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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-11
(45)【発行日】2022-03-22
(54)【発明の名称】レーダ装置および誘導装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/04 20060101AFI20220314BHJP
   G01S 7/41 20060101ALI20220314BHJP
   G01S 13/88 20060101ALI20220314BHJP
【FI】
G01S13/04
G01S7/41
G01S13/88 210
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018020340
(22)【出願日】2018-02-07
(65)【公開番号】P2019138704
(43)【公開日】2019-08-22
【審査請求日】2020-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000235
【氏名又は名称】特許業務法人 天城国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小島 治夫
【審査官】東 治企
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-275658(JP,A)
【文献】特開2003-149323(JP,A)
【文献】特表2016-535879(JP,A)
【文献】特開2001-042029(JP,A)
【文献】特開2003-302463(JP,A)
【文献】特開2006-090800(JP,A)
【文献】特開平03-048186(JP,A)
【文献】特開2000-171548(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00-7/64
G01S 13/00-17/95
G05D 1/00-1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス変調されて送信されたレーダの送信信号が物体により反射され、受信されて得られた反射信号の内、前記送信信号の送信中に受信された重複部分を検出する重複検出装置と、
前記重複部分の検出の有無、および、検出された前記重複部分の強度に基づいて、前記レーダと前記物体とが近接しているか否かを検出する物体近接検出装置と、
を備え
前記重複検出装置は、
第1の信号端子、第2の信号端子および第3の信号端子を備え、
前記第1の信号端子に入力された信号は、前記第2の信号端子に信号が入力されたときにのみ前記第3の信号端子から出力され、
前記第1の信号端子には前記反射信号が入力され、前記第2の信号端子には前記送信信号の一部が入力され、前記重複検出装置は、前記第2の信号端子に前記送信信号が入力されている間にのみ、前記第3の信号端子から前記第1の信号端子に入力された前記反射信号を前記物体近接検出装置に出力する、レーダ装置。
【請求項2】
前記重複検出装置は、前記第1の信号端子、前記第2の信号端子および前記第3の信号端子それぞれを、高周波数信号入力端子、局部信号入力端子および中間周波数信号出力端子とするバランストミクサ装置である
請求項に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記送信信号を前記重複検出装置に分配して前記第2の信号端子に出力するカプラ装置
をさらに有する請求項またはに記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記物体近接検出装置により、前記レーダと前記物体とが近接していることが検出されている間は、予め決められた第1の時間間隔で繰り返され、予め決められた第1のパルス幅のパルスを含む第1のパルス信号により高周波信号を変調して第1の送信信号を生成し、前記物体近接検出装置により、前記レーダと前記物体とが近接していることが検出されていない間は、予め決められた第2の時間間隔で繰り返され、前記第1のパルス幅より広い第2のパルス幅の第2のパルス信号により前記高周波信号を変調して第2の送信信号を生成する送信信号生成装置
をさらに備える請求項1~のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記レーダと前記物体とは相対的に移動し、前記送信信号の周波数と前記重複部分の周波数との間には、前記相対的な移動に起因するドップラー効果による周波数の差分が生じ、
前記物体近接検出装置は、
前記検出された重複部分に生じる前記周波数の差分を補償する周波数補償装置と、
前記周波数の差分が補償された前記重複部分の強度が、予め決められた閾値よりも大きいときに、前記レーダと前記物体とが近接していることを検出する検出装置と、
を備える請求項1~のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項6】
指向性を変化させて、予め決められた範囲を走査して前記反射信号を受信する第1のアンテナと、
前記送信信号を送信する単一の第2のアンテナと、
を備える請求項1~のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項7】
指向性を変化させて、予め決められた範囲を走査して前記送信信号を送信し、前記反射信号を受信する第1のアンテナ、
を備える請求項1~のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記第1のアンテナは、フェーズドアレイアンテナである、
請求項またはに記載のレーダ装置。
【請求項9】
目的位置に移動する移動体に搭載された請求項のいずれか1項に記載のレーダ装置と、
前記目的位置からの前記反射信号のパターンを記憶する記憶装置と、
前記予め決められた範囲を走査して受信された前記反射信号のパターンを生成するパターン生成装置と、
前記記憶装置により記憶された前記目的位置からの前記反射信号のパターンと、前記パターン生成装置により生成された前記反射信号のパターンとが一致または類似するか否かを判定するパターン判定装置と、
前記パターン判定装置により、前記記憶装置により記憶された目的位置からの前記反射信号のパターンと、前記パターン生成装置により生成された前記反射信号のパターンとが類似すると判定されたときに、この反射信号のパターンが得られた前記第1のアンテナの指向性が示す方向に、前記移動体を誘導するための信号を前記移動体の推進系の制御装置に出力する推進系制御装置と、
を備える誘導装置。
【請求項10】
前記推進系制御装置は、前記物体近接検出装置により、前記レーダと前記物体とが近接していることが検出されるたびに、前記移動体を誘導するための信号を、前記移動体の推進系の制御装置に出力する、
請求項に記載の誘導装置。
【請求項11】
前記推進系制御装置は、前記パターン判定装置により、前記記憶装置により記憶された目的位置からの反射信号のパターンと、前記パターン生成装置により生成された反射信号のパターンとが一致または類似すると判定されたとき以外であって、前記反射信号により物体が検出されたときに、この物体が検出されたときの前記アンテナの指向性が示す方向以外に、前記移動体を誘導するための信号を、前記移動体の推進系の制御装置に出力する、
請求項または10に記載の誘導装置。
【請求項12】
前記レーダ装置において、
前記記憶装置は、前記目的位置への移動の障害となる物体からの前記反射信号のパターンをさらに記憶し、
前記パターン判定装置は、前記記憶装置により記憶された障害となる物体からの前記反射信号のパターンと、前記生成された前記反射信号のパターンとが一致または類似するか否かをさらに判定し、
前記記憶装置により記憶された障害となる物体からの前記反射信号のパターンと、前記パターン生成装置により生成された前記反射信号のパターンとが一致または類似すると判定されたときには、この反射信号のパターンが得られた前記第1のアンテナの指向性が示す方向以外に前記移動体を誘導するための信号を、前記移動体の推進系の制御装置に出力する、
請求項または10に記載の誘導装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、レーダ装置および誘導装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フェーズドアレイ(Phased Array)アンテナにより送受信されるパルス変調および位相変調された信号を用いることにより、複数の反射波がある環境中で、近接した目標を検出する装置が知られている。しかしながら、この装置は、遠い位置から目標を検出するときと近い位置から目標を検出するときとで、同じ距離分解能でしか目標を検出できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】2013-185956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施の形態は上述した問題を解消するためになされ、近い位置から目標を検出するときに、遠い位置から目標を検出するよりも高い距離分解能で目標を検出することができるレーダ装置を提供することを課題とする。また、本発明の実施の形態は、このレーダ装置を利用して移動体の進行方向を誘導する誘導装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記に記載された課題を解決するために、実施の形態にかかるレーダ装置は、パルス変調されて送信されたレーダの送信信号が物体により反射され、受信されて得られた反射信号の内、前記送信信号の送信中に受信された重複部分を検出する重複検出装置と、前記重複部分の検出の有無、および、検出された前記重複部分の強度に基づいて、前記レーダと前記物体とが近接しているか否かを検出する物体近接検出装置と、を備える。前記重複検出装置は、第1の信号端子、第2の信号端子および第3の信号端子を備える。前記第1の信号端子に入力された信号は、前記第2の信号端子に信号が入力されたときにのみ前記第3の信号端子から出力される。前記第1の信号端子には前記反射信号が入力され、前記第2の信号端子には前記送信信号の一部が入力される。前記重複検出装置は、前記第2の信号端子に前記送信信号が入力されている間にのみ、前記第3の信号端子から前記第1の信号端子に入力された前記反射信号を前記物体近接検出装置に出力する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1A】ドローンの例示的な上面図である。
図1B図1Aに示されたドローンの例示的な側面図である。
図2図1A,1Bに示されたドローンを誘導する第1のレーダ誘導装置の構成を示す図である。
図3図2に示されたレーダ誘導装置の内、ソフトウェア的に実現されうる構成要素のプログラムを実行するコンピュータの構成を例示する図である。
図4図2に示された第1の送信回路の構成を示す図である。
図5図2に示された送受信回路の構成を示す図である。
図6図2に示された第2の受信回路の構成を示す図である。
図7図2に示された近接検出回路の構成を示す図である。
図8図2に示された信号処理回路の構成を示す図である。
図9図1A図1Bに示されたドローンの飛行経路を例示する図である。
図10図10は、図2に示されたレーダ誘導装置における各信号のタイミングを示す図であって、(A)は、ドローンと、図9に示された目標位置との間の距離が、予め決められた距離以上であるか、予め決められた距離未満であるかを示し、(B)は、図2図7に示された近接検出回路が出力する近接検出信号VD(Vicitity Detection)の論理値を示し、(C)は、図2に示されたパルス変調回路により生成される送信信号TS1の波形を示し、(D)は、図2に示された電源回路が出力する電源電圧(Vcc/0V)を示し、(E)は、(C)に示された近接検出信号VDが、ドローンと、図9に示された目標位置との間の距離が予め決められた距離未満であることを示すときに、図2に示される送受信回路から送信される送信信号の波形を示し、(F)は、(C)に示された近接検出信号VDが、ドローンと、図9に示された目標位置との間の距離が予め決められた距離未満であることを示す間に、電源回路から送信回路および送受信回路に供給される送信用電力の電流値を示す。
図11図1A図1B図8に示されたレーダ誘導装置の全体的な動作を示すフローチャートである。
図12図2に示されたレーダ誘導装置が近距離探索処理を行っているときに、電源回路が、送信信号と同じパルス幅の電源電力を、同じタイミングで供給したと仮定したときの各構成部分の波形を示す図であって、(A)は、図10(C)に示されたパルス幅0.1μsの送信信号の波形を示し、(B)は、電源回路が、(A)に示された送信信号と同じパルス幅および同じタイミングの電源電力を供給しようとしたときに、実際に得られる電源電圧の波形を示し、(C)は、(B)に示された電源電力を用いて送信回路が送信信号TS1を増幅して実際に得られる送信信号TS2の波形を示し、(D)は、電源回路が、(A)に示された送信信号と同じパルス幅および同じタイミングの電源電力を供給しようとしたときに、実際に流れる電流を示す。
図13図2図8に示されたレーダ誘導装置における各信号のタイミングの変形例を示す図であって、(A)は、図10(C)に示されたパルス幅0.1μsの送信信号TS1を示し、(B)は、図10(B)に示された近接検出信号VDの論理値を示し、(C)は、第1の変形例において、電源回路から供給される電力電圧の波形を示す。
図14】フェーズドアレイアンテナが受信専用とされ、図2に示された第1のレーダ誘導装置に置換され得る第2のレーダ誘導装置の構成を示す図である。
図15図2に示された第1のレーダ誘導装置のアンテナ素子が省略され、第1のフェーズドアレイアンテナと置換され得る第3のレーダ誘導装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[実施の形態]
以下、実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下、各図において、同じ構成要素には同じ符号が付される。
【0008】
[ドローン1]
図1Aは、ドローン1の例示的な上面図である。図1Bは、図1Aに示されたドローン1の例示的な側面図である。図1A図1Bに示されるように、ドローン1は、その本体10に取り付けられた飛行用の4個のロータと、着地用の4本の着地用の脚とを備える。また、ドローン1は、本体10に取り付けられ、図1A図1Bに矢印で示す方向(前方)を撮影するカメラ16と、それぞれロータを1つずつ駆動する4個のモータ14a~14dと、本体10に着脱可能な入出力装置100とをさらに備える。
【0009】
さらに、ドローン1は、構成要素の電源として本体10に設けられたバッテリ12と、前方に指向性を有するフェーズドアレイアンテナ20およびアンテナ素子202とを備える。図1A図1Bに示されるように、ドローン1は、飛行するための基本的な構成要素を備える。なお、ドローン1は、その自立的で安定な長距離飛行、および、自立的で安定な着陸などのための機能を有する。
【0010】
[レーダ誘導装置2の構成]
図2は、図1A,1Bに示されたドローン1を誘導する第1のレーダ誘導装置2の構成を示す図である。また、レーダ誘導装置2は、ドローン1の本体10の中に収容される。図2に示されるように、第1のレーダ誘導装置2は、図1A図1Bに示されたフェーズドアレイアンテナ20を含む。このフェーズドアレイアンテナ20は、レーダによる探索のための電波信号を送信および受信するために用いられ、スタック状に配列されたアンテナ素子200-1~200-nを備える。
【0011】
なお、以下に示される各図において、受信用の回路用の電源の図示およびその説明は省略されている。また、アンテナ素子200-1~200-nなど、レーダ誘導装置2において複数あり得る構成要素が特定されずに示されるときには、アンテナ素子200などと略記されることがある。また、アンテナ素子200の数nは、一般的に数個(2個以上)から数百個程度である。
【0012】
レーダ誘導装置2は、図1A図1Bに示された電波信号の送信用のアンテナ素子202をさらに備え、アンテナ素子202には第1の送信回路(TX1)22が接続され、送信回路22には第2の受信回路(RX2)30が接続される。また、アンテナ素子200-1~200-nそれぞれは、送受信回路(TRX1~n)24-1~24-nそれぞれと、指向性制御回路(DC;Directional Characteristic Controller)212とに接続される。また、送受信回路24は、アンテナ素子200からの受信信号を合成して出力し、送信回路22からの送信信号を分配して出力する分配/合成回路(D/C)204を介して、送信回路22および受信回路30(RX1)に接続される。
【0013】
送信回路22には、パルス変調回路(PM)208と、制御回路(CONT;Controller)210とが接続され、制御回路210には、図1A図1Bに示された入出力装置100その他が接続される。また、パルス変調回路208には、発振回路(OSC)206と電源回路(PS;Power Supply)216とが接続される。受信回路30には、近接検出回路(VD;Vicinity Detector)32と、信号処理回路(SP;Signal Processing)34とが接続される。信号処理回路34には、誘導装置(G;Guidance)214が接続される。
【0014】
図3は、図2に示されたレーダ誘導装置2の内、ソフトウェア的に実現されうる構成要素のプログラムを実行するコンピュータ18の構成を例示する図である。以上説明したレーダ誘導装置2の各構成要素の内、アンテナ素子200など、その性質上、ハードウェアのみにより実現され得るアンテナ素子200などの構成要素以外は、ハードウェア的(専用回路)にもソフトウェア的にも実現され得る。ソフトウェア的に実現される構成要素のプログラムは、図3に示されるコンピュータ18により実行される。
【0015】
[コンピュータ18]
なお、図3に示されるように、コンピュータ18は、CPU、DSPおよびこれらの周辺回路を含む演算処理回路180と、ROMおよびRAMなどを含むメモリ182と、本体10の各構成要素との間で信号の入出力を行うI/O回路184と、フラッシュメモリなどを含む記録回路186とを備える。つまり、コンピュータ18は、記録回路186などを介してメモリ182にロードされ、ドローン1およびレーダ誘導装置2の各構成要素との間で信号を入出力して制御するプログラムを実行する一般的なコンピュータとして必要とされる構成要素を備える。
【0016】
[送信回路22]
図4は、図2に示された第1の送信回路22の構成を示す図である。図4に示されるように、送信回路22は、制御回路210の制御に従って、エコー対策のために、パルス変調された第1の送信信号(TS1)の各パルスをM符号により0°と180°(0-π)との間で位相変調する位相変調回路(φ)220を備える。また、送信回路22は、それぞれGaN高電子移動度FETまたはデプレッションMOS FET(不図示)を電力増幅素子として含む電力増幅回路(BFA,MPA,HPA)222,224,226を備える。電力増幅回路222,224,226は、制御回路210の制御に従って、電源回路216から供給される送信用電力を用いて、位相変調された送信信号を増幅する
【0017】
また、送信回路22は、電力増幅回路(HPA)226から入力される送信信号を、制御回路210の制御に従って、3ns以下で切り替え、接点a,bのいずれかから出力するSPDT(Single Pole Double Through)形式の高周波スイッチ228をさらに備える。なお、電力増幅回路226に入力された送信信号は、高周波スイッチ228の接点aからアンテナ素子202に第2の送信信号TS2として出力され、接点bから分配/合成回路204に第3の送信信号TS3として出力される。また、送信回路22は、高周波スイッチ228に接続された方向性結合器(CP)230と、方向性結合器(CP)230と、SPST(Single Pole Single Through)形式の高周波スイッチ232をさらに備える。
【0018】
[送受信回路24]
図5は、図2に示された送受信回路24の構成を示す図である。図5に示されるように、送受信回路(TRX)24は、分配/合成回路204から入力された送信回路を増幅する第2の送信回路(TX2)26と、アンテナ素子200から入力された受信信号を増幅する第1の受信回路28(RX1)とを備える。また、送受信回路24は、送信回路26および受信回路28に接続されたサーキュレータ242と、これに接続されたバンドパスフィルタ(BPF)240とを備える。
【0019】
また、第2の送信回路26は、図4に示された電力増幅回路222,224,226と、指向性制御回路212の制御に従って、電力増幅回路226から出力された送信信号を移相する移相回路(PSH)260とを備える。また、受信回路28は、SPST形式の高周波スイッチ280を備える。また、受信回路28は、高周波スイッチ280に接続された低雑音増幅回路(LNA)282,284を備える。また、受信回路28は、低雑音増幅回路284の出力に接続された移相回路286を備える。
【0020】
図6は、図2に示された第2の受信回路30の構成を示す図である。図6に示されるように、第2の受信回路30は、図5に示され、分配/合成回路204からの第1の受信信号が入力される高周波スイッチ280と、低雑音増幅回路282,284とを備える。また、受信回路30は、低雑音増幅回路284に接続されたミクサ(MIX)300と、ミクサ300に接続された近接検出回路32および信号処理回路34とを備える。
【0021】
図7は、図2に示された近接検出回路32の構成を示す図である。図7に示されるように、近接検出回路32は、受信回路30に接続されるリミッタ回路(LIM)320と、このリミッタ回路320の出力に接続されるビデオアンプ(VA;Video Amp)322とを備える。
【0022】
また、近接検出回路32は、制御回路210により制御されるドップラーフィルタ(DF;Doppler Filter)324と、ドップラーフィルタ324の出力に接続された積分回路(∫)326とを備える。また、近接検出回路32は、制御回路210により制御される検波回路(DET)328と、検波回路328の出力に接続されたレベル判定回路(LD;Level Determination)330を備える。なお、近接検出回路32により処理された信号は、図2に示されたように、近接検出信号VDとして信号処理回路34、制御回路210および誘導装置214に出力される。
【0023】
[信号処理回路34]
図8は、図2に示された信号処理回路34の構成を示す図である。図8に示されるように、信号処理回路(SP;Signal Processing)34は、送信回路22からの分配信号(CO)と、受信回路30からの受信信号(RS2)とが入力される距離検出回路(DSD;DiStance Detector)340を備える。また、信号処理回路34は、受信信号(RS2)が入力される信号強度検出回路(SSD;Signal Strength Detector)342を備える。
【0024】
また、信号処理回路34は、距離検出回路340と、信号強度検出回路342と指向性制御回路212とに接続される方向検出回路(DRD;DiRection Detector)344とをさらに備える。また、信号処理回路34は、信号強度検出回路342と指向性制御回路212とに接続されるパターン生成回路(PG;Pattern Generator)346をさらに備える。また、信号処理回路34は、パターン生成回路346と制御回路210とに接続される比較回路(CMP)348をさらに備える。信号処理回路34により生成された各信号(DS,DR,CR)は誘導装置214に出力される。
【0025】
[ドローン1の飛行経路]
図9は、図1A図1Bに示されたドローン1の飛行経路を例示する図である。図1A図1Bに示されたドローン1は、図2に示されるように、港湾のふ頭側から、ふ頭に接岸した船舶の艦橋に対して煙突と反対側(前方)の甲板上を目的位置として飛行する。なお、ふ頭には、ドローン1の障害物として鉄塔が存在する。以下、説明の明確化および具体化のために、図9に示されたドローン1の飛行経路が適宜、参照される。
【0026】
[レーダ誘導装置2の動作の概要]
レーダ誘導装置2には、図9に例示されるようにドローン1を誘導して飛行させるために、フェーズドアレイアンテナ20によって受信される目的位置からの反射波(反射信号)のパターン(反射パターン)と、障害物の反射パターンとが予め設定される。レーダ誘導装置2は、フェーズドアレイアンテナ20により受信された目的位置、障害物およびその他の物体の反射信号から反射パターンを生成する。
【0027】
レーダ誘導装置2は、生成された反射パターンが目的位置の反射パターンと一致するか類似するときに、この反射パターンを与えるフェーズドアレイアンテナ20の指向性の方向にドローン1の飛行方向を誘導する。また、レーダ誘導装置2は、生成された反射パターンが障害物の反射パターンと一致するか類似するときに、ドローン1を、この反射パターンを与えるフェーズドアレイアンテナ20の指向性の方向から外れるようにドローン1の飛行方向を誘導し、障害物を回避させる。また、レーダ誘導装置2は、何らかの物体の反射パターンが、目的位置および障害物の反射パターンと一致も類似もしないときに、この反射パターンを与える指向性の方向から外れるようにドローン1の飛行方向を誘導し、この物体を回避させる。
【0028】
[レーダ誘導装置2の各構成要素]
以下、図2図8に示されたレーダ誘導装置2の各構成要素の動作を説明する。図10(A)~(F)は、図2に示されたレーダ誘導装置2における各信号のタイミングを示す図である。
【0029】
図10(A)は、ドローン1と、図9に示された目標位置との間の距離が、予め決められた距離以上であるか、予め決められた距離未満であるかを示す。図10(B)は、図2図7に示された近接検出回路32が出力する近接検出信号VD(Vicitity Detection)の論理値を示す。図10(C)は、図2に示されたパルス変調回路208により生成される送信信号TS1の波形を示す。図10(D)は、図2に示された電源回路216が出力する電源電圧(Vcc/0V)を示す。
【0030】
図10(E)は、図10(C)に示された近接検出信号VDが、ドローン1と、図9に示された目標位置との間の距離が予め決められた距離未満であることを示すときに、図2に示される送受信回路24から送信される送信信号の波形を示す。図10(F)は、図10(C)に示された近接検出信号VDが、ドローン1と、図9に示された目標位置との間の距離が予め決められた距離未満であることを示す間に、電源回路216から送信回路22および送受信回路24に供給される送信用電力の電流値を示す。ただし、図10(A)~図10(F)において、各波形の時間の比は必ずしも正確ではない。
【0031】
発振回路206は、アンテナ素子200,202から送信されるKuバンドの周波数の周波数信号を生成し、パルス変調回路208に出力する。パルス変調回路208は、図10(A)~図10(C)に示されるように、ドローン1(レーダ誘導装置2)と、図9に示された目標位置との間の距離が予め決められた距離以上のときには、遠距離探索のための処理を行う。つまり、パルス変調回路208は、1マイクロ秒(μs)のパルス幅およびデューテイ比1/20(20μs周期)のパルス信号で、発振回路206から入力された周波数信号を変調する。
【0032】
また、パルス変調回路208は、図10(A)~図10(C)に示されるように、ドローン1と、図9に示された目標位置との間の距離が予め決められた距離未満のときには、近距離探索のための処理を行う。つまり、パルス変調回路208は、0.1μsのパルス幅およびデューテイ比1/20(2μs周期)のパルス信号で、発振回路206から入力された周波数信号を変調する。
【0033】
なお、ドローン1と目標位置との間で予め決められた距離は、送信信号のパルス幅により定義される。つまり、アンテナ素子200からの送信信号が、物体により反射されてアンテナ素子200により受信されるまで往復することを考慮すると、遠距離探索の際のパルス幅が1μsの送信信号が用いられるときには、この距離は約150m(=約(3×108×10-6)/2m)である。同様に、近距離探索の際のパルス幅が0.1μsの送信信号が用いられるときには、この距離は約15m(=約(3×108×10-7)/2m)である。これら距離150m,15mは、レーダ誘導装置2による遠距離探索および近距離探索の距離的な分解能に対応する。また、送信信号のパルス幅は、レーダ誘導装置2の時間的な分解能に対応する。
【0034】
図2に示された電源回路216は、図10(A)などに示されるように、レーダ誘導装置2が遠距離探索を行う間は、送信信号が送信される間だけ、送信回路22および送受信回路24にパルス状の送信用電源電力を供給する。つまり、電源回路216は、パルス変調回路208における周波数信号のパルス変調に用いられるパルスと同じタイミングで電力増幅回路222,224,226に電源電力を供給する。一方、電源回路216は、図10(A)などに示されるように、レーダ誘導装置2が近距離探索を行う間は、送信信号が送信される間だけではなく、連続的に送信回路22および送受信回路24に送信用電源電力を供給する。
【0035】
図2図4に示された送信回路22において、電力増幅回路222,224,226は、送信信号TS1を3段で電力増幅して高周波スイッチ228に出力する。図10(A)に示された遠距離探索処理においては、制御回路210により、少なくとも最も大きい電力を消費する電力増幅回路226の無信号時の電流は、そのIdssの1/3~1/4程度となるように設定される。また、図10(A)に示された近距離探索処理においては、制御回路210により、電力増幅回路226の無信号時の電流は、そのIdssの1/2程度に設定される。
【0036】
また、遠距離探索処理において、制御回路210により、電力増幅回路226は、最大出力電力の送信信号TS2をアンテナ素子202に出力するように制御される。一方、近距離探索処理において、制御回路210により、電力増幅回路226は、図10(E)に示されるように、最大出力電力よりも-20dB~-30dB程度と小さい電力の送信信号TS2をアンテナ素子202に出力するように制御される。また、電力増幅回路226が、最大出力電力よりも-20dB~-30dB程度小さい電力の送信信号を出力するタイミングで、電源回路216から電力増幅回路226に供給される電流の値は、図10(F)に示されるように少しだけ増加する。
【0037】
高周波スイッチ228は、制御回路210からの制御に従って接点a,bのいずれかを選択し、電力増幅回路226から入力された送信信号を、電力増幅回路226から入力された送信信号を、接点aから方向性結合器230に出力する。また、高周波スイッチ228は、電力増幅回路226から入力された送信信号を、接点bから送信信号TS2としてアンテナ素子202に出力する。
【0038】
方向性結合器230は、高周波スイッチ228から入力された送信信号の殆ど全てを高周波スイッチ232に出力する。一方、高周波スイッチ228は、入力された送信信号の1/1000の電力を、分配信号CO(Coupler Output)として、受信回路30および信号処理回路34に出力する。高周波スイッチ232は、制御回路210の制御に従って、方向性結合器230とアンテナ素子202との間を、3ns以下の切り替え時間で接続または切断する。また、高周波スイッチ232は、方向性結合器230から入力された送信信号を、送信信号TS3として分配/合成回路204に出力する。アンテナ素子202は、ドローン1の前方向に高い利得を示す指向特性で、送信回路22から入力された送信信号TS2を送信する。
【0039】
図2に示された分配/合成回路204は、送信回路22から入力された送信信号TS3を、送受信回路24-1~24-nそれぞれに均等に分配する。また、分配/合成回路204は、送受信回路24-1~24―nそれぞれから入力された受信信号を合成し、受信信号RS1として受信回路30に出力する。
【0040】
図2図5に示された送受信回路24それぞれの送信回路26において、移相回路260は、制御回路210の制御に従って、分配/合成回路204により分配されて入力された送信信号TS3を移相する。送受信回路24それぞれの移相回路260による送信信号TS3の移相により、アンテナ素子200全体としてのフェーズドアレイアンテナ20の送信信号への指向特性が実現される。移相回路260は、移相された送信信号TSを、電力増幅回路222に出力する。送信回路26は、電力増幅回路222,224,226により電力増幅された送信信号を、サーキュレータ242に出力する。
【0041】
サーキュレータ242は、送信回路26の電力増幅回路226から入力された送信信号をバンドパスフィルタ240に出力し、逆方向に、バンドパスフィルタ240から出力された受信信号を受信回路28に出力する。バンドパスフィルタ240は、アンテナ素子200とサーキュレータ242との間で、送信信号および受信信号の物体の探索に用いられる帯域の信号をフィルタリングし、アンテナ素子200それぞれと送受信回路24との間で双方向に入力および出力する。なお、図2図4に示された送信回路22から送信信号が送受信回路24それぞれの送信回路26に供給されるときには、その電力は、分配/合成回路204における損失、および、送信回路26の利得および出力に応じて調整される。
【0042】
図2図5に示された送受信回路24それぞれの受信回路28において、高周波スイッチ280は、制御回路210の制御に従って、サーキュレータ242からの受信信号を、3ns以下の切り替え時間で接続または切断する。低雑音増幅回路282,284は、高周波スイッチ280から入力された受信信号を低雑音で2段増幅し、移相回路286に出力する。
【0043】
移相回路286は、指向性制御回路212の制御に従って、低雑音増幅回路284から出力された受信信号を移相して分配/合成回路204に出力する。送受信回路24それぞれの移相回路260による受信信号の移相により、アンテナ素子200全体としてのフェーズドアレイアンテナ20の受信信号への指向特性が実現される。
【0044】
図2図6に示された受信回路30において、ミクサ300は、ダブルバランストミクサ(DBM)である。ミクサ300は、低雑音増幅回路282,284により増幅された受信信号RS1をRF端子から受け入れ、送信回路22の方向性結合器230からの分配信号COをLo端子から受け入れる。ドローン1と探索対象の物体とが、遠距離探索または近距離探索の距離的な分解能よりも遠く離れているときには、分配信号COと物体からの反射信号とは重ならない。つまり、図9に示された鉄塔または船舶とドローン1と同じ円内にないときには、ミクサ300のIF端子からは何の信号も出力されない。さらに、ミクサ300において、信号COと反射信号との間の相関が得られ、反射信号に含まれるエコー成分がキャンセルされる。
【0045】
一方、ドローン1と探索対象の物体とが、遠距離探索または近距離探索の距離的な分解能よりも近い距離に位置するときには、分配信号COと物体からの反射信号とが重なる。つまり、図9に示された鉄塔または船舶とドローン1とが同じ150m半径の円内にあるときには、ミクサ300のIF端子からは、分配信号COと、ドップラー効果により周波数が変化した反射信号との差分のIF信号が出力される。同様に、図9に示された鉄塔または船舶とドローン1との間の距離が150m未満となると、ミクサ300のIF端子からは、分配信号COと、ドップラー効果により周波数が変化した反射信号との差分のIF信号が出力される。受信回路30の低雑音増幅回路284の出力は、受信信号RS2として信号処理回路34に出力され、ミクサ300のIF端子から出力されるIF信号は近接検出回路32に出力される。
【0046】
図2図7に示された近接検出回路32のドップラーフィルタ324、積分回路326、検波回路328およびレベル判定回路330には、遠距離探索のときにはそのための処理に適したパラメータが設定される。また、近接検出回路32のこれらの構成要素には、近距離探索のときにはそのための処理に適したパラメータが設定される。リミッタ回路320は、受信回路30から入力される受信信号RS3の振幅(強度)を制限してビデオアンプ322に出力し、ビデオアンプ322は、振幅が制限された受信信号を広帯域増幅し、ドップラーフィルタ324に出力する。
【0047】
ドップラーフィルタ324は、IF信号の内、制御回路210により設定されたパラメータを用いて、探索対象の物体からの一次的な反射による成分のみを通過させ、その他の反射による成分以外を遮断してフィルタリングし、積分回路326に出力する。積分回路326は、制御回路210により設定されたパラメータを用いて、ドップラーフィルタ324によりフィルタリングされたIF信号の振幅の絶対値を、パルス周期ごとに積分して検波回路328に出力する。
【0048】
検波回路328は、制御回路210により設定されたパラメータを用いて、積分回路326により積分されたIF信号の振幅の絶対値を検出し、レベル判定回路330に出力する。レベル判定回路330は、制御回路210により設定されたパラメータを用いて、積分回路326により検出されたIF信号の振幅の絶対値(レベル)が、遠距離探索または近距離探索のための閾値を超えるか否かを判定する。
【0049】
つまり、レベル判定回路330は、IF信号の振幅の絶対値(レベル)が遠距離探索または近距離探索のための閾値を超えるときには、ドローン1と物体との距離が、遠距離探索または近距離探索の範囲内にあると判定する。一方、レベル判定回路330は、これ以外のときには、ドローン1と物体との距離が、遠距離探索または近距離探索の範囲外にあると判定する。レベル判定回路330は、図10(B)に示されたように、これらの判定結果を示す近接検出信号VDの論理値を、距離検出回路340および制御回路210に出力する。
【0050】
なお、近接検出信号VDの論理値の初期値はLであり、ドローン1と物体との距離が、遠距離探索の範囲から近距離探索の範囲に移行したときには、レベル判定回路330は判定信号の論理値をHに変更する。さらに、ドローン1と目標位置との距離が15m未満となったときには、レベル判定回路330は判定信号の論理値をLに戻す。つまり、レベル判定回路330は、ドローン1が物体から150m未満の距離にあることが検出されたタイミングと、15m未満にあることが検出されたタイミングとで、近接検出信号VDの論理値を反転させる。
【0051】
図2図8に示された信号処理回路34は、探索対象の物体からの反射信号パターンを生成し、予め設定された目標位置および障害物からの反射信号パターンと比較することにより物体を認識する。さらに、信号処理回路34は、レーダ誘導装置2に対する物体の方向、および、レーダ誘導装置2と物体との間の距離を求める。
【0052】
信号処理回路34の距離検出回路340は、送信回路22から入力された分配信号COと、受信回路30から入力された反射信号とから、ドローン1と物体との間の距離を示す信号を求める。距離検出回路340は、求められたドローン1と物体との間の距離を示す信号DS(DiStance)を、方向検出回路344および誘導装置214に出力する。
【0053】
信号強度検出回路342は、受信回路30から入力された受信信号RS2の信号強度を検出し、受信信号RS2の信号強度を示す信号を、方向検出回路344およびパターン生成回路346に出力する。方向検出回路344は、信号強度を示す信号および信号DSと、指向性制御回路212がフェーズドアレイアンテナ20に設定した指向性の方向を示す信号DCとを対応づける。さらに、方向検出回路344は、探索対象の物体が、フェーズドアレイアンテナ20に対していずれの方向のどのような距離にあるかを検出する。物体がフェーズドアレイアンテナ20に対していずれの方向のどのような距離にあるかを示す信号DR(DiRection)もまた、誘導装置214に出力される。
【0054】
パターン生成回路346は、送受信回路24それぞれが受信した受信信号の強度を示す信号および信号DSと、信号DCとを対応づけ、送受信回路24それぞれが受信した物体からの反射信号(受信信号)の強度のパターン、つまり、反射パターンを生成する。つまり、パターン生成回路346は、n個の送受信回路24から得られた受信信号に基づいて、探索対象の物体の形状を示す反射パターンを生成し、このパターンを示す信号を比較回路348に出力する。
【0055】
比較回路348は、制御回路210に設定された目的位置(図9に示された船舶およびその艦橋)および障害物(鉄塔)の形状を示す反射パターンそれぞれと、パターン生成回路346が生成した物体からの反射パターンとを比較する。また、比較回路348は、この比較の結果を処理して、パターン生成回路346が生成した物体の反射パターンが、制御回路210に設定された目的位置および障害物の反射パターンのいずれかに一致または類似するか否かを検出する。
【0056】
さらに、比較回路348は、反射パターンの一致または類似を判断すると、この反射パターンを与える物体を、この反射パターンと一致または類似する反射パターンを与える目的位置および障害物の反射パターンのいずれかであると識別する。この識別結果もまた、信号CR(Comparison Result)として誘導装置214に出力される。
【0057】
誘導装置214は、比較回路348から入力された信号DS,DR,CRと、近接検出信号VDとを処理して、ドローン1の推進系制御装置(不図示)にモータ14などを制御させ、図9に示された出発位置から目標位置までの飛行を誘導する。さらに、誘導装置214は、ドローン1のカメラ16を制御し、ドローン1の飛行中に画像を撮影させる。制御回路210は、以上説明したように、ドローン1の各構成要素から得られた信号を処理して、制御信号CONTを介し、送信回路22、受信回路30、パルス変調回路208、誘導装置214および電源回路216を制御する。
【0058】
[レーダ誘導装置2の全体的動作]
以下、レーダ誘導装置2の全体的な動作を説明する。図11は、図1A図1B図8に示されたレーダ誘導装置2の全体的な動作を示すフローチャートである。ステップS100において、ドローン1が、図9に示された出発位置にあるときに、ドローン1のユーザは、レーダ誘導装置2の制御回路210に、入出力装置100を介して、障害物としての鉄塔、および、目標位置としての船舶およびその艦橋の反射パターンを設定する。
【0059】
反射パターンの設定直後、船舶が前方に位置するようにドローン1の方向が合わされ、入出力装置100は、ドローン1から取り外される。入出力装置100が取り外されると、レーダ誘導装置2は、ドローン1を上昇させ、その推進系制御装置を制御して飛行を開始させる。さらに、レーダ誘導装置2は、その各構成要素を制御して、遠距離探索のための処理を開始する。
【0060】
ステップS104において、制御回路210は、送信回路22の高周波スイッチ228に接点aを選択させ、パルス変調回路208に、図10(C),(D)に示された送信信号TS1を出力させ、送信回路22に遠隔探索における電力増幅を行わせる。アンテナ素子202から送信された送信信号TS1は、図9に示された鉄塔および船舶(艦橋)から反射され、これらの反射信号としてフェーズドアレイアンテナ20に受信される。
【0061】
フェーズドアレイアンテナ20のアンテナ素子200それぞれに受信された反射信号は、送受信回路24それぞれにより増幅され、分配/合成回路204により合成され、受信回路30により受信信号RS1としてさらに増幅される。受信回路30は、増幅された受信信号RS1の大部分を受信信号RS2として信号処理回路34に出力し、ごく一部を分配信号COとして近接検出回路32に出力する。近接検出回路32は、信号処理回路34は、遠隔探索処理のための近接検出を開始する。信号処理回路34は、受信信号RS2と、指向性制御回路212からの信号DCとから、探索対象の反射パターンを生成する。
【0062】
ステップS106において、信号処理回路34は、生成された反射パターンと、制御回路210に設定された反射パターンとを比較し、反射パターンを与えた目的位置、障害物およびその他の物体(以下、これらは総称されて「物体」とも記される)を識別する。
【0063】
ステップS108において、信号処理回路34は、S106の処理により物体が識別されたか否かを判断する。物体が識別されたとき(S108の処理においてY)には、レーダ誘導装置2はS106の処理に進み、これ以外のとき(S108の処理においてN)には、レーダ誘導装置2はS104の処理に戻る。
【0064】
ステップS110において、信号処理回路34は、識別された物体が障害物(図9においては「鉄塔」)であるか否かを判断する。識別された物体が障害物であるとき(S110の処理においてY)には、レーダ誘導装置2はS118の処理に進み、これいがいのとき(S110の処理においてN)にはS120の処理に進む。
【0065】
ステップS112において、制御回路210は、近接検出回路32から出力される近接検出信号VDが、論理値LからHに変化したか、つまり、ドローン1(レーダ誘導装置2)と、識別された物体との間の距離が150m未満の近接距離であるか否かを判断する。ドローン1と、識別された物体との間の距離が近接距離より短いとき(S112の処理においてY)ときには、レーダ誘導装置2は、S114の処理に進み、これ以外のとき(S112の処理においてN)にはS106の処理に戻る。
【0066】
ステップS114において、制御回路210は、各構成要素を制御して、近距離探索処理を行わせる。具体的には、制御回路210は、図10(E)に示されたように、パルス変調回路208に送信信号TS1を出力させ、送信回路22に近距離探索処理における電力増幅を行わせる。
【0067】
ステップS116において、信号処理回路34は、識別された物体が目的位置(図9においては「船舶」の「艦橋」の前の「甲板」)であるか否かを判断する。識別された物体が目的位置であるとき(S116の処理においてY)には、レーダ誘導装置2はS120の処理に進み、これ以外のとき(S116の処理においてN)にはS120の処理に進む。
【0068】
ステップS118において、誘導装置214は、識別された物体を回避するようにドローン1を誘導する。つまり、識別された物体が、目的位置以外であるときには、誘導装置214は、ドローン1を識別された物体を回避するように誘導する。
【0069】
ステップS120において、誘導装置214は、識別された目的位置の方向に飛行するように誘導するようにドローン1を誘導する。
【0070】
ステップS122において、制御回路210は、近接検出回路32により、ドローン1と、識別された物体との間の距離が15m未満であると検出されたか否か、つまり、ドローン1が目標位置に到達したか否かを判断する。ドローン1が目標位置に到達したとき(S122の処理においてY)には、レーダ誘導装置2はS122の処理に進み、これ以外のとき(S122の処理においてN)にはS114の処理に戻る。
【0071】
ステップS124の処理において、ドローン1が、図9に示された目標位置を中心とした半径15mの円内に入ると、誘導装置214は、ドローン1を目的位置に降下するように誘導する。ドローン1は、この誘導に従い、さらに、安定着陸のための機能を用いて目的位置に降下する。
【0072】
[技術的効果]
以下、実施の形態にかかるレーダ誘導装置2により達成される技術的効果を説明する。
【0073】
以上説明されたレーダ誘導装置2によれば、フェーズドアレイアンテナ20を反射信号の受信に利用できるので、ドローン1と物体との近接を検出するためだけに使用される受信用アンテナを省略することができる。また、レーダ誘導装置2は、受信にフェーズドアレイアンテナ20を常に用いるので、物体の位置および距離を正確に検出することができる。従って、レーダ誘導装置2は、ドローン1を正確に目的位置まで飛行するように誘導することができ、また、確実に目的位置以外の物体を回避するように誘導することができる。
【0074】
図12は、図2に示されたレーダ誘導装置2が近距離探索処理を行っているときに、電源回路216が、送信信号と同じパルス幅の電源電力を、同じタイミングで供給したと仮定したときの各構成部分の波形を示す図である。図12(A)は、図10(C)に示されたパルス幅0.1μsの送信信号の波形を示す。図12(B)は、電源回路216が、図12(A)に示された送信信号と同じパルス幅および同じタイミングの電源電力を供給しようとしたときに、実際に得られる電源電圧の波形を示す。図12(C)は、図12(B)に示された電源電力を用いて送信回路22が送信信号TS1を増幅して実際に得られる送信信号TS2の波形を示す。図12(D)は、電源回路216が、図12(A)に示された送信信号と同じパルス幅および同じタイミングの電源電力を供給しようとしたときに、実際に流れる電流を示す。
【0075】
図10(C),図12(A)に示されるように、レーダ誘導装置2においては、遠距離探索処理における送信信号のパルス幅は1μsであるのに対して、近距離探索処理における送信信号のパルス幅は0.1μsとなる。このように、近距離探索処理においてと同様に、送信信号と同じ狭いパルス幅で同じタイミングで電源回路216により送信用の電源を供給しようとすると、図12(B)に示されるように、電源回路216からは、実際には、パルスの両端での立ち上がりおよび立ち下がりが遅延した電源が供給されてしまう。
【0076】
電源が供給されてから電力増幅回路222,224,226の動作が安定するまでにも遅延が生じるので、近距離探索処理における送信信号のパルス波形は、図12(C)に示されるように、狭くなってしまう。さらに、近距離探索処理における電力増幅回路222,224,226の無信号時の電流をIdssの1/3~1/4とし、最大の出力電力を得ようとすると、図12(D)に示されるように、電源回路216からは、0.1μsの間にIdssの1/3~1/4からIdssまで、狭い波形で急激に変化する電源電流供給されることになる。
【0077】
図12(C)に示されたような出力波形の送信信号を用いると、近接探索処理が正常に行われない可能性が生じる。また、図12(D)に示されるように、0.1μsの間に、狭い波形で急激に変化する電源電流を供給する必要があると、電源回路216自体に不具合が生じたり、さらには、レーダ誘導装置2の他の構成要素に不具合が生じたりする可能性がある。
【0078】
一方、レーダ誘導装置2においては、図10(D)に示されたように、最初の近接探索処理の送信信号のパルスが立ち上がる前に、電源回路216、送信回路22および送受信回路24の動作が安定するまでに予め十分な時間をおいて、連続的に電源電力が供給される。従って、レーダ誘導装置2においては、電源電力の波形および送信信号の波形に、図12(B)~図12(D)に示されるような不具合が生じることはない。
【0079】
[変形例]
以下、図2図8に示されたレーダ誘導装置2の変形例を説明する。
[第1の変形例]
まず、第1の変形例を説明する。図13は、図2図8に示されたレーダ誘導装置2における各信号のタイミングの変形例を示す図である。図13(A)は、図10(C)に示されたパルス幅0.1μsの送信信号TS1を示し、図13(B)は、図10(B)に示された近接検出信号VDの論理値を示し、図13(C)は、第1の変形例において、電源回路216から供給される電力電圧の波形を示す。
【0080】
以上説明されたレーダ誘導装置2においては、一度、近接検出信号VDの論理値がLからHになり、レーダ誘導装置2が近距離探索処理に移行すると、電源回路216は、電力増幅回路222,224,226への送信用の電力を連続的に供給する。しかしながら、ドローン1が目標位置においてホバリングするときなどにおいては、電力増幅回路222,224,226への連続的な送信用の電力の供給による電力を節約する必要がある。このようなときには、電源回路216の動作を変更し、近距離探索処理において、送信信号TS1のパルス幅の前後に、電力増幅回路222,224,226の安定動作のための余裕(α,β秒;ただし、βは必ずしも必要ではない)の余裕を持たせて、パルス状の電力を供給させてもよい。
【0081】
[第2の変形例]
図14は、フェーズドアレイアンテナ20が受信専用とされ、図2に示された第1のレーダ誘導装置2に置換され得る第2のレーダ誘導装置3の構成を示す図である。フェーズドアレイアンテナ20が受信のみに使用されるときには、第1のレーダ誘導装置2の代わりに、図14に示される第2のレーダ誘導装置3が用いられ得る。なお、レーダ誘導装置においては、図2図4に示された送受信回路24の代わりに、これからサーキュレータ242および送信回路26が除かれた送受信回路40が用いられる。
【0082】
なお、レーダ誘導装置3においては、図4に示された送信回路22の高周波スイッチ228の接続は端子a側に固定される。あるいは、レーダ誘導装置3の送信回路22においては、高周波スイッチ228が省略され、電力増幅回路226の出力が、アンテナ素子202に直結されてもよい。
【0083】
[第3の変形例]
図15は、図2に示された第1のレーダ誘導装置2のアンテナ素子202が省略され、第1のフェーズドアレイアンテナ20と置換され得る第3のレーダ誘導装置4の構成を示す図である。図15に示されるように、フェーズドアレイアンテナ20が送受および受信の両方に使用されるときには、第1のレーダ誘導装置2の代わりに、図15に示された第3のレーダ誘導装置4が用いられ得る。
【0084】
なお、レーダ誘導装置4においては、図4に示された送信回路22の高周波スイッチ228の接続は端子b側に固定される。あるいは、レーダ誘導装置3の送信回路22においては、高周波スイッチ228自体が省略され、電力増幅回路226の出力が、分配/合成回路204に直結されてもよい。
【0085】
[その他の変形例]
なお、以上、ドローン1が、停止している船舶の艦橋前方の甲板を目的位置とする場合について説明されたが、ドローン1の目的位置は、航行中の船舶の甲板であってもよい。また、レーダ誘導装置2においては、Kuバンドの電波信号がレーダによる探索に用いられるが、レーダ誘導装置2において用いられる電波信号は、用途に応じて、マイクロ波(一般に300MHz以上)より短い波長の電波信号であればよい。
【0086】
また、アンテナ素子200はスタック状に配列されていなくてもよく、例えばスタガ(stagger)状に配列されていてもよい。また、方向性結合器230が出力信号の電力は、送信信号の1/1000でなくともよく、レーダ誘導装置2の構成および用途に応じて適宜、変更されうる。また、レーダ誘導装置2による遠距離探索処理と近距離探索処理との境界は、物体とドローン1との距離が150mでなくともよい。また、レーダ誘導装置2による近距離探索処理とドローン1の降下のための誘導との境界は、物体とドローン1との距離が15mでなくともよい。これらの境界は、単に、遠距離探索処理における送信信号TS1のパルス幅と、近距離探索処理における送信信号TS1のパルス幅とに応じて適宜、変更されればよい。
【0087】
また、レーダ誘導装置2が移動を誘導する装置は、ドローン1に限らず、有人または無人の飛翔体、自動車、船舶であってもよい。また、送信信号のパルス幅およびデューテイ比は、1μs、0.1μsおよび1/20の他、レーダ誘導装置2の目的および構成により適宜、変更されうる。また、近距離探索処理が行われるときのパルス幅は、近距離探索処理が行われるときのパルス幅の1/10以下であってもよい。
【0088】
なお、図9には、目的位置および障害物が1つずつ示されているが、レーダ誘導装置2により識別されるべき目的位置および障害物はそれぞれ複数であってもよい。また、レーダ誘導装置2は、目的位置の周りを旋回させたり、移動している船舶を追跡させたり、目標位置まで15mに近づいた位置の空中でホバリングさせて船舶を撮影させたり、目標位置を単に通過させるように、ドローン1を様々な態様で誘導および制御してもよい。
【0089】
本発明の実施の形態を説明したが、この実施の形態は、例として提示されたものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施の形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0090】
1 ドローン
10 本体
12 バッテリ
14 モータ
16 カメラ
18 コンピュータ
2,3,4 レーダ誘導装置
20 フェーズドアレイアンテナ
200,202 アンテナ素子
204 分配/合成回路
206 発振回路(OSC)
208 パルス変調回路(PM)
210 制御回路(CONT)
212 指向性制御回路(DC)
214 誘導装置(G)
216 電源回路(PS)
22,26 送信回路(TX1)
220 位相変調回路(φ)
222,224,226 電力増幅回路(BPA,MPA,HPA)
228,232,280 高周波スイッチ(SPDT,SPST)
230 方向性結合器(CP)
24 送受信回路(TRX)
240 バンドパスフィルタ(BPF)
242 サーキュレータ(CIR)
260 移相回路(PSH)
28,30 受信回路(RX2)
282,284 低雑音増幅回路(LNA)
300 ミクサ(MIX)
32 近接検出回路(VD)
320 リミッタ回路(LIM)
322 ビデオアンプ(VA)
324 ドップラーフィルタ(DF)
326 積分回路(∫)
328 検波回路(DET)
330 レベル判定回路(LD)
34 信号処理回路(SP)
340 距離検出回路(DSD)
342 信号強度検出回路(SSD)
344 方向検出回路(DRD)
346 パターン生成回路(PG)
348 比較回路(CMP)
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15