(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-11
(45)【発行日】2022-03-22
(54)【発明の名称】電気化学時計と発振器デバイス
(51)【国際特許分類】
H01L 51/30 20060101AFI20220314BHJP
H01L 51/05 20060101ALI20220314BHJP
H01L 29/786 20060101ALI20220314BHJP
【FI】
H01L29/28 250G
H01L29/28 100A
H01L29/78 618B
(21)【出願番号】P 2018195468
(22)【出願日】2018-10-17
【審査請求日】2021-10-18
(32)【優先日】2017-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504407000
【氏名又は名称】パロ アルト リサーチ センター インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【氏名又は名称】那須 威夫
(72)【発明者】
【氏名】ショーン・イー・ドリス
【審査官】市川 武宜
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-506862(JP,A)
【文献】特表2004-522189(JP,A)
【文献】Deyu Tu et al.,Self-oscillation in electrochemical transistors: An RLC modeling approach,Solid-State Electronics,NL,Elsevier,2011年12月04日,Vol. 69,pp. 7-10,doi:10.1016/j.sse.2011.12.006
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/05
H01L 21/336
H01L 29/786
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発振器であって、前記発振器は
チャネル及びダイナミックゲートを備える、有機電気化学トランジスタを備え、
前記ダイナミックゲートが、少なくとも2つの交差結合反応経路を備える電気化学反応系を備え、
前記チャネルが、導電性ポリマー、導電性無機材料、及び小分子材料のうちの1つを含み、
前記ダイナミックゲートの電気化学的電位が、
定期的に変化し、それにより、前記有機電気化学トランジスタが
定期的に変化するドレイン電流を有するようになる、発振器。
【請求項2】
前記導電性ポリマーが、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホネート(PEDOT:PSS)を含む、請求項1に記載の発振器。
【請求項3】
前記少なくとも2つの反応経路が、蟻酸酸化の直接経路と、前記蟻酸酸化の間接経路とを含む、請求項1に記載の発振器。
【請求項4】
前記ダイナミックゲートが、ゲート電極、ゲート電解質、及び対向電極を備え、前記ゲート電極が、前記ゲート電解質を介して前記対向電極に結合されている、請求項1に記載の発振器。
【請求項5】
前記ダイナミックゲートが、前記ゲート電極と前記対向電極との間に定電流をもたらすように構成された電流源をさらに備える、請求項4に記載の発振器。
【請求項6】
前記定電流が、10nA~1mAである、請求項5に記載の発振器。
【請求項7】
前記ダイナミックゲートが、前記ゲート電極と前記対向電極との間に定電圧バイアスをもたらすように構成された電圧源をさらに備える、請求項4に記載の発振器。
【請求項8】
前記定電圧が、100mV~10Vである、請求項7に記載の発振器。
【請求項9】
前記チャネルと前記ダイナミックゲートとの間に位置付けられたチャネル電解質をさらに備える、請求項4に記載の発振器。
【請求項10】
前記ゲート電解質と前記チャネル電解質とを分離する膜をさらに備える、請求項9に記載の発振器。
【請求項11】
前記膜が、
多孔質ガラスフリット、
イオン選択性膜、
イオン伝導性ガラス、
ポリマー膜、及び
イオン伝導性膜、のうちの1つ以上を含む、請求項10に記載の発振器。
【請求項12】
前記ゲート電解質または前記チャネル電解質が、
水、
有機溶媒、
イオン性液体、及び
ポリマー電解質、のうちの1つ以上を含む、請求項9に記載の発振器。
【請求項13】
前記ゲート電解質または前記チャネル電解質が、溶存有機種または溶存無機種を含む、請求項12に記載の発振器。
【請求項14】
前記有機電気化学トランジスタの前記ドレイン電流が、10μHz~100Hzの周波数で時間とともに変化する、請求項1に記載の発振器。
【請求項15】
有機電気化学トランジスタを備える発振器を製造するための方法であって、前記方法が、
チャネルを形成することであって、前記チャネルが、導電性ポリマー、導電性無機材料、及び小分子材料のうちの1つを含む、形成することと、
前記ポリマーをベースにしたチャネルに結合されたダイナミックゲートを形成することとであって、前記ダイナミックゲートが、少なくとも2つの交差結合反応経路を備える電気化学反応系を備え
ることと、を含み、
前記ダイナミックゲートの電気化学的電位が、
定期的に変化し、それにより、前記有機電気化学トランジスタが、
定期的に変化するドレイン電流を有するようになる、方法。
【請求項16】
前記少なくとも2つの反応経路が、蟻酸酸化の直接経路と、前記蟻酸酸化の間接経路とを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
有機電気化学トランジスタであって、
チャネルであって、導電性ポリマー、導電性無機材料、及び小分子材料のうちの1つを含む、チャネルと、
チャネル電解質を介して前記ポリマーをベースにしたチャネルに結合されたダイナミックゲートと、を備え、
前記ダイナミックゲートが、ゲート電極、及びゲート電解質によって前記ゲート電極から分離された対向電極を備え、前記ダイナミックゲートの電気化学的電位が、時変であり、それにより、前記有機電気化学トランジスタが、時変であるドレイン電流を有するようになる、有機電気化学トランジスタ。
【請求項18】
前記ゲート電解質が蟻酸を含む、請求項17に記載の有機電気化学トランジスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、有機電気化学デバイスに関する。より具体的には、本開示は、有機電気化学トランジスタ(OECT:Organic Electrochemical Transistor)に基づく電気化学発振器に関する。
【0002】
1つの実施形態は、発振器を提供する。発振器は、チャネル及びダイナミックゲートを備える有機電気化学トランジスタを含むことができる。チャネルは、導電性ポリマー、導電性無機材料、及び小分子材料のうちの1つを含むことができる。ダイナミックゲートの電気化学的電位は、ほぼ定期的に変化することができ、それにより、有機電気化学トランジスタが、ほぼ定期的に変化するドレイン電流を有するようになる。
【0003】
この実施形態の変形形態において、導電性ポリマーは、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホネート(PEDOT:PSS)を含む。
【0004】
この実施形態の変形形態において、ダイナミックゲートは、少なくとも2つの交差結合された反応経路を備える電気化学反応系を含むことができる。
【0005】
さらなる変形形態において、少なくとも2つの反応経路は、蟻酸酸化の直接経路及び蟻酸酸化の間接経路を含むことができる。
【0006】
この実施形態の変形形態において、ダイナミックゲートは、ゲート電極、ゲート電解質、及び対向電極を備える。ゲート電極は、ゲート電解質を介して対向電極に結合され得る。
【0007】
さらなる変形形態において、ダイナミックゲートは、ゲート電極と対向電極との間に定電流を供給するように構成された電流源をさらに備える。
【0008】
さらなる変形形態において、定電流は、10nA~1mAである。
【0009】
さらなる変形形態において、ダイナミックゲートは、ゲート電極と対向電極との間に定電圧バイアスをもたらすように構成された電圧源をさらに含むことができる。
【0010】
さらなる変形形態において、定電圧は、100mV~10Vである。
【0011】
さらなる変形形態において、発振器は、チャネルとダイナミックゲートとの間に位置付けられたチャネル電解質をさらに含むことができる。
【0012】
さらなる変形形態において、発振器は、ゲート電解質とチャネル電解質とを分離する膜をさらに含むことができる。
【0013】
さらなる変形形態において、膜には、多孔質ガラスフリット、イオン選択性膜、イオン伝導性ガラス、ポリマー膜、及びイオン伝導性膜のうちの1つ以上を含めることができる。
【0014】
さらなる変形形態において、ゲート電解質またはチャネル電解質には、水、有機溶媒、イオン性液体、及びポリマー電解質のうちの少なくとも1つを含めることができる。
【0015】
さらなる変形形態において、ゲート電解質またはチャネル電解質は、溶存有機種または溶存無機種を含む。
【0016】
この実施形態の変形形態において、有機電気化学トランジスタのドレイン電流が、10μHz~100Hzの周波数で時間とともに変化する。
【0017】
1つの実施形態は、有機電気化学トランジスタ(OECT:Organic ElectroChemical Transistor)を提供する。OECTは、ポリマーをベースにしたチャネルと、チャネル電解質を介してポリマーをベースにしたチャネルに結合されたダイナミックゲートとを含むことができる。ダイナミックゲートは、ゲート電極と、ゲート電解質によってゲート電極から分離された対向電極とを含むことができる。ダイナミックゲートの電気化学的電位は、時変であり、それにより、有機電気化学トランジスタが、時変ドレイン電流を有するようになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】有機電気化学トランジスタ(OECT)の概略図を示す。
【
図2B】Pt面上の水素ガスへのプロトンの還元を示す。
【
図2C】時間の関数としてのPt電極及び対向電極の電位を示す。
【
図2D】1つの実施形態による、電気化学発振器でゲートされたOECTの例示的な動作原理を示す。
【
図3】1つの実施形態による、新規なOECTベースの単一トランジスタ発振器の概略図を示す。
【
図4A】1つの実施形態による、時間の関数としての、ゲート電極における電気化学的電位を示す。
【
図4B】1つの実施形態による、時間の関数としてのドレイン電流を示す。
【
図5】1つの実施形態による、新規のOECTベースの単一トランジスタ発振器の概略図を示す。
【
図6】1つの実施形態による、新規なOECTベースの単一トランジスタ発振器の概略図を示す。
【
図7】1つの実施形態による、OECTベースの単一トランジスタ発振器を製造するための例示的な工程を示すフロー図を提示する。
【
図8】1つの実施形態による、例示的な発振器を示す。
【0019】
図において、類似の参照番号は、同じ図の要素を指す。
【0020】
本明細書に記載された実施形態は、プリンテッドエレクトロニクスの応用のために発振の低周波動作を可能にする技術的問題に対する解決策を提供する。この新規のプリント発振器は、有機電気化学トランジスタ(OECT)に基づいて構築され得る。より具体的には、OECTは、チャネル電解質とも呼ばれる、電解質を介してチャネルに結合されたダイナミックゲートを含むことができる。ダイナミックゲート自体は、ゲート電解質とも呼ばれる、電解質を介して互いに結合されている2つの電極(例えば、ゲート電極及び対向ゲート電極)を含むことができる。ゲート電極において起こる複数の電気化学反応間のクロスカップリングは、時変電気化学的電位を有するダイナミックゲートをもたらすことができる。チャネル電流は、OECTゲートの電気化学的電位に依存するので、OECTゲートにおける時変電気化学的電位は、時間とともに発振するドレイン電流をもたらすことができる。
【0021】
OECT原則
図1は、有機電気化学トランジスタ(OECT)の概略図を示す。OECT100は、ゲート電極102と、通常は半導体膜(例えば、共役ポリマー膜)を含めることができるチャネル104と、ソース電極106と、ドレイン電極108と、電解質110とを含むことができる。ソース電極106及びドレイン電極108は、チャネル104への電気接触を確立することができる一方、ゲート電極102は、電解質110への電気接触を確立する。電解質110は、液体、ゲル、または固体であり得る。
図1に示されているような最も一般的なバイアス印加構成では、ソース電極106が接地され、ドレインに電圧(ドレイン電圧V
D)が印加されている。これにより、チャネル104に存在する電子電荷(普通は正孔)により、電流が流れるようにできる(ドレイン電流)。ゲートに電圧が印加されると(ゲート電圧V
G)、電解質からのイオンがチャネルに注入され、電子電荷密度、引いてはドレイン電流を変化させる。ゲート電圧が取り除かれ、ゲートがソースに短絡されると、注入されたイオンは、電解質に戻り、ドレイン電流は、元の値に戻る。
【0022】
PEDOT:PSS(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルン酸)は、その商業的利用可能性、ならびに高い電子及びイオン伝導性のために一般的に使用されるチャネル材料である。PEDOT:PSSは、2つのアイオノマーのポリマー混合物である。この混合物中の1つの成分は、スルホン化ポリスチレン(またはPSS)であるポリスチレンスルホネートナトリウムから成っている。スルホニル基の一部は、脱プロトン化され、負電荷を帯びる。他の成分(PEDOT)は、共役ポリマーであり、正電荷を帯びる。有機半導体PEDOTは、PSS(ドーパント)のスルホネートアニオンによってp型にドープされるので、PEDOT:PSSは、高い(正孔)伝導性を表すことができる。それ故、ゲート電圧がない場合、ドレイン電流は、高くなり、トランジスタは、オン状態になる。正の電圧がゲートに印加されると、電解質からのイオン(例えば、水中NaCl)がPEDOT:PSSチャネルに注入され、そこで、それらは、スルホネートアニオンを補う。このことは、PEDOTの脱ドーピングにつながり、トランジスタは、そのオフ状態に達する。
【0023】
OECTでは、ゼロゲートバイアスにおけるチャネルドーピングレベルは、必ずしもチャネルの本来のドーピングレベルと同じではない。むしろ、OECTのチャネルドーピングレベルは、チャネルポリマー酸化還元過程の電気化学的電位と、ゲートにおいて生じる酸化還元過程との間の差に左右される可能性がある。したがって、ゲートの電気化学的電位を調整することによって(例えば、適切なゲート酸化還元対を選択することによって)、OECTの閾値電圧の調整を達成することができる。調整可能な閾値電圧を有するOECTの詳細な説明は、2017年11月1日に出願された、「ORGANIC ELECTROCHEMICAL TRANSISTORS WITH TUNABLE THRESHOLD VOLTAGE」と題された、同時係属中の米国特許出願第15/801,125号(代理人整理番号PARC-20170384US01)で確認することができ、その開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0024】
ゲートの電気化学的電位が時間とともに発振する場合、また、定ゲート電圧(VG)が印加されている場合、チャネルコンダクタンスも、時間とともに発振することができ、単一トランジスタ発振器をもたらす。
【0025】
時変電位を伴う電気化学反応
様々な金属(例えば、Ni、Cu、Ag、ステンレス鋼など)の電解研磨の間、電解質浴中の電位の時間的変化が観察されている。電極上の表面膜の定期的または疑似定期的な形成及び溶解が、このような現象の原因であり得る。同様に、電気化学系において、複数の電気化学的電位反応経路が可能である場合、最も低い活性化障壁を有する反応経路が進行することが実証されている。さらに、電気化学的反応が結合されている(例えば、1つの反応の発生が、他の反応に対する活性化障壁を変化させる)場合、反応経路が、複数の使用可能な経路の間で交互になる系を確立することが可能であり、電気化学的電位における発振または時間的変化につながる。例えば、白金(Pt)上の蟻酸(FA)の電気化学的酸化用の反応機構は、直接路中間体(例えば、吸着された蟻酸塩)と、強吸着された中間体、すなわち吸着されたCOを伴う間接路とを含む、二重路機構と考えられ得る。
【0026】
図2Aは、Pt面上の蟻酸の酸化を示す。直接経路反応では、脱水素は、C-H結合とO-H結合とが順次に起こり(いずれの順番でも)、CO
2を生成する。間接経路反応では、破線矢印で示されているように、FAの非ファラディック脱水によってCOが生み出され、次に、COがCO
2にさらに酸化される。異なる経路により、異なる活性化障壁を有し、異なる条件で起こり得る。より具体的には、中間体CO種の形成及び酸化が、重要な役割を果たす。間接経路反応が起こると、中間体COが生成され、Pt面に強く吸着され、Pt面を汚染する可能性がある。Pt電極の電位が変化し、吸着されたCOが酸化されて電極面から除去されるにつれて、直接経路反応が再開され得る。このことが、間接経路反応の別のラウンドの引き金を引く。FA酸化の直接経路反応と間接経路反応との間の交互の発生は、Pt電極の電位の発振または時変につながり得る。一方、対向電極において、水素ガスへのプロトンの還元が起こり得る。
【0027】
図2Bは、Pt面上の水素ガスへのプロトンの還元を示す。この還元反応には、ただ1つの経路しかなく、電位変動を引き起こさない。
図2Cは、Pt電極及び対向電極の電位を時間の関数として示す。
図2Cでは、破線202は、参照電極の電位を示し、実線204は、Pt電極の電位を示し、また実線206は、対向電極の電位を示す。
図2Cから分かるように、Pt電極の電位は、時間とともに発振するが、対向電極の電位は、一定のままである。結果として、Pt電極と対向電極との間の電位差も、時間とともに発振する。
【0028】
FA酸化に加えて、発振または時変電気化学的電位を有する他の系がある。例えば、HCI中の白金メッキPtの陰極分極の間、マストランスポートにおける変化につながる、H2気泡の形成のため、電気化学的電位が、発振し得ることが観察されている。電位発振用の他のフィードバック機構は、触媒活性、表面荷電、またはPh変化分子における定期的変化も含むことができる。
【0029】
例えば、帯電面上の酸化還元対Fe(CN)6
3-/4-の酸化還元反応の速度は、pH依存性であり得ることが示されている。より具体的には、電解質のpHレベル低下が、反応速度を上げる可能性がある。一方、キノン/ヒドロキノン(Q/QH2)などのいくつかの酸化還元対の酸化還元反応は、環境のpHレベルを変化させる可能性がある。これらの2つの酸化還元対は、異なる酸化還元電位を有する。したがって、系が、両方の酸化還元対を含む場合、これらの2つの酸化還元反応の反応速度は、交差結合してもよく、定電圧または定電流の印加時点で発振するシステム全体の電気化学的電位をもたらす。一方、両方の酸化還元反応が可逆的であるため、ゲート電極において消費される試薬は、対向電極において再生成され、発振器の寿命を延ばすことができる。
【0030】
図2Dは、1つの実施形態による、電気化学発振器でゲートされたOECTの例示的な動作原理を示す。
図2Dでは、ゲート電極212と対向ゲート電極214との間で、DC電流(i
CG)が駆動される。このDC電流は、ゲート電極212及び対向ゲート電極214において電気化学反応を誘起することができる。
図2Dは、ゲート電極における直接経路反応(実線矢印によって示される)と間接経路反応(破線矢印によって示される)との間のクロスカップリングも示す。OECTについては、ゲート電極212とチャネル216との間にゲート電圧(V
G)が印加され得、チャネル216のソース電極218とドレイン電極220との間にドレイン電圧(V
D)が印加され得る。
【0031】
図3は、1つの実施形態による、新規のOECTベースの単一トランジスタ発振器の概略図を示す。発振器300は、ゲート電極302と、対向電極304と、ゲート電極302と対向電極304とを分離するゲート電解質層306と、ゲート電極302と対向電極304とを結合する電流源308とを含むことができる。ゲート電極302、対向電極304、ゲート電解質306、及び電流源308はともに、ゲートにわたって、時変電位を有するダイナミックゲート310を形成する。発振器300は、チャネル312、ソース電極314、ドレイン電極316、チャネル電解質層318、及び膜層320をさらに含むことができる。
【0032】
いくつかの実施形態においては、ダイナミックゲート310は、FA酸化還元系を含むことができる。より具体的には、ゲート電解質層306は、蟻酸と硫酸との混合物を含むことができる。例えば、ゲート電解質層306は、0.5Mの脱気硫酸中に混合された1.0モル(またはM)の蟻酸を含むことができる。ゲート電極302と対向電極304とは、それぞれ、Pt、Pd、及びAuなどの1つ以上の貴金属から作られたワイヤまたはストリップを含むことができる。代替実施形態において、ダイナミックゲート310は、少なくとも2つの酸化還元対を含むことができ、2つの酸化還元対の酸化還元反応速度は、交差結合され得る。例えば、ゲート電解質層306は、酸化還元対Fe(CN)6
3-/4-及びQ/QH2を含んでもよく、それらの両方とも、溶液(例えば、水中NaCI)に溶解され得る。
【0033】
電流源308は、電極302と対向電極304との間で、ダイナミックゲート310内の系に定電流を供給することができる。いくつかの実施形態において、電流源308は、10nA~1mAの定電流を供給することができる。さらなる実施形態において、電流源307は、50μAの定電流を供給することができる。
【0034】
チャネル312は、PEDOT:PSS(ポリ(3,4―エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホネート)などの高い担体可動性を有する導電性ポリマーから作られ得る。導電性ポリマーに加えて、チャネル312は、導電性無機材料または低分子材料からでも作られ得る。チャネルのサイズ及び形状は、用途に基づいて定められ得る。いくつかの実施形態において、チャネル312は、100×10μm2の寸法を有することができる。いくつかの実施形態において、チャネル312は、長方形またはU字形状のように形作ることができる。ソース電極314及びドレイン電極316は、任意のタイプの導電性材料から作られ得、チャネル312のいずれかの端に電気的に接触するように構成される。チャネル電解質層318は、溶存塩(例えば、NaCI)を含む水、溶存塩を含む有機溶媒、イオン性液体などの様々なタイプの電解質溶液を含むことができる。1つの実施形態において、チャネル電解質層318は、0.1M NaCI溶液を含むことができる。別法として、電解質層318は、ゲル状または固体状の電解質(例えば、ポリマー電解質)を含むことができる。さらなる実施形態において、チャネル電解質層318は、溶存有機種または溶存無機種を含むことができる。
【0035】
ゲート電解質層306をチャネル電解質層318から分離して、それにより、ゲート電解質がチャネル材料と反応するのを防ぐのに、膜層320が使用され得る。より具体的には、膜は、ゲート電解質がチャネル312と反応するのを防ぎながら、チャネル電解質層318とゲート電解質層306との間の担体移動を可能にする必要がある。膜層320には、多孔質ガラスフリット、イオン選択性膜、イオン伝導性ガラス、ポリマー膜、イオン伝導膜などを含めることができる。
【0036】
発振器300の動作中、ゲート電極302とソース電極314との間に直流(DC)電圧(例えば、V
G)が印加され、ドレイン電極とソース電極との間に別のDC電圧(例えば、V
D)が印加される。1つの実施形態において、V
Gは、0.5Vとして設定され得、V
Dは、―0.6Vとして設定され得る。ゲート電圧V
G及びドレイン電圧V
Dは、一定であるが、ダイナミックゲート310の時変電気化学的電位は、依然として、チャネルコンダクタンス、引いてはドレイン電流を時間とともに変化させる可能性がある。
図4Aは、1つの実施形態による、時間の関数としてのゲート電極における電気化学的電位を示す。
図4Bは、1つの実施形態による、時間の関数としてのドレイン電流を示す。
【0037】
図4Bに示されている例では、ドレイン電流は、約4.5分の周期、または約3.7mHzの周波数で発振する。発振器300の発振周波数は、電気化学反応パラメータ(例えば、ゲート電解質中のFA濃度)または駆動電流を調整することによって調整され得る。従来のリング発振器と比較すると、OECTベースの単一トランジスタ発振器の周波数は、超低とすることができる。いくつかの実施形態において、発振周波数は、10μHz~100Hzとすることができる。この超低周波数は、この新規のOECTベースの単一トランジスタ発振器を、極低電力の電子機器及びセンサポーリング用途に対する完璧な候補にする。例えば、ユーザの汗を分析することによって、ユーザの血糖値をモニタするためのウェアラブルデバイス(例えば、スマートパッチ)は、30分以上の間隔において、そのようなテストを行うだけでよい。この新規のOECTベースの単一トランジスタ発振器をスマートパッチに組み込むことによって、1時間ごとに1回、または2時間ごとに1回、ブドウ糖テスト回路が、オンにされ、それにより、極低電力動作を可能にすることができる。
【0038】
図5は、1つの実施形態による、新規のOECTベースの単一トランジスタ発振器の概略図を示す。発振器500は、ゲート電解質層502とチャネル電解質層504との間に膜層がないことを除いて、発振器300と同様とすることができる。このことは、ゲート電解質層502またはチャネル電解質層504のいずれかが、固体形態の電解質(例えば、ポリマー電解質)から作られている場合、またはゲート電解質層502とチャネル電解質層504とが、同じ組成を有する場合に、可能であり得る。膜の目的は、ゲート電解質がチャネル材料と反応するのを防ぐことであることに留意されたい。それ故、電解質のうちの1つが固体形態である限り、ゲート電解質がチャネル材料と接触するかまたは反応することを効果的に防ぐことができる。一方、ゲート電解質がチャネル材料に対して非反応性である場合、ゲート電解質とチャネル電解質とは、同じ組成であり得、膜は、必要とされない。
【0039】
図6は、1つの実施形態による、新規のOECTベースの単一トランジスタ発振器の概略図を示す。発振器600は、ダイナミックゲート内で起こる反応に駆動電流を供給する電流源の代わりに、電圧源606によって、電極602と対向電極604との間にDC電圧が供給されることを除いて、発振器300と同様とすることができる。いくつかの実施形態において、電極602と対向電極604との間のDC電圧は、10mV~10Vとすることができる。
【0040】
図7は、1つの実施形態による、OECTベースの単一トランジスタ発振器を製造するための例示的な工程を示すフロー図を提示する。工程中、ポリマーをベースにしたチャネルが形成される(工程702)。用途に応じて、チャネルは、布地、ガラス、プラスチック、または紙などの様々なタイプの基板上に形成されてもよい。チャネルの形状及びサイズも、用途に基づいて選択され得る。ソース電極及びドレイン電極は、チャネルの形成の前または後に形成され得る。
【0041】
チャネルに加えて、ゲート電極及び対向電極は、プリント技術を用いて形成されてもよい(工程704)。いくつかの実施形態において、Pt系ゲート電極及び対向電極は、チャネルが形成されるのと同じ基板上に蒸着され得る。
【0042】
ゲート電解質層は、ゲート電解質がゲート電極及び対向電極と直接接触することができるように置かれ得る(工程706)。ゲート電解質が液状である場合、適切な封じ込め機構が必要とされる。封じ込め機構には、続いて蒸着または注入されるチャネル電解質から、ゲート電解質を分離する膜層を含めることができる。チャネル電解質層は、(膜によって分離された)ゲート電解質層とチャネルとの間に蒸着され得る(工程708)。同様に、封じ込め機構は、液状チャネル電解質に必要とされ得る。
【0043】
導電路が確立され得、ゲート電極と対向電極との間に、電流源が設けられ得る(工程710)。いくつかの実施形態において、電流源は、プリント発振器の外部にあってもよい。別法として、電流源回路もプリントされ得る。同様に、チャネルのソース電極とドレイン電極との間、またゲート電極とチャネルとの間に、導電路及び電圧バイアスが印加され得(工程712)、このように、OECTベースの単一トランジスタ発振器の製造が完了する。導電路には、インクジェットまたはスクリーンプリントなどの様々なプリント技術を用いてプリントされた金属トレースを含めることができる。導電路の構成は、用途特有とすることができる。用途に応じて、OECTベースの単一トランジスタ発振器は、抵抗、コンデンサ、インダクタ、ダイオード、トランジスタ、またはそれらの組み合わせを含むがこれに限定されない、いずれのプリント回路構成要素または従来の回路構成要素にも電気的に結合され得る。
【0044】
従来の石英またはICベースの発振器と比較すると、OECTベースの発振器は、プリント可能かつ柔軟で、自らを、プリンテッドエレクトロニクスまたはウェアラブルデバイスにおける応用に可能にすることができる。一方、プリンテッドリング発振器と比較すると、この新規の設計は、単一の4端子トランジスタのみを必要とするが、リング発振器は、多段のトランジスタを必要とすることが多く、したがって、費用を大幅に縮小し、このような発振器を安価な電子機器に組み込むことを容易にする。さらに、リング発振器と比較すると、この新規のOECTベースの単一トランジスタ発振器は、超低周波を備えているため、自らを極低電力電子機器及び低周波センサポーリング用途に対する完璧な候補にする。
【0045】
図8は、1つの実施形態による、例示的な発振器を示す。
図8では、発振器800は、チャネル802、チャネル電解質804、及びゲート電解質806を含むことができる。3つの構成要素はすべて、「U」のような形状とすることができ、それにより、すべての電極が発振器800の同じ側にあることを可能にする。先に考察されているように、チャネル802は、ポリマーをベースにしたとすることができるが、チャネル電解質804及びゲート電解質806には、液状または固体状の電解質を含めることができる。両方の電解質が液体形態である場合、チャネル電解質804とゲート電解質806との間に、膜(
図8には図示せず)が挿入され得る。
【0046】
ソース電極808及びドレイン電極810は、チャネル802のいずれかの端にあるが、ゲート電極812及び対向電極814は、ゲート電解質806によって分離されている。発振器800の前述の構成要素はすべて、基板上にプリントさ得る(例えば、スマートパッチの一部であり得る)。電流源816ならびに電圧源818及び820は、同じ基板上にプリントされても、外部回路網によって設けられてもよい。
【0047】
一般に、OECTベースの単一トランジスタ発振器は、様々なサイズ及び形状を有することができ、様々なタイプの基板材料上に製造され得る。発振器の様々な構成要素は、層状構造を有してもよく、または同一平面上にあってもよい。それに加え、チャネル、ゲート電極、対向電極、ゲート電解質層、膜、及びチャネル電解質層を含む様々な構成要素を形成するために使用される材料は、本発明の範囲を限定するものではない。