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特許7039853非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末及びその製造方法、スラリー並びに成形体
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  • 特許-非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末及びその製造方法、スラリー並びに成形体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末及びその製造方法、スラリー並びに成形体
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/26 20060101AFI20220315BHJP
   C01B 33/46 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
C01B33/26
C01B33/46
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017071681
(22)【出願日】2017-03-31
(65)【公開番号】P2018172238
(43)【公開日】2018-11-08
【審査請求日】2020-03-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000166443
【氏名又は名称】戸田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100173406
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 真貴子
(74)【代理人】
【識別番号】100067301
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 順一
(72)【発明者】
【氏名】末益 匠
(72)【発明者】
【氏名】黒川 晴己
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-111521(JP,A)
【文献】特開2008-179533(JP,A)
【文献】特開2012-210560(JP,A)
【文献】特開昭56-160316(JP,A)
【文献】特開平06-157022(JP,A)
【文献】特開2005-272517(JP,A)
【文献】特開平11-011934(JP,A)
【文献】特開2004-099430(JP,A)
【文献】特開昭55-085418(JP,A)
【文献】特表平08-506989(JP,A)
【文献】特開昭60-082964(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/20 - 39/54
B01J 20/00 - 20/34
CAplus/REGISTRY/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
BET比表面積が400~1000m/gの非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末であって、嵩密度(ρa)が0.30~0.80g/cmであり、Si/Alモル比が0.80~1.10であり、温度25℃、湿度80%における重量当たりの水蒸気吸着量が0.4g/g以上であることを特徴とする非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末。
【請求項2】
請求項1記載の非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末であって、平均凝集粒子径が10~3000μmである非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末。
【請求項3】
熟成反応と水熱反応を併用する非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の製造方法であって、水熱反応後のスラリーを水洗・濃縮することにより200~400g/Lの濃度に調整後、乾燥することを特徴とする請求項1又は2に記載の非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末を含有するスラリー。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末を用いた成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い比表面積と高い嵩密度を有する非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネ化や省資源化の視点から、民生施設や工場設備の除湿剤、及び工場や農場設備の悪臭物脱臭剤、特に、工場の塗装工程等から発生する揮発性有機溶媒の回収に繰り返し利用できる吸着剤の需要が高まっている。
【0003】
従来から、低露点温度の乾燥した空気を作るために、過冷却で湿度を下げる冷却除湿と、合成ゼオライト等乾燥剤を用いたデシカント除湿がある。前記除湿には、過冷却については消費エネルギー量が高くなる点、また合成ゼオライトを用いる場合には再生する際に150℃以上の高い再生温度を必要とする点などの課題が残っている。
【0004】
農場での悪臭物吸着のために、木材チップ等の安価な材料が用いられているが、該材料は単位体積当たりの吸着性能が低い。そのため、前記材料からなる吸着システムの体積は非常に大きい。コンパクト化を求められる工場用の悪臭吸着システムでは、単位重量・体積当たりの優れた吸着性能、及び低温再生性能を有する材料が求められている。
【0005】
上記要求は揮発性有機溶媒の回収、及び再利用においても同様のことが言える。吸着剤減容化は該吸着システムのサイズ低減において重要である。そのため、重量当たりの性能の高い吸着剤だけでなく、密度の高い吸着剤が求められている。
【0006】
従来技術として、水蒸気をはじめ、極性ガスの吸着性能、及び該ガスの脱離性能においても優れた非晶質、及び結晶質のアルミノケイ酸塩粒子粉末が特許文献1~3で開示されている。しかしながら、該文献において、非晶質で嵩密度が0.3g/cm以上のアルミノケイ酸塩粒子粉に関する報告はなかった。即ち、前記先行技術では、高性能な吸着システムの小型化が期待されるとは言い難いものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-179533号公報
【文献】特開2010-269312号公報
【文献】特開2016-175038号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
高い比表面積を有し、且つ極性ガスに対して高吸着速度、高吸着量であり、且つ吸着物をゼオライト等の結晶性物質に比べ低温で脱離が可能である非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末は未だ提供されていない。加えて、カラム(筒状容器)充填の際に高密度に吸着剤として充填できる非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末、及び該成形体は未だ提供されていない。
【0009】
即ち、前出特許文献1には、水蒸気をはじめ、種々の極性ガスに対し、優れた吸着性能を有する非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末が記載されている。しかしながら、該凝集粒子は嵩高い。従って、一定体積のカラムに充填できる前記粒子粉末の重量は少なかった。結果的に吸着システムの小型化が十分とは言い難いものであった。
【0010】
また、特許文献2~3に記載の技術では、嵩密度の高いアルミノケイ酸塩粒子粉末であるものの、結晶性の合成ゼオライトとして得られていた。従来、合成ゼオライトは非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末程の比表面積や吸着ガスの易脱離性能は有していないことが知られている。また、前記技術では、バインダーの量を十分に低減できているとは言い難く、単位体積当たりの吸着性能は低くなった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記技術的課題は、次の通りの本発明によって達成できる。
【0012】
即ち、本発明は、BET比表面積が400~1000m/gの非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末であって、嵩密度(ρa)が0.30~0.80g/cmであり、Si/Alモル比が0.80~1.10であり、温度25℃、湿度80%における重量当たりの水蒸気吸着量が0.4g/g以上であることを特徴とする非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末である。(本発明1)。
【0014】
また、本発明は、本発明1記載の非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末であって、平均凝集粒子径が10~3000μmである非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末である(本発明)。
【0015】
また、本発明は、熟成反応と水熱反応を併用する非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の製造方法であって、水熱反応後のスラリーを水洗・濃縮により200~400g/Lの濃度に調整後、乾燥することを特徴とする本発明1又は2に記載の非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の製造方法である(本発明)。
【0016】
また、本発明は、本発明1又は2に記載の非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末を含有するスラリーである(本発明)。
【0017】
また、本発明は、本発明1又は2に記載の非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末を用いた成形体である(本発明)。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末は、極性ガス、即ち、水蒸気をはじめ、エタノール、アセトン、酢酸エチル等の有機系ガス、及び酢酸やアンモニア等の悪臭を吸着・捕捉できる。該粒子粉末の嵩密度は高いため、空調用の除湿剤、有機溶媒回収用吸着剤、及び脱臭剤に関するシステムの小型化として好適である。また、本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末は、400~1000m/gと高い比表面積を有するので、短時間で対象の極性ガスを吸着させるのに好適である。また、好ましい平均凝集粒子径は10~3000μmであり、該粒子、及びそれを用いた成形体の耐圧強度は非常に高い。更に、本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末は非極性ガスを吸着しないため、ガス分離剤として有望である。
【0019】
本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末は、極性ガスを吸着した後、60℃~300℃の温度で加熱することにより吸着剤として再利用が可能である。さらに、前記粒子粉末は80℃~100℃程度の低温でも再生できるので、100℃以下の排熱の利用が可能である。また本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末は、100℃以下の排熱の蓄熱剤として、有効に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例1のX線回折プロファイルである。
図2】温度25℃、湿度60%の環境下で1時間静置したサンプルの熱重量変化を示したプロファイルである。
図3】温度25℃、湿度60%の環境下で1時間静置したサンプルの示差熱変化を示したプロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の構成をより詳しく説明すれば次の通りである。
【0022】
先ず、本発明に係るアルミノケイ酸塩粒子粉末について述べる。
【0023】
本発明に係るアルミノケイ酸塩粒子粉末は、非晶質であり、元素の空間的配列に周期性はない。化学構造は一般式x MO・y SiO・z Al・n HO(Mはアルカリ金属)で表わされる。Si4+とAl3+は互いにO2-を共有する箇所が存在するため、Si4+周辺は電気的に中性であっても、Al3+周辺はマイナス1価として帯電している。そのため、Al3+周辺は電気的中性になるようMで補われる。該Mイオンは雰囲気によりイオン交換され、前記粒子粉末の系外へ出されることもある。
【0024】
本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の嵩密度(ρa)は0.30~0.80g/cmである。好ましくは0.40~0.70g/cmである。嵩密度(ρa)が0.80g/cmより大きいものを作る場合、バインダーなどを用いるため、バインダーにより前記粒子粉末の比表面積が400m/g以下と低くなるため好ましくない。嵩密度(ρa)が0.30g/cm未満のものを作る場合、前記粒子粉末を含むガス吸着システム等の小型化ができるとは言い難い。
【0025】
本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末のBET比表面積が400~1000m/gである。BET比表面積が400m/g未満の場合、ガス吸着量、及びガス吸着速度が低下するため好ましくない。BET比表面積が1000m/gを越えると吸着性能は問題ないが、得られる嵩密度が低下するため好ましくない。好ましいBET比表面積は500~950m/gであり、より好ましくは600~900m/gである。
【0026】
本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末はX線回折プロファイルにおいて結晶由来のピークがほとんど観測されない程度の非晶質である。
【0027】
本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末のSi/Alモル比は0.80~1.10が好ましい。Si/Alモル比が0.80未満の場合や1.10より高い場合、得られる粒子粉末の比表面積が低下するため好ましくない。より好ましいSi/Alモル比は0.82~1.08であり、更により好ましくは0.85~1.05である。
【0028】
本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の平均凝集粒子径は10~3000μmが好ましい。より好ましくは15~2700μm、更により好ましくは18~2500μmである。平均凝集粒子径が10μm未満の場合、或いは3000μmを超える場合、工業的な製法としては困難であった。
【0029】
本発明における非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の一次粒子形状は粒状又は板状が好ましい。
【0030】
本発明における非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の平均一次粒子径は2~50nmが好ましい。より好ましくは3~30nmである。
【0031】
また、本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末は、球状、円柱状、中空を有する円柱状、粒状などの成形体とすることもできる。該成形体の好ましい大きさは0.1~6.0mmであり、より好ましくは0.5~4.0mmである。0.1mm未満ではカラム充填用として利用する際に高空間速度でガスを吸着させる際に飛散して好ましくない。6.0mmより大きい場合はカラムへの充填率が低くなり、ガスを吸着させる際にショートパスが生じて吸着の効率が下がるため好ましくない。
【0032】
本発明における非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末、及び該成形体の耐圧強度は1.0~10.0kgfであることが好ましい。より好ましくは2.0~8.0kgfであり、更により好ましくは3.0~7.0kgfである。耐圧強度が1.0kgf未満でカラム充填用の吸着剤として用いた場合、前記成形体が粉化しやすくなるため好ましくない。10.0kgfより大きい場合、技術的に成形体の大きさが6.0mmより大きくなり、前記の被吸着ガスのショートパスに関する理由で好ましくない。
【0033】
前記成形体は樹脂を結合剤として用いることもできる。また、熟成反応、水熱反応、水洗・濃縮により200~400g/Lの濃度に調整したスラリーを乾燥、粉砕、整粒で顆粒状の成形体を作製することもできる。該顆粒状の成形体の大きさは3mmを超えて10mm以下が好ましい。
【0034】
本発明における樹脂成分は、ポリウレタン樹脂や塩化ビニリデン樹脂、アクリル樹脂などで特に限定するものではなく、ウレタン、塩化ビニリデンなどと、アクリレート、アクリロニトリルなどとを共重合させた共重合体なども本発明の樹脂成分として有効である。さらに、必要に応じて、エポキシ系やメラミン系などの架橋剤や他の添加剤も利用できる。
【0035】
なお、本発明に係る成形体は、該成形の核となるような第3成分を加えて、非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末と樹脂成分を前記核の周囲に複合化することもできる。該複合化で非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末と樹脂成分の使用量を低減することも可能である。
【0036】
また、本発明における非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末は、紙、不織布、ポリエステル系合成繊維、ポリアミド系合成繊維、セルロース系繊維等に担持して、機能性を持った紙、及び繊維として用いることができる。
【0037】
また、本発明における非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィン、エチレンビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルブチラール、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート、アクリル樹脂等に複合化して、機能性を持った樹脂として用いることができる。
【0038】
また、本発明における非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末は、水、有機溶媒(エタノール、アセトン、メタノール、n-プロピルアルコール、iso-プロピルアルコール、酢酸エチル、メチルエチルケトン、酢酸ブチル等)、及びこれら複数種類の混合液に分散させて、スラリーとすることもできる。
【0039】
次に、本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の製造方法について述べる。
【0040】
本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末は、水溶性ケイ素原料、水溶性アルミニウム原料及び酸またはアルカリ原料を混合し、溶液のpHが7.0~8.0の領域で温度20~70℃で熟成反応させた後、スラリーを脱塩させる工程を経て、温度120~240℃で水熱反応させ、冷却後、水洗・濃縮でスラリー濃度200~400g/Lに調整した後に乾燥を経て得ることができる。ここで、スラリー濃度とは乾燥後に得られる固形分重量を前記乾燥前のスラリーの体積で割った値である。
【0041】
本発明における水溶性ケイ素原料としては、オルトケイ酸ナトリウム、水ガラス、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)等を使用することができる。水溶性アルミニウム原料としては、アルミン酸ナトリウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム等を使用することができる。
【0042】
酸原料の場合、硫酸、塩酸、硝酸、酢酸等を使用することができる。
【0043】
アルカリ原料の場合、炭酸アルカリ水溶液としては炭酸ナトリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、炭酸アンモニウム水溶液等であり、水酸化アルカリ水溶液として水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を使用することができる。
【0044】
原料仕込みのSi/Alモル比としては0.80~1.10が好ましく、より好ましくは0.82~1.08である。0.80未満の場合には、得られる非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の比表面積が低下して好ましくない。1.10を越えても同様に、得られる非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の比表面積が低下して好ましくない。
【0045】
熟成反応時のpHは7.0~8.0が好ましい。pHが7.0未満の場合には、得られる非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の比表面積が低下して好ましくない。pHが8.0を越えると得られる非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の比表面積が低下して好ましくない。
【0046】
熟成反応は20~70℃の温度が好ましい。20℃未満の場合には、粘度が高くなり均一混合が困難となるので好ましくない。70℃を超える場合はスラリーの水分が揮発しやすくなり、製造設備に負担がかかるため好ましくない。より好ましくは30℃~60℃である。熟成時間は20分間~96時間が好ましい。より好ましくは30分~72時間である。
【0047】
熟成反応後の水洗による脱塩工程を経た後、水熱反応を行う。水熱反応温度は120~240℃が好ましい。120℃未満の場合には、水熱反応が進まず比表面積が低下するため好ましくない。240℃を越えるとアルミノケイ酸塩粒子の結晶化が進み、非晶質でなくなり、一次粒子も大きくなるため好ましくない。水熱反応時間は3時間~96時間が好ましい。より好ましくは4時間~72時間である。
【0048】
前記水熱反応後のスラリーを水洗、濃縮した後、スラリー濃度は200~400g/Lに調整することが好ましい。200g/L未満の場合、得られる非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の嵩密度が0.30g/cm未満となるため好ましくない。400g/Lを超える場合、スラリー粘度が上昇し、工業的に製造することが困難になるため好ましくない。また、前記条件の場合、乾燥後、嵩密度の低い粒子粉末が得られるため好ましくない。より好ましくは250~380g/L、更により好ましくは280~360g/Lである。
【0049】
前記200~400g/Lに調整されたスラリーは乾燥により溶媒の水は無くなり、同時に熱収縮を経て、非晶質アルミノケイ酸塩粒子は粉末となる。
【0050】
前記スラリー濃縮の際、水と非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末が均一に混合された状態であるのが好ましい。例えば連続加圧式濃縮機等による水洗が好ましい。一方、デカンテーション水洗のような自然沈降では高濃度にスラリーは濃縮され、水と非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末が不均一な含水ケーキとなり、乾燥粉の嵩密度が低下するため好ましくない。吸引濾過による含水ケーキの乾燥、及び遠心分離による固液分離した後の含水ケーキの乾燥でも同様で、乾燥前の不適切なスラリー濃度では、得られる非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の嵩密度を低下させるため好ましくない。但し、前記含水ケーキも水に分散させて、再度、所定の200~400g/Lの濃度のスラリーに戻して乾燥することで、本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末を得ることができる。
【0051】
濃縮後のスラリー乾燥については箱型乾燥機、バンド式乾燥機、真空乾燥機、気流式乾燥機、間接加熱型撹拌乾燥機、媒体流動乾燥機、振動乾燥機、流動層造粒乾燥機等、コンパクトディスク乾燥機等を用いるのが好ましい。一方、真空凍結乾燥機は得られる粒子粉末の嵩密度が下がるため好ましくない。
【0052】
前記スラリーの乾燥時の品温は40~300℃が好ましい。40℃未満であれば単位時間当たりの生産性が低く、また、300℃を超えると比表面積の低下が観測される。より好ましくは50~280℃である。
【0053】
乾燥後の粉砕についてはピンミル、ジェットミル、ボールミル、振動ミル、ハンマーミル、ディスクミル等が好ましい。サンドミルやミックスマーラー等の混練粉砕機は、非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末が圧縮され、凝集するため好ましくない。
【0054】
乾燥後、或いは前記粉砕後、整粒、或いは分級しても構わない。自動振動篩、気流式の分級機等が挙げられる。
【0055】
<作用>
本発明において重要な点は、本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末は、400~1000m/gの比表面積を有しつつ、嵩密度が0.30~0.80g/cmと高いという事実である。また、本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末を用いた成形体や素材は、水蒸気をはじめとした極性ガスを吸着する際に、高空間速度(SV)でかつ長時間処理でき、且つ該吸着システムは小型化できるという事実である。
【0056】
本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末が400~1000m/gの比表面積を有しつつ、嵩密度0.30~0.80g/cmとなる理由は未だ明らかではない。本発明では、水熱反応処理後に得られた非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末含有スラリーを水洗・濃縮を経て、200~400g/Lの濃度に調整して、乾燥することを特徴としている。従って、前記乾燥前のスラリーにおいて、非晶質アルミノケイ酸塩粒子と水との距離が均一でかつ、規則的な凝集状態の粒子を作り、乾燥の熱収縮を経たため、高比表面積を維持しながら嵩密度の高い粒子粉末になったと本発明者は推定している。
【0057】
本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末は一定体積のカラム充填剤として利用できる。その際、極性ガスを高空間速度で該カラムを通過させても十分に吸着する。従って、該カラムは単位時間当たりのガス吸着処理量が高いという特徴を持つ。また、体積当たりでの性能を評価する場合、吸着性能が大きいという特長も持っている。このことは、本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末が、従来製造方法の粒子粉末と比較して2倍以上の嵩密度を有するためである。
【実施例
【0058】
本発明の代表的な実施の形態は次の通りである。
【0059】
本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の結晶相の同定は、「X線回折装置RINT2500((株)リガク製)」(管球:Cu、管電圧:40kV、管電流:300mA、ゴニオメーター:広角ゴニオメーター、サンプリング幅:0.010°、走査速度:4.00°/min、発散スリット:1/2°、散乱スリット:1/2°、受光スリット:0.15mm)を使用して行った。
【0060】
本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末、及び該成形体の比表面積値はBET法により測定した。
【0061】
本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末のSi、Al、Na、などの金属元素含有量の分析は、蛍光エックス線分析装置 RIX2100((株)リガク製)を用いて含有量を求めた。
【0062】
本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の平均凝集粒子径は「レーザー回折・散乱式粒度分布測定器 LMS-2000e((株)セイシン企業)」で測定して求めた。
【0063】
本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末、及び該成形体の嵩密度(ρa)はJIS K5101に従い、カサ比重測定器((株)蔵持科学機械製作所)を用いて行った。
【0064】
本発明における非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末、及び該成形体の耐圧強度はJIS-Z-8841に準拠して行い、デジタルフォースゲージを用い120個の平均値から求めることができる。
【0065】
本発明における非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の平均一次粒子径は電子顕微鏡で測定して求めることができる。
【0066】
本発明における非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末、及び該成形体の重量あたりの水蒸気吸着量は下記の方法で測定した。予め内径約6.0cmのガラスシャーレ重量を電子天秤で計量した。該シャーレに約1.5g計量した非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末、及び該成形体を乗せ、シャーレと一緒に箱型乾燥機内で110℃、1時間乾燥させた。その後、デシケーター内で30分放冷して、重量を測定した。この値からガラスシャーレの重量を引いたものを粒子粉末(又は該成形体)乾燥重量(A)とする。次に前記乾燥させた非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末(又は該成形体)を温度25℃、湿度80%に調整した恒温恒湿槽の中で1時間吸湿させ、重量を電子天秤で測定する。この値からガラスシャーレの重量を引いたものを粒子粉末(又は該成形体)吸湿重量(B)とする。粒子粉末(又は該成形体)重量あたりの水蒸気吸着量(g/g)は{(B)-(A)}/(A)の式で求められる。
【0067】
また本発明における非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末、及び該成形体の体積あたりの水蒸気吸着量(g/cm)は、前記重量あたりの水蒸気吸着量に嵩密度の値を掛けて求められる。
【0068】
また本発明における非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の熱重量・示差熱分析(TG-DTA)はEXSTAR7300((株)日立ハイテクサイエンス製)を用いた。
【0069】
実施例1:非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の製造
内容積800lの熟成反応容器中に、Siとして5.0mol/lの3号ケイ酸ナトリウム溶液120lを投入した後、Alとして2.0mol/lの硫酸アルミニウム溶液295lを添加・混合し(仕込みのSi/Al=1.02mol比)、つぎに6NのNaOH溶液をpH7.0になるまで滴下して、さらに水を加えて、熟成反応スラリー量を700lに調整した。
【0070】
上記スラリーを温度40℃で1時間撹拌して熟成反応を行った後にフィルタープレスを用いてろ過、水洗を行った。ろ液の電気伝導度が1mS/cm以下になるまで水洗した後に、フィルタープレスからケーキを取り出し、800lの容器に投入して水を加え、水熱反応スラリー量を600lとした。
【0071】
得られたスラリーを容積900lのオートクレーブに移送した後に170℃で7時間水熱反応させた。該反応後、スラリーを連続加圧式濃縮機で1mS/cm以下まで水洗した後、スラリーの体積が200lとなるまで濃縮した。
【0072】
上記濃縮スラリーの濃度は340g/lであり、該スラリー10kgを箱型乾燥機で110℃、24時間で乾燥させた。乾燥物を粉砕し目開き200μmの篩で分級して白色粒子粉末を得た。得られた白色粒子粉末は、BET比表面積が742m/g、粒状を呈した凝集粒子(平均凝集粒子径:140μm)であり、組成分析の結果、Si/Alモル比0.97、嵩密度(ρa)は0.51g/cmであった。図1に示すX線回折の結果、2θ=21°、26°、37°、40°、63°付近にブロードなピークとも読み取れるシグナルが得られている。これらはアルミノケイ酸塩や粘土鉱物に見られるピークと読み取れるかもしれないが、ピーク強度の低さから非晶質であることが分かる。以下実施例における粒子粉末はいずれも同程度の非晶質であった。
【0073】
実施例2~8、比較例1~4
原料混合時のSiとAlの総仕込み量(mol)、及び熟成・水熱反応時の反応スラリー量を実施例1と同様にして、その他、原料の種類、仕込み比率、熟成反応時の温度とpH、水熱反応時の温度と時間、水洗・濃縮後のスラリー濃度を変えて、アルミノケイ酸塩粒子粉末を生成した。このときの製造条件を表1に、得られたアルミノケイ酸塩粒子粉末の諸特性を表2に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
実施例6,8はそれぞれ、所定の濃度のスラリーを乾燥後、篩で整粒して得られた。比較例4は比較例2の粒子粉末を用いて樹脂を使わずに3.5mmに加圧成形したものであり、BET比表面積415m/g、嵩密度0.13g/cmの成形体であった。比較例4の水蒸気吸着量は0.23g/gであり、0.03g/cmと低いものであった。それぞれの成形体の耐圧強度は実施例6では3.4kgf、実施例8では6.3kgfなのに対して、比較例4は0.7kgfと低く、壊れやすいものであった。
【0077】
また、表2に示す通り、実施例1~8の非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末は重量当たりの水蒸気吸着量が0.4g/g以上と高いものであり、体積当たりの水蒸気吸着量も0.1g/cm以上と高いものであった。
【0078】
比較例5として、市販のA型ゼオライト粒子粉末(BET比表面積:11m/g、平均嵩密度:0.48g/cm、平均凝集粒子径:15μm)を用いた。実施例1と比較例5を25℃、湿度60%条件で1時間静置した後、熱重量・示差熱分析を行った。図2に示すように、重量変化は吸着水分量に該当するため、比較例5に比べ、実施例1の方が高い水分吸着量だと分かった。また、図3に示すように、吸着水の脱離による吸熱ピークは比較例5に比べ実施例1の方が低く、実施例1は、より低温で水分脱離が起こることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末は、従来に比べ単位体積あたりの水蒸気を初めとした極性ガス吸着性能が向上しており、容積が限定される状況での吸着剤、及び該吸着システムとして高い性能が発揮できる。
【0080】
得られた粒子粉末を成形体にして、或いは該粒子粉末を紙、繊維、及び樹脂と混ぜた素材とすることができる。前記粒子粉末、成形体、及び素材はカラム充填用の吸着剤や蓄熱剤の用途として高い性能を発揮する。
【0081】
また、本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末は、水蒸気吸着時の発熱を利用した蓄熱剤として、該蓄熱システムの小型化が期待できる。
図1
図2
図3