(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 7/00 20060101AFI20220315BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20220315BHJP
C08K 5/053 20060101ALI20220315BHJP
C08K 5/54 20060101ALI20220315BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20220315BHJP
C08K 5/098 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
C08L7/00
C08K3/36
C08K5/053
C08K5/54
B60C1/00 A
C08K5/098
(21)【出願番号】P 2018048426
(22)【出願日】2018-03-15
【審査請求日】2021-01-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】冨田 皓太
(72)【発明者】
【氏名】中村 健太郎
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-260808(JP,A)
【文献】特表2020-515700(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムおよび/またはイソプレンゴムを含むジエン系ゴム、シリカ、シランカップリング剤、および式(I)
【化1】
(式中、nは、7~30の整数を表す)で表される化合物を含有し、
シランカップリング剤をシリカの質量に対し1~20質量%含有するタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
式(I)で表される化合物をシリカの質量に対し1~20質量%含有する、請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
ジエン系ゴム100質量部に対し、シリカを30質量部以上含有する、請求項1または2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
脂肪酸金属塩の含有量が、ジエン系ゴム100質量部に対し2質量部未満である、請求項1~3のいずれか一項に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項5】
ジエン系ゴム中に70質量%以上の天然ゴムを含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のタイヤ用ゴム組成物により構成されたタイヤ部材を有するタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物および該ゴム組成物で構成されたタイヤ部材を有するタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤの重要な性能として、走行時の安全性向上のためのウェットグリップ性能や耐摩耗性がある。また近年、省資源の立場から、タイヤの転がり抵抗改善による燃費性能の向上が必要とされている。低燃費性とウェットグリップ性能とをバランス良く改善する方法としては、例えば、シリカとシランカップリング剤を配合する方法等が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、シリカはその粒子表面に存在するシラノール基による水素結合の形成のため自己凝集性が強く、またカーボンブラックに比べ、ゴム成分との親和性が低いため、ゴム組成物中の分散が不十分となりやすい。そのため、混練時のゴム組成物のムーニー粘度上昇による加工性悪化、未加硫ゴムの経時変化による粘度上昇、ゴム組成物の耐摩耗性および機械的強度の悪化等の問題が生じることが考えられる。
【0005】
また、ゴム成分として天然ゴムを使用する場合、天然ゴムに含まれる不純物がシランカップリング剤の反応を阻害するため、シリカの分散性が確保できないという問題点がある。
【0006】
なお、シリカの分散剤としてステアリン酸亜鉛等の加工助剤を使用すると、分散性は確保できるものの、金属イオンによるしゃっ解効果によってゴム成分の分子鎖が切断され、破断強度が低下する傾向がある。
【0007】
本発明は、シリカの分散性を向上させたタイヤ用ゴム組成物、および該ゴム組成物で構成されたタイヤ部材を有するタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、ジエン系ゴムにシリカおよび所定のアルカンジオールを配合することで上記課題を解決できること見出した。さらに好ましい態様においては、未加硫ゴムの経時変化による粘度上昇や低燃費性、破断特性をも改善できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、
〔1〕ジエン系ゴム、シリカ、シランカップリング剤、および式(I)
【化1】
(式中、nは、7~30の整数を表す)で表される化合物を含有し、シランカップリング剤をシリカの質量に対し1~20質量%含有するタイヤ用ゴム組成物、
〔2〕式(I)で表される化合物をシリカの質量に対し1~20質量%含有する、〔1〕に記載のタイヤ用ゴム組成物、
〔3〕ジエン系ゴム100質量部に対し、シリカを30質量部以上含有する、〔1〕または〔2〕に記載のタイヤ用ゴム組成物、
〔4〕脂肪酸金属塩の含有量が、ジエン系ゴム100質量部に対し2質量部未満である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物、
〔5〕ジエン系ゴム中に70質量%以上の天然ゴムを含有する、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物、
〔6〕〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物により構成されたタイヤ部材を有するタイヤ、に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るタイヤ用ゴム組成物は、良好なシリカ分散性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態であるタイヤ用ゴム組成物は、ジエン系ゴム、シリカ、シランカップリング剤、および所定のアルカンジオールを含有することを特徴とする。
【0012】
アルカンジオールが持つ2つの水酸基がシリカ表面のシラノール基に吸着するため、アルカンジオールとシリカが高い親和性を有するとともに、シリカの自己凝集を抑制することができる。また、アルカンジオールの炭素鎖の部分が疎水化部位として作用し、アルカンジオールとジエン系ゴムが高い親和性を有することから、ゴム組成物の粘度を低下させることができる。このように、アルカンジオールがシリカおよびジエン系ゴムとそれぞれ相互作用することにより、シリカのゴム中への分散を促進させることができる。
【0013】
シリカの分散性が向上することで、未加硫ゴム内でのシリカ凝集が防止され、例えば、経時変化による粘度上昇の抑制が期待できる。また、加硫後のゴム内でもシリカの分散性が向上している為、分散性向上による発熱低減が期待される。さらに、ゴムに引張りの歪を与えた際にシリカ凝集が起点になってゴムが切れる事が抑制されることから、破断強度や破断伸び等の破断特性の改善が期待できる。
【0014】
また、シリカの分散性が向上することから、分散剤としての金属イオンを含む加工助剤の使用量を低減することができ、金属イオンのしゃっ解効果による破断強度の低下を抑制することができる。
【0015】
なお、本明細書において、「~」を用いて数値範囲を示す場合、その両端の数値を含むものとする。
【0016】
<ゴム成分>
本実施形態において使用されるゴム成分としては、ジエン系ゴムが好適に用いられる。ジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X-IIR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で、または2種以上のブレンドとして用いることができる。なかでも、良好な破断特性が得られるという理由から、天然ゴムが好適に用いられる。
【0017】
(天然ゴム)
本実施形態において使用される天然ゴムには、非改質天然ゴム(NR)の他に、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素化天然ゴム(HNR)、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(UPNR)、グラフト化天然ゴム等の改質天然ゴム等も含まれる。これらのゴムは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
天然ゴムとしては、特に限定されず、タイヤ業界において一般的なものを用いることができ、例えば、SIR20、RSS#3、TSR20等が挙げられる。
【0019】
天然ゴムのゴム成分中の含有量は、破断強度および破断伸びの観点から70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、天然ゴムのみからなること(100質量%)が特に好ましい。
【0020】
<アルカンジオール>
本実施形態に係るゴム組成物に配合されるアルカンジオールは、下記式(I)
【化2】
(式中、nは、7~30の整数を表す)で表される化学構造を有する。アルカンジオールの炭素鎖とジエン系ゴムとの親和性の観点から、nは7以上であり20以上が好ましい。nを7以上、好ましくは20以上とすることにより、シリカをゴム成分中に十分に分散させることができる。またnが30を超えると、破断強度が悪化する傾向がある。
【0021】
式(I)で表される化合物の含有量は、シリカの質量に対して1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましい。また、式(I)で表される化合物の含有量は、シリカの質量に対して20質量%以下が好ましく、18質量%以下がより好ましく、15質量%以下がさらに好ましい。上記範囲内であれば、ゴム成分中にシリカを良好に分散でき、本発明の効果を十分に発揮することができる。
【0022】
式(I)で表される化合物の含有量は、ゴム成分100質量部に対して1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましい。また、式(I)で表される化合物の含有量は、ゴム成分100質量部に対して20質量部以下が好ましく、18質量部以下がより好ましく、15質量部以下がさらに好ましい。
【0023】
<充填剤>
本実施形態において使用される充填剤は、シリカを必須成分として含むことを特徴とする。また、シリカはシランカップリング剤と併用されることが好ましい。
【0024】
(シリカ)
シリカとしては、特に限定されず、例えば、乾式法により調製されたシリカ(無水シリカ)、湿式法により調製されたシリカ(含水シリカ)等、タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。なかでもシラノール基が多いという理由から、湿式法により調製された含水シリカが好ましい。シリカは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
シリカのBET比表面積は、耐久性や破断時伸びの観点から、80m2/g以上が好ましく、100m2/g以上がより好ましい。また、シリカのBET比表面積は、低燃費性および加工性の観点から、250m2/g以下が好ましく、220m2/g以下がより好ましい。なお、本明細書におけるシリカのBET比表面積は、ASTM D3037-93に準じてBET法で測定される値である。
【0026】
シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、30質量部以上が好ましく、35質量部以上がより好ましく、40質量部以上がさらに好ましい。シリカの含有量が30質量部未満の場合は、シリカが自己凝集し、破断強度、破断伸び等の破断特性や低燃費性が悪化する傾向がある。また、シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、120質量部以下が好ましく、110質量部以下がより好ましく、100質量部以下がさらに好ましい。シリカの含有量を120質量部以下とすることにより、シリカのゴムへの分散性の悪化を抑制し、より良好な低燃費性および加工性が得られる傾向、より良好な耐摩耗性能が得られる傾向がある。
【0027】
(シランカップリング剤)
シリカは、シランカップリング剤と併用することが好ましい。シランカップリング剤としては、特に限定されず、ゴム工業において、従来からシリカと併用される任意のシランカップリング剤を使用することができる。そのようなシランカップリング剤としては、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)ジスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリエトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリメトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド等のスルフィド基を有するシランカップリング剤;3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、モメンティブ社製のNXT-Z100、NXT-Z45、NXT等のメルカプト基を有するシランカップリング剤;ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニル基を有するシランカップリング剤;3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤;γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン等のグリシドキシ系のシランカップリング剤;3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシラン等のニトロ系のシランカップリング剤;3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン、2-クロロエチルトリメトキシシラン、2-クロロエチルトリエトキシシラン等のクロロ系のシランカップリング剤;等が挙げられる。これらのシランカップリング剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、スルフィド系、メルカプト系がシリカとの結合力が強く、低燃費特性に優れるという点から好ましい。また、メルカプト系を使用すると、低燃費特性および耐摩耗性を好適に向上できるという点からも好ましい。
【0028】
シランカップリング剤を含有する場合の含有量は、シリカ分散性や粘度低減等の効果が得られるという理由から、シリカの質量に対して1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましく、4質量%以上がさらに好ましい。また、十分なカップリング効果やシリカ分散効果を効率的に得て補強性を確保するという理由から、シリカの質量に対して、20質量%以下が好ましく、18質量%以下がより好ましく、15質量%以下がさらに好ましい。
【0029】
シランカップリング剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、4質量部以上がさらに好ましい。また、シランカップリング剤の含有量は、20質量部以下が好ましく、18質量部以下がより好ましく、15質量部以下がさらに好ましい。
【0030】
(その他の充填剤)
充填剤としては、シリカ以外に、さらにその他の充填剤を用いてもよい。そのような充填剤としては、特に限定されず、例えば、カーボンブラック、水酸化アルミニウム、アルミナ(酸化アルミニウム)、炭酸カルシウム、タルク、クレー等この分野で一般的に使用される充填剤をいずれも用いることができる。これらの充填剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。充填剤として、シリカ以外のものを用いる場合、ゴム強度の観点から、カーボンブラックが好ましい。すなわち充填剤としては、シリカおよびカーボンブラックを含むものであることが好ましく、あるいは、シリカおよびカーボンブラックのみからなるものであることが好ましい。
【0031】
カーボンブラックとしては、ゴム用として一般的なものを適宜利用することができる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、グラファイト等が挙げられ、具体的にはN110,N115,N120,N125,N134,N135,N219,N220,N231,N234,N293,N299,N326,N330,N339,N343,N347,N351,N356,N358,N375,N539,N550,N582,N630,N642,N650,N660,N683,N754,N762,N765,N772,N774,N787,N907,N908,N990,N991等を好適に用いることができ、これ以外にも自社合成品等も好適に用いることができる。これらのカーボンブラックは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
カーボンブラックのBET比表面積は、補強性の観点から80m2/g以上が好ましく、85m2/g以上が好ましく、90m2/g以上がより好ましい。また、BET比表面積の上限は特に限定されないが、加工性の観点から180m2/g以下が好ましく、160m2/g以下がより好ましく、150m2/g以下がさらに好ましい。なお、本明細書におけるカーボンブラックのBET比表面積は、JIS K 6217-2「ゴム用カーボンブラック基本特性-第2部:比表面積の求め方-窒素吸着法-単点法」に準じて測定された値である。
【0033】
カーボンブラックを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、耐摩耗性能の観点から1質量部以上が好ましく、3質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましい。また、カーボンブラックの含有量の上限は特に限定されないが、低燃費性や加工性の観点から、100質量部以下が好ましく、95質量部以下がより好ましく、90質量部以下がさらに好ましい。
【0034】
充填剤全体のゴム成分100質量部に対する含有量は、破断特性の観点から、40質量部以上が好ましく、45質量部以上がより好ましく、50質量部以上がさらに好ましい。また、シリカの分散性の観点や加工性の観点からは、150質量部以下が好ましく、140質量部以下がより好ましく、130質量部以下がさらに好ましい。
【0035】
充填剤中におけるシリカの含有量は、低燃費性およびウェットグリップ性能の観点から、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。
【0036】
<その他の成分>
本実施形態に係るゴム組成物は、上記のゴム成分および充填剤以外にも、従来、タイヤ工業に使用される配合剤や添加剤、例えば、加工助剤、ワックス、オイル、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛、加硫剤、加硫促進剤等を必要に応じて適宜含有することができる。
【0037】
本実施形態に係るゴム組成物は、良好なシリカ分散性を有することから、金属イオンによるしゃっ解効果によってゴム成分の分子鎖を切断し破断強度の低下を招く、金属イオンを含む加工助剤(特にステアリン酸亜鉛等の脂肪酸金属塩)の使用を低減することができ、使用しないことが好ましい。金属イオンを含む加工助剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、2質量部未満が好ましく、1質量部未満がより好ましい。加工助剤としては、例えば、ストラクトール社製のEF44、WB16等の脂肪酸石鹸系加工助剤が挙げられる。
【0038】
ワックスを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの耐候性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、ブルームによるタイヤの白色化の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0039】
オイルを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、良好な耐摩耗性を確保する観点から、100質量部以下が好ましく、90質量部以下がより好ましい。また、加工性の観点からは、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましい。なお、加工性は、界面活性剤、液状樹脂、液状ポリマー等の添加によっても担保することができる
【0040】
老化防止剤としては特に限定されず、ゴム分野で使用されているものが使用可能であり、例えば、キノリン系、キノン系、フェノール系、フェニレンジアミン系老化防止剤等が挙げられる。
【0041】
老化防止剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの耐オゾンクラック性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、耐摩耗性能やグリップ性能の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0042】
ステアリン酸を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、0.2質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、加硫速度の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0043】
酸化亜鉛を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0044】
加硫剤としては硫黄が好適に用いられる。硫黄としては、粉末硫黄、油処理硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄等を用いることができる。
【0045】
加硫剤として硫黄を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、十分な加硫反応を確保し、良好なグリップ性能および耐摩耗性を得るという観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましい。また、劣化の観点からは、3.0質量部以下が好ましく、2.5質量部以下がより好ましい。
【0046】
硫黄以外の加硫剤としては、例えば、田岡化学工業(株)製のタッキロールV200、フレキシス社製のDURALINK HTS(1,6-ヘキサメチレン-ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物)、ランクセス(株)製のKA9188(1,6-ビス(N,N’-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン)等の硫黄原子を含む加硫剤や、ジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物等が挙げられる。
【0047】
加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド-アミン系もしくはアルデヒド-アンモニア系、イミダゾリン系、およびキサンテート系加硫促進剤等が挙げられる。これら加硫促進剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、スルフェンアミド系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、およびグアニジン系加硫促進剤が好ましく、スルフェンアミド系加硫促進剤がより好ましい。また、スルフェンアミド系加硫促進剤と他の加硫促進剤(好ましくは、チアゾール系加硫促進剤および/またはグアニジン系加硫促進剤)との併用も好ましい態様して挙げることができる。
【0048】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DCBS)等が挙げられる。なかでも、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、およびN-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)が好ましい。
【0049】
チアゾール系加硫促進剤としては、例えば、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾールのシクロヘキシルアミン塩、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド等が挙げられる。なかでも、2-メルカプトベンゾチアゾールが好ましい。
【0050】
グアニジン系加硫促進剤としては、例えば、1,3-ジフェニルグアニジン、1,3-ジ-o-トリルグアニジン、1-o-トリルビグアニド、ジカテコールボレートのジ-o-トリルグアニジン塩、1,3-ジ-o-クメニルグアニジン、1,3-ジ-o-ビフェニルグアニジン、1,3-ジ-o-クメニル-2-プロピオニルグアニジン等が挙げられる。なかでも、1,3-ジフェニルグアニジンが好ましい。
【0051】
加硫促進剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加硫促進の観点から、0.1質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましい。また、加工性の観点からは、5質量部以下が好ましく、3質量部以下がより好ましい。
【0052】
<ゴム組成物およびタイヤの製造>
本実施形態に係るゴム組成物は、公知の方法により製造することができる。例えば、上記の各成分をオープンロール、バンバリーミキサー、密閉式混練機等のゴム混練装置を用いて混練りし、その後加硫する方法等により製造できる。
【0053】
本発明の他の実施形態は、上記ゴム組成物により構成されたタイヤ部材を有するタイヤである。上記ゴム組成物により構成されるタイヤ部材としては、トレッド、アンダートレッド、カーカス、サイドウォール、ビード等の各タイヤ部材が挙げられる。なかでも、ウェットグリップ性能、耐摩耗性能およびアブレージョン性能に優れることからトレッドが好ましい。
【0054】
本実施形態に係るタイヤは、上記ゴム組成物を用いて、通常の方法により製造することができる。すなわち、上記の各成分を混練して得られた未加硫ゴム組成物をトレッド等のタイヤ部材の形状にあわせて押出し加工した部材をタイヤ成形機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、通常の方法にて成形することにより、未加硫タイヤを形成し、この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより製造することができる。
【0055】
本実施形態に係るタイヤは、競技用タイヤ、乗用車用タイヤ、大型乗用車用、大型SUV用タイヤ、モーターサイクル用タイヤに好適であり、それぞれのサマータイヤ、ウインタータイヤ、スタッドレスタイヤとして使用可能である。
【実施例】
【0056】
本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は、実施例にのみ限定されるものではない。
【0057】
以下、実施例および比較例において用いる各種薬品をまとめて示す。
NR:TSR20
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN339(BET:89m2/g)
シリカ:エボニックデグサ社製のウルトラシルVN3(N2SA:175m2/g、平均一次粒子径:15nm)
シランカップリング剤:エボニックデグサ社製のSi69(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)(硫黄含有量:0.7質量%)
アルカンジオール1:1,2-デカンジオール(CAS番号:1119-86-4)
アルカンジオール2:ヘキサコサン-1,2-ジオール(CAS番号:97338-12-0)
脂肪族アルコール:ステアリルアルコール(CAS番号:112-92-5)
ワックス:日本精蝋(株)製のオゾエース0355
老化防止剤:大内新興化学(株)製のノクラック6C(N-(1,3-ジメチルブチル)-N-フェニル-p-フェニレンジアミン)
脂肪酸金属塩:ステアリン酸カルシウム(CAS番号:1592-23-0)
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸「椿」
酸化亜鉛:東邦亜鉛(株)製の「銀嶺R」
オイル:出光興産(株)製のダイアナプロセスNH-70S
硫黄:細井化学工業(株)製のHK-200-5(5%オイル含有粉末硫黄)
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(N,N’-ジフェニルグアニジン)
【0058】
(実施例および比較例)
表1に示す配合処方に従い、1.7Lのバンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の薬品を排出温度150℃で5分間混練りし、混練物を得る。次に、上記のようにして得られる混練物に、オープンロールを用いて硫黄および加硫促進剤を添加し、3分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得る。さらに、そのようにして得られる未加硫ゴム組成物を150℃の条件下で30分間プレス加硫し、試験用加硫ゴムシートを得る。
【0059】
<シリカ分散性>
各未加硫ゴム組成物について、アルファテクノロジーズ社製のRPA2000型試験機を用いて70℃、1Hzの条件下にて、歪0.5、1、2、4、8、16、32、64%のG*を測定し、G*の最大値とG*の最小値の差よりシリカのペイン効果△G*を測定し、△G*の逆数の値について比較例1を100として指数表示する。数値が大きいほど、シリカ分散性に優れることを示す。
(シリカ分散性指数)=(比較例1の△G*)/(各配合の△G*)×100
【0060】
<加工性>
各未加硫ゴム組成物について、JIS K 6300-1の「未加硫ゴム-物理特性-第1部:ムーニー粘度計による粘度およびスコーチタイムの求め方」に準じたムーニー粘度の測定方法に従い、130℃の温度条件にてムーニー粘度(ML1+4)を測定し、ML1+4の逆数の値について比較例1を100として指数表示する。数値が大きいほど、ゴムの加工性に優れることを示す。
(加工性指数)=(比較例1のML1+4)/(各配合のML1+4)×100
【0061】
<ムーニー粘度増加量>
上記の混練り直後の各未加硫ゴム組成物を室温で7日間保存後、JIS K 6300-1に準じて130℃の温度条件にてムーニー粘度(ML1+4)を測定し、上記の混練り直後の各未加硫ゴム組成物のムーニー粘度(ML1+4)との差を求め、これをムーニー粘度増加量とし、ムーニー粘度増加量の逆数の値について比較例1の値を100として指数表示する。数値が大きいほど、経時変化による粘度上昇が少なく、粘度の安定性に優れることを示す。
【0062】
<低燃費性>
粘弾性スペクトロメーターVES((株)岩本製作所製)を用いて、温度30℃、初期歪み10%、動歪み2%の条件下で各試験用加硫ゴムシートの損失正接(tanδ)を測定し、tanδの逆数の値について比較例1を100として指数表示する。数値が大きいほど転がり抵抗が小さく(発熱しにくく、エネルギーロスが低く)、低燃費性に優れることを示す。
(低燃費性指数)=(比較例1のtanδ)/(各配合のtanδ)×100
【0063】
<破断強度>
各試験用加硫ゴムシートからからなる3号ダンベル型試験片を用いて、JIS K 6251「加硫ゴムおよび熱可塑性ゴム-引張特性の求め方」に準じて引張試験を実施し、破断強度TB(MPa)を測定し、比較例1の破断強度TBを100として指数表示する。数値が大きいほど、ゴム強度が優れることを示す。
【0064】
<破断伸び>
各試験用加硫ゴムシートからからなる3号ダンベル型試験片を用いて、JIS K 6251「加硫ゴムおよび熱可塑性ゴム-引張特性の求め方」に準じて引張試験を実施し、破断伸びEB(%)を測定し、比較例1の破断伸びEBを100として指数表示する。数値が大きいほど、ゴム強度が優れることを示す。
【0065】
表1の配合内容に基づいて上記各試験を行うことで各指数またはそれに近い値が得られる。
【0066】
【0067】
本実施形態において、シリカ分散性指数の目標値は100以下でないことである。