(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】ヒスチジンの測定方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/26 20060101AFI20220315BHJP
C12Q 1/527 20060101ALI20220315BHJP
C12N 9/02 20060101ALI20220315BHJP
C12N 9/88 20060101ALI20220315BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20220315BHJP
G01N 21/77 20060101ALI20220315BHJP
C07K 14/195 20060101ALN20220315BHJP
C12N 15/53 20060101ALN20220315BHJP
C12N 11/00 20060101ALN20220315BHJP
C12N 15/60 20060101ALN20220315BHJP
【FI】
C12Q1/26 ZNA
C12Q1/527
C12N9/02
C12N9/88
C12M1/34 E
G01N21/77 B
C07K14/195
C12N15/53
C12N11/00
C12N15/60
(21)【出願番号】P 2017176143
(22)【出願日】2017-09-13
【審査請求日】2020-06-05
(31)【優先権主張番号】P 2016179880
(32)【優先日】2016-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 浩輝
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-043131(JP,A)
【文献】特開2002-000264(JP,A)
【文献】特開2001-157579(JP,A)
【文献】PLOS ONE,2015年10月16日,10, 10,e0140716
【文献】PLOS ONE,2011年09月07日,6, 9,e24143
【文献】Levy H.,Histidinemia,Orphanet encyclopedia,2002年05月,1-5,URL: http://www.orpha.net/data/patho/GB/uk-HIS.pdf
【文献】Analytical Chemistry,1982年,54,217-220
【文献】Journal of Neurochemistry,1972年,19,1343-1358
【文献】Nippon Suisan Gakkaishi,2007年,73, 5,831-834
【文献】Talanta,2008年08月30日,77,1185-1190
【文献】Analytica Chimica Acta,2004年,505,189-193
【文献】Applied and Environmental Microbiology,2007年03月,73, 5,1467-1473
【文献】Histamine oxidase gene of Arthrobacter Crystallopoietes,UniProt Accession No. Q33BP9 [オンライン],2015年12月09日, [検索日 2021.3.4], インターネット<URL: https://ebi12.uniprot.org/uniprot/Q33BP9.txt?version=40>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/26
C12Q 1/527
C12N 9/02
C12N 9/88
C12M 1/34
G01N 21/77
C07K 14/195
C12N 15/09
C12N 11/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒスチジン脱炭酸酵素および4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素を用い、
ヒスチジン脱炭酸酵素が、以下の(A)、(B)および(C)からなる群より選ばれる1または2以上のタンパク質:
(A)配列番号3で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(B)配列番号3で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつヒスチジン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質;
(C)配列番号3で表されるアミノ酸配列において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくは挿入されているアミノ酸配列を含み、かつヒスチジン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質
であり、
4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素が、ヒスタミン脱水素酵素およびヒスタミン酸化酵素からなる群より選ばれる少なくとも1つであ
り、
被検試料にヒスチジン脱炭酸酵素を作用させ、前記ヒスチジン脱炭酸酵素の失活を行わずに、続いて4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素を作用させる、
被検試料中のヒスチジンの測定方法。
【請求項2】
ヒスチジン脱炭酸酵素がフォトバクテリウム属細菌に由来する、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
フォトバクテリウム属細菌がフォトバクテリウム・フォスフォリウムである、請求項
2に記載の方法。
【請求項4】
ヒスチジン脱炭酸酵素が形質転換体により産生される、請求項1~
3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
形質転換体は、以下の(a)、(b)、
および(c
))からなる群より選ばれる1または2以上のポリヌクレオチドを含む発現単位を含む宿主細胞である、請求項
4に記載の方法。
(a)配列番号1で表される塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号1で表される塩基配列の縮重変異体を含むポリヌクレオチド;
および
(c)配列番号1で表される塩基配列またはその縮重変異体と90%以上の同一性を有する塩基配列を含み、かつヒスチジン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
。
【請求項6】
ヒスタミン酸化酵素が、以下の(D)、(E)および(F)からなる群より選ばれる1または2以上のタンパク質である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の方法。
(D)配列番号8で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(E)配列番号8で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつヒスタミン酸化酵素活性を有するタンパク質;
(F)配列番号8で表されるアミノ酸配列において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくは挿入されているアミノ酸配列を含み、かつヒスタミン酸化酵素活性を有するタンパク質。
【請求項7】
ヒスタミン酸化酵素がアルスロバクター属細菌に由来する、請求項1~
6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
アルスロバクター属細菌がアルスロバクター・クリスタロポエテスである、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
ヒスタミン酸化酵素が形質転換体により産生される、請求項1~
8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
形質転換体は、以下の(e)、(f)、
および(g
)からなる群より選ばれる1または2以上のポリヌクレオチドを含む発現単位を含む宿主細胞である、請求項
9に記載の方法。
(e)配列番号6で表される塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(f)配列番号6で表される塩基配列の縮重変異体を含むポリヌクレオチド;
および
(g)配列番号6で表される塩基配列またはその縮重変異体と90%以上の同一性を有する塩基配列を含み、かつヒスタミン酸化酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
。
【請求項11】
ヒスチジン脱炭酸酵素および4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素を作用させた後の被検試料中の4-イミダゾリルアセトアルデヒド、還元型電子供与体、アンモニアおよび過酸化水素からなる群より選ばれる少なくとも1つを測定する、請求項1~
10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
ヒスチジン脱炭酸酵素および4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素を含む、
請求項1~10のいずれか1項に記載の方法を実施するための、ヒスチジン測定用キット。
【請求項13】
反応用緩衝液または緩衝塩、4-イミダゾリルアセトアルデヒド検出試薬、過酸化水素検出試薬、アンモニア検出試薬および還元型電子供与体試薬の少なくとも一つをさらに含む、請求項
12に記載のキット。
【請求項14】
デバイス、ヒスチジン脱炭酸酵素および4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素を含む、
請求項1~10のいずれか1項に記載の方法による、ヒスチジン測定用検出系。
【請求項15】
反応用緩衝液または緩衝塩、4-イミダゾリルアセトアルデヒド検出試薬、過酸化水素検出試薬、アンモニア検出試薬および還元型電子供与体検出試薬の少なくとも一つをさらに含み、かつデバイスがマイクロ流路チップである、請求項
14に記載の検出系。
【請求項16】
検出用電極、および検出用電極に固定または配置された、ヒスチジン脱炭酸酵素および4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素を含む、
請求項1~10のいずれか1項に記載の方法を実施するための、ヒスチジン測定用酵素センサー。
【請求項17】
請求項1~
11のいずれか1項に記載の方法により被検試料中のヒスチジンの量を測定し、前記ヒスチジンの量が基準量よりも低ければ被験者は潰瘍性大腸炎または心臓悪液質、生活習慣病またはがん
の罹患
リスクが高いと
予測し、被検試料中のヒスチジンの量が基準量よりも高ければ被検者はヒスチジン血症
の罹患
リスクが高いと
予測する、潰瘍性大腸炎、心臓悪液質、生活習慣病、がんまたはヒスチジン血症の
罹患リスクの予測方法。
【請求項18】
請求項1~
11のいずれか1項に記載の方法により潰瘍性大腸炎の寛解期にある被検者の被検試料中のヒスチジンの量を測定し、前記ヒスチジンの量が基準量よりも低ければ被験者は炎症性腸疾患の再燃リスクが高いと
予測し、被検試料中のヒスチジンの量が基準量よりも高ければ被検者は再燃リスクが低いと
予測する、潰瘍性大腸炎の
罹患リスクの予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒスチジンの測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アミノ酸は生体の構成要素として非常に重要であり、幾つかのアミノ酸が健康状態の指標となり得ることが知られている。例えばヒスチジンは、クローン病、潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患、ヒスチジン血症、心臓悪液質、がん、生活習慣病のバイオマーカーであることが知られている(例えば、特許文献1、非特許文献1~5)。アミノ酸の測定方法としては、アミノ酸アナライザー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)やLC-MSなどの機器を用いた方法、蛍光分析法(例えば、特許文献2)、ガラクトースオキシダーゼを用いる方法(例えば、非特許文献6)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/056631号
【文献】特開2001-242174号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】Levy H(2004)"Histidinemia"Orphanet
【文献】Kawai Y,et al."Molecular characterization of histidinemia:identification of four missense mutations in the histidase gene" Hum Genet.116,340‐346,2005
【文献】櫻林郁之介、熊坂一成監修(2008)最新臨床検査項目辞典 医歯薬出版株式会社,pp.205
【文献】Hisamatsu T,et al.PLoS One.2012;7(1)
【文献】Miyagi Y,et al.PLoS One.2011;6(9):e24143
【文献】Hasebe Y, et al.Sensors and Actuators B 66 (2000) 12-15
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の方法では大型で高価な機器を使う必要があり、しかも機器の維持とオペレーションに専門知識と習熟を必要とするため、導入、維持、利用に高額のコストを必要とする。また、原理上、各検体をシーケンシャルに分析する必要があるため、多検体を分析する際には長時間を必要とする。ガラクトースオキシダーゼを用いる方法(非特許文献6)によれば簡単にヒスチジンを測定できるとされているが、生体試料中のガラクトースの影響を受けることやヒスタミンに対しても反応を示すことから生体試料中のヒスチジンを特異的に測定する点においては不適である。
【0006】
本発明は、実用化に適したヒスチジンの測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の発明を提供する。
〔1〕ヒスチジン脱炭酸酵素および4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素を用いる、被検試料中のヒスチジンの測定方法。
〔2〕被検試料にヒスチジン脱炭酸酵素を作用させ、続いて4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素を作用させる、〔1〕に記載の方法。
〔3〕4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素が、ヒスタミン脱水素酵素およびヒスタミン酸化酵素からなる群より選ばれる少なくとも1つである、〔1〕または〔2〕に記載の方法。
〔4〕ヒスチジン脱炭酸酵素が、以下の(A)、(B)および(C)からなる群より選ばれる1または2以上のタンパク質である、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の方法。
(A)配列番号3で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(B)配列番号3で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつヒスチジン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質;
(C)配列番号3で表されるアミノ酸配列において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくは挿入されているアミノ酸配列を含み、かつヒスチジン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質。
〔5〕ヒスチジン脱炭酸酵素がフォトバクテリウム属細菌に由来する、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の方法。
〔6〕フォトバクテリウム属細菌がフォトバクテリウム・フォスフォリウムである、〔5〕に記載の方法。
〔7〕ヒスチジン脱炭酸酵素を産生する形質転換体を用いる、〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の方法。
〔8〕形質転換体は、以下の(a)、(b)、(c)および(d)からなる群より選ばれる1または2以上のポリヌクレオチドを含む発現単位を含む宿主細胞である、〔7〕に記載の方法。
(a)配列番号1で表される塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号1で表される塩基配列の縮重変異体を含むポリヌクレオチド;
(c)配列番号1で表される塩基配列またはその縮重変異体と90%以上の同一性を有する塩基配列を含み、かつヒスチジン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;および
(d)配列番号1で表される塩基配列またはその縮重変異体と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつヒスチジン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
〔9〕宿主がエシェリヒア属細菌である、〔8〕に記載の方法。
〔10〕宿主がエシェリヒア・コリである、〔8〕または〔9〕に記載の方法。
〔11〕ヒスタミン酸化酵素が、以下の(D)、(E)および(F)からなる群より選ばれる1または2以上のタンパク質である、〔3〕~〔10〕のいずれか1項に記載の方法。
(D)配列番号8で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(E)配列番号8で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつヒスタミン酸化酵素活性を有するタンパク質;
(F)配列番号8で表されるアミノ酸配列において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくは挿入されているアミノ酸配列を含み、かつヒスタミン酸化酵素活性を有するタンパク質。
〔12〕ヒスタミン酸化酵素がアルスロバクター属細菌に由来する、〔3〕~〔10〕のいずれか1項に記載の方法。
〔13〕アルスロバクター属細菌がアルスロバクター・クリスタロポエテスである、〔12〕に記載の方法。
〔14〕ヒスタミン酸化酵素が形質転換体により産生される、〔3〕~〔10〕のいずれか1項に記載の方法。
〔15〕形質転換体は、以下の(e)、(f)、(g)および(h)からなる群より選ばれる1または2以上のポリヌクレオチドを含む発現単位を含む宿主細胞である、〔14〕に記載の方法。
(e)配列番号6で表される塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(f)配列番号6で表される塩基配列の縮重変異体を含むポリヌクレオチド;
(g)配列番号6で表される塩基配列またはその縮重変異体と90%以上の同一性を有する塩基配列を含み、かつヒスタミン酸化酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;および
(h)配列番号6で表される塩基配列またはその縮重変異体と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつヒスタミン酸化酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
〔16〕宿主がエシェリヒア属細菌である、〔15〕に記載の方法。
〔17〕宿主がエシェリヒア・コリである、〔15〕または〔16〕に記載の方法。
〔18〕ヒスチジン脱炭酸酵素および4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素を作用させた後の被検試料中の4-イミダゾリルアセトアルデヒド、還元型電子供与体、アンモニアおよび過酸化水素からなる群より選ばれる少なくとも1つを測定する、〔1〕~〔17〕のいずれか1項に記載の方法。
〔19〕ヒスチジン脱炭酸酵素および4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素を含む、ヒスチジン測定用キット。
〔20〕反応用緩衝液または緩衝塩、4-イミダゾリルアセトアルデヒド検出試薬、過酸化水素検出試薬、アンモニア検出試薬および還元型電子供与体試薬の少なくとも一つをさらに含む、〔19〕に記載のキット。
〔21〕デバイス、ヒスチジン脱炭酸酵素および4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素を含む、ヒスチジン測定用検出系。
〔22〕反応用緩衝液または緩衝塩、4-イミダゾリルアセトアルデヒド検出試薬、過酸化水素検出試薬、アンモニア検出試薬および還元型電子供与体検出試薬の少なくとも一つをさらに含み、かつデバイスがマイクロ流路チップである、〔21〕に記載の検出系。
〔23〕検出用電極、および検出用電極に固定または配置された、ヒスチジン脱炭酸酵素および4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素を含む、ヒスタミン測定用酵素センサー 。
〔24〕〔1〕~〔17〕のいずれか1項に記載の方法により測定された被検試料中のヒスタミンの量が基準量よりも低ければ被験者は潰瘍性大腸炎または心臓悪液質、生活習慣病またはがんに罹患していると判定し、被検試料中のヒスタミンの量が基準量よりも高ければ被検者はヒスタミン血症に罹患していると判定する、潰瘍性大腸炎、心臓悪液質、生活習慣病、がんまたはヒスチジン血症の判定方法。
〔25〕〔1〕~〔17〕のいずれか1項に記載の方法により測定された潰瘍性大腸炎の寛解期にある被検者の被検試料中のヒスタミンの量が基準量よりも低ければ被験者は炎症性腸疾患の再燃リスクが高いと判定し、被検試料中のヒスタミンの量が基準量よりも高ければ被検者は再燃リスクが低いと判定する、潰瘍性大腸炎の判定方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ヒスチジンを正確に、短時間で、簡便に、かつ安価に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、ヒスチジン脱炭酸酵素(HisDC)とヒスチジンを反応させた後にヒスタミン酸化酵素(HOX)を加えた際の各濃度のヒスチジンに対する検量線である。
【
図2】
図2は、HisDCとヒスチジンおよびヒスタミン脱水素酵素を同時に加えた際の各濃度のヒスチジンに対する検量線である。
【
図3】
図3は、ヒスチジン測定時の吸光度の値を100とした際の各アミノ酸に対する比活性を示すグラフである。
【
図4】
図4は、HisDC及びHOXを用いて求めたヒト血漿中のヒスチジン定量値と他機器の定量値をそれぞれ示すグラフである。
【
図5】
図5は、HisDCとヒスチジンを反応させた後にHOXを加えた際の各濃度のヒスチジンに対する検量線である。
【
図6】
図6は、HisDC及びHOXを用いて求めたヒト血漿中のヒスチジン定量値と他機器の定量値をそれぞれ示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明においては、被検試料中のヒスチジンの測定にあたり、ヒスチジン脱炭酸酵素および4-イミダゾールアセトアルデヒド生成酵素を用いる。通常は、被検試料にヒスチジン脱炭酸酵素を作用させ、続いて4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素を作用させる。
【0011】
ヒスチジン脱炭酸酵素(histidine decarboxylase;HisDC;EC 4.1.1.22)は、ヒスチジンをヒスタミンに転換する酵素である。ヒスチジン脱炭酸酵素は、ヒスチジンに特異的に作用することが好ましく、また、中性付近で活性を示すことが好ましい。さらに、補助タンパク質を必要としないことが好ましい。
【0012】
4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素とは、ヒスタミンから4-イミダゾリルアセトアルデヒドを生成する酵素であり、例えば、ヒスタミン脱水素酵素およびヒスタミン酸化酵素が挙げられる。ヒスタミン脱水素酵素(Histamine dehydrogenase;HisDH;EC 1.4.99)は、ヒスタミンから4-イミダゾリルアセトアルデヒドを生じる酵素であり、好ましくは、ヒスタミンを受容体の存在下酸化的脱アミノ反応により4-イミダゾリルアセトアルデヒドに転換する酵素である。ヒスタミン酸化酵素(Histamine oxydase;EC 1.4.3.22)は、ヒスタミンと水と酸素から4-イミダゾリルアセトアルデヒドを生成する酵素である。ヒスタミン脱水素酵素としては、ヒスタミンに特異的に作用する(例えば、カダベリン、プトレッシンなど他のアミンに実質的に作用しない)ヒスタミン脱水素酵素が好ましい。ヒスタミン酸化酵素はヒスタミンに特異的に作用する(例えば、トリプトファン、アルギニン、プロリンなど他のアミノ酸に実質的に作用しない)ヒスタミン酸化酵素が好ましい。
【0013】
各酵素は、上記活性を発揮し得る酵素であれば特に限定されない。ヒスチジン脱炭酸酵素としては例えば、フォトバクテリウム属細菌(例えば、フォトバクテリウム・フォスフォリウム(Photobacterium phosphoreum)、フォトバクテリウム・ダムセラ(Photobacterium damsela))、モルガネラ属細菌(例えば、Morganella morganii)、クレブシエラ属細菌(例えば、Klebsiella oxytoca)、ストレプトコッカス属細菌(例えば、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophiles))、ラクトバチルス属細菌(例えば、ラクトバチルス30a(Lactobacillus 30a)、ラクトバチルス・サエリムネリ(Lactobacillus saerimneri)、ラクトバチルス・ヒルガルディ(Lactobacillus hilgardii)、ラクトバチルス・ブチネリ(Lactobacillus buchneri))、オエノコッカス属細菌(例えば、オエノコッカス・オエニ(Oenococcus oeni))、テトラゲノコッカス属細菌(例えば、テトラゲノコッカス・ムリアティクス(Tetragenococcus muriaticus)、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)等)、クロストリジウム属細菌(例えば、クロストリジウム・パーフリンゲンス(Clostridium perfringens)等)、マイクロコッカス属細菌(例えば、マイクロコッカス・エスピー(Micrococcus sp.)等)、スタフィロコッカス属細菌(例えば、スタフィロコッカス・キャピティス(Staphylococcus capitis)等)、ラオウルテラ属細菌(例えば、ラオウルテラ・プランティコラ(Raoultella planticola)等)、エンテロバクター属細菌(例えば、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes))等の細菌(Molecular Microbiology(2011)79(4),861-871、J Appl Microbiol.2008 104(1):194-203)に由来するヒスチジン脱炭酸酵素が挙げられる。前記細菌のうち、フォトバクテリウム属細菌が好ましく、フォトバクテリウム・フォスフォリウムがより好ましい。
【0014】
ヒスタミン脱水素酵素としては、例えば、特許第3782621号公報に記載のヒスタミン脱水素酵素;キッコーマンバイオケミファ株式会社製臨床診断薬用酵素「ヒスタミンデヒドロゲナーゼ」;ノカルディオイデス属細菌(例えば、ノカルディオイデス・シンプレックス(Nocardioides simplex)等)、アルスロバクター属細菌(例えば、アルスロバクター・グロビフォルミス(Arthrobacter globiformis)等)など細菌由来のヒスタミン脱水素酵素(FEMS Microbiology Letters 189(2000)183-187);アミンデヒドロゲナーゼ(EC 1.4.2)のうちヒスタミンに作用するものが挙げられる。アミンデヒドロゲナーゼとしては例えば、シュードモナス属細菌(例えば、シュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・アエルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、シトロバクター属細菌(例えば、シトロバクター・フレウンディ(Citrobacter freundii)、アルカリゲネス属細菌(例えば、アルカリゲネス・ファエカリス(Alcaligenes faecalis))が挙げられる。
【0015】
ヒスタミン酸化酵素としては、例えば、アルスロバクター属細菌(例えば、アルスロバクター・クリスタロポイデス(Arthrobacter crystallopoietes:Talanta 77(2009)1185-1190)、アルスロバクター・グロビフォルミス(Arthrobacter globiformis:J Biosci Bioeng.97(2004):104-10)等)、アスペルギルス属細菌(例えば、アスペルギルス・ニガー(Aspergillius niger:J Biosci Bioeng.97(2004):104-10)等)、アルカリゲネス・キシロソキシダンス(Alcaligenes xylosoxidans:特開2003-61650号公報等)等の細菌由来のヒスタミン酸化酵素が挙げられる。
【0016】
各酵素は、各酵素活性を有するタンパク質であればよい。以下、ヒスチジン脱炭酸酵素のタンパク質及びヒスタミン酸化酵素を例にとって順に説明する。
【0017】
[ヒスチジン脱炭酸酵素のタンパク質]
ヒスチジン脱炭酸酵素のタンパク質の例としては、以下の(A)のタンパク質が挙げられる:(A)配列番号3で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質。(A)のタンパク質は、フォトバクテリウム・フォスフォリウム由来のヒスチジン脱炭酸酵素である。
【0018】
ヒスチジン脱炭酸酵素のタンパク質の他の例としては、(A)のタンパク質に相同のタンパク質が挙げられ、以下の(B)のタンパク質が好ましい:
(B)配列番号3で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつヒスチジン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質。
【0019】
アミノ酸配列との同一性%は、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%以上であってもよい。
【0020】
上述したアミノ酸配列および後述する塩基配列の相同性(即ち、同一性または類似性)は、例えばKarlinおよびAltschulによるアルゴリズムBLAST(Pro.Natl.Acad.Sci.USA,90,5873(1993))、PearsonによるFASTA(MethodsEnzymol.,183,63(1990))を用いて決定することができる。このアルゴリズムBLASTに基づいて、BLASTP、BLASTNとよばれるプログラムが開発されているので(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/参照)、これらのプログラムをデフォルト設定で用いて、相同性を計算してもよい。また、相同性としては、例えば、Lipman-Pearson法を採用している株式会社ゼネティックスのソフトウェアGENETYX Ver7.0.9を使用し、ORFにコードされるポリペプチド部分全長を用いて、Unit Size to Compare=2の設定でSimilarityをpercentage計算させた際の数値を用いてもよい。あるいは、相同性は、NEEDLEプログラム(J Mol Biol 1970;48:443-453)検索において、デフォルト設定のパラメータ(Gap penalty=10、Extend penalty=0.5、Matrix=EBLOSUM62)を用いて得られた値(Identity)であってもよい。相同性として、これらの計算で導き出される値のうち、最も低い値を採用してもよい。
【0021】
ヒスチジン脱炭酸酵素のタンパク質のさらに他の例としては、(A)のタンパク質の改変タンパク質が挙げられ、以下の(C)のタンパク質が好ましい:
(C)配列番号3で表されるアミノ酸配列において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくは挿入されているアミノ酸配列を含み、かつヒスチジン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質。
【0022】
上記タンパク質では、アミノ酸残基の欠失、置換、付加および挿入からなる群より選ばれる1、2、3または4種の変異により、1個または数個のアミノ酸残基が改変され得る。アミノ酸残基の変異は、アミノ酸配列中の1つの領域に導入されてもよいが、複数の異なる領域に導入されてもよい。用語「1個または数個」は、タンパク質の活性を大きく損なわない個数を示す。用語「1個または数個」が示す数は、例えば、1~100個、好ましくは1~80個、より好ましくは1~50個、1~30個、1~20個、1~10個または1~5個(例、1個、2個、3個、4個、または5個)である。
【0023】
置換、欠失、挿入、付加等の変異の対象であるアミノ酸残基は、通常は天然のL-α-アミノ酸である、L-アラニン(A)、L-アスパラギン(N)、L-システイン(C)、L-グルタミン(Q)、L-イソロイシン(I)、L-ロイシン(L)、L-メチオニン(M)、L-フェニルアラニン(F)、L-プロリン(P)、L-セリン(S)、L-スレオニン(T)、L-トリプトファン(W)、L-チロシン(Y)、L-バリン(V)、L-アスパラギン酸(D)、L-グルタミン酸(E)、L-アルギニン(R)、L-ヒスチジン(H)、またはL-リジン(K)、あるいはグリシン(G)である。変異が置換、付加または挿入である場合、置換、付加または挿入されるアミノ酸残基は、上述した変異されるアミノ酸残基と同様である。以下、アミノ酸の表記について、Lおよびαを省略することがある。
【0024】
配列番号3のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列、および配列番号3で表されるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列の調製のため、配列番号3で表されるアミノ酸配列に対して変異が導入され得るアミノ酸残基の位置は、当業者に明らかであり、例えば、アミノ酸配列のアライメントを参考にして変異を導入することができる。具体的には、当業者は、1)複数のホモログのアミノ酸配列(例えば、配列番号3で表されるアミノ酸配列、および他のホモログのアミノ酸配列)を比較し、2)相対的に保存されている領域、および相対的に保存されていない領域を明らかにし、次いで、3)相対的に保存されている領域および相対的に保存されていない領域から、それぞれ、機能に重要な役割を果たし得る領域および機能に重要な役割を果たし得ない領域を予測できるので、構造・機能の相関性を認識できる。したがって、当業者は、配列番号3のアミノ酸配列において、変異導入後のアミノ酸配列のヒスチジン脱炭酸酵素活性等を向上させるような、1以上のアミノ酸残基の変異が導入されるアミノ酸配列を決定することができる。
【0025】
配列番号3で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列、および配列番号3で表されるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列の調製のため、配列番号3で表されるアミノ酸配列に対してアミノ酸残基の変異が導入され、かつ当該アミノ酸残基の変異が置換である場合、アミノ酸残基のこのような置換は、保存的置換であってもよい。本明細書において用語「保存的置換」とは、所定のアミノ酸残基を、類似の側鎖を有するアミノ酸残基で置換することをいう。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当該分野で周知である。例えば、このようなファミリーとしては、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電性極性側鎖を有するアミノ酸(例、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖を有するアミノ酸(例、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β位分岐側鎖を有するアミノ酸(例、スレオニン、バリン、イソロイシン)、芳香族側鎖を有するアミノ酸(例、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)、ヒドロキシル基(例、アルコール性、フェノール性)含有側鎖を有するアミノ酸(例、セリン、スレオニン、チロシン)、および硫黄含有側鎖を有するアミノ酸(例、システイン、メチオニン)が挙げられる。非荷電性極性側鎖を有するアミノ酸および非極性側鎖を有するアミノ酸を包括的に、中性アミノ酸と呼称することがある。好ましくは、アミノ酸の保存的置換は、アスパラギン酸とグルタミン酸との間での置換、アルギニンとリジンとヒスチジンとの間での置換、トリプトファンとフェニルアラニンとの間での置換、フェニルアラニンとバリンとの間での置換、ロイシンとイソロイシンとアラニンとの間での置換、およびグリシンとアラニンとの間での置換であってもよい。
【0026】
(B)および(C)のタンパク質は、同一条件で測定された場合、上記(A)のタンパク質のヒスチジン脱炭酸酵素活性の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上または95%以上の活性を有することが好ましい。
【0027】
ヒスチジン脱炭酸酵素のタンパク質は、異種部分とペプチド結合を介して連結された融合タンパク質であってもよい。このような異種部分としては、例えば、目的タンパク質の精製を容易にするペプチド成分(例、ヒスチジンタグ、Strep-tag II等のタグ部分;グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、マルトース結合タンパク質等の目的タンパク質の精製に利用されるタンパク質)、目的タンパク質の可溶性を向上させるペプチド成分(例、Nus-tag)、シャペロンとして働くペプチド成分(例、トリガーファクター)、他の機能を有するペプチド成分(例、全長タンパク質またはその一部)、ならびにリンカーが挙げられる。
【0028】
ヒスチジン脱炭酸酵素のタンパク質はまた、当該タンパク質の産生が所望される宿主細胞の種類に応じて、翻訳後修飾(例、グリコシル化)タンパク質、または翻訳後非修飾(例、非グリコシル化)タンパク質であってもよい。原核生物では、タンパク質が翻訳後修飾されないこと、ならびに動物細胞、植物細胞、昆虫細胞(例、Sf9細胞)、および下等真核生物(例、酵母)では、タンパク質の翻訳後修飾が大きく異なることが一般に知られている〔例、Bretthauer et al.,Biotechnol.Appl.Biochem.(1999),30(19),3-200を参照〕。したがって、天然で植物細胞に由来するタンパク質を、このような異種宿主細胞で産生させた場合、天然では生じ得ない、翻訳後非修飾タンパク質、または異なる翻訳後修飾を有するタンパク質を入手し得ると考えられる。
【0029】
上述したようなヒスチジン脱炭酸酵素のタンパク質としては、例えば、フォトバクテリウム・フォスフォリウムに由来するタンパク質、天然に生じるそのホモログ、または人為的に作出された変異タンパク質が挙げられる。変異タンパク質は、例えば、目的タンパク質をコードするDNAに変異を導入し、得られた変異DNAを用いて変異タンパク質を産生させることにより、得ることができる。変異導入法としては、例えば、部位特異的変異導入、ならびに無作為変異導入処理(例、変異剤による処理、および紫外線照射)が挙げられる。
【0030】
[ヒスタミン酸化酵素のタンパク質]
ヒスタミン酸化酵素のタンパク質の例としては、以下の(D)のタンパク質が挙げられる:(D)配列番号8で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質。(D)のタンパク質は、アルスロバクター・クリスタロポイデス由来のヒスタミン酸化酵素である。
【0031】
ヒスタミン酸化酵素のタンパク質の他の例としては、(D)のタンパク質に相同のタンパク質が挙げられ、以下の(E)のタンパク質が好ましい:
(E)配列番号8で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつヒスタミン酸化酵素活性を有するタンパク質。
アミノ酸配列との同一性%、配列の相同性の決定方法の各例及び好ましい例は、ヒスチジン脱炭酸酵素のタンパク質について既に述べたものと同様である。
【0032】
ヒスタミン酸化酵素のタンパク質のさらに他の例としては、(D)のタンパク質の改変タンパク質が挙げられ、以下の(F)のタンパク質が好ましい:
(F)配列番号8で表されるアミノ酸配列において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくは挿入されているアミノ酸配列を含み、かつヒスタミン酸化酵素活性を有するタンパク質。
変異(欠失、置換、付加及び挿入)の個数、導入部位、変異の対象であるアミノ酸残基の種類、導入位置の選定、の各例及び好ましい例は、ヒスチジン脱炭酸酵素のタンパク質の説明について既に述べたものと同様である。
【0033】
(E)および(F)のタンパク質は、同一条件で測定された場合、上記(D)のタンパク質のヒスタミン酸化酵素活性の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上または95%以上の活性を有することが好ましい。
【0034】
ヒスタミン酸化酵素のタンパク質は、異種部分とペプチド結合を介して連結された融合タンパク質であってもよいし、当該タンパク質の産生が所望される宿主細胞の種類に応じて、翻訳後修飾(例、グリコシル化)タンパク質、または翻訳後非修飾(例、非グリコシル化)タンパク質であってもよい。異種部分の例は、ヒスチジン脱炭酸酵素のタンパク質の説明について既に述べたものと同様である。
【0035】
上述したようなヒスタミン酸化酵素のタンパク質としては、例えば、アルスロバクター・クリスタロポイデスに由来するタンパク質、天然に生じるそのホモログ、または人為的に作出された変異タンパク質が挙げられる。変異タンパク質は、例えば、目的タンパク質をコードするDNAに変異を導入し、得られた変異DNAを用いて変異タンパク質を産生させることにより、得ることができる。変異導入法としては、例えば、部位特異的変異導入、ならびに無作為変異導入処理(例、変異剤による処理、および紫外線照射)が挙げられる。
【0036】
本発明において、ヒスチジン脱炭酸酵素および4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素としては、それぞれ天然タンパク質または組換えタンパク質を利用することができる。組換えタンパク質は、例えば、無細胞系ベクターを用いて、または各酵素を産生する形質転換体から得ることができる。また、本発明において、各酵素自体を用いてもよいが、ヒスチジン脱炭酸酵素を産生する形質転換体、または4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素を産生する形質転換体を用いてもよい。
【0037】
ヒスチジン脱炭酸酵素を産生する形質転換体は、ヒスチジン脱炭酸酵素を産生できる、またはヒスチジン脱炭酸酵素をコードするポリヌクレオチドを発現してヒスチジン脱炭酸酵素を産生できる宿主細胞であり、例えば、ヒスチジン脱炭酸酵素をコードするポリヌクレオチドを含む発現単位を含む宿主細胞である。4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素を産生する形質転換体は、斯かる酵素を産生できる、または斯かる酵素をコードするポリヌクレオチドを発現して斯かる酵素を産生できる宿主細胞であり、例えば、4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素をコードするポリヌクレオチドを含む発現単位を含む宿主細胞である。以下、形質転換体についてヒスチジン脱炭酸酵素及びヒスタミン酸化酵素を例にとって順に説明する。
【0038】
[ヒスチジン脱炭酸酵素をコードするポリヌクレオチド]
ヒスチジン脱炭酸酵素をコードするポリヌクレオチドとしては例えば、上記した(A)~(C)のタンパク質をコードするポリヌクレオチドが挙げられ、以下に述べるポリヌクレオチドが好ましい。
【0039】
ヒスチジン脱炭酸酵素をコードするポリヌクレオチドの例としては、(a)配列番号1の塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。配列番号1の塩基配列は、配列番号3のアミノ酸配列をコードする。配列番号1の塩基配列は、cDNAに対応する。なぜならば、(a)のポリヌクレオチドは、原核生物であるフォトバクテリウム・フォスフォリウムに由来するためである。したがって、(a)のポリヌクレオチド、ならびに後述する(b)~(d)のポリヌクレオチドは、天然に生じるポリヌクレオチドではない。
【0040】
本明細書中で用いられる場合、用語「開始コドン」とは、タンパク質の合成開始を指定するコドンをいう。開始コドンとしては、例えば、メチオニン残基をコードするコドン(例、AUG)、バリン残基をコードするコドン(例、GUG)、イソロイシン残基をコードするコドン(例、AUA)、およびロイシン残基をコードするコドン(例、UUG)が挙げられるが、メチオニン残基をコードするコドン(例、AUG)が好ましい。本発明のポリヌクレオチドがRNAの場合、上記のとおりヌクレオチド残基「U」が利用されるべきであるが、本発明のポリヌクレオチドがDNAの場合、ヌクレオチド残基「U」の代わりに「T」が利用されるべきである。
【0041】
ヒスチジン脱炭酸酵素をコードするポリヌクレオチドのさらにまた他の例としては、縮重ポリヌクレオチドが挙げられ、以下の(b)のポリヌクレオチドが好ましい:
(b)(a)のポリヌクレオチドの縮重変異体を含むポリヌクレオチド。
【0042】
本明細書中で用いられる場合、用語「縮重変異体」とは、変異前のポリヌクレオチド中の所定のアミノ酸残基をコードする少なくとも1つのコドンが、同一アミノ酸残基をコードする別のコドンに変更されたポリヌクレオチド変異体をいう。このような縮重変異体はサイレント変異に基づく変異体であることから、縮重変異体によりコードされるタンパク質は、変異前のポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質と同一である。
【0043】
好ましくは、縮重変異体は、それが導入されるべき宿主細胞のコドン使用頻度に適合するようにコドンが変更されたポリヌクレオチド変異体である。ある遺伝子を異種宿主細胞(例、微生物)で発現させる場合、コドン使用頻度の相違により、対応するtRNA分子種が十分に供給されず、翻訳効率の低下および/または不正確な翻訳(例、翻訳の停止)が生じることがある。例えば、エシェリヒア・コリでは、表1に示される低頻度コドンが知られている。
【0044】
【0045】
したがって、本発明では、後述するような宿主細胞(例、微生物)のコドン使用頻度に適合する縮重変異体を利用することができる。例えば、縮重変異体は、アルギニン残基、グリシン残基、イソロイシン残基、ロイシン残基、およびプロリン残基からなる群より選ばれる1種以上のアミノ酸残基をコードするコドンが変更されたものであってもよい。より具体的には、本発明の縮重変異体は、低頻度コドン(例、AGG、AGA、CGG、CGA、GGA、AUA、CUA、およびCCC)からなる群より選ばれる1種以上のコドンが変更されたものであってもよい。好ましくは、縮重変異体は、以下からなる群より選ばれる1種以上(例、1種、2種、3種、4種、または5種)のコドンの変更を含んでいてもよい:
i)Argをコードする4種のコドン(AGG、AGA、CGG、およびCGA)からなる群より選ばれる少なくとも1種のコドンの、Argをコードする別のコドン(CGU、またはCGC)への変更;
ii)Glyをコードする1種のコドン(GGA)の、別のコドン(GGG、GGU、またはGGC)への変更;
iii)Ileをコードする1種のコドン(AUA)の、別のコドン(AUU、またはAUC)への変更;
iv)Leuをコードする1種のコドン(CUA)の、別のコドン(UUG、UUA、CUG、CUU、またはCUC)への変更;ならびに
v)Proをコードする1種のコドン(CCC)の、別のコドン(CCG、CCA、またはCCU)への変更。
【0046】
縮重変異体がRNAの場合、上記のとおりヌクレオチド残基「U」が利用されるべきであるが、縮重変異体がDNAの場合、ヌクレオチド残基「U」の代わりに「T」が利用されるべきである。宿主細胞のコドン使用頻度に適合させるためのヌクレオチド残基の変異数は、変異前後で同一のタンパク質をコードする限り特に限定されないが、例えば、1~500個、1~400個、1~300個、1~200個、または1~100個である。
【0047】
低頻度コドンの同定は、当該分野で既知の技術を利用することにより、任意の宿主細胞の種類およびゲノム配列情報に基づいて容易に行うことができる。したがって、縮重変異体は、低頻度コドンの非低頻度コドン(例、高頻度コドン)への変更を含むものであってもよい。また、低頻度コドンのみならず、生産菌株のゲノムGC含量への適合性などの要素を考慮して変異体を設計する方法が知られているので(Alan Villalobos et al., Gene Designer: a synthetic biology tool for constructing artificial DNA segments, BMC Bioinformatics. 2006 Jun 6;7:285.)、このような方法を利用してもよい。このように、上述の変異体は、それが導入され得る任意の宿主細胞(例、後述するような微生物)の種類に応じて適宜作製できるが、例えば、異種タンパク質の発酵生産に汎用される宿主細胞の種類に適合するように作製されてもよい。異種タンパク質の発酵生産に汎用される宿主細胞としては、例えば、後述する任意の微生物が挙げられるが、細菌および酵母が好ましい。このような細菌および酵母としては、例えば、枯草菌(Bacillus subtilis)等のバシラス(Bacillus)属細菌、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)等のコリネバクテリウム(Corynebacterium)属細菌、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)等のエシェリヒア(Escherichia)属細菌、パントエア・アナナティス(Pantoea ananatis)等のパントエア(Pantoea)属細菌、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)等のエンテロバクター(Enterobacter)属細菌、ならびにサッカロミセス・セレビシエー(Saccharomyces cerevisiae)等のサッカロミセス(Saccharomyces)属、およびシゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等のシゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属の酵母が挙げられる。したがって、このような微生物(例、細菌、酵母)における低頻度コドンの非低頻度コドンへの変更、およびゲノムGC含量適合性等の要素の考慮が好ましい。
(b)のポリヌクレオチドとしては、配列番号2で表される塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。配列番号2で表される塩基配列は、配列番号1で表される塩基配列の縮重変異体であり、配列番号1におけるコドンが大腸菌での発現を考慮して改変された塩基配列である。
【0048】
ヒスチジン脱炭酸酵素をコードするポリヌクレオチドの他の例としては、配列番号1で表されるポリヌクレオチドまたはその縮重変異体の相同ポリヌクレオチドが挙げられ、以下の(c)のポリヌクレオチドが好ましい:
(c)配列番号1で表される塩基配列またはその縮重変異体(好ましくは配列番号2で表される塩基配列)と90%以上の同一性を有する塩基配列を含み、かつヒスチジン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【0049】
塩基配列との同一性%は、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%以上であってもよい。
【0050】
ヒスチジン脱炭酸酵素をコードするポリヌクレオチドのさらに他の例としては、配列番号1で表されるポリヌクレオチドまたはその縮重変異体のアナログポリヌクレオチドが挙げられ、以下の(d)のポリヌクレオチドが好ましい:
(d)配列番号1で表される塩基配列またはその縮重変異体(好ましくは配列番号2で表される塩基配列)と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつヒスチジン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【0051】
本明細書中で用いられる場合、用語「ストリンジェント条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、ストリンジェント条件としては、6×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)中、約45℃でのハイブリダイゼーション、続いて、0.2×SSC、0.1%SDS中、50~65℃での1または2回以上の洗浄が挙げられる。
【0052】
ヒスチジン脱炭酸酵素をコードするポリヌクレオチドを含む発現単位とは、当該ポリヌクレオチドおよびそれに作動可能に連結されたプロモーター(例、同種プロモーター、異種プロモーター)を含む、当該ポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質の発現を可能にする単位をいう。ヒスチジン脱炭酸酵素をコードするポリヌクレオチドを含む発現単位を含む宿主細胞としては、例えば、ヒスチジン脱炭酸酵素をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを含む宿主細胞が挙げられる。
【0053】
発現ベクターは、ヒスチジン脱炭酸酵素をコードするポリヌクレオチドを含んでいればよく、例えば、宿主においてタンパク質を発現させる細胞系ベクター、およびタンパク質翻訳系を利用する無細胞系ベクターが挙げられる。発現ベクターはまた、プラスミド、ウイルスベクター、ファージ、組込み型(integrative)ベクター、または人工染色体であってもよい。組込み型ベクターは、その全体が宿主細胞のゲノムに組み込まれるタイプのベクターであってもよい。あるいは、組込み型ベクターは、その一部(例、本発明のヒスチジン脱炭酸酵素をコードする本発明のポリヌクレオチド、およびそれに作動可能に連結されたプロモーターを含む発現単位)のみが宿主細胞のゲノムに組み込まれるタイプのベクターであってもよい。発現ベクターはさらに、DNAベクターまたはRNAベクターであってもよい。
【0054】
発現ベクターは、ヒスチジン脱炭酸酵素をコードするポリヌクレオチドに加えて、プロモーター、ターミネーターおよび薬剤(例、テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン、ハイグロマイシン、ホスフィノスリシン)耐性遺伝子をコードする領域等の領域をさらに含んでもよい。発現ベクターは、プラスミドであっても組込み型(integrative)ベクターであってもよい。発現ベクターは、ウイルスベクターであっても無細胞系用ベクターであってもよい。発現ベクターは、ヒスチジン脱炭酸酵素をコードするポリヌクレオチドに対して3’または5’末端側に、ヒスチジン脱炭酸酵素に付加され得る他のペプチド成分をコードするポリヌクレオチドを含んでいてもよい。他のペプチド成分をコードするポリヌクレオチドとしては、例えば、上述したような目的タンパク質の精製を容易にするペプチド成分をコードするポリヌクレオチド、上述したような目的タンパク質の可溶性を向上させるペプチド成分をコードするポリヌクレオチド、シャペロンとして働くペプチド成分をコードするポリヌクレオチド、他の機能をもつタンパク質あるいはタンパク質のドメインあるいはそれらとをつなぐリンカーとしてのペプチド成分をコードするポリヌクレオチドが挙げられる。他のペプチド成分をコードするポリヌクレオチドを含む種々の発現ベクターが利用可能である。したがって、ヒスチジン脱炭酸化酵素をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターの作製のため、このような発現ベクターを利用してもよい。例えば、目的タンパク質の精製を容易にするペプチド成分をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクター(例、pET-15b、pET-51b、pET-41a、pMAL-p5G)、目的タンパク質の可溶性を向上させるペプチド成分をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクター(例、pET-50b)、シャペロンとして働くペプチド成分をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクター(例、pCold TF)、他の機能をもつタンパク質あるいはタンパク質のドメインあるいはそれらとをつなぐリンカーとしてのペプチド成分をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを利用することができる。発現ベクターは、プロテアーゼによる切断部位をコードする領域を、ヒスチジン脱炭酸酸化酵素をコードするポリヌクレオチドと他のペプチド成分をコードするポリヌクレオチドとの間に含んでいてもよい。これにより、ヒスチジン脱炭酸酵素とそれに付加された他のペプチド成分との切断がタンパク質発現後に可能となる。
【0055】
ヒスチジン脱炭酸酵素をコードするポリヌクレオチドを含む発現単位を含む宿主細胞は、ヒスチジン脱炭酸酵素を発現できる限り特に限定されない。宿主細胞は、ヒスチジン脱炭酸酵素およびこれをコードするポリヌクレオチドに対して同種であっても異種であってもよいが、異種であることが好ましい。宿主細胞はまた、上記プロモーターに対して同種であっても異種であってもよいが、異種であることが好ましい。宿主細胞としては、例えば、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、および微生物が挙げられるが、微生物が好ましい。微生物としては、例えばエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)等のエシェリヒア属細菌、コリネバクテリウム属細菌〔例、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)〕、およびバチルス属細菌〔例、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)〕をはじめとする種々の原核細胞、サッカロマイセス属細菌〔例、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)〕、ピヒア属細菌〔例、ピヒア・スティピティス(Pichia stipitis)〕、アスペルギルス属細菌〔例、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)〕をはじめとする種々の真核細胞を用いることができる。宿主としては、所定の遺伝子を欠損する株を用いてもよい。形質転換体としては、例えば、細胞質中に発現ベクターを保有する形質転換体、およびゲノム上に目的遺伝子が導入された形質転換体が挙げられる。
【0056】
遺伝子が組込まれた発現ベクターの宿主への導入(形質転換)は従来公知の方法を用いて行うことができる。例えば、カルシウム処理された菌体を用いるコンピテント細胞法や、エレクトロポレーション法等が挙げられる。また、プラスミドベクター以外にもファージベクターを用いて、菌体内に感染させ導入する方法によってもよい。
【0057】
[ヒスタミン酸化酵素をコードするポリヌクレオチド]
ヒスタミン酸化酵素をコードするポリヌクレオチドとしては例えば、上記した(D)~(F)のタンパク質をコードするポリヌクレオチドが挙げられ、以下に述べるポリヌクレオチドが好ましい。
【0058】
ヒスタミン酸化酵素をコードするポリヌクレオチドの例としては、(e)配列番号6で表される塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。配列番号6の塩基配列は、配列番号8のアミノ酸配列をコードする。配列番号6の塩基配列は、cDNAに対応する。なぜならば、(e)のポリヌクレオチドは、原核生物であるアルスロバクター・クリスタロポエテスに由来するためである。したがって、(e)のポリヌクレオチド、ならびに後述する(f)~(h)のポリヌクレオチドは、天然に生じるポリヌクレオチドではない。
【0059】
ヒスタミン酸化酵素をコードするポリヌクレオチドのさらにまた他の例としては、縮重ポリヌクレオチドが挙げられ、以下の(f)のポリヌクレオチドが好ましい:
(f)(e)のポリヌクレオチドの縮重変異体を含むポリヌクレオチド。
(f)のポリヌクレオチドとしては、配列番号7で表される塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。配列番号7で表される塩基配列は、配列番号6で表される塩基配列の縮重変異体であり、配列番号6におけるコドンが大腸菌での発現を考慮して改変された塩基配列である。
【0060】
ヒスタミン酸化酵素をコードするポリヌクレオチドの他の例としては、配列番号6で表されるポリヌクレオチドまたはその縮重変異体の相同ポリヌクレオチドが挙げられ、以下の(g)のポリヌクレオチドが好ましい:
(g)配列番号6で表される塩基配列またはその縮重変異体(好ましくは配列番号7で表される塩基配列)と90%以上の同一性を有する塩基配列を含み、かつヒスチジン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
塩基配列との同一性%の例および好ましい例は、ヒスチジン脱炭酸酵素について既に述べたものと同様である。
【0061】
ヒスタミン酸化酵素をコードするポリヌクレオチドのさらに他の例としては、配列番号6で表されるポリヌクレオチドまたはその縮重変異体のアナログポリヌクレオチドが挙げられ、以下の(h)のポリヌクレオチドが好ましい:
(h)配列番号6で表される塩基配列またはその縮重変異体(好ましくは配列番号7で表される塩基配列)と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつヒスタミン酸化酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【0062】
ヒスタミン酸化酵素をコードするポリヌクレオチドを含む発現単位とは、当該ポリヌクレオチドおよびそれに作動可能に連結されたプロモーター(例、同種プロモーター、異種プロモーター)を含む、当該ポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質の発現を可能にする単位をいう。ヒスタミン酸化酵素をコードするポリヌクレオチドを含む発現単位を含む宿主細胞としては、例えば、ヒスタミン酸化酵素をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを含む宿主細胞が挙げられる。
【0063】
発現ベクターは、ヒスタミン酸化酵素をコードするポリヌクレオチドを含んでいればよく、例えば、宿主においてタンパク質を発現させる細胞系ベクター、およびタンパク質翻訳系を利用する無細胞系ベクターが挙げられる。発現ベクターの例および好ましい例は、ヒスチジン脱炭酸酵素について既に述べたものと同様である。
【0064】
ヒスタミン酸化酵素をコードするポリヌクレオチドを含む発現単位を含む宿主細胞は、ヒスタミン酸化酵素を発現できる限り特に限定されない。宿主細胞は、ヒスタミン酸化酵素およびこれをコードするポリヌクレオチドに対して同種であっても異種であってもよいが、異種であることが好ましい。宿主細胞はまた、上記プロモーターに対して同種であっても異種であってもよいが、異種であることが好ましい。宿主細胞、形質転換体、発現ベクターの宿主への導入(形質転換)の例および好ましい例は、ヒスチジン脱炭酸酵素の説明について既に述べたものと同様である。
【0065】
本発明において、被検試料は、ヒスチジンを含有すると疑われる試料である限り特に限定されず、例えば、生体由来試料(例、血液、尿、唾液、涙など)、食品(例、栄養ドリンク、アミノ酸飲料など)が挙げられる。被検試料中のヒスチジンは、低濃度(例、1μM以上1mM未満等の1mM未満の濃度)であっても、高濃度(例、1mM以上1M未満等の1mM以上の濃度)であってもよい。
【0066】
被検試料が生体由来試料の場合、被検試料が採集される被検者は特に限定されないが、クローン病、潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患、ヒスチジン血症、心臓悪液質、がん等のヒスチジンがバイオマーカーとなり得る疾患に罹患しているかの確認を要望する被検者であることが好ましい。これにより、罹患しているか否か、罹患リスクを正確に、短時間で、簡便に、かつ安価に分析することができる。疾患が潰瘍性大腸炎の場合、潰瘍性大腸炎の寛解期にある被検者であることが好ましい。これにより、潰瘍性大腸炎の再燃リスクを評価することができる。
【0067】
ヒスチジンの測定における検出対象は、被検試料中のヒスチジンを測定できる限り特に限定されず、生成する4-イミダゾリルアセトアルデヒド、還元型電子供与体、およびアンモニア、過酸化水素等の副生物のいずれでもよい。あるいは、他の反応と共役させて、共役反応の生成物を検出してもよい。
【0068】
4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素がヒスタミン脱水素酵素である場合、ヒスチジン測定の際の反応および共役反応としては、例えば、以下の反応が挙げられる。
【0069】
ヒスチジン脱炭酸酵素により触媒される反応
ヒスチジン→ヒスタミン+CO2
【0070】
ヒスタミン脱水素酵素により触媒される反応
ヒスタミン+酸化型電子供与体→4-イミダゾリルアセトアルデヒド+NH2+還元型電子供与体1-PMSH2
【0071】
共役反応
還元型電子供与体+テトラゾリウム塩(WST-8)→酸化型電子供与体+WST-8(赤色)
【0072】
電子供与体としては、1-メトキシフェナジンメトスルフェート(1-メトキシPMS)〔酸化型〕/1-PMSH2〔還元型〕が挙げられる。
【0073】
上記共役反応を利用する場合、ヒスチジンの測定は、ヒスチジン脱炭酸酵素およびヒスタミン脱水素酵素に加えて、電子供与体およびテトラゾリウム塩を用いて行うことができる。具体的には、水溶液(例、緩衝液)中において、被検試料をヒスチジン脱炭酸酵素との酵素反応に供し、続いて、電子供与体およびテトラゾリウム塩、ならびにヒスタミン脱水素酵素を混合して酵素反応に供し、最後に、生成したWST-8(赤色)の吸光度(約470nm)を検出することにより、ヒスチジンが測定される。測定は、定性的または定量的に行うことができる。測定は、例えば、全ての基質が反応するまで測定を行うエンドポイント法に基づいて行われてもよいし、レート法(初速度法)に基づいて行われてもよい。なお、酸化反応において必要とされる酸素量は微量であるため、反応系中の溶存酸素により必要な酸素量が賄えることから、通常、反応系中へ酸素や酸素を含む気体を強制的に供給する必要はない。
【0074】
4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素がヒスタミン酸化酵素である場合、ヒスチジン測定の際の反応および共役反応としては、例えば、以下の反応が挙げられる。
【0075】
ヒスチジン脱炭酸酵素により触媒される反応
ヒスチジン→ヒスタミン+CO2
【0076】
ヒスタミン酸化酵素により触媒される反応
ヒスタミン+H2O+O2→4-イミダゾリルアセトアルデヒド+NH3+H2O2
【0077】
共役反応(ペルオキシダーゼにより触媒される反応)
2H2O2+4-アミノアンチピリン+フェノール→キノンイミン色素+4H2O
【0078】
上記共役反応を利用する場合、ヒスチジンの測定は、ヒスチジン脱炭酸酵素およびヒスタミン酸化酵素に加えて、4-アミノアンチピリンおよびフェノール、ならびにペルオキシダーゼを用いて行うことができる。具体的には、水溶液(例、緩衝液)中において、被検試料をヒスチジン脱炭酸酵素との酵素反応に供し、続いて、4-アミノアンチピリン(4-aminoantipyrine)およびフェノール、ならびにペルオキシダーゼと混合して得られる混合試料を酵素反応に供し、最後に、生成したキノンイミン色素(quinoneimine dye)の吸光度(約500nm)を検出することにより、ヒスチジンが測定される。測定は、定性的または定量的に行うことができる。測定は、例えば、全ての基質が反応するまで測定を行うエンドポイント法に基づいて行われてもよいし、レート法(初速度法)に基づいて行われてもよい。なお、酸化反応において必要とされる酸素量は微量であるため、反応系中の溶存酸素により必要な酸素量が賄えることから、通常、反応系中へ酸素や酸素を含む気体を強制的に供給する必要はない。
【0079】
また、ヒスタミン酸化酵素は過酸化水素電極に用いることができる。斯かる過酸化水素電極を用いることで、被検試料中のヒスタミンの量を特異的に評価することができる。
【0080】
ヒスチジン脱炭酸酵素および4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素は、ヒスタミン測定用キットに含めることができる。ヒスタミン測定キットは、他の試薬、例えば反応用緩衝液、緩衝塩、過酸化水素検出試薬、アンモニア検出試薬および4-イミダゾリルアセトアルデヒド検出試薬の少なくとも一つをさらに含むことができる。
【0081】
反応用緩衝液または緩衝塩は、反応液中のpHを目的の酵素反応に適した値に維持するために利用できる。
【0082】
4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素がヒスタミン酸化酵素である場合、過酸化水素検出用試薬は、過酸化水素の検出を例えば発色や蛍光などによって行う場合に利用できる。斯かる試薬としては例えば、ペルオキシダーゼとその基質となり得る発色剤の組み合わせが挙げられ、具体的には、例えば西洋わさびペルオキシダーゼと4―アミノアンチピリンおよびフェノールの組み合わせなどが挙げられるが、この組み合わせに限定されない。
【0083】
アンモニア検出試薬としては、例えばフェノールと次亜塩素酸を組み合わせたインドフェノール法などが挙げられる。
【0084】
4-イミダゾリルアセトアルデヒド検出試薬としては、例えば1-メトキシPMS等の電子供与体が挙げられる。
【0085】
ヒスチジン脱炭酸酵素および4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素は、デバイスと共に、ヒスチジン測定用検出系の構成要素とすることができる。各酵素は、使用の際にデバイス中に供給され得るマイクロデバイスとは独立したユニットとして存在していてもよいが、予めデバイスに、注入、固定または配置されていてもよい。好ましくは、各酵素は、予めデバイスに注入、固定または配置された形態で提供される。各酵素のデバイスへの固定または配置は、直接的または間接的に行われる。デバイスとしては、例えば、流路を備えるマイクロ流路チップ等のマイクロデバイスを好適に用いることができる。
【0086】
ヒスチジン測定用検出系は、他の構成要素を含んでいてもよい。他の構成要素としては例えば、反応用緩衝液または緩衝塩、過酸化水素検出試薬、アンモニア検出試薬および4-イミダゾリルアセトアルデヒド検出試薬の少なくとも一つが挙げられる。ヒスチジン測定用検出系では、上記他の構成要素の全部がデバイス中に収容された形態で提供されてもよい。あるいは、上記他の構成要素の一部がデバイス中に収容された形態で提供され、残りのものがデバイス中に収容されない形態(例、異なる容器に収容された形態)で提供されてもよい。この場合、デバイス中に収容されない要素は、標的物質の測定の際に、デバイス中に注入されることにより使用されてもよい。
【0087】
デバイスとしては、例えば、1)試料と(c)の構成要素とを混合して混合液を調製するための第1区域、および調製された混合液を、ヒスチジン脱炭酸酵素および4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素と接触させて、ヒスチジンを検出するための第2区域を備えるデバイス(混合および検出の各工程が異なる区域中で行われるデバイス);2)試料と(c)の構成要素とヒスチジン脱炭酸酵素および4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素とを混合して、両酵素によりヒスチジンを検出するための区域を備えるデバイス(混合および検出の各工程が同一区域中で行われるデバイス);ならびに3)試料と(c)の構成要素と(および必要に応じて両酵素と)の混合を可能にする流路、および両酸化酵素によりヒスチジンを検出するための区域を備えるデバイス(デバイスの注入口に試料を注入すると、流路を介して送液されて試料等が自動的に混合され、得られた混合液中のヒスタミンが検出区域中で自動検出されるデバイス)が挙げられる。自動化の観点からは、3)のデバイス、特にマイクロ流路デバイスの形態である3)のデバイスが好ましい。3)のデバイスでは、ヒスチジン脱炭酸酵素および4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素は、流路を流れる送液中に提供されても、検出区域に固定または配置された形態で提供されてもよいが、好ましくは検出区域に固定または配置された形態で提供される。
【0088】
ヒスチジン脱炭酸酵素および4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素は、ヒスチジン測定用酵素センサーとして利用することもできる。ヒスチジン測定用酵素センサーは例えば、検出用電極、および検出用電極に固定または配置されたヒスチジン脱炭酸酵素および4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素を含む。両酵素は、電極に直接または間接的に固定または配置される。
【0089】
ヒスタミン酸化酵素の場合の検出用電極としては例えば、過酸化水素検出用電極が挙げられ、より具体的には例えば、酵素式過酸化水素検出用電極や隔膜式過酸化水素検出用電極が挙げられる。これにより、ヒスタミン酸化酵素活性によりヒスタミンが酸化された際に生じる過酸化水素を検出することで、被検物質中のヒスチジンの測定が可能となる。それ以外の構成は、公知のセンサーで採用されている構成をそのまま、あるいは適宜改変して利用することができる。
【0090】
本発明は、被検者のクローン病、潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患、ヒスチジン血症、心臓悪液質、がん等の疾患への罹患の予測、診断に利用することができる。炎症性腸疾患、心臓悪液質、生活習慣病、がんの患者ではヒスチジン量が低下し、ヒスチジン血症の患者ではヒスチジン量が増大する。そのため、例えば、上記測定方法において測定された被検試料中のヒスチジンの量を基準量(健常者の基準量など)と比較し、被検試料中のヒスチジンの量が基準量よりも低ければ、被検者は炎症性腸疾患または心臓悪液質に罹患していると判定することができる。上記測定方法において測定された被検試料中のヒスチジンの量を基準量(健常者の基準量など)と比較し、被検試料中のヒスチジンの量が基準量よりも高ければ、被検者はヒスチジン血症に罹患していると判定することができる。
【0091】
また、被検者が潰瘍性大腸炎の寛解期にある場合には、潰瘍性大腸炎の再燃リスクの評価に利用することができる。例えば、被検者が潰瘍性大腸炎の寛解期にあることが明らかな場合、上記測定方法において測定された被検試料中のヒスチジンの量を基準量(潰瘍性大腸炎の寛解期にあり再燃を生じなかった被検者に基づく基準量、健常者の基準量など)と比較し、被検試料中のヒスチジンの量が基準量より少ない場合には潰瘍性大腸炎への再燃リスクが高く、多い場合にはリスクが低いという基準と比較することにより、被検者の潰瘍性大腸炎の再燃リスクを判定することができる。
【実施例】
【0092】
以下の実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0093】
〔実施例1〕HisDCの発現と精製
大腸菌を用いたHisDCの組替え発現系を以下のようにして構築した。まず、組換え発現用のプラスミドを構築した。フォトバクテリウム・フォスフォリウム由来のヒスチジン脱炭酸酵素(HisDC)を大腸菌で効率的に発現させるため、HisDCのアミノ酸配列(配列番号3)からGEMETXYを用いて一般的なコドン頻度に基づきコドン最適化HisDC(配列番号2)を取得した。コドン最適化HisDC(配列番号2)をDNAプライマー1(配列番号4:5’TATCGAAGGTCGTCATATGACCACCC3’)およびDNAプライマー(配列番号5:5’TTTGTTAGCAGCCGGATCCTTAGGC3’)を用いて、標準的なPCR法に従って目的遺伝子を増幅した。続いて、NDEI(タカラバイオ株式会社)とHindIII(タカラバイオ株式会社)を用いてpET16b(メルク株式会社)を制限酵素消化し、FastGene Plasmid Mini Kit(日本ジェネティクス株式会社)を用いて除タンパク質および不要なDNA断片を除去した。得られた産物から、標準的な方法に従ってライゲーション産物を得て、大腸菌XL-10 goldの形質転換体を取得した。大腸菌XL-10-goldの形質転換体からプラスミドを抽出し、標準的なDNA配列の解析法を用いて、プラスミドへの目的遺伝子の挿入を確認した。以降、目的遺伝子が挿入されたプラスミドをpET16b-HisDC、pET16b-HisDCによるBL21(DE3)の形質転換体をpET16b-HisDC-BL21(DE3)と、それぞれ呼ぶ。
【0094】
HisDCの調製は、下記のようにして行った。まず、pET16b-HisDC-BL21(DE3)のグリセロールストックから100μg/mlアンピシリンを含むLBプレートへ植菌し、37℃で一晩、静置培養した。100μg/mlアンピシリンを含むLB液体培地50mlを250ml容量のフラスコに入れ、LBプレート上のシングルコロニーを植菌し、37℃で一晩培養した。100μg/mlアンピシリンを含むLB液体培地2Lに前培養液20mlを添加し、37℃でOD600の値が0.6程度になるまで旋回振盪にて培養した。25℃の下30分間静置し、IPTGを終濃度0.1mMとなるように添加し、25℃で旋回振盪にて一晩培養した後に50mlチューブに集菌した。
【0095】
破砕用バッファー(50mM Tris-HCl,500mM NaCl,75mM imidazole,0.2μM PLP pH8.0)にて菌体を懸濁し、超音波破砕機(INSONATOR,久保田商事株式会社)を用いて破砕した。この破砕液を15000×gで30分間遠心し上清を回収した後、Ni Sepharose 6 Fast Flow(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)を用いて精製を行った。洗浄バッファーは(50mM Tris-HCl,500mM NaCl,75mM imidazole,0.2μM PLP,pH8.0)、溶出バッファーは(50mM Tris-HCl,500mM NaCl,500mM imidazole,0.2μM PLP,pH8.0)をそれぞれ使用した。溶出画分を回収し、AKTA Explorer 10SとHi prep 26/10 desaltingを用いて50mM Tris-HCl,pH8.0に溶液交換した。AKTA Explorer 10SとResource Q 6mLを用いて陰イオン交換カラムによる精製を4℃にて実施した。平衡化には50mM Tris-HCl,pH8.0を用いて、溶出には50mM Tris-HCl,1M NaCl,pH8.0を用いて、NaCl濃度グラジエントで溶出した。
【0096】
〔実施例2〕活性確認
実施例1で調製したHisDCの活性評価は下記手順にて行った。HisDCを0.2mg/mlとなるように調製し、5μLのHisDCに対して0.2Mリン酸ナトリウム緩衝液,pH6.5を25μL、超純水10μL、各濃度ヒスチジン溶液10μLを加え混合した溶液を25℃、60分間インキュベートした。この溶液50μLに対してヒスタミン脱水素酵素(チェックカラーヒスタミン、キッコーマンバイオケミファ社)を50μL、検出溶液50μLを加えた溶液を96穴マイクロプレートに入れて波長470nmにおける吸光度の経時変化をマイクロプレートリーダー(SpectraMax M2e、MOLECULAR DEVICES社)で測定した。
図1は各濃度のヒスチジン溶液に対する検量線を示す。
【0097】
また、5μLのHisDCに対して0.2Mリン酸ナトリウム緩衝液,pH6.5を75μL、超純水15μL、各濃度histidine溶液5μL、ヒスタミン脱水素酵素を25μL、検出溶液25μLを加え混合した溶液を96穴マイクロプレートに入れて波長470nmにおける吸光度の経時変化をマイクロプレートリーダーで測定した。
図2は各濃度のヒスチジン溶液に対する検量線を示す。
【0098】
〔実施例3〕ヒスタミン酸化酵素の発現と精製
大腸菌を用いたヒスタミン酸化酵素の組替え発現系を以下のようにして構築した。まず、組換え発現用のプラスミドを構築した。アルスロバクター・クリスタロポエテス(Arthrobacter crystallopoietes)由来のヒスタミン酸化酵素(HOX)を大腸菌で効率的に発現させるため、HOXのアミノ酸配列(配列番号8)からGEMETXYを用いて一般的なコドン頻度に基づきコドン最適化HOX(配列番号7)を取得した。コドン最適化HOX(配列番号7)をDNAプライマー3(配列番号9:5’ATCGAGGGAAGGATTTCACATATGGCAGAATATCTGCTGCCTGGCAC3’)およびDNAプライマー4(配列番号10:5’ATTACCTGCAGGGAATTCGGATCCTTAATTCGGACAACGGC3’)を用いて、標準的なPCR法に従って目的遺伝子を増幅した。続いて、NDEI(タカラバイオ株式会社)とHindIII(タカラバイオ株式会社)を用いてpMAL-c5X(NEW ENGLAND BioLabs株式会社)を制限酵素消化し、FastGene Plasmid Mini Kit(日本ジェネティクス株式会社)を用いて除タンパク質および不要なDNA断片を除去した。得られた産物から、標準的な方法に従ってライゲーション産物を得て、大腸菌XL-10 goldの形質転換体を取得した。大腸菌XL-10-goldの形質転換体からプラスミドを抽出し、標準的なDNA配列の解析法を用いて、プラスミドへの目的遺伝子の挿入を確認した。以降、目的遺伝子が挿入されたプラスミドをpMAL-c5X-HOX、pMAL-c5X-HOXによるBL21(DE3)の形質転換体をpMAL-c5X-HOX-BL21(DE3)と、それぞれ呼ぶ。
【0099】
ヒスタミン酸化酵素の調製は、下記のようにして行った。まず、pMAL-c5X-HOX-BL21(DE3)のグリセロールストックから100μg/mlアンピシリンを含むLBプレートへ植菌し、37℃で一晩、静置培養した。100μg/mlアンピシリンを含むLB液体培地50mlを250ml容量のフラスコに入れ、LBプレート上のシングルコロニーを植菌し、37℃で一晩培養した。100μg/mlアンピシリンを含むLB液体培地2Lに前培養液20mlを添加し、37℃でOD600の値が0.6程度になるまで旋回振盪にて培養した。16℃の下30分間静置し、IPTGを終濃度0.5mMとなるように添加し、16℃で旋回振盪にて一晩培養した後に50mlチューブに集菌した。
【0100】
破砕用バッファー(50mM リン酸ナトリウム,500mM NaCl pH7.0)にて菌体を懸濁し、超音波破砕機(INSONATOR,久保田商事株式会社)を用いて破砕した。この破砕液を15000×gで30分間遠心し上清を回収した後、Ni Sepharose 6 Fast Flow(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)を用いて精製を行った。洗浄バッファーは(50mM リン酸ナトリウム,500mM NaCl pH7.0)、溶出バッファーは(50mM リン酸ナトリウム,500mM NaCl,10mM マルトース pH7.0)をそれぞれ使用した。溶出画分を回収し、最終濃度0.1mMとなるように硫酸銅を添加して30分間4℃でインキュベートした。AKTA Explorer 10SとHi prep 26/10 desaltingを用いて50mM リン酸ナトリウム,500mM NaCl pH7.0に溶液交換した。
【0101】
〔実施例4〕基質特異性
実施例1で調製したHisDCの基質特異性を下記手順にて行った。HisDCを0.2mg/mlとなるように調製し、5μLのHisDCに対して0.2Mリン酸ナトリウム緩衝液,pH6.5を25μL、超純水10μL、各濃度ヒスチジン溶液10μLを加え混合した溶液を25℃、60分間インキュベートした。この溶液50μLに対してヒスタミン脱水素酵素(チェックカラーヒスタミン、キッコーマンバイオケミファ社)を50μL、検出溶液50μLを加えた溶液を96穴マイクロプレートに入れて波長470nm、800nmにおける吸光度の経時変化をマイクロプレートリーダー(SpectraMax M2e、MOLECULAR DEVICES社)で測定した。
図3に各アミノ酸溶液に対する比活性を示す。
【0102】
〔実施例5〕血漿中Hisの定量測定(1)
実施例1で調製したHisDCを用いてヒト血漿中のHisの定量測定を行った。HisDCを0.6mg/mlとなるように調製し、5μLのHisDCに対して0.2Mリン酸ナトリウム緩衝液,pH6.5を25μL、7.5% Tween20 5μL、超純水5μL、各濃度ヒスチジン溶液10μLもしくはヒト血漿を加え混合した溶液を25℃、15分間インキュベートした。96穴マイクロプレートにこの溶液50μLに対してヒスタミン脱水素酵素(チェックカラーヒスタミン、キッコーマンバイオケミファ社)を50μL、検出溶液50μLを加えた。ヒスタミン脱水素酵素を加え混合する前および混合後一定時間の470nmおよび800nmにおける吸光度(Abs 470nm(前)、Abs 470nm(後)、Abs 800nm(前)、Abs 800nm(後))をマイクロプレートリーダー(SpectraMax M2e、MOLECULAR DEVICES社)にて測定した。
【0103】
反応前後の各測定ポイントにおける吸光度の値を用いて、酵素液添加の前後における吸光度の変化量(ΔAbs)は、(Abs 470nm(後)-Abs 800nm(後))-(Abs 470nm(前)-Abs 800nm(前))×100/150として求めた。各値から未反応の溶液の吸光度をブランクとして差引した後、検体としてHis水溶液を用いた際のΔAbsとHis濃度との関係から検量線を作成し、検体としてヒト血漿を用いた際のΔAbsから、ヒト血漿中のHis濃度を求めた。検量線は、各His濃度において3回実験を行った際の平均値を用いて作成し、同一ロットのヒト血漿を3回測定して、LC-MSによる分析値(73.5μM)と比較した。結果を
図4として示す。
【0104】
〔実施例6〕血漿中Hisの定量測定(2)
実施例1で調製したHisDCおよび実施例3で調製したHOXを用いてヒト血漿中のHisの定量測定を行った。HisDCを0.6mg/mlとなるように調製し、15μLのHisDCに対して0.2Mリン酸ナトリウム緩衝液,pH6.5を75μL、超純水10μL、各濃度ヒスチジン溶液50μLもしくはヒト血漿を加え混合した溶液を25℃、60分間インキュベートした。96穴マイクロプレートにこの溶液40μLに対して、4.0mg/mlとなるように調製したHOXを20μL、1M HEPES pH7.5を20μL、100mM TOOSを2μL、0.1M 4-アミノアンチピリンを2μL、1500U/mlペルオキシダーゼを2μL、超純水を114μL加えた。HOXを加え混合する前および混合後一定時間の555nmおよび800nmにおける吸光度(Abs 555nm(前)、Abs 555nm(後)、Abs 800nm(前)、Abs 800nm(後))をマイクロプレートリーダー(SpectraMax M2e、MOLECULAR DEVICES社)にて測定した。
【0105】
反応前後の各測定ポイントにおける吸光度の値を用いて、酵素液添加の前後における吸光度の変化量(ΔAbs)は、(Abs 555nm(後)-Abs 800nm(後))-(Abs 555nm(前)-Abs 800nm(前))として求めた。各値から未反応の溶液の吸光度をブランクとして差引した後、検体としてHis水溶液を用いた際のΔAbsとHis濃度との関係から検量線を作成し、検体としてヒト血漿を用いた際のΔAbsから、ヒト血漿中のHis濃度を求めた。検量線は、各His濃度において3回実験を行った際の平均値を用いて作成し、同一ロットのヒト血漿を3回測定して、LC-MSによる分析値(74.9μM)と比較した。検量線を
図5に、定量結果を
図6として示す。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、ヒスチジンの迅速かつ高感度な測定に有用であり、またヒスチジンの特異的な測定に有用である。本発明は、例えば生体研究、健康栄養、医療、食品製造など広範な分野において有用である。
【配列表】