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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/058 20100101AFI20220315BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20220315BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20220315BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20220315BHJP
   H01M 10/0587 20100101ALN20220315BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M4/13
H01M50/489
H01M10/0566
H01M10/0587
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017038124
(22)【出願日】2017-03-01
(65)【公開番号】P2018147565
(43)【公開日】2018-09-20
【審査請求日】2019-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100158540
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 博生
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100187768
【弁理士】
【氏名又は名称】藤中 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】川副 雄大
(72)【発明者】
【氏名】長嶺 健太
(72)【発明者】
【氏名】穴見 啓介
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-137943(JP,A)
【文献】特開平08-339818(JP,A)
【文献】特開2012-204104(JP,A)
【文献】特開2010-009978(JP,A)
【文献】特開2009-054475(JP,A)
【文献】特開2009-117382(JP,A)
【文献】国際公開第2014/024424(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/04-39
H01M 4/02-62
H01M 50/489
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板及び負極板がセパレータを介して積層された電極体と、電解液とが内部に収容されたケースを押圧することを含み、
前記押圧前の前記セパレータの透気抵抗度をA[s]、前記押圧後の前記セパレータの透気抵抗度をB[s]としたとき、A及びBの関係がA/B≦0.53であり、前記透気抵抗度Bが90s以上500s以下である非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項2】
前記A及びBの関係がA/B≦0.40である請求項1の非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項3】
前記押圧前の前記セパレータの空孔率をC[%]、前記押圧後の前記セパレータの空孔率をD[%]としたとき、C及びDの関係がC>Dである請求項1又は請求項2の非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項4】
前記C及びDの関係がD/C≦0.95である請求項3の非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項5】
前記C及びDの関係がD/C≦0.83である請求項4の非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項6】
前記正極板が合材層を有し、前記合材層の空孔率が20%以上35%以下である請求項1から請求項5のいずれか1項の非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項7】
前記電解液の粘度が0.01cP以上5cP以下である請求項1から請求項6のいずれか1項の非水電解質二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電素子の製造方法及び蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
正極板及び負極板をセパレータを介して積層してなる電極体をケース内に収容した多様な蓄電素子が利用されている。蓄電素子のエネルギー密度(体積当たりの蓄電量)を向上するために、セパレータを薄型化する試みがなされている。
【0003】
例えば、正極板、負極板及びセパレータ(多孔材料)を積層した電極体を押圧することにより、セパレータを圧縮して厚さを減じることによって比較的エネルギー密度が大きい蓄電素子を製造することが提案されている(特開2005-93375号公報)。この公報に記載の蓄電素子の製造方法では、電極体を加熱することで、セパレータのポリマーの一部を電解液中に溶出させることで空隙を生成し、セパレータを圧縮することによりこの隙間を押しつぶすとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-93375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
蓄電素子において、セパレータには、電解液を浸潤させる必要があるが、セパレータの空孔率が小さい場合、セパレータに電解液を浸潤させる注液作業に時間がかかる。また、蓄電素子の使用時には、電解液がセパレータの孔を満たしている必要があるが、充放電の繰り返しによって電解液が電気化学的に反応して消費されてしまう。セパレータの空孔率が大きい場合、セパレータの孔を満たすのに必要な電解液量が多くなるため、充放電の繰り返しによって電解液が消費されると、セパレータの孔を満たすのに必要な電解液が足らなくなり、蓄電素子のサイクル寿命特性及びクーロン効率が悪化する。
【0006】
上述の公報に記載の蓄電素子の製造方法では、セパレータを加熱によりポリマーの一部を溶出させながら圧縮するため、工程管理が煩雑でセパレータの空孔率を安定させることが容易ではない。
【0007】
前記不都合に鑑みて、本発明は、サイクル寿命特性及びクーロン効率に優れる蓄電素子を比較的容易に製造できる蓄電素子の製造方法、及び製造が比較的容易でサイクル寿命特性及びクーロン効率に優れる蓄電素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る蓄電素子の製造方法は、正極板及び負極板がセパレータを介して積層された電極体と、電解液とが内部に収容されたケースを押圧することを含み、前記押圧前の前記セパレータの透気抵抗度をA[s]、前記押圧後の前記セパレータの透気抵抗度をB[s]としたとき、A及びBの関係がA/B≦0.89である。
【0009】
本発明の別の態様に係る蓄電素子は、正極板及び負極板がセパレータを介して積層された電極体と、前記電極体を収容するケースとを備え、前記セパレータが、前記正極板及び負極板と対向する対向部位と、前記正極板及び/又は負極板と対向しない非対向部位とを有し、前記セパレータの前記対向部位における透気抵抗度をB[s]、前記セパレータの前記非対向部位における透気抵抗度をA[s]としたとき、A及びBの関係がA/B≦0.89である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様に係る蓄電素子の製造方法は、サイクル寿命特性及びクーロン効率に優れる蓄電素子を比較的容易に製造できる。また、本発明の別の態様に係る蓄電素子は、製造が比較的容易で、サイクル寿命特性及びクーロン効率に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態の蓄電素子を示す模式的断面図である。
図2】本発明の蓄電素子の一実施形態に係る非水電解質二次電池を示す外観斜視図である。
図3】本発明の蓄電素子の一実施形態に係る非水電解質二次電池を複数個集合して構成した蓄電装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一態様は、正極板及び負極板がセパレータを介して積層された電極体と、電解液とが内部に収容されたケースを押圧することを含み、前記押圧前の前記セパレータの透気抵抗度をA[s]、前記押圧後の前記セパレータの透気抵抗度をB[s]としたとき、A及びBの関係がA/B≦0.89である蓄電素子の製造方法である。
【0013】
当該蓄電素子の製造方法は、電極体と電解液とが内部に収容されたケースを押圧することによってセパレータを圧縮してエネルギー密度が比較的大きい蓄電素子を製造することができる。また、前記A及びBの関係が前記関係を満たすことによって、押圧前のセパレータに電解液を比較的容易に浸潤(注液)することができるので、当該製造方法は、比較的容易に蓄電素子を製造できる。さらに、前記A及びBの関係がA/B≦0.89であることによって、押圧後のセパレータに含浸するために必要な電解液の量が小さくなるので、当該製造方法は、電析等が生じにくく、サイクル寿命特性及びクーロン効率に優れる高品質の蓄電素子を製造することができる。
【0014】
前記A及びBの関係がA/B≦0.40であるとよい。これによって、より蓄電池の性能が向上する。
【0015】
前記押圧前の前記セパレータの空孔率をC[%]、前記押圧後の前記セパレータの空孔率をD[%]としたとき、C及びDの関係がC>Dであるとよい。これによって、得られる蓄電素子のセパレータに存在する電解液の量を小さくできるので蓄電素子のサイクル寿命特性及びクーロン効率を向上することができる。
【0016】
前記C及びDの関係がD/C≦0.95であるとよい。これによって、得られる蓄電素子の性能を確実に向上することができる。
【0017】
前記C及びDの関係がD/C≦0.83であるとよい。これによって、得られる蓄電素子の性能をさらに向上することができる。
【0018】
前記正極板が合材層を有し、前記合材層の空孔率が20%以上35%以下であるとよい。
【0019】
前記電解液の粘度が0.01cP以上5cP以下であるとよい。これによって、電解液の注液がより容易となる。
【0020】
本発明の別の態様は、正極板及び負極板がセパレータを介して積層された電極体と、前記電極体を収容するケースとを備え、前記セパレータが、前記正極板及び負極板と対向する対向部位と、前記正極板、及び/又は負極板と対向しない非対向部位とを有し、前記セパレータの前記対向部位における透気抵抗度をB[s]、前記セパレータの前記非対向部位における透気抵抗度をA[s]としたとき、A及びBの関係がA/B≦0.89である蓄電素子である。
【0021】
当該蓄電素子は、前記セパレータの前記対向部位、つまり前記セパレータが極板間で圧縮されている部分の透気抵抗度が、前記セパレータの前記非対向部位、つまり前記セパレータの圧縮されていない部分の透気抵抗度よりも大きい。従って、当該蓄電素子は、圧縮前の透気抵抗度が小さいセパレータに電解液を比較的容易に浸潤させた後、電極体を押圧して極板間のセパレータを圧縮することによりサイクル寿命特性及びクーロン効率を向上したものとすることができる。
【0022】
なお、「透気抵抗度」とは、JIS-P8117(2009)に準拠して測定される値であって10点以上の異なる位置を測定した平均値とする。また、「空孔率」とは、JIS-R1655(2003)に準拠する「水銀圧入法」により測定される値であって3点以上の異なる位置を測定した平均値とする。また、「押圧後」又は「対向部位」の各値は、弾性歪み取り除いた状態で測定される値とし、「非対向部位」の値は、正極板及び/又は負極板により圧縮を受けていない部分で測定される値とする。また、「粘度」とは、JIS-Z8803(2011)に準拠する「単一円筒形回転粘度計」により測定される値である。
【0023】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。
【0024】
[蓄電素子]
図1に示す本発明の一実施形態に係る蓄電素子は、電極体1と、この電極体1を収容するケース2とを備える。また、当該蓄電素子はケース2の中に電解液が充填されている。
【0025】
〔電極体〕
電極体1は、正極板3及び負極板4がセパレータ5を介して積層されて形成される。具体的には、電極体1は、図示するように、長尺の第1のセパレータ5、正極板3、第2のセパレータ5及び負極板4の積層体を断面視長楕円状に扁平に巻回して形成されている。つまり、電極体1は、正極板3、負極板4及びセパレータ5が平面状に伸びる部分とこれら平面状の部分を接続する部分とを有する。
【0026】
<正極板>
正極板3は、導電性を有する箔状乃至シート状の正極集電体と、この正極集電体の両面に積層される多孔性の正極合材層とを有する。より詳しくは、正極板3は、正極集電体の両面に正極合材層が積層される電極部と、この電極部から突出し、当該蓄電素子の接続端子に電気的に接続される接続部とを有する。
【0027】
(正極集電体)
正極集電体の材質としては、アルミニウム、銅、鉄、ニッケル等の金属又はそれらの合金が用いられる。これらの中でも、導電性の高さとコストとのバランスからアルミニウム、アルミニウム合金、銅及び銅合金が好ましく、アルミニウム及びアルミニウム合金がより好ましい。また、正極集電体の形状としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの面から箔が好ましい。つまり、正極集電体としてはアルミニウム箔が好ましい。なお、アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H4000(2014)に規定されるA1085P、A3003P等が例示できる。
【0028】
正極集電体の平均厚さの下限としては、5μmが好ましく、10μmがより好ましい、一方、正極集電体の平均厚さの上限としては、50μmが好ましく、40μmがより好ましい。正極集電体の平均厚さを前記下限以上とすることによって、正極集電体が十分な強度を有する。また、正極集電体の平均厚さを前記上限以下とすることによって、当該蓄電素子のエネルギー密度を比較的大きくすることができる。
【0029】
(正極合材層)
正極合材層は、正極活物質を含むいわゆる合材から形成される多孔性の層である。また、正極合材層を形成する合材は、必要に応じて導電剤、結着剤(バインダ)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0030】
正極合材層の空孔率の下限としては、15%が好ましく、20%がより好ましい。一方、正極合材層の空孔率の上限としては、35%が好ましく、30%がより好ましい。正極合材層の空孔率を前記下限以上とすることによって、電解液を十分に浸潤させて、十分な正極反応を生じさせられる。また、正極合材層の空孔率を前記上限以下とすることによって、正極合材層を比較的薄くすることができるので、当該蓄電素子のエネルギー密度を大きくすることができる。
【0031】
前記正極活物質としては、例えばLiMO(Mは少なくとも一種の遷移金属を表す)で表される複合酸化物(LiCoO、LiNiO、LiMn、LiMnO、LiNiαCo(1-α)、LiNiαMnβCo(1-α-β)、LiNiαMn(2-α)等)、LiMe(XO(Meは少なくとも一種の遷移金属を表し、Xは例えばP、Si、B、V等を表す)で表されるポリアニオン化合物(LiFePO、LiMnPO、LiNiPO、LiCoPO、Li(PO、LiMnSiO、LiCoPOF等)が挙げられる。これらの化合物中の元素又はポリアニオンは他の元素又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。正極合材層においては、これら化合物の一種を単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。また、正極活物質の結晶構造は、層状構造又はスピネル構造であることが好ましい。
【0032】
正極合材層における正極活物質の含有量の下限としては、50質量%が好ましく、70質量%がより好ましく、80質量%がさらに好ましい。一方、正極活物質の含有量の上限としては、99質量%が好ましく、94質量%がより好ましい。正極活物質の含有量を前記範囲とすることで、当該蓄電素子のエネルギー密度を高めることができる。
【0033】
前記導電剤としては、電池性能に悪影響を与えない導電性材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、天然又は人造の黒鉛、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、金属、導電性セラミックスなどが挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。
【0034】
正極合材層における導電剤の含有量の下限としては、0.1質量%が好ましく、0.5質量%がより好ましい。一方、導電剤の含有量の上限としては、10質量%が好ましく、5質量%がより好ましい。導電剤の含有量を前記範囲とすることで、当該蓄電素子のエネルギー密度を高めることができる。
【0035】
前記結着剤としては、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子などが挙げられる。
【0036】
正極合材層における結着剤の含有量の下限としては、1質量%が好ましく、2質量%がより好ましい。一方、結着剤の含有量の上限としては、10質量%が好ましく、5質量%がより好ましい。結着剤の含有量を前記範囲とすることで、正極活物質を安定して保持することができる。
【0037】
前記増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。また、増粘剤がリチウムと反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させておくことが好ましい。
【0038】
前記フィラーとしては、電池性能に悪影響を与えないものであれば特に限定されない。フィラーの主成分としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス、炭素などが挙げられる。なお、「主成分」とは、最も質量含有率が大きい成分を意味する。
【0039】
<負極板>
負極板4は、導電性を有する箔状乃至シート状の負極集電体と、この負極集電体の両面に積層される多孔性の負極合材層とを有する。より詳しくは、負極板4は、負極集電体の両面に負極合材層が積層される電極部と、この電極部から突出し、当該蓄電素子の接続端子に電気的に接続される接続部とを有する。
【0040】
負極板4は巻回の軸方向の幅が、正極板3の幅以上であることが好ましい。換言すると、電極体1において、正極板3は、巻回の軸方向に負極板4からはみ出さないように配置されることが好ましい。これにより、負極板4の端部において反応が過剰となり電析が助長されることを防止することができる。
【0041】
(負極集電体)
負極集電体は、上述の正極集電体と同様の形状とすることができるが、材質としては、銅又は銅合金が好ましい。つまり、負極板4の負極集電体としては銅箔が好ましい。銅箔としては、例えば圧延銅箔、電解銅箔等が例示される。
【0042】
(負極合材層)
負極合材層は、負極活物質を含むいわゆる合材から形成される。また、負極合材層を形成する合材は、必要に応じて導電剤、結着剤(バインダ)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む多孔性の層である。導電剤、結着剤、増粘剤、フィラー等の任意成分は、正極合材層と同様のものを用いることができる。
【0043】
負極合材層の空孔率の下限としては、20%が好ましく、25%がより好ましい。一方、負極合材層の空孔率の上限としては、40%が好ましく、30%がより好ましい。負極合材層の空孔率を前記下限以上とすることによって、電解液を十分に浸潤させて、十分な正極反応を生じさせられる。また、負極合材層の空孔率を前記上限以下とすることによって、負極合材層を比較的薄くすることができるので、当該蓄電素子のエネルギー密度を大きくすることができる。
【0044】
負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材質が好適に用いられる。具体的な負極活物質としては、例えばリチウム、リチウム合金等の金属;金属酸化物;ポリリン酸化合物;黒鉛、非晶質炭素(易黒鉛化炭素または難黒鉛化性炭素)等の炭素材料などが挙げられる。
【0045】
前記負極活物質の中でも、正極板3と負極板4との単位対向面積当たりの放電容量を好適な範囲とする観点から、Si、Si酸化物、Sn、Sn酸化物又はこれらの組み合わせを用いることが好ましく、Si酸化物を用いることが特に好ましい。なお、SiとSnとは、酸化物にした際に、黒鉛の3倍程度の放電容量を持つことができる。
【0046】
負極活物質としてSi酸化物を用いる場合、Si酸化物に含まれるOのSiに対する原子数の比としては0超2未満が好ましい。つまり、Si酸化物としては、SiO(0<x<2)で表される化合物が好ましい。また、前記原子数の比としては、0.5以上1.5以下がより好ましい。
【0047】
なお、負極活物質は上述したものを一種単体で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。例えば、Si酸化物と他の負極活物質とを混合して用いることで、正極板3と負極板4との単位対向面積当たりの放電容量及び後述する負極活物質の質量に対する前記正極活物質の質量の比が共に好適な値となるように調整できる。Si酸化物と混合して用いる他の負極活物質としては、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン、コークス類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、気相成長炭素繊維、フラーレン、活性炭等の炭素材料が挙げられる。これらの炭素材料は、一種のみをSi酸化物と混合してもよいし、二種以上を任意の組み合わせ及び比率でSi酸化物と混合してもよい。これらの他の負極活物質の中でも、充放電電位が比較的卑である黒鉛が好ましく、黒鉛を用いることで高いエネルギー密度の二次電池素子が得られる。Si酸化物と混合して用いる黒鉛としては、鱗片状黒鉛、球状黒鉛、人造黒鉛、天然黒鉛等が挙げられる。これらの中でも、充放電を繰り返してもSi酸化物粒子表面との接触を維持しやすい鱗片状黒鉛が好ましい。
【0048】
負極活物質におけるSi酸化物の含有量の下限としては、30質量%が好ましく、50質量%より好ましく、70質量%がさらに好ましい。一方、Si酸化物の含有量の上限としては、通常100質量%であり、90質量%が好ましい。
【0049】
さらに、負極合材層は、Si酸化物に加えて少量のB、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を含有してもよい。
【0050】
前記Si酸化物(一般式SiOで表される物質)として、SiO及びSiの両相を含むものを使用することが好ましい。このようなSi酸化物は、SiOのマトリックス中のSiにリチウムが吸蔵及び放出されるため、体積変化が小さく、かつ充放電サイクル特性に優れる。
【0051】
また、前記Si酸化物の平均粒子径は、1μm以上15μm以下が好ましい。Si酸化物の平均粒子径を前記上限以下とすることで、当該蓄電素子の充放電サイクル特性を向上できる。
【0052】
前記Si酸化物は、高結晶性のものからアモルファスのものまで使用することができる。さらに、Si酸化物としては、フッ化水素、硫酸などの酸で洗浄されているものや水素で還元されているものを使用してもよい。
【0053】
負極合材層における負極活物質の含有量の下限としては、60質量%が好ましく、80質量%がより好ましく、90質量%がさらに好ましい。一方、負極活物質の含有量の上限としては、99質量%が好ましく、98質量%がより好ましい。負極活物質の含有量を前記範囲とすることで、蓄電素子のエネルギー密度を高めることができる。
【0054】
負極合材層における結着剤の含有量の下限としては、1質量%が好ましく、5質量%がより好ましい。一方、結着剤の含有量の上限としては、20質量%が好ましく、15質量%がより好ましい。結着剤の含有量を前記範囲とすることで、負極活物質を安定して保持することができる。
【0055】
<セパレータ>
セパレータ5は、多孔性を有するシート状乃至フィルム状の樹脂から形成され、電解液が浸潤する。このセパレータ5は、正極板3と負極板4とを隔離すると共に、正極板3と負極板4との間に電解液を保持する。
【0056】
このセパレータ5の主成分としては、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、塩素化ポリエチレン等のポリオレフィン誘導体、エチレン-プロピレン共重合体等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレートや共重合ポリエステル等のポリエステルなどを採用することができる。中でも、セパレータ5の主成分としては、耐電解液性、耐久性及び溶着性に優れるポリエチレン及びポリプロピレンが好適に用いられる。
【0057】
セパレータ5の平均厚さの下限としては、5μmが好ましく、10μmがより好ましい。一方、セパレータ5の平均厚さの上限としては、50μmが好ましく、30μmがより好ましい。セパレータ5の平均厚さを前記下限以上とすることによって、正極板3と負極板4との短絡をより確実に防止することができる。また、セパレータ5の平均厚さを前記上限以下とすることによって、当該蓄電素子のエネルギー密度を大きくすることができる。また、セパレータは濡れ性の観点から無機塗工セパレータが好ましい。
【0058】
また、セパレータ5の突き刺し強度の下限としては、200gfが好ましく、300gfがより好ましい。一方、セパレータ5の突き刺し強度の上限としては、1000gfが好ましく、800gfがより好ましい。セパレータ5の突き刺し強度を前記下限以上とすることによって、例えばリチウムデンドライト等の電析により形成される金属析出物がセパレータ5を突き破って正極板3と負極板4とを短絡させることをより確実に防止できる。また、セパレータ5の突き刺し強度を前記上限以下とすることによって、セパレータ5の加工が比較的容易となる。なお、「突き刺し強度」とは、JIS-Z1707(1997)に準拠して測定される値である。
【0059】
また、セパレータ5は、正極板3及び負極板4と対向する対向部位と、正極板3又は負極板4と対向しない非対向部位とを有する。つまり、セパレータ5は、正極板3及び負極板4間に挟持されて厚さ方向に押圧(圧縮)されている対向部位と、正極板3又は負極板4から巻回の軸方向に突出して正極板3及び負極板4間に挟持されず押圧(圧縮)されていない非対向部位とを有する。
【0060】
セパレータ5の非対向部位における透気抵抗度をA[s]、対向部位における透気抵抗度をB[s]としたとき、A/B(非対向部位における透気抵抗度の対向部位における透気抵抗度に対する比)の下限としては、0.20が好ましく、0.25がより好ましく、0.30がさらに好ましい。一方、A/Bの上限としては、0.89であり、0.40が好ましく、0.35がより好ましい。A/Bを前記下限以上とすることによって、セパレータ5内に十分な電解液を保持することができると共に、セパレータ5の圧縮、ひいては当該蓄電素子の製造が比較的容易となる。また、A/Bを前記上限以下とすることによって、製造時の注液性が向上すると共に、セパレータ5の対向部位における空孔率を十分に小さくして当該蓄電素子のサイクル寿命特性及びクーロン効率を向上することができる。
【0061】
セパレータ5の非対向部位における透気抵抗度Aの下限としては、30sが好ましく、50sがより好ましく、60sがさらに好ましい。一方、セパレータ5の非対向部位における透気抵抗度Aの上限としては、250sが好ましく、150sがより好ましく、100sがさらに好ましい。セパレータ5の非対向部位における透気抵抗度Aを前記下限以上とすることによって、セパレータ5の対向部位における空孔率を十分に小さくして、当該蓄電素子のサイクル寿命特性及びクーロン効率を向上することができる。また、セパレータ5の非対向部位における透気抵抗度Aを前記上限以下とすることによって、製造時に電解液を迅速に浸潤させることができるので、当該蓄電素子の製造効率が向上する。
【0062】
セパレータ5の対向部位における透気抵抗度Bの下限としては、90sが好ましく、200sがより好ましく、250sがさらに好ましい。一方、セパレータ5の対向部位における透気抵抗度Bの上限としては、500sが好ましく、400sがより好ましく、350sがさらに好ましい。セパレータ5の対向部位における透気抵抗度Bを前記下限以上とすることによって、セパレータ5の対向部位における空孔率を十分に小さくして、当該蓄電素子のサイクル寿命特性及びクーロン効率を向上することができる。また、セパレータ5の対向部位における透気抵抗度Bを前記上限以下とすることによって、セパレータ5に十分な量の電解液を浸潤させて極反応を促進することができるので、当該蓄電素子の性能が向上する。
【0063】
セパレータ5の非対向部位における空孔率をC[%]、対向部位における空孔率をD[s]としたとき、D/C(対向部位における空孔率の非対向部位における空孔率に対する比)は、1よりも小さいことが好ましい。つまりセパレータ5の対向部位における空孔率Dは、非対向部位における空孔率Cよりも小さいことが好ましい。これにより、製造時の電解液の注液性と、当該蓄電素子のサイクル寿命特性及びクーロン効率とを両立することができる。
【0064】
D/Cの下限としては、0.70が好ましく、0.71がより好ましい。一方、D/Cの上限としては、0.95が好ましく、0.83がより好ましく、0.79がさらに好ましい。D/Cを前記下限以上とすることによって、セパレータ5内に十分な量の電解液を保持することができると共に、セパレータ5の圧縮が容易となることで当該蓄電素子の製造効率が向上する。また、D/Cを前記上限以下とすることによって、製造時の注液性が大きくなるので当該蓄電素子の製造効率が向上すると共に、製造後のセパレータ5の空孔率を小さくできるので当該蓄電素子のサイクル寿命特性及びクーロン効率が向上する。
【0065】
セパレータ5の非対向部位における空孔率Cの下限としては、40%が好ましく、50%がより好ましく、55%がさらに好ましい。一方、セパレータ5の非対向部位における空孔率Cの上限としては、80%が好ましく、70%がより好ましく、60%がさらに好ましい。セパレータ5の非対向部位における空孔率Cを前記下限以上とすることによって、セパレータ5が十分な量の電解液を保持できるため、極反応を促進して当該蓄電素子の性能を向上することができる。また、セパレータ5の非対向部位における空孔率Cを前記上限以下とすることによって、セパレータ5の対向部位における空隙率Dを十分に小さくすることができるので当該蓄電素子のサイクル寿命特性及びクーロン効率が向上する。
【0066】
セパレータ5の対向部位における空孔率Dの下限としては、35%が好ましく、38%がより好ましく、40%がさらに好ましい。一方、セパレータ5の対向部位における空孔率Dの上限としては、55%が好ましく、50%がより好ましく、45%がさらに好ましい。セパレータ5の対向部位における空孔率Dを前記下限以上とすることによって、正極板3及び負極板4に十分な量の電化池機を接触させられるので当該蓄電素子の性能が向上する。また、セパレータ5の対向部位における空孔率Dを前記上限以下とすることによって、当該蓄電素子のサイクル寿命特性及びクーロン効率が向上する。
【0067】
また、セパレータ5は、両面又は片面(好ましくは正極に対向する面)に耐熱層を有するとよい。これにより、セパレータ5の熱による破損を防止して、正極板3と負極板4との短絡をより確実に防止することができる。
【0068】
(耐熱層)
セパレータ5の耐熱層は、多数の無機粒子と、この無機粒子間を接続するバインダとを含む構成とすることができる。
【0069】
無機粒子の主成分としては、例えばアルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄等の酸化物、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物、シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリンクレイ、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウムなどが挙げられる。中でも、耐熱層の無機粒子の主成分としては、アルミナ、シリカ及びチタニアが特に好ましい。
【0070】
耐熱層の無機粒子の平均粒子径の下限としては、1nmが好ましく、7nmがより好ましい。一方、無機粒子の平均粒子径の上限としては、5μmが好ましく、1μmがより好ましい。無機粒子の平均粒子径を前記下限以上とすることによって、耐熱層中の無機粒子とバインダとの比率を適正化して、耐熱層の耐熱性を向上することができる。また、無機粒子の平均粒子径を前記上限以下とすることによって、均質な耐熱層を形成することができる。なお、「平均粒子径」とは、JIS-R1670に準じて測定される値である。
【0071】
耐熱層のバインダの主成分としては、例えばポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体等のフッ素ゴム、スチレン-ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体及びその水素化物、メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル-アクリル酸エステル共重合体等の合成ゴム、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、カルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩等のセルロース誘導体、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド及びその前駆体(ポリアミック酸等)等のポリイミド、エチレン-エチルアクリレート共重合体等のエチレン-アクリル酸共重合体、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエステルなどが挙げられる。
【0072】
耐熱層の平均厚さの下限としては、0.5μmが好ましく、1μmがより好ましい。一方、耐熱層の平均厚さの上限としては、10μmが好ましく、6μmがより好ましい。耐熱層の平均厚さを前記下限以上とすることによって、セパレータ5の耐熱性を向上できる。また、耐熱層の平均厚さを前記上限以下とすることによって、当該蓄電素子のエネルギー密度をより大きくすることができる。
【0073】
〔ケース〕
ケース2は、内部に収容する電極体1の正極板3、負極板4及びセパレータ5がそれぞれ平面状に伸びる積層領域の両面側に対向する一対の押圧壁6と、この一つの押圧壁6の両端間を接続する一対の接続壁7とを有する筒状部を有する。
【0074】
一対の押圧壁6は、電極体1を挟み込んで積層体中のセパレータ5を厚さ方向に圧縮する。一対の接続壁7は、塑性変形して一対の押圧壁6の間隔を保持する。つまり、当該蓄電素子は、電極体1のセパレータ5の平面状に延在し、正極板3及び負極板4と対向する部分が、ケースの押圧壁6を押圧することにより厚さ方向に圧縮されている。
【0075】
ケース2の材質としては、電解液を封入できるシール性と、電極体1を保持できる強度とを備えるものであればよいが、金属が好適に用いられ、中でもステンレス鋼、アルミニウム等が特に好適に用いられる。つまり、ケース2としては、電極体1をより確実に押圧して保持できる金属ケースを用いることが好ましい。
【0076】
〔電解液〕
ケース2に封入される電解液としては、蓄電素子に通常用いられる公知の電解液が使用でき、例えばエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)等の環状カーボネート、又はジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等の鎖状カーボネートを含有する溶媒に、リチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF)等を溶解した溶液を用いることができる。
【0077】
電解液の粘度の下限としては、0.01cP以上5cP以下とすることが好ましい。電解液の粘度を前記下限以上とすることによって、電解液が十分なイオン伝導性を有するものとなり、当該蓄電素子の性能を向上できる。また、電解液の粘度を前記上限以下とすることによって、製造時のセパレータ5への電解液の注液性が向上する。
【0078】
[蓄電素子の製造方法]
図1の蓄電素子は、本発明の別の実施形態に係る製造方法によって製造してもよい。当該製造方法は、正極板3及び負極板4がセパレータ5を介して積層された電極体1と電解液とが内部に収容されたケース2を押圧することを含み、この押圧の際に、押圧前のセパレータの透気抵抗度Aと押圧後のセパレータ5の透気抵抗度Bとの関係がA/B≦0.89となるよう押圧量を定める。
【0079】
押圧の方法は種々の方法を適用することができるが、例えば、ケース2を二枚の平板で挟み込んで押圧し、平板間の距離で規定する方法や、平板にかかる圧力で規定する方法などが考えられる。なお、今回は平板にかかる圧力を0.01から4.0MPaの間で調整し目的の押圧量を定めた。
【0080】
また、当該蓄電素子の製造方法では、ケース2を押圧した状態で充電することが好ましい。これにより、充電時に発生するガスを製造段階で排出し、使用中のケース2の膨張を防止することができる。
【0081】
当該蓄電素子の製造方法は、このように、押圧前のセパレータの透気抵抗度Aと押圧後のセパレータの透気抵抗度Bとの比を管理することにより、上述のように、セパレータ5への電解液の注液が比較的容易であり、かつ得られる蓄電素子のサイクル寿命特性及びクーロン効率を向上することができる。
【0082】
[その他の実施形態]
前記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、前記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて前記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0083】
当該蓄電素子において、電極体は、複数の正極板と負極板とをセパレータを介して積層した積層タイプであってもよい。
【0084】
当該蓄電素子は、ケースが可撓性の材料から形成されてもよく、ケースを押圧して電極体のセパレータを圧縮する外装体をさらに備えてもよい。
【0085】
また、当該蓄電素子は、ケースを押圧することによりセパレータを塑性変形させて圧縮した後、押圧力を除去して弾性歪みを取り除いたものであってもよい。
【0086】
図2に、本発明に係る蓄電素子の一実施形態である矩形状の非水電解質二次電池10の概略図を示す。なお、同図は、電池容器内部を透視した図としている。図2に示す非水電解質二次電池10は、正極板及び負極板がセパレータを介して積層された電極体11と、電極体11を収容するケース12とを備える。電極体11は、正極活物質を備える正極と、負極活物質を備える負極とが、セパレータを介して捲回されることにより形成されている。ケース12は、正極端子13及び負極端子14を有する。電極体11の正極は、正極リード15を介して正極端子13と電気的に接続され、電極体11の負極は、負極リード16を介して負極端子14と電気的に接続されている。
【0087】
本発明に係る蓄電素子の構成については、特に限定されるものではなく、角型蓄電素子(矩形状の蓄電素子)、扁平型蓄電素子等が一例として挙げられる。本発明は、上記の蓄電素子を複数備える蓄電装置としても実現することができる。蓄電装置の一実施形態を図3に示す。図3において、蓄電装置30は、複数の蓄電ユニット20を備えている。それぞれの蓄電ユニット20は、複数の非水電解質二次電池10を備えている。上記蓄電装置30は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として搭載することができる。
【実施例
【0088】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0089】
正極板と負極板とをセパレータを介して積層した電極体を作成し、この電極体をケース内に配置して電解液を注液することにより、蓄電素子の試作品である電池1~4を試作した。また、正極板と負極板とをセパレータを介して積層した電極体を作成し、この電極体をケース内に配置して電解液を注液してからケースを押圧することにより電極体のセパレータを厚さ方向に圧縮して蓄電素子の試作品である電池5~10を試作した。なお、電池1~10では、ケースの開口から電極体の巻回の軸方向の中心位置までの距離は60mmとした。
【0090】
これらの電池1~10について、以下の充放電条件にて初期放電容量確認試験をおこなった。25℃において40Aの定電流で4.35Vまで充電し、さらに4.35Vで定電圧にて充電し、定電流充電及び定電圧充電を含めて合計3時間充電した。充電後に40Aの定電流にて2.75Vの放電終止電圧まで放電をおこない、この放電容量を「初期容量」とした。
【0091】
初期放電容量測定後の各電池について、以下の条件にて45℃サイクル寿命試験をおこなって容量保持率及びクーロン効率を測定した。
【0092】
45℃にて40Aの定電流で4.35Vまで充電し、さらに4.35Vで定電圧にて充電し、定電流充電及び定電圧充電を含めて合計3時間充電した後に、45℃にて40Aの定電流にて2.75Vまで放電をおこなうことを1サイクルとして、このサイクルを300サイクル繰り返した。なお、充電後及び放電後には45℃にて10分間の休止を設けた。300サイクル終了した電池は初期容量の確認試験と同じ条件にて充放電を行って、その際の放電容量を「サイクル後容量」とし、放電容量を充電電気量で除することによって「クーロン効率」を算出した。また、300サイクル終了後の「サイクル後容量」を「初期容量」で除することによって、45℃サイクル寿命試験前後での放電容量の保持率を「容量保持率」として算出した。
【0093】
(電池1)
電池1は、活物質層の空孔率が25%である正極板を用い、セパレータとして平均厚さが16μm、透気抵抗度が300s、空孔率が41%である、アルミナ粒子を含む耐熱層を片面に有するポリエチレンセパレータを用いて作成した。この電池1の作成過程において、ケースに所定量の電解液を注入するため、つまりセパレータに電解液を浸潤させるために要した時間(注入時間)は、243sであった。この電池1は、容量保持率が71%、クーロン効率99.8%であった。
【0094】
(電池2)
電池2は、活物質層の空孔率が25%である正極板を用い、セパレータとして平均厚さが16m、透気抵抗度が230s、空孔率が46%である、アルミナ粒子を含む耐熱層を片面に有するポリエチレンセパレータを用いて作成した。この電池2の作成過程における注入時間は、235sであった。この電池2は、容量保持率が71%、クーロン効率99.8%であった。
【0095】
(電池3)
電池3は、活物質層の空孔率が25%である正極板を用い、セパレータとして平均厚さが16μm、透気抵抗度が200s、空孔率が48%である、アルミナ粒子を含む耐熱層を片面に有するポリエチレンセパレータを用いて作成した。この電池3の作成過程における注入時間は、221sであった。この電池3は、容量保持率が70%、クーロン効率99.8%であった。
【0096】
(電池4)
電池4は、活物質層の空孔率が25%である正極板を用い、セパレータとして平均厚さが16μm、透気抵抗度が80s、空孔率が58%である、アルミナ粒子を含む耐熱層を片面に有するポリエチレンセパレータを用いて作成した。この電池4の作成過程における注入時間は、85sであった。この電池4は、容量保持率が54%、クーロン効率92.7%であった。
【0097】
(電池5)
電池5は、活物質層の空孔率が25%である正極板を用い、積層前(押圧前)のセパレータとして平均厚さが16μm、透気抵抗度が80s、空孔率が58%である、アルミナ粒子を含む耐熱層を片面に有するポリエチレンセパレータを用い、電解質の注液後にケースを0.01MPaで押圧することによってセパレータを厚さ方向に圧縮して作成した。この電池5の作成過程における注入時間は、85sであった。また、この電池5の押圧後のセパレータは、透気抵抗度が90s、空孔率が55%であった。そして、この電池5は、容量保持率が57%、クーロン効率93.8%であった。
【0098】
(電池6)
電池6は、活物質層の空孔率が25%である正極板を用い、積層前(押圧前)のセパレータとして平均厚さが16μm、透気抵抗度が80s、空孔率が58%である、アルミナ粒子を含む耐熱層を片面に有するポリエチレンセパレータを用い、電解質の注液後にケースを0.05MPaで押圧することによってセパレータを厚さ方向に圧縮して作成した。この電池6の作成過程における注入時間は、85sであった。また、この電池6の押圧後のセパレータは、透気抵抗度が150s、空孔率が53%であった。そして、この電池6は、容量保持率が62%、クーロン効率96.8%であった。
【0099】
(電池7)
電池7は、活物質層の空孔率が25%である正極板を用い、積層前(押圧前)のセパレータとして平均厚さが16μm、透気抵抗度が80s、空孔率が58%である、アルミナ粒子を含む耐熱層を片面に有するポリエチレンセパレータを用い、電解質の注液後にケースを1.2MPaで押圧することによってセパレータを厚さ方向に圧縮して作成した。この電池7の作成過程における注入時間は、85sであった。また、この電池7の押圧後のセパレータは、透気抵抗度が200s、空孔率が48%であった。そして、この電池7は、容量保持率が76%、クーロン効率99.8%であった。
【0100】
(電池8)
電池8は、活物質層の空孔率が25%である正極板を用い、積層前(押圧前)のセパレータとして平均厚さが16μm、透気抵抗度が80s、空孔率が58%である、アルミナ粒子を含む耐熱層を片面に有するポリエチレンセパレータを用い、電解質の注液後にケースを2.0MPaで押圧することによってセパレータを厚さ方向に圧縮して作成した。この電池8の作成過程における注入時間は、85sであった。また、この電池8の押圧後のセパレータは、透気抵抗度が230s、空孔率が46%であった。そして、この電池8は、容量保持率が79%、クーロン効率99.7%であった。
【0101】
(電池9)
電池9は、活物質層の空孔率が25%である正極板を用い、積層前(押圧前)のセパレータとして平均厚さが16μm、透気抵抗度が80s、空孔率が58%である、アルミナ粒子を含む耐熱層を片面に有するポリエチレンセパレータを用い、電解質の注液後にケースを3.0MPaで押圧することによってセパレータを厚さ方向に圧縮して作成した。この電池9の作成過程における注入時間は、85sであった。また、この電池9の押圧後のセパレータは、透気抵抗度が260s、空孔率が43%であった。そして、この電池9は、容量保持率が77%、クーロン効率99.7%であった。
【0102】
(電池10)
電池10は、活物質層の空孔率が25%である正極板を用い、積層前(押圧前)のセパレータとして平均厚さが16μm、透気抵抗度が80s、空孔率が58%である、アルミナ粒子を含む耐熱層を片面に有するポリエチレンセパレータを用い、電解質の注液後にケースを4.0MPaで押圧することによってセパレータを厚さ方向に圧縮して作成した。この電池10の作成過程における注入時間は、85sであった。また、この電池10の押圧後のセパレータは、透気抵抗度が300s、空孔率が41%であった。そして、この電池10は、容量保持率が75%、クーロン効率99.5%であった。
【0103】
次の表1に、これらの電池1~10について、積層前(押圧前)のセパレータの透気抵抗度A、電池における(押圧後の)セパレータの透気抵抗度B及びこれらの比率A/B、積層前(押圧前)のセパレータの空孔率C、電池における(押圧後の)セパレータの空孔率D及びこれらの比率D/C、電解液注入時間、容量保持率、並びにクーロン効率をまとめて示す。
【0104】
【表1】
【0105】
セパレータの押圧前の透気抵抗度(A)が大きい電池1~3は、電解液を浸潤させるために必要な注入時間が長いのに対し、セパレータの押圧前の透気抵抗度が小さい電池4~10は、注入時間が小さく製造効率が短く、製造効率に優れている。
【0106】
しかしながら、セパレータの押圧前の透気抵抗度が小さくても、セパレータの押圧前の透気抵抗度(A)の押圧後の透気抵抗度(B)に対する比(A/B)が大きい電池4は、容量保持率及びクーロン効率が小さい。これに対して、セパレータの押圧前の透気抵抗度が小さく、且つセパレータの押圧前の透気抵抗度(A)の押圧後の透気抵抗度(B)に対する比(A/B)が0.89以下である電池5~10は、容量保持率及びクーロン効率に優れている。特に、セパレータの押圧前の透気抵抗度(A)の押圧後の透気抵抗度(B)に対する比(A/B)を0.40以下とした電池7~10は、容量保持率及びクーロン効率に特に優れている。
【0107】
セパレータの押圧前の空隙率(C)に対する押圧後の空隙率(D)の比(D/C)が1である電池1~4は、電解液の注入時間が長くなっているか、容量保持率及びクーロン効率が小さくなっている。このため、セパレータの押圧前の空隙率(C)に対する押圧後の空隙率(D)の比(D/C)を1よりも小さくすることで、電解液の注入時間を短くしつつ容量保持率及びクーロン効率を大きくできると考えられる。具体的には、セパレータの押圧前の空隙率(C)に対する押圧後の空隙率(D)の比(D/C)を0.95以下とした電池5~10は、電解液の注入時間が短いにも拘わらず、容量保持率及びクーロン効率が十分に大きい値となっている。特に、セパレータの押圧前の空隙率(C)に対する押圧後の空隙率(D)の比(D/C)を0.83以下とした電池7~10は、容量保持率及びクーロン効率が特に高い値となっている。
【0108】
このように、押圧前(注液時)のセパレータの透気抵抗度を小さくすることによって注入時間を短縮して蓄電素子の製造効率を向上することができ、かつ、注液後にセパレータを押圧して透気抵抗度を大きくすることによって、容量保持率及びクーロン効率を向上できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明の実施形態に係る蓄電素子の製造方法及び蓄電素子は、例えば自動車、携帯電話等、多様な機器の電源として利用することができる。
【符号の説明】
【0110】
1 電極体
2 ケース
3 正極板
4 負極板
5 セパレータ
6 押圧壁
7 接続壁
10 非水電解質二次電池
11 電極体
12 ケース
13 正極端子
14 負極端子
15 正極リード
16 負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置
図1
図2
図3