(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/14 20060101AFI20220315BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20220315BHJP
H01M 4/57 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
H01M4/14 Q
H01M4/62 B
H01M4/57
(21)【出願番号】P 2018013777
(22)【出願日】2018-01-30
【審査請求日】2020-12-25
(31)【優先権主張番号】P 2017187503
(32)【優先日】2017-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】特許業務法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長途 大輔
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 悦子
(72)【発明者】
【氏名】青柳 清美
(72)【発明者】
【氏名】安藤 和成
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-225408(JP,A)
【文献】国際公開第2013/046499(WO,A1)
【文献】特開2006-004688(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/14
H01M 4/62
H01M 4/57
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛蓄電池であって、
集電体と、前記集電体に支持された正極材料と、を有する正極板と、
負極板と、
を備え、
前記正極材料の単位質量あたりの全細孔容積は、0.167cm
3/g以下であり、
前記正極材料は、繊維を含有しており、
クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による前記繊維の平均比表面積は、0.25m
2/g以上である、鉛蓄電池。
【請求項2】
請求項1に記載の鉛蓄電池であって、
前記正極材料の単位質量あたりの全細孔容積は、0.100cm
3/g以上、0.152cm
3/g以下である、鉛蓄電池。
【請求項3】
請求項2に記載の鉛蓄電池であって、
前記正極材料の単位質量あたりの全細孔容積は、0.142cm
3/g以上、0.152cm
3/g以下である、鉛蓄電池。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の鉛蓄電池であって、
クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による前記繊維の平均比表面積は、0.50m
2/g以上である、鉛蓄電池。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の鉛蓄電池であって、
前記繊維は、アクリル系繊維である、鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池として鉛蓄電池が広く利用されている。例えば、鉛蓄電池は、自動車等の車両に搭載され、エンジン始動時におけるスタータへの電力供給源や、ライト等の各種電装品への電力供給源として利用される。
【0003】
鉛蓄電池は、正極板と負極板とを備える。正極板および負極板は、それぞれ、集電体と、集電体に支持された活物質とを有する。
【0004】
従来、活物質の強度を高めて鉛蓄電池の寿命特性を向上させるために、活物質に補強用短繊維を含有させる技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明者は、鋭意検討を重ねることにより、繊維を含有する正極材料の構成として特定の構成を採用すると、正極材料の集電体からの脱落を効果的に抑制することができ、鉛蓄電池の寿命特性を飛躍的に向上させることができることを新たに見出した。
【0007】
本明細書では、鉛蓄電池の正極板における集電体からの正極材料の脱落を効果的に抑制して、鉛蓄電池の寿命特性を飛躍的に向上させることが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書に開示される鉛蓄電池は、集電体と前記集電体に支持された正極材料とを有する正極板と、負極板と、を備え、前記正極材料の単位質量あたりの全細孔容積は、0.167cm3/g以下であり、前記正極材料は、繊維を含有しており、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による前記繊維の平均比表面積は、0.25m2/g以上である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態における鉛蓄電池100の外観構成を示す斜視図である。
【
図2】
図1のII-IIの位置における鉛蓄電池100のYZ断面構成を示す説明図である。
【
図3】
図1のIII-IIIの位置における鉛蓄電池100のYZ断面構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書に開示される技術は、以下の形態として実現することが可能である。
【0011】
(1)本明細書に開示される鉛蓄電池は、集電体と前記集電体に支持された正極材料とを有する正極板と、負極板と、を備え、前記正極材料の単位質量あたりの全細孔容積は、0.167cm3/g以下であり、前記正極材料は、繊維を含有しており、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による前記繊維の平均比表面積は、0.25m2/g以上である。なお、正極板は、集電体と正極材料とから構成される。すなわち、正極材料は、正極板から集電体を取り除いたものであり、一般に「活物質」ともいわれるものである。本願発明者は、鋭意検討を重ねることにより、上記のような正極材料の構成を採用することにより、正極板における集電体からの正極材料の脱落を効果的に抑制して、鉛蓄電池の寿命特性を飛躍的に向上させることができることを新たに見出した。
【0012】
すなわち、従来、正極材料に含有させる繊維の比表面積については、何ら検討されていなかった。また、仮に、正極材料に含有させる繊維の比表面積について検討するとしても、繊維の比表面積をBET法で測定する場合に用いられる吸着ガスは、一般に窒素ガスであった。本願発明者は、種々の繊維について、窒素ガスを吸着ガスとして用いた場合には繊維の比表面積の測定結果に有意な差が無い場合であっても、クリプトンガスを吸着ガスとして用いて繊維の比表面積を測定し、そのように測定された平均比表面積が0.25m2/g以上である繊維を選択的に用いると、正極板における集電体からの正極材料の脱落を効果的に抑制して、鉛蓄電池の寿命特性を飛躍的に向上させることができることを新たに見出した。
【0013】
ただし、正極材料の単位質量あたりの全細孔容積が過度に大きいと、正極材料の密度が過度に低く、崩れやすい構成となるため、正極材料の集電体からの脱落を抑制することができなくなる場合がある。本願発明者は、鋭意検討を重ねることにより、正極材料の単位質量あたりの全細孔容積を0.167cm3/g以下とすれば、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による平均比表面積が0.25m2/g以上である繊維を正極用繊維として採用することにより、正極板における集電体からの正極材料の脱落を効果的に抑制して、鉛蓄電池の寿命特性を飛躍的に向上させることができることを見出した。
【0014】
(2)上記鉛蓄電池において、前記正極材料の単位質量あたりの全細孔容積は、0.100cm3/g以上、0.152cm3/g以下である構成としてもよい。正極材料の単位質量あたりの全細孔容積が過度に小さいと、正極材料の反応性が過度に低くなり、その結果、鉛蓄電池の容量特性が低くなるものと考えられる。これに対し、本鉛蓄電池では、正極材料の単位質量あたりの全細孔容積が0.100cm3/g以上と過度に小さくない。そのため、本鉛蓄電池によれば、正極材料の反応性の低下を抑制することができ、容量特性を向上させることができる。また、本鉛蓄電池では、正極材料の単位質量あたりの全細孔容積が0.152cm3/g以下と、より小さくなっている。そのため、本鉛蓄電池によれば、正極材料の崩れを効果的に抑制することができ、正極板における集電体からの正極材料の脱落をさらに効果的に抑制して、鉛蓄電池の寿命特性をさらに飛躍的に向上させることができる。
【0015】
(3)上記鉛蓄電池において、前記正極材料の単位質量あたりの全細孔容積は、0.142cm3/g以上、0.152cm3/g以下である構成としてもよい。本鉛蓄電池によれば、正極材料の反応性の低下を極めて効果的に抑制することができるため、正極板における集電体からの正極材料の脱落を効果的に抑制して鉛蓄電池の寿命特性を飛躍的に向上させつつ、鉛蓄電池の容量特性を極めて効果的に向上させることができる。
【0016】
(4)上記鉛蓄電池において、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による前記繊維の平均比表面積は、0.50m2/g以上である構成としてもよい。本願発明者は、種々の繊維について、クリプトンガスを吸着ガスとして用いて繊維の比表面積を測定し、そのように測定された平均比表面積が0.50m2/g以上である繊維を選択的に用いると、正極板における集電体からの正極材料の脱落を極めて効果的に抑制して、鉛蓄電池の寿命特性を飛躍的に向上させることができることを新たに見出した。
【0017】
(5)上記鉛蓄電池において、前記繊維は、アクリル系繊維である構成としてもよい。本鉛蓄電池によれば、容易に、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による平均比表面積が0.25m2/g以上である繊維を得ることができる。
【0018】
A.実施形態:
A-1.構成:
(鉛蓄電池100の構成)
図1は、本実施形態における鉛蓄電池100の外観構成を示す斜視図であり、
図2は、
図1のII-IIの位置における鉛蓄電池100のYZ断面構成を示す説明図であり、
図3は、
図1のIII-IIIの位置における鉛蓄電池100のYZ断面構成を示す説明図である。なお、
図2および
図3では、便宜上、後述する極板群20の構成が分かりやすく示されるように、該構成が実際とは異なる形態で表現されている。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を「上方向」といい、Z軸負方向を「下方向」というものとするが、鉛蓄電池100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。
【0019】
鉛蓄電池100は、短時間で大電流を放電することができる上に、種々の環境下で安定した性能を発揮することができるため、例えば、自動車等の車両に搭載され、エンジン始動時におけるスタータへの電力供給源や、ライト等の各種電装品への電力供給源として利用される。
図1から
図3に示すように、鉛蓄電池100は、筐体10と、正極側端子部30と、負極側端子部40と、複数の極板群20とを備える。以下では、正極側端子部30と負極側端子部40とを、まとめて「端子部30,40」ともいう。
【0020】
(筐体10の構成)
筐体10は、電槽12と、蓋14とを有する。電槽12は、上面に開口部を有する略直方体の容器であり、例えば合成樹脂により形成されている。蓋14は、電槽12の開口部を塞ぐように配置された部材であり、例えば合成樹脂により形成されている。蓋14の下面の周縁部分と電槽12の開口部の周縁部分とが例えば熱溶着によって接合されることにより、筐体10内に外部との気密が保たれた空間が形成されている。筐体10内の空間は、隔壁58によって、所定方向(本実施形態ではX軸方向)に並ぶ複数の(例えば6つの)セル室16に区画されている。以下では、複数のセル室16が並ぶ方向(X軸方向)を、「セル並び方向」という。
【0021】
筐体10内の各セル室16には、1つの極板群20が収容されている。そのため、例えば、筐体10内の空間が6つのセル室16に区画されている場合には、鉛蓄電池100は6つの極板群20を備える。また、筐体10内の各セル室16には、希硫酸を含む電解液18が収容されており、極板群20の全体が電解液18中に浸かっている。電解液18は、蓋14に設けられた注液口(図示せず)からセル室16内に注入される。なお、電解液18は、希硫酸に加えてアルミニウムイオンを含んでいてもよい。
【0022】
(極板群20の構成)
極板群20は、複数の正極板210と、複数の負極板220と、セパレータ230とを備える。複数の正極板210および複数の負極板220は、正極板210と負極板220とが交互に並ぶように配置されている。以下では、正極板210と負極板220とを、まとめて「極板210,220」ともいう。
【0023】
正極板210は、正極集電体212と、正極集電体212に支持された正極活物質216とを有する。正極集電体212は、略格子状または網目状に配置された骨を有する導電性部材であり、例えば鉛または鉛合金により形成されている。また、正極集電体212は、その上端付近に、上方に突出する正極耳部214を有している。正極活物質216は、二酸化鉛と、後述する正極用繊維217とを含んでいる。正極活物質216は、さらに、公知の他の添加剤を含んでいてもよい。このような構成の正極板210は、例えば、一酸化鉛と水と希硫酸とを主成分とする正極活物質用ペーストを正極集電体212に塗布または充填し、正極活物質用ペーストを乾燥させた後、公知の化成処理を行うことにより作製することができる。なお、本実施形態における正極活物質216は、正極板210から正極集電体212を取り除いたものであり、特許請求の範囲における正極材料に相当する。
【0024】
負極板220は、負極集電体222と、負極集電体222に支持された負極活物質226とを有する。負極集電体222は、略格子状または網目状に配置された骨を有する導電性部材であり、例えば鉛または鉛合金により形成されている。また、負極集電体222は、その上端付近に、上方に突出する負極耳部224を有している。負極活物質226は、鉛(海綿状鉛)と、後述する負極用繊維227とを含んでいる。負極活物質226は、さらに、公知の他の添加剤(例えば、カーボン、リグニン、硫酸バリウム等)を含んでいてもよい。このような構成の負極板220は、例えば、鉛を含む負極活物質用ペーストを負極集電体222に塗布または充填し、該負極活物質用ペーストを乾燥させた後、公知の化成処理を行うことにより作製することができる。
【0025】
セパレータ230は、絶縁性材料(例えば、ガラスや合成樹脂)により形成されている。セパレータ230は、互いに隣り合う正極板210と負極板220との間に介在するように配置されている。セパレータ230は、一体部材として構成されてもよいし、正極板210と負極板220との各組合せについて設けられた複数の部材の集合として構成されてもよい。
【0026】
極板群20を構成する複数の正極板210の正極耳部214は、例えば鉛または鉛合金により形成された正極側ストラップ52に接続されている。すなわち、複数の正極板210は、正極側ストラップ52を介して電気的に並列に接続されている。同様に、極板群20を構成する複数の負極板220の負極耳部224は、例えば鉛または鉛合金により形成された負極側ストラップ54に接続されている。すなわち、複数の負極板220は、負極側ストラップ54を介して電気的に並列に接続されている。以下では、正極側ストラップ52と負極側ストラップ54とを、まとめて「ストラップ52,54」ともいう。
【0027】
鉛蓄電池100において、一のセル室16に収容された負極側ストラップ54は、例えば鉛または鉛合金により形成された接続部材56を介して、該一のセル室16の一方側(例えばX軸正方向側)に隣り合う他のセル室16に収容された正極側ストラップ52に接続されている。また、該一のセル室16に収容された正極側ストラップ52は、接続部材56を介して、該一のセル室16の他方側(例えばX軸負方向側)に隣り合う他のセル室16に収容された負極側ストラップ54に接続されている。すなわち、鉛蓄電池100が備える複数の極板群20は、ストラップ52,54および接続部材56を介して電気的に直列に接続されている。なお、
図2に示すように、セル並び方向の一方側(X軸負方向側)の端に位置するセル室16に収容された正極側ストラップ52は、接続部材56ではなく、後述する正極柱34に接続されている。また、
図3に示すように、セル並び方向の他方側(X軸正方向側)の端に位置するセル室16に収容された負極側ストラップ54は、接続部材56ではなく、後述する負極柱44に接続されている。
【0028】
(端子部30,40の構成)
正極側端子部30は、筐体10におけるセル並び方向の一方側(X軸負方向側)の端部付近に配置されており、負極側端子部40は、筐体10におけるセル並び方向の他方側(X軸正方向側)の端部付近に配置されている。
【0029】
図2に示すように、正極側端子部30は、正極側ブッシング32と、正極柱34とを含む。正極側ブッシング32は、上下方向に貫通する孔が形成された略円筒状の導電性部材であり、例えば鉛合金により形成されている。正極側ブッシング32の下側部分は、インサート成形により蓋14に埋設されており、正極側ブッシング32の上側部分は、蓋14の上面から上方に突出している。正極柱34は、略円柱形の導電性部材であり、例えば鉛合金により形成されている。正極柱34は、正極側ブッシング32の孔に挿入されている。正極柱34の上端部は、正極側ブッシング32の上端部と略同じ位置に位置しており、例えば溶接により正極側ブッシング32に接合されている。正極柱34の下端部は、正極側ブッシング32の下端部より下方に突出し、さらに、蓋14の下面より下方に突出しており、上述したように、セル並び方向の一方側(X軸負方向側)の端に位置するセル室16に収容された正極側ストラップ52に接続されている。
【0030】
図3に示すように、負極側端子部40は、負極側ブッシング42と、負極柱44とを含む。負極側ブッシング42は、上下方向に貫通する孔が形成された略円筒状の導電性部材であり、例えば鉛合金により形成されている。負極側ブッシング42の下側部分は、インサート成形により蓋14に埋設されており、負極側ブッシング42の上側部分は、蓋14の上面から上方に突出している。負極柱44は、略円柱形の導電性部材であり、例えば鉛合金により形成されている。負極柱44は、負極側ブッシング42の孔に挿入されている。負極柱44の上端部は、負極側ブッシング42の上端部と略同じ位置に位置しており、例えば溶接により負極側ブッシング42に接合されている。負極柱44の下端部は、負極側ブッシング42の下端部より下方に突出し、さらに、蓋14の下面より下方に突出しており、上述したように、セル並び方向の他方側(X軸正方向側)の端に位置するセル室16に収容された負極側ストラップ54に接続されている。
【0031】
鉛蓄電池100の放電の際には、正極側端子部30の正極側ブッシング32および負極側端子部40の負極側ブッシング42に負荷(図示せず)が接続され、各極板群20の正極板210での反応(二酸化鉛から硫酸鉛が生ずる反応)および負極板220での反応(鉛(海綿状鉛)から硫酸鉛が生ずる反応)により生じた電力が該負荷に供給される。また、鉛蓄電池100の充電の際には、正極側端子部30の正極側ブッシング32および負極側端子部40の負極側ブッシング42に電源(図示せず)が接続され、該電源から供給される電力によって各極板群20の正極板210での反応(硫酸鉛から二酸化鉛が生ずる反応)および負極板220での反応(硫酸鉛から鉛(海綿状鉛)が生ずる反応)が起こり、鉛蓄電池100が充電される。
【0032】
A-2.正極活物質216の詳細構成:
図2に示すように、本実施形態の鉛蓄電池100では、正極活物質216は、二酸化鉛に加えて、繊維(以下、「正極用繊維」という)217を含有している。本実施形態では、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による正極用繊維217の平均比表面積(以下、単に「正極用繊維217の平均比表面積」ともいう)は、0.25m
2/g以上である。クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による正極用繊維217の平均比表面積は、0.50m
2/g以上であることがより好ましい。なお、クリプトンガスは、例えば窒素ガスと比べて飽和蒸気圧が低いため、BET法による比表面積の測定のための吸着ガスとしてクリプトンガスを用いれば、比較的低い比表面積を精度良く測定することができる。例えば、クリプトンガスを吸着ガスとして用いれば、窒素ガスを用いる場合には測定の難しい、正極用繊維217の表面の微細な皺の部分の表面積も精度良く測定することができる。そのため、種々の繊維について、窒素ガスを吸着ガスとして用いた場合には繊維の比表面積の測定結果に有意な差が無い場合であっても、クリプトンガスを吸着ガスとして用いると、繊維の比表面積の測定結果に有意な差が把握されることがある。
【0033】
正極用繊維217は、例えば、アクリル系繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリエステル系繊維、ポリエチレン系繊維、PET系繊維、レーヨン系繊維である。なお、アクリル系繊維は、ポリマーを溶剤に溶かして凝固剤と呼ばれる液体の中で繊維を紡出する湿式紡糸により製造される。このとき、繊維部と溶剤部に分離(偏析)し、溶剤部が除去された部分が皺となって発現する。そのため、一般に、アクリル系繊維の表面には、微細な皺が多く形成されている。従って、正極用繊維217としてアクリル系繊維を用いると、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による平均比表面積が上述した数値範囲内である正極用繊維217を容易に得ることができるため、好ましい。なお、正極用繊維217としてアクリル系繊維を用いる場合には、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による正極用繊維217の平均比表面積を0.60m2/g程度またはそれ以上まで大きくすることができる。
【0034】
また、本実施形態の鉛蓄電池100では、正極活物質216の単位質量あたりの全細孔容積は、0.167cm3/g以下である。なお、正極活物質216の単位質量あたりの全細孔容積は、0.100cm3/g以上、0.152cm3/g以下であることがより好ましく、0.142cm3/g以上、0.152cm3/g以下であることがさらに好ましい。正極活物質216の単位質量あたりの全細孔容積は、正極活物質216を作製する際の処方(鉛粉、水、希硫酸の配合比率)を変化させることにより調整することができる。例えば、希硫酸と水の配合比率を高くすると、正極活物質216の単位質量あたりの全細孔容積は大きくなる。
【0035】
以下の説明では、正極活物質216の単位質量あたりの全細孔容積が0.167cm3/g以下であり、正極活物質216が正極用繊維217を含有しており、かつ、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による正極用繊維217の平均比表面積が0.25m2/g以上であるという条件を、「正極活物質に関する特定条件」という。
【0036】
なお、鉛蓄電池100の正極板210を構成する正極活物質216に含まれる正極用繊維217についての、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による平均比表面積は、以下のように特定するものとする。
(1)鉛蓄電池100を解体し、正極板210を採取する。
(2)硫酸を除去するため、採取した正極板210を水洗する。
(3)正極板210から正極活物質216を採取する。
(4)採取した正極活物質216を硝酸と過酸化水素との混合液に溶解させる。
(5)(4)の溶液をろ過する。
(6)ろ紙上の残物から約0.4gの試料(繊維)をサンプリングする。
(7)比表面積測定装置(島津製作所製のトライスターII 3020シリーズ)を用いて、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法により、各繊維の比表面積を測定する。
(8)各繊維の比表面積の平均値を算出する。
【0037】
また、鉛蓄電池100の正極板210を構成する正極活物質216の単位質量あたりの全細孔容積は、以下のように特定するものとする。
(1)鉛蓄電池100を解体し、正極板210を採取する。
(2)硫酸を除去するため、採取した正極板210を水洗する。
(3)正極板210から約1gの試料(正極活物質216)を採取する。
(4)採取した正極活物質216を対象として、水銀ポロシメータ(島津製作所製のオートポアIV9500シリーズ)を用いて水銀圧入法により全細孔容積を測定する。
(5)各正極活物質216の全細孔容積の測定値の平均値を、正極活物質216の単位質量あたりの全細孔容積とする。
【0038】
A-3.性能評価:
鉛蓄電池の複数のサンプル(S1~S26)を作製し、該サンプルを対象とした性能評価を行った。
図4および
図5は、性能評価結果を示す説明図である。
【0039】
A-3-1.各サンプルについて:
図4および
図5に示すように、各サンプルは、正極活物質の全細孔容積が互いに異なる。
【0040】
また、サンプルS1~S12,S19~S22では、上述した実施形態の鉛蓄電池100と同様に、正極活物質が正極用繊維を含有している。サンプルS1~S4,S6~S12,S19~S22では、正極用繊維としてアクリル系繊維が用いられており、サンプルS5では、正極用繊維としてPET系繊維が用いられている。サンプルS1~S12,S19~S22における正極活物質における正極用繊維の含有割合は、0.05質量%(wt%)~0.40質量%である。サンプルS1~S12,S19~S22は、正極用繊維のクリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による平均比表面積が互いに異なる。
【0041】
なお、
図4に示すように、サンプルS1~S12は、正極活物質の全細孔容積の昇順に並べられ、さらに、正極活物質の全細孔容積が同一値である各サンプル(サンプルS4~S8)が、正極用繊維の平均比表面積の昇順に並べられている。
図5に示すサンプルS19~S22についても、同様の順に並べられている。
【0042】
サンプルS1~S3,S6~S11,S19~S22は、上述した実施形態の鉛蓄電池100が満たしている正極活物質に関する特定条件(正極活物質の単位質量あたりの全細孔容積が0.167cm3/g以下であり、正極活物質が正極用繊維を含有しており、かつ、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による正極用繊維の平均比表面積が0.25m2/g以上であるという条件)を満たしている。
【0043】
一方、サンプルS4,S5,S12では、上述した正極活物質に関する特定条件を満たしていない。具体的には、サンプルS12では、正極活物質の単位質量あたりの全細孔容積が0.178cm3/gと比較的大きい。また、サンプルS4,S5では、正極用繊維の平均比表面積が0.18m2/gまたは0.20m2/gと比較的小さい。
【0044】
なお、
図4および
図5には、各サンプルについて、正極用繊維の平均径およびアスペクト比(繊維の平均径Wに対する平均長さLの比(=L/W))が示されている。
【0045】
また、サンプルS1~S12,S19~S22では、負極板を構成する負極活物質は、負極用繊維として、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による平均比表面積が0.20m2/gであるPET系繊維を含有している。
【0046】
また、
図4および
図5に示すように、サンプルS13~S15,S23,S24では、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による平均比表面積が0.25m
2/g以上であるアクリル系繊維が、負極板を構成する負極活物質に含まれる負極用繊維として使用されている。なお、サンプルS13~S15,S23,S24では、正極板を構成する正極活物質は、正極用繊維として、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による平均比表面積が0.20m
2/gであるPET系繊維を含有している。すなわち、サンプルS13~S15,S23,S24は、上述した正極活物質に関する特定条件を満たしていない。
【0047】
また、
図4および
図5に示すように、サンプルS16~S18,S25,S26では、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による平均比表面積が0.25m
2/g以上であるアクリル系繊維が、正極板を構成する正極活物質に含まれる正極用繊維、および、負極板を構成する負極活物質に含まれる負極用繊維の両方として使用されている。すなわち、サンプルS16~S18,S25,S26は、上述した正極活物質に関する特定条件を満たしている。
【0048】
各サンプルの作製方法は、以下の通りである。
(1)正極板の作製
原料鉛粉(鉛と一酸化鉛とを主成分とする酸化鉛の混合物)と、水と、希硫酸(密度1.40g/cm3)と、所定の長さに切断した合成樹脂繊維(以下、「正極用繊維」という)とを混合することにより、正極活物質用ペーストを得た。
正極活物質は、希硫酸と水との配合比を変化させることによって密度を変化させることが可能であることが知られており、今回の性能評価で使用した正極活物質も上記希硫酸と水との配合比を変化させることで実現した。
また、正極用繊維としては、以下のものを使用した。
・サンプルS5,S13~S15,S23,S24:商品名「テトロン」(東レ製PET:ポリエチステル繊維)
・サンプルS4:商品名「ボンネル」(三菱レイヨン製アクリル繊維)
・上記以外のサンプル:本実施形態のアクリル系繊維
また、鉛とカルシウムとスズとの3元合金(以下、「Pb-Ca-Sn合金」という)からなる鉛シートを、エキスパンド加工を行った後、正極格子(正極集電体)を作製した。
正極集電体のエキスパンド網目に正極活物質用ペーストを充填し、常法により熟成乾燥させることにより、未化成の正極板(高さ:115mm、幅:137.5mm、厚さ:1.5mm)を得た。
(2)負極板の作製
原料鉛粉(鉛と一酸化鉛とを主成分とする酸化鉛の混合物)と、水と、希硫酸(密度1.40g/cm3)と、所定の長さに切断した合成樹脂繊維(以下、「負極用繊維」という)と、所定の比率の負極添加剤(リグニン、カーボン、硫酸バリウム)とを混合することにより、負極活物質用ペーストを得た。
また、負極用繊維としては、以下のものを使用した。
・サンプルS1~S12,S19~S22:商品名「テトロン」(東レ製PET:ポリエチステル繊維)
・サンプルS13~S18,S23~S26:本実施形態のアクリル系繊維
正極格子(正極集電体)と同様の方法で、Pb-Ca-Sn合金からなる板鉛シートを、エキスパンド加工を行なった後、負極格子(負極集電体)を作製した。
負極集電体のエキスパンド網目に負極活物質用ペーストを充填し、正極板と同様、常法により熟成乾燥させることにより、未化成の負極板(高さ:115mm、幅:137.5mm、厚み1.3mm)を得た。
(3)サンプル電池の作製
上記(1)及び(2)で作製した正極板および負極板を用い、負極板をポリエチレン製セパレータで袋詰めした後、正極板と袋詰めした負極板とを交互に積層した後、複数の正極板同士、複数の負極板同士を鉛部品で溶接し、極板群を製造した。
上記極板群を6セルが直列接続になるように樹脂製(ポリプロピレン製)電槽に挿入し、各極板群同士(5箇所)をセル間溶接した後、樹脂製(ポリプロピレン製)蓋と電槽を接合し、その後、両端子部(正極負極端子部)を溶接してサンプル電池を作製した。
その後、常法により初充電した後、電解液密度が1.285のサンプル電池を得た。
【0049】
A-3-2.評価項目および評価方法:
鉛蓄電池の各サンプルを用いて、寿命特性(アイドリングストップ寿命特性)と、容量特性(20時間率容量特性)との2つの項目についての評価を行った。
【0050】
寿命持性の評価は、以下のように行った。すなわち、鉛蓄電池の各サンプルについて、以下のa)~e)に示す方法で寿命試験を行い、試験終了時のサイクル数(寿命サイクル数)を求めた。サンプルS5における寿命サイクル数を100として(
図4において太線で囲んで示す)、各サンプルにおける寿命サイクル数を相対値で表した。なお、この評価では、アイドリングストップ機能を有する車両用の鉛蓄電池のように、PSOC(Partial State of Charge、不完全充電状態)での充放電サイクルが繰り返されるため、正極板が軟化しやすい条件での鉛蓄電池の寿命特性を評価することができる。
a)全試験期間を通じて、サンプルを25±2℃の気相中に置く。サンプル近傍の風速は、2.0m/s以下とする。
b)サンプルを寿命試験装置に接続し、連続的に次に示す放電(「放電1」および「放電2」)および充電のサイクルを繰り返す。この放電および充電のサイクルを寿命1回とする。
・放電1:放電電流28±1Aで59.0±0.2秒
・放電2:放電電流300±1Aで1.0±0.2秒
・充電:充電電圧14.00±0.03V(制限電流100.0±0.5A)で60.0±0.3秒
試験中は、「放電2」の放電終期電圧を測定する。
c)試験中、3,600回ごとに40~48時間放置した後、再びサイクルを開始する。
d)試験の終了は、試験中の放電時電圧が7.2V未満となったことを確認したときとする。
e)補水は、30,000回までは行わない。
【0051】
また、容量特性の評価は、以下のように行った。すなわち、鉛蓄電池の各サンプルについて、以下のa)~d)に示す方法で20時間率容量を測定し、サンプルS5における20時間率容量を100として(
図4において太線で囲んで示す)、各サンプルにおける20時間率容量を相対値で表した。
a)サンプルについて、20時間率電流I
20の3.42倍の電流で、15分ごとに測定した充電中の端子電圧または温度換算した電解液密度が3回連続して一定値を示すまで充電を行う。また電解液面は、最高液面まで満たした状態とする。
なお、電解液密度の温度換算は、次の式による。
D
20=D
T+0.0007(T-20)
ここに、D
20:20℃における電解液の密度(g/cm
3)
D
T:T℃における電解液の密度(g/cm
3)
T:密度を測定するときの電解液の温度(℃)
b)全試験期間を通じて、サンプルを25±2℃の水槽中に置く。水面は、サンプルの上面から下方向15~25mmの間とする。複数個のサンプルが同じ水槽中に置かれる場合には、相互間の距離および水槽壁までの距離は最低25mmとする。
c)上記a)による充電が完了し1~5時間経過後、電解液温度が25±2℃であることを確認する。その後、サンプルを端子電圧が10.50±0.05Vに低下するまで20時間率電流I
20で放電し、放電持続時間t時間を記録する。
d)次の式によって蓄電池の有効20時間率容量C
20,e(Ah)を計算する。
C
20,e=I
20×t
ここに、I
20:20時間率電流(A)
t:放電持続時間(時間)
【0052】
A-3-3.評価結果:
図4および
図5に示すように、上述した正極活物質に関する特定条件(正極活物質の単位質量あたりの全細孔容積が0.167cm
3/g以下であり、正極活物質が正極用繊維を含有しており、かつ、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による正極用繊維の平均比表面積が0.25m
2/g以上であるという条件)を満たすサンプルS1~S3,S6~S11,S19~S22では、いずれも、寿命特性の評価において「160」以上という結果となり、サンプルS5の寿命特性の評価結果「100」と比較して、寿命特性が飛躍的に向上した。
【0053】
これに対し、正極用繊維の平均比表面積が0.25m2/g未満であるために正極活物質に関する特定条件を満たしていないサンプルS4,S5では、寿命特性の評価において「115」以下という良好ではない結果となった。サンプルS4,S5では、正極用繊維の平均比表面積が過度に小さいため、正極用繊維が正極活物質中の他の成分と良好に密着せず、正極用繊維による正極活物質の拘束力が小さくなり、その結果、正極活物質の集電体からの脱落を効果的に抑制することができずに寿命特性が低くなったものと考えられる。
【0054】
また、正極活物質の単位質量あたりの全細孔容積が0.167cm3/gを超えるために正極活物質に関する特定条件を満たしていないサンプルS12では、寿命特性の評価において「100」という良好ではない結果となった。サンプルS12では、正極活物質の単位質量あたりの全細孔容積が過度に大きい。すなわち、サンプルS12では、正極活物質の密度が過度に低く、崩れやすい構成となっている。そのため、サンプルS12では、正極用繊維の平均比表面積が0.25m2/g以上であって、正極用繊維が正極活物質中の他の成分と良好に密着しているにもかかわらず、鉛蓄電池の充放電の繰り返しに伴い正極活物質が崩れて集電体から脱落し、寿命特性が低くなったものと考えられる。
【0055】
このように、本性能評価により、鉛蓄電池が、上述した正極活物質に関する特定条件(正極活物質の単位質量あたりの全細孔容積が0.167cm3/g以下であり、正極活物質が正極用繊維を含有しており、かつ、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による正極用繊維の平均比表面積が0.25m2/g以上であるという条件)を満たしていれば、正極板における正極集電体からの正極活物質(正極材料)の脱落を効果的に抑制して、鉛蓄電池の寿命特性を飛躍的に向上させることができることが確認された。
【0056】
なお、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による平均比表面積が0.25m2/g以上であるアクリル系繊維が、負極板を構成する負極活物質のみに含まれる負極用繊維として使用されたサンプルS13~S15,S23,S24では、寿命特性も容量特性も良好ではなかった。一方、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による平均比表面積が0.25m2/g以上であるアクリル系繊維が、正極板を構成する正極活物質に含まれる正極用繊維としても、負極板を構成する負極活物質に含まれる負極用繊維としても使用されたサンプルS16~S18,S25,S26では、寿命特性も容量特性もサンプルS1~S3,S6~S11,S19~S22と同等であった。この結果によれば、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による平均比表面積が0.25m2/g以上である繊維を、少なくとも正極用繊維として使用することにより、特にPSOCでの充放電サイクルが繰り返されるために正極板が軟化しやすい条件において、鉛蓄電池の寿命特性を飛躍的に向上させることができるものと言える。
【0057】
なお、本性能評価において、良好な結果を得たサンプルS1~S3,S6~S11,S19~S22の内、サンプルS6~S10,S19~S22では、正極活物質の単位質量あたりの全細孔容積が0.100cm3/g以上、0.152cm3/g以下である。これらのサンプルでは、いずれも、寿命特性の評価において「190」以上というさらに良好な結果となり、かつ、容量特性の評価において「98」以上という良好な結果となった。この結果によれば、鉛蓄電池において、上述した正極活物質に関する特定条件を満たし、かつ、正極活物質の単位質量あたりの全細孔容積が0.100cm3/g以上、0.152cm3/g以下であれば、正極活物質の単位質量あたりの全細孔容積が過度に小さくなることによって正極活物質の反応性が過度に低くなり、容量特性が低下することを抑制することができると共に、正極活物質の単位質量あたりの全細孔容積が過度に大きくなることによって正極活物質の密度が過度に低くなり、寿命特性が低下することを抑制することができると言える。従って、鉛蓄電池において、正極活物質に関する特定条件を満たし、かつ、正極活物質の単位質量あたりの全細孔容積が0.100cm3/g以上、0.152cm3/g以下であることが、より好ましいと言える。なお、サンプルS6~S10,S19~S22では、正極活物質の全細孔容積が比較的小さいために寿命特性に有利であるサンプルS2,S3と比べても、同等以上の寿命特性が得られた。その理由は必ずしも明らかではないが、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による平均比表面積が0.25m2/g以上である繊維を正極用繊維として採用することにより、サンプルS6~S10,S19~S22のような正極活物質の全細孔容積の数値範囲であっても、正極活物質の全細孔容積がより小さい構成と同等以上の寿命特性が得られることは、本願の新たな知見である。
【0058】
また、これらのサンプルS6~S10,S19~S22の内、サンプルS9,S10,S21,S22では、正極活物質の単位質量あたりの全細孔容積が0.142cm3/g以上、0.152cm3/g以下である。これらのサンプルでは、いずれも、寿命特性の評価において「190」以上というさらに良好な結果となり、かつ、容量特性の評価において「114」以上という極めて良好な結果となった。この結果によれば、鉛蓄電池において、上述した正極活物質に関する特定条件を満たし、かつ、正極活物質の単位質量あたりの全細孔容積が0.142cm3/g以上、0.152cm3/g以下であれば、正極活物質の反応性の低下を極めて効果的に抑制することができるため、正極板における正極集電体からの正極活物質(正極材料)の脱落を効果的に抑制しつつ、鉛蓄電池の容量特性を極めて効果的に向上させることができると言える。従って、鉛蓄電池において、正極活物質に関する特定条件を満たし、かつ、正極活物質の単位質量あたりの全細孔容積が0.142cm3/g以上、0.152cm3/g以下であることが、さらに好ましいと言える。
【0059】
また、本性能評価において、良好な結果を得たサンプルS1~S3,S6~S11,S16~S22,S25,S26の内、サンプルS19~S22,S25,S26では、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による正極用繊維の平均比表面積が0.50m2/g以上と極めて大きい。これらのサンプルでは、いずれも、寿命特性の評価において「225」以上という極めて良好な結果となり、かつ、容量特性の評価において「98」以上という良好な結果となった。これらのサンプルでは、正極用繊維の平均比表面積が極めて大きいため、正極用繊維が正極活物質中の他の成分と極めて良好に密着し、正極用繊維による正極活物質の拘束力が極めて大きくなり、その結果、正極活物質の集電体からの脱落が極めて効果的に抑制されて寿命特性が極めて高くなったものと考えられる。この結果によれば、鉛蓄電池において、上述した正極活物質に関する特定条件を満たし、かつ、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による正極用繊維の平均比表面積が0.50m2/g以上であれば、正極板における正極集電体からの正極活物質(正極材料)の脱落を極めて効果的に抑制して、鉛蓄電池の寿命特性を飛躍的に向上させることができると言える。従って、鉛蓄電池において、正極活物質に関する特定条件を満たし、かつ、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による正極用繊維の平均比表面積が0.50m2/g以上であることが、より好ましいと言える。
【0060】
また、すべての評価項目で良好な結果を得たサンプルS1~S3,S6~S11,S16~S22,S25,S26では、正極用繊維としてアクリル系繊維を用いた。正極用繊維としてアクリル系繊維を用いれば、容易に、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による平均比表面積が0.25m2/g以上である繊維を得ることができる。
【0061】
なお、すべての評価項目で良好な結果を得たサンプルS1~S3,S6~S11,S16~S22,S25,S26では、正極用繊維としてアクリル系繊維を用いたが、正極用繊維として、他の繊維(ポリプロピレン系繊維、ポリエステル系繊維、ポリエチレン系繊維、PET系繊維、レーヨン系繊維)を用いても、正極用繊維を含む正極活物質が上述した正極活物質に関する特定条件を満たしていれば、同様に、正極板における正極集電体からの正極活物質(正極材料)の脱落を効果的に抑制して、鉛蓄電池の寿命特性を飛躍的に向上させることができることが強く推測される。
【0062】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0063】
上記実施形態における鉛蓄電池100の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、正極用繊維217として、アクリル系繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリエステル系繊維、ポリエチレン系繊維、PET系繊維、レーヨン系繊維を例示しているが、正極用繊維217は、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による平均比表面積が0.25m2/g以上である限りにおいて他の種類の繊維であってもよい。
【0064】
また、上記実施形態における鉛蓄電池100において、負極板220を構成する負極活物質226が、上述した正極活物質に関する特定条件と同様の条件を満たすとしてもよい。
【0065】
また、上記実施形態における鉛蓄電池100の製造方法は、あくまで一例であり、種々変形可能である。
【符号の説明】
【0066】
10:筐体 12:電槽 14:蓋 16:セル室 18:電解液 20:極板群 30:正極側端子部 32:正極側ブッシング 34:正極柱 40:負極側端子部 42:負極側ブッシング 44:負極柱 52:正極側ストラップ 54:負極側ストラップ 56:接続部材 58:隔壁 100:鉛蓄電池 210:正極板 212:正極集電体 214:正極耳部 216:正極活物質 217:正極用繊維 220:負極板 222:負極集電体 224:負極耳部 226:負極活物質 227:負極用繊維 230:セパレータ