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特許7040220電気化学的還元用電極材料、電気化学的還元用電極及び電気化学的還元装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】電気化学的還元用電極材料、電気化学的還元用電極及び電気化学的還元装置
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/067 20210101AFI20220315BHJP
   C25B 3/26 20210101ALI20220315BHJP
   B01J 23/14 20060101ALI20220315BHJP
   B01J 32/00 20060101ALI20220315BHJP
   C25B 11/054 20210101ALI20220315BHJP
【FI】
C25B11/067
C25B3/26
B01J23/14 M
B01J32/00
C25B11/054
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018064928
(22)【出願日】2018-03-29
(65)【公開番号】P2019173130
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】跡部 晋太郎
(72)【発明者】
【氏名】堤 裕司
(72)【発明者】
【氏名】矢野 誠一
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特表平04-502980(JP,A)
【文献】特表昭61-500321(JP,A)
【文献】特開2006-193768(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 11/00-11/097
C25B 3/26
B01J 32/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素の電気化学的還元に用いられる電極材料であって、
該電極材料は、粉末状亜酸化チタン担体に周期表第6~16族の金属元素の単体及び/又は化合物が担持された構造を有することを特徴とする二酸化炭素の電気化学的還元用電極材料。
【請求項2】
前記電極材料は、粉末状亜酸化チタン担体に周期表第6~16族の金属元素の単体が担持された構造を有し、電極材料の全表面積に対する粉末状亜酸化チタン担体表面に担持された周期表第6~16族の金属元素の単体の表面積の割合で表される被覆率が0.5%以上である
ことを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素の電気化学的還元用電極材料。
【請求項3】
前記電極材料は、粉末状亜酸化チタン担体に周期表第6~16族の金属元素の化合物が担持された構造を有し、電極材料の全表面積に対する粉末状亜酸化チタン担体表面に担持された周期表第6~16族の金属元素の化合物の表面積の割合で表される被覆率が3.0%以上である
ことを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素の電気化学的還元用電極材料。
【請求項4】
前記周期表第6~16族の金属元素は、Sn、In、Ga、Ge、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ir、Pt、Au、Ru、Rh、Pd、Ag、Mo、Wからなる群より選択される少なくとも1種の元素であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の二酸化炭素の電気化学的還元用電極材料。
【請求項5】
前記粉末状亜酸化チタン担体は、組成式TiO(nは1.5以上、1.9以下の数を表す)で表されることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の二酸化炭素の電気化学的還元用電極材料。
【請求項6】
請求項1~のいずれかに記載の二酸化炭素の電気化学的還元用電極材料を用いることを特徴とする二酸化炭素の電気化学的還元用電極。
【請求項7】
請求項に記載の二酸化炭素の電気化学的還元用電極を用いることを特徴とする二酸化炭素の電気化学的還元装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学的還元用電極材料、電気化学的還元用電極及び電気化学的還元装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化対策の一環として、二酸化炭素を触媒で還元し、一酸化炭素、有機酸、アルコール類や炭化水素等の燃料や化成品原料または化成品そのもののような有用物質に変換する技術が注目されており、その例として、二酸化炭素からギ酸を生成する反応(CO+HO→HCOOH+1/2O)や、二酸化炭素からメタノールを生成する反応(CO+2HO→CHOH+3/2O)等が知られている。
【0003】
二酸化炭素を触媒で還元する方法には大きく分けて熱力学的還元、電気化学的還元、及び光化学的還元の3つがあり、このうち、電気化学的還元を用いた二酸化炭素還元反応として、板状の金属等を触媒として利用し、二酸化炭素が飽和した水溶液中で電解還元を行う方法(非特許文献1参照)や、カーボン上に担持された銅ナノ粒子を触媒として用いて電解還元を行う方法(非特許文献2参照)が報告されている。また、光化学的還元を用いた二酸化炭素還元反応として、バナジウム酸化物が担持されたチタン酸化物を含む触媒を用いて二酸化炭素の光還元を行う方法(特許文献1参照)や、半導体粒子に金、銀、銅、白金等の所定の貴金属含有ナノ粒子が担持された貴金属含有ナノ粒子担持触媒を用いて二酸化炭素の光還元を行う方法(特許文献2参照)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-73963号公報
【文献】特開2017-177094号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】YOSHIO HORI、外3名、「ELECTROCATALYTIC PROCESS OF CO SELECTIVITY IN ELECTROCHEMICAL REDUCTION OF CO2 AT METAL ELECTRODES IN AQUEOUS MEDIA」、Electrochemica Acta、39巻、No.11/12、1994年、p1833-1839
【文献】Olga A.Baturina、外12名、「CO2 Electroreduction to Hydrocarbons on Carbon-Supported Cu Nanoparticles」、ACS Catalysis、4巻、2014年、p3682-3695
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記3つの方法の中でも電気化学的還元は、他の方法よりも反応効率が高く、大規模化も可能である点で注目される技術であるが、上記非特許文献1に記載の方法では、板状の金属は還元対象の二酸化炭素との接触面積が非常に小さいことから大量に還元するためには装置が大きくなり設備費用が巨額となる。非特許文献2に記載の方法では、運転中に担体であるカーボンが分解する虞があり、更に、担体上で水の電気分解等の副反応が生じるため、目的物への転換効率が金属電極に劣ることになる。
このように、従来の方法に用いられる電極材料(触媒)はいずれも性能面やコスト面で改善の余地のあるものであった。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑み、二酸化炭素の電気化学的還元反応において、担体の分解や副反応の進行を抑制し、二酸化炭素を目的物へ転換する反応を高い効率で進めることができ、設備、コスト面でも有利な電極材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、電気化学的還元反応に用いられる電極材料について種々検討し、粉末状の亜酸化チタン担体に周期表第6~16族の金属元素の単体及び/又は化合物を担持されたものを電極材料として用いて二酸化炭素の電気化学的還元反応を行うことで、カーボンを担体として用いた場合に起こるカーボンの分解反応がなく、かつ、副反応の進行を抑制して二酸化炭素の目的物への転換反応を高い効率で進めることができ、更には板状の金属を触媒としたときよりもコンパクトな反応装置に出来ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、電気化学的還元に用いられる電極材料であって、該電極材料は、粉末状亜酸化チタン担体に周期表第6~16族の金属元素の単体及び/又は化合物が担持された構造を有することを特徴とする電気化学的還元用電極材料である。
【0010】
上記電極材料は、粉末状亜酸化チタン担体に周期表第6~16族の金属元素の単体が担持された構造を有し、電極材料の全表面積に対する粉末状亜酸化チタン担体表面に担持された周期表第6~16族の金属元素の単体の表面積の割合で表される被覆率が0.5%以上であることが好ましい。
【0011】
上記電極材料は、粉末状亜酸化チタン担体に周期表第6~16族の金属元素の化合物が担持された構造を有し、電極材料の全表面積に対する粉末状亜酸化チタン担体表面に担持された周期表第6~16族の金属元素の化合物の表面積の割合で表される被覆率が3.0%以上であることが好ましい。
【0012】
上記周期表第6~16族の金属元素は、Sn、In、Ga、Ge、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ir、Pt、Au、Ru、Rh、Pd、Ag、Mo、Wからなる群より選択される少なくとも1種の元素であることが好ましい。
【0013】
上記粉末状亜酸化チタン担体は、組成式TiO(nは1.5以上、1.9以下の数を表す)で表されることが好ましい。
【0014】
上記電気化学的還元用電極材料は、二酸化炭素の電気化学的還元に用いられることが好ましい。
【0015】
本発明はまた、本発明の電気化学的還元用電極材料を用いることを特徴とする電気化学的還元用電極でもある。
【0016】
本発明はまた、本発明の電気化学的還元用電極を用いることを特徴とする電気化学的還元装置でもある。
【発明の効果】
【0017】
本発明の電気化学的還元用電極材料は、担体として粉末状亜酸化チタンを用いることでカーボン担体を用いたときに生じるカーボンの分解反応がなく、かつ、副反応の進行を抑制して二酸化炭素の目的物へ転換反応を高い効率で進めることができる電極材料であり、板状の金属等を触媒として利用した場合に比べてコスト面でも有利であることから、二酸化炭素の電気化学的還元反応の電極として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1で得られた電極材料粉末の透過型電子顕微鏡観察による反射電子像である。
図2】実施例2で得られた電極材料粉末の透過型電子顕微鏡観察による反射電子像である。
図3】比較例1で得られた電極材料粉末の透過型電子顕微鏡観察による反射電子像である。
図4】比較例2で得られた電極材料粉末の透過型電子顕微鏡観察による反射電子像である。
図5】比較例3で得られた電極材料粉末の透過型電子顕微鏡観察による反射電子像である。
図6】比較例4で得られた電極材料粉末の透過型電子顕微鏡観察による反射電子像である。
図7】比較例5で得られた電極材料粉末の透過型電子顕微鏡観察による反射電子像である。
図8】比較例6で得られた電極材料粉末の透過型電子顕微鏡観察による反射電子像である。
図9】比較例7で得られた電極材料粉末の透過型電子顕微鏡観察による反射電子像である。
図10】比較例8で得られた電極材料粉末の透過型電子顕微鏡観察による反射電子像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい形態について具体的に説明するが、本発明は以下の記載のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0020】
1.電気化学的還元用電極材料
本発明の電気化学的還元用電極材料は、粉末状亜酸化チタン担体に周期表第6~16族の金属元素の単体及び/又は化合物(以下、金属元素の単体及び/又は化合物を総称して「金属種」ともいう)が担持された構造を有することを特徴とする。本発明の電気化学的還元用電極材料は、担体として粉末状亜酸化チタンを用いるため、カーボン担体を用いた場合に問題となるカーボンの分解反応の発生がない。また、副反応に寄与する担体に主生物(主生成物とも称す)への転化に寄与する金属種が均一に被覆しているので、二酸化炭素の目的物へ転換反応を高い効率で進めることができ、目的物を高い収率で得ることができる。
更に、触媒として金属を板状にしたものや該金属を別の金属板上にめっきしたものに比べて、被還元物質の二酸化炭素との接触面積が大きくなることから装置をコンパクトにすることが可能である。
【0021】
本発明の電気化学的還元用電極材料は、粉末状亜酸化チタン担体に対する周期表第6~16族の金属元素の単体及び/又は化合物が担持された構造を有するものであれば特に制限されないが、電極材料の全表面積に対する粉末状亜酸化チタン担体表面に担持された周期表第6~16族の金属元素の単体の表面積の割合で表される被覆率が0.5%以上であることが好ましい。このような被覆率であることで、電極材料の触媒活性がより高くなり、二酸化炭素から目的物への転化選択性が更に向上する。上記被覆率は、より好ましくは、1.0%以上であり、更に好ましくは、3.0%以上である。また上記被覆率は、60.0%以下であることが好ましい。
【0022】
特に、粉末状亜酸化チタン担体に担持された金属元素の単体及び/又は化合物が周期表第6~16族の金属元素の化合物のみである場合、被覆率が3.0%以上であることが好ましい。被覆率は6.0%以上がより好ましく、更に好ましくは、10.0%以上である。このような被覆率であることで、電極材料の触媒活性がより高くなり、二酸化炭素から目的物への転化選択性が更に向上する。また上記被覆率は、60.0%以下であることが好ましい。
被覆率は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0023】
上記粉末状亜酸化チタン担体に担持された周期表第6~16族の金属元素の単体及び/又は化合物の単体の平均一次粒子径は、600nm以下であることが好ましい。このような平均一次粒子径であることで、金属元素の単体が電気化学的還元の触媒としてより高い活性を発揮することができる。平均一次粒子径は、より好ましくは、1~200nmである。
金属元素の単体及び/又は化合物の平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)による写真を用いて、40個の一次粒子径を測定し、平均を算出することにより測定することができる。
【0024】
本発明の電気化学的還元用電極材料は、担体に周期表第6~16族の金属元素の単体及び/又は化合物が担持されたものであるが、周期表第6~16族の金属元素としては、Sn、In、Ga、Ge、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ir、Pt、Au、Ru、Rh、Pd、Ag、Mo、Wからなる群より選択される少なくとも1種の元素が好ましい。より好ましくは、Sn、In、Ga、Ge、Ni、Cu、Znからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、更に好ましくは、Sn、In、Ga、Ge、Cu、Znからなる群より選択される少なくとも1種の元素である。
Sn、In、Ga、Ge、Cu、Znからなる群より選択される少なくとも1種の元素の単体及び/又は化合物を用いることで、二酸化炭素の還元反応により目的物をより高い選択率で得ることができる。
【0025】
上記周期表第6~16族の金属元素の化合物としては、酸化物、窒化物、酸窒化物、水酸化物等が挙げられるが、これらの中でも酸化物が好ましい。
【0026】
本発明の電気化学的還元用電極材料に担体として用いられる粉末状亜酸化チタンは、還元型の酸化チタンであり、下記式(1);
TiOn(1.5≦n≦1.9) (1)
で表されるものであることが好ましい。
【0027】
本発明の電気化学的還元用電極材料に担体として用いられる粉末状亜酸化チタンは、上記組成式で現され、ルチル型結晶構造またはマグネリ構造、およびTi、Tiの単相または混合物が挙げられる。これらの結晶構造を有することにより、電極材料として必要な導電性をより十分に発揮することができる。
【0028】
上記粉末状亜酸化チタンは、上述した金属元素の単体及び/又は化合物の平均一次粒子径と同じ方法で測定した平均一次粒子径が1μm以下の、通常粉末状と認識される形状の亜酸化チタンであればよい。
【0029】
本発明の電気化学的還元用電極材料に担体として用いられる粉末状亜酸化チタンは、BET比表面積が10m/g以上であることが望ましい。担体の粉末状亜酸化チタンのBET比表面積が10m/g以上であると、二酸化炭素の電解還元に必要な金属元素の単体及び/又は化合物を効果的に担持することができる。粉末状亜酸化チタン担体の比表面積は、より好ましくは13m/g以上である。
【0030】
本発明の電気化学的還元用電極材料に用いられる粉末状亜酸化チタン担体は、粉末の体積固有抵抗値が1.0×10-6Ω・cm以上、1.0×10Ω・cm以下であることが好ましい。粉末の体積固有抵抗値がこのような範囲にある粉末状亜酸化チタン担体を用いることで、高い電子伝導性を有する電極触媒を作製することができ、二酸化炭素の電気化学還元に対して高活性を得ることができる。粉末状亜酸化チタン担体の粉末の体積固有抵抗値の上限値は、より好ましくは、5.0×10-1Ω・cm以下であり、更に好ましくは、1.0×10-1Ω・cm以下である。
粉末状亜酸化チタン担体の粉末の体積固有抵抗値は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0031】
2.電気化学的還元用電極材料の製造方法
本発明の電気化学的還元用電極材料の製造方法は特に制限されないが、組成がTiOn(1.5≦n≦1.9)で表される粉末状亜酸化チタン担体を得る工程(1)と、工程(1)で得た粉末状亜酸化チタン担体表面に、金属の単体及び/又はその化合物を担持する工程(2)を含む製造方法により容易かつ簡便に得ることができる。この製造方法は、必要に応じて、通常の粉末製造時に採用される1又は2以上のその他の工程を更に含んでもよい。
以下、各工程について更に説明する。
【0032】
1)工程(1)
工程(1)は、組成がTiOn(1.5≦n≦1.9)で表される粉末状亜酸化チタン担体を得る工程である。上記粉末状亜酸化チタン担体を、金属の単体及び/又はその化合物の担持工程(工程(2))に供することで、高導電性で、かつ高い二酸化炭素還元活性を有する電極材料を与えることができる。
工程(1)は、上記の粉末状亜酸化チタン担体を得ることのできる工程であれば特に限定されないが、酸化チタンを含む原料を還元雰囲気下で焼成する工程であることが好ましい。酸化チタンの結晶構造は特に限定されず、ルチル型酸化チタンやアナターゼ型酸化チタン等が挙げられる。より好ましくは、比表面積が20m/g以上である酸化チタンを用いることであり、これにより、比表面積が大きい導電性に優れた粉末状亜酸化チタン担体がより効率的に得られる。また、原料には金属チタン、水素化チタン等の還元助剤を含んでいてもよい。
なお、粉末状亜酸化チタン担体の好ましい結晶構造、比表面積は上述したとおりである。
【0033】
上記還元雰囲気としては特に限定されず、水素(H)雰囲気、一酸化炭素(CO)雰囲気、アンモニア(NH)雰囲気、水素と不活性ガスとの混合ガス雰囲気等が挙げられる。また、焼成は1回ないし2回以上行ってもよく、単一の雰囲気でも複数の雰囲気の組み合わせであってもよい。
【0034】
上記酸化チタンを含む原料を焼成する際の温度は、500~1100℃であることが好ましい。より好ましくは、650~1000℃である。
焼成する時間は、酸化チタンへの還元を十分に進める点と製造の効率とを考慮すると、5分~100時間であることが好ましい。より好ましくは、30分~24時間である。
【0035】
2)工程(2)
工程(2)は、工程(1)で得た粉末状亜酸化チタン担体と、周期表第6~16族の金属の単体及び/又はその水溶性化合物とを混合する工程を含むことが好ましい。具体的には、上記工程(1)で得た生成物に溶媒を添加してスラリーとし、該スラリーと周期表第6~16族の金属の単体及び/又はその水溶性化合物の溶液又は分散液とを混合することで混合液を作製する工程を含むことが好ましい。工程(2)がこのような工程を含むことで、金属又はその化合物が担体である粉末状亜酸化チタン上により高分散して担持された電極材料を得ることができる。なお、各成分はそれぞれ1種又は2種以上使用することができる。
【0036】
上記工程(1)で得た生成物に溶媒を添加してスラリーとする際に使用する溶媒は、スラリーを調製できるものである限り特に制限されないが、取扱いの容易さから水が好ましい。
また、上記スラリーには分散性向上のため、酸、アルカリ、キレート化合物、有機分散剤、高分子分散剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0037】
上記混合液を得る方法、すなわち上記混合液の調製方法は特に限定されないが、例えば、工程(1)で得た生成物等を含むスラリーを容器内で撹拌した状態で、周期表第6~16族の金属の単体及び/又はその水溶性化合物の溶液又は分散液を添加し、撹拌混合する方法が挙げられる。混合は、撹拌子を用いてスターラーで撹拌してもよいし、プロペラ式、櫂式等の撹拌羽根を備えた撹拌機を用いてもよい。
【0038】
上記周期表第6~16族の金属の単体及び/又はその水溶性化合物の溶液又は分散液は、周期表第6~16族の金属の単体及び/又はその水溶性化合物を含む溶液又は分散液であれば特に限定されないが、例えば、金属の硫酸塩、硝酸塩、塩化物、リン酸塩、等の無機塩、;水酸化物、;金属の酢酸塩、シュウ酸塩等の有機酸塩、等の溶液、あるいは、周期表第6~16族の金属及び/又はその酸化物等の分散溶液が挙げられる。中でも、塩化物溶液、水酸化物溶液等の溶液であることが好ましい。周期表第6~16族の金属については上述したとおりであり、Sn、In、Ga、Ge、Cu、Znからなる群より選択される少なくとも1種の元素であることが特に好ましい。
【0039】
上記周期表第6~16族の金属の単体及び/又はその水溶性化合物の溶液又は分散液の使用量は特に限定されないが、例えば、工程(1)で得た生成物の固形分総量100質量部に対し、金属の元素換算で1質量部以上とすることが好ましい。これにより、副次反応に寄与する担体表面が、金属元素の単体及び/又は化合物により均一に被覆され、二酸化炭素の電解還元における主生成物の転化選択性が向上する。より好ましくは5質量部以上、更に好ましくは10~30質量部である。
【0040】
上記工程(1)で得た生成物に溶媒を添加してスラリーとし、該スラリーと周期表第6~16族の金属の単体及び/又はその水溶性化合物の溶液又は分散液とを混合する際の温度は、特に制限されないが、10~50℃であることが好ましい。
【0041】
上記工程(2)が、上記工程(1)で得た生成物に溶媒を添加してスラリーとし、該スラリーと周期表第6~16族の金属の単体及び/又はその水溶性化合物の溶液又は分散液とを混合することで混合液を作製する工程を含む場合、工程(2)は更に、該混合液から、粉末状亜酸化チタン担体に周期表第6~16族の金属種が担持された電極材料を得る工程を含む。
上記混合液から、粉末状亜酸化チタン担体に周期表第6~16族の金属種が担持された電極材料を得る方法は特に制限されず、後に述べるように混合液を加熱して水分を蒸発乾固させる方法や、中和処理により周期表第6~16族の金属種を担体表面に析出させる方法などを用いることができる。中和処理を行う場合は、混合液に塩基性溶液又は酸性溶液を添加して行うことが好ましい。
【0042】
上記塩基性溶液は特に限定されるものではないが、NaOH水溶液、NH水溶液、炭酸ナトリウム水溶液等が挙げられ、好ましくはNaOH水溶液である。
【0043】
上記酸性溶液は特に限定されるものではないが、HCl水溶液、HSO水溶液、HNO水溶液、CHCOOH水溶液等が挙げられる。
【0044】
上記工程(2)は、上記混合液(上述の通り、必要に応じて中和処理を行ったものであってもよい)から、水分及び副生物(副生成物とも称す)を除去する工程を含むことが好ましい。その際の除去手段は特に限定されないが、例えば、濾過、水洗、乾燥、加熱下での蒸発等により水分及び副生物を除去する方法を用いることができる。
【0045】
上記工程(2)で上記混合液に中和処理を行った場合には、周期表第6~16族の金属種を担体表面に析出させた後、ろ過し、塩類等の副生成物は水洗により取り除くことが好ましい。電極材料中に副生成物が残存すると、二酸化炭素の電解還元の運転中に系内に溶出するなどし、二酸化炭素の電解還元における主生物の転化選択性の低下や電解還元システムの損傷を引き起こすおそれがある。
水洗の方法としては、粉末状亜酸化チタンに担持されていない水溶性物質を系外に除去できる方法であれば特に限定されず、ろ過水洗やデカンテーション等が挙げられる。このとき、水洗水の電導度が10μS/cm以下になるまで水洗することで副生成物を取り除くことが好ましい。より好ましくは電導度が3μS/cm以下になるまで水洗することである。
【0046】
工程(2)ではまた、上記混合液から水分及び副生物を除去した後に、その粉末を焼成することがより好適である。これによって、電気化学的還元用電極材料を二酸化炭素還元活性の発現に好適な状態とすることができる。粉末を焼成する場合、還元雰囲気下で焼成することが好適である。還元雰囲気については上述したとおりであり、窒素雰囲気、又は水素雰囲気、または窒素と水素の混合雰囲気が特に好ましい。
焼成温度は特に限定されないが、200~1100℃とすることが好ましい。より好ましくは、200~1000℃である。
また焼成時間も特に限定されないが、5分~100時間とすることが好ましい。より好ましくは、30分~24時間である。
【0047】
上述のとおり、本発明の電気化学的還元用電極材料は、二酸化炭素の電気化学的還元反応において高い触媒活性を発揮することから、二酸化炭素の電気化学的還元に用いられることが好ましい。このような、本発明の電気化学的還元用電極材料を用いる電気化学的還元用電極や、該電気化学的還元用電極を用いる電気化学的還元装置もまた、本発明の1つである。
【実施例
【0048】
本発明を詳細に説明するために以下に具体例を挙げるが、本発明はこれらの例のみに限定されるものではない。特に断りのない限り、「%」及び「wt%」とは「重量%(質量%)」を意味する。なお、各物性の測定方法は以下の通りである。
【0049】
1.X線回折パターン
下記条件の下、X線回折装置(株式会社リガク製、商品名「RINT-TTR3」)を用いて、粉末X線回折パターンを測定した。
X線源:Cu-Kα線
測定範囲:2θ=10~70°
スキャンスピード:5°/min
電圧:50kV
電流:300mA
【0050】
2.亜酸化チタンの体積抵抗(体積固有抵抗とも称す)測定
体積抵抗の測定には、株式会社三菱化学アナリテック製、粉体抵抗測定システム MCP-PD51型を用いた。
粉体抵抗測定システムは、油圧による粉体プレス部と四探針プローブ、高抵抗測定装置(同社製、ロレスターGX MCP-T700)から構成される。
以下の手順に従い、体積抵抗(Ω・cm)の値を求めた。
1)四探針プローブを底面に備えたプレス冶具(直径20mm)にサンプル粉末を投入し、粉体抵抗測定システムの加圧部にセットする。プローブと高抵抗測定装置とをケーブルで接続する。
2)ハンドプレスを用いて、20kNまで加圧する。粉体厚みをデジタルノギスで測定、抵抗値を高抵抗測定装置で測定する。
3)粉体の底面積、厚み、抵抗値から、下記数式(1)に基づき体積固有抵抗(Ω・cm)を求める。
【0051】
【数1】
【0052】
3.被覆率測定
本明細書中、「被覆率」とは、電極材料の全表面積に対する粉末状亜酸化チタン担体表面に担持された金属元素の単体及び/又は化合物の表面積の割合で表される。なお、担持された金属元素の単体及び/又は化合物が粒子の場合、その比表面積は金属元素の単体及び/又は化合物の担持量および平均一次粒子径さらには担持粒子密度を用いて粒子数を算出し、球の表面積と粒子数の積により算出することができる。このとき必要に応じて元素マッピングをおこない、粒子の組成を特定しても良い。
すなわち、平均一次粒子径をP(nm)、担持量をS(重量%)、担持粒子の密度をD(g/cm)とすることで、下記数式(2)により算出した。なお、金属元素の単体及び/又は化合物の平均一次粒子径、担持量、担持粒子の密度は以下のようにして測定した。
担持された金属元素の単体及び/又は化合物の比表面積=6S/PD×10 (2)
[平均一次粒子径]
透過型電子顕微鏡(TEM)による写真を用いて、40個の一次粒子径を測定し、平均を算出することにより得た。
[担持量]
下記(A)又は(B)に記載の方法により定量した。
(A)担体が亜酸化チタンの場合
硫酸アンモニウム2.5gを溶解した95wt%硫酸20mlにサンプル50mgを添加した後、300℃で撹拌加熱してサンプルを溶解し室温まで冷却して得た溶液を誘導結合プラズマ発光分光装置(ICP)に供し、検量線法によって定量した。
(B)担体がカーボンブラックの場合
95wt%硫酸20mlと60wt%硝酸60mlの混合液にサンプル50mgを添加した後、300℃で撹拌加熱してサンプルを溶解し、室温まで冷却して得た溶液を誘導結合プラズマ発光分光装置(ICP)に供し、検量線法によって定量した。
[担持粒子の密度]
改訂4版化学便覧 基礎編 丸善株式会社(1993)及び第4版岩波理化学辞典 株式会社岩波書店(1987)に記載されている該当する金属元素又は化合物の数値を引用した。
【0053】
4.二酸化炭素転化選択性
(1)作用極の作製
測定対象サンプルに、5重量%パーフルオロスルホン酸樹脂溶液(シグマアルドリッチジャパン株式会社製)、イソプロピルアルコール(和光純薬工業株式会社製)及び超純水を加え、超音波により分散させてペーストを調製した。ペーストを板状の導電性物質であるカーボンペーパ (Electrochem,Inc.社製、商品名「EC-TP1-090T」)に塗布し、充分に乾燥した。乾燥後のサンプルを作用極とした。
(2)二酸化炭素の電解還元
(2-1)Automatic Polarization System(北斗電工株式会社製、商品名「HZ-5000」)に、作用極、対極、および参照極を接続した。作用極には、上記で得た測定サンプル付き電極を用い、対極と参照極には、それぞれ白金電極と可逆水素電極(RHE)電極を用いた。
(2-2)25℃で、電解液(0.1mol/lの炭酸水素カリウム水溶液)に二酸化炭素ガスを30分間バブリングさせた。二酸化炭素ガスの流量は100ml/分であった。
(2-3)引き続き、二酸化炭素ガスを流通しながら、25℃で、二酸化炭素ガスを飽和させた電解液中(0.1mol/l炭酸水素カリウム水溶液)で、アノードの電極電位に対してカソードの電極電位が負となるように、ポテンショスタットを用いて電圧がアノード電極およびカソード電極の間に印加し、電解反応を生じさせた。カソード電極に印加された電圧値は、参照電極に対して-1.0Vであった。電解は、連続して180分間行った。
(2-4)電解槽内で生成された電解生成物は、液体クロマトグラフィーを用いて同定し、検量線法によって定量した。
二酸化炭素の電解生成物の転化選択性は、ファラデー効率によって算出した。ファラデー効率は、全反応電荷量に対して、目的の電解生成物の生成に用いたられた電荷量の割合を意味する。具体的には、以下の数式(3)に基づいて算出した。
目的の電解生成物のファラデー効率(%)=(目的の電解生成物の生成のために用いられた反応電荷量(C))/(全反応電荷量(C))×100 (3)
【0054】
実施例1
ルチル型酸化チタン(堺化学工業株式会社製、商品名「STR-100N」、比表面積100m2/g)3.5gと金属チタン(和光純薬工業株式会社製、商品名「チタン,粉末」)0.525gを乾式混合した後、アルミナボートに入れ、雰囲気焼成炉にて100vol%水素を400ml/分で流通しながら730℃まで昇温速度300℃/hrで昇温し、730℃で6時間保持した。その後、水素の流通を止め、100vol%アンモニアを400ml/分で流通しながらで500℃まで降温速度200℃/hrで降温させた。その後、アンモニアの流通を止め、100vol%窒素雰囲気下、500℃から室温まで自然冷却し、亜酸化チタン粉末を得た。得られた亜酸化チタン粉末は、平均一次粒子径が100nm以下の粉末状のものであり、体積抵抗は1.0×10-1Ω・cmであった。
得られた亜酸化チタン粉末2.25gと、イオン交換水100gをビーカーに計量して撹拌混合し、亜酸化チタンスラリーを得た。
別のビーカーにてSnCl・5HO(和光純薬工業株式会社製)0.753gをイオン交換水20.0gと塩酸(37%)23.8gの混合液に添加し、撹拌混合したものを用意した(これを「混合水溶液」と称す)。
亜酸化チタンスラリーを撹拌しながら、別のビーカーにて用意した上記の混合水溶液全量を添加し、その後、液温を30℃に保持しながら、30分撹拌混合した。さらに、1mol/lの水酸化ナトリウム水溶液を溶液のpHが10になるまで添加した後、濾過、水洗、乾燥して水分を全て蒸発させて、粉末(p1)を得た。
粉末(p1)0.5gをアルミナボートに入れ、雰囲気焼成炉にて水素を400ml/分で流通しながら、400℃まで600℃/hrで昇温し、400℃で1時間保持した後、室温まで自然冷却して実施例1粉末を得た。
【0055】
実施例2
実施例1で得られた粉末(p1)0.5gをアルミナボートに入れ、雰囲気焼成炉にて水素を400ml/分で流通しながら、300℃まで600℃/hrで昇温し、300℃で1時間保持した後、室温まで自然冷却して実施例2粉末を得た。
【0056】
比較例1
粉末状亜酸化チタンの代わりに、カーボンブラック(EC-300J、ライオン・スベシャリティ・ケミカルズ株式会社製)2.25gと、非イオン界面活性剤(ノイゲンEA-157、第一工業製薬株式会社製)0.45gとを用いること以外は実施例1と同様にして、比較例1粉末を得た。
【0057】
比較例2
粉末状亜酸化チタンの代わりに、カーボンブラック(EC-300J、ライオン・スベシャリティ・ケミカルズ株式会社製)2.25gと、非イオン界面活性剤(ノイゲンEA-157、第一工業製薬株式会社製)0.45gとを用いること以外は実施例2と同様にして、比較例2粉末を得た。
【0058】
比較例3
カーボンブラック(EC-300J、ライオン・スベシャリティ・ケミカルズ株式会社製)2.25gと、非イオン界面活性剤(ノイゲンEA-157、第一工業製薬株式会社製)0.45gと、イオン交換水100gをビーカーに計量して撹拌混合し、カーボンブラックスラリーを得た。
別のビーカーにてCuCl・2HO(和光純薬工業株式会社製)0.691gをイオン交換水40.0gに添加し、撹拌混合したものを用意した(これを「混合水溶液」と称す)。
カーボンブラックスラリーを撹拌しながら、別のビーカーにて用意した上記の混合水溶液全量を添加し、その後、液温を30℃に保持しながら、30分撹拌混合した。さらに、1mol/lの水酸化ナトリウム水溶液を溶液のpHが10になるまで添加した後、濾過、水洗、乾燥して水分を全て蒸発させて、粉末(p2)を得た。
粉末(p2)0.5gをアルミナボートに入れ、雰囲気焼成炉にて水素を200ml/分、窒素を200ml/分で流通しながら、600℃まで600℃/hrで昇温し、600℃で1時間保持した後、室温まで自然冷却して比較例3粉末を得た。
【0059】
比較例4
カーボンブラック(EC-300J、ライオン・スベシャリティ・ケミカルズ株式会社製)2.25gと、非イオン界面活性剤(ノイゲンEA-157、第一工業製薬株式会社製)0.45gと、イオン交換水100gをビーカーに計量して撹拌混合し、カーボンブラックスラリーを得た。
別のビーカーにてCr(NO・9HO(和光純薬工業株式会社製)1.92gをイオン交換水40.0gに添加し、撹拌混合したものを用意した(これを「混合水溶液」と称す)。
前記スラリーを撹拌しながら、液温を65~75℃に保持しながら水分を全て蒸発させて、粉末(p3)を得た。
粉末(p3)0.5gをアルミナボートに入れ、雰囲気焼成炉にて水素を200ml/分、窒素を200ml/分で流通しながら、600℃まで600℃/hrで昇温し、600℃で1時間保持した後、室温まで自然冷却して比較例4粉末を得た。
【0060】
比較例5
Cr(NO・9HOの代わりに、Fe(NO・9HO(和光純薬工業株式会社製)1.81gを用いること、及び、雰囲気焼成炉にて水素を200ml/分、窒素を200ml/分流通する代わりに、窒素400ml/分を流通すること以外は比較例4と同様に、比較例5粉末を得た。
【0061】
比較例6
Cr(NO・9HOの代わりに、Co(NO・6HO(和光純薬工業株式会社製)1.26gを用いること、及び、雰囲気焼成炉にて水素を200ml/分、窒素を200ml/分流通する代わりに、窒素400ml/分を流通すること以外は比較例4と同様に、比較例6粉末を得た。
【0062】
比較例7
Cr(NO・9HOの代わりに、Ni(NO・6HO(和光純薬工業株式会社製)1.24gを用いること、及び、雰囲気焼成炉にて水素を200ml/分、窒素を200ml/分流通する代わりに、窒素400ml/分を流通すること以外は比較例4と同様に、比較例7粉末を得た。
【0063】
比較例8
Cr(NO・9HOの代わりに、Zn(NO・3HO(和光純薬工業株式会社製)1.14gを用いること、及び、雰囲気焼成炉にて水素を200ml/分、窒素を200ml/分流通する代わりに、窒素400ml/分を流通すること以外は比較例4と同様に、比較例8粉末を得た。
【0064】
比較例9
実施例1と同様に得られた亜酸化チタン粉末に対して、金属種の担持を行わず、かつ、雰囲気炉による昇温も実施せずに使用した。
【0065】
比較例10
カーボンブラック(EC-300J、ライオン・スベシャリティ・ケミカルズ株式会社製)に対して、金属種の担持を行わず、かつ、雰囲気炉による昇温も実施せずに使用した。
【0066】
上述の実施例1、2及び比較例1~10で得た各粉末(試料)につき、上述した分析及び評価を行った。結果を表1に示す。また、実施例1、2及び比較例1~8で得た各粉末の透過型電子顕微鏡の反射電子像を図1~10に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
実施例及び比較例の結果より、表1に示す通り、以下のことを確認した。
実施例1で得た粉末は、金属としてスズが粉末状亜酸化チタン表面に担持され、被覆率が0.5%以上である電極材料である。一方、比較例1で得た粉末は、被覆率が0.5%未満である点で、本発明の電極材料とは相違する。このような相違の下、二酸化炭素電解還元における転化選択性の指標であるファラデー効率を対比すると、実施例1で得た粉末は、比較例1で得た粉末に比較してファラデー効率が著しく高いことが分かる。
また、実施例2で得た粉末は、酸化物としてスズが粉末状亜酸化チタン表面に担持され、被覆率が3.0%以上である電極材料である。一方、比較例2で得た粉末は、被覆率が3.0%未満である点で、本発明の電極材料とは相違する。このような相違の下、二酸化炭素電解還元における転化選択性の指標であるファラデー効率を対比すると、実施例2で得た粉末は、比較例2で得た粉末に比較してファラデー効率が著しく高いことが分かる。
したがって、本発明の電極材料は、高い被覆率に加え、高いファラデー効率を有し、二酸化炭素電解還元における主生物の選択性に優れることが分かった。
【0069】
比較例3~8で得た粉末は、それぞれ銅、亜鉛、クロム、鉄、コバルト、ニッケルがカーボンに担持されたものであり、これらもギ酸を生成することが分かったが、担体が粉末状亜酸化チタンのものよりもファラデー効率が低かった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10