(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】ラジアスエンドミル
(51)【国際特許分類】
B23C 5/10 20060101AFI20220315BHJP
【FI】
B23C5/10 Z
(21)【出願番号】P 2018007473
(22)【出願日】2018-01-19
【審査請求日】2020-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】細川 真靖
(72)【発明者】
【氏名】坂口 光太郎
【審査官】中里 翔平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2004/058438(WO,A1)
【文献】特開2003-275918(JP,A)
【文献】特開2006-297495(JP,A)
【文献】特開2005-246492(JP,A)
【文献】特開2005-262434(JP,A)
【文献】特開2014-046440(JP,A)
【文献】特開2016-097452(JP,A)
【文献】特開2016-159379(JP,A)
【文献】国際公開第2013/099954(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/10
B23P 15/34
B24B 3/00- 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線回りに回転されるエンドミル本体の先端部外周に後端側に向けて延びる切屑排出溝が形成され、この切屑排出溝のエンドミル回転方向を向く壁面がすくい面とされて、このすくい面の先端側辺稜部には上記エンドミル本体の内周側から外周側に延びる底刃が形成されるとともに、上記すくい面の外周側辺稜部には上記軸線方向に延びる外周刃が形成され、これらの底刃と外周刃との間のコーナ部にはエンドミル回転方向から見て上記底刃と外周刃に接する凸曲線状に延びるコーナ刃が形成されたラジアスエンドミルであって、
上記すくい面は、少なくとも上記底刃の外周部から上記外周刃の先端部にかけての範囲に亙って連続した1つの凸曲面によって形成された凸曲面部を備えており、
この凸曲面部が形成された範囲においては、上記底刃と上記コーナ刃と上記外周刃とがエンドミル回転方向に向けて凸となる凸曲線状に形成されているとともに、上記底刃と上記コーナ刃と上記外周刃とを介して上記すくい面に交差する逃げ面にはエンドミル回転方向に延びる稜線が形成されて
おらず、
上記逃げ面の研磨痕が、上記底刃から上記コーナ刃にかけてその方向が一定の方向で連続していることを特徴とするラジアスエンドミル。
【請求項2】
上記すくい面に上記凸曲面部が形成された範囲における上記逃げ面の上記底刃の外周部から上記外周刃の先端部に向けた方向への最大高さ粗さRzが2.0μm未満であることを特徴とする請求項1に記載のラジアスエンドミル。
【請求項3】
上記逃げ面には、上記底刃と上記コーナ刃と上記外周刃との全長に亙ってエンドミル回転方向に延びる稜線が形成されていないことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のラジアスエンドミル。
【請求項4】
上記すくい面に上記凸曲面部が形成された範囲における該すくい面の上記底刃の外周部から上記外周刃の先端部に向けた方向への最大高さ粗さRzが2.0μm未満であることを特徴とする請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載のラジアスエンドミル。
【請求項5】
上記すくい面は、上記底刃の全長において上記凸曲面部により形成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載のラジアスエンドミル。
【請求項6】
上記すくい面は、上記外周刃の上記コーナ刃との接点から上記軸線方向後端側に向けて上記外周刃の上記軸線回りの回転半径までの長さの範囲で上記凸曲面部により形成されていることを特徴とする請求項1から請求項5のうちいずれか一項に記載のラジアスエンドミル。
【請求項7】
上記コーナ刃が上記軸線回りになす回転軌跡の該軸線を含む平面における投影線は凸円弧状であり、この凸円弧を二等分して上記コーナ刃に交差する上記凸曲面部に垂直な断面における該コーナ刃のすくい角が、この断面と上記軸線との交点を通って上記底刃に交差する上記凸曲面部に垂直な断面における該底刃のすくい角、および上記交点を通って上記外周刃に交差する上記凸曲面部に垂直な断面における該外周刃のすくい角よりも正角側に大きいことを特徴とする請求項1から請求項6のうちいずれか一項に記載のラジアスエンドミル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンドミル本体の先端部に底刃が形成されるとともに、先端部外周には外周刃が形成され、さらにこれらの底刃と外周刃との間のコーナ部にはエンドミル回転方向から見て底刃と外周刃に接する凸曲線状に延びるコーナ刃が形成されたラジアスエンドミルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
このようなラジアスエンドミルとして、例えば特許文献1には、上記コーナ刃に直交する断面における該コーナ刃の逃げ角が、外周刃の先端から底刃の外周端に向かうに従い漸次減少しているものが記載されている。また、特許文献2には、底刃のすくい面とコーナ刃のすくい面と外周刃の先端部のすくい面とが滑らかに連続する1つの曲面とされたものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-246492号公報
【文献】特開2010-221397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、この特許文献2に記載されたラジアスエンドミルのように底刃のすくい面とコーナ刃のすくい面と外周刃の先端部のすくい面とが滑らかに連続する1つの曲面に形成されていたとしても、特許文献1の各図に示されるように底刃の逃げ面とコーナ刃の逃げ面との接線、およびコーナ刃の逃げ面と外周刃の逃げ面との接線が稜線として表れていると、金型等の切削加工時に過大な負荷が作用したときには、これらの稜線との交点から底刃やコーナ刃、外周刃にチッピングが生じてしまうおそれがある。
【0005】
また、特許文献1に記載されたラジアスエンドミルでは、底刃が直線状に形成されており、切削加工時に被削材に一気に食い付くおそれがあって衝撃的な負荷が作用し易い。そして、このような衝撃的な負荷によっても、底刃の逃げ面とコーナ刃の逃げ面との接線がなす稜線との交点から底刃にチッピングが発生し易くなってしまう。さらに、このように底刃が被削材に一気に食い付くことによって切削抵抗が増大したり、ビビリ振動を招いたりするおそれもある。
【0006】
本発明は、このような背景の下になされたもので、金型等の切削加工においても底刃やコーナ刃、外周刃にチッピングが発生するのを防ぐことができるとともに、切削抵抗の増大やビビリ振動の発生を抑えることが可能なラジアスエンドミルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、軸線回りに回転されるエンドミル本体の先端部外周に後端側に向けて延びる切屑排出溝が形成され、この切屑排出溝のエンドミル回転方向を向く壁面がすくい面とされて、このすくい面の先端側辺稜部には上記エンドミル本体の内周側から外周側に延びる底刃が形成されるとともに、上記すくい面の外周側辺稜部には上記軸線方向に延びる外周刃が形成され、これらの底刃と外周刃との間のコーナ部にはエンドミル回転方向から見て上記底刃と外周刃に接する凸曲線状に延びるコーナ刃が形成されたラジアスエンドミルであって、上記すくい面は、少なくとも上記底刃の外周部から上記外周刃の先端部にかけての範囲に亙って連続した1つの凸曲面によって形成された凸曲面部を備えており、この凸曲面部が形成された範囲においては、上記底刃と上記コーナ刃と上記外周刃とがエンドミル回転方向に向けて凸となる凸曲線状に形成されているとともに、上記底刃と上記コーナ刃と上記外周刃とを介して上記すくい面に交差する逃げ面にはエンドミル回転方向に延びる稜線が形成されておらず、上記逃げ面の研磨痕が、上記底刃から上記コーナ刃にかけてその方向が一定の方向で連続していることを特徴とする。
【0008】
このように構成されたラジアスエンドミルにおいては、少なくとも底刃の外周部から外周刃の先端部にかけてのコーナ刃を含む範囲に亙ってすくい面が連続した1つの凸曲面によって形成された凸曲面部を備えているので、この範囲において底刃やコーナ刃、外周刃によって生成された切屑を速やかにすくい面から剥離させて円滑に排出することが可能となり、切削抵抗の低減を図ることができる。
【0009】
また、この凸曲面部が形成された範囲においては、底刃とコーナ刃と外周刃とがエンドミル回転方向に向けて凸となる凸曲線状に形成されているため、底刃やコーナ刃が被削材に食い付く際には最もエンドミル回転方向に凸となった位置から徐々に食い付くことになって衝撃的な負荷が作用するのを避けることができ、チッピングや切削抵抗の増大、ビビリ振動の発生を抑えることができる。
【0010】
そして、さらにこうして少なくともすくい面が凸曲面部によって形成された範囲においては、このすくい面に底刃とコーナ刃と外周刃とを介して交差する逃げ面にエンドミル回転方向に延びる稜線が形成されていないので、上記構成のラジアスエンドミルでは、このような稜線が底刃やコーナ刃、外周刃に交差することもなく、この稜線との交点が起点となって底刃やコーナ刃、外周刃にチッピングが生じることもない。このため、高硬度の金型等に対しても、長期に亙って安定した切削加工を行うことが可能となる。
【0011】
ここで、上記すくい面に上記凸曲面部が形成された範囲における上記逃げ面の上記底刃の外周部から上記外周刃の先端部に向けた方向へのJIS B0601:2013における最大高さ粗さRzは2.0μm未満であることが望ましい。このような方向の最大高さ粗さRzが2.0μm以上となるような段差が逃げ面に形成されていると、エンドミル回転方向に延びる稜線が目視でも確認でき、この稜線と底刃やコーナ刃、外周刃との交点からチッピングが生じるおそれが高くなる。
【0012】
また、上記逃げ面には、上記底刃と上記コーナ刃と上記外周刃との全長に亙ってエンドミル回転方向に延びる稜線が形成されていないことが望ましい。これにより、これら底刃とコーナ刃と外周刃の全長に亙って、このような稜線との交点からのチッピングを防止することができる。
【0013】
さらに、すくい面についても、上記すくい面に上記凸曲面部が形成された範囲における該すくい面の上記底刃の外周部から上記外周刃の先端部に向けた方向へのJIS B0601:2013における最大高さ粗さRzも2.0μm未満であることが望ましい。すなわち、すくい面においても、このような方向の最大高さ粗さRzが2.0μm以上となるような段差が形成されていると、やはりこの段差が稜線として目視でも確認でき、この稜線と底刃やコーナ刃、外周刃との交点からチッピングが生じるおそれが高くなる。
【0014】
また、上記すくい面は、上記底刃の全長において上記凸曲面部により形成されていることが望ましい。これにより、底刃においては、コーナ刃と連続するその全長に亙って逃げ面に稜線が形成されることがなくなるとともに、すくい面にも稜線が形成されることがなくなるので、特に通常は最も初めに被削材に食い付くことになる底刃のチッピングを確実に防止することが可能となる。
【0015】
さらに、上記すくい面は、上記外周刃の上記コーナ刃との接点から上記軸線方向後端側に向けて上記外周刃の上記軸線回りの回転半径までの長さの範囲で上記凸曲面部により形成されていることが望ましい。これにより、外周刃においても、コーナ刃と連続して専ら切削加工に使用されるその先端部においてすくい面と逃げ面とに稜線が形成されることがなくなるので、チッピングの発生を確実に防止することができる。
【0016】
さらにまた、上記コーナ刃が上記軸線回りになす回転軌跡の該軸線を含む平面における投影線が凸円弧状である場合に、この凸円弧を二等分して上記コーナ刃に交差する上記凸曲面部に垂直な断面における該コーナ刃のすくい角は、この断面と上記軸線との交点を通って上記底刃に交差する上記凸曲面部に垂直な断面における該底刃のすくい角、および上記交点を通って上記外周刃に交差する上記凸曲面部に垂直な断面における該外周刃のすくい角よりも正角側に大きいことが望ましい。
【0017】
金型等の切削加工に用いられる場合に、ラジアスエンドミルにおいては、コーナ刃が専ら主として使用されるので、このコーナ刃における上記すくい角を底刃や外周刃の上記すくい角よりも正角側に大きくすることにより、切れ味の向上を図って切削抵抗の一層の低減を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、円滑な切屑排出性を得ることが可能となるとともに、底刃やコーナ刃が被削材に食い付く際の衝撃的な負荷を抑えることができて、切削抵抗の増大やビビリ振動を防ぐことができ、さらに逃げ面の稜線との交点からの底刃やコーナ刃、外周刃のチッピングも防いで、高硬度の金型等に対して長期に亙って安定した切削加工を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図3】
図1に示す実施形態の先端部の側面図である。
【
図4】
図1に示す実施形態の底刃、コーナ刃、および外周刃の軸線回りの回転軌跡の軸線を含む平面への投影図と断面の位置を示す図である。
【
図5】
図1に示す実施形態のラジアスエンドミルの底刃からコーナ刃にかけての逃げ面の状態を示す図である。
【
図6】従来のラジアスエンドミルの底刃からコーナ刃にかけての逃げ面の状態を示す図である。
【
図7】本発明の実施例における切削長2.5mのときのすくい面の状態を示す図である。
【
図8】本発明の実施例における切削長5.0mのときのすくい面の状態を示す図である。
【
図9】本発明の実施例における切削長7.5mのときのすくい面の状態を示す図である。
【
図10】本発明の実施例における切削長10.0mのときのすくい面の状態を示す図である。
【
図11】本発明の実施例における切削長12.5mのときのすくい面の状態を示す図である。
【
図12】本発明の実施例に対する比較例における切削長2.5mのときのすくい面の状態を示す図である。
【
図13】本発明の実施例に対する比較例おける切削長5.0mのときのすくい面の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1ないし
図5は、本発明の一実施形態を示すものである。本実施形態において、エンドミル本体1は、超硬合金等の硬質材料により軸線O
を中心とした円柱軸状に一体に形成され、その先端部(
図1において左下側部分)が切刃部2とされるとともに、後端部(
図1において右上側部分)がシャンク部3とされる。このようなラジアスエンドミルは、シャンク部3が工作機械の主軸に把持されて軸線O回りにエンドミル回転方向Tに回転されつつ該軸線Oに交差する方向に送り出されることにより、切刃部2によって金型等の被削材に切削加工を行う。
【0021】
切刃部2には、エンドミル本体1の先端から後端側に向けてエンドミル回転方向Tとは反対側に捩れるように延びる切屑排出溝4が複数条(本実施形態では4条)、周方向に等間隔に形成されている。これらの切屑排出溝4のエンドミル回転方向Tを向く壁面はすくい面5とされており、このすくい面5の先端側辺稜部にはエンドミル本体1の内周側から外周側に延びる底刃6が形成されるとともに、すくい面5の外周側辺稜部には軸線O方向に延びる外周刃7が形成され、これらの底刃6と外周刃7との間のコーナ部にはエンドミル回転方向Tから見て底刃6と外周刃7に接する凸曲線状に延びるコーナ刃8が形成されている。
【0022】
底刃6は、エンドミル本体1の内周側から外周側に向かうに従い僅かに先端側に延びるように形成されていて、いわゆるすかし角(中低角)が与えられている。なお、底刃6の外周部のコーナ刃8に連なる部分には、軸線Oに垂直に延びるワイパー刃部を設けてもよい。また、外周刃7は、通常は軸線O回りの回転軌跡が軸線Oを中心とする円筒面となるように形成されるが、この回転軌跡が軸線O方向後端側に向かうに従い僅かに縮径するようにバックテーパを付けてもよい。さらに、コーナ刃8は、軸線O回りの回転軌跡の該軸線Oを含む平面への投影線が略1/4円弧状をなすように形成されている。
【0023】
さらにまた、切屑排出溝4のエンドミル回転方向Tとは反対側を向く壁面の先端部内周には凹溝状のギャッシュ9がそれぞれ形成されており、これらのギャッシュ9により底刃6は、切刃部2の先端の軸線O近傍から外周側に延びる長底刃6Aと、軸線Oから僅かに離れた位置から外周側に延びる短底刃6Bとが周方向に交互に形成される。長底刃6Aのギャッシュ9は、そのエンドミル回転方向T側に隣接する短底刃6Bのギャッシュ9と軸線O近傍で連通しており、エンドミル回転方向Tとは反対側に隣接する短底刃6Bのギャッシュ9とは連通していない。
【0024】
また、底刃6に連なる切刃部2の先端面と外周刃7に連なる切刃部2の外周面、およびコーナ刃8に連なる切刃部2の先端外周面は、所定の逃げ角が与えられた逃げ面10とされている。ここで、本実施形態では、この逃げ面10のうち、エンドミル回転方向T側に位置して底刃6、外周刃7、およびコーナ刃8に交差する部分は逃げ角が小さくて周方向に幅狭の第1逃げ面10Aとされるとともに、この第1逃げ面10Aのエンドミル回転方向Tとは反対側に連なる部分は第1逃げ面10Aよりも逃げ角が大きくて幅広の第2逃げ面10Bとされている。
【0025】
このような構成のラジアスエンドミルにおいて、上記すくい面5は、少なくとも底刃6の外周部から外周刃7の先端部にかけての範囲に亙って連続した1つの凸曲面により形成された凸曲面部5Aを備えている。この凸曲面部5Aはエンドミル回転方向T側に向けて凸となるものであって、エンドミル本体1の径方向にはこのような凸曲面を描きつつ内周側から外周側に向かうに従いエンドミル回転方向Tとは反対側に延び、また軸線O方向においてはエンドミル本体1の先端側から後端側に向かうに従い、凸曲面を描きつつエンドミル回転方向T側に延びた後に切屑排出溝4の捩れに合わせてエンドミル回転方向Tとは反対側に延びるようにされた、略球面の一部として形成されている。
【0026】
また、本実施形態では、底刃6については、その全長に亙ってすくい面5がこのような凸曲面部5Aとされている。さらに、外周刃7については、コーナ刃8との接点から軸線O方向後端側に向けて少なくとも外周刃7の軸線O回りの回転半径(外周刃7の軸線O回りの回転軌跡がなす上記円筒面の半径)までの長さの範囲が、このような凸曲面部5Aとされている。従って、コーナ刃8については、その全長においてすくい面5がこの凸曲面部5Aとされている。
【0027】
このような凸曲面部5Aが形成されることにより、この凸曲面部5Aが形成された範囲では、底刃6、外周刃7、およびコーナ刃8も、これら底刃6の内周部(内周端)からコーナ刃8、および外周刃7の先端部にかけて、エンドミル回転方向T側に凸となる凸曲線を描きつつ、エンドミル回転方向Tとは反対側に延びるように形成されることになる。また、底刃6、外周刃7、コーナ刃8の径方向すくい角と底刃6の軸方向すくい角はいずれも負角(ネガティブ)とされるとともに、外周刃7の軸方向すくい角は正角(ポジティブ)とされ、コーナ刃8の軸方向すくい角は底刃6側から外周刃7側に向かうに従い負角から正角へと変化する。
【0028】
さらにまた、コーナ刃8が軸線O回りになす回転軌跡の該軸線Oを含む平面における投影線が上述のように略1/4の凸円弧状であるのに対し、
図4に示すようにこの凸円弧を二等分して上記コーナ刃8に交差する凸曲面部5Aに垂直な断面(
図4におけるXX断面)におけるコーナ刃8のすくい角は、負角ではあるものの、この断面と上記軸線Oとの交点Pを通って底刃6に交差する凸曲面部5Aに垂直な断面(
図4におけるYY断面)における底刃6のすくい角、および上記交点Pを通って外周刃7に交差する凸曲面部5Aに垂直な断面(
図4におけるZZ断面)における外周刃7のすくい角よりも正角側に大きくなるようにされている。
【0029】
そして、さらにこのような構成のラジアスエンドミルでは、このような底刃6とコーナ刃8と外周刃7とを介してすくい面5に交差する上記逃げ面10には、少なくとも上記凸曲面部5Aが形成された範囲において、特許文献1に示されたようなエンドミル回転方向Tに延びる稜線が形成されていない。ここで、本実施形態では、底刃6とコーナ刃8と外周刃7の全長に亙って逃げ面10にエンドミル回転方向Tに延びる稜線は形成されておらず、しかも逃げ面10の第1逃げ面10Aと第2逃げ面10Bとの双方にこのような稜線は形成されていない。
【0030】
具体的には、少なくともすくい面5に上記凸曲面部5Aが形成された範囲における逃げ面10の底刃6の外周部から外周刃7の先端部に向けた方向への最大高さ粗さRzが2.0μm未満とされている。特に、底刃6とコーナ刃8と外周刃7の全長に亙って逃げ面10にエンドミル回転方向Tに延びる稜線が形成されていない本実施形態では、底刃6とコーナ刃8と外周刃7の全長に亙って、これら底刃6、コーナ刃8、および外周刃7に沿った方向のJIS B0601:2013における最大高さ粗さRzが2.0μm未満とされている。
【0031】
また、本実施形態では、すくい面5に上記凸曲面部5Aが形成された範囲においても、該すくい面5には底刃6やコーナ刃8、外周刃7に交差する稜線は形成されていない。すなわち、底刃6の全長とコーナ刃8および外周刃7の先端部の範囲のすくい面5が凸曲面部5Aとされた本実施形態では、この範囲に底刃6、コーナ刃8および外周刃7に交差する稜線は形成されておらず、具体的にはこの凸曲面部5Aが形成された範囲におけるすくい面5の底刃6の外周部から外周刃7の先端部に向けた方向へのJIS B0601:2013における最大高さ粗さRzも2.0μm未満とされている。
【0032】
このように構成されたラジアスエンドミルにおいては、まず少なくとも底刃6の外周部から外周刃7の先端部にかけてのすくい面5に亙って連続した1つの凸曲面より形成された凸曲面部5Aが備えられているので、底刃6の外周部や外周刃7の先端部、およびコーナ刃8の全長によって生成された切屑は、すくい面5の凸曲面部5Aを擦過するうちに速やかに凸曲面部5Aから剥離する。すなわち、すくい面5からの切屑離れを良好にすることができるので、切削抵抗の低減を図ることができる。
【0033】
また、このような凸曲面部5Aが形成されることに伴い、上述のように該凸曲面部5Aが形成された範囲においては、底刃6とコーナ刃8と外周刃7もエンドミル回転方向Tに向けて凸となる凸曲線状に形成される。従って、このうち底刃6とコーナ刃8は、エンドミル回転方向Tに最も凸となった位置から徐々に被削材に食い付くことになり、食い付きの際の衝撃的な負荷が作用することがなくなって、これら底刃6やコーナ刃8にチッピングが生じるのを防ぐことができるとともに切削抵抗の増大やビビリ振動の発生も抑制することができる。
【0034】
そして、さらに上記構成のラジアスエンドミルでは、こうして少なくともすくい面5が凸曲面部5Aによって形成された範囲においては、逃げ面10にエンドミル回転方向Tに延びる稜線が形成されていないので、そのような稜線が底刃6やコーナ刃8、外周刃7と交差することもない。このため、高硬度の金型等の切削加工を行う場合でも、そのような稜線との交点が起点となって底刃6やコーナ刃8、外周刃7にチッピングが生じるようなこともなく、長期に亙って安定した切削加工を行うことが可能となる。
【0035】
具体的に、本実施形態では
図5に示すように、逃げ面10を形成するときに残される研磨砥石による研磨痕が、底刃6からコーナ刃8にかけてその方向が一定の方向で連続しており、底刃6の外周部から外周刃7の先端部に向けた方向へのJIS B0601:2013における最大高さ粗さRzが2.0μm以上となるような段差が形成されてはおらず、目視して稜線となる部分も形成されてはいなかった。これに対して、従来のラジアスエンドミルにおいては、
図6に示すように底刃からコーナ刃に移行する接点部分で研磨痕の方向が変わっており、この部分で底刃から外周刃に向けた方向へのJIS B0601:2013における最大高さ粗さRzが2.0μm以上となるような段差が形成され、目視によっても稜線が確認された。
【0036】
しかも、本実施形態では、底刃6とコーナ刃8および外周刃7の全長に亙って、このようなエンドミル回転方向Tに延びる稜線が逃げ面10に形成されていない。このため、一層確実にこれら底刃6やコーナ刃8、外周刃7のチッピングを防止することができる。なお、本実施形態では、逃げ面10の第1逃げ面10Aと第2逃げ面10Bとの双方に、このような稜線が形成されていないが、第2逃げ面10Bは底刃6やコーナ刃8、外周刃7と交差することはないので、この第2逃げ面10Bにはエンドミル回転方向Tに延びる稜線が形成されていてもよく、すなわち凸曲面部5Aが形成された範囲で底刃6とコーナ刃8と外周刃7とを介してすくい面5に交差する逃げ面である第1逃げ面10Aにエンドミル回転方向Tに延びる稜線が形成されていなければよい。
【0037】
また、本実施形態においては、底刃6の全長においてすくい面5が凸曲面部5Aとされており、これに伴い底刃6とコーナ刃8との全長に亙って、第1逃げ面10Aにエンドミル回転方向Tに延びる稜線が形成されることがないとともに、凸曲面部5Aは連続した1つの凸曲面であるので、すくい面5にも底刃6やコーナ刃8と交差する稜線が形成されることがなくなる。すなわち、本実施形態では、すくい面5に凸曲面部5Aが形成された範囲においては、該すくい面5の底刃6の外周部から外周刃7の先端部に向けた方向へのJIS B0601:2013における最大高さ粗さRzが2.0μm未満とされ、研磨痕の方向が一定の方向で連続している。このため、通常は最も初めに被削材に食い付くことになる底刃6に、このような稜線との交点を起点としてチッピングが発生するのを一層確実に防止することが可能となる。
【0038】
一方、外周刃7に連なるすくい面5に関しては、本実施形態のように外周刃7のコーナ刃8との接点から軸線O方向後端側に向けて外周刃7の軸線O回りの回転半径までの長さの範囲で、すくい面5が凸曲面部5Aによって形成されていることが望ましい。外周刃7においては、コーナ刃8と連続する上述のような範囲の先端部が専ら切削加工に使用されるので、このような先端部においてすくい面5が凸曲面部5Aであって、逃げ面10やすくい面5に外周刃7と交差する稜線が形成されていなければ、チッピングの発生を確実に防止することができる。
【0039】
さらに、本実施形態では、コーナ刃8が軸線O回りになす回転軌跡の軸線Oを含む平面における投影線が凸円弧状であり、この凸円弧を二等分してコーナ刃8に交差する凸曲面部5Aに垂直な断面におけるコーナ刃8のすくい角が、この断面と上記軸線Oとの交点Pを通って底刃6に交差する凸曲面部5Aに垂直な断面における底刃6のすくい角、および上記交点Pを通って外周刃7に交差する凸曲面部5Aに垂直な断面における外周刃7のすくい角よりも正角側に大きく設定されている。
【0040】
すなわち、このようなラジアスエンドミルでは、専らコーナ刃8が主として切削加工に使用されるので、このコーナ刃8において、本実施形態のように負角であっても上記すくい角を底刃6や外周刃7よりも正角側に大きくすることにより、切れ味の向上を図ることができ、切削抵抗を一層低減することが可能となる。また、凸曲面部5Aを上述のように略球面の一部として形成することにより、コーナ刃8の上記断面においては凸曲面部5Aが凸曲線となるので、切屑離れを確実に良好にしてさらに一層の切削抵抗の低減を図ることができる。
【実施例】
【0041】
次に、本発明の実施例を挙げて本発明の効果について実証する。本実施例では、上述した実施形態に基づいて、外周刃の外径が6mm、コーナ刃の半径が0.5mmのラジアスエンドミルを製造し、このラジアスエンドミルによってHAP72(68HRC)よりなる被削材に回転速度5500min-1、切削速度100m/min、送り速度660mm/min、1刃当たりの送り0.03mm/tooth、切り込み量ap0.1mm、ae1.0mmで、エアブローしつつ側面切削ダウンカットで切削を行った。なお、エンドミル本体1の突き出し長さは20mm、使用機械は縦型BT30であった。
【0042】
このときの切削長2.5mずつのすくい面5の状態を、切削長12.5mまでの間で順に
図7ないし
図11に示す。ここで、本実施例において、すくい面5に凸曲面部5Aが形成された範囲における逃げ面10の底刃6の外周部から外周刃7の先端部に向けた方向への最大高さ粗さRzは、2.0μm未満の0.58μmであった。なお、これら
図7ないし
図11および次述する
図12、
図13においては、図の上側の稜線が底刃6である。
【0043】
また、この実施例に対する比較例として、寸法、形状は実施例と同じで、
図6に示した逃げ面にエンドミル回転方向に延びる稜線が形成された従来のラジアスエンドミルにおいても、同様の切削条件により切削を行った。このときの切削長2.5mと5.0mのすくい面の状態を
図12および
図13に順に示す。なお、この比較例においては、すくい面に凸曲面部が形成された範囲における逃げ面の底刃の外周部から外周刃の先端部に向けた方向への最大高さ粗さRzは、2.0μm以上の3.34μmであった。
【0044】
このうち、
図12および
図13に示す比較例では、切削長2.5mで既に底刃からコーナ刃に移行する接点部分で小さなチッピングが生じており、切削長5.0mではこの接点部分が大きく欠けて、これ以上切削を行うことはできなかった。これに対して、実施例では、切削長7.5mでもチッピングは認められず、切削長10.0mで比較例の切削長2.5m時点でのチッピングと同じくらいの大きさのチッピングが生じ、切削長12.5mで比較例の切削長5.0m時点と同じくらいの大きさの欠損となったため、切削を終了した。従って、本実施例によれば、比較例(従来例)に対して約2.5倍の工具寿命の延長を図ることができたことが分かる。
【符号の説明】
【0045】
1 エンドミル本体
2 切刃部
3 シャンク部
4 切屑排出溝
5 すくい面
5A 凸曲面部
6 底刃
7 外周刃
8 コーナ刃
9 ギャッシュ
10 逃げ面
10A 第1逃げ面
10B 第2逃げ面
O エンドミル本体1の軸線
T エンドミル回転方向
P コーナ刃8が軸線O回りになす回転軌跡の軸線Oを含む平面における投影線の凸円弧を二等分してコーナ刃8に交差する凸曲面部5Aに垂直な断面XXと軸線Oとの交点