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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-11
(45)【発行日】2022-03-22
(54)【発明の名称】乗客コンベアの歩行抑止システム
(51)【国際特許分類】
   B66B 31/00 20060101AFI20220314BHJP
   B66B 29/06 20060101ALI20220314BHJP
【FI】
B66B31/00 C
B66B29/06 A
B66B31/00 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020022496
(22)【出願日】2020-02-13
(65)【公開番号】P2021127211
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2020-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 祐起雄
【審査官】今野 聖一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-199596(JP,A)
【文献】特開2018-020876(JP,A)
【文献】特開2015-113211(JP,A)
【文献】特開2012-062162(JP,A)
【文献】特開2011-195288(JP,A)
【文献】特開2012-166937(JP,A)
【文献】特許第6543598(JP,B2)
【文献】特開2012-236660(JP,A)
【文献】特開2018-104160(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0108067(KR,A)
【文献】特開2007-284168(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0279201(US,A1)
【文献】特開2009-067533(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 21/00 - 31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の踏段の両側に配置された一対の欄干の少なくとも一方に設けられ、上記各踏段の移動方向に沿って配設された複数の発光体を有する発光機構と、
上記各踏段上の利用者を検知する利用者検知手段と、
上記利用者検知手段によって検知された上記利用者が上記各踏段上を歩行しているか否かを判断し、上記利用者が上記各踏段上を歩行している場合に上記発光機構を駆動し、上記利用者の現在位置に合わせて上記各発光体の一部を点滅する制御手段とを具備し、
上記制御手段は、
上記利用者が上記各踏段上を歩行している場合に、上記各発光体の中の上記利用者に最も近い発光体を点滅した後、上記利用者の行動に応じて、上記発光体の点滅を制御することを特徴とする乗客コンベアの歩行抑止システム。
【請求項2】
上記制御手段は、
上記利用者の現在位置の時間的変化から上記利用者の移動速度を算出し、上記利用者の移動速度が上記各踏段の移動速度と異なる場合に上記利用者が上記各踏段上を歩行していると判断することを特徴とする請求項1記載の乗客コンベアの歩行抑止システム。
【請求項3】
上記制御手段は、
上記各発光体の中の上記利用者に最も近い発光体を含む一定の範囲内の2つ以上の発光体を点滅することを特徴とする請求項1記載の乗客コンベアの歩行抑止システム。
【請求項4】
上記制御手段は、
上記利用者が上記各踏段の移動方向に歩行している場合に、上記一定の範囲内の上記各発光体を上記各踏段の移動方向とは逆の方向に流れるように点滅することを特徴とする請求項3記載の乗客コンベアの歩行抑止システム。
【請求項5】
上記制御手段は、
上記利用者が上記各踏段の移動方向とは逆の方向に歩行している場合に、上記一定の範囲内の上記各発光体を上記各踏段の移動方向に流れるように点滅することを特徴とする請求項3記載の乗客コンベアの歩行抑止システム。
【請求項6】
上記制御手段は、
上記利用者が上記各踏段上を歩行している場合に、上記利用者の位置に合わせて上記各発光体の一部を第1の色で点滅し、上記利用者が立ち止まったときに、上記第1の色とは異なる第2の色で一時的に点滅した後に消灯することを特徴とする請求項1記載の乗客コンベアの歩行抑止システム。
【請求項7】
乗客コンベアの乗車口から降車口までの範囲を撮影するカメラを備え、
上記利用者検知手段は、
上記カメラから出力される画像情報を解析処理して、上記各踏段上の利用者を検知することを特徴とする請求項1記載の乗客コンベアの歩行抑止システム。
【請求項8】
複数の踏段の両側に配置された一対の欄干の少なくとも一方に設けられ、上記各踏段の移動方向に沿って配設された複数の発光体を有する発光機構と、
上記各踏段上の利用者を検知する利用者検知手段と、
上記利用者検知手段によって検知された上記利用者が上記各踏段上を歩行しているか否かを判断し、上記利用者が上記各踏段上を歩行している場合に上記発光機構を駆動し、上記利用者の現在位置に合わせて上記各発光体の一部を点滅する制御手段とを具備し、
上記制御手段は、
上記利用者が上記各踏段上を歩行している場合に、上記利用者の位置に合わせて上記各発光体の一部を第1の色で点滅し、上記利用者が立ち止まったときに、上記第1の色とは異なる第2の色で一時的に点滅した後に消灯することを特徴とする乗客コンベアの歩行抑止システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、エスカレータや動く歩道などの乗客コンベアの歩行抑止システムに関する。
【背景技術】
【0002】
エスカレータや動く歩道などの乗客コンベアは、複数の踏段(ステップ)が移動することで、踏段に乗った利用者を歩行させずに移動させる構成にある。したがって、本来、乗客コンベアは、利用者を歩行させない適正な利用が望まれる。
【0003】
ところが、例えば2人乗りのエスカレータであれば、一対の欄干の一方側(踏段の右側または左側)を空けておく習慣があり、その一方側を利用者が歩行することが多い。利用者が踏段上を歩行していると、例えばエスカレータの運転が急停止したときに転倒するなどの危険がある。これは、一人乗りのエスカレータでも同様であり、踏段上を歩行することは危険性が高い。そのため、例えば音声アナウンスで注意喚起したり、欄干照明を点滅するなどして、利用者の歩行を抑止することが考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6543598号公報
【文献】特許第6429726号公報
【文献】特許第6125694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、一般的に、利用者を特定せずに、単に注意喚起する方法が多い。このため、歩行していない利用者にとっては煩わしく感じ、歩行中の利用者に対する抑止効果を期待できない。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、他の利用者に不快感を与えずに、利用者の歩行を効果的に抑止することのできる乗客コンベアの歩行抑止システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態に係る乗客コンベアの歩行抑止システムは、発光機構と、利用者検知手段と、制御手段とを備える。上記発光機構は、複数の踏段の両側に配置された一対の欄干の少なくとも一方に設けられ、上記各踏段の移動方向に沿って配設された複数の発光体を有する。上記利用者検知手段は、上記各踏段上の利用者を検知する。上記制御手段は、上記利用者検知手段によって検知された上記利用者が上記各踏段上を歩行しているか否かを判断し、上記利用者が上記各踏段上を歩行している場合に上記発光機構を駆動し、上記利用者の現在位置に合わせて上記各発光体の一部を点滅する。
上記構成の乗客コンベアの歩行抑止システムにおいて、上記制御手段は、上記利用者が上記各踏段上を歩行している場合に、上記各発光体の中の上記利用者に最も近い発光体を点滅した後、上記利用者の行動に応じて、上記発光体の点滅を制御することを特徴とする。
また、別の観点によれば、上記制御手段は、上記利用者が上記各踏段上を歩行している場合に、上記利用者の位置に合わせて上記各発光体の一部を第1の色で点滅し、上記利用者が立ち止まったときに、上記第1の色とは異なる第2の色で一時的に点滅した後に消灯することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は一実施形態に係るエスカレータの外観構成を示す斜視図である。
図2図2は上記エスカレータの内部を含む全体的な構成を模式的に示した図である。
図3図3は上記エスカレータに設けられた発光体の点滅方法を説明するための図である。
図4図4は上記エスカレータに設けられた発光体の消灯方法を説明するための図である。
図5図5は同実施形態における歩行抑止システムの機能構成を示すブロック図である。
図6図6は上記歩行抑止システムの動作を示すフローチャートである。
図7図7は上記図6のステップS16で実行される歩行判断処理を示すフローチャートである。
図8図8は利用者が一方の欄干側を歩行している場合の発光体の点滅例を示す図である。
図9図9は2人の利用者が一方の欄側を歩行している場合の発光体の点滅例を示す図である。
図10図10は利用者が他方の欄干側を歩行している場合の発光体の点滅例を示す図である。
図11図11は利用者が一方の欄干側、他の利用者が他方の欄干側を歩行している場合の発光体の点滅例を示す図である。
図12図12は1人乗り用のエスカレータにおける発光体の点滅例を示す図である。
図13図13は1人乗り用のエスカレータにおける発光体の別の点滅例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
なお、以下ではマンコンベアの一つであるエスカレータを例にして説明する。各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0010】
図1は一実施形態に係るエスカレータの外観構成を示す斜視図である。図2はエスカレータの内部を含む全体的な構成を模式的に示した図である。図中の10はエスカレータ全体を示す。
【0011】
エスカレータ10は、例えば建物の上階と下階との間に傾斜して設置される。エスカレータ10は、隙間なく連結された多数の踏段(ステップ)11を建屋の下階の乗降口12と上階の乗降口13との間で循環移動させることで、踏段11上に搭乗した乗客を搬送する。乗客が踏段11に乗り降りするための乗降口12,13の床面には、それぞれに踏段11の運転方向に所定の長さを有する乗降板14,15が配設されている。
【0012】
各踏段11は、無端状の連結チェーン18によって連結されており、建物の床下に設置されたトラス19内に配置されている。トラス19の内部には、下部スプロケット20と上部スプロケット21が配置されており、これらの間に連結チェーン18が巻き掛けられている。
【0013】
下部スプロケット20と上部スプロケット21のいずれか一方(この例では上部スプロケット21)には、モータや減速機などを有する駆動装置22が連結されている。この駆動装置22により、下部スプロケット20と上部スプロケット21が回転し、連結チェーン18を介して複数の踏段11が図示しない案内レールにガイドされながら下部機械室16の乗降口12と上部機械室17の乗降口13との間を循環移動する。
【0014】
トラス19の上部には、各踏段11の両側面と対向するように一対のスカートガード23a,23bが踏段11の移動方向に沿って設置されている。この一対のスカートガード23a,23b上にそれぞれ欄干24a,24bが立設されている。欄干24a,24bの周囲にはベルト状のハンドレール25a,25bが装着されている。ハンドレール25a,25bは、踏段11に搭乗している利用者が把持する手摺であり、例えば駆動装置22の駆動力が伝達されることで、踏段11の移動と同期して周回する。
【0015】
ここで、本実施形態では、2人乗り用のエスカレータ10を想定しており、各踏段11は利用者2人を乗車可能な幅を有する。これらの踏段11の両側に一対の欄干24a,24bが配設され、それぞれの内側側面に帯状の発光機構31,32(図5参照)が設けられている。なお、図1および図2では、構図の関係上、一方の発光機構31のみが示されている。
【0016】
発光機構31は、一方の欄干24aの内側側面の長手方向に設けられる。発光機構31には、各踏段11の移動方向に沿って複数の発光体33a,33b,33c…が配列されている。発光機構32は、他方の欄干24bの内側側面の長手方向に設けられる。発光機構32には、各踏段11の移動方向に沿って複数の発光体34a,34b,34c…が配列されている(図5参照)。発光体33a,33b,33c…と、発光体34a,34b,34c…は、例えばLED(light emitting diode)からなり、所定の色(例えば赤色)で点滅制御される。
【0017】
また、エスカレータ10の上部にカメラ35が設置されている。具体的には、例えば建物の天井面など、エスカレータ10の乗降口12から乗降口13までの範囲を撮影可能な場所に設置されている。なお、1台のカメラ35では、エスカレータ10の乗降口12から乗降口13までの範囲を撮影できない場合には、複数台のカメラ35を用いて撮影することでも良い。
【0018】
カメラ35は、広角レンズもしくは魚眼レンズを有し、1秒間に数コマ(例えば30コマ/秒)の画像を連続的に撮影可能である。カメラ35は、エスカレータ10の各踏段11上の利用者を検知するための一手段として用いられる。
【0019】
利用者が各踏段11上を歩行すると、その利用者の現在位置に合わせて、発光機構31または発光機構32に備えられた複数の発光体の一部が選択的に点滅制御される。具体的には、利用者に最も近い発光体、あるいは、利用者に最も近い発光体を含む一定の範囲内の2つ以上の発光体が選択されて点滅する。
【0020】
図3は発光体の点滅方法を説明するための図であり、利用者P1に最も近い発光体を含む一定の範囲内の2つ以上の発光体を点滅する場合の一例を示している。
【0021】
今、例えばエスカレータ10が上昇運転中であり、各踏段11が矢印a方向に移動しているとする。利用者P1がエスカレータ10の乗降口12から入って、エスカレータ10の左側つまり欄干24a側を矢印a方向に歩行したとする。この場合、欄干24aに設けられた発光機構31が駆動され、複数の発光体33a,33b,33c…の中で利用者P1に最も近い発光体を含む一定の範囲内の2つ以上の発光体が点滅する。
【0022】
詳しくは、利用者P1に最も近い発光体から各踏段11の移動方向(矢印a方向)に一定の範囲が点滅範囲として区切られ、その点滅範囲内に存在する2つ以上の発光体が点滅対象として選択される。図3の例では、k1~k5で示される5つの発光体が点滅対象として選択され、これらの発光体が点滅する。利用者P1が前に進むと、利用者P1の現在位置に合わせて発光体33a,33b,33c…の中の点滅対象が更新される。
【0023】
ここで、各踏段11の移動方向(矢印a方向)とは逆の方向(矢印b方向)に光が流れるように、一定の範囲内の各発光体を点滅することが好ましい(図3の例では、k5→k4→k3→k2→k1の順に点滅)。これにより、利用者P1に向かって光が流れるので、利用者P1に歩行禁止であることを強く意識させることができる。
【0024】
図4は発光体の消灯方法を説明するための図であり、利用者P1が歩行を停止したときの発光体の消灯方法の一例を示している。
【0025】
利用者P1が歩行を停止すると、点滅対象であった各発光体が消灯する。図4の例では、利用者P1が歩行を停止したときの位置に合わせて、k6~k10で示される5つの発光体が消灯するときの状態を示している。
【0026】
ここで、k6~k10の発光体を消灯するときに、これらを別の色で点滅した後に消灯することが好ましい。例えばk6~k10の発光体が赤色で点滅していた場合に、利用者P1が歩行を停止したときに、青色で一定時間(例えば2秒間)点滅した後に消灯する。これにより、利用者P1に歩行停止の意識を強く持たせることができる。なお、色別の点滅は、例えば発光色が異なる複数のLEDを用いることで実現できる。
【0027】
図5は歩行抑止システムの機能構成を示すブロック図である。
本実施形態における歩行抑止システムは、発光機構31,32と、カメラ35と、利用者検知装置41と、制御装置42とを備える。
【0028】
上述したように、発光機構31は、一方の欄干24aに設けられ、各踏段11の移動方向に沿って配置された複数の発光体33a,33b,33c…を有する。発光機構32は、他方の欄干24bに設けられ、各踏段11の移動方向に沿って配置された複数の発光体34a,34b,34c…を有する。
【0029】
カメラ35は、図1に示したように、エスカレータ10の上部に設置される。カメラ35は、乗降口12から乗降口13までの範囲を撮影し、その撮影によって得られた画像を利用者検知装置41に出力する。
【0030】
利用者検知装置41と制御装置42は、例えば図2に示した下部機械室16または上部機械室17に設けられる。利用者検知装置41は、カメラ35の撮影画像を解析処理する機能を備え、その解析結果に基づいて各踏段11上の利用者をリアルタイムに検知する。なお、図5の例では、利用者検知装置41と制御装置42とを独立して設けているが、制御装置42に利用者検知装置41の機能を備えることでも良い。
【0031】
制御装置42は、コンピュータからなり、エスカレータ10の運転を制御する。この制御装置42は、本システムを実現するための構成部として、制御部43と記憶部44とを備える。
【0032】
制御部43は、具体的にはマイクロプロセッサからなり、利用者検知装置41によって検知された利用者の現在の現在位置を示す位置情報に基づいて、発光機構31の発光体33a,33b,33c…または発光機構32の発光体34a,34b,34c…を選択的に点滅する。記憶部44は、本システムを実現するためのプログラムを含み、制御部43の処理に必要な情報を記憶している。
【0033】
なお、制御装置42とは別に、本システム専用の端末装置を設け、その端末装置が本システムに関する処理を実行する構成としても良い。当該端末装置はエスカレータ10の機械室16または機械室17のいずれかに設けられていても良い。また、当該端末装置はエスカレータ10が存する建屋内に設けられて、通信により本システムを制御しても良い。
【0034】
駆動部45は、制御部43から出力される駆動制御信号に基づいて、発光機構31に備えられた複数の発光体33a,33b,33c…を点滅駆動する。同様に、駆動部46は、制御部43から出力される駆動制御信号に基づいて、発光機構32に備えられた複数の発光体34a,34b,34c…を点滅駆動する。
【0035】
次に、本実施形態における歩行抑止システムの動作について説明する。
図6は歩行抑止システムの動作を示すフローチャートであり、主として制御装置42の処理動作が示されている。
【0036】
いま、図2に示したように、エスカレータ10が上昇運転中であり、各踏段11が矢印a方向に移動している場合を想定する。この場合、乗降口12は乗車口、乗降口13は降車口となる。利用者P1は、乗降口12から入り、踏段11に乗って乗降口13から降りる。
【0037】
エスカレータ10の運転中、カメラ35によって乗降口12から乗降口13までの範囲が連続的に撮影されている。利用者検知装置41は、カメラ35の画像情報を取得すると(ステップS11)、当該画像情報を解析処理し、その解析結果から踏段11上に乗っている利用者P1を検知する(ステップS12)。
【0038】
画像処理による動体の検知方法には、オプティカルフロー、テンプレートマッチング、ブロックマッチングなどの方法があり、上記ステップS12では、いずれかの方法を用いて利用者P1を検知するものとする。例えばブロックマッチングであれば、カメラ35から得られる各画像を所定のブロック単位でマトリクス状に分割し、時系列順にブロック毎に比較しながら、矢印a方向に移動している利用者P1を検知する。エスカレータ10が2人乗り用である場合は、カメラ25は乗客P1が進行方向の右側、左側に位置しているかを判定することもできる。
【0039】
このようして利用者P1が検知されると(ステップS13のYes)、利用者検知装置41は、利用者P1の現在位置を示す位置情報(撮影画像上のX-Y座標位置)を検知結果として制御装置42に出力する。制御装置42に備えられた制御部43は、利用者検知装置41から出力される利用者P1の位置情報に基づいて、利用者P1が各踏段11上を矢印a方向に歩行しているか否かを判断する(ステップS14)。
【0040】
図7にこのときの歩行判断処理の詳細を示す。
まず、制御部43は、カメラ35から所定のフレームレートで逐次得られる各画像上の利用者P1の現在位置の時間的変化から利用者P1が各踏段11の移動方向に移動しているときの速度V1を算出する(ステップS21)。制御部43は、この算出された利用者P1の移動速度V1と各踏段11の移動速度V0とを比較する(ステップS22)。各踏段11の移動速度V0に関する情報は、例えば記憶部44に予め記憶されている。
【0041】
ここで、利用者P1の移動速度V1と各踏段11の移動速度V0とが同じであった場合、つまり、V1=V0であった場合には(ステップS22のYes)、制御部43は、利用者P1が任意の踏段11上で立ち止まっているものと判断する(ステップS23)。一方、利用者P1の移動速度V1が各踏段11の移動速度V0よりも速かった場合、つまり、V1>V0であった場合には(ステップS22のNo)、制御部43は、利用者P1が各踏段11上を矢印a方向に歩行していると判断する(ステップS24)。
【0042】
なお、歩行判断の別の方法として、例えば撮影画像上から利用者P1の画像を抽出し、欄干24a,24bや各踏段11などの背景画像と比較しながら、利用者P1が各踏段11を進んでいる状態を検知することでも良い。
【0043】
図6に示すように、利用者P1が各踏段11上を歩行していると判断された場合(ステップS14のYes)、制御部43は、利用者検知装置41から得られる利用者P1の位置情報に基づいて、欄干24a側の発光機構31または欄干24b側の発光機構32を駆動する(ステップS15)。
【0044】
以下では、例えば図8に示すように、利用者P1が欄干24a側を速度V1で歩行していたものとして説明する。
【0045】
制御部43は、利用者P1の現在位置に合わせて、発光機構31に備えられた複数の発光体33a,33b,33c…の一部を点滅する(ステップS16)。詳しくは、制御部43は、発光体33a,33b,33c…の中で、利用者P1に最も近い発光体を点滅対象として選択し、その選択された発光体を点滅する。あるいは、利用者P1に最も近い発光体から各踏段11の移動方向に一定の範囲内に存在する2つ以上の発光体を点滅対象として選択し、その選択された各発光体を点滅することでも良い。これにより、歩行中の利用者P1に対して注意勧告を行うことができ、歩行していない他の利用者に不快感を与えずに済む。
【0046】
また、図3の矢印bで示したように、一定の範囲内の各発光体を各踏段11の移動方向とは逆の方向に光が流れるように点滅すれば、歩行中の利用者P1に向かって光が流れるので、利用者P1に向けて注意喚起していることをより強く意識させることができる。
【0047】
なお、上記ステップS22において、利用者P1の移動速度V1が各踏段11の移動速度V0よりも遅かった場合、つまり、V1<V0であった場合には、利用者P1が逆走(各踏段11の移動方向とは逆の方向に歩行)していることである。このような場合も利用者P1が各踏段11上を歩行しているとみなす(ステップS24)。なお、利用者P1が各踏段11の移動速度V0よりも速い速度で逆方向に歩行している状況も考えられるので、利用者P1の移動方向も考慮して逆走を判断することが好ましい。
【0048】
利用者P1が逆送している場合には、利用者P1に最も近い発光体から各踏段11の移動方向とは反対方向に一定の範囲内に存在する2つ以上の発光体を点滅対象として選択し、その選択された各発光体を点滅することが好ましい。その際、各発光体を各踏段11の移動方向に光が流れるように点滅すれば、逆送中の利用者P1に向かって光が流れるので、利用者P1に向けて注意喚起していることをより強く意識させることができる。
【0049】
利用者P1が立ち止まった場合(ステップS17のYes)、制御部43は、発光体33a,33b,33c…の点滅を中止する(ステップS18)。利用者P1が立ち止まったことは、利用者P1の移動速度V1が各踏段11の移動速度V0と同じになったことで分かる(V1=V0)。その際、図4に示したように、現在点滅対象にある発光体を直ぐに消灯するよりも、別の色で一定時間(例えば2秒間)点滅した後に消灯することが好ましい。これにより、利用者P1に歩行停止の意識を強く持たせることができる。
【0050】
利用者P1が降車口である乗降口13から降りるまでの間(ステップS19のNo)、上記ステップS14からの処理が繰り返し実行される。したがって、利用者P1が乗降口13から降りるまでの間に再び歩行すると、発光体33a,33b,33c…の点滅が再開されて、利用者P1に対して注意勧告がなされる。
【0051】
(発光体の点滅例)
発光体の点滅例について説明する。
(a)利用者P1が一方の欄干24a側を歩行している場合
図8に示すように、利用者P1が一方の欄干24a側を歩行していたとする。利用者P1の移動速度V1が各踏段11の移動速度V0より速い場合に、発光機構31に備えられた発光体33a,33b,33c…の中の利用者P1に最も近い発光体あるいは最も近い発光体を含む一定の範囲内の2つの以上の発光体が点滅する。
【0052】
(b)利用者P1,P2が一方の欄干24a側を歩行している場合
図9に示すように、利用者P1,P2が同じ欄干24a側を歩行していたとする。利用者P1の移動速度V1が各踏段11の移動速度V0より速い場合に、発光機構31に備えられた発光体33a,33b,33c…の中の利用者P1に最も近い発光体あるいは最も近い発光体を含む一定の範囲内の2つの以上の発光体が点滅する。同様に、利用者P2の移動速度V2が各踏段11の移動速度V0より速い場合に、発光機構31に備えられた発光体33a,33b,33c…の中の利用者P2に最も近い発光体あるいは最も近い発光体を含む一定の範囲内の2つの以上の発光体が点滅する。3人以上の利用者が歩行している場合も同様であり、各利用者に近い発光体が点滅する。
【0053】
(c)利用者P1が他方の欄干24b側を歩行している場合
図10に示すように、利用者P1が欄干24b側を歩行していた場合には、発光機構32に備えられた発光体34a,34b,34c…の中の利用者P1に最も近い発光体あるいは最も近い発光体を含む一定の範囲内の2つの以上の発光体が点滅する。
【0054】
(d)利用者P1が欄干24a側、利用者P2が欄干24b側を歩行している場合
図11に示すように、利用者P1が欄干24a側、利用者P2が欄干24b側を歩行していた場合には、発光機構31に備えられた発光体33a,33b,33c…の中の利用者P1に最も近い発光体あるいは最も近い発光体を含む一定の範囲内の2つの以上の発光体が点滅する。また、発光機構32に備えられた発光体34a,34b,34c…の中の利用者P2に最も近い発光体あるいは最も近い発光体を含む一定の範囲内の2つの以上の発光体が点滅する。
【0055】
(e)1人乗り用の場合
エスカレータ10が1人乗り用の場合、図12に示すように一対の欄干24a,24bの両方に発光機構31,32を設けても良いし、図13に示すように一対の欄干24a,24bの一方に発光機構31を設けても良い。
【0056】
一対の欄干24a,24bの両方に発光機構31,32が設けられている場合、利用者P1の歩行に対して、発光機構31と発光機構32の両方が駆動され、それぞれに利用者P1に最も近い発光体あるいは最も近い発光体を含む一定の範囲内の2つの以上の発光体が点滅する。
【0057】
また、一対の欄干24a,24bの一方(例えば欄干24a)に発光機構31が設けられている場合、利用者P1の歩行に対して、発光機構31が駆動される。そして、発光体33a,33b,33c…の中の利用者P1に最も近い発光体あるいは最も近い発光体を含む一定の範囲内の2つの以上の発光体が点滅する。
【0058】
このように本実施形態によれば、エスカレータの各踏段上を歩行している利用者がいた場合に、その利用者に向けて1つあるいは複数の発光体が点滅する。したがって、歩行していない他の利用者に不快感を与えることなく、歩行中の利用者に注意喚起して、歩行を抑止することができる。
【0059】
以上述べた少なくとも1つの実施形態によれば、他の利用者に不快感を与えずに、利用者の歩行を効果的に抑止することのできる乗客コンベアの歩行抑止システムを提供することができる。
【0060】
なお、上記実施形態では、カメラを利用して利用者を検知したが、例えば欄干の内側面に複数の動きセンサを各踏段の移動方向に所定の間隔で設置して利用者を検知するなど、他の方法で検知する構成としても良い。
【0061】
また、本発明はエスカレータに限らず、動く歩道などを含む乗客コンベアのすべてに適用可能であり、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0062】
要するに、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0063】
10…エスカレータ、11…踏段、12,13…乗降口、14,15…乗降板、16,17…機械室、18…連結チェーン、19…トラス、20,21…スプロケット、22…駆動装置、23a,23b…スカートガード、24a,24b…欄干、25a,25b…ハンドレール、31,32…発光機構、33a,33b,33c,34a,34b,34c…発光体、35…カメラ、41…利用者検知装置、42…制御装置、43…制御部、44…記憶部、46,47…駆動部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13