(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-11
(45)【発行日】2022-03-22
(54)【発明の名称】近視の治療方法及び薬物調製における応用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/517 20060101AFI20220314BHJP
A61P 27/10 20060101ALI20220314BHJP
A61K 31/455 20060101ALI20220314BHJP
A61K 31/502 20060101ALI20220314BHJP
A61K 33/26 20060101ALI20220314BHJP
A61K 31/428 20060101ALI20220314BHJP
A61K 31/4184 20060101ALI20220314BHJP
A61K 31/47 20060101ALI20220314BHJP
A61K 31/495 20060101ALI20220314BHJP
A61K 31/4402 20060101ALI20220314BHJP
A61K 31/04 20060101ALI20220314BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220314BHJP
A61K 31/417 20060101ALI20220314BHJP
A61K 31/4985 20060101ALI20220314BHJP
A61K 31/401 20060101ALI20220314BHJP
A61K 31/4422 20060101ALI20220314BHJP
A61K 31/277 20060101ALI20220314BHJP
A61K 31/46 20060101ALI20220314BHJP
A61K 36/234 20060101ALI20220314BHJP
A61K 36/537 20060101ALI20220314BHJP
A61K 36/488 20060101ALI20220314BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220314BHJP
【FI】
A61K31/517
A61P27/10
A61K31/455
A61K31/502
A61K33/26
A61K31/428
A61K31/4184
A61K31/47
A61K31/495
A61K31/4402
A61K31/04
A61P43/00 111
A61K31/417
A61K31/4985
A61K31/401
A61K31/4422
A61K31/277
A61K31/46
A61K36/234
A61K36/537
A61K36/488
A61K45/00
(21)【出願番号】P 2019545920
(86)(22)【出願日】2019-03-22
(86)【国際出願番号】 CN2019079184
(87)【国際公開番号】W WO2020015377
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2019-09-12
(31)【優先権主張番号】201810787541.1
(32)【優先日】2018-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】519300611
【氏名又は名称】温州医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】周翔天
(72)【発明者】
【氏名】張森
(72)【発明者】
【氏名】瞿佳
(72)【発明者】
【氏名】張国雲
(72)【発明者】
【氏名】趙斐
(72)【発明者】
【氏名】周軒
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-527600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脈絡膜血流量を増加させることによって強膜酸欠による近視を治療するための医薬であって、ニコチン酸又はプラゾシンを含む、医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近視治療技術の分野に関し、特に、近視の治療方法及び薬物調製における応用に関する。
【背景技術】
【0002】
脈絡膜は屈折発育及び近視発生において重要な役割を果たしている。大量の動物実験を行ったところ、近視が進行すると脈絡膜の厚さが薄くなることを見出した。人々の中では、同様の結果が観察され、遠視群の脈絡膜の厚さは正視及び近視群より有意に厚い。本発明者らの課題グループは、人の目が近くのものを見る時に眼前節の変化に加えて、脈絡膜の厚さが薄くなることを発見したが、このような変化のメカニズムはまだよく分かっていない。
【0003】
強膜は近視の発生や進行の最終的なエフェクターであり、近視の発生後に強膜のコラーゲン線維が細くなり、配列が乱れ、強膜のコラーゲンが減少し、そして強膜が薄くなる。しかし、その制御メカニズム及びトリガー要素はまだ不明である。強膜には多種の細胞が存在し、過去の研究は強膜組織全体を研究対象とし、異なる細胞由来の情報が混在し、細胞の特異的な変化を正確に解明できないため、強膜線維芽細胞のコラーゲン合成の制御メカニズムを正確に解明することは困難である。本発明者らの課題グループは、近視の発生時に強膜低酸素誘導因子1α(HIF-1α)の発現がアップレギュレートされ、近視の回復時に正常に戻ることを既に発見し、近視の発生時に強膜組織が低酸素状態にあることを示唆した。
【0004】
強膜組織の酸欠は、その細胞外マトリックスの再構築及び近視の原因となる可能性があり、強膜は、結合組織に属し、それ自体は血管が少なく、酸素の大部分が脈絡膜血管に由来し、脈絡膜が主に血管網で構成される。したがって、その厚さの変化は、脈絡膜血流の調節に起因する可能性が高い。脈絡膜の機能は、主に栄養素及び酸素を網膜に供給し、強膜成長の調節に関与することである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術の不足を補うために、本発明の目的は、近視の治療方法及び薬物調製における応用を提供し、脈絡膜血流量を増加させることにより、強膜酸欠による近視を治療することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
近視の治療方法であって、脈絡膜血流量を増加させることにより、強膜酸欠による近視を治療する。
【0007】
前記方法は、脈絡膜を拡張することによって、脈絡膜血流量を増加させて強膜酸欠による近視を治療することを達成する。
【0008】
前記方法は、薬物によって脈絡膜を拡張することによって、脈絡膜血流量を増加させて強膜酸欠による近視を治療することを達成する。
【0009】
近視治療薬物の調製における脈絡膜血流量増加薬物の応用である。
【0010】
前記脈絡膜血流量増加薬物は血管又は血管平滑筋を直接的に弛緩させる薬物又は血管を間接的に弛緩させる薬物である。
【0011】
前記血管又は血管平滑筋を直接的に弛緩させる薬物は、ニコチン酸、ヒドララジン、ニトロプルシドナトリウム、インダパミド、ベンダゾール、パパベリン、シンナリジン、ベタヒスチン又はニトログリセリンのうちの1種又は数種である。
【0012】
前記血管を間接的に弛緩させる薬物は、ヒスタミン系薬物、α-アドレナリン受容体阻害薬、アンジオテンシン変換酵素阻害剤薬物、カルシウムチャネル阻害剤、Mコリン受容体を遮断する抗コリン薬又は血液循環を改善する漢方薬のうちの1種又は数種である。
【0013】
前記ヒスタミン系薬物はベタヒスチンである。
【0014】
前記α-アドレナリン受容体阻害薬は、フェントラミン、ジヒドロエルゴトキシン又はプラゾシンのうちの1種又は数種である。
【0015】
前記アンジオテンシン変換酵素阻害剤薬物はテンシオミンである。
【0016】
前記カルシウムチャネル阻害剤は、ニフェジピン又はベラパミルのうちの1種又は数種である。
【0017】
前記Mコリン受容体を遮断する抗コリン薬はアニソダミンである。
【0018】
前記血液循環を改善する漢方薬は、センキュウ、タンジン、カッコン、ビルコン錠、川参カプセル又は舒血寧のうちの1種又は数種である。
【発明の効果】
【0019】
本発明は近視の治療方法及び薬物調製における応用を提供し、薬物又は手術方法によって脈絡膜を拡張し、強膜の酸素供給を増加し、これにより脈絡膜血流量を増加させて強膜酸欠による近視を治療することを達成し、近視の治療に新しい考え方及び方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】近視の発生時に強膜低酸素誘導因子1α(HIF-1α)の変化である。NC-L:正常対照左眼、NC-R:正常対照右眼、FD-F:形態剥奪僚眼、FD-T:形態剥奪実験眼、LI-F:マイナスレンズ誘導僚眼、LI-T:マイナスレンズ誘導実験眼、Rec-F:誘導因子除去済み僚眼、Rec-T:誘導因子除去済み実験眼。
【
図2】自発性近視及び遠視の脈絡膜厚及び血流の図である。A:脈絡膜厚図、B:脈絡膜血流図、C:脈絡膜厚と脈絡膜血流との相関性。Control:正常群、Myopia:自発性近視群、Choroidal Thickness(ChT):脈絡膜厚、Chorodal blood flow(ChBF):脈絡膜血流。
【
図3】形態剥奪7日間及び回復期間の各パラメータの図である。A:両眼屈折の差分図、B:両眼眼軸長の差分図、C:両眼脈絡膜厚の差分図、D:両眼脈絡膜血流の差分図、E:脈絡膜厚と脈絡膜血流との相関性。Base:実験前、Control7D:正常群7日間、FD7D:形態剥奪7日間、Control11D:正常群11日間、R-FD:形態剥奪除去後4日間、Choroidal Thickness(ChT):脈絡膜厚、Chorodal blood flow(ChBF):脈絡膜血流。
【
図4】レンズ誘導7日間及び回復期間の各パラメータの図である。A:両眼屈折の差分図、B:両眼眼軸長の差分図、C:両眼脈絡膜厚の差分図、D:両眼脈絡膜血流の差分図、E:脈絡膜厚と脈絡膜血流との相関性。Base:実験前、Plano7D:プラノレンズ7日間、LIM7D:マイナスレンズ7日間、R-Plano、プラノレンズ除去4日間、R-LIM:マイナスレンズ除去4日間後、Choroidal Thickness(ChT):脈絡膜厚、Chorodal blood flow(ChBF):脈絡膜血流。
【
図5】血管を直接的に弛緩させる薬物又は血管平滑筋を直接的に拡張させる薬物(ニコチン酸)の形態剥奪に対する影響結果模式図である。A:両眼屈折の差分図、B:両眼眼軸長の差分図、C:両眼脈絡膜血流図、D:脈絡膜厚と脈絡膜血流との相関性。Vehicle:溶媒、NA:ニコチン酸、ChT:脈絡膜厚、Chorodal blood flow(ChBF):脈絡膜血流、ChBF Signal Points:脈絡膜血流シグナルポイント。
【
図6】α-アドレナリン受容体阻害薬(α-阻害薬:プラゾシン)の形態剥奪に対する影響結果模式図である。A:両眼屈折の差分図、B:両眼眼軸長の差分図、C:両眼脈絡膜血流図、D:脈絡膜厚と脈絡膜血流との相関性。Vehicle:溶媒、Pr:プラゾシン、ChT:脈絡膜厚、Chorodal blood flow(ChBF:脈絡膜血流、ChBF Signal Points、脈絡膜血流シグナルポイント。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の内容をより明確に説明するために、具体的な実施例を用いて以下に説明するが、具体的な実施例は本発明の内容範囲を限定しない。
【0022】
強膜組織の酸欠は、その細胞外マトリックスの再構築及び近視の原因となる可能性があり、強膜は、結合組織に属し、それ自体は血管が少なく、酸素の大部分が脈絡膜血管に由来し、脈絡膜が主に血管網で構成される。したがって、その厚さの変化は、脈絡膜血流の調節に起因する可能性が高い。脈絡膜の機能は、主に栄養素及び酸素を網膜に供給し、強膜成長の調節に関与することから、本発明者らは実験を通じて脈絡膜血流量が減少することにより、強膜が酸欠となり、さらに近視を招くことを証明する。
【0023】
[実験操作]
(1)本発明者らは3週齢のモルモットに対する形態剥奪又はレンズ誘導を行ったところ、近視の発生時に実験眼の強膜低酸素誘導因子1α(HIF-1α)の発現がアップレギュレートされ、近視の回復時に正常に戻ること(
図1)を発見し、近視の発生時に強膜組織が低酸素状態にあることを示唆した。
【0024】
(2)本発明者らは3週齢の自発性近視(屈光力:-5.94±1.28 Diopter)及び正常なモルモット(屈光力:+3.36±0.80 Diopter)の脈絡膜に対する検出により、自発性近視の脈絡膜厚が正常なモルモットの脈絡膜厚より有意に薄くなり、血流が有意に減少することを発見した。(正常群vs.自発性近視群:脈絡膜厚:67.65±3.58μm vs. 50.60±3.14μm、P<0.01;脈絡膜血流:35825.89±2445.03 vs. 25633.22±1665.09、P<0.01)。しかも脈絡膜厚と脈絡膜血流との間には高い相関性がある(R=0.9346、p<0.001)、具体的には
図2を参照する。
【0025】
(3)本発明者らが3週齢のモルモットに対する7日間の形態剥奪(Form deprivation、FD)を行うことにより近視が有意に発生し、剥奪因子除去4日間後に有意に回復する。(Base vs. FD 7D:5.46±0.65D vs.1.00±1.13D、p<0.01;FD vs. R-FD:1.00±1.13D vs.2.73±0.63D、p<0.05)、眼軸がそれに応じて変化する。脈絡膜厚及び血流はFD7日間に有意に薄くなるか又は減少し、且つ統計学的に有意である(正常群vs.FD群vs.R-FD:脈絡膜厚69.8±13.2μm vs. 64.3±11.3μm vs. 77.0±12.1μm;脈絡膜血流:36548±6368 vs. 32448±5815 vs. 38706±6356)、しかも脈絡膜厚と脈絡膜血流との間には高い相関性がある(R=0.9053、p<0.001)、具体的には
図3を参照する。
【0026】
(4)本発明者らが3週齢のモルモットに対する7日間のレンズ誘導(Lens induced、LI)を行うことにより近視が有意に発生し、誘導因子除去4日間後に有意に回復する。(Base vs. LI 7D:5.70 ±0.25D vs. 1.11±0.59D、p<0.001;LI 7D vs. R-LIM:1.11±0.59D vs. 3.54±0.43D、p<0.001)、眼軸がそれに応じて変化する。脈絡膜厚及び血流はLI7日間に有意に薄くなるか又は減少し、且つ統計学的に有意である(正常群vs. LI群vs. R-LI:脈絡膜厚73.1±10.0μm vs. 68.2±7.9μm vs. 74.6±8.6μm;脈絡膜血流:40887±5116 vs. 38975±3931 vs. 41965±4012)、しかも脈絡膜厚と脈絡膜血流との間には高い相関性がある(R=0.6353、p<0.001)、具体的には
図4を参照する。
【0027】
本発明者らは、脈絡膜血流量が減少すると、強膜が酸欠となり、さらに近視を招くことを見出した。上記の実験から、脈絡膜を拡張することによって血流を増やし、酸素供給を増加させることによって近視を効果的に制御できると考えられている。
【0028】
したがって、本発明は、脈絡膜血流量を増加させることによって強膜酸欠による近視を治療する。
【0029】
本発明は薬物又は手術方法を用いて脈絡膜を拡張し、強膜の酸素供給を増加させ、これにより脈絡膜血流量を増加させ、強膜酸欠による近視を治療することを達成する。
【0030】
本発明は以下の薬物により脈絡膜を拡張することによって血流を増やし、酸素供給を増加させることによって近視を効果的に制御することができる。
1、血管を直接的に弛緩させる薬物、血管平滑筋を直接的に拡張させる薬物:ニコチン酸、ヒドララジン、ニトロプルシドナトリウム、インダパミド、ベンダゾール、パパベリン、シンナリジン、ベタヒスチン、ニトログリセリンなど。
2、ヒスタミン系薬物であり、毛細血管を拡張するという作用を有し、脳血流量を増加させることができる:ベタヒスチンピリジン(メリスロン)など。
3、α-アドレナリン受容体阻害薬(α-阻害薬):フェントラミン(レジチン)、ジヒドロエルゴトキシン、プラゾシンなど。
4、アンジオテンシン変換酵素阻害剤薬物:テンシオミン(カプトプリル)など。
5、カルシウムチャネル阻害剤:例えばニフェジピン、ベラパミル。
6、Mコリン受容体を遮断する抗コリン薬:アニソダミンなど。
7、血液循環を改善する漢方薬:センキュウ、タンジン、カッコン、ビルコン錠、川参カプセル、舒血寧など。
【0031】
機序は以下のとおりである。
【0032】
1、脈絡膜拡張薬物は、血管を直接的に弛緩させる薬物又は血管平滑筋を直接的に拡張させる薬物である。
原理:血管平滑筋に対する直接的な弛緩作用があり、末梢抵抗を下げ、血管拡張作用がある。
【0033】
2、前記脈絡膜拡張薬物は、毛細血管を拡張するという作用を有し、血流量を増加させることができるヒスタミン系薬物である。
原理:ヒスタミンが血管平滑筋の受容体(H1R)に結合することにより、血管拡張が起こり、透過性が増加し、局部の血流量の増加を引き起こす。
【0034】
3、脈絡膜拡張薬物はα-アドレナリン受容体阻害薬である。
原理:α受容体阻害薬とは、αアドレナリン受容体に選択的に結合可能であり、アドレナリン受容体を興奮させたりアドレナリン受容体の興奮を弱めたりすることなく、対応する神経伝達物質及び薬物がα受容体に結合することを阻害でき、これにより抗アドレナリン作用が発生するものを指す。血管平滑筋α1受容体を遮断する作用及び血管平滑筋を直接的に弛緩させる作用により、血管を拡張させ、抵抗を下げる。
【0035】
1つは、カテコールアミンと受容体を相互に競合してα受容体阻害作用を発揮する薬物であり、α受容体との結合があまり強固ではなく、作用時間が速く持続時間が短いため、短時間作用型α受容体遮断薬と呼ばれ、また競合的α受容体遮断薬とも呼ばれる。通常用いられるのはフェントラミン(リチジン)である。もう1つは共有結合によってα受容体に結合し、結合が強固であり、受容体遮断作用が強く作用時間が長いなどの特徴があるため、長時間作用型α受容体遮断薬と呼ばれ、また非競合的α受容体遮断薬とも呼ばれ、例えばプラゾシンである。
【0036】
4、脈絡膜拡張薬物はアンジオテンシン変換酵素阻害剤薬物である。
原理:アンジオテンシンIIの生成を減少し、アンジオテンシン変換酵素を抑制し、アンジオテンシンIIの生成を減少させ(アンジオテンシンIIの作用:アンジオテンシンIIはアンジオテンシン受容体に結合し、全身の細動脈、静脈を収縮させること、交感神経性血管収縮線維の放出量を増加させること、エンドセリンの放出を促進できることを含む相応の生理作用を引き起こす)、同時にブラジキニンの分解を減少し、血管を拡張させ、末梢抵抗を下げる。
【0037】
5、脈絡膜拡張薬物はカルシウムチャネル阻害剤である。
原理:細胞外から細胞内へのCa2+の流入を抑制し、細胞内の利用可能なCa2+を減少して作用を発揮する。血管を拡張し、後負荷を低減させ、幾つかの重要な内因性成長因子の放出を減少するか又はそれらの成長促進作用を拮抗する:アンギオテンシンII(作用は4に言及される)、エンドセリン(エンドセリンは内因性長期血管収縮調節因子)、カテコールアミン(カテコールアミンの主要な生理作用は血管のα受容体を興奮させ、血管を収縮させること)など。
【0038】
6、脈絡膜拡張薬物はMコリン受容体を遮断する抗コリン薬である。
原理:Mコリン受容体に結合し、平滑筋を弛緩させ、血管痙攣を解除し、微小循環を改善するという作用を有する。
【0039】
7、脈絡膜拡張薬物は血液循環を改善する漢方薬である。
【0040】
現在、本発明者らは血管拡張薬物によって脈絡膜を拡張し、これにより脈絡膜血流量を増加させて強膜酸欠による近視の治療効果を検証することを実現し、結果は以下のとおりである。
【0041】
図5に示すように、血管を直接的に拡張する薬、血管平滑筋を直接的に拡張する薬:ニコチン酸(Niacin、NA)を採用し、形態剥奪2週間後に、近視が有意に発生し、0.1mgのニコチン酸が形態剥奪を効果的に抑制でき、FDM+Vehicle vs. FDM+NA(0.1mg):-5.43±1.69 vs. -3.43±1.80 D、p<0.01(
図5A)、眼軸がそれに応じて抑制され、0.17±0.05 vs. 0.10±0.06mm、p<0.01(
図5B)。形態剥奪2週間後に、実験眼の血流は有意に減少し統計学的に有意であり、僚眼vs.実験眼:45.38±6.22 vs. 36.62±4.47X10
3、p<0.001、0.1mgのニコチン酸を眼周囲注射した後、両眼の間が有意ではない(
図5C)、しかも脈絡膜厚と脈絡膜血流との間には高い相関性がある(R=0.949、p<0.001)、具体的には
図5Dを参照する。
【0042】
図6に示すように、本発明者らはα-アドレナリン受容体阻害薬(α-阻害薬):プラゾシン(Prazosin、Pr)を採用し、形態剥奪2週間後に、近視が有意に発生し、10μMのプラゾシンが形態剥奪を効果的に抑制でき、FDM+Vehicle vs. FDM+Pr(10μM):-5.98±2.22 vs. -3.26±2.22 D、p<0.01(
図6A)、眼軸がそれに応じて抑制され、0.17±0.05 vs. 0.10±0.06mm、p<0.01(
図6B)。形態剥奪2週間後に、実験眼の血流は有意に減少し統計学的に有意であり、僚眼vs.実験眼:42.50±8.05 vs. 35.79±6.76X10
3、p<0.001)、10μMのプラゾシン0.1mlを眼周囲注射した後、脈絡膜血流の減少を明らかに抑制し、FDM+Vehicle vs. FDM+Pr(10μM):35.79±6.76 vs.37.01±6.26X10
3、p<0.05(
図6C)、しかも脈絡膜厚と脈絡膜血流との間には高い相関性がある(R=0.919、p<0.001)(
図6D)。
【0043】
そのため、本発明者らは血管拡張薬物を採用して脈絡膜を拡張することにより、脈絡膜血流量を増加させ、強膜酸欠による近視を治療できることを証明した。
【0044】
同様に、本発明は手術方法によって脈絡膜を拡張し、血流を増やし、これにより強膜酸欠による近視を治療することもできる。
【0045】
当業者に自明なように、本発明は既に上記の具体的な実施形態を用いて説明したが、本発明の発明思想はこの発明に限定されず、本発明の思想を運用するいかなる改装は、いずれも本特許請求の保護範囲内に含まれる。
【0046】
以上は本発明の好適な実施形態にすぎず、本発明の保護範囲は上記の実施例に限定されず、本発明の思想に属する技術的解決手段はいずれも本発明の保護範囲に属する。なお、当業者であれば、本発明の原理を逸脱することなく、幾つかの改良や修飾を行うことができ、これらの改良や修飾も本発明の保護範囲と見なされるべきである。