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特許7039570マイクロ流体チップの疎水性コーティングの方法及びシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-11
(45)【発行日】2022-03-22
(54)【発明の名称】マイクロ流体チップの疎水性コーティングの方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/00 20060101AFI20220314BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20220314BHJP
   B81C 1/00 20060101ALI20220314BHJP
【FI】
B01J19/00 321
G01N37/00 101
B81C1/00
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019513891
(86)(22)【出願日】2017-09-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-07
(86)【国際出願番号】 IB2017001289
(87)【国際公開番号】W WO2018047011
(87)【国際公開日】2018-03-15
【審査請求日】2020-09-08
(31)【優先権主張番号】62/393,624
(32)【優先日】2016-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519275881
【氏名又は名称】エイビーエス グローバル、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラーセン、ジョン
(72)【発明者】
【氏名】チョウ、ユー
(72)【発明者】
【氏名】シァ、チェン
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-142586(JP,A)
【文献】特表2009-500165(JP,A)
【文献】特表2010-524662(JP,A)
【文献】特表2004-532310(JP,A)
【文献】特表2002-544494(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 10/00-12/02、
14/00-19/32
G01N 35/00-37/00、
15/14
B81B 1/00- 7/04
B81C 1/00-99/00
C12M 1/00- 3/10
C12Q 1/00- 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の液体の分離流を促進するマイクロ流体チップ上に疎水性コーティングを設ける方法であって、
該前記疎水性コーティングを該マイクロ流体チップの出口区域上に適用することを含み、ここで、該出口区域は、該チップの端に配置され、
ここで、該出口区域は、複数の出口チャネルと末端部分とを有し、該複数の出口チャネルは該末端部分を通じて伸び、
ここで、該疎水性コーティングは、該疎水性コーティングが、該複数の出口チャネルのいかなる内側とも接触しない様に、該出口区域の端から離れて塗布されて、コーティングされていない末端領域を形成し、
ここで、該液体は、出口流として、該複数の出口チャネルを出、該疎水性コーティングが、該複数の出口チャネルのそれぞれの出口流が、該出口チャネルを出た後に合流することを妨げることにより、該液体の分離流を促進する、上記方法。
【請求項2】
前記疎水性コーティングが、ワックス、ナノ粒子、非共有結合分子、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される一時的コーティングである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記疎水性コーティングが、有機官能性アルコキシシラン分子、該有機官能性アルコキシシラン分子以外の共有結合分子、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される半永久的コーティングである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記疎水性コーティングが、ミクロンサイズのピラーを含む永久的コーティングである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記疎水性コーティングが、細胞との生体適合性がある、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記疎水性コーティングが、フルオロポリマーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記フルオロポリマーが、ペルフルオロトリブチルアミン及びポリ-1,1,2,4,4,5,5,6,7,7-デカフルオロ-3-オキサ-1,6-ヘプタジエンを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記フルオロポリマーが、85~99%のペルフルオロトリブチルアミン及び1~15%のポリ-1,1,2,4,4,5,5,6,7,7-デカフルオロ-3-オキサ-1,6-ヘプタジエンを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記マイクロ流体チップを加熱すること;及び
前記マイクロ流体チップを冷却すること、
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記マイクロ流体チップを加熱することが、55℃で、そして次に205℃で加熱すること、を更に含む、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記55℃で、そして次に205℃で加熱することが、55℃で、次に105℃で、次に155℃で、そして次に205℃で段階的に加熱すること、を更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記55℃で加熱することが1時間にわたり、前記105℃で加熱することが20分間にわたり、前記155℃で加熱することが20分間にわたり、そして前記205℃で加熱することが少なくとも20分間にわたる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
少なくとも1種の液体の分離流を提供するマイクロ流体チップであって、該マイクロ流体チップの出口区域に適用された疎水性コーティングを含
該出口区域は、該チップの端に配置され、
ここで、該出口区域は、複数の出口チャネルと末端部分とを有し、該複数の出口チャネルは該末端部分を通じて伸び、
ここで、該疎水性コーティングは、該疎水性コーティングが、該複数の出口チャネルのいかなる内側とも接触しない様に、該出口区域の端から離れて塗布されて、コーティングされていない末端領域を形成し、
ここで、該液体は、出口流として、該複数の出口チャネルを出、該疎水性コーティングが、該複数の出口チャネルのそれぞれの出口流が該出口チャネルを出た後に合流することを、妨げることにより、該液体の分離流を促進する、上記マイクロ流体チップ。
【請求項14】
前記疎水性コーティングが、フルオロポリマーを含む、請求項13に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項15】
前記フルオロポリマーが、ペルフルオロトリブチルアミン及びポリ-1,1,2,4,4,5,5,6,7,7-デカフルオロ-3-オキサ-1,6-ヘプタジエンを含む、請求項14に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項16】
前記フルオロポリマーが、85~99%のペルフルオロトリブチルアミン及び1~15%のポリ-1,1,2,4,4,5,5,6,7,7-デカフルオロ-3-オキサ-1,6-ヘプタジエンを含む、請求項15に記載のマイクロ流体チップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
米国特許法第119条及び/又は第120条、並びに任意の他の適用可能な法令又は規則に準拠して、本出願は、2016年9月12日に出願された米国出願第62/393,624号の利益及びこれに対する優先権を主張し、その開示内容全体を参照により援用する。
【背景技術】
【0002】
技術分野:本出願は、一般的には、マイクロ流体チップのコーティングに関し、特に、非限定的に、液体がチップを通過するとき、出口からの分離流を促進するマイクロ流体チップの疎水性コーティングに関する。
【発明の概要】
【0003】
マイクロ流体チップ製造における一般的な種々の材料は親水性であるため、液体がチップを通過するとき、複数の出口から分離流が得られるマイクロ流体チップを製造することは困難である。単一のチップの各出口からの分離流を促進するために、マイクロ流体チップの外面を改変して、マイクロ流体チップの疎水性を改変することができる。疎水性の改変により、マイクロ流体チップの各出口からの分離流を促進する効果が得られる。
【0004】
発明の簡単な説明
本発明の一実施形態は、マイクロ流体チップの出口からの液体の分離流を促進するマイクロ流体チップのための疎水性コーティングであり、液体には1つ以上の生細胞が含まれており、また液体と接触するコーティングは生細胞の生存可能性に適合する。換言すると、疎水性物質は生体適合性である。
なお、下記[1]から[23]は、いずれも本発明の一形態又は一態様である。
[1]
少なくとも1種の液体の分離流を促進するマイクロ流体チップ上に疎水性コーティングを設ける方法であって、
該前記疎水性コーティングを該マイクロ流体チップの領域上に適用することを含み、ここで、該疎水性コーティングが、該マイクロ流体チップの該領域について該液体の分離流を促進する、上記方法。
[2]
前記疎水性コーティングが、ワックス、ナノ粒子、非共有結合分子、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される一時的コーティングである、[1]に記載の方法。
[3]
前記疎水性コーティングが、有機官能性アルコキシシラン分子、別の共有結合分子、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される半永久的コーティングである、[1]に記載の方法。
[4]
前記疎水性コーティングが、ミクロンサイズのピラーを含む永久的コーティングである、[1]に記載の方法。
[5]
前記疎水性コーティングが、細胞との生体適合性がある、[1]に記載の方法。
[6]
前記疎水性コーティングが、フルオロポリマーを含む、[1]に記載の方法。
[7]
前記フルオロポリマーが、ペルフルオロトリブチルアミン及びポリ-1,1,2,4,4,5,5,6,7,7-デカフルオロ-3-オキサ-1,6-ヘプタジエンを含む、[6]に記載の方法。
[8]
前記フルオロポリマーが、約85~99%のペルフルオロトリブチルアミン及び約1~15%のポリ-1,1,2,4,4,5,5,6,7,7-デカフルオロ-3-オキサ-1,6-ヘプタジエンを含む、[7]に記載の方法。
[9]
前記領域が、出口区域を含む、[1]に記載の方法。
[10]
前記領域が、前記出口区域内のチャネルを含む、[9]に記載の方法。
[11]
前記領域が、前記マイクロ流体チップの表面及び/又は前記マイクロ流体チップの薄い側面を含む、[1]に記載の方法。
[12]
前記マイクロ流体チップを加熱すること;及び
前記マイクロ流体チップを冷却すること、
を更に含む、[1]に記載の方法。
[13]
前記マイクロ流体チップを加熱することが、55℃で、そして次に205℃で加熱すること、を更に含む、[12]に記載の方法。
[14]
前記55℃で、そして次に205℃で加熱することが、約55℃で、次に約105℃で、次に約155℃で、そして次に約205℃で段階的に加熱すること、を更に含む、[13]に記載の方法。
[15]
前記約105℃で加熱することが約1時間にわたり、前記約105℃で加熱することが約20分間にわたり、前記約155℃で加熱することが約20分間にわたり、そして前記約205℃で加熱することが少なくとも約20分間にわたる、[14]に記載の方法。
[16]
突起を有する前記疎水性コーティングによるいかなる望ましくない閉塞物をも清浄化すること、を更に含む、[1]に記載の方法。
[17]
少なくとも1種の液体の分離流を提供するマイクロ流体チップであって、該マイクロ流体チップの領域に適用された疎水性コーティングを含む、上記マイクロ流体チップ。
[18]
前記疎水性コーティングが、フルオロポリマーを含む、[17]に記載のマイクロ流体チップ。
[19]
前記フルオロポリマーが、ペルフルオロトリブチルアミン及びポリ-1,1,2,4,4,5,5,6,7,7-デカフルオロ-3-オキサ-1,6-ヘプタジエンを含む、[18]に記載のマイクロ流体チップ。
[20]
前記フルオロポリマーが、約85~99%のペルフルオロトリブチルアミン及び約1~15%のポリ-1,1,2,4,4,5,5,6,7,7-デカフルオロ-3-オキサ-1,6-ヘプタジエンを含む、[17]に記載のマイクロ流体チップ。
[21]
前記領域が、出口区域を含む、[17]に記載のマイクロ流体チップ。
[22]
前記領域が、前記出口区域内のチャネルを含む、[21]に記載のマイクロ流体チップ。
[23]
前記領域が、前記マイクロ流体チップの表面及び/又は前記マイクロ流体チップの薄い側面を含む、[17]に記載のマイクロ流体チップ。
【0005】
定義
本明細書で使用する場合、以下の用語は、示した意味を有する。
【0006】
コーティングについて「疎水性」は、液体溶液へのバリアを実質的に形成することを意味する。一実施形態では、該液体溶液には主に水が含まれる。
【0007】
「マイクロ流体チップ(Microfluidic chip)」は、材料(例えば、ガラス、ケイ素、又はPDMS、ポリジメチルシロキサン等のポリマー)にエッチング又はモールド成形された、1組のマイクロチャネルを意味する。マイクロチャネルは、所望の特徴(例えば、生化学的環境物の混合、ポンピング、選別、又は制御)を達成するために互いに接続される。
【0008】
「ワックス」は、水に不溶性の炭化水素又は脂肪酸のエステルからなる任意の物質を意味する。
【0009】
コーティングについて「シラン化」は、有機官能性アルコキシシラン分子で表面を覆うことを意味する。
【0010】
コーティングについて「一時的(temporary)」は、水及び洗浄剤で洗い落とすことができるコーティングを意味する。
【0011】
コーティングについて「半永久的」は、共有結合によって表面に結合しており、且つ溶媒で除去することができるコーティングを意味する。
【0012】
コーティングについて「永久的」は、表面に物理的に結合しており、且つ水、洗浄剤、又は溶媒によっては実質的に除去することができないコーティングを意味する。
【0013】
「ナノ粒子」は、サイズ(直径)が一般的に1から100ナノメートル(nm)の間の粒子である。ナノテクノロジーでは、粒子はその移送及び特性について、単位全体として挙動する小さな物体として定義される。粒子は直径によって更に分類される。
【0014】
コーティングについて「Cytop 809M」(MSDS番号:Z-1590HCS)は、Asahi Glass AGC Group(日本、100-8405、東京都千代田区丸の内1-5-1)の製品である。それは高い透明性を有する非晶質、低分子量のフルオロポリマーである。それはまた、過フッ素化溶媒としても分類される。また、それには以下の成分が含まれる:ペルフルオロトリブチルアミン(CAS番号311-89-7;約85~99%)及びポリ-1,1,2,4,4,5,5,6,7,7-デカフルオロ-3-オキサ-1,6-ヘプタジエン(CAS番号101182-89-2;約1~15%)。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、流出物付近のガラスチップの表面に堆積した疎水性コーティングを概略的に示し、これは液体が流出物から吸い上げるのを防ぐと共に、別の流出物と合流するのを防ぐ。
【0016】
図2図2は、検出窓の周囲のガラスチップ表面に堆積した疎水性コーティングを概略的に示す。コーティングにより、こぼれた液体が、励起ビーム又は蛍光発光のいずれかに影響を与える、封止領域への入り込みを防ぐことができる。
【0017】
図3図3は、コーティングしていないチップ(左)、コーティングしたチップ(影で描かれている、中央)、及び液滴を導くチャネルとして作用するコーティングを有するチップ(開口部近くの長方形のバリアとして描かれている;右)を概略的に示す。
【0018】
図4図4は、CytoP 809M溶液が入っているガラスビーカーを示す。
【0019】
図5図5は、先端から約1mm離れた両側の出口上のコーティング区域を示す(先端の長さは約0.5mmである)。
【0020】
図6図6は、ガラスチップの両側の出口上への疎水性コーティングの塗布を示す。
【0021】
図7図7は、100mmの直径のペトリ皿のスライドガラス上に置いた2つのガラスチップを示す。
【0022】
図8図8は、片側のコーティングをプレベーキングするための55℃のホットプレート上の、2つのガラスチップを有するペトリ皿を示す。
【0023】
図9図9は、疎水性コーティングを施した出口区域上の100μlのDi水を示す。
【0024】
発明の詳細な説明
本開示は、少なくとも1種の液体の分離流を促進するマイクロ流体チップ上に疎水性コーティングを提供する方法に関する。それは、マイクロ流体チップの領域上に疎水性コーティングを塗布することを含む。本開示は、少なくとも1種の液体の分離流を提供するマイクロ流体チップを更に含む。
【0025】
マイクロ流体チップを製造する一般的な材料、例えばガラス、ホウケイ酸塩、溶融シリカ、石英、及び特定のポリマーは、実際、非常に疎水性であるか又は非常に親水性であるかのいずれかである。しかしながら、材料が親水性の場合、チップからの分離出口流の達成は困難になり得る。従って、外表面の親水性の性質を改変して、マイクロ流体チップの出口からの分離流を促進するのが有利であり得る。
【0026】
例えば、水溶液がチップを通って流れるガラスチップの場合、溶液と固体基材との間に生じる接触角は、約30~50°である。出口が真下を向く垂直の位置にマイクロ流体チップがある場合であっても、水溶液はなおチップの外面のものを吸い上げる可能性がある。分離させておくことが望まれる複数の出口がある場合であっても、これらの出口流は合流し得る。出口流の合流を防止するために、より大きい接触角を作り出すようにチップの外表面を改変する必要があり得る。
【0027】
改変は、一時的改変、半永久的改変、又は永久的改変の形態で行うことができる。一時的改変は、非限定的に、物理的方法によって容易に除去されるコーティングであり得る。このような例には、ワックスコーティング、ナノ粒子堆積物、及び非共有結合分子が含まれる。半永久的改変は、非限定的に、共有結合分子、例えばガラス表面のシラン化処理であり得る。永久的な解決策は、非限定的に、マイクロ流体チップの表面の疎水性の性質を変えるミクロンサイズのピラーを作成することによってマイクロ流体チップの表面を物理的に改変することであり得る。
【0028】
マイクロ流体チップ表面の疎水性の性質の変更により、チップの表面上に「チャネル(流路)」を作ることもまた可能になる。親水性/疎水性の改変は、マイクロ流体チップの外表面に沿って流体を導くガイドとして作用することができる。これらは、各出口及び各流れを混合するのにも、またそれらを分離させておくのにも使用できる。
【0029】
上記の改変は、マイクロ流体チップ全体に適用することができる。或いは、改変をマイクロ流体チップの一部に適用して、改変をバリアとして作用させることができる。
【0030】
上記の改変は、分離流がマイクロ流体チップから生じることを可能にするので、既存の装置に対する改良である。改変なしでは、出口流が合流して、所望の出口からの生成物が希釈されるか又は接触することを想定していなかった成分による有害な反応が生じる可能性がある。
【0031】
上記の本発明の商業的可能性は大きい。種々の出口流れを分離させておくことができることにより、原料製品の希釈を大幅に減少させることが可能になる。希釈をできるだけ低く抑えることによって、下流工程の消耗品のコストを最小限に抑えられる。これらの消耗品は、製造される製品の生産のためのCOGに対する主要な変動要因である。
【0032】
本技術の少なくとも1つの態様は、マイクロ流体チップの1つ以上の出口(タインとしても知られる)からの1種以上の液体の分離流を促進する少なくとも1つの疎水性コーティング、組成物又は疎水性物質である。疎水性コーティング、組成物又は物質は、雄性配偶子(sperm cells)等の1つ以上の生細胞を有する少なくとも1の液体と接触する場合、それらの生細胞の生存可能性に適合していなければならない。換言すると、本技術の実施形態の少なくとも幾つかでは、疎水性物質、組成物又はコーティングは生体適合性である。他の実施形態では、本技術のコーティング、物質又は組成物は、他の用途、とりわけ化学的用途から医薬の用途に及ぶ用途、に利用できることを当業者は理解すべきである。他の業界、分野及び産業における更なる用途もまた予想される。例証すると、本技術の幾つかの例は、非限定的に、少なくとも1つのワックスコーティング、少なくとも1つのナノ粒子堆積物、少なくとも1種の非共有結合分子、それらの組合せ、又はそれらの誘導体を含む、本技術の少なくとも1種の一時的疎水性コーティング、組成物、又は物質を非限定的に含む。或いは、本特許請求の範囲に記載の技術の少なくとも1種の半永久的疎水性コーティング、組成物又は物質の更なる例には、例えば、非限定的に、少なくとも1種の共有結合分子、例えばとりわけ有機官能性アルコキシシラン分子が含まれる。
【0033】
更に、本特許請求の範囲に記載の技術には、シラン化もまた含むことができ、これには、例えば、ガラス表面等の少なくとも1つの表面上への少なくとも1種の有機官能性アルコキシシラン分子(単数又は複数)の1つ以上の適用を含むことができる。本明細書に記載及び特許請求の範囲に記載の技術の適用はまた、所望の分野又は用途に応じて他の表面にも適用できることを理解するべきである。更に、本特許請求の範囲に記載の技術の他の実施形態では、マイクロ流体チップの表面の疎水性の性質を変えることができる1つ以上のミクロンサイズのピラーを含むことができる永久疎水性コーティング、組成物又は物質の少なくとも1つの例を提供する。疎水性コーティング、組成物、又は物質は、マイクロ流体チップの表面の一部に、或いはその全体に適用することができる。従って、当業者は、本明細書に記載及び特許請求の範囲に記載のコーティング、組成物、又は物質技術が、出口部分、構成要素等のマイクロ流体チップの一部分の一部に適用され得るか又はその一部であり得ることを理解するであろう。例えば、本特許請求の範囲に記載及び本明細書に記載の技術は、少なくとも1つのマイクロ流体チップの出口部分、タイン等の全体又は部分に適用することができる。
【0034】
本特許請求の範囲に記載及び本明細書に記載の技術の別の態様は、化学的流体、生物的流体、生体適合性流体、医薬的流体、工業的流体等であり得る少なくとも1種の液体の分離流を促進するマイクロ流体チップ上に疎水性コーティング又は疎水性物質を塗布又は含む少なくとも1つの方法である。コーティング、組成物、又は物質の塗布は、本技術のコーティング、組成物又は物質と一緒に又はそれらと関連して利用される物質に応じて、1回又は複数回であり得る。本特許請求の範囲に記載の技術の方法によって製造された少なくとも1つの製品もまた予想されることもまた当業者は理解するべきである。
【0035】
本出願の更なる態様は、本特許請求の範囲に記載の技術の少なくとも1種の疎水性コーティング、組成物、又は物質でコーティングされたマイクロ流体チップである。或いは、非限定的に、少なくとも1つのワックスコーティング、少なくとも1種のナノ粒子堆積物、少なくとも1種の非共有結合分子、有機官能性アルコキシシラン分子等の共有結合分子、それらの組み合わせ及びそれらの誘導体を含む、少なくとも1種以上の一時的又は半永久的疎水性コーティング、組成物、又は物質を塗布する方法によって製造されるマイクロ流体チップもまた予想される。更に、マイクロ流体チップは、マイクロ流体チップの表面の疎水性の性質を変えることができるミクロンサイズのピラーを含む、永久的な疎水性コーティング、組成物、又は物質を塗布することによって作製することができる。
【0036】
更に、本特許請求の範囲に記載の技術では、少なくとも1種の有機官能性アルコキシシラン分子等の共有結合分子を含む少なくとも1つの半永久的疎水性コーティング又は物質を塗布する少なくとも1つのステップを含む本技術の工程の少なくとも1つによって作製された本技術の少なくとも1つの疎水性コーティング、組成物又は物質で線を描いた、コーティングした、覆った等の少なくとも1つのマイクロ流体チップもまた予想される。或いは、この態様の別の実施形態は、マイクロ流体チップの表面の疎水性の性質を変えることができる1つ以上のミクロンサイズのピラーを含む永久的な疎水性コーティング、組成物、又は物質を塗布又は加える方法によって作製された少なくとも1種の疎水性コーティング又は物質でコーティングされた少なくとも1つのマイクロ流体チップであり得る。本明細書に記載及び特許請求の範囲に記載の技術のこの態様は、とりわけバイオテクノロジー、製薬、化学、電気、機械の分野で利用することができることを理解するべきである。
【0037】
本発明を一実施形態に関して説明したが、本明細書に記載の本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、多くの他の可能な改変及び変形を行うことができることを理解するべきである。
【0038】
更に、一般に、本明細書に記載のプロセス、システム、方法等に関して、このようなプロセス等のステップは特定の順序付けされた順序に従って行われるように記載されているが、このようなプロセスを、本明細書に記載された順序以外の順序で、記載されたステップを行なって、実行することができることを理解するべきである。更に、特定の複数のステップを同時に実行し得ること、他のステップを追加し得ること、又は本明細書に記載の特定のステップを省略し得ることを理解するべきである。換言すると、本明細書のプロセスの説明は、特定の実施形態を例示する目的で提供されており、決して特許請求の範囲に記載の発明を限定するように解釈されるべきではない。
【0039】
更に、上記の説明は例示的であり、限定的ではないことを意図していることを理解するべきである。提供した例以外の多くの実施形態及び用途は、上記の説明を読めば当業者には明らかであろう。本発明の範囲は上記の説明に関して決定されるのではなく、その代わりに、添付の特許請求の範囲に記載の各請求項に関して、及びこのような特許請求の範囲に記載の各請求項によってもたらされる均等のものの全範囲内と共に、決定されるべきである。本明細書で論じた技術に将来、開発が行われること、及び開示したシステム及び方法がそのような将来の実施形態に組み込まれることは予想されており、また意図されている。要するに、本発明は改変及び変形が可能であり、以下の特許請求の範囲に記載の各請求項によってのみ限定されることを理解するべきである。
【0040】
最後に、本出願で使用した全ての定義された用語には、本明細書で提供した定義と一致するそれらの最も広い妥当な解釈が与えられることを意図している。特許請求の範囲に記載の各請求項で使用した未定義の用語の全てには、本明細書で反対の明示的な指示がない限り、当業者によって理解されるそれらの通常の意味と一致するそれらの最も広い妥当な解釈が与えられることを意図している。特に、「1つ(a)」、「その(the)」、「前記(said)」等の単数形の冠詞を使用している場合、特許請求の範囲に記載の請求項がそれとは反対に明確な限定を列挙していない限り、示された要素の1つ以上を列挙していると読み取るべきである。
【実施例
【0041】
例1 チップ疎水性コーティング手順
使用前に、ガラスチップは、チップの外表面から水溶性の汚染物質又は大きなごみを除去するためにDI水中で超音波処理することによって清浄化される。ガラスチップをDI水から取り出す。余分な水分はレンズペーパーで拭き取り、家庭用圧縮空気を使用してチャネルから水を吹き飛ばす。
【0042】
CytoPコーティング溶液(例えば、CytoP 809M)を、使用前に約1時間室温に温める。
【0043】
ガラスビーカー(140ml以下のサイズ、図4参照)に約2mLのCytop 809Mを入れる。代わりに、直径35mm、高さ10mmのガラスペトリ皿もCyto 809Mを保持する、この目的の機能を果たす。マイクロスワブをCytop 809Mに浸し、チップの両側の出口区域を塗布する。コーティング塗布区域については図5を参照されたい。両側(前面、背面、及び薄い側面(edge))をコーティングする。
【0044】
ホットプレート等のヒーターをオンにし、温度を約55℃に調整する。次に、ガラスチップの片側にマイクロコットンスワブ等のアプリケーターを使用して、先ず、図5に示す区域にコーティングを注意深く塗布する。この時点ではチップの全ての側はコーティングせず、面の1つのみをコーティングする。チップの出口端は、コーティング溶液が広がるのを防ぐためにわずかに傾斜している。(図6を参照)。
【0045】
コーティングは、コーティング溶液が毛細管力によってマイクロチャネル内に充填されるのを防ぐために、先端の端から約1mm離れていなければならない。中央のサンプル出口とその周辺区域のコーティングは避けるべきである(図5を参照)。
【0046】
片側のコーティングを行った後、コーティングしたチップを、図7に示すように、ペトリ皿等の容器内の2つのスライドガラスの上面上にピンセットで置く。次に、ホットプレート等のヒーターの頂部にペトリ皿全体を置き、コーティングした側のコーティングを55℃前後でプレベーキングする(図8を参照)。この手順は、過剰量のコーティング溶液が落下するか又はガラスチップの裏側に幾つかの小さな液滴を形成するのを効果的に防止するのに役立ち得る。
【0047】
スライドガラスとガラスチップのコーティングした区域との間にはある程度の隙間がある。コーティング材料は、ベーキング温度で完全に硬化し、ガラス層に接着する接着剤(epoxy)としてうまく機能する。
【0048】
約3~5分後、ピンセットでガラスチップを取り出し、同じステップに従って、ガラスチップの他の側及び薄い側面(edge)をコーティングする。次に、ペトリ皿を覆い、約1時間ベーキングする。
【0049】
ホットプレートを約55℃から約105℃まで約20分間、約155℃で約20分間、約205℃で約20分間、温度勾配に付す。約205℃で更に約50分間ベーキングする。次に、熱を切り、ペトリ皿をケミカルフードの涼しい場所に注意深く移して、冷却させる。
【0050】
一旦冷却した後、顕微鏡下で閉塞された出口がないかチップを検査する。出口チャネルが塞がれている場合は、直径が約120μmの鍼治療針等の針又は突起を、出口チャネルを開けるのに使用することができ、次に超音波装置に入れて残留しているごみを取り除く。最後に、圧縮空気を使用してチェナル内の水とごみを吹き飛ばす。
【0051】
最後に、ピペットを使用して、約100μLのDI水を吸い上げ、2つのコーティングした出口先端に滴下し、疎水性コーティングの効果を調べるために、接触角を観察する(図9参照)。
【0052】
例2 チップ疎水性コーティング手順
電源ボタンを押すことによって対流式オーブンの電源を入れる。ファンを最低速度に設定し、ダンパーを完全に閉じて、温度を約55°Cに設定する。
【0053】
ピペット等のディスペンサーを使用して、約2~3滴のCytop 809Mを計量ボート等の容器に入れる。
【0054】
チップをその容器から注意深く取り出す。スワブを使用してチップのタインにコーティングを塗布するが、図5に示すように、両側の出口から約1~2mm以内にコーティングが入らないように注意する。チップの側面(edge)を確実にコーティングする。
【0055】
コーティングが何にも触れないように注意しながら、チップをペトリ皿の支持棒の上に置く。
【0056】
全てのチップがコーティングされたら、ペトリ皿をオーブンに注意深く移動させる。ドアを閉めて、温度#4(Thermo Scientific対流式オーブン)を選択する。プログラムは自動的に起動し、完了までに約3時間かかる。チップを一晩冷却させた後、それらをオーブンから取り出す。
【0057】
ベーキングが完了した後、ペトリ皿を注意深く取り出す。チップを検査した後、それらを容器に戻す。
【0058】
参考文献
1.Sklodowaka、A.、Wozniak、M.、Matlakowska、R.、“The method of contact angle measurements and estimation of work of adhesion in bioleaching of metals.”Biol.Proc.Online、1(3)、114-121、1999。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9