質量平均分子量Mwが、3,000~50,000の範囲であ
り、かつ
セメントに対するSCM混和材の置換率が70%以上である、SCM混和材高含有コンクリート用混和剤。
【請求項2】
前記重縮合物が、少なくとも1つの構造単位(IV)をさらに有し、
前記構造単位(IV)が、前記構造単位(I)及び前記構造単位(II)とは異なる芳香族構造単位によって表され、
前記メチレン単位は、前記構造単位(I)と前記構造単位(II)と前記構造単位(IV)の3つの芳香族構造単位に結合しており、ここで該芳香族構造単位は、相互に独立して、同一であるか又は異なり、かつ、
前記構造単位(I)、(II)、(III)及び(IV)を含有する重縮合物の質量平均分子量Mwが、3,000~50,000の範囲である、請求項1に記載の混和剤。
【請求項3】
さらに、保持助剤を含む、請求項1又は2に記載の混和剤。
【請求項4】
前記保持助剤が、加水分解性モノマーと、ポリオキシアルキレン基を含むエチレン性不飽和モノマーと、セメント吸着性モノマーとを含んで重合させてなる共重合体である、請求項3に記載の混和剤。
【請求項5】
前記保持助剤が、セメント吸着性モノマーを含まず、加水分解性モノマーと、ポリオキシアルキレン基を含むエチレン性不飽和モノマーとを含んで重合させてなる共重合体である、請求項3に記載の混和剤。
【請求項6】
さらに、オキシカルボン酸、オキシカルボン酸塩、糖類及び糖アルコール類からなる群から選択される遅延剤を含む、請求項1乃至5までのいずれか1項に記載の混和剤。
【請求項7】
SCM混和材として高炉スラグを含有し、かつ
セメントに対する前記高炉スラグの置換率が60%超えであるSCM混和材高含有コンクリートに適用される、請求項1乃至6までのいずれか1項に記載の混和剤。
【請求項8】
SCM混和材としてシリカヒュームを含有し、かつ
セメントに対する前記シリカヒュームの置換率が20%超えであるSCM混和材高含有コンクリートに適用される、請求項1乃至6までのいずれか1項に記載の混和剤。
【請求項9】
SCM混和材としてフライアッシュを含有し、かつ
セメントに対する前記フライアッシュの置換率が20%超えであるSCM混和材高含有コンクリートに適用される、請求項1乃至6までのいずれか1項に記載の混和剤。
【請求項10】
請求項1乃至9までのいずれか1項に記載の混和剤と、硬化促進剤としてC-S-H系微粒子を含む、混和剤含有組成物。
【請求項11】
請求項1乃至9までのいずれか1項に記載の混和剤を含むセメント組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SCM混和材を高含量で配合するコンクリートに使用するための混和剤、特にコンクリート用化学混和剤に関する。また、本発明は、このような混和剤を含む混和剤含有組成物及びセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート等のセメントを含むセメント組成物には、通常、セメント、水、細骨材、粗骨材等が用いられ、必要に応じて高炉スラグ、シリカフューム、フライアッシュ等の混和材が配合される。このような混和材は、潜在水硬性又はポゾラン活性を有し、コンクリートに配合される補助的セメント物質として、一般にSCM(Supplementary Cementitious Materials)混和材と総称されている。
【0003】
SCM混和材は、アルカリの刺激により、潜在水硬性又はポゾラン活性により硬化する物質であり、高炉スラグセメント、シリカセメント、フライアッシュセメントのように、予めセメントと混合された形態、又は別途SCM混和材をセメントに混合する形態のセメント混合材料として従来から使用されている。
【0004】
このようなSCM混和材をセメントに配合することにより、水和熱の抑制、水密性の向上、アルカリシリカ反応の抑制、塩化物イオンの浸透抑制といった優れた効果が期待されている。SCM混和材は、JIS規格においてその仕様が規定されており、JIS R 5211:2009、JIS R 5212:2009、JIS R 5213:2009の規格において、セメントに配合される分量に基づきA種、B種、C種に分類されている。セメント質量に対して高炉スラグは70質量%、シリカは30質量%、フライアッシュは30質量%の上限がそれぞれ設けられている。
【0005】
しかしながら、セメントに配合するSCM混和材として実際に使用されているSCM混和材は、その殆どが高炉スラグB種(高炉スラグの分量30質量%を超え60質量%以下)であり、このようなSCM混和材を配合することによるデメリット、例えば、凝結の遅延、中性化の促進、経時によるロス、品質の安定性、高コストなどの問題から、その使用が敬遠されている。凝結の遅延に関しては、早強材やアルカリ刺激材の添加によって、ある程度は緩和されるものの、経時によるロスの問題は解決されていない。
【0006】
一方で、近年、産業廃棄物の有効活用や環境負荷低減の目的で、セメントを代替する又はセメントの水硬性を補助するべく、SCM混和材をより積極的に活用するよう、例えば、2013年の日本コンクリート工学会において、「混和材積極利用によるコンクリート性能への影響評価と施工に関する研究委員会」で検討されている(非特許文献1)。更なる産業廃棄物の有効活用の観点からも、SCM混和材の混合比の上限値付近で又は上限値を超える高い割合での使用が要望されている。また、セメントのアルカリ刺激では硬化作用が不十分である場合には、別途水ガラスなどのアルカリ刺激材を更に添加し硬化させる方法も試みられている。
【0007】
これらSCM混和材の配合は、上記のJIS規格のB種程度の分量においては、ワーカビリティーに影響を及ぼさない、或いは、ワーカビリティーが向上する作用があるが、経過時間に伴い、流動性やコンクリートの状態(フレッシュコンクリートが適度な粘性を有し、材料が分離せず一体になって流動する性質、以下単に「状態」という)が低下する傾向にあるといわれている。一方、SCM混和材を多量に使用する場合には、このような傾向が顕著となると報告されている。特に、フライアッシュを使用した際には、一般に分散剤の添加量が少なくて済む反面、経過時間に伴う流動性の低下と相まって、コンクリートの粘性が高くなり、取扱いや充填性を困難にさせることが知られている(非特許文献2)。
【0008】
このようなSCM混和材を高含有率でコンクリートに配合する場合、コンクリート材料の配合を適切に調整することはもちろん、その使用目的に応じて要求される特性を調整するための様々な添加剤、例えば、混和剤(分散剤)が使用されている。非特許文献3には、高炉スラグを高含有率で配合したコンクリートに特定の化学構造を有するポリカルボン酸系分散剤の使用が記載されている。非特許文献3では、セメントから供給されるCa2+イオンが高炉スラグに特異吸着し、吸着サイトを形成するため、単にセメントのみを含むコンクリートと高炉スラグを含むコンクリートとでは、分散剤の吸着挙動やその分散挙動が異なることを示唆している。また、非特許文献3には、これら吸着挙動や分散挙動が分散剤の化学構造の影響を受けることも示唆されている。しかしながら、分散剤の種別やその化学構造と、SCM混和材を高含有率で含むコンクリートの経過時間に伴う流動性や状態との関連性については言及されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】混和材積極利用によるコンクリート性能への影響評価と施工に関する研究委員会 報告書、日本コンクリート工学会、2013年8月
【文献】JCI年次大会1999, Vol.21, No.2, p115-120
【文献】セメント・コンクリート論文集、「高炉スラグ高含有セメントへの高分子系分散剤の吸着挙動」2011, Vol.65, p27-32
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、SCM混和材を多量に含有するコンクリートに使用しても、経過時間に伴う流動性及び状態の低下を抑制することが可能な混和剤、並びにこれを含む混和剤含有組成物及びセメント組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の構造単位を有する重縮合物を含む混和剤を、SCM混和材を多量に含有するコンクリートに使用することにより、経過時間に伴う流動性及び状態の低下を抑制させることが可能な混和剤及びこれを含む混和剤含有組成物及びセメント組成物が得られることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明の要旨構成は以下の通りである。
[1] 少なくとも1つの構造単位(I)と、少なくとも1つの構造単位(II)と、少なくとも1つの構造単位(III)とを有する重縮合物を含み、
前記構造単位(I)が、アルキレングリコール単位を有するポリエーテル側鎖を有する芳香族部分であり、ただし、前記ポリエーテル側鎖におけるエチレングリコール単位の数は、9~41であり、かつ前記エチレングリコール単位の含分は、前記ポリエーテル側鎖中の全てのアルキレングリコール単位に対して80mol%超であり、
前記構造単位(II)が、少なくとも1個のリン酸エステル基及び/又はその塩を有する芳香族部分であり、ただし、前記構造単位(II)に対する前記構造単位(I)のモル比の値は、0.3~4であり、
前記構造単位(III)が、少なくとも1個のメチレン単位(-CH2-)であり、該メチレン単位は、前記構造単位(I)と前記構造単位(II)の2つの芳香族構造単位に結合しており、ここで該芳香族構造単位は、相互に独立して、同一であるか又は異なり、かつ、
前記構造単位(I)、(II)及び(III)を含有する重縮合物の質量平均分子量Mwが、3,000~50,000の範囲である、SCM混和材高含有コンクリート用混和剤。
[2] 前記重縮合物が、少なくとも1つの構造単位(IV)をさらに有し、
前記構造単位(IV)が、前記構造単位(I)及び前記構造単位(II)とは異なる芳香族構造単位によって表され、
前記メチレン単位は、前記構造単位(I)と前記構造単位(II)と前記構造単位(IV)の3つの芳香族構造単位に結合しており、ここで該芳香族構造単位は、相互に独立して、同一であるか又は異なり、かつ、
前記構造単位(I)、(II)、(III)及び(IV)を含有する重縮合物の質量平均分子量Mwが、3,000~50,000の範囲である、上記[1]に記載の混和剤。
[3] さらに、保持助剤を含む、上記[1]又は[2]に記載の混和剤。
[4] 前記保持助剤が、加水分解性モノマーと、ポリオキシアルキレン基を含むエチレン性不飽和モノマーと、セメント吸着性モノマーとを含んで重合させてなる共重合体である、上記[3]に記載の混和剤。
[5] 前記保持助剤が、セメント吸着性モノマーを含まず、加水分解性モノマーと、ポリオキシアルキレン基を含むエチレン性不飽和モノマーとを含んで重合させてなる共重合体である、上記[3]に記載の混和剤。
[6] さらに、オキシカルボン酸、オキシカルボン酸塩、糖類及び糖アルコール類からなる群から選択される遅延剤を含む、上記[1]乃至[5]までのいずれか1つに記載の混和剤。
[7] SCM混和材として高炉スラグを含有し、かつ
セメントに対する前記高炉スラグの置換率が60%超えであるSCM混和材高含有コンクリートに適用される、上記[1]乃至[6]までのいずれか1つに記載の混和剤。
[8] SCM混和材としてシリカヒュームを含有し、かつ
セメントに対する前記シリカヒュームの置換率が20%超えであるSCM混和材高含有コンクリートに適用される、上記[1]乃至[6]までのいずれか1つに記載の混和剤。
[9] SCM混和材としてフライアッシュを含有し、かつ
セメントに対する前記フライアッシュの置換率が20%超えであるSCM混和材高含有コンクリートに適用される、上記[1]乃至[6]までのいずれか1つに記載の混和剤。
[10] 上記[1]乃至[9]までのいずれか1つに記載の混和剤と、硬化促進剤としてC-S-H系微粒子を含む、混和剤含有組成物。
[11] 上記[1]乃至[9]までのいずれか1つに記載の混和剤を含むセメント組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る混和剤を、SCM混和材を多量に含有するコンクリートに使用することにより、経過時間に伴う流動性及び状態の低下を抑制することができる。そのため、コンクリートの作業性の維持、さらには可使時間の延長をもたらすことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施態様を詳細に説明する。以下において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0015】
(SCM混和材高含有コンクリート)
本発明において、SCM混和材高含有コンクリートとは、セメントに配合されるSCM混和材(潜在水硬性又はポゾラン活性を有する補助的セメント物質)の分量が多いコンクリートを意味し、具体的には、JIS R 5211:2009、JIS R 5212:2009、JIS R 5213:2009の規格でC種に属する又はC種に規定される分量の上限値より多いSCM混和材が配合されているコンクリートを意味する。例えば、高炉スラグではセメントに配合される高炉スラグの分量が60質量%より多く、シリカヒュームではセメントに配合されるシリカヒュームの分量が20質量%より多く、フライアッシュではセメントに配合されるフライアッシュの分量が20質量%より多いコンクリートを意味する。また、セメントに配合されるSCM混和材の分量とは、セメントに対するSCM混和材の置換率と同義であり、具体的には、セメントとSCM混和材との総量におけるSCM混和材の含有率を意味する。
【0016】
高炉スラグとは、そのブレーン比表面積が3,000~10,000cm2/gである高炉スラグ組成の微粉末を意味し、JIS A 6206:2013に規定される高炉スラグ微粉末が好ましい。JIS A 6206:2013には、ブレーン比表面積で種類分けされた高炉スラグ微粉末3000、4000、6000、8000が例示されており、これらのうち、供給面やコストの観点から高炉スラグ微粉末4000がより好ましい。
【0017】
シリカヒュームとは、そのBET比表面積が15~35m2/gであるシリカフューム組成の微粉末を意味する。シリカフュームは、JIS A 6207:2016に規定されるコンクリート用シリカフュームであり、粉体状、粒体状又は水と懸濁させたスラリー状であってもよい。
【0018】
フライアッシュとは、そのブレーン比表面積が1,500~7,000cm2/gであるフライアッシュ組成の微粉末を意味し、JIS A 6201:2015に規定されるコンクリート用フライアッシュが好ましい。JIS A 6201:2015には、種類分けされたフライアッシュI種、II種、III種及びIV種が例示されており、これらのうち、供給面やコストの観点からフライアッシュII種がより好ましい。
【0019】
[混和剤]
本発明に係る混和剤は、SCM混和材高含有コンクリート用混和剤であり、なくとも1つの構造単位(I)と、少なくとも1つの構造単位(II)と、少なくとも1つの構造単位(III)とを有する重縮合物を含んでいる。
構造単位(I)は、アルキレングリコール単位を有するポリエーテル側鎖を有する芳香族部分であり、ただし、ポリエーテル側鎖におけるエチレングリコール単位の数は、9~41であり、かつ前記エチレングリコール単位の含分は、ポリエーテル側鎖中の全てのアルキレングリコール単位に対して80mol%超であり、
構造単位(II)は、少なくとも1個のリン酸エステル基及び/又はその塩を有する芳香族部分であり、ただし、構造単位(II)に対する構造単位(I)のモル比の値は、0.3~4であり、
構造単位(III)は、少なくとも1個のメチレン単位(-CH2-)であり、該メチレン単位は、前記構造単位(I)と前記構造単位(II)の2つの芳香族構造単位Yに結合しており、ここで該芳香族構造単位Yは、相互に独立して、同一であるか又は異なり、かつ、
構造単位(I)、(II)及び(III)を含有する重縮合物の質量平均分子量Mw が、3,000~50,000の範囲である。
このような混和剤を、SCM混和材を多量に含有するコンクリートに使用することにより、経過時間に伴う流動性及び状態の低下を抑制することができる。そのため、コンクリートの作業性の維持、さらには可使時間の延長をもたらすことが可能となる。
【0020】
<構造単位(I)>
構造単位(I)は、セメント結合材系、特にコンクリートにおいて妥当な分散作用を得るためには、最小のポリエーテル側鎖長を有することが有利であると実証されている。非常に短い鎖は、経済的には好ましくない。なぜならば、混和剤の分散性が低く、また分散作用を得るために必要な供給量が多くなるからであり、その一方で、重縮合物のポリエーテル側鎖が長すぎると、このような混和剤で作製したコンクリートのレオロジー特性が悪くなる(高粘度)。ポリエーテル側鎖中におけるエチレングリコール単位の含分は、重縮合物生成物を充分に可溶性にするため、ポリエーテル側鎖中の全てのアルキレングリコール単位に対して80mol%超であることが好ましく、85mol%超であることがより好ましく、90mol%超であることがさらに好ましく、95mol%超であることが最も好ましい。
【0021】
構造単位(I)において芳香族部分は、1個以上のポリエーテル側鎖、好ましくは1個のポリエーテル側鎖を有する。構造単位(I)は相互に独立して、同一であるか、又は異なる。これはつまり、構造単位(I)の1種又は複数種が、重縮合物中に存在し得るということを意味する。構造単位(I)は、例えば、ポリエーテル側鎖の種類の点、芳香族構造の種類の点で異なり得る。
【0022】
構造単位(I)は、それぞれの芳香族モノマーから誘導され、これはアルキレングリコール単位を含有するポリエーテル側鎖を有する芳香族モノマーであり、側鎖長、及び側鎖中におけるエチレングリコールの含分に関する上記の要求を満たす。このモノマーは、重縮合反応によって重縮合物へと組み込まれる際に、モノマーのホルムアルデヒド、及び構造単位(I)になるモノマーによって、重縮合物へと組み込まれる。特に、構造単位(I)は、重縮合反応の間にモノマーから引き抜かれた2個の水素原子(ホルムアルデヒドからの酸素原子1個とともに水を形成する)が存在しないことによって誘導された芳香族モノマーとは異なる。
【0023】
構造単位(I)における芳香族部分は、好ましくは、本発明によるポリエーテル側鎖を有する、置換された若しくは非置換の芳香族部分であり、芳香族はベンゼン環であってもナフタレン環であってもよい。1個以上のポリエーテル側鎖、好ましくは1個若しくは2個のポリエーテル側鎖、最も好ましくは1個のポリエーテル側鎖が、構造単位(I)中に存在することが可能である。この文脈において「置換された芳香族部分」とは、好ましくは、ポリエーテル側鎖以外、又は本発明によるポリエーテル側鎖以外のあらゆる置換基を意味する。置換基は、好ましくは、C1~C10アルキル基であり、最も好ましくはメチル基である。芳香族部分は、好ましくは、芳香族構造中に炭素原子を5~10個、より好ましくは炭素原子を5~6個有し、最も好ましくは、芳香族構造単位が炭素原子を6個有する、ベンゼン又はベンゼンの置換誘導体である。また、構造単位(I)における芳香族部分は、炭素とは異なる原子、例えば酸素(フルフリルアルコール中)を含む複素環式芳香族構造であってもよいが、芳香族環構造の原子は、炭素原子であることが好ましい。
【0024】
構造単位(I)のポリエーテル側鎖中におけるエチレングリコール単位の数は、9~41であり、好ましくは9~35、より好ましくは12~23である。比較的短いポリエーテル側鎖長は、当該構造単位(I)を有する重縮合物を含む本発明に係る混和剤を用いて作製したコンクリートの良好なレオロジー特性に貢献し、特に低い塑性粘度が得られる。一方、短過ぎるポリエーテル側鎖長は、分散作用が減少し、一定水準のワーカビリティー(例えばコンクリート試験におけるスランプ)を得るために必要な供給量が増加するため、経済的には望ましくない。
【0025】
構造単位(I)は、比較的長い親水性ポリエーテル側鎖を有していてもよい。これにより、セメント粒子の表面に吸着された重縮合物の間に立体反発をもたらし、その結果、分散作用を改善することができる。
【0026】
構造単位(I)は、以下のモノマーから誘導され得るが、これらに限定されない。例えば、芳香族アルコール又はアミンのエトキシ化された誘導体が好ましく、フェノール、クレゾール、レゾルシノール、カテコール、ヒドロキノン、ナフトール、フルフリルアルコール又はアニリンのエトキシ化された誘導体がより好ましく、エトキシ化されたフェノールが特に好ましい。レゾルシノール、カテコール及びヒドロキノンは、2個のポリエーテル側鎖を有することが好ましい。レゾルシノール、カテコール及びヒドロキノンが、それぞれの場合においてポリエーテル側鎖を1個だけ有することができる。それぞれの場合、20mol%未満のアルキレングリコール単位が含有されており、これらはエチレングリコール単位ではない。
【0027】
構造単位(I)は、好ましくは、以下の一般式(Ia):
【化1】
(式(Ia)中、
Aは、同一であるか、又は異なり、炭素原子を5~10個有する、置換若しくは非置換の芳香族又は複素環式芳香族化合物によって表され、
Bは、同一であるか、又は異なり、N、NH、又はOであり、その際、BがNであれば、nは2であり、BがNH又はOであれば、nは1であり、
R
1及びR
2は、相互に独立して、同一であるか又は異なり、分枝鎖状若しくは直鎖状のC
1~C
10アルキル基、C
5~C
8シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基又はHであり、ただし、ポリエーテル側鎖におけるエチレングリコール単位(R
1及びR
2がHである)の数は、9~41であり、エチレングリコール単位の含分は、ポリエーテル側鎖中の全てのアルキレングリコールに対して80mol%超であり、
aは、同一であるか、又は異なり、12~50の整数であり、かつ
Xは、同一であるか、又は異なり、直鎖状若しくは分枝鎖状のC
1~C
10アルキル基、C
5~C
8シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、又はHである)によって表される。上記式(Ia)において、基「A」が後述する構造単位(III)のメチレン単位と結合することより、本発明における混和剤の主成分となる重縮合物が形成される。
【0028】
式(Ia)中、Aは、好ましくは芳香族構造内に炭素原子を5~10個、より好ましくは炭素原子を5~6個を有し、最も好ましくは芳香族構造内に炭素原子を6個有する、ベンゼン又はベンゼンの置換誘導体である。
【0029】
式(Ia)中、Bは、好ましくはO(酸素)である。
【0030】
式(Ia)中、R1及びR2は、好ましくは、H、メチル、エチル、又はフェニルであり、より好ましくはH、又はメチル、特に好ましくはHである。
【0031】
式(Ia)中、aは、好ましくは9~35の整数である。
【0032】
式(Ia)中、Xは、好ましくはHである。
【0033】
構造単位(I)は、ポリエーテル側鎖の端部にヒドロキシ基を有するアルコキシ化された芳香族アルコールモノマーから誘導されていることが好ましく、特に、フェニルポリアルキレングリコールの重縮合体であることが好ましい。フェニルポリアルキレングリコールは、比較的容易に得ることができ、経済的にも見込みがあり、また芳香族化合物の反応性も比較的良好である。
【0034】
構造単位(I)は、好ましくは、以下の一般式(V)で表されるフェニルポリアルキレングリコールから誘導される:
-[C6H3-O-(Z1O)p-H]- (V)
【0035】
式(V)において、pは、9~41の整数、好ましくは9~35の整数、より好ましくは12~23の整数であり、Z1は、2~5個の炭素原子、好ましくは2~3個の炭素原子を有するアルキレンであり、ただし、エチレングリコール単位の含分(Z1=エチレン)は、ポリエーテル側鎖(Z1O)n中にある全てのアルキレングリコール単位に対して80mol%超、好ましくは85mol%超、より好ましくは90mol%超、最も好ましくは95mol%超である。上記式(V)において、「C6H3」の芳香族構造部分が、後述する構造単位(III)のメチレン単位に結合される。
【0036】
芳香族ベンゼン単位(上記式(V)ではC6H3)における置換パターンは、ベンゼン環に結合した酸素原子の活性作用(電子供与作用)により、ベンゼン環に結合した酸素原子の位置(1位)に対して主にオルト置換位(2位)及びパラ置換位(4位)である。
【0037】
<構造単位(II)>
構造単位(II)は、重縮合物にアニオン基をもたらし(リン酸エステルから、その酸若しくは塩の形態へ)、このアニオン基は、水性セメント分散液中のセメント粒子の表面に存在する正電荷と干渉し、強アルカリ性である。静電引力が原因で、重縮合物はセメント粒子の表面に吸着し、セメント粒子が分散される。ここで、「リン酸エステル」という用語には、好ましくは、リン酸モノエステル(PO(OH)2(OR)1)、リン酸ジエステル(PO(OH)(OR)2)、及び/又はリン酸トリエステル(PO(OR)3)の混合物が含まれる。リン酸エステルにおける基Rは、エステル反応後においてOH基を有さない各アルコールを規定し、これが反応して、リン酸とのエステルになる。基Rは、好ましくは芳香族部分を有する。モノエステルは、通常、リン酸化反応の主生成物である。
【0038】
「リン酸化モノマー」という用語には、芳香族アルコールと、リン酸、ポリリン酸若しくはリン酸化物との反応生成物、並びに芳香族アルコールと、リン酸、ポリリン酸及びリン酸化物の混合物との反応生成物が含まれる。
【0039】
リン酸モノエステルの含分は、好ましくは、全てのリン酸エステルの合計に対して50質量%超である。リン酸モノエステルから誘導される構造単位(II)の含分は、好ましくは、全ての構造単位(II)の合計に対して50質量%超である。
【0040】
構造単位(II)において、芳香族部分は、好ましくは、1個のリン酸エステル基及び/又はその塩を含有する。これは、芳香族モノアルコールの使用が好ましいということを意味する。また、構造単位(II)は、リン酸エステル基及び/又はその塩を1個超有することができ、2個有するのが好ましい。この場合、少なくとも1種の芳香族ジアルコール、又は芳香族ポリアルコールを使用する。構造単位(II)は、相互に独立して、同一であるか、又は異なる。これはつまり、構造単位(II)の1種又は複数種が、重縮合物中に存在し得るということである。
【0041】
重縮合物における構造単位(II)は、リン酸エステル基及び/又はその塩を少なくとも1個有する芳香族部分であるが、ただし、構造単位(II)に対する構造単位(I)のモル比の値は、0.3~4であり、好ましくは0.4~3.5、より好ましくは0.45~3、最も好ましくは0.45~2.5である。このモル比の範囲は、重縮合物の充分な初期分散性(構造単位(II)の比較的高い含分)、及び充分なスランプ保持特性(構造単位(I)の比較的高い含分)をコンクリート試料中で達成できるため、有利である。
【0042】
上記の構造単位(I)について説明したように、構造単位(II)もまた、重縮合反応の間にモノマーから引き抜かれた2個の水素原子が存在しないことによって誘導された芳香族モノマーとは異なる。
【0043】
構造単位(II)における芳香族部分は、好ましくは、リン酸エステル基及び/又はその塩を少なくとも1個有する、置換若しくは非置換の芳香族部分であり、芳香族はベンゼン環であってもナフタレン環であってもよい。1個以上のリン酸エステル基及び/又はその塩が構造単位(II)中に存在すること、好ましくは1個又は2個のリン酸エステル基及び/又はその塩が存在すること、最も好ましくは1個のリン酸エステル基及び/又はその塩が存在することがあり得る。構造単位(II)の芳香族部分は、好ましくは、芳香族構造中に炭素原子を5~10個、より好ましくは炭素原子を5~6個有し、最も好ましくは、芳香族構造単位は、炭素原子を6個有する、ベンゼン又はベンゼンの置換誘導体である。また、構造単位(II)における芳香族部分は、炭素とは異なる原子、例えば酸素(フルフリルアルコール中)を含むヘテロ芳香族構造であってもよいが、芳香族環構造における原子は、炭素原子であることが好ましい。
【0044】
構造単位(II)は、芳香族アルコールモノマーから誘導されていることが好ましい。芳香族アルコールモノマーは、第一の工程でアルコキシ化され、得られた、ポリエーテル側鎖の端部にヒドロキシ基を有するアルコキシ化された芳香族アルコールモノマーを第二の工程でリン酸化して、リン酸エステル基を形成する。
【0045】
それぞれのリン酸化芳香族アルコールモノマーから誘導される構造単位(II)は、各モノマーから2個の水素原子を引き抜いたことによる前述したものとは異なる。このような構造単位(II)は、例えば、以下の化合物から誘導されるが、これらに制限されない。例えば、芳香族アルコールのリン酸化生成物又はヒドロキノンのリン酸化生成物が好ましく、フェノキシエタノールホスフェート(芳香族アルコール:フェノキシエタノール)、フェノキシジグリコールホスフェート(芳香族アルコール:フェノキシジグリコール)、(メトキシフェノキシ)エタノールホスフェート(芳香族アルコール:(メトキシフェノキシ)エタノール)、メチルフェノキシエタノールホスフェート(芳香族アルコール:メチルフェノキシエタノール)、ノニルフェノールホスフェート(芳香族アルコール;ノニルフェノール)、ビス(β-ヒドロキシエチル)ヒドロキノンエーテルホスフェート(ヒドロキノン:ビス(β-ヒドロキシエチル)ヒドロキノンエーテル)、ビス(β-ヒドロキシエチル)ヒドロキノンエーテルジホスフェート(ヒドロキノン:ビス(β-ヒドロキシエチル)ヒドロキノンエーテル)がより好ましく、フェノキシエタノールホスフェート、フェノキシジグリコールホスフェート、ビス(β-ヒドロキシエチル)ヒドロキノンエーテルジホスフェートが特に好ましく、フェノキシエタノールホスフェートが最も好ましい。構造単位(II)が誘導される上記モノマーの混合物を使用してもよい。
【0046】
リン酸化反応(例えば、ヒドロキノンを含む上記芳香族アルコールと、リン酸との反応)の間には通常、上記主生成物(リン酸と芳香族アルコール1当量とのモノエステル:(PO(OH)2(OR)1))以外に、副生成物も形成されることに留意するべきである。副生成物は、特に、リン酸と、芳香族アルコール2当量とのジエステル(PO(OH)(OR)2)、又は、リン酸と、芳香族アルコール3当量とのトリエステル(PO(OR)3)である。トリエステルの形成には、150℃超の温度が必要となるため、通常は生成されない。ここで、リン酸エステルにおける基Rは、エステル反応後においてOH基を有さない芳香族アルコール構造である。未反応のアルコールが、反応混合物中にある程度存在することがあり得る。その含分は、通常、使用する芳香族アルコールの35質量%未満、好ましくは5質量%未満である。リン酸化反応後の主生成物(モノエステル)は、通常、反応混合物中に、使用する芳香族アルコールに対して50質量%超、好ましくは65質量%超の水準で存在する。
【0047】
構造単位(II)は、好ましくは、以下の一般式(IIa):
【化2】
(式(IIa)中、
Dは、同一であるか、又は異なり、炭素原子を5~10個有する、置換若しくは非置換の芳香族又は複素環式芳香族化合物によって表され、
Eは、同一であるか、又は異なり、N、NH、又はOであり、EがNであれば、mは2であり、EがNH又はOであれば、mは1であり、
R
3及びR
4は、相互に独立して、同一であるか、又は異なり、直鎖状若しくは分枝鎖状のC
1~C
10アルキル基、C
5~C
8シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基又はHであり、
bは、同一であるか、又は異なり、0~10の整数であり、かつ
Maは、相互に独立して、同一であるか、又は異なり、H又はカチオン等価物である)で表される。上記式(IIa)において、基「D」が後述する構造単位(III)のメチレン単位と結合することより、本発明における混和剤の主成分となる重縮合物が形成される。
【0048】
式(IIa)中、Dは、好ましくは芳香族構造内に炭素原子を5~10個、より好ましくは芳香族構造内に炭素原子を5~6個有し、最も好ましくは芳香族構造内に炭素原子を6個有する、ベンゼン又はベンゼンの置換誘導体である。
【0049】
式(IIa)中、Eは、好ましくはO(酸素)である。
【0050】
式(IIa)中、R3及びR4は、相互に独立して、好ましくはH、メチル、エチル、又はフェニルであり、より好ましくはH又はメチルであり、特に好ましくはHであり、最も好ましくは、R3及びR4はともにHである。
【0051】
式(IIa)中、bは、好ましくは1~5の整数、より好ましくは1~2の整数、最も好ましくは1である。
【0052】
式(IIa)で表わされるリン酸エステルは、2個の酸性プロトンを有する酸であり得る(Ma=H)。リン酸エステルは、脱プロトン化形態でも存在することができ、この場合、プロトンはカチオン等価物によって置き換えられている。リン酸エステルは、部分的に脱プロトン化されていてもよい。「カチオン等価物」という用語は、あらゆる金属カチオン、又は置換されていてもよいアンモニウムカチオン(プロトンを置き換え可能なもの)を意味するが、分子が電気的に中性である。Maは、好ましくは、NH4、アルカリ金属又は1/2アルカリ土類金属である。
【0053】
上記構造単位(Ia)の基Aと上記構造単位(IIa)の基Dは、例えば、相互に独立して、フェニル、2-メチルフェニル、3-メチルフェニル、4-メチルフェニル、2-メトキシフェニル、3-メトキシフェニル、4-メトキシフェニルであることが好ましく、フェニルであることがより好ましい。異なる種類の基Aを有する構造単位(Ia)が重縮合物中に複数存在していてよく、異なる種類の基Dを有する構造単位(IIa)もまた、重縮合物中に複数存在していてよい。基B及び基Eは、相互に独立して、O(酸素)であることが好ましい。
【0054】
構造単位(II)は、好ましくは、以下の一般式(VI)で表されるような、アルコキシ化されたフェノールリン酸エステル、又は以下の一般式(VII)で表されるような、アルコキシ化されたヒドロキノンリン酸エステルから誘導される:
-[C6H3-O-(Z2O)q-PO3M2]-(VI)
-[[M2O3P-(Z3O)r]-O-C6H2-O-[(Z4O)s-PO3M2]]-(VII)
【0055】
式(VI)及び(VII)のいずれにおいても、q、r、sは、1~5の整数、好ましくは1~2の整数、より好ましくは1であり、Z2、Z3及びZ4は、互いに独立して、炭素原子を2~5個、好ましくは2~3個有するアルキレンであり、より好ましくは、エチレンである。Mは、相互に独立して、同一であるか又は異なり、H、又はカチオン等価物である。上記式(VI)においては「C6H3」の芳香族構造部分が、上記式(VII)においては「C6H2」の芳香族構造部分が、それぞれ後述する構造単位(III)のメチレン単位に結合される。
【0056】
一般式(VI)及び(VII)のエステルは、2個の酸性プロトンを有する酸であってもよい(M=H)。このエステルは、脱プロトン化形態でも存在することができ、この場合、プロトンはカチオン等価物によって置き換えられている。このエステルは、部分的に脱プロトン化されていてもよい。カチオン等価物という用語は、上述の通りであり、Mは、好ましくは、NH4、アルカリ金属、又は1/2アルカリ土類金属である。よって、例えば、2個の正電荷を有するアルカリ土類金属の場合、中性を保証するためには、1/2という係数が存在しなければならず(1/2アルカリ金属)、例えば、金属成分「M」がAl3+である場合、1/3Alがカチオン等価物となる。また、例えば、2種類以上の金属カチオンを有する混合型カチオン等価物であってもよい。
【0057】
このようなアルコキシ化されたフェノールリン酸エステル、又はアルコキシ化されたヒドロキノンリン酸エステルは、比較的容易に得られるため、経済的にも望ましく、また、重縮合反応における芳香族化合物の反応性も比較的良好である。
【0058】
<構造単位(III)>
構造単位(III)は、少なくとも1個のメチレン単位(-CH2-)であり、該メチレン単位は、構造単位(I)と構造単位(II)の2つの芳香族構造単位に結合しており、芳香族構造単位は、相互に独立して、同一であるか又は異なり、構造単位(I)及び構造単位(II)における上記の芳香族部分に相当する。メチレン単位は、重縮合の間に水を形成しながら、ホルムアルデヒドの反応によって導入され、好ましくは1個超のメチレン単位が重縮合物中に含有される。
【0059】
<構造単位(IV)>
重縮合物は、少なくとも1つの構造単位(IV)をさらに有していてもよい。構造単位(IV)は、構造単位(I)及び構造単位(II)とは異なる、重縮合物の芳香族構造単位であり、あらゆる芳香族構造単位であり得る。また、構造単位(IV)が含まれる場合、構造単位(III)におけるメチレン単位は、構造単位(I)と構造単位(II)と構造単位(IV)の3つの芳香族構造単位に結合しており、構造単位(IV)における該芳香族構造単位は、相互に独立して、同一であるか、又は異なる。これはつまり、構造単位(IV)の1種又は複数種が、重縮合物中に存在し得るということである。
【0060】
構造単位(IV)は、例えば、重縮合反応においてホルムアルデヒドと反応可能なあらゆる芳香族モノマー(各モノマーから2個の水素原子が引き抜き)から誘導することができる。構造単位(IV)を誘導するモノマーとして、例えば、フェノキシアルコール、フェノール、ナフトール、アニリン、ベンゼン-1,2-ジオール、ベンゼン-1,2,3-トリオール、2-ヒドロキシ安息香酸、2,3-ジヒドロキシ安息香酸、3,4-ジヒドロキシ安息香酸、3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸、フタル酸、3-ヒドロキシフタル酸、1,2-ジヒドロキシナフタレン、及び2,3-ジヒドロキシナフタレンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0061】
また、構造単位(IV)は、側鎖におけるエチレングリコール単位の数のみが異なる、構造単位(I)に似た構造単位であってもよい。このような構造単位(IV)として、好ましくは、アルキレングリコール単位を有するポリエーテル側鎖を有する芳香族部分であり、ただし、ポリエーテル側鎖におけるエチレングリコール単位の数は、42~120であり、かつエチレングリコール単位の含分は、ポリエーテル側鎖中の全てのアルキレングリコール単位に対して80mol%超である、構造単位である。
【0062】
<重縮合物>
本発明に係る混和剤に含まれる重縮合物は、当該混和剤の主成分であり、構造単位(I)、(II)及び(III)を含有する重縮合物、並びに、構造単位(I)、(II)、(III)、及び(IV)を含有する重縮合物の質量平均分子量Mwは、3,000~50,000の範囲である。
【0063】
重縮合物は、構造単位(II)からのリン酸エステル単位に対する構造単位(I)からのエチレングリコール単位のモル比の値は、11~40/1が好ましく、12~35/1がより好ましく、13~30/1がさらに好ましい。このモル比の比率を特定するため、異なる種類の構造単位(I)の存在も考慮し、構造単位(I)からの全てのエチレングリコール単位の合計を計算する。
【0064】
構造単位(II)からのリン酸エステル単位に対する構造単位(I)からのエチレングリコール単位のモル比の値を計算すると、構造単位(I)中にある最小で9個、及び最大で41個のアルキレングリコールは、構造単位(II)に対する構造単位(I)の0.3~4というモル比の値と組み合わされて、最小値は9/8である(構造単位(I)/構造単位(II)のモル比の値が4である9EOの短い側鎖、並びに2個のリン酸エステル基が構造単位(II)中に存在し得る可能性を考慮)。一方、構造単位(I)/構造単位(II)のモル比の下限値である0.3と組み合わせて、41個のEOの長い側鎖、及び構造単位(II)中に存在するリン酸エステルを考慮すると、最大値は136.7(41/0.3)が得られる。構造単位(II)からのリン酸エステル単位に対する構造単位(I)からのエチレングリコール単位のモル比が下限値(9/8)より低いと、リン酸エステル基は余剰であるため、コンクリート試験体におけるスランプ保持性は、より悪くなる。その一方、このモル比が上限値(136.7)より大きいと、セメント粒子に対する吸着性が弱すぎるため、減水特性(コンクリート試験体における初期減水率)があまり良好ではない。このように、構造単位(II)からのリン酸エステル単位に対する構造単位(I)からのエチレングリコール単位のモル比の範囲が、9/8~136.7の範囲であることにより、コンクリート試験体において、スランプ保持性と減水率の2つ特性の適切なバランスが得られ、良好な減水率と良好なスランプ保持性の双方が得られる。また、コンクリートの粘度も低くすることができる。
【0065】
構造単位(III)に対する構造単位(I)及び(II)の合計のモル比は、好ましくは0.8/1~1/0.8、より好ましくは0.9/1~1/0.9、最も好ましくは1/1である。
【0066】
構造単位(IV)が、重縮合物中にさらに含有されている場合、構造単位(IV)に対する構造単位(I)及び構造単位(II)の合計のモル比は、好ましくは1超/1、より好ましくは3超/1、さらに好ましくは5超/1である。
【0067】
構造単位(IV)は、アルキレングリコール単位を含有するポリエーテル側鎖を有する芳香族部分である重縮合物が最も好ましいが、ただし、構造単位(IV)のポリエーテル側鎖におけるエチレングリコール単位の数は、42~50であり、エチレングリコール単位の含分は、構造単位(IV)のポリエーテル側鎖中の全てのアルキレングリコール単位に対して80mol%超である。
【0068】
重縮合物の質量平均分子量Mwは、3,000~50,000g/molであり、好ましくは、5,000g/mol~25,000g/molであり、より好ましくは8,000g/mol~22,000g/molであり、最も好ましくは10,000g/mol~19,000g/molである。
【0069】
重縮合物の質量平均分子量Mwは、GPCにより特定される重縮合物の質量平均分子量である。カラムの組み合わせは、OH-Pak SB-G、OH-Pak SB 804 HQ、及びOH-Pak SB 802.5 HQ(日本国、Shodex社製)であり、溶離剤は、80体積%のHCO2NH4水溶液(0.05mol/l)、及び20体積%のアセトニトリルとし、その他、注入体積;100μl、流速;0.5ml/分とする。分子量の較正は、UV検知器についてはポリ(スチレンスルホネート)標準で、RI検知器についてはポリ(エチレンオキシド)標準で行う。両方の標準は、ドイツ国のPSS Polymer Standards Serviceから購入できる。ポリマーの分子量を特定するために、UV検知を254nmで使用する。UV検知機は、無機不純物を感知しないため、芳香族化合物に対してのみ感知させることができる。
【0070】
<保持助剤>
本発明に係る混和剤は、上記の重縮合物の他に、保持成分として、さらに保持助剤を含んでいてもよい。保持助剤がさらに含まれることにより、コンクリートの経時変化が抑制され、より長期にわたるコンクリートのワーカビリティーのより良好な調節が可能になる。その結果、経過時間に伴う流動性及び状態の低下をより抑制することができる。このような保持助剤の含有量は、混和剤中の重縮合物の総質量に対して、5~50質量%であることが好ましい。
【0071】
このような保持助剤の1つとして、例えば、加水分解性モノマーと、ポリオキシアルキレン基を含むエチレン性不飽和モノマーと、セメント吸着性モノマーとを含んで重合させてなる共重合体(共重合体1)を使用することが好ましい。
【0072】
(加水分解性モノマー)
加水分解性モノマーは、加水分解性モノマー残基を形成することが可能なエチレン性不飽和モノマーであることが好ましい。このような加水分解性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸アルキル;
(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル;
(メタ)アクリルアミド及びその誘導体;及び
マレイン酸(モノ)アルキルエステル、無水マレイン酸、マレイミド;等が挙げられるが、これらに限定されない。これらは1種単独の使用であっても、2種以上を互いに併用してもよい。
【0073】
(ポリオキシアルキレン基を含むエチレン性不飽和モノマー)
ポリオキシアルキレン基を含むエチレン性不飽和モノマーとしては、飽和モノカルボン酸エステル誘導体、例えば、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリプロピレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、及び上記ポリオキシアルキレンの高級アルコキシ誘導体;
ビニルアルコール誘導体、例えば、ポリエチレングリコールモノ(メタ)ビニルエーテル、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)ビニルエーテル、ポリブチレングリコールモノ(メタ)ビニルエーテル、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノ(メタ)ビニルエーテル、ポリエチレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)ビニルエーテル、ポリプロピレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)ビニルエーテル、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)ビニルエーテル、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)ビニルエーテル、メトキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)ビニルエーテル、メトキシポリブチレングリコールモノ(メタ)ビニルエーテル、メトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノ(メタ)ビニルエーテル、メトキシポリエチレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)ビニルエーテル、メトキシポリプロピレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)ビニルエーテル、メトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)ビニルエーテル、エトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)ビニルエーテル、エトキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)ビニルエーテル、エトキシポリブチレングリコールモノ(メタ)ビニルエーテル、エトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノ(メタ)ビニルエーテル、エトキシポリエチレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)ビニルエーテル、エトキシポリプロピレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)ビニルエーテルおよびエトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)ビニルエーテル等;
(メタ)アリルアルコール誘導体、例えば、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、ポリブチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、ポリエチレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、ポリプロピレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、メトキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、メトキシポリブチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、メトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、メトキシポリエチレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、メトキシポリプロピレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、メトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、エトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、エトキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、エトキシポリブチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、エトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、エトキシポリエチレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、エトキシポリプロピレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテルおよびエトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル等;
アルキレンオキシドと不飽和アルコールの付加物、例えば、ポリエチレングリコールモノ(3-メチル-3-ブテニル)エーテル、ポリエチレングリコールモノ(3-メチル-2-ブテニル)エーテル、ポリエチレングリコールモノ(2-メチル-3-ブテニル)エーテル、ポリエチレングリコールモノ(2-メチル-2-ブテニル)エーテル、ポリエチレングリコールモノ(1,1-ジメチル-2-プロペニル)エーテル、ポリエチレンポリプロピレングリコールモノ(3-メチル-3-ブテニル)エーテル、ポリプロピレングリコールモノ(3-メチル-3-ブテニル)エーテル、メトキシポリエチレングリコールモノ(3-メチル-3-ブテニル)エーテル、エトキシポリエチレングリコールモノ(3-メチル-3-ブテニル)エーテル、1-プロポキシポリエチレングリコールモノ(3-メチル-3-ブテニル)エーテル、シクロヘキシルオキシポリエチレングリコールモノ(3-メチル-3-ブテニル)エーテル、1-オクチルオキシポリエチレングリコールモノ(3-メチル-3-ブテニル)エーテル、ノニルアルコキシポリエチレングリコールモノ(3-メチル-3-ブテニル)エーテル、ラウリルアルコキシポリエチレングリコールモノ(3-メチル-3-ブテニル)エーテル、ステアリルアルコキシポリエチレングリコールモノ(3-メチル-3-ブテニル)エーテルおよびフェノキシポリエチレングリコールモノ(3-メチル-3-ブテニル)エーテル;等が挙げられるが、これらに限定されない。アルキレンオキシドと不飽和アルコールの付加物は、例えば、1~350モルのアルキレンオキシドと不飽和アルコールの付加物、例えば、3-メチル-3-ブテン-1-オール、3-メチル-2-ブテン-1-オール、2-メチル-3-ブテン-2-オール、2-メチル-2-ブテン-1-オールおよび2-メチル-3-ブテン-1-オール等の不飽和アルコールとの付加物が挙げられるが、これらに限定されない。上述のポリオキシアルキレン基を含むエチレン性不飽和モノマーは、1種単独の使用であっても、2種以上を互いに併用してもよい。
【0074】
このようなポリオキシアルキレン基を含むエチレン性不飽和モノマーは、複数の側鎖長を有するオキシアルキレン基を含むことができる。例えば、1~30個の単位の少なくとも1つのC2-4オキシアルキレン基を含む少なくとも1つのエチレン性不飽和カルボン酸エステル又はアルケニルエーテルモノマーを含み、31~350個の単位の少なくとも1つのC2-4オキシアルキレン基を含む少なくとも1つのエチレン性不飽和カルボン酸エステル又はアルケニルエーテルモノマーを含んでいてもよい。
【0075】
(セメント吸着性モノマー)
セメント吸着性モノマーとは、末端にカルボキシル基、スルホン基又はホスホン基を有するエチレン性不飽和モノマーであることが好ましい。カルボキシ基を有するエチレン性不飽和モノマーとして、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等の不飽和カルボン酸系モノマー又はこれらの塩が好ましく、例えばアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等が挙げられる。より好ましくは、(メタ)アクリル酸又はこれらのアルカリ金属塩であり、さらに好ましくはアクリル酸又はそのナトリウム塩である。スルホン基を有するエチレン性不飽和モノマーとして、(メタ)アリルスルホン酸又はこれらの塩、例えばアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等が挙げられ、好ましくは、(メタ)アリルスルホン酸のナトリウム塩であり、さらに好ましくはメタリルスルホン酸のナトリウム塩である。ホスホン基を有するエチレン性不飽和モノマーとして、リン酸モノ(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルエステル、リン酸ジ-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルエステル等が好ましい。これらは1種単独の使用であっても、2種以上を互いに併用してもよい。
【0076】
共重合体1において、加水分解性モノマー(A)と、ポリオキシアルキレン基を含むエチレン性不飽和モノマー(B)と、セメント吸着性モノマー(C)とのモル比、すなわち(A):(B):(C)は、好ましくは0.5:1:0.3~10:1:10であり、より好ましくは0.5:1:0.3~5:1:5である。
【0077】
他の保持助剤として、例えば、上述のセメント吸着性モノマーを含まず、上述の加水分解性モノマーと、上述のポリオキシアルキレン基を含むエチレン性不飽和モノマーとを含んで重合させてなる共重合体(共重合体2)を使用することが好ましい。すなわち、該共重合体2は、上述のセメント吸着性モノマーから誘導される構造単位を有しておらず、上述の加水分解性モノマーから誘導される構造単位と、上述のポリオキシアルキレン基を含むエチレン性不飽和モノマーから誘導される構造単位とを含んでいる共重合体である。
【0078】
共重合体2において、加水分解性モノマー(A)と、ポリオキシアルキレン基を含むエチレン性不飽和モノマー(B)とのモル比、すなわち(A):(B)は、好ましくは1:1~10:1であり、より好ましくは1:1~9:1である。
【0079】
<遅延剤>
本発明に係る混和剤は、必要に応じて、得られるセメント組成物の凝結特性ならびにスランプフローの流動保持性を調整するために、遅延効果を有する遅延成分として、オキシカルボン酸、オキシカルボン酸塩、糖類及び糖アルコール類からなる群から選択される遅延剤が含まれていてもよい。オキシカルボン酸としては、クエン酸、グルコン酸、フマル酸等が好ましく、またその塩としては、アルカリ金属塩が好ましい。また、糖類としてはマルトース、ラクトース、キシロース、サッカロース等が好ましく、糖アルコール類としては、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール等が好ましい。尚、遅延剤は、一実施形態の混和剤の成分の一部として含有させてもよいし、一実施形態の混和剤とは別にコンクリートに添加してもよい。一実施形態の混和剤の成分の一部とする場合、本発明の効果を阻害しない範囲に限られ、一実施形態の混和剤に対して、1~10質量%含有することが好ましい。
【0080】
[混和剤含有組成物]
本発明に係る混和剤含有組成物は、上述の混和剤と硬化促進剤とを含んでいる。すなわち、混和剤含有組成物とは、硬化促進剤が上述の混和剤の成分の一部として含有されている一液型の状態のみを意図するものではなく、硬化促進剤が上述の混和剤とは別に添加された二液型(別添型)の状態でもよい。このような硬化促進剤は、C-S-H系微粒子としてC-S-H系ナノ粒子を分散させた硬化促進剤であることが好ましい。C-S-H系ナノ粒子を分散させた硬化促進剤は、主成分が、セメント水和物と同じであるため好ましい。C-S-H系ナノ粒子を分散させる分散剤は、特に限定されるものではないが、例えば、末端に官能基を有するポリアルキレングリコール、水溶性櫛形ポリマー及びポリアリールエーテル化合物から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0081】
C-S-H系ナノ粒子を構成するケイ酸カルシウム水和物は、下記一般式(VIII)
dCaO・SiO2・eH2O・・・(VIII)
(式(VIII)中、
dは、好ましくは0.1≦d≦2、より好ましくは0.66≦d≦1.8であり、
eは、好ましくは0.6≦e≦6、より好ましくは1.2≦e≦5.5である)で表される。
【0082】
ケイ酸カルシウム水和物の粒径は、好ましくは1000nm未満であり、より好ましくは300nm未満であり、さらに好ましくは200nm未満である。ケイ酸カルシウム水和物の粒子径は、分析用超遠心法によって測定することができる。
【0083】
ケイ酸カルシウム水和物としては、例えば、フォシャグ石、ヒレブランド石、ゾノトライト、ネコ石、単斜トベルモリ石、9Å-トバモライト(リバーサイド石)、11Å-トバモライト、14Å-トバモライト(プロンビエル石)、ジェンニ石、メタジェンナイト、カルシウムコンドロダイト、アフィライト、α-C2SH、デルライト、ジャフェ石、ローゼンハーン石、キララ石、スオルン石が挙げられる。特に、ゾノトライト、9Å-トバモライト(リバーサイド石)、11Å-トバモライト、14Å-トバモライト(プロンビエル石)、ジェンニ石、メタジェンナイト、アフィライト、ジャフェ石が好ましい。
【0084】
硬化促進剤は、さらに増粘剤ポリマーを含有していてもよい。増粘剤ポリマーは、多糖類誘導体、および質量平均分子量Mwが500,000g/mol超、好ましくは1,000,000g/mol超の(コ)ポリマーの群より選択される。
【0085】
このような硬化促進剤は1種単独の使用であっても、2種以上を互いに併用してもよい。硬化促進剤の含有量は、特に限定されるものではなく、使用状況に応じて適宜設定することができる。
【0086】
本発明に係る混和剤は、適宜必要に応じて、他の添加剤を添加することができる。他の添加剤としては、従来より慣用されているAE剤、ポリサッカライド誘導体、リグニン誘導体、乾燥収縮低減剤、促進剤、起泡剤、消泡剤、防錆剤、急結剤、水溶性高分子物質等が挙げられる。他の添加剤は、本発明に係る混和剤の成分の一部として含有させてもよいし、本発明に係る混和剤とは別にコンクリートに添加してもよい。本発明に係る混和剤の成分の一部とする場合、本発明の効果を阻害しない範囲に限られ、本発明に係る混和剤に対して、1~20質量%含有することが好ましい。
【0087】
<セメント組成物>
本発明に係るセメント組成物は、上述した混和剤を含んでおり、セメントとして、市販のセメントを使用することができる。このようなセメントの中でも、汎用性の観点から、普通ポルトランドセメント及び/又は中庸熱、低熱セメントを使用することが好ましい。本発明では、得られるセメント組成物の耐久性が良好であることや、セメント添加剤の添加量が少なくすむことによるコストの点等から、普通ポルトランドセメントが特に好ましい。
【0088】
(他の粉体)
セメント組成物に含まれるセメントの一部代用或いは追加される、潜在水硬性又はポゾラン活性を有さない粉体として、石灰石粉、炭酸カルシウム、膨張材などの微粉末混和材料を添加することができる。これらの粉体は、材料分離を抑制し、適度な粘性をと高い流動性を保つために、また、本発明の効果を妨げない範囲で、セメント組成物1m3中の配合量が、0~100kg/m3であることが好ましい。
【0089】
(骨材)
本発明に係るセメント組成物では、天然の骨材を使用することが好ましい。細骨材として、海砂、陸砂、山砂、砕砂等を使用することが好ましく、粗骨材として、山砂利、川砂利、海砂利、砕石を使用することが好ましい。これらの骨材を使用したコンクリートは本添加剤の効果を得られやすい。また、骨材の粒度は、流動性の確保の観点から、適度な粒度分布を持った骨材が好ましく、JIS A 5308 付属書A レディーミクストコンクリート用骨材に規定される骨材の粒度分布を有していることが好ましい。
【0090】
<コンクリート種別>
本発明に係る混和剤は、SCM混和材を多く含むセメント組成物に適用することができる。具体的には、例えば、SCM混和材として高炉スラグを含有する場合、セメントに対する高炉スラグの置換率が60%超えであるSCM混和材高含有コンクリートに適用される。また、例えば、SCM混和材としてシリカヒュームを含有する場合、セメントに対するシリカヒュームの置換率が20%超えであるSCM混和材高含有コンクリートに適用され、SCM混和材としてフライアッシュを含有する場合、セメントに対するフライアッシュの置換率が20%超えであるSCM混和材高含有コンクリートに適用される。SCM混和材の置換率が上記の割合を下回ると、本発明に係る混和剤の効果が従来技術と変わらなくなるおそれがある。
【0091】
また、本発明に係る混和剤が含まれるセメント組成物は、好ましくは、ダムなどのマスコンクリート、水理施設などの水密コンクリート、海上橋脚や沈埋函など海洋コンクリートとして使用可能であり、これらの用途においては、SCM混和材の混合による優れた効果が得られ、且つ、SCM混和材高含有コンクリートの流動性及び状態を維持するため好ましい。
【0092】
<コンクリートの製造>
本発明に係るセメント組成物は、従来より公知の方法により製造することができ、例えば日本土木学会制定のコンクリート標準示方書や建築学会制定の日本建築学会が作成した建築工事標準仕様書に準じた公知の設備及び公知の手法で作製することができる。具体的には、予め混練水に本発明に係る混和剤を添加した後、セメント、骨材等の他の原材料をミキサに投入して製造する方法や、セメント組成物に含まれる全ての原料をまとめて、ミキサに投入して製造する方法が好ましい。また、本発明に係るセメント組成物は、JIS A 5308に準じた生コンプラントで製造することが好ましい。
【実施例】
【0093】
以下、本発明に係る混和剤並びにこれを用いたセメント組成物について、実施例を挙げて詳細に説明する。尚、本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0094】
表1に示す使用材料を用いて、表2に示す配合条件のセメント組成物からコンクリートを製造した。得られたコンクリートのスランプ、スランプフローを測定し、また目視によるスランプの状態を観察した。
【0095】
【0096】
【0097】
<練混ぜ方法>
上記材料のうち、セメント(C)、SCM混和材(SG)及び骨材(S、G)を、太平洋機工社製の二軸強制練りミキサ SD-55型に投入して60秒間空練りし、一旦混合を止めてから水(W)、並びに、混和剤(SP1、SP2)、遅延剤(RT)及び保持助剤(RA)を予め混合した溶液を投入し、さらに60秒間混練し、コンクリートを得た。混和剤(SP1、SP2)、遅延剤(RT)および保持助剤(RA)の各添加量を表3に示す配合量により調整し、目標のスランプ値に合わせた。
【0098】
<測定・評価>
練混ぜ直後(0分)及び60分後のスランプ値、スランプフロー値を測定し、さらに目視によるスランプの状態を観察した。各項目の評価は以下のように行った。
【0099】
<スランプ>
スランプ値はJIS A 1101に基づき測定した。練混ぜ直後から60分後のスランプの低下量により、下記3つに分類し、経過時間に伴う流動性として評価した。
「◎」優れる:5cm未満
「○」良好:5cm以上10cm未満
「×」不良:10cm以上
【0100】
<スランプフロー>
スランプフロー値は、JIS A 1150に基づき測定した。
【0101】
<スランプ状態>
スランプ試験におけるスランプの変形挙動を測定者の目視により下記の3つに分類し状態として評価した。
「◎」優れる:一体となって変形した
「〇」良好:スランプがやや崩れたが、概ね一体となって変形した
「×」分離:スランプが崩れて変形した
【0102】
試験結果を表3に示す。
【0103】
【0104】
SP1を添加したコンクリート(以下、「SP1コン」という)と、SP2を添加したコンクリート(以下、「SP2コン」という)とを比較すると、参考例1と参考例2のようにスラグ置換率が0%である「SG-0」のセメント組成物からSP1コン、SP2コンをそれぞれ作製した場合、いずれも60分後のスランプの低下量が5cm以内であった。そのため、双方とも経過時間に伴う流動性に優れ、また、スランプ状態の分離も観察されなかった。また、参考例3と参考例4のように、スラグ置換率が50%である「SG-50」のセメント組成物からSP1コン、SP2コンをそれぞれ作製した場合、SP2コンは60分後のスランプの低下量が著しく、スランプが崩れて変形したのに対し、SP1コンはSP2コンよりも経過時間に伴う流動性が良好であり、その上、スランプ状態も良好であった。
【0105】
スラグ置換率を順次上げた場合も同様の傾向を示した。スラグ置換率を50%、70%、80%に増大し、一定量の遅延剤を同時に加えた条件で比較しても、SP1コンはSP2コンよりも経過時間に伴う流動性及びスランプ状態に優れていた。参考例5と参考例6のように、「SG-50」のセメント組成物に一定量の遅延剤を含む混和剤を添加したSP1コンとSP2コンとを比較しても、SP1コンはSP2コンよりもスランプ状態が優れていた。
【0106】
実施例1と比較例1のように、スラグ置換率が70%である「SG-70」のセメント組成物に一定量の遅延剤を含む混和剤を添加したSP1コンとSP2コンとを比較した場合、SP2コンは60分後のスランプ状態においてスランプが崩れて変形したのに対し、SP1コンはスランプの崩れは観察されず、優れたスランプ状態を維持していた。また、SP1コンはSP2コンよりも経過時間に伴う流動性に優れていた。
【0107】
実施例2と比較例2のように、スラグ置換率が80%である「SG-80」のセメント組成物に一定量の遅延剤を含む混和剤を添加したSP1コンとSP2コンとを比較した場合、SP2コンは60分後のスランプ状態においてスランプが崩れて変形しただけでなく、60分後のスランプの低下量も著しかった。これに対し、SP1コンはスランプの崩れは観察されず、優れたスランプ状態を維持しており、その上、経過時間に伴う流動性も良好であった。
【0108】
実施例3と比較例3のように、「SG-80」のセメント組成物に一定量の遅延剤と一定量の保持助剤を含む混和剤を添加したSP1コンとSP2コンとを比較しても、SP2コンは60分後のスランプ状態においてスランプが崩れて変形したのに対し、SP1コンはスランプの崩れは観察されず、優れたスランプ状態を維持していた。また、SP1コンはSP2コンよりも経過時間に伴う流動性に優れていた。
【0109】
このように、SCM混和材を多量に含有するコンクリートに対して本発明に規定される混和剤を使用することにより、経過時間に伴う流動性及び状態の低下を抑制することができた。これにより、コンクリートの作業性の維持、さらには可使時間の延長をもたらすことができる。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明に規定される混和剤を、SCM混和材を多量に含有するコンクリートに使用することにより、経過時間に伴う流動性の低下を抑制し、スランプ状態を維持することができる。そのため、ダム等のマスコンクリート、水理施設等の水密コンクリート、海上橋脚や沈埋函等の海洋コンクリートといったSCM混和材を多く配合するコンクリートに対しても、本発明に規定される混和剤を使用することにより、これらのコンクリート用のフレッシュ性状を良好に保持させることが可能となる。