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特許7039583形状記憶及び超弾性の性質を備えたNiフリーベータTi合金
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-11
(45)【発行日】2022-03-22
(54)【発明の名称】形状記憶及び超弾性の性質を備えたNiフリーベータTi合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 14/00 20060101AFI20220314BHJP
   C22F 1/18 20060101ALI20220314BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20220314BHJP
【FI】
C22C14/00 Z
C22F1/18 H
C22F1/00 685Z
C22F1/00 625
C22F1/00 627
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 686B
C22F1/00 602
C22F1/00 624
C22F1/00 626
C22F1/00 630L
C22F1/00 630G
C22F1/00 675
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 694B
C22F1/00 612
【請求項の数】 40
(21)【出願番号】P 2019524054
(86)(22)【出願日】2016-11-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-02-06
(86)【国際出願番号】 US2016061843
(87)【国際公開番号】W WO2018089028
(87)【国際公開日】2018-05-17
【審査請求日】2019-09-18
(73)【特許権者】
【識別番号】506074358
【氏名又は名称】フォート・ウェイン・メタルズ・リサーチ・プロダクツ・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】カイ,ソング
(72)【発明者】
【氏名】シャファー,ジェレミー イー.
(72)【発明者】
【氏名】グリーベル,アダム ジェイ.
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0338795(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0151610(US,A1)
【文献】米国特許第5758420(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0139933(US,A1)
【文献】特開2009-097064(JP,A)
【文献】特開2007-016313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 14/00
C22F 1/18
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベータチタン合金であって、
16at%から20at%のハフニウム、ジルコニウム、又はその組合せと;
8at%から17at%のニオブと;
0.25at%から6at%のスズと;
0.05wt%未満のニッケルと;
残部チタン及び不純物からなり、
前記ベータチタン合金が少なくとも3.5%の等温回復ひずみを有する超弾性挙動を示し、
前記ベータチタン合金が形状固定部品で形成される、ベータチタン合金。
【請求項2】
前記ベータチタン合金が少なくとも5%の等温回復ひずみを有する超弾性挙動を示す、請求項1に記載のベータチタン合金。
【請求項3】
最低1%のハフニウムが前記ベータチタン合金に含まれる、請求項1に記載のベータチタン合金。
【請求項4】
前記ベータチタン合金が、ハフニウム及びジルコニウムの両方を含み、ジルコニウムに対するハフニウムの比率が3:1から1:17である、請求項1に記載のベータチタン合金。
【請求項5】
前記ベータチタン合金が16at%から20at%のハフニウムを含む、請求項1に記載のベータチタン合金。
【請求項6】
前記形状固定部品が引抜部品である、請求項1に記載のベータチタン合金。
【請求項7】
前記引抜部品がワイヤ、管及びロッドのうちの1つである、請求項6に記載のベータチタン合金。
【請求項8】
前記引抜部品が、0.84×10-6から410×10-6平方センチメートルの断面積を有し、ジルコニウムに対するハフニウムの比率が3:1から10:1であるワイヤである、請求項6に記載のベータチタン合金。
【請求項9】
前記引抜部品が、410×10-6から1140×10-6平方センチメートルの断面積を有し、ジルコニウムに対するハフニウムの比率が3:1から1:5であるワイヤである、請求項6に記載のベータチタン合金。
【請求項10】
前記引抜部品が、1140×10-6から4561×10-6平方センチメートルの断面積を有し、ジルコニウムに対するハフニウムの比率が1:5から1:8であるワイヤである、請求項6に記載のベータチタン合金。
【請求項11】
前記引抜部品が、32×10-3から203×10-3平方センチメートルの断面積を有し、ジルコニウムに対するハフニウムの比率が1:8から1:17であるロッドである、請求項6に記載のベータチタン合金。
【請求項12】
前記引抜部品が、中空を有するシェル及び前記シェル内に収容されるコアを含む複合ワイヤである、請求項6に記載のベータチタン合金。
【請求項13】
前記ベータチタン合金が75%から99%の冷間加工を保持している、請求項1に記載のベータチタン合金。
【請求項14】
前記ベータチタン合金が2.0から5.0at%のスズを含む、請求項1に記載のベータチタン合金。
【請求項15】
前記ベータチタン合金が500ppm未満のニッケルを含む、請求項1に記載のベータチタン合金。
【請求項16】
前記ベータチタン合金が0.01wt%未満のニッケルを含む、請求項1に記載のベータチタン合金。
【請求項17】
前記ベータチタン合金は、前記ベータチタン合金が10サイクルで0.5%の交番ひずみに耐えるような疲労強度を示す、請求項1に記載のベータチタン合金。
【請求項18】
前記ベータチタン合金が827MPaに達する最大引張強さを示す、請求項1に記載のベータチタン合金。
【請求項19】
ベータチタン材料であって、
16at%から20at%のハフニウム、ジルコニウム又はその組合せと;
8at%から17at%のニオブと;
0.25at%から6at%のスズと;
0.05wt%未満のニッケルと;
残部チタン及び不純物からなり、
前記材料が少なくとも3.5%の等温回復ひずみを有する超弾性挙動を示し、
前記材料が引抜構成物である、ベータチタン材料。
【請求項20】
前記材料が少なくとも5%の等温回復ひずみを有する超弾性挙動を示す、請求項19に記載のベータチタン材料。
【請求項21】
最低1%のハフニウムが前記材料に含まれる、請求項19に記載のベータチタン材料。
【請求項22】
前記材料が、ハフニウム及びジルコニウムの両方を含み、ジルコニウムに対するハフニウムの比率が3:1から1:17である、請求項19に記載のベータチタン材料。
【請求項23】
前記材料が16at%から20at%のハフニウムを含む、請求項19に記載のベータチタン材料。
【請求項24】
前記引抜構成物がワイヤ、管及びロッドのうちの1つである、請求項19に記載のベータチタン材料。
【請求項25】
前記引抜構成物が75%から99%の冷間加工を保持している、請求項19に記載のベータチタン材料。
【請求項26】
前記材料が2.0から5.0at%のスズを含む、請求項19に記載のベータチタン材料。
【請求項27】
前記材料が500ppm未満のニッケルを含む、請求項19に記載のベータチタン材料。
【請求項28】
前記引抜構成物が0.01wt%未満のニッケルを含む、請求項19に記載のベータチタン材料。
【請求項29】
前記引抜構成物は、前記材料が10サイクルで0.5%の交番ひずみに耐えるような疲労強度を示す、請求項19に記載のベータチタン材料。
【請求項30】
前記引抜構成物が827MPaに達する最大引張強さを示す、請求項19に記載のベータチタン材料。
【請求項31】
ベータチタン合金の製造方法であって、
16at%から20at%のハフニウム、ジルコニウム又はその組合せと;
8at%から17at%のニオブと;
0.25at%から6at%のスズと;
0.05wt%未満のニッケルと;
残部チタン及び不純物とを混合し、得られたベータチタン合金の原料を形状固定することによりベータチタン合金を形成する方法。
【請求項32】
前記形状固定の工程が、
前記ベータチタン合金の原料を所望の形状に拘束することと;
前記ベータチタン合金の原料を1秒から1時間の時間、500℃から1000℃の周囲温度にさらすこととを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記ベータチタン合金が0.84×10-6から1140×10-6平方センチメートルの断面積を有し;
スズが0.25at%から3at%で与えられ;
前記形状固定の工程が、前記ベータチタン合金の原料を1秒から10分の時間、500℃から1000℃の周囲温度にさらすことを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記ベータチタン合金が1140×10-6から203×10-3平方センチメートルの断面積を有し;
スズが3at%から6at%で与えられ;
前記形状固定の工程が、前記ベータチタン合金の原料を2分から1時間の時間、500℃から1000℃の周囲温度にさらすことを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
前記ベータチタン合金が0.84×10-6から410×10-6平方センチメートルの断面積を有し;
前記形状固定の工程が、前記ベータチタン合金の原料を1秒から1分の時間、500℃から1000℃の周囲温度にさらすことを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項36】
前記ベータチタン合金が0.84×10-6から410×10-6平方センチメートルの断面積を有し;
前記形状固定の工程が、前記ベータチタン合金の原料をマンドレルに位置させることと、前記ベータチタン合金及び前記マンドレルを1分から10分の時間、500℃から1000℃の周囲温度にさらすこととを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項37】
前記ベータチタン合金が410×10-6から1140×10-6平方センチメートルの断面積を有し;
前記形状固定の工程が、前記ベータチタン合金の原料を30秒から2分の時間、500℃から1000℃の周囲温度にさらすことを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項38】
前記ベータチタン合金が1140×10-6から4561×10-6平方センチメートルの断面積を有し;
前記形状固定の工程が、前記ベータチタン合金の原料を30秒から30分の時間、500℃から1000℃の周囲温度にさらすことを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項39】
前記ベータチタン合金が32×10-3から203×10-3平方センチメートルの断面積を有し;
前記形状固定の工程が、前記ベータチタン合金の原料を5分から60分の時間、500℃から1000℃の周囲温度にさらすことを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項40】
前記ベータチタン合金の前記形状固定の工程後、前記ベータチタン合金の原料を1秒から1時間の時間、150℃から250℃の周囲温度にさらすことにより、前記ベータチタン合金の原料を時効させることをさらに含む、請求項31に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、形状記憶合金及びその製造方法を対象とし、特に、合金構成成分としてニッケルを含まないチタン系形状記憶合金を対象とする。
【背景技術】
【0002】
特殊合金は外科的埋込用途のために開発されている。このような合金の1つは、ニチノール(一般的に「NiTi」とも称される)として公知であり、外科的埋込に使用される棒状及びワイヤ状で製造される。例えば、植え込み型除細動器又はペーシングデバイスから心臓まで心臓ペーシングパルスを送るのに適応した心臓ステント及びペーシングリードなどがある。
【0003】
NiTi合金は、その形状記憶及び超弾性の性質により、医学的用途に広く使われている。この特異的な性質により、材料又はデバイスは永久的な損傷を受けることなく、比較的大きな変形から回復する。これは低侵襲手術など、一部の用途に望ましい。NiTi合金は、ステント、ガイドワイヤ、スタイレットワイヤ、血管内動脈瘤修復装置、及び塞栓保護装置などの高性能末梢血管製品の医療装置市場において重要である。
【0004】
生体内医療装置の一部のレシピエントは、ニッケルに敏感である(例えばアレルギーがある)。こうしたレシピエントのため、例えば、管腔開存ステント又は脳動脈瘤閉鎖繊維など、ニッケルを含まず、その意図される生体内の目的に好適である合金が所望される。
【0005】
これまで、Niフリー超弾性合金の開発に努めてきた。準安定ベータTi合金が変形する間、変形ひずみを受け入れるため、応力誘起マルテンサイト変態(SIMT)が起こり、(bcc結晶構造を有する)ベータ相が(斜方結晶構造を有する)マルテンサイトに変態する。応力誘起マルテンサイトが変形温度で安定していない場合、逆相変態が除荷の際に起こり、マルテンサイトがベータ相に再度変態する。この相変態に関連するひずみは、材料を永久的に損傷することなく、比較的大きな変形から回復させることができ、医療装置など、一部の用途で有益な性質である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許出願公開第12/395,090号明細書
【文献】米国特許第8,840,735号明細書
【非特許文献】
【0007】
【文献】Jeremy E.Schaffer、“Structure-Property Relationships in Conventional and Nanocrystalline NiTi Intermetallic Alloy Wire”,Journal of Materials Engineering and Performance 18,582-587(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示は、医療装置用途等に好適な形状記憶及び超弾性の性質を有し、実質的にニッケルフリーのベータチタン合金の一群を対象とする。特に、本開示は16~20at%のハフニウム、ジルコニウム又はその混合物と、8~17at%のニオブと、0.25~6at%のスズとを含むチタン系合金群を提供する。この合金群は軸変形、曲げ変形又はねじり変形後、少なくとも3.5%の回復ひずみを示す。いくつかの例においては、これらの合金は5%超の変形ひずみ回復性を有する。ニオブ及びスズはベータ相の安定性を制御するために合金に与えられ、これにより所望の適用温度(例、体温)で形状記憶又は超弾性の性質を示す材料の能力が高められる。ハフニウム及び/又はジルコニウムは材料の放射線不透過性を高めるために置き換え可能に添加することができ、材料の超弾性にも寄与する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
その一形態において、本開示は実質的にニッケルフリーのベータチタン合金を提供し、16at%から20at%のハフニウム、ジルコニウム又はその組合せと;8at%から17at%のニオブと;0.25at%から6at%のスズと;残部チタン及び不純物からなり、本合金は少なくとも3.5%の等温回復ひずみを有する超弾性挙動を示し、本合金は形状固定部品に形成される。
【0010】
その別の形態において、本開示は実質的にニッケルフリーのベータチタン材料を提供し、16at%から20at%のハフニウム、ジルコニウム又はその組合せと;8at%から17at%のニオブと;0.25at%から6at%のスズと;残部チタン及び不純物からなり、本材料は少なくとも3.5%の等温回復ひずみを有する超弾性挙動を示し、本材料は引抜構成物である。
【0011】
そのさらに別の形態において、本開示は実質的にニッケルフリーのベータチタン合金の製造方法を提供し、16at%から20at%のハフニウム、ジルコニウム又はその組合せを提供することと;8at%から17at%のニオブを提供することと;0.25at%から6at%のスズを提供することと;残部チタン及び不純物を提供することと;本合金を形状固定することとを含む。
【0012】
本発明の上記及び他の特徴及び目的、これらを達成する方法はより明らかになり、本発明自体は添付図と併せて、本発明の実施形態の以下の説明を参照することにより、より理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A図1Aは本開示による直径D2Sを有する単層ワイヤの斜視断面図である。
図1B図1Bは本開示による全径D2Sを有する複合ワイヤの斜視断面図である。
図2A図2Aは潤滑引抜ダイスを用いて単層ワイヤを形成する例示的プロセスを示す模式図である。
図2B図2Bは潤滑引抜ダイスを用いて複合ワイヤを形成する例示的プロセスを示す模式図である。
図2C図2Cは最終冷間加工プロセス前の本開示によるワイヤの立面図である。
図2D図2Dは最終冷間加工プロセス後の図2Cのワイヤの立面図である。
図3図3は本開示による実質的にニッケルフリーのベータチタン合金に関する一組の応力-ひずみ曲線である。
図4図4は本開示による別の実質的にニッケルフリーのベータチタン合金に関する一連の応力-ひずみ曲線である。
図5図5は本開示による別の実質的にニッケルフリーのベータチタン合金に関する一組の応力-ひずみ曲線である。
図6図6は本開示による一組の実質的にニッケルフリーのベータチタン合金に関する一組の応力-ひずみ曲線であり、1つの曲線は古いサンプルに関し、もう一方の曲線は応力-緩和サンプルに関する。
図7図7は応力の印加により4%の全変形を付与する応力-ひずみ曲線を示す。
図8図8は本開示による直径Dを有する網目状ステントの形状を示す立面図であり、このステントは網状管骨格に形成されたワイヤ要素を含む。
図9図9は本開示による網状管骨格に形成されたワイヤ要素を含む編組ステントの形態を示す立面図である。
【0014】
同じ引用符号は複数の図面を通して、同じ部分を示す。ここで示した例は本発明の実施形態を示すが、以下に開示する実施形態は、すべてを網羅せず、また、開示された正確な形状に本発明の範囲を限定するものとして解釈されない。
【発明を実施するための形態】
【0015】
序文
本開示は、改善された回復ひずみ性を示すニッケルフリーの超弾性合金を提供する。このような合金は、微量不純物として500ppm、又はそれ未満の限度レベルでニッケルを含有する。例えば、ワイヤ及び他の構造物はTi+(16-20)(Hf+Zr)+(8-17)Nb+(0.25-6)Sn(at%)で作製することができる。この合金群から作製される構造物は、後述するような適当な熱調整を受けた後、ニッケル系合金に匹敵し、他のニッケルフリー合金よりも優れた回復ひずみ性を示すことが見出されている。特に、本開示の合金は、ニッケルに敏感な患者用など、医療装置における用途に好適である。
【0016】
用語
ここで、「ワイヤ」又は「ワイヤ製品」は、連続ワイヤ及びワイヤ製品を包含する。連続して製造され、その後に処理、使用するため、スプールに巻き付けられる場合がある。例えば円形断面を有するワイヤ、及び非円形断面を有し、平角ワイヤ又はリボンを含むワイヤなどである。また、「ワイヤ」又は「ワイヤ製品」は、ストランド、ケーブル、コイル、及び管類など、他のワイヤ系製品を包含し、特定の用途に応じて特定の長さで製造することができる。いくつかの例示的実施形態において、本開示によるワイヤ又はワイヤ製品は、最大で2.5mmの直径を有することができる。ワイヤ及びワイヤ製品に加えて、本開示の原理は、2.5mmより大きく、最大で20mmの直径を有するロッド材料など、他の材料形状を製造するのに用いることができる。例示的な管類構造はワイヤ状又はロッド状であり、内径0.5mmから4.0mm、壁厚0.100mmから1.00mmを有する。「微細ワイヤ」は1mm未満の外径を有するワイヤを指す。
【0017】
「超弾性」材料はごくわずかな塑性変形を有し、2%超のひずみを受けることができる材料であり、この材料は永久的な損傷を受けることなく、変形後、その元の寸法に戻ることができる。
【0018】
「回復ひずみ」は、除荷後の残留ひずみε図7)を引いた、被加工物に対する力の印加中の全変形ひずみとして定義される。回復ひずみを生成する負荷及び除荷は、活性化オーステナイト仕上げ温度(Af)又はマルテンサイト変態温度(Mr)より高い温度で、あるいは低温変形後これらの温度の1つより高い温度で回復した時に生じる。図7は応力-ひずみ曲線を示し、4%の全変形が応力の印加(例えば、図示されるように約650MPa)により付与される。除荷後、被加工物は回復ひずみ(ε、約3.4%と図示)及び非回復ひずみ(ε、約0.6%と図示)を有し、合計して4%の全変形となる。
【0019】
「等温回復ひずみ」は実質的に一定の周囲温度で、すなわち被加工物の外部加熱又は冷却を行わずに観察できる回復ひずみである。被加工物は、等温ひずみ回復内で微細構造変化から内部加熱又は冷却を受ける場合がある。周囲温度は、例えばひずみ回復開始時の公称温度プラスマイナス3℃など、等温ひずみ回復の際にわずかに変化してよい。周囲温度とは20~30℃の室温、又は36.4~37.2℃の体温である。
【0020】
「DFT(登録商標)」はインディアナ州フォートウェインのFort Wayne Metals Research Products Corp.の登録商標である。これは、バイメタル又はポリメタル複合ワイヤ製品であり、2層又はそれ以上の金属又は合金の同心円層を含む。通常、固体金属ワイヤコア要素上の管又は多層管を引き抜くことにより形成されるコアフィラメントに、少なくとも1層の外層が配置される。
【0021】
ここで、「疲労強度」は材料が破断に至る所定の負荷サイクル数を満たすか、又はそれを超える負荷レベルを指す。ここで、負荷レベルは変位又はひずみ制御疲労試験の規格である交番ひずみとして示される。これにより用語はASTM E606のものと一致し、その全体が参照により組み込まれる。回転ビーム疲労試験による交番ひずみ試験について、ワイヤサンプルを約118mm(例えば、直径0.33mmのワイヤ)の長さに切断後、その軸端を回転ジョーに固定する。ジョー間のワイヤが固定されない部分を曲げて、「ピーク」つまり屈曲の最外部に所望の引張りひずみを導入する。この屈曲のピークの正反対に、ワイヤは引張りひずみに等しい圧縮ひずみを受ける。引張り及び圧縮ひずみの両方の公称値はここでは「ひずみ振幅」と呼ぶ。その後、ジョーを同時に回転させ(つまり、同じ速度、同じ方向で各ジョーを回転させる)、最大の引張りひずみの領域がワイヤ「ピーク」周りを回転し、ジョー及びワイヤの各180度回転により、最大の圧縮ひずみの領域に移行する。回転ビーム試験はさらにASTM E2948-14に記載されており、その全体が参照によりここに明白に組み込まれる。
【0022】
「不純物」、「偶発的不純物」及び「微量不純物」は、500ppm又は0.05wt%未満で材料に存在する材料構成成分である。ある構成成分の「フリー」の合金は、該構成成分を500ppm以下の不純物限度量で有する合金である。例えば「ニッケルフリー」合金は、500ppm以下のニッケルを含有する。いくつかの実施形態において、このような「ニッケルフリー」合金は、例えば250ppm、150ppm又は100ppm未満のニッケルを含有する場合がある。
【0023】
ニオブ、スズ並びにハフニウム及び/又はジルコニウムと合金化したチタン
医療装置など一部の用途では、実質的に変形し(例、4%以上)、続いて材料に対し永久的な損傷又は塑性変形なしに、完全に回復することができる材料が有効である。このような材料は高い弾性変形性を有し、塑性変形がほとんど無いか全くないため、一般的に「超弾性」材料と呼ばれる。伝統的に、ニッケル-チタン材料は超弾性材料を必要とする用途の優れた候補である。しかし、ニッケルに敏感であるか、避けたい患者に使用される医療装置など、伝統的なNiTi系合金が好適な選択肢でない場合がある。これらの設計制約の認識から、本開示により作製された材料は実質的にニッケルフリーのベータチタン材料を提供し、医療装置等の使用に好適な超弾性挙動を示す。
【0024】
本開示のニッケルフリー超弾性合金は、
・合計で16~20at%のハフニウム、ジルコニウム又はその混合物;
・8~17at%のニオブ;
・0.25~6at%のスズ;
・合金組成物の残部を形成するチタン及び任意の不純物、を含む。
【0025】
特に、本開示による例示的な合金は、ハフニウム、ジルコニウム、又はハフニウム及びジルコニウムの組合せをわずか16at%、16.5at%又は17at%の濃度、及び19at%、19.5at%又は20at%もの濃度、あるいは上述の値の任意の2つにより定義される任意の範囲、例えば16at%~20at%、16.5at%~19.5at%、又は17at%~19at%の任意の濃度で含む。例えば、ある例示的な合金は、ハフニウム/ジルコニウム濃度が17から19at%である。ハフニウム/ジルコニウム濃度レベルが16%未満であれば、得られる合金は室温及び/又は体温でマルテンサイトとなり、本合金と同様に、これらの温度でベータ相とならない。逆に、ハフニウム/ジルコニウム濃度レベルが20%を超えると、得られる合金は、材料の応力範囲を通して、ベータ相(すなわち、オーステナイト)で安定し、応力-誘起マルテンサイト変態は生じず、材料はここで記載したような「形状記憶」又は「超弾性」挙動を有さない。
【0026】
さらに、ハフニウムは合金に放射線不透過性を付与する。特定の用途に必要又は所望されるのに応じて、合金中のハフニウムのレベルを対応して調節することにより、合金の相対的な放射線不透過性挙動を調節することができる。いくつかの実施形態において、ジルコニウムはハフニウムの一部又はすべてを置き換えることができる。ジルコニウムはハフニウムと比べて、一般的に低コストで得られるため、ハフニウムの代わりにジルコニウムを使用することで、本ニッケルフリーの合金の全体的なコストを下げることができる。
【0027】
本開示の目的のため、ハフニウム、ジルコニウム又はその組合せは、「ハフニウム/ジルコニウム」又は「Hf/Zr」と呼ぶ場合がある。この命名は完全にハフニウム、完全にジルコニウム又はハフニウム及びジルコニウムの任意の組合せを特異的な濃度に達するように含む構造物を含むことが理解される。しかし、ハフニウムが単独で、又はジルコニウムとの組み合わせで用いられる場合、本開示の合金は、少なくとも1at%のハフニウム、及びジルコニウム又は追加のハフニウムのどちらかを、ハフニウム又はハフニウム/ジルコニウムの組合せの原子割合が上記特異的な範囲に達するように含む。
【0028】
本開示による例示的な合金は、わずか8at%、10at%又は12at%の濃度、及び14at%、16at%又は17at%もの濃度でニオブを含み、あるいは例えば8at%~17at%、10at%~16at%又は12at%~14at%など、上述の値の任意の2つにより定義される任意の範囲内の任意の濃度でよい。例えば、ある例示的な合金は12.0から15.0at%の濃度でニオブを有する。ニオブの濃度レベルが8%未満であれば、Hf/Zrの結果が上述のように列挙された範囲未満であるのと同様に、得られる合金は室温及び/又は体温でマルテンサイトである。反対に、ニオブ濃度レベルが17%を超えると、Hf/Zrの結果が列挙した範囲を超えるのと同様に、得られる合金は応力-誘起マルテンサイトを生じる能力を有さないため、超弾性挙動を示さない。
【0029】
本開示による例示的な合金は、わずか0.25at%、0.75at%又は1.25at%の濃度、及び5.0at%、5.5at%又は6.0at%もの濃度でスズを含み、あるいは例えば0.25at%~6.0at%、0.75at%~5.5at%又は1.25at%~5.0at%など、上述の値の任意の2つにより定義される任意の範囲の任意の濃度でよい。例えば、ある例示的な合金は、2.0から5.0at%のスズ濃度を有する。スズ濃度レベルが0.25%未満なら、応力-誘起マルテンサイトが除荷の際にオーステナイトに戻るか、又は「回復」できないため、得られる合金は超弾性挙動を示さない。反対に、スズ濃度レベルが6%を超えると、材料はベータ相で安定しすぎ、応力-誘起マルテンサイト、並びに関連する形状記憶及び超弾性挙動を生じない。
【0030】
本開示による合金を、例えば伝統的なキャスティング法により大量に形成することができる。その後、所望の予備形成サイズ及び形状に熱間加工することにより、この大量の材料を好適な予備形成材料(例えば、ロッド、平板又は中空管)に形成する。本開示の目的のため、材料を室温を超える高温に加熱し、材料を高温で維持しながら、所望の成形及び形成作業を実施することにより熱間加工を行う。インゴットなど、得られる予備形成材料はその後さらに、以下に述べるような冷間形成及びアニーリングサイクルを繰り返すことにより製造されるロッド、ワイヤ又は管等の中間形に加工される。
【0031】
以下の表1は本開示により作製された3つの特定の例示的な合金を示す。以下にさらに記載するように、本Ti-(16-20)(Hf+Zr)-(8-17)Nb-(0.25-6)Sn合金群の選択された合金について、材料の性質を試験及び確認するため、表1の合金を製造、試験した。サンプル1、2及び3をアーク溶解し、均質化し、1000℃で押し出して、中間形状を作製した。その後以下に詳細に記載するように、ワイヤ材料に引抜いた。
【0032】
【表1】
表1:Ti-(16-20)(Hf+Zr)-(8-17)Nb-(0.25-6)Sn合金の例示的なサンプル
【0033】
Ti-Hf/Zr-Nb-Snを含む完成構成物
一つの例示的実施形態において、それぞれ図1B及び1Aに示すように、本開示により作製されたTi-Hf/Zr-Nb-Sn材料を医療グレードのワイヤ101又は103に形成することができる。ワイヤ101、103は例えば2.5mm未満のワイヤ外径D2Sを有してよい。以下に詳細に記載するように、ロッド、管及び他の構成物も作製することができる。
【0034】
1.引抜及び冷間加工
ワイヤ101、103を、例えば中間材料形状(例えば、インゴット又はロッド)を引抜及びアニーリングするスケジュールにより作製して、最終加工の準備が整った最初の粗ワイヤ構造物を作製することができる。その後、以下にさらに記載するように、完成ワイヤ製品に所望の機械的性質を付与するため、ワイヤ101又は103を冷間加工調整工程(図2A~2B)、並びに形状固定、アニーリング及び/又は時効など、1つ又は複数の熱加工ステップに付すことができる。
【0035】
図2Aに示す一つの例示的実施形態において、本ニッケルフリーのベータチタン材料で作製された単層ワイヤ103、つまり原子百分率で表すとTi-(16-20)(Hf+Zr)-(8-17)Nb-(0.25-6)Snを、最終加工前に予備形成材料から所望の直径のワイヤに製造することができる。すなわち、予備形成材料を1つ又は複数のダイス105により引き抜いて(図2A)、材料を伸長すると同時に中間材料の外径をわずかに低減する。その後材料をアニーリングして、引抜プロセスにより材料に付与された内部応力(すなわち、以下に述べるような残留冷間加工)を軽減する。その後、このアニーリングされた材料をさらに小さな仕上げ直径を有する1つ又は複数の新たなダイス105により引き抜いて、材料の直径をさらに低減し、材料をさらに伸長する。材料がワイヤ103への最終加工の準備が整った引抜ワイヤ構成物に形成されるまで、材料のアニーリング及び引抜をさらに反復して繰り返す。
【0036】
DFT(登録商標)ブランドの複合ワイヤなど、複合ワイヤ101(図2B)を形成するため、コア107をシェル109内に挿入して、中間構成物を形成する。その後この中間構成物の一端を徐々に細くして、第1引抜ダイス105(図2B)にこの端部を容易に配置させる。その後、引抜ダイス105から突出した端部をつかみ、ダイス105から引き出して、構成物の直径を低減し、シェル109の内面をコア107の外面にしっかりと物理的に接触させる。より具体的には、最初の引抜プロセスはシェル109の内径を低減し、シェル109がコア107の外径に近くなり、シェル109の内径がコア107の外径に等しくなる。これにより、断面から見ると、図2Bに示すように、内部コア107は外部シェル109の中空を完全に満たす。このプロセスを反復して繰り返し、材料の直径をさらに低減し、また、単層ワイヤ103と同様に材料をさらに伸長する。材料が引抜複合ワイヤ101への最終加工の準備が整った引抜ワイヤ構成物に形成されるまで、材料のアニーリング及び引抜を反復して実施する。
【0037】
引抜ワイヤ構成物は、他の方法(例えば、鋳造、機械加工、コーティング等)により形成された構成物と、特有の平滑さ及び高反射率により構造的に区別される。コア及びシェルを有するバイメタル複合ワイヤ構成物の場合、シェル及びコアの断面の円形並びに同心性は、コーティングされた構成物等と比較して、引抜構成物において実質的により細い。また、引抜構成物の微細構造は、例えば熱加工後、伸長粒状構造(図2D、下記に詳細に記載する)又は微細粒状構造を示すことにより、他の構成物と構造的に異なる。
【0038】
シェル109又はコア107どちらかに、本開示により作製された実質的にニッケルフリーのベータチタン合金を用い、例示的な複合ワイヤ101を形成することができる。特定の用途に必要又は要望に応じて、本Ti-Hf/Zr-Nb-Sn合金と併せて、他の材料を用いることができる。例えば、本Ti-Hf/Zr-Nb-Sn合金をシェル109に用い、コア107を白金又はタンタルから形成することができ、生態適合性で高い放射線不透過性を有するワイヤ構造物を提供する。
【0039】
別の例では、コア107に本Ti-Hf/Zr-Nb-Sn合金を用い、ステンレス鋼又は超合金をシェル109に用いる。これは、ガイドワイヤ製造等に望ましい。特に、この構成は、比較的堅く、押すことができる基端ガイドワイヤ部(シェル109のより高い剛性による)、及びシェル109からコア107へテーパ研削後、比較的柔軟で弾性のある末端ガイドワイヤ部(コア107のより低い剛性による)を提供する。この構成を逆にすることもでき、コア107にステンレス鋼又は超合金、及びシェル109に本Ti-Hf/Zr-Nb-Sn合金を含み、比較的堅いコア107及びより柔軟なシェル109を提供する。このように、医師は行う治療に応じて、基端又は末端の剛性を得ることができる。基端の剛性が高い場合、より小さな/大きなねじり力移動でより優れた末端の制御を可能にし、一方、高い末端/先端剛性は例えば蛇行慢性完全閉塞(CTO)の遮断を可能にする。
【0040】
さらに別の例としては、シェル109に本Ti-Hf/Zr-Nb-Sn合金を使用し、コア107を金、白金、タンタル、銀又はニオブなど、導電性純金属で作り、ペーシングリードとして使用することである。
【0041】
引抜工程ではワイヤ101又は103を冷間加工に付する。本開示の目的のため、冷間加工方法は、20~30℃などの室温で、又は室温付近で材料変形を行う。複合ワイヤ101の場合、引抜はシェル109及びコア107の両方の材料に冷間加工を付与し、両方の材料の断面積を同時に低減する。引抜工程中にワイヤ101又は103に付与される全冷間加工は、次式(I)により特徴づけることができる。
【0042】
【数1】
【0043】
式中、「cw」は元の材料面積の低減により定義される冷間加工であり、「D」は引抜又は複数の引抜後のワイヤの断面外径(つまり、単層ワイヤ103のD2S、複合ワイヤ101のD2C及びD2S)であり、「D」は同じ引抜又は複数の引抜前のワイヤの断面外径(つまり、単層ワイヤ103のD1S、複合ワイヤ101のD1C及びD1S)である。
【0044】
図2A及び2Bを参照すると、冷間加工工程は示した引抜プロセスにより実施することができる。図のように、ワイヤ101又は103は出力直径D2Sを有する潤滑ダイス105により引き抜かれ、出力直径D2Sは引抜工程前のワイヤ101又は103の直径D1Sより小さい。従って、ワイヤ101又は103の外径は引抜前直径D1Sから引抜直径D2Sに低減され、これにより冷間加工cwが付与される。
【0045】
あるいは、冷間スエージング、(例えば平角リボン又は他の形状への)ワイヤ圧延、押出、曲げ、フローフォーミング、ピルガリング又は冷間鍛造など、他のプロセスにより、正味の冷間加工をワイヤ101又は103に累積することができる。また、冷間加工はここで記載した技術を含む、任意の技術の組合せにより付与することもでき、例えば冷間スウェージング後、潤滑ダイスによる引抜を行い、リボン又はシート状、あるいは他のワイヤ状への冷間圧延により仕上げる。一つの例示的実施形態において、ワイヤ101又は103の直径をD1SからD2Sに低減する冷間加工工程を単一の引抜で実施する。他の実施形態において、ワイヤ101又は103の直径をD1SからD2Sに低減する冷間加工工程を複数の引抜で実施し、この引抜は間にアニーリング工程を行うことなく連続して実施する。
【0046】
間にアニーリングを行うことなく、複合ワイヤ101に引抜加工を繰り返すプロセスについて、各次の引抜工程がワイヤ101の断面と比例してさらに低減し、ワイヤ101の全断面積が低下する際、ワイヤ101の全断面積に対するシェル109及びコア107の断面積の比率は名目上維持される。図2Bを参照すると、引抜前シェル外径D1Sに対する引抜前コア外径D1Cの比率は、対応する引抜後の比率と同じである。言い換えると、D1C/D1S=D2C/D2Sである。ワイヤ引抜に関してさらに詳細には、2009年2月27日に出願され、本発明の譲渡人に譲渡された「Alternating Core Composite Wire」の名称の特許文献1に記載され、開示全体はここに参照により組み込まれる。
【0047】
2.アニーリング
構成物の材料又は複数の材料の融点以下である公称温度での熱応力緩和、つまり当技術分野で公知のアニーリングは、引抜工程間の構成物の延性を改善するために用いられ、これにより続く引抜工程によりさらに塑性変形を与える。上記の式(I)を用いて冷間加工cwを計算する場合、材料に冷間加工を付与するプロセス後にアニーリングを実施しないことを前提とする。
【0048】
粒子の再結晶を引き起こすのに十分な温度にワイヤ101又は103を加熱すると、累積した冷間加工が取り除かれる。各反復する冷間加工プロセスにより付与される冷間加工は、引抜間に材料を十分にアニーリングすることにより緩和され、これにより次の反復する冷間加工プロセスを行うことができる。十分なアニーリングでは、冷間加工された材料を、材料に蓄えられた内部応力を実質的に十分に緩和するのに充分な温度に加熱し、これにより蓄えられた冷間加工を緩和し、冷間加工をゼロに「再設定」する。
【0049】
一方、続くアニーリングプロセスを行わず、引抜又は他の機械加工を受けたワイヤ101又は103は、ある量の冷間加工を保持する。保持された加工量は、D1SからD2Sの直径の全体的な低減によって決まり、付与される冷間加工の結果として材料内の個別の粒子変形に基づき数値化することができる。図2Cを参照して、ワイヤ103はアニーリング後の状態で示され、示される粒子111は実質的に等軸である。つまり粒子111は概して球状を画定し、粒子111の全長G1の測定値は、測定方向に関わらず同じである。ワイヤ101又は103の引抜後(上述のように)、等軸粒子111は伸長粒子113に変わり(図2D)、粒子113は伸長粒子長G2(粒子113の最長寸法)及び粒子幅G3(粒子113の最短寸法)を画定する長手方向構造物である。粒子113の伸長は冷間加工プロセスに起因し、図2Dに示すように、粒子113の長手方向軸は一般的に引抜方向に並んでいる。
【0050】
引抜後ワイヤ101又は103の保持された冷間加工は、伸長粒子長G2の幅G3に対する比率として表すことができ、比率が大きいほど、より「引張」された粒子を示すため、保持された冷間加工がより多いことを示す。これに反して、中間引抜プロセス後のワイヤ101又は103のアニーリングは材料を再結晶化して、伸長粒子113を等軸粒子111に再度変え、保持された冷間加工比を1:1に再固定する(つまり保持された冷間加工を有さない)。
【0051】
本Ti-Hf/Zr-Nb-Sn材料について、十分なアニーリングは、細いワイヤ(つまり、0.000127平方mmから0.5平方mmの小さな断面積を有する)については少なくとも数秒間(例えば5~10秒)、より太い材料(つまり、1平方mmから125平方mmのより大きな断面積を有する)については数十分間(例えば20~40分)、約600~750℃の温度で行うことができる。あるいは、十分なアニーリングは、材料の断面積に応じて、例えば750~1000℃のより高温で、例えば数ミリ秒(例えば5~10ミリ秒)から5分未満のより短時間で行うことができる。当然、比較的高温のアニーリングプロセスは、比較的短時間で十分なアニーリングを行うことができ、通常比較的低温では、十分なアニーリングを行うために比較的長時間が必要となる。また、アニーリングパラメータは様々なワイヤ直径に対して異なることが考えられ、より小さな直径では、所定の温度でアニーリングする時間が短縮される。十分なアニーリングが行われるかどうかは、例えば、走査電子顕微鏡法(SEM)を用いた微細構造検査、延性、強度、弾性等の機械的試験、及び他の方法など、当分野で周知の多くの方法により確認することができる。
【0052】
冷間加工及びアニーリング方法のさらなる考察は、2009年9月18日に出願された、名称がFATIGUE DAMAGE RESISTANT WIRE AND METHOD OF PRODUCTION THEREOFである特許文献2に見出すことができ、その開示全体は参照により組み込まれる。
【0053】
3.形状固定熱加工
最初の反復引抜/アニーリング加工が終了した後、得られる粗ワイヤ材料を最終形状に最終的に加工することができる。例えば、デバイス全径Dを有する網目状ステント100(図8)、編組ステント110(図9)又は以下にさらに記載するような他の医療装置への一体化に好適な微細ワイヤが挙げられる。例示的なワイヤ構成物を以下にさらに詳細に記載する。
【0054】
特に、粗引抜材料は最終冷間加工及び次の「形状固定」プロセスに付すことができ、ここで記載するような超弾性挙動を示すワイヤ又はロッド構成物を形成する。ここで「形状固定」は、(ワイヤなど)被加工物が所望の形状に拘束され、熱加工されて所望の形状を保持するプロセスを意味する。例えば、被加工物を曲げるか、又は所望の形状に形成し、次の熱加工中にその形状を保持する。別の例では、被加工物をその「天然」の未変形である既存の形状に拘束することができ、直線形状を含んでよい。この「拘束」は、熱加工前に材料に任意の応力を付与せず、むしろ単に材料が次の熱加工中に未変形の形状から変形することを防止することができる。被加工物がこのように拘束された状態で、被加工物が所望の形状を保持するまで、熱加工工程において被加工物の温度を上昇させる。形状を保持する時点で形状固定プロセスを終了する。
【0055】
本開示の範囲において、冷間加工を蓄えていないアニーリングした材料に形状固定を行うことができる。しかし、冷間加工を蓄えた材料の形状固定は、本Ti-(16-20)(Hf+Zr)-(8-17)Nb-(0.25-6)Sn合金の所定の材料形態及び構成要素に対してより大きな回復ひずみ能力を生じさせる。特に、本形状固定プロセスにおいて冷間加工を保持する材料を用いると、冷間加工を保持していない材料と比較して、材料の降伏強度を高め、所定のひずみレベルで塑性変形を軽減又は除去し、強いひずみ回復に有利なある結晶方位を生じる。ある例示的実施形態において、最終冷間加工はわずか50%又は75%、及び99%又は99.9%もの冷間加工、あるいは上述の値の任意の2つにより定義される任意の冷間加工を付与するために実施される。一つの例示的実施形態において、例えば、約90%の最終冷間加工が形状固定前の被加工物に付与される。
【0056】
形状固定プロセスにおいて、被加工物は1秒から1時間以上の時間、(例えばオーブン又は他の加熱器で)500℃から1000℃の周囲温度にさらされる。特に、この最初の形状設定の温度はわずか500℃、550℃又は600℃の温度、及び750℃、800℃又は1000℃もの温度、あるいは上述の値の任意の2つにより定義される任意の範囲の任意の温度でよい。この段階の温度は、わずか1秒、1分又は15分の時間、及び30分、45分又は1時間もの時間保持してよく、あるいは上述の値の任意の2つにより定義される任意の範囲の任意の時間でよい。
【0057】
アニーリングと同様、時間及び温度は本開示による形状固定プロセスにおいて逆相関する。すなわち、許容される温度の上限での形状固定は、所定の被加工物形態(例えば、サイズ及び構成)のために一般的に短時間でよく、一方で許容される温度の下限では比較的長時間を必要とする。
【0058】
形状固定時間も合金のスズ含有量によって決まる。本明細書で開示される0.25~6.0at%の許容されるスズ範囲内における比較的低いスズ濃度は、より長い形状固定時間を必要とする比較的高いスズ濃度と比較して、比較的短い形状固定時間の一因となる。スズが合金のベータ相安定性に影響するため、形状固定熱条件はスズに影響を受ける。従って、形状固定時間に特異的に影響するか、又はそれを「調整する」ため、本Ti-Hf/Zr-Nb-Sn合金のスズ濃度は、特定の用途の必要に応じて又は要望に応じて異なってよい。例えば、個別のワイヤの断片に対する形状固定プロセスは、より低容量の「バッチ」熱処理に付すことができ、多数の個別のワイヤを同時に形状固定する。このような低容量製造について、3~6at%など、比較的高いスズ濃度を用い、より長い形状固定プロセスを設計してよい。一方、より迅速なアニーリングが0.25から3at%など、より低いスズ濃度により容易に行うことができる場合、ワイヤの高容量製造に連続プロセスが望まれる。
【0059】
例えば、表1(上記)のサンプル1は、表2(下記)に示すように0.5at%の低スズ含有量、及び10秒未満の形状固定時間を有し、3.5%を超える(下記にさらに記載するように4%と測定)回復ひずみが可能な超弾性のニッケルフリー合金が得られた。反対に、サンプル2及び3は、それぞれ5at%及び3at%の高スズレベルで製造され、1分以上の形状固定時間を経て、超弾性が得られた。
【0060】
従って、小さな断面(例えば、0.84×10-6から1140×10-6平方センチメートル)及びより低いスズ含有量(例えば、0.25at%から3at%)を有する合金は、この段階で1秒~10分、500℃~1000℃の熱加工を必要とする場合がある。反対に、より大きな直径(例えば、1140×10-6から203×10-3平方センチメートル)及びより高いスズ含有量(例えば3at%から6at%)を有する合金は、この段階で2分~1時間以上、500℃~1000℃の熱加工を必要とする場合がある。
【0061】
4.時効熱加工
上記最初の形状固定熱加工後、任意で被加工物を第2の熱加工段階に付すことができ、これは「時効」としても知られる。ある例示的実施形態において、被加工物をわずか150℃、170℃又は190℃の温度、及び210℃、230℃又は250℃もの温度で、あるいは上述の値の任意の2つにより定義される任意の範囲の任意の温度で時効することができる。被加工物をこの温度に暴露する時間は、わずか1秒、1分又は15分の時間、及び30分、45分又は1時間もの時間でもよく、あるいは上述の値の任意の2つにより定義される任意の範囲における任意の時間でよい。一つの特定の例示的実施形態において、200℃、10分間で時効を終了する。
【0062】
特定の用途に合う材料のプラトー応力レベルに「調整する」ため、形状固定加工の一部に作用するように、及び/又は最初の形状固定後に時効を用いることができる。より具体的には、時効を行っていない基準値と比較して、特定の合金により示されるプラトー応力レベルを上げるため、時効を用いることができる。例えば、図6は本開示により作製された合金に対する時効の効果を示す。時効を行っていない応力緩和サンプルを引張試験に付し、図6の実線で示す基準の応力-ひずみ曲線を生成した。図に示すように、基準のプラトー応力は約300MPaであった。同じ材料の別サンプルには、200℃で10分間の加熱により時効を行った。この時効処置後、再度引張試験を実施して、図6の破線で示す第2の応力-ひずみ曲線を生成した。図に示すように、時効を行った材料のプラトー応力は約550MPaまで上昇し、十分に基準値を超えた。
【0063】
時効により提供されるこの「調整」能は、全体的な機械設計及び他の熱機械加工と共に、特定の材料及び/又は医療装置に所望の機械力プロファイルを提供することができる。材料の力プロファイルを変更するため、時効を行っていない基準材料と比較して、上下いずれかへのプラトー応力レベルの操作を用いることができる。例えば、カテーテル等による本合金から作製された医療装置の送達を容易にするため、プラトー応力レベルを「調整する」ことができる。あるいは又はこの送達調整に加えて、プラトー応力レベルを、特定の生体内機械プロファイル、例えば、解剖学的管における装置により作用する長期にわたる力量のために調整することもできる。
【0064】
ここで記載されるアニーリング、形状固定及び時効を含む材料の熱加工は任意の好適な方法で行うことができる。例えばオーブン、流動床炉又は強制対流炉における個別の被加工物のバッチアニーリング、及び加熱チャンバを通過するspool-to-spoolワイヤ材料の連続アニーリングが含まれる。本明細書に記載される加熱時間及び温度はオーブンを用いた加熱方法に調整される。さらに、加熱方法はすべて被加工物をここで記載するような特定時間、高い周囲温度に暴露するが、被加工物の加熱は任意の他の好適な方法で行うことができることも考えられる。このような代替加熱手段が利用される限りにおいて、このような代替方法は、ここで記載される周囲加熱を用いた方法で達するものとほぼ等しい被加工物内温にする必要に応じて、調節されるべきである。
【0065】
5.例示的ワイヤ、ロッド及び管構造
上述した加工パラメータは様々な組み合わせで用いることができ、異なる用途に好適な材料を作製する。下記は、ある選択された材料サイズ及び形態に関する例示的な加工パラメータである。以下の例示的条件は実質的に線形に推定して、下記に一覧するものの間の材料サイズ及び形態に関する加工パラメータを決定することができることが理解される。例えば、直径がそれぞれ0.008及び0.023センチメートルであるワイヤに関して以下に列挙する加工パラメータの中間域の加工パラメータを用いることにより、直径が0.015センチメートルであるワイヤ(つまり下記の「超微細」及び「微細」間材料)を、本開示による超弾性構成物に形成することができる。
【0066】
一つの例示的実施形態において、加工パラメータを「超微細」ワイヤ材料、例えば0.001から0.023センチメートルの直径及び/又は0.84×10-6から410×10-6平方センチメートルの断面積を有するワイヤに特に好適であるように調節することができる。医療装置産業において、超微細材料はステント(例えば図8及び9に示す網目状又は編組ステント100、110)、動脈瘤閉鎖デバイス、塞栓保護ダイバータ、血管、腎臓及び消化器用途用ステント、心室中隔壁閉鎖骨格、整形外科インプラント用骨スペーサ繊維、並びに血液フィルタなどの繊維用途等に好適である。
【0067】
このような超微細材料のため、ジルコニウムに対するハフニウムの高比率(つまり、所定のハフニウム/ジルコニウム濃度に対して比較的高いハフニウム含有量)が望まれ、得られる小さな構成物の放射線不透過性を確実にする。ある例示的実施形態において、このようなジルコニウムに対するハフニウムの「高」比率は3:1から10:1であり、つまり所定のハフニウム/ジルコニウム濃度に対してジルコニウムよりハフニウムが3~10倍多い。あるいは、いくつかの超微細材料はジルコニウムを含まず、すべてハフニウムであり、本合金における上記範囲の8~17at%のHf/Zrを満たす。上記のように500℃~1000℃の温度範囲であれば、このような超微細材料の形状固定熱加工時間はわずか1秒、5秒又は30秒の時間、及び35秒、50秒又は1分もの時間でよく、あるいは上述の値の任意の2つにより定義される任意の範囲の任意の時間でよい。マンドレルに巻かれるか、又はマンドレルに位置させた超微細材料について、形状固定熱加工時間は被加工物及びマンドレルの両方の加熱を担うようにより長くすることができる。ある例示的実施形態において、超微細材料に対するマンドレルを用いた形状固定熱加工時間は、わずか1分、2分又は3分の時間、及び6分、8分又は10分もの時間でよく、あるいは上述の値の任意の2つにより定義される任意の範囲の任意の時間でよい。上記のように、例示的な形状固定プロセスの時間及び温度は逆相関する。
【0068】
別の例示的実施形態において、加工パラメータを「微細」ワイヤ材料、例えば0.023から0.038センチメートルの直径及び/又は410×10-6から1140×10-6平方センチメートルの断面積を有するワイヤに特に好適であるように調節することができる。医療装置産業において、微細材料は血管、末梢血管及び神経血管ガイドワイヤを含むガイドワイヤ用途、スタイレットワイヤ、フレキシブル腹腔鏡及び内視鏡部品、ワイヤ系ステント、スネア装置、整形外科インプラント用骨スペーサ繊維、並びに構造ステント、骨格又はアニュラスを含むフレキシブル心臓弁部品等に好適である。
【0069】
このような微細材料のため、ジルコニウムに対するハフニウムの適度な比率が望まれ、ハフニウムによりいくらかの放射線不透過性を提供し、同時にジルコニウムとしてかなりの割合のHf/Zr濃度を提供することによりコストを低減する。ある例示的実施形態において、このようなジルコニウムに対するハフニウムの「適度な」比率は3:1から1:5であり、つまり所定のハフニウム/ジルコニウム濃度に対してジルコニウムよりもハフニウムが3倍多く、ハフニウムよりもジルコニウムが5倍多い範囲である。上記のように、500℃~1000℃の温度範囲であれば、このような微細材料のための形状固定熱加工時間は、わずか30秒、45秒又は1分の時間、及び4.25分、4.5分又は5分もの時間でよく、あるいは上述の値の任意の2つにより定義される任意の範囲の任意の時間でよい。上記のように、例示的な形状固定プロセスの時間及び温度は逆相関する。
【0070】
さらなる例示的実施形態において、加工パラメータを「中~大」ワイヤ材料、例えば0.038から0.076センチメートルの直径及び/又は1140×10-6から4561×10-6平方センチメートルの断面積を有するワイヤに特に好適に調節することができる。医療装置産業において、中及び大ワイヤ材料はアークワイヤなどの歯科矯正用途、血管、血管内、腹腔鏡又は食道ガイドワイヤを含むガイドワイヤ、スタイレットワイヤ、並びに構造ステント、骨格又はアニュラスを含むフレキシブル心臓弁部品等に好適である。
【0071】
このような中~大材料のため、ジルコニウムに対するハフニウムの低比率が望まれ、ジルコニウムの使用によりかなりのコスト低減を実現でき、同時に少量のハフニウムにより所望のレベルの放射線不透過性も提供する。ある例示的実施形態において、このようなジルコニウムに対するハフニウムの「低」比率は1:5~1:8であり、つまり所定のハフニウム/ジルコニウム濃度に対して、ハフニウムよりジルコニウムが5~8倍多い。上述のように温度範囲が500℃~1000℃であれば、このような中~大材料に対する形状固定熱加工時間は、わずか30秒、1分又は10分の時間、及び20分、25分又は30分もの時間でよく、あるいは上述の値の任意の2つにより定義される任意の範囲の任意の時間でよい。上述のように、例示的な形状固定プロセスの時間及び温度は逆相関する。
【0072】
さらに別の例示的実施形態において、加工パラメータは大口径ワイヤ及び「ロッド」材料、例えば0.203から0.500センチメートルの直径及び/又は32×10-3から203×10-3平方センチメートルの断面積を有する材料原料に特に好適に調節することができる。医療装置産業において、ロッド材料は骨固定装置、高度な融合用の弾性骨釘、フレキシブル骨プレート、骨ねじ、脊柱湾曲症矯正用脊柱ロッド用途等に好適である。
【0073】
このようなロッド材料のため、ジルコニウムに対するハフニウムの極低比率が望まれ、ジルコニウムの使用によりコスト低下を最大限にする。さらなる放射線不透過性を提供するには、極少量のハフニウムで充分であり、このような放射線不透過性は大きなロッド型構造において必要とされる。ある例示的実施形態において、ジルコニウムに対するハフニウムの「極低」比率は1:8から1:17であり、つまり所定のハフニウム/ジルコニウム濃度に対して、ハフニウムよりジルコニウムが8~15倍多い。あるいは、一部のロッド材料はハフニウムを有さず、すべてがジルコニウムであり、本合金における上述範囲の8~17at%のHf/Zrを満たしている。上述のような500℃~1000℃の温度範囲であれば、このようなロッド材料の形状固定熱加工時間は、わずか5分、10分、20分の時間、及び40分、50分又は60分もの時間でよく、あるいは上述の値の任意の2つにより定義される任意の範囲の任意の時間でよい。上述のように、例示的な形状固定プロセスの時間及び温度は逆相関する。
【0074】
上述のワイヤ状及びロッド状に加えて、類似の寸法の管類は、実断面構造に用いられる加工パラメータに相当するものを用いて製造することができる。例えば、レーザ切断血管ステントに合わせて作製された管類材料は、上述のロッド材料と同様に製造することができる。このような管類材料は、全体の時間/温度の組合せが均質材料に相当するように、均質の金属マンドレル上で熱加工を受けることができると理解される。しかし、相当量の材料が管類より除去される設計のこのような管類用途については(例えばレーザ切断ステント)、相当な材料除去であるが、十分な放射線不透過性を確保するために、ジルコニウムに対するハフニウムの高比率を用いることができる。
【0075】
形状固定プロセス終了後、得られる構造は形状固定材料に変わる。形状固定材料は複数の観察できる構造的な特性を有し、非形状固定材料と区別される。例えば、本開示により作製される形状固定材料は、応力の印加又は温度変化、あるいはその両方により、ベータ相(例、オーステナイト)からマルテンサイトへの変態を観察することができる。さらに、非拘束形状固定材料は、オーステナイト仕上げ温度より高い温度でその形状固定形態を保持する。オーステナイト開始温度より低い温度で、この形状固定材料はこの形状固定形態とは異なる形態に変形し、その形態を保つことができる。この変形は塑性変形に通常関連する特性を有するが、再度温度がオーステナイト開始温度より高くなると、この非拘束形状固定材料は形状固定形態に戻り始め、オーステナイト仕上げ温度に達するまでこの転換が続く。
【0076】
Ti-Hf/Zr-Nb-Sn材料の性質
本開示による例示的な単層Ti-Hf/Zr-Nb-Sn合金ワイヤを製造、試験し、特に一軸引張試験における機械性能に関して特徴付けた。このような試験を米国マサチューセッツ州ノーウッドのインストロンから入手できるインストロンモデル5565試験機で行うことができる。より具体的には、非特許文献1に記載の方法を用い、候補材料の最大強度、降伏強度、軸剛性及び延性を測るために、ワイヤ材料の破壊一軸引張試験を用いた。その開示全体は参照によりここに明確に組み込まれる。金属材料引張試験の業界標準に従い、サーボ制御されたインストロンの荷重フレームを用いてこれらの試験を行う。
【0077】
本開示により作製されるTi+(16-20)(Hf+Zr)+(8-17)Nb+(0.25-6)Sn合金群は超弾性挙動を示し、ワイヤ、ロッド及び管など引抜及び形状固定構造において、3.5%超の回復ひずみ(例、軸引張りひずみ回復)を有する。より具体的には、本合金群は4%のひずみ後、実質的に完全なひずみ回復を行うことができ、6~7%のひずみ後5%超の回復ひずみが可能である。
【0078】
このひずみ回復能に加えて、本開示により作製されるワイヤ及び材料は機械的及び化学的特性を有し、医療装置における使用に特に好適な材料となる。例えば、本合金群はISO 10993の意味の範囲内で生態適合性であり、その開示全体は参照によりここに組み込まれる。また、本合金群は実質的にニッケルを含まず、つまりこの合金に存在するニッケル量は0.05wt%未満であり、例示的実施形態においては、0.01wt%未満である。
【0079】
さらに、本合金群は様々な医療装置用途における使用に好適な疲労強度を示すことができる。例示的実施形態において、本開示により作製される合金は0.5%の交番ひずみ振幅で10サイクルに耐える最小の疲労強度を示す。最終的に、本合金群は少なくとも120ksi(827MPa)の最大引張強さを有することができ、900MPa、950MPa以上に達する場合も多い。
【0080】
下記表2は上記表1に列挙する各合金サンプルの熱加工パラメータを、次の一軸引張試験の性能データと共に示す。
【0081】
【表2】
表2:例示的合金の熱加工パラメータ及び性能
【0082】
上記のように、各掲載したサンプルをアーク溶解し、均質化し、1000℃で押し出した。押し出し後、各材料を従来のワイヤ引抜プロセスにより、直径0.4mmまで冷間引抜を行い、最終熱加工及び引張試験に準備が整ったワイヤ形状を作製した。
【0083】
サンプル1を表2に示す極短時間(例えば1秒~約6秒未満)、650℃の温度で熱処理した。その後、引張試験を室温で実施し、サンプルの応力及びひずみを実質的に一定の周囲温度で測定、記録した。図3はこの試験中に採取された応力-ひずみデータを示す。まず、サンプルに負荷をかけて4%のひずみに達した後、除荷して応力をゼロとした。図3に示すように、サンプル1は室温で除荷すると、この4%の変形ひずみを実質的に完全に回復することができ、非回復ひずみは0.1%未満であった。
【0084】
その後、サンプル1に2度目の負荷をかけ、サンプルの破断(破損)まで応力を増した。サンプル1は約950MPaの最大応力を示し、破断前に7%超のひずみに達した。
【0085】
上記表2にあるように、6%のひずみを受けると、サンプル1は5%超の回復ひずみを示すことができることが別に示された。
【0086】
従って、サンプル1は医療装置用途にニッケルフリーの材料を提供するのに好適な超弾性の性質を示すことが示された。特に、サンプル1は低スズ含有量(0.5at%)を有する。これにより、上記のように、急速な形状固定プロセスを行うことができ、特に微細及び超微細材料に関して、商業的処理能力が高く、商業的生産性及び価値を最大限に高めた。従って、サンプル1は上記のように、細フィラメントから製造された繊維及びガイドワイヤ、又は他の直線デバイスなど、医療装置用の比較的大量のワイヤの理想的な候補である。
【0087】
サンプル2を表2に示すように、650℃の温度で1分熱処理した。その後、周期的引張試験を室温で行い、サンプルの応力及びひずみを実質的に一定の周囲温度で測定、記録した。図4はこの試験中に採取された応力-ひずみデータを示す。まず、サンプルに負荷をかけ、2%のひずみに達した後、除荷して応力をゼロとした。2%のひずみの完全回復を観察した。2度目の負荷サイクルは3%のひずみに達し、再び完全なひずみ回復を示した。3度目の負荷サイクルは4%のひずみに達し、残留ひずみが0.2%未満の実質的に完全な回復を示した。4度目の負荷サイクルは5%のひずみに達し、残留ひずみが0.5%未満の実質的に完全な回復を示した。5度目の負荷サイクルは6%のひずみに達し、5%超のひずみ回復を示し、残留ひずみが1%未満であった。6度目及び最後の負荷サイクルは7%のひずみに達し、実質的に完全回復を示し、残留ひずみが実質的に2%未満であった。
【0088】
従って、サンプル2は医療装置用途にニッケルフリーの材料を提供するのに好適な超弾性の性質を示すことが示された。特に、上記のように、サンプル2は高スズ含有量(5at%)を有する。これにより、1分から数分までのより長い形状固定プロセスを行うことができ、特にバッチ式熱処理製造方法に有用である。これは、より大きな及びロッドの材料に対する手段など、材料を二次集合体により形状固定、保持し、長期間加熱して均一な加熱を行う必要がある商業的応用を容易にする。従って、サンプル2は、上述のように、形状固定ニチノール成分により現在行われているNiフリー形状記憶又は超弾性ロッド及び管類用途に理想的な候補であり、例えばz形又はステント様構造物、管類材料からのレーザ切断ステント部品、心臓弁フレーム、メッシュ又は編組支持構造物、脊柱ロッド等である。
【0089】
サンプル3を上記表2に示すように600℃の温度で2分間熱処理した。その後、周期的引張試験を室温で行い、サンプルの応力及びひずみを実質的に一定の周囲温度で測定、記録した。図5は試験中に採取された応力-ひずみデータを示す。まず、サンプルに負荷をかけて4%のひずみに達した後、除荷して応力をゼロとした。4%のひずみは実質的に完全な回復が観察され、残留ひずみは0.2%未満であった。従って、サンプルは4%の変形から除荷後、約3.8%の回復ひずみを示した。
【0090】
その後、サンプル3に2度目の負荷をかけ、サンプルの破断(破損)まで、応力を増した。サンプル3は850MPa超の最大応力を示し、破断前に約9%のひずみに達した。
【0091】
上記表2にあるように、サンプル3は6%のひずみを受けたとき、5%超の回復ひずみを示すことができることが別に示された。
【0092】
サンプル3は、3at%のみのハフニウム及び15at%ジルコニウムを用い、大量のハフニウムをジルコニウムで置き換えている。上記のように、この材料構成要素はサンプル1及び2と比較して放射線不透過性を低減するだけでなく、実質的に材料のコストを低減する。サンプル3の引張試験により証明されるように、この材料はやはり超弾性の性質を示し、3.5%超の全回復ひずみを有する。サンプル3など、高ジルコニウム低ハフニウム材料は、例えば歯科矯正ワイヤ、脊柱ロッド及び整形外科用途など、比較的大量の材料を必要とし、放射線不透過性に限られた必要性がある用途に特に好適である。
【0093】
本発明は好ましい設計を有するものとして記載されているが、本発明は本開示の趣旨及び範囲内でさらに修飾を加えることができる。従って、本願はその全体的な原理を用いた本発明の任意の変形、使用又は適合を含むことを意図する。さらに、本願は本発明が属する技術分野における公知又は通例の実施の範囲内であり、添付の請求項の範囲に含まれる本開示からの逸脱を含むことを意図する。
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9