(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】正極及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20220315BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20220315BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220315BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20220315BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220315BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20220315BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20220315BHJP
C01B 25/45 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
H01M4/36 E
H01M4/58
H01M10/052
H01M10/0568
H01M10/0569
C01B25/45 Z
(21)【出願番号】P 2017220162
(22)【出願日】2017-11-15
【審査請求日】2020-08-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】特許業務法人 共立
(72)【発明者】
【氏名】岩田 孝二
(72)【発明者】
【氏名】石川 英明
(72)【発明者】
【氏名】荒川 俊也
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 宏樹
【審査官】儀同 孝信
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-317534(JP,A)
【文献】特表2016-507452(JP,A)
【文献】特開2011-159421(JP,A)
【文献】国際公開第2016/139957(WO,A1)
【文献】特開2004-087299(JP,A)
【文献】特開2012-190786(JP,A)
【文献】特開2008-210701(JP,A)
【文献】特開2011-060432(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 4/36
H01M 4/58
H01M 10/052
H01M 10/0568
H01M 10/0569
C01B 25/45
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オリビン構造のLiM
hPO
4(MはMn、Fe、Co、Ni、Cu、Mg、Zn、V、Ca、Sr、Ba、Ti、Al、Si、B、Te及びMoから選ばれる少なくとも1の元素でありFe及びMnを必須とする、0<h<2)を炭素被覆した第1材料の粒子で、一般式:Li
aNi
bCo
cAl
dD
eO
f(0.2≦a≦2、
0.8≦b、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはW、Mo、Re、Pd、Ba、Cr、B、Sb、Sr、Pb、Ga、Mn、Nb、Mg、Ta、Ti、La、Zr、Cu、Ca、Ir、Hf、Rh、Fe、Ge、Zn、Ru、Sc、Sn、In、Y、Bi、S、Si、Na、K、P、Vから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦3)で表されるリチウムニッケル複合酸化物の粒子を被覆した複合体粒子と、
オリビン構造のLiM
hPO
4(MはMn、Fe、Co、Ni、Cu、Mg、Zn、V、Ca、Sr、Ba、Ti、Al、Si、B、Te及びMoから選ばれる少なくとも1の元素でありFe及びMnを必須とする、0<h<2)を炭素被覆した第2材料の粒子と、を正極活物質層に含み、
前記正極活物質層を100質量部としたときに、前記第1材料及び第2材料を20質量部以上30質量部以下含み、
前記第2材料の量を100質量部としたときに、前記複合体粒子に含まれる前記第1材料の量は、20質量部以上100質量部以下である、正極。
【請求項2】
前記第1材料の粒子の体積抵抗率を前記リチウムニッケル複合酸化物の粒子の体積抵抗率で除した値、及び、
前記第2材料の粒子の体積抵抗率を前記リチウムニッケル複合酸化物の粒子の体積抵抗率で除した値は、0.034以下である、請求項1に記載の正極。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の正極と、負極と、電解液と、を具備し、
前記電解液は、リチウム塩を含む電解質と鎖状カーボネートを含む非水溶媒とを含み、
前記電解液中の前記電解質の濃度が1.8~3モル/Lである、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極及びリチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二次電池の高容量な正極活物質として、LiCoO2、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2等のリチウム金属複合酸化物が知られている。
この種のリチウム金属複合酸化物は、高容量である反面、熱安定性に劣ると考えられている。正極に高い容量と優れた熱安定性とを付与するために、複数の正極活物質を併用する技術が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、LiCoO2とLiFePO4とを併用した正極活物質が開示されている。特許文献1では、このうちLiCoO2を第1のリチウム含有金属複合酸化物の一種とし、LiFePO4を第2のリチウム含有金属複合酸化物の一種としている。そして、当該特許文献1は、第2のリチウム含有金属複合酸化物を、第1のリチウム含有金属複合酸化物よりも抵抗が高く、リチウム対電位(Li/Li+)が低いとしている。第2のリチウム含有金属複合酸化物は、所謂オリビン構造の正極活物質であり、熱安定性に優れた正極活物質であることが知られている。
特許文献1には、第2のリチウム含有金属複合酸化物を第1のリチウム含有金属複合酸化物の粒子の表面全部にコートすることで、二次電池の内部短絡時、負極から正極に伝えられる多量のリチウムイオン及び電子の移動速度を緩和させて、瞬間的な過電流の発生による発熱を防止できる旨や、その結果、二次電池の熱的安全性を高め得る旨が記載されている。
【0004】
上記した特許文献1の技術に基づき、リチウム金属複合酸化物をオリビン構造の正極活物質でコートしてリチウムイオン二次電池の正極に用いれば、リチウムイオン二次電池に高い容量と優れた熱安定性とを付与できる可能性がある。
【0005】
ところで、近年、リチウムイオン二次電池については、更なる容量の増大が望まれている。このため、リチウム金属複合酸化物として更に高容量のものを使用することが検討されている。リチウム金属複合酸化物のうち、ニッケルを多く含有するリチウムニッケル複合酸化物は、高容量だとされている。例えば特許文献2には、正極活物質として、一般式LiNicM1dO2(M1は、Mg、Co、Mn、Alから選ばれる一種以上の金属元素、0.4<c<0.95、c+d=1)が挙げられている。特許文献2の実施例では、正極活物質として、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2が用いられている。
【0006】
この種のリチウムニッケル複合酸化物は、ニッケル含有量の少ないリチウム金属複合酸化物に比べて、更に高容量である反面、より一層熱安定性に劣る。したがって、当該リチウムニッケル複合酸化物を用い、かつ、リチウムイオン二次電池に優れた熱安定性を付与し得る技術が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2010-517218号公報
【文献】特開2009-54318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はかかる事情に鑑みて為されたものであり、リチウムニッケル複合酸化物を正極に用いたリチウムイオン二次電池の熱安定性を向上させ得る技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の正極は、
オリビン構造のLiMhPO4(MはMn、Fe、Co、Ni、Cu、Mg、Zn、V、Ca、Sr、Ba、Ti、Al、Si、B、Te及びMoから選ばれる少なくとも1の元素、0<h<2)を炭素被覆した第1材料の粒子で、一般式:LiaNibCocAldDeOf(0.2≦a≦2、0.6≦b、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはW、Mo、Re、Pd、Ba、Cr、B、Sb、Sr、Pb、Ga、Mn、Nb、Mg、Ta、Ti、La、Zr、Cu、Ca、Ir、Hf、Rh、Fe、Ge、Zn、Ru、Sc、Sn、In、Y、Bi、S、Si、Na、K、P、Vから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦3)で表されるリチウムニッケル複合酸化物の粒子を被覆した複合体粒子と、
オリビン構造のLiMhPO4(MはMn、Fe、Co、Ni、Cu、Mg、Zn、V、Ca、Sr、Ba、Ti、Al、Si、B、Te及びMoから選ばれる少なくとも1の元素、0<h<2)を炭素被覆した第2材料の粒子と、を正極活物質層に含み、
前記正極活物質層を100質量部としたときに、前記第1材料及び第2材料を20質量部以上30質量部以下含み、
前記第2材料の量を100質量部としたときに、前記複合体粒子に含まれる前記第1材料の量は、20質量部以上100質量部以下である、正極である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の正極は、リチウムニッケル複合酸化物を用い、かつ、リチウムイオン二次電池の熱安定性を向上させ得るものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の正極、及び、本発明の正極を有する本発明のリチウムイオン二次電池について詳細に説明する。
【0012】
なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「x~y」は、下限x及び上限yをその範囲に含む。そして、これらの上限値及び下限値、並びに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで新たな数値範囲を構成し得る。更に、上記の何れかの数値範囲内から任意に選択した数値を新たな数値範囲の上限、下限の数値とすることができる。
【0013】
(正極)
本発明の正極は、複合体粒子と第2材料の粒子とを正極活物質層に含む。
このうち複合体粒子は、第1材料の粒子でリチウムニッケル複合酸化物の粒子を被覆したものである。第1材料とは、オリビン構造のLiMhPO4(MはMn、Fe、Co、Ni、Cu、Mg、Zn、V、Ca、Sr、Ba、Ti、Al、Si、B、Te及びMoから選ばれる少なくとも1の元素、0<h<2)を炭素被覆したものである。
また、リチウムニッケル複合酸化物とは、一般式:LiaNibCocAldDeOf(0.2≦a≦2、0.6≦b、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはW、Mo、Re、Pd、Ba、Cr、B、Sb、Sr、Pb、Ga、Mn、Nb、Mg、Ta、Ti、La、Zr、Cu、Ca、Ir、Hf、Rh、Fe、Ge、Zn、Ru、Sc、Sn、In、Y、Bi、S、Si、Na、K、P、Vから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦3)で表される化合物である。
更に、第2材料とは、オリビン構造のLiMhPO4(MはMn、Fe、Co、Ni、Cu、Mg、Zn、V、Ca、Sr、Ba、Ti、Al、Si、B、Te及びMoから選ばれる少なくとも1の元素、0<h<2)を炭素被覆したものである。
【0014】
なお、本発明の正極における第1材料及び第2材料は、ともに、オリビン構造のLiMhPO4を炭素被覆したものを意味する。後述するように、本発明の正極においては、複合体粒子に含まれる第1材料の量と、第2材料の量と、の関係が規定されるため、本明細書においては、便宜的に、両者を第1材料及び第2材料と区別した。したがって、本発明の正極においては、第1材料と第2材料とが同じ組成であっても良いし、第1材料の粒子と第2材料の粒子とが同じ組成かつ同じ形状であっても良い。
【0015】
本発明の正極における第1材料の粒子及び第2材料の粒子は、ともに、オリビン構造のLiMhPO4を炭素被覆した粒子である。したがって、本発明の正極活物質は、オリビン構造のLiMhPO4を炭素被覆した粒子を複数含み、一部の当該粒子はリチウムニッケル複合酸化物の粒子を被覆して複合体粒子を構成し、他の当該粒子は複合体粒子とともに正極活物質層に含まれるといえる。オリビン構造のLiMhPO4を炭素被覆した複数の粒子のうち、複合体粒子を構成する方の粒子が第1材料の粒子であり、複合体粒子とともに正極活物質層を構成する方の粒子が第2材料の粒子である。
【0016】
本発明の正極においては、オリビン構造のLiMhPO4を炭素被覆した粒子を、複合体粒子を構成する態様と、複合体粒子とともに正極活物質層に含まれる態様と、の2通りの態様で正極活物質層に存在させる、ということもできる。
【0017】
また、本発明の正極は、正極活物質層を100質量部としたときに、第1材料及び第2材料を20質量部以上30質量部以下含む。更に、本発明の正極において、第2材料の量を100質量部としたときに、複合体粒子に含まれる第1材料の量は、20質量部以上100質量部以下である。
【0018】
正極活物質層にリチウムニッケル複合酸化物を含む正極を、上記のように構成することで、リチウムニッケル複合酸化物を用いかつ熱安定性の向上した正極が得られる。その理由は定かではないが、正極をこのように構成することで、リチウムイオン二次電池の電池抵抗を、低過ぎずかつ高過ぎない、好適な範囲に納めることができると考えられる。
【0019】
リチウムイオン二次電池の電池抵抗が高過ぎれば、リチウムイオン二次電池の容量が低下する虞がある。また、リチウムイオン二次電池の電池抵抗が低過ぎれば、正極が熱安定性に劣り、その結果、リチウムイオン二次電池の熱安定性が悪くなる虞がある。
本発明の正極では、第1材料の量及び第2材料の量を上記の範囲内とすることで、リチウムイオン二次電池の電池抵抗を、低過ぎずかつ高過ぎない、好適な範囲に納めることができる。このため、本発明の正極では、正極活物質層にリチウムニッケル複合酸化物を用いるにも拘わらず、優れた熱安定性を発揮する。当然乍ら、正極活物質層にリチウムニッケル複合酸化物を有することで、本発明の正極は容量の大きなものとなる。
【0020】
また、本発明の正極では、オリビン構造のLiMhPO4を炭素被覆した粒子を、複合体粒子を構成する第1材料の粒子、及び、複合体粒子とともに正極活物質層に含まれる第2材料の粒子、という2通りの態様で正極活物質層に存在させる。このことで、正極活物質層に第1材料の粒子のみ、又は第2材料の粒子のみを有する場合に比べて、リチウムイオン二次電池の電池抵抗をコントロールし易くなると考えられる。
【0021】
以下、必要に応じて、第1材料および第2材料を総称してオリビン材料と称する場合がある。また、第1材料の粒子及び第2材料の粒子を総称して、オリビン粒子と称する場合がある。
【0022】
複合体粒子に含まれるリチウムニッケル複合酸化物としては、一般式:LiaNibCocAldDeOf(0.2≦a≦2、0.6≦b、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはW、Mo、Re、Pd、Ba、Cr、B、Sb、Sr、Pb、Ga、Mn、Nb、Mg、Ta、Ti、La、Zr、Cu、Ca、Ir、Hf、Rh、Fe、Ge、Zn、Ru、Sc、Sn、In、Y、Bi、S、Si、Na、K、P、Vから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦3)で表されるものが使用される。
高容量である点から、このうち、層状岩塩構造の一般式:LiaNibCocAldDeOf(0.2≦a≦1.7、0.6≦b、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、Zr、S、Si、Na、K、Mnから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦2.1)で表される化合物が好ましい。
【0023】
上記b、c、d及びeの値は、上記条件を満足するものであれば特に制限はないが、b及びcについては0.6≦b<1かつ0<c<0.4であるのが良い。d、eについては、0<d<0.4及び/又は0<e<0.4であるのが良い。
このうちbについては、0.6≦b≦0.97、0.7≦b≦0.95、0.75≦b≦0.92、0.8≦b≦0.9の何れかの範囲内であることがより好ましい。
cについては、0.05<c<0.3、0.08<c<0.25、0.085<c<0.2、0.09<c<0.17の何れかの範囲内であることがより好ましい。
dについては、0≦d<0.3、0.005<d<0.05、0.01<d<0.04、0.015<d<0.032の何れかの範囲内であることがより好ましい。
eについては、0≦e<0.3、0.005<e<0.05、0.01<e<0.04、0.015<e<0.032の何れかの範囲内であることがより好ましい。
【0024】
a、fについては一般式で規定する範囲内の数値であればよく、aは、0.5≦a≦1.5の範囲内が好ましく、0.7≦a≦1.3の範囲内がより好ましく、0.9≦a≦1.2の範囲内がさらに好ましい。fについては、f=2を例示することができる。
【0025】
層状岩塩構造のリチウムニッケル複合酸化物の具体例としては、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2、LiNi0.75Co0.1Mn0.15O2、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2、LiNi0.82Co0.15Al0.03O2、LiNi0.83Co0.154Al0.016O2、LiNi0.887Co0.095Al0.018O2、LiNi0.825Co0.145Al0.029O2、及びLiNi0.874Co0.097Al0.029O2が挙げられる。
【0026】
リチウムニッケル複合酸化物の粒子の形状は特に制限されるものではないが、平均粒子径でいうと、100μm以下が好ましく、0.1μm以上50μm以下がより好ましく、1μm以上20μm以下が更に好ましく、5μm以上15μm以下が最も好ましい。0.1μm未満では、電極を製造した際に集電体との密着性が損なわれやすいなどの不具合を生じることがある。100μmを超えると電極の大きさに影響を与えたり、二次電池を構成するセパレータを損傷したりするなどの不具合を生じることがある。なお、本明細書における平均粒子径とは、一般的なレーザー回折式粒度分布測定装置で湿式測定により計測した場合のD50の値を意味する。湿式測定が困難な試料であれば、乾式測定を行っても良い。
【0027】
リチウムニッケル複合酸化物の粒子の体積抵抗率は、併用するオリビン粒子の体積抵抗率よりも大きいのが好ましい。但し、体積抵抗率の過大なリチウムニッケル複合酸化物の粒子は、オリビン粒子の体積抵抗率とのバランス上、好ましくない場合がある。したがって、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の体積抵抗率にもまた好適な範囲があると考えられる。具体的には、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の体積抵抗率は、3000Ω・cm以下であるのが好ましく、2000Ω・cm以下であるのがより好ましく、1000Ω・cm以下であるのが更に好ましく、500Ω・m以下であるのがなお好ましく、100Ω・m以下であるのが特に好ましい。なおリチウムニッケル複合酸化物の粒子の体積抵抗率の下限は特に限定しないが、強いて言えば当該下限として5Ω・cm以上を例示できる。体積抵抗率の測定方法については実施例の欄にて詳説する。
【0028】
オリビン粒子は、オリビン構造のLiMhPO4(MはMn、Fe、Co、Ni、Cu、Mg、Zn、V、Ca、Sr、Ba、Ti、Al、Si、B、Te及びMoから選ばれる少なくとも1の元素、0<h<2)の少なくとも一部が炭素で被覆されたものであり、粒子状をなす。
【0029】
上記LiMhPO4のMは、Mn、Fe、Co、Ni、Mg、V、Teから選ばれる少なくとも1の元素であり、かつ、0.6<h<1.1であるのが好ましい。また、当該Mは、Mn及び/又はFeであり、0.9<h<1.1であるのがより好ましく、h=1であるのが更に好ましい。当該MはMn及びFeであり、0.9<h<1.1であるのがより好ましく、h=1であるのが更に好ましい。
オリビン構造のLiMhPO4としては、例えば、LiFePO4、LiCoPO4、LiNiPO4、LiMnPO4、LiVPO4、LiTePO4、LiV2/3PO4、LiFe2/3PO4、LiMn7/8Fe1/8PO4、LiMn7/10Fe3/10PO4、LiMn0.68Fe0.27PO4が挙げられる。このうちLiFePO4が熱安定性の点から好ましい。その理由は以下のように推測される。LiFePO4は放電時に比較的平坦な放電曲線を示す。そうすると、仮に、リチウムイオン二次電池の正極と負極が短絡して急激な放電が生じたとしても、LiFePO4の存在箇所では放電に伴う急激な電位差が生じにくい。そのため、電極内の他の箇所からの電荷移動を誘起しにくく、過電流の発生を抑制することができる。その結果、二次電池の発熱を好適に抑制することができる。
なお、LiFePO4のFeの一部をMnで置換したLiFexMn1-xPO4もまた、LiFePO4と同様に好ましく使用し得る。
【0030】
オリビン粒子は、上記のようにオリビン構造のLiMhPO4の少なくとも一部が炭素で被覆されたものであり、その表面の少なくとも一部が炭素で構成されるともいい得る。炭素は、オリビン粒子の表面の一部のみを構成しても良いし、全表面を構成しても良い。また炭素の一部はオリビン粒子の内部にまで進入していてもよい。オリビン粒子の表面の一部を炭素で構成することで、体積抵抗率の低い、導電性に優れるオリビン粒子を得ることができる。
【0031】
オリビン構造のLiMhPO4を炭素で被覆してオリビン粒子を得る方法としては、従来の炭素被覆方法を用いることができる。従来の種々の炭素被覆方法の中から適切な方法を適宜選択して用いることで、任意な体積抵抗率のオリビン粒子を得ることができる。例えば、特開2014-194879号公報、特開2012-204079号公報、特開2014-179176号公報、特開2014-029863号公報、国際公開2013/018758号公報、特開2012-216473号公報、渡辺春夫著「リチウムイオン二次電池」第278~第280頁には様々な炭素被覆方法が開示されている。
【0032】
オリビン粒子としては、体積抵抗率の小さいものを用いるのが好ましい。具体的にはオリビン粒子の体積抵抗率は5Ω・cm未満であるのが好ましく、3Ω・cm以下であるのがより好ましく、1Ω・cm以下であるのが更に好ましく、0.5Ω・cm以下であるのが特に好ましい。なおオリビン粒子の体積抵抗率の下限は特に限定しないが、強いて言えば当該下限として0.05Ω・cm以上を例示できる。
【0033】
炭素被覆されるオリビン構造のLiMhPO4、及び、オリビン粒子の形状は特に制限されないが、平均粒子径でいうと、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の平均粒子径未満であるのが好ましい。当該LiMhPO4及びオリビン粒子の平均粒子径は、100μm未満が好ましく、0.1μm以上50μm以下がより好ましく、0.5μm以上15μm以下が更に好ましく、1μm以上10μm以下が特に好ましい。
【0034】
リチウムニッケル複合酸化物の粒子をオリビン粒子で被覆する方法は、特に限定しないが、例えば既知の造粒法やコート法と呼ばれる方法を用いることができる。一例を挙げると、リチウムニッケル複合酸化物の粒子とオリビン粒子とを、混合装置に入れて混合すれば良い。混合装置は特に限定されず、例えば、乳鉢でも良いし、公知の混合機でもよい。混合機としては、V型混合機、W型混合機、リボン型混合機、ドラムミキサーなどの攪拌混合機を用いてもよいし、ボールミル、ジェットミル、ハンマーミル、ピンミル、ディスクミル、ターボミルなどの粉砕混合機を用いてもよい。或いは、リチウムニッケル複合酸化物の粒子及びオリビン粒子に、圧縮力やせん断力を作用させつつ混合し複合化させる混合装置を用いても良い。
【0035】
混合速度及び混合時間は適宜適切に決定すればよい。ただし、リチウムニッケル複合酸化物の粒子及びオリビン粒子が消失するまで過剰に混合するのは適当ではないため、粉末X線回折装置などの分析装置を用いて、リチウムニッケル複合酸化物及びオリビン材料の存在を確認しながら、混合速度及び混合時間を決定するのが好ましい。
【0036】
本発明の正極において、第2材料の量を100質量部としたときに、複合体粒子に含まれる第1材料の量は、20質量部以上100質量部以下である。第2材料100質量部に対する当該第1材料の量は、上記の範囲内であれば良く、好ましい範囲を強いて挙げるとすると、第2材料100質量部に対する第1材料の量として、22質量部以上100質量部以下、25質量部以上75質量部以下、30質量部以上70質量部以下の各範囲を挙げることができる。
【0037】
本発明の正極は、正極活物質層を100質量部としたときに、第1材料及び第2材料を20質量部以上30質量部以下含む。本発明の正極は、100質量部の正極活物質層に対して、オリビン材料を20質量部以上30質量部以下含む、と言い換えることもできる。100質量部の正極活物質層に対する、オリビン材料の質量は、20質量%を超えるのがより好ましく、21質量部以上であるのが更に好ましく、22質量部以上であるのがなお好ましい。また、当該オリビン材料の質量部は30質量部未満であるのがより好ましく、29質量部以下であるのが更に好ましく、28質量%以下であるのが特に好ましい。
【0038】
リチウムニッケル複合酸化物の粒子とオリビン粒子とを正極活物質層に含むリチウムイオン二次電池において、集電体を通じて正極活物質層に電流が流れるとき、電流はリチウムニッケル複合酸化物の粒子とオリビン粒子との双方に流れる。したがって、リチウムニッケル複合酸化物の粒子とオリビン粒子とを含む混合電極は、リチウムニッケル複合酸化物の粒子とオリビン粒子との並列回路で表わすことができる。
【0039】
上記したように、オリビン構造のLiMhPO4はリチウムニッケル複合酸化物に比べて熱安定性に優れる。したがって、熱安定性に優れるオリビン粒子に流れる電流量をリチウムニッケル複合酸化物の粒子に流れる電流量よりも大きくできれば、リチウムイオン二次電池全体の熱安定性が高まると考えられる。
【0040】
ここで、電流は低抵抗回路に多く流れる。並列回路では電流量は体積抵抗率に反比例する。したがって、オリビン粒子としてリチウムニッケル複合酸化物の粒子よりも体積抵抗率の小さなものを用いれば、熱安定に優れるオリビン材料にリチウムニッケル複合酸化物よりも多くの電流を流し得ると考えられる。こうすることで、例えば導電性の異物によってリチウムイオン二次電池の正負極間が短絡する等の事態が生じた場合にも、リチウムニッケル複合酸化物に過大な電流が流れることを防止でき、ひいてはリチウムイオン二次電池の熱安定性を向上させ得ると考えられる。
つまり、正極活物質層にリチウムニッケル複合酸化物の粒子とオリビン粒子とを併用した正極において、オリビン粒子の体積抵抗率をリチウムニッケル複合酸化物の粒子の体積抵抗率よりも小さくすれば、リチウムイオン二次電池全体の熱安定性が向上すると考えられる。
【0041】
一般に、リチウムニッケル複合酸化物の体積抵抗率はオリビン構造のLiMhPO4の体積抵抗率よりも低い。しかし、本発明の正極に用いられるオリビン粒子は、当該LiMhPO4を炭素被覆したものである。このためオリビン粒子の体積抵抗率は、単なるLiMhPO4の体積抵抗率よりも低くなる。
炭素被覆の厚さを適宜調整したり、LiMhPO4とリチウムニッケル複合酸化物との組み合わせを適宜調整したりすることで、オリビン粒子の体積抵抗率をリチウムニッケル複合酸化物の粒子の体積抵抗率よりも小さくでき、更には、オリビン粒子の体積抵抗率をリチウムニッケル複合酸化物の粒子の体積抵抗率で除した値を、望みどおりの値にすることができる。以下、オリビン粒子の体積抵抗率をリチウムニッケル複合酸化物の粒子の体積抵抗率で除した値をLP/LO体積抵抗比と称する。
【0042】
体積抵抗率は、抵抗率、比抵抗とも呼ばれ、電気抵抗率ρで表すことができる。
電気抵抗率ρは、電気抵抗をR、導体の長さをL、導体の断面積をAとすると、ρ=(RA)/Lで表される。電気抵抗率ρの単位はΩ・cmである。
上記したLP/LO体積抵抗比が1未満であれば、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の体積抵抗率がオリビン粒子の体積抵抗率よりも大きいといえる。
【0043】
正極において、熱安定性に優れるオリビン粒子に流れる電流量をリチウムニッケル複合酸化物の粒子に流れる電流量よりも大きくするためには、LP/LO体積抵抗比を1未満にすれば良い。LP/LO体積抵抗比の好ましい範囲として、1未満、0.5以下、0.2以下、0.1以下、0.05以下、0.034以下、0.02以下、0.017以下の各範囲を挙げ得る。LP/LO体積抵抗比の下限値は特になく0を超えれば良い。更に言えばLP/LO体積抵抗比は0.01以上であるのが好ましい。
なお、LP/LO体積抵抗比としては、第1材料の粒子の体積抵抗率をリチウムニッケル複合酸化物の粒子の体積抵抗率で除した値、及び、第2材料の粒子の体積抵抗率をリチウムニッケル複合酸化物の粒子の体積抵抗率で除した値、の2通り考えられる。第1材料の粒子と第2材料の粒子とが異なる場合には、第1材料の粒子及び第2材料の粒子の両方について、LP/LO体積抵抗比が上記の好ましい範囲にあるのが良い。
【0044】
LP/LO体積抵抗比を上記範囲内とする方法として、公知の方法を用いることができる。例えば、リチウムニッケル複合酸化物の種類の選択、オリビン構造のLiMhPO4の種類の選択、オリビン粒子の炭素の被覆状態及び被覆量の調整等によって、上記LP/LO体積抵抗比を調整できる。例えば、特開2014-194879号には、炭素の被覆量が増加すると、オリビン粒子の体積抵抗率が低下する旨が示されている。
【0045】
なお、オリビン構造のLiMhPO4として、様々な体積抵抗率のものがあることは公知である。例えば、特開2014-179176号公報の段落0043及び段落0057(表1)、特開2014-029863号公報の段落0187、特開2012-204079号公報の段落0057等には、体積抵抗率の多様な当該LiMhPO4が具体的に開示されている。
【0046】
本発明のリチウムイオン二次電池において、正極活物質層は、上記の正極活物質の他に、更に、導電助剤、結着剤、分散剤等の添加剤を含み得る。
【0047】
導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。そのため、導電助剤は、電極の導電性が不足する場合に任意に加えればよく、電極の導電性が十分に優れている場合には加えなくても良い。正極に導電助剤が添加されていると、リチウムニッケル複合酸化物の粒子とオリビン粒子との双方に電流が流れやすくなる。このため、従来の正極及びリチウムイオン二次電池においては、仮に短絡が生じた場合には、熱安定性に優れるとは言えないリチウムニッケル複合酸化物の粒子にも、過電流が流れる可能性がある。
【0048】
しかしながら、かかる場合にも、本発明の正極及びリチウムイオン二次電池では、リチウムニッケル複合酸化物の粒子は、オリビン粒子である第1材料の粒子で覆われた複合体粒子として使用される。また、正極活物質層中には、当該複合体粒子と、オリビン粒子である第2材料の粒子と、が共存する。したがって、短絡時の過電流はオリビン粒子に流れ易く、リチウムニッケル複合酸化物の粒子への過電流の供給は抑制されると考えられる。実際に、本発明の正極及びリチウムイオン二次電池は、リチウムニッケル複合酸化物を含有しかつ導電助剤が含まれていても、熱安定性に優れる。
【0049】
導電助剤は化学的に不活性な電子高伝導体であれば良く、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber)、及び各種金属粒子等が例示される。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、チャンネルブラック等が例示される。これらの導電助剤を単独または二種以上組み合わせて正極活物質層に添加することができる。
【0050】
導電助剤の形状は特に制限されないが、その役割からみて、導電助剤の平均粒子径は小さいほうが好ましい。導電助剤の好ましい平均粒子径として10μm以下が例示され、より好ましい平均粒子径として0.01~1μmの範囲が例示される。
【0051】
導電助剤の配合量は特に限定されないが、あえて正極活物質層における導電助剤の配合量を挙げると、0.5~10質量%の範囲内がよく、1~7質量%の範囲内が好ましく、2~5質量%の範囲内が特に好ましい。
【0052】
結着剤は、正極活物質や導電助剤を集電体の表面に繋ぎ止める役割を果たすものである。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂を例示することができる。また、結着剤として、親水基を有するポリマーを採用してもよい。親水基を有するポリマーの親水基としては、カルボキシル基、スルホ基、シラノール基、アミノ基、水酸基、リン酸基が例示される。親水基を有するポリマーの具体例として、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリメタクリル酸、ポリ(p-スチレンスルホン酸)を挙げることができる。
【0053】
結着剤の配合量は特に限定されないが、あえて正極活物質層における結着剤の配合量を挙げると、0.5~20質量%の範囲内が好ましく、1~15質量%の範囲内がより好ましく、5~10質量%の範囲内が特に好ましい。結着剤の配合量が少なすぎると正極活物質層の成形性が低下するおそれがある。また、結着剤の配合量が多すぎると、正極活物質層における正極活物質の量が相対的に減少するため、好ましくない。
【0054】
導電助剤及び結着剤以外の分散剤などの添加剤は、公知のものを採用することができる。
【0055】
集電体は、リチウムイオン二次電池の放電又は充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子高伝導体をいう。集電体としては、銀、銅、金、アルミニウム、マグネシウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、並びにステンレス鋼などの金属材料を例示することができる。
【0056】
正極の電位をリチウム基準で4V以上とする場合には、集電体としてアルミニウムを採用するのが好ましい。
【0057】
具体的には、正極用集電体として、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるものを用いるのが好ましい。ここでアルミニウムは、純アルミニウムを指し、純度99.0%以上のアルミニウムを純アルミニウムと称する。純アルミニウムに種々の元素を添加して合金としたものをアルミニウム合金と称する。アルミニウム合金としては、Al-Cu系、Al-Mn系、Al-Fe系、Al-Si系、Al-Mg系、Al-Mg-Si系、Al-Zn-Mg系が挙げられる。
【0058】
また、アルミニウム又はアルミニウム合金として、具体的には、例えばJIS A1085、A1N30等のA1000系合金(純アルミニウム系)、JIS A3003、A3004等のA3000系合金(Al-Mn系)、JIS A8079、A8021等のA8000系合金(Al-Fe系)が挙げられる。
【0059】
集電体は公知の保護層で被覆されていても良い。集電体の表面を公知の方法で処理したものを集電体として用いても良い。
【0060】
集電体は箔、シート、フィルム、線状、棒状、メッシュなどの形態をとることができる。そのため、集電体として、例えば、銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。集電体が箔、シート、フィルム形態の場合は、その厚みが1μm~100μmの範囲内であることが好ましい。
【0061】
集電体の表面に正極活物質層を形成させるには、ロールコート法、ダイコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いて、集電体の表面に正極活物質を塗布すればよい。具体的には、活物質、溶剤、並びに必要に応じて結着剤及び導電助剤を混合してスラリーにしてから、当該スラリーを集電体の表面に塗布後、乾燥する。溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドン、メタノール、メチルイソブチルケトン、水を例示できる。電極密度を高めるべく、乾燥後のものを圧縮しても良い。
【0062】
(リチウムイオン二次電池)
本発明のリチウムイオン二次電池は、電池構成要素として、正極、セパレータ、負極及び電解液を含む。正極に関しては既述した。
【0063】
セパレータは、正極と負極とを隔離して、両極の接触による短絡を防止しつつ、電解液の貯留空間及び通路を提供するものである。セパレータとしては、公知のものを採用すればよく、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアラミド(Aromatic polyamide)、ポリエステル、ポリアクリロニトリル等の合成樹脂、セルロース、アミロース等の多糖類、フィブロイン、ケラチン、リグニン、スベリン等の天然高分子、セラミックスなどの電気絶縁性材料を1種若しくは複数用いた多孔体、不織布、織布などを挙げることができる。また、セパレータは多層構造としてもよい。
【0064】
負極は、集電体と、集電体の表面に形成された負極活物質層を有する。負極活物質層は負極活物質、並びに必要に応じて結着剤及び/又は導電助剤を含む。集電体及び導電助剤は、正極で説明したものを採用すればよい。
【0065】
負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能である単体、合金又は化合物であれば特に限定はない。たとえば、負極活物質としてLiや、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、錫などの14族元素、アルミニウム、インジウムなどの13族元素、亜鉛、カドミウムなどの12族元素、アンチモン、ビスマスなどの15族元素、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、銀、金などの11族元素をそれぞれ単体で採用すればよい。合金又は化合物の具体例としては、Ag-Sn合金、Cu-Sn合金、Co-Sn合金等の錫系材料、各種黒鉛などの炭素系材料、ケイ素単体と二酸化ケイ素に不均化するSiOx(0.3≦x≦1.6)などのケイ素系材料、ケイ素単体若しくはケイ素系材料と炭素系材料を組み合わせた複合体が挙げられる。また、負極活物質して、Nb2O5、TiO2、Li4Ti5O12、WO2、MoO2、Fe2O3等の酸化物、又は、Li3-xMxN(M=Co、Ni、Cu)で表される窒化物を採用しても良い。負極活物質として、これらのものの一種以上を使用することができる。
【0066】
ケイ素系材料の一種として、国際公開第2014/080608号に開示されるシリコン材料を用いるのも良い。当該シリコン材料は、複数枚の板状シリコン体が厚さ方向に積層されてなる構造を有するものである。シリコン材料は、例えば、CaSi2と酸とを反応させてポリシランを主成分とする層状シリコン化合物を合成する工程、さらに、当該層状シリコン化合物を300℃以上で加熱して水素を離脱させる工程を経て製造されるものである。
【0067】
シリコン材料の製造方法を、酸として塩化水素を用いた場合の理想的な反応式で示すと以下のとおりとなる。
3CaSi2+6HCl → Si6H6+3CaCl2
Si6H6 → 6Si+3H2↑
【0068】
ただし、ポリシランであるSi6H6を合成する上段の反応では、副生物や不純物除去の観点から、通常、反応溶媒として水が用いられる。そして、Si6H6は水と反応し得るため、上段の反応を含む層状シリコン化合物を合成する工程において、層状シリコン化合物がSi6H6のみを含むものとして製造されることはほとんどなく、層状シリコン化合物はSi6Hs(OH)tXu(Xは酸のアニオン由来の元素若しくは基、s+t+u=6、0<s<6、0<t<6、0<u<6)で表されるものとして製造される。なお、上記の化学式においては、残存し得るCaなどの不可避不純物については、考慮していない。そして、当該層状シリコン化合物を加熱して得られるシリコン材料も、酸素や酸のアニオン由来の元素を含む。
【0069】
既述のとおり、シリコン材料は、複数枚の板状シリコン体が厚さ方向に積層されてなる構造を有する。リチウムイオン等の電荷担体が効率的に吸蔵及び放出されるためには、板状シリコン体は厚さが10nm~100nmの範囲内のものが好ましく、20nm~50nmの範囲内のものがより好ましい。板状シリコン体の長手方向の長さは、0.1μm~50μmの範囲内のものが好ましい。また、板状シリコン体は、(長手方向の長さ)/(厚さ)が2~1000の範囲内であるのが好ましい。板状シリコン体の積層構造は走査型電子顕微鏡などによる観察で確認できる。また、この積層構造は、原料のCaSi2におけるSi層の名残りであると考えられる。
【0070】
シリコン材料には、アモルファスシリコン及び/又はシリコン結晶子が含まれるのが好ましい。特に、上記板状シリコン体において、アモルファスシリコンをマトリックスとし、シリコン結晶子が当該マトリックス中に点在している状態が好ましい。シリコン結晶子のサイズは、0.5nm~300nmの範囲内が好ましく、1nm~100nmの範囲内がより好ましく、1nm~50nmの範囲内がさらに好ましく、1nm~10nmの範囲内が特に好ましい。なお、シリコン結晶子のサイズは、シリコン材料に対してX線回折測定を行い、得られたX線回折チャートのSi(111)面の回折ピークの半値幅を用いたシェラーの式から算出される。
【0071】
シリコン材料に含まれる板状シリコン体、アモルファスシリコン及びシリコン結晶子の存在量や大きさは、主に加熱温度や加熱時間に左右される。加熱温度は、350℃~950℃の範囲内が好ましく、400℃~900℃の範囲内がより好ましい。
【0072】
珪素酸化物やシリコン材料等の珪素を含有するSi含有負極活物質は炭素で被覆されていてもよい。炭素で被覆されたシリコン材料は導電性に優れる。
【0073】
負極用の結着剤としては、上記した正極の欄に挙げたものを用いることができる。その他、負極用の結着剤として、国際公開第2016/063882号に開示される、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸などのカルボキシル基含有ポリマーをジアミンなどのポリアミンで架橋した架橋ポリマーを、結着剤として用いてもよい。
【0074】
架橋ポリマーに用いられるジアミンとしては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等のアルキレンジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン等の含飽和炭素環ジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、ビス(4-アミノフェニル)スルホン、ベンジジン、o-トリジン、2,4-トリレンジアミン、2,6-トリレンジアミン、キシリレンジアミン、ナフタレンジアミン等の芳香族ジアミンが挙げられる。
導電助剤及び結着剤以外の分散剤などの添加剤は、公知のものを採用することができる。
【0075】
負極活物質層中の結着剤の配合割合は、質量比で、負極活物質:結着剤=1:0.005~1:0.3であるのが好ましい。結着剤が少なすぎると電極の成形性が低下し、また、結着剤が多すぎると電極のエネルギー密度が低くなるためである。
【0076】
電解液は、非水溶媒とこの非水溶媒に溶解された電解質とを含んでいる。
【0077】
非水溶媒としては、環状エステル類、鎖状エステル類、エーテル類等が使用できる。環状エステル類としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ガンマブチロラクトン、ビニレンカーボネート、2-メチル-ガンマブチロラクトン、アセチル-ガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトンを例示できる。鎖状エステル類としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステル等を例示できる。エーテル類としては、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジブトキシエタンを例示できる。電解液には、これらの非水溶媒を単独で用いてもよいし、又は、複数を併用してもよい。
【0078】
電解質としては、LiClO4、LiAsF6、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiN(FSO2)2等のリチウム塩を例示できる。
【0079】
電解液としては、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネートなどの環状カーボネート又は鎖状カーボネートを含有する非水溶媒に、LiClO4、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiN(FSO2)2などのリチウム塩を溶解させた溶液を例示できる。
リチウム塩の濃度の好ましい範囲としては、0.5モル/L~3.0モル/L、1.5モル/L~3.0モル/L、1.8モル/L~3.0モル/Lの各範囲を挙げ得る。
【0080】
リチウムイオン二次電池を製造するために、例えば、正極および負極にセパレータを挟装させ電極体とする。電極体は、正極、セパレータ及び負極を重ねた積層型、又は、正極、セパレータ及び負極を捲いた捲回型のいずれの型にしても良い。正極の集電体および負極の集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を、集電用リード等を用いて接続した後に、電極体に電解液を加えてリチウムイオン二次電池とするとよい。
【0081】
リチウムイオン二次電池は車両に搭載することができる。リチウムイオン二次電池は、大きな充放電容量を維持し、かつ優れたサイクル性能を有するため、これを搭載した車両は、高性能の車両となる。
【0082】
車両としては、電池による電気エネルギーを動力源の全部または一部に使用する車両であればよく、例えば、電気自動車、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、ハイブリッド鉄道車両、電動フォークリフト、電気車椅子、電動アシスト自転車、電動二輪車が挙げられる。
【0083】
以上、本発明の正極及びリチウムイオン二次電池を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例】
【0084】
(実施例1)
(正極活物質)
〔リチウムニッケル複合酸化物の粒子〕
正極活物質として、リチウムニッケル複合酸化物の粒子およびオリビン粒子を用いた。
リチウムニッケル複合酸化物の粒子としては、平均粒子径9~12μm程度のLiNi0.83Co0.154Al0.016O2を用いた。
〔オリビン粒子(第1材料の粒子、第2材料の粒子)〕
オリビン粒子としては、平均粒子径2~6μm程度のオリビン構造のLiMhPO4を炭素被覆したものを用いた。当該LiMhPO4としては、Fe及びMnを含むLiMn7/10Fe3/10PO4を用いた。なお、オリビン粒子は、SEM(走査型電子顕微鏡)下において、直径数百nm程度の一次粒子の凝集体として観察される。
オリビン粒子は、オリビン構造のLiMhPO4が炭素被覆された市販のオリビン粒子を、炭素源としてプロパンガスを用いた化学気相成長(CVD)法により更に炭素被覆することで製造した。原料となる市販のオリビン粒子を原料オリビン粒子と称し、第1材料の粒子及び第2材料の粒子たるオリビン粒子とは区別する。
原料オリビン粒子100gを入れたロータリーキルンに混合ガスを供給しつつ、当該ロータリーキルンを1rpmで回転させ、860℃で5分間加熱した。混合ガスとしてはプロパンガスとアルゴンガスとを体積比1:1で混合したものを用い、混合ガスの供給速度は2L/分であった。
以上の工程で第1材料の粒子及び第2材料の粒子たるオリビン粒子を得た。当該オリビン粒子の平均粒子径は、2~6μm程度であった。
【0085】
〔複合体粒子〕
リチウムニッケル複合酸化物の粒子350g及びオリビン粒子50gを混合装置に入れ、4250rpmで3分間混合した。混合装置としては、ホソカワミクロン株式会社製のノビルタ(R)NOB-130を用いた。当該混合装置は、混合する対象に圧縮力、剪断力及び衝撃力を作用させつつ混合する装置とされている。
以上の工程で複合体粒子を得た。複合体粒子の平均粒子径は、9~13μm程度であった。
【0086】
上記のリチウムニッケル複合酸化物の粒子、オリビン粒子及び複合体粒子について、体積抵抗率を測定した。詳しくは、各試料2gを直径2cmの円筒管に入れ、荷重20kNで各成分を圧縮し、三菱化学アナリテック製抵抗測定装置(商品名 MCP-PD51)にて体積抵抗率を求めた。その結果、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の体積抵抗率は29.8Ω・cm、オリビン粒子の体積抵抗率は0.35~0.45Ω・cmであった。
オリビン粒子の体積抵抗率をリチウムニッケル複合酸化物の粒子の体積抵抗率で除したLP/LO体積抵抗比は、0.012~0.015であった。
【0087】
(リチウムイオン二次電池)
〔正極〕
正極活物質として上記の複合体粒子を80質量部、正極活物質として上記のオリビン粒子を10質量部、導電助剤として平均粒子径0.05~0.1μmのアセチレンブラックを3質量部、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを7質量部、溶剤として適量のN-メチル-2-ピロリドンをそれぞれ量り取り、遊星式攪拌脱泡装置を用いてこれらを混合して、スラリーを製造した。正極用集電体として厚さ20μmのアルミニウム箔を準備した。このアルミニウム箔の表面に、ドクターブレードを用いて、上記スラリーを膜状に塗布した。スラリーが塗布された銅箔を乾燥してN-メチル-2-ピロリドンを除去した。その後、アルミニウム箔をプレスし、接合物を得た。得られた接合物を乾燥機で120℃、6時間加熱乾燥し、裁断して、正極活物質層が形成されたアルミニウム箔からなる正極を製造した。以上の工程で実施例1の正極を得た。なお、正極の目付量は20.2mg/cm2であり、正極の密度は2.86g/cm3であった。
【0088】
〔負極〕
アルゴン雰囲気下、10℃とした濃度36重量%のHCl水溶液に、CaSi2を加えて撹拌した。反応液を濾過し、残渣を蒸留水及びエタノールで洗浄し、さらに減圧乾燥してポリシランを含む層状シリコン化合物を分離した。層状シリコン化合物を、アルゴンガス雰囲気下、900℃で1時間加熱して、シリコン材料を得た。当該シリコン材料の粉砕物を炭素被覆して、以下の負極活物質として用いた。
【0089】
負極活物質としてシリコン材料を70.3質量部、導電助剤としてアセチレンブラックを13.5質量部、結着剤としてポリアクリル酸と4,4’-ジアミノジフェニルメタンとの混合物9質量部、及び適量のN-メチル-2-ピロリドンを混合して、スラリーを製造した。負極用集電体として銅箔を準備した。この銅箔の表面に、ドクターブレードを用いて上記スラリーを膜状に塗布した。スラリーが塗布された銅箔を乾燥することで、N-メチル-2-ピロリドンを除去した。その後、銅箔をプレスし、接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で加熱乾燥して、負極活物質層が形成された銅箔からなる負極を製造した。なお、結着剤として用いたポリアクリル酸と4,4’-ジアミノジフェニルメタンとの混合物は、上記加熱乾燥にて脱水反応が進行して、ポリアクリル酸を4,4’-ジアミノジフェニルメタンで架橋した架橋ポリマーに変化する。
【0090】
〔その他〕
セパレータとして、厚さ25μmのポリエチレン製かつ単層構造の多孔質膜を準備した。上記の正極および負極で当該セパレータを挟持して極板群とした。この極板群を二枚一組のラミネートフィルムで覆い、三辺をシールした後、袋状となったラミネートフィルムに電解液を注入した。電解液としては、1,2-ジメトキシエタン:ジメチルカーボネートを体積比7:3で混合した溶媒にLiN(FSO2)2を1モル/L及びLiPF6を1モル/Lとなるよう溶解した溶液を用いた。その後、残りの一辺をシールすることで、四辺が気密にシールされ、極板群及び電解液が密閉された実施例1のリチウムイオン二次電池を得た。
実施例1の正極及びリチウムイオン二次電池の組成を、以下の実施例2~実施例4及び比較例1~比較例3とともに、後述する表1に示す。
【0091】
(実施例2)
正極以外は実施例1と同様に、実施例2のリチウムイオン二次電池を製造した。
正極活物質として、実施例1と同じリチウムニッケル複合酸化物の粒子、及び、実施例1と同じオリビン粒子を用いた。
リチウムニッケル複合酸化物の粒子369g及びオリビン粒子31gを実施例1と同じ混合装置に入れ、実施例1と同じ条件で混合して、複合体粒子を得た。複合体粒子の平均粒子径は、9~13μm程度であった。
正極活物質として上記の複合体粒子を65質量部、正極活物質として上記のオリビン粒子を25質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様に、実施例2の正極を得た。実施例2の正極において、目付量及び密度は実施例1と同じであった。実施例2の正極を用いたこと以外は実施例1と同様に、実施例2のリチウムイオン二次電池を得た。
【0092】
(実施例3)
正極以外は実施例1と同様に、実施例3のリチウムイオン二次電池を製造した。
正極活物質として、実施例1と同じリチウムニッケル複合酸化物の粒子、及び、実施例1と同じオリビン粒子を用いた。
リチウムニッケル複合酸化物の粒子343g及びオリビン粒子57gを実施例1と同じ混合装置に入れ、実施例1と同じ条件で混合して、複合体粒子を得た。複合体粒子の平均粒子径は、9~13μm程度であった。
正極活物質として上記の複合体粒子70質量部、及び、正極活物質として上記のオリビン粒子20質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様に、実施例3の正極を得た。実施例3の正極においても、目付量及び密度は実施例1と同じであった。実施例2の正極を用いたこと以外は実施例1と同様に、実施例3のリチウムイオン二次電池を得た。
【0093】
(実施例4)
正極以外は実施例1と同様に、実施例4のリチウムイオン二次電池を製造した。
正極活物質として、実施例1と同じリチウムニッケル複合酸化物の粒子、及び、実施例1と同じオリビン粒子を用いた。
リチウムニッケル複合酸化物の粒子320g及びオリビン粒子80gを実施例1と同じ混合装置に入れ、実施例1と同じ条件で混合して、複合体粒子を得た。複合体粒子の平均粒子径は、9~13μm程度であった。
正極活物質として上記の複合体粒子75質量部、及び、正極活物質として上記のオリビン粒子15質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様に、実施例4の正極を得た。実施例4の正極においても、目付量及び密度は実施例1と同じであった。実施例4の正極を用いたこと以外は実施例1と同様に、実施例4のリチウムイオン二次電池を得た。
【0094】
(比較例1)
正極以外は実施例1と同様に、比較例1のリチウムイオン二次電池を製造した。
正極活物質として、実施例1と同じリチウムニッケル複合酸化物の粒子、及び、実施例1と同じオリビン粒子を用いた。比較例1では、複合体粒子とせず、リチウムニッケル複合酸化物の粒子をそのまま用いた。
正極活物質として上記のリチウムニッケル複合酸化物の粒子70質量部、及び、正極活物質として上記のオリビン粒子20質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様に、比較例1の正極を得た。比較例1の正極においても、目付量及び密度は実施例1と同じであった。比較例1の正極を用いたこと以外は実施例1と同様に、比較例1のリチウムイオン二次電池を得た。
【0095】
(比較例2)
正極以外は実施例1と同様に、比較例2のリチウムイオン二次電池を製造した。
正極活物質として、実施例1と同じリチウムニッケル複合酸化物の粒子、及び、実施例1と同じオリビン粒子を用いた。
リチウムニッケル複合酸化物の粒子300g及びオリビン粒子100gを実施例1と同じ混合装置に入れ、実施例1と同じ条件で混合して、複合体粒子を得た。複合体粒子の平均粒子径は、9~13μm程度であった。
正極活物質として上記の複合体粒子80質量部、及び、正極活物質として上記のオリビン粒子10質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様に、比較例2の正極を得た。比較例2の正極においても、目付量及び密度は実施例1と同じであった。比較例2の正極を用いたこと以外は実施例1と同様に、比較例2のリチウムイオン二次電池を得た。
【0096】
(比較例3)
正極以外は実施例1と同様に、比較例3のリチウムイオン二次電池を製造した。
正極活物質として、実施例1と同じリチウムニッケル複合酸化物の粒子、及び、実施例1と同じオリビン粒子を用いた。
リチウムニッケル複合酸化物の粒子333g及びオリビン粒子67gを実施例1と同じ混合装置に入れ、実施例1と同じ条件で混合して、複合体粒子を得た。複合体粒子の平均粒子径は、9~13μm程度であった。
正極活物質として上記の複合体粒子60質量部、及び、正極活物質として上記のオリビン粒子30質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様に、比較例3の正極を得た。比較例3の正極においても、目付量及び密度は実施例1と同じであった。また、比較例3の正極を用いたこと以外は実施例1と同様に、比較例3のリチウムイオン二次電池を得た。
【0097】
【0098】
(評価1 10秒放電抵抗)
SOC15%に調整した実施例1~実施例4及び比較例1~比較例3の各リチウムイオン二次電池につき、25℃、1Cレートの定電流にて、10秒間放電させた。放電前後の電圧変化量及び電流値から、オームの法則により、放電時の直流抵抗を算出した。結果を表2に示す。なお、表2には後述する評価2 釘刺し試験の結果も併記した。
【0099】
【0100】
(評価2 釘刺し試験)
実施例1及び比較例1の各リチウムイオン二次電池につき、以下の方法で強制短絡試験としての釘刺し試験を行った。
リチウムイオン二次電池に対し、4.5Vの電位で安定するまで定電圧充電を行った。充電後のリチウムイオン二次電池(放電容量は4Ah程度と見込まれる。)を、径20mmの孔を有する拘束板上に配置した。上部に釘が取り付けられたプレス機に拘束板を配置した。釘が拘束板上の電池を貫通して、釘の先端部が拘束板の孔内部に位置するまで、釘を上部から下部に20mm/sec.の速度で移動させた。釘内部に設けた熱電対の温度を経時的に測定した。測定された表面温度のうち、最高温度を表2に示す。
【0101】
比較例1のリチウムイオン二次電池においては、釘内部の熱電対の温度が343.3℃と高温になったのに対し、実施例1のリチウムイオン二次電池においては、釘内部の熱電対の温度は198.8℃に留まった。この釘刺し試験の結果から、実施例1のリチウムイオン二次電池は比較例1のリチウムイオン二次電池よりも熱安定性に優れるといえる。
【0102】
表2に示す10秒放電抵抗の結果および釘刺し試験の結果を勘案すると、熱安定性を向上させるためには、実施例1のリチウムイオン二次電池のように、10秒放電抵抗が3.0Ωを超えるのが良いと考えられる。一方、10秒放電抵抗が4.5Ωを超えるとリチウムイオン二次電池の出力が低下すると考えられる。これらのことから、10秒放電抵抗を、3.0Ωを超え4.5Ω以下の範囲に収めることで、リチウムイオン二次電池に優れた熱安定性及び出力の両方を付与できると考えられる。そして、10秒放電抵抗を3.0Ωを超え4.5Ω以下の範囲に収めるためには、正極を、(1)正極活物質層を100質量部としたときに、第1材料及び第2材料を20質量部以上30質量部以下含む、(2)第2材料の量を100質量部としたときに、複合体粒子に含まれる第1材料の量は、20質量部以上100質量部以下である、を両立させるのが良いといえる。