(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-11
(45)【発行日】2022-03-22
(54)【発明の名称】遠心ブレーキ
(51)【国際特許分類】
E06B 9/322 20060101AFI20220314BHJP
F16D 59/00 20060101ALI20220314BHJP
E06B 9/80 20060101ALI20220314BHJP
【FI】
E06B9/322
F16D59/00 A
E06B9/80 E
(21)【出願番号】P 2021169453
(22)【出願日】2021-10-15
【審査請求日】2021-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2021101082
(32)【優先日】2021-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000103976
【氏名又は名称】株式会社オリジン
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100102417
【氏名又は名称】飯田 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(74)【代理人】
【識別番号】100194629
【氏名又は名称】小嶋 俊之
(74)【代理人】
【識別番号】100202692
【氏名又は名称】金子 吉文
(72)【発明者】
【氏名】池川 汐里
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-101698(JP,A)
【文献】特開2019-210635(JP,A)
【文献】実開平07-038766(JP,U)
【文献】特開2018-100699(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E06B9/24-9/388
F16D49/00-71/04
F16F15/00-15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面円形の内周面を有する筒状のハウジングと、前記ハウジングの内側に配設されて前記内周面の中心軸を軸に回転可能な回転体とを具備し、
前記回転体は前記中心軸から偏心して軸方向に延びる支持軸を有し、前記支持軸にはウェイトが旋回可能に軸支されており、
前記回転体が回転すると、前記ウェイトが前記支持軸を軸に旋回して前記ウェイトの外周面が前記ハウジングの前記内周面に当接する遠心ブレーキにおいて、
前記ウェイトは軸方向に直列に複数配置され、
前記回転体には係止手段によって周方向に係止されて一体的に回転する調整部材が組み合わされ、前記係止手段は前記回転体に対する前記調整部材の周方向位置を調整可能であり、
前記調整部材は前記ウェイトの前記外周面と前記ハウジングの前記内周面との間で軸方向に直線状に延びる調整片を備え、前記調整片の周方向片側縁は軸方向に直列に配置された複数の前記ウェイトの各々の位置に応じて周方向に段階的に変位されており、前記回転体に対する前記調整部材の周方向位置が調整されることで、前記回転体が回転した際に、前記外周面が前記調整片の内周面に当接する前記ウェイトの数が変化する、ことを特徴とする遠心ブレーキ。
【請求項2】
前記調整片
を軸方向に対して垂直な方向で切断した際の断面は薄板円弧形状である、請求項1に記載の遠心ブレーキ。
【請求項3】
前記調整部材は軸方向に直線状に延びる補助片を備え、前記補助片の延出端と前記調整片の延出端とは環状の補強部材によって接続されている、請求項1又は2に記載の遠心ブレーキ。
【請求項4】
前記係止手段は係止突起と係止凹部から構成され、前記係止突起と前記係止凹部との係止により、前記回転体に対する前記調整部材の周方向位置が段階的に調整される、請求項1乃至3のいずれかに記載の遠心ブレーキ。
【請求項5】
前記回転体は前記支持軸の一端が固定されて前記中心軸に対して垂直に配置される回転端板を、前記調整部材は前記調整片の一端が固定されて前記中心軸に対して垂直に配置される調整円板を夫々備え、前記ハウジングの前記内周面には径方向内側に突出して周方向に延在する環状の支持壁が形成され、前記調整円板は前記回転端板及び前記支持壁によって軸方向において挾持されており、
前記回転端板には周方向に延在する円弧状の係止溝が形成され、前記係止凹部は前記係止溝の周面に形成されており、前記調整円板には周方向に延在すると共に軸方向に延出
し且つ軸方向に対して垂直な方向で切断した際の断面
が円弧形状の係止壁が形成され、前記係止突起は前記係止壁の周面に形成されている、請求項4に記載の遠心ブレーキ。
【請求項6】
前記回転体は前記支持軸の一端が固定されて前記中心軸に対して垂直に配置される回転端板を、前記調整部材は前記調整片の一端が固定されて前記中心軸に対して垂直に配置される調整円板を夫々備え、前記回転端板及び前記調整円板は軸方向に隣接して配置され、
前記回転端板には軸方向に延出する係止片が形成され、前記係止突起は前記係止片の延出端部において径方向に突出して設けられており、前記調整円板には周方向に延在すると共に軸方向に突出
し且つ軸方向に対して垂直な方向で切断した際の断面
が円形の係止部が形成され、前記係止凹部は前記係止部の軸方向突出端部において軸方向外側に向かって開放して設けられている、請求項4に記載の遠心ブレーキ。
【請求項7】
前記係止部は筒状であってその内周面には内径を局所的に増大せしめて前記係止片を受容する受容凹部が形成されている、請求項6に記載の遠心ブレーキ。
【請求項8】
前記回転端板には軸方向に突出して前記係止部の内側に進入
し且つ軸方向に対して垂直な方向で切断した際の断面
が円形の突出部が形成されている、請求項7に記載の遠心ブレーキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心ブレーキ、殊に所要操作に応じて回転体に付加される制動トルクの大きさを段階的に調整可能な遠心ブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
室内の窓際には日射を避ける等の目的からブラインドが配設されることがある。ブラインドは水平方向に延びるスラットを有する。スラットは上下方向に多数配置され、多数のスラットは夫々昇降コード(操作コードと称されることもある)によって上下方向に接続される。ブラインドは更に、最上端に位置するスラットよりも上方に配置される巻き取り機構と、最下端に位置するスラットよりも下方に配置されるボトムレール(ボトムパイプ或いはウェイトバーと称されることもある)とを備え、昇降コードの一端が巻き取り機構に他端がボトムレールに夫々接続される。かようなブラインドにあっては、巻き取り機構を操作して昇降コードを巻き取ることでボトムレールは上昇し、巻き取り機構が備える適宜のロック機構を作動させることでボトムレールは上昇した任意の位置で保持される。そして、上記ロック機構の作動を解除すればボトムレールは降下する。ここで、上記ロック機構の作動を解除するとボトムレールは自由落下してしまうことから、その降下速度を低減させるべく巻き取り機構には適宜のブレーキ機構が組み込まれることがある。このようなブレーキ機構としては周知の遠心ブレーキが採用されることが多い。
【0003】
下記特許文献1には、遠心ブレーキの一例として、断面円形の内周面を有する筒状のハウジングと、前記ハウジングの内側に配設される回転体とを具備し、前記回転体は前記ハウジングの前記内周面の中心軸を軸に回転可能であり、前記回転体は前記中心軸から偏心して軸方向に延びる支持軸を有し、前記支持軸にはウェイトが旋回可能に軸支されており、前記回転体が回転すると、前記ウェイトが遠心力によって前記支持軸を中心に旋回して前記ウェイトの外周面が前記ハウジングの前記内周面に当接し、これに対して摺動する遠心ブレーキが開示されている。上記遠心力によってウェイトの外周面はハウジングの内周面に押し付けられ、ウェイトの外周面とハウジングの内周面との間で生じる垂直抗力は増大せしめられるため、摩擦に起因した上記制動トルクは増大せしめられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
而して、特許文献1に開示された遠心ブレーキにあっては制動トルクの大きさを調整することができず、従って、この遠心ブレーキが上述したブラインドのブレーキ機構として用いられた場合には、使用者の好みによってスラットの落下速度を調整することができない。また、スラットの重さによって制動トルクを変える場合には、予め制動トルクの異なる複数種類の遠心ブレーキを準備しておく必要があり、遠心ブレーキの在庫管理が煩雑である。
【0006】
ところで、本発明者は本願に先立って出願した特願2020-187961の明細書及び図面において、複数個のウェイトを軸方向に直列に配置し、回転体にはこれと一体となって回転すると共に回転体に対して軸方向に進退可能な調整部材を組み合わせ、回転体に対する調整部材の軸方向位置を調整することで調整部材がハウジングの内周面とウェイトの外周面との間に選択的に進入可能な遠心ブレーキを提案した(以下「先行遠心ブレーキ」という)。この遠心ブレーキによれば、回転体に対する調整部材の軸方向位置を調整することで、回転体が回転した際に、(ウェイトの)外周面が調整部材の内周面に当接してハウジングの内周面に当接することが阻止されるウェイトの数を変化させることができ、これにより回転体にかかる制動トルクの大きさを段階的に調整することが可能となる。
【0007】
而して、上記先行遠心ブレーキも充分に満足し得るものではなく、次のとおりの解決すべき課題を有する。即ち、先行遠心ブレーキにあっては、調整部材は回転体に対して軸方向に進退することから、回転体に対する調整部材の軸方向移動距離は軸方向に直列に配置されたウェイトの数に応じて相当長く、それ故に先行遠心ブレーキを外部機器に組み込む際には、調整部材が軸方向に進退できる分だけの相当な軸方向の空間を要する。更に、先行遠心ブレーキの調整部材は略円筒形状であることに起因して、材料使用量が多く又成形型が複雑となり、製造コストがかかる。
【0008】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、その主たる技術的課題は、軸方向長さが短く且つ一定で製造コストが低減ながら制動トルクの大きさを段階的に調整可能な、新規且つ改良された遠心ブレーキを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討の結果、回転体には係止手段によって周方向に係止されて一体的に回転する調整部材を組み合わせ、調整部材には、ウェイトの外周面とハウジングの内周面との間に配置されて軸方向に直線状に延びる調整片を設け、調整片の周方向片側縁を軸方向に直列に配置された複数個のウェイトの各々の位置に応じて周方向に変位させ、回転体に対する調整部材の周方向位置を調整することで、回転体が回転した際に、(ウェイトの)外周面が調整片の内周面に当接するウェイトの数を変化させることで、上記主たる技術的課題を達成できることを見出した。
【0010】
即ち、本発明によれば、上記主たる技術的課題を達成する遠心ブレーキとして、断面円形の内周面を有する筒状のハウジングと、前記ハウジングの内側に配設されて前記内周面の中心軸を軸に回転可能な回転体とを具備し、
前記回転体は前記中心軸から偏心して軸方向に延びる支持軸を有し、前記支持軸にはウェイトが旋回可能に軸支されており、
前記回転体が回転すると、前記ウェイトが前記支持軸を軸に旋回して前記ウェイトの外周面が前記ハウジングの前記内周面に当接する遠心ブレーキにおいて、
前記ウェイトは軸方向に直列に複数配置され、
前記回転体には係止手段によって周方向に係止されて一体的に回転する調整部材が組み合わされ、前記係止手段は前記回転体に対する前記調整部材の周方向位置を調整可能であり、
前記調整部材は前記ウェイトの前記外周面と前記ハウジングの前記内周面との間で軸方向に直線状に延びる調整片を備え、前記調整片の周方向片側縁は軸方向に直列に配置された複数の前記ウェイトの各々の位置に応じて周方向に段階的に変位されており、前記回転体に対する前記調整部材の周方向位置が調整されることで、前記回転体が回転した際に、前記外周面が前記調整片の内周面に当接する前記ウェイトの数が変化する、ことを特徴とする遠心ブレーキが提供される。
【0011】
好ましくは、前記調整片を軸方向に対して垂直な方向で切断した際の断面は薄板円弧形状である。前記調整部材は軸方向に直線状に延びる補助片を備え、前記補助片の延出端と前記調整片の延出端とは環状の補強部材によって接続されているのが好適である。好適には、前記係止手段は係止突起と係止凹部から構成され、前記係止突起と前記係止凹部との係止により、前記回転体に対する前記調整部材の周方向位置が段階的に調整される。この場合には、前記回転体は前記支持軸の一端が固定されて前記中心軸に対して垂直に配置される回転端板を、前記調整部材は前記調整片の一端が固定されて前記中心軸に対して垂直に配置される調整円板を夫々備え、前記ハウジングの前記内周面には径方向内側に突出して周方向に延在する環状の支持壁が形成され、前記調整円板は前記回転端板及び前記支持壁によって軸方向において挾持されており、前記回転端板には周方向に延在する円弧状の係止溝が形成され、前記係止凹部は前記係止溝の周面に形成されており、前記調整円板には周方向に延在すると共に軸方向に延出し且つ軸方向に対して垂直な方向で切断した際の断面が円弧形状の係止壁が形成され、前記係止突起は前記係止壁の周面に形成されているのがよい。また、前記回転体は前記支持軸の一端が固定されて前記中心軸に対して垂直に配置される回転端板を、前記調整部材は前記調整片の一端が固定されて前記中心軸に対して垂直に配置される調整円板を夫々備え、前記回転端板及び前記調整円板は軸方向に隣接して配置され、前記回転端板には軸方向に延出する係止片が形成され、前記係止突起は前記係止片の延出端部において径方向に突出して設けられており、前記調整円板には周方向に延在すると共に軸方向に突出し且つ軸方向に対して垂直な方向で切断した際の断面が円形の係止部が形成され、前記係止凹部は前記係止部の軸方向突出端部において軸方向外側に向かって開放して設けられているようにしてもよい。後者の場合には、前記係止部は筒状であってその内周面には内径を局所的に増大せしめて前記係止片を受容する受容凹部が形成されており、そしてさらに、前記回転端板には軸方向に突出して前記係止部の内側に進入し且つ軸方向に対して垂直な方向で切断した際の断面が円形の突出部が形成されているのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の遠心ブレーキにあっては、係止手段によって回転体と周方向に係止してこれと一体となって回転する調整部材が、ウェイトの外周面とハウジングとの内周面との間で軸方向に延びる調整片を備えており、調整片の周方向片側縁は軸方向に直列に配置された複数のウェイトの各々の位置に応じて周方向に段階的に変位されていることから、回転体に対する調整部材の周方向位置が調整されることで、調整片の内周面に外周面が当接するウェイトの数が変化する。ウェイトの外周面が調整片の内周面に当接することでそのウェイトの外周面がハウジングの内周面に当接することは阻止されることから、回転体に対する調整片の周方向位置を変えることで、回転体が回転した際に、ハウジングの内周面に外周面が当接するウェイトの数を変化させることができ、これにより、回転体にかかる制動トルクを段階的に変化させることができる。このとき、調整部材は回転体に対して軸方向ではなく周方向に移動することから、本発明の遠心ブレーキの軸方向長さは短く且つ一定である。更に、調整片の周方向片側縁は軸方向に直列に配置されたウェイトの位置に応じて周方向に変位せしめられていて調整片は円筒形状でないことから、調整部材を成形するための使用材料を低減させることができると共に調整部材を成形するための型が比較的単純となり、本発明の遠心ブレーキにあっては製造コストを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に従って構成された遠心ブレーキの全体構成を示す図。
【
図2】
図1に示す遠心ブレーキを構成部品毎に分解して示す斜視図。
【
図3】
図1に示す遠心ブレーキのハウジングを単体で示す図。
【
図4】
図1に示す遠心ブレーキの回転体を単体で示す図。
【
図5】
図1に示す遠心ブレーキのウェイトを単体で示す図。
【
図6】
図5に示すウェイトを回転体の支持軸に装着する工程を説明する図。
【
図7】
図1に示す遠心ブレーキの調整部材を単体で示す図。
【
図8】
図1に示す遠心ブレーキにおいて、調整片とウェイトとの位置関係を模式的に示す展開図。
【
図9】
図1に示す遠心ブレーキの増速機の全体構成を示す図。
【
図10-1】
図1に示す遠心ブレーキの作動を説明するための図。
【
図10-2】
図1に示す遠心ブレーキの作動を説明するための図。
【
図10-3】
図1に示す遠心ブレーキの作動を説明するための図。
【
図11】本発明に従って構成される遠心ブレーキの変形例の全体構成を示す図。
【
図12】
図11に示す遠心ブレーキにおける回転体と調整部材との組み合わせを示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に従って構成された遠心ブレーキの好適実施形態を図示している添付図面を参照して、更に詳細に説明する。なお、以下の説明における「軸方向片側」及び「軸方向他側」とは、特に指定しない限り、
図1のA-A断面に示される状態を基準として、「軸方向片側」は同図において左側を、「軸方向他側」は同図において右側のことを言う。
【0015】
図1及び
図2を参照して説明すると、全体を番号2で示す遠心ブレーキは、筒状のハウジング4と回転体6とを具備している。
【0016】
図1及び
図2と共に
図3を参照して説明すると、ハウジング4は比較的硬質の合成樹脂により成形された円筒形状であって軸方向に貫通しており、断面円形の内周面8を有している。内周面8の中心軸をoで示す。ハウジング4の内周面の軸方向他側端部には径方向内側に突出して周方向に連続して延在する円環形状の支持壁10が形成されている。支持壁10は後述する調整部材50の調整円板52を軸方向他側から支持する。
図3と共に
図2を参照することによって理解されるとおり、ハウジング4の外周面の軸方向片側端部には、直径方向の両側において軸方向片側に向かって直線状に延びる一対の延出片12が形成されており、一対の延出片12の各々の延出端部の外面には軸方向係止突起14が形成されている。ハウジング4の外周面の軸方向片側端部には更に、直径方向の両側において径方向外方に突出する一対の耳部16が形成されており、一対の耳部16の各々には軸方向片側に向かって突出する断面円形の位置決めピン18が立設されている。軸方向係止突起14及び位置決めピン18は周方向に交互に90度の角度間隔をおいて配置されている。かようなハウジング4は適宜の固定手段によって固定される。
【0017】
図1に示すとおり、回転体6はハウジング4の内側に配設されて、中心軸oを軸に回転可能である。
図1と共に
図2及び
図4を参照して説明すると、回転体6は合成樹脂製であって、中心軸oから偏心して軸方向に延びる支持軸20を有している。支持軸20の形状の詳細については後に言及する。図示の実施形態においては、支持軸20は直径方向の両側に1つずつ設けられており、支持軸20の両端は夫々軸方向に間隔をおいて配置された2つの回転端板22a及び22bによって支持固定されている。回転端板22a及び22bは共に円形であって、軸方向片側に位置する回転端板22aは軸方向他側に位置する回転端板22bよりも外径が大きい。回転端板22a及び22bは中心軸oに対して実質上垂直に配置され、回転端板22a及び22bの中心は共に中心軸o上に位置し、回転端板22aは後述する増速機70の一部であるキャリア補助板84の軸方向他側に、回転端板22bは後述する調整部材50の調整片54よりも径方向内側において調整円板52の軸方向片側に夫々隣接して配置されている。回転端板22a及び22bは中心軸oに沿って軸方向に延びる中央円筒壁24によっても接続されている。回転端板22aの軸方向片側面には中心軸oと共通の回転軸を有する太陽歯車26が設けられている。回転端板22bの外周縁部には、周方向に延在する円弧状の係止溝28が直径方向の両側に1つずつ形成されており、夫々の係止溝28の周面、図示の実施形態においては係止溝28を画成する回転端板22bの外周面には係止凹部30が設けられている。係止凹部30は軸方向に直列に配置された後述するウェイト32の数に応じて複数、図示の実施形態においては3つ設けられており、3つの係止凹部30は周方向に間隔をおいて配置されている。以下の説明において3つの係止凹部30の夫々について言及する際には、軸方向他側から見て反時計方向に向かってa乃至cを付して言及する。係止凹部30は、後述する調整部材50に形成された係止突起66と共に、回転体6と調整部材50とを周方向に係止する係止手段を構成する。
【0018】
図1のA-A断面図に示すとおり、回転体6の支持軸20にはウェイト32(32a乃至32c)が軸支されている。図示の実施形態においては、2つの支持軸20の各々に3つのウェイト32が軸方向に直列に軸支されている。以下の説明において軸方向に直列に配置された3つずつのウェイト32の夫々について言及する際には、軸方向片側から軸方向他側に向かってa乃至cを付して言及する。
図1と共に
図2及び
図5を参照して説明を続けると、図示の実施形態においては、ウェイト32は金属製の主部34と、比較的軟質の合成樹脂からなる摺動片36とから構成されている。主部34は平面視において周方向に180度よりも幾分小さい角度範囲に亘って延在する円弧形状であって、所要軸方向幅を備えている。主部34の周方向片側端部には回転体6の支持軸20が挿通される軸穴37が形成されている。軸穴37が形成されている側が、回転体6が回転した際の回転方向下流側となる。軸穴37については後に更に言及する。軸穴37よりも周方向他側(回転方向上流側)における主部34の外周面の所要部位には摺動片36が交換可能に装着される装着溝38が形成されている。装着溝38は軸方向に直線状に延在し、その断面形状の一部は主部34の装着溝38が有する上記所要形状と対応する。このことから、摺動片36は対応する上記一部が装着溝38に軸方向に進入することで主部34に装着され、摺動片36が主部34に装着された状態にあっては、
図1のC-C断面等に示すとおり、摺動片36の外周面は主部34の外周面よりも径方向外方に位置する。主部34の外周面の軸方向片側端部には、外径を幾分低減させることによって形成される段部40が周方向に連続して設けられている。
【0019】
回転体6及びウェイト32について更に説明を続ける。
図4のX部拡大図を参照して説明すると、回転体6の支持軸20の断面形状は、一点鎖線で示す基準円42の周縁の一部をなす円弧状外周部20aと基準円42の周縁の一部の径を局所的に低減させた低減部20bとを有する。円弧状外周部20a及び低減部20bは共に基準円42の直径方向両側に一対ずつ設けられており、円弧状外周部20aと低減部20bは周方向に交互に位置する。一対の低減部20bの各々は相互に平行な平坦面であり、
図4のB-B断面図において時計方向に向かって径方向内側に幾分傾斜している。
【0020】
図5(a)左図を参照して説明すると、ウェイト32の主部34に形成された軸穴37の断面形状は、基準円42の周縁の一部をなす円弧状内周部37aとこの円弧状内周部37aの両端から軸方向に対して垂直方向に延出する一対の溝規定部37bとを有しており、一対の溝規定部37bは主部34の外周面において開放される連通溝48を規定している。連通溝48の溝幅Dは支持軸20において基準円42の中心44を通過する最小径d(
図4のX部拡大図も参照されたい)に対応するため、
図6(a)に示すとおり、支持軸20の低減部20bを連通溝48に整合、即ち低減部20bを溝規定部37bに対向させることで、支持軸20は連通溝48に進入可能となる。図示の実施形態においては、一対の溝規定部37bの各々は円弧状内周部37aの両端から軸方向に対して垂直方向に相互に離隔して延出しており、これにより連通溝48の溝幅Dは主部34の外周面に向かって漸次増大せしめられている。そして、溝幅Dの最小値はdと同一若しくはこれよりも僅かに大きく設定されている。
【0021】
図示の実施形態の遠心ブレーキ2では、回転体6の支持軸20及びウェイト32が上述したとおりの構成であることから、以下のような様式でウェイト32を支持軸20に装着することができる。即ち、
図6に示すとおり、支持軸20を連通溝48に進入(同図(a))させた後に、支持軸20の円弧状外周部20aを軸穴37の円弧状内周部37aに面接触させ(同図(b))、しかる後に支持軸20を旋回中心としてウェイト32を中心軸oに向かってつまり同図において時計方向に旋回させる(同図(c))。支持軸20の円弧状外周部20a及び軸穴37の円弧状内周部37aはいずれも共通の基準円42の周縁の一部であることから、ウェイト32は支持軸20を旋回中心として旋回可能である。かくしてウェイト32は支持軸20に装着される。
図6(b)に示す状態における支持軸20に対するウェイト32の旋回角度は、後に言及するウェイト32の外周面がハウジング4の内周面8と当接する旋回角度よりも大きい。ここでいう「旋回角度」は、回転体6が回転していない状態つまり
図1に示す状態を基準とする。従って、ウェイト32は支持軸20に対し、ウェイト32の外周面がハウジング4の内周面8と当接する旋回角度よりも大きい旋回角度で支持軸20に装着される。ウェイト32が支持軸20に装着された後に、回転体6及びウェイト32はハウジング4と組み合わされる。
【0022】
再び
図1を参照して説明すると、回転体6には調整部材50が組み合わされている。
図1、
図8、
図10-1乃至
図10-3にあっては、容易に理解できるよう調整部材50については薄墨を付して示している。
図1と共に
図2及び
図7を参照して説明すると、調整部材50は合成樹脂製であって、中心軸oに対して垂直に配置されてこれと共通の中心を有する調整円板52を備えている。
図1のA-A断面図に示されているとおり、調整円板52は回転体6の回転端板22b及びハウジング4の支持壁10によって軸方向に挾持される。調整円板52にはウェイト32の外周面とハウジング4の内周面8との間で軸方向に延びる調整片54が設けられている。図示の実施形態においては、調整片54は調整円板52の軸方向片側面の外周縁部から軸方向片側に向かって直線状に延びており、調整片54は調整円板52の直径方向両側に1つずつ設けられている。調整片54の断面は薄板円弧形状であって軸方向に見て外周縁は調整円板52の外周縁と整合している。換言すれば、調整片54の外周面と調整円板52の外周面は軸方向に連続している。
図7と共に
図8を参照して説明すると、調整片54を軸方向片側から見たときに反時計方向側に位置する周方向片側縁56は軸方向に直列に配置された複数の(図示の実施形態においては3個の)ウェイト32a乃至32cの各々の位置に応じて周方向に段階的に変位されている。
図8は、
図1に示す状態において、主に軸方向に直列に配置されたウェイト32a乃至32cの外周面を展開して示す模式図であり、同図の左側が軸方向片側、同図の右側が軸方向他側、同図の上側が周方向片側、そして同図の下側が周方向他側である。図示の実施形態においては、周方向片側縁56は、調整円板52の軸方向片側面から起立して軸方向片側に向かって直線状に延びる固定端側部56aと、固定端側部56aの軸方向片側端から周方向他側に向かって円弧状に延びる中間部56bと、中間部56bの周方向他側端から軸方向片側に向かって直線状に延びる自由端側部56cとを備えている。一方、調整片54を軸方向片側から見たときに時計方向側に位置する周方向他側縁58は調整円板52の軸方向片側面から起立して軸方向に直線状に延びている。このことから、調整片54は周方向他側縁58から周方向片側に向かう周方向長さの比較的短い円弧形状の第一の部分60と比較的長い円弧形状の第二の部分62とに区画され、第一の部分60は調整片54の自由端側に第二の部分62は調整片54の固定端側に夫々位置する。
【0023】
図7を参照して説明すると、調整円板52の軸方向片側面の径方向中間部には、周方向に延在して軸方向に延びる円弧状の係止壁64が直径方向の両側に1つずつ形成されており、係止壁64は回転体6の回転端板22bに形成された係止溝28に進入する。夫々の係止壁64の周面、図示の実施形態においては係止壁64の内周面には、径方向内側に突出する単一の係止突起66が形成されている。係止突起66が係止溝28に設けられた係止凹部30と周方向に係止することで、調整部材50は回転体6と一体となって回転する。従って、係止突起66及び係止凹部30が回転体6と調整部材50とを周方向に係止する係止手段を構成する。
図1に示す状態にあっては、係止突起66は係止凹部30aと係止しているが、調整部材50を回転体6に対して
図1のA-A断面図の右方向から見て反時計方向に強制的に回転させれば、係止壁64が弾性変形することで係止突起66と係止凹部30aとの係止が解除され、
図10-2及び
図10-3に示すとおり、係止突起66を係止凹部30b又は30cに係止させることもでき、これにより、回転体6に対する調整部材50の周方向位置は調整される。図示の実施形態においては、係止手段が単一の係止突起66と複数個(3個)の係止凹部30とから構成されており、回転体6に対する調整部材50の周方向位置は段階的に調整される。回転体6に対する調整部材50の周方向位置を調整することで、後述するとおり、回転体6が回転した際に、(ウェイト32の)外周面が調整片54の内周面に当接するウェイト32の数が変化する。調整円板52の軸方向他側面には軸方向他側に向かって膨出する把手部68が形成されている。
図1のA-A断面図に示されているとおり、把手部68はハウジング4の開放された軸方向他側端を超えて軸方向他側に延びており、使用者は把手部68を把手することで調整部材50を回転体6に対して容易に回転させることができる。
【0024】
図1に示すとおり、回転体6には更に遊星歯車機構からなる増速機70も接続されている。
図1と共に
図2及び
図9を参照して説明すると、増速機70は回転体6に形成されている太陽歯車26、太陽歯車26と噛み合う遊星歯車72、遊星歯車72を回転可能に軸支すると共に自身も中心軸oを中心として回転可能なキャリア体74、及び遊星歯車72と噛み合う固定リング歯車76を含む。図示の実施形態においては、3個の遊星歯車72がキャリア体74によって軸支されている。キャリア体74は中心軸oに対して垂直に配置される円形のキャリア板78を備えており、キャリア板78の中央には軸方向に貫通する正6角形の接続穴79が形成されている。接続穴79に例えばブラインドの巻き取り機構の回転軸(
図10-1乃至
図10-3において二点鎖線で示す)が挿通されてキャリア体74に回転が伝達される。キャリア板78の軸方向他側面には、軸方向他側に向かって直線状に延出して遊星歯車72を軸支する3つのキャリア軸80と、周方向に隣接する2つのキャリア軸80の間に夫々設けられて軸方向他側に向かって直線状に延出する3つの接続柱82とが設けられている。キャリア体74は遊星歯車72を挟んでキャリア板78とは軸方向の反対側に配置されるキャリア補助板84と組み合わされる。キャリア補助板84は円環形状であって内側には回転体6が挿通され、ハウジング4の軸方向片側端部において回転体6の回転端板22aの軸方向片側に隣接して位置する。キャリア補助板84にはキャリア軸80の先端部が挿入される丸穴86及び接続柱82の先端部が挿入される円弧穴88が夫々形成されており、キャリア補助板84はキャリア板78と共に遊星歯車72を軸方向の両側から保持してキャリア体74と一体となって中心軸oの周りを自転する。
【0025】
固定リング歯車76はシールド部材92の内周面に形成されている。シールド部材92はハウジング4の軸方向片側に直列に配置されてこれに固定されている。シールド部材92は略正方形のシールド端板94を有している。シールド端板94の中央部の軸方向他側面には円形の凹所96が形成されており、この凹所96にはキャリア体74のキャリア板78が中心軸oの周りを自転可能な状態で嵌め合わされる。シールド端板94の中央には軸方向に貫通する円形の貫通穴98も形成されており、この貫通穴98を通って上述した回転軸はキャリア板78の接続穴79に挿通される。シールド端板94の軸方向他側面には、凹所96の外周縁を囲繞して軸方向他側に向かって軸方向に延びるシールド筒壁100が設けられており、固定リング歯車76はシールド筒壁100の内周面に形成されている。シールド筒壁100を軸方向他側から見たとき、つまり
図9(a)左図において直径方向の両側に位置する一方の一対の角部はシールド端板94の角部と整合し、かかる一対の角部には夫々、ハウジング4に形成された位置決めピン18が挿入される位置決め穴102が形成されている。一方、直径方向の両側に位置する他方の一対の角部はシールド端板94の角部よりも径方向内側に変位されてその外周面は円弧形状にせしめられており、円弧形状にせしめられた外周面には夫々軸方向に延びる一対の支持突条104が周方向に間隔をおいて形成されている。一対の支持突条104の各々の間の周方向角度領域のシールド端板94には、円弧形状にせしめられたシールド筒壁100の外周面に沿って軸方向に貫通する円弧穴106が形成されており、円弧穴106の軸方向他側端部には径方向内側に突出してハウジング4に形成された軸方向係止突起14と係止可能な軸方向被係止突起108が形成されている。従って、シールド部材92は、位置決めピン18と位置決め穴102との協働及び軸方向係止突起14と軸方向被係止突起108との協働によってハウジング4に固定される。
【0026】
図示の実施形態においては、太陽歯車26の歯数は18、これと噛み合う遊星歯車72の歯数は12、これと噛み合う固定リング歯車76の歯数は42であって、キャリア体74が入力部材に、太陽歯車26が出力部材に相当することから、以下の数式より、キャリア体74の回転は10/3倍に増速されて太陽歯車26に伝達される。なお、各歯車の歯数を変更すれば増速比を任意に調整することができることは多言を要さない。
【数1】
但し、
Zs:太陽歯車の歯数、Zr:リング歯車の歯数、
ns:太陽歯車の回転数、nr:リング歯車の回転数、nc:キャリア体の回転数
【0027】
次に、
図1と共に
図10-1乃至
図10-3を参照して、本発明に従って構成された遠心ブレーキ2の作動について説明する。
図1に示す状態にあっては、上述したとおり、調整部材50に形成された係止突起66は回転体6の回転端板22bに形成された係止凹部30aに係止しており、回転体6は回転していない。
【0028】
図10-1には、
図1に示す状態から増速機70のキャリア体74に接続された回転軸s(二点鎖線で示す)がA-A断面図の右方向から見て(以下同じ)反時計方向に回転した状態が示されている。上述したとおり回転軸の回転は増速機70によって増速して回転体6に伝達され、回転体6は係止手段(係止凹部30a及び係止突起66)によって周方向に係止された調整部材50と共に反時計方向に回転する。そして、回転体6の支持軸20に軸支された全てのウェイト32a乃至32cは遠心力によって支持軸20を軸として径方向外方に旋回しようとする。このとき、
図10-1のC-C断面図乃至E-E断面図及びB部拡大図に示すとおり、ウェイト32aにあっては支持軸20を軸として径方向外方に旋回して外周面更に詳しくは摺動片36の外周面がハウジング4の内周面8と当接するが、ウェイト32bにあっては主部34の外周面が調整部材50の調整片54における第一の部分60の内周面に、ウェイト32cにあっては主部34の外周面が調整部材50の調整片54における第二の部分62の内周面に夫々当接してハウジング4の内周面8とは当接しない。従って、
図10-1に示す状態にあっては、ウェイト32aの摺動片36の外周面のみがハウジング4の内周面8に上記遠心力によって押し付けられると共にこれに対して摺動し、回転体6には上記摺動に起因した摩擦によるブレーキ(制動トルク)が作用する。図示の実施形態においては、ハウジング4は比較的硬質の合成樹脂製であると共にウェイト32の摺動片36は比較的軟質の合成樹脂製であることから、交換可能な摺動片3
6のみが偏摩耗してハウジング4の内周面が摩耗することは防止される。
【0029】
ここで、本発明の遠心ブレーキにあっては、係止手段によって回転体6と周方向に係止してこれと一体となって回転する調整部材50が、ウェイト32の外周面とハウジング4との内周面8との間で軸方向に延びる調整片54を備えており、調整片54の周方向片側縁56が軸方向に直列に配置された複数のウェイト32の各々の位置に応じて周方向に段階的に変位されていることから、回転体6に対する調整部材50の周方向位置が調整されることで、調整片54の内周面に外周面が当接するウェイト32の数を変化させることができる。ウェイト32の外周面が調整片54の内周面に当接することでそのウェイト32の外周面がハウジング4の内周面8に当接することは阻止されることから、回転体6に対する調整片54の周方向位置を変えることで、回転体6が回転した際に、ハウジング4の内周面8に外周面が当接するウェイト32の数を変化させることができ、これにより、回転体6にかかる制動トルクを段階的に変化させることができる。調整部材50を回転体6に対して周方向に移動させるには、調整部材50の把手部68を把手して行う。
【0030】
回転体6が回転した際にこれに作用する制動トルクの大きさを
図10-1に示された状態よりも大きくするには、調整部材50を回転体6に対して反時計方向に回転させて、調整部材50に設けられた調整片54を反時計方向に移動させる。
図10-2には、調整部材50に形成された係止突起66が回転体6の回転端板22bに形成された係止凹部30bに係止しているときに回転体6が反時計方向に回転した状態が示されている。
図10-2と
図10-1とを比較参照することによって理解されるとおり、
図10-2に示す状態にあっては、ウェイト32aに加えてウェイト32bにあっても、主部34の外周面が調整片54(ウェイト32bにあっては調整片54の第一の部分60)の内周面に当接することなく摺動片36の外周面がハウジング4の内周面8に当接してこれに対して摺動するため、回転体6にかかる制動トルクは増大する。
図10-3には、調整部材50を回転体6に対して更に反時計方向に回転させて、係止突起66が係止凹部30cに係止しているときに回転体6が反時計方向に回転した状態が示されている。
図10-3と
図10-2とを比較参照することによって理解されるとおり、
図10-3に示す状態にあっては、ウェイト32a及び32bに加えてウェイト32cにあっても、主部34の外周面が調整片54(ウェイト32bにあっては調整片54の第一の部分60、ウェイト32cにあっては調整片54の第二の部分62)の内周面に当接することなく摺動片36の外周面がハウジング4の内周面8に当接してこれに対して摺動するため、回転体6にかかる制動トルクはより一層増大する。
【0031】
従って、本発明の遠心ブレーキによれば、調整部材を回転体に対して軸方向ではなく周方向に移動させることで回転体にかかる制動トルクを段階的に変化させることができ、軸方向の長さを短く且つ一定にすることができる。また、本発明の遠心ブレーキにあっては、調整片の周方向片側縁が軸方向に直列に配置されたウェイトの位置に応じて周方向に変位せしめられており、従って円筒形状でないことから調整部材を成形するための使用材料を低減させることができると共に調整部材を成形するための型が比較的単純となり、製造コストを低減させることができる。
【0032】
図11には本発明に従って構成される遠心ブレーキの変形例の全体構成が示されている。
図11に示す遠心ブレーキと
図1に示す遠心ブレーキ2とでは、主に回転体及び調整部材の構成の一部において相違するが、基本的な構成は同じであるため、以下の説明においては、
図1に示す遠心ブレーキ2と同一の構成については同一の番号に「´」を付して詳細な説明は省略する。
【0033】
図11と共に
図12を参照して説明すると、本変形例における遠心ブレーキ2´にあっても回転体6´の回転端板22b´及び調整部材50´の調整円板52´は軸方向に隣接して配置されるものの、ハウジング4´に円環形状の支持壁(10)は形成されておらず、調整部材50´は係止手段による回転体6´との係止によってのみこれに組み合わされる。上記係止手段について更に説明を続けると、回転端板22b´の中央には軸方向他側に向かって突出する円筒形状の突出部110´が形成されている。回転端板22b´には更に突出部110´を超えて軸方向他側に延出する一対の係止片112´が形成されている。一対の係止片112´は突出部110´の直径方向両側に位置し、一対の係止片112´の各々の基端部の内周面は突出部110´の外周面に接続されている。そして、係止片112´の延出端部には径方向外側に向かって突出する係止突起66´が設けられている。一方、調整円板52´には周方向に延在すると共に軸方向他側に向かって突出する円筒形状の係止部114´が形成されており、係止凹部30´は係止部114´の軸方向他端部において軸方向他側に向かって開放して設けられている。係止凹部30´は一対の係止片112´の各々に形成された係止突起66´と対応して、つまり係止部114´の直径方向両側において、周方向に等角度間隔をおいて3つずつ形成されている(3つの係止凹部30´の夫々については番号の後にa乃至cを付して示す)。係止部114の内周面には内径を局所的に増大せしめて形成される受容凹部116´が形成されている(必ずしも図には明確に示されていないが、受容凹部116´は直径方向の両側に一つずつ形成されている)。かような調整部材50´と回転体6´とは、調整部材50´が備える係止部114´の内側に回転体6´が備える突出部110´及び一対の係止片112´が挿通されて、一対の係止片112´の各々に形成された係止突起66´が係止部114´に形成された係止凹部30´に径方向内側から外側に向かって嵌り合う(係止する)ことで、組み合わされる。その際、一対の係止片112´の各々は係止部114´の内周面に形成された一対の受容凹部116´の各々に受容される。本変形例において回転体6´に対する調整部材50´の周方向位置を調整する際には、一対の係止片112´の各々の延出端部を径方向内側に弾性的に強制せしめて係止突起66´と係止凹部30´との係止を一時的に解除した後に、回転体6´に対して調整部材50´を回動することにより遂行される。なお、図示の実施形態においては、調整部材50´に形成された係止部114´は円筒形状であったがこれは円柱形状であってもよく、係止部114´が円柱形状である場合には、調整円板52´には係止部114´の外周面に沿って軸方向に貫通する所要の円弧溝が形成され、係止突起66´は一対の係止片112´の各々の延出端部において径方向内側に突出せしめられる。そして、係止突起66´が上記円弧溝を通過した後に径方向外側から内側に係止凹部30´に係止するように構成される。
【0034】
本変形例における遠心ブレーキ2´にあっては更に、調整部材50´は軸方向に直線状に延びる補助片を備え、かかる補助片の延出端と調整片54´の延出端とは円環形状の補強部材118´によって接続されている。図示の実施形態にあっては、調整片54´が2つ設けられていることから、上記補助片とは調整片54´のことであり、従って、2つの調整片54´の延出端が円環形状の補強部材118´によって接続されている。これにより、回転体6´(及び調整部材50´)がハウジング4´に対して回転してウェイト32´が旋回した際に、ウェイト32´の外周面が調整部材50´の調整片54´の内周面に当接して調整片54´が撓むことは可及的に防止される。
【0035】
以上、本発明に従って構成された遠心ブレーキについて添付した図面を参照して詳述したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲内において適宜の修正や変更が可能である。例えば、図示の実施形態においては、2つの支持軸20の各々にウェイト32は軸方向に直列に3つずつ設けられていたが、支持軸20及びウェイト32の数は適宜変更することができる。また、図示の実施形態においては、回転体6が反時計方向(
図10-1のA-A断面の右方向から見て)に回転した際にウェイト32が支持軸20を軸として径方向外方に旋回したが、ウェイト32が表裏反転した状態で支持軸20にされれば、回転体が反対方向つまり時計方向に回転した際にウェイトが支持軸20を軸として径方向外方に旋回するようになる。更に、図示の実施形態においては、同一段における2つのウェイトは中心軸oを中心として点対称に配置されているが、同一段における2つのウェイトを直径方向に対して線対称に配置すれば、回転体が正逆いずれの方向に回転した場合であっても回転体に制動トルクを作用させることができる。この場合には、回転体の回転方向に応じて上記2つのウェイトのいずれか一方のみがハウジングの内周面に対して摺動する。更に、必要な制動トルクが小さい場合には、ウェイトを合成樹脂により成形することも可能であり、この場合には、ウェイトを上述した摺動片と同じ合成樹脂で成形し、ウェイトの主部と摺動片を一体成形することもあり得る。また、図示の実施形態にあっては、支持軸の両端が回転端板によって支持固定されていたが、支持軸の一端のみが回転端板によって支持固定されていてもよい。支持軸の一端のみが回転端板によって支持固定されている場合には、支持軸を自由端側からウェイトの軸穴に挿通せしめてウェイトを支持軸に軸支させることができる。図示の実施形態においては、係止手段は係止突起66及び係止凹部30から構成され、係止突起66は調整部材50に、係止凹部30は回転体6に夫々設けられていたが、係止突起を回転体に、(係止溝と共に)係止凹部を調整部材に設けてもよい。係止突起及び係止凹部の数も適宜に変更可能である。更に、図示の実施形態においては、係止手段は係止突起66及び係止凹部30から構成され、係止突起66と係止凹部30との係止により、回転体6に対する調整部材50の周方向位置は段階的に調整可能であったが、例えば、係止突起66及び係止凹部30を省略すると共に、係止壁64の内周面及び/又は外周面と係止溝28を画成する回転端板22bの外周面及び/又は内周面とを所要摩擦力によって係止する等すれば、回転体6に対する調整部材50の周方向位置を無段階で調整することもできる。
【符号の説明】
【0036】
2:遠心ブレーキ
4:ハウジング
6:回転体
8:ハウジングの内周面
20:支持軸
30(30a乃至30c):係止凹部(係止手段)
32(32a乃至32c):ウェイト
50:調整部材
54:調整片
56:調整片の周方向片側縁
66:係止突起(係止手段)
【要約】
【課題】軸方向長さが短く且つ一定で製造コストが低減ながら制動トルクの大きさを段階的に調整可能な、新規の遠心ブレーキを提供すること。
【解決手段】回転体6には係止手段(係止凹部30及び係止突起66)によって周方向に係止されて一体的に回転する調整部材50を組み合わせ、調整部材50には、ウェイト32の外周面とハウジング4の内周面8との間に配置されて軸方向に直線状に延びる調整片54を設け、調整片54の周方向片側縁56を軸方向に直列に配置された複数個のウェイト32の各々の位置に応じて周方向に変位させ、回転体6に対する調整部材50の周方向位置を調整することで、回転体6が回転した際に、外周面が調整片54の内周面に当接するウェイト32の数を変化させる。
【選択図】
図1