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特許7039684高電子移動度トランジスタのためのヘテロ構造及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-11
(45)【発行日】2022-03-22
(54)【発明の名称】高電子移動度トランジスタのためのヘテロ構造及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/338 20060101AFI20220314BHJP
   H01L 29/778 20060101ALI20220314BHJP
   H01L 29/812 20060101ALI20220314BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20220314BHJP
【FI】
H01L29/80 H
H01L21/205
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020502287
(86)(22)【出願日】2017-07-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-10-29
(86)【国際出願番号】 EP2017068300
(87)【国際公開番号】W WO2019015754
(87)【国際公開日】2019-01-24
【審査請求日】2020-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】517241271
【氏名又は名称】スウェガン、アクチボラグ
【氏名又は名称原語表記】SWEGAN AB
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 明
(74)【代理人】
【識別番号】100137523
【弁理士】
【氏名又は名称】出口 智也
(72)【発明者】
【氏名】イェーアル-タイ、チェン
(72)【発明者】
【氏名】オロフ、コーディナ
【審査官】杉山 芳弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-167275(JP,A)
【文献】特開2013-229493(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0000753(KR,A)
【文献】特開2016-004948(JP,A)
【文献】特開2012-248890(JP,A)
【文献】特開2013-073962(JP,A)
【文献】Li et al.,Carbon doped GaN buffer layer using propane for high electron mobility transistor applications: Growth and device results,APPLI. PHYS. LETT.,米国,AIP,2015年12月28日,Vol.107,262105,https://doi.org/10.1063/1.4937575
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/778
H01L 29/812
H01L 21/338
H01L 21/20
H01L 21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電子移動度トランジスタ(HEMT)のためのヘテロ構造(1)であって、
SiC基板(11)と、
前記SiC基板上に形成されるlnAlGa1-x-yN核生成層(12)であって、x=0-1、y=0-1、好ましくはx<0.05及びy>0.50である、lnAlGa1-x-yN核生成層(12)と、
前記lnAlGa1-x-yN核生成層(12)上に、直接に、又は、前記ヘテロ構造の機能に影響を与えない1つ以上の更なる層と共に、形成されるGaNチャネル層(14)と、
を備え、
前記GaNチャネル層(14)の厚さは、50~500nmであり、
前記ln Al Ga 1-x-y N核生成層(12)の厚さは、2~100nmであり、前記ln Al Ga 1-x-y N核生成層(12)が完全に歪んでいるものであり、
前記SiC基板を除いた前記ヘテロ構造の総厚は、1μm未満であり、
前記GaNチャネル層(14)中の炭素の意図しないドーピング濃度は、1E+17cm -3 未満であり、
前記GaNチャネル層(14)は、X線回折XRDによって決定される300arcsec未満のFMHWを有する(002)ピークを伴うロッキングカーブと、400arcsec未満のFMHWを有する(102)ピークを伴うロッキングカーブとを与え、
前記ヘテロ構造(1)の前記GaNチャネル層(14)の表面は、原子間力顕微鏡法AFMによって決定される、1.8nm未満の10×10μm走査面積にわたって、若しくは、1nm未満の3×3μmの走査面積にわたって、rms粗さを伴う原子ステップフロー形態を示す、
ことを特徴とするヘテロ構造(1)。
【請求項2】
前記lnAlGa1-x-yN核生成層(12)が均質な又は変化するAl含有量を有する、請求項1に記載のヘテロ構造(1)。
【請求項3】
Alx1Ga1-x1N及びAlx2Ga1-x2Nの層の周期構造を有する超格子(13)を備え、x1>x2、であり、又は、前記lnAlGa1-x-yN核生成層(12)と前記GaNチャネル層(14)との間に形成されるlnx5Aly5Ga1-x5-y5Nバックバリア層(13)を備える、請求項1から2のいずれか一項に記載のヘテロ構造(1)。
【請求項4】
前記GaNチャネル層(14)上又は排除層(15)上に形成される、lnx3Aly3Ga1-x3-y3Nバリア層、0≦x3<0.20及び、0.15≦y3<1、或いは、Alx4Ga1-x4Nバリア層、0.15≦x4<1、のバリア層(16)を更に備える、請求項1から3のいずれか一項に記載のヘテロ構造(1)。
【請求項5】
前記ヘテロ構造は、前記GaNチャネル層(14)と前記バリア層(16)との間にAlN排除層(15)を更に備える、請求項4に記載のヘテロ構造(1)。
【請求項6】
前記バリア層(16)上に形成されるSiN又はGaNのパッシベーション層(17)を更に備える、請求項5に記載のヘテロ構造(1)。
【請求項7】
前記ヘテロ構造の総厚は、1μm未満、好ましくは0.8μm未満、最も好ましくは0.6μm未満である、請求項1から6のいずれか一項に記載のヘテロ構造(1)。
【請求項8】
高電子移動度トランジスタ(HEMT)のための有機金属化学蒸着(MOCVD)によるヘテロ構造(1)の製造方法であって、
SiC基板(11)を用意するステップと、
前記SiC基板上にlnAlGa1-x-yN核生成層(12)を設けるステップであって、x=0-1、y=0-1である、ステップと、
前記lnAlGa1-x-yN核生成層(12)上に、直接に、又は、前記ヘテロ構造の機能に影響を与えない1つ以上の更なる層と共に、GaNチャネル層(14)を設けるステップと、
を含み、
前記lnAlGa1-x-yN核生成層(12)及び前記GaNチャネル層(14)の成長時の圧力が、20~200ミリバールであり、
前記lnAlGa1-x-yN核生成層(12)の成長時の温度は、900~1200℃であり、
前記GaNチャネル層(14)の成長時の温度は、1000~1150℃であり、
前記lnAlGa1-x-yN核生成層(12)は、2~200nmの厚さで設けられるものであり、
前記GaNチャネル層(14)は、50~500nmの厚さで設けられるものであり、
前記ln Al Ga 1-x-y N核生成層(12)は、2~100nmの厚さで設けられるものあり、
前記ln Al Ga 1-x-y N核生成層(12)は、完全に歪んで設けられているものであり、
前記ヘテロ構造は、前記SiC基板を除いた前記ヘテロ構造の総厚が1μm未満になるように設けられているものであり、
前記GaNチャネル層(14)は、前記GaNチャネル層(14)中の炭素の意図しないドーピング濃度が1E+17cm -3 未満になるように設けられるものである、ことを特徴とする高電子移動度トランジスタ(HEMT)のためのヘテロ構造(1)の製造方法。
【請求項9】
前記GaNチャネル層(14)上に形成される、lnx3Aly3Ga1-x3-y3Nバリア層、0≦x3<0.20或いは、Alx4Ga1-x4Nバリア層、0.15≦x4<1、を設ける更なるステップを含む、請求項8に記載の高電子移動度トランジスタ(HEMT)のためのヘテロ構造(1)の製造方法。
【請求項10】
バリア層(16)を設けるとともに、Al含有量が40~80%であるAlGaN排除層(15)を前記バリア層(16)と前記GaNチャネル層(14)との間に設ける更なるステップを含む、請求項8又は9に記載の高電子移動度トランジスタ(HEMT)のためのヘテロ構造(1)の製造方法。
【請求項11】
前記バリア層(16)上にSiN又はGaNのパッシベーション層(17)を設ける更なるステップを含む、請求項10に記載の高電子移動度トランジスタ(HEMT)のためのヘテロ構造(1)の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載のヘテロ構造(1)を設けるステップと、前記パッシベーション層(17)上にソース、ゲート及びドレイン接点を設けるステップとを含むHEMTデバイスの製造方法。
【請求項13】
ゲート接点(19)を設けるとともに、前記パッシベーション層(17)と前記ゲート接点(19)との間に絶縁層(21)を設けるステップを更に含む、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体デバイスのためのヘテロ構造及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Y.-F.WuらによるAppl.Phys.Lett.、69、1438(1996)では、高電子移動度(HEMT)デバイスの製造に適したAlGaN/GaNヘテロ構造が開示される。ヘテロ構造は、サファイア基板上に成長されるGaN核生成層及びGaNチャネル層を備える。GaNチャネル層の厚さは約0.3~0.4μmである。多数の欠陥を伴う不良な形態を例示するAFM画像を示すLuganiらによるJournal of Applied Physics 113、214503(2013)において例示されるようにそのようなヘテロ構造の形態が不良であることは良く知られている。
【0003】
SiC基板は、サファイア基板と比較して高い熱伝導率を有し、したがって、HEMTデバイスにおける使用において好ましい。しかしながら、サファイア基板上にヘテロ構造を成長させるのに比べて、ヘテロ構造をSiC基板上で成長させることはより困難である。
【0004】
Applied Physics Express 8、111001(2015)では、AlGaN/GaNヘテロ構造がSiC基板上に成長されるヘテロ構造が開示される。このヘテロ構造のGaNチャネル層の厚さは500nmである。この材料の低電流密度に基づいて、2次元電子ガス(2DEG)特性が材料品質によって制限されたことが予期され得る。
【0005】
熱抵抗を低減して、キャリアの閉じ込めを強化するとともに、バッファ関連のトラッピング効果を低減して、ヘテロ構造の生成時間を短縮するために、薄いヘテロ構造が必要である。匹敵する又は更に優れた結晶品質及び/又は形態を有するヘテロ構造を提供することも望ましい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Appl.Phys.Lett.、69、1438(1996)
【文献】Journal of Applied Physics 113、214503(2013)
【文献】Applied Physics Express 8、111001(2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、前述の特性のうちの1つ以上に関して改善されるヘテロ構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は添付の独立請求項によって規定され、この場合、実施形態は、添付の従属請求項、以下の説明、及び、図面に記載される。
【0009】
第1の態様によれば、SiC基板と、SiC基板上に形成されるlnAlGa1-x-yN核生成層であって、x=0-1、y=0-1、好ましくはx<0.05及びy>0.50、より好ましくはx<0.03及びy>0.70、最も好ましくはx<0.01及びy>0.90である、lnAlGa1-x-yN核生成層と、lnAlGa1-x-yN核生成層上に形成されるGaNチャネル層とを備える、高電子移動度トランジスタ(HEMT)用のヘテロ構造が提供される。ヘテロ構造において、GaNチャネル層の厚さは50~500nm、好ましくは100~450nm、最も好ましくは150~400nmであり、GaNチャネル層は、X線回折XRDによって決定される、300arcsec未満のFMHWを有する(002)ピークを伴うロッキングカーブと、400arcsec未満のFMHWを有する(102)ピークを伴うロッキングカーブとを与え、ヘテロ構造の最上層の表面は、原子間力顕微鏡法AFMによって決定される、1.8nm未満、好ましくは1.4nm未満、最も好ましくは1nm未満の10μm走査面積にわたって、1nm未満、好ましくは0.7nm未満、最も好ましくは0.4nm未満の3μmの走査面積にわたって、rms粗さを伴う原子ステップフロー形態を示す。
【0010】
「~上に形成される」は、~上に直接に形成されると解釈されてもよく、或いは、これは、ヘテロ構造の機能に影響を与えない1つ以上の更なる層が存在し得る解釈されてもよい。
【0011】
「核生成層」は、バックバリア層の機能を有してもよい。しかしながら、これはチャネル層の厚さに依存する。
【0012】
一般に、x+y<1である。
【0013】
ヘテロ構造の最上層は、GaNチャネル層、或いは、GaNチャネル層上にある排除層、バリア層、又は、パッシベーション層などの任意の他の層であってもよい。
【0014】
SiCポリタイプは4H又は6Hであってもよい。
【0015】
SiC基板は、例えば、H、HCl、HF、HBr、又は、これらの組み合わせによって前処理されてもよい。
【0016】
前処理は、エッチングガスによって現場で、又は、HFなどの液体によって現場外で行なわれてもよい。
【0017】
SiC基板の温度は、基板が現場でエッチングガスにより前処理される場合、そのような前処理中に1250℃より上、好ましくは1300℃より上、最も好ましくは1350℃より上であってもよい。
【0018】
lnAlGa1-x-yN核生成層は、2~200nm、好ましくは20~150nm、最も好ましくは40~100nmの厚さを有してもよい。
【0019】
lnAlGa1-x-yN核生成層は完全に歪んでいてもよい。
【0020】
完全に歪んでいるとは、核生成層の面内格子定数がSiC基板の平面格子定数と全く同じであること、或いは、全く同じ+/-0.15%、好ましくは+/-0.05%又は+/-0.02%であることを意味し、一般に、核生成層が完全に歪んでいる場合、(105)のようなその非対称X線反射は、逆格子空間マップ内のX軸に沿った(1010)のようなSiC基板の非対称X線反射とうまく整列される。「疑似形態特徴」=「完全に歪んでいる」。
【0021】
lnAlGa1-x-yN核生成層は、均質な又は変化する含有量のAlを有してもよい。
【0022】
Al含有量は、GaNチャネル層に向かって低から高へ又は高から低へと変化する。
【0023】
lnAlGa1-x-yN核生成層とGaNチャネル層との間の界面は、炭素及び/又は鉄で意図的にドープされてもよい。
【0024】
GaNチャネル層には鉄がドープされてもよい。
【0025】
鉄原子の濃度は、核生成層付近のより高いレベルから核生成層から離れた距離でのより低いレベルまで指数関数的に減少していてもよい。
【0026】
ヘテロ構造は、Alx1Ga1-x1N及びAlx2Ga1-x2Nの層の周期構造を有する超格子を更に備えてもよく、この場合、x1>x2であり、或いは、lnAlGa1-x-yN核生成層とGaNチャネル層との間に形成されるlnx5Aly5Ga1-x5-y5Nバックバリア層を更に備えてもよい。
【0027】
バックバリア層の場合、組成はその厚さ方向で一定であってもよい。そのような組成では、好ましくはx5<0.05、より好ましくはx5<0.03、最も好ましくはx5<0.01である。更に、好ましくは、0.01<y5<0.1、より好ましくは、0.03<y5<0.09、最も好ましくは、0.05<y5<0.08である。
【0028】
或いは、バックバリア層の場合、組成はその厚さ方向で変化してもよい。そのような場合、好ましくはx5<0.05、より好ましくはx5<0.03、最も好ましくはx5<0.01である。
【0029】
組成が変化する実施形態では、好ましくは、y5がGaNチャネルに向かって連続的に減少されてもよい。
【0030】
或いは、組成が変化する実施形態において、y5は、GaNチャネルに向かって、好ましくは0から0.7まで、より好ましくは0から0.6まで、最も好ましくは0から0.5まで連続的に増大されてもよい。
【0031】
ヘテロ構造はGaNチャネル層上又は排除層上に形成される、lnx3Aly3Ga1-x3-y3Nバリア層、0≦x3<0.20、好ましくは0≦x3<0.17、最も好ましくは0≦x3<0.12、及び、0.15≦y3<1、好ましくは0.20≦y3<0.90、最も好ましくは0.25≦y3<0.85、或いは、Alx4Ga1-x4Nバリア層、0.15≦x4<1、好ましくは0.20≦x4<0.90、最も好ましくは0.25≦x4<0.85などのバリア層を更に備えてもよい。
【0032】
バリア層は、2~30nm、好ましくは4~20nm、最も好ましくは6~15nmの厚さを有してもよい。
【0033】
ヘテロ構造は、GaNチャネル層とバリア層との間にAlN排除層を更に備えてもよい。
【0034】
排除層は、0.5~3nm、好ましくは1.0~2nm、最も好ましくは1.2~1.5nmの厚さを有してもよい。
【0035】
ヘテロ構造は、バリア層上に形成されるSiN又はGaNのパッシベーション/キャップ層を更に備えてもよい。
【0036】
パッシベーション層は、0.5~20nm、好ましくは1~15nm、最も好ましくは2~10nmの厚さを有してもよい。
【0037】
ヘテロ構造の総厚は、1μm未満、好ましくは0.8μm未満、最も好ましくは0.6μm未満であってもよい。
【0038】
「総厚」とは、ヘテロ構造の厚さ、すなわち、核生成層、チャネル層、バリア層、排除層、パッシベーション層、及び、これらの層間に配置される超格子又はバックバリアなどの層の総厚を意味する。
【0039】
ヘテロ構造において、GaNチャネル層中の意図しない炭素のドーピング濃度は、1E+17cm-2未満、好ましくは5E+16cm-2未満、最も好ましくは3E+16cm-2未満であってもよい。
【0040】
第2の態様によれば、高電子移動度トランジスタ(HEMT)のための有機金属化学蒸着(MOCVD)によるヘテロ構造の製造方法が提供される。この方法は、SiC基板を用意するステップと、SiC基板上にlnAlGa1-x-yN核生成層を設けるステップであって、x=0-1、y=0-1、好ましくはx<0.05及びy>0.50、より好ましくはx<0.03及びy>0.70、最も好ましくはx<0.01 y>0.90である、ステップと、lnAlGa1-x-yN核生成層上にGaNチャネル層を設けるステップとを含む。lnAlGa1-x-yN核生成層及びGaNチャネル層の成長時の圧力は、20~200ミリバール、好ましくは40~150ミリバール、最も好ましくは50~100ミリバールであり、lnAlGa1-x-yN核生成層の成長時の温度は、900~1200℃、好ましくは950~1150℃、最も好ましくは1000~1100℃であり、GaNチャネル層の成長時の温度は、1000~1150℃、好ましくは1020~1100℃、最も好ましくは1040~1080℃であり、lnAlGa1-x-yN核生成層は、2~200nm、好ましくは20~150nm、最も好ましくは40~100nmの厚さで設けられる。GaNチャネル層は、50~500nm、好ましくは100~450nm、最も好ましくは150~400nmの厚さで設けられる。
【0041】
SiC基板は、例えば、H、HCl、HF、HBr、又は、これらの組み合わせによって前処理されてもよい。
【0042】
SiC基板の温度は、前処理の際に、1250℃より上、好ましくは1300℃より上、最も好ましくは1350℃より上であってもよい。
【0043】
この方法は、GaNチャネル層上に形成される、lnAlGa1-x-yNバリア層、0≦x<0.20、好ましくは0≦x<0.17、最も好ましくは0≦x<0.12、及び、0.15<y<1、好ましくは0.20≦y<0.90、最も好ましくは0.25≦y<0.85、或いは、AlGa1-xNバリア層、0.15≦x<1、好ましくは0.20≦x<0.90、最も好ましくは0.25≦x<0.85などのバリア層を設けるステップを更に含んでもよい。
【0044】
この方法において、バリア層の成長時の圧力は20~200ミリバール、好ましくは40~150ミリバール、最も好ましくは50~100ミリバールである。
【0045】
この方法において、バリア層の成長時の温度は、700~1150℃、好ましくは750~1100℃、最も好ましくは780~1080℃であってもよい。
【0046】
この方法は、Al含有量が40~80%、好ましくは45~75%、最も好ましくは50~70%であるAlGaN排除層をバリア層とGaNチャネル層との間に設けるステップを更に含んでもよい。この方法において、排除層の成長時の圧力は、20~200ミリバール、好ましくは40~150ミリバール、最も好ましくは50~100ミリバールである。
【0047】
この方法において、排除層の成長時の温度は、1000~1150℃、好ましくは1020~1100℃、最も好ましくは1040~1080℃であってもよい。
【0048】
この方法は、バリア層上にSiN又はGaNのパッシベーション層を設けるステップを更に含んでもよい。
【0049】
この方法において、パッシベーション層の成長時の圧力は、20~200ミリバール、好ましくは40~150ミリバール、最も好ましくは50~100ミリバールであってもよい。
【0050】
この方法において、パッシベーション層の成長時の温度は、700~1150℃、好ましくは750~1100℃、最も好ましくは780~1080℃であってもよい。
【0051】
第3の態様によれば、前述のヘテロ構造を設けるステップと、パッシベーション層上にソース、ゲート、及びドレイン接点を設けるステップとを含むHEMTデバイスを製造する方法が提供される。
【0052】
この方法は、パッシベーション層とゲート接点との間に絶縁層を設けるステップを更に含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1】lnAlGa1-x-yN/GaNヘテロ構造の一例を概略的に示す。
図2】lnAlGa1-x-yN/GaNヘテロ構造を備えるHEMT構造の一例を概略的に示す。
図3a】従来のプロセスにより成長されるlnAlGa1-x-yN/GaNヘテロ構造におけるGaN層のAFM写真を示す。
図3b】従来のプロセスにより成長されるlnAlGa1-x-yN/GaNヘテロ構造におけるGaN層のAFM写真を示す。
図4a】本明細書中に開示されるプロセスにより成長されるlnAlGa1-x-yNN/GaNヘテロ構造におけるGaN層のAFM写真を示す。
図4b】本明細書中に開示されるプロセスにより成長されるlnAlGa1-x-yNN/GaNヘテロ構造におけるGaN層のAFM写真を示す。
図5a】XRDにより測定された、SiC基板上へと緩和されたAIN核生成層上に成長されたGaNチャネル層の逆格子空間マップ(RMS)を示す。
図5b】XRDにより測定した、SiC基板上へと疑似形態(完全歪み)AIN核生成層上に成長されたGaNチャネル層の逆格子空間マップ(RMS)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0054】
ここで、本明細書中に開示される概念について更に詳しく説明する。
【0055】
最初に、lnAlGa1-x-yN/GaNヘテロ構造を生成するための方法について説明し、その後そのようなヘテロ構造の特性結果について説明する。
【0056】
ヘテロ構造
前述のように、lnAlGa1-x-yN/GaNヘテロ構造は、高電子移動度トランジスタ(HEMT)デバイスなどの半導体デバイスで使用されてもよい。
【0057】
図1は、そのようなlnAlGa1-x-yN/GaNヘテロ構造1の一例を概略的に示す。ヘテロ構造1は、下から上へと見たときに、SiC基板11、lnAlGa1-x-yN核生成層12、随意的な超格子又は随意的なバックバリア層13、GaNチャネル層14、随意的な排除層15、及び、随意的なバリア層16及び随意的なパッシベーション層(キャップ層)17を備える。
【0058】
図2には、lnAlGa1-x-yN/GaNヘテロ構造を備えるHEMT構造2の一例が示される。図2のHEMT構造2は、下から上へと見たときに、SiC基板11、lnAlGa1-x-yN核生成層12、GaNチャネル層14、排除層15、バリア層16、及び、パッシベーション層17を備える。パッシベーション層17上には、ソース18、ゲート19、及び、ドレイン20の接点が形成される。ゲート接点19とパッシベーション層17との間には絶縁層21がある。
【0059】
HEMT構造は、図2に示されるlnAlGa1-x-yN/GaNヘテロ構造を備え、単なる一例であり、そのようなHEMT構造が多くの異なる方法で設計されてもよいことは当業者に知られている。
【0060】
SiC基板は、その高い熱伝導率特性に起因して、生成された熱を効率的に抽出して半導体デバイスにおける温度上昇を最小限に抑えるために使用される。SiC基板のポリタイプは、例えば4H、6H又は3Cであってもよい。SiC基板の配向は、c面、a面及びm面によって表され得る。c面の場合には、Si面及びC面の2つの面がそれぞれ存在する。この開示で議論される構造の製造に際して、Si面又はC面のいずれかが使用されてもよい。基板は好ましくは軸上基板であってもよい。しかしながら、代わりに、2度未満オフなどの低角度オフカット基板が使用されてもよい。
【0061】
lnAlGa1-x-yN核生成層12の1つの目的は、SiC基板とGaNチャネル層との間の格子不整合を補償して、SiC基板上のチャネル層の高品質エピタキシャル成長を得ることである。核生成層の他の目的は、その上にGaNチャネル層を成長させることができるようにすることである。GaNは、SiCなどの一部の基板上で2次元的に直接核生成せず、そのため、GaNを成長させることができるように、核生成層が表面電位を変化させる必要性が存在する場合がある。核生成層はSiC基板上に直接に成長されてもよい。すなわち、基板と核生成層との間に更なる層が付加される必要がない。
【0062】
一般に、先行技術の方法にしたがって製造された8~12nmを超える厚さを有する核生成層は、SiC基板と核生成層との間の約1%の格子不整合に起因して緩和し始める。本明細書中に示されるような完全に歪んだ核生成層は、チャネル層の結晶品質及び形態を改善し得る。
【0063】
本明細書中に開示される方法により成長される核生成層は、最大で少なくとも100nmの厚さで完全に歪まされ得る。しかしながら、核生成層がこの厚さを超えた時点で、格子不整合に起因して核生成層が緩和し始める場合がある。
【0064】
「完全に歪んだ」とは、核生成層の面内格子定数がSiC基板の平面格子定数と全く同じであること、或いは、全く同じ+/-0.15%、好ましくは+/-0.05%又は+/-0.02%であることを意味し、一般に、核生成層が完全に歪んでいる場合、(105)のようなその非対称X線反射は、図5bに示されるように、X軸に沿ったSiC基板の非対称X線反射とうまく整列される。
【0065】
GaNチャネル層14の目的は、不純物、並びに、転位、ピット及び/又はボイドなどの構造的欠陥を大幅に散乱させることなくチャネル電子を自由に移動させることである。GaNチャネル層は、本明細書中に開示される方法に対して特定の厚さだけ成長される場合に前述のように完全に歪み得る核生成層とは対照的に、所望の厚さに達するときに完全に緩和されるはずである。
【0066】
一般に、AIGaN/GaNヘテロ構造では、GaN層がGaNチャネル部とGaNバッファ部とを備える。本明細書中において、GaN層は、チャネル部のみを備え、そのため、「チャネル層」と称される。
【0067】
ヘテロ構造は、lnAlGa1-x-yN核生成層とGaNチャネル層との間に形成される、いわゆる超格子又はlnx5Aly5Ga1-x5-y5Nバックバリア層を更に備えてもよい。
【0068】
超格子は、Alx1Ga1-x1N及びAlx2Ga1-x2Nなどの2つ以上の材料の層の周期構造であり、この場合、x1>x2である。一例として、x1は約0.5であってもよく、x2は約0.1であってもよい。
【0069】
一般に、1つの層の厚さは数ナノメートルであり、超格子層の総厚は10~50nmである。超格子で使用される異なる材料は、異なるバンドギャップを有してもよい。
【0070】
或いは、lnx5Aly5Ga1-x5-y5Nバックバリア層が使用されてもよい。そのようなlnAlGa1-x-yNバックバリア層は、GaNチャネル層に向かって一定の或いは低から高へと又は高から低へと傾斜したAl含有量の組成を有してもよい。
【0071】
バックバリア層の場合、このバックバリア層の組成は、その厚さ方向で一定であってもよい。そのような組成では、好ましくはx5<0.05、より好ましくはx5<0.03、最も好ましくはx5<0.01である。更に、好ましくは0.01<y5<0.1、より好ましくは0.03<y5<0.09、最も好ましくは0.05<y5<0.08である。
【0072】
或いは、バックバリア層の場合、組成はその厚さ方向で変化してもよい。そのような場合、好ましくはx5<0.05、より好ましくはx5<0.03、最も好ましくはx5<0.01である。
【0073】
組成が変化する実施形態において、y5は、GaNチャネルに向かって、好ましくは1から0まで、より好ましくは0.8から0.03まで、最も好ましくは0.6から0.05まで連続的に減少されてもよい。
【0074】
或いは、組成が変化する実施形態において、y5は、GaNチャネルに向かって、好ましくは0から0.7まで、より好ましくは0から0.6まで、最も好ましくは0から0.5まで連続的に増大されてもよい。
【0075】
lnAlGa1-x-yN又はAlGa1-xNのバリア層16は、GaNチャネル層上に形成されてもよい。バリア層の目的は、チャネル電子を誘発させることである。
【0076】
インジウムを備えるバリア層を使用する主な利点の1つは、バリア層内のインジウムの割合が約17~18%であり且つAlの割合が約82~83%であるときに、バリア層16とチャネル層14との間で格子整合条件を達成できることである。格子整合とは、理想的にはヘテロ構造に歪みが組み込まれていないことを意味する。バリア層を備えるインジウム、すなわち、InAIGaN/GaNヘテロ構造は、AIGaN/GaN又はAIN/GaNヘテロ構造と比較してより熱的に安定となり得る。
【0077】
バリア層を備えるインジウムを使用することにより、格子整合又はほぼ格子整合のInAIN/GaN又はInAIGaN/GaNヘテロ構造を実現できるが、InAIN/GaN又はInAIGaNバリア層の高い自発分極に起因して2次元電子ガス(2DEG)密度を依然として得ることができる。
【0078】
更に、バリア層とGaNチャネル層との間にAlN排除層が形成されてもよい。インジウムを備えるバリア層が使用されるときには合金散乱が激しいため、インジウムを備えるバリア層を使用するときには排除層15が必要とされる。排除層の目的は、合金及び界面の散乱を減らし、したがって2DEG移動度を高めることである。
【0079】
更に、SiN又はGaNの随意的なパッシベーション層17がバリア層16上に形成されてもよい。
【0080】
GaN又はSiNのパッシベーション層の目的は、表面状態が2DEG密度に影響を及ぼすことからHEMT構造の表面状態を安定化させることである。GaN又はSiNパッシベーション層を使用することにより、2DEG密度を増大又は減少させることができるが、2DEG移動度はそれほど変化しない。
【0081】
ヘテロ構造成長のための方法
ヘテロ構造の層は、有機金属気相エピタキシー(MOVPE)としても知られている有機金属化学気相成長法(MOCVD)によって堆積されてもよい。MOCVD又はMOVPEは、気相前駆体の化学反応によって固体材料が基板上に堆積される化学蒸着法である。この方法は、主に、複雑な半導体多層構造を成長させるために使用される。
【0082】
MOCVDにおいて、前駆体は、一般にNHなどの水素化物ガスと組み合わせた有機金属化合物である。
【0083】
前駆体は、多くの場合、キャリアガスによって、少なくとも1つの基板が配置される反応室へ輸送される。反応性中間体及び副生成物を形成する前駆体の反応は、基板上又は基板付近で起こる。反応物質は基板に吸着され、それにより、薄膜層が形成され、最終的に、副生成物が基板から運び去られる。
【0084】
薄膜成長時のMOCVDシステム内の圧力は、通常、数mbarから最大で大気圧までの範囲である。
【0085】
反応室は、コールドウォールタイプ又はホットウォールタイプのいずれであってもよい。コールドウォールリアクタでは、一般に、基板が下から加熱されるが、成長ゾーン内の他の部分、例えば壁や天井は、基板よりも冷たく保たれる。対照的に、ホットウォールリアクタでは、成長ゾーン全体、すなわち、基板とサセプタの壁及び天井との両方が加熱される。
【0086】
この開示で論じられるAlN層及びGaN層の成長のために、ホットウォールVP508GFR、Aixtronリアクタが使用された。(引用文献:MOCVDにより成長されるAl含有AIGaNのドーピング、博士論文、D.Nilsson、2014年、ウィキペディア)。
【0087】
SiC基板の前処理
核生成層、チャネル層、及び、随意的な更なる層の成長前に、主に酸素だけでなく炭素からも構成され得る表面汚染物を除去するためにSiC基板が前処理されてもよい。
【0088】
好ましくは、前処理は、現場で、すなわち、核生成層、チャネル層、及び、随意的に更なる層の成長が起こるのと同じチャンバ/リアクタ内で行なわれてもよい。別の方法として、前処理が現場外で、例えば炉内で実行されてもよい。したがって、後者の場合、基板は、前処理後に、層が成長されるリアクタへと移動される。一般に、正しく実行された場合、基板の移動は、新たな表面汚染をもたらさない。
【0089】
現場での前処理の前に、SiC基板が洗浄されてもよいが、洗浄される必要はなく、随意的には、濯がれて更に随意的にパージされてもよい。例えば、SiC基板は、アセトン、メタノール、80°CのNHOH+H+HO(1:1:5)及び80°CのHCl+H+HO(1:1:5)の溶液中において、各溶液5分間にわたって洗浄され、脱イオン水濯ぎ及びNパージ及びHF溶液中への浸漬によって仕上げられてもよい。
【0090】
前処理のため、基板にエッチング効果をもたらすガス、例えば、H2、HCI、又は、これらの組み合わせは、リアクタに流入し得る、したがって基板と相互作用し得るようにされてもよい。別の方法として、HF、HBr、SiF、又は、これらのいずれか1つとHとの組み合わせが使用されてもよい。
【0091】
一例として、H2の流量は約20~30リットル/分であってもよく、及び/又は、HClの流量は約100~200ml/分であってもよい。
【0092】
温度は、前処理温度まで上昇された後、最高温度を維持せずに直ちに下降されてもよい。
【0093】
リアクタの圧力及び温度、並びに、XPSによって検出される無酸素SiC基板をもたらすのに十分な時間は、日常的な実験によって決定されてもよい。
【0094】
前処理時のリアクタ内の圧力は、大気圧~10ミリバールの範囲、好ましくは約50ミリバールであってよい。前処理を開始する前に、リアクタ内のバックグラウンド圧力が110-3mbar未満であってもよい。好ましくは、バックグラウンド圧力はできるだけ低くすべきである。
【0095】
リアクタは、例えば、50mbarのリアクタ内の圧力で前処理のために誘導加熱又は抵抗加熱によって約1250-1500℃まで加熱されてもよい。
【0096】
前処理も圧力に依存すること、つまり、前処理がより低い温度で行なわれる場合には、主に酸素だけでなく炭素も備える表面汚染物を除去するために、同じ量の汚染物を除去するためにより広い範囲の圧力が使用され得るより高い温度で前処理が行なわれる場合と比べて圧力が低い場合があることに留意し得る。
【0097】
一例として、SiC基板は、少なくとも30分の総前処理時間(すなわち、温度の上昇及び下降)中に50mbarで1350°CにおいてHにより前処理され、それにより、XPSにより検出されるような5%未満の単分子層酸素(すなわち、表面積の5%未満が酸素により覆われる)を伴うSiC基板がもたらされ得る。
【0098】
ヘテロ構造の成長
ここで、MOCVDによりlnAlGa1-x-yN/GaNヘテロ構造を成長させるステップについて更に詳しく説明する。
【0099】
サンプル、例えばHEMT構造の一部又はヘテロ構造が成長される基板がMOCVDリアクタに挿入される(MOCVD方法の詳細については、上記を参照)。
【0100】
SiC基板は、MOCVDリアクタ内に挿入される前に前処理されてもよく、これについては前述の前処理に関する詳細を参照されたい。
【0101】
以下に説明するプロセスステップ中、ガリウム、インジウム、及び、アルミニウムの前駆体は、H2、、又は、Arなどの少なくとも1つのキャリアガスによってMOCVDリアクタに輸送されてもよい。
【0102】
アルミニウムを備える層の成長のためのアルミニウム前駆体は、例えば、トリメチルアルミニウム、TMAl、Al(CH、又は、トリエチルアルミニウム、TEA、Al(Cであってもよい。
【0103】
ガリウムを備える層の成長のためのガリウム前駆体は、例えば、トリメチルガリウム、TMGa、Ga(CH、又は、トリエチルガリウム、Ga(C、TEGaであってもよい。
【0104】
インジウムを備える層の成長のためのインジウム前駆体は、例えば、トリメチルインジウム、ln(CH、TMInであってもよい。
【0105】
SiNパッシベーション層の成長のための前駆体は、NH3と組み合わせたSiHであってもよい。
【0106】
前駆体バブラーを通じて流れるキャリアガスの流量は、アルミニウム前駆体に関しては約70ml/min、ガリウム前駆体に関しては約18ml/min、インジウム前駆体に関しては約70ml/minであってもよい。
【0107】
前駆体の流れは、リアクタへの更なる輸送のために30リットル/分程度であってもよい主要なキャリアガス流と合流してもよい。
【0108】
ヘテロ構造層の生成時の前駆体の流量については以下で説明する。
【0109】
前駆体は室温で与えられてもよい。別の方法として、蒸気圧を増大させるため、したがって異なる層の成長を増大させるために、前駆体のうちの少なくとも1つが加熱されてもよい。
【0110】
「室温」とは、0℃~30℃、好ましくは15℃~25℃の温度を意味する。
【0111】
前駆体及び/又はキャリアガスの流れは、各前駆体容器とMOCVDリアクタとの間に位置されてもよい少なくとも1つのマスフローコントローラによって制御されてもよい。
【0112】
前駆体をMOCVDリアクタに供給する制御は、各前駆体容器とMOCVDリアクタとの間に位置される少なくとも1つの弁を開閉することにより実行されてもよい。開閉は、手動で又はコンピュータ制御によって行なわれてもよい。
【0113】
MOCVDリアクタへのガスバーストの蓄積を排除するために、前駆体の流れが主ランラインを迂回して副ラインへ方向付けられてもよい。この副ラインは「ベントライン」と呼ばれる。ガスが主キャリアフローに切り換えられる際のフローバーストを回避するために、ベントラインとランラインの間に圧力バランスがもたらされてもよい。
【0114】
以下、異なるヘテロ構造層の生成時の前駆体の流量の例について説明する。前駆体がMOCVDリアクタに供給される流量と時間は、MOCVDリアクタのサイズ、サンプル/基板のサイズ、前駆体のガス出口とサンプル/基板との間の距離、MOCVDリアクタ内のバックグラウンド圧力などの多くの異なるパラメータに依存する。したがって、前駆体ガスが供給される流量及び時間は、異なる実験セットアップにおいて異なり得る。
【0115】
当業者は、一般に、所定の厚さ、組成、及び、品質の層を提供できると期待され得る。
【0116】
以下で議論される全てのプロセスステップ中、すなわち、ヘテロ構造内の全ての層の成長時に、アンモニアNHの流れがもたらされてもよい。NHの流量は、全てのプロセスステップ中に一定に保たれてもよい。
【0117】
例外として、Nhbの流量は、核生成層の生成時により低くてもよい。
【0118】
核生成層の成長
前処理が現場で行なわれる場合、前処理ガス、例えばHCI及び/又はHの流れは、核生成層成長への移行時に保持されてもよい。前処理が現場外で実行される場合、前処理されたSiC基板はリアクタに移され、そこで核生成層の成長が起こるはずである。基板の移動は、周囲条件、すなわち空気中で行なわれてもよい。前処理が現場外で行なわれる場合、SiC基板が反応室に移されたときに、以下で説明するのと同じ方法で、リアクタの温度及び圧力が設定されてもよい。
【0119】
リアクタ内の圧力が維持され得る間、リアクタの温度を下げられてもよい。温度の低下は一段階で実行されてもよく、すなわち、加熱がオフにされ又はより低い温度値に設定されてもよい。
【0120】
リアクタの温度が約800-1200°Cで、つまり、核生成層成長のためのいわゆる開始温度で安定化されると、圧力は、前処理中に使用される圧力と比較して増大され得る。
【0121】
圧力は、リアクタと、ルーツポンプ、ドライプロセス真空ポンプ、又は、スクリューポンプなどのポンプとの間に位置されてもよいスロットル弁などの弁の使用によって制御されてもよい。例えばスロットル弁を部分的に閉じると、反応室での圧送が減少され、H及び/又はHCIの連続的な流れに起因して圧力が上昇する場合がある。
【0122】
温度及び圧力の両方を安定化させることができるようにしてもよく、また、安定化後、HClを前処理ガスとして使用する場合には、(例えば、HCl源とリアクタとの間の弁を閉じることによって)リアクタへのHClの入口がオフに切り換えられてもよい。前処理ガスとしてHを使用する場合、その流れは、AIN核生成層の成長時に前駆体のうちの少なくとも1つを輸送するためのキャリアガスとしてそれを使用できるため、維持されてもよい。
【0123】
キャリアガスは、H又はNなどの不活性ガスであってもよい。H又はNは、リアクタへの前駆体の輸送のために使用されてもよく、また、H及びNは、リアクタの成長ゾーンでキャリアガスとして使用される。好ましくは、前駆体がリアクタに流入できるようにする前に(例えば、それぞれの前駆体とリアクタとの間の弁を開くことによって)キャリアガスをリアクタに流入させる及び随意的にリアクタに通すことができるようにする。
【0124】
前駆体を蓄える容器は温度制御されてもよく、また、前駆体は好ましくは室温に保たれてもよい。別の方法として、前駆体のうちの少なくとも1つが加熱されてもよく、それにより、層の成長速度を増大できるように加熱された前駆体の蒸気圧を増大させることができる。バブラー内の圧力も電子圧力コントローラを使用して制御される。バブラー内の圧力が低いと、バブラーから出る前駆体の量が多くなる。しかしながら、流量/成長速度が高すぎると層の品質が低下する場合があるため、バブラーの加熱及び/又はバブラー内の圧力の低下が常に最適とは限らない。
【0125】
リアクタへの各前駆体の流量を制御するために、各前駆体容器とリアクタとの間に少なくとも1つのマスフローコントローラが配置されてもよい。
【0126】
前駆体、例えばAl(CH及びNHは、その後、キャリアガスによってリアクタ内へとガス状で同時に輸送され、したがって、SiC基板上での核生成層の成長が開始され得る。
【0127】
一例として、AIN核生成層の成長の場合、核生成層の成長時のTMAI流量は0.7ml/分であり、NH流量は0.5ml/分であってもよい。
【0128】
核生成層の成長中、リアクタ内の温度が上昇する場合がある。別の方法として、温度が一定であってもよい。
【0129】
上昇速度は、2分~20分間にわたってリアクタ内で測定して5~25℃/分であってもよい。そのような条件下では、7分間の成長により、AINの厚さが約30~40nmになる場合がある。AlN核生成層の厚さは、好ましくは、本明細書中に開示される半導体デバイス構造において100nm未満でなければならない。
【0130】
温度の上昇は、例えば、例えば昇温速度の1/100~1/2の小さなステップで増分されてもよい。
【0131】
別の方法では、昇温が連続的に線形、逓増的、又は、逓減的であってもよい。好ましくは、昇温は連続的に直線的である。
【0132】
超格子層の成長
前述のように、超格子は、2つのAlGa1-xN層、Alx1Ga1-x1N、及び、Alx2Ga1-x2Nを備えてもよく、この場合、それぞれx1>x2である。
【0133】
例えば、超格子は、5層のAlNと5層のGaNとを備えてもよい。
【0134】
そのようなAlN層の成長時に、TMAIの流量は0.7ml/分であってもよく、NHの流量は2l/分であってもよい。GaNの成長時に、TMGaの流量は1.06ml/分であってもよく、NHの流量は2l/分であってもよい。
【0135】
MOCVDリアクタ内の温度は1040℃~1080℃の範囲であってもよく、圧力は50ミリバールであってもよい。
【0136】
バックバリア層の成長
随意的な超格子の代わりとして、nAlGa1-x-yN核生成層上にバックバリア層が成長されてもよい。
【0137】
バックバリアは、キャリアの閉じ込めを改善するためのAIGaN層であってもよい。
【0138】
キャリアの閉じ込めとは、HEMTデバイスが高電場下にある状態でチャネル電子がチャネル領域に留まる能力を意味する。したがって、キャリアの閉じ込めが良好であればあるほど、デバイス動作中に高電場によってチャネルから放出されるチャネル電子が少なくなる。
【0139】
バックバリア層の組成は、一定であってもよく、又は、GaNチャネル層に向かって高から低へ又は低から高へと段階的に変化してもよい。この層は、圧力で及び約50mbarの圧力で1040~1080℃の温度範囲において成長されてもよい。
【0140】
Al組成は、AIGaNバックバリアが使用されるため、(TMAI流量)/(TMAI流量+TMGa流量)の気相比によって制御される。
【0141】
一例として、AIGaNを段階的に成長させると、10分の成長時間中に、TMAI流量は0.7ml/minから0ml/minまで減少され得る、及び、TMGa流量は0ml/minから1.8ml/minまで増大される。増減速度はその時間中において直線的である。
【0142】
チャネル層の成長
ここで、核生成層上又は超格子層上でのGaNチャネル層の直接的な成長について説明する。
【0143】
チャネル層は、好ましくは、核生成層と同じリアクタ内で成長されてもよいが、そうである必要はない。
【0144】
GaNチャネル層の成長のために使用される前駆体は、トリメチルガリウム、TMG、Ga(CH、及び、アンモニアNHであってもよい。一例として、前駆体の流量は、NHに関しては2l/min、TMGaに関しては1.8ml/minであってもよい。TMGaバブラーを通じて流れるキャリアガス、例えばHの流量は18ml/minであってもよい。
【0145】
前駆体のそれぞれの流れは、前駆体容器とリアクタとの間に位置されてもよい少なくとも1つのマスフローコントローラによって制御されてもよい。前駆体のそれぞれ又は両方は、H,N又はArなどのキャリアガスによってリアクタへと輸送されてもよい。GaNチャネル層の成長時にリアクタの温度が約1050℃であってもよい。GaNチャネル層成長時のリアクタ内の圧力は約50mbarであってもよい。
【0146】
温度及び圧力が安定したら、その後に、GaNチャネル層の成長が開始されてもよい。これらの条件下で、GaN層の成長速度は、1時間あたり約400~1200nmであってもよい。
【0147】
バリア層の成長
GaNチャネル層の成長後、バリア層がGaN層上に成長されてもよい。バリア層の成長を開始する前に、Inを含むバリアが使用される場合、MOCVDチャンバ内の温度が低下されてもよい。温度は、MOCVDリアクタを加熱するための電源により供給される電力をオフにする(又は減少させる)ことで低下されてもよい。
【0148】
本明細書中に開示されるヘテロ構造の生成のために使用されるMOCVDリアクタの場合、一般に、温度を約800℃まで低下させるのに一般に約20分かかる。
【0149】
一例として、バリア層の生成時に、TMAIの流量は0.5ml/分であってもよく、TMInの流量は1.25ml/分であってもよく、及び、NHの流量は2l/分であってもよい。
【0150】
バリアがインジウムを含まない場合、バリアは、Al含有量が15%~100%の範囲となり得るAlGaN層(又はAlN層)であってもよい。そのようなAlGaN層の厚さは2~30nmの範囲であってもよい。成長温度及び圧力は、GaNチャネル層の生成時と同じであってもよい。
【0151】
NHの流量は、GaNチャネル層の生成時と同じであってもよい。
【0152】
排除層の成長
バリア層とGaNチャネル層との間でAlGaN排除層が成長されてもよい。そのようなAIGaN排除層におけるアルミニウム含有量は一般に50~70%である。
【0153】
成長温度及び圧力は、GaNチャネル層の成長時と同じであってもよい。NHの流量は、2l/分、すなわち、GaNチャネル層の成長時と同じであってもよい。TMAIの流量は0.35ml/minであってもよい。
【0154】
排除層の厚さは1~2nmであってもよい。
【0155】
パッシベーション層の成長
最後に、GaN又はSiNの随意的なパッシベーション/キャップ層はバリア層上に成長されてもよい。
【0156】
一例として、GaNキャップ層の成長のために、TMGaの流量は1.2ml/分であってもよく、NHの流量は2l/分であってもよい。
【0157】
一例として、SiNパッシベーション層の成長のために、250ppm SiHの流量は250ml/分であってもよく、NHの流量は1.0ml/分であってもよい。
【0158】
パッシベーション層の成長時のMOCVDリアクタ内の温度は、バリア層の成長時の温度と同じ、すなわち、Inを含むバリアが使用される場合は約800°C、又は、インジウムを含まないバリアが使用される場合は約1050°Cであってもよい。
【0159】
実験の詳細
X線回折(XRD)特性は、GaNチャネル層の結晶品質を特徴付けるために、λ=0.15406nmのCu Kα1放射線を用いた高解像度X線回折計(Philips X’Pert MRD)によって実行された。HR-XRDシステムには、主光学素子及び副光学素子としてそれぞれハイブリッドミラー及び3軸結晶が設けられ、-0.003°(~11arcsec)の分解能を達成できる。
【0160】
GaN(002)及び(102)ピークのロッキングカーブのFWHMは、対称及びスキュー回折ジオメトリで測定された。
【0161】
ヘテロ構造の表面形態は、原子間力顕微鏡(AFM)によって特徴付けられた。AFMシステム(Veeco Dimension 3100)がタッピングモードで使用された。システムは、垂直方向に沿って0.3~1A、横方向に沿って1~5nmの空間分解能を可能にし、この分解能は、システムのバックグラウンドノイズと、この研究で使用される5~10nmの曲率半径とによってそれぞれ制限される。
【0162】
ヘテロ構造の表面トポグラフィーは、光学顕微鏡(OM)によって特徴付けられた。Nomarski回折干渉コントラストを伴うOMシステムが測定のために使用された。*400の合計倍率が画像を撮影するために使用された。XRD、AFM、及び、OMによる特徴付けが現場外で行なわれた。
【0163】
ヘテロ構造の特性結果
図3a及び図4aには、従来技術の方法(図3a)及び本明細書中に開示されるプロセス(図4a)のそれぞれにしたがって生成されたヘテロ構造におけるGaNチャネル層の光学顕微鏡(OM)画像が示される。
【0164】
両方のサンプルに関し、GaNチャネル層の厚さは0.3μmであり、SiC基板が使用される。
【0165】
OM画像は、大規模な領域の表面形態を示す。ダークスポットは、ピットやボイドなどの構造的欠陥である。
【0166】
図3aと図4aとを比較すると、本明細書中に開示される方法にしたがって生成されたヘテロ構造におけるGaNチャネル層は、従来技術の方法にしたがって生成されたヘテロ構造におけるGaNチャネル層と比較して、構造的欠陥が大幅に少ない、すなわち、表面形態が改善されていることが分かる。
【0167】
図3b及び図4bには、従来技術の方法及び本明細書中に開示されるプロセスにそれぞれしたがって生成されたGaNチャネル層のAFM画像が示される。
【0168】
AFM画像は、3x3μmの面積サイズで表面形態を示す。従来技術の方法にしたがって生成されたヘテロ構造におけるGaNチャネル層を示す図3bは、表面がピットやボイドなどのかなり高密度の構造的欠陥を有することを示す。
【0169】
図において分かるように、本明細書中に開示される方法により成長されたヘテロ構造におけるGaNチャネル層(図4a-図4b)は、ピットやボイドのようなかなり高密度の構造的欠陥を有する従来技術の方法により成長されたGaN層(図3a-図3b)と比較して大幅に改善された形態及びかなり低い欠陥密度を有する。
【0170】
改善された結晶性は、図4a-図4bに示されるGaNチャネル層のロッキングカーブによって確認される。図4a及び図4bに示されるGaNチャネル層は、約88arcsecのFWHMを有する(002)ピーク及び255arcsecのFWHMを有する(102)ピークを伴うロッキングカーブを与える。これらの値は、約515arcsecのFWHMを有する(002)ピーク及び536arcsecのFWHMを有する(102)ピークを伴うロッキングカーブを与える図3a及び図3bに示されるGaNチャネル層と比較され得る。
【0171】
図5a及び図5bは、SiC基板上の緩和されたAIN核生成層(図5a)及び疑似形態(完全に歪んだ)AIN核生成層(図5b)のGaN層の逆格子空間マップ(rlu=逆格子単位)を示す。本明細書中に開示されるヘテロ構造を生成するための方法により、疑似形態(完全に歪んだ)高結晶化度のAlN核生成層を生成することができる。図5bにおいて分かるように、完全に歪んだAINの場合、非対称AIN反射はx軸に沿って非対称SiC反射と整列される。図5a及び図5bの両方のGaNチャネル層は緩和される。
図1
図2
図3a
図3b
図4a
図4b
図5a
図5b