IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱瓦斯化学株式会社の特許一覧

特許7040512精製過酸化水素水溶液の製造方法および製造システム
<>
  • 特許-精製過酸化水素水溶液の製造方法および製造システム 図1
  • 特許-精製過酸化水素水溶液の製造方法および製造システム 図2
  • 特許-精製過酸化水素水溶液の製造方法および製造システム 図3
  • 特許-精製過酸化水素水溶液の製造方法および製造システム 図4
  • 特許-精製過酸化水素水溶液の製造方法および製造システム 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】精製過酸化水素水溶液の製造方法および製造システム
(51)【国際特許分類】
   C01B 15/013 20060101AFI20220315BHJP
   B01D 3/00 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
C01B15/013
B01D3/00 A
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019501360
(86)(22)【出願日】2018-02-21
(86)【国際出願番号】 JP2018006097
(87)【国際公開番号】W WO2018155465
(87)【国際公開日】2018-08-30
【審査請求日】2020-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2017030976
(32)【優先日】2017-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】茂田 耕平
(72)【発明者】
【氏名】櫛田 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲也
(72)【発明者】
【氏名】松浦 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】池田 英俊
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-080227(JP,A)
【文献】特開2001-172008(JP,A)
【文献】特表平09-503990(JP,A)
【文献】米国特許第03714342(US,A)
【文献】特開平08-040708(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 15/013
B01D 1/00-8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗過酸化水素水溶液を含む原料を気化する工程Aと、前記工程Aで得た気液の少なくとも一部を凝縮して気相と液相とに分離する工程Bと、前記工程Bで分離した液相である分離液の少なくとも一部を原料に戻す工程Cとを含む精製過酸化水素水溶液の製造方法であって、
前記工程Cが、前記分離液中の過酸化水素濃度を調整する工程Dを更に含み、
前記工程Dを水による希釈で行うことを特徴とする、精製過酸化水素水溶液の製造方法。
【請求項2】
前記工程Cが、前記分離液から不純物を除去する工程Eを更に含む、請求項1に記載の精製過酸化水素水溶液の製造方法。
【請求項3】
前記工程Eをイオン交換樹脂への接触により行う、請求項に記載の精製過酸化水素水溶液の製造方法。
【請求項4】
前記工程Cが、前記分離液に安定剤を添加する工程Fを更に含む、請求項1に記載の精製過酸化水素水溶液の製造方法。
【請求項5】
前記工程Bで分離した気相を濃縮して精製過酸化水素水溶液を得る工程Gを更に含む、請求項1に記載の精製過酸化水素水溶液の製造方法。
【請求項6】
前記工程Aを気化器で行う、請求項1に記載の精製過酸化水素水溶液の製造方法。
【請求項7】
前記工程Bを気液分離器で行う、請求項1に記載の精製過酸化水素水溶液の製造方法。
【請求項8】
前記気液分離器がサイクロンである、請求項に記載の精製過酸化水素水溶液の製造方法。
【請求項9】
粗過酸化水素水溶液を含む原料を気化する気化器と、前記気化器で得た気液の少なくとも一部を凝縮して気相と液相とに分離する気液分離器と、前記気液分離器で分離した液相である分離液の少なくとも一部を原料に戻すラインと、を備える精製過酸化水素水溶液の製造システムであって、
前記分離液中の過酸化水素濃度を調整する濃度調整設備を備え
前記濃度調整設備において過酸化水素濃度の調整を水による希釈で行うことを特徴とする製造システム。
【請求項10】
前記分離液から不純物を除去する装置を更に備える、請求項に記載の精製過酸化水素水溶液の製造システム。
【請求項11】
前記不純物の除去をイオン交換樹脂への接触により行う、請求項10に記載の製造システム。
【請求項12】
前記分離液に安定剤を添加する装置を更に含む、請求項に記載の製造システム。
【請求項13】
前記気液分離器で分離した気相を濃縮して精製過酸化水素水溶液を得る精留塔を更に備える、請求項に記載の製造システム。
【請求項14】
前記気液分離器がサイクロンである、請求項に記載の製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電子工業用など高純度が要求される精製過酸化水素水溶液の製造方法および製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
過酸化水素は、工業的にはアントラキノンの自動酸化により製造されている。ところで、例えば半導体製造分野における洗浄剤やエッチング液などには、高純度の過酸化水素水溶液が要求される。アントラキノン法により製造される粗過酸化水素水溶液は、比較的多くの不純物を含み、低純度である。そのため、アントラキノン法により製造される粗過酸化水素水溶液を、例えば電子工業用に提供するためには、更に精製濃縮して純度を高める必要がある。
【0003】
従来、粗過酸化水素水溶液の精製濃縮方法としては、例えば特許文献1~6に開示されるように種々の方法が提案されており、例えば図1のフローに示す方法が一般的に実用化されている。図1において、原料である粗過酸化水素水溶液は、ライン101より気化器102へ入り、気化器102から出た気液がライン103を通って気液分離器104に入る。気液分離器104では、気化器102からの気液が凝縮され、過酸化水素を含む蒸気と過酸化水素水溶液とに分離される。気液分離器104で分離された蒸気は、ライン105を経て、精留塔106の底部に入る。
【0004】
精留塔106では、蒸気は上昇して過酸化水素濃度が減少し、液体は下降して濃縮されるとともに過酸化水素濃度が増加する。濃縮された精製過酸化水素水溶液は、塔底のライン111より取り出される。塔頂の蒸気はライン107を経てコンデンサー108に入り、実質的に過酸化水素を含まない凝縮水がライン110から排出される。塔頂には還流水がライン109より供給される。
また、気液分離器104で分離された過酸化水素水溶液は、ライン112から取り出され、一般的な純度品質の過酸化水素水溶液として工業的に利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第3073755号
【文献】英国特許第1326282号
【文献】特公昭37-8256号公報
【文献】特公昭45-34926号公報
【文献】特開平5-201707号公報
【文献】特許第2938952号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、半導体やプリント配線板などを製造する電子工業分野においては、不純物の極めて少ない高純度の過酸化水素水溶液の需要が増大している。前述した従来の精製濃縮法によれば、精留塔から高純度の過酸化水素水溶液を少量得ることが可能であるが、同時に気液分離器からは、一般的な純度品質の過酸化水素水溶液が相当量製造される。この一般的な過酸化水素水溶液は、無機不純物や有機不純物を若干含んでおり、そのままでは高純度が要求される例えば電子工業用に供給することができない。
【0007】
本発明は、こうした課題に鑑みてなされたものであり、不純物が低減された高純度の精製過酸化水素水溶液を、従来よりも効率よく製造する方法および製造システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した課題を解決するため、本発明は、粗過酸化水素水溶液を含む原料を気化する工程Aと、前記工程Aで得た気液の少なくとも一部を凝縮して気相と液相とに分離する工程Bと、前記工程Bで分離した液相である分離液の少なくとも一部を原料に戻す工程Cとを含む精製過酸化水素水溶液の製造方法であって、前記工程Cが、前記分離液中の過酸化水素濃度を調整する工程Dを更に含むことを特徴とする。
【0009】
前記製造方法において、前記工程Dを水による希釈で行うことが好ましい。
【0010】
前記製造方法において、前記工程Cが、前記分離液から不純物を除去する工程Eを更に含むことが好ましい。
【0011】
前記製造方法において、前記工程Eをイオン交換樹脂への接触により行うことが好ましい。
【0012】
前記製造方法において、前記工程Cが、前記分離液に安定剤を添加する工程Fを更に含むことが好ましい。
【0013】
前記製造方法において、前記工程Bで分離した気相を濃縮して精製過酸化水素水溶液を得る工程Gを更に含むことが好ましい。
【0014】
前記製造方法において、前記工程Aを気化器で行うことが好ましい。
【0015】
前記製造方法において、前記工程Bを気液分離器で行うことが好ましい。
【0016】
前記製造方法において、前記気液分離器がサイクロンであることが好ましい。
【0017】
また、本発明は、粗過酸化水素水溶液を含む原料を気化する気化器と、前記気化器で得た気液の少なくとも一部を凝縮して気相と液相とに分離する気液分離器と、前記気液分離器で分離した液相である分離液の少なくとも一部を原料に戻すラインと、を備える精製過酸化水素水溶液の製造システムであって、前記分離液中の過酸化水素濃度を調整する濃度調整設備を備えることを特徴とする。
【0018】
前記濃度調整設備において過酸化水素濃度の調整を水による希釈で行うことが好ましい。
【0019】
前記製造システムにおいて、前記分離液から不純物を除去する装置を更に備えることが好ましい。また、前記不純物の除去をイオン交換樹脂への接触により行うことが好ましい。
【0020】
前記製造システムにおいて、前記分離液に安定剤を添加する装置を更に含むことが好ましい。
【0021】
前記製造システムにおいて、前記気液分離器で分離した気相を濃縮して精製過酸化水素水溶液を得る精留塔を更に備えることが好ましい。
【0022】
前記製造システムにおいて、前記気液分離器がサイクロンであることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、従来よりも高い生産効率で、高純度の精製過酸化水素水溶液を製造することができる。さらに、本発明により得られる精製過酸化水素水溶液は、一般的純度品質の過酸化水素水溶液よりも有機不純物の含有量が低減されている。また、原料として再濃縮する過酸化水素水溶液の安定性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】従来の精製過酸化水素水溶液の製造システムのフローダイヤグラムである。
図2】本発明の実施形態による精製過酸化水素水溶液の製造システムのフローダイヤグラムである。
図3】気液分離器としてサイクロンを2段に配置した例を示す図である。
図4】実施例による精製過酸化水素水溶液の製造システムである。
図5】比較例による過酸化水素水溶液の製造システムである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態による、精製過酸化水素水溶液の製造システムおよびそれを用いた精製過酸化水素水溶液の製造方法を説明する。図2は、本実施形態による精製過酸化水素水溶液の製造システムの概要を示すフローダイヤグラムである。本システムに原料として供給される粗過酸化水素水溶液は、アントラキノン法により製造されるものである。アントラキノン法では、一般に、2-アルキルアントラキノンを溶媒中で水素化触媒の存在下、水素化することで対応するアントラヒドロキノンを得る。触媒をろ別した後、アントラヒドロキノンを酸素または空気により酸化することによって、元のアントラキノンを再生するとともに、過酸化水素を得る。得られた過酸化水素を水で抽出することによって、過酸化水素含有水溶液を得る。ここでは、アントラキノン法により工業的に得られた原料水溶液を、「粗過酸化水素水溶液」という。
【0026】
アントラキノン法により工業的に得られる粗過酸化水素水溶液は、過酸化水素を15~40wt%、有機不純物を約10~200ppm(全炭素(TC))、無機不純物として鉄および/またはアルミニウムイオンを数10~数100ppb含む。一方で、例えば半導体製造分野における洗浄剤やエッチング液などには、過酸化水素濃度が30~70wt%程度である高濃度の水溶液が要求される。そのため、不純物を含む比較的低濃度の粗過酸化水素水溶液を、更に高純度かつ高濃度に精製濃縮する必要がある。
【0027】
図2を参照して、本実施形態による精製過酸化水素水溶液の製造方法を説明する。
【0028】
工程A)先ず、原料である粗過酸化水素水溶液をライン11Aから投入する。詳細は後述するが、気液分離器14で分離された分離液の少なくとも一部が、再濃縮液としてライン17Bからライン11Aに戻される。すなわち、ライン11Aを流れる粗過酸化水素水溶液の原料に、ライン17Bより戻された再濃縮液が加えられる。これらの液は、ライン11Bで合流する。ライン11Bで混合された原料は、気化器12に投入される。気化器12に投入された混合原料は気化し、それにより得られた過酸化水素を含むミスト状の気液がライン13から取り出される。
【0029】
工程B)気化器12から取り出された気液は、ライン13を経由して、気液分離器14に入る。気液分離器14では、気化器12から取り出された気液の少なくとも一部が凝縮する。気液分離器14では、気化器12から取り出された気液が、揮発性不純物を含む気相の過酸化水素蒸気と、非揮発性不純物を含む液相の過酸化水素水溶液とに分離する。液相の過酸化水素水溶液は、気相側の組成と平衡にある。なお、気液分離器14で液相として分離される一般的純度品質の過酸化水素水溶液を、本明細書では「分離液」と称している。
【0030】
気液分離器14は、構造的にシンプルであることから、サイクロンであることが好ましい。サイクロンは、一段または複数段で構成されることが好ましい。我々の研究の結果、サイクロンを直列多段に配置した気液分離器の構成が、良好な気液分離を可能にすることが判明した。しかし、サイクロンの段数が多くなると圧力損失の影響が無視できなくなる。そのため、サイクロンの段数としては、2段(ダブルサイクロン)ないしは3段がより好ましく、2段(ダブルサイクロン)が更に好ましい。図3に、サイクロン14A、14Bを2段に配置した2段サイクロンの気液分離器14の例を示す。
【0031】
気液分離器(例えば、前述のサイクロン)14の材質としては、アルミニウムやステンレスが使用できる。過酸化水素の分解を少なく抑えるために、アルミニウムまたはアルミニウム合金がより好ましい。なお、気液分離器14は、サイクロンの他に、充填材を備えたカラムや衝突板方式のミストセパレータであってもよい。
【0032】
工程C)気液分離器14の下部から得られた高濃度の過酸化水素を含む分離液の全部または一部は、ライン15、17A、濃度調整設備18およびライン17Bを経由し、再濃縮液として原料のライン11Aに戻される。
【0033】
工程D)本実施形態においては、例えば希釈槽である濃度調整設備18で、分離液中の過酸化水素濃度を調整して再濃縮液を得ている。例えば、分離液に水を加えて希釈することにより、原料に戻される再濃縮液の過酸化水素濃度を調整することが好ましい。過酸化水素濃度が調整された水溶液を、本明細書では「濃度調整された水溶液」と称している。
また、分離液を希釈するための水は、イオン交換水や蒸留水等の純水であることが好ましい。なお、気液分離器14で得られる分離液の過酸化水素濃度は、60wt%以上であることが好ましい。そのため、濃度調整設備18においては、原料に戻される再濃縮液中の過酸化水素濃度を、原料である粗過酸化水素水溶液の濃度と同程度(例えば約30wt%)となるように希釈することが好ましい。
【0034】
工程E)気液分離器14で得られた分離液を再濃縮液として原料に戻す工程中に、分離液から不純物を除去する装置を含むことが好ましい。例えば、ライン17Aにおいて、イオン交換樹脂に分離液を接触させることにより、分離液から金属成分を取り除くことができる。これにより、分離液の不純物が取り除かれるとともに、混合原料の安定性が改善される。イオン交換樹脂としては、カチオン交換樹脂、またはカチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂との混合床を用いることができる。気液分離器14で得られた分離液を、例えばカチオン交換樹脂と接触させることにより、分離液に含まれる鉄、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウムなどの金属を効果的に除去することができる。前記のイオン交換樹脂とともにフィルタを用いて不純物の除去を行ってもよい。これにより、例えば、イオン交換樹脂から生じる微粉が除去される。なお、生産効率を高めるためには、不純物の除去を連続式で行うことが好ましいが、バッチ式で行ってもよい。
【0035】
工程F)本実施形態の精製過酸化水素水溶液の製造システムは、気液分離器14で得られた分離液に、安定剤を添加する装置を含んでもよい。安定剤としては、例えばピロリン酸ソーダ10水塩、アミノトリ(メチレンホスホン酸)などの有機ホスホン酸系キレート剤、スズ酸カリウム、硝酸アンモニウム、有機カルボン酸系、又はリン酸などを使用することができる。
【0036】
工程G)気液分離器14で気相として分離された過酸化水素蒸気は、ライン16を通り、精留塔21に入る。精留塔21では、蒸気は上昇して過酸化水素濃度が減少する。液体は下降して過酸化水素濃度が増加する。精留塔21を下降することで濃縮された高純度の過酸化水素水溶液は、精製過酸化水素水溶液として塔底のライン23より取り出される。
【0037】
なお、精留塔21の材質としては、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス、ジルコニウム、又はフッ素樹脂などが使用できる。過酸化水素の分解を少なく抑えるためには、アルミニウムまたはアルミニウム合金を使用することが好ましい。
【0038】
精留塔21の塔頂から出た蒸気は、ライン22を経て、コンデンサー24に入る。精留塔21の塔頂には、還流水がライン26より供給される。精留塔21の塔底から取り出される精製過酸化水素水溶液の過酸化水素濃度が40~70wt%になるように、ライン26から供給される還流水の流量をコントロールすることが好ましい。還流水は、イオン交換水や蒸留水等の純水であることが好ましい。還流水は、リン酸(ピロリン酸)を含んでもよい。
【0039】
原料の粗過酸化水素水溶液には、本来、低沸点かつ低分子量の有機不純物が含まれる。この有機不純物は、精留塔21内を上昇し、実質的に過酸化水素を含まない凝縮水とともにコンデンサー24のライン25から排出される。低沸点有機不純物がコンデンサー24から排出されることにより、気液分離器14で分離される過酸化水素水溶液に含まれる有機不純物の含有量が少なくなる。具体的には、気液分離器14で分離される過酸化水素水溶液に含まれる有機不純物の含有量は、精製濃縮操作に用いられる粗過酸化水素水溶液よりも、低沸点有機不純物が除去された分だけ少なくなっている。
【0040】
本実施形態の精製過酸化水素水溶液の製造方法によれば、従来の方法では得られない次の有利な効果が得られる。
(1)気液分離器で分離された高濃度の分離液は、原料の粗過酸化水素水溶液とほぼ同じ濃度になるように希釈される。希釈された分離液は、原料とともに再度精製されて濃縮される。これにより、従来よりも高い生産効率で、高純度かつ高濃度の精製過酸化水素水溶液を製造することができる。
(2)この製法で得られる精製過酸化水素水溶液は、従来の一般的な純度品質の過酸化水素水溶液よりも有機不純物の含有量が低減されている。
(3)また、気液分離器で分離された分離液に対しイオン交換処理を行うことにより、再濃縮原料の安定性を改善することができる。これにより、一連の精製濃縮処理において、過酸化水素の分解が抑制されるとともに、最終製品である精製過酸化水素水溶液の生産効率が更に向上する。
【実施例
【0041】
本発明の具体的な実施例を説明する。ただし本発明は、ここで説明される実施例に限定されるものではない。
【0042】
図4に、実施例による精製過酸化水素水溶液の製造システムを示す。図5に、比較例による製造システムを示す。これらの図に示される各要素機器の仕様は、下記のとおりである。
サイクロン(気液分離器):
Perry’s Chemical Engineer’s Handbookに記載の標準サイクロン
サイクロン径Dc 35mm
精留塔:
塔径 55mm
充填物 磁性ラシヒリング(直径6mm、充填高さ350mm)
【0043】
図4に示す精製濃縮設備において、過酸化水素濃度30.8wt%である粗過酸化水素水溶液原料を、414.3g/hの流量で、ライン11Aに供給し、気化器12で気化させた。気化器12の稼働条件は、下記のとおりである。
気化器:
出口温度 68~70℃
出口圧力 12~13kPa(90~100Torr)
【0044】
サイクロン14で得られた分離液の過酸化水素濃度は62wt%であった。この高濃度の分離液を、濃度調整設備18で希釈した。具体的には、ライン19から供給される純水を用いて、分離液を過酸化水素濃度が31wt%となるまで希釈した。また、濃度調整設備18では、分離液をフィルタでろ過するとともに、分離液をカチオン交換樹脂に接触させて、分離液中の金属成分を除去した。そして、これら希釈および不純物除去の処理を経た濃度調整水溶液を、再濃縮液として原料の粗過酸化水素水溶液に戻し、これらを混合した。
【0045】
サイクロン14で分離された蒸気は、ライン16を経由して、精留塔21に供給され、精留塔21で更に精製されて濃縮された。リン酸の濃度が60ppbである還流水を、ライン26から精留塔21に供給した。これにより、精留塔21の塔底のライン23から、高純度の精製過酸化水素水溶液が得られた。
精留塔21の稼働条件は、下記のとおりである。
精留塔:
塔頂温度 約50℃
塔頂圧力 約6.7kPa(約50Torr)
還流水流量 160~180g/h
【0046】
表1に、定常状態における原料(粗過酸化水素水溶液)、原料に戻される再濃縮液、分離液、および精製過酸化水素水溶液それぞれの、流量および過酸化水素濃度の測定結果を示す。なお、表1~3には、本実施例と同一の設備を用いて再濃縮を行わない場合の結果が比較例として併記されている。
【0047】
【表1】
【0048】
本実施例では、原料である粗過酸化水素水溶液中に含まれる過酸化水素の殆どが、精留塔21で濃縮された精製過酸化水溶液に含まれている。定量的に説明するため、原料に含まれる過酸化水素100重量部に対する、精製過酸化水素水溶液に含まれる過酸化水素の純分比率を、以下の式に従って算出した。その結果を、表2に示す。
【0049】
【数1】
【0050】
ここで、投入流量とは、ライン11Aに投入する粗過酸化水素水溶液の流量を意味する。精留流量とは、ライン23から得られる精製過酸化水素水溶液の流量を意味する。
【表2】
【0051】
表2に示すように、再濃縮を行わない比較例では、精製過酸化水素水溶液中の過酸化水素の比率が、原料100重量部に対し46.4重量部であった。一方、実施例では、精製過酸化水素水溶液中の過酸化水素の比率が、原料100重量部に対し95.0重量部であった。
このように、本実施例によれば、従来よりも高い生産効率で、高純度の精製過酸化水素水溶液を製造することができる。
【0052】
次に、表3に、原料(本実施例では混合原料)、分離液、および精製過酸化水素水溶液それぞれの、TC(全炭素)濃度および安定度の測定結果を示す。
なお、過酸化水素の安定度は、JIS K 1463:2007に従って測定した。
【0053】
【表3】
【0054】
表3に示すように、比較例では、精留塔から取り出される精製過酸化水素水溶液のTC濃度が26.2ppmであった。一方、実施例では、精製過酸化水素水溶液のTC濃度が12.1ppmであった。このように本実施例によれば、精製過酸化水素水溶液に含まれる有機不純物の含有量を従来よりも大幅に低減することができる。したがって、最終的に製造される精製過酸化水素水溶液の純度品質を顕著に向上させることができる。
【0055】
また、表3に示すように、比較例では、原料のJIS安定度が97.9%であるのに対し、実施例では、混合原料の安定度が99.6%であり、原料の安定性が改善することも判明した。
【0056】
本実施例では、分離液に対し純水による希釈とカチオン交換処理を行っている。ちなみに同条件でイオン交換処理を行わない場合を調べた結果、表4に示すように混合原料のJIS安定度は96.5%であった。つまり、分離液に対してイオン交換処理を行うことが、原料の安定性、とりわけ熱に対する安定性の向上にある程度貢献しているものと考えられる。
【0057】
【表4】
【符号の説明】
【0058】
11A、11B ライン
12 気化器
13 ライン
14 気液分離器(サイクロン)
15、16、17A、17B ライン
18 濃度調整設備
21 精留塔
22、23 ライン
24 コンデンサー
25、26 ライン
101 ライン
102 気化器
103 ライン
104 気液分離器
105 ライン
106 精留塔
107 ライン
108 コンデンサー
109、110、111、112 ライン
図1
図2
図3
図4
図5