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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】タイヤの動的キャンバー角の推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 21/22 20060101AFI20220315BHJP
   G01M 17/00 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
G01B21/22
G01M17/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018076337
(22)【出願日】2018-04-11
(65)【公開番号】P2019184445
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(72)【発明者】
【氏名】中西 亮太
【審査官】櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-076579(JP,A)
【文献】特開平09-142118(JP,A)
【文献】特開平10-119743(JP,A)
【文献】特開平11-211455(JP,A)
【文献】特開2004-012195(JP,A)
【文献】特表2010-501414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 21/00-21/32
G01M 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車が旋回しているときのタイヤの動的キャンバー角を推定する方法であって、
前記自動車が定常円旋回しているときの横加速度と前記自動車の車高との関係を取得する第1工程と、
前記自動車が前記定常円旋回しているときの前記横加速度と前記自動車のロール角との関係を取得する第2工程と、
前記自動車が停止しているときの前記タイヤの静的キャンバー角と前記車高との関係を取得する第3工程と、
前記車高、前記ロール角及び前記静的キャンバー角に基づいて、前記自動車の横加速度と前記タイヤの動的キャンバー角との関係を計算する第4工程とを含む、
タイヤの動的キャンバー角の推定方法。
【請求項2】
前記第1工程は、任意の横加速度で前記自動車を定常円旋回させたときの前記車高を測定する第1測定を、前記横加速度を変えて複数回行うことにより、前記横加速度を独立変数としかつ前記車高を従属変数とする第1の関数を求める、請求項1記載のタイヤの動的キャンバー角の推定方法。
【請求項3】
前記第1の関数は、一次関数である、請求項2記載のタイヤの動的キャンバー角の推定方法。
【請求項4】
前記第2工程は、任意の横加速度で前記自動車を定常円旋回させたときの前記ロール角を測定する第2測定を、前記横加速度を変えて複数回行うことにより、前記横加速度を独立変数としかつ前記ロール角を従属変数とする第2の関数を求める、請求項1ないし3のいずれかに記載のタイヤの動的キャンバー角の推定方法。
【請求項5】
前記第2の関数は、一次関数である、請求項4記載のタイヤの動的キャンバー角の推定方法。
【請求項6】
前記第3工程は、非走行の状態で前記自動車のサスペンションを伸張又は圧縮させて前記車高を変化させ、任意の前記車高で前記静的キャンバー角を測定する第3測定を、前記車高を変えて複数回行うことにより、前記車高を独立変数としかつ前記静的キャンバー角を従属変数とする第3の関数を求める、請求項1ないし5のいずれかに記載のタイヤの動的キャンバー角の推定方法。
【請求項7】
前記第3工程では、推定したい旋回状態で予想される前記車高の変化量よりも大きい範囲で前記車高を変化させて前記第3測定を複数回行う、請求項6記載のタイヤの動的キャンバー角の推定方法。
【請求項8】
前記第3工程は、前記自動車をジャッキアップして前記サスペンションを伸張させる工程を含む、請求項6又は7記載のタイヤの動的キャンバー角の推定方法。
【請求項9】
前記第3工程は、前記自動車に錘を載せて前記サスペンションを圧縮させる工程を含む、請求項6ないし8のいずれかに記載のタイヤの動的キャンバー角の推定方法。
【請求項10】
前記第3の関数は、二次関数である、請求項6ないし9のいずれかに記載のタイヤの動的キャンバー角の推定方法。
【請求項11】
前記第1工程は、前記横加速度を独立変数としかつ前記車高を従属変数とする第1の関数を求め、
前記第2工程は、前記横加速度を独立変数としかつ前記ロール角を従属変数とする第2の関数を求め、
前記第3工程は、前記車高を独立変数としかつ前記静的キャンバー角を従属変数とする第3の関数を求め、
前記第4工程は、
前記第1の関数に、推定したい旋回状態の横加速度である推定横加速度を入力して、前記推定横加速度における推定車高を算出する第1計算工程と、
前記第2の関数に、前記推定横加速度を入力して、前記推定横加速度における推定ロール角を算出する第2計算工程と、
前記第3の関数に、前記推定車高を入力して、前記自動車のロール角を含まない前記タイヤの推定グロスキャンバー角を算出する第3計算工程と、
前記推定ロール角と前記推定グロスキャンバー角との和を算出する第4計算工程とを含む、請求項1ないし10のいずれかに記載のタイヤの動的キャンバー角の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車が旋回しているときのタイヤの動的キャンバー角を推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤの旋回状態をコンピュータを用いて再現するシミュレーション方法が種々知られている(例えば、下記特許文献1参照)。前記シミュレーション方法では、タイヤの旋回状態を正確に再現するために、旋回中のタイヤの動的キャンバー角が必要となる場合がある。
【0003】
下記特許文献2には、自動車タイヤの動的キャンバー角を測定する方法及び装置が記載されている。しかしながら、特許文献2の測定方法は、計測装置が車輪に実装された状態で自動車を走行させる必要があり、計測及びその準備に大きな労力を要するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-138792号公報
【文献】特開平8-247745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、小さい労力で実施できるタイヤの動的キャンバー角を推定する方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、自動車が旋回しているときのタイヤの動的キャンバー角を推定する方法であって、前記自動車が定常円旋回しているときの横加速度と前記自動車の車高との関係を取得する第1工程と、前記自動車が前記定常円旋回しているときの前記横加速度と前記自動車のロール角との関係を取得する第2工程と、前記自動車が停止しているときの前記タイヤの静的キャンバー角と前記車高との関係を取得する第3工程と、前記車高、前記ロール角及び前記静的キャンバー角に基づいて、前記自動車の横加速度と前記タイヤの動的キャンバー角との関係を計算する第4工程とを含む。
【0007】
本発明のタイヤの動的キャンバー角の推定方法において、前記第1工程は、任意の横加速度で前記自動車を定常円旋回させたときの前記車高を測定する第1測定を、前記横加速度を変えて複数回行うことにより、前記横加速度を独立変数としかつ前記車高を従属変数とする第1の関数を求めるのが望ましい。
【0008】
本発明のタイヤの動的キャンバー角の推定方法において、前記第1の関数は、一次関数であるのが望ましい。
【0009】
本発明のタイヤの動的キャンバー角の推定方法において、前記第2工程は、任意の横加速度で前記自動車を定常円旋回させたときの前記ロール角を測定する第2測定を、前記横加速度を変えて複数回行うことにより、前記横加速度を独立変数としかつ前記ロール角を従属変数とする第2の関数を求めるのが望ましい。
【0010】
本発明のタイヤの動的キャンバー角の推定方法において、前記第2の関数は、一次関数であるのが望ましい。
【0011】
本発明のタイヤの動的キャンバー角の推定方法において、前記第3工程は、非走行の状態で前記自動車のサスペンションを伸張又は圧縮させて前記車高を変化させ、任意の前記車高で前記静的キャンバー角を測定する第3測定を、前記車高を変えて複数回行うことにより、前記車高を独立変数としかつ前記静的キャンバー角を従属変数とする第3の関数を求めるのが望ましい。
【0012】
本発明のタイヤの動的キャンバー角の推定方法において、前記第3工程では、推定したい旋回状態で予想される前記車高の変化量よりも大きい範囲で前記車高を変化させて前記第3測定を複数回行うのが望ましい。
【0013】
本発明のタイヤの動的キャンバー角の推定方法において、前記第3工程は、前記自動車をジャッキアップして前記サスペンションを伸張させる工程を含むのが望ましい。
【0014】
本発明のタイヤの動的キャンバー角の推定方法において、前記第3工程は、前記自動車に錘を載せて前記サスペンションを圧縮させる工程を含むのが望ましい。
【0015】
本発明のタイヤの動的キャンバー角の推定方法において、前記第3の関数は、二次関数であるのが望ましい。
【0016】
本発明のタイヤの動的キャンバー角の推定方法において、前記第1工程は、前記横加速度を独立変数としかつ前記車高を従属変数とする第1の関数を求め、前記第2工程は、前記横加速度を独立変数としかつ前記ロール角を従属変数とする第2の関数を求め、前記第3工程は、前記車高を独立変数としかつ前記静的キャンバー角を従属変数とする第3の関数を求め、前記第4工程は、前記第1の関数に、推定したい旋回状態の横加速度である推定横加速度を入力して、前記推定横加速度における推定車高を算出する第1計算工程と、前記第2の関数に、前記推定横加速度を入力して、前記推定横加速度における推定ロール角を算出する第2計算工程と、前記第3の関数に、前記推定車高を入力して、前記自動車のロール角を含まない前記タイヤの推定グロスキャンバー角を算出する第3計算工程と、前記推定ロール角と前記推定グロスキャンバー角との和を算出する第4計算工程とを含むのが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のタイヤの動的キャンバー角を推定する方法は、自動車が定常円旋回しているときの横加速度と自動車の車高との関係を取得する第1工程と、自動車が定常円旋回しているときの横加速度と自動車のロール角との関係を取得する第2工程と、自動車が停止しているときのタイヤの静的キャンバー角と車高との関係を取得する第3工程と、前記車高、前記ロール角及び前記静的キャンバー角に基づいて、自動車の横加速度とタイヤの動的キャンバー角との関係を計算する第4工程とを含む。本発明の方法は、車輪に前記動的キャンバー角の測定装置を実装せずに実施でき、小さい労力でタイヤの動的キャンバー角を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】(a)は、静止時の自動車及びタイヤの背面図であり、(b)は、旋回時の自動車及びタイヤの背面図である。
図2】本発明のタイヤの動的キャンバー角を推定する方法のフローチャートである。
図3】(a)は、第1工程で用いられる自動車の側面図であり、(b)は、定常円旋回中の自動車の上面図である。
図4】(a)は、第1測定時における時間と横加速度との関係を示すグラフであり、(b)は、第1測定時における時間と車高の変化量との関係を示すグラフである。
図5】横加速度と車高の変化量との関係を示すグラフである。
図6】(a)は、第2測定時における時間と横加速度との関係を示すグラフであり、(b)は、第2測定時における時間とロール角との関係を示すグラフである。
図7】横加速度とロール角との関係を示すグラフである。
図8】(a)は、第3工程における自動車の側面図であり、(b)は、車高の変化量と静的キャンバー角との関係を示すグラフである。
図9】第4工程のフローチャートである。
図10】タイヤの動的キャンバー角の実測値と推定値との相関を示す散布図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1(a)には、自動車1が静止しているときの背面図が示されている。図1(b)には、自動車1が旋回しているときの背面図が示されている。図1(b)では、右側のタイヤ2の接地荷重が増加する向きに自動車がロールしている。なお、理解し易いように、図1(a)及び(b)において、タイヤ2は実線で示され、自動車1の車体は2点鎖線で示されている。
【0020】
タイヤ2は、例えば、正規リムにリム組されかつ正規内圧が充填された状態で自動車に装着される。
【0021】
「正規リム」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim" である。
【0022】
「正規内圧」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0023】
図1(a)及び(b)に示されるように、キャンバー角とは、自動車1にタイヤ2が装着された状態でのタイヤ回転軸を含む子午線断面における、タイヤ赤道面の鉛直方法に対する角度である。タイヤが接地面から上方に向かって車体と離れる向きに傾斜している態様をポジティブキャンバー、タイヤが接地面から上方に向かって車体に接近する向きに傾斜している態様をネガティブキャンバーと呼ぶ場合がある。キャンバー角は、ポジティブキャンバーの場合は符号が正となり、ネガティブキャンバーの場合は符号が負となる。
【0024】
図1(a)には、静的キャンバー角θ1が示されている。静的キャンバー角θ1は、自動車が停止しているときのキャンバー角である。図1(b)には、動的キャンバー角θ2が示されている。動的キャンバー角は、自動車が旋回しているときのタイヤのキャンバー角である。本明細書において、特に断りのない限り、動的キャンバー角は、旋回外側のタイヤで測定されたものである。一般的な乗用車では、停止状態及び直進時において、僅かにネガティブキャンバーが付与されている。また、旋回外側のタイヤの動的キャンバー角θ2は、旋回時の横加速度の増加に伴ってポジティブ側に大きくなる傾向がある。旋回内側のタイヤのキャンバー角θ3は、旋回時の横加速度の増加に伴ってネガティブ側に大きくなる傾向がある。
【0025】
図2には、本発明のタイヤの動的キャンバー角θ2を推定する方法(以下、単に「推定方法」という場合がある。)のフローチャートが示されている。図2に示されるように、本発明の推定方法は、第1工程S1、第2工程S2、第3工程S3及び第4工程S4を含んでいる。
【0026】
第1工程S1は、自動車1が定常円旋回しているときの横加速度と自動車1の車高との関係を取得する。第2工程S2は、自動車1が定常円旋回しているときの横加速度と自動車1のロール角との関係を取得する。第3工程S3は、自動車1が停止しているときのタイヤ2の静的キャンバー角と車高との関係を取得する。第4工程S4は、前記車高、前記ロール角及び前記静的キャンバー角に基づいて、自動車1の横加速度とタイヤ2の動的キャンバー角θ2との関係を計算する。本発明の方法は、車輪に前記動的キャンバー角の測定装置を実装せずに実施でき、小さい労力でタイヤの動的キャンバー角を推定することができる。
【0027】
以下、各工程が詳細に説明される。図3(a)には、第1工程S1で用いられる自動車1の側面図が示されている。図3(a)に示されるように、第1工程S1では、自動車1が定常円旋回しているときの横加速度と車高との関係を取得するために、自動車1に車高を測定するための車高センサ10が取り付けられる。
【0028】
車高センサ10は、例えば、動的キャンバー角θ2を推定しようとするタイヤ2を覆う、フェンダーアーチの上端部に設けられるのが望ましい。より望ましい態様では、4つのタイヤのフェンダーアーチのそれぞれに、車高センサ10が設けられる。車高センサ10は、走行中における路面から車高センサ10までの高さを測定することができる。停止時の車高と旋回時の車高との差が計算されることにより、車高の変化量が得られる。本実施形態では、走行中の車高の変化量が記録されるとともに、横軸を時間、縦軸を車高の変化量としたグラフが運転席に設けられたディスプレイに表示される。運転者は、ディスプレイによって走行中の車高の変化量を確認することができる。
【0029】
望ましい態様では、自動車1に横加速度センサ11が取り付けられる。本実施形態の横加速度センサ11は、自動車のロール角を測定できるロール角センサ12とともに、車両挙動測定装置9内に配されている。車両挙動測定装置9は、例えば、自動車の重心付近に取り付けられるのが望ましく、例えば、運転席と助手席との間のセンターコンソールに取り付けられる。本実施形態では、走行中の横加速度のデータが記録されるとともに、横軸を時間、縦軸を横加速度としたグラフが運転席に設けられたディスプレイに表示される。運転者は、ディスプレイによって走行中の横加速度を確認することができる。
【0030】
第1工程S1において、望ましい態様では、自動車1を定常円旋回させる前に、直進時(横加速度=0)の車高を測定しておくのが望ましい。これにより、推定の精度をさらに高めることができる。
【0031】
図3(b)には、定常円旋回中の自動車の上面図が示されている。図3(b)に示されるように、第1工程S1では、任意の横加速度で自動車1を定常円旋回させたときの車高を測定する第1測定M1を、横加速度を変えて複数回行う。定常円の半径r1及び自動車の速度は、必要に応じて任意に定めることができる。
【0032】
本実施形態では、横加速度は、予め取り付けられた横加速度センサ11によって測定されるが、他の実施形態では、例えば、横加速度は、自動車の速度と、走行する定常円の半径から算出されても良い。
【0033】
第1測定M1では、一定の横加速度で自動車を定常円旋回させたときの車高を測定する。具体的には、自動車の運転者は、ディスプレイで確認しながら、横加速度が一定のレンジに収まるように定常円旋回を行い、旋回状態が安定したところで車高の計測をスタートする。車高の計測は、例えば、30秒~60秒間、本実施形態では40秒間、実施される。
【0034】
図4(a)は、第1測定M1時における時間tと横加速度gとの関係を示すグラフである。図4(b)は、第1測定M1時における時間tと車高の変化量hとの関係を示すグラフである。なお、図4(b)の車高の変化量は、旋回外側の前輪のものである。図4(a)に示されるように、本実施形態では、走行開始(t=0)から約30秒後、旋回状態及び横加速度が安定している。このため、図4(b)に示されるように、車高の測定は、t=30秒から開始している。また、車高の測定は40秒間(t=30秒からt=70秒までの間)実施されている。
【0035】
上記測定後、1つの第1測定M1における横加速度及び車高の変化量の代表値が決定される。図4(a)のグラフでは、測定実施中の時間t=30~70秒の間における横加速度の代表値が決定される。同様に、図4(b)のグラフでは、測定実施中のt=30~70秒の間における車高の変化量の代表値が決定される。代表値は、例えば、前記範囲における横加速度又は車高の変化量の平均値等が用いられる。
【0036】
第1工程S1では、上述した第1測定M1が横加速度を変えて複数回行われる。横加速度の範囲は、例えば、推定しようとする旋回状態の横加速度を含んで決定されるのが望ましい。第1測定M1は、例えば、横加速度を変えて2~7回行われ、より望ましくは3~5回行われる。本実施形態では、横加速度が2.0(m/s^2)付近、4.0(m/s^2)付近及び6.0(m/s^2)付近における車高及び車高の変化量が測定される。
【0037】
上述した第1測定M1を複数回行った結果に基づき、第1の関数f1が求められる。第1の関数f1は、横加速度を独立変数とし、かつ、車高を従属変数とする。
【0038】
図5には、横加速度gと車高の変化量hとの関係を示すグラフが示されている。図5において、横軸が横加速度gを示し、縦軸が車高の変化量hを示している。また、図5には、上述した複数回の第1測定M1で得られた結果がプロットされ、前記結果に基づいた第1の関数f1から得られるグラフG1が示されている。
【0039】
発明者らは、種々の実験及び考察の結果、第1の関数f1は、一次関数(y=ax+b)として表すことができることを突き止めた。このため、本実施形態では、横加速度と車高の変化量との関係が、図5の一次関数のグラフG1で示されている。
【0040】
次に、第2工程S2が説明される。第2工程S2では、自動車が定常円旋回しているときの横加速度と自動車のロール角との関係を取得するために、図3(a)に示されるように、自動車1に横加速度センサ11及びロール角を測定するためのロール角センサ12が取り付けられる。横加速度センサ11は、第1工程S1で用いられたものと同一であり、ここでの説明は省略される。
【0041】
ロール角センサ12は、例えば、上述した車両挙動測定装置9内に配されている。なお、ロール角は、自動車の進行方向に延びる中心軸に対する、車体の回転角度である。直進時のロール角は0であり、旋回時にはロール角が大きくなる。ロール角センサ12は、走行中におけるロール角を測定することができる。本実施形態では、走行中のロール角のデータが記録されるとともに、横軸を時間、縦軸をロール角としたグラフが運転席に設けられたディスプレイに表示される。運転者は、ディスプレイによって走行中のロール角を確認することができる。
【0042】
第2工程S2において、望ましい態様では、自動車1を定常円旋回させる前に、直進時(横加速度=0)のロール角を測定しておくのが望ましい。これにより、推定の精度をさらに高めることができる。
【0043】
第2工程S2では、任意の横加速度で自動車1を定常円旋回させたときのロール角を測定する第2測定M2を、横加速度を変えて複数回行う。
【0044】
本実施形態では、横加速度は、予め取り付けられた横加速度センサ11によって測定されるが、他の実施形態では、例えば、横加速度は、自動車の速度と、走行する定常円の半径から算出されても良い。
【0045】
第2測定M2では、一定の横加速度で自動車を定常円旋回させたときのロール角を測定する。具体的には、自動車の運転者は、ディスプレイで確認しながら、横加速度が一定になるように定常円旋回を行い、旋回状態が安定したところでロール角の計測をスタートする。ロール角の計測は、例えば、30秒~60秒間、本実施形態では40秒間、実施される。
【0046】
図6(a)は、第2測定M2時における時間tと横加速度gとの関係を示すグラフである。図6(b)は、第2測定M2時における時間tとロール角θ4との関係とを示すグラフである。図6(a)に示されるように、本実施形態では、走行開始(t=0)から約30秒後、旋回状態及び横加速度が安定している。このため、図6(b)に示されるように、ロール角の測定は、t=30秒から開始している。また、ロール角の測定は40秒間(t=30秒からt=70秒までの間)実施されている。
【0047】
上記測定後、1つの第2測定M2における横加速度及びロール角の代表値が決定される。図6(a)のグラフでは、測定実施中のt=30~70秒の間における横加速度の代表値が決定される。同様に、図6(b)のグラフでは、測定実施中のt=30~70秒の間におけるロール角の代表値が決定される。代表値は、例えば、前記範囲における横加速度又はロール角の平均値等が用いられる。
【0048】
第2工程S2では、上述した第2測定M2が横加速度を変えて複数回行われる。横加速度の範囲は、例えば、推定しようとする旋回状態の横加速度を含んで決定されるのが望ましい。第2測定M2は、例えば、2~7回行われ、より望ましくは3~5回行われる。本実施形態では、横加速度が2.0(m/s^2)付近、4.0(m/s^2)付近及び6.0(m/s^2)付近におけるロール角が測定される。
【0049】
上述した第2測定M2を複数回行った結果に基づき、第2の関数f2が求められる。第2の関数f2は、横加速度を独立変数とし、かつ、ロール角を従属変数とする。
【0050】
図7には、横加速度gとロール角θ4との関係を示すグラフG2が示されている。図7において、横軸が横加速度gを示し、縦軸がロール角θ4を示している。また、図7には、上述した複数回の第2測定M2で得られた結果がプロットされ、前記結果に基づいた第2の関数f2から得られるグラフG2が示されている。
【0051】
発明者らは、種々の実験及び考察の結果、第2の関数f2は、一次関数(y=ax+b)として表すことができることを突き止めた。このため、本実施形態では、横加速度とロール角との関係が、図7の一次関数のグラフG2で示されている。
【0052】
第2工程S2の定常円旋回時のデータ取得は、例えば、第1工程S1と同時に実施されても良い。これにより、データ取得の労力が低減し得る。
【0053】
次に、第3工程S3が説明される。第3工程S3では、自動車が停止しているときのタイヤの静的キャンバー角と車高との関係が取得される。図8(a)には、第3工程S3における自動車1の側面図が示されている。図8(a)に示されるように、第3工程S3は、非走行の状態で自動車1のサスペンションを伸張又は圧縮させて車高を変化させ、任意の車高で静的キャンバー角を測定する第3測定M3を、車高を変えて複数回行う。
【0054】
第3工程S3では、先ず、乗車員が0名の通常の停止状態でキャンバー角が測定される。このときのキャンバー角が、車高の変化量が0のときの静的キャンバー角となる。なお、静的キャンバー角は、動的キャンバー角を推定しようとするタイヤのものを測定する。本実施形態では、4つのタイヤのそれぞれの静的キャンバー角が測定される。
【0055】
第3工程S3は、自動車1に錘13を載せてサスペンションを圧縮させる工程、及び、自動車1をジャッキアップしてサスペンションを伸張させる工程を含む。これにより、自動車の車高を任意に変化させることができる。
【0056】
自動車に錘13を載せる場合、車体を均等に沈ませるのが望ましい。このため、本実施形態では、このため、本実施形態では、エンジンルームの左右両側と、リアのトランクルームの左右両側に均等に錘が載せられる。
【0057】
同様の観点から、自動車1をジャッキアップする場合、ジャッキ14は、各車輪にできるだけ近い位置に配されるのが望ましく、本実施形態では、自動車が4つのジャッキによって均等に持ち上げられる。
【0058】
第3測定M3は、推定したい旋回状態で予想される車高の変化量よりも大きい範囲で車高を変化させるのが望ましい。これにより、さらに高い精度で推定を行うことができる。本実施形態では、サスペンションを圧縮させる側及びサスペンションを伸張させる側のそれぞれに、例えば、2~7段階、好ましくは3~5段階、車高を変化させて静的キャンバー角が測定される。より具体的には、車高の変化量が0の状態から、-40mm、-30mm、-20mm、-10mm、+10mm、+20mm、+30mm、+40mmの状態で静的キャンバー角が測定される。
【0059】
錘13の重量で車高を調整するのは多大な労力が必要である一方、ジャッキ14による車高の調整は比較的容易である。このため、本実施形態では、車高の変化量が-40mmを超える程度の重量の錘13が車体に載せられ、ジャッキ14によって車高が調整される。
【0060】
上述した第3測定M3を複数回行った結果に基づき、第3の関数f3が求められる。第3の関数f3は、車高を独立変数とし、かつ、静的キャンバー角を従属変数とする。
【0061】
図8(b)には、車高の変化量hと静的キャンバー角θ1との関係を示すグラフG3が示されている。図8(b)において、横軸が車高の変化量hを示し、縦軸が静的キャンバー角θ1を示している。また、図8(b)には、上述した複数回の第3測定M3で得られた結果がプロットされ、前記結果に基づいた第3の関数f3から得られるグラフG3が示されている。なお、図8(b)のグラフG3の静的キャンバー角は、左前及び右前のタイヤのキャンバー角を平均したものである。
【0062】
発明者らは、種々の実験及び考察の結果、第3の関数f3は、二次関数(y=ax^2+bx+c)として表すことができることを突き止めた。このため、本実施形態では、車高の変化量と静的キャンバー角θ1との関係が、図8(b)の二次関数のグラフG3で示されている。
【0063】
次に第4工程S4が説明される。図9には、第4工程S4のフローチャートが示されている。図9に示されるように、第4工程S4は、例えば、第1計算工程S4a、第2計算工程S4b、第3計算工程S4c及び第4計算工程S4dを含む。
【0064】
第1計算工程S4aでは、上述した第1工程S1で得られた第1の関数f1に、推定したい旋回状態の横加速度である推定横加速度を入力して、推定横加速度における推定車高を算出する。
【0065】
推定横加速度は、例えば、推定したい旋回状態の自動車の速度と、その旋回半径とを決定すれば、容易に計算で求めることができる。
【0066】
第2計算工程S4bでは、上述した第2工程S2で得られた第2の関数f2に、前記推定横加速度を入力して、推定横加速度における推定ロール角を算出する。
【0067】
第3計算工程S4cでは、上述した第3工程S3で得られた第3の関数f3に、第1計算工程S4aで得られた推定車高を入力して、自動車のロール角を含まないタイヤの推定グロスキャンバー角を算出する。
【0068】
第4計算工程S4dでは、第2計算工程S4bで得られた推定ロール角と、第3計算工程S4cで得られた推定グロスキャンバー角との和が算出される。この値が、タイヤの動的キャンバー角の推定値となる。
【0069】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施されうる。
【実施例
【0070】
複数の横加速度のそれぞれにおけるタイヤの動的キャンバー角が、上述の方法によって推定された。また、前記複数の横加速度のそれぞれにおけるタイヤの動的キャンバー角が、装置を用いて実際に測定された。
【0071】
図10には、タイヤの動的キャンバー角の実測値と推定値との相関を示す散布図が示されている。図10において、横軸がタイヤの動的キャンバー角の実測値であり、縦軸がタイヤのキャンバー角の推定値である。図10に示される様に、本実施形態で推定された値は、実測値と高い相関を有し、推定値と実測値との相関係数は0.98である。また、推定値は、実測値のおよそ±10%の範囲に収まっている。テストの結果、本実施形態の方法は、タイヤの動的キャンバー角を小さい労力で精度良く測定できることが確認できた。
【符号の説明】
【0072】
1 自動車
2 タイヤ
S1 第1工程
S2 第2工程
S3 第3工程
S4 第4工程
θ1 静的キャンバー角
θ2 動的キャンバー角
θ4 ロール角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10