(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-11
(45)【発行日】2022-03-22
(54)【発明の名称】皮膚及び他の組織を引き締めるための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
A61B 18/18 20060101AFI20220314BHJP
A61B 17/34 20060101ALI20220314BHJP
A61B 18/06 20060101ALI20220314BHJP
A61B 18/20 20060101ALI20220314BHJP
【FI】
A61B18/18
A61B17/34
A61B18/06
A61B18/20
(21)【出願番号】P 2018544795
(86)(22)【出願日】2017-02-24
(86)【国際出願番号】 US2017019321
(87)【国際公開番号】W WO2017147399
(87)【国際公開日】2017-08-31
【審査請求日】2020-01-29
(32)【優先日】2016-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】592017633
【氏名又は名称】ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】マコーマック マイケル
(72)【発明者】
【氏名】レドモンド ロバート
(72)【発明者】
【氏名】オースティン ジュニア ウイリアム ジェラルド
【審査官】槻木澤 昌司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/021434(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2015/0366719(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0187935(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0039523(US,A1)
【文献】特表2005-514142(JP,A)
【文献】特表2015-522351(JP,A)
【文献】特表2014-514007(JP,A)
【文献】特表2013-518672(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0260201(US,A1)
【文献】特表2010-514479(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0320595(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0312167(US,A1)
【文献】特表2015-522352(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0069741(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/00-17/94
A61B 18/18-18/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織の処置のための、電磁放射線源と併用されるキットであって、
前記組織に穿刺穴を形成する寸法を有する針と、
前記組織に適用されたときに前記穿刺穴を貫通し、所定の電磁放射によって照射された時に前記組織内のタンパク質の架橋結合をもたらすよう活性化するよう構成された光化学エージェントと、を備え、
前記針は、針アレイを含み、
前記針アレイは、内部針を有するヘッドを含み、
前記内部針は、ボタンによって前記ヘッドの表面から延びることができるよう構成され、
前記ヘッドは、別個のハンドルに結合されるよう構成されていることを特徴とするキット。
【請求項2】
前記キットは、前記組織の表面に前記光化学エージェントを適用するよう構成されたアプリケータをさらに備えることを特徴とする請求項
1に記載のキット。
【請求項3】
前記光化学エージェントを活性化する波長の所定の電磁照射で前記組織に照射し、これにより、前記組織の弛みを減少させるため又は前記組織を引き締めるために前記組織内のタンパク質の架橋結合をもたらすよう構成されたエネルギー源システムをさらに含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のキット。
【請求項4】
前記アプリケータが、スポンジ、ブラシ、綿棒アプリケータ及び包帯のうちの1つであることを特徴とする請求項2に記載のキット。
【請求項5】
前記針は、19ゲージ~30ゲージの寸法を有する、皮下注射針、中実針及びコアリングニードルのうちの1つであることを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載のキット。
【請求項6】
前記針アレイは、複数の列、正方形パターン、長方形パターン、三角形パターン及びランダム分布パターンのうちの1つに配された複数の針を含むことを特徴とする請求項1~5の何れか一項に記載のキット。
【請求項7】
前記エネルギー源システムが、約1ワット毎平方センチメートル未満の放射照度で照射するよう構成されていることを特徴とする請求項3に記載のキット。
【請求項8】
前記波長は約350ナノメートル~約800ナノメートルであることを特徴とする請求項3に記載のキット。
【請求項9】
前記光化学エージェントは、キサンテン、フラビン、チアジン、ポルフィリン、拡張ポルフィリン、クロロフィル、フェノチアジン、シアニン、モノアゾ染料、アジンモノアゾ染料、ローダミン染料、ベンゾフェノキサジン染料、オキサジン、アントラキノン染料、ローズベンガル、エリトロシン、リボフラビン、メチレンブルー、トルイジンブルー、メチルレッド、ヤヌスグリーンB、ローダミンBベース、ナイルブルーA、ナイルレッド、セレスチンブルー、レマゾールブリリアントブルーR、リボフラビン-5-リン酸及びN-ヒドロキシピリジン-2-(I H)-チオンのうちの1つであることを特徴とする請求項1~8の何れか一項に記載のキット。
【請求項10】
前記エネルギー源システムが、レーザ、ランプ、発光ダイオード及び発光ダイオードアレイのうちの1つを含むことを特徴とする請求項3に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年2月25日に出願された「皮膚及び他の組織を引き締めるための方法及び装置」と題する米国特許仮出願第62/299,853号の関連出願であり、その優先権を主張する。またその仮出願は、参照して引用することによりその全体が本願に組み込まれるものとする。
【0002】
米国の人口の4分の1以上が皮膚の見た目の加齢に関連する変化に悩まされており、この数は人口の高齢化に伴い上昇すると予想される。さらに、米国の人口の8パーセントが皮膚の弛みを減少させる処置を受けている。例えば、2013年には、150万以上の関連する手術が米国で行われた。このタイプの手術には毎年合計で60億ドル以上が費やされており、米国の美容市場の半分を占めている。しかしながら、このような大きな市場であるにも関わらず、現状の処置の副作用が市場の拡大に歯止めをかけている。
【0003】
現在、皮膚の弛みを減少させるためのゴールドスタンダードは外科手術であるが、手術は侵襲的であり、費用がかかり、そして不便である。手術代替手段として最小限に侵襲的なエネルギーベースのプラットフォームが提案されているが、自らの副作用により複雑である。例えば、レーザ、無線周波数及び超音波などの現在の手術代替手段は、処置される組織領域に熱的ダメージを与える装置に依存している。このことが、長いリカバリ時間、再上皮形成の遅延、長期にわたる紅斑、低及び高色素沈着並びにいくつかの例では瘢痕化の原因となっている。加えて、これらの手術代替手段は複数回の処置後の効果がわずかでしかなく、患者間のばらつきが大きく、そしてノンレスポンダー率が高い。その他の報告された副作用には、著しい痛み、あざ、圧痛、腫れ、痂皮形成及び水疱形成が含まれる。
【0004】
物理的な副作用の他、経済的な問題も市場の拡大を妨げている。特に手術は費用がかかり、また手術室で医師により実施される処置を必要とする。さらに、手術代替手段は通常高価な資本設備を必要とし、これにより市場の受け入れ、収益の見込み及び収益性が制限される。
【0005】
したがって、皮膚の弛みを減少させる及び/又は他の種類の組織を引き締めるための、最小限に侵襲的で、便利で、ダウンタイムが最小の効果的な処置が、臨床的に必要とされる。
【発明の概要】
【0006】
本開示のシステム及び方法は、組織のコラーゲン又は構造タンパク質を互いに結びつけて体積を効果的に減少させ組織を「引き締める」手段としての架橋結合のための、非侵襲的でフルエンスベースのシステム及び方法を提供することにより、上述の及び他の欠点を克服する。
【0007】
本開示の一側面によれば、組織を引き締める又は引き上げるための方法が提供される。前記方法は、前記組織内のタンパク質の近くに光化学エージェントを分布させるために、前記組織の深さを通して前記光化学エージェントを送達する工程と、前記光化学エージェントを活性化する波長の電磁照射で前記組織に照射することで、組織の弛みを減少させるため又は前記組織を引き締めるために前記組織の繊維を互いに近づけるタンパク質反応をもたらす工程と、を含む。
【0008】
上記の方法において、前記送達する工程は、前記組織の表面の下の前記組織内の前記タンパク質へのアクセスを可能にするために前記組織の前記表面に穴をあける工程と、前記光化学エージェントが穿刺穴を貫通して前記組織内の前記タンパク質に隣接する前記組織の深さのあらゆる場所に分布するよう、前記光化学エージェントを前記表面に適用する工程と、を含んでもよい。あるいは、前記送達する工程は、前記組織内に針を挿入することと、前記光化学エージェントが前記組織の深さを貫通するよう前記針を介して前記光化学エージェントを注入しながら同時に前記組織から前記針を引き抜くことと、を含んでもよい。追加の又は同様の送達工程を用いることもできる。
【0009】
本開示の別の側面によれば、組織を処置するための、電磁放射線源と併用されるキットが提供される。前記キットは、前記組織に穿刺穴を形成する寸法を有する針と、前記組織に適用されたときに前記穿刺穴を貫通し、所定の電磁放射によって照射された時に前記組織内のタンパク質の架橋結合をもたらすよう活性化するよう構成された光化学エージェントと、を備える。
【0010】
本発明の上述の及び他の利点は、以下の記載から明らかとなる。以下の記載は添付の図面を参照にしており、これらの図面は本発明の好ましい実施形態を例として示したものである。しかしながらこれらの実施形態は必ずしも本発明の全範囲を表すものではなく、本発明の範囲は特許請求の範囲及び本明細書を参照して解釈されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】ターゲット組織を引き締めるためのシステムの概略図である。
【
図2】組織を引き締めるための方法を説明するフローダイヤグラムである。
【
図3】
図1のシステムと併用される例示的な針アレイの側面図である。
【
図4】
図1のシステムと併用される例示的な発光ダイオードアレイの下面図である。
【
図5】未処置の組織サンプルと
図2の方法を用いて処置された組織サンプルとを比較した写真を説明する図である。
【
図6】組織引き締めシステムキットの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示は、組織コラーゲン及び他の構造タンパク質の光化学的架橋結合を介して皮膚及び他の組織を引き締めるためのシステム及び方法を提供する。前記システムは、光化学エージェント(photochemical agent)をターゲット組織に経皮的に送達(デリバリー)するためのメカニズムと、ターゲット組織に電磁放射線を均一かつ制御可能に照射するためのエネルギー源システムと、を含む。エネルギー源は、コラーゲン架橋結合をもたらして実質的にターゲット組織を引き締める、光化学エージェントを活性化する電磁放射線源を含んでもよい。この光化学的組織引き締めシステム及び方法は、従来の手術代替手段に関連するリスク及び副作用を招くことなく組織を指向的に引き締める又は引き上げるために、手術に代えて用いることができる。
【0013】
図1は、本開示の一側面に係わる組織引き締めシステム10の概略図である。システム10は通常、針14及び/又はアプリケータ16を含むデリバリメカニズム12と、電磁放射線源18と、を含む。電磁放射線源18は、以下に記載するように組織の引き締めをもたらすよう構成された発光ダイオード(LED)又はその他のソースなどの発光システムを含んでもよい。システム10は、皮膚、表皮、真皮、脂質、筋膜、顔面の膜組織、腱、上皮組織、嚢、腸(bowel)、筋肉、神経、循環組織、腹部、胸部、結腸直腸、直腸、腸(intestinal)、卵巣、子宮、心膜、腹膜、口腔、心臓、及び乳房組織、膣粘膜、浅筋膜層、表在性筋膜群(SMAS)、クーパー靱帯、眼窩隔膜及びスカルパ筋膜など(しかしこれらに限定されない)のターゲット組織20を光化学的に処置する(したがって引き締める又は引き上げる)ために用いてもよい。例えば、システム10は乳房組織の引き上げ、顔面組織の引き上げ、膣引き締め、脂肪吸引術後の皮膚の引き締め、肥満治療減量術後の皮膚の引き締め、若しくはその他の組織の引き締め又は引き上げ応用を実現するために使用することができる。
【0014】
システム10は、
図2の方法22に基づきターゲット組織20を引き締めるために用いることができる。通常、方法22は、穴あけされたターゲット組織20の特定の光化学架橋結合(PXL)処置を含んでもよい。より具体的には、方法22は、例えばプロセスブロック24でデリバリメカニズム12を用いて光化学エージェントをターゲット組織20に送達する工程を含む。より具体的には、後述のように、プロセスブロック24での光化学エージェントの送達は、いくつかのサブ工程を含んでもよい又は1以上のオプションの工程を含んでもよい。
【0015】
プロセスブロック24で光化学エージェントが組織に送達されると、プロセスブロック26でホールド期間がある。プロセスブロック26でのホールド期間後に、プロセスブロック28においてターゲット組織20が照射を受ける。限定を意図しない一例として、プロセスブロック28での照射は電磁放射線源18を用いて実行されてもよい。具体的には、後述のように、プロセスブロック28における照射は、特にプロセスブロック30でターゲット組織20内においてコラーゲン架橋結合をもたらすためにプロセスブロック24で送達された光化学エージェントを活性化するために実行される。この架橋結合により、プロセスブロック32でターゲット組織20が引き締まる又は縮む。
【0016】
プロセスブロック24において、光化学エージェントがターゲット組織20に送達される。一例として、上述のデリバリメカニズム12を用いて送達が行われてもよい。通常、光化学エージェントは、光活性化することで化学的影響をもたらす化合物、又は活性化することで化学的影響をもたらす化合物の化学的前駆体である。例えば、光化学エージェントは光増感剤又は感光染料でもよい。ある具体的な応用では、光化学エージェントはローズベンガルでもよい。さらなる応用では、光化学エージェントは生理食塩水溶液中の0.1%ローズベンガルでもよい。他の応用では、光化学エージェントは、キサンテン、フラビン、チアジン、ポルフィリン、拡張ポルフィリン、クロロフィル、フェノチアジン、シアニン、モノアゾ染料、アジンモノアゾ染料、ローダミン染料、ベンゾフェノキサジン染料、オキサジン及びアントラキノン染料からなるグループから選択されてもよい。さらに他の応用では、光化学エージェントは、ローズベンガル、エリトロシン、リボフラビン、メチレンブルー(「MB」)、トルイジンブルー、メチルレッド、ヤヌスグリーンB、ローダミンBベース、ナイルブルーA、ナイルレッド、セレスチンブルー、レマゾールブリリアントブルーR、リボフラビン-5-リン酸(「R-5-P」)、N-ヒドロキシピリジン-2-(I H)-チオン(「N-HTP」)及びこれらの光反応性誘導体からなるグループから選択されてもよい。
【0017】
図2の方法22は、光化学エージェントを送達するための複数のオプションのいずれかを含んでもよい。第1のオプションによれば、まずプロセスブロック34において例えば針14又は針アレイを用いてターゲット組織20の表面に穴をあける又は該表面を突き刺すことによって、光化学エージェントを適用することができる。この最初の針による穴あけにより表面の下の組織へのアクセスが可能となる。より具体的には、最初の針による穴あけにより、穿刺穴が形成され、これにより組織20の表面の下へ(即ち穴を通って組織の特定の深さに)光化学エージェントが送達及び分布され、これによって組織20内のコラーゲン及び他の構造タンパク質(エラスチンなど)が光化学エージェントに均一にさらされる、光化学エージェントによって囲まれる及び/又はコーティングされる、光化学エージェントに極めて接近する、並びに/若しくは光化学エージェントに隣接することができる。よって、針による穿刺穴は、組織表面積の特定の割合に穴をあけるために、十分に間隔をあけて配されている。例えば、皮膚又は表皮引き締めアプリケーションなどのいくつかの応用では、針アレイを用いてターゲット組織20の表面積の約10パーセント未満又は好ましくは5パーセントに穴をあけることができる。
【0018】
通常、針又は複数の針14は、組織に穴をあけることはできるが傷跡は残さないような寸法を有してもよい。例えば、いくつかの応用では、針14は19ゲージ~30ゲージの寸法を有する皮下注射針でもよい。ある特定の例では針14は23ゲージでもよい。いくつかの応用ではコアリングニードル(coring needles)又は中実針(solid needles)も考えられる。針14はターゲット組織20の一部及び/又は全厚さを貫通するような寸法としてもよい。針穴の具体的な深さは、ターゲット組織の種類及び処置が施される位置に基づき、選択することができる。例えば、皮膚組織では穴の深さを約0.3ミリメートル~5ミリメートルとしてもよく、この深さは真皮層の厚さにおおよそ相当する。
【0019】
針アレイについて、針の寸法と間隔の両方を、傷跡を残すことなく光化学エージェントを組織体積の所望の一定割合に適切に分布させるよう、構成してもよい。
図3に、いくつかの応用で使用されてもよい例示的な針アレイ40を示す。針アレイ40は、ハンドル42、ヘッド44及びボタン45を含んでもよい。ハンドル42は、ユーザがハンドル42を握ることができる寸法としてもよい。ヘッド44は、ハンドル42の端部と一体とされてもよく又は該端部に結合されてもよく、ヘッド44の表面からハンドル42に対して約90度の角度で延びるよう構成された引っ込み可能な針(非図示)を含んでもよい。ボタン45は引っ込み可能な針をヘッド44から外に延ばすために押される又は押し下げられることができ、ユーザがボタン45を押し下げることを止めると針はヘッド44内に再び引っ込むことができる。アレイ40の針は、上述の皮下注射針(又は他の針)と同様の寸法とすることができる。ある応用では、針アレイ40は全方向に約1ミリメートル離れた皮下注射針先端のセットを含んでもよい。いくつかの応用では
図3に示したもの以外の他の針アレイの構成も考えられる。より具体的には、針アレイ40は、処置される組織20に応じて様々な空間分布のうちのいずれかで構成されてもよい。例えば、針アレイ40は、1又は複数の列、標準の2次元パターン(正方形、長方形又は三角形パターンなど)若しくはランダム分布などで配された、複数の針を含んでもよい。また、アレイの構造は、組織の引き上げ又は引き締めの所望の方向に基づいて寸法及び配置指定されてもよい。加えて、いくつかの実施では針状ころ又はタトゥーガンを用いてターゲット組織20の穴あけを行ってもよい。
【0020】
ターゲット組織20に穴があけられると、プロセスブロック36において、アプリケータ16を用いて光化学エージェントが例えばターゲット組織20の表面に適用される。ターゲット組織20に適用される光化学エージェントの量はターゲット組織20の種類に依存し、より具体的にはターゲット組織20内のコラーゲン及び他の構造タンパク質の量に依存する。この適用工程は、染色、ペインティング、ブラッシング、スプレー塗布、ドリッピング又は別の方法でターゲット組織20に光化学エージェントを適用することを含んでもよいが、これらに限定されない。例示的なアプリケータ16は、スポンジ、ブラシ及び綿棒アプリケータを含むが、これらに限定されない。別の例によれば、アプリケータ16は光化学エージェントに浸された、光化学エージェントでコーティングされた又は光化学エージェントが別の方法で適用された包帯などの材料であってもよく、これにより光化学エージェントを組織20に移動させるためにアプリケータ16を組織20上に配置することができる。また、上述の方法のうちの1つを用いて光化学エージェントがターゲット組織20に適用された後、組織表面上の過剰な光化学エージェントを例えばガーゼ又は別の材料でたたくように当てることで除去してもよい。
【0021】
第2の応用オプションによれば、プロセスブロック34及び36は、プロセスブロック38で組織内に光化学エージェントを直接注入することで、統合される又は補われる。より具体的には、針又は針アレイ14を、ターゲット組織20内に挿入し、光化学エージェントを注入しながらゆっくりと引き抜いてもよい。針14が引き抜かれるにつれて光化学エージェントを注入することにより、ターゲット組織20内のコラーゲン及び他のタンパク質が光化学エージェントによって十分に囲まれる又は光化学エージェントに極めて接近することができる。
【0022】
第3の応用オプション(非図示)によれば、光化学エージェントをターゲット組織20の表面に適用した後、タンパク質に隣接する組織20の深さのあらゆる場所に光化学エージェントを移動させるために表面をタトゥーガンで穴あけしてもよい。
【0023】
光化学エージェントの適用の後、プロセスブロック26において、ホールド期間は、光化学エージェントがターゲット組織20内の穿刺穴を通ってターゲット組織20の深さを貫通してコラーゲンを取り囲む若しくはコラーゲンのかなり近くに位置する又はコラーゲンに隣接するための時間を提供する。いくつかの応用では、ホールド期間は約30秒~約5分とすることができる。ある特定の応用では、ホールド期間は約1分である。最適なホールド期間は、特定のターゲット組織及び/又は特定の光化学エージェントについての実験的試験により決定することができる。例えば、ローズベンガルはコラーゲンに対する高い親和性及び比較的制限された浸透度を有するので、最小限のホールド期間しか必要としない。
【0024】
プロセスブロック28に関し、例えば電磁放射線源18を用いてターゲット組織20が照射を受ける。電磁放射線源18は、光化学エージェントを活性化するために、適正なエネルギー、波長及び持続時間で光を放出することができる。例えば、電磁放射線源18は、約1ワット毎平方センチメートル(W/cm
2)未満の放射照度でターゲット組織に照射するよう構成することができる。しかしながら、他の応用では、光を、約0.5W/cm
2~約5W/cm
2の放射照度、好ましくは約1W/cm
2~約3W/cm
2の放射照度で送達することができる。また、電磁放射線源18は、例えば単色又は多色の光を発するよう構成された低エネルギー可視光エミッタでもよい。適切な電磁放射線源の例として、市販のレーザ、ランプ、一以上の発光ダイオード(「LED」)又は他の電磁放射線の供給源が挙げられるが、これらに限定されるものではない。ある特定の例では、電磁放射線源18は
図4に示されるようなマルチ発光LEDアレイ46でもよい。より具体的には、LEDアレイ46は高パワー(300ミリワット)LEDアレイとすることもできる。
【0025】
さらに、電磁放射線源18は、使用される光化学エージェントの種類を活性化する適切な波長の光を発することができる。より具体的には、光の波長は、光化学エージェントの吸収に対応する又は該吸収を包含し、該光化学エージェントと接触した組織20の所望の体積に達する(即ち組織20の所望深さまで浸入する)よう選択することができる。例えば、使用される光化学エージェントがローズベンガルである場合、電磁放射線源18は低エネルギーの緑色エミッタとすることができる。その他の光化学エージェントについては、波長は約350ナノメートル~約800ナノメートル、好ましくは約400ナノメートル~約700ナノメートルとすることができる。
【0026】
また、電磁放射線源18は、光化学エージェント及び組織の種類に応じた適切な持続期間の間ターゲット組織20に光を発することができる。いくつかの応用では、ターゲット組織20は約1分間~約30分間照射を受ける。他の応用では、ターゲット組織20は約5分間よりも短い間照射を受ける。
【0027】
プロセスブロック30に移ると、電磁放射線源18でターゲット組織20に照射することにより光化学エージェントが活性化し、コラーゲン架橋結合がおこる。より具体的には、光化学エージェントは、コラーゲンの近くに供給・分布されると、非共有結合的にコラーゲンと結合する。その後、照射により光化学エージェントが活性化して共有結合を介したコラーゲン架橋結合が生じる。さらに、エラスチンなどの他の構造タンパク質は、光化学エージェントとの物理的相互作用がコラーゲンと同じでないかもしれないにもかかわらず、照射に対するそのタンパク質反応はコラーゲンと同じ場合がある。
【0028】
プロセスブロック32において、架橋結合の効果としてターゲット組織20が引き締められる(即ち、組織体積が減少する)。換言すると、活性化した光化学エージェントにより、組織を引き締めるため又は組織の弛みを減少させるために組織の繊維を互いに近づけるタンパク質反応が起こる。例えば、上述の方法22を用いて処置されたターゲット皮膚組織20は、より強くなるとともに、通常老化に伴って見られる劣化に対する抵抗力がより高まる。特に、コラーゲン架橋結合は、コラーゲンを分解するマトリックスメタロプロテアーゼ(「MPP」)の働きを抑制して老化プロセス及びセルライトの出現を遅らせる。換言すると、コラーゲン架橋結合は皮膚を引き締めてセルライトの出現を隠すとともにセルライトの主な原因の1つである皮膚の菲薄化を防ぐ。別の例において、ターゲットが顔又は乳房組織20の場合、上述の方法を用いた組織20の引き締めにより組織20を引き上げることができる(したがってフェイスリフト又はバストリフトをもたらす)。
【0029】
上述の方法のみならず、いくつかの実施では他の方法を用いてターゲット組織20に光化学エージェントを経皮的に送達してもよい。例えば、レーザなどの別個の電磁放射線源を用いて穴を作成してもよい(即ち、針14ではなく)。別の例では、ターゲット組織20が皮膚の場合、角質層(即ち、表皮の最外層)をテープ、ジェスナー(Jessner)溶液、トリクロロ酢酸若しくは別の化学薬品又は溶液で除去することができる。換言すると、ターゲット組織20の表面をその最外層を除去することで「穴あけ」することができる。この除去工程後に上述のように組織20に光化学エージェントが適用される。加えて、リポソーム又は他のナノキャリアを用いて、光化学エージェントを、光化学エージェントがターゲット組織20を囲むよう、送達してもよい。例えば、ナノキャリアがターゲット組織20に浸入して組織20内のタンパク質の近くに光化学エージェントが分布されるよう、光化学エージェントを有するナノキャリアをターゲット組織20の表面に送達してもよい。他のナノテクノロジーを用いてもよい。
【0030】
穿刺工程(プロセスブロック34)及び/又は注入工程(プロセスブロック38)により、組織表面のみではなく組織20の深さが、照射が施される光化学エージェントを受けることができる。いくつかの応用において、組織の表面に光化学エージェントを適用するだけでは、コラーゲンが光化学エージェントでコーティングされない又はコラーゲン架橋結合を活性化するためにコラーゲンが十分な照射を受けることができない。例えば、特定の光化学エージェントは表層バリアへの浸入が制限されており、コラーゲン架橋結合させるために組織内に達することができない。その結果、そのような光化学エージェントは、光化学エージェントを受けるために組織20に穴を意図的に形成(プロセスブロック34又は38を介して)しなければ有効ではない。
【0031】
したがって、組織の穴又は創傷を閉じる働きをする従来の光化学的処置療法とは異なり、本発明の方法22は組織20を引き締めるために組織20に穴を意図的に形成する。特に、従来の療法とは異なり、本発明の光化学架橋結合方法22は、タンパク質同士を架橋結合させて構造繊維同士を近づけて組織体積を減少させることで組織を引き締めるために、組織20に光化学エージェント及び光を適用する。例えば、光化学的組織結合は別々の組織表面同士を結合させるために2つの組織表面間で架橋結合を行うことを伴い、光化学的組織パシベーションは生物学的反応を修正するため(組織を強化又は硬化するためなど)に単一の組織表面で架橋結合させることを伴う。2つの組織及び1つの組織表面をそれぞれ処置する光化学的結合又は組織パシベーションとは異なり、本発明の光化学的架橋結合方法は、組織を引き締めて弛みを減少させるために組織の体積(即ち、組織表面から組織の深さまで)を処置するために用いられる。換言すると、他の方法は本発明の方法と同じ反応をもたらさない、即ち他の方法を用いた組織の結合又は強化では組織体積又は弛みは減少しない。
【0032】
例として、上述のシステム10及び方法22を、5人の患者のヒトの皮膚(選択的腹成術から廃棄されたもの)を光化学的に引き締めるために実験的に用いた。平均で、処置された26個のサンプル部位において、処置されたサンプルの全表面積は6%減少した(p<0.001)。例えば、
図5は、参照マーカー50を含む処置前のサンプル48と参照マーカー54を含む処置後のサンプル52との比較を説明するものである。
図5に示されるように、処置後のサンプル52の参照マーカー54は、処置前のサンプル48の参照マーカー50よりも互いに近く、これは処置により組織表面積が減少したことを示している。
【0033】
さらに、処置前後の弾性係数を測定するために張力計を用いてサンプル部位に対し機械的検査を行った。(1)処置していないサンプル、(2)部分的に処置された(穿刺のみ)サンプル、及び(3)完全に処置された(穿刺プラス光化学エージェント及び照射)サンプルについて、弾性係数及びピーク負荷が記録された。完全な処置は、皮膚表面の全厚さの穿刺と、その後の生理食塩水中0.1%のローズベンガルを含む溶液の適用及びサンプル表面に緑色の光を送達したマルチ発光LEDダイオードによる照射を含む。3つの試験グループを比較すると、処理されていない皮膚と穿刺された皮膚との間には統計的に有意な差はみられなかったものの、これらの2つのグループと光化学的に処置されたサンプルとの間には統計的に有意な差がみられ、後者は弾性係数における5倍の増加及びピーク負荷における3倍の増加を示した。
【0034】
さらに、コラーゲンのコラゲナーゼによる分解(コラゲナーゼとは、コラーゲンを分解又は消化する酵素)を抑制する上述の方法22の有効性を評価するために生分解性分析を行った。この分析は処置されていない(対照群)グループと処置されたグループとを比較するために行われた。対照群については、消化時間は180分であった。処置されたグループについては、消化時間は420分であった。このことは、消化に必要な時間における2.3倍の増加を表し、したがって処置(上述の方法22を用いた処置)が実際に架橋結合によってコラーゲン生分解を抑制することを示している。
【0035】
したがって、システム10及び方法22は、組織表面積を減少させることができ、弾性係数を増大させることができ、ピーク負荷を増大させることができ、及び/又はコラゲナーゼ消化時間を増大させることができる。例えば、処置されていない組織に比べて、システム10及び方法22は、組織表面積を約1%~約40%、好ましくは約5%~約25%、減少させることができ、弾性係数を約2倍~約20倍、好ましくは約4倍~約10倍、増加させることができ、ピーク負荷を約2倍~約10倍、好ましくは約2倍~約5倍、増加させることができ、コラゲナーゼ消化時間を約2倍~約10倍、好ましくは約2倍~約5倍、増大させることができる。表面積の減少並びに弾性係数、ピーク負荷及び/又は消化時間の増大について、その他の範囲も考えられる。
【0036】
これらの利点を踏まえると、システム10及び方法22は、皮膚の弛みの低減、体形矯正、老化した、術後の又は脂肪吸引後の皮膚の引き締め、外科手術をしないバストリフト又はフェイスリフト、膣引き締め、セルライト又は線条(線状皮膚萎縮)の見た目の低減、若しくは腱(lose tendon)などの組織の引き締めに関する応用に使用することができる。その他の応用も考えられる。
【0037】
そのような応用に用いられる場合、上述のシステム10及び方法22により、侵襲が最小限の処置が提供される。したがって、システム10及び方法22は、外科手術に比べてより安全で、リスクの少ない、そしてより効果的な、組織を引き締めるための方法を提供する。また方法22は、Thermage(登録商標)(高周波エネルギー処置)、Ultherapy(登録商標)(超音波エネルギー処置)、フラクショナルアブレイティブレーザ(組織の層を除去する処置)及びコアリングニードル(小さい組織生検を除去するために組織に穴をあける処置)などの他のエステティック処置よりも、短いリカバリ時間及び少ない複雑さを提供する。
【0038】
より具体的には、他のエネルギーベースの処置に比べて、方法22はフルエンスに依存する。したがって方法22は、アブレイティブレーザなどのパワー依存のシステムの、より安全で、より寛容な及びより痛みの少ない代替手段である。また、本発明の方法22は、他のエネルギーベースの処置に比べて、組織20において温度を大幅に上昇させない。例えば、超音波ベース及び高周波ベースの方法は架橋結合をもたらさず、むしろ組織のリモデリング及び拘縮を誘起するために組織を熱損傷させる。これらの熱的な方法とは異なり、本発明の方法22は、組織20を損傷させるほどの加熱をせず、したがって細胞毒性を防止すること及び組織の加熱によるタンパク質変性を回避することによって、組織の構造的完全性を保存する。
【0039】
さらに、光化学的皮膚引き締めシステム10及び方法22において、効果が長続きする、一貫したかつ自然な見た目の結果が得られることが示された。特に、システム10及び方法22について、他の手術代替手段に比べてより一貫性のある、そして処置された組織の全ての種類について同様で一貫した結果が得られることが示された。さらに、システム10及び方法22は傷跡(例えば外科手術における切開又は熱ダメージに起因するもの)を残さないので、より自然な見た目の結果が得られる。
【0040】
また、システム10及び方法22は、現在の処置よりも手頃である。特に、システム10及び方法22は外科手術の代替手段なので、処置は例えば手術室にいる外科医ではなくクリニック又は医師のオフィスにいる看護師によって実施することができる。また、システム10及び方法22は、他の手術代替手段で必要なレーザエミッタなどの高価な資本的設備が不要であり、それでもなお利益率の高い消耗品を与えることができる。例えば、システム10及び、特に電磁放射線源18は、典型的なアブレイティブレーザよりも安価で専有面積が小さい。
【0041】
いくつかの応用では、電磁放射線源18(レーザなど)は臨床現場に容易に格納でき、
図6に示すような光化学処置キット56を電磁放射線源18と併用するために提供することができる。このキット56は、エージェント58と、針装置60(単一の皮下の、固体の又はコアリングニードル14若しくは針アレイ40)と、を含むことができる。あるいは、キット56は、エージェント58と、臨床現場に保存できる再利用可能なハンドル42と併用される使い捨てヘッド44(
図3に示す)と、を含んでもよい。さらに別の応用では、キット56は、一以上のアプリケータをさらに含むことができる。また、キット56は異なる処置面積又は組織についてスケーラブルである。例えば、エージェント58の量及び各キット56における針装置60の寸法は、処置面積又は組織に特化していてもよい。
【0042】
本発明について一以上の好ましい実施形態の観点で記載されている。本明細書において明確に述べられたもの以外の多くの同等の、代替の、バリエーションの及び変更されたものも可能であり本発明の範囲内であることが理解されるであろう。さらに、本明細書で使用した「約」などの用語は、特定された値に対するプラスマイナス20%の範囲を意味し、より好ましくはプラスマイナス10%を意味し、さらに好ましくはプラスマイナス5%を意味し、最も好ましくはプラスマイナス2%を意味する。あるいは、当該分野で周知のように、「約」の用語は、特定の値からのずれであって、与えられた測定ツールを用いるそのような値の測定プロセス中に利用可能な測定の最小増加の半分に等しいずれを示す。