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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】吸収性物品
(51)【国際特許分類】
   A61F 13/533 20060101AFI20220315BHJP
   A61F 13/537 20060101ALI20220315BHJP
   A61F 13/15 20060101ALI20220315BHJP
   A61F 13/53 20060101ALI20220315BHJP
   A61F 13/532 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
A61F13/533 100
A61F13/537 220
A61F13/15 100
A61F13/53 300
A61F13/532 200
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017203165
(22)【出願日】2017-10-20
(65)【公開番号】P2018183556
(43)【公開日】2018-11-22
【審査請求日】2020-10-08
(31)【優先権主張番号】P 2017088538
(32)【優先日】2017-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183462
【氏名又は名称】日本製紙クレシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100144048
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 智弘
(74)【代理人】
【識別番号】100186679
【弁理士】
【氏名又は名称】矢田 歩
(74)【代理人】
【識別番号】100189186
【弁理士】
【氏名又は名称】大石 敏弘
(74)【代理人】
【識別番号】100196645
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 陽子
(72)【発明者】
【氏名】戸田 万里菜
(72)【発明者】
【氏名】前田 智恵子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 桂子
【審査官】津田 健嗣
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-024376(JP,A)
【文献】特開2015-154881(JP,A)
【文献】特開2016-093212(JP,A)
【文献】特開2006-014887(JP,A)
【文献】特開2006-305326(JP,A)
【文献】特開2016-049197(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 13/15 - 13/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液透過性のトップシートと、液不透過性のバックシートと、トップシート及びバックシートの間に配置された吸収体と、を有する尿漏れ防止用の吸収性物品であって、
前記吸収体は、吸収性繊維と高吸収性ポリマーから構成され、
前記高吸収性ポリマーの含有量は、0.1g以上4.0g以下であり、
前記吸収体には、前記吸収体の長手方向の寸法に対して、1/3以上の寸法であるスリットを、長手方向に2本設けており、
前記スリットは、前記スリットを前部から後部にかけて、第1区分、第2区分、第3区分及び第4区分に略4等分した場合に、第1区分からなる前側端部領域と、第2区分及び第3区分からなる中央領域と、第4区分からなる後側端部領域と、から構成され、
中央領域のスリット深さは、前側端部領域及び後側端部領域よりも深く、
中央領域の平均深さは、前記吸収体の厚みに対して50%以上80%以下であり、
前側端部領域及び後側端部領域の平均深さは、前記吸収体の厚みに対して20%以上40%以下であり、
前記トップシートと前記吸収体の間に、前記スリットの形状に追従して前記吸収体に密着するように液透過性のセカンドシートが配置され、
前記スリットの形状に前記トップシートが追従しておらず、前記スリットと前記トップシートの間には空隙を有しており、
前記高吸収性ポリマーの含有量が、前記吸収体の重量に対して5%以上35%以下であり、前記高吸収性ポリマーの通液時間が25秒以内であり、
35gf/cm の荷重下における、吸収前の前記吸収性物品の厚みが、2.0mm以上8.5mm以下であり、
前記吸収性物品に、0.9%生理食塩水を20ml注水し、10分間静置した後の前記吸収性物品の厚みが、注水前の前記吸収性物品の厚みに対して、50%以上105%以下であり、
前記吸収性物品に、0.9%生理食塩水を20ml注水し、10分間静置した後の、前記吸収体の長手方向の液体拡散長が、90mm以上である、吸収性物品。
【請求項2】
前記セカンドシートは、親水性不織布、ウレタンフォーム等の発泡フィルム又はこれらを積層した複合シートである、請求項1に記載の吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽失禁パッド、軽失禁ライナー、尿取りパッド等の吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に吸収性物品は、液透過性のトップシートと、液不透過性のバックシートと、トップシート及びバックシートの間に配置された吸収体と、で構成されており、これにより、尿等の体液は、トップシートを通って吸収体に吸収される。この吸収性物品は、想定される使用状況における体液の排出量に応じて、様々な吸収量のものが存在する。これらのうち、比較的少量の尿を吸収するものとしては、軽失禁パッドと軽失禁ライナーが知られている。両者を比較した場合、軽失禁パッドは軽失禁ライナーと比べて厚みがあり、吸収性能が高く、一方で、軽失禁ライナーは、軽失禁パッドよりも薄く、吸収性能が低い、というそれぞれの特徴があり、使用者は、自己の症状に合った商品の選択をすることができる。
【0003】
ところで、上記の軽失禁の代表的な症状として、腹圧性尿失禁が挙げられる。腹圧性尿失禁とは、お腹に力が入った時に不意に少量の尿が漏れてしまう症状であり、尿道を支えることで排尿をコントロールする骨盤底筋が、出産や加齢などに伴って衰えることにより発症する。女性の方が男性よりも尿道が短いため、女性の方が男性よりも腹圧性尿失禁に罹患し易く、成人女性の3人に1人が腹圧性尿失禁を経験していると言われている。
【0004】
現在、軽失禁パッドや軽失禁ライナーにおいては、生理用ナプキンやパンティライナーをベースとして、様々なサイズ、吸収量に応じた商品設計がなされているものの、腹圧性尿失禁等の軽失禁に悩まされる女性の多くは、尿漏れの症状を恥ずかしいこととして、これら尿漏れ専用商品を購入ないし使用することに抵抗を感じている。その結果、尿漏れに悩む多くの女性は、使用している生理用ナプキンをそのまま軽失禁対策に使用する場合も多い。しかしながら、一般的な生理用ナプキンの吸収体には、吸収性能を確保するための高吸収性ポリマー(Super Absorbent Polymer;SAPとも称される)が含まれないか、又は、含まれているとしても微量であるため、体液の吸収後においても吸収体の厚みの変化が少なく、生理用ナプキンは、軽失禁パッド等と比べて着用感が悪化しにくいという利点を有するが、一方で、生理用ナプキンでは、軽失禁パッド等と比較して尿漏れを十分に防止できないという根本的な問題があった。さらに、生理用ナプキンから軽失禁パッドや軽失禁ライナーに切り替えた後に、商品の選択の困難性、価格等の問題から、再び生理用ナプキンを使用するケースも多く見られた。これらの背景から、女性が生理用ナプキンのように使用でき、かつ、尿漏れも防止することのできる手段について、検討がなされてきた。
【0005】
このような検討がなされた発明として、特許文献1には、高吸収性ポリマーが、高吸収性ポリマー及び吸収性繊維の合計重量に対して、40重量%以上含まれ、かつ、加圧薄型化されており、セカンドシートに、ポリエチレンテレフタレートを用いた吸収体が開示されており、当該吸収体によれば、広範に亘って液体を拡散させて、吸収体に入るときの面積を広げ、吸収能力の低下を防止することができるとされている。また、特許文献2には、繊維集合体と、高吸収性ポリマーとを有する吸収体であって、繊維集合体として、繊維で構成されたトウからなるものを用いるとともに、高吸収性ポリマーとして、吸水量が60g/g以上のものを用いた吸収体が開示されており、当該吸収体によれば、使用感や吸収性能を損なわずに、軽量化、薄型化を図ることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2005/082305号
【文献】特開2006-6742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載された吸収体では、所定量の高吸収性ポリマーにより吸収性能を確保でき、かつ、所定の工夫により薄型化も実現できたが、尿を吸収した後においては、高吸収性ポリマーの膨潤に伴って吸収体の厚みが増し、着用感が悪化するという問題があり、吸収性物品にこれらの吸収体を用いたとしても、女性が生理用ナプキンのように使用することは難しかった。したがって、本発明は以上の点の課題に鑑みてなされたものであり、尿の吸収後においても着用感が悪化せずに尿漏れを十分に防止することができる吸収性物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意研究を行った。その結果、吸収性繊維と高吸収性ポリマーから構成される吸収体を有する吸収性物品であって、高吸収性ポリマーの含有量は、0.1g以上4.0g以下であり、吸収体に所定のスリットを設けた、吸収性物品によれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は、以下のものを提供する。
【0009】
(1)本発明の第1の態様は、液透過性のトップシートと、液不透過性のバックシートと、トップシート及びバックシートの間に配置された吸収体と、を有する吸収性物品であって、前記吸収体は、吸収性繊維と高吸収性ポリマーから構成され、前記高吸収性ポリマーの含有量は、0.1g以上4.0g以下であり、前記吸収体には、前記吸収体の長手方向の寸法に対して、1/3以上の寸法であるスリットを、長手方向に、少なくとも1本設けており、前記スリットは、前記スリットを前部から後部にかけて、第1区分、第2区分、第3区分及び第4区分に略4等分した場合に、第1区分からなる前側端部領域と、第2区分及び第3区分からなる中央領域と、第4区分からなる後側端部領域と、から構成され、中央領域のスリット深さは、前側端部領域及び後側端部領域よりも深く、中央領域の平均深さは、前記吸収体の厚みに対して50%以上80%以下であり、前側端部領域及び後側端部領域の平均深さは、前記吸収体の厚みに対して20%以上40%以下であり、前記トップシートと前記吸収体の間に、前記スリットの形状に追従して前記吸収体に密着するように液透過性のセカンドシートが配置され、前記スリットの形状に前記トップシートが追従しておらず、前記スリットと前記トップシートの間には空隙を有しており、0.9%生理食塩水を20ml注水し、10分間静置した後の吸収性物品の厚みが、注水前の吸収性物品の厚みに対して、50%以上105%以下である、吸収性物品である。
【0010】
(2)本発明の第2の態様は、(1)に記載の吸収性物品であって、前記高吸収性ポリマーの含有量が、前記吸収体の重量に対して5%以上35%以下であり、前記高吸収性ポリマーの通液時間が25秒以内であることを特徴とするものである。
【0011】
(3)本発明の第3の態様は、(1)又は(2)に記載の吸収性物品であって、35gf/cmの荷重下における、吸収前の吸収性物品の厚みが、2.0mm以上8.5mm以下であることを特徴とするものである。
【0012】
(4)本発明の第4の態様は、(1)から(3)のいずれかに記載の吸収性物品であって、0.9%生理食塩水を20ml注水し、10分間静置した後の液体拡散長が、90mm以上であることを特徴とするものである。
【0013】
(5)本発明の第5の態様は、(1)から(4)のいずれかに記載の吸収性物品であって、前記セカンドシートは、前記トップシートと同素材であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の吸収性物品に用いる吸収体に含まれる高吸収性ポリマーの含有量は、0.1g以上4.0g以下であるため、吸収体が厚くなりにくい範囲で尿を吸収するために十分な高吸収性ポリマーを含有し、尿漏れを十分に防止することができる。また、吸収体には、吸収体の長手方向の寸法に対して、1/3以上の寸法であるスリットを、長手方向に、少なくとも1本設けており、当該スリットは、スリットを前部から後部にかけて、第1区分、第2区分、第3区分及び第4区分に略4等分した場合に、第1区分からなる前側端部領域と、第2区分及び第3区分からなる中央領域と、第4区分からなる後側端部領域と、から構成され、中央領域のスリット深さは、前側端部領域及び後側端部領域よりも深く、中央領域の平均深さは、吸収体の厚みに対して50%以上80%以下であり、前側端部領域及び後側端部領域の平均深さは、吸収体の厚みに対して20%以上40%以下である。吸収体がこのような特定の構成からなるスリットを有することにより、着用感を損なわずに尿の拡散性を向上させ、尿漏れを防止できる。また、トップシートと吸収体の間に、スリットの形状に追従して吸収体に密着するように液透過性のセカンドシートが配置されるため、尿の拡散性が向上し、液戻りが抑制され、尿吸収後のスリット形状の保型性を付与することができ、かつ、吸収体に含まれる高吸収性ポリマー量を増やした場合であっても、尿吸収後の吸収性物品の厚みの増加を抑えることができる。また、スリットの形状にトップシートが追従しておらず、スリットとトップシートの間には空隙を有しているため、着用時にスリットの領域が直接肌に触れることがなく、肌触りが良好で着用感に優れる。さらに、本発明の吸収性物品において、0.9%生理食塩水を20ml注水し、10分間静置した後の吸収性物品の厚みが、注水前の吸収性物品の厚みに対して、50%以上105%以下であるため、尿吸収後においても吸収体が厚くなりにくく、生理用ナプキンと比較しても違和感なく使用することができ、着用感に優れる。したがって、本発明の吸収性物品は、尿の吸収後においても着用感を悪化せずに、尿漏れを十分に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の吸収性物品の平面図である。
図2図1のY-Y断面図である。
図3図1のX-X断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<吸収性物品>
本発明の実施形態に係る吸収性物品1としては、軽失禁パッドが例示されるが、本発明の吸収性物品1はこれに限定されるものではなく、軽失禁ライナー、生理用ナプキン、その他の吸収性物品であってもよい。吸収性物品1は、身体側表面に配置された液透過性のトップシート10と、トップシート10に対向し、衣類側表面に配置された液不透過性のバックシート30と、トップシート10及びバックシート30の間に配置された吸収体20と、トップシート10及び吸収体20の間に配置された液透過性のセカンドシート40とを備え、これにより、吸収体20は、トップシート10とバックシート30との間に挟まれた構造となっている。本明細書の説明において、吸収性物品1の長手方向とは、吸収性物品1が着用されたときに着用者の前後に亘る方向であり、図1中、符号Yで示す方向である。また、吸収性物品1の幅方向とは、長手方向に対して横又は直交する方向であり、図1中、符号Xで示す方向である。さらに、本明細書において、吸収性物品1の身体側表面とは、吸収性物品1の着用時に着用者の肌に当接する表面を指し、衣類側表面とは、吸収性物品1の着用時に着用者の衣類に接触する表面を指す。また、吸収性物品1は、着用者の前側(腹側)にあてがわれる前部1aと、着用者の股間にあてがわれる股部1bと、着用者の後側(背側)にあてがわれる後部1cと、に区分される。
【0017】
本発明の吸収性物品1において、0.9%生理食塩水を20ml注水し、10分間静置した後の吸収性物品1の厚みが、35gf/cmの荷重下における、注水前の吸収性物品1の厚みに対して、50%以上105%以下であり、75%以上100%以下であることが好ましい。これにより、尿吸収後においても吸収体20が厚くなりにくく、生理用ナプキンと比較しても違和感なく使用することができ、着用感に優れる。また、本発明の吸収性物品1において、35gf/cmの荷重下における、吸収前の吸収性物品1の厚みが、2.0mm以上8.5mm以下であることが好ましく、2.0mm以上6.0mm以下であることがより好ましく、3.0mm以上5.0mm以下であることが更に好ましい。吸収前の吸収性物品1の厚みをこのように設定することにより、着用時の厚みに対する違和感を抑えることができる。さらに、吸収性能の観点から、0.9%生理食塩水を20ml注水し、10分間静置した後の液体拡散長が、90mm以上であることが好ましく、100mm以上であることがより好ましく、110mm以上であることが更に好ましい。
【0018】
[トップシート]
トップシート10は、吸収体20に向けて体液を速やかに通過させるものであり、吸収体20を挟んで、バックシート30に対向して配置される。トップシート10は、肌と当接するシートとなることから、柔らかな感触で、肌に刺激を与えないような性質を有する、親水性不織布、開口ポリエチレンフィルム等の開口性フィルム、ウレタンフォーム等の発泡フィルム又はこれらを積層した複合シートから形成される。なお、トップシート10は、単層であっても、複数層積層していてもよく、ドライタッチ性を付与するために多数の透孔が形成されていてもよい。
【0019】
また、上記のような性質を有する親水性不織布としては、ポリプロピレンやポリエチレン等の合成繊維や、レーヨン等の再生繊維、綿等の天然繊維を用いて、サーマルボンド法、エアスルー法、スパンレース法、スパンボンド法等の公知の加工法によって得られたものを用いることができる。
【0020】
トップシート10の坪量は、加工性及び強度の点から、15g/m以上40g/m以下であることが好ましい。トップシート10には、肌への刺激を低減させるために、ローション、酸化防止剤、抗炎症成分、pH調整剤、抗菌剤、保湿剤等を適用してもよい。
【0021】
[バックシート]
本発明に用いるバックシート30は、液不透過性であり、その坪量は、加工性及び強度の点から、15g/m以上60g/m以下であることが好ましい。
【0022】
バックシート30は、ムレ防止のために透湿性を有していてもよい。このような特性を有するバックシート30の材料としては、例えば、ポリエチレンシートやポリエチレンラミネート不織布等の厚みの薄いプラスチックシートを挙げることができる。
【0023】
なお、図示しないが、バックシート30の衣類側表面には、着用時に下着等に吸収性物品1を密着するための粘着剤層が設けられていてもよい。また、吸収性物品1が粘着剤層を有する場合、粘着剤層を保護するための剥離シートを有していてもよく、この剥離シートは、吸収性物品1の包装シートと部分的に接合されていてもよい。
【0024】
[吸収体]
吸収体20は、基材としての吸収性繊維と、高吸収性ポリマーと、を含有する。吸収性繊維は、一般に生理用ナプキン、おむつ、尿取りパッド等の吸収性物品に使用されるものであれば特に制限はなく、例えば、フラッフパルプ、コットン、レーヨン、アセテート、ティシュ、吸収紙、親水性不織布等を挙げることができる。これらの中でも、吸収性の観点から、フラッフパルプを使用することが好ましい。斯かるフラッフパルプとしては、木材パルプ、合成繊維、ポリマー繊維、非木材パルプ等を綿状に解繊したものを挙げることができる。吸収体20の吸収性繊維は、吸収性能及び肌触りを損なわないよう、50g/m以上800g/m以下の坪量とすることが好ましく、100g/m以上500g/m以下の坪量とすることがより好ましい。
【0025】
吸収体20に用いる高吸収性ポリマーとしては、体液を吸収し、かつ、逆流を防止できるものであれば特に制限はなく、ポリアクリル酸ナトリウム系、ポリアスパラギン酸塩系、(デンプン-アクリル酸)グラフト共重合体、(アクリル酸-ビニルアルコール)共重合体、(イソブチレン-無水マレイン酸)共重合体及びそのケン化物等の材料から形成されたものを使用することができる。これらの中でも、重量当たりの吸収量の観点から、ポリアクリル酸ナトリウム系が好ましい。なお、高吸収性ポリマーとしては、破砕タイプとパールタイプ(逆相懸濁重合により得られるもの)のいずれも使用することができる。
【0026】
本発明において、吸収体20を構成する高吸収性ポリマーの含有量は、0.1g以上4.0g以下であり、0.3g以上4.0g以下であることがより好ましく、0.6g以上4.0g以下であることが更に好ましい。このため、吸収体20が厚くなりにくい範囲で尿を吸収するために十分な高吸収性ポリマーを含有し、尿漏れを十分に防止することができる。なお、高吸収性ポリマーの含有量が0.1g未満の場合には、吸収性能の低下により逆戻りが生じ易くなるとともに、尿漏れを十分に防ぐことができず、4.0gを超える場合には、吸収後の吸収性物品1が厚くなり易く、着用感が低下し易くなる。
【0027】
また、高吸収性ポリマーの含有量は、吸収体20の重量に対して5%以上35%以下であることが好ましく、後述する高吸収性ポリマーの通液時間は、25秒以内であることが好ましく、20秒以下であることがより好ましい。吸収体20における高吸収性ポリマーの構成をこのようにすることにより吸収性物品1の着用時において、尿吸収後においても吸収体20が厚くなりにくく、着用感に優れる。なお、高吸収性ポリマーの含有量が、吸収体20の重量に対して5%未満の場合には、吸収性能の低下により逆戻りが生じ易くなるとともに、尿漏れを十分に防ぐことができず、また、35%を超える場合には、吸収後の吸収性物品1が厚くなり易く、着用感が低下し易くなる。また、使用する高吸収性ポリマーの通液時間が25秒を超える場合には、吸収後の吸収性物品1が厚くなり易く、着用感が低下し易くなる。さらに、吸収体20に含まれる高吸収性ポリマーは、吸収性能及び肌触りのバランスを損なわないよう、10g/m以上200g/m以下の坪量とすることが好ましい。
【0028】
(高吸収性ポリマーの通液時間)
上記した高吸収性ポリマーの通液時間の測定方法について説明する。まず、容量100mlのビーカーを用いて、1.28g±0.005gの高吸収性ポリマーを、十分な量の0.9%生理食塩水に浸して膨潤させ、30分間静置する。次に、垂直に立てたメモリ付きガラスの開口部の下端に金網及びコックを備えたロートを有する濾過円筒管を用意し、コックを閉鎖した状態で当該濾過円筒管内に、膨潤した高吸収性ポリマーを含む上記ビーカーの内容物の全てを投入する。投入後1分間静置した後、コックを開いて液を流し、濾過円筒管内の液面が200mlの目盛り線から100mlの目盛り線に達するまでの時間を計測し、当該時間を高吸収性ポリマーの通液時間とする。
【0029】
吸収体20において、吸収性繊維及び高吸収性ポリマーの形態は、吸収性繊維中に高吸収性ポリマー粒子を混合して形成した積層マットの形態であることが好ましい。また、高吸収性ポリマー粒子の漏洩防止や吸収体20の形状の安定化の目的から、吸収体20をキャリアシート24に包むことが好ましい。本実施形態では、キャリアシート24は、図2及び図3に示すように、吸収体20に密着するように吸収体20を包み、吸収体20のトップシート10側に位置するトップシート側キャリアシート24aと、吸収体20のバックシート30側に位置するバックシート側キャリアシート24bとを有する。キャリアシート24の基材としては親水性を有するものであればよく、ティシュ、吸収紙、エアレイド不織布等の親水性不織布を挙げることができる。キャリアシート24を複数備える場合は、キャリアシート24の基材は同一のものであっても異なるものであってもよく、キャリアシート24で吸収体20を包む際の包み方は特に限定されるものではない。
【0030】
なお、吸収体20の坪量は、50g/m以上500g/m以下であることが好ましい。吸収体20の坪量をこのような範囲にすることにより、吸収性に優れ、体液の漏れを効果的に防止することができる。また、吸収体20は、上層吸収体と下層吸収体とを積層してなるものであってもよい。この場合、上層吸収体と下層吸収体の長手方向及び幅方向の寸法は、上層吸収体の寸法が下層吸収体の寸法より大きくてもよく、上層吸収体の寸法が下層吸収体の寸法と同じであってもよく、上層吸収体の寸法が下層吸収体の寸法より小さくてもよい。
【0031】
[スリット]
本発明において、吸収体20には、吸収体20の長手方向の寸法に対して、1/3以上の寸法であるスリット21を、長手方向に、少なくとも1本設けており、当該スリット21は、スリット21を前部1aから後部1cにかけて、第1区分、第2区分、第3区分及び第4区分に略4等分した場合に、第1区分からなる前側端部領域231と、第2区分及び第3区分からなる中央領域22と、第4区分からなる後側端部領域232と、から構成され、中央領域22のスリット深さは、前側端部領域231及び後側端部領域232よりも深く、中央領域22の平均深さは、吸収体20の厚みに対して50%以上80%以下であり、前側端部領域231及び後側端部領域232の平均深さは、吸収体20の厚みに対して20%以上40%以下である。なお、中央領域22の長手方向の寸法は、スリット21の長手方向の寸法に対して、40%以上60%以下とすることが好ましい。吸収体20がこのような特定の構成からなるスリット21を有することにより、着用感を損なわずに尿の拡散性を向上させ、尿漏れを防止できる。なお、中央領域22の平均深さが、吸収体20の厚みに対して50%未満の場合には、尿の拡散性が低下するために、尿漏れを十分に防ぐことができず、80%を超える場合には、肌触りが硬くなることで、着用感が低下し易くなる。同様に、前側端部領域231及び後側端部領域232の平均深さが、吸収体20の厚みに対して20%未満の場合には、尿の拡散性が低下するために、尿漏れを十分に防ぐことができず、40%を超える場合には、肌触りが硬くなることで、着用感が低下し易くなる。
【0032】
また、図2に示すように、スリット21の形状にトップシート10が追従しておらず、スリット21とトップシート10の間には空隙を有しているため、着用時にスリット21の領域が直接肌に触れることがなく、肌触りが良好で着用感に優れる。
【0033】
なお、吸収性能及び着用感の観点から、スリット21の幅方向の寸法は、0.5mm以上15.0mm以下であることが好ましく、1.0mm以上7.0mm以下であることがより好ましく、2.0mm以上5.0mm以下であることが更に好ましい。
【0034】
[セカンドシート]
セカンドシート40は、吸収体20に向けて体液を速やかに通過させるものであり、トップシート10と吸収体20との間に配置される。また、セカンドシート40は、トップシート10と吸収体20の間に、スリット21の形状に追従して吸収体20に密着するように配置されることが好ましい。本実施形態では、セカンドシート40は、図2及び図3に示すように、トップシート側キャリアシート24aを介して、スリット21の形状に追従して吸収体20に密着するように配置される。即ち、トップシート側キャリアシート24aは、セカンドシート40と吸収体20との間に、スリット21の形状に追従して挟まれている。また、キャリアシート24が設けられていない場合、セカンドシート40は、トップシート10と吸収体20の間に、他のシートを介さずにスリット21の形状に追従して吸収体20に密着するように配置されてもよい。なお、セカンドシート40を吸収体20に密着させる方法は特に限定されるものではない。
【0035】
セカンドシート40は、トップシート10と吸収体20との間に配置されるだけで、尿の拡散性が向上し、液戻りが抑制され、尿吸収後のスリット21形状の保型性を付与することができる。また、上述のようにセカンドシート40は、スリット21の形状に追従して吸収体20に密着するように配置されることにより、吸収体20に含まれる高吸収性ポリマー量をある程度増やした場合であっても、尿吸収後の吸収性物品1の厚みの増加を抑えることができる。
【0036】
セカンドシート40は、親水性不織布、ウレタンフォーム等の発泡フィルム又はこれらを積層した複合シートから形成される。また、セカンドシート40は、トップシート10と同素材であることが好ましい。なお、セカンドシート40は、単層であっても、複数層積層していてもよく、ドライタッチ性を付与するために多数の透孔が形成されていてもよい。
【0037】
セカンドシート40の坪量は、加工性及び強度の点から、15g/m以上40g/m以下であることが好ましい。
【0038】
[立体ギャザー]
吸収性物品1の身体側表面には、立体ギャザーが設けられていてもよい。この立体ギャザーは、トップシート10とともに体液の閉じ込め空間を形成し、体液の漏れを防止できるようになっている。立体ギャザーは、立体ギャザーシートと、立体ギャザーシートの自由端部に沿って配された伸縮性弾性部材と、を備えていることが好ましい。伸縮性弾性部材としては、天然ゴム、合成ゴム、及びポリウレタン等からなる、糸状、紐状、平型形状のものを適宜使用することができる。
【0039】
<吸収性物品の製造方法>
吸収性物品1の製造方法としては、特に限定はなく、従来公知の方法を採用することができ、例えば、必要に応じて、液拡散性シート及び立体ギャザーをあらかじめトップシート10に配置した上で、セカンドシート40がスリット21の形状に追従して密着する吸収体20を、トップシート10とバックシート30との間に挟持し、トップシート10とバックシート30とを一部又は全周に亘ってホットメルト接着剤やヒートシール、超音波シール等を用いて固定することで製造することができる。そして、これを長手方向に3つ折りにして折り畳みながら包装体に個別包装してもよい。
【0040】
以上、本発明を、実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記の実施形態に記載の発明の範囲には限定されないことは言うまでもなく、上記実施形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。また、そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【実施例
【0041】
<実施例1から4、比較例1から4>
下記の吸収体を用いた吸収性物品を作製し、吸収速度、液戻り量、着用感及びスリットの保型性について評価した。
【0042】
<吸収体の作製>
まず、表1及び表2に記載の通液時間である各高吸収性ポリマーを、表1及び表2に記載の比率及び重量となるようにフラッフパルプと混合した後に、長手方向の寸法が200mm、幅方向の寸法が70mmとなるようにカットし、表1及び表2に記載の重量である吸収体を得た。なお、吸収体には、長手方向の寸法が120mm、幅方向の寸法が7mmであるスリットを、長手方向に2本設け、さらに、スリットには、スリットを前部から後部にかけて、第1区分、第2区分、第3区分及び第4区分に略4等分した場合に、第1区分からなる前側端部領域と、第2区分及び第3区分からなる中央領域と、第4区分からなる後側端部領域と、を設けた。なお、スリットの長手方向の寸法に対する中央領域の長手方向の寸法(%)、中央領域、前側端部領域及び後側端部領域の平均深さ(mm)及び吸収体の厚みに対する平均深さ(%)を、表1及び表2に記載の数値となるように調整した。
【0043】
<吸収性物品の作製>
このように作製した、セカンドシートがスリットの形状に追従して密着した吸収体をトップシートとバックシートとの間に挟持し、トップシートとバックシートの全周に亘ってホットメルト接着剤を用いて固定し、長手方向の寸法が230mm、幅方向の寸法が85mmである、軽失禁パッドを作製した。また、トップシートとしては、親水性エアスルー不織布(坪量25g/m)を用い、バックシートとしては、通気性ポリエチレンフィルム(坪量32g/m)を用い、セカンドシートとしては、トップシートと同様に親水性エアスルー不織布(坪量25g/m)を用いた。なお、吸収性物品の作製において、スリットの形状にトップシートを追従させずに、スリットとトップシートの間には空隙を有するように調整した。
【0044】
(高吸収性ポリマーの通液時間)
吸収体に用いる高吸収性ポリマーの通液時間の測定方法について、説明する。まず、容量100mlのビーカーを用いて、1.28g±0.005gの高吸収性ポリマーを、十分な量の0.9%生理食塩水に浸して膨潤させ、30分間静置した。次に、垂直に立てたメモリ付きガラスの開口部の下端に金網及びコックを備えたロートを有する濾過円筒管を用意し、コックを閉鎖した状態で当該濾過円筒管内に、膨潤した高吸収性ポリマーを含む上記ビーカーの内容物の全てを投入した。投入後1分間静置した後、コックを開いて液を流し、濾過円筒管内の液面が200mlの目盛り線から100mlの目盛り線に達するまでの時間を計測し、当該時間を高吸収性ポリマーの通液時間とした。
【0045】
(吸収前後の吸収性物品の厚み及び液体拡散長)
35gf/cmの荷重下における、注水前の吸収性物品の厚みを測定し、さらに、0.9%生理食塩水を20ml注水し、10分間静置した後の吸収性物品の厚み及び液体拡散長を測定した。
【0046】
(吸収速度)
中央に内径19mmの穴が開いた底面積16.8cm、質量755.6gの円柱形をした測定治具を、吸収性物品の中心部の上に置き、上部の穴から0.9%生理食塩水を20ml注入し、生理食塩水が吸収性物品に接触した時点を開始点とし、測定治具の中央円内の円周に液体が完全に吸い込まれる時点を終了点として時間を計測した。数値が小さいほど吸収性能に優れることを示す。
【0047】
(液戻り量)
吸収性物品の中央に0.9%生理食塩水を20ml注入し、10分間経過後に、あらかじめ重量を測定したろ紙(ADVANTEC社製No.2ろ紙、直径55mm)を注入部の中心に置き、ろ紙の上に圧力が35gf/cmとなるように、687gの錘を載せた。錘を載せてから1分間経過後に、ろ紙の重量を測り、試験前後のろ紙の重量差(g)を液戻り量とした。表1及び表2に記載した液戻り量は、10検体のサンプルについて試験した結果の平均値である。液戻り量が少ないほど、吸収性能に優れることを示す。
【0048】
(着用感:吸収後の厚みの変化に起因する違和感のなさ)
20名のパネラーにより、吸収後の厚みの変化による違和感のなさについて、「違和感がある」又は「違和感がない」の選択で調査を行い、以下の基準により評価を行った。20名のパネラーで着用評価を実施して評価した。なお、◎及び○を合格とした。
◎:「違和感がない」が16人以上20人以下のとき
○:「違和感がない」が11人以上15人以下のとき
△:「違和感がない」が6人以上10人以下のとき
×:「違和感がない」がいないか、1人以上5人以下のとき
【0049】
(着用感:吸収後の液戻りに起因する不快感のなさ)
20名のパネラーにより、吸収後の液戻りによる不快感のなさについて、「不快感がない」又は「不快感がある」の選択で調査を行い、以下の基準により評価を行った。なお、◎及び○を合格とした。
◎:「不快感がない」が16人以上20人以下のとき
○:「不快感がない」が11人以上15人以下のとき
△:「不快感がない」が6人以上10人以下のとき
×:「不快感がない」がいないか、1人以上5人以下のとき
【0050】
(着用感:吸収前の柔らかさ)
20名のパネラーにより、吸収前の柔らかさについて、「柔らかい」又は「硬い」の選択で調査を行い、以下の基準により評価を行った。なお、◎及び○を合格とした。
◎:「柔らかい」が16人以上20人以下のとき
○:「柔らかい」が11人以上15人以下のとき
△:「柔らかい」が6人以上10人以下のとき
×:「柔らかい」がいないか、1人以上5人以下のとき
【0051】
(スリットの保型性)
20名のパネラーにより、スリットの保型性について、「スリットの保型性が良い」又は「スリットの保型性が悪い」の選択で調査を行い、以下の基準により評価を行った。なお、◎及び○を合格とした。
◎:「保型性が良い」が16人以上20人以下のとき
○:「保型性が良い」が11人以上15人以下のとき
△:「保型性が良い」が6人以上10人以下のとき
×:「保型性が良い」がいないか、1人以上5人以下のとき
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
以上より、本発明の吸収性物品によれば、尿の吸収後においても着用感を悪化せずに尿漏れを十分に防止できることが分かる。
【符号の説明】
【0055】
1 吸収性物品
1a 前部
1b 股部
1c 後部
10 トップシート
20 吸収体
21 スリット
22 スリット中央領域
231 スリット前側端部領域
232 スリット後側端部領域
24 キャリアシート
24a トップシート側キャリアシート
24b バックシート側キャリアシート
30 バックシート
40 セカンドシート
図1
図2
図3