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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-11
(45)【発行日】2022-03-22
(54)【発明の名称】熱可塑型接着フィルム
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/35 20180101AFI20220314BHJP
   C09J 123/00 20060101ALI20220314BHJP
   C09J 123/26 20060101ALI20220314BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20220314BHJP
【FI】
C09J7/35
C09J123/00
C09J123/26
C09J11/04
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021115186
(22)【出願日】2021-07-12
【審査請求日】2021-10-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000100849
【氏名又は名称】株式会社アイセロ
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】児玉 洋人
(72)【発明者】
【氏名】上柳 琢磨
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-165865(JP,A)
【文献】国際公開第2021/124857(WO,A1)
【文献】特開平02-163187(JP,A)
【文献】特開2013-129726(JP,A)
【文献】特開2005-299067(JP,A)
【文献】特開2005-206771(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の要件を満たす熱可塑型接着フィルム。
(A)熱可塑性オレフィンエラストマー含有
(B)酸変性ポリプロピレン系樹脂含有
(C)(A)/(B)の重量比が5/95~70/30
(D)粒径が2.0μm以下のタルクを1.0重量%以下含有
【請求項2】
灰分が1.0重量%以下である請求項1に記載の熱可塑型接着フィルム。
【請求項3】
(A)熱可塑性オレフィンエラストマーと(B)酸変性ポリプロピレン系樹脂の合計の含有量が80重量%以上である請求項1又は2に記載の熱可塑型接着フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱可塑型接着フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示すように、熱可塑性オレフィンエラストマー系樹脂、酸変性ポリプロピレン系樹脂、及び結晶核剤を含有する熱可塑型接着フィルム、およびこの熱可塑型接着フィルムにより基材を接着してなる積層体は公知である。但し、この結晶核剤はジベンジリデンソルビトール誘導体等である。そして、この熱可塑型接着フィルムによれば、優れた接着強度が得られるものである。
また特許文献2に示すように、プロピレンをベースとするエラストマー、マレイン化ポリプロピレン及びタルク等の成核剤を含有し、硬化時間、開放時間、繊維引裂、及び粘度が適切な接着剤組成物も公知である。
【0003】
これらの文献に記載の発明では、熱可塑型接着フィルムの結晶化温度、引張せん断破壊強度、耐寒性及び灰分について、総合的に検討するものではない。
そのため、熱可塑型接着フィルムの利用性が未だ不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-165865号公報
【文献】特表2015-532335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、熱可塑型接着フィルムとして、結晶化温度、及び引張せん断破壊強度が高く、耐寒性に優れ、灰分が少ないという特性を全て備えるものを得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下の手段で解決することができることを見出し、本発明をなすに至った。
1.以下の要件を満たす熱可塑型接着フィルム。
(A)熱可塑性オレフィンエラストマー含有
(B)酸変性ポリプロピレン系樹脂含有
(C)(A)/(B)の重量比が5/95~70/30
(D)粒径が2.0μm以下のタルクを1.0重量%以下含有
2.灰分が1.0重量%以下である1に記載の熱可塑型接着フィルム。
3.(A)熱可塑性オレフィンエラストマーと(B)酸変性ポリプロピレン系樹脂の合計の含有量が80重量%以上である1又は2に記載の熱可塑型接着フィルム。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、結晶化温度、及び引張せん断破壊強度が高く、耐寒性に優れ、灰分が少ないという特性を全て備えるという効果を発揮できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、特定のポリオレフィン系樹脂と特定の核剤を含有する熱可塑型接着フィルムである。
なお、本発明において、粒径はレーザー回折法により測定したD50の値である。
【0009】
また結晶化温度は、示差走査熱量計(DSC)にて25℃から10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温後、10℃/分の冷却速度で冷却した際の結晶化ピーク温度である。
【0010】
((A)熱可塑性オレフィンエラストマー)
本発明における(A)熱可塑性オレフィンエラストマーは、特に限定されないが、例えば示差走査熱量計で測定した融解エンタルピーが35J/g以下であることが好ましい。そして、ポリプロピレン系のものやポリエチレン系のものを採用することができる。
詳しくは、ポリプロピレンのホモ体もしくはランダム体のハードセグメントに、ソフトセグメントとしてエチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴムの未架橋体もしくは部分架橋体をハードセグメントの重合時に分散させたタイプ(リアクター型)、ポリプロピレンのホモ体もしくはランダム体のハードセグメントとエチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴムの未架橋体もしくは部分架橋体のソフトセグメントを混練時に動的架橋させたタイプ、プロピレン-ブテン共重合体、プロピレン-エチレン-ブテン共重合体、プロピレン-ブタジエン共重合体、プロピレン-エチレン-ブタジエン共重合体、シンジオタクチックポリプロピレン、α-オレフィン共重合体などが挙げられる。上記熱可塑型オレフィンエラストマー系樹脂としては、例えば、プライムポリマー製プライムTPO、三菱化学製サーモラン、日本ポリプロ製ウェルネクスなどが挙げられる。
これらの中から、エチレン・プロピレン・ジシクロペンタジエン3元共重合ゴム(EPT)と、ポリプロピレン(PP)とを主成分として配合した熱可塑性オレフィンエラストマー、プロピレン・エチレン共重合ゴム(PER)とポリプロピレン(PP)とを主成分として配合した熱可塑性オレフィンエラストマーや、エチレン・プロピレン・ジシクロペンタジエン3元共重合ゴム(EPT)と、ポリエチレンとを主成分として配合した熱可塑性オレフィンエラストマー等を採用しても良い。
【0011】
熱可塑性オレフィンエラストマーの含有量としては、熱可塑型接着フィルム中2.0重量%以上が好ましく、4.0重量%以上がより好ましく、10.0重量%以上が更に好ましく、20.0重量%以上が最も好ましい。また、69.8重量%以下が好ましく、65.0重量%以下がより好ましく、60.0重量%以下が更に好ましく、55.0重量%以下が最も好ましい。この含有量が2.0重量%未満であると耐寒性に劣る可能性があり、69.8重量%を超えると、引張せん断破壊強度が低下する可能性がある。
【0012】
((B)酸変性ポリプロピレン系樹脂)
本発明における(B)酸変性ポリプロピレン系樹脂は、不飽和カルボン酸や不飽和カルボン酸誘導体がグラフトされて酸変性されたポリプロピレン系樹脂である。このような(B)酸変性ポリプロピレン系樹脂としては、例えば、デュポン製フサボンド、三洋化成製ユーメックス、三井化学製アドマー、三菱ケミカル製モディックなどが挙げられる。
この酸変性ポリプロピレン系樹脂としては、例えば、プロピレン単独重合体;プロピレンと他の少量のα-オレフィン(例えば、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、及び4-メチル-1-ペンテン等)との共重合体(ブロック共重合体、及びランダム共重合体を含む。)などをあげることができる。ポリプロピレンの中では融点が高すぎないものが好ましく、165℃以下が好ましく、155℃以下がより好ましく、145℃以下が更に好ましい。また、耐熱性の点から125℃以上が好ましい。このようなポリプロピレン系樹脂としては、例えば、高立体規則性(アイソタクチックペンタッド分率が、通常96モル%以上、好ましくは98モル%以上。)のプロピレン単独重合体をあげることができる。上記ポリプロピレン系樹脂としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0013】
酸変性をするための不飽和カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、アクリル酸、及びメタクリル酸などをあげることができる。上記不飽和カルボン酸の誘導体としては、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル、無水マレイン酸、イタコン酸モノエステル、イタコン酸ジエステル、無水イタコン酸、フマル酸モノエステル、フマル酸ジエステル、無水フマル酸、アクリル酸メチル等のアクリル酸アルキル、及びメタクリル酸メチル等のメタクリル酸アルキルなどをあげることができる。中でも接着性の観点から、無水マレイン酸が好ましい。不飽和カルボン酸としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
酸変性ポリプロピレン系樹脂の酸変性量(グラフトされている不飽和カルボン酸や不飽和カルボン酸誘導体に由来する構造単位の量)は、グラフトされている不飽和カルボン酸や不飽和カルボン酸誘導体の種類にもよるが、例えば、無水マレイン酸の場合には、接着性の観点から、好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは1.0重量%以上である。一方、製膜性の観点から、好ましくは10.0重量%以下、より好ましくは5.0重量%以下である。
【0014】
(B)酸変性ポリプロピレン系樹脂を得る方法は限定されないが、例えば、ポリプロピレン系樹脂 100重量部と、不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸誘導体0.05~5重量部、及び有機過酸化物0.05~5重量部、を含む樹脂組成物を溶融混練して、ポリプロピレン系樹脂に、不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸誘導体をグラフトさせる方法等を採用できる。
【0015】
前記有機過酸化物としては、例えば、ジクミルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、1,3-ビス(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(tert-ブチルパーオキシ)バレレート、ベンゾイルパーオキサイド、p-クロロベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジアセチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、tert-ブチルクミルパーオキサイドなどをあげることができる。上記成分(r)としては、接着性の観点から、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3が好ましい。上記成分(r)としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
有機過酸化物配合量は、上記ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、接着性の観点から、0.05重量部以上、好ましくは0.2重量部以上、より好ましくは0.5重量部以上である。また酸変性時の溶融粘度低下を制御する観点から、5重量部以下、好ましくは4重量部以下、より好ましくは3重量部以下である。
【0016】
((C) (A)/(B)の重量比が5/95~70/30)
(A)/(B)の重量比が5/95~70/30は、上記(A)熱可塑性オレフィンエラストマー/上記(B)酸変性ポリプロピレン系樹脂の重量比を示す。
中でも、(A)熱可塑性オレフィンエラストマーは、(A)/(B)の重量比が33/67よりも大きくなるように含有することが好ましく、40/60よりも大きくなるように含有することがより好ましい。
また、(A)熱可塑性オレフィンエラストマーは、(A)/(B)の重量比が67/33よりも小さくなるように含有することが好ましく、60/40よりも小さくなるように含有することがより好ましい。
(A)熱可塑性オレフィンエラストマーは、(A)/(B)の重量比が5/95よりも小さくなると耐寒性に劣ることになり、70/30よりも大きいと引張せん断破壊強度が小さくなる。
なお、(A)熱可塑性オレフィンエラストマーと(B)酸変性ポリプロピレン系樹脂の合計の含有量が熱可塑型接着フィルム中80重量%以上であることが好ましい。
【0017】
((D)粒径が2.0μm以下のタルクを1.0重量%以下)
本発明において使用できるタルクとしては、一般的にSiO約60重量%、MgO約30重量%、結晶水4.8重量%を主成分とする含水珪酸マグネシウムである。
そしてタルクを1.0重量%以下含有することが必要であり、好ましくは0.8重量%以下である。タルクを結晶核剤とする場合には、有機化合物系の結晶核剤を使用した場合とは異なり、ブリードアウトすることがなく、熱可塑型接着フィルムを接着強度の低下がなく安定して長期に保存できる。
タルクを1.0重量%を超えて含有させると、熱可塑型接着フィルム中の灰分が1.0重量%を超える可能性があり、廃棄し焼却したときの灰の量が多くなる。
本発明の熱可塑型接着フィルムは、タルクを1.0重量%以下含有した場合において、タルクを含有しない他は同じ組成の熱可塑型接着フィルムに対して、その結晶化温度の上昇温度は、好ましくは3.0℃以上であり、より好ましくは4.0℃以上であり、さらに好ましくは5.0℃以上であり、最も好ましくは6.0℃以上である。
また本発明の熱可塑型接着フィルムのなかでも、タルクを0.2重量%以下含有した場合に、タルクを含有しない他は同じ組成の熱可塑型接着フィルムに対して、その結晶化温度の上昇温度は、好ましくは2.0℃以上であり、より好ましくは3.0℃以上であり、さらに好ましくは4.0℃以上であり、最も好ましくは5.0℃以上である。
なお、本発明のタルクに代えて、粒径が4.5μmのタルクを配合すると、結晶化温度の上昇温度は、粒径が1.0μmのタルクを配合したときよりも2.0℃以上低い温度に留まる。
そして、含有させるタルクの粒径は、1.7μm以下が好ましく、1.3μm以下がより好ましく、1.0μm以下がさらに好ましく、0.8μm以下が最も好ましい。
【0018】
また、タルクは、上記の各樹脂との親和性を向上させる観点から、公知の表面処理剤を用いて処理されていてもよい。このような表面処理剤は特に限定されず、例えば、アミノシラン、エポキシシラン等のシランカップリング剤;チタネート系カップリング剤;脂肪酸(飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸);脂環族カルボン酸及び樹脂酸;金属石鹸等が挙げられる。表面処理剤の添加量は、特に限定されることなく、タルク(VII)100重量部に対して、3重量部以下であることが好ましく、2重量部以下であることが更に好ましく、実質的に添加されていないことが最も好ましい。
【0019】
(その他樹脂)
本発明の熱可塑型接着フィルムには、本発明による効果を毀損しない範囲で、その他の樹脂を含有できる。
このような樹脂としては、相溶性の観点からオレフィン系樹脂が好ましい。なお、その他の樹脂は、(A)熱可塑性オレフィンエラストマー及び(B)酸変性ポリプロピレン系樹脂のいずれでもない。
オレフィン系樹脂としては、エチレン系樹脂、プロピレン系樹脂、およびブテン系樹脂から選ばれる少なくとも1種が挙げられ、好ましくは、エチレン系樹脂およびプロピレン系樹脂から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0020】
エチレン系樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、超高密度ポリエチレン、およびエチレンと他の単量体との共重合体(例えば、エチレン/酢酸ビニル共重合体、エチレン/アクリル酸共重合体、エチレン/メタクリル酸共重合体、エチレン/アクリル酸エステル共重合体、エチレン/メタクリル酸エステル共重合体、エチレン/ブテン-1共重合体、エチレン/プロピレン/ブテン-1共重合体、エチレン/炭素原子数5~12のα-オレフィン共重合体、エチレン/非共役ジエン共重合体など)から選ばれる少なくとも1種が挙げられ、好ましくは、低密度ポリエチレンおよびエチレン/酢酸ビニル共重合体から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0021】
プロピレン系樹脂としては、例えば、ランダムポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、ホモポリプロピレン、およびプロピレンと他の単量体との共重合体から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0022】
ブテン系樹脂としては、例えば、ポリブテン-1およびブテン-1とα-オレフィンとの共重合体から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0023】
(添加剤等)
本発明の熱可塑型接着フィルムにカーボンブラック、グラフェン、グラファイト、ジイモニウム塩、アミニウム塩、シアニン化合物、フタロシアニン化合物、ジチオール金属錯体、ナフトキノン化合物、アゾ化合物、タルクなどの近赤外線吸収性材料を含有させることが可能であり、その結果、レーザー光等の赤外線を照射し加熱することによる接着を可能とする。
【0024】
本発明の熱可塑型接着フィルムの剛性を高めることを目的として、タルク、炭酸カルシウム、セピオライト、ベーマイト、ベントナイト、シリカ、酸化チタン、酸化亜鉛、ガラスビーズ、アルミ・ニッケル・銅などの金属繊維等の無機フィラーを含有することが可能である。
本発明の熱可塑型接着フィルムに密着防止を目的としたアクリルビーズなどの有機系アンチブロッキング剤を用いてもよい。有機系アンチブロッキング剤を用いると、無機系のアンチブロッキング剤とは異なり灰分を増加させない。
【0025】
本発明の熱可塑型接着フィルムには、粘着付与剤を添加してもしなくても良く、粘着性を必要としない場合には添加しなくても良い。また各種架橋剤や可塑剤も添加してもしなくても良い。
【0026】
本発明の熱可塑型接着フィルムの片面又は両面に、易剥離性表面を有する樹脂フィルム等を貼り付けておくことができる。この場合、使用時には、この樹脂フィルムを剥がして、本発明の熱可塑型接着フィルムからなる表面を出して、被接着物表面に貼付を行うことができる。
また本発明の熱可塑型接着フィルムは、単層のフィルムからなっていても良い。また基材シートの両面に本発明の熱可塑型接着フィルムを積層・接着して、3層の構造を形成する用途に使用しても良い、
【0027】
(熱可塑型接着フィルムの性質)
本発明の熱可塑型接着フィルムは上記の材料からなり、そして、下記の特性を有することが好ましい。
結晶化温度としては、熱可塑性オレフィン系エラストマー、酸変性ポリプロピレン系樹脂、ランダムポリプロピレンを用いたベース組成の結晶化ピーク温度に対し、タルクを添加し、その量に応じてランダムポリプロピレンを、あるいはランダムポリプロピレンを含まない組成では熱可塑性オレフィンエラストマーを、減じた組成の結晶化ピーク温度が2℃以上上昇することが好ましく、4℃以上上昇することがより好ましく、6℃以上上昇することが最も好ましい。結晶化温度が高いほど、接着工程において、一旦加熱した熱可塑型接着フィルムが冷却するときに、より高い温度で冷却固化されるので、接着工程をより速やかに行える。
また、本発明の熱可塑型接着フィルムは、タルクを含有しない他は本発明と同じ熱可塑型接着フィルムに対して、タルクを1.0重量%以下含有した熱可塑性接着フィルムは、その結晶化温度が、6.0℃以上上昇したものであることが好ましい。
あるいは、本発明の熱可塑型接着フィルムは、タルクを含有しない他は本発明と同じ熱可塑型接着フィルムに対して、タルクを0.2重量%以下含有した熱可塑性接着フィルムは、そのDSC結晶化温度が、4.0℃以上上昇したものであることが好ましい。
このような、タルクを含有しない他は本発明と同じ熱可塑型接着フィルムに対する結晶化温度の上昇に関する性質は、添加するタルクの粒径に依存する。粒径が小さいほど、結晶化温度の上昇が顕著である。
【0028】
引張せん断破壊強度としては、15.0MPa以上が好ましく、18.0MPa以上がより好ましく、20.0MPa以上が更に好ましく、22.0MPa以上が最も好ましい。
引張せん断破壊強度が高いほど、接着後の構造がより強く維持されることになる。
灰分は1.0重量%以下が好ましく、0.8重量%以下がより好ましい。灰分が少ないほど、熱可塑型接着フィルムを廃棄し焼却した際に発生する焼却灰の量を削減できる。
【0029】
(製造方法)
本発明の熱可塑型接着フィルムは、公知の溶融押し出し成形によって得ることができ、樹脂組成物をTダイ、サーキュラーダイ等から吐出・冷却固化することでフィルムを形成できる。また、熱可塑型接着フィルムの表面濡れ性を向上させる目的で、熱可塑型接着フィルム表面上にコロナ放電処理、プラズマ放電処理、UV/オゾン処理、火炎処理等を施すことが可能である。
【0030】
(接着方法)
本発明の熱可塑型接着フィルムは、被着物が例えばポリプロピレン系樹脂等の熱可塑性樹脂の場合、接着する際の加熱温度である接着温度を(熱可塑性樹脂の融解温度)>(接着温度) ≧(酸変性ポリプロピレン系樹脂の融解温度)-20(但し、融解温度は示差走査熱量計で測定した数値)とすることで、被着物の変形を抑制し接着させることができる。
また、被着物が金属等の十分に融点が高い場合には、接着温度を、(酸変性ポリプロピレン系樹脂の融解温度)-20(但し、融解温度は示差走査熱量計で測定した数値)よりも高温とすることにより接着を行う。
【0031】
(積層体)
本発明における積層体は、本発明の熱可塑型接着フィルムによって、2つの被着物が接着されたものである。接着時の加熱等の条件によって変質等しないものであれば、2枚の被着物は、任意の同じ材料であっても良く、互いに異なる任意の材料であっても良い。
被着物としては、亜鉛メッキ鋼板等の鋼板、鉄、アルミニウム、チタン、銅、亜鉛、錫、マグネシウム合金等の金属材料、陶器、セラミック、耐熱性を有する樹脂等から選択した同じ材料同士、異なる材料同士で良い。
形状としては、シート、フィルム、板、棒、異型の形状、繊維、繊維製品、織布、不織布等任意の形状を選択できる。
用途としては、自動車、電気機器、産業用機器、日用品、家具等、従来より上記の被着物の材料が使用されている分野にて使用できる。
【0032】
(用途)
本発明の熱可塑型接着フィルム用途としては、特に制限が無く、2つの被着物を互いに接着して接着体を得る用途に使用される。
このときの被着物としては樹脂、木材、金属、紙、ガラス、陶器、セラミックス、織布及び不織布等の任意の材料からなるものを選択することができる。
中でも、その2つの被着物の材料の少なくとも一方は樹脂であることが好ましく、2つの材料の両方が樹脂である場合には、各種熱可塑性樹脂同士、各種熱やエネルギー線硬化性樹脂同士、熱可塑性樹脂と熱やエネルギー線硬化性樹脂の組み合わせのいずれでも良く、特に、該2つの被着物のうちの少なくとも一方の被着物をポリプロピレン系樹脂材料又はポリアミド系樹脂材料とすることができる。一方の被着物が樹脂である場合には、その樹脂は熱可塑性樹脂及び熱やエネルギー線硬化性樹脂のいずれでも良い。
また、熱可塑型接着フィルムは自動車用内層品、靴やサンダル等の履物、家具、スマートフォン・タブレット端末・PCの筐体、家電筐体等の各種用途の成形品を作製するための接着材料として使用することができる。
【実施例
【0033】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。
なお、実施例は発明の1形態を示すものであり本発明はこれに限定されるものではない。
下記表に記載組成になるように、各成分を混合し、混練して、フィルム状物に成形して各熱可塑型接着フィルムを得た。
下記表に示す各実施例及び各比較例は、その組成から単にタルクを除いた組成の場合において結晶化温度が102℃になるように、熱可塑性オレフィンエラストマー、酸変性ポリプロピレン樹脂、及びランダムポリプロピレンを含有したものである。一般に、組成が異なれば結晶化温度も異なるので、タルク以外の点で、各実施例の組成とは異なる別の組成の熱可塑型接着フィルムは、102℃ではない結晶化温度を有することが通常である。
各実施例及び比較例では、樹脂組成等により結晶化温度が変化することを補償するように、各実施例及び比較例の組成を調整した。そして、タルクを含有させない場合の結晶化温度を同じ温度にした組成を基礎とした熱可塑型接着フィルム同士を対比して、タルクの添加による結晶化温度上昇効果を測定した。
そして、各実施例及び比較例の組成において、単にタルクのみを含有させない場合には、その組成の結晶化温度は全て102℃である。かつ、例えば、実施例1は結晶化温度が110℃である。つまり、本発明の効果は、結晶化温度が102℃だった熱可塑型接着フィルムを、結晶化温度が108℃以上の熱可塑型接着フィルムにすることだけではなく、タルクを含有しない場合の任意の組成の熱可塑型接着フィルムの結晶化温度を、6℃以上上昇させることである。
熱可塑性オレフィンエラストマー1 : 密度0.89g/cm MFR6g/10分、エチレン-プロピレン系
熱可塑性オレフィンエラストマー2 : 密度0.88g/cm MFR2g/10分、エチレン-ブテン系
酸変性ポリプロピレン系樹脂1 : 密度0.89g/cm MFR6g/10分、無水マレイン酸変性
酸変性ポリプロピレン系樹脂2 : 密度0.88g/cm MFR25g/10分、無水マレイン酸変性
ランダムポリプロピレン : 密度0.89g/cm MFR2g/10分
なお、上記MFRは、230℃で2.16kgの荷重をかけて測定した。
タルク 粒径0.6μm
タルク 粒径1.0μm
タルク 粒径4.5μm
【0034】
【表1】
【0035】
(結晶化温度)
結晶化温度はDSC(示差走査熱量計 ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン製 DSCQ2000型)を用いて測定した。熱可塑型接着フィルムをアルミパンに3mg封入し、25℃から10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温後、10℃/分の冷却速度で冷却した際の結晶化ピーク温度を読み取った。この結晶化ピーク温度について、熱可塑性オレフィン系エラストマー、酸変性ポリプロピレン系樹脂、ランダムポリプロピレンを用いたベース組成の結晶化ピーク温度に対し、タルクを添加し、その量に応じてランダムポリプロピレンを、あるいはランダムポリプロピレンを含まない組成では熱可塑性オレフィンエラストマーを、減じた組成に対して結晶化ピーク温度の上昇温度を比較した。
結晶化温度上昇効果 〇:タルクを含まない場合に対して結晶化温度が2℃以上上昇
結晶化温度上昇効果 ×:タルクを含まない場合に対して結晶化温度が2℃未満上昇
【0036】
(引張せん断破壊強度)
亜鉛メッキ鋼鈑(0.8mm厚x20mm幅x75mm長さ)2枚の間に各実施例及び各比較例の熱可塑型接着フィルム(20mm幅x10mm長さ)を配置して3層構造とし、これを上下とも200℃にセットした熱板プレス機(新東工業製CYPT‐50)にて0.5kN、60秒にて熱加圧接着し、接着サンプルを得た。
得られた接着サンプルを強伸度試験機(島津製作所製AGS-X)にて、室温条件下で引張せん断破壊強度(MPa)を測定した。
上側の被着物と下側の被着物の、接着されていないそれぞれの端部を、その端部から50mmの部分までジグで掴んだ。下側の被着物を固定し、上側の被着物を掴んだジグを引張速度100mm/分で上方に引っ張った。接着箇所が破壊、いずれかの被着物が破壊、又は接着箇所にて界面剥離したときの強度を得て、これを接着面積で除して引張せん断破壊強度(MPa)とした。
引張せん断破壊強度 〇:接着サンプルの引張せん断破壊強度が10MPa以上
引張せん断破壊強度 ×:接着サンプルの引張せん断破壊強度が10MPa未満
【0037】
(耐寒性)
フィルムインパクトテスター(テスター産業 BU-302)の振り子先端に1インチ球をセットし、-20℃条件下にて80μmの熱可塑型接着フィルムをセットし、フィルム突き破り試験をした際のフィルム破壊状態について観察した。
耐寒性 〇:フィルムが白化をともなう延性破壊
耐寒性 ×:フィルムが脆性破壊
【0038】
(灰分)
事前に重量を測定したるつぼに50gの熱可塑型接着フィルムを入れ、これをバーナーにて加熱した後、所定の温度にて灰化させたときの重量からるつぼの重量を減じることで得られた残量を50gで除することにより灰分率を得た。
灰分 〇:灰分率が1重量%以下
灰分 ×:灰分率が1重量%を超える
【0039】
本発明に沿った例である実施例によれば、適切な結晶化温度、高い引張せん断破壊強度及び耐寒性、さらに低い灰分である熱可塑型接着フィルムを得ることができた。
これに対して、タルクの含有量が多すぎる比較例1によれば、灰分が多くなりすぎ、タルクを含有しない比較例2、比較例5や、タルクの粒径が大きすぎて添加量が少ない比較例3によれば、結晶化温度上昇効果が小さい為に、接着時に加熱後固化するまでにより長時間を要した。さらに(B)酸変性ポリプロピレン系樹脂に対して(A)熱可塑性オレフィンエラストマーの重量比が大きすぎた比較例4によれば、引張せん断破壊強度が小さすぎるので、接着性に劣る可能性があり、(A)熱可塑性オレフィンエラストマーを含有しなかった比較例6によれば、耐寒性に劣る結果になった。
【要約】
【課題】熱可塑型接着フィルムとして、結晶化温度、及び引張せん断破壊強度が高く、耐寒性に優れ、灰分が少ないという特性を全て備えるものを得ること。
【解決手段】 以下の要件を満たす熱可塑型接着フィルム。
(A)熱可塑性オレフィンエラストマー含有
(B)酸変性ポリプロピレン系樹脂含有
(C)(A)/(B)の重量比が5/95~70/30
(D)粒径が2.0μm以下のタルクを1.0重量%以下含有
【選択図】なし