(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-11
(45)【発行日】2022-03-22
(54)【発明の名称】障害物報知装置および障害物報知方法
(51)【国際特許分類】
A61G 5/04 20130101AFI20220314BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20220314BHJP
B62J 27/00 20200101ALI20220314BHJP
B62J 3/00 20200101ALI20220314BHJP
【FI】
A61G5/04 707
G08G1/16 C
A61G5/04 703
B62J27/00
B62J3/00
(21)【出願番号】P 2019012818
(22)【出願日】2019-01-29
【審査請求日】2021-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000101732
【氏名又は名称】アルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105784
【氏名又は名称】橘 和之
(74)【代理人】
【識別番号】100098497
【氏名又は名称】片寄 恭三
(74)【代理人】
【識別番号】100099748
【氏名又は名称】佐藤 克志
(74)【代理人】
【識別番号】100103171
【氏名又は名称】雨貝 正彦
(72)【発明者】
【氏名】中川 知基
【審査官】田中 佑果
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-71790(JP,A)
【文献】特開2014-226194(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0082182(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 5/04
G08G 1/16
B62J 27/00
B62J 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搭乗者が搭乗した状態で歩道を走行する移動支援自動車の周囲に存在する障害物を検出して報知する障害物報知装置であって、
上記移動支援自動車に搭載されたセンサの検出エリア内に存在する障害物を検出する障害物検出部と、
上記障害物検出部により複数の障害物が検出された場合に、上記移動支援自動車から最も近い位置で検出された障害物である最近障害物と一の他障害物との距離差を算出する距離差算出部と、
上記最近障害物および上記他障害物の種類をそれぞれ判定する障害物種類判定部と、
上記距離差算出部により算出された距離差および上記障害物種類判定部により判定された各障害物の種類に応じて、上記最近障害物または上記他障害物の何れか一方についての報知を行う報知制御部とを備えたことを特徴とする障害物報知装置。
【請求項2】
上記障害物検出部は、上記障害物種類判定部と協働して、上記移動支援自動車が走行不可能な種類の障害物として定義された走行不可能障害物と、上記移動支援自動車が走行可能な種類の障害物として定義された走行可能障害物とのそれぞれについて、上記移動支援自動車から最も近いものを1つずつ検出し、検出した障害物のうち上記移動支援自動車に近い方を上記最近障害物、他方を上記他障害物とすることを特徴とする請求項1に記載の障害物報知装置。
【請求項3】
上記報知制御部は、
上記距離差算出部により算出された距離差が所定値以上の場合、上記障害物種類判定部により判定された各障害物の種類によらず、上記最近障害物についての報知を行い、
上記距離差算出部により算出された距離差が所定値未満の場合、上記最近障害物および上記他障害物のうち、上記走行不可能障害物についての報知を行うことを特徴とする請求項2に記載の障害物報知装置。
【請求項4】
上記障害物検出部は、上記最近障害物を検出するとともに、上記移動支援自動車から2番目に近い位置にある障害物を上記他障害物として検出することを特徴とする請求項1に記載の障害物報知装置。
【請求項5】
上記報知制御部は、
上記距離差算出部により算出された距離差が所定値以上の場合、上記障害物種類判定部により判定された各障害物の種類によらず、上記最近障害物についての報知を行い、
上記距離差算出部により算出された距離差が所定値未満の場合であって、上記最近障害物および上記他障害物の一方が、上記移動支援自動車が走行不可能な種類の障害物として定義された走行不可能障害物であり、他方が、上記移動支援自動車が走行可能な種類の障害物として定義された走行可能障害物であると上記障害物種類判定部により判定されたときは、上記走行不可能障害物についての報知を行い、
上記距離差算出部により算出された距離差が所定値未満の場合であって、上記最近障害物および上記他障害物が何れも上記走行可能障害物であると上記障害物種類判定部により判定されたときは、上記最近障害物についての報知を行い、
上記距離差算出部により算出された距離差が所定値未満の場合であって、上記最近障害物および上記他障害物が何れも上記走行不可能障害物であると上記障害物種類判定部により判定されたときは、上記最近障害物および上記他障害物についての報知を行うことを特徴とする請求項4に記載の障害物報知装置。
【請求項6】
上記報知制御部が上記走行不可能障害物についての報知を行う場合、および、上記報知制御部が上記最近障害物についての報知を行う場合であって当該最近障害物が上記走行不可能障害物である場合、
上記障害物検出部は、上記報知制御部が報知を行う対象の障害物から進行方向先の所定範囲にある障害物である第3障害物を更に検出し、
上記障害物種類判定部は、上記第3障害物が上記走行不可能障害物であるか否かを更に判定し、
上記報知制御部は、上記第3障害物が上記走行不可能障害物であると上記障害物種類判定部により判定されたときは、上記第3障害物についての報知も更に行うことを特徴とする請求項3または5に記載の障害物報知装置。
【請求項7】
搭乗者が搭乗した状態で歩道を走行する移動支援自動車の周囲に存在する障害物を検出して報知する障害物報知方法であって、
障害物報知装置の障害物検出部が、上記移動支援自動車に搭載されたセンサの検出エリア内に存在する障害物を検出するステップと、
上記障害物報知装置の距離差算出部が、上記障害物検出部により複数の障害物が検出された場合に、上記移動支援自動車から最も近い位置で検出された障害物である最近障害物と一の他障害物との距離差を算出するステップと、
上記障害物報知装置の障害物種類判定部が、上記最近障害物および上記他障害物の種類をそれぞれ判定するステップと、
上記障害物報知装置の報知制御部が、上記距離差算出部により算出された距離差および上記障害物種類判定部により判定された各障害物の種類に応じて、上記最近障害物または上記他障害物の何れか一方についての報知を行うステップとを有することを特徴とする障害物報知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、障害物報知装置および障害物報知方法に関し、特に、パーソナルモビリティの周囲に存在する障害物を検出して報知する装置に用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電動車いすやシニアカーといったパーソナルモビリティが普及している。パーソナルモビリティは、搭乗者が搭乗した状態で歩道を走行する1人乗りの移動支援自動車であり、多くの場合、高齢者等の歩行に困難性を有する者が搭乗し、搭乗者の移動を支援する。この種のパーソナルモビリティで走行する際に、周囲に存在する障害物への衝突を未然に防ぐために、移動体に取り付けたセンサで障害物を検出し、搭乗者に報知するシステムが知られている(例えば、特許文献1参照)。搭乗者は、障害物の報知が行われた場合、目視によりその障害物を避けるように運転を行うことができる。
【0003】
上記特許文献1に記載の障害物認識装置では、パーソナルモビリティの走行中に複数の障害物(段差や坂など)を検知した場合、検知した複数の障害物の位置に対応するLEDをそれぞれ点灯させることにより、複数の障害物の存在を搭乗者に報知する。その際、複数の障害物の位置および種類に基づいて障害度をそれぞれ決定し、障害度に応じてLEDの発光方法(明るさや色)を変化させる。このようにすることで、搭乗者に対して、優先して注意すべき障害物の位置をより強く認知させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、障害物の障害度に応じて報知方法を変化させているものの、検知した全ての障害物を報知しているため、この報知を受けた高齢者が混乱し、運転の誤操作を生じる可能性があるという問題があった。
【0006】
一方、障害物の障害度とは関係なく、自車両から最も近くにある障害物だけを検出して報知する従来技術も存在する。この種の従来技術によれば、搭乗者に対して複数の障害物が一度に報知されることがないので、搭乗者が混乱を生じる可能性は殆ど生じない。しかしながら、この従来技術では、報知した障害物の位置から少し先の位置に障害度の大きい別の障害物が存在する場合、手前の障害物を通過した後にその障害度の大きい障害物を検知して報知したとしても、障害物を確認し、障害物を回避するための時間的余裕を確保できないことがあるという問題があった。
【0007】
本発明は、このような問題を解決するために成されたものであり、移動支援自動車の周囲に存在する障害物を検出して搭乗者に報知する際に、複数の報知によって搭乗者に混乱を与えることを抑制できるようにするとともに、搭乗者が報知を受けてから障害物を回避するために必要な時間的余裕を確保できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決するために、本発明では、移動支援自動車に搭載されたセンサの検出エリア内に存在する障害物が複数検出された場合に、移動支援自動車から最も近い位置で検出された障害物である最近障害物と一の他障害物との距離差を算出するとともに、最近障害物および他障害物の種類をそれぞれ判定し、その距離差および各障害物の種類に応じて、最近障害物または他障害物の何れか一方についての報知を行うようにしている。
【発明の効果】
【0009】
上記のように構成した本発明によれば、移動支援自動車の周囲にある複数の障害物が検出された場合であっても、その全てが報知されることはなく、最近障害物または他障害物の何れか一方についての報知のみが行われる。これにより、移動支援自動車の周囲に存在する障害物を検出して搭乗者に報知する際に、複数の報知によって搭乗者に混乱を与えることを抑制することができる。また、本発明によれば、最近障害物と他障害物との距離差および各障害物の種類に応じて、最近障害物または他障害物の何れか一方が適切に選択されて報知される。このため、他障害物が必ず回避すべき種類の障害物であって最近障害物との距離差が十分にない場合に、当該他障害物についての報知を行うようにすることができる。これにより、搭乗者が報知を受けてから障害物を回避するために必要な時間的余裕を確保することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態による障害物報知装置の機能構成例を示すブロック図である。
【
図2】障害物検出部により検出される最近障害物および他障害物と、距離差算出部により算出される距離差とを説明するための図である。
【
図3】報知制御部による報知例を整理して示す図である。
【
図4】報知制御部により実行される報知の具体例を示す図である。
【
図5】本実施形態による障害物報知装置の動作例を示すフローチャートである。
【
図6】センサの検出エリアおよび報知制御部により実行される報知の他の例を示す図である。
【
図7】報知制御部による他の報知例を整理して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態による障害物報知装置の機能構成例を示すブロック図である。本実施形態の障害物報知装置は、搭乗者が搭乗した状態で歩道を走行する電動車いすやシニアカーといったパーソナルモビリティ(移動支援自動車)に搭載され、当該移動支援自動車の周囲に存在する障害物を検出して報知するものである。
【0012】
図1に示すように、本実施形態の障害物報知装置10は、その機能構成として、障害物検出部11、障害物種類判定部12、距離差算出部13および報知制御部14を備えて構成される。本実施形態の障害物報知装置10には、移動支援自動車の周囲に存在する障害物を検出するために使用するセンサ20と、障害物の存在を搭乗者に報知するために使用する表示部30とが接続されている。
【0013】
上記各機能ブロック11~14は、ハードウェア、DSP(Digital Signal Processor)、ソフトウェアの何れによっても構成することが可能である。例えばソフトウェアによって構成する場合、上記各機能ブロック11~14は、実際には移動支援自動車が搭載するコンピュータのCPU、RAM、ROMなどを備えて構成され、RAMやROM、ハードディスクまたは半導体メモリ等の記録媒体に記憶されたプログラムが動作することによって実現される。
【0014】
障害物検出部11は、移動支援自動車に搭載されたセンサ20の検出エリア内に存在する障害物を検出する。センサ20は、例えば移動支援自動車の前方を撮影するカメラであり、障害物検出部11は、カメラにより撮影された画像を解析することにより、検出エリア(撮影エリア)内に存在する障害物を検出する。カメラは、例えば移動支援自動車の前部に搭載されており、移動支援自動車の前方の所定範囲の路上を撮影するように姿勢が調整されている。
【0015】
障害物検出部11が検出する障害物は、移動支援自動車の走行にとって障害となり得るものであり、例えば、路上に存在する大きな石、岩、溝、崖のほか、歩道上に存在する歩行者や自転車などの移動体なども含む。
【0016】
障害物種類判定部12は、障害物検出部11により検出される障害物(後述する最近障害物および他障害物)の種類をそれぞれ判定する。本実施形態による障害物種類判定部12が判定する障害物の種類は、走行可能障害物または走行不可能障害物の何れかである。走行可能障害物とは、移動支援自動車の走行能力としては回避しなくても走行可能ではあるが、ハンドルを取られるなど、注意して走行が必要となる障害物をいう。例えば、高さが所定値以下の石や岩、段差が所定値以下の溝などが走行可能障害物に該当する。走行可能障害物であっても、できれば回避して走行することが好ましい。一方、走行不可能障害物は、回避せずに走行すると搭乗者の転落や車両の転倒を招く恐れが高く、回避が絶対的に必要となる障害物をいう。例えば、高さが所定値より大きい石や岩、段差が所定値より大きい溝、崖などが走行不可能障害物に該当する。ここで、所定値は、移動支援自動車の構造や走行性能等を考慮して適切な値があらかじめ設定される。
【0017】
本実施形態において、障害物検出部11は、障害物種類判定部12と協働して、上述のように移動支援自動車が走行可能な障害物として定義された走行可能障害物と、移動支援自動車が走行不可能な障害物として定義された走行不可能障害物とのそれぞれについて、移動支援自動車から最も近いものを1つずつ検出する。そして、障害物検出部11は、検出した2つの障害物のうち移動支援自動車に近い方を最近障害物、他方を他障害物とする。
【0018】
図2は、以上のようにして障害物検出部11により検出される最近障害物および他障害物を説明するための図である。なお、
図2は、後述する距離差算出部13により算出される距離差を説明する際にも用いる。
図2に示すように、障害物検出部11は、移動支援自動車100に搭載されたセンサ20の検出エリア(カメラの撮影エリア)SA内において、移動支援自動車100から最も近い障害物(最近障害物)201と、当該最近障害物201とは異なる種類の障害物で移動支援自動車100から最も近い障害物(他障害物)202とを検出する。
【0019】
例えば、最近障害物201の種類が走行可能障害物であれば、他障害物202の種類は走行不可能障害物である。この場合、移動支援自動車100と最近障害物201との間に障害物(走行可能障害物および走行不可能障害物の何れかを問わない)は存在しないが、最近障害物201と他障害物202との間に、最近障害物201と同種の走行可能障害物が存在することはあり得る。また、最近障害物201より遠い位置の検出エリアSA内に走行不可能障害物が存在しなければ、他障害物202は検出されない。
【0020】
逆に、最近障害物201の種類が走行不可能障害物であれば、他障害物202の種類は走行可能障害物である。この場合、移動支援自動車100と最近障害物201との間に障害物(走行可能障害物および走行不可能障害物の何れかを問わない)は存在しないが、最近障害物201と他障害物202との間に、最近障害物201と同種の走行不可能障害物が存在することはあり得る。また、最近障害物201より遠い位置の検出エリアSA内に走行可能障害物が存在しなければ、他障害物202は検出されない。
【0021】
ここで、移動支援自動車100から最も近い障害物とは、移動支援自動車100に搭載されたセンサ20から障害物までを結ぶ直線上の距離ではなく、センサ20から障害物までの移動支援自動車100の進行方向(移動支援自動車100の前後方向)に沿った距離(以下、これを直進距離という)が最も短い障害物とする。
【0022】
障害物検出部11および障害物種類判定部12は、以上のような処理を所定の時間間隔で繰り返し実行する。あるいは、障害物検出部11が検出する障害物が歩行者や自転車などの移動体を含まない場合は、移動支援自動車100が前方に走行して最近障害物201を通過する毎に以上の処理を行うようにしてもよい。あるタイミングで最近障害物201および他障害物202が検出されたときから、その最近障害物201を移動支援自動車100が通過するまでは、検出される最近障害物201および他障害物202に変化が生じないからである。
【0023】
例えば、あるタイミングで障害物検出部11が最近障害物201および他障害物202を検出した後、移動支援自動車100が最近障害物201を通過したことを障害物検出部11により検出されるまでの間は、障害物種類判定部12による障害物の種類の判定処理を停止する。そして、最近障害物201を通過した時点で、障害物種類判定部12による障害物の種類の判定を伴う障害物の検出処理を再実行するようにしてもよい。このようにすれば、障害物検出部11が最近障害物201を検出してからその最近障害物201を通過するまでの間は、障害物種類判定部12による障害物の種類の判定処理を停止することができるので、コンピュータの処理負荷を低減することができる。
【0024】
また、障害物検出部11が最近障害物201を検出してからその最近障害物201を通過するまでの間、障害物検出部11は、移動支援自動車100が通過したか否かを判定するために最近障害物201のみを検出し、他障害物202の検出は行わないようにしてもよい。あるいは、カメラの他にレーダ等を設け、レーダ等の検出信号を使って、移動支援自動車100が最近障害物201を通過したか否かを判定するようにしてもよい。このようにすれば、障害物種類判定部12の判定処理に加えて、撮影画像の解析による障害物の検出処理も、移動支援自動車100が最近障害物201を通過するまで停止することができ、コンピュータの処理負荷を更に低減することができる。
【0025】
さらに、本実施形態では、あるタイミングで障害物を検出する際に、検出エリアSA内における全ての障害物を検出することはせずに、移動支援自動車100から最も近い走行可能障害物と、移動支援自動車100から最も近い走行不可能障害物とを1つずつ検出しているだけなので、コンピュータの処理負荷を低減することができる。例えば、センサ20(カメラ)により撮影された画像のうち、移動支援自動車100に近い方の領域から順に解析をしていって、走行可能障害物と走行不可能障害物とが1つずつ検出された時点で解析を終了することができ、全ての画像領域を解析して全ての障害物を検出する場合に比べて処理負荷を小さくすることができる。
【0026】
距離差算出部13は、障害物検出部11により複数の障害物が検出された場合(すなわち、走行可能障害物および走行不可能障害物が1つずつ検出された場合)に、当該複数の障害物の距離差、すなわち、
図2に示した最近障害物201と他障害物202との距離差Dを算出する。ここで言う距離差は、
図2に示すように、移動支援自動車100から各障害物201,202までの直進距離の差分である。
【0027】
報知制御部14は、障害物種類判定部12により判定された各障害物の種類および距離差算出部13により算出された距離差およびに応じて、最近障害物201または他障害物202の何れか一方についての報知を行う。具体的には、報知制御部14は、距離差算出部13により算出された距離差が所定値以上の場合は、障害物種類判定部12により判定された各障害物の種類によらず、最近障害物201についての報知を行う。
【0028】
ここで、所定値は、移動支援自動車100と障害物との距離に関して、移動支援自動車100の搭乗者が目視により障害物を確認した時点から回避のための運転操作を開始した場合に、安全に障害物を回避可能と想定される最短距離であり、移動支援自動車100の走行性能や走行中の速度等に基づいて適切な値が動的に設定される。例えば、移動支援自動車100の走行速度が速いほど大きな値が所定値として設定される。なお、所定値は、移動支援自動車100が出し得る最高速度を考慮した固定値をあらかじめ設定しておくようにしてもよい。
【0029】
最近障害物201と他障害物202との距離差Dが所定値以上の場合は、最近障害物201についての報知を受けた搭乗者がその最近障害物201を回避するための運転操作をし、最近障害物201を通過した後に、今度は他障害物202を回避するための運転操作をすることにより、他障害物202についても安全に回避可能な状況である。よって、この場合には最近障害物201についての報知を行うものとする。
【0030】
例えば、最近障害物201が走行不可能障害物である場合は、これを絶対に回避する必要がある。本実施形態では、この最近障害物201(走行不可能障害物)についての報知が行われるので、移動支援自動車100の搭乗者は、この報知を受けて最近障害物201を回避するための運転操作を行うことができる。一方、最近障害物201が走行可能障害物で、他障害物202が走行不可能障害物である場合は、最近障害物201(走行可能障害物)を回避した後に他障害物202(走行不可能障害物)を回避するための時間的余裕があるので、最近障害物201についての報知を行う。
【0031】
これに対し、距離差算出部13により算出された距離差が所定値未満の場合、報知制御部14は、最近障害物201および他障害物202のうち、走行不可能障害物であると障害物種類判定部12により判定された障害物についての報知を行う。例えば、最近障害物201が走行不可能障害物である場合は、これを絶対に回避する必要がある。本実施形態では、この最近障害物201(走行不可能障害物)についての報知が行われるので、移動支援自動車100の搭乗者は、この報知を受けて最近障害物201を回避するための運転操作を行うことができる。
【0032】
一方、最近障害物201が走行可能障害物で、他障害物202が走行不可能障害物である場合は、最近障害物201(走行可能障害物)を回避した後に他障害物202(走行不可能障害物)を回避するための時間的余裕がないので、回避せずとも走行可能な最近障害物201についての報知はせずに、他障害物202についての報知を行う。この場合、移動支援自動車100の搭乗者は、報知を受けて、他障害物202(走行不可能障害物)を安全に回避するための運転操作を行うことができる。
【0033】
図3は、報知制御部14による報知の内容を整理して示したものである。
図3において、○印は走行可能障害物を示し、×印を走行不可能障害物を示している。また、☆印は報知を行う対象であることを示している。また、移動支援自動車100から近い方が最近障害物201、遠い方が他障害物202を示している。
【0034】
図3(a)および(b)に示すように、距離差算出部13により算出された最近障害物201と他障害物202との距離差Dが所定値Th以上の場合、報知制御部14は、障害物種類判定部12により判定された各障害物の種類によらず、最近障害物201についての報知を行う。一方、
図3(c)および(d)に示すように、距離差算出部13により算出された最近障害物201と他障害物202との距離差Dが所定値Th未満の場合、報知制御部14は、最近障害物201および他障害物202のうち走行不可能障害物についての報知を行う。
【0035】
図4は、報知制御部14により実行される報知の具体例を示す図である。
図4は、移動支援自動車100の操舵部の外観を模式的に示したものであり、警告灯101,102(
図1の表示部30に相当)、ハンドル103、アクセルバー104、各種操作スイッチ105が設けられている。搭乗者がハンドル103を握りながらアクセルバー104を操作すると移動支援自動車100は前進し、アクセルバー104を放すと移動支援自動車100は停止する。各種操作スイッチ105により、移動支援自動車100の電源のオン/オフを指示したり、走行速度を設定したり、ライトを点灯したり、本実施形態による障害物報知装置10の動作に関するオン/オフを指示したりすることが可能である。
【0036】
図4に示す例では、2つの警告灯101,102が設けられている。下側の警告灯101は、最近障害物201についての報知を行うものである。上側の警告灯102は、他障害物202についての報知を行うものである。警告灯101,102は、例えばLEDを備えて構成されるものであり、報知を行う場合に点灯し、報知を行わない場合に消灯する。ここで、警告灯101,102は、走行可能障害物についての報知を行う場合と、走行不可能障害物についての報知を行う場合とで点灯の態様を変える。例えば、表示色を変えたり、輝度を変えたり、点灯/点滅のように表示パターンを変えたりすることが考えられる。これにより、搭乗者は、警告灯101,102のどちらがどのような態様で点灯しているかによって、報知されているのが最近障害物201または他障害物202のどちらであるか、走行可能障害物または走行不可能障害物のどちらかであるかを一見して容易に把握することができる。
【0037】
なお、
図4に示した報知例は1つの例示であり、これに限定されるものではない。例えば、表示部30として液晶ディスプレイを設け、センサ20(カメラ)により撮影された画像を表示するとともに、撮影画像内に写っている報知対象の障害物を識別できるように表示するようにしてもよい。一例として、報知対象の障害物を枠線で囲む表示をしたり、報知対象の障害物以外の領域に半透明のマスキングをかけたりするようにしてよい。このように撮影画像内に写っている報知対象の障害物を識別できるように表示する場合、障害物検出部11は、撮影画像内の障害物を追跡する処理を実行する。
【0038】
図5は、上記のように構成した本実施形態による障害物報知装置10の動作例を示すフローチャートである。
図5に示すフローチャートは、例えば、障害物報知装置10の動作をオンにする操作が行われたときに開始する。
【0039】
まず、障害物検出部11は、障害物種類判定部12と協働して、センサ20の検出エリア内に存在する障害物を検出する(ステップS1)。ここで、障害物検出部11は、走行可能障害物と走行不可能障害物とのそれぞれについて、移動支援自動車から最も近いものを1つずつ(移動支援自動車に近い方が最近障害物、他方が他障害物である)を検出できたか否かを判定する(ステップS2)。
【0040】
センサ20の検出エリア内から走行可能障害物と走行不可能障害物とを1つずつ検出できたと障害物検出部11により判定された場合、距離差算出部13は、当該最近障害物と他障害物との距離差Dを算出する(ステップS3)。そして、報知制御部14は、距離差算出部13により算出された距離差Dが所定値Th以上か否かを判定する(ステップS4)。
【0041】
ここで、最近障害物と他障害物との距離差Dが所定値Th以上の場合、報知制御部14は、最近障害物についての報知を行う(ステップS5)。そして、障害物検出部11は、移動支援自動車が最近障害物を通過したか否かを判定し(ステップS6)、通過していない場合、処理はステップS5に戻り、報知制御部14による最近障害物についての報知を継続する。
【0042】
一方、移動支援自動車が最近障害物を通過したと障害物検出部11により判定された場合、障害物検出部11は、障害物報知装置10の動作をオフにする操作が行われたか否かを判定し(ステップS7)、動作をオフにする操作が行われていない場合、処理はステップS1に戻る。一方、動作をオフにする操作が行われた場合、
図5に示すフローチャートの処理は終了する。
【0043】
上記ステップS4において、最近障害物と他障害物との距離差Dが所定値Th未満であると報知制御部14により判定された場合、報知制御部14は、最近障害物および他障害物のうち走行不可能障害物についての報知を行う(ステップS8)。そして、障害物検出部11は、移動支援自動車が最近障害物を通過したか否かを判定し(ステップS9)、通過していない場合、処理はステップS8に戻り、報知制御部14による走行不可能障害物についての報知を継続する。
【0044】
一方、移動支援自動車が最近障害物を通過したと障害物検出部11により判定された場合、障害物検出部11は、障害物報知装置10の動作をオフにする操作が行われたか否かを判定し(ステップS7)、動作をオフにする操作が行われていない場合、処理はステップS1に戻る。一方、動作をオフにする操作が行われた場合、
図5に示すフローチャートの処理は終了する。
【0045】
上記ステップS2において、センサ20の検出エリア内から走行可能障害物と走行不可能障害物とを1つずつ検出できなかったと障害物検出部11により判定された場合、報知制御部14は、検出された1つの障害物についての報知を行う(ステップS10)。そして、障害物検出部11は、移動支援自動車が最近障害物を通過したか否かを判定し(ステップS11)、通過していない場合、処理はステップS10に戻り、報知制御部14による報知を継続する。なお、センサ20の検出エリア内から障害物が1つも検出されなかった場合、ステップS10で報知を行う対象物はなく、ステップS11からステップS7に抜けるまで報知処理は行われない。
【0046】
一方、移動支援自動車が最近障害物を通過したと障害物検出部11により判定された場合、障害物検出部11は、障害物報知装置の動作をオフにする操作が行われたか否かを判定し(ステップS7)、動作をオフにする操作が行われていない場合、処理はステップS1に戻る。一方、動作をオフにする操作が行われた場合、
図5に示すフローチャートの処理は終了する。
【0047】
以上詳しく説明したように、本実施形態では、移動支援自動車に搭載されたセンサ20の検出エリア内に存在する走行可能障害物と走行不可能障害物とが1つずつ検出された場合に、当該2つの障害物の距離差と、移動支援自動車から最も近い位置で検出された最近障害物および他障害物のそれぞれの種類とに応じて、最近障害物または他障害物の何れか一方についての報知を行うようにしている。
【0048】
このように構成した本実施形態によれば、移動支援自動車の周囲にある複数の障害物の全てが報知されることはなく、最近障害物または他障害物の何れか一方についての報知のみが行われる。これにより、移動支援自動車の周囲に存在する障害物を検出して搭乗者に報知する際に、複数の報知によって搭乗者に混乱を与えることを抑制することができる。
【0049】
また、本実施形態によれば、最近障害物と他障害物との距離差および各障害物の種類に応じて、最近障害物または他障害物の何れか一方が適切に選択されて報知される。このため、最近障害物が走行不可能障害物である場合には当該走行不可能障害物についての報知が行われるとともに、他障害物が走行不可能障害物であって最近障害物との距離差が十分にない場合にも走行不可能障害物についての報知が行われることとなる。これにより、必ず回避すべき種類の走行不可能障害物に関して、搭乗者が報知を受けてから障害物を回避するために必要な時間的余裕を確保することができる。
【0050】
なお、上記実施形態では、センサ20の検出エリア内から走行可能障害物と走行不可能障害物とを1つずつ検出する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、
図6(a)に示すように、センサ20の検出エリアSAを移動支援自動車100の車幅方向に3つのエリアSA
-L,SA
-C,SA
-Rに分け、各エリア内から走行可能障害物と走行不可能障害物とを1つずつ検出するようにしてもよい。この場合、
図6(b)に示すように、6つの警告灯101
-L,101
-C,101
-R,102
-L,102
-C,102
-Rを設け、これらに対して各エリアで検出された最近障害物および他障害物についての報知を行うようにしてもよい。
【0051】
なお、
図6(a)に示す例において、真ん中のエリアSA
-Cは、移動支援自動車100の車幅とほぼ同じ幅を有し、移動支援自動車100から進行方向に延在するエリアである。左側のエリアSA
-Lは、全体の検出エリアSAのうち、真ん中のエリアSA
-Cより左側にあるエリアである。右側のエリアSA
-Rは、全体の検出エリアSAのうち、真ん中のエリアSA
-Cより右側にあるエリアである。
【0052】
また、
図6(b)に示す例において、下側の3つの警告灯101
-L,101
-C,101
-Rは、上述した3つのエリアSA
-L,SA
-C,SA
-Rから検出される最近障害物についての報知を行うためのものである。上側の3つの警告灯102
-L,102
-C,102
-Rは、上述した3つのエリアSA
-L,SA
-C,SA
-Rから検出される他障害物についての報知を行うためのものである。
【0053】
また、上記実施形態では、移動支援自動車から最も近い位置にある走行可能障害物と、移動支援自動車から最も近い位置にある走行不可能障害物とを1つずつ検出する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。このように走行可能障害物と走行不可能障害物とを1つずつ検出する場合、上述したように、走行不可能障害物である最近障害物201と走行可能障害物である他障害物202との間に別の走行不可能障害物が存在することがあり得る。
【0054】
この場合において、2つの走行不可能障害物との距離差が所定値未満であったとすると、移動支援自動車から近い方の走行不可能障害物(最近障害物)についての報知を行い、この報知を受けた搭乗者が運転操作により最近障害物を回避できたとしても、回避した後にその次にある走行不可能障害物に気づいた場合には、それを回避するための時間的余裕を確保できず、回避できなくなってしまう恐れがある。
【0055】
そこで、障害物検出部11は、最近障害物を検出するとともに、移動支援自動車から2番目に近い位置にある障害物を他障害物として検出するようにしてもよい。この場合、検出される障害物が2つとも走行可能障害物である場合もあるし、2つとも走行不可能障害物である場合もあるし、走行可能障害物と走行不可能障害物とが1つずつ検出される場合もある。
【0056】
図7は、この例の場合における報知制御部14による報知の内容を整理して示したものである。
図7において、○印は走行可能障害物を示し、×印を走行不可能障害物を示している。また、☆印は報知を行う対象であることを示している。また、移動支援自動車100から近い方が最近障害物、遠い方が他障害物(移動支援自動車から2番目に近い位置にある障害物)を示している。
【0057】
図7(a)~(d)に示すように、報知制御部14は、距離差算出部13により算出された最近障害物と他障害物との距離差が所定値以上の場合、障害物種類判定部12により判定された各障害物の種類によらず、最近障害物についての報知を行う。また、
図7(e)、(f)に示すように、距離差算出部13により算出された距離差が所定値未満の場合であって、最近障害物および他障害物の一方が走行不可能障害物であり、他方が走行可能障害物であると障害物種類判定部12により判定されたとき、報知制御部14は、走行不可能障害物についての報知を行う。ここまでは上記実施形態と同様である。
【0058】
さらに、
図7(g)に示すように、距離差算出部13により算出された距離差が所定値未満の場合であって、最近障害物および他障害物が何れも走行可能障害物であると障害物種類判定部12により判定されたとき、報知制御部14は、最近障害物についての報知を行う。また、
図7(h)に示すように、距離差算出部13により算出された距離差が所定値未満の場合であって、最近障害物および他障害物が何れも走行不可能障害物であると障害物種類判定部12により判定されたとき、報知制御部14は、例外的に最近障害物および他障害物の両方についての報知を行う。
【0059】
このようにすれば、移動支援自動車100の搭乗者は、最近障害物の手前において、互いに近接している2つの走行不可能障害物の存在をあらかじめ把握することができる。これにより、搭乗者は、2つの走行不可能障害物を安全に回避するための運転操作を行うことができるようになる。
【0060】
また、
図3に示す例においても、
図7に示す例においても、報知を行う対象の障害物が走行不可能障害物である場合に、その障害物から進行方向先の位置であって、当該障害物との距離差が所定値未満の位置に別の走行不可能障害物が存在することがあり得る。この場合も、報知が行われた手前の走行不可能障害物を運転操作により回避できたとしても、その次にある走行不可能障害物を回避するための時間的余裕を確保できず、回避できなくなってしまう恐れがある。
【0061】
そこで、報知制御部14が最近障害物についての報知を行う場合であって当該最近障害物が走行不可能障害物である場合(
図3(b)および
図7(b)、(d)の場合)、および、報知制御部14が走行不可能障害物についての報知を行う場合(
図3(c)、(d)および
図7(e)、(f)、(h)の場合)、障害物検出部11が、報知制御部14が報知を行う対象の障害物から進行方向先の所定範囲(当該障害物からの距離差が所定値未満の範囲)にある障害物である第3障害物を更に検出するととに、障害物種類判定部12が、当該第3障害物が走行不可能障害物であるか否かを更に判定し、当該第3障害物が走行不可能障害物であると判定されたときは、報知制御部14が当該第3障害物についての報知も更に行うようにしてもよい。
【0062】
また、上記実施形態では、最近障害物と他障害物との距離差が所定値未満であって、走行可能障害物と走行不可能障害物とが1つずつ検出されている場合は、最近障害物および他障害物のうち走行不可能障害物についての報知を行う例について説明した(
図3(c)、(d)の場合および
図7(e)、(f)の場合)。これに対し、
図3(c)および
図7(e)のように、最近障害物が走行可能障害物で他障害物が走行不可能障害物の場合に、両方の障害物についての報知を行うようにしてもよい。このように2つの報知を行う場合であっても、センサ20の検出エリア内に存在する3つ以上の障害物を全て検出して報知する場合に比べて、複数の報知によって搭乗者に混乱を与えることを抑制することが可能である。
【0063】
その他、上記実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0064】
10 障害物報知装置
11 障害物検出部
12 障害物種類判定部
13 距離差算出部
14 報知制御部