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  • 特許-水質分析計 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】水質分析計
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/18 20060101AFI20220315BHJP
   G01N 31/00 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
G01N33/18 B
G01N33/18 106Z
G01N31/00 D
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020200181
(22)【出願日】2020-12-02
【基礎とした実用新案登録】
【原出願日】2018-03-28
(65)【公開番号】P2021047196
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2020-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100205981
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】北田 佳夫
(72)【発明者】
【氏名】前田 一真
(72)【発明者】
【氏名】山内 雄貴
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-048782(JP,A)
【文献】特開2012-225843(JP,A)
【文献】特開2003-014724(JP,A)
【文献】米国特許第08420013(US,B1)
【文献】特開2015-127675(JP,A)
【文献】特開2004-093509(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/18
G01N 31/00
G01N 30/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定セルを有し、前記測定セル内に収容された試料水の吸光度を測定するための測定部、液の吸引と吐出を行なうためのシリンジポンプ、及び前記シリンジポンプと連通される流路を切り替えるためのマルチポートバルブを備え、前記シリンジポンプにより吸引した試料水を前記測定セルへ移送して吸光度測定を行なうように構成された水質分析計であって、
前記マルチポートバルブは、終端が大気開放されている大気開放流路の接続された大気開放ポートを有し、前記シリンジポンプと前記大気開放流路との間を連通させることができるものであり、
前記大気開放流路は、前記大気開放ポートと前記シリンジポンプとが連通した状態で前記シリンジポンプから所定量の液が吐出されたときに、前記シリンジポンプから吐出された液を貯留する内部容量を有するものであり、
前記マルチポートバルブの1つのポートに洗浄液を供給するための洗浄液流路が接続されており、
前記シリンジポンプと前記洗浄液流路との間を連通させて前記シリンジポンプ内に前記洗浄液を吸引した後、前記シリンジポンプと前記大気開放流路との間を連通させて前記シリンジポンプから所定量の前記洗浄液を吐出し、前記大気開放流路内に貯留された前記洗浄液を前記シリンジポンプ内に吸引する洗浄動作を実行するために、前記シリンジポンプ及び前記マルチポートバルブを制御するように構成された洗浄動作部を備えている、水質分析計。
【請求項2】
前記洗浄液は試料水に添加して前記試料水を希釈するための希釈液である、請求項1に記載の水質分析計。
【請求項3】
前記洗浄動作部は、前記測定部における試料水の吸光度測定が1回終了するごとに前記洗浄動作を実行するように構成されている、請求項又はに記載の水質分析計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全有機体炭素測定装置(TOC計)や全リン測定装置(TP計)などの水質分析計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
TOC計やTP計といった水質分析計には、液の吸引と吐出を行なうシリンジポンプのほか、シリンジポンプと連通される流路を切り替えるためのマルチポートバルブが設けられており、シリンジポンプとマルチポートバルブを駆動することによって吸光度測定に必要な各工程が実行される。
【0003】
例えばTP計は、一般的に、試料水中のリン化合物を酸化させる酸化処理を行なうためのリアクタやリアクタで酸化処理された後の試料水の吸光度測定を行なうための測定部を備えており、次のような動作を実行する。試料水をシリンジポンプにより採取した後、さらにペルオキソ二硫酸カリウムなどの試薬をシリンジポンプで吸引する。シリンジポンプのシリンダ内で試料水と試薬を混合した後、試薬の添加された試料水をリアクタへ移送する。リアクタでは、試料水中のリン化合物を酸化させてオルトリン酸を生成する。リアクタにおいて酸化処理がなされた試料水をシリンジポンプによって再び吸引し、さらに還元剤のアスコルビン酸と発色剤のモリブデン酸を吸引して試料水と混合した後、試料水を測定部へ移送する。測定部では試料水の吸光度が測定され、試料水中のリン濃度が求められる(特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-014724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、水質分析計では、シリンジポンプのシリンダ内において試料水と試薬とを混合する。試料水と試薬の混合はシリンジポンプのシリンダ内にスパージガスを供給することによって行なうが、シリンジポンプのシリンダ内にスパージガスを供給する際にはシリンジポンプの吸引・吐出口を大気開放しておく必要がある。そのため、マルチポートバルブの1つのポートは大気開放された大気開放ポートとなっており、シリンジポンプのシリンダ内にスパージガスを供給して試料水と試薬の混合を行なう際には、シリンジポンプと大気開放ポートとを連通させるようにマルチポートバルブが切り替えられる。
【0006】
マルチポートバルブはロータを回転させてポート間を連通させるためのロータ溝を所望の位置へ移動させてシリンジポンプの接続先を切り替えるものである。ロータが回転してロータ溝が大気開放ポートを通過する際、ロータ溝内に何らかの液が残存しているとその液が大気開放ポート内に入り込んで析出し、大気開放ポートを閉鎖してしまう場合があることがわかった。大気開放ポートが閉鎖されていると、試料水と試薬の混合の際に、通常状態では想定できない液の逆流が起こり、スパージガスの供給ラインに試料水や試薬が混入するなどして分析の再現性等に悪影響を与える。
【0007】
従来の水質分析計では、マルチポートバルブの大気開放ポートに液を通液させることができないため、大気開放ポート内に液が入り込んだ場合にその液を除去する術がなかった。
【0008】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、マルチポートバルブの大気開放ポート内を洗浄できるようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、測定セルを有し、前記測定セル内に収容された試料水の吸光度を測定するための測定部、液の吸引と吐出を行なうためのシリンジポンプ、及び前記シリンジポンプと連通される流路を切り替えるためのマルチポートバルブを備え、前記シリンジポンプにより吸引した試料水を前記測定セルへ移送して吸光度測定を行なうように構成された水質分析計である。本発明において、前記マルチポートバルブは、終端が大気開放されている大気開放流路の接続された大気開放ポートを有し、前記シリンジポンプと前記大気開放流路との間を連通させることができるものであり、前記大気開放流路は、前記大気開放ポートと前記シリンジポンプとが連通した状態で前記シリンジポンプから所定量の液が吐出されたときに、前記シリンジポンプから吐出された液を貯留する内部容量を有するものである。
【0010】
本発明では、マルチポートバルブの大気開放ポートに大気開放流路が接続されており、大気開放ポートとシリンジポンプとが連通した状態でシリンジポンプから所定量の液が吐出されたときに、シリンジポンプから吐出された液が大気開放流路内に貯留されるようになっている。このため、大気開放ポートとシリンジポンプとを連通させた状態でシリンジポンプから液を吐出しても、その液が大気開放ポートから装置内に溢れ出ることがなく、大気開放流路内の液をシリンジポンプによって引き戻すことができる。したがって、大気開放ポートとシリンジポンプとを連通させた状態でシリンジポンプから洗浄液の吐出と吸引を行なうことにより、大気開放ポート内を洗浄することができる。
【0011】
本発明の好ましい実施形態では、前記マルチポートバルブの1つのポートに洗浄液を供給するための洗浄液流路が接続されており、前記シリンジポンプと前記洗浄液流路との間を連通させて前記シリンジポンプ内に前記洗浄液を吸引した後、前記シリンジポンプと前記大気開放流路との間を連通させて前記シリンジポンプから所定量の前記洗浄液を吐出し、前記大気開放流路内に貯留された前記洗浄液を前記シリンジポンプ内に吸引する洗浄動作を実行するために、前記シリンジポンプ及び前記マルチポートバルブを制御するように構成された洗浄動作部を備えていることが好ましい。
【0012】
洗浄液としては、試料水に添加して試料水を希釈するための希釈液を用いることができる。
【0013】
また、前記洗浄動作部は、前記測定部における試料水の吸光度測定が1回終了するごとに前記洗浄動作を実行するように構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る水質分析計では、大気開放ポートとシリンジポンプとが連通した状態でシリンジポンプから所定量の液が吐出されたときに、シリンジポンプから吐出された液が大気開放流路内に貯留されるようになっているため、大気開放ポートとシリンジポンプとを連通させた状態でシリンジポンプから洗浄液の吐出と吸引を行なうことにより、大気開放ポート内を洗浄することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】水質分析計の一実施例を示す概略構成図である。
図2】同実施例の動作の一例を示すフローチャートである。
図3】同実施例の動作の他の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る水質分析計の一実施例について、図面を参照しながら説明する。
【0017】
図1に示されているように、この実施例の水質分析計は主として、シリンジポンプ2、2つのマルチポートバルブ4,6、リアクタ8、測定部10、及び演算制御装置24を備えている。
【0018】
シリンジポンプ2は液の吸引と吐出を行なうものである。シリンジポンプ2の吸引・吐出口は、後述するマルチポートバルブ4の中心ポートに接続されている。シリンジポンプ2のシリンダには、ポンプ22によってシリンダ内にスパージガスを供給するためのスパージガス流路が接続されており、ポンプ22によって供給されるスパージガスによりシリンジポンプ2内において液の撹拌を行なうことができるようになっている。
【0019】
マルチポートバルブ4は、1つの中心ポートと複数の選択ポートを有し、中心ポートをいずれか1つの選択ポートへ選択的に接続することができる。マルチポートバルブ4の中心ポートにシリンジポンプ2の吸引・吐出口が接続されている。マルチポートバルブ4の1つの選択ポートはマルチポートバルブ6の中心ポートと流路を介して接続されている。マルチポートバルブ4の他の選択ポートのうちの1つは大気開放ポートとなっており、終端が大気開放された大気開放流路18が接続されている。大気開放流路18は、シリンジポンプ2と大気開放ポートとが連通した状態でシリンジポンプ2から所定量の液が吐出されたときに、その液を溢れさせることなく貯留することのできる内部容量をもつ流路である。
【0020】
マルチポートバルブ4の残りの選択ポートにはそれぞれ、試薬(1)~(6)を貯留する容器に通じる6つの流路が接続されている。試薬(1)は水酸化ナトリウム溶液、試薬(2)はペルオキソ二硫酸カリウム溶液、試薬(3)は塩酸溶液、試薬(4)は硫酸溶液、試薬(5)はモリブデン酸溶液、試薬(6)はアスコルビン酸溶液である。
【0021】
マルチポートバルブ6も、1つの中心ポートと複数の選択ポートを有し、中心ポートをいずれか1つの選択ポートへ選択的に接続するものである。マルチポートバルブ6の1つの選択ポートは流路を介してリアクタ8と接続されており、マルチポートバルブ6の他の1つの選択ポートは流路を介して測定部10の測定セル12の入口に接続されている。マルチポートバルブ6の他の選択ポートには、試料水を採取するための採水管のほか、スパン液、希釈液、標準液をそれぞれ貯留する容器に通じる流路が接続されている。
【0022】
リアクタ8は試料水の酸化処理を行なうためのものであり、紫外線照射ランプ9を有する。試料水の酸化処理とは、酸化剤(例えば、ペルオキソ二硫酸カリウム溶液)の添加された試料水に対して一定の温度条件下(例えば、95℃)で酸素ガス又は空気を供給しながら紫外線を照射し、試料水中のリン化合物を酸化分解してオルトリン酸を生成する処理である。
【0023】
測定部10は、測定セル12、光源14、及び光検出素子16を備えている。測定セル12の出口はドレインへ通じている。光源14は、測定波長(例えば220nm)の光を測定セル12へ向けて発生させるものであり、例えばレーザ素子によって実現される。光検出素子16は測定セル12を透過してきた光源14からの光の強度を検出するためのものであり、例えばフォトダイオードによって実現される。
【0024】
この水質分析計の動作は演算制御装置24によって制御される。演算制御装置24は、専用のコンピュータ又は汎用のパーソナルコンピュータによって実現されるものである。演算制御装置24はシリンジポンプ2、マルチポートバルブ4、6、測定部10等を駆動して試料水の採取から吸光度の測定に至る一連の測定動作を実行する機能を有する。一連の測定動作の一例は、以下のとおりである。
【0025】
まず、シリンジポンプ2内に試料水を吸引した後、ペルオキソ二硫酸カリウムなど試料水の酸化反応に必要な試薬をシリンジポンプ2内に吸引する。スパージガス流路20がシリンジポンプ2のシリンダ内と連通されるようにシリンジポンプ2のプランジャを所定の位置まで引き、シリンジポンプ2内にスパージガスを供給することで、シリンジポンプ2内の試料水と試薬を混合する。その後、シリンジポンプ2内の試料水をリアクタ8へ移送して試料水中のリン化合物を酸化させる。リアクタ8において酸化処理がなされた試料水をシリンジポンプ2によって再び吸引し、さらに還元剤のアスコルビン酸と発色剤のモリブデン酸を吸引して試料水と混合した後、試料水を測定セル12へ移送し、試料水の吸光度を測定する。
【0026】
演算制御装置24は、さらに、マルチポートバルブ4の大気開放ポート内の洗浄を行なうように構成された洗浄動作部26を備えている。洗浄動作部26は、マイクロコンピュータなどの演算素子が所定のプログラムを実行することにより得られる機能である。大気開放ポート内の洗浄は、シリンジポンプ2を大気開放流路20に接続した状態で、所定量の希釈液をシリンジポンプ2から吐出し、その後、吐出した希釈液を吸引するにより行なう。大気開放ポート内の洗浄動作は、ユーザ入力に基づく所望のタイミングで実施するように構成されていてもよいが、上述した一連の測定動作が1回終了する度に自動的に実施するように構成されていてもよい。また、この実施例では、大気開放ポートの洗浄に希釈液を用いているが、本発明はこれに限定されるものではなく、大気開放ポートを洗浄するための専用の洗浄液を希釈液とは別に用いてもよい。
【0027】
図2は測定から大気開放ポートの洗浄までの一連の動作の一例を示すフローチャートである。
【0028】
ユーザが測定開始の指示を入力すると、演算制御装置24は予め設定されたプログラムに基づいて一連の測定動作を実行する(ステップS1)。一連の測定動作が終了した後、洗浄動作部26は、シリンジポンプ2内によって希釈液を吸引する(ステップS2)。シリンジポンプ2を大気開放ポートに接続し(ステップS3)、シリンジポンプ2から所定量の希釈液を吐出する(ステップS4)。シリンジポンプ2から吐出された希釈液は大気開放ポートに接続された大気開放流路18内に貯留される。その後、大気開放流路18内に貯留された希釈液をシリンジポンプ2により吸引する(ステップS5)。シリンジポンプ2をドレインへ接続して希釈液をドレインへ排出する(ステップS6)。これにより、マルチポートバルブ4の大気開放ポート内が希釈液により洗浄される。
【0029】
なお、大気開放ポート内の洗浄効果を高めるために、シリンジポンプ2による希釈液の吐出・吸引を複数回繰り返してもよい。図3は希釈液の吐出・吸引を複数回繰り返す洗浄動作の一例を示すフローチャートである。
【0030】
一連の測定動作(ステップS11)が終了した後、洗浄動作部26は、シリンジポンプ2内によって希釈液を吸引する(ステップS12)。シリンジポンプ2を大気開放ポートに接続しシリンジポンプ2から所定量の希釈液を吐出した後(ステップS14)、大気開放流路18内に貯留された希釈液をシリンジポンプ2により吸引する(ステップS15)。シリンジポンプ2による希釈液の吐出・吸引動作を予め規定された回数だけ繰り返した後(ステップS16)、シリンジポンプ2をドレインへ接続して希釈液をドレインへ排出する(ステップS17)。
【0031】
以上において説明したように、水質分析計では、一連の測定動作が終了した後で、マルチポートバルブ4の大気開放ポート内の洗浄が実施されるので、大気開放ポート内での析出による大気開放ポートの閉塞が起こることを防止できる。
【符号の説明】
【0032】
2 シリンジポンプ
4,6 マルチポートバルブ
8 リアクタ
9 紫外線ランプ
10 測定部
12 測定セル
14 光源
16 光検出素子
18 大気開放流路
20 スパージガス流路
22 ポンプ
24 演算制御装置
26 洗浄動作部
図1
図2
図3