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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】圧力容器及び圧力容器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F17C 1/06 20060101AFI20220315BHJP
   F16J 12/00 20060101ALI20220315BHJP
   D03D 13/00 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
F17C1/06
F16J12/00 A
D03D13/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018143921
(22)【出願日】2018-07-31
(65)【公開番号】P2020020392
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2020-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】神谷 隆太
【審査官】家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/073108(WO,A1)
【文献】特開2017-155768(JP,A)
【文献】特開平01-176858(JP,A)
【文献】特開平04-300340(JP,A)
【文献】特開2015-030959(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0167891(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0276434(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0314785(US,A1)
【文献】米国特許第03540615(US,A)
【文献】米国特許第03260398(US,A)
【文献】独国特許出願公開第102012205906(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 1/00-13/12
F16J 12/00
D03D 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の胴体部と、前記胴体部の軸方向の少なくとも一端に連続するドーム部と、を備えるライナを有し、
前記ライナの周方向に沿って前記ライナの外周面に巻き付けられるとともに前記ライナを外側から覆う強化繊維シートを有する繊維構造体を備えた圧力容器であって、
前記強化繊維シートは、前記ライナの周方向へ糸主軸方向が延びるように前記胴体部及び前記ドーム部に配列された第1の糸と、前記胴体部の軸方向へ糸主軸方向が延びるように前記胴体部に配列されるとともに前記ドーム部の軸方向へ糸主軸方向が延びるように前記ドーム部に配列された第2の糸と、を備えるとともに、前記第1の糸と前記第2の糸とで形成された織物製であり、
前記第2の糸は、前記ライナの軸方向において前記胴体部全体及び前記ドーム部全体に延在する長糸と、前記ライナの軸方向において前記胴体部全体に延在するとともに前記ドーム部には延在しない短糸と、を含むことを特徴とする圧力容器。
【請求項2】
前記第2の糸は、前記ライナの軸方向において前記胴体部全体及び前記ドーム部の一部に延在する中間糸をさらに含み、前記ライナの周方向において前記長糸、前記中間糸、及び前記短糸の順で配列されることにより、前記ライナの軸方向における延在範囲が前記ライナの周方向で小さくなる順に配列されている請求項1に記載の圧力容器。
【請求項3】
前記ドーム部において隣り合う前記第1の糸同士の配列ピッチの大きさは、前記胴体部において隣り合う前記第1の糸同士の配列ピッチの大きさよりも大きい請求項1又は請求項2に記載の圧力容器。
【請求項4】
前記ドーム部において隣り合う前記第1の糸同士の配列ピッチの大きさは、前記ドーム部の軸方向で前記胴体部から離れた位置ほど大きくなっている請求項3に記載の圧力容器。
【請求項5】
円筒状の胴体部と、前記胴体部の軸方向の少なくとも一端に連続するドーム部と、を備えるライナを有し、
前記ライナを外側から覆う織物製の強化繊維シートを有する繊維構造体を備えた圧力容器であって、
前記繊維構造体は、前記ライナの周方向へ糸主軸方向が延びるように前記胴体部及び前記ドーム部に配列された第1の糸と、前記第1の糸と前記織物を形成する第2の糸と、を有する圧力容器の製造方法であって、
複数の前記第1の糸を前記ライナの軸方向に配列した状態で張設し、
前記ライナの軸方向に隣り合う前記第1の糸の間に形成された開口のうち、前記ライナの軸方向において前記胴体部全体及び前記ドーム部全体を範囲とする長糸範囲に形成された前記開口と、前記ライナの軸方向において前記胴体部全体を範囲に含むとともに前記ドーム部を範囲に含まない短糸範囲に形成された前記開口とに、前記第2の糸を前記ライナの軸方向に沿って挿入し、
前記開口に挿入された前記第2の糸を筬打ち動作で前記ライナに向けて押し込み、前記第1の糸と前記第2の糸の織物を製織し、前記ライナを、前記ライナの中心軸線を回転中心として回転させて、製織された前記織物を前記ライナに巻き付けることを特徴とする圧力容器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力容器及び圧力容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮天然ガス(CNG)、液化天然ガス(LNG)等のガスを収容する圧力容器(所謂、高圧タンク)は、一般にスチールやアルミニウム合金等の金属製のため重量が重い。近年、天然ガスを燃料とする自動車が低公害車として注目されており、より低公害のものとして、燃料電池を動力源とする自動車も注目されている。燃料電池の燃料として水素ガスを燃料タンクに収容する自動車もあるが、燃料タンクとなる圧力容器の重量が重く燃費が悪くなる。この不都合を解消するため、ガスバリア性を有するライナ(内殻)の外側を耐圧性の繊維強化複合材層で覆った圧力容器が提案されている。
【0003】
圧力容器のライナは、一般に、円筒状の胴体部と、胴体部の軸方向の少なくとも一端に連続するドーム部と、を有する形状である。圧力容器内には数十MPaの圧力になるようにガスが充填されるが、繊維強化複合材層により、ライナが補強されている。このような圧力容器においては、例えば、特許文献1に開示されるように、ライナの軸芯に対して直交する方向から胴体部及びドーム部の外周面に1枚の強化繊維シートが複数回巻き付けられる。特許文献1に開示された圧力容器に巻き付けられる強化繊維シートは、ライナの周方向へ糸主軸方向が延びるように胴体部に配列された第1の糸と、胴体部の軸方向及び前記ドーム部の軸方向へ糸主軸方向が延びるように胴体部及びドーム部に配列された第2の糸と、を備える。特許文献1に記載の圧力容器において、強化繊維シートが巻き付けられた状態では、第2の糸のみがドーム部に配列されている。そして、圧力容器への強化繊維シートの巻き付け後、樹脂が含浸された連続繊維をフープ巻きによってドーム部に巻回している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-187153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1において所望の耐圧性を実現させるためには、ドーム部に配列された強化繊維シートの第2の糸と直交する方向等、ドーム部にて所定の方向に延びるように連続繊維をドーム部に巻回することが望ましい。しかしながら、ドーム部は湾曲した形状であるため、ドーム部の全体で連続繊維の延在方向を維持しつつ巻回を行うことは非常に困難であり、圧力容器の耐圧性の点で改善の余地があった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、耐圧性を向上できる圧力容器及び圧力容器の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する圧力容器は、円筒状の胴体部と、前記胴体部の軸方向の少なくとも一端に連続するドーム部と、を備えるライナを有し、前記ライナの周方向に沿って前記ライナの外周面に巻き付けられるとともに前記ライナを外側から覆う強化繊維シートを有する繊維構造体を備えた圧力容器であって、前記強化繊維シートは、前記ライナの周方向へ糸主軸方向が延びるように前記胴体部及び前記ドーム部に配列された第1の糸と、前記胴体部の軸方向へ糸主軸方向が延びるように前記胴体部に配列されるとともに前記ドーム部の軸方向へ糸主軸方向が延びるように前記ドーム部に配列された第2の糸と、を備えるとともに、前記第1の糸と前記第2の糸とで形成された織物製であり、前記第2の糸は、前記ライナの軸方向において前記胴体部全体及び前記ドーム部全体に延在する長糸と、前記ライナの軸方向において前記胴体部全体に延在するとともに前記ドーム部には延在しない短糸と、を含むことを特徴とする。
【0008】
上記課題を解決する圧力容器の製造方法は、円筒状の胴体部と、前記胴体部の軸方向の少なくとも一端に連続するドーム部と、を備えるライナを有し、前記ライナを外側から覆う織物製の強化繊維シートを有する繊維構造体を備えた圧力容器であって、前記繊維構造体は、前記ライナの周方向へ糸主軸方向が延びるように前記胴体部及び前記ドーム部に配列された第1の糸と、前記第1の糸と前記織物を形成する第2の糸と、を有する圧力容器の製造方法であって、複数の前記第1の糸を前記ライナの軸方向に配列した状態で張設し、前記ライナの軸方向に隣り合う前記第1の糸の間に形成された開口のうち、前記ライナの軸方向において前記胴体部全体及び前記ドーム部全体を範囲とする長糸範囲に形成された前記開口と、前記ライナの軸方向において前記胴体部全体を範囲に含むとともに前記ドーム部を範囲に含まない短糸範囲に形成された前記開口とに、前記第2の糸を前記ライナの軸方向に沿って挿入し、前記開口に挿入された前記第2の糸を筬打ち動作で前記ライナに向けて押し込み、前記第1の糸と前記第2の糸の織物を製織し、前記ライナを、前記ライナの中心軸線を回転中心として回転させて、製織された前記織物を前記ライナに巻き付けることを特徴とする。
【0009】
上記の各構成によれば、強化繊維シートをライナの外周面に巻き付けることにより、第1の糸の糸主軸方向がライナの周方向となるため、ドーム部に配列させる第1の糸の糸主軸方向を圧力容器の耐圧性に適した方向へと容易に設定することができる。また、強化繊維シートにおけるドーム部を覆う部分には第2の糸のうちの短糸が配列されない。そのため、配列される第2の糸の本数で比較すると、短糸の配列分だけドーム部が胴体部よりも少なくなることにより、強化繊維シートにおけるドーム部を覆う部分をドーム部の形状に沿わせることができる。したがって、圧力容器の耐圧性を向上させることができる。
【0010】
圧力容器について、前記第2の糸は、前記ライナの軸方向において前記胴体部全体及び前記ドーム部の一部に延在する中間糸をさらに含み、前記ライナの周方向において前記長糸、前記中間糸、及び前記短糸の順で配列されることにより、前記ライナの軸方向における延在範囲が前記ライナの周方向で小さくなる順に配列されていることが好ましい。
【0011】
上記構成によれば、第2の糸を長糸と短糸とで構成する場合と比較して、強化繊維シートにおけるドーム部を覆う部分をよりドーム部の形状に沿わせることができる。したがって、圧力容器の耐圧性をさらに向上させることができる。
【0012】
圧力容器について、前記ドーム部において隣り合う前記第1の糸同士の配列ピッチの大きさは、前記胴体部において隣り合う前記第1の糸同士の配列ピッチの大きさよりも大きいことが好ましい。
【0013】
上記構成によれば、第2の糸としての長糸と短糸との配列に加えて、隣り合う第1の糸同士の配列ピッチの大きさを胴体部とドーム部とで異ならせることにより、強化繊維シートにおけるドーム部を覆う部分をよりドーム部の形状に沿わせることができる。したがって、圧力容器の耐圧性をさらに向上させることができる。
【0014】
圧力容器について、前記ドーム部において隣り合う前記第1の糸同士の配列ピッチの大きさは、前記ドーム部の軸方向で前記胴体部から離れた位置ほど大きくなっていることが好ましい。
【0015】
上記構成によれば、ライナの軸方向においてドーム部の全体で隣り合う第1の糸同士の配列ピッチを同じ大きさとする場合と比較して、強化繊維シートにおけるドーム部を覆う部分をよりドーム部の形状に沿わせることができる。したがって、圧力容器の耐圧性をさらに向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、耐圧性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】高圧タンクを模式的に示す断面図。
図2】繊維構造体を模式的に示す図。
図3】(a)は胴体シート部を模式的に示す図、(b)はライナの軸方向一端のドームシート部を模式的に示す図、(c)はライナの軸方向他端のドームシート部を模式的に示す図。
図4】強化繊維シートの製造方法を模式的に示す図。
図5】(a)緯糸を緯入れした状態を模式的に示す図、(b)は筬打ち動作後の状態を模式的に示す図、(c)はライナに強化繊維シートを巻き取った状態を模式的に示す図。
図6】(a)は他の実施形態における胴体シート部を模式的に示す図、(b)は他の実施形態におけるライナの軸方向一端のドームシート部を模式的に示す図、(c)は他の実施形態におけるライナの軸方向他端のドームシート部を模式的に示す図。
図7】(a)他の実施形態において緯糸を緯入れした状態を模式的に示す図、(b)は他の実施形態において筬打ち動作後の状態を模式的に示す図、(c)は他の実施形態においてライナに強化繊維シートを巻き取った状態を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、圧力容器及びその製造方法を具体化した一実施形態について図1図5を用いて説明する。
図1に示すように、圧力容器としての高圧タンク10は、細長中空状のライナ12と、ライナ12の外側を覆う強化繊維シート19と、を有する繊維構造体21にマトリックス樹脂Maを含浸させて構成されている。高圧タンク10は、マトリックス樹脂Maの含浸された強化繊維シート19よりなる繊維強化複合材層11によってライナ12を補強し、高圧タンク10の耐圧性(機械的強度)を確保している。
【0019】
ライナ12は、樹脂製であり、細長中空状である。ライナ12の中心軸線Lの延びる方向をライナの軸方向Yとする。ライナ12は、円筒状の胴体部13を備える。胴体部13の中心軸線はライナ12の中心軸線Lと一致する。そして、胴体部13の軸方向は、ライナ12の軸方向Yと一致する。ライナ12は、胴体部13の軸方向両端に湾曲した形状のドーム部14a,14bを有する。ドーム部14a,14bにおいて、胴体部13側の端部の径は胴体部13の径と同じ大きさであり、胴体部13から離れた位置ほど径が小さくなっている。ドーム部14a,14bの軸方向は、ライナ12の軸方向Yと一致する。ライナ12は、ドーム部14a,14bからライナ12の軸方向Yに沿って外側に突出した口金部15を備える。各口金部15は金属製(例えばステンレス製)である。各口金部15は、ライナ12内の空間と連通する孔部16を備える。ドーム部14a,14bのうち、ライナ12の軸方向Y一端側のドーム部14aにおいて、口金部15の孔部16には螺子18が螺合されている。ドーム部14a,14bのうち、ライナ12の軸方向Y他端側のドーム部14bにおいて、口金部15の孔部16にはバルブ17が装着されている。
【0020】
図2に示すように、強化繊維シート19は、複数本の経糸30と、複数本の緯糸40とを平織りして製織された長尺状の織物50である。強化繊維シート19の長手方向がライナ12の周方向Zに延びるように、強化繊維シート19はライナ12の外周面に巻き付けられている。強化繊維シート19において、経糸30と緯糸40は互いに直交して配列されている。複数本の経糸30は、ライナ12の軸方向Yへ互いに平行な状態で胴体部13及びドーム部14a,14bに配列されている。各経糸30の糸主軸方向X1は、胴体部13及びドーム部14a,14bにおいてライナ12の周方向Zへ直線的に延びている。また、経糸30の糸主軸方向X1に対し、ライナ12の径方向が直交している。
【0021】
複数本の緯糸40は、ライナ12の周方向Zへ互いに平行な状態で胴体部13及びドーム部14a,14bに配列されている。緯糸40のうち、胴体部13に配列される緯糸40の糸主軸方向X2は、ライナ12における胴体部13の軸方向へ延びる。緯糸40のうち、ドーム部14a,14bに配列される緯糸40の糸主軸方向X2は、ライナ12の軸方向Yへ延びる一方、ドーム部14a,14bの曲面に沿って湾曲している。
【0022】
経糸30と緯糸40を直交して配列させるとともに、経糸30の糸主軸方向X1の延びる方向をライナ12の周方向Zに一致させることで、ライナ12の径方向においてライナ12を補強している。また、緯糸40の糸主軸方向X2をライナ12の軸方向Yに一致させることで、ライナ12の軸方向Yにおいてライナ12を補強している。
【0023】
強化繊維シート19は、経糸30として、複数本の第1強化繊維31と複数本の第1補助糸32とを有する。第1強化繊維31と第1補助糸32とは、交互に配列されることによって、ライナ12の軸方向Yに隣り合うように配列されている。また、第1強化繊維31同士、第1補助糸32同士、及び第1強化繊維31と第1補助糸32は、互いに平行に配列されている。また、強化繊維シート19は、緯糸40として、複数本の第2強化繊維41と複数本の第2補助糸42とを有する。第2強化繊維41と第2補助糸42とは、交互に配列されることによって、ライナ12の周方向Zに隣り合うように配列されている。第2強化繊維41同士、第2補助糸42同士、及び第2強化繊維41と第2補助糸42は、互いに平行に配列されている。第1強化繊維31及び第1補助糸32が第1の糸に相当し、第2強化繊維41及び第2補助糸42が第2の糸に相当する。
【0024】
本実施形態では、第1強化繊維31、第2強化繊維41、第1補助糸32、及び第2補助糸42として炭素繊維を備える。なお、第1強化繊維31、第2強化繊維41、第1補助糸32、及び第2補助糸42は炭素繊維に限らず、ガラス繊維や炭化ケイ素系セラミック繊維やアラミド繊維、超高分子量ポリエチレン繊維等の一般に高弾性・高強度といわれるその他の繊維を使用してもよい。また、本実施形態では、第1強化繊維31と第2強化繊維41とに同じ糸を用いている。第1補助糸32及び第2補助糸42は、第1強化繊維31及び第2強化繊維41より細い繊維束からなる。
【0025】
図3(a)に示すように、ライナ12の胴体部13は、強化繊維シート19の一部分である胴体シート部19mによって覆われている。図3(b)に示すように、ライナ12のドーム部14aは、強化繊維シート19の一部分であるドームシート部19aによって覆われている。図3(c)に示すように、ライナ12のドーム部14bは、強化繊維シート19の一部分であるドームシート部19bによって覆われている。なお、図3(a)、図3(b)、及び図3(c)においては、隣り合う第1強化繊維31と第1補助糸32との間や、隣り合う第2強化繊維41と第2補助糸42との間に間隙があるが、そうした間隙は実際には存在しない。実際の強化繊維シート19においては、隣り合う第1強化繊維31と第1補助糸32とがライナ12の軸方向Yで接触するように配列されているとともに、隣り合う第2強化繊維41と第2補助糸42とがライナ12の周方向Zで接触するように配列されている。
【0026】
図3(a)、図3(b)、及び図3(c)に示すように、強化繊維シート19において、第2強化繊維41及び第2補助糸42は、ライナ12の軸方向Y(図3(a)、図3(b)、及び図3(c)では上下方向)における延在範囲がライナ12の周方向Z(図3(a)、図3(b)、及び図3(c)では左右方向)で小さくなる順に配列されている。ここで、第2強化繊維41及び第2補助糸42について、ライナ12の軸方向Yにおける延在範囲が大きい糸から順に、第2強化繊維41a、第2補助糸42a、第2強化繊維41b、及び第2補助糸42bとする。
【0027】
第2強化繊維41aは、ライナ12の軸方向Yにおいて、胴体部13の全体とドーム部14a,14bの全体とに延在する。第2補助糸42aは、ライナ12の軸方向Yにおいて、胴体部13の全体と、ドーム部14a,14bのうちで第2強化繊維41aよりも小さい範囲であるドーム部14a,14bの一部とで延在する。第2強化繊維41bは、ライナ12の軸方向Yにおいて、胴体部13の全体と、ドーム部14a,14bのうちで第2補助糸42aよりも小さい範囲とで延在する。第2補助糸42bは、ライナ12の軸方向Yにおいて、胴体部13の全体に延在し、ドーム部14a,14bには延在しない。こうした第2強化繊維41a、第2補助糸42a、第2強化繊維41b、及び第2補助糸42bの配列が、ライナ12の周方向Zで繰り返しなされている。
【0028】
上記のように第2強化繊維41及び第2補助糸42の延在範囲が設定されることで、ライナ12の軸方向Yにおける単位長さ当たりに存在する第2強化繊維41及び第2補助糸42の合計本数Nで比較すると、ドームシート部19a,19bでの合計本数Nが胴体シート部19mでの合計本数Nよりも少なくなっている。これにより、ドームシート部19a,19bの厚みが胴体シート部19mの厚みより小さくなっている。
【0029】
また、ドーム部14a,14bにおいてライナ12の軸方向Yにおける単位長さ当たりに存在する第2強化繊維41及び第2補助糸42の合計本数Nは、胴体部13から離れた位置ほど少なくなっている。これにより、ドームシート部19a,19bの厚みは、ドームシート部19a,19bのうちで胴体シート部19mから離れた位置ほど小さくなっている。なお、この変更例では、第2強化繊維41aが長糸に相当し、第2補助糸42bが短糸に相当する。また、第2補助糸42a及び第2強化繊維41bが中間糸に相当する。
【0030】
次に、高圧タンク10の製造方法を説明する。
高圧タンク10を製造する際は、経糸30と緯糸40を平織りしつつ、製職された織物50をライナ12に巻き付けていく。
【0031】
図4に示すように、織物50の製織は平織織機で行う。平織織機は、例えば、経糸30としての第1強化繊維31及び第1補助糸32のうち、第1強化繊維31の開口を行う強化繊維綜絖枠33と、第1補助糸32の開口を行う補助糸綜絖枠34を備える。また、平織織機は、第1強化繊維31を供給する経糸ビーム35と、第1補助糸32を供給する経糸ビーム36とが配置された構造を有する。経糸ビーム35から送り出される第1強化繊維31は、強化繊維綜絖枠33により開口動作が行われるようになっている。経糸ビーム36から送り出される第1補助糸32は、補助糸綜絖枠34により開口動作が行われるようになっている。なお、強化繊維綜絖枠33及び補助糸綜絖枠34の目は、図において黒丸で示されている。
【0032】
筬39は、強化繊維綜絖枠33及び補助糸綜絖枠34と織り前45との間に配置されている。筬39は、ライナ12の軸方向Y(図4では紙面に垂直方向)へ直線状に延びる部材である。また、緯糸40としての第2強化繊維41及び第2補助糸42は、第1強化繊維31及び第1補助糸32の開口に対して緯入れ機構(図示せず)により緯入れ(挿入)されるようになっている。第1強化繊維31及び第1補助糸32の送り出し方向において、織り前45よりも先にはライナ12が回転可能に支持されている。ライナ12は、中心軸線Lを回転中心として回転する。
【0033】
上記の平織織機で強化繊維シート19を製織するに際しては、経糸ビーム35から引き出された複数本の第1強化繊維31の端部と、経糸ビーム36から引き出された複数本の第1補助糸32の端部と、を例えば接着剤によってライナ12の外周面に固定する。これにより、第1強化繊維31及び第1補助糸32は、ライナ12の軸方向Yに沿って胴体部13及びドーム部14a,14bに配列された状態で張設される。第1強化繊維31及び第1補助糸32は、ライナ12の軸方向Yで第1強化繊維31と第1補助糸32とが交互に並ぶようにそれぞれ延びている。なお、使用する接着剤は、強化繊維シート19にマトリックス樹脂Maを含浸硬化させる際の加熱によって溶融する材質が好ましいが、溶融しない材質の接着剤を用いてもよい。
【0034】
強化繊維シート19を製織する際には、ライナ12を回転させない状態で、強化繊維綜絖枠33と補助糸綜絖枠34とを交互に上下方向に移動させることにより、強化繊維綜絖枠33と補助糸綜絖枠34とが逆方向に移動される。これにより、第1強化繊維31及び第1補助糸32によって経糸開口30aが形成される。第1強化繊維31と第1補助糸32が隣接するもの同士で交互に上下に開かれることにより、その都度で経糸開口30aが形成される。経糸開口30aが形成される都度、経糸開口30aに対して第2強化繊維41と第2補助糸42とが交互に緯入れ(挿入)される。
【0035】
図5(a)に示すように、経糸開口30aに対して第2強化繊維41の緯入れや第2補助糸42の緯入れを行う際に、そうした緯入れを行う範囲をライナ12の軸方向Yで異ならせる。第2強化繊維41aの緯入れは、ライナ12の軸方向Yにおいて胴体部13の全体及びドーム部14a,14bの全体の範囲で行われる。この第2強化繊維41aの緯入れが行われる範囲が長糸範囲に相当する。第2補助糸42aの緯入れは、ライナ12の軸方向Yにおいて胴体部13の全体と、ドーム部14a,14bのうちで第2強化繊維41aよりも小さい範囲とで行われる。第2強化繊維41bの緯入れは、ライナ12の軸方向Yにおいて胴体部13の全体と、ドーム部14a,14bのうちで第2補助糸42aよりも小さい範囲とで行われる。第2補助糸42bの緯入れは、ライナ12の軸方向Yにおいて胴体部13の全体で行われる一方で、ドーム部14a,14bでは行われない。この第2補助糸42aの緯入れが行われる範囲が短糸範囲に相当する。ライナ12の周方向Zにおいて、第2強化繊維41a、第2補助糸42a、第2強化繊維41b、及び第2補助糸42bの順で緯入れが繰り返し行われる。
【0036】
なお、第2強化繊維41a及び第2強化繊維41bとして配列される第2強化繊維41や、第2補助糸42a及び第2補助糸42bとして配列される第2補助糸42は、ライナ12の軸方向Yに配列される全ての第1強化繊維31及び第1補助糸32による経糸開口30aに対して緯入れが行える長さに設定されている。そのため、第2補助糸42a、第2強化繊維41b、及び第2補助糸42bにおいて、ライナ12の軸方向Yにおける両端部分が経糸開口30aに対する緯入れに関与しないこととなる。また、そうした緯入れに関与しない部分は、ライナ12の軸方向Yにおいて、第2補助糸42a、第2強化繊維41b、及び第2補助糸42bの順で長くなっている。そして、そうした緯入れに関与しない部分は、繊維のまま強化繊維シート19の表面に沿ってそれぞれ延びている。
【0037】
図5(b)に示すように、経糸開口30aの形成と経糸開口30aに対する第2強化繊維41及び第2補助糸42の交互の緯入れとが所定回数行われた後、筬39の筬打ち動作が行われる。筬39による筬打ち動作によっては、第2強化繊維41及び第2補助糸42がライナ12の外周面に固定される第1強化繊維31及び第1補助糸32の端部に向けて送り込まれる。その後、強化繊維綜絖枠33及び補助糸綜絖枠34が逆方向に移動されて開口状態が変更されて、次の緯入れ動作が行われる。これらの動作が繰り返されることにより、第1強化繊維31及び第1補助糸32と、第2強化繊維41及び第2補助糸42とが平織りされた強化繊維シート19が製織される。また、そうした強化繊維シート19の製織と併せて、強化繊維シート19がライナ12に一体化された状態が形成される。
【0038】
図5(c)に示すように、製織された織物50は、中心軸線Lを回転中心にライナ12を回転させることによって、織物50のライナ12への巻き取りをしつつ、続けて、上記と同様に織物50の製織を行う。その結果、ドーム部14a,14b及び胴体部13の全体を覆う状態で織物50、すなわち強化繊維シート19がライナ12に巻き付けられていく。これにより、ライナ12の外周面に強化繊維シート19を備える繊維構造体21が製造される。なお、織物50の製織がある程度まで進んだときや、織物50の製織が完了したときに、上記の緯入れに関与しない第2強化繊維41及び第2補助糸42の部分を切断等によって織物50から取り除く。
【0039】
上記のように構成された繊維構造体21は、マトリックス樹脂Maを含浸硬化させることにより、強化繊維シート19から繊維強化複合材層11が形成され、ライナ12の外側が繊維強化複合材層11で覆われた高圧タンク10が製造される。マトリックス樹脂Maの含浸硬化は、例えば、RTM(レジン・トランスファー・モールディング)法で行なわれる。
【0040】
次に、高圧タンク10の作用を説明する。
ドームシート部19a,19bのように、配列される第2強化繊維41や第2補助糸42の本数が比較的少ないと、強化繊維シート19がライナ12の外周面に巻き付けられる際に、ライナ12の形状に応じて第2強化繊維41や第2補助糸42が移動しやすい。そのため、ドームシート部19a,19bは、ドーム部14a,14bの形状に沿いやすくなっている。
【0041】
また、ドーム部14a,14bは、ドーム部14a,14bの軸方向で胴体部13から遠い位置の径ほど胴体部13の径より小さくなっているため、ドーム部14a,14bの軸方向で胴体部13から遠い位置ほど胴体部13から大きく湾曲した形状となっている。ドームシート部19a,19bにおいては、ライナ12の軸方向Yにおいて胴体部13から離れた位置ほど上記合計本数Nが少なくなっている。そのため、ドーム部14a,14bにおいて湾曲の程度が大きい部分ほど、配列される第2強化繊維41や第2補助糸42が移動しやすくなっている。したがって、ドーム部14a,14bにおける湾曲の程度が大きい部分を覆うドームシート部19a,19bほど、ドーム部14a,14bの形状に沿いやすくなっている。
【0042】
ドーム部14a,14bにおいて口金部15が接続されている部分は、ライナ12の軸方向Yに沿って外側に突出した形状となっているため、上記の内圧を受けてドーム部14a,14bの外側に向けた曲げが発生することによって変形が生じやすい。本実施形態では、ドームシート部19a,19bの厚みW2,W3が胴体シート部19mの厚みW1よりも小さいため、ドームシート部19a,19bの変形が生じにくい。
【0043】
また、高圧タンク10においては、胴体部13で生じる内圧よりもドーム部14a,14bで生じる内圧が小さい。そのため、ドームシート部19a,19bの厚みが胴体シート部19mの厚みほど大きくなくても、適切な耐圧性を備えた強化繊維シート19を実現させることが可能である。本実施形態では、ドームシート部19a,19bの厚みW2,W3を胴体シート部19mの厚みW1よりも小さくすることにより、強化繊維シート19において適切な耐圧性を備えつつ、ドームシート部19a,19bの厚みW2,W3の余剰を抑制することができる。
【0044】
上記実施形態では以下の効果を得ることができる。
(1-1)強化繊維シート19をライナ12の外周面に巻き付けることにより、第1強化繊維31及び第1補助糸32の糸主軸方向X1がライナ12の周方向Zとなるため、ドーム部14a,14bに配列させる第1強化繊維31及び第1補助糸32の糸主軸方向X1を高圧タンク10の耐圧性に適した方向へと容易に設定することができる。また、ドームシート部19a,19bには第2補助糸42bが配列されない。そのため、配列される第2強化繊維41及び第2補助糸42の合計本数Nで比較すると、第2補助糸42bの配列分だけドーム部14a,14bが胴体部13よりも少なくなることにより、ドームシート部19a,19bをドーム部14a,14bの形状に沿わせることができる。したがって、高圧タンク10の耐圧性を向上させることができる。
【0045】
(1-2)緯糸40として、ライナ12の軸方向Yにおいて胴体部13の全体及びドーム部14a,14bの一部に延在する第2補助糸42a及び第2強化繊維41bを備える。そのため、緯糸40を第2強化繊維41aと第2補助糸42bとで構成する場合と比較して、ドームシート部19a,19bをよりドーム部14a,14bの形状に沿わせることができる。したがって、高圧タンク10の耐圧性をさらに向上させることができる。
【0046】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0047】
○ 上記実施形態のように、第2強化繊維41及び第2補助糸42の延在範囲をライナ12の周方向Zで異ならせることと併せて、胴体部13とドーム部14a,14bとで第1強化繊維31と第1補助糸32との配列ピッチの大きさを異ならせてもよい。この変更例では、例えば、図6(a)に示すように、強化繊維シート119のうちで胴体部13を覆う部分である胴体シート部119mでは、隣り合う第1強化繊維31と第1補助糸32との配列ピッチが大きさP1となっている。なお、上記配列ピッチの大きさは、隣り合う糸同士の中心軸間の距離である。図6(b)に示すように、強化繊維シート119のうちでドーム部14aを覆う部分であるドームシート部119aでは、隣り合う第1強化繊維31と第1補助糸32との配列ピッチの大きさP2が上記大きさP1よりも大きくなっている。図6(c)に示すように、強化繊維シート119のうちでドーム部14bを覆う部分であるドームシート部119bでは、隣り合う第1強化繊維31と第1補助糸32との配列ピッチの大きさP3が上記大きさP1よりも大きくなっている。
【0048】
上記のように配列ピッチの大きさP1,P2,P3が設定されていることで、ライナ12の軸方向Yにおける単位長さ当たりに存在する第1強化繊維31及び第1補助糸32の合計本数Nで比較すると、ドームシート部119a,119bは胴体シート部119mよりも少なくなっている。また、ドームシート部119a,119bにおいて、ドーム部14a,14bの軸方向で胴体部13に近い位置ほど上記配列ピッチの大きさP2,P3が小さくなっている。
【0049】
ここで、ドーム部14aのうち、ライナ12の軸方向Yにおける端部側の部分(図2ではドーム部14aの右側部分)と、ドーム部14bのうち、ライナ12の軸方向Yにおける端部側の部分(図2ではドーム部14bの左側部分)と、を第1ドーム部とする。ドーム部14aのうち、ライナ12の軸方向Yにおける胴体部13側の部分(図2ではドーム部14aの左側部分)と、ドーム部14bのうち、ライナ12の軸方向Yにおける胴体部13側の部分(図2ではドーム部14bの右側部分)と、を第2ドーム部とする。また、ドームシート部119aのうちで上記第1ドーム部を覆う部分(図6(b)では上側部分)を第1シート部119cとし、ドームシート部119bのうちで上記第1ドーム部を覆う部分(図6(c)では下側部分)を第1シート部119eとする。ドームシート部119aのうちで上記第2ドーム部を覆う部分(図6(b)では下側部分)を第2シート部119dとし、ドームシート部119bのうちで上記第2ドーム部を覆う部分(図6(c)では上側部分)を第2シート部119fとする。ドームシート部119aでは、第2シート部119dにおける上記配列ピッチの大きさP2が、第1シート部119cにおける上記配列ピッチの大きさP2よりも小さくなっている。ドームシート部119bでは、第2シート部119fにおける上記配列ピッチの大きさP3が、第1シート部119eにおける上記配列ピッチの大きさP3よりも小さくなっている。
【0050】
胴体シート部119mに配列される第1強化繊維31及び第1補助糸32は、比較的厚みが大きく、幅狭な形状となっている。一方、ドームシート部119aに配列される第1強化繊維31及び第1補助糸32やドームシート部119bに配列される第1強化繊維31及び第1補助糸32は、扁平状であり、胴体シート部119mよりも厚みが小さく、幅広な形状となっている。これにより、強化繊維シート119においては、ドームシート部119aの厚みやドームシート部119bの厚みが、胴体シート部119mの厚みよりも小さくなっている。また、ドームシート部119a,119bにおいて、ドーム部14a,14bの軸方向で胴体部13から離れた位置ほど、配列される第1強化繊維31及び第1補助糸32は厚みが小さく、幅広な形状となっている。これにより、ドームシート部119a,119bの厚みの大きさは、ドーム部14a,14bの軸方向で胴体部13から離れた位置ほど小さくなっている。
【0051】
また、この変更例においても図4に示す平織織機を用いて、上記実施形態と同様に織物50の製織を行う。なお、この変更例においては、図7(a)に示すように、胴体部13への配列部分での上記配列ピッチの大きさよりも、ドーム部14a,14bへの配列部分での上記配列ピッチの大きさが大きくなるように、第1強化繊維31及び第1補助糸32が配列されている。また、ドーム部14a,14bへの配列部分での上記配列ピッチについて、ドーム部14a,14bの軸方向で胴体部13から離れた位置ほど大きくなるように、第1強化繊維31及び第1補助糸32が配列されている。そして、第1強化繊維31及び第1補助糸32によって経糸開口30aが形成され、経糸開口30aに対して第2強化繊維41と第2補助糸42とが交互に緯入れ(挿入)される。この緯入れは上記実施形態と同様に行われる。
【0052】
図7(b)に示すように、経糸開口30aの形成と経糸開口30aに対する第2強化繊維41及び第2補助糸42の交互の緯入れとが所定回数行われた後、筬39の筬打ち動作が行われる。筬打ち動作と緯入れ動作とが繰り返されることにより強化繊維シート119が製織される。そして、図7(c)に示すように、中心軸線Lを回転中心にライナ12を回転させることによって、ドーム部14a,14b及び胴体部13の全体を覆う状態で織物50、すなわち強化繊維シート119がライナ12に巻き付けられていく。
【0053】
この変更例では、上記実施形態と同様の作用を得ることができる。また、この変更例では、上記実施形態の(1-1)及び(1-2)の効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
【0054】
(2-1)ライナ12の軸方向Yにおける延在範囲が異なる第2強化繊維41a、第2補助糸42a、第2強化繊維41b、及び第2補助糸42bを配列することに加えて、隣り合う第1強化繊維31と第1補助糸32との配列ピッチの大きさを胴体部13とドーム部14a,14bとで異ならせている。これにより、ドームシート部119a,119bに配列される第1強化繊維31や第1補助糸32の本数が少なくなるため、ドームシート部119a,119bをよりドーム部14a,14bの形状に沿わせることができる。したがって、高圧タンク10の耐圧性をさらに向上させることができる。
【0055】
(2-2)ライナ12の軸方向Yにおいてドーム部14a,14bの全体で隣り合う第1強化繊維31と第1補助糸32との配列ピッチを同じ大きさとする場合と比較して、ドームシート部119a,119bをよりドーム部14a,14bの形状に沿わせることができる。したがって、高圧タンク10の耐圧性をさらに向上させることができる。
【0056】
○ 上記変更例において、ドーム部14a,14bにおいて隣り合う第1強化繊維31と第1補助糸32との配列ピッチの大きさは、ライナ12の軸方向Yにおいて段階的に変更してもよい。この変更例では、例えばドーム部14a,14bにおいて同じ大きさの配列ピッチで第1強化繊維31と第1補助糸32とを複数本ずつ配列させるとともに、その配列ピッチをライナ12の軸方向Yにおいて胴体部13に近づくほど小さくする。
【0057】
○ 上記変更例において、ドーム部14a,14bにおいて隣り合う第1強化繊維31と第1補助糸32との配列ピッチは、ライナ12の軸方向Yにおいて順番に大きさを変化させなくてもよい。例えば、ドーム部14a,14bにおいて隣り合う第1強化繊維31と第1補助糸32との配列ピッチは、ライナ12の軸方向Yにおいて比較的大きい配列ピッチと比較的小さい配列ピッチとが交互に並ぶようにしてもよい。
【0058】
○ 上記変更例において、ライナ12の軸方向Yにおける第1強化繊維31と第1補助糸32との配列ピッチの大きさの組み合わせを、ドーム部14aとドーム部14bとで異ならせてもよい。
【0059】
○ 上記変更例において、ドーム部14a,14bにおいて隣り合う第1強化繊維31と第1補助糸32との配列ピッチの大きさは、ドーム部14a,14bの全体で同じ大きさであってもよい。なお、ドーム部14aとドーム部14bとで、隣り合う第1強化繊維31と第1補助糸32との配列ピッチの大きさを同じ大きさとしてもよいし、異なる大きさとしてもよい。
【0060】
○ 上記実施形態において、ライナ12の軸方向Yにおける胴体部13の全体とドーム部14a,14bの全体とに延在する糸を第2補助糸42に変更してもよい。この場合では、例えば、第2補助糸42、第2強化繊維41、第2補助糸42、及び第2強化繊維41の順でライナ12の軸方向Yにおける延在範囲が小さくなるように、第2強化繊維41及び第2補助糸42をライナ12の周方向Zに配列させる。
【0061】
○ 上記実施形態において、第2強化繊維41及び第2補助糸42の配列順は、ライナ12の軸方向Yにおける延在範囲がライナ12の周方向Zで小さくなる順でなくてもよい。例えば、第2強化繊維41及び第2補助糸42のうちで、ライナ12の軸方向Yにおける延在範囲が比較的大きい糸と、ライナ12の軸方向Yにおける延在範囲が比較的小さい糸とが、ライナ12の周方向Zに交互に並ぶようにしてもよい。
【0062】
○ 第2強化繊維41及び第2補助糸42のうちで、ライナ12の軸方向Yにおいて延在範囲が同じ大きさの糸がライナ12の周方向Zで2本以上続けて並ぶように、第2強化繊維41及び第2補助糸42を配列してもよい。
【0063】
○ 第2強化繊維41及び第2補助糸42は、ライナ12の軸方向Yにおいて、延在範囲が5つ以上となるように延在させてもよいし、延在範囲が3つ以下となるように延在させてもよい。なお、第2強化繊維41及び第2補助糸42は、ライナ12の軸方向Yにおいて、胴体部13の全体とドーム部14a,14bの全体とで延在する長糸と、胴体部13の全体に延在するとともにドーム部14a,14bの全体で延在しない短糸と、を少なくとも備える。
【0064】
○ 強化繊維シート19,119は、第1強化繊維31及び第1補助糸32で形成された繊維層と、第2強化繊維41及び第2補助糸42で形成された繊維層とを積層するとともに、複数の繊維層を拘束糸で積層方向に拘束した多層織物製であってもよい。
【0065】
○ 樹脂が予め含浸された繊維基材を採用して織物50を製織してもよい。
○ ライナ12は、胴体部13の軸方向Yの一端にドーム部が連続し、胴体部13の軸方向Yの他端には平坦な底壁が連続した形状であってもよい。この場合、口金部15はドーム部の存在する軸方向Yの一端側のみに存在する。
【0066】
○ ライナ12全体をアルミニウム製とする代わりにアルミニウム合金製としたり、口金部15の材質をステンレスとは異なる金属で形成したりしてもよい。
○ 高圧タンク10は燃料電池搭載電気自動車の水素源として搭載されて使用するものに限らず、例えば、水素エンジンの水素源やヒートポンプ等に適用してもよい。また、家庭用電源の燃料電池の水素源として使用してもよい。
【0067】
○ 圧力容器として水素を貯蔵する高圧タンクに限らず、例えば窒素、圧縮天然ガス等の他のガスを貯蔵する圧力容器に適用してもよい。
【符号の説明】
【0068】
L…中心軸線、12…ライナ、13…胴体部、14a,14b…ドーム部、19,119…強化繊維シート、21…繊維構造体、30…経糸、31…第1強化繊維、32…第1補助糸、40…緯糸、41…第2強化繊維、42…第2補助糸、50…織物。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7