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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 9/18 20060101AFI20220315BHJP
   B60C 9/22 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
B60C9/18 K
B60C9/22 B
B60C9/22 G
B60C9/18 J
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018035264
(22)【出願日】2018-02-28
(65)【公開番号】P2019147538
(43)【公開日】2019-09-05
【審査請求日】2020-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(72)【発明者】
【氏名】松本 悠吾
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107139656(CN,A)
【文献】特開平05-139113(JP,A)
【文献】特開2016-210305(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0217783(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2005-0033645(KR,A)
【文献】特開2009-143332(JP,A)
【文献】特開2015-107563(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0271895(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105682911(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0288574(US,A1)
【文献】米国特許第03024828(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 9/18
B60C 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤであって、
トロイド状のカーカスと、前記カーカスのタイヤ半径方向外側かつトレッド部の内部に配されたトレッド補強層とを含み、
前記トレッド補強層は、1本又は複数本の補強コードがトッピングゴムにより被覆された長尺の帯状プライが巻き付けられているプライ補強部を含み、
前記プライ補強部は、前記帯状プライが実質的にタイヤ周方向に沿って螺旋状に1周以上延びている螺旋状部、及び、前記帯状プライがタイヤ周方向に対して一方側に傾斜する複数の第1傾斜部と、前記帯状プライがタイヤ周方向に対して前記複数の第1傾斜部とは逆向きに傾斜する複数の第2傾斜部とを含み、かつ、前記複数の第1傾斜部の側縁が互いに接触することなく配され、かつ、前記複数の第2傾斜部の側縁が互いに接触することなく配されることにより、これらが空間部を残して交差する格子状部を含み、
前記螺旋状部は、タイヤ赤道を含むクラウン領域で前記格子状部とタイヤ半径方向に重ねられており、
前記格子状部のタイヤ軸方向の外端は、前記螺旋状部のタイヤ軸方向の外端よりもタイヤ軸方向外側に位置し、
前記螺旋状部のタイヤ軸方向両側のエッジは、前記第1傾斜部と前記第2傾斜部とが交差する交差部とは異なる位置に設けられている、
タイヤ。
【請求項2】
前記格子状部の前記外端は、前記クラウン領域のタイヤ軸方向外側に位置するショルダー領域に配される、請求項1記載のタイヤ。
【請求項3】
前記螺旋状部は、前記格子状部のタイヤ半径方向外側に配される、請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記螺旋状部の前記トレッド部の踏面に沿った幅は、トレッド端間の前記踏面に沿った幅の3%~13%である、請求項1ないし3のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項5】
前記螺旋状部を形成する前記帯状プライは、前記補強コードが1本である、請求項1ないし4のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項6】
前記格子状部を形成する前記帯状プライは、前記補強コードが複数本である、請求項5記載のタイヤ。
【請求項7】
前記格子状部は、前記帯状プライがタイヤ周方向に延びる複数の周方向部をさらに含み、
前記周方向部は、前記格子状部のタイヤ軸方向の両方の外端でタイヤ周方向に連続して設けられている、請求項1ないし6のいずれかに記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド補強層を有するタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、バンドを含む空気入りタイヤが記載されている。前記バンドは、軸方向中央に位置するセンター部と、センター部の軸方向外側に位置するショルダー部とを有している。前記センター部は、コードを備える帯体を螺旋巻き状の構造で形成されている。これにより、センター部の拘束力が高まるので高速安定性能が向上する。また、特許文献1に記載のバンドでは、ショルダー部がコードを備える帯体を網目状の構造で形成されている。これにより、ショルダー部のねじり剛性が高められるので旋回性能が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-177842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年では、車両の高性能化に伴い、タイヤにも、さらなる、高速安定性能及び旋回性能の向上が望まれている。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、高速安定性能と旋回性能とを向上し得るタイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、タイヤであって、トロイド状のカーカスと、前記カーカスのタイヤ半径方向外側かつトレッド部の内部に配されたトレッド補強層とを含み、前記トレッド補強層は、1本又は複数本の補強コードがトッピングゴムにより被覆された長尺の帯状プライが巻き付けられているプライ補強部を含み、前記プライ補強部は、前記帯状プライが実質的にタイヤ周方向に沿って螺旋状に1周以上延びている螺旋状部、及び、前記帯状プライがタイヤ周方向に対して一方側に傾斜する複数の第1傾斜部と、前記帯状プライがタイヤ周方向に対して前記複数の第1傾斜部とは逆向きに傾斜する複数の第2傾斜部とを含み、かつ、前記複数の第1傾斜部の側縁が互いに接触することなく配され、かつ、前記複数の第2傾斜部の側縁が互いに接触することなく配されることにより、これらが空間部を残して交差する格子状部を含み、前記螺旋状部は、タイヤ赤道を含むクラウン領域で前記格子状部とタイヤ半径方向に重ねられている。
【0007】
本発明に係るタイヤは、前記格子状部のタイヤ軸方向の外端が、前記螺旋状部のタイヤ軸方向の外端よりもタイヤ軸方向外側に位置するのが望ましい。
【0008】
本発明に係るタイヤは、前記格子状部の前記外端が、前記クラウン領域のタイヤ軸方向外側に位置するショルダー領域に配されるのが望ましい。
【0009】
本発明に係るタイヤは、前記螺旋状部が、前記格子状部のタイヤ半径方向外側に配されるのが望ましい。
【0010】
本発明に係るタイヤは、前記螺旋状部の前記トレッド部の踏面に沿った幅が、トレッド端間の前記踏面に沿った幅の3%~13%であるのが望ましい。
【0011】
本発明に係るタイヤは、前記螺旋状部を形成する前記帯状プライが、前記補強コードが1本であるのが望ましい。
【0012】
本発明に係るタイヤは、前記格子状部を形成する前記帯状プライが、前記補強コードが複数本であるのが望ましい。
【0013】
本発明に係るタイヤは、前記螺旋状部のタイヤ軸方向両側のエッジが、前記第1傾斜部と前記第2傾斜部とが交差する交差部とは異なる位置に設けられているのが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のタイヤは、トレッド補強層が、帯状プライが実質的にタイヤ周方向に沿って螺旋状に1周以上延びている螺旋状部、及び、複数の第1傾斜部と複数の第2傾斜部とが空間部を残して交差する格子状部を含んでいる。前記螺旋状部は、タイヤ赤道を含むクラウン領域で前記格子状部とタイヤ半径方向に重ねられている。これにより、主に直進走行から旋回走行の初期に接地するクラウン領域では、大きな拘束力が得られるとともに、ねじり剛性が高められる。また、このようなクラウン領域は、帯状プライが配されない格子状部の空間部でも、螺旋状部の帯状プライがタイヤ半径方向で重ねられるので、タイヤ軸方向に亘って、その剛性の変化が小さく維持される。このため、直進走行から旋回走行の初期において、良好な過渡特性が得られる。
【0015】
従って、本発明のタイヤは、高速安定性能と旋回性能とを向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明のタイヤの一実施形態を示す断面図である。
図2】帯状プライの斜視図である。
図3】トレッド補強層の展開図である。
図4図3の格子状部の拡大図である。
図5】トレッド補強層を製造するための装置を概念的に示す断面図である。
図6】(a)、(b)は、本実施形態の格子状部を製造する工程を概念的に示す平面図である。
図7】(a)、(b)は、他の実施形態の格子状部を製造する工程を概念的に示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1は、本実施形態のタイヤ1の正規状態におけるタイヤ回転軸(図示省略)を含むタイヤ子午線断面図が示されている。本発明は、例えば、乗用車用、自動二輪車用、重荷重用等の空気入りタイヤの他、空気が充填されない非空気式タイヤなど、様々なカテゴリーのタイヤ1に用いることができる。図1には、自動二輪車用の空気入りタイヤが示される。
【0018】
前記「正規状態」は、タイヤ1が正規リム(図示省略)にリム組みされ、かつ、正規内圧が充填され、しかも無負荷の状態である。本明細書では特に断りがない限り、タイヤ1の各部の寸法は、正規状態で測定された値である。
【0019】
前記「正規リム」は、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めているリムであり、例えばJATMAであれば"標準リム" 、TRAであれば"Design Rim" 、ETRTOであれば"Measuring Rim" である。
【0020】
前記「正規内圧」は、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば"最高空気圧" 、TRAであれば表"TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば"INFLATION PRESSURE" である。
【0021】
図1に示されるように、本実施形態のタイヤ1は、路面と接地する踏面2aを有するトレッド部2と、トロイド状のカーカス6と、カーカス6のタイヤ半径方向外側かつトレッド部2の内部に配されたトレッド補強層7とを有している。
【0022】
トレッド部2は、タイヤ半径方向外側に凸の円弧状に湾曲しており、トレッド端TE、TEがタイヤ1のタイヤ軸方向の最も外側に位置している。本実施形態のトレッド部2は、タイヤ赤道Cを含むクラウン領域2Cと、その両外側の一対のショルダー領域2Sとを含んでいる。本実施形態のショルダー領域2Sは、クラウン領域2Cのタイヤ軸方向の端からトレッド端TEまでの範囲である。クラウン領域2Cは、主に直進走行から旋回走行の初期に接地する領域である。ショルダー領域2Sは、主に旋回走行の中期からフルバンク走行に接地する領域である。
【0023】
カーカス6は、例えば、少なくとも1枚のカーカスプライ6Aにより形成されている。カーカスプライ6Aは、例えば、タイヤ赤道Cに対して75~90°の角度で傾けて配列されたカーカスコードを未加硫のトッピングゴムにより被覆して形成されている。カーカスプライ6Aは、例えば、トレッド部2からサイドウォール部3を経て両側のビード部4、4のビードコア5に至る本体部6aと、本体部6aに連なる1対の折り返し部6bとを含んでいる。
【0024】
トレッド補強層7は、タイヤ子午線断面において、トレッド部2に沿って湾曲に沿ってのびており、トレッド部2のほぼ全幅にわたって形成されている。これにより、トレッド補強層7は、トレッド部2の剛性をトレッド部2の全域にわたって高めることができる。このような観点より、トレッド補強層7の踏面2aに沿った幅Wtは、トレッド端TE、TE間の踏面2aに沿った幅(以下、本明細書では、「トレッド展開幅」という場合がある。)TWの75%~95%であるのが望ましい。
【0025】
本実施形態のトレッド補強層7は、帯状プライ9がカーカス6に巻き付けられて形成されたプライ補強部8を含んでいる。
【0026】
図2には、帯状プライ9の斜視図が示されている。図2に示されるように、帯状プライ9は、1本又は複数本の補強コード10をトッピングゴム11により被覆して形成されている。補強コード10は、例えば、スチールコードや有機繊維コードが好適に用いられる。
【0027】
帯状プライ9は、例えば、長手方向に延びる両側縁9s、9sを含み、略矩形状の断面を有している。帯状プライ9の幅W1は、例えば、2.5~12.0mmの範囲であるのが望ましい。帯状プライ9の厚さt1は、例えば、0.6~3.0mmの範囲であるのが望ましい。補強コード10は、本実施形態では、側縁9sに沿って延びている。
【0028】
図3には、プライ補強部8の展開平面図が示されている。図3に示されるように、プライ補強部8は、螺旋状部13及び格子状部14を含んでいる。
【0029】
本実施形態の螺旋状部13は、帯状プライ9が実質的にタイヤ周方向に沿って螺旋状に1周以上延びて形成されている。このような螺旋状部13は、大きな拘束力を作用させるので、高速走行での遠心力によるトレッド部2の変形を抑制するため、高速安定性能を向上する。前記「実質的にタイヤ周方向に沿って」とは、帯状プライ9が、タイヤ周方向に対して0度の角度θ1で延びる態様は勿論、タイヤ周方向に対して8度以下で延びる態様を含む。なお、帯状プライ9のタイヤ周方向に対する角度θ1は、本明細書では、タイヤ1周の平均で表され、局所的に大きな角度で傾斜する部分は、除く趣旨である。
【0030】
本実施形態の格子状部14は、帯状プライ9がタイヤ周方向に対して傾斜してのびる傾斜部15を有している。
【0031】
本実施形態の傾斜部15は、複数の第1傾斜部17と複数の第2傾斜部18とを含んでいる。第1傾斜部17は、帯状プライ9がタイヤ周方向に対して一方側(図では、右上がり)に傾斜している。第2傾斜部18は、帯状プライ9がタイヤ周方向に対して複数の第1傾斜部17とは逆向きに傾斜(図では右下がり)している。このような傾斜部15は、大きなねじり剛性を有するので、高いコーナリングパワーを生じさせる。
【0032】
格子状部14は、本実施形態では、複数の第1傾斜部17の側縁17sが互いに接触することなく配され、かつ、複数の第2傾斜部18の側縁18sが互いに接触することなく配されることにより、これらが空間部20を残して交差して形成されている。このような格子状部14は、その一部に作用する張力を、互いに交差する帯状プライ9を介して、格子状部14の全体にわたって分散することができるので、トレッド部2の剛性低下が抑制される。このため、旋回性能が高く維持される。
【0033】
螺旋状部13は、本実施形態では、クラウン領域2Cで格子状部14とタイヤ半径方向に重ねられている。これにより、クラウン領域2Cでは、大きな拘束力が得られるとともに、ねじり剛性が高められる。また、このようなクラウン領域2Cは、帯状プライ9が配されない格子状部14の空間部20でも、螺旋状部13の帯状プライ9がタイヤ半径方向で重ねられるので、タイヤ軸方向に亘って、その剛性の変化が小さく維持される。このため、直進走行から旋回走行の初期において、良好な過渡特性が得られる。従って、本実施形態のタイヤ1は、優れた高速安定性能と旋回性能とを有する。
【0034】
格子状部14のタイヤ軸方向の外端14eは、螺旋状部13のタイヤ軸方向の外端13eよりもタイヤ軸方向外側に位置するのが望ましい。即ち、主に旋回走行時に接地する領域にねじり剛性を高める格子状部14のみが配されることになるので、さらに、旋回性能が向上する。
【0035】
格子状部14の外端14eは、ショルダー領域2S(図1に示される)に配されるのが望ましい。これにより、上述の旋回性能を高める作用が効果的に発揮される。
【0036】
格子状部14の外端14eは、本実施形態では、トレッド補強層7の外端7eを形成している。即ち、格子状部14の踏面2aに沿った幅Wcは、本実施形態では、トレッド補強層7の前記幅Wtと一致する。このような格子状部14は、旋回性能を高めうる。
【0037】
傾斜部15の補強コード10のタイヤ周方向に対する角度θ3は、好ましくは3~10度、より好ましくは4~6度である。前記角度θ3を大きくすることで、タイヤ1に生じるコーナリングパワーを大きくすることができる。即ち、傾斜部15の前記角度θ3を変更することで、好適なコーナリングパワーを生じさせることができる。なお、コーナリングパワーを大きくする効果を強く発揮するために、キャンバー角を20度以下とすることが望ましい。
【0038】
格子状部14は、本実施形態では、第1傾斜部17と第2傾斜部18とが交差する交差部19を含んでいる。本実施形態の交差部19は、第1傾斜部17と第2傾斜部18とがタイヤ半径方向で重ねられている。交差部19は、本実施形態では、空間部20の周りに形成されている。
【0039】
空間部20は、本実施形態では、第1空間部20a及び第2空間部20bを含んでいる。本実施形態の第1空間部20aは、タイヤ周方向に隣接する第1傾斜部17、17とタイヤ周方向に隣接する第2傾斜部18、18とで囲まれた菱形状を有している。本実施形態の第2空間部20bは、第1傾斜部17と第2傾斜部18と周方向部16とで囲まれた三角形状を有している。このような空間部20を形成する格子状部14は、タイヤ1の質量増加を抑制しつつ、ねじり剛性を効果的に高める。なお、菱形状や三角形状等とは、辞書に記載された意味を含むのは勿論、一見してそれと感取できる程度の態様のものを含む。また、空間部20は、このような態様に限定されるものではなく、例えば、平行四辺形状や五角形状等の多角形状を含む種々の態様を取り得る。
【0040】
格子状部14は、本実施形態では、帯状プライ9がタイヤ周方向に延びる複数の周方向部16をさらに含んでいる。周方向部16は、本実施形態では、格子状部14のタイヤ軸方向の両方の外端14e、14eに配されている。このように、周方向部16は、主にフルバンク走行時に接地する領域に形成されるので、この領域の拘束力を高めて、例えば、路面のギャップ等による反力や振動を小さくする。これにより、フルバンク走行時の接地感が高められるので、旋回性能が向上する。
【0041】
各周方向部16は、例えば、そのタイヤ周方向の両端に、第1傾斜部17及び第2傾斜部18が連なっている。なお、周方向部16は、タイヤ周方向の両端に、タイヤ周方向に隣接する第1傾斜部17、17、又は、タイヤ周方向に隣接する第2傾斜部18、18が連なっていても良い。
【0042】
周方向部16は、例えば、タイヤ周方向に並んで配されている。周方向部16は、本実施形態では、タイヤ周方向に連続して設けられている。これにより、本実施形態では、両方の外端14e、14eにおいて、複数の周方向部16によって、タイヤ周方向に連続して延びる1本の帯状プライ辺16Aが形成されている。このような帯状プライ辺16Aは、主にフルバンク走行時に接地する領域の拘束力を高めて、さらに旋回性能を向上させる。
【0043】
周方向部16の補強コード10のタイヤ周方向に対する角度θ4は、傾斜部15の角度θ3よりも小さければよく、好ましくは5度以下、より好ましくは3度以下、さらに好ましくは1度以下である。
【0044】
格子状部14を形成する帯状プライ9Bは、補強コード10が複数本で形成されるのが望ましい。このような帯状プライ9は、ねじり剛性を高く維持する。また、タイヤ軸方向に大きな領域を形成する格子状部14を生産性良く成形することができる。
【0045】
螺旋状部13は、本実施形態では、格子状部14のタイヤ半径方向外側に配されている。これにより、相対的に拘束力の小さい格子状部14を含めて、トレッド部2の変形を抑制することができるので、優れた高速安定性能が発揮される。
【0046】
螺旋状部13のトレッド部2の踏面2aに沿った幅(最大幅)Waは、トレッド展開幅TWの3%~13%であるのが望ましい。螺旋状部13の前記幅Waがトレッド展開幅TWの3%未満の場合、直進走行で接地する領域の全体に螺旋状部13が配されなくなり、トレッド部2の変形が抑制されなくなるおそれがある。螺旋状部13の前記幅Waがトレッド展開幅TWの13%を超える場合、旋回走行時にのみ接地する領域にも螺旋状部13が設けられることになり、この領域の剛性が過度に高められる結果、接地面積が小さくなるので、十分なコーナリングパワーが得られなくなるおそれがある。このような観点より、螺旋状部13の前記幅Waがトレッド展開幅TWの5%~10%がより望ましい。
【0047】
螺旋状部13を形成する帯状プライ9Aは、補強コード10が1本であるのが望ましい。これにより、帯状プライ9の粗密を調整することにより、タイヤ軸方向に小さな領域となるクラウン領域2Cの拘束力やねじり剛性を好ましい値に近づけることができる。このような補強コード10が1本である帯状プライ9は、その幅W1が、例えば、2.5~3.5mm、厚さt1は、例えば、0.6~3.0mmの範囲であるのが望ましい。
【0048】
螺旋状部13のタイヤ軸方向の両側のエッジ13a、13aは、交差部19とは異なる位置に設けられているのが望ましい。螺旋状部13のエッジ13aが交差部19と同じ位置に設けられると、螺旋状部13のエッジ13aは、交差部19と交差部19以外でそのタイヤ半径方向の高さが大きく異なるので、ユニフォミティが悪化するおそれがある。このような観点より、図4に示されるように、螺旋状部13の前記エッジ(仮想線で示される)13aは、タイヤ軸方向に隣接する交差部19、19間の中央部19cに位置するのが望ましい。前記中央部19cとは、タイヤ軸方向に隣接する交差部19、19間のタイヤ軸方向距離Lbを3等分したときの中央の領域である。前記エッジ13aは、螺旋状部13の外端13eを含んでいる。
【0049】
上述の作用を効果的に発揮させるため、螺旋状部13の帯状プライ9Bは、交差部19とは異なる位置に設けられるのが望ましい。言い換えると、螺旋状部13の帯状プライ9Bは、交差部19とタイヤ半径方向で重ならない位置に配されるのが望ましい。
【0050】
螺旋状部13は、本実施形態では、タイヤ軸方向に隣接する帯状プライ9の側縁9s、9s同士が接して形成されている。これにより、大きな拘束力を発揮することができる。なお、螺旋状部13は、タイヤ軸方向に隣接する帯状プライ9の側縁9s、9s同士がタイヤ半径方向に重なって形成されても良いし、前記側縁9s、9s同士がタイヤ軸方向に離間して形成されても良い(図示省略)。螺旋状部13は、本実施形態では、タイヤ赤道Cがタイヤ軸方向の幅中心として形成されている。
【0051】
次に、このようなタイヤ1のトレッド補強層7の製造方法が説明される。図5には、トレッド補強層7の製造に使用される製造装置Tが示される。本実施形態の製造装置Tは、基台33と、この基台33に回動自在に支持された略円筒状をなすドラム34と、ドラム34に帯状プライ9を供給しうるアプリケータ35とを含んだ周知構造のものが採用される。
【0052】
基台33は、ドラム34を回転可能に保持する回転軸33cを有している。また、基台33には、回転軸33cを回転させるための動力伝達装置や、その回転を制御するための制御装置等(図示省略)が含まれている。
【0053】
ドラム34は、タイヤ1の踏面2aに近似する外周面36aを含む円環状の中子体36と、中子体36をタイヤ半径方向の内外に拡縮径させる、例えば、ゴム部材からなる拡縮装置37と、ビードコア5を含む生タイヤ基体Kを保持する保持装置38とを具えている。本実施形態では、生タイヤ基体Kに帯状プライ9が巻き付けられる。
【0054】
アプリケータ35は、例えばコンベヤ状で形成され、その搬送面で帯状プライ9をドラム34へと供給する。アプリケータ35の上流側には、例えば、帯状プライ9を連続して押し出すゴム押出機などが設けられている(図示省略)。アプリケータ35は、例えば、ドラム34に対してその軸方向及び半径方向に往復移動可能な3次元移動装置(図示省略)などで支持されている。
【0055】
本実施形態のタイヤ1の製造方法は、生タイヤ基体Kを準備する準備工程と、生タイヤ基体Kの外周面に帯状プライ9を巻き付けてトレッド補強層7を形成する巻き付け工程とを含んでいる。生タイヤ基体Kは、カーカス6を含んでいる。準備する工程は、周知の製造方法が採用されるので、その説明が省略される。
【0056】
本実施形態の巻付け工程では、螺旋状部13及び格子状部14が、それぞれ、異なる1本の帯状プライ9で巻き付けられる。巻き付け工程は、例えば、格子状部14を形成する第1工程、及び、螺旋状部13を形成する第2工程の順で行われる。第2工程は、周知の工程が採用されるので、その説明が省略される。巻付け工程は、本実施形態では、帯状プライ9が生タイヤ基体Kのカーカス6のタイヤ半径方向外側の面である被巻き付け面6eに巻き付けられる。
【0057】
図6は、本実施形態の第1工程を概念的に説明する平面図である。図6(a)は、帯状プライ9の巻き付けが開始された直後の格子状部14の形成状態を示す平面図である。なお、図6(a)では、巻き付けられていない帯状プライ9が仮想線で示され、巻き付け途中の帯状プライ9が符号9fで示されている。図6(b)は、図6(a)よりも帯状プライ9の巻き付けが進んだ格子状部14の形成状態を示す平面図である。図6(b)では、巻き付け途中の帯状プライ9が符号9hで示されている。
【0058】
図6(a)に示されるように、第1工程では、先ず、例えば、格子状部14のいずれか一方の外端14eに、帯状プライ9の巻き付け開始時の巻き付け始端9dが固定される。なお、巻き付け始端9dは、格子状部14の他方の外端14eや傾斜部15中に固定されてもよい。第1工程で巻き付けられる帯状プライ9は、補強コード10が複数本、例えば、3本で形成されている。
【0059】
その後、第1工程は、アプリケータ35により、帯状プライ9を、両方の外端14e、14e間を往復移動させながら回転している中子体36の外周面36aに供給する。この工程では、図6に示されるように、帯状プライ9を、第1傾斜部17と、第2傾斜部18とを含むジグザグ状に巻き付けるとともに、帯状プライ9の側縁9s(図2に示す)が互いに接触しないように巻き付ける。
【0060】
本実施形態の第1工程は、第1傾斜部17、一方の周方向部16、第2傾斜部18、他方の周方向部16及び第1傾斜部17…の順に巻き付けられる。即ち、本実施形態では、周方向部16の両端には、第1傾斜部17及び第2傾斜部18が連なる。この工程により、格子状部14は、第1傾斜部17と第2傾斜部18とで囲まれた複数の空間部20を具えるように形成される。
【0061】
第1工程では、帯状プライ9の巻き付け終了時の巻き付け終端9eが巻き付け始端9dにタイヤ周方向で連なって固定されるのが望ましい。
【0062】
図7は、他の実施形態の第1工程を概念的に示す平面図である。図7(a)は、帯状プライ9の巻き付けが開始された直後の格子状部14の形成状態を示す平面図である。図7(a)では、巻き付けられていない帯状プライ9が仮想線で、巻き付け途中の帯状プライ9が符号9fで示されている。図7(b)は、図7(a)よりも帯状プライ9の巻き付けが進んだ格子状部14の形成状態を示す平面図である。図7(b)では、巻き付け途中の帯状プライ9が符号9hで示されている。図7(b)には、帯状プライ9の巻き付け順が仮想線で示されている。帯状プライ9は、本実施形態では、仮想線a、b、c及びdの順で巻き付けられる。図6の実施形態と同じ構成は、同じ符号が付されてその説明が省略される。この実施形態の第1工程では、先ず、格子状部14のいずれか一方の外端14eに、帯状プライ9の巻き付け開始時の巻き付け始端9dが固定される。なお、巻き付け始端9dは、格子状部14の他方の外端14eやいずれかの傾斜部15中に固定されてもよい。
【0063】
次に、アプリケータ35を両方の外端14e、14e間を往復移動させながら、回転している中子体36の外周面36aに帯状プライ9を供給する。この工程では、図7(a)に示されるように、先ず、帯状プライ9を、第1傾斜部17、一方の周方向部16、第1傾斜部17、他方の周方向部16、第1傾斜部17…の順で巻き付ける。次に、図7(b)に示されるように、帯状プライ9を、第2傾斜部18、一方の周方向部16、第2傾斜部18、他方の周方向部16、第2傾斜部18…の順で巻き付ける。即ち、本実施形態では、格子状部14は、周方向部16の両端には、タイヤ周方向に隣接する一対の第1傾斜部17、17が連なるか、又は、タイヤ周方向に隣接する一対の第2傾斜部18、18が連なって形成される。
【0064】
そして、複数の第1傾斜部17の側縁17sが互いに接触することなく配され、及び、複数の第2傾斜部18の側縁18sが互いに接触することなく配される。これにより、格子状部14は、複数の第1傾斜部17と複数の第2傾斜部18とで囲まれた複数の空間部20を有するように形成される。
【0065】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施し得る。
【実施例
【0066】
図1に示す基本構造及び図3に記載されたトレッド補強層を有する自動二輪車用タイヤが、表1の仕様に基づいて試作された。これらのタイヤについて、ユニフォミティ、高速安定性能、旋回性能、旋回力及び耐パンク性能が評価された。各タイヤの共通仕様やテスト方法は、以下の通りである。
帯状プライ(格子状部):幅4.0mm、厚さ1.0mm、補強コード3本
帯状プライ(螺旋状部):幅2.5mm、厚さ1.0mm、補強コード1本
トレッド補強層の幅(Wt/TW):90%
格子状部の幅(Wc)=トレッド補強層の幅(Wt)
C:格子状部が螺旋状部よりもタイヤ半径方向の内側
D:螺旋状部が格子状部よりもタイヤ半径方向の内側
【0067】
<高速安定性能・旋回性能>
各試供タイヤが、下記の条件で、排気量1300ccの自動二輪車の全輪に装着された。テストライダーは、上記車両を乾燥アスファルト路面のテストコースを走行させた。このときの各試供タイヤのハンドル安定性、グリップ等に関する高速走行特性、及び、旋回走行の過渡特性、ハンドル操作性等に関する旋回走行特性がテストライダーの官能により評価された。結果は、比較例1を100とする評点で表示されている。数値が大きいほど良好である。
タイヤサイズ:120/70ZR17(前輪) 190/55ZR17(後輪)
リム:17M/CxMT3.50(前輪)/17M/CxMT5.50(後輪)
内圧(全輪):250kPa
テストの結果が、表1に示される。
【0068】
【表1】
【0069】
テストの結果、各実施例のタイヤは、比較例のタイヤに対し、バランスよく優れていることが確認された。
【符号の説明】
【0070】
1 タイヤ
2Cクラウン領域
7 トレッド補強層
8 プライ補強部
9 帯状プライ
13 螺旋状部
14 格子状部
C タイヤ赤道
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7