(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 19/12 20060101AFI20220315BHJP
B29C 73/16 20060101ALI20220315BHJP
B29L 30/00 20060101ALN20220315BHJP
【FI】
B60C19/12 A
B29C73/16
B29L30:00
(21)【出願番号】P 2018026289
(22)【出願日】2018-02-16
【審査請求日】2020-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【氏名又は名称】石原 幸信
(72)【発明者】
【氏名】白水 利通
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-096406(JP,A)
【文献】特開2015-117331(JP,A)
【文献】特開2009-041006(JP,A)
【文献】特開2011-031709(JP,A)
【文献】特開2002-363331(JP,A)
【文献】特開2005-001547(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 19/12
B29C 73/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部の内面にパンク修理層を具え、前記パンク修理層は、吸水性ポリマーを含有した吸水性ポリマー層を含
み、
前記パンク修理層は、前記吸水性ポリマー層のタイヤ半径方向外面に補助シートを具え、
前記補助シートは、布体からなる、
空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記吸水性ポリマー層は、
粉末状又は粒体状の前記吸水性ポリマーが、非親水性のバインダー樹脂に分散配置されたものである、請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記バインダー樹脂は、ゴム系バインダー又は合成樹脂系バインダーであり、
前記ゴム系バインダーは、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、エチレン-プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、シリコンゴム、クロロプレンゴム、ポリウレタンゴム、アクリルゴム、ブチルゴム及び塩素化ブチルゴムから選択される一つ又は二種類以上であり、
前記合成樹脂系バインダーは、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂及びアクリル樹脂から選択される一つ又は二種類以上である、請求項2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
トレッド部の内面にパンク修理層を具え、前記パンク修理層は、吸水性ポリマーを含有した吸水性ポリマー層を含み、
前記吸水性ポリマー層は、粉末状又は粒体状の前記吸水性ポリマーが、非親水性のバインダー樹脂に分散配置されたものである、
空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤのパンクを容易に修理しうる空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パンク防止機能を有する空気入りタイヤとして、トレッド部の内面に、粘着性を有するシーラント剤の層を形成したシーラントタイヤが提案されている(例えば特許文献1参照)。このシーラントタイヤでは、パンクが生じた際、パンク穴が、シーラント剤の粘着性及び流動性によって自動的に塞がれ、空気漏れを未然に防ぐことができる。
【0003】
しかしこのようなシーラントタイヤでは、シーラント層の質量が大であるため、タイヤ重量の増加を招き、燃費性能の低下をさせる。又シーラントタイヤでは、上記したようにパンク穴が自動的に塞がれるため、運転者がパンクしたことに気が付かず、そのまま使用し続けるという場合がある。又シーラント剤の粘着性及び流動性が、経年劣化により低下し、タイヤの摩耗寿命より前にシール性能を損ねる恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、タイヤ重量の増加を低く抑えつつ、タイヤのパンクを容易に修理でき、かつ修理性能を長期に亘って維持しうる空気入りタイヤを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、トレッド部の内面にパンク修理層を具え、前記パンク修理層は、吸水性ポリマーを含有した吸水性ポリマー層を含む。
【0007】
本発明に係る空気入りタイヤでは、前記吸水性ポリマー層は、バインダー樹脂に前記吸水性ポリマーを含有させたのが好ましい。
【0008】
本発明に係る空気入りタイヤでは、前記パンク修理層は、前記吸水性ポリマー層のタイヤ半径方向外面に補助シートを具え、前記補助シートが前記トレッド部の内面に接着されるのが好ましい。
【0009】
本発明に係る空気入りタイヤでは、前記補助シートは、布体からなるのが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明は叙上の如く、トレッド部の内面に、吸水性ポリマー層を含むパンク修理層を具える。このタイヤでは、パンクした際、タイヤバルブより水を注入することにより吸水性ポリマーが膨潤し、パンク穴を塞ぐ。これによりパンクを一時的に修理することができる。
【0011】
このタイヤでは、まずエアー漏れが発生することで運転者がパンクの発生を認識できる。そのため、従来のシーラントタイヤのように、パンクの発生に気が付かず、そのまま使用し続けるのを防ぐことができる。即ち、早期のタイヤ検査や交換を促すことができる。又パンク修理に水を使用するため、ゴムラテックス等のパンク修理液をタイヤに注入するものに比して、パンク修理後の洗浄が極めて簡単に行える。
【0012】
又従来のシーラントタイヤと比較して、吸水する前の吸水性ポリマー層は、シーラント剤の層より軽量である。そのため、タイヤ重量の増加を低く抑え、燃費性能を改善させることができる。又吸水性ポリマーはシーラント剤に比して経年劣化性に優れるため、修理性能を長期に亘って維持しうる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の空気入りタイヤの一実施例を示す断面図である。
【
図2】前記パンク修理層を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
図1に示すように、本実施形態の空気入りタイヤ1は、トレッド部2の内面2Sに、パンク修理層11を具える。
【0015】
前記空気入りタイヤ1は、チューブレスタイヤであって、本例では、トレッド部2からサイドウォール部3をへてビード部4のビードコア5に至るカーカス6と、このカーカス6の半径方向外側かつトレッド部2の内部に配されるベルト層7とを具える。
【0016】
カーカス6は、タイヤ周方向に対して例えば75~90°の角度で配列するカーカスコードを有する1枚以上(本例では1枚)のカーカスプライ6Aから形成される。カーカスプライ6Aは、ビードコア5、5間を跨るプライ本体部6aの両端に、ビードコア5をタイヤ軸方向内側から外側に折り返されたプライ折返し部6bを具える。このプライ本体部6aとプライ折返し部6bとの間には、ビードコア5からタイヤ半径方向外方に先細状にのびるビード補強用のビードエーペックスゴム8が設けられる。
【0017】
ベルト層7は、タイヤ周方向に対して例えば10~40°の角度で配列するベルトコードを有する複数枚(例えば2枚)のベルトプライ7A、7Bから形成される。各ベルトプライ7A、7Bは、ベルトコードがプライ間で交差するように、傾斜の向きを違えて積層される。本例では、高速耐久性を高める目的で、ベルト層7の半径方向外側に、バンドコードを螺旋状に巻回したジョイントレスプライ9Aからなるバンド層9を設けている。
【0018】
又カーカス6の内側には、インナーライナゴム層10が配される。このインナーライナゴム層10は、ブチルゴム等の耐空気不透過性のゴムからなり、タイヤ内圧を気密に保持する。
【0019】
そしてトレッド部2のタイヤ半径方向内周面である前記内面2Sに、パンク修理層11が配される。
図2に誇張して示すように、パンク修理層11は、吸水性ポリマー層12を少なくとも含む。
【0020】
本例では、パンク修理層11が、吸水性ポリマー層12と、そのタイヤ半径方向外面Soに配される補助シート13とを具える。この補助シート13が、トレッド部2の内面2Sに、例えば両面粘着テープ(図示省略)などを介して接着される。
【0021】
前記吸水性ポリマー層12は、具体的には、粉体状(粒体状を含む)の吸水性ポリマー15と、この吸水性ポリマー15を分散させるバインダー樹脂16とを含む。又バインダー樹脂16は、吸水性ポリマー層12を補助シート13に固着させる。
【0022】
前記吸水性ポリマー15として、例えば、ポリアクリル酸塩系、ポリスルホン酸塩系、無水マレイン酸塩系、ポリアクリルアミド系、ポリビニルアルコール系、ポリエチレンオキシド系の合成ポリマーを挙げることができ、これらを単独で、あるいは二種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
吸水性ポリマー15の使用形状として、粉末状のものが好ましく、特には、粒径150μm以下のものが、表面積が大きく吸水速度を速める上で好ましい。
【0024】
粉末状の吸水性ポリマー15を分散させるバインダー樹脂16として、ゴム系バインダー、及び合成樹脂系バインダーが採用しうるが、特には、水に溶けない非親水性のものが好適である。
【0025】
このようなゴム系バインダーとして、例えばスチレンブタジエンゴム,ブタジエンゴム,イソプレンゴム,エチレン-プロピレンゴム,クロロスルホン化ポリエチレンゴム,シリコンゴム,クロロプレンゴム,ポリウレタンゴム,アクリルゴム,ブチルゴム,塩素化ブチルゴム等を挙げることができ、これらを単独で、あるいは二種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
合成樹脂系バインダーとして、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂等を挙げることができ、これらを単独で、あるいは二種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
吸水性ポリマー15は、吸水性ポリマー層12全体の50質量%以上、さらには70質量%以上含有するのが、パンク修理性能の観点から好ましい。
【0028】
又補助シート13としては、不織布、織物、編物等の種々の布体が採用しうる。又布体の繊維材料としても、特に規制されることがなく、種々の有機繊維が使用可能である。
【0029】
本例のパンク修理層11は、吸水性ポリマー15とバインダー樹脂16とを溶媒下で撹拌させた分散液を、前記補助シート13の一面にコーティングすることで形成できる。
【0030】
このようなパンク修理層11では、パンク発生時、タイヤバルブから注入される水により吸水性ポリマー15が膨潤し、パンク穴を塞ぐことができる。
【0031】
特に本例では、バインダー樹脂16が、水に溶けない非親水性を有する。そのため、注入された水により、吸水性ポリマー15全体が膨潤するのではなく、パンク穴に水が入り、パンク穴の内壁に露出する吸水性ポリマー15が膨潤してパンク穴を塞ぐことができる。
これにより、注入された水がパンク穴まで到達しないで、途中で吸水されてしまう等の問題を防止でき、より少ない水でパンク修理を確実に行うことが可能になる。そのために、吸水性ポリマー層12の半径方向内面に、水を透過させない防水性の被覆シート17(一点鎖線で示す。)を設けることが好ましい。これにより、吸水性ポリマー層12の半径方向内面で露出する吸水性ポリマー15の吸水を防げるため、より少ない水でのパンク修理が可能となる。
【0032】
又吸水性ポリマー層12は、シーラントタイヤにおけるシーラント剤の層よりも軽量であるため、タイヤ重量の増加を低く抑え、燃費性能を改善させることができる。又吸水性ポリマー15はシーラント剤に比して経年劣化性に優れるため、パンク修理性能を長期に亘って維持することができる。
【0033】
パンク修理層11において、吸水性ポリマー層12の厚さtは、1.0~10.0mmの範囲が好ましい。厚さtが1.0mmを下回ると、パンク穴を確実に塞ぐことができず、必要なパンク修理性能の確保が難しくなる。逆に10.0mmを越えると、パンク修理性能に問題はないが、タイヤ重量の不必要な増加を招く。このような観点から、厚さtの下限値は2mm以上がより好ましく、上限は5mm以下がより好ましい。
【0034】
又パンク修理層11の巾Wは、トレッド接地幅TWの105~110%の範囲が好ましい。
【0035】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0036】
図2に示すパンク修理層を具える空気入りタイヤ(サイズ215/55R17)を試作し、パンク修理性能を確認した。パンク修理層の仕様は下記の通りである。
パンク修理層の幅W:220mm
吸水性ポリマー層の厚さt:2mm
吸水性ポリマー:ポリアクリル酸塩(含有量:70質量%)
バインダー樹脂:スチレン系熱可塑性エラストマ
【0037】
<パンク修理性能>
トレッド部に、釘(直径5.2mm、長さ50mm)を用いてタイヤをパンクさせた。その後、タイヤのバルブ孔から水(約400cc)を注入し、かつポンプアップして、タイヤを転動させることでパンク修理を行った。そして、修理後のエアー漏れの有無を確認した。その結果、パンク穴が塞がれ、エアー漏れが防止されたことが確認できた。
【0038】
なおパンク修理層の重さは、タイヤ1本当たり80gであった。これに対し、従来のシーラントタイヤのシーラント層の重さは、タイヤ1本当たり500gであり、420gの軽量化が達成できた。
【符号の説明】
【0039】
1 空気入りタイヤ
2 トレッド部
11 パンク修理層
12 吸水性ポリマー層
13 補助シート
15 吸水性ポリマー
16 バインダー樹脂