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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-11
(45)【発行日】2022-03-22
(54)【発明の名称】空中線抽出システム及び方法
(51)【国際特許分類】
   G06T 7/11 20170101AFI20220314BHJP
   G01S 17/89 20200101ALI20220314BHJP
   G01S 7/487 20060101ALI20220314BHJP
   G01S 7/51 20060101ALI20220314BHJP
   H02G 1/02 20060101ALI20220314BHJP
【FI】
G06T7/11
G01S17/89
G01S7/487
G01S7/51
H02G1/02
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018158445
(22)【出願日】2018-08-27
(65)【公開番号】P2020035001
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2020-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000233055
【氏名又は名称】株式会社日立ソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】中野 定樹
(72)【発明者】
【氏名】木村 宣隆
(72)【発明者】
【氏名】丸山 貴志子
(72)【発明者】
【氏名】知原 信博
【審査官】▲広▼島 明芳
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-68951(JP,A)
【文献】特表2014-520307(JP,A)
【文献】特開2015-1901(JP,A)
【文献】国際公開第2005/017550(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 7/00 - 7/90
G01S 7/487 - 7/51
G01S 17/89
H02G 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元点群データから空中線の支持体を基準として、空中線が存在すると想定される領域を対象エリアとして切り出す、対象エリア切り出し部、
前記対象エリアを複数の細分化エリアに分割し、各細分化エリアに存在する3次元点群を集計してヒストグラムを得、該ヒストグラムに基づいて前記対象エリアの分割面を得る、要素分割部、
前記分割面によって前記対象エリアを複数の分割エリアに分割し、各分割エリアに含まれる3次元点群を区別して表示する、要素表示部、
を備える空中線抽出システム。
【請求項2】
前記要素分割部は、
前記対象エリアを空中線の長手方向におおよそ平行な複数の細分化面で複数の細分化エリアに分割する、
請求項1記載の空中線抽出システム。
【請求項3】
前記要素分割部は、
同一形状・同一体積を持つ複数の細分化エリアに分割する、
請求項2記載の空中線抽出システム。
【請求項4】
前記要素分割部は、
前記細分化面の角度を調整することができる、
請求項2記載の空中線抽出システム。
【請求項5】
前記対象エリア切り出し部は、
前記支持体と前記対象エリアの間に所定の空隙を設けて前記対象エリアを切り出す、
請求項1記載の空中線抽出システム。
【請求項6】
前記対象エリア切り出し部は、
2つの支持体を基準として、当該2つの支持体の間の直方体を対象エリアとして切り出す、
請求項1記載の空中線抽出システム。
【請求項7】
前記要素分割部は、
地面に垂直かつ2つの支持体を結ぶ線に平行な複数の細分化面で、前記直方体を複数の細分化エリアに分割する、
請求項6記載の空中線抽出システム。
【請求項8】
前記要素分割部は、
前記ヒストグラムを表示し、表示に対応してユーザが指定した情報に基づいて前記分割面を得る、
請求項1記載の空中線抽出システム。
【請求項9】
前記要素分割部は、
前記ヒストグラムに対して閾値を設定し、ヒストグラムの値が当該閾値以下の場所を分割面として自動的に判定する、
請求項1記載の空中線抽出システム。
【請求項10】
前記要素分割部は、
前記ヒストグラムに対して閾値を設定し、ヒストグラムの値が閾値を上回る場所をライズエッジ、ヒストグラムの値が閾値を下回る場所をフォールエッジと定義し、前記ライズエッジと前記フォールエッジの位置関係から、前記分割面を自動的に判定する、
請求項1記載の空中線抽出システム。
【請求項11】
前記対象エリア切り出し部は、
1つの支持体を基準として、当該1つの支持体を中心とした円柱を対象エリアとして切り出す、
請求項1記載の空中線抽出システム。
【請求項12】
前記要素分割部は、
地面に垂直かつ前記円柱を円周方向に等角度で分割する複数の細分化面で、前記円柱を複数の細分化エリアに分割する、
請求項11記載の空中線抽出システム。
【請求項13】
前記要素表示部は、
各分割エリアに含まれる3次元点群を区別して表示する際に、
(1)ユーザに選択された分割エリアの点群の色を他の点群と異なる色で表示する、(2)ユーザに選択された分割エリアの点群のみ表示し、他の点群を表示しない。(3)ユーザに選択された分割エリアの点群のみユーザの選択を可能とし、他の点群は選択できないようにする、の少なくとも一つを行なう、
請求項1記載の空中線抽出システム。
【請求項14】
さらに、空中線補完部を備え、該空中線補完部は、
前記要素表示部によってユーザに選択された点群が属する空中線の3次元点群データの欠落部を補完する、
請求項1記載の空中線抽出システム。
【請求項15】
処理装置、記憶装置、入力装置、出力装置を備える情報処理装置を用い、3次元点群データを処理して空中線を抽出する空中線抽出方法であって、
前記記憶装置から空中線および空中線の支持体を含む3次元点群データを読み出す、第1のステップ、
読み出した3次元点群データの前記支持体を基準として、前記空中線が含まれる可能性がある領域を対象エリアとして切り出す、第2のステップ、
前記対象エリアを同一形状かつ同一容積の複数の細分化エリアに分割する、第3のステップ、
前記細分化エリアのそれぞれに含まれる3次元点群の数を集計する、第4のステップ、
前記集計の結果から、3次元点群の分布が周囲に対して疎となる平面を分割面として抽出する、第5のステップ、
前記対象エリアを前記分割面で分割し、対象エリアに含まれる3次元点群を複数の要素に区分し、複数の要素ごとに異なる表示および異なる処理の少なくとも一つを行なう、第6のステップ、
を行なう、空中線抽出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元点群データの処理方法に関わり、特に3次元点群データから空中線を抽出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カメラやレーザ測距器を用いて、3次元の地図情報を取得する技術が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-218362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図1は、レーザ測距器により3次元点群データを取得する例を説明する斜視図である。例えば、自動車101にレーザ測距器102を搭載し、自車周辺の3次元点群データを取得しながら走行させることにより、3次元地図データを生成することができる。このような技術は、MMS(Mobile Mapping System:モービルマッピングシステム)として知られている。
【0005】
3次元点群データには、道路103や電柱104、あるいは建物や標識のような建築物のみならず、空中に設置された電線、通信線など(総称して空中線105という)のデータも含まれる。このような空中線105の配置情報は、電線、通信線などのメンテナンスを行なう際に有益である。
【0006】
レーザ測距器102からのレーザ光106を所定間隔で走査し、3次元点群データを収集する場合、レーザ光106は距離の二乗に反比例して強度が下がるため、遠方の物体ほど精度が低下する。空中線105は地上の自動車101に搭載されたレーザ測距器102から距離があり、また風などで揺らぐため、データが欠落する可能性がある。
【0007】
図2に、図1で取得した3次元点群データの例を示す。3次元点群データは、道路の点群203、電柱の点群204、空中線の点群205を含むが、空中線の点群205には、データの欠落部206,207がある。このため、取得した3次元点群データから3次元地図データを生成するため、3次元点群データの欠落したデータを補完する必要がある。
【0008】
このようなデータの欠落部を補完する方法の一つとして、取得した3次元点群データを、ディスプレイに表示し、ユーザがデータを補完すべき箇所を指定して補完することが考えられる。
【0009】
図3に、ディスプレイ上に表示された、図2の3次元点群データの欠落部を補完する処理を概念的に示す。空中線の点群205には、データの欠落部206,207がある。欠落部を補完するために、ユーザは例えば欠落部の両端の空中線を指定し、内挿あるいは外挿により欠落部を補完する。例えば、欠落部206を補完するために、点301および302を指定し、その間の欠落部206を補完する。また、欠落部207を補完するために、点302および303を指定し、その間の欠落部207を補完する。あるいは、3つの点301,302,303をマウスで選択し、例えば懸垂曲線近似による補完処理を行って欠落部206と207を補完することもできる。
【0010】
しかし、3次元空間上の特定の点を、マウス等のポインターを使って選択しようとした場合、奥行き方向にある別の点が邪魔をして目的の点を選択しにくいという問題がある。例えば、点302を選択しようとしたとき、手前の点304が邪魔をして点302を選択しにくい。あるいは、点302を選択しようとしても、誤って手前の点304を選択してしまうことも考えられる。
【0011】
特に、並行して複数本が配置されている空中線の一本から点を選択する場合、ディスプレイ上には3次元点群データが2次元的に表示されるため、奥行き方向に重畳している空中線から任意の一つを選択することが難しい。
【0012】
そこで本発明の目的は、複数の空中線から任意の一つを選択して指定することを容易にする技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の好ましい一側面は、3次元点群データから空中線の支持体を基準として、空中線が存在すると想定される領域を対象エリアとして切り出す、対象エリア切り出し部、対象エリアを複数の細分化エリアに分割し、各細分化エリアに存在する3次元点群を集計してヒストグラムを得、該ヒストグラムに基づいて対象エリアの分割面を得る、要素分割部、分割面によって対象エリアを複数の分割エリアに分割し、各分割エリアに含まれる3次元点群を区別して表示する、要素表示部、を備える空中線抽出システムである。
【0014】
本発明の好ましい他の一側面は、処理装置、記憶装置、入力装置、出力装置を備える情報処理装置を用い、3次元点群データを処理して空中線を抽出する空中線抽出方法である。この方法は、記憶装置から空中線および空中線の支持体を含む3次元点群データを読み出す、第1のステップ、読み出した3次元点群データの支持体を基準として、空中線が含まれる可能性がある領域を対象エリアとして切り出す、第2のステップ、対象エリアを同一形状かつ同一容積の複数の細分化エリアに分割する、第3のステップ、細分化エリアのそれぞれに含まれる3次元点群の数を集計する、第4のステップ、集計の結果から、3次元点群の分布が周囲に対して疎となる平面を分割面として抽出する、第5のステップ、対象エリアを分割面で分割し、対象エリアに含まれる3次元点群を複数の要素に区分し、複数の要素ごとに異なる表示および異なる処理の少なくとも一つを行なう、第6のステップ、を行なう。
【発明の効果】
【0015】
複数の空中線から任意の一つを選択して指定することが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】レーザ測距器により3次元点群データを取得する例を説明する斜視図。
図2】レーザ測距器により取得した3次元点群データを説明する概念図。
図3】3次元点群データの欠落部を補完する処理の概念図。
図4】実施例の空中線抽出システムの処理の流れを示すフロー図。
図5】対象エリアの切り出し処理の概念を説明する2面図。
図6】スライス毎に集計された点群データの数を示すグラフ図。
図7】実施例1のディスプレイに表示される要素選択画面のイメージ図。
図8】実施例の空中線抽出システム構成を示すブロック図。
図9】実施例2の要素分割部による処理の概念を説明するグラフ図。
図10】引込み線を含む3次元点群データの表示例を示す概念図。
図11】引込み線を含む3次元点群を上から見下ろした概念図。
図12】実施例3の要素分割部による処理の概念を説明するグラフ図。
図13】実施例3のディスプレイに表示される要素選択画面のイメージ図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。本発明の思想ないし趣旨から逸脱しない範囲で、その具体的構成を変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。
【0018】
本明細書では、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を異なる図面間で共通して用い、重複する説明は省略することがある。
【0019】
同一あるいは同様な機能を有する要素が複数ある場合には、同一の符号に異なる添字を付して説明する場合がある。ただし、複数の要素を区別する必要がない場合には、添字を省略して説明する場合がある。
【0020】
本明細書等における「第1」、「第2」、「第3」などの表記は、構成要素を識別するために付するものであり、必ずしも、数、順序、もしくはその内容を限定するものではない。また、構成要素の識別のための番号は文脈毎に用いられ、一つの文脈で用いた番号が、他の文脈で必ずしも同一の構成を示すとは限らない。また、ある番号で識別された構成要素が、他の番号で識別された構成要素の機能を兼ねることを妨げるものではない。
【0021】
図面等において示す各構成の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面等に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0022】
本明細書において単数形で表される構成要素は、特段文脈で明らかに示されない限り、複数形を含むものとする。
【0023】
以下で実施例の概要を説明しておく。本実施例では、3次元点群データから、空中線の支持体(例えば電柱)を基準として、空中線が存在すると想定される領域を対象エリアとして切り出す。2本の電柱の間の空中線を想定した場合、対象エリアは例えば2本の電柱の間に存在する直方体である。1本の電柱から建物に引き込まれる空中線(引込み線)を想定した場合、対象エリアは例えば1本の電柱を中心軸とする円柱である。
【0024】
対象エリアが定まったら、当該対象エリアを空中線の長手方向(延伸方向)におおよそ平行な複数の面(細分化面)で、同一形状・同一体積を持つ複数の細分化エリア(以降「スライス」ということがある)に分割する。2本の電柱の間の空中線を想定した場合、細分化面は例えば地面に垂直かつ電柱と電柱を結ぶ線に平行な面である。1本の電柱から建物に引き込まれる空中線を想定した場合、細分化面は例えば地面に垂直かつ円柱を円周方向に等角度で分割する面である。スライスは、例えば厚さ数センチ程度に薄くすると、近接配置された空中線を精度よく識別することができる。
【0025】
次に、各スライスに存在する3次元点群を集計してヒストグラムを得る。そうすると、空中線の3次元点群が多く存在する部分が山に、多く存在しない部分が谷になるような、3次元点群の分布が得られる。そこで、谷になっている部分を分割面として対象エリアを分割し、複数の分割エリアを得る。そうすると、各分割エリア内に存在する3次元点群(以降「要素」ということがある)は、同一の空中線に属するものとなる。このように、分割エリアによって、それぞれの空中線を識別できるので、ユーザは容易に所望の空中線を指定することが可能となる。
【0026】
このように、例えば2本の電柱とその間の電線を例に挙げれば、電柱と電線を含む3次元点群を入力とし、入力した点群をその密度に基づいて、電柱と電柱を結ぶ線に平行かつ地面に垂直な複数の要素に分割し、分割した複数の要素のそれぞれを、表示部に表示する。
【実施例1】
【0027】
図4は、実施例1の空中線抽出システムの処理の流れを示す図である。空中線抽出システムは、後に説明するように、一般的な情報処理装置がソフトウエアを処理することで実現する。
【0028】
ステップS401では、図1で説明した手法で取得した3次元点群データを、情報処理装置に、入力インタフェースを介して入力する。3次元点群データは、図2に示すような点群のデータであり、例えば直交座標系を採用する場合には、各点は(x,y,z)の座標で表される。座標の原点(0,0,0)やx軸、y軸、z軸は任意に定めることができ、これをワールド座標ということにする。なお、球面座標系その他の座標系を用いても良い。入力した3次元点群データは記憶装置に格納しておき、後の処理に用いる。
【0029】
ステップS402では、3次元点群データから、空中線の点群205が存在する可能性の高い部分を対象エリアとして切り出す。切り出し方法は特に限定する必要はないが、例えば、電柱と電柱の間の空間の対象エリアと定義して切り出す。
【0030】
具体的な方法としては、ユーザは図3のようにディスプレイに示された3次元点群データを見ながら、2本の電柱104をマウスクリック等の手段を用いて選択し、2本の電柱座標(x,y)(x,y)を指定する。電柱104の座標が他のデータベースから取得できる場合は、それを用いても良い。
【0031】
図5は、対象エリアの切り出し処理の概念を説明する図である。図2の3次元点群データを上から見た模式図(a)と横から見た模式図(b)を示している。説明のために、ローカル座標を採用し、空中線105(空中線の点群205)の長手方向(延伸方向)をx、重力方向(地表に対して垂直方向)をz、xとzに垂直な方向をyとしている。
【0032】
図5に示すように、2本の電柱104(電柱の点群204)の座標が得られたら、その間の空間を切り出して対象エリア501とする。例えば、(x,y)と(x,y)を結ぶ線502に対して、xy平面内で線502を中心に、その垂直方向に所定の幅Wを規定する。また、z方向(高さ方向)に対して所定の高さHを規定する。幅Wと高さHの範囲は予め定めて、エリア定義ファイル807としてシステムに記憶しておけばよい。幅Wについては、空中線の配置が想定される幅として、例えば線502を中心として両側に1mとする。また、高さHについては、空中線の配置が想定される高さとして、例えば地表から5mから10mの領域とする。数値は一例であり、任意に設定してよい。対象エリア内の点群は、道路103や電柱104等の点群が除去された点群であるため、空中線105の可能性が高い。
【0033】
なお、対象エリア501の長手方向の長さLについては、(x,y)と(x,y)の距離(電柱104間の距離)としてもよいが、電柱との隙間503をエリア定義ファイルで規定して、「電柱間の距離-(電柱との隙間*2)」から求めても良い。このようにすると、トランスや碍子などの電柱の付属物を対象エリア501から除外することができるので、空中線105の指定がさらに容易になる。
【0034】
なお、電柱間の空中線の配置は多種多様であり、画一的に対象エリアを切り出せないことも考えられる。そのような場合には、図3あるいは図5のような画像をディスプレイに表示すると共に、エリア定義ファイルの定義に基づいた対象エリア501の範囲を表示し、対象エリアの位置や範囲を調整できるような機能を設けても良い。
【0035】
ステップS403では、対象エリア501を切り出し後、ワールド座標をローカル座標に変換する。すなわち、任意の点を原点としているワールド座標を、2本の電柱104がx軸上にあり、2本の電柱の中心が原点(x、y)=(0,0)となるローカル座標に変換する。なお、この変換は必須ではなく省略してもよいが、以降の説明を簡単にするため本実施例では変換する例で説明する。
【0036】
ステップS404では、3次元点群データから空中線が存在する可能性が高い領域として切り出した対象エリア501を、空中線105の長手方向(電柱104の一つから遠ざかる方向)と重力方向を含む面(細分化面)でスライスする。図5でローカル座標系に変換した例で説明すると、対象エリア501をxz平面で複数に薄く分割する。分割の厚さは予めエリア定義ファイル807で定義しておくが、例えば5cmのように定めておく。この結果、対象エリア501は、空中線105が並んでいる方向(y方向)に分割され、複数の細分化エリア(スライス)が生成されることになる。スライスは通常、同一形状・同一体積を持つ。
【0037】
上記の処理によれば、スライスの空中線105の長手方向の長さ(図5のローカル座標系ではx方向の大きさ)は、対象エリア501の長さLと等しい。また、スライスの重力方向の大きさ(図5のローカル座標系ではz方向の大きさ)は、対象エリア501の高さHと等しい。そして、それらと垂直な方向の大きさ(スライスの厚さTであって、図5のローカル座標系ではy方向の大きさ)は、分割されているため長さLや高さHと比べて著しく小さい。例えば、長さLは数メートル~数十メートル、高さHは数メートル程度に対して、スライスの厚さTは数センチ~数十センチである。従って、空中線の点群205の幅方向の分布を精度よく識別することができる。
【0038】
ステップS405では、各スライス毎に、当該スライスに含まれる3次元点群データの数を集計する。
【0039】
図6に集計された3次元点群データの数を示すグラフ図を示す。y方向にスライスされたスライス毎に点群数を集計してグラフにプロットすれば、図6のようなヒストグラムができあがる。この例では、空中線105が3本平行して走っていることを想定しているので、点群のヒストグラム601には3つのピーク602ができる。ピーク602の一つは空中線一本を示している。
【0040】
そこで、ステップS406では、ヒストグラム601の谷の部分を分割面603とすることで、3本の空中線の3次元点群データを分割エリア604a,604b,604cに分離できるようにする。分割面603は、図6のヒストグラムをディスプレイに表示して、表示に対応してユーザが指定した情報に基づいて定めてもよい。あるいは、閾値を設定し、点群数が当該閾値以下の箇所を分割面として自動的に判定してもよい。スライスの厚さTは小さいほうがヒストグラムの分解能は高いが、処理時間とのトレードオフを考慮して定める。
【0041】
スライスが空中線105の長手方向におおよそ平行になされていると、図6のようにヒストグラムの山と谷がはっきり識別できる。スライス方向が空中線105の長手方向(図5のx軸方向)に対して所定以上傾いていると、ヒストグラムの山と谷が識別できないことがあり得るが、その場合には、スライス方向の角度を調整して識別できるようにすればよい。したがって、「対象エリアを空中線の長手方向におおよそ平行に分割する」ことの技術的意味は、「3次元点群のヒストグラムの山と谷が識別可能である」ことと等価である。
【0042】
ステップS404では、図5に示す対象エリア501をxz平面を細分化面としてスライスすることにしており、x軸は2本の電柱104を結ぶ線になっている。自動的に対象エリア501をスライスする場合には、このように画一的に行なうことが効率的だが、実際はx軸と空中線105が平行である保証は無い。そこで、細分化面のx軸に対する角度を調整できるようにすることが望ましい。
【0043】
ステップS407では、ステップS403でローカル座標に変換している場合には、それぞれの分割面603をワールド座標へ戻しておく。分割面は平面であるため、平面の式(ax+by+cz+d=0)で表現できる。平面式のパラメータ(a,b,c,d)を後続処理に送る。
【0044】
ステップS408では、得られた分割面603を利用して、3次元点群データを分割エリア604a,604b,604cに含まれる各要素に分離し、3次元点群の表示および空中線の点群の選択処理を行なう。
【0045】
図7は、実施例のシステムのディスプレイに表示される、要素選択画面イメージである。表示画面750には、図2に示した3次元点群データが表示されている。画面にはさらに分割面603a,603b,603c,603dが3次元点群データに重ねて示されている。分割面603はax+by+cz+d=0で表現される無限遠に広がる平面であるが、図では表現の関係上、四角形でその一部を示している。
【0046】
分割エリア604a,604b,604cは、2つの隣接する分割面603で区切られた領域である。画面上には、操作ボタン領域751が表示されている。操作ボタン領域751には、分割エリア604a,604b,604cに対応して、「要素1」、「要素2」、「要素3」の選択ボタンが配置されており、ボタンの指定に連動して、分割エリア604a,604b,604cのいずれかに含まれる点群(要素)が、マウス等で選択可能な点群として表示される。
【0047】
表示の仕方は種々あり、特に限定するものではないが、(1)選択された要素の点群の色を他の点群と異なる色で表示する。(2)選択された要素の点群のみ表示し、他の点群を表示しない。(3)選択された要素の点群のみマウス等での選択を可能とし、他の点群は選択できないようにする。などの方法がある。
【0048】
選択された空中線の点群のうち所望の点をユーザが選択し、「実行」ボタンを押すと、点群の欠落部206,207の補完が行なわれる。点の指定方法や、補完の処理は特に限定するものではないが、公知の種々の補完方法を適用してよい。例えば、空中線の始点、終点、経由点の3点を選択し、3点を曲線近似(例えば懸垂曲線近似)した点群を出力し、欠落部分を補完する。あるいは、欠落部分の両端の空中線の端部を指定し、その間を直線あるいは曲線で補完しても良い。
【0049】
図8は、本実施例のシステム構成図である。先に述べたように、本実施例の空中線抽出システム800は、処理装置、記憶装置、入力装置、出力装置を備える、通常の情報処理装置(例えばサーバ)で構成される。図8において、処理装置801は、対象エリア切り出し部802、要素分割部803、要素表示部804、および空中線補完部805を含む。これらの構成は、記憶装置に格納されたソフトウエアを処理装置が実行することにより実装される。記憶装置は、さらにデータとして3次元点群ファイル806、エリア定義ファイル807、および結果ファイル808を格納している。また、入出力装置として一般的な、キーボード・マウス809や、ディスプレイ810を備えている。空中線抽出システム800は、それに代え、あるいは追加して、情報処理装置として公知の種々の構成を備えても良い。
【0050】
図4で説明した処理との関係で、空中線抽出システム800の構成を説明する。処理S401で入力された3次元点群データは、3次元点群ファイル806として記憶装置に格納される。図2に示したように、3次元点群データには道路、電柱、電線などの点群データが含まれる。データの入力は、公知のデータ入力ポートから行なうことができる。
【0051】
エリア定義ファイル807には、各エリアの大きさを規定するデータが格納されている。データとして例えば、対象エリアの切り出し情報(対象エリアの上下前後のサイズ、電柱と対象エリアとの距離)や、分割エリアのスライスの厚さTが格納されている。これらは、予めユーザが定めて格納しておく。複数種類のデータを格納しておき、ユーザが使用時に選択できるようにしてもよい。
【0052】
ディスプレイ810は画像の表示用であって、図7に示したような画像を表示する。キーボード・マウス809は、入力デバイスの一例である。入力デバイスは、対象エリア切り出し部802にて電柱や点などを指定する。また、入力デバイスは、要素表示部804にて操作ボタン領域751中の要素ボタンの指定処理を行う。結果ファイル808は、補完後の電線の点群を格納する。
【0053】
図4の処理S402では、対象エリア切り出し部802が動作する。対象エリア切り出し部802は、ディスプレイ810に図2に示すような画像を表示する。ユーザが、マウスで電柱104(電柱の点群204)を2本選択すると、対象エリア切り出し部802は2本の電柱の座標情報を求める。そして、対象エリア切り出し部802は、図5で説明したように、エリア定義ファイル807を参照して電柱座標から対象エリア501を規定する座標を求める。その後、対象エリア切り出し部802は、3次元点群ファイル806に格納された3次元点群データから、対象エリア501内の点群を抽出する。
【0054】
処理S403では、対象エリア切り出し部802は必要に応じて、抽出した3次元点群データをローカル座標系へ変換する。抽出した3次元点群データは、要素分割部803に送られる。
【0055】
処理S404では、要素分割部803は対象エリア501を一定間隔でスライスして細分化エリア(スライス)を生成する。その後処理S405では、要素分割部803はスライス毎の点群数をカウントし、図6で説明したヒストグラムを作成する。
【0056】
その後、要素分割部803は、処理S406で、ヒストグラムの谷の部分で分割面603を定め、処理S407で必要に応じて分割面603をワールド座標に変換し、分割面のパラメータ(a,b,c,d)を要素表示部804へ送る。
【0057】
処理S408では、要素表示部804は、図7に示したように3次元点群データをディスプレイ810に表示する。要素表示部804は、隣接する2つの分割面603に挟まれた分割エリア604のリストを作成し、要素選択ボタンの要素と対応付けて画面へ反映する。要素表示部804は、ユーザの要素選択ボタン押下イベントに連動し、ディスプレイ810に、各分割エリアに含まれる3時原点群を要素1、要素2、要素3として、マウス等で選択可能な点群として表示する。特定要素のみ選択可能とすることで、画面手前方向にある別の点が邪魔をして目的の点を選択できないという問題が解決できる。
【0058】
その後、空中線補完部805は、処理S408でユーザに選択された点に基づいて、空中線を補完する計算を行なう。補完は公知の手法を採用することができる。結果として得られた補完された3次元点群データは、結果ファイル808として記憶装置あるいはシステム外部へ出力する。
【0059】
空中線抽出システム800は、単体のサーバで構成してもよいし、あるいは、入力装置、出力装置、処理装置、記憶装置の任意の部分が、ネットワークで接続された他のサーバで構成されてもよい。また、本実施例中、ソフトウエアで構成した機能と同等の機能は、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などのハードウエアでも実現できる。
【0060】
以上説明した実施例によれば、3次元点群の分布が周囲に対して最も疎、あるいは閾値より疎となる平面を抽出して対象エリアを分割することで、並列に近接して配置された空中線の任意の一つを、容易に抽出あるいは選択することが可能となる。
【実施例2】
【0061】
実施例2では、図4に示した処理フローのうち、分割面の抽出処理S406の変形例を説明する。他の部分は実施例1と同様でよい。
【0062】
図9は、要素分割部803による処理S406の概念を説明する図である。要素分割部803はヒストグラム601を抽出後、y軸の小さい方から大きい方へ、ヒストグラム601の値を探索していく。ここで、ヒストグラムの値が閾値901を上回る場所をライズエッジ902、閾値を下回る場所をフォールエッジ903と定義する。
【0063】
要素分割部803は、フォールエッジ903に続くライズエッジ902を検出し、その中間点を分割面603とする。加えて、最初のライズエッジ902a、最後のフォールエッジcを分割面603とする。
【0064】
なお、y軸の大きい方から小さい方へヒストグラムを探索してもよい。この場合、ライズエッジ902とフォールエッジ903の対応が逆になる。
【0065】
また、閾値901として大きな閾値と小さな閾値の2つ設定しておき、小さな閾値から大きな閾値へ順番に遷移した場合にライズエッジと判定し、大きな閾値から小さな閾値へ順番に遷移した場合にライズエッジと判定することにより、山と谷をより正確に判定することもできる。
【0066】
実施例2によれば、分割面を自動的に判定することが可能である。
【実施例3】
【0067】
実施例3では、いわゆる引込み線を対象とした例を説明する。引込み線とは、例えば電線の場合には電柱と需要者をつないでいる電線であり、通常は電柱から家の軒先などに取り付けられている引込線取付点までをいう。システム構成や処理フローなどの多くは実施例1と同様に構成することができる。以下では、実施例1と異なる部分について説明する。
【0068】
図10は、引込み線を含む3次元点群データの表示例である。電柱204bから引込み線1001が需要者1002の引込線取付点に接続されている。そのほか例えば樹木1003などの点群データが含まれている。このような引込み線を対象とした場合、図4のフローで示した実施例1の処理のうち、対象エリアの切り出し処理ステップS402と、対象エリアのスライス処理ステップS404を変更することにより対応が可能である。
【0069】
図11は、図10の引込み線を含む3次元点群を上から見下ろした概念図である。電柱204bから、引込み線1001aおよび1001bが、需要者1002aおよび需要者1002bに引き込まれている。実施例3では、対象エリアの切り出し処理S402で、電柱204bを指定することにより、電柱204bを中心とした円柱を対象エリアとして定義する。そのための定義データとしては、円柱の半径rと高さHの数値をエリア定義ファイル807として格納しておく。なお、対象エリアを切り出し後、電柱204bの中心を原点とするローカル座標へ変換して後続処理を行っても良い。
【0070】
対象エリアのスライス処理S404では、円柱状の対象エリアを放射状にスライスして扇形(ただし非常に薄い)の細分化エリアを得る。具体的には、地面に垂直かつ円柱を円周方向に等角度で分割する複数の細分化面で、円柱を複数の細分化エリアに分割する。これによって例えば、円柱を1度ごとに360個の細分化エリアに分割する。細分化エリアの点数群の集計処理ステップS405は基本的に実施例と同様でよい。
【0071】
図12に、図10図11の3次元点群データから得られたヒストグラムを示す。実施例1では横軸をy軸としたが、実施例3では横軸を角度θとする。実施例1と同様に、空中線の点群205、引込み線1001、あるいは樹木1003が存在する部分のヒストグラム601が山になる。そこで実施例1と同様に、分割面603を抽出することができる。図12の例では、4つの分割エリア604に分割されている。
【0072】
図12では、分割エリア604dには、引込み線1001aと需要者1002aの点群(要素A)が含まれる。分割エリア604eには、引込み線1001bと需要者1002bの点群(要素B)が含まれる。分割エリア604fには、樹木1003の点群(要素C)が含まれる。分割エリア604gには、空中線の点群205と電柱204aの点群(要素D)が含まれる。
【0073】
図13は、図4のフローの表示および点群選択処理ステップS408の表示例である。要素表示部804は、ディスプレイ810に表示画面1301を表示する。表示画面には操作ボタン1302が表示され、各分割エリアに含まれる点群(要素)を選択表示することが可能である。例えば、操作ボタン1302で要素Aのボタンを指定すると、要素Aを表示する画面1303Aが表示される。また、要素B,要素C,要素Dのボタンを指定することにより、各要素を表示する画面1303B,1303C,1303Dが表示される。これによりユーザは、所望の点群を選択指定することが容易になる。
【0074】
以上のように説明した実施例によれば、3次元点群を要素に分割して、ユーザに要素の選択を可能とさせることで、画面手前方向にある別の点が邪魔をして目的の点を直接選択できないという課題を解決できる。電線などの空中線は横方向から見ると重なることが多く、本実施例の技術が必要となる状況は多い。
【符号の説明】
【0075】
電柱104、空中線105、電柱の点群204、空中線の点群205、データの欠落部206,207、対象エリア切り出し部802、要素分割部803、要素表示部804、空中線補完部805
図1
図2
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図13